(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157032
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】くるみタンパク質の検査用キットおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20221006BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221006BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20221006BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20221006BHJP
C07K 16/16 20060101ALI20221006BHJP
C07K 1/14 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N33/53 D
G01N33/543 521
G01N33/543 545A
C12M1/34 F
C07K16/16
C07K1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061034
(22)【出願日】2021-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昂士郎
(72)【発明者】
【氏名】小柳 正徳
(72)【発明者】
【氏名】森下 直樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB17
4B029FA12
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA30
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
【課題】食品中のくるみタンパク質を検出するための新たな手段を提供する。
【解決手段】(A)legmin B like protein(第1くるみタンパク質)に対して特異的な抗体またはその抗原結合性断片(第1抗体等)および/またはJug r 6(第2くるみタンパク質)に対して特異的な抗体またはその抗原結合性断片(第2抗体等)と、(B)抽出用試薬とを含む、食品中のくるみタンパク質の検査用キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)legmin B like protein(以下「第1くるみタンパク質」と呼ぶ。)および/またはJug r 6(以下「第2くるみタンパク質」と呼ぶ。)を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、第1くるみタンパク質に対して特異的な抗体またはその抗原結合性断片(以下「第1抗体等」と呼ぶ。)および/または第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体またはその抗体結合性断片(以下「第2抗体等」と呼ぶ、)と、(B)抽出用試薬とを含む、食品中のくるみタンパク質の検査用キット。
【請求項2】
前記免疫学的測定法がELISAであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、固相化用の第1抗体等および/または第2抗体等と、酵素標識用の第1抗体等および/または第2抗体等とを含む、請求項1に記載の検査用キット。
【請求項3】
前記免疫学的測定法がイムノクロマトグラフィーであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、発色標識用の第1抗体等および/または第2抗体等を含む、請求項1に記載の検査用キット。
【請求項4】
前記抽出用試薬が、界面活性剤としてアルキル硫酸塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の検査用キット。
【請求項5】
前記抽出用試薬が、還元剤としてメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の検査用キット。
【請求項6】
前記抽出が振盪法または高速剪断・撹拌処理法により行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の検査用キット。
【請求項7】
(1)食品中の第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を抽出する工程、および
(2)第1くるみタンパク質に対して特異的な第1抗体および/または第2くるみタンパク質に対して特異的な第2抗体等を用いた免疫学的測定法により、第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を定量的または定性的に検出する工程
を含む、食品中のくるみタンパク質の検査方法。
【請求項8】
前記免疫学的測定法がELISAであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、固相化用の第1抗体等および/または第2抗体等と、酵素標識用の第1抗体等および/または第2抗体等とを含む、請求項7に記載の検査方法。
【請求項9】
前記免疫学的測定法がイムノクロマトグラフィーであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、発色標識用の第1抗体等および/または第2抗体等を含む、請求項7に記載の検査方法。
【請求項10】
前記工程(1)および(2)の間に、抽出された第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を精製する工程をさらに含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項11】
前記抽出用試薬が、界面活性剤としてアルキル硫酸塩を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項12】
前記抽出用試薬が、還元剤として、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩を含む、請求項7~11のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項13】
前記抽出が振盪法により行われる、請求項7~12のいずれか一項に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中のくるみタンパク質を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーは、身体が摂取した食物に含まれる特定のタンパク質(食物アレルゲン)を異物として認識し、過敏な免疫学的機序を介して、皮膚のかゆみ、じんましん、せきなど様々な症状が引き起こされる症状であり、重症の場合は、意識の喪失、血圧低下・ショック症状など、生命にかかわる深刻なものとなる。食物アレルギーの患者は、全人口の1~2%(乳児に限定すると約10%)になると推定されている。食物アレルギーの患者が、原因となる食物アレルゲンを含む食品、特に外観的に判別しにくい加工品を摂取しないよう、食物アレルゲンを含む原材料を食品が含む場合は、その旨を表示することが食品衛生法により義務または推奨とされている。現在、「卵、乳、小麦、えび、かに」(発症件数が多いもの)および「そば、落花生」(症状が重くなることが多く、生命に関わるもの)の7品目は、表示義務がある「特定原材料」に指定されており、「あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、アーモンド」(過去に一定の頻度で発症が報告されたもの)の21品目は、表示が推奨されている「特定原材料に準ずるもの」に指定されている。消費者庁(以前は厚生労働省)は、食物アレルギーの全国的な実態把握のために3年毎に調査を行っており、その結果を踏まえて特定原材料等の見直しを行っている。
【0003】
上記のような食物アレルゲンに関する制度の運用のために、食品メーカーや公的な検査機関等において、食物アレルゲンを含む食品が加工品中に原材料として含まれていないか、キット等を使用して検査されている。近年、「くるみ」に対してアレルギーをもつ患者が急速に増加してきており、くるみを特定原材料(表示義務あり)の品目に追加することが検討されていることから、加工品中のくるみを検出することのできるキットを早急に開発する必要性が高まっている。
【0004】
加工品中に含まれる特定原材料等の検出技術としては、一般的に、スクリーニング検査として抗原抗体反応を用いたELISA法、および確定検査としてDNAの増幅反応を用いたPCR法が存在している。このうちELISA法は、くるみ特有のタンパク質を認識する抗体を用いることで、加工品中にくるみが原材料として含まれているかどうかを検査する。
【0005】
抗原抗体反応に基づく検出の標的とするくるみ特有のタンパク質としては、くるみアレルギーの主な原因である、くるみアレルゲンJug r 1~8が第一候補となる。そのようなくるみ特有のタンパク質を対象として、抗原抗体反応により食品中の「くるみ」を検出するための手段としては、例えば、くるみアレルゲンJug r 1(2S-アルブミン)タンパク質を標的とするポリクローナル抗体を用いて、ELISAにより検出する方法およびそのためのキットが提案されている(非特許文献1)。また、くるみ以外の特定原材料等を検出するための手段としては、例えば、大豆アレルゲン(Gly m Bd 30Kタンパク質)の未変性物に対するポリクローナル抗体と、加熱変性物に対するポリクローナル抗体とを併用して、食品中の「大豆」を検出する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-258130号公報(特許第4866190号)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sakai et al., Journal of AOAC international, 93(4), pp.1255-1261, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品中に原材料としてくるみが含まれているかを検査するためのスクリーニング検査としては、くるみアレルゲンの一つ、Jug r 1タンパク質を検出対象とする検査方法や検査キットしか、これまでに実用化されていない。また、くるみに含まれるタンパク質のうち、くるみアレルゲン以外のタンパク質を対象として、食品中のくるみを検出するための手段も、これまでに実用化されていない。なお、食品からくるみアレルゲン以外のくるみタンパク質が検出されれば、その食品の原材料にはくるみが含まれており、自ずとくるみアレルゲンも含まれている蓋然性が高い(くるみアレルギーを発症するおそれがある)といえる。
【0009】
本発明は、食品中のくるみタンパク質を検出するための新たな手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、これまで活用されていなかったくるみに含まれる2種類のタンパク質(以下「本発明のくるみタンパク質」と総称する。)を、それらのタンパク質に対する抗体(以下「本発明の抗体」と総称する。)を作製して利用することで、食品中に原材料としてくるみが含まれているかを検査できることを見出した。本発明により見出された第1のくるみタンパク質は「legmin B like protein」であり、第2のくるみタンパク質は「Jug r 6」(ビシリン)である。それらのタンパク質と特異的に結合する本発明の抗体は、特定原材料(表示義務のある7品目)に対する交差反応性が低く(つまり、上記2種の本発明のくるみタンパク質に対する特異性が高く)、かつ加工品中から抽出した、一定程度変性している本発明の標的タンパク質にも反応することができることから、食品が原材料としてくるみを含むかを検査するための手段として好適なものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は一側面において、下記の発明を提供する。
[1]
(A)legmin B like protein(以下「第1くるみタンパク質」と呼ぶ。)および/またはJug r 6(以下「第2くるみタンパク質」と呼ぶ。)を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、第1くるみタンパク質に対して特異的な抗体(以下「第1抗体」と呼ぶ。)および/または第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体(以下「第2抗体」と呼ぶ。)と、(B)抽出用試薬とを含む、食品中のくるみタンパク質の検査用キット。
[2]
前記免疫学的測定法がELISAであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、固相化用の第1抗体等および/または第2抗体等と、酵素標識用の第1抗体等および/または第2抗体等とを含む、項1に記載の検査用キット。
[3]
前記免疫学的測定法がイムノクロマトグラフィーであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、発色標識用の第1抗体等および/または第2抗体等を含む、項1に記載の検査用キット。
[4]
前記抽出用試薬が、界面活性剤としてアルキル硫酸塩を含む、項1~3のいずれか一項に記載の検査用キット。
[5]
前記抽出用試薬が、還元剤として、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩を含む、項1~4のいずれか一項に記載の検査用キット。
[6]
前記抽出が振盪法または高速剪断・撹拌処理法により行われる、項1~5のいずれか一項に記載の検査用キット。
[7]
(1)食品中の第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を抽出する工程、および
(2)第1くるみタンパク質に対して特異的な第1抗体等および/または第2くるみタンパク質に対して特異的な第2抗体等を用いた免疫学的測定法により、第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を定量的または定性的に検出する工程
を含む、食品中のくるみタンパク質の検査方法。
[8]
前記免疫学的測定法がELISAであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、固相化用の第1抗体等および/または第2抗体等と、酵素標識用の第1抗体等および/または第2抗体等とを含む、項7に記載の検査方法。
[9]
前記免疫学的測定法がイムノクロマトグラフィーであり、前記第1抗体等および/または第2抗体等が、発色標識用の第1抗体等および/または第2抗体等を含む、項7に記載の検査方法。
[10]
前記工程(1)および(2)の間に、抽出された第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を精製する工程をさらに含む、項7~9のいずれか一項に記載の検査方法。
[11]
前記抽出用試薬が、界面活性剤としてアルキル硫酸塩を含む、項7~10のいずれか一項に記載の検査方法。
[12]
前記抽出用試薬が、還元剤として、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩を含む、項7~11のいずれか一項に記載の検査方法。
[13]
前記抽出が振盪法により行われる、項7~12のいずれか一項に記載の検査方法。
【0012】
なお、当業者であれば、本発明の技術的思想、本明細書の記載事項および技術常識に基づき、上記の各項に記載の発明に関する事項を、他のカテゴリーの発明に関する事項に変換する(読み替える)ことが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、新たな標的タンパク質を検出対象に加えて、食品中にくるみが含まれているかを検査することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1の[1-1]における、各抽出用試薬を用いた抽出処理物のSDS-PAGEの結果(A)、およびウェスタンブロッティングの結果(B)を示す。レーンの番号は表1中の抽出液のNoに対応し、Mは分子量マーカーを表す。
【
図2】
図2は、実施例2の[2-1]における、各抽出用試薬を用いた抽出処理物のSDS-PAGEの結果(A)、およびウェスタンブロッティングの結果(B)を示す。レーンの番号1~4は表2中の抽出用試薬のNoに対応し、5はリコンビナントJug r 1を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
―検査用キット―
本発明の「検査用キット」は、食品中のくるみタンパク質を検査するためのキットであって、(A)第1くるみタンパク質および/または第2くるみタンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、第1くるみタンパク質に対して特異的な第1抗体等および/または第2くるみタンパク質に対して特異的な第2抗体等と、(B)抽出用試薬とを含む。以下、第1くるみタンパク質および第2くるみタンパク質を「第1/第2くるみタンパク質」と総称し、第1くるみタンパク質に対して特異的な第1抗体等および第2くるみタンパク質に対して特異的な第2抗体等を「第1/第2抗体等」と総称する。
【0016】
(A)第1/第2抗体等(第1/第2くるみタンパク質)
本発明において、「第1くるみタンパク質」とは、「legmin B like protein」を指し、「第2くるみタンパク質」とは、「Jug r 6」(ビシリン)を指す。本発明において、「第1抗体等」とは、第1くるみタンパク質に対して特異的な抗体(抗legmin B like protein抗体)またはその抗原結合性断片を指し、「第2抗体等」とは、第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体(抗Jug r 6抗体)またはその抗原結合性断片を指す。「抗原結合性断片」としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv
、scFv、dsFv、ダイアボディー(二重特異性抗体)、ナノボディーなどが挙げられる。本明細書中の「第1くるみタンパク質」および「第2くるみタンパク質」は、それぞれ「legmin B like protein」および「Jug r 6」に読み替えることができる。また、特に断らない限り、本明細書における「抗体」を「抗原結合性断片」または「抗体等」に読み替える、つまり「抗体」を用いる実施形態を「抗原結合性断片」または「抗体等」を用いる実施形態に置き換えることができる。
【0017】
本発明の検査用キットにおいて、第1抗体等および第2抗体等は、いずれか一方を使用してもよいし、両方を使用してもよい。例えば、後述するような実施形態の免疫学的測定法において、第1/第2くるみタンパク質を捕捉するための抗体(ELISAにおける固相化用第1/第2抗体等、イムノクロマトグラフィーにおける固定化用第1/第2抗体等、以下「捕捉用抗体等」と総称する。)として、第1抗体等または第2抗体等のいずれかを使用して、それぞれ第1くるみタンパク質または第2くるみタンパク質のいずれかを捕捉し、検出するようにしてもよいし、第1抗体等および第2抗体等を併用して、第1くるみタンパク質または第2くるみタンパク質の両方を捕捉し、検出するようにしてもよい。また、捕捉用抗体等として、第1抗体等または第2抗体等のいずれかを使用した場合は、捕捉された第1くるみタンパク質または第2くるみタンパク質を検出するための抗体等(ELISAにおける酵素標識用第1/第2抗体等、イムノクロマトグラフィーにおける発色標識用第1/第2抗体等、以下「検出用抗体等」と総称する。)としても、それぞれ第1抗体等または第2抗体等のいずれかを使用すればよい。捕捉用抗体等として、第1抗体等および第2抗体等の併用した場合は、検出用抗体等としても、第1抗体等および第2抗体等を併用すればよい。
【0018】
「第1くるみタンパク質」は、くるみまたはくるみを原材料に含む加工品に含まれ、(A11)界面活性剤を含む抽出用試薬を用いた抽出およびSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により約30kDaのタンパク質として単離可能なタンパク質、あるいは(A12)界面活性剤および還元剤を含む抽出用試薬を用いた抽出およびSDS-PAGEにより約19kDaのタンパク質として単離可能なタンパク質である。第1くるみタンパク質(A12)は、第1くるみタンパク質(A11)に含まれるSS結合が還元剤により切断され、断片化することにより生じたタンパク質であると推定される。第1くるみタンパク質(A12)も、断片化される前の、第1くるみタンパク質(A11)の一部を構成している状態で、くるみまたはくるみを原材料に含む加工品に含まれていると解する。
【0019】
「第2くるみタンパク質」は、くるみまたはくるみを原材料に含む加工品に含まれ、界面活性剤を含む抽出用試薬を用いた抽出およびSDS-PAGEにより約50kDaのタンパク質として単離可能なタンパク質である。
【0020】
なお、「第1/第2くるみタンパク質」自体の定義との関係で上述した「抽出用試薬」としては、本発明の検査用キットに含まれる抽出用試薬(B)と同じもの、例えば同じ界面活性剤および/または還元剤を含む実施形態のものとすることができる。抽出用試薬(B)、界面活性剤、還元剤等の詳細は後述する。
【0021】
第1/第2抗体等は、その用途に応じて必要な特異性でもって、第1/第2くるみタンパク質を認識して結合できる抗体またはその抗原結合性断片であればよい。第1/第2抗体等は、食品に含まれる各種のタンパク質およびくるみ以外の食物アレルゲンと結合しないこと(少なくとも、本発明の検査方法による結果に影響しない程度の結合に留まること)が好ましいが、用途や程度に応じて、第1/第2くるみタンパク質以外のタンパク質と一定程度結合する(交差反応する)ことや、抗体の性質上不可避的なタンパク質またはその他の物質に対して非特異的に吸着することは許容される。
【0022】
第1/第2抗体は、検査用キットの用途や実施形態に応じて、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体とでは、特異性(第1/第2くるみタンパク質のみに反応し、それ以外のタンパク質とは反応(交差)しないか)、再現性(製造ロットにより検査結果に差が生じないか)、安定性(キットにおける抗体の固相化処理、標識処理等により、抗原への結合性が失われないか)などが異なるため、検査用キットの用途や実施形態によっては好ましい抗体が変動する場合もあるので、そのことを考慮してポリクローナル抗体とモノクローナル抗体のどちらを用いるか、またはその両方を組み合わせて用いるかを選択することができる。
【0023】
本発明の一実施形態において、検査用キットは、第1/第2抗体としてポリクローナル抗体を含む。加工食品等の食品に由来する第1/第2くるみタンパク質は、製造過程や保存過程により、また食品から抽出する際に可溶化剤が添加された抽出用試薬を用いた場合はその抽出工程により、一定程度変性した第1/第2くるみタンパク質になっている、また様々な変性第1/第2くるみタンパク質を含む混合物になっていると考えられる。そのような変性第1/第2くるみタンパク質は、変性していない天然の第1/第2くるみタンパク質とは異なる部位(アミノ酸配列)もエピトープとなっている可能性がある。検査用キットが含む第1/第2抗体をモノクローナル抗体とした場合は、加工食品等の食品に含まれる変性第1/第2くるみタンパク質のうち一部のものとしか反応せず、くるみタンパク質の検出感度が不十分なものとなるおそれがある。したがって、多様なエピトープに対応したポリクローナル抗体を用いることにより、加工品等の様々な食品に含まれる変性第1/第2くるみタンパク質に対して一定の検出感度を有する(食品によって検出感度が低下することを防止できる)検査用キットを製造することができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、検出用キットは、第1/第2抗体として、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を含む。例えば、後述するような実施形態の免疫学的測定法において、第1/第2くるみタンパク質に対する捕捉用抗体(ELISAにおける固相化用第1/第2抗体、イムノクロマトグラフィーにおける固定化用第1/第2抗体)としてモノクローナル抗体を使用し、捕捉された第1/第2くるみタンパク質に対する検出用抗体(ELISAにおける酵素標識用第1/第2抗体、イムノクロマトグラフィーにおける金コロイド標識用もしくはラテックス粒子標識用第1/第2抗体)としてポリクローナル抗体を使用することができる。捕捉用抗体としてモノクローナル抗体を用いることで第1/第2くるみタンパク質に対する特異性を高め、検出用抗体としてポリクローナル抗体を用いることで捕捉した第1/第2くるみタンパク質を高感度で検出することができる。
【0025】
第1/第2抗体は、第1/第2くるみタンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するのに適した形態のものとする、例えば各種の修飾をしたり、改変をしたりすること、特に抗原結合断片とすることができる。
【0026】
「免疫学的測定法」は、第1/第2くるみタンパク質と第1/第2抗体等との反応を利用することにより、第1/第2くるみタンパク質を定量的または定性的に検出することを可能とする方法であればとくに限定されず、公知の様々な方法を利用することができる。また、各種の免疫学的測定法に対応した検査用キットも公知で、市販もされており、本発明の検査用キットも、抽出用試薬として本発明の特定のものを使用するよう変更すること以外は、公知の検査用キットに準じて製造することができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、免疫学的測定法は、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay、エライザ法)である。ELISAは、各種のタンパク質を高い精度で定量的に検出することが可能で、加熱等した加工品から食物アレルゲンを検出するために好適な測定法であり、消費者庁ガイドラインに準拠している。
【0028】
ELISA用の第1/第2抗体等は、例えば、固相化用の第1/第2抗体等および酵素標識用の第1/第2抗体等を含む。固相化用の第1/第2抗体等は、ELISAを行う部材の表面、例えばプレート(ウェル)の底部に固相化するためのものである。酵素標識用の第1/第2抗体等は、固相化された抗体に補足された第1/第2くるみタンパク質に結合し、その後基質と反応することで、第1/第2くるみタンパク質の量に応じた強度で発色させるためのものである。酵素標識用の第1/第2抗体等は、直接的に酵素で標識された第1/第2抗体等、すなわち抗体等自体に共有結合により(例えばリンカーを介して)あらかじめ酵素が結合している第1/第2抗体等であってもよいが、間接的に酵素で標識されることとなる第1/第2抗体等、例えば「検査方法」との関係で後述する手順に例示した、ストレプトアビジンと結合した酵素とさらに反応することによって酵素標識された第1/第2抗体等を完成させることができる、ビオチンが結合した第1/第2抗体等のようなものであってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態において、免疫学的測定法はイムノクロマトグラフィー(immunochromatography、イムノクロマト法)である。イムノクロマトグラフィーは、簡便な操作により、比較的短時間で、各種のタンパク質を定性的に検出することができる測定法である。
【0030】
イムノクロマトグラフィー用の第1/第2抗体等は、例えば、固定化用の第1/第2抗体等および発色標識(例、金コロイド標識、ラテックス粒子標識、白金粒子標識)用の第1/第2抗体等を含む。発色標識用の第1/第2抗体等は、一般的に、テストストリップの所定の位置(試料滴下部)に含ませる、あらかじめ発色標識と結合している第1/第2抗体等であり、第1/第2くるみタンパク質と複合体を形成した状態で固定化抗体等に捕捉された後、基質と反応することで、標的タンパク質の存在を示すよう発色させるための抗体である。固定化用の第1/第2抗体等は、一般的に、テストストリップの所定の位置(テストライン)に含ませる第1/第2抗体等であり、毛細管現象により移動してきた第1/第2くるみタンパク質と発色標識用の第1/第2抗体等との複合体を捕捉するための抗体である。
【0031】
本発明の検査用キットは、少なくとも本発明の抽出用試薬および第1/第2抗体等を含むが、必要により、実施形態に応じた、その他の試薬、部材等の任意の内容物を含むことができる。ELISA用のキットであれば、例えば、ウェルを備えたプレート、標的タンパク質の溶液を調製するための希釈液、各工程を行った後にプレート(ウェル)を洗浄するための洗浄液、ELISAにおける酵素反応停止液、抽出されたタンパク質を分解から保護するためのBSAELISAによる検査方法の手順を記載した取扱説明書などが、本発明の抽出用試薬および第1/第2抗体等とともに、キットの内容物に含めることができる。イムノクロマトグラフィー用のキットであれば、例えば、毛細管現象により各種の溶液および試薬を展開させることができるテストストリップ、標的タンパク質の溶液を調製するための希釈液、イムノクロマトグラフィーによる検査方法の手順を記載した取扱説明書などが、本発明の抽出用試薬および第1/第2抗体等とともに、キットの内容物に含めることができる。
【0032】
本発明のキットは、必要に応じて、第1/第2抗体等以外の抗体等を含むことができる。例えば、本発明のキットは、上述したような捕捉用抗体等および検出用抗体等として、第1/第2くるみタンパク質以外のタンパク質を標的とする抗体等、例えばくるみアレルゲンタンパク質を標的とする抗体等や、くるみアレルゲンタンパク質以外のタンパク質であって第1/第2くるみタンパク質とは異なるタンパク質を標的とする抗体等を、さらに含んでいてもよい。
【0033】
(B)抽出用試薬
本発明における「抽出用試薬」は、食品中の各種のタンパク質を抽出するために一般的に用いられている試薬(溶液)を指す。抽出用試薬は、各種の食物アレルゲンを抽出するために一般的に用いられており、また各種の抽出用試薬が公知となっており、本発明でもそれらと同様の抽出用試薬を用いることができる。
【0034】
抽出用試薬は一般的に、適切なpHを有する緩衝液に、食品中の各種のタンパク質を抽出するための剤として「可溶化剤」を添加することにより調製される溶液である。
【0035】
抽出用試薬を調製するための緩衝液としては、例えば、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、EDTA緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液が挙げられる。本発明における緩衝液としては、例えば、Tris緩衝液およびリン酸緩衝液が好ましい。緩衝液のpHは、一般的には4.5~8.0(生体内で起こりうる範囲のpH)、例えば6.0~8.0である。当業者であれば、適切な化合物を適量用いる(複数の化合物を、それぞれ適量、水に添加して溶解する)ことにより、所望の濃度の、所望のpHを有する緩衝液を調製することができる。
【0036】
抽出用試薬を調製するための可溶化剤としては、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤および還元剤が挙げられる。抽出用試薬は、いずれか1つの種類を単独で含んでいてもよいし、複数の種類を組み合わせて含んでいてもよい。
【0037】
界面活性剤としては、例えば、陰イオン性(アニオン性)界面活性剤、陽イオン性(カチオン性)界面活性剤、非イオン性(ノニオン性)界面活性剤が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩が挙げられる。アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の「アルキル」は、例えば、ドデシル、デシル、ノニル、オクチルである。アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の「塩」は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。アルキル硫酸塩の具体例としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられ、アルキルベンゼンスルホン酸塩の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。陽イオン性界面活性剤の具体例としては、塩化ヘキサデシルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが挙げられる。非イオン性界面活性剤の具体例としては、「Tween 20」(ポリオキシエチレンソルビタンモノララウレート)、「Tween 40」(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)、「Tween 60」(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、「Tween 80」(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。
【0038】
抽出用試薬が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類およびその作用効果や、必要に応じて抽出用試薬中のその他の成分(例えばカオトロピック剤、還元剤)の有無、種類および濃度などを考慮して、適宜調節することができる。例えば、抽出用試薬が界面活性剤としてSDS等の陰イオン性界面活性剤またはその他の界面活性剤を含む場合、その濃度の下限値は、例えば0.005、0.01または0.05%(w/v)とすることができ、上限値は、例えば5.0、3.0または2.0%(w/v)とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組みあわせることができる。
【0039】
「カオトロピック剤」としては、例えば、尿素、ホルムアミド、塩溶効果のある陰イオンまたは陽イオンを含む塩(例:グアニジニウムイオンを含む塩酸グアニジン、ナトリウムイオンを含む塩化ナトリウム、カリウムイオンを含む塩化カリウム等)が挙げられる。
【0040】
抽出用試薬がカオトロピック剤を含む場合、カオトロピック剤の濃度は、カオトロピック剤の種類およびその作用効果(本発明の作用効果への影響)や、必要に応じて抽出用試薬中のその他の成分(例えば界面活性剤、還元剤)の有無、種類および濃度などを考慮して、適宜調節することができる。例えば、抽出用試薬がカオトロピック剤として尿素を含む場合、その濃度の下限値は、例えば0.01、0.05または0.1(w/v)とすることができ、上限値は、例えば10、5.0または3.0%(w/v)とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組みあわせることができる。
【0041】
還元剤としては、例えば、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩が挙げられる。メルカプトアルカノールとしては、例えば、チオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトールが挙げられる。亜硫酸塩としては、例えば、アルカリ金属亜硫酸塩が挙げられ、そのアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられる。亜硫酸塩の具体例としては、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0042】
抽出用試薬が還元剤を含む場合、還元剤の濃度は、還元剤の種類およびその作用効果や、必要に応じて抽出用試薬中のその他の成分(例えば界面活性剤、カオトロピック剤)の有無、種類および濃度などを考慮して、適宜調節することができる。抽出用試薬が還元剤としてチオグリセロールを含む場合、その濃度の下限値は、例えば0.001、0.005、0.01または0.02%(w/v)とすることができ、上限値は、例えば10、5.0、3.0、2.0または1.0%(w/v)とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組みあわせることができる。抽出用試薬が還元剤として2-メルカプトエタノールまたはジチオトレイトールを含む場合、その濃度の下限値は、例えば0.05、0.1または0.5%(w/v)とすることができ、上限値は、例えば5.0、2.0または1.0%(w/v)とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組みあわせることができる。
【0043】
本明細書の記載において、「抗体」または「抗体等」(抗体およびその抗原結合性断片)はさらに、タンパク質に結合することのできる公知の各種の「検出分子」に拡張して読み替える(実施形態において置き換える)ことが可能である。抗体および抗原結合性断片(抗体等)以外の「検出分子」としては、例えば、アプタマー、レセプター、抗菌ペプチドまたはその他のペプチドなどが挙げられる。抗体等を用いる抗原抗体反応に基づく実施形態と同様に、検出分子を用いる特異的な反応に基づく実施形態によっても、本発明を実施することが可能である。
【0044】
―検査方法―
本発明の「検査方法」は、第1/第2くるみタンパク質を標的とすることにより、食品中のくるみタンパク質を検出するための方法であって、(1)食品中の第1/第2くるみタンパク質を抽出する工程(本明細書において「抽出工程」と呼ぶ。)、および(2)第1/第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体等(第1/第2抗体等)を用いた免疫学的測定法により、抽出された第1/第2くるみタンパク質を定量的または定性的に検出する工程(本明細書において「検出工程」と呼ぶ。)を含む。
【0045】
「食品」は、原材料としてのくるみ自体(例えば素焼きのくるみ)であってもよいし、原材料としてくるみを含む(かどうかの検査対象とする)加工品であってもよい。食品(加工品)の形態は特に限定されるものではないが、例えば、加熱および/または加圧条件下で行われる工程を経て製造されることにより、一般的にアレルゲンタンパク質が不溶化して難抽出状態となる傾向にある加工品であってもよい。食品は、例えば、固形状、半固形状、ゼリー状、液状、乳化液状のいずれであってもよい。
【0046】
「免疫学的測定法」は、食品から抽出された食物アレルゲン等のタンパク質を検出できるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法から選択することができる。
【0047】
本発明の一実施形態において、検出工程における免疫学的測定法は、ELISAである。ELISAは、例えば下記のような手順により、検体中の標的タンパク質(本発明では食品中の第1/第2くるみタンパク質)およびそれと結合する抗体等を用いて行うことができる。
1)固相化抗体を備えたプレートのウェルに、標的タンパク質の溶液を添加し、固相化抗体等と標的タンパク質とを接触させ、抗原抗体反応により結合させることで、第1の複合体を形成する。
2)上記ウェルを洗浄後、ビオチン結合抗体の溶液を添加し、第1の複合体中の標的タンパク質とビオチン結合抗体等とを接触させ、抗原抗体反応により結合させることで、第2の複合体を形成する。
3)上記ウェルを洗浄後、ストレプトアビジン結合酵素の溶液を添加し、第2の複合体中のビオチン結合抗体等とストレプトアビジン結合酵素とを接触させ、ビオチン-ストレプトアビジン反応により結合させることで、第3の複合体を形成する。
4)上記ウェルを洗浄後、基質の溶液(発色剤)を添加し、第3の複合体中の酵素と基質とを反応させ、発色させる。
5)発色反応を停止させた後、プレートリーダーで所定の波長における吸光度を測定する。
6)別途標準溶液を測定して得られた吸光度から標準曲線グラフを作成しておき、5)で測定した吸光度および標準曲線グラフから、標的タンパク質の量(溶液の濃度)を読み取り、溶液の希釈倍率を乗じて、検体中の標的タンパク質の量を算出する。
【0048】
本発明の一実施形態において、検出工程における免疫学的測定法は、イムノクロマトグラフィーである。イムノクロマトグラフィーは、例えば下記の手順により、検体中の標的タンパク質(本発明では食品中の第1/第2くるみタンパク質)およびそれと結合する抗体等を用いて行うことができる。
1)発色標識抗体等が含まれているテストストリップ上の所定の部位(試料滴下部)に、標的タンパク質を含む試料溶液を滴下し、発色標識抗体等と標的タンパク質とを接触させ、抗原抗体反応により結合させることで、第1の複合体を形成する。
2)第1の複合体や未反応の発色標識抗体等を含む試料溶液は、テストストリップ上の所定の部位(展開部)を展開していき、それに伴い第1の複合体等も毛細管現象によって移動する。
3)第1の複合体が、固定化抗体等が含まれている所定の部位(テストライン部)に到達し、固定化抗体等に捕捉されると、発色標識により発色したライン(例えば、金コロイドによる赤紫色のライン)が出現する。テストラインが出現した場合、試料溶液中に標的タンパク質が含まれていたことを示す。
4)未反応の金コロイド標識抗体等が、抗免疫グロブリン抗体が含まれている所定の部位(コントロールライン部、テストラインより下流側)に到達し、抗免疫グロブリン抗体等に捕捉されると、金コロイドによる赤紫色のラインが出現する。コントロールラインが出現しなかった場合、試料中に標的タンパク質が含まれていたか否かにかかわらず、試料溶液の展開に異常があったことが示唆される(再検査が必要となる)。
【0049】
・抽出工程
「抽出工程」は、抽出用試薬を用いて食品中の各種のタンパク質を抽出する処理として行われている、一般的な抽出工程と同様に行うことができ、さらに必要に応じて本発明に適合するよう適宜改変することができる。
【0050】
抽出工程に供する食品は、食品の形態に応じて、フードカッター、ミルサー、ミキサー、ホモジナイザー等を用いた高速剪断・撹拌処理により、均質な状態に微細化または乳化すること(高速剪断・撹拌処理法)ができる。このような微細化等の処理は、抽出工程の前にあらかじめ食品等に対して行い、得られた微細化等された食品と本発明の抽出用試薬とを混合するようにしてもよいし、食品と本発明の抽出用試薬の混合物に対して行い、微細化等の処理と同時に抽出処理が行われるようにしてもよい。微細化等の処理条件(時間、温度、回転数(rpm)または遠心力(×g)等)は、選択した微細化等の処理方法や用いる処理装置に応じて、また本発明の作用効果を考慮して、適宜調節することができる。また、抽出工程に供する食品は、必要に応じて、例えば脱脂処理など、第1/第2くるみタンパク質の抽出および/または抽出後の検出などを考慮した処理がさらに行われていてもよい。
【0051】
上記のように微細化等した食品、またはしていない食品と、本発明の抽出用試薬とを混合した後、その混合物を振盪処理することにより、抽出処理を行うこと(振盪法)もできる。振盪の処理条件(時間、温度、振盪数もしくは回転数(rpm)等)は、選択した振盪処理方法や用いる処理装置に応じて、また本発明の作用効果を考慮して、適宜調節することができる。振盪処理の時間は、通常12時間以上、24時間未満(例えば一晩)である。振盪処理の温度は、通常は室温であるが、必要であれば加熱した温度であってもよい。
【0052】
・回収工程
本発明では、抽出用試薬を用いて高速剪断・撹拌処理または振盪処理を行った後、得られた処理物を用いて、さらに遠心分離を行って上清を回収する、または濾過を行って濾液を回収する工程(本明細書において「回収工程」と呼ぶ。)を行うことができる。回収工程により得られた上清または濾液に、食品から抽出された第1/第2くるみタンパク質が含まれている。遠心分離、濾過等による回収処理の処理条件(時間、温度、遠心分離の回転数(rpm)または遠心力(×g)、濾過のフィルター孔径等)は、選択した回収処理の方法や用いる処理装置などに応じて、適宜調節することができる。
【0053】
・精製工程
本発明では、さらに抽出工程および回収工程の後に、得られた回収液に含まれている第1/第2くるみタンパク質を精製する工程(本明細書において「精製工程」と呼ぶ。)を行うことができる。SDS-PAGEに代表されるゲル濾過クロマトグラフィーや、イオン交換クロマトグラフィーのような適切な手段を用いることにより、回収液に含まれている第1/第2くるみタンパク質およびその他のタンパク質の混合物の中から第1/第2くるみタンパク質を単離して精製することができる。ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の精製処理の処理条件は、選択した精製処理の方法や用いる処理装置などに応じて、適宜調節することができる。
【0054】
なお、回収工程により得られる回収液に含まれている第1/第2くるみタンパク質は、それを抽出した食品がどのようなものかによって、例えば、どのような製造過程や保存過程(混捏、成形、加圧、加熱、乾燥、酵素処理、冷凍、解凍など処理の有無や処理条件)を経た加工食品であるかによって、天然の第1/第2くるみタンパク質とは物理的および/または化学的に相違しているタンパク質、つまり一定程度変性しているタンパク質である可能性がある。あるいは、回収される第1/第2くるみタンパク質は、変性の程度が様々な第1/第2くるみタンパク質の混合物である可能性もある。
【0055】
-抽出処理物-
本発明は別の側面において、抽出用試薬と、食品に由来する可溶化している第1/第2くるみタンパク質を含む抽出処理物が提供される。このような抽出処理物は、後述するような、本発明の検査方法の工程(1)として行われる抽出工程により得られるものや、本発明の抗体製造方法の工程(1)として行われる抽出工程により得られるものを包含する。
【0056】
本発明の抽出処理物は、濾過処理により上清を抽出処理液として分離する前は、さらに抽出残渣としての食品など、抽出用試薬および可溶化した第1/第2くるみタンパク質以外の物質を含んでいてもよい。
【0057】
なお、抽出処理物に含まれる第1/第2くるみタンパク質は、従来技術では、少なくとも食品中のくるみタンパク質の検査における検出対象とするという目的で、また抗体を作製するという目的で、食品から単離されることがなった、食品の実施形態に応じた様々な変性第1/第2くるみタンパク質を含む混合物となっており、物質としての構成(例えば混合物に含まれる変性第1/第2くるみタンパク質の組成、すなわちどのように変性したものを、どのような割合で含んでいるか)を一概に特定することは困難である。
【0058】
―抗体等製造方法―
本発明の「抗体等製造方法」は、第1/第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体等(第1/第2抗体等)を製造するための方法であって、(1)食品中の第1/第2くるみタンパク質を抽出する工程(前述した「検査方法」における「抽出工程」に相当する。)、および(2)抽出された第1/第2くるみタンパク質を用いて、第1/第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体(第1/第2抗体等)を作製する工程(本明細書において「抗体等作製工程」と呼ぶ。)を含む。
【0059】
抗体等製造方法における抽出工程は、検査方法における「抽出工程」と同様に、例えば前述したような抽出用試薬を用いて行うことができるが、必要に応じて抗体の製造に適するように改変する(例えばスケールアップする)ことができる。
【0060】
・抗体等作製工程
抗体等作製工程は、少なくとも前述したような抽出工程の後で、通常はさらに抽出工程に後に行われる精製工程の後で、得られた第1/第2くるみタンパク質の精製物を用いて第1/第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体等(第1/第2抗体等)を作製する工程である。一旦、食品中の第1/第2くるみタンパク質を抽出して入手することができれば、その第1/第2くるみタンパク質を用いること以外は、従来の食物アレルゲンタンパク質に対して特異的な抗体等を作製する工程と同様にして、さらに必要に応じて本発明に適合するよう適宜改変して、第1/第2抗体を得たり、さらにその抗原結合性断片を得たりすることができる。
【0061】
作製する第1/第2抗体等は、抗体等作製工程の目的に応じて(例えば作製した抗体が用いられる本発明の検査用キットの実施形態等に応じて)、ポリクローナルな抗体等であってもよいし、モノクローナルな抗体等であってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態において、抗体等作製工程では、前述したような一実施形態の本発明の検査用キットを製造するために、ポリクローナル抗体および/またはモノクローナル抗体を作製する。抽出工程により得られた変性第1/第2くるみタンパク質(の混合物)を用いることにより、未変性の第1/第2くるみタンパク質を用いた場合より、さらに多様なエピトープに対応した、または未変性の第1/第2くるみタンパク質が有さないエピトープに対応した、加工食品等の食品に含まれる変性第1/第2くるみタンパク質の検出に適したポリクローナル抗体(抗体の混合物)および/またはモノクローナル抗体が得られる。
【0063】
ポリクローナル抗体の作製方法としては、免疫動物を用いる方法や、ファージディスプレイ法が一般的である。免疫動物を用いる方法の手順の概略は次の通りである。適量の標的タンパク質(本発明では第1/第2くるみタンパク質)の精製物を、必要に応じてアジュバンドと混合して免疫原とし、その免疫原を動物(ウサギ、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウス、ニワトリ等)に注射する(免疫する)ことにより、その動物の血液中に抗体を産生させることができる。適当な間隔および回数で繰り返し免疫した後、血液(血漿、血清)を回収し、そこに含まれる抗体を精製する、例えば標的タンパク質(本発明では第1/第2くるみタンパク質)を固定化したアフィニティーカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィー、および必要に応じてさらにゲル濾過クロマトグラフィーにより精製することで、ポリクローナル抗体が得られる。また、ファージディスプレイ法の手順の概略は次の通りである。バクテリオファージに抗体の遺伝子を導入し、H鎖およびL鎖の可変領域が連結したタンパク質をバクテリオファージのコートタンパク質上に発現させる(提示する)ようにする。得られた抗体ファージライブラリーを用いて、標的タンパク質(本発明では第1/第2くるみタンパク質)に対して親和性を有する抗体を選択する。その抗体を産生するバクテリオファージを大腸菌に感染させて増殖させた後に回収し、そこに含まれる抗体を精製することで、ポリクローナル抗体が得られる。
【0064】
モノクローナル抗体の作製方法としては、ハイブリドーマを用いる方法が一般的である。ハイブリドーマを用いる方法の概略は次の通りである。ポリクローナル抗体を作製する場合と同様にして、免疫原を動物に注射し、抗体を産生させる。その免疫動物の脾臓からB細胞を採取し、ミエローマ細胞(不死化したがん細胞)と融合して、ハイブリドーマ(融合細胞)を作製する。ハイブリドーマの中から、標的タンパク質(本発明では第1/第2くるみタンパク質)への結合親和性や特異性に優れた抗体を産生するものを選択(スクリーニング)する。そのハイブリドーマを培養し、培養上清中に単一の抗体を産生させる。培養上清を回収し、そこに含まれる抗体を精製することで、モノクローナル抗体が得られる。
【0065】
また、第1/第2抗体が得られた後は、そのアミノ酸配列を決定したり、常法に従って各種の抗原結合性断片(ポリクローナルまたはモノクローナル)を作製したりすることができる。
【0066】
-抗体等-
本発明は別の側面において、本発明の抗体等製造方法により得られる、食品に由来する第1/第2くるみタンパク質に対して特異的な抗体およびその抗原結合性断片(第1/第2抗体等)が提供される。
【0067】
本発明の抗体等は、従来技術では、少なくとも食品中のくるみタンパク質の検査における検出対象とするという目的で、食品から単離されることがなかった、食品の実施形態に応じた様々な変性第1/第2くるみタンパク質を含む混合物を用いて(例えば免疫原として)得られるものであり、物質としての構成(例えば、ポリクローナル抗体の組成、すなわちどのようなアミノ酸配列を有する抗体が含まれているか)を一概に特定することは困難である。
【実施例0068】
以下、実施例を通じて、本発明の実施形態をより具体的に開示するが、本発明の技術的範囲は実施例として開示した実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、目的とする本発明の用途や作用効果に適応するよう、本発明の技術的思想ならびに本明細書および図面の内容を全体的に考慮して、実施例として開示した実施形態を拡張したり、他の様々な実施形態に改変したりすること、あるいは必要に応じて、従来技術(公知の発明)が備える技術的特徴をさらに組み合わせたりできることを、当業者は理解することができる。本明細書に記載したもの以外の、本発明を実施するために必要な事項は、本発明の属する技術分野における技術常識や従来技術を適宜参酌することができる。
【0069】
[実施例1]第2くるみタンパク質および第2抗体
[1-1]第2くるみタンパク質の抽出
素焼きのくるみを粉砕し、ヘキサン中で撹拌し、次いでアセトン中で撹拌した。ヘキサン中での撹拌およびアセトン中での撹拌をさらに3回繰り返した(合計4回行った)後、風乾して、脱脂くるみを得た。
【0070】
未加熱もしくは加熱の脱脂くるみ1gと、「FASTKITエライザVer.III」(日本ハム株式会社)の検体抽出液19mLとを混合し、室温で一晩振盪して、表1に示す抽出液を調製した。得られた抽出液を室温で遠心分離し(3000×g、20分)、上澄みを濾過し、濾液をSDS-PAGEにかけた。その後、後記[1-2]により得られた第2抗体の一種を用いて、ウェスタンブロッティングを行った。
【0071】
結果を
図1に示す。
図1(A)において、No.1~4の抽出用試薬それぞれについて、SDS-PAGEにおいて約50kDaの位置にバンドが認められる。
図1(B)において、そのバンドに含まれているタンパク質は、別途作製された第2抗体と反応するタンパク質、すなわち第2くるみタンパク質であることがわかる。第2くるみタンパク質は、Jug r 6と同定された。
【0072】
【0073】
[1-2]第2抗体の作製
前記[1-1]と同様にして別途SDS-PAGEを行い、得られた約50kDaのバンドを切り出し、タンパク質(第2くるみタンパク質)を単離および精製した。常法に従って、得られたタンパク質精製物をマウスに投与して免疫した後、産生されたポリクローナル抗体(抗第2くるみタンパク質抗体)を血清から回収した。また、得られたポリクローナル抗体を用いて、常法に従って、モノクローナル抗体も作製した。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体はそれぞれ複数の種類のものが得られた。
【0074】
[実施例2]第1くるみタンパク質および第1抗体
[2-1]第1くるみタンパク質(A11)の抽出
素焼きのくるみを粉砕し、ヘキサン中で撹拌し、次いでアセトン中で撹拌した。ヘキサン中での撹拌およびアセトン中での撹拌をさらに3回繰り返した(合計4回行った)後、風乾して、脱脂くるみを得た。
【0075】
脱脂くるみ1gと、常法に従って調製した表2に示す各抽出用試薬を19mLとを混合し、室温で一晩振盪した。得られた抽出処理物を室温で遠心分離し(3000×g、20分)、上澄みを濾過し、濾液をSDS-PAGEにかけた。その後、後記[2-2]により得られた第1抗体の一種を用いて、ウェスタンブロッティングを行った。
【0076】
結果を表2および
図2に示す。
図2(A)において、No.2および3の抽出用試薬を用いた場合、SDS-PAGEにおいて約30kDaの位置にバンドが認められる。
図2(B)において、そのバンドに含まれているタンパク質は、別途作製された第1抗体と反応するタンパク質、すなわち第1くるみタンパク質であることがわかる。第1くるみタンパク質は、legmin B like proteinと同定された。
【0077】
【0078】
[2-2]第1抗体の作製
前記[2-1]と同様にして別途SDS-PAGEを行い、得られた約30kDaのバンドを切り出し、タンパク質(第1タンパク質)を単離および精製した。常法に従って、得られたタンパク質精製物をマウスに投与して免疫した後、産生されたポリクローナル抗体(抗第1くるみタンパク質抗体)を血清から回収した。また、得られたポリクローナル抗体を用いて、常法に従って、モノクローナル抗体も作製した。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体はそれぞれ複数の種類のものが得られた。