(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157019
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】歪抵抗膜および圧力センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 9/04 20060101AFI20221006BHJP
H01C 7/00 20060101ALI20221006BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01L9/04
H01C7/00 230
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061014
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】縄岡 孝平
(72)【発明者】
【氏名】海野 健
(72)【発明者】
【氏名】笹原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
【テーマコード(参考)】
2F055
4K029
5E033
【Fターム(参考)】
2F055AA40
2F055BB20
2F055CC02
2F055DD01
2F055DD05
2F055EE11
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2F055FF11
2F055GG49
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA58
4K029BC00
4K029DC34
4K029EA01
5E033AA05
5E033BA03
5E033BB05
5E033BC01
5E033BD01
(57)【要約】
【課題】組成変化に伴う特性変化を低減し得る歪抵抗膜およびこれを用いた圧力センサを提供する。
【解決手段】一般式Cr100-x-yAlxNyで表され、x、yのそれぞれの組成領域が25<x≦50、0.1<y≦20である歪抵抗膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Cr100-x-yAlxNyで表され、x、yのそれぞれの組成領域が25<x≦50、0.1<y≦20である歪抵抗膜。
【請求項2】
-50℃以上450℃以下の温度範囲において、抵抗温度係数(TCR)の絶対値が、2000ppm/℃以下である請求項1に記載の歪抵抗膜。
【請求項3】
-50℃以上450℃以下の温度範囲において、感度温度係数(TCS)の絶対値が、2000ppm/℃以下である請求項1または請求項2に記載の歪抵抗膜。
【請求項4】
Оを、Cr、Al、N、Oの総量に対して10at%以下の量で含む請求項1から請求項3のいずれかに記載の歪抵抗膜。
【請求項5】
低温領域で抵抗値の温度校正をかけた場合の、抵抗値の温度校正直線と、歪抵抗膜の抵抗温度直線との関係が決定係数R2において0.8以上である請求項1から請求項4のいずれかに記載の歪抵抗膜。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれかに記載の歪抵抗膜と、
前記歪抵抗膜に電気的に接続する電極部と、を有する圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪に応じて抵抗値が変化する歪抵抗膜およびこれを用いる圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
Cr、Al、Nを含む材料が、比較的高温の領域を含む-50℃から300℃において高いゲージ率を奏し、歪抵抗膜として有望であることが報告されている。特に、特許文献1では、Alの組成範囲が、4at%以上25at%以下であることにより、このような歪抵抗膜は、ゲージ率だけでなく、感度温度係数(TCS)についても好ましい特性が得られるとの報告がある。
【0003】
一方、Cr、Al、Nを含む歪抵抗膜は、薄膜法等によって作製することができるが、このような歪抵抗膜における組成ばらつきを低減することは容易ではない。言い換えると、ある程度の組成ばらつきを許容できる適切な組成範囲を見出すことができれば、良好な生産性を有する歪抵抗膜を実現することができる。また同時に、歪抵抗膜が温度と抵抗値の関係性において高い直線性を持つ場合、歪抵抗膜の温度特性を校正する際に、低温領域で校正ができるため、構成時間の短縮による生産性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明の発明者らは、Cr、Al、Nを含む材料において、組成変化に伴う特性変化を低減できる歪抵抗膜を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、組成変化に伴う特性変化を低減し得る歪抵抗膜およびこれを用いた圧力センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歪抵抗膜は、
一般式Cr100-x-yAlxNyで表され、x、yのそれぞれの組成領域が25<x≦50、0.1<y≦20である。
【0008】
本発明に係る歪抵抗膜は、一般式Cr100-x-yAlxNyで表される歪抵抗膜において、25<x≦50、0.1<y≦20とすることにより、組成変化に伴う特性変化を低減できることと同時に、温度に対する抵抗値の関係性が非常に良い直線性を持つことを見出した。特に、Alの含有量を、従来の歪抵抗膜より増やすことにより、組成変化に伴う特性変化を、従来の歪抵抗膜より低減することができる。また、このような歪抵抗膜は、製造時の組成ばらつきを適切な範囲で許容でき、良好な生産性を有する。さらに後者の直線性の良さにより、歪抵抗膜の温度抵抗特性の迅速な校正が低温領域で可能であるため、校正時間の短縮による生産性の向上が同時に得られる。
【0009】
また、たとえば、本発明に係る歪抵抗膜は、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、抵抗温度係数(TCR)の絶対値が、2000ppm/℃以下であってもよい。
【0010】
このような歪抵抗膜は、単位温度変化あたりの抵抗値変化が所定範囲内であるため、たとえば圧力センサとして用いた場合における温度補正誤差を低減することができる。
【0011】
また、たとえば、本発明に係る歪抵抗膜は、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、感度温度係数(TCS)の絶対値が、2000ppm/℃以下であってもよい。
【0012】
このような歪抵抗膜は、単位温度変化あたりの感度変化が所定範囲内であるため、たとえば圧力センサとして用いた場合における温度補正誤差を低減することができる。
【0013】
また、たとえば、本発明に係る歪抵抗膜は、Оを、Cr、Al、N、Oの総量に対して10at%以下の量で含んでいてもよい。
【0014】
Oが10at%以下であることにより、たとえば-50℃以上450℃以下の温度範囲において、ゲージ率を高めることができる。
【0015】
本発明に係る圧力センサは、上記した歪抵抗膜のうちいずれかの歪抵抗膜と、前記歪抵抗膜に電気的に接続する電極部と、を有する。
【0016】
また、たとえば、低温領域で抵抗値の温度校正をかけた場合の、抵抗値の温度校正直線と、歪抵抗膜の抵抗温度直線との関係が決定係数R2において0.8以上であってもよい。
【0017】
このような歪抵抗膜は、温度に対する抵抗値の関係性が特に良好な直線性を持つため、温度抵抗特性の校正を、精度良く迅速に行うことができる。
【0018】
本発明に係る圧力センサは、組成変化に伴う特性変化を、従来の歪抵抗膜より低減した歪抵抗膜を有するため、良好な生産性を有する。また、歪抵抗膜の特性ばらつきが抑えられていることにより、従来より精度の良い圧力検出値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧力センサの概略断面図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る歪抵抗膜を説明した概念図である。
【
図4】
図4は、Al含有量とTCRの関係を表すグラフである。
【
図5】
図5は、Al含有量とゲージ率の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る歪抵抗膜32を用いる圧力センサ10の概略断面図である。
図1に示すように、圧力センサ10は、圧力に応じた変形を生じるメンブレン22を有する。メンブレン22は、
図1では、中空筒状のステム20の一端に形成してある端壁で構成してあるが、実施例のような平板状のSi基板122(
図3参照)で構成することもできる。ステム20の他端は中空部の開放端となっており、ステム20の中空部は、接続部材12の流路12bに連通してある。
【0022】
圧力センサ10では、流路12bに導入される流体が、ステム20の中空部からメンブレン22の内面22aに導かれて、流体圧をメンブレン22に作用するようになっている。ステム20は、たとえばステンレスなどの金属で構成される。ただし、ステム20に相当する形状は、シリコン基板をエッチングにより加工したり、平板状のシリコン基板を他部材に接合したりすることで、構成されていてもよい。
【0023】
ステム20の開放端の周囲には、フランジ部21がステム20の軸芯から外方に突出するように形成してある。フランジ部21は、接続部材12と抑え部材14との間に挟まれ、メンブレン22の内面22aへと至る流路12bが密封されるようになっている。
【0024】
接続部材12は、圧力センサ10を固定するためのねじ溝12aを有する。圧力センサ10は、測定対象となる流体が封入してある圧力室などに対して、ねじ溝12aを介して固定されている。これにより、接続部材12の内部に形成されている流路12bおよびステム20におけるメンブレン22の内面22aは、測定対象となる流体が内部に存在する圧力室に対して、気密に連通する。
【0025】
抑え部材14の上面には、回路基板16が取り付けてある。回路基板16は、ステム20の周囲を囲むリング状の形状を有しているが、回路基板16の形状としてはこれに限定されない。回路基板16には、たとえば、歪抵抗膜32からの検出信号が伝えられる回路などが内蔵してある。
【0026】
図1に示すように、メンブレン22の外面22bには、歪抵抗膜32等が設けられている。歪抵抗膜32と回路基板16とは、ワイヤボンディングなどによる中間配線72などを介して電気的に接続してある。
【0027】
図2は、
図1に示す圧力センサ10に含まれる歪抵抗膜32の一部およびその周辺部分を拡大して表示した模式断面図である。
【0028】
図2に示すように、歪抵抗膜32は、メンブレン22の外面22bに、下地絶縁層52を介して設けられている。
【0029】
下地絶縁層52は、メンブレン22の外面22bのほぼ全体を覆うように形成してあり、たとえばSiO2などのシリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物などで構成される。下地絶縁層52の厚みは、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1~5μmである。下地絶縁層52は、たとえばCVDなどの蒸着法によりメンブレン22の外面22bに形成することができる。
【0030】
なお、メンブレン22の外面22bが絶縁性を有する場合には、下地絶縁層52は、形成することなく、メンブレン22の外面22bに直接に歪抵抗膜32を成膜してもよい。たとえば、メンブレン22がアルミナなどの絶縁材料からなる場合には、歪抵抗膜32がメンブレン22に直接設けられてもよい。
【0031】
図2に示すように、電極部36は、歪抵抗膜32の上に設けられる。図示は省略しているが、歪抵抗膜32には、たとえば、ホイートストーンブリッジ回路を構成する抵抗体が、所定パターンで形成されている。歪抵抗膜32に形成される抵抗体は、メンブレン22の変形に応じて抵抗値が変化するため、ホイートストーンブリッジ回路の出力から、メンブレン22に生じる歪およびメンブレン22に作用する流体圧を検出する。抵抗体を有する歪抵抗膜32は、所定の厚みに成膜された薄膜を、微細加工(パターニング)することにより作製することができる。
【0032】
ここで、歪抵抗膜32は、一般式Cr
100-x-yAl
xN
yで表され、x、yのそれぞれの組成領域が25<x≦50、0.1<y≦20である。歪抵抗膜32をこのような組成とすることにより、組成変化に伴う特性変化を低減できることを見出した。特に、Nの含有量を所定の範囲にしたうえで、Alの含有量を原子比率で25%より大きくすることにより、組成変化に伴う特性変化を、従来の歪抵抗膜より低減することができる(
図4参照)。したがって、このような歪抵抗膜32は、製造時の組成ばらつきを適切な範囲で許容でき、良好な生産性を有する。
【0033】
また、歪抵抗膜32は、Nの含有量を所定の範囲にしたうえで、Alの含有量を原子比率で50%以下とすることにより、適切なゲージ率を確保することができる(
図5参照)。
【0034】
また、歪抵抗膜32は、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、抵抗温度係数(TCR:Temperature coefficient of Resistance)の絶対値が、2000ppm/℃以下であってもよい。このような歪抵抗膜32は、低温領域から高温領域までの広い範囲で、温度変化に伴う抵抗値変化の割合が小さいため、広い温度範囲で使用される圧力センサ10の歪抵抗膜32として好適に用いられ、温度補正誤差を低減し、精度の高い検出を行うことができる。
【0035】
また、歪抵抗膜32は、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、感度温度係数(TCS:Temperature coefficient of sensitivity)の絶対値が、2000ppm/℃以下であってもよい。このような歪抵抗膜32は、低温領域から高温領域までの広い範囲で、温度変化に伴う感度変化の割合が小さいため、広い温度範囲で使用される圧力センサ10の歪抵抗膜32として好適に用いられ、温度補正誤差を低減し、精度の高い検出を行うことができる。
【0036】
また、歪抵抗膜32は、不可避不純物としてのОを、Cr、Al、N、Oの総量に対して10at%以下の量で含んでいてもよい。不可避不純物としてのOが10at%以下であることにより、歪抵抗膜32は、たとえば-50℃以上450℃以下の温度範囲において、ゲージ率を高めることができる。
【0037】
歪抵抗膜32は、DCスパッタ装置やRFスパッタ装置によるスパッタリングや蒸着などの薄膜法により形成することができる。歪抵抗膜32の厚みは、特に限定されないが、たとえば1nm~1000nmとすることができ、50nm~500nm程度とすることが好ましい。歪抵抗膜32に含まれるOやNは、歪抵抗膜32を成膜する際に反応室から除去しきれずに残留したものが、歪抵抗膜32に取り込まれたものであってもよい。また、歪抵抗膜32に含まれるOやNは、成膜時またはアニール時に雰囲気ガスとして使用されるなどして、意図的に導入量を制御しつつ、歪抵抗膜32に導入されたものであってもよい。
【0038】
歪抵抗膜32は、CrおよびAl以外の金属や非金属元素を微量に含んでいてもよい。歪抵抗膜32に含まれるCrおよびAl以外の金属および非金属元素としては、たとえば、Ti、Nb、Ta、Ni、Zr、Hf、Si、Ge、C、P、Se、Te、Zn、Cu、Bi、Fe、Mo、W、As、Sn、Sb、Pb、B、Ge、In、Tl、Ru、Rh、Re、Os、Ir、Pt、Pd、Ag、Au、Co、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Mnおよび希土類元素が挙げられる。なお、歪抵抗膜32は、これらの微量元素の有無や、アニールなどの熱処理条件により、ゲージ率、感度温度係数および抵抗温度係数などの特性が変化する場合がある。
【0039】
歪抵抗膜32の製造時における熱処理温度としては特に限定されないが、たとえば50℃~550℃とすることができ、350℃~550℃とすることが好ましい。
【0040】
図2に示すように、電極部36は、歪抵抗膜32の上に重ねて設けられ、歪抵抗膜32に電気的に接続する。
図2に示すように、電極部36は、歪抵抗膜32の上表面の一部に形成されている。歪抵抗膜32が有するホイートストーンブリッジ回路の出力は、電極部36および中間配線72を介して、
図1に示す回路基板16へ伝えられる。電極部36の材質は、導電性の金属または合金等が挙げられ、より具体的には、Cr、Ti、Ni、Mo、白金族元素、などが挙げられる。また、電極部36は、材質の異なる多層構造であってもよい。
【0041】
図2に示す下地絶縁層52および電極部36も、歪抵抗膜32と同様に、スパッタリングや蒸着などの薄膜法により形成することができる。ただし、下地絶縁層52および電極部36は、薄膜法以外の方法で形成されてもよく、たとえばSiO
2膜からなる下地絶縁層52は、Si基板表面を加熱して熱酸化膜を形成することにより、Si基板表面に設けられたものであってもよい。
【0042】
以下、実施例を示しつつ、本発明に係る歪抵抗膜および圧力センサをさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみには限定されない。
【0043】
実施例1
実施例1として、一般式Cr100-x-yAlxNyで表される歪抵抗膜について、Al(xの値)が異なる8試料(試料1~試料8)を作製した。作製した各試料について、組成分析、抵抗温度係数(TCR)の測定および感度温度係数(TCS)の測定を行った。
【0044】
試料作製
図3は、実施例1で作製した試料(試料1~試料8)の構造を示す模式図である。実施例1では、Si基板122を加熱してSi基板122表面に熱酸化膜であるSiО
2膜152を形成したのち、DCスパッタ装置を用いて、SiО
2膜152の表面に歪抵抗膜132を成膜した。さらに、成膜後の歪抵抗膜132を350℃でアニール(熱処理)したのち、微細加工により歪抵抗膜132にホイートストーンブリッジ回路を構成する抵抗体を形成した。最後に、歪抵抗膜132表面に電子蒸着で電極層を形成し、抵抗温度係数(TCR)および感度温度係数(TCS)測定用の試料を得た。
【0045】
各試料における歪抵抗膜132の成膜では、DCスパッタ装置に用いるCrターゲットとAlターゲットの数および各ターゲットの電位を変更することにより、Alの含有量(xの値)が異なる8試料を作製した。スパッタリングは、Arガスと微量のNガスの雰囲気中で行った。また、歪抵抗膜132の膜厚は、300nmとした。
【0046】
組成分析
試料1~試料8について、歪抵抗膜132の組成を、XRF(蛍光X線)法により分析した。
【0047】
抗温度係数(TCR)の測定
各試料(試料1~試料8)について、-50℃から450℃まで環境温度を変化させながら抵抗値を測定し、それぞれの試料についての抵抗値と温度の関係を最小二乗法により直線近似して傾きを求め、その傾きからTCR(ppm/℃)を算出した。算出したTCRの基準温度は、25℃である。
【0048】
直線性の定量評価
各試料(試料1~試料8)について、-50℃から450℃まで環境温度を変化させながら抵抗値を測定し、25℃と100℃の低温領域における2点で抵抗値の温度校正直線(R
Cal)を算出し、歪抵抗膜の抵抗温度直線(R
Meas)との関係を示す決定係数R
2を以下の式(1)により算出した。
【数1】
【0049】
抗温度係数(TCS)の測定
各試料(試料1~試料8)について、-50℃から450℃まで環境温度を変化させながらゲージ率(k-factor)を測定し、それぞれの試料についてのゲージ率と温度の関係を最小二乗法により直線近似して傾きを求め、その傾きからTCS(ppm/℃)を算出した。算出したTCSの基準温度は、25℃である。
【0050】
各試料の組成分析結果、決定係数R
2、抵抗温度係数(TCR)および感度温度係数(TCS)の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0051】
表1に示すように、試料1から試料8までの全てについて、不可避不純物としてのОを、Cr、Al、N、Oの総量に対して10at%以下の量で含んでおり、一般式Cr100-x-yAlxNyで表され、0.1<y≦20である歪抵抗膜132が得られた。
【0052】
試料1~試料4は、相対的に歪抵抗膜132中のAlの含有量が少なく、0≦x≦25である。これに対して、試料5~試料8は、相対的に歪抵抗膜132中のAlの含有量が多く、25<x≦50である。
【0053】
図4は、表1に示すTCRを縦軸とし、Alの含有量を横軸として、表1に示す各試料をプロットしたグラフである。
図4に示されるように、0≦x≦25でありAlの含有量が相対的に少ない試料1~試料4では、Alの単位組成変化(横軸)に伴うTCRの傾きが大きく、各プロットを最小二乗法により直線近似して算出した傾きの絶対値は105である(表1参照)。これに対して、25<x≦50でありAlの含有量が相対的に多い試料5~試料8では、Alの単位組成変化(横軸)に伴うTCRの傾きが小さく、各プロットを最小二乗法により直線近似して算出した傾きの絶対値は16である(表1参照)。
【0054】
このように、25<x≦50である歪抵抗膜132では、Alの単位組成変化に伴うTCRの変化であるTCRの傾きの絶対値が、0≦x≦25である歪抵抗膜132に対して6分の1を下回る結果となり、組成変化に伴う特性変化を大幅に抑制できることが確認された。なお、TCRの値自体については、試料1から試料8までの全てについて、絶対値が、2000ppm/℃以下であった。一方、表1に示すように、0≦x≦25である歪抵抗膜132の中には、試料2のようにTCSの絶対値が2000ppm/℃を上回るものがあったが、25<x≦50である試料5~試料8に係る歪抵抗膜132は、全てTCSの絶対値が2000ppm/℃以下であった。
【0055】
また、-50℃から450℃の温度範囲で算出された決定係数R2の値は、Alの含有量が相対的に少ない試料1~試料4(0≦x≦25)の中には、試料2のように値が小さい(温度と抵抗値の直線性が悪い)ものがみられた。しかしAlの含有量が相対的に多い試料5~試料8(25<x≦50)では、各試料において0.8以上であり、各試料に係る歪抵抗膜が、温度と抵抗値の関係性において高い直線性を持つことが確認された。
【0056】
実施例2
実施例2では、実施例1と同様にして、一般式Cr
100-x-yAl
xN
yで表される歪抵抗膜132について、Al(xの値)が異なる9試料を作製し、歪抵抗膜132の組成(Alの含有量)と、25℃でのゲージ率(k-factor)を測定した。
図5は、各試料の測定結果、ゲージ率を縦軸とし、Alの含有量を横軸としてプロットしたグラフである。
【0057】
図5に示されるように、x≦50の試料については、一般的な金属の値である2.6に対して十分に大きな値のゲージ率を有しており、歪抵抗膜132として好適に用いることができることが確認された。一方、Alの含有量が50at%を超えると、ゲージ率が3を下回り、歪抵抗膜132の感度が下がることが分かる。
【0058】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明に係る圧力センサ10、歪抵抗膜32、132を説明したが、本発明はこれらの実施形態や実施例のみに限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態および実施例のほかに、他の実施形態および変形例を多く含むことは言うまでもない。たとえば、圧力センサ10としては、
図1のようなステム20を有するもののみには限定されず、基板をエッチング加工して作製したものや、平板状の基板に歪抵抗膜32、132を形成したものを他部材に接合して作製したものであってもよい。基板の材質としては、金属、半導体、絶縁体のいずれであってもよく、具体的には、実施例で挙げたSiの他に、アルミナ(Al
2O
3)なども挙げられる。
【符号の説明】
【0059】
10…圧力センサ
12…接続部材
12a…ねじ溝
12b…流路
14…抑え部材
16…回路基板
20…ステム
21…フランジ部
22…メンブレン
22a…内面
22b…外面
32、132…歪抵抗膜
36…電極部
52…下地絶縁層
72…中間配線
152…SiО2膜
122…Si基板