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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157045
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の保護構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 61/02 20060101AFI20221006BHJP
   B62J 23/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F02B61/02 C
B62J23/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061049
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(72)【発明者】
【氏名】上田 賢
(72)【発明者】
【氏名】小島 孝政
(72)【発明者】
【氏名】木藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】江田 敏行
(57)【要約】
【課題】鞍乗型車両において、内燃機関の前側に位置する燃料噴射弁の保護性能を更に高めることを可能にする構成を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る鞍乗型車両の保護構造Sは、前輪WFの後方に位置され、シリンダ10が略水平方向に延びるように配置された内燃機関Eの吸気ポートに連通する吸気通路部分22を区画形成する吸気管17であって、前記内燃機関Eの後方側から前記シリンダ10の上方に延びるように設けられている、吸気管17と、前記内燃機関Eの左右両側に延びる左右一対のダウンフレーム2a、2bとを備える。左右一対の前記ダウンフレーム2a、2bの間に幅方向に延びるように設けられる幅方向フレーム部30と、前記吸気ポートに燃料を噴射するように前記吸気管に設けられる燃料噴射弁13の前方に位置付けられる保護部材40とが備えられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(WF)の後方に位置され、シリンダ(10)が略水平方向に延びるように配置された内燃機関(E)の吸気ポートに連通する吸気通路部分(22)を区画形成する吸気管(17)であって、前記内燃機関(E)の後方側から前記シリンダ(10)の上方に延びるように設けられている、吸気管(17)と、
前記内燃機関(E)の左右両側に延びる左右一対のダウンフレーム(2a、2b)と
を備えた鞍乗型車両の保護構造(S)であって、
左右一対の前記ダウンフレーム(2a、2b)の間に幅方向に延びるように設けられる幅方向フレーム部(30)と、
前記吸気ポートに燃料を噴射するように前記吸気管(17)に設けられる燃料噴射弁(13)の前方に位置付けられる保護部材(40)と
を備えたことを特徴とする鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項2】
前記車両(V)の側面視で、前記保護部材(40)は前記幅方向フレーム部(30)と前記燃料噴射弁(13)との間に位置することを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項3】
前記幅方向フレーム部(30)はフロントフェンダー(31)の後方に位置することを特徴とする請求項2に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項4】
前記フロントフェンダー(31)は金属製であることを特徴とする請求項3に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項5】
前記保護部材(40)は前記吸気管(17)とともに共締めされ、前記内燃機関(E)の本体部(12)に取り付けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項6】
前記保護部材(40)は金属製であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項7】
前記保護部材(40)は一枚の金属板から少なくとも部分的に箱状に形成さていることを特徴とする請求項6に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項8】
前記保護部材(40)の箱状部(40a)は前記燃料噴射弁(13)の前方に対してオフセットして設けられていることを特徴とする請求項7に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項9】
前記燃料噴射弁(13)を含む燃料噴射ユニット(23)の前記吸気管(17)への締結部(24a、24b)は前記燃料噴射弁(13)の一側方のみに設けられ、前記保護部材(40)は前記締結部(24a、24b)を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【請求項10】
前記燃料噴射弁(13)の電気系統接続部(23b)は、前記締結部(24a、24b)に対して前記燃料噴射弁(13)を中心として反対側に設けられていて、前記保護部材(40)の開放部(40b)に位置付けられていることを特徴とする請求項9に記載の鞍乗型車両(V)の保護構造(S)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁などを保護するように構成された鞍乗型車両の保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車といった鞍乗型車両では、シリンダヘッドを前輪側に向けるように内燃機関を車体に設ける配置が採用されている。このとき前輪により巻き上げられる水、石等の飛来物が内燃機関に付着したり衝突したりするのを防ぐために保護カバーを設けることが提案され、採用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4420895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記構成の鞍乗型車両自体が前方からの大きな荷重を受ける場合には、前輪を介してその衝撃が内燃機関に及ぶ場合がある。その場合には内燃機関前方に取り付けられている補器に対して保護をする必要がある。本発明の目的は、鞍乗型車両において、内燃機関の前側に位置する燃料噴射弁の保護性能を高めることを可能にする構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、
前輪の後方に位置され、シリンダが略水平方向に延びるように配置された内燃機関の吸気ポートに連通する吸気通路部分を区画形成する吸気管であって、前記内燃機関の後方側から前記シリンダの上方に延びるように設けられている、吸気管と、
前記内燃機関の左右両側に延びる左右一対のダウンフレームと
を備えた鞍乗型車両の保護構造であって、
左右一対の前記ダウンフレームの間に幅方向に延びるように設けられる幅方向フレーム部と、
前記吸気ポートに燃料を噴射するように前記吸気管に設けられる燃料噴射弁の前方に位置付けられる保護部材と
を備えたことを特徴とする鞍乗型車両の保護構造
を提供する。
【0006】
上記構成によれば、幅方向フレーム部により車体強度を向上させることができるとともに、保護部材により燃料噴射弁の前方からの大きな荷重等から燃料噴射弁を保護することができる。よって、鞍乗型車両において、内燃機関の前側に位置する燃料噴射弁の保護性能を高めることができる。
【0007】
好ましくは、前記車両の側面視で、前記保護部材は前記幅方向フレーム部と前記燃料噴射弁との間に位置する。これにより、燃料噴射弁への前方からの大きな荷重を幅方向フレーム部で緩和した後に、更に保護部材でその大きな荷重を緩和できる。よって、より効果的に燃料噴射弁を保護することが可能になる。
【0008】
好ましくは、前記幅方向フレーム部はフロントフェンダーの後方に位置する。この構成により、車両前方からの大きな荷重におけるフロントフェンダーの燃料噴射弁への干渉をより好適に防ぐことが可能になる。
【0009】
好ましくは、前記フロントフェンダーは金属製である。この構成により、フロントフェンダーの強度及び質感を向上させることが可能になる。
【0010】
好ましくは、前記保護部材は前記吸気管とともに共締めされ、前記内燃機関の本体部に取り付けられる。この構成により、より少ないボルトで保護部材の取り付けを容易に行え、部品点数の削減及び組み立て性の向上を図ることが可能となる。
【0011】
好ましくは、前記保護部材は金属製である。この構成により、保護部材の製造を容易にすることができるとともに、その強度を高めることが可能になる。
【0012】
好ましくは、前記保護部材は一枚の金属板から少なくとも部分的に箱状に形成さている。この構成により、保護部材のコストを低く抑えることができる。また、保護部材を少なくとも部分的に箱状にすることで、箱状の部分の強度を高めることが可能になる。
【0013】
好ましくは、前記保護部材の箱状部は前記燃料噴射弁の前方に対してオフセットして設けられている。これにより、燃料噴射弁に走行風が当たることを確保することができる。
【0014】
好ましくは、前記燃料噴射弁を含む燃料噴射ユニットの前記吸気管への締結部は前記燃料噴射弁の一側方のみに設けられ、前記保護部材は前記締結部を覆うように設けられている。この構成により、燃料噴射ユニットの締結部を一か所にまとめることでそれを覆う保護部材を小さくでき、よって保護部材の大型化を防ぐことができる。
【0015】
好ましくは、前記燃料噴射弁の電気系統接続部は、前記締結部に対して前記燃料噴射弁を中心として反対側に設けられていて、前記保護部材の開放部に位置付けられている。この構成により、電気系統接続部への取り付け取り外しを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記態様によれば、上記構成を備えるので、鞍乗型車両において、内燃機関の前側に位置する燃料噴射弁の保護性能を更に高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
図2図1の車両における吸気管と、そこに取り付けられた燃料噴射ユニットとを示す図である。
図3図2のIII-III線に沿った、図2の吸気管における燃料噴射弁の部分の断面図である。
図4】クロスパイプが設けられた左右一対のダウンフレームの側面図である。
図5図4のダウンフレームの斜視図である。
図6】保護部材を示す図であり、(a)は保護部材の左側面図、(b)はその正面図、(c)は図6(b)のVIC方向から保護部材をみた図であり、(d)は図6(b)のVID方向から保護部材をみた図である。
図7図1の車両をその前方からみた図である。
図8図1の車両において、フロントフェンダーの後方のクロスパイプ側の部分を前側からみた図である。
図9図8においてダウンフレーム及びクロスパイプを除いた図である。
図10図9に示す保護部材及びその周囲を上からみた図である。
図11図9に示す保護部材及びその周囲を前方上側からみた図である。
図12図9に示す保護部材及びその周囲を右側からみた図である。
図13図12において保護部材の大部分を除いた図である。
図14図13に示す吸気管及びその周囲を左後方側からみた図であり、その吸気管の上流側のスロットルボディを省いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を添付図に基づいて説明する。同一の部品(又は構成)には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
図1を参照すると、一実施形態に係る鞍乗型車両としての自動二輪車Vは、車両用内燃機関Eを搭載する。自動二輪車Vは、車体フレームおよび車体カバーを備える車体と、該車体に懸架されて前述の内燃機関Eを備えるパワーユニットPと、該車体に取り付けられて内燃機関Eに供給される燃料を貯留する燃料タンクTとを備える。なお、この明細書または特許請求の範囲において、上下、前後および左右は、それぞれ、車両および該車両に搭載された状態での内燃機関Eを基準にしたときの上下、前後および左右を意味するものとする。
【0020】
車体フレームは、前方から後方に延びるメインフレーム1と、内燃機関Eの左右両側において上下方向に延びる左右一対のダウンフレーム2a、2bとを備える。
【0021】
メインフレーム1の前端部1aには、下端部に前輪WFが軸支されると共に上端部にハンドル3が取り付けられたフロントフォーク4が操向可能に支持される。メインフレーム1は、前端部1aから下方にやや傾斜して燃料タンクTの下方を後方に延びるとともに、パワーユニットPの上方において後方に延びる。各ダウンフレーム2a、2bは、メインフレーム1における前端部1aから下方に大きく傾斜してやや後方に延びる前フレーム部2fと、この前フレーム部2fの下部から緩やかに傾斜した後ほぼ水平に後方に延びる後フレーム部2rとを有する。
【0022】
メインフレーム1には、上方から跨ぐように配置される燃料タンクTが支持され、その下方では後端部に後輪WRが軸支されるスイングアーム2sの前端部がピボット軸に枢支される。スイングアーム2sの後端部には、リヤクッション2tの下端部が結合されて、後輪WR がスイングアーム2sを介して車体フレームに上下方向に揺動可能に支持される。燃料タンクTの上にはシート5が支持される。メインフレーム1の後端部には、リアキャリア6が取り付けられている。
【0023】
駆動輪としての後輪WRを駆動する動力を発生するパワーユニットPは、左右方向(車幅方向でもある)に指向するクランク軸7を備える横置き配置の内燃機関Eと、クランク軸7の動力の伝達および切断を行うクラッチを介して伝達されるクランク軸7からの動力を変速する変速機とを備える。この変速機の出力軸の動力は、伝動チェーン8を備えるチェーン伝動機構から構成される終減速機構を介して後輪WRに伝達される。
【0024】
空冷式で単気筒の4ストローク内燃機関からなる内燃機関Eは、クランク軸7を回転可能に支持するクランクケース9と、クランクケース9から略水平方向に前方に延びるようにクランクケース9の前端部に結合されるシリンダ10と、シリンダ10の前端部に結合されるシリンダヘッド11とを備える機関本体部12を備える。
【0025】
シリンダ軸線がほぼ水平となるように配置されるシリンダ10に往復動可能に嵌合されたピストンは、このピストンとシリンダ10とシリンダヘッド11とにより区画形成された燃焼室での混合気の燃焼により発生する燃焼ガスの圧力により駆動されて往復運動を行い、コンロッドを介してクランク軸7を回転駆動する。
【0026】
内燃機関Eに備えられて、後述する燃料噴射弁13から供給される燃料と混合して混合気を形成する吸入空気を燃焼室に導く吸気装置は、車体の左方(図1において紙面裏側)に延びている。リアキャリア6の下方において上方に開口する吸気取り込み部14と、エアクリーナ15と、吸入空気の流量を制御するスロットル弁が設けられたスロットルボディと、エアクリーナ15とスロットルボディとを接続する上流側吸気管16と、燃焼室に開口すると共に吸気弁により開閉される吸気ポートが設けられたシリンダヘッド11の上部とを接続する下流側吸気管17とを備える。このように、下流側吸気管17は、内燃機関Eの後方側からシリンダ10の上方に延びるように設けられる。
【0027】
内燃機関Eに備えられて、機関回転速度や機関負荷などの機関運転状態に基づいて制御装置により設定された燃料量の燃料を供給する燃料噴射弁13は、下流側吸気管17に取り付けられる。図2に、下流側吸気管17と、そこに取り付けられた燃料噴射ユニットであるインジェクタホルダー23とを示す。また、図3に、下流側吸気管17におけるインジェクタホルダー23の燃料噴射弁13の部分つまり燃料入口部23aでの断面図を示す。燃料噴射弁13は、吸気ポートに燃料を噴射するように下流側吸気管17に設けられている。燃料タンクTからの燃料を燃料噴射弁13に導く燃料管18が、燃料タンクT内に配置された燃料ポンプと燃料噴射弁13とを接続する。燃料管18は、燃料タンクT内から燃料タンクT外に出てメインフレーム1の下方側において前方に向かって延び、燃料噴射弁13と接続する。
【0028】
内燃機関Eに備えられて、排気ガスを内燃機関Eの外部に導く排気装置は、燃焼室に開口すると共に排気弁により開閉される排気ポートが設けられたシリンダヘッド11の下部に接続される排気管19と、排気管19の下流端部に接続される排気消音器20とを備える。さらに、内燃機関Eには、排気ガス中の未燃成分を燃焼させて排気を浄化するために排気浄化装置21が備えられる。
【0029】
上記吸気装置を流通する吸入空気と燃料噴射弁13からの燃料とで形成された混合気は、下流側吸気管17及び吸気ポートを流通して吸気弁の開弁時に燃焼室に吸入される。燃焼室での混合気の燃焼により発生した燃焼ガスはピストンを駆動した後、排気ガスとして排気弁の開弁時に排気ポートに流出し、さらに排気管19、排気浄化装置21及び排気消音器20を流通した後に内燃機関Eの外部に放出される。
【0030】
ここで、下流側吸気管17を中心に説明する。下流側吸気管17は、シリンダヘッド11に取り付けられ、吸気ポートに連通する吸気通路部分22を区画形成する。下流側吸気管17は、内燃機関Eの吸気ポートに接続される吸気通路部分22を区画形成する吸気管であり、内燃機関Eの後方からシリンダ10の上方に延びるように湾曲した形状を有する。下流側吸気管17は、2本の締結部材であるの締結ボルトB1、B2を用いてシリンダヘッド11に取り付けられるように、下流側フランジ部17aに2つのボルト孔17b、17cを有する。ボルト孔17b、17cは吸気通路部分22を挟んで両側に位置するように設けられている。
【0031】
下流側吸気管17は上流側フランジ部17dを備える。上流側フランジ部17dはスロットルボディに接続される。上流側フランジ部17dは、スロットルボディへの接続用に2つのボルト孔17e、17fを有する。
【0032】
下流側吸気管17には、インジェクタホルダー23が取り付けられている。図2に示すように、インジェクタホルダー23は、2つの締結部材であるボルト24a、24bにより下流側吸気管17に接続される。インジェクタホルダー23には、燃料噴射弁13において燃料管18の接続部が接続される燃料入口部23aと、電磁弁からなる燃料噴射弁13の作動を制御すべく制御装置からの制御信号を伝達する信号線が接続されたカプラー25が接続される端子部23bとを備える。燃料入口部23aは燃料噴射弁13の下流側に位置して実質的にそれと一体である。インジェクタホルダー23の下流側吸気管17への締結部を構成するボルト24a、24bは燃料入口部23aつまり燃料噴射弁13の一方側に位置し、燃料噴射弁13の他方側つまり反対側に端子部23bが位置する。機関本体部12の上方に設けられる下流側吸気管17により区画形成される吸気通路部分22には車体後方側から延びる吸気通路が連通し、燃料噴射弁13、ボルト24a、24b及び端子部23bは内燃機関Eの前方側において上方に位置する。特に、ここでは燃料噴射弁13は、吸気弁の傘部に向けて燃料を噴射するように、図3に示すように下流側フランジ部17aにおいて傾いて設けられるので、車体に取り付けられた状態で、内燃機関Eの前方かつ上方の部分に立設する。
【0033】
なお、自動二輪車Vでは、吸気系は車体の左側に延び、排気系は車体の右側に延びる。しかし、吸気系が車体の右側に延び、排気系は車体の左側に延びてもよい。ここでは、吸気系は車体の左側に延び、排気系は車体の右側に延びるので、この関係に基づき種々の位置関係が成立する。吸気系が車体の右側に延び、排気系は車体の左側に延びるとき、以下に説明する関係は左右逆になる。
【0034】
このような内燃機関Eを、特にその燃料噴射弁13を保護するように、自動二輪車Vは保護構造Sを備える。保護構造Sは、左右一対のダウンフレーム2a、2bの間に幅方向(左右方向)に延びるように設けられるクロスパイプ30と、燃料噴射弁13の前方に位置するように設けられる保護部材40とを備える。
【0035】
クロスパイプ30が設けられた左右一対のダウンフレーム2a、2bを図4及び図5に示す。左右一対のダウンフレーム2a、2bは車体に設けられた内燃機関Eの右側のダウンフレーム2aと、その内燃機関Eの左側のダウンフレーム2bとであり、上側で接続されている。ダウンフレーム2a、2bの上側の接続部2cはメインフレーム1への接続部を構成する。このダウンフレーム2a、2bの間に延びるようにクロスパイプ30が設けられている。したがって、クロスパイプ30は前輪WFの泥除け部材であるフロントフェンダー31の後方に位置づけられる。クロスパイプ30は幅方向フレーム部であり、ここでは丸パイプ部材である。しかし、幅方向フレーム部は、丸パイプ部材であることに限定されず、例えば、丸形の中実部材、角形の中実部材又は角形の中空部材であってもよい。なお、ダウンフレーム2a、2bとともにクロスパイプ30は金属製、例えば鉄系材料製又はアルミニウム合金製である。フロントフェンダー31も同様に金属製である。フロントフェンダー31も例えば同様に鉄系材料製又はアルミニウム合金製である。
【0036】
保護部材40は、吸気ポートに燃料を噴射するように設けられる前述の燃料噴射弁13の前方に位置するように設けられる。特に、保護部材40は、図1の自動二輪車Vの側面視でクロスパイプ30と燃料噴射弁13との間に位置するように設けられている。
【0037】
図6に保護部材40を示す。図6(a)及び図6(b)はそれぞれ保護部材40の左側面図及び正面図である。図6(c)は図6(b)のVIC方向から保護部材40をみた図であり、図6(d)は図6(b)のVID方向から保護部材40をみた図である。
【0038】
保護部材40は、金属製であり、特にここでは一枚の金属板を折り曲げて加工することで形成されている。保護部材40は、2つの貫通孔であるボルト孔41a、41bを有して構成されている。保護部材40は、一方のボルト孔41aのある第1取付部42と、この第1取付部42から直角に折り曲がるように延びる側壁部43と、側壁部43の第1取付部42側とは異なる側から直角に折り曲がった上側壁部44と、上側壁部44から延出して直角に折り曲げられる正面側壁部45と、この正面側壁部45の先端において上側壁部44と対向するように直角に折り曲げられた先端凸部46と、上側壁部44の側壁部43とは反対側から延出する延出部47と、この延出部47の先端に位置付けられて第1取付部42と略同一平面上に延びて他方のボルト孔41bのある第2取付部48とを備える。図6(a)に示すように、第1及び第2取付部42、48が延びる仮想面ISの一方側に上側壁部44は延在し、その仮想面の他方側に先端凸部46は位置付けられている。先端凸部46は、先端側に至るほど、その仮想面ISに近づく。したがって、第1取付部42、側壁部43、上側壁部44、正面側壁部45及び先端凸部46により箱状空間BSが実質的に区画形成される。一方、延出部47は上側壁部44の側壁部43の反対側から、側壁部43から離れるように延出するので、箱状空間BSの隣において上側壁部44及び正面側壁部45の第2取付部48側に第2取付部48との間に、外側に大きく開いた開放空間RSを区画形成する。箱状空間BSを区画形成する部分を箱状部40aと称し、開放空間RSを区画形成する部分を開放部40bと以下称する。
【0039】
上記構成のクロスパイプ30及び保護部材40を含む保護構造Sを図1の他、図7から図14に基づいて更に説明する。
【0040】
図7は自動二輪車Vの前方から自動二輪車Vをみた図であり、図8はフロントフェンダー31の後方の部分を前側からみた図であり、図7においてフロントフェンダー31から前側の部分を削除した図に相当し、図9図8においてダウンフレーム2a、2b及びクロスパイプ30を削除した図である。なお、図7から図9は、クロスパイプ30の高さ位置で自動二輪車V又はその部分をみた図である。図10図9に示す保護部材40及びその周囲を上からみた図であり、図11図9に示す保護部材40及びその周囲を前方側からみた図であり、図12図9に示す保護部材40及びその周囲を右側からみた図であり、保護部材40を透明に表した図である。図13図12において保護部材40の大部分を除いた図であり、図14図13に示す下流側吸気管17及びその周囲を左後方側からみた図であり、下流側吸気管17の上流側のスロットルボディを省いた図である。
【0041】
図1及び図7から図9に示すように、フロントフェンダー31の後方においてダウンフレーム2a、2bが上下に延び、フロントフェンダー31の後方にクロスパイプ30が位置付けられている。クロスパイプ30の後方に燃料噴射弁13を伴う下流側吸気管17が位置し、燃料噴射弁13及び下流側吸気管17とクロスパイプ30との間に保護部材40が設けられている。
【0042】
図9に示すように、保護部材40は車両の幅方向で略中心に位置づけられていて、上側壁部44が上側を向き、正面側壁部45が正面側をつまり前側を向くように配置されていて、特に図10に示すように正面側壁部45が側壁部43側ほど右後側に傾くように配置されている。そして、保護部材40の箱状部40aが右側に位置して、その左側に保護部材40の開放部40bが位置するように、保護部材40は配置されている。保護部材40の箱状部40aの箱状空間BSに、インジェクタホルダー23を下流側吸気管17に取り付けるためのボルト24a、24bがちょうど収容されるように保護部材40は設けられていて、図9において上側壁部44及び正面側壁部45によってボルト24a、24bが実質的に覆われている。開放空間RSを区画形成する開放部40bには、燃料噴射弁13及びその燃料入口部23a、並びに、端子部23bが位置している。このように、保護部材40は、特にその箱状部40aは、実質的に燃料噴射弁13の前方に対して右側にオフセットして設けられている。したがって、保護部材40を取り付けたままで、ボルト24a、24bを操作することは難しく、作業者による意図しないボルト24a、24bの操作を防ぐことで作業性を向上することが可能となる。一方で、燃料噴射弁13及びその燃料入口部23a、並びに、端子部23bが開放空間RSに位置するので、保護部材40を取り付けたまま、左側から、上側から又は後ろ側から燃料入口部23aへの燃料管18の取り付け作業及び端子部23bへのカプラー25の接続作業などを容易に行うことが可能になる。また、保護部材40の箱状部40aは燃料噴射弁13の前方に対してオフセットして設けられているので、燃料噴射弁13に走行風が当たることを好適に確保し、それを冷却することができる。
【0043】
ここで、保護部材40の取り付けについて説明する。保護部材40は、下流側吸気管17とともに、機関本体部12つまり内燃機関10の本体部に取り付けられる。保護部材40は下流側吸気管17とともに共締めされ、機関本体部12に取り付けられる。下流側吸気管17は、前述のように、2本の締結部材であるの締結ボルトB1、B2を用いてシリンダヘッド11に取り付けられる。この締結ボルトB1、B2を用いて保護部材40も取り付けられる。
【0044】
機関本体部12の下流側吸気管17の取付部に下流側吸気管17を配置し、その下流側フランジ部17aの一方のボルト孔17bに保護部材40の第1取付部42のボルト孔41aを位置合わせし、保護部材40の第1取付部42のボルト孔41aと下流側フランジ部17aのボルト孔17bとを介して締結ボルトB1を機関本体部12のシリンダヘッド11のボルト孔に螺合させる。これは図11から図13に示すとおりである。
【0045】
機関本体の下流側吸気管17の取付部に配置された下流側吸気管17の下流側フランジ部17aの他方のボルト孔17cに保護部材40の第2取付部48のボルト孔41bを位置合わせし、保護部材40の第2取付部48のボルト孔41bと下流側フランジ部17aのボルト孔17cとを介して締結ボルトB2を機関本体部12のボルト孔に螺合させる。これは図11及び図14に示すとおりである。
【0046】
このように、保護部材40は下流側吸気管17とともに同じ締結部材を用いて共締めされ、内燃機関Eの機関本体部12に取り付けられる。
【0047】
更に、保護部材40を設けることで、図8に示すように、図13に示す下流側吸気管17の前方に突き出る突起部17gの下方側に、保護部材40の先端凸部46が前方から延びる。したがって、保護部材40を締結ボルトB1、B2で締めるだけでは、保護部材40は大きな荷重等により変形し締結ボルトB1、B2側を中心に揺動し得るところ、それら突起部17gと先端凸部46との係合又は相互干渉により保護部材40を好適に下流側吸気管17つまり燃料噴射弁13に対して保護し続けることができる。
【0048】
上記構成を備える自動二輪車Vの保護構造Sについて作用効果を以下説明する。
【0049】
上記自動二輪車Vでは、前輪WFの後方に位置され、シリンダ10が略水平方向に延びるように配置された内燃機関Eにおいて、この内燃機関Eに接続される下流側吸気管17はその内燃機関Eの後方からシリンダ10の上方に延びるように設けられた。それゆえ、内燃機関Eの燃料噴射弁13及びその周囲はフロントフェンダー31の後方に向かうように位置付けられた。この状態で、内燃機関Eの左右両側において上下方向に延びる左右一対のダウンフレーム2a、2bの間に幅方向に延びるように幅方向フレーム部であるクロスパイプ30を設けるとともに、吸気ポートに燃料を噴射するように設けられる燃料噴射弁13の前方に位置するように保護部材40を設けた。これにより、クロスパイプ30により車体強度を向上させることができるとともに、保護部材40により燃料噴射弁13の前方からの大きな荷重等に対して燃料噴射弁13を保護することができる。よって、自動二輪車Vにおいて、内燃機関Eの前方側に位置する燃料噴射弁13の保護性能を高めることができる。なお、このように燃料噴射弁13が前方側に位置付けられる内燃機関では、同内燃機関の前方側にその他の補器、例えば温度センサーなどの各種センサー類も配置され得るので、保護部材40の設置により、それら各種センサー類を含めて種々の補器の保護性能も高めることができる。
【0050】
更に、上記車両では、保護部材40は自動二輪車Vの側面視つまり図1でクロスパイプ30と燃料噴射弁13との間に位置した。したがって、燃料噴射弁13への前方からの大きな荷重をクロスパイプ30で緩和した後に、更に保護部材40でその大きな荷重を緩和できる。よって、より効果的に燃料噴射弁13を保護することが可能になる。
【0051】
更に、クロスパイプ30はフロントフェンダー31の後方に位置付けられた。したがって、車両前方からの大きな荷重におけるフロントフェンダーの燃料噴射弁13への干渉をより好適に防ぐことが可能になる。
【0052】
そして、保護部材40等の前方のフロントフェンダー31を金属で作製した。したがって、フロントフェンダー31の質感を高めつつ強度も高めることができる。これにより、例えば、まずフロントフェンダー31で車両前方からの大きな荷重を緩和しつつ、例えばその後方の保護部材40でその衝撃を更に緩和できるので、燃料噴射弁13の保護性能を更に高めることが可能になる。
【0053】
また、保護部材40は上記のように下流側吸気管17とともに共締めされ、内燃機関Eの機関本体部12に取り付けられた。したがって、より少ないボルトB1、B2で保護部材40の取り付けを容易に行え、部品点数の削減及び組み立て性の向上を図ることが可能となる。
【0054】
また、保護部材40も金属で作製した。これにより、保護部材40の製造を容易にすることができるとともに、その強度を高めることが可能になる。
【0055】
保護部材40を一枚の金属板から部分的に箱状に形成した。一枚の金属板を加工することで、特にここでは打ち抜き及び折り曲げ加工を行うことで、保護部材40を形成できる。これにより、保護部材40のコストを低く抑えることができる。また、保護部材40を部分的に箱状にすることで、特定の部分を保護する箱状部40aの強度を高めることが可能になる。なお、保護部材40は少なくともその一部が箱状に形成されるとよく、その一部のみ又はその全部を箱状に形成することも可能である。
【0056】
更に、保護部材40を特にその箱状部40aを燃料噴射弁13の前方に対してオフセットして設けた。そして、燃料噴射弁13を保護部材40の開放部40bに位置付けた。したがって、燃料噴射弁13に走行風が当たることを確保しつつ、燃料噴射弁13の保護性能を高めることが可能になる。
【0057】
燃料噴射弁13を含む燃料噴射ユニットつまりインジェクタホルダー23の下流側吸気管17への締結部つまりボルト24a、24bを燃料噴射弁13の一側方のみに設け、保護部材40でその締結部を覆った。このようにインジェクタホルダー23の締結部を一か所にまとめることでそれを覆う箱状空間BSを小さくでき、よって保護部材40の大型化も防ぐことができる。また、これによりその締結部をしっかりと保護部材40で覆うことができるので、保護部材40を取り付けたままで、締結部つまりボルト24a、24bを操作することは難しく、作業者による意図しないボルト24a、24bの操作を防ぐことで作業性を向上することが可能となる。
【0058】
燃料噴射弁13を備えたインジェクタホルダーにおける電気系統接続部を、インジェクタホルダー23の下流側吸気管17への締結部に対して燃料噴射弁13を中心として他方につまり反対側に設けた。そして、その部分は保護部材40の箱状部40aにより覆わず、開放部40bに位置付けた。したがって、電気系統接続部に接続されるカプラー25の取り付け取り外しを容易に行うことができ、整備性を向上させることができる。
【0059】
以上、本発明に係る実施形態及びその変形例について説明したが、本発明はそれらに限定されない。本願の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、種々の置換、変更が可能である。
【0060】
なお、上記保護構造Sは上記形式の自動二輪車Vに適用されることに限定されず、種々の構成の鞍乗型車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…メインフレーム、2a、2b…ダウンフレーム、7…クランク軸
9…クランクケース、10…シリンダ、11…シリンダヘッド、12…機関本体部
13…燃料噴射弁、14…吸気取り込み部、15…エアクリーナ、16…上流側吸気管
17…下流側吸気管、19…排気管、23…インジェクタホルダー、30…クロスパイプ
31…フロントフェンダー、40…保護部材、S…保護構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14