(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157059
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】タール除去フィルタ、フィルタ装置、及びバイオマス発電システム
(51)【国際特許分類】
C10J 3/24 20060101AFI20221006BHJP
C10K 1/22 20060101ALI20221006BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C10J3/24
C10K1/22
F02M21/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061068
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 良博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝
(72)【発明者】
【氏名】小松 貴司
【テーマコード(参考)】
4H060
【Fターム(参考)】
4H060AA03
4H060BB25
4H060DD23
4H060GG01
(57)【要約】
【課題】 おがくずよりもガス状のタールの除去性能が良いフィルタ充填材を用いることにより、ガスエンジンのターボ及びブースターファンの清掃頻度を従来よりも低減させ、バイオマス発電システムの発電効率を従来よりも向上させる。
【解決手段】 タール除去フィルタは、上面及び下面が開口された扁平筒形状の枠体と、枠体の内部に詰められた充填材と、枠体の上面の開口部分に設けられる上部金網と、枠体の下面の開口部分に設けられ、少なくとも、充填材の大きさよりも細かい網目を有する下部金網とを備え、充填材は、消石灰、活性炭、又はくん炭のいずれかであることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面及び下面が開口された扁平筒形状の枠体と、
前記枠体の内部に詰められた充填材と、
前記枠体の上面の開口部分に設けられる上部金網と、
前記枠体の下面の開口部分に設けられ、少なくとも、前記充填材の大きさよりも細かい網目を有する下部金網と
を備え、
前記充填材は、消石灰、活性炭、又はくん炭のいずれかである
ことを特徴とするタール除去フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のタール除去フィルタにおいて、
前記充填材は、ガスに含まれるタールが付着して固化された後に金網から取り外されて、木質チップとともに、ガス化炉に投入される
ことを特徴とするタール除去フィルタ。
【請求項3】
上面及び下面が開口された扁平筒形状の枠体と、前記枠体の内部に詰められた充填材と、前記枠体の上面の開口部分に設けられる上部金網と、前記枠体の下面の開口部分に設けられ、少なくとも、前記充填材の大きさよりも細かい網目を有する下部金網とを有するタール除去フィルタと、
前記タール除去フィルタが着脱自在に保持され、ガスが流れる方向に対して平行に且つ所定の間隔を空けて複数配置される棚段と、隣接する2つの前記棚段の間を前記ガスが流れる方向に対して傾斜させて仕切る整流板とを有するフィルタ設置枠と
を備え、
前記充填材は、消石灰、活性炭、又はくん炭のいずれかである
ことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフィルタ装置において、
前記フィルタ設置枠を内部に有する装置本体をさらに備え、
前記棚段は、上下方向に且つ所定の間隔を空けて複数配置され、
前記整流板は、隣接する上下2つの前記棚段の間を前記装置本体の内部に送り込まれた前記ガスの下流側に向けて下り傾斜させて仕切る
ことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のフィルタ装置において、
前記充填材は、ガスに含まれるタールが付着して固化された後に金網から取り外されて、木質チップとともに、ガス化炉に投入される
ことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項6】
木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、
前記ガスを用いて発電するガスエンジンと、
前記ガス化炉から前記ガスエンジンに向けて前記ガスを送出するファンと、
前記ファンの上流側に配置される請求項1又は請求項2に記載のタール除去フィルタと
を備えることを特徴とするバイオマス発電システム。
【請求項7】
木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、
前記ガスを用いて発電するガスエンジンと、
前記ガス化炉から前記ガスエンジンに向けて前記ガスを送出するファンと、
前記ファンの上流側及び下流側に配置される請求項1又は請求項2に記載のタール除去フィルタと
を備えることを特徴とするバイオマス発電システム。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のバイオマス発電システムにおいて、
前記タール除去フィルタは、前記ファンの下流側に配置されるHEPAフィルタと併用して配置される
ことを特徴とするバイオマス発電システム。
【請求項9】
木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、
前記ガスを用いて発電するガスエンジンと、
前記ガス化炉から前記ガスエンジンに向けて前記ガスを送出するファンと、
前記ファンの上流側に配置される請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のフィルタ装置と
を備えることを特徴とするバイオマス発電システム。
【請求項10】
木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、
前記ガスを用いて発電するガスエンジンと、
前記ガス化炉から前記ガスエンジンに向けて前記ガスを送出するファンと、
前記ファンの上流側及び下流側に配置される請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のフィルタ装置と
を備えることを特徴とするバイオマス発電システム。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のバイオマス発電システムにおいて、
前記フィルタ装置は、前記ファンの下流側に配置されるHEPAフィルタと併用して配置される
ことを特徴とするバイオマス発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質バイオマスを高温加熱することで生成される可燃性ガスに含まれるタールを除去するタール除去フィルタ、フィルタ装置、及びバイオマス発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
動植物由来の再利用可能な有機性のエネルギー資源であるバイオマスは、CO2抑制に係る地球温暖化防止や循環社会の構築に寄与するものとして注目されている。近年では、バイオマスの有効利用、特に、木質バイオマスに対するエネルギー利用に関する研究開発が積極的に進められている。
【0003】
木質バイオマスは、例えば、間伐材、製材後の端材などの廃材、公園や植物園から出る剪定、刈込みで生ずる木屑、家屋の解体作業から出る木材などである。このような木質バイオマスは、再生可能な資源であり、地球環境保全の面でも優れた資源である。したがって、木質バイオマスの利用は、化石燃料の使用を抑制し、同時に、二酸化炭素の削減や地球温暖化を抑制する。
【0004】
木質バイオマスを用いたバイオマス発電システムとして、例えば、木質バイオマスをボイラーなどにより直接燃焼し、燃焼時の熱で発生する高圧の蒸気を用いてタービンを回転させて発電を行う方式(直接燃焼方式)が挙げられる。また、バイオマス発電システムとして、例えば、木質バイオマスをガス化炉において加熱分解により生成される可燃性ガス(燃料ガス)を燃料としてエンジンを駆動させて発電を行う方式(ガス化方式)もある。
【0005】
上述したように、直接燃焼方式の発電システムは、木質バイオマスを燃焼させたときの熱により発生した高圧の蒸気を用いてタービンを回転させるシステムである。このため、直接燃焼方式の発電システムは、システム全体が小規模であればあるほど放熱の影響が大きくなり、発電効率が悪いという欠点がある。一方、ガス化方式の発電システムは、加熱分解により発生する可燃性ガスの発生量に応じて発電出力を制御できるので、安定したエンジン稼働が可能となる。したがって、例えば、アップドラフト式ガス化炉等のガス化方式の発電システムは、直接燃焼方式の発電システムに比べて効率が良く、システム全体を小規模とすることが可能となる。
【0006】
上述したガス化方式の発電システムにおいて、木質バイオマスの加熱分解により生成される可燃性ガスは、高分子の炭化水素であるタールを含んでいる。タールは、高温ではガス状であるが、低温になると凝集する性格を有する。したがって、可燃性ガスに含まれるタールは、ガスエンジンに送り込まれる過程で、配管の内部や、ファンなどに付着する。例えば、タールの付着量が多いと、ファンの回転が停止する可能性もあることから、タールの発生は、発電システム全体の発電性能を低下させることになる。また、ガス化方式の発電システム(ガス化発電設備)では、可燃性ガス(生成ガス)中のタールは、安定した操業にも悪影響を及ぼしている。特に、ブースターファンやガスエンジンの清掃時には、設備の停止に伴い、発電出力が抑制されるため、清掃頻度が多くなると所望の発電量が得られないためである。
【0007】
そこで、例えば、ガス化発電システムでは、ガス冷却器や湿式電気集塵機などの他に、HEPAフィルタ(高性能エアフィルタ:High Efficiency Particulate Air Filter)を用いて、排気ガスや可燃性ガスに含まれるタールを除去している(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、出願人は、おがくずを充填したソーダストフィルタ(おがくずフィルタ)を開発し、当該ソーダストフィルタ(おがくずフィルタ)を用いることによって、ブースターファンの清掃頻度を大きく低減させることに成功した。さらに、出願人がおがくずを充填したソーダストフィルタ(おがくずフィルタ)を用いたところ、ガスエンジンのターボ(ターボチャージャー)の清掃頻度を低下させる大きな変化も見られた(例えば、
図10参照)。なお、ソーダストとは、おがくずの意味である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、さらに清掃頻度を低下させ、設備の停止時間を回避して、バイオマス発電システムでの発電効率を増加させることが求められている。
【0011】
そこで、本件開示は、おがくずよりもガス状のタールの除去性能が良いフィルタ充填材を用いることにより、ガスエンジンのターボ及びブースターファンの清掃頻度を従来よりも低減させ、バイオマス発電システムの発電効率を従来よりも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様に係るタール除去フィルタは、上面及び下面が開口された扁平筒形状の枠体と、 枠体の内部に詰められた充填材と、枠体の上面の開口部分に設けられる上部金網と、枠体の下面の開口部分に設けられ、少なくとも、充填材の大きさよりも細かい網目を有する下部金網とを備え、充填材は、消石灰、活性炭、又はくん炭のいずれかであることを特徴とする。
【0013】
なお、一態様に係るタール除去フィルタにおいて、充填材は、ガスに含まれるタールが付着して固化された後に金網から取り外されて、木質チップとともに、ガス化炉に投入されてもよい。
【0014】
一態様に係るフィルタ装置は、上面及び下面が開口された扁平筒形状の枠体と、枠体の内部に詰められた充填材と、枠体の上面の開口部分に設けられる上部金網と、枠体の下面の開口部分に設けられ、少なくとも、充填材の大きさよりも細かい網目を有する下部金網とを有するタール除去フィルタと、タール除去フィルタが着脱自在に保持され、ガスが流れる方向に対して平行に且つ所定の間隔を空けて複数配置される棚段と、隣接する2つの棚段の間をガスが流れる方向に対して傾斜させて仕切る整流板とを有するフィルタ設置枠とを備え、充填材は、消石灰、活性炭、又はくん炭のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
なお、一態様に係るフィルタ装置において、フィルタ設置枠を内部に有する装置本体をさらに備え、棚段は、上下方向に且つ所定の間隔を空けて複数配置され、整流板は、隣接する上下2つの棚段の間を装置本体の内部に送り込まれたガスの下流側に向けて下り傾斜させて仕切ってもよい。
【0016】
また、一態様に係るフィルタ装置において、充填材は、ガスに含まれるタールが付着して固化された後に金網から取り外されて、木質チップとともに、ガス化炉に投入されてもよい。
【0017】
一態様に係るバイオマス発電システムは、木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、ガスを用いて発電するガスエンジンと、ガス化炉からガスエンジンに向けてガスを送出するファンと、ファンの上流側に配置される上記のタール除去フィルタとを備えることを特徴とする。
【0018】
別の態様に係るバイオマス発電システムは、木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、ガスを用いて発電するガスエンジンと、ガス化炉からガスエンジンに向けてガスを送出するファンと、ファンの上流側及び下流側に配置される上記のタール除去フィルタとを備えることを特徴とする。
【0019】
なお、上記のバイオマス発電システムにおいて、タール除去フィルタは、ファンの下流側に配置されるHEPAフィルタと併用して配置されてもよい。
【0020】
また、別の態様に係るバイオマス発電システムは、木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、ガスを用いて発電するガスエンジンと、ガス化炉からガスエンジンに向けてガスを送出するファンと、ファンの上流側に配置される上記のフィルタ装置とを備えることを特徴とする。
【0021】
また、別の態様に係るバイオマス発電システムは、木質バイオマスからガスを生成するガス化炉と、ガスを用いて発電するガスエンジンと、ガス化炉からガスエンジンに向けてガスを送出するファンと、ファンの上流側及び下流側に配置される上記のフィルタ装置とを備えることを特徴とする。
【0022】
なお、上記のバイオマス発電システムにおいて、フィルタ装置は、ファンの下流側に配置されるHEPAフィルタと併用して配置されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本件開示によれば、おがくずよりもガス状のタールの除去性能が良いフィルタ充填材を用いることにより、ガスエンジンのターボ及びブースターファンの清掃頻度を従来よりも低減させ、バイオマス発電システムの発電効率を従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】バイオマス発電システムの一つであるガス化発電システムの一実施形態を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示すフィルタ装置の一例を示す図である。
【
図3】
図2に示すタール除去フィルタの一例を示す図である。
【
図4】
図1から
図3に示すタール除去フィルタに充填する充填材の性能試験の概要を示す図である。
【
図5】
図4に示す性能試験に用いた充填材の概要を示す図である。
【
図7】
図5に示す充填材(トレイ)の試験前後の状態を示す図である。
【
図8】比較例としてタール除去フィルタに充填する充填材におがくずを用いた場合の性能確認の概要を示す図である。
【
図9】
図8に示す性能確認の結果(1)を示す図である。
【
図10】
図8に示す性能確認の結果(2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本件開示のタール除去フィルタ、フィルタ装置、及びバイオマス発電システムの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
<一実施形態>
図1は、バイオマス発電システムの一つであるガス化方式の発電システム(以下、「ガス化発電システム」と称する。)1の一実施形態を模式的に示す図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のガス化発電システム1は、ガス化炉12に投入される木質バイオマスを高温加熱することで可燃性ガス(燃料ガス)24を生成し、生成した可燃性ガス24を燃料としてガスエンジン18を駆動させて発電を行うシステムである。なお、ガス化炉12に投入される木質バイオマスとして、木質チップ21(ペレットを含む)が挙げられる。木質チップ21は、間伐材、製材後の端材や廃材、公園や植物園から出る剪定、刈込みで生ずる木屑、家屋の解体作業から出る木材等を不図示の破砕棟で砕いたものである。
【0028】
図1に示すように、ガス化発電システム1は、ホッパー11と、ガス化炉12と、生成ガス冷却器13と、湿式電気集塵機14とを有する。また、ガス化発電システム1は、フィルタ装置15と、ブースターファン16と、HEPAフィルタ17と、ガスエンジン18と、熱交換器19と、排気塔20とを有する。
【0029】
ホッパー11は、ガス化炉12に投入される木質チップ21を貯留する装置である。なお、ホッパー11の内部に貯留される木質チップ21は、コンベヤ装置11aによりガス化炉12に向けて搬送され、ガス化炉12の上方から、ガス化炉12の内部に投入される。
【0030】
ガス化炉12は、炉内温度(言い換えればガス化温度)が所定の温度範囲となるように炉内で保持される。ガス化炉12は、例えば、固定床、移動床、流動床、噴流床などの炉の形式や、直接加熱(直接ガス化方式)と間接加熱(間接ガス化方式)の加熱の方法がある。したがって、ガス化炉12は、使用条件に基づいて、炉の形式と加熱の方法とが組み合わされたものを使用する。
【0031】
ガス化炉12は、上方から木質チップ21を投入する一方で、下方に設けた吹込口からガス化剤23を炉の内部に送り込む。なお、ガス化剤23は、例えば、空気・酸素・水蒸気などの混合物である。なお、ガス化剤23は、温水28で予熱された後、ガス化炉12に送り込まれる。
【0032】
ガス化炉12では、炉の上部から投入される木質チップ21と、炉の下部から投入されるガス化剤23とが熱反応(熱分解)し、可燃性ガス(一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタンなど)24と、チャー(灰)とを生成される。ここで、ガス化炉12の内部で生成される可燃性ガス24は、タール分や炭素微粒子を多く同伴している。この可燃性ガス24は、ガス化炉12の上部から、生成ガス冷却器13に送り出される。
【0033】
生成ガス冷却器13は、ガス化炉12から送り出される可燃性ガス24を、2つの生成ガス冷却器13a,13bを用いて冷却する。可燃性ガス24の冷却の過程で、可燃性ガス24から、水分やタール25(木タールと木酢液)が除去される。ここで、ガス化炉12から生成ガス冷却器13に向けて送り出された可燃性ガス24の温度は、例えば75℃である。生成ガス冷却器13が有する1つ目の生成ガス冷却器13aにおいて、可燃性ガス24は、例えば55℃まで冷却され、2つ目の生成ガス冷却器13bにおいて、さらに、例えば35℃まで冷却される。
【0034】
湿式電気集塵機14は、生成ガス冷却器13で冷却された可燃性ガス24に残留するタール25および水分を捕集する装置である。
【0035】
フィルタ装置15は、可燃性ガス24に含まれるタール25を除去する。なお、フィルタ装置15の詳細については、後述する。
【0036】
ブースターファン16(以下、「ファン16」とも称する。)は、湿式電気集塵機14からの可燃性ガス24を引き込み、HEPAフィルタ17に向けて送り出す。ファン16により後段側に送り出された可燃性ガス24は、ファン16による送り出しの過程で加圧される。その結果、ファン16により湿式電気集塵機14から引き込まれた可燃性ガス24の温度は、例えば35℃であるが、ファン16から送り出される可燃性ガス24の温度は、ファン16による加圧により、例えば65℃まで加温される。
【0037】
HEPAフィルタ17は、空気中からゴミ、塵埃などを取り除き、清浄空気にする目的で使用するエアフィルタの一種である。HEPAフィルタ17は、主に直径1~10μm以下のガラス繊維でできている。ここで、HEPAフィルタ17は、一般に水濡れに弱いため、可燃性ガス24の温度が低いファン16の上流には配置することができない。一方、ファン16の下流は、断熱圧縮効果により、可燃性ガス24の温度が例えば65℃であるため、ファン16の上流よりも可燃性ガス24の温度が高く、相対湿度が低いため、HEPAフィルタ17を配置することが可能である。このため、本実施形態では、ファン16の上流にフィルタ装置15が配置され、ファン16の下流にHEPAフィルタ17が配置されている。
【0038】
ガスエンジン18は、フィルタ装置15及びHEPAフィルタ17によりタール25が除去された可燃性ガス24を燃料として駆動することで発電を行う装置である。
【0039】
熱交換器19は、ガスエンジン18からの排気ガス27と、循環される温水28との間で熱交換を行う装置である。
【0040】
排気塔20は、ガスエンジン18からの排気ガス27を排出する煙突である。
【0041】
可燃性ガス24は、木質バイオマスの一例である木質チップ21とガス化剤23とを用いてガス化炉12にて生成されたガスである。ここで、可燃性ガス24は、
図1で符号24を付した矢印に示すように流れる。可燃性ガス24は、生成直後は高温であり、タール25や水分を多く含んでいる。可燃性ガス24は、生成ガス冷却器13、湿式電気集塵機14を経由することで、冷却され、また、タール25と水分とを含んだタール含有水26を除去する。湿式電気集塵機14から送り出された可燃性ガス24は、フィルタ装置15を通過し、ファン16により加圧された状態でHEPAフィルタ17に到達する。可燃性ガス24は、フィルタ装置15及びHEPAフィルタ17を通過するときに、タール25が除去される。フィルタ装置15及びHEPAフィルタ17を通過した可燃性ガス24は、清浄なガスとなってガスエンジン18に送り込まれる。
【0042】
タール25は、炭化水素・フェノール類・酢酸などが含まれるものであり、有機物質の熱分解によって得られる、粘り気のある黒から褐色の油状の液体である。
【0043】
タール含有水26は、主に木質チップ21に含まれる水分と、水蒸気改質用に供給する加湿水と、タール25とから構成される。タール含有水26は、木質チップ21に含まれる水分と、水蒸気改質に使用されなかった水蒸気とが、生成ガス冷却器13と湿式電気集塵機14とで凝縮されて可燃性ガス24から分離され、タール25とともに排出されたものである。なお、排出されたタール含有水26は、重質タールと軽質タールとに比重分離され、重質タールは、不図示のタール燃焼装置の重質タールバーナーで燃焼焼却され、軽質タールは、熱交換等された後、不図示のタール燃焼装置で燃焼焼却される。
【0044】
排気ガス27は、ガスエンジン18から排出されるものである。排気ガス27は、熱交換器19によって熱交換された後、排気塔20から排出される。
【0045】
温水28は、ガスエンジン18からの排気ガス27で熱交換されたものであり、ガス化炉12で使用するガス化剤23の余熱や、不図示のタール燃焼装置における空気の余熱等に利用される。
【0046】
次に、
図2を用いて、フィルタ装置15について説明する。
図2は、
図1に示すフィルタ装置15の一例を示す図である。
【0047】
図2に示すように、フィルタ装置15は、装置本体31と、フィルタ設置枠33と、扉34と、複数のタール除去フィルタ35とを有する。
【0048】
装置本体31は、例えば直方体状であり、上面に可燃性ガス24が流入する流入口36と、可燃性ガス24が送り出される送出口37とを有する。ここで、フィルタ装置15の装置本体31の下部にはタール25が溜まるため、下面に流入口36と送出口37とを有した場合には、タール25が流入口36と送出口37とを伝って下方の設備のメンテナンスを行う必要が生じてしまう。このため、流入口36と送出口37とは、装置本体31の上部に設けられる。しかしながら、下部に溜まるタール25の影響を受けない位置であれば、流入口36と送出口37とを設ける位置は、装置本体31の上部に限定する必要はない。また、装置本体31は、複数のタール除去フィルタ35が設置されるフィルタ設置枠33を有し、フィルタ設置枠33の上流側及び下流側に、装置本体31内部を清掃する、又は複数のタール除去フィルタ35を交換する等の作業スペースを有する。
【0049】
フィルタ設置枠33は、装置本体31の内部において、流入口36と送出口37との間の領域に設置される。つまり、装置本体31の内部において、流入口36又は送出口37の下方には、上述した作業スペースが設けられる。この作業スペースは、フィルタ装置15により可燃性ガス24中のタール25を除去する過程では、可燃性ガス24が流れる空間となる。この空間を設けることで、装置本体31の内部に流入した可燃性ガス24が、フィルタ設置枠33の棚段41に保持したタール除去フィルタ35に満遍なく行き渡る。なお、装置本体31は、その内部において、作業スペースを省いて、流入口36から流入する可燃性ガス24がフィルタ設置枠33の棚段41に保持したタール除去フィルタ35に直接案内される構成を有してもよい。
【0050】
フィルタ設置枠33は、複数のタール除去フィルタ35を上下方向に所定間隔を空けて保持する。本実施形態では、タール除去フィルタ35がフィルタ設置枠に6段保持されている。フィルタ設置枠33は、上面及び図中左右側面が開口されている。フィルタ設置枠33は、複数の棚段41と、上下2つの棚段41の間に配置される整流板42とを有する。
【0051】
棚段41は、タール除去フィルタ35を着脱自在に保持する。つまり、各棚段41に保持されるタール除去フィルタ35は、交換可能である。
【0052】
整流板42は、上下2つの棚段41のうち、上部に位置する棚段41の手前(
図2中左側端部)側から、下部に位置する棚段41の奥(
図2中右側端部)側に向けて下り傾斜する板材である。したがって、フィルタ設置枠33の各棚段41にタール除去フィルタ35が設置されている場合、装置本体31の流入口36から流入する可燃性ガス24は、フィルタ設置枠33の各整流板42により整流される。これにより、可燃性ガス24は、棚段41に保持したタール除去フィルタ35を上から下に向けて通過する。その過程で、可燃性ガス24に含まれるタール25が除去される。フィルタ設置枠33の幅、高さ、奥行きは、例えば、幅×高さ×奥行き=610mm×610mm×300mmである。また、フィルタ設置枠33の重さは、例えば、約35kgである。
【0053】
扉34は、作業者が装置本体31内部を清掃する、又は複数のタール除去フィルタ35を交換する場合に開閉される。
【0054】
次に、
図3を用いて、タール除去フィルタ35の構成について説明する。
図3は、
図2に示すタール除去フィルタ35の一例を示す図である。
【0055】
図3に示すように、タール除去フィルタ35は、水平方向に扁平な直方体状(トレイ状)である。なお、タール除去フィルタ35の形状は、直方体状には限られず、水平方向に扁平な形状であれば設置場所の状態によっては他の形状でもよい。
【0056】
タール除去フィルタ35は、枠体51と、上部金網52と、下部金網53と、充填材54とを有する。
【0057】
枠体51は、上面及び下面が開口された枠形状(扁平筒形状)である。枠体51の幅、高さ、奥行きは、例えば、幅×高さ×奥行き=610mm×40mm×300mmである。枠体51は、その一辺に、把持部52aを有する。把持部52aは、タール除去フィルタ35を棚段41から引き出す際に把持される。
【0058】
上部金網52は、枠体51の上面の開口部分に配置される。なお、上部金網52は、網目の大きさが例えば10mm×10mmのクリンプ金網である。ここで、上部金網52は、一端が枠体51に対して水平方向に軸支されて、他端が上下方向に開閉可能に保持されるものであってもよいし、枠体51から着脱可能なものであってもよい。
【0059】
下部金網53は、枠体51の下面の開口部分に配置される。下部金網53は、網目の大きさが、例えば、20mm×20mmのクリンプ金網53aと、20メッシュの金網53bとを有する。なお、20メッシュの金網53bの材質は、例えば、ステンレスである。下部金網53は、例えば、下方から、クリンプ金網53a、金網53bの順で積層された状態で、枠体51の下面の開口部分に配置される。なお、下部金網53は、枠体51と一体成型されたものでもよいし、枠体51から着脱可能であってもよい。
【0060】
充填材54は、後述のとおり、石灰石61と、消石灰62と、活性炭63と、くん炭64とを用いる。充填材54は、下部金網53を保持した枠体51の内部に満遍なく詰められる。なお、枠体51の内部に詰められる充填材54の高さは、例えば、枠体51の高さである40mm又はそれ以下となる。従来、充填材54としておがくず65を用いていたときの枠体51の高さは20mmであった。今回、枠体51の高さを40mmとすることで、枠体51の高さが20mmのときと比べて、より多くの充填材54を詰めることができるため、より多くのガス状のタール25を除去することができる。
【0061】
上述したように、下部金網53は、クリンプ金網53aの上方に20メッシュの金網53bを積層したものである。一方、充填材54は、例えば10メッシュの篩にかけて残った2mm角程度又はそれ以上の大きさである。一般に、20メッシュの金網の網目(目開き)は、最大でも1mm×1mm程度なので、枠体51の内部に詰められた充填材54は、下部金網53の網目よりも大きく、下部金網53から落下することは無い。なお、少なくとも充填材54の大きさが下部金網53の網目の大きさよりも大きければよいため、充填材54の大きさが下部金網53の網目の大きさよりも明らかに大きい場合は、充填材54は充填する前に篩にかけなくてもよい。また、下部金網53は、2枚の金網を積層したものには限られず、1枚の金網であっても、3枚以上の金網を積層したものであってもよい。
【0062】
このような構成のタール除去フィルタ35は、扁平なトレイ状である。したがって、フィルタ装置15を通過する可燃性ガス24が接触する面積は、十分に確保される。また、タール除去フィルタ35として、上記の充填材54を用いることで、可燃性ガス24に含まれるタールは、タール除去フィルタ35を通過する際に充填材54に付着し、フィルタ通過後の可燃性ガス24からタール25が除去される。なお、タール除去フィルタ35を扁平なトレイ状とすることで、タール25が充填材54に付着しても、圧力損失を抑制することができる。
【0063】
<性能試験>
次に、本実施形態のタール除去フィルタ35を用いた性能試験について説明する。
【0064】
図4は、
図1から
図3に示すタール除去フィルタ35に充填する充填材54の性能試験の概要を示す図である。なお、以下の性能試験の説明において、
図1から
図3に示す構成と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0065】
出願人は、
図2に示すフィルタ装置15を用いて、充填材54の性能試験を行った。性能試験に用いたフィルタ装置15は、
図2と同一の構成を有し、棚段41を6段有している。それぞれの棚段41にタール除去フィルタ35を配置したため、6段のタール除去フィルタ35が配置された。性能試験に用いたタール除去フィルタ35は、
図3と同一の構成を有し、幅×高さ×奥行き=610mm×40mm×300mmの枠体51に上部金網52と下部金網53が配置されている。すなわち、枠体51の高さは40mmであり、充填材54を詰め込み可能な容積はおよそ43.2Lとなった。
【0066】
性能試験では、
図4に示す6段のそれぞれのタール除去フィルタ35に、充填材54を充填して、入口のガス状のタール25(「ガス状タール25」とも称する。)の濃度と、出口のガス状タール25の濃度とをそれぞれ測定した。そして、各充填材54において、入口のガス状タール25の濃度と出口のガス状タール25の濃度との差から、何%ガス状タールが除去されたかを測定した。測定は、充填材54を充填してから、2時間後、5時間後、及び24時間後に行われた。
【0067】
図5は、
図4に示す性能試験に用いた充填材54の概要を示す図である。性能試験には、充填材54として、石灰石61と、消石灰62と、活性炭63と、くん炭64とが使用された。なお、比較例として、不図示のおがくず65も使用された。
【0068】
石灰石61は、鉱物である方解石・霰石、あるいは岩石である石灰岩・結晶質石灰岩(大理石)を、資源として扱うときの鉱石名または商品名である。石灰石61は、炭酸カルシウムCaCO
3で表されるカルシウムの炭酸塩である。
図5によれば、石灰石61は、粒径が5~13mmで、1回の必要量、言い換えると1台のフィルタ装置15に必要な1回の充填量は56kgであり、1回の必要量の参考価格は3,100円であった。
【0069】
消石灰62は、元々は石灰石からできたものであり、石灰石を砕いたものを炉で焼成し、加水して消化・熟成させたものである。消石灰62は、水酸化カルシウムCa(OH)
2で表されるカルシウムの水酸化物である。
図5によれば、消石灰62は、粒径が2~5mmで、1回の必要量は43kgであり、1回の必要量の参考価格は1,500円であった。
【0070】
活性炭63は、吸着効率を高めるために化学的または物理的な処理(活性化、賦活)を施した多孔質の炭素を主な成分とする物質である。活性炭63は、大部分の炭素の他、酸素、水素、カルシウムなどからなる多孔質の物質であり、多孔質であるために、体積の割に広い表面積を持つため、多くの物質を吸着する性質がある。このため、活性炭63は、脱臭や水質浄化や有害物質吸着除去などに用いられる。
図5によれば、活性炭63は、粒径が8mmで、1回の必要量は22kgであり、1回の必要量の参考価格は28,000円であった。
【0071】
くん炭64は、もみ殻や木屑を蒸し焼きにして炭化させたものであり、多孔性で通気性がよく、土壌改良材として用いられる。くん炭64は、米を精米するときに出る本来捨てられるもみ殻を使うため、低コストで作成することが可能である。くん炭64は、農協や、ホームセンター、農業資材を取り扱っている店舗で販売されていることが多い。なお、もみ殻(籾殻)とは、籾(籾米)の最も外側にある皮の部分のことである。
図5によれば、くん炭64は、粒径が1.7mm以上で、1回の必要量は4kgであり、1回の必要量の参考価格は1,200円であった。
【0072】
不図示のおがくず65は、不図示のチップ破砕棟で間伐材等の木材から木質チップ21を製造する際に発生するものである。おがくず65は、ナフタレンやフェナントレンなど、タール25に含まれる炭化水素を吸着する性質を有することが知られている。おがくず65は、例えば10メッシュの篩にかけて残った2mm角程度の大きさのものが用いられた。なお、おがくず65は、本来、木質チップ21の製造時に発生する廃棄物であるため、おがくず65には、コストは掛かっていない。
【0073】
図6は、
図4に示す性能試験の結果を示す図である。
図6は、
図5に示す各充填材54及び不図示のおがくず65について、2時間経過後の充填材のガス状タール25の除去比を表している。
図6において、縦軸は、ガス状タール25の除去比であり、横軸は、各充填材を示す。
図6は、
図5に示す各充填材54を充填してから、2時間経過後のおがくず65のガス状タール25の除去量を1とした場合の各充填材54の除去比を示している。
【0074】
図6に示すとおり、2時間経過後において、おがくず65のガス状タール25の除去量を1とした場合、石灰石61も1であり、ガス状タール25の除去量は、おがくず65とほぼ同量であった。一方、消石灰62は、約1.5であり、充填材54として、おがくず65よりも1.5倍優れた性能を示した。また、一般に除去率が良いとされている活性炭63は、約1.9であり、充填材54として、おがくず65よりも約2倍優れた性能を示した。そして、くん炭64は、約3.3となり、充填材54として、おがくず65よりも3倍以上も優れた性能を示し、性能試験で用いられた充填材54の中では、際立って高い性能を示した。
【0075】
図7は、
図5に示す充填材(トレイ)の試験前後の状態を示す図である。
図7において、左から、石灰石61、消石灰62、活性炭63、及びくん炭64についての試験前後の状態を示すものであり、上段は、試験前の充填材54の状態を示す。また、中段は、試験後のトレイ(上部金網52を取り外し充填材54を取り除いたタール除去フィルタ35の下部金網53の上面)の状態を示し、下段は、圧力損失(及び24時間後の圧力損失)を示す。なお、比較例として用いられたおがくず65は図示していない。
【0076】
図7に示すとおり、石灰石61を充填材54として用いたタール除去フィルタ35は、試験後のトレイがかなり汚れている。これは、
図6に示すように、石灰石61はおがくず65とガス状タール25の除去性能が同等ではあるが、石灰石61によっては、ガス状と粒子状のタール25がその他の充填材54よりも除去されなかったためと考えられる。そして、その結果、
図7に示すように、トレイの枠体51や下部金網53にタール25がこびりついてしまったのではないかと考えられる。石灰石61の圧力損失は、130~150Paであるが、24時間後においても150Paであり、圧力損失は、ほとんど変わらなかった。
【0077】
消石灰62を充填材54として用いたタール除去フィルタ35は、試験後のトレイは、比較的綺麗であるものの、縁が汚れている。これは、消石灰62によって、ガス状と粒子状のタール25が除去されてはいるものの、除去しきれずにトレイの枠体51や下部金網53の縁にタール25が付着してしまったものであると考えられる。但し、消石灰62の圧力損失は、310~330Paであるが、24時間後においては、2210Paとなり、圧力損失が非常に高い数値となってしまった。ここで、消石灰62は、アルカリ性であるが、タール25の成分は、木質バイオマスのガス化後のガス中に含まれる液体粒子に酢酸などの酸成分と一緒に含まれているものである。液体粒子に含まれるタール25を除去する原理は、アルカリ性の消石灰62と酸性の液体粒子との化学的な中和反応を期待したものであるため、圧力損失が高まったのは、消石灰62が中和反応により溶解し、充填材54同士が固着したためと考えられる。
【0078】
活性炭63を充填材54として用いたタール除去フィルタ35は、試験後のトレイは、かなり綺麗である。これは、活性炭63によって、ガス状と粒子状のタール25がかなり除去され、トレイの枠体51や下部金網53には、タール25はほとんど付着しなかったためであると考えられる。活性炭63の圧力損失は、190~200Paであるが、24時間後においても200Paであり、圧力損失は、ほとんど変わらなかった。
【0079】
くん炭64を充填材54として用いたタール除去フィルタ35は、試験後のトレイは、かなり綺麗である。これは、くん炭64によって、ガス状と粒子状のタール25がかなり除去され、トレイの枠体51や下部金網53には、タール25はほとんど付着しなかったためであると考えられる。くん炭64の圧力損失は、290~310Paであり、24時間後においては、330Paであったため、圧力損失の数値が若干高くなったものの、大きな差は無かった。
【0080】
上記の出願人の性能試験の結果により、
図6に示すガス状タール25の除去比の結果において、充填材54としてくん炭64を充填した場合、他の充填材54を充填した場合と比較して、際立って最も良好な結果を示した。また、くん炭64は、
図5に示す表から、最も軽量で、最も安価な充填材54である。また、
図7に示す表から、トレイの汚れもほとんどなく、圧力損失もほとんど変わらない。このため、本実施形態のタール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15において、充填材54として最も優れているのはくん炭64であることが分かった。
【0081】
また、
図6に示すガス状タール25の除去比の結果において、充填材54として活性炭63を充填した場合、くん炭64には及ばないものの、他の充填材54と比べて良好な結果を示している。また、活性炭63は、
図5に示す表から、価格は高価ではあるものの、比較的軽量な充填材54である。また、
図7に示す表から、トレイの汚れもほとんどなく、圧力損失もほとんど変わらない。このため、本実施形態のタール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15において、性能はくん炭64には及ばず、価格が高価であることが難点ではあるものの、活性炭63も十分充填材54として用いることができることが分かった。
【0082】
また、
図6に示すガス状タール25の除去比の結果において、充填材54として消石灰62を充填した場合、おがくず65や石灰石61よりも良好な結果を示している。また、消石灰62は、
図5に示す表から、重量は若干重たいものの、価格は安価である。また、
図7に示す表から、トレイは縁が汚れる程度である。但し、24時間後の圧力損失が非常に高い数値となっている。このため、本実施形態のタール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15において、重量が若干重たく、圧力損失に難点があるものの、性能としては、消石灰62も十分充填材54として用いることができることが分かった。
【0083】
一方、
図6に示すガス状タール25の除去比の結果において、充填材54として石灰石61を充填した場合、おがくず65と結果はほとんど変わらなかった。また、石灰石61は、
図5に示す表から、価格は若干高価であり、重量も重たい。また、
図7に示す表から、圧力損失はほとんど変わらないものの、トレイはかなり汚れている。このため、本実施形態のタール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15において、おがくず65の代わりに石灰石61を充填材54として用いることは難しいことが分かった。
【0084】
<おがくずを用いた場合>
次に、比較例として、タール除去フィルタの充填材54としておがくずを用いた場合の性能確認について説明する。
【0085】
図8は、比較例としてタール除去フィルタ35’に充填する充填材54におがくず65を用いた場合の性能確認の概要を示す図である。なお、以下の性能試験の説明において、
図1から
図3に示す構成と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0086】
出願人は、
図8に示すフィルタ装置15’を用いて、充填材54としておがくず65を用いた場合の性能確認を行った。上述のとおり、木質チップ21の製造時に発生するおがくず65は、タール25を吸着する性質を有するため、出願人は、おがくず65を充填材54として用いて性能確認を行った。
図8に示すとおり、タール25を含むガスは、おがくず65を通過して後段へと流れるため、おがくず65でタール25が、吸着・除去される。
【0087】
図8に示すフィルタ装置15’において、タール除去フィルタ35’における枠体51の高さは20mmである。そして、フィルタ装置15’は、棚段41を7段有している。それぞれの棚段41にタール除去フィルタ35’を配置したため、7段のタール除去フィルタ35’が配置された。
図8に示す性能確認に用いたタール除去フィルタ35’は、幅×高さ×奥行き=610mm×20mm×300mmの枠体51に上部金網52と下部金網53が配置されている。
【0088】
出願人は、
図1に示すガス化発電システム1において、15に示す位置に、
図8に示すフィルタ装置15’を設置してガス化発電システム1を運転し、タール除去フィルタ35’としての性能と、清掃頻度及び発電量の変化とを確認した。
【0089】
図9は、
図8に示す性能確認の結果(1)を示す図である。
図9では、おがくず65を充填材54として用いた場合のタール除去フィルタ35’としての性能を確認した結果である。
【0090】
図9において、おがくず65の、左から、使用前、2日経過、及び4日経過の、上から、タールの付着状況、色差(ΔE)、タール付着量(g-tar/g-sawdust)、及び圧力損失(Pa)が示されている。なお、色差ΔEは、色空間上の2点間距離(サンプル試料と白紙との差)であり、圧力損失は、参考として、HEPAフィルタが270Paである。以下、一部単位を省略して記載する。
【0091】
使用前のおがくず65は、タール25が付着しておらず綺麗な木の色である。そして、使用前のおがくず65の色差は61であり、圧力損失は120であった。
【0092】
2日経過のおがくず65は、タール25が少し付着したためこげ茶色になっていた。そして、2日経過のおがくず65は、色差は76であり、タール付着量は0.47g-tar/g-sawdustであり、圧力損失は120であった。
【0093】
4日経過のおがくず65は、タール25が多く付着したため黒くなっていた。そして、4日経過のおがくず65は、色差は84であり、タール付着量は0.91g-tar/g-sawdustであり、圧力損失は130であった。
【0094】
上記の性能確認の結果から、日数が経過するにつれて、色差、タール吸着量が増加しており、タールの吸着を確認することができた。また、圧力損失についても、HEPAフィルタの初期圧力損失が270Paであるのに対して、120~130PaとHEPAフィルタよりも低い値で安定して運転されたことが確認できた。この結果から、おがくず65を充填材54として用いたタール除去フィルタ35’によれば、タール25の除去が可能であり、圧力損失において、HEPAフィルタよりも優位であることが分かった。
【0095】
図10は、
図8に示す性能確認の結果(2)を示す図である。
図10の左側は、
図1に示すガス化発電システム1において、15に示す位置に、
図8に示すフィルタ装置15’を設置する前の清掃頻度(上段)と発電量(下段)とを示す。
図10の右側は、
図1に示すガス化発電システム1において、15に示す位置に、
図8に示すフィルタ装置15’を設置した後の清掃頻度(上段)と発電量(下段)とを示す。
【0096】
図10の上段の表において、タール25の清掃を行った日が○印で示されている。フィルタ装置15’を設置する前の清掃頻度を示す左側では、ガスエンジン18は、毎週清掃が行われており、ブースターファン16は、4週間に1回清掃が行われている。一方、フィルタ装置15’を設置した後の清掃頻度を示す右側では、ガスエンジン18は、約2週間に1回清掃が行われており、ブースターファン16は、約12週間に1回清掃が行われている。このため、おがくず65を充填材54として用いたタール除去フィルタ35’が配置されたフィルタ装置15’を設置したことで、ガスエンジン18及びブースターファン16のいずれも清掃頻度が減少したことが確認できた。
【0097】
図10の下段のグラフにおいて、1日の発電量が示されている。縦軸が1日当たりの発電量であり、横軸が日付である。グラフが高いほど、その日の発電量が多いことになる。例えば、グラフ中の最大値は、ガス化発電システム1がフル稼働して、最大発電量まで発電したことを示している。すなわち、グラフの占有する面積が大きいほど、発電量が多いことになる。発電量が多ければ、その分収入も多くなるため、発電効率を上げることは、プラントにとって重要課題である。この点、おがくず65を充填材54として用いたタール除去フィルタ35’が配置されたフィルタ装置15’を設置したことで、ガス化発電システム1の清掃頻度が減り、フル稼働する時間が長くなったため、発電量が増加したことが確認できた。なお、下段の左右両グラフの中央付近の発電量が少ないのは、ガス化発電システム1において本発明とは関連のない設備のメンテナンスを行った関係で、数日間稼働を停止したことによるものである。
【0098】
<一実施形態の作用効果>
以上、
図1から
図7に示す実施形態によれば、タール除去フィルタ35の充填材54として、消石灰62、活性炭63、又はくん炭64を用いれば、これらを用いないよりも多くのガス状のタール25を除去することができる。
【0099】
また、
図8から
図10に示す性能確認の結果から、おがくず65を充填材54として用いたタール除去フィルタ35’を用いることで、これを用いない場合よりも、タール25を多く除去できることが分かった。そして、これにより、ガス化発電システム1の清掃頻度が減少し、発電量が増加することが分かった。
【0100】
一方、
図4から
図7に示す性能試験の結果から、
図1から
図7で説明した実施形態で充填材54として用いた消石灰62、活性炭63、及びくん炭64は、おがくず65よりもガス状のタール25の除去性能が良好であることが分かった。このため、タール除去フィルタ35の充填材54としておがくず65に変えて消石灰62、活性炭63、又はくん炭64を用いれば、上記の
図8から
図10に示す結果よりも良好にガス状のタール25を除去することができる。
【0101】
このため、
図1から
図7で説明した実施形態によれば、おがくず65よりもガス状のタール25の除去性能が良いフィルタ充填材54を用いることにより、ガスエンジン18のターボ及びブースターファン16の清掃頻度を従来よりも低減させることができる。これにより、ガス化発電システム1における発電効率を従来よりも向上させることができる。すなわち、タール除去フィルタ35の充填材54として消石灰62、活性炭63、又はくん炭64を用いれば、充填材54としておがくず65を用いたときよりもガス化発電システム1の清掃頻度を低減させることができ、発電効率を向上させることができる。
【0102】
<実施形態の補足事項>
以上、
図1から
図7に示す実施形態によれば、ファン16の上流にフィルタ装置15が設けられている。しかし、HEPAフィルタ17に代えて、又はHEPAフィルタ17と併用してファン16の下流にもフィルタ装置15が設けられてもよい。また、フィルタ装置15は、直列又は並列に複数設けられてもよい。これにより、ファン16やHEPAフィルタ17やガスエンジン18の清掃等のメンテナンス頻度がさらに低減され、一層発電効率を向上させることができる。
【0103】
なお、
図1から
図7に示した実施形態では、タール除去フィルタ35を複数有するフィルタ装置15を、ガスエンジン18を用いたバイオマス発電システムに利用することについて説明したが、これには限られない。フィルタ装置15は、ガスタービンを用いたバイオマス発電システムに用いてもよい。この場合も、
図1から
図7に示した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0104】
また、
図1から
図7に示した実施形態では、消石灰62、活性炭63、又はくん炭64のいずれかを用いていたが、これらを2つ以上用いてもよい。あるいは、フィルタ装置15が、直列又は並列に複数設けられ、それぞれのフィルタ装置15に、消石灰62、活性炭63、又はくん炭64のうちのそれぞれ別の充填材54を1つ又は2つ以上用いてもよい。
【0105】
また、
図1から
図7に示した実施形態では、消石灰62、活性炭63、又はくん炭64のいずれかを用いていたが、おがくず65を充填材54として用いたものを併用してもよい。あるいは、消石灰62、活性炭63、又はくん炭64が用いられたフィルタ装置15とおがくず65を用いたフィルタ装置15’とを、直列又は並列に複数併用してもよい。
【0106】
また、タール25は、元々は木質バイオマスであるため、発熱量を有するものであるが、配管等に付着して問題を起こすものであるため、設備の定期点検時に除去されて燃焼焼却処分していたものである。
図1から
図7に示すタール除去フィルタ35では、タール25は充填材54に付着してブリケット状に固化される。したがって、ブリケット状に固化されたタール25及び充填材54は、タール除去フィルタ35のトレイ(タール除去フィルタ35の下部金網53)から取り外されて、木質チップ21とともにガス化炉12の燃料として投入することができる。
【0107】
なお、タール25が充填材54に付着したときにブリケット状に固化されない場合は、ブリケットマシーン等でブリケット状にして木質チップ21とともにガス化炉12の燃料として投入してもよい。これにより、結果的に、廃棄物である充填材54の量を抑制することができ、また、タール25もガス化炉12の燃料として再利用することができる。その結果、
図1から
図7に示す充填材54を用いたタール除去フィルタ35を用いることで、バイオマス発電システムにおいて、従来よりも、廃棄物の量を抑制させることができるとともに、発電効率を向上させることができる。
【0108】
また、タール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15が用いられる施設は、ガス化発電システム1を始めとするバイオマス発電システムに限られない。例えば、タール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15は、ごみ、汚泥、又は木材等の有機物を炭化炉で熱分解した際に、炭化物とともにタール25を有するガスが発生するような炭化の施設に用いられてもよい。また、自動車会社の実験施設等であって、エンジン排ガスを燃焼してVOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds)を除去する際にタール25が発生するような施設などに用いられてもよい。すなわち、タール除去フィルタ35を有するフィルタ装置15は、タール25を排出する施設であれば、バイオマス発電システムに限らず他の施設やシステムでも用いることが可能である。
【0109】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0110】
1…ガス化発電システム;11…ホッパー;12…ガス化炉;13…生成ガス冷却器;14…湿式電気集塵機;15,15’…フィルタ装置;16…ブースターファン(ファン);17…HEPAフィルタ;18…ガスエンジン;19…熱交換器;20…排気塔;21…木質チップ;23…ガス化剤;24…可燃性ガス(燃料ガス);25…タール;26…タール含有水;27…排気ガス;28…温水;31…装置本体;33…フィルタ設置枠;34…扉;35、35’…タール除去フィルタ;36…流入口;37…送出口;41…棚段;42…整流板;51…枠体;52…上部金網;52a…把持部;53…下部金網;53a…クリンプ金網;53b…金網;54…充填材;61…石灰石;62…消石灰;63…活性炭;64…くん炭;65…おがくず