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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157033
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】道路勾配推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/26 20060101AFI20221006BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20221006BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20221006BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01B11/26 H
G06T7/00 650A
G01B11/00 B
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061035
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】西田 猛哲
(72)【発明者】
【氏名】廣井 公彦
(72)【発明者】
【氏名】連 孟
【テーマコード(参考)】
2F065
5H181
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA06
2F065AA32
2F065AA33
2F065CC11
2F065CC40
2F065DD03
2F065FF04
2F065FF09
2F065FF11
2F065GG04
2F065JJ05
2F065MM06
2F065QQ23
2F065QQ31
2F065RR07
2F065RR09
2F065UU05
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5L096AA09
5L096BA04
5L096FA64
5L096FA66
5L096FA67
(57)【要約】
【課題】道路の勾配を正しく推定できる道路勾配推定装置を提供する。
【解決手段】物標9が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定して物標9までの距離を認識するカメラ2と、物標9までの距離を認識するライダ3と、カメラ2が認識した物標9までの距離であるカメラ認識距離Dと、ライダ3が認識した物標9までの距離であるライダ認識距離Dと、を比較する比較部16と、比較部16によりカメラ認識距離Dとライダ認識距離Dとの間に差が生じた場合に、物標9が自車両5に対して勾配している位置に存在していると判定し、カメラ認識距離D及びライダ認識距離Dに基づいて道路の縦勾配を推定する道路勾配推定部17と、を備える、道路勾配推定装置1である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が自車両に対して勾配していない位置に存在していると仮定して前記対象物までの距離を認識する第1センサと、
前記対象物までの距離を認識する第2センサと、
前記第1センサが認識した前記対象物までの距離である第1認識距離と、前記第2センサが認識した前記対象物までの距離である第2認識距離と、を比較する比較部と、
前記比較部により前記第1認識距離と前記第2認識距離との間に差が生じた場合に、前記対象物が自車両に対して勾配している位置に存在していると判定し、前記第1認識距離及び前記第2認識距離に基づいて道路の縦勾配を推定する道路勾配推定部と、を備える、道路勾配推定装置。
【請求項2】
前記第1センサは、カメラであり、
前記第2センサは、ライダである、請求項1に記載の道路勾配推定装置。
【請求項3】
前記道路勾配推定部は、
前記カメラが認識した前記第1認識距離及び前記ライダが認識した前記第2認識距離を用いて、前記自車両が位置している路面からの前記対象物の最下部の高さを推定し、
推定された前記対象物の最下部の高さを用いて、前記道路の縦勾配形状を円弧形状と仮定したときの前記円弧形状の半径を算出し、
算出された前記円弧形状の半径に基づいて前記道路の縦勾配を推定する、請求項2に記載の道路勾配推定装置。
【請求項4】
前記道路勾配推定部は、
前記カメラが認識した前記対象物の最下部の位置が、前記道路の勾配が無いとしたときの前記対象物の最下部の位置から前記道路の勾配開始点を回転軸として上下方向に回転した位置であると仮定したときに、
前記カメラが認識した前記第1認識距離、前記ライダが認識した前記第2認識距離、前記自車両が位置している路面からの前記カメラの高さ、及び前記回転の角度に基づいて、前記カメラが認識した前記対象物の最下部の位置を算出し、
算出された前記カメラが認識した前記対象物の最下部の位置、及び前記自車両が位置している路面からの前記カメラの高さに基づいて、前記カメラの画角を算出し、
前記回転の角度を0度から90度の範囲で変化させ、該回転の角度と前記カメラの画角が等しくなるときの該回転の角度を、前記道路の縦勾配と推定する、請求項2に記載の道路勾配推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路勾配推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路勾配の変化を予測して早期に車両制御に役立てる目的で、自車両前方の道路勾配を推定する技術が種々検討されている。例えば、自車両前方の道路をカメラで撮像することにより取得された画像に基づいて、自車両前方の道路の勾配を推定する道路勾配推定装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-255703号公報
【特許文献2】特開2019-101821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カメラは、道路の勾配上に位置する対象物を捉える際に、原理上、勾配上の対象物ではなく見かけの対象物までの距離と誤認識する。そのため、カメラによって道路の勾配を正しく推定することは困難である。
【0005】
また、ライダ(LiDAR)を用いて道路勾配を検出する手法も知られているが、ライダは、遠距離ほど検出点の密度が疎になる特性がある。そのため、ライダによって遠距離の道路の勾配を正しく推定することは困難である。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、道路の勾配を正しく推定できる道路勾配推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、対象物(例えば、後述の物標9)が自車両(例えば、後述の自車両5)に対して勾配していない位置に存在していると仮定して前記対象物までの距離を認識する第1センサ(例えば、後述のカメラ2)と、前記対象物までの距離を認識する第2センサ(例えば、後述のライダ3)と、前記第1センサが認識した前記対象物までの距離である第1認識距離(例えば、後述のカメラ認識距離D)と、前記第2センサが認識した前記対象物までの距離である第2認識距離(例えば、後述のライダ認識距離D)と、を比較する比較部(例えば、後述の比較部16)と、前記比較部により前記第1認識距離と前記第2認識距離との間に差が生じた場合に、前記対象物が自車両に対して勾配している位置に存在していると判定し、前記第1認識距離及び前記第2認識距離に基づいて道路の縦勾配を推定する道路勾配推定部(例えば、後述の道路勾配推定部17)と、を備える、道路勾配推定装置(例えば、後述の道路勾配推定装置1)を提供する。
【0008】
(1)の道路勾配推定装置によれば、対象物が自車両に対して勾配していない位置に存在していると仮定して該対象物までの距離を認識する第1センサの認識距離と、該対象物までの距離を認識する第2センサの認識距離と、に基づいて、道路の縦勾配を正しく推定することができる。また、(1)の道路勾配推定装置によれば、近距離に限られず、遠距離の道路勾配も正確に推定することができる。
【0009】
(2) (1)の道路勾配推定装置において、前記第1センサは、カメラであり、前記第2センサは、ライダであってよい。
【0010】
(2)の道路勾配推定装置によれば、対象物が自車両に対して勾配していない位置に存在していると仮定して該対象物までの距離を認識するカメラの認識距離と、該対象物までの距離を認識するライダの認識距離と、に基づいて、道路の縦勾配を正しく推定することができ、(1)の発明の効果をより確実に得ることができる。
【0011】
(3) (2)の道路勾配推定装置において、前記道路勾配推定部は、前記カメラが認識した前記第1認識距離及び前記ライダが認識した前記第2認識距離を用いて、前記自車両が位置している路面からの前記対象物の最下部の高さを推定し、推定された前記対象物の最下部の高さを用いて、前記道路の縦勾配形状を円弧形状と仮定したときの前記円弧形状の半径を算出し、算出された前記円弧形状の半径に基づいて前記道路の縦勾配を推定してよい。
【0012】
(3)の道路勾配推定装置によれば、道路の縦勾配形状を円弧形状と仮定し、カメラの認識距離とライダの認識距離とを用いることにより、道路の縦勾配を正しく推定することができ、(1)の発明の効果をより確実に得ることができる。
【0013】
(4) (2)の道路勾配推定装置において、前記道路勾配推定部は、前記カメラが認識した前記対象物の最下部の位置が、前記道路の勾配が無いとしたときの前記対象物の最下部の位置から前記道路の勾配開始点を回転軸として上下方向に回転した位置であると仮定したときに、前記カメラが認識した前記第1認識距離、前記ライダが認識した前記第2認識距離、前記自車両が位置している路面からの前記カメラの高さ、及び前記回転の角度に基づいて、前記カメラが認識した前記対象物の最下部の位置を算出し、算出された前記カメラが認識した前記対象物の最下部の位置、及び前記自車両が位置している路面からの前記カメラの高さに基づいて、前記カメラの画角を算出し、前記回転の角度を0度から90度の範囲で変化させ、該回転の角度と前記カメラの画角が等しくなるときの該回転の角度を、前記道路の縦勾配と推定してよい。
【0014】
(4)の道路勾配推定装置によれば、カメラが認識した対象物の位置が、道路の勾配が無いとしたときの対象物の位置から道路の勾配開始点を回転軸として上下方向に回転した位置であると仮定し、カメラの認識距離とライダの認識距離に基づいて三角関数を利用することで道路の縦勾配を正しく推定することができ、(1)の発明の効果をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、道路の勾配を正しく推定できる道路勾配推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る道路勾配推定装置の構成を示すブロック図である。
図2】道路勾配が無い場合のカメラの認識距離を示す図である。
図3】道路勾配が有る場合のカメラの認識距離を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る道路勾配推定処理の一例を説明するための図である。
図5】融合画像におけるカメラ認識物標とライダ認識物標を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る道路勾配推定処理の一例において、上り勾配の場合における道路勾配の具体的算出方法を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る道路勾配推定処理の一例において、下り勾配の場合における道路勾配の具体的算出方法を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る道路勾配推定処理の他の例を説明するための図である。
図9】本発明の実施形態に係る道路勾配推定装置による道路勾配推定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係る道路勾配推定装置は、対象物が自車両に対して勾配していない位置に存在していると仮定して該対象物までの距離を認識する第1センサの認識距離と、該対象物までの距離を認識する第2センサの認識距離と、に基づいて、道路の縦勾配を正確に推定可能な装置である。これにより、本実施形態に係る道路勾配推定装置は、近距離に限られず、遠距離の道路勾配も正確に推定可能な装置である。
【0019】
図1は、本実施形態に係る道路勾配推定装置1の構成を示すブロック図である。図1に示されるように、本実施形態に係る道路勾配推定装置1は、いずれも自車両5に搭載された、カメラ2と、ライダ(LiDAR)3と、ECU10と、を備える。
【0020】
カメラ2は、対象物が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定して、該対象物までの距離を認識する第1センサとして機能する。本実施形態では、カメラ2は、単眼カメラで構成される。カメラ2は、例えば自車両5のルーフの車室内側のうちフロントウィンドウ寄りの位置に取り付けられ、自車両5の前方を撮影する。カメラ2によって撮影された画像は、ECU10へ送信される。
【0021】
ライダ(Light Detection and Ranging(LiDAR))3は、対象物までの距離を認識する第2センサとして機能する。ライダ3は、パルス状に発光するレーザー照射に対する対象物からの散乱光を測定することにより、自車両5の周囲の対象を検出する。ライダ3は、例えば自車両5の前部に設けられ、自車両5の周囲の前方の対象物を検出する。ライダ3の検出信号は、ECU10へ送信される。
【0022】
ここで、ライダ3は、道路の縦勾配の変化(上下方向の変化)やピッチング(前後方向の変化)にロバスト性を有するように、仰角や俯角を持たせた複数のレイヤーのビームを出力し、反射した点を検出するように構成されている。そのため、仰角方向や俯角方向に角度がついた点であっても、その角度を取得することはできず、得られる認識距離は対象物までの直線距離となる特性を有する。
【0023】
また、ライダ3は、遠距離になると検出点の密度が疎になり、遠距離における空間認識は困難となる特性を有する。そのため、ライダ3のみで遠距離における道路勾配の推定は困難である。その一方で、ライダ3は、遠距離における距離認識は可能であり、遠距離における対象物までの直線距離の測定は可能である特性も有する。本実施形態に係る道路勾配推定装置1は、このようなライダ3の認識特性を利用して、道路勾配を推定するものである。
【0024】
ECU10は、CPUに代表されるプロセッサ、半導体メモリ等の記憶デバイス、外部デバイスとのインターフェース等を含むコンピュータとして機能する。記憶デバイスには、プロセッサが実行するプログラムやプロセッサが処理に使用するデータ等が格納される。これにより、ハードウェアとソフトウェア(プログラム)が協働することによって本実施形態に係る処理が実現される。
【0025】
ECU10は、記憶部11と、対象物検出部12と、第1測定部13と、第2測定部14と、画像融合処理部15と、比較部16と、道路勾配推定部17と、を備える。
【0026】
記憶部11は、自車両5が備えるカメラ2の各種パラメータを記憶する。具体的には、記憶部11は、自車両5が位置している路面からのカメラ2の高さを意味するカメラ2の地上高さ、カメラ2の撮像素子からレンズまでの距離である焦点距離、及びカメラ2の撮像素子上における、物標と路面との接点からカメラ2の中心点までの投影高さを意味する撮像高さ等を記憶する。
【0027】
対象物検出部12は、例えば自車両5の前方に位置する対象物として、他車両等の物標9を検出する。具体的には、対象物検出部12は、カメラ2により取得される自車両5の前方の撮像画像、及びライダ3により取得される自車両5の前方の検出信号に基づいて、自車両5の前方に位置する対象物として、他車両等の物標9を検出する。
【0028】
第1測定部13は、カメラ2により画像を撮像する。また、第1測定部13は、カメラ2により撮像された撮像画像から、カメラ2が認識する対象物(物標)までの距離であるカメラ認識距離Dを測定して取得する。
【0029】
第2測定部14は、ライダ3により周辺の物体の存在に関する周辺情報を取得する。また、第2測定部14は、ライダ3の検出信号から、ライダ3が認識する対象物(物標)までの距離であるライダ認識距離Dを測定して取得する。
【0030】
画像融合処理部15は、カメラ2により認識された物標と、ライダ3により認識された物標と、を画像上で融合させる従来公知のFusion処理を実行する。また、画像融合処理部15は、Fusion処理の実行により作成された融合画像上において、カメラ2により認識された物標とライダ3により認識された物標とが重なっている場合には、これら両物標は同一物標であると判定する。
【0031】
比較部16は、カメラ2が認識した対象物までの距離であるカメラ認識距離Dと、ライダ3が認識した対象物までの距離であるライダ認識距離Dと、を比較する。具体的には、比較部16は、カメラ認識距離Dとライダ認識距離Dとに差が生じているか否かを判定する。
【0032】
道路勾配推定部17は、比較部16によりカメラ認識距離Dとライダ認識距離Dとの間に差が生じていると判定された場合に、対象物が自車両5に対して勾配している位置に存在していると判定する。そして、道路勾配推定部17は、カメラ認識距離及びライダ認識距離に基づいて、道路の縦勾配を推定する。道路勾配推定部17により実行される道路勾配推定処理の具体的内容については、後段で詳述する。
【0033】
図2は、道路勾配が無い場合のカメラ2の認識距離を示す図である。図2中、Xは、カメラ2の物標9までの認識距離であり、自車両5の前方に位置している他車両等の物標9までの距離を表している。Hは、自車両5が位置している路面からのカメラ2の中心点の高さを意味するカメラ2の地上高さを表している。fは、カメラ2の撮像素子21からレンズ22までの距離である焦点距離を表している。zは、カメラ2の撮像素子21上における、物標9と路面との接点からカメラ2の中心点までの投影高さを意味する撮像高さを表している。
【0034】
図2に示されるように、単眼カメラで構成されるカメラ2のカメラ認識距離の測定には、三角測量の原理が用いられる。具体的には、カメラ2の物標9までの認識距離Xは、カメラ2の地上高さH、カメラ2の焦点距離f、及びカメラ2の撮像高さzを用いて、図2中に示される二つの三角形の相似関係を利用した、以下の式(1)により算出される。
【0035】
【数1】
【0036】
図3は、道路勾配が有る場合のカメラ2の認識距離を示す図である。図3中、Xは、カメラ2の物標9までの認識距離を表している。上述したようにカメラ2は、対象物としての物標9が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定して、物標9までの距離を認識する。そのためカメラ2は、物標9までの距離を、図3に示されるように道路勾配が無いと仮定したときの仮の物標90の位置までの距離と誤って認識する。
【0037】
これに対して、図3中のX’は、カメラ2から物標9までの正確な距離を表しており、具体的には後述の図示しないライダ3により得られるライダ認識距離を表している。Hは、自車両5が位置している路面からの物標9の最下部(後端下部)の高さを意味する物標9の高さを表している。θは、道路の縦勾配角度を表している。図3中のH、f、zは、図2中のものと同様である。
【0038】
図3に示されるように、カメラ2から物標9までの正確な距離であり且つライダ認識距離でもある距離X’は、物標9の高さH、カメラ2の地上高さH、カメラ2の焦点距離f、及びカメラ2の撮像高さzを用いて、以下の式(2)により算出される。
【0039】
【数2】
【0040】
なお、上記式(2)により距離X’を算出するにあたっては、上述したライダ3の認識特性が利用されている。即ち、ライダ3は、物標9までの距離X’を、仰角方向や俯角方向に角度がついていたとしても物標9までの直線距離として認識する特性を有することから、図3中で距離X’を示す線分はやや傾斜しているが、これを水平方向に平行な線分と捉えることができる。そうすると、上記式(1)と同様に、二つの三角形の相似関係を利用することができ、これに基づいて上記式(2)が導かれる。
【0041】
以上の通り、図2及び図3から明らかであるように、道路に勾配があるとカメラ2の物標9までの認識距離に誤差が生じるところ、本実施形態に係る道路勾配推定装置1は、このようなカメラ2の認識特性に加えて、ライダ3の認識特性を利用することにより、道路勾配θを求めることが可能となっている。ひいては、道路勾配θを正確に推定できれば、他車両等の物標9の他、区画線や白線等の対象物の高さ(自車両が位置する路面からの高さ)を求めることもでき、認識距離の補正も可能となる。
【0042】
次に、本実施形態に係る道路勾配推定装置1による道路勾配推定処理について詳しく説明する。
【0043】
図4は、本実施形態に係る道路勾配推定処理の一例を説明するための図である。図4は、自車両5の前方の道路に縦勾配角度θの勾配があり、その勾配のある道路上に物標9として他車両が走行、位置している場合を示している。このような場合、図3の説明で上述したように、カメラ2のカメラ認識距離Dは、物標9が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定したときの仮の物標90の位置までの誤った認識距離として表される。また、ライダ3のライダ認識距離Dを示す線分はやや傾斜しているが、これを水平方向に平行な線分と捉えることができる。なお、図4中のH、H、f、zは、図2及び図3中のものと同様である。
【0044】
ところで、本実施形態に係る道路勾配推定処理では、カメラ2により認識されたカメラ認識物標と、ライダ3により認識されたライダ認識物標と、が同一物標であることが前提となる。図5は、融合画像におけるカメラ認識物標とライダ認識物標を示す図である。図5に示される融合画像は、上述の画像融合処理部15によるFusion処理の実行によって作成される。この融合画像上において、図5に示されるように、カメラ2により認識されたカメラ認識物標とライダ3により認識されたライダ認識物標とが重なっている場合には、これら両物標は同一物標であると判定できる。逆に、カメラ認識物標とライダ認識物標とが融合画像上で重なっていない場合には、互いに異なる物標であると判定できるため、道路勾配推定処理の実行は禁止される。
【0045】
図6は、本実施形態に係る道路勾配推定処理の一例において、上り勾配の場合における道路勾配の具体的算出方法を示す図である。図6では、各位置を、縦距離xと路面高さzによる座標値(x,z)で表している。図6中、点Oは、自車両5の位置(0,0)を表しており、点Cは、カメラ2の位置(0,H)を表しており、点Dは、物標9の高さを表している。点Aは、カメラ2が誤って認識する物標9の位置、即ち物標9が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定したときの仮の物標90の後端下部(bottom)の位置(D,0)を表している。点Bは、ライダ3が正しく認識する真値としての物標9の位置(D,H)を表している。
【0046】
また、図7は、本実施形態に係る道路勾配推定処理の一例において、下り勾配の場合における道路勾配の具体的算出方法を示す図である。図7では、図6と同様に、各位置を、縦距離xと路面高さzによる座標値(x,z)で表しており、各点は図6と同様である。
【0047】
本実施形態に係る道路勾配推定処理の一例では、図6に示される上り勾配の場合と、図7に示される下り勾配の場合とでは、以下に説明する同様の処理手順によって実行される。即ち、カメラ認識距離D及びライダ認識距離Dを用いて、自車両5が位置している路面からの物標9の高さを推定し、推定された物標9の高さを用いて道路の縦勾配形状を円弧形状と仮定したときの円弧形状の半径を算出し、算出された円弧形状の半径に基づいて道路の縦勾配を推定する。
【0048】
具体的に、本実施形態に係る道路勾配推定処理の一例では、先ず、物標9の高さHを推定する。具体的には、カメラ認識距離D及びライダ認識距離Dを用いて、図中に示される二つの三角形OACと三角形DBCの相似関係を利用した、以下の式(3)に従って物標9の高さHを推定する。
【0049】
【数3】
【0050】
次いで、道路形状の縦勾配形状を半径Rの円弧形状と仮定する。通常、道路の縦勾配形状は曲線状であり、円弧形状で近似できるからである。すると、その円弧形状は、以下の式(4)により表される。
【0051】
【数4】
【0052】
上記式(4)で表される円弧形状は、点B(D,H)を通ることから、以下の式(5)が導かれる。以下の式(5)から、ライダ認識距離Dと、上記式(3)に従って推定された物標9の高さHと、を用いて、半径Rを算出できることが分かる。
【0053】
【数5】
【0054】
また、式(4)の円弧形状の式を変形して、任意の縦距離xにおける路面高さzを算出すると、以下の式(6)が導かれる。
【0055】
【数6】
【0056】
道路勾配θは、任意の縦距離xの変動に対する路面高さzの変動の割合であるから、以下の式(7)により表される。
【0057】
【数7】
【0058】
以上より、上記式(5)、(6)、(7)に従って時系列ごとに計算を行い、リアルタイムでzを更新していくことにより、道路勾配θを求めることが可能である。
【0059】
また、図8は、本実施形態に係る道路勾配推定処理の他の例を示す図である。図8は、自車両5の前方の道路に縦勾配があり、その縦勾配のある道路上に物標9として他車両が走行、位置している場合を示している。このような場合、図3の説明で上述したように、カメラ2のカメラ認識距離Dは、物標9が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定したときの仮の物標91の位置までの誤った認識距離として表される。また、上述したようにライダ3のライダ認識距離Dは、角度がついていたとしてもいずれも同一の直線距離として測定されるため、図8中に示されるように水平な線分もやや傾斜している線分もいずれの距離もライダ認識距離Dと捉えることができる。なお、図8中のH、f、zは、図2及び図3中のものと同様である。
【0060】
本実施形態に係る道路勾配推定処理の他の例では、カメラ2が認識した物標9の最下部の位置の点Aが、道路の勾配が無いとしたときの物標9の最下部の位置から道路の勾配開始点Sを回転軸として上下方向に回転した位置であると仮定する。このときに、カメラ認識距離D、ライダ認識距離D、カメラの高さH、及び回転の角度Δθに基づいて、点Aの位置を算出する。そして、算出された点Aの位置、及びカメラ2の高さHに基づいて、カメラ2の画角θを算出し、回転の角度Δθを0度から90度の範囲で変化させ、該回転の角度Δθとカメラ2の画角θが等しくなるときの該回転の角度Δθを、道路の縦勾配と推定する。
【0061】
具体的に、先ず、カメラ2で検出された物標9の後端最下部の位置の点Aは、道路に勾配が無ければ、カメラ2が認識する仮の物標90の後端最下部の位置の点Bに見える。即ち、この点BをΔθ分回転させた点が、点Aであると言える。点BをΔθ回転させていくと、カメラ2が認識する物標9の位置は物標91の位置に向かって移動することになる。従って、点Aは、点Bまでのライダ認識距離D、回転の角度Δθを用い、三角関数を利用すると、A(D・cosΔθ,D・sinΔθ)と表すことができる。
【0062】
そして、カメラ2の画角θ、点Aの位置(D・cosΔθ,D・sinΔθ)、及びカメラ高さHを用い、三角関数を利用すると、カメラ2で検出された物標9の後端最上部の位置の点Cは、C(D・cosΔθ,H-D・sinΔθ)と表すことができる。従って、カメラ2の画角θは、三角関数を利用して以下の式(8)に従って算出される。
【0063】
【数8】
【0064】
従って、上記式(8)において、回転の角度Δθを0度から90度の範囲で変化させる。そして、回転の角度Δθと、カメラ2で検出した画角θとが等しくなったときに、その角度が求める道路勾配の角度となる。
【0065】
次に、本実施形態に係る道路勾配推定装置1による道路勾配推定処理の手順について、図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態に係る道路勾配推定装置1による道路勾配推定処理の手順を示すフローチャートである。本処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0066】
ステップS1では、対象物を検出する。具体的には、カメラ2及びライダ3により、自車両5の前方に位置する物標9としての他車両を検出する。その後、ステップS2に進む。
【0067】
ステップS2では、カメラ測定を実行する。具体的には、カメラ2により撮像された撮像画像から、自車両5の前方に位置する物標9としての他車両までのカメラ認識距離Dを測定する。その後、ステップS3に進む。
【0068】
ステップS3では、ライダ測定を実行する。具体的には、ライダ3の検出信号から、自車両5の前方に位置する物標9としての他車両までのライダ認識距離Dを測定する。その後、ステップS4に進む。
【0069】
ステップS4では、融合画像を作成する。具体的には、カメラ2により取得された認識物標と、ライダ3により取得された認識物標と、を画像上で融合する。その後、ステップS5に進む。
【0070】
ステップS5では、カメラ2により取得された認識物標と、ライダ3により取得された認識物標とが同一物標であるか否かを判別する。具体的には、ステップS4で作成された融合画像において、カメラ2により取得された認識物標と、ライダ3により取得された認識物標とが重なっている場合には、同一物標であると判断される。この判別がYESであればステップS6に進み、NOであればカメラ2の認識物標とライダ3の認識物標は同一ではなく、道路勾配の推定はできないため、本処理を終了する。
【0071】
ステップS6では、カメラ認識距離Dとライダ認識距離Dが異なるか否かを判別する。この判別がYESであれば道路に勾配があるためステップS7に進み、NOであれば道路に勾配は無いため本処理を終了する。
【0072】
ステップS7では、道路勾配を推定する。具体的には、上述した二つの本実施形態に係る道路勾配推定処理のいずれかを実行し、道路の縦勾配を推定する。その後、本処理を終了する。
【0073】
本実施形態に係る道路勾配推定装置1によれば、以下の効果が奏される。
【0074】
先ず、本実施形態に係る道路勾配推定装置1では、物標9が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定して物標9までの距離を認識するカメラ2と、物標9までの距離を認識するライダ3と、カメラ認識距離Dとライダ認識距離Dとを比較する比較部16を設けた。また、比較部16によりカメラ認識距離Dとライダ認識距離Dとの間に差が生じた場合に、物標9が自車両5に対して勾配している位置に存在していると判定し、カメラ認識距離D及びライダ認識距離Dに基づいて道路の縦勾配を推定する道路勾配推定部17を設けた。
【0075】
これにより、本実施形態に係る道路勾配推定装置1によれば、例えば自車両5の前方の道路の縦勾配を正確に推定することができる。また、本実施形態に係る道路勾配推定装置1によれば、近距離に限られず、遠距離の道路勾配も正確に推定することができる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0077】
上記実施形態では、対象物として物標9を用いたが、これに限定されない。例えば、物標9以外の白線等の認識にも本発明を適用可能である。
【0078】
また上記実施形態では、第1センサとしてカメラ2を用い、第2センサとしてライダ3を用いたが、これに限定されない。第1センサとしては、対象物が自車両5に対して勾配していない位置に存在していると仮定して該対象物までの距離を認識可能なセンサであればよい。また、第2センサとしては、対象物までの距離を認識可能なセンサであればよい。
【符号の説明】
【0079】
1 道路勾配推定装置
2 カメラ(第1センサ)
3 ライダ(第2センサ)
5 自車両
9 物標(対象物)
10 ECU
11 記憶部
12 対象物検出部
13 第1測定部
14 第2測定部
15 画像融合処理部
16 比較部
17 道路勾配推定部
21 撮像素子
22 レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9