(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157013
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/10 20060101AFI20221006BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20221006BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20221006BHJP
F02P 5/153 20060101ALI20221006BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20221006BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F02D41/10
F02D41/34
F02P5/15 F
F02P5/153
F02D43/00 301A
F02D43/00 301H
F02D45/00 368S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061006
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】東垣外 功
(72)【発明者】
【氏名】俵 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】石田 周一
(72)【発明者】
【氏名】飯嶌 智司
【テーマコード(参考)】
3G022
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G022CA04
3G022GA15
3G301HA01
3G301JA02
3G301JA03
3G301KA12
3G301PA11Z
3G301PD02Z
3G301PE01Z
3G384AA01
3G384BA09
3G384BA13
3G384BA24
3G384CA12
3G384DA02
3G384DA22
3G384FA29Z
3G384FA37Z
(57)【要約】
【課題】車両の加速感を運転者にとって得やすいものとする車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御装置40であって、車両の内燃機関10の筒内圧力Pを筒内圧センサの検出信号に基づいて取得する筒内圧力取得部44と、前記車両の加速中において、前記内燃機関10の1サイクルにおける前記筒内圧力Pの最大圧力P
MAXを、前記車両の加速後の車速に対応して予め決められた基準圧力P
CMDより大きくする筒内圧力制御部48と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関(10)の筒内圧力(P)を筒内圧センサの検出信号に基づいて取得する筒内圧力取得部(44)と、
前記車両の加速中において、前記内燃機関(10)の1サイクルにおける前記筒内圧力(P)の最大圧力(PMAX)を前記車両の加速後の車速に対応して予め決められた基準圧力(PCMD)より大きくする筒内圧力制御部(48)と、
を備える、車両制御装置(40)。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置(40)において、
前記基準圧力(PCMD)は、加速操作に応じて変化したスロットル開度(θTH)、および前記内燃機関(10)の回転数(NE)のうちの少なくとも一つに基づいて決定される、車両制御装置(40)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両制御装置(40)において、
前記筒内圧力制御部(48)は、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくするサイクルと、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より大きくするサイクルとがこの順番で含まれる所定のパターンに基づいて、前記車両の加速中における前記最大圧力(PMAX)を制御する、車両制御装置(40)。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御装置(40)において、
前記所定のパターンは、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする前記サイクルと前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より大きくする前記サイクルとを交互に含む、車両制御装置(40)。
【請求項5】
請求項3に記載の車両制御装置(40)において、
前記所定のパターンには、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする複数の前記サイクルが連続して含まれる、車両制御装置(40)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両制御装置(40)において、
前記車両の空燃比(A/F)が所定の目標空燃比より小さい場合に前記内燃機関(10)の燃料噴射弁(12)を制御することで前記空燃比(A/F)を前記所定の目標空燃比より大きくする空燃比制御部(50)をさらに備え、
前記筒内圧力制御部(48)は、前記空燃比(A/F)が前記車両の加速中において前記所定の目標空燃比より小さい場合には、前記内燃機関(10)の点火装置(24)を制御することで、前記車両の加速中における前記最大圧力(PMAX)を制御する、車両制御装置(40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の筒内圧力を調整する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼状態の変動を抑制する内燃機関の制御技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の制御に関する技術分野においては、燃費の観点およびエミッション性能の維持の観点から、車両の加速中において燃焼状態の変動をできるだけ抑制するように内燃機関を制御することがこれまで一般的であった。しかしながら、そのような制御により燃焼状態の変動が抑制された内燃機関は、車両のドライバビリティの観点で次のような課題を有していた。すなわち、車両の加速中において内燃機関の燃焼状態の変動が抑制されてしまうことにより、運転者は自身が行った加速操作に対して車両の加速感を得にくくなっていた。
【0005】
本発明は、車両の加速感を運転者にとって得やすいものとする車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御装置(40)は以下の構成を有する。
【0007】
第1の構成;車両の内燃機関(10)の筒内圧力(P)を筒内圧センサの検出信号に基づいて取得する筒内圧力取得部(44)と、前記車両の加速中において、前記内燃機関(10)の1サイクルにおける前記筒内圧力(P)の最大圧力(PMAX)を、前記車両の加速後の車速に対応して予め決められた基準圧力(PCMD)より大きくする筒内圧力制御部(48)と、を備える。
【0008】
第2の構成;前記基準圧力(PCMD)は、加速操作に応じて変化したスロットル開度(θTH)、および前記内燃機関(10)の回転数(NE)のうちの少なくとも一つに基づいて決定される。
【0009】
第3の構成;前記筒内圧力制御部(48)は、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくするサイクルと、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より大きくするサイクルとがこの順番で含まれる所定のパターンに基づいて、前記車両の加速中における前記最大圧力(PMAX)を制御する。
【0010】
第4の構成;前記所定のパターンは、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする前記サイクルと前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より大きくする前記サイクルとを交互に含む。
【0011】
第5の構成;前記所定のパターンには、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする複数の前記サイクルが連続して含まれる。
【0012】
第6の構成;前記車両の空燃比(A/F)が所定の目標空燃比より小さい場合に前記内燃機関(10)の燃料噴射弁(12)を制御することで前記空燃比(A/F)を前記所定の目標空燃比より大きくする空燃比制御部(50)をさらに備え、前記筒内圧力制御部(48)は、前記空燃比(A/F)が前記車両の加速中において前記所定の目標空燃比より小さい場合には、前記内燃機関(10)の点火装置(24)を制御することで、前記車両の加速中における前記最大圧力(PMAX)を制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の構成によれば、車両の加速中における最大圧力が基準圧力に対して変動する。この変動により、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0014】
本発明の第2の構成によれば、基準圧力が運転者の加速操作に応じて決まる。すなわち、第1の構成でいう加速後の車速は、加速操作に応じて変化するスロットル開度および内燃機関の回転数のうち少なくとも一方に基づいて算出可能である。したがって加速後の車速に対応する基準圧力は、スロットル開度および内燃機関の回転数のうち少なくとも一方に基づいて特定することができる。
【0015】
本発明の第3の構成によれば、加速中の最大圧力は、基準圧力を基準にして大きく変動する。したがって、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0016】
本発明の第4の構成によれば、最大圧力と基準圧力との大小が内燃機関のサイクル単位で繰り返し入れ替わる。したがって、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0017】
本発明の第5の構成によれば、加速中の最大圧力は、複数のサイクルにわたって基準圧力より小さくされてから、基準圧力より大きくされる。これにより、その後に最大圧力を基準圧力より大きくするサイクルになったとき、車両が一気に加速することによる良好な乗り心地を運転者に提供することができる。
【0018】
本発明の第6の構成によれば、車両の加速中において最大圧力をばらつかせつつ、空燃比は大きくすることができる。これにより、運転者に車両の加速感を与えるのみならず、加速中の車両のエミッション性能を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実施の形態に係る車両制御装置の構成図である。
【
図3】実施の形態に係る所定のパターンを例示するグラフである。
【
図4】実施の形態に係る車両制御方法の流れを例示するフローチャートである。
【
図5】
図5Aは、変形例1に係る所定のパターンを例示するグラフである。
図5Bは、変形例1に係る所定のパターンであって
図5Aとは異なる所定のパターンを例示するグラフである。
【
図6】変形例2に係る車両制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車両制御装置について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0021】
[実施の形態]
図1は、実施の形態に係る内燃機関10の構成図である。
【0022】
内燃機関10は、例えば単気筒の4スロトークエンジンである。ただし、内燃機関10は多気筒でもよい。内燃機関10は、走行を実現するための原動機として車両、より具体的には例えば鞍乗り車両に適用される。
【0023】
図1の内燃機関10は気筒16を備える。気筒16には吸気管18と排気管32とが接続される。吸気管18には、スロットル弁20と燃料噴射弁12とが設けられる。スロットル弁20は、いわゆるスロットルバルブであり、気筒16に吸気される空気量を調整するものである。スロットル弁20の開度(スロットル開度)θ
THは、車両のアクセルグリップやアクセルペダルの開度に応じて大きくなる。燃料噴射弁12は、いわゆるインジェクタであり、スロットル弁20を通過して気筒16に向かう空気に燃料を噴射するものである。スロットル弁20を通過した空気と燃料噴射弁12から噴射される燃料とが混ざり合うことにより、混合気が生成される。なお、燃料噴射弁12は、後述する車両制御装置40による電子制御が可能であるものとする。
【0024】
気筒16には、点火装置24と、吸気弁26と、ピストン28とが設けられる。点火装置24は、いわゆる点火プラグであり、燃焼室22の混合気を爆発させるものである。点火装置24は燃料噴射弁12と同様に、後述する車両制御装置40による電子制御が可能であるものとする。吸気弁26は、吸気管18から燃焼室22への混合気の流入を調整するものである。ピストン28は、上下運動することによって内燃機関10のクランク軸34(
図1参照)を回転させるものである。
【0025】
以下、ピストン28の上下運動に伴ってクランク軸34が回転する仕組みについて、既知ではあるが簡単に説明しておく。まず、吸気弁26を開くと、吸気管18の混合気が燃焼室22に流入すると共にピストン28が下降する(吸気行程)。燃焼室22に流入した混合気は、下降したピストン28が再び上昇することで圧縮される(圧縮行程)。圧縮された混合気は、気筒16に設けられた点火装置24が点火することで爆発する。この爆発によってピストン28が加速しながら下降する(燃焼行程)。その後、ピストン28が再び上昇すると、排気弁30が開かれて、燃焼室22内の排気ガスが排気管32から排出される(排気行程)。
【0026】
上記のようにピストン28は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程の一連の行程を1サイクル(内燃機関10の1サイクル)として、気筒16内で上下運動する。ピストン28のこの運動によって、内燃機関10のクランク軸34が回転する。1サイクルの間にピストン28は二往復するので、1サイクルにおけるクランク軸34の回転量は720度である。これに関連し、図示は割愛したが、クランク軸34にはいわゆるクランキングステージを判定するためのクランクパルサロータが接続される。
【0027】
なお、内燃機関10が多気筒である場合は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、および排気行程のタイミングが気筒16毎に異なる。したがって内燃機関10が多気筒である場合は、点火装置24の点火タイミングも気筒16毎に異なることになる。
【0028】
図2は、実施の形態に係る車両制御装置40の構成図である。なお、
図2には、以下でする説明の便宜のために、車両制御装置40のみならず
図1に示したいくつかの要素を簡単に図示した。
【0029】
車両制御装置40は車両制御、特に本実施の形態では車両の内燃機関10の筒内圧力Pに関する制御を行うコンピュータである。車両制御装置40は、ハードウェアとしてはプロセッサ(処理回路)やメモリを適宜含んで構成される。
【0030】
図2に示すように、車両制御装置40は加速検知部42と、筒内圧力取得部44と、記憶部46と、筒内圧力制御部48とを備える。加速検知部42と、筒内圧力取得部44と、筒内圧力制御部48とは、例えば上記のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現される。記憶部46は上記のメモリにより実現される。
【0031】
加速検知部42は、車両が加速を開始したことを検知する。車両が加速を開始したことを検知する技術は既知のものを流用してよいが、以下、簡単に説明しておく。車両の加速は、例えばスロットル開度θTHの変化に基づいて検知することができる。スロットル開度θTHは、これを検出するための検出器、いわゆるポジションセンサをスロットル弁20に適宜設けることで検出することができる。なお、スロットル開速度(スロットル弁20が開く速度)ΔTHや内燃機関10の回転数(クランク軸34の単位時間当たり回転数)NEの変化に基づいて車両の加速を検知してもよい。スロットル開速度ΔTHや内燃機関10の回転数NEは、これらを検出するための各種検出器を車両に適宜設けることで検出可能である。
【0032】
車両が加速を開始したことが検知された場合、加速検知部42は、詳しくは後述する筒内圧力制御部48に向けて、車両が加速を開始した旨を通知する。
【0033】
筒内圧力取得部44は、内燃機関(より詳しくは、燃焼室22)10の筒内圧力Pを取得する。これに関連し、燃焼室22には、図示は割愛したが筒内圧力Pを検出するための検出器(筒内圧センサ)が適宜設けられる。筒内圧力取得部44は、筒内圧センサから検出信号を受け取ることで、該検出信号に基づいて筒内圧力Pを取得する。
【0034】
取得された筒内圧力Pは、後述する制御を行うために筒内圧力制御部48が適宜参照する。
【0035】
本実施の形態では、筒内圧力Pのうち内燃機関10の1サイクル内における最大値(1サイクル内のピーク値)を指して「最大圧力PMAX」と呼ぶ。
【0036】
記憶部46には、基準圧力PCMDが記憶される。基準圧力PCMDは、車両が定常走行(一定の車速で走行)するときの最大圧力PMAXとして車速毎に予め求められる理論値または実験値である。一般に、車速が大きいほど(内燃機関10の負荷が大きいほど)、基準圧力PCMDは大きくなる。記憶部46には、車両の車速に応じた複数の基準圧力PCMD(車速と基準圧力PCMDとの対応関係が規定された情報マップ)が記憶される。
【0037】
なお、記憶部46により記憶される情報は、図示した基準圧力PCMDに限定されない。例えば記憶部46には、プロセッサに実行させる所定のプログラムや、取得済の筒内圧力Pを記憶させることができる。その他、記憶部46には必要に応じて様々な情報を記憶させて構わない。
【0038】
筒内圧力制御部48は、最大圧力PMAXを調整するために、燃料噴射弁12および点火装置24を適宜制御(電子制御)する。例えば筒内圧力制御部48は、燃料噴射弁12を開くクランキングステージ(噴射ステージ)や燃料噴射弁12の開度(燃料噴射量)を変更することで筒内圧力Pを調整する。また例えば、筒内圧力制御部48は、点火装置24を点火するクランキングステージを変更することで筒内圧力Pを調整する。
【0039】
上記の筒内圧力制御部48は、車両の定常走行中において、内燃機関10の各サイクルの最大圧力PMAXが基準圧力PCMDに対して乖離しないように燃料噴射弁12および点火装置24を制御する。これにより、定常走行中の各サイクルにおいて内燃機関10の燃焼状態の変動が抑制され、車両の燃費が良好になる。
【0040】
ただし、上記の筒内圧力制御部48は、車両の加速中においては、最大圧力PMAXを加速後の基準圧力(加速後の車速に対応して予め決められた基準圧力)PCMDより大きくすることを含めた制御を行う。この制御について以下、詳しく説明する。
【0041】
車両が加速を開始したか否かは、前述の加速検知部42より筒内圧力制御部48に通知される。車両が加速を開始したことが検知された場合、筒内圧力制御部48は、加速後の車速(目標車速)に対応する基準圧力PCMDを特定する。これに関し、目標車速は、運転者が車両に対し行った加速操作に応じたスロットル開度θTHおよび内燃機関10の回転数NE(これらの両方または一方)の変化に基づいて予想(算出)可能である。したがって目標車速に対応する基準圧力PCMDは、運転者の加速操作に応じたスロットル開度θTHおよび内燃機関10の回転数NEのうち少なくとも一方の変化に基づいて特定可能である。
【0042】
なお前述の通り、車速が大きいほど(すなわち内燃機関10の負荷が大きいほど)基準圧力PCMDは大きい。したがって、加速前の基準圧力PCMD(加速前の最大圧力PMAX)と加速後の基準圧力PCMDとでは後者の方が大きくなる。
【0043】
次に、筒内圧力制御部48は、特定した基準圧力PCMDと、所定のパターンとに基づいて、燃料噴射弁12および点火装置24を適宜制御する。所定のパターンは、目標車速に対応する基準圧力PCMDより最大圧力PMAXを小さくするサイクルと、同基準圧力PCMDより最大圧力PMAXを大きくするサイクルとをこの順番で含むパターンである。
【0044】
図3は、実施の形態に係る所定のパターンを例示するグラフである。
図3のグラフにおいて、縦軸は筒内圧力Pの大きさを示し、横軸はクランク軸34の回転角度(いわゆるクランク角)を示す。
図3中の「Cyc」は、内燃機関10の1サイクルを示す。1サイクル(CyC)あたりのクランク角は720度である。
図3には複数の最大圧力P
MAXをプロットしたが、各々の符号は時系列に沿ってP
MAX1、P
MAX2、…としてある。
図3中の基準圧力P
CMDは、加速後の基準圧力P
CMDを例示している。
【0045】
図3に例示した所定のパターンは、最大圧力P
MAXを加速後の基準圧力P
CMDより小さくするサイクルと、最大圧力P
MAXを同基準圧力P
CMDより大きくするサイクルとを交互に含む。したがって筒内圧力制御部48は、最大圧力P
MAXが加速後の基準圧力P
CMDより小さい場合には、その次のサイクルにおいて最大圧力P
MAXが同基準圧力P
CMDより大きくなるように制御を行う。また、筒内圧力制御部48は、最大圧力P
MAXが加速後の基準圧力P
CMDより大きい場合には、その次のサイクルにおいて最大圧力P
MAXが同基準圧力P
CMDより小さくなるように制御を行う。
【0046】
図3では5サイクル目以降を省略しているが、上記の制御は、車速が目標車速に到達するまで継続して行ってよい。
【0047】
このように、筒内圧力制御部48は、車両の加速中においては、加速後の基準圧力PCMDよりも小さく制御されていた最大圧力PMAXを、加速後の基準圧力PCMDを超えてさらに大きくする制御を行う。これにより運転者は、車両が大きく加速したような感覚を得ることができる。すなわち、本実施の形態によれば、車両の加速感を運転者にとって得やすいものとすることができる。また、車両の加速中における最大圧力PMAXを加速後の基準圧力PCMDよりもあえて大きくすることにより、加速中における車両の最大瞬発力を高めることができる。これにより、基準圧力PCMDから乖離しないように最大圧力PMAXを制御していた従来の制御技術と比較して、運転者に加速感を与えるのみならず、車両の加速性能を向上させることができる。
【0048】
特に
図3に例示した所定のパターンに基づけば、最大圧力P
MAXを基準圧力P
CMDに対して小さくした後に大きくする制御が繰り返し行われる。したがって運転者は、加速中において車両の加速感を繰り返し得やすくなる。
【0049】
なお、筒内圧力制御部48は、最大圧力PMAXを加速後の基準圧力PCMDに対し変動させるとき、同基準圧力PCMDを基準とする所定の範囲内に最大圧力PMAXが収まるように制御するとよい。この所定の範囲は、内燃機関10や車両の設計にもよるが、例えば加速後の基準圧力PCMDを基準にしてプラスマイナス10%~15%の範囲である。このように加速中の最大圧力PMAXの変動幅を制限しておくことで、最大圧力PMAXを基準圧力PCMDに対して変動させることによる燃費への影響を抑えることができる。
【0050】
図4は、実施の形態に係る車両制御方法の流れを例示するフローチャートである。
【0051】
上記の車両制御装置40が実行する処理の流れを、車両制御方法として説明する。この車両制御方法は、
図4に示すように加速検知ステップS1と、筒内圧力取得ステップS2と、筒内圧力制御ステップS3とを含む。
【0052】
加速検知ステップS1は、加速検知部42が、車両が加速を開始したことを検知するステップである。本ステップにおいて加速の開始が検知された場合(S1:YES)には、筒内圧力取得ステップS2を実行する。そうでなければ(S1:NO)、車両制御方法を終了する(RETURN)。
【0053】
筒内圧力取得ステップS2は、筒内圧力取得部44が、筒内圧力P(最大圧力PMAX)を取得するステップである。
【0054】
筒内圧力制御ステップS3は、筒内圧力制御部48が、最大圧力P
MAXを調整するための制御を行うステップである。筒内圧力制御部48は所定のパターン(
図3参照)に基づいて燃料噴射弁12および点火装置24の少なくとも一方を制御する。
【0055】
筒内圧力取得ステップS2および筒内圧力制御ステップS3は、車両の加速が終了する(車速が目標車速に到達する)まで繰り返し実行される。その後、車両の加速が終了すると、車両制御方法は終了となる(RETURN)。
【0056】
[変形例]
以上、本発明の一例として実施の形態が説明された。上記実施の形態には、多様な変更または改良を加えることが可能である。また、その様な変更または改良を加えた形態が本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0057】
以下、実施の形態に係る変形例について、いくつか具体例を挙げて説明する。ただし、以下では実施の形態との相違点を主に説明することとし、重複する説明はできるだけ省略する。
【0058】
(変形例1)
所定のパターンは
図3に例示したものに限定されない。以下、これについて説明する。
【0059】
図5Aは、変形例1に係る所定のパターンを例示するグラフである。
図5Bは、変形例1に係る所定のパターンであって
図5Aとは異なる所定のパターンを例示するグラフである。
【0060】
図5Aおよび
図5Bの各々のグラフの縦軸および横軸は、
図3のグラフと同様に、筒内圧力Pの大きさおよびクランク角を示す。また、
図5Aおよび
図5Bの各図においてプロットした複数の最大圧力P
MAXについて、各々の符号は時系列に沿ってP
MAX1、P
MAX2、…としてある。
図5A、
図5Bの各々の基準圧力P
CMDは、加速後の基準圧力P
CMDを例示している。
【0061】
所定のパターンは、例えば
図5Aおよび
図5Bに例示するように、最大圧力P
MAXを基準圧力P
CMDより小さくする複数のサイクルを連続して含むものであってもよい。
図5Aには、連続する3つのサイクルを含み、そのうちの連続する2サイクルが最大圧力P
MAXを基準圧力P
CMDより小さくするサイクルである所定のパターンを例示した。一方、
図5Bには、連続する4つのサイクルを含み、そのうちの連続する3サイクルが最大圧力P
MAXを基準圧力P
CMDより小さくするサイクルである所定のパターンを例示した。ここで例示したいずれのパターンも、最大圧力P
MAXを基準圧力P
CMDより大きくするサイクルが最大圧力P
MAXを基準圧力P
CMDより小さくするサイクルの後に含まれるとの点で、実施の形態で説明したパターン(
図3)と共通している。筒内圧力制御部48は、
図5Aや
図5Bに示すような所定のパターンを車両の加速中にわたって繰り返すように、最大圧力P
MAXを制御してもよい。
【0062】
本変形例によれば、最大圧力PMAXは連続する数サイクルにわたって基準圧力PCMDより小さく抑えられた後、その次のサイクルにおいて基準圧力PCMDを超えて一気に大きくされる。これにより、車両が一気に加速したような感覚を運転者に与えることができる。
【0063】
(変形例2)
図6は、変形例2に係る車両制御装置40A(40)の構成図である。なお、
図6には、以下でする説明の便宜のために、車両制御装置40Aのみならず
図1に示したいくつかの要素を簡単に図示した。
【0064】
本変形例に係る車両制御装置40A(40)は、実施の形態(
図2)と比較すると、空燃比制御部50をさらに備えるとの点で相違する。
【0065】
空燃比制御部50は、車両の空燃比A/Fが所定の目標空燃比より小さい場合に内燃機関10の燃料噴射弁12の開弁時間を制御することで、空燃比A/Fを目標空燃比に近づける。なお、空燃比A/Fは、これを検出するための検出器、具体的には例えばLAFセンサ(Linear air & fuel ratio sensor)を排気管32に適宜設けることで検出することができる。目標空燃比は、図示は割愛したが記憶部46に予め記憶させておくことができる。
【0066】
空燃比制御部50は、空燃比センサから検出信号を受け取ることで、該検出信号に基づいて空燃比A/Fの制御を行う。目標空燃比は、混合気を構成する空気と燃料とが過不足なく反応するときの理論上の空燃比A/Fである。目標空燃比は例えば記憶部46に予め記憶され、空燃比制御部50により適宜参照される。
【0067】
空燃比制御部50は、例えば電子制御により燃料噴射弁12の開弁時間を短くし、空気の吸気量に対する燃料の噴射量を相対的に小さくする制御を行う。空燃比A/Fを目標空燃比に近づけることで、車両の燃費がよくなる。
【0068】
ここで、最大圧力PMAXを基準圧力PCMDより大きくするサイクルにおいて、空燃比A/Fが目標空燃比よりも小さくなっている場合を想定する。この場合、仮に最大圧力PMAXを基準圧力PCMDより大きくするために燃料噴射弁12の開弁時間を長くしてしまうと、空燃比A/Fがさらに小さくなってしまうおそれがある。
【0069】
そこで本変形例では、車両の加速中において空燃比A/Fが目標空燃比よりも小さい場合には、空燃比制御部50に燃料噴射弁12を制御させると共に、筒内圧力制御部48には点火装置24を制御させる。これにより、空燃比制御部50によって空燃比A/Fを目標空燃比に近づけつつ、筒内圧力制御部48によって運転者に加速感を与えることができる。換言すると、本変形例によれば、運転者に車両の加速感を与えるのみならず、加速中の車両の燃費性能とエミッション性能を良好にすることができる。
【0070】
なお、車両の加速中において空燃比A/Fが目標空燃比よりも大きい場合は、筒内圧力Pを調整するための燃料噴射弁12の制御を筒内圧力制御部48に行わせてもよい。
【0071】
(変形例3)
筒内圧力制御部48は、特定の条件を満たす加速が開始された場合にのみ最大圧力PMAXを基準圧力PCMDに対してばらつかせる制御を行うように構成されてもよい。
【0072】
例えば筒内圧力制御部48は、回転数NEが内燃機関10の許容最大回転数に対して50%以下である状態のときに開始された加速についてのみ、その加速中において最大圧力PMAXを基準圧力PCMDに対してばらつかせる制御を行うように構成されてもよい。
【0073】
また別の例として、例えば筒内圧力制御部48は、スロットル開速度ΔTHが所定の開速度より大きい場合にのみ、その加速中において最大圧力PMAXを基準圧力PCMDに対してばらつかせる制御を行うように構成されてもよい。
【0074】
(変形例4)
車両制御装置40は、最大圧力PMAXを基準圧力PCMDよりも大きくするサイクルにおいて、例えば所定のクランク角での筒内圧力Pが基準圧力PCMDよりも大きくなるように制御を行ってもよい。ここでいう所定のクランク角は適宜決めてよく、特に限定されるものではないが、具体例を挙げるとすれば例えば上死点位置0度や上死点後の10度である。所定のクランク角における筒内圧力Pは基準圧力PCMDより大きければよく、サイクルのピーク値(最大圧力PMAX)でなくてもよい。
【0075】
[実施の形態から得られる構成]
上記実施の形態(変形例を含む)から把握しうる構成について、以下に記載する。なお、以下に記載する各構成および特許請求の範囲の各々に記載される符号(括弧書き)は、各々に記載される構成の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、添付図面中の要素に限定されて解釈されるものではない。
【0076】
(第1の構成)
車両制御装置(40)であって、車両の内燃機関(10)の筒内圧力(P)を筒内圧センサの検出信号に基づいて取得する筒内圧力取得部(44)と、前記車両の加速中において、前記内燃機関(10)の1サイクルにおける前記筒内圧力(P)の最大圧力(PMAX)を、前記車両の加速後の車速に対応して予め決められた基準圧力(PCMD)より大きくする筒内圧力制御部(48)と、を備える。
【0077】
これにより、車両の加速中における最大圧力(PMAX)が基準圧力(PCMD)に対して変動する。この変動により、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0078】
(第2の構成)
第1の構成において、前記基準圧力(PCMD)は、加速操作に応じて変化したスロットル開度(θTH)、および前記内燃機関(10)の回転数(NE)のうちの少なくとも一つに基づいて決定される。これにより、基準圧力(PCMD)が運転者の加速操作に応じて決まる。基準圧力(PCMD)が運転者の加速操作に応じて決まるので、調整される最大圧力(PMAX)の大きさも加速操作に応じたものになる。したがって、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0079】
(第3の構成)
第1の構成または第2の構成において、前記筒内圧力制御部(48)は、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくするサイクルと、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より大きくするサイクルとがこの順番で含まれる所定のパターンに基づいて、前記車両の加速中における前記最大圧力(PMAX)を制御する。これにより、加速中の最大圧力(PMAX)は、基準圧力(PCMD)を基準にして大きく変動する。したがって、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0080】
(第4の構成)
第3の構成において、前記所定のパターンは、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする前記サイクルと前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より大きくする前記サイクルとを交互に含む。これにより、最大圧力(PMAX)と基準圧力(PCMD)との大小が内燃機関(10)のサイクル単位で繰り返し入れ替わる。したがって、運転者は車両の加速感を得やすくなる。
【0081】
(第5の構成)
第3の構成において、前記所定のパターンには、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする複数の前記サイクルが連続して含まれる。これより、加速中の最大圧力(PMAX)は、複数のサイクルにわたって基準圧力(PCMD)より小さくされてから、基準圧力(PCMD)より大きくされる。このようにすれば、その後に最大圧力(PMAX)を基準圧力(PCMD)より大きくするサイクルになったとき、車両が一気に加速することによる良好な乗り心地を運転者に提供することができる。
【0082】
(第6の構成)
第1の構成~第5の構成において、前記車両の空燃比(A/F)が所定の目標空燃比より小さい場合に前記内燃機関(10)の燃料噴射弁(12)を制御することで前記空燃比(A/F)を前記所定の目標空燃比より大きくする空燃比制御部(50)をさらに備え、前記筒内圧力制御部(48)は、前記空燃比(A/F)が前記車両の加速中において前記所定の目標空燃比より小さい場合には、前記内燃機関(10)の点火装置(24)を制御することで、前記車両の加速中における前記最大圧力(PMAX)を制御する。これにより、運転者に車両の加速感を与えるのみならず、加速中の車両のエミッション性能を良好にすることができる。
【符号の説明】
【0083】
10…内燃機関 12…燃料噴射弁
24…点火装置 40、40A…車両制御装置
44…筒内圧力取得部 48…筒内圧力制御部
50…空燃比制御部
【手続補正書】
【提出日】2021-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
本発明の第6の構成によれば、車両の加速中において最大圧力をばらつかせつつ、空燃比を大きくすることができる。これにより、運転者に車両の加速感を与えるのみならず、加速中の車両のエミッション性能を良好にすることができる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
図3は、実施の形態に係る所定のパターンを例示するグラフである。
図3のグラフにおいて、縦軸は筒内圧力Pの大きさを示し、横軸はクランク軸34の回転角度(いわゆるクランク角)を示す。
図3中の「Cyc」は、内燃機関10の1サイクルを示す。1サイクル(Cy
c)あたりのクランク角は720度である。
図3には複数の最大圧力P
MAXをプロットしたが、各々の符号は時系列に沿ってP
MAX1、P
MAX2、…としてある。
図3中の基準圧力P
CMDは、加速後の基準圧力P
CMDを例示している。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
(第5の構成)
第3の構成において、前記所定のパターンには、前記最大圧力(PMAX)を前記基準圧力(PCMD)より小さくする複数の前記サイクルが連続して含まれる。これにより、加速中の最大圧力(PMAX)は、複数のサイクルにわたって基準圧力(PCMD)より小さくされてから、基準圧力(PCMD)より大きくされる。このようにすれば、その後に最大圧力(PMAX)を基準圧力(PCMD)より大きくするサイクルになったとき、車両が一気に加速することによる良好な乗り心地を運転者に提供することができる。