(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157052
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車輪支持軸受用異常検知システム
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20221006BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20221006BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/38
B60B35/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061060
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】大口 耀示
【テーマコード(参考)】
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3J217JA02
3J217JA16
3J217JA36
3J217JA38
3J217JB22
3J217JB25
3J217JB64
3J217JB84
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA80
3J701FA22
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】車輪支持軸受の異常検知を高精度に行えるとともに、ケーブル配線による不具合や作業効率の低下を防止できる異常検知システムを提供する。
【解決手段】車輪の車軸(23)を回転可能に支持する軸受(3)と、前記軸受(3)の固定側部材である内輪(13)に固定されて前記軸受(3)の異常検知に用いられるセンサ(25)を収容するセンサホルダ(27)を有するセンサユニット(5)と、前記車軸(23)のフランジ(37)に取り付けられたケーシング(39)を有する異常判定装置(7)とを備える車輪支持軸受用異常検知システム(1)において、前記センサユニット(5)と前記異常判定装置(7)とを電気的に接続する電気的接続手段(9)であって、前記センサホルダ(27)と前記ケーシング(39)との間で相対変位可能に構成された電気的接続手段(9)を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の車軸を回転可能に支持する軸受であって、
回転側部材である外輪と、
前記外輪に対向して配置された固定側部材である内輪と、
前記外輪と内輪との間に複列に配置された転動体と、
を有する軸受と、
前記軸受の異常検知に用いらせるセンサと、前記内輪に固定されて前記センサを収容するセンサホルダとを有するセンサユニットと、
前記センサユニットの出力に基づいて異常の有無を判定する異常判定装置であって、前記車軸のフランジに取り付けられたケーシングを有する異常判定装置と、
前記センサユニットと前記異常判定装置とを電気的に接続する電気的接続手段であって、前記センサホルダと前記ケーシングとの間で相対変位可能に構成された電気的接続手段と、
を備える車輪支持軸受用異常検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪支持軸受用異常検知システムにおいて、
前記電気的接続手段が、
前記センサホルダに設けられた少なくとも1つの円環状の導電レールと、
前記ケーシングに取り付けられた、前記導電レールと同数の導電ピンであって、前記導電レールに接触するように設けられた導電ピンと、
を有する、
車輪支持軸受用異常検知システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車輪支持軸受用異常検知システムにおいて、
前記ケーシングに、軸心方向に突出する円筒形状の取付部が設けられており、前記取付部の外周面に形成された雄ねじを、前記車軸のフランジの貫通孔の内周面に形成された雌ねじに螺合させることにより前記ケーシングが前記車軸のフランジに取り付けられている、
車輪支持軸受用異常検知システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の車輪支持軸受用異常検知システムにおいて、前記ケーシングが、その内部に、前記導電ピンを絶縁状態で支持する絶縁支持台と、前記絶縁支持台を前記ケーシングの中心軸心に対して任意の角度に調整可能な調整機構とを有している、車輪支持軸受用異常検知システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の車輪支持軸受用異常検知システムにおいて、前記導電ピンを前記導電レールに向けて付勢する付勢機構を備える、車輪支持軸受用異常検知システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の車輪支持軸受用異常検知システムにおいて、前記センサが温度センサである、車輪支持軸受用異常検知システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の車輪支持軸受用異常検知システムにおいて、前記軸受が、大型自動車の車輪の車軸を回転可能に支持する軸受である、車輪支持軸受用異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪支持軸受の異常を検知するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車や商用車等の車両の車軸を支持する軸受として、一般的に、外輪回転タイプの複列円すいころ軸受、またはこの軸受をユニット化したものが使用されている。このような軸受において、軸受の昇温により不具合が発生する可能性があることから、不具合の発生を未然に防止するため、軸受に温度センサを設けて軸受の温度を監視することが知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
このように軸受に温度センサを設ける場合、温度センサの設置態様として、外輪の軸受箱(ハウジング)に温度センサを収容するセンサケースを固定する構成(特許文献1)や、軸受の固定側軌道輪に温度センサを固定したうえで、温度センサへの電力供給や温度センサからの信号伝達に使用するケーブルを配線する構成(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-254840号公報
【特許文献2】特開2002-130263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、円すいころ軸受の昇温は、固定側軌道輪の外周が発熱源となる場合があり、特許文献1の構成のように、温度センサが固定側輪から離れた位置に設けられると、温度測定の制度が低下する。他方で、固定側軌道輪が回転(クリープ)することも想定され、その場合、特許文献2の構成のようにケーブルが軸受の周囲に配線されていると、ケーブルが断線する可能性がある。また、軸受を車軸に取り付ける際、ケーブルを既設の貫通孔等を通すために軸受の位相合わせ作業が必要になり、軸受を取り付ける作業の効率が低下する。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決するために、車輪支持軸受の異常検知を高精度に行えるとともに、ケーブルを配線することによる不具合や作業効率の低下を防止することができる車輪支持軸受用異常検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明に係る車輪支持軸受用異常検知システムは、
車輪の車軸を回転可能に支持する軸受であって、
回転側部材である外輪と、
前記外輪に対向して配置された固定側部材である内輪と、
前記外輪と内輪との間に複列に配置された転動体と、
を有する軸受と、
前記軸受の異常検知に用いらせるセンサと、前記内輪に固定されて前記センサを収容するセンサホルダとを有するセンサユニットと、
前記センサユニットの出力に基づいて異常の有無を判定する異常判定装置であって、前記車軸のフランジに取り付けられたケーシングを有する異常判定装置と、
前記センサユニットと前記異常判定装置とを電気的に接続する電気的接続手段であって、前記センサホルダと前記ケーシングとの間で相対変位可能に構成された電気的接続手段と、
を備えている。
前記センサは、例えば温度センサである。
【0008】
この構成によれば、異常の発生源となることが多い内輪にセンサが配置されるので、高い精度で軸受の異常を検知することができる。また、センサと出力信号や電力の送受信を行う異常判定装置とを電気的に接続する電気的接続手段が、これらの筐体となるセンサホルダとケーシングとの間で相対変位可能に構成されているので、組み立て作業の際に位相合わせ等の煩雑な作業が不要となり、ケーブルを配線することによる不具合や作業効率の低下が防止される。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記電気的接続手段が、前記センサホルダに設けられた少なくとも1つの円環状の導電レールと、前記ケーシングに取り付けられた、前記導電レールと同数の導電ピンであって、前記導電レールに接触するように設けられた導電ピンと、
を有していてもよい。この構成によれば、センサと出力信号や電力の送受信を行う異常判定装置とが、円環状の導電レールと、これに接触する導電ピンによって電気的に接続されるので、軸受の内輪がクリープしても、内輪に圧入されたセンサホルダの円環状の導電レールの位相が変わるだけで、導電ピンと導電レールの接触が維持され、異常検知の不具合の発生が防止される。また、両者の位相関係に制限はないので、軸受の位相合わせ要せずにメンテナンスなどの作業を行うことができるので、作業性が向上する。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記ケーシングに、軸心方向に突出する円筒形状の取付部が設けられており、前記取付部の外周面に形成された雄ねじを、前記車軸のフランジの貫通孔の内周面に形成された雌ねじに螺合させることにより前記ケーシングが前記車軸のフランジに取り付けられていてもよい。この構成によれば、組み立て作業がさらに効率化される。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記ケーシングが、その内部に、前記導電ピンを絶縁状態で支持する絶縁支持台と、前記絶縁支持台を前記ケーシングの中心軸心に対して任意の角度に調整可能な調整機構とを有していてもよい。この構成によれば、導電ピンの角度を容易に調整することができる。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記導電ピンを前記導電レールに向けて付勢する付勢機構を備えていてもよい。この構成によれば、導電ピンのアウトボード側先端と、導電レールとの接触が確保されるとともに、導電ピンの段差部が取付部絶縁板に当接することにより、組み立て中に導電ピンが抜け落ちることを防止できる。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記軸受は、例えば大型自動車の車輪の車軸を回転可能に支持する軸受であってよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係る車輪支持軸受用異常検知システムによれば、車輪支持軸受の異常検知を高精度に行えるとともに、ケーブルを配線することによる不具合や作業効率の低下を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車輪支持軸受用異常検知システムの概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の異常検知システムのセンサユニットの概略構成を示すインボード側の一部破断側面図である。
【
図3】
図1のIII部を拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図1の異常検知システムの概略構成を示す斜視図である。
【
図5】
図1の異常検知システムの異常判定装置および導電ピンの概略構成を示す
図6のV-V線に沿った縦断面図である。
【
図6】
図1の異常判定装置のケーシングを示すアウトボード側の側面図である。
【
図7】
図1の異常検知システムの異常判定装置および導電ピンの概略構成を示す
図6のVII-VII線に沿った縦断面図である。
【
図8】
図1の異常判定装置のケーシングと角度調整板との位置関係を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る車輪支持軸受用異常検知システム(以下、単に「異常検知システム」という。)1を示す。本実施形態では、大型トラックといった大型自動車である車両の車輪支持に使用される車輪用軸受のための異常検知システムを例として説明する。もっとも、本実施形態は大型自動車以外の車両にも適用することができる。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側(
図1の左側)をアウトボード側と呼び、中央寄り側(
図1の右側)をインボード側と呼ぶ。また、説明の便宜上、アウトボード側,インボード側を、単に「左側」,「右側」等と呼ぶ場合がある。
【0018】
異常検知システム1は、異常検知の対象となる前記軸受3と、軸受の異常検知に用いられるセンサユニット5と、センサユニット5の出力に基づいて異常の有無を判定する異常判定装置7と、センサユニット5と異常判定装置7とを電気的に接続する電気的接続手段9とを備える。
【0019】
軸受3は、回転側部材、固定側部材および回転側部材と固定側部材との間に介在する転動体を有している。図示の例では、軸受3は、複列の円すいころ軸受として構成されている。具体的には、軸受3は、内周にテーパ状の複列の外側転走面11aが形成された外輪11と、外周に複列の外側転走面11aに対向するテーパ状の内側転走面13aが形成された左右一対の内輪13と、両転走面11a,13a間に介在する転動体15である円錐ころとを備えている。これらの転動体15は保持器(図示せず)によって転動自在に保持されている。軸受3は外輪回転タイプとして構成されており、外輪11が回転側部材に、内輪13が固定側部材に相当する。軸受3は、一対の内輪13の小径側端面が突き合された状態でセットされた背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受として構成されている。外輪11と内輪13との間に形成された環状空間の軸心方向両端部の開口部分にはシール部材19が装着されている。シール部材19により、軸受3の内部に封入された潤滑グリースが外部へ漏洩することや、外部から雨水やダスト等の異物が軸受3内部に侵入することが防止される。
【0020】
外輪11の外周側には軸受ハウジング21が配置されている。軸受ハウジング21は、円筒状部21aと、円筒状部21aのアウトボード側端において外径側に突設された車輪取付フランジ21bとを有する。車輪取付フランジ21bのアウトボード側に車輪(図示せず)が取り付けられる。外輪11は軸受ハウジング21の円筒状部21aの内周面に圧入固定されている。他方、内輪13の内径部に車軸23が挿入され、そのアウトボード側端が図示しないナットで内輪13に対して締め付けて固定されている。このような構成により、軸受3を介して、車軸23に対して車輪取付フランジ21bが回転自在に支持されている。
【0021】
センサユニット5は、軸受3の異常検知に用いられるセンサ25と、軸受3の内輪13に固定されてセンサ25を収容するセンサホルダ27とを有している。本実施形態では、軸受3の異常検知に用いられるセンサ25として温度センサを使用している。
【0022】
なお、センサユニット5に設けられるセンサ25は、上記の温度センサに限定されず、軸受3の異常検知に用いることができる他の種類のセンサであってよく、例えば、振動(加速度)センサ、グリース劣化センサ等を使用することができる。
【0023】
センサホルダ27は、
図2に示すように、円環状に形成されており、その内部にセンサ25を収容する円環状の収容空間29を有する。具体的には、
図1に示すように、センサホルダ27は、インボード側の内輪13のインボード側端部の外周面とほぼ同径の内周面を有する円環状に形成されており、当該内輪13のインボード側端の外周面に嵌合により取り付けられている。センサホルダ27の収容空間29にセンサ25が配置されている。センサ25は、例えば、収容空間29内に樹脂材を充填することによって固定されている。
【0024】
図3に示すように、センサホルダ27の軸受3と反対側(すなわちこの例ではインボード側)には円環状のセンサホルダ絶縁板31が設けられており、センサホルダ絶縁板31の軸受3側面(この例ではアウトボード側面)にセンサ25(
図1)が配置される。センサホルダ絶縁板31の、軸受3と反対側の面(この例ではインボード側面)には、後述する導電レール33が設けられている。
【0025】
また、図示の例では、センサホルダ27には、インボード側端部から径方向外側に突出するフランジ状部27aが全周に渡って設けられている。フランジ状部27aのインボード側面に設けられた円環状の溝に、センサホルダシール部材35が嵌め込まれている。センサホルダシール部材35を車軸23のフランジ37に密着させることにより、センサホルダ27内に泥水等の異物が侵入することが防止される。
【0026】
図4に示すように、異常判定装置7は、車軸のフランジ37に取り付けられたケーシング39を有している。
図5に示すように、ケーシング39の内部には円筒状の収容空間41が形成されており、この収容空間41に、センサユニット5(
図1)の出力に基づいて異常の有無を判定する処理やセンサ25(
図1)への電力供給等を行うための回路(ICチップ,マイコン)等が搭載された処理基板43が収容されている。
【0027】
ケーシング39は、具体的には、前記収容空間41を形成する本体部39aと、本体部39aから軸心方向に突設された取付部39bとを有している。本実施形態では、
図1に示すように、取付部39bが車軸23のフランジ37に設けられた軸心方向の貫通孔である取付孔45に取り付けられることにより、ケーシング39が車軸23のフランジ37に固定されている。より具体的には、取付部39bは円筒形状に形成されており、この取付部39bの外周面に形成された雄ねじを、取付孔45の内周面に形成された雌ねじに螺合させることによってケーシング39が車軸23のフランジ37に取り付けられている。
図6に示すように、本体部39aは、この例では、取付部39bと同心状の多角形(この例では六角形)の筒状に形成されている。ケーシング39の取付部39bおよび本体部39aをこのように構成することにより、工具を用いて容易にケーシング39を車軸23のフランジ37に取り付けることができる。
【0028】
なお、取付孔45として使用される貫通孔は、例えば、車輪の操舵範囲を制限し、最大操舵時にタイヤと車体が接触してタイヤが破損することを防止するために車軸23に固定されている既設のストッパボルト用のねじ孔のうち、使用されていないものを流用してもよい。
【0029】
図5に示すように、ケーシング39の本体部39aの、取付部39bと反対側を向く壁部は、本体部39aから着脱可能な蓋部材47として形成されている。この例では、蓋部材47は蓋部材取付ボルト49によって本体部39aに固定されている。蓋部材47には軸心方向の貫通孔であるケーブル挿通孔51が形成されている。このケーブル挿通孔51を通過するケーブル53によって、処理基板43と車両とが接続される。蓋部材47には防水,防塵のためのパッキン54が配設されている。また、ケーブル挿通孔51は図示しないシーリング剤などで密封されている。
【0030】
図3に示す、センサユニット5と異常判定装置7とを電気的に接続する電気的接続手段9は、センサホルダ27とケーシング39との間で相対変位可能に構成されている。具体的には、電気的接続手段9は、センサホルダ27に設けられた少なくとも1つ(この例では3つ)の円環状の導電レール33と、ケーシング39に取り付けられた、導電レール33と同数(この例では3つ)のとを有する。導電ピン55は、導電レール33に接触するように設けられている。
【0031】
導電レール33は、センサホルダ27の軸心方向一方(インボード側)の外方に露出する端面を形成するセンサホルダ絶縁板31のインボード側面に設けられている。以下の説明では、絶縁板の外方に露出している側の面を単に「外側面」と呼び、センサホルダ27の収容空間29側の面を単に「内側面」と呼ぶ。具体的には、
図2に示すように、円環状の導電レール33は、車輪の回転軸心(すなわち車軸23の軸心)C1と同心状に配置されている。この例では、複数(この例では3つ)の導電レール33が、車軸23の軸心C1と同心状に配置されている。
【0032】
センサホルダ絶縁板31の外側面には、車軸23の軸心C1を中心とする円状溝57(
図3)が形成されており、この円状溝57内に導電レール33が配置されている。この例では、センサホルダ絶縁板31の外側面に、同心状に複数(この例では3つ)の円状溝57が形成されており、各円状溝57にそれぞれ導電レール33が配置されている。このように構成することにより、導電レール33の位置決めを容易にかつ確実に行うことができる。また、本実施形態のように複数の導電レール33を設ける場合、導電レール33間の絶縁を確実に行うことができる。もっとも、センサホルダ絶縁板31に設けた円状溝57に導電レール33を配置することは必須ではない。
【0033】
なお、導電レール33と、センサホルダ絶縁板31の内側面上に設けられたセンサ25とは、センサ25の電力線、センサ25信号線、接地線を導電レール33を介して外部へ接続するため、センサホルダ絶縁板31を貫通するように延設された導線59によって電気的に接続されている。
【0034】
図7に示すように、導電ピン55は、異常判定装置7のケーシング39の本体部39aの内部から、取付部39bの内方を通って、取付部39bの端面から外方へ突出するように延設されている。導電ピン55のインボード側先端部は、導線61を介して処理基板43に電気的に接続されている。具体的には、ケーシング39内部のアウトボード側壁に、絶縁材料から形成された絶縁支持台63が設けられており、絶縁支持台63によって、導電ピン55の本体部39a側の端部付近がケーシング39に対して絶縁状態で支持されている。より具体的には、導電ピン55は、絶縁支持台63に形成された軸心方向の貫通孔65に挿通されることにより絶縁支持台63に支持されている。
【0035】
他方で、取付部39bのアウトボード側(センサユニット5側)の端壁の内壁面に接して、取付部絶縁板67が設けられている。この取付部絶縁板67によって、導電ピン55のセンサユニット5側の端部がケーシング39に対して絶縁状態で支持されている。具体的には、取付部絶縁板67の外径寸法は取付部39bの先端部分の内径寸法より大きく形成されて、取付部絶縁板67が圧入されている。このようにして、取付部絶縁板67が軸心方向に位置決めされるとともに、導電ピン55は、取付部絶縁板67に形成された軸心方向の貫通孔に挿通されることにより絶縁支持台63に支持されている。
【0036】
図5に示すように、ケーシング39の内部には、さらに、絶縁支持台63をケーシング39の中心軸心C2に対して任意の角度に調整可能な調整機構が設けられている。具体的には、この例では、調整機構として角度調整板71が設けられている。角度調整板71は、ドーナツ形状の周縁の一部を切り欠いた形状の底壁部71aと、底壁部71aの円弧状部分に対応する部分円筒形状の側壁部71bと、側壁部の底壁部71aと反対側の端部から径方向内側に突出するフランジ部71cとを有する。角度調整板71の底壁部71aの中央開口に、円柱形状の絶縁支持台63の外周面が圧入されている。
【0037】
図8に示すように、角度調整板71の底壁部71aには、2つの円弧状の長孔73が設けられている。各長孔73に挿通した調整板取付ボルト75を、
図7に示すように、ケーシング39の取付部39bのアウトボード側(センサユニット5側)の端壁の内壁面に形成したねじ孔77に螺合させることにより、角度調整板71がケーシング39に取り付けられるとともに、絶縁支持台63がケーシング39に対して支持されている。
図8に示すように、底壁部71aの2つの長孔73は、それぞれ、ケーシング39の中心軸心C2を中心とする円周に沿う位置に、かつ、ケーシング39の中心軸心C2を中心として対称な位置に配置されている。また、本実施形態では、各長孔73は、90°以上の角度範囲に渡って設けられている。したがって、角度調整板71をケーシング39の中心軸心C2回りに矢印で示すように回転させることにより、絶縁支持台63をケーシング39の中心軸心C2に対して任意の角度に調整することができ、導電ピン55が複数の場合、絶縁支持台63によって支持された導電ピン55の配列の角度を任意とすることができる。
【0038】
図示の例では、4つの前記ねじ孔77がケーシング39の中心軸心C2を中心として周方向に等間隔に配置されている。したがって、角度調整板71の位相にかかわらず調整板取付ボルト75をねじ孔77に螺合させることができる。
【0039】
また、
図5に示すように、角度調整板71のフランジ部71cに、処理基板取付ボルト78およびナット79によって処理基板43が取り付けられている。
【0040】
本実施形態において、電気的接続手段9は、導電ピン55を導電レール33に向けて付勢する付勢機構を備えている。この例では、付勢機構として、弾性体、具体的には圧縮ばね81を使用している。
【0041】
導電ピン55は、アウトボード側の端部の近傍であって取付部39b内に位置する部分に段差部55aが形成されている。導電ピン55における段差部55aから絶縁支持台63までの範囲に渡って、導電ピン55の外周に圧縮ばね81が装着されている。段差部55aと絶縁支持台63との間で圧縮ばね81が圧縮されることにより、導電ピン55はアウトボード側へ付勢される。これによって、導電ピン55のアウトボード側先端と、導電レール33との接触が確保される。さらに、導電ピン55の段差部55aが取付部絶縁板67に当接することにより、組み立て中に導電ピン55が抜け落ちることを防止できる。
【0042】
なお、上記の実施形態では、センサ25を1個、導電ピン55および導電レール33を3対設けた例を示したが、これらの数は必要に応じて増減することができる。
【0043】
以上説明した本実施形態に係る車輪支持軸受3用異常検知システム1によれば、異常の発生源となることが多い内輪にセンサが配置されるので、高い精度で軸受の異常を検知することができる。また、センサと出力信号や電力の送受信を行う異常判定装置とを電気的に接続する電気的接続手段が、これらの筐体となるセンサホルダとケーシングとの間で相対変位可能に構成されているので、組み立て作業の際に位相合わせ等の煩雑な作業が不要となり、ケーブルを配線することによる不具合や作業効率の低下が防止される。
【0044】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 車輪支持軸受用異常検知システム
3 軸受
5 センサユニット
7 異常判定装置
9 電気的接続手段
11 外輪
13 内輪
23 車軸
25 センサ
27 センサホルダ
33 導電レール
37 フランジ
39 ケーシング
55 導電ピン