(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157071
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】研磨パッド及びウェハ研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20221006BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221006BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20221006BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B24D11/00 E
B24B37/00 H
B24B37/24 B
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061094
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 将太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇将
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正俊
【テーマコード(参考)】
3C063
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB05
3C063AB07
3C063BA02
3C063BB01
3C063BC03
3C063BC09
3C063CC17
3C063EE10
3C158AA09
3C158CB01
3C158CB03
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158EB09
3C158EB10
3C158EB20
3C158EB28
3C158ED23
5F057AA03
5F057AA24
5F057AA25
5F057BA12
5F057BA15
5F057BB05
5F057BB06
5F057BB09
5F057BB19
5F057CA11
5F057DA03
5F057EA31
5F057EA32
5F057EB02
5F057EB10
5F057EB13
5F057EB30
(57)【要約】
【課題】被研磨物を高い効率で研磨できるとともに、被研磨物に研磨不良が生じ難い研磨パッドを提供する。
【解決手段】本発明の研磨パッドは、研磨液の存在下において、被研磨物を研磨する研磨面を構成し、バインダ樹脂と無数の研磨粒子とを含む研磨層を有する。バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデンからなる。未使用状態での引張強度である初期引張強度と、未使用状態からpH1の強酸性液に浸漬した後の引張強度である処理後引張強度との比が52%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨液の存在下において、被研磨物を研磨する研磨面を構成し、バインダ樹脂と無数の研磨粒子とを含む研磨層を有する研磨パッドであって、
前記バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデンからなり、
未使用状態での引張強度である初期引張強度と、前記未使用状態からpH1の強酸性液に浸漬した後の引張強度である処理後引張強度との比が52%以上であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記処理後引張強度は、前記未使用状態の前記研磨パッドを25°Cの前記強酸性液に60時間浸漬して評価している請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記強酸性液は、4質量%の過マンガン酸カリウム水溶液に硝酸を加えてpH1に調整されている請求項1又は2記載の研磨パッド。
【請求項4】
被研磨物と研磨パッドと研磨液とを用意する第1工程と、
前記被研磨物と前記研磨パッドとの間に前記研磨液を供給しつつ、前記被研磨物における被研磨面を前記研磨パッドの研磨面により研磨する第2工程とを備え、
前記研磨パッドは、前記研磨面を構成し、ポリフッ化ビニリデンと無数の研磨粒子とを含む研磨層を有し、
前記研磨パッドは、未使用状態での引張強度である初期引張強度と、前記未使用状態からpH1の強酸性液に浸漬した後の引張強度である処理後引張強度との比が52%以上であり、
前記第2工程では、前記被研磨面に前記研磨面を所定押圧力で押圧し、かつ前記被研磨物及び前記研磨パッドの少なくとも一方を相対回転させることを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッド及びウェハ研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
定盤とキャリヤとを備えたウェハ研磨装置が知られている。定盤は、第1軸心と直交する方向に延びる第1固定面を有し、第1軸心周りに回転される。キャリヤは、第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて第1固定面と対面する第2固定面を有し、第2軸心周りに回転される。
【0003】
このウェハ研磨装置によりSiC、GaN等の平板状のウェハを研磨する場合、研磨面と、研磨面とは逆を向き、研磨面に対して厚さ方向に離隔した被固定面とを有する研磨体が用いられる。定盤の第1固定面に研磨体の被固定面が固定され、キャリヤの第2固定面に平板状のウェハが固定される。そして、研磨液の存在下で研磨体とウェハとを所定の面圧の下で当接しながら、定盤とキャリヤとを回転させる。
【0004】
研磨体が一般的な不織布や硬質ウレタンからなる場合、研磨粒子を含む研磨液が用いられる。また、研磨体が特許文献1~3に開示されているように、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有しているものである場合には、研磨粒子を含まない研磨液を採用できる。こうして、ウェハの研磨を行うことができる。研磨液がアルカリ等の薬剤を含む場合には、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)工程でウェハが研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4266579号公報
【特許文献2】特許第5511266号公報
【特許文献3】特許第6636634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発明者らの試験によれば、被研磨物が窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物である場合、これらは硬度が高く、化学的に安定していることから、従来の研磨パッドでは、高研磨能率及び高面品位で研磨を行えず、研磨不良が生じるおそれがあった。また、研磨液が強酸性である場合には、研磨パッドが劣化し易く、やはり研磨不良が生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、被研磨物を高い効率で研磨できるとともに、被研磨物に研磨不良が生じ難い研磨パッドを提供することを解決すべき課題としている。また、本発明は、被研磨物を高い効率で研磨できるとともに、被研磨物に研磨不良が生じ難い研磨方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の研磨パッドは、研磨液の存在下において、被研磨物を研磨する研磨面を構成し、バインダ樹脂と無数の研磨粒子とを含む研磨層を有する研磨パッドであって、
前記バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデンからなり、
未使用状態での引張強度である初期引張強度と、前記未使用状態からpH1の強酸性液に浸漬した後の引張強度である処理後引張強度との比が52%以上であることを特徴とする。
【0009】
発明者らの試験によれば、本発明の研磨パッドは、バインダ樹脂がポリフッ化ビニリデンからなるため、例え被研磨物が難加工材であっても、高研磨能率及び高面品位で研磨を行うことが可能である。また、この研磨パッドは、初期引張強度と処理後引張強度との比が52%以上であるため、例え研磨液が強酸性であっても、研磨パッドが劣化し難い。
【0010】
本発明の研磨方法は、被研磨物と研磨パッドと研磨液とを用意する第1工程と、
前記被研磨物と前記研磨パッドとの間に前記研磨液を供給しつつ、前記被研磨物における被研磨面を前記研磨パッドの研磨面により研磨する第2工程とを備え、
前記研磨パッドは、前記研磨面を構成し、ポリフッ化ビニリデンと無数の研磨粒子とを含む研磨層を有し、
前記研磨パッドは、未使用状態での引張強度である初期引張強度と、前記未使用状態からpH1の強酸性液に浸漬した後の引張強度である処理後引張強度との比が52%以上であり、
前記第2工程では、前記被研磨面に前記研磨面を所定押圧力で押圧し、かつ前記被研磨物及び前記研磨パッドの少なくとも一方を相対回転させることを特徴とする。
【0011】
被研磨物はSiC等であってもよいが、発明者らは被研磨物がGaN、AlN等の窒化物である場合に本発明の作用効果を確認した。また、研磨液はpH1超~14未満であってもよいが、発明者らは研磨液がpH1の強酸性である場合に本発明の作用効果を確認した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の研磨パッドは、被研磨物を高い効率で研磨できるとともに、被研磨物に研磨不良が生じ難い。また、本発明の研磨方法は、被研磨物を高い効率で研磨できるとともに、被研磨物に研磨不良が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1の研磨パッドの模式拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の研磨パッドは、バインダ樹脂と無数の研磨粒子とを含む研磨層を有している。研磨層は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有する。この研磨層が研磨面を構成する。
【0015】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を採用する。研磨粒子としては、シリカ、セリア、アルミナ、ダイヤモンド、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、炭化ホウ素、酸化鉄等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0016】
本発明の研磨パッドは、未使用状態での引張強度である初期引張強度と、未使用状態からpH1の強酸性液に浸漬した後の引張強度である処理後引張強度との比が52%以上である。初期引張強度と処理後引張強度との比は高いことが望ましい。発明者らの認識によれば、初期引張強度と処理後引張強度との比は60%以上であれば、本発明の目的を達成可能である。
【0017】
処理後引張強度は、未使用状態の研磨パッドを25°Cの強酸性液に60時間浸漬して評価できる。発明者らはこの基準によって本発明の作用効果を確認した。
【0018】
強酸性液は、4質量%の過マンガン酸カリウム水溶液に硝酸を加えてpH1に調整され得る。発明者らはこの強酸性液によって本発明の作用効果を確認した。
【0019】
本発明の研磨パッドは以下の第1~3工程を備えた製造方法によって製造可能である。第1工程では、PVDFからなるバインダ樹脂と、研磨粒子と、溶剤とを含むペーストを用意する。第2工程では、ペーストをシート状の成形体に成形する。第3工程では、成形体を置換液中に浸漬し、成形体中の溶剤を置換液で置換して無数の気孔を形成する。
【0020】
ペーストは、バインダ樹脂、無数の研磨粒子の他、溶剤を含む。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等を採用することができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0021】
第2工程において、成形体がゲル化するまで成形体を養生させることが好ましい。この場合、母材が網状となり、初期引張強度と処理後引張強度との比が高くなり易い。発明者らは、バインダ樹脂としてPVDFを採用し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを採用した場合にこの傾向を確認した。
【0022】
また、ペーストは、炭酸ナトリウム、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ微粒子を含んでいてもよい。また、ペーストは、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、炭化水素系撥水剤及び金属化合物系撥水剤等の撥水剤を含んでもよい。さらに、ペーストは、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ顔料、多環顔料等の有機顔料等の顔料を含んでもよい。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0023】
研磨液は純水であってもよく、油性であってもよく、酸性又はアルカリ性の薬品を含むものであってもよい。研磨液は研磨粒子を含んでもよい。
【0024】
(実施例・比較例)
以下、本発明を具体化した実施例1と、比較例1、2とを説明する。
【0025】
実施例1及び比較例1の研磨パッドを以下の第1~3工程によって製造する。まず、第1工程として、以下のバインダ樹脂、溶剤及び研磨粒子を準備した。
(バインダ樹脂)
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
PES(ポリエーテルサルフォン)
(溶剤)
N-メチル-2-ピロリドン
(研磨粒子)
シリカ(SiO2)(平均粒径:0.3μm)
【0026】
表1に示すように、実施例1ではバインダ樹脂をPVDFとし、比較例1ではバインダ樹脂をPESとした。また、実施例1では、バインダ樹脂:15質量%、研磨粒子:15質量%及び溶剤:70質量%を混合し、ペーストとした。比較例1では、バインダ樹脂:25質量%、研磨粒子:25質量%及び溶剤:50質量%を混合し、ペーストとした。
【0027】
【0028】
第2工程として、上記第1工程で得られたペーストを用い、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形する。この成形方法についてはある程度厚みを揃えることができればこれに限られない。この第2工程において、成形体がゲル化するまで成形体を養生させる
【0029】
第3工程として、成形体を置換液中に浸漬した。そして、所定時間経過後に置換液からそれぞれを取り出し、乾燥させた。この間、発明者の観察によれば、各成形体中の溶媒が置換液と置換され、微細な気孔を生じる。
【0030】
所定時間の経過後、成形体を置換液から引き揚げた。成形体は、全ての溶媒が置換液に置換されて固化し、固化体となっている。固化体を乾燥し、所定の厚みまで研削し、実施例1及び比較例1の研磨パッド(直径30cm)を得た。
【0031】
実施例1及び比較例1の各研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有している。特に、実施例1の研磨パッドは、
図1に示すように、母材1が網状になっており、母材1間の気孔3内に研磨粒子5が保持されている。
【0032】
比較例2の研磨パッドは遊離砥粒研磨に使用される硬質系パッドである。この研磨パッドは、不織布からなる公知のもの(ニッタ・ハース製 品番SUBA600)であり、研磨砥粒は含んでいない。
【0033】
(試験)
ウェハ研磨装置(Engis EJW-380)と、実施例1及び比較例1、2の研磨パッドと、GaNベアウェハ(2inch)とを用意し、以下の条件でGaNベアウェハを研磨した。
研磨液の流量:10mL/分
荷重:85kPa
定盤の回転数:60rpm
キャリアの回転数:60rpm
加工時間:60分
研磨液:実施例1及び比較例1においては、4質量%の過マンガン酸カリウム水溶液に硝酸を加えてpH1に調整した研磨液(25°C)を用いた。比較例2においては、その研磨液に研磨粒子としてシリカ(平均粒径:0.3μm)を5質量%を加えて研磨液(25°C)とした。
【0034】
GaNベアウェハと各研磨パッドとの間に研磨液を供給しつつ、定盤とキャリヤとを回転させることにより、GaNベアウェハを各研磨パッドの研磨面により研磨した。
【0035】
そして、研磨レート(nm/時)についてはキーエンス社製「SI-FR80R」により、研磨後の面粗さSa(nm)についてはNikon社製「BW-D501」により、スクラッチの有無についてはLesertec社製「OPTELICS HYBRID」により、それぞれの測定を行った。
【0036】
また、未使用状態と研磨試験後とにおいて、実施例1及び比較例1、2の研磨パッドから
図2に示す試験片15を切り出した。各試験片15の図示の寸法a~dは以下のとおりである。
a=15(mm)
b=20(mm)
c=60(mm)
d=10(mm)
厚み=2.5(mm)
【0037】
下記の条件で各試験片の引張強度(最大降伏荷重÷破断面積)(MPa)を測定した。
試験機:万能試験機(インストロン5569)
試験条件:JIS K6550準拠
【0038】
そして、未使用状態での引張強度である初期引張強度と、研磨試験後の引張強度である処理後引張強度との比(%)を求めた。すなわち、強酸性液は研磨液である。
【0039】
また、研磨試験後の研磨パッドを目視で確認し、樹脂の劣化が見られる場合は×、樹脂劣化が見られない場合は〇とし、樹脂の劣化度を評価した。
【0040】
研磨レート、面粗さSa、スクラッチの有無、引張強度比及び劣化度を表2に示す。
【0041】
【0042】
表2より、実施例1及び比較例1の研磨パッドは、GaNベアウェハを高い効率及び高面品位で研磨できることがわかる。また、実施例1の研磨パッドは、研磨液が強酸性であっても、研磨パッドが劣化し難い。実施例1の研磨パッドは、バインダ樹脂がポリフッ化ビニリデンからなり、初期引張強度と処理後引張強度との比が52%以上であるためである。このため、実施例1の研磨パッドは、GaNベアウェハに研磨不良が生じ難いことがわかる。
【0043】
以上において、本発明を実施例1に即して説明したが、本発明は上記実施例1に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0044】
例えば、実施例1ではGaNベアウェハを研磨したが、本発明の研磨パッド及びウェハ研磨方法は、AlNやAlGaNからなるウェハやSi3N4等の他の窒化物を研磨する場合にも適用可能である。
【0045】
また、本発明の研磨パッド及びウェハ研磨方法は、本発明の研磨パッドの高い耐酸性により、ウェハの外周縁部等、被研磨物の平滑でない部分を研磨する場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は半導体デバイスの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…母材
3…気孔
5…研磨粒子