(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157084
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】スライディングゲート
(51)【国際特許分類】
B22D 41/28 20060101AFI20221006BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20221006BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B22D41/28
B22D11/10 340A
F27D3/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061116
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 広大
【テーマコード(参考)】
4E014
4K055
【Fターム(参考)】
4E014MA01
4E014MA03
4E014MA04
4E014MA05
4E014MA06
4E014MA11
4K055AA04
4K055JA07
4K055JA13
4K055JA18
(57)【要約】
【課題】溶融金属の流量調整に用いられるスライディングゲートにおいて、溶融金属の旋回性を維持しつつ、製造容易性と使用時の耐久性を向上させることができる、スライディングゲートを提供する。
【解決手段】流路軸線方向10を摺動面に投影した摺動面流路軸線方向31が、プレート相互間で相違し、下流に行くに従って時計回り方向あるいは反時計回り方向に変化することに加えて、それぞれのプレートにおける流路孔6は、上流側表面開孔8uの面積が、下流側表面開孔8dの面積より大きく、摺動面垂直下流方向32に見たとき、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dとが異なった位置に配置されていることにより、スライディングゲート1の流路孔6内及び下流側の注入管11内においても旋回流を形成するとともに、製造容易性と使用時の耐久性を向上させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の流量調整に用いられるスライディングゲートであって、スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された複数のプレートを有し、前記プレートのうちの少なくとも1枚のプレートは摺動が可能なスライド板であり、
それぞれのプレートにおける流路孔は、プレートの表面のうち、通過する溶融金属の上流側に位置する上流側表面に上流側表面開孔を形成し、下流側に位置する下流側表面に下流側表面開孔を形成し、上流側表面開孔の図形重心から下流側表面開孔の図形重心に向く方向を流路軸線方向とし、
それぞれのプレートにおける流路孔は、上流側表面開孔の面積が、下流側表面開孔の面積より大きく、プレートの摺動面に垂直な下流方向(以下「摺動面垂直下流方向」という。)に見たとき、上流側表面開孔の図形重心と下流側表面開孔の図形重心とが異なった位置に配置されており、
摺動面垂直下流方向と、プレートにおける流路孔の最長側壁線方向との間の角度(以下「最長側壁線傾斜角度α」という。)は5°以上75°以下であり、
前記流路軸線方向を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向と呼び、スライディングゲートを閉とするときに前記スライド板を摺動する方向を摺動閉方向と呼び、摺動閉方向に対し、前記摺動面流路軸線方向が、前記摺動面垂直下流方向に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、当該流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付け、流路軸線回転角度差ΔθN=θN-θN+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又はΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることを特徴とする、スライディングゲート。
ただし、最長側壁線方向とは、前記摺動面垂直下流方向に平行かつ前記上流側表面開孔の図形重心を含む断面において、流路孔の側壁が最も長くなる断面において、当該最も長くなった側壁線が向かう方向を意味する。
【請求項2】
前記摺動面垂直下流方向に見たとき、前記下流側表面開孔の図形が前記上流側表面開孔の図形の内側に収まることを特徴とする、請求項1に記載のスライディングゲート。
【請求項3】
スライディングゲートを形成するプレートの数が2枚もしくは3枚でありスライド板が1枚であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のスライディングゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼等の溶融金属の連続鋳造におけるレードルからタンディッシュあるいはタンディッシュからモールドへの溶融金属の注入過程において、溶融金属の流量を調整するスライディングゲートに関する。具体的には、スライディングゲートを利用して、溶融金属流を旋回させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼等の溶融金属の連続鋳造において、
図1に示すように、レードル14からタンディッシュ15に溶融金属21を注入し、さらにタンディッシュ15から鋳型16に溶融金属21を注入する。それぞれの溶融金属21の注入過程において、溶融金属21の流量を調整するために、スライディングゲート1が用いられる。スライディングゲート1は、通常2枚又は3枚のプレート2からなる。
図7は3枚プレートの場合を示している。それぞれのプレート2には溶融金属が通過する流路孔6が設けられる。接触するプレート相互間で摺動が可能であり、プレートのうちの1枚は摺動面30に沿って移動可能に設けられ、スライド板4と呼ばれる。残りのプレート2はスライディングゲート1が取り付けられるレードル14あるいはタンディッシュ15に対して移動せず、固定板(上固定板3、下固定板5)と呼ばれる。スライド板4を摺動することにより、隣接するプレート間の流路孔6の重なりである開孔部の開孔面積を調整し、これによって溶融金属の流量調整を行うとともに、スライディングゲートの開閉を行うことができる。
図7は開孔部が全開の場合を示している。
【0003】
図1にあるように、レードル14底部に設けられたスライディングゲート1の下部には、ロングノズル12等の注入管11が設けられ、スライディングゲート1から流出した溶融金属は、タンディッシュ15に注入するに際し、注入管11内部の流路を経由してタンディッシュ内に導かれる。また、タンディッシュ15底部に設けられたスライディングゲート1の下部には、浸漬ノズル13等の注入管11が設けられ、スライディングゲート1から流出した溶融金属は、鋳型内に注入するに際し、注入管11内部の流路を経由して鋳型内に導かれる。
【0004】
レードル14底部のスライディングゲート1から流出する溶融金属は、スライディングゲート通過時点ですでに下流側に向けた流速を有しており、注入管中を落下する過程でさらに溶融金属の流速が増大する。タンディッシュ15内に注がれた溶融金属21は、タンディッシュ底部を高速度で通過する流れを形成し、溶融金属中に含まれる非金属介在物がタンディッシュ内で十分に浮上分離する機会を得ることができず、非金属介在物が溶融金属とともに直接鋳型内に流入することとなり、鋳片の品質低下の原因となる。
【0005】
溶融金属の注入管11において、内部の溶融金属流を旋回させると、流動する溶融金属の運動エネルギーの一部を旋回流速に分配し、下方に向かう溶融金属流速を低減することができる。これにより、注入管11からタンディッシュ内に吐出する下方に向けた流れの最大流速が低下し、吐出流によるタンディッシュ内流動の乱れを抑制できることが知られている。
【0006】
特許文献1に記載の発明は、溶融金属の流量調整に用いられるスライディングゲートにおいて、それぞれのプレートにおける流路孔の流路軸線方向と摺動面垂直下流方向との間の流路軸線傾斜角度が5°以上75°以下となるように流路に傾斜を設け、流路軸線方向を摺動面に投影した摺動面流路軸線方向が、プレート相互間で相違し、下流に行くに従って時計回り方向あるいは反時計回り方向に変化する。これにより、スライディングゲートの流路孔内に旋回流を形成し、スライディングゲート下流側の注入管内においても旋回流を形成するため、従来のスライディングゲートと比較し、下流方向に向かう流速を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2019/198745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の発明により、溶融金属を注入する注入管内において十分な強さの旋回流を、注入管上部に配設されたスライディングゲートの構造を工夫することにより、コンパクトかつ平易な機構で、流路の閉塞リスクを増すことなく付与することが可能となった。一方、特許文献1に記載のような、注入ノズル内の溶融金属に旋回流を付与するスライディングゲートにおいて、溶融金属の旋回性を維持しつつ、使用時の耐久性、さらには製造容易性を向上させることが要請されている。
【0009】
本発明は、溶融金属の旋回性を維持しつつ、製造容易性と使用時の耐久性を向上させることができる、スライディングゲートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]溶融金属の流量調整に用いられるスライディングゲートであって、スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された複数のプレートを有し、前記プレートのうちの少なくとも1枚のプレートは摺動が可能なスライド板であり、
それぞれのプレートにおける流路孔は、プレートの表面のうち、通過する溶融金属の上流側に位置する上流側表面に上流側表面開孔を形成し、下流側に位置する下流側表面に下流側表面開孔を形成し、上流側表面開孔の図形重心から下流側表面開孔の図形重心に向く方向を流路軸線方向とし、
それぞれのプレートにおける流路孔は、上流側表面開孔の面積が、下流側表面開孔の面積より大きく、プレートの摺動面に垂直な下流方向(以下「摺動面垂直下流方向」という。)に見たとき、上流側表面開孔の図形重心と下流側表面開孔の図形重心とが異なった位置に配置されており、
摺動面垂直下流方向と、プレートにおける流路孔の最長側壁線方向との間の角度(以下「最長側壁線傾斜角度α」という。)は5°以上75°以下であり、
前記流路軸線方向を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向と呼び、スライディングゲートを閉とするときに前記スライド板を摺動する方向を摺動閉方向と呼び、摺動閉方向に対し、前記摺動面流路軸線方向が、前記摺動面垂直下流方向に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、当該流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付け、流路軸線回転角度差ΔθN=θN-θN+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又はΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることを特徴とする、スライディングゲート。
ただし、最長側壁線方向とは、前記摺動面垂直下流方向に平行かつ前記上流側表面開孔の図形重心を含む断面において、流路孔の側壁が最も長くなる断面において、当該最も長くなった側壁線が向かう方向を意味する。
[2]前記摺動面垂直下流方向に見たとき、前記下流側表面開孔の図形が前記上流側表面開孔の図形の内側に収まることを特徴とする、[1]に記載のスライディングゲート。
[3]スライディングゲートを形成するプレートの数が2枚もしくは3枚でありスライド板が1枚であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のスライディングゲート。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、溶融金属の流量調整に用いられるスライディングゲートにおいて、流路軸線方向を摺動面に投影した摺動面流路軸線方向が、プレート相互間で相違し、下流に行くに従って時計回り方向あるいは反時計回り方向に変化することに加えて、それぞれのプレートにおける流路孔は、上流側表面開孔の面積が、下流側表面開孔の面積より大きく、摺動面垂直下流方向に見たとき、上流側表面開孔の図形重心と下流側表面開孔の図形重心とが異なった位置に配置されていることにより、スライディングゲートの流路孔内及び下流側の注入管内においても旋回流を形成するとともに、使用時の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】連続鋳造装置のレードル、タンディッシュ、鋳型とスライディングゲートの関係を示す概念断面図である。
【
図2】本発明のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと注入管を組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
【
図3】本発明のスライディングゲート内の流れを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと注入管を組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
【
図4】本発明のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)はスライディングゲートと注入管を組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図、(E)はE-E矢視断面図である。
【
図5】従来の傾斜を有する流路孔のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと注入管を組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
【
図6】比較例のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと注入管を組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
【
図7】従来のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと注入管を組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1~
図7に基づいて本発明について説明する。
鋼等の溶融金属の連続鋳造におけるレードル14からタンディッシュ15あるいはタンディッシュ15から鋳型16への溶融金属21の注入過程において、溶融金属21の流量を調整する目的でスライディングゲート1が用いられる(
図1参照)。2枚もしくは3枚のプレート2を重ねて構成されたスライディングゲート1において、各プレート2には流路孔6が設けられている(
図7参照)。スライディングゲート1を構成するプレートのうちのスライド板4を摺動させ、各プレートの流路孔6の重なりによってスライディングゲート1が「開」となっているとき、流路孔6の上流側から下流側に向けて溶融金属が流通する。プレート2の摺動面30に垂直で下流方向に向かう方向(摺動面垂直下流方向32)は、通常は上から下に向かって鉛直下方に向いている。水平連続鋳造の場合には、摺動面垂直下流方向32は水平方向を向いている。以下基本的に、摺動面30が水平であり、摺動面垂直下流方向32が鉛直下方である場合を例にとって説明することとする。
【0014】
流路孔6の断面形状として、通常は軸方向に垂直な断面が真円の円筒形状が用いられる。本発明のスライディングゲート1において、プレート2に形成される流路孔6は、円筒形状に限られるものではなく、また流路孔の軸方向についても、プレート内において変化するものであってもかまわない。そこでまず、プレート2に形成された流路孔6の軸線を定義することとする。
【0015】
図7によって、従来のスライディングゲート1の流路孔6について説明する。
図7のスライディングゲート1は、3枚のプレート2を有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレート2には、断面が真円の円筒形状であって、円筒の軸方向が摺動面30に垂直下流方向(摺動面垂直下流方向32)に向いた流路孔6が形成されている。各プレートの上流側表面を上流側表面7u、下流側表面を下流側表面7dと呼ぶ。上流側表面7uにおいて流路孔6の内周面が形成する図形を上流側表面開孔8uと呼ぶ。また、下流側表面7dにおいて流路孔6の内周面が形成する図形を下流側表面開孔8dと呼ぶ。
図7に示す例では流路孔6の円筒形状の軸線が摺動面に垂直であるため、
図7(A)~(C)においては、上流側表面開孔8uと下流側表面開孔8dとが重なっている。上流側表面開孔8u、下流側表面開孔8dの形状をそれぞれ図形と見なすと、当該図形の重心を定義することができる。それぞれ、上流側表面開孔8uの図形重心を上流開孔重心9u、下流側表面開孔8dの図形重心を下流開孔重心9dと呼ぶこととする。
図7に示す例では、上流側表面開孔8u、下流側表面開孔8dともに図形形状が真円であるため、上流開孔重心9u、下流開孔重心9dは真円図形の中心と一致している。次に、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dを通過し、下流側に向く方向を、流路軸線方向10と定義する。
図7に示す例では、流路軸線方向10は摺動面垂直下流方向32と同じ方向となる。
図7(F)おいて、一点鎖線で描写した線が流路軸線方向10である。
【0016】
次に
図5によって、特許文献1に記載のスライディングゲート1の流路孔6について説明する。
図5のスライディングゲート1は、3枚のプレートを有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレートには、軸方向に垂直な断面が真円の円筒形状であって、円筒の軸方向(流路軸線方向10)が摺動面垂直下流方向32から傾いた方向となる流路孔6が形成されている。
図5(A)(F)により、上固定板3を例にとって説明する。
図5(F)は
図5(A)のF-F矢視断面図である。円筒の軸方向と摺動面垂直下流方向32とが傾いているため、
図5(A)において上流側表面開孔8uと、下流側表面開孔8dが異なった位置に描かれている。上流側表面開孔8uと下流側表面開孔8dそれぞれの図形の重心を上流開孔重心9u、下流開孔重心9dとして定める。さらに、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dとを通過して下流側に向くように、流路軸線方向10を定める。
図5(F)おいて、一点鎖線で描写した線が流路軸線方向10である。プレートの摺動面に垂直な下流方向(摺動面垂直下流方向32)と流路軸線方向10とがなす角度を流路軸線傾斜角度βとおく。
【0017】
図7に示す例では、上固定板3の下流側表面開孔8dとスライド板4の上流側表面開孔8u、スライド板4の下流側表面開孔8dと下固定板5の上流側表面開孔8uが、それぞれ一致するように、スライド板4の摺動位置が定まっており、即ちスライディングゲート1は全開の状態である(
図7(D)参照)。
図7に示すスライディングゲート1は、スライド板4を図の左方向に移動することにより、スライディングゲート1の開度を小さくすることができる。スライド板4の位置をさらに図の左側に移動することにより、スライディングゲート1を全閉とすることができる。
図5に示す例でも同様である。
図5はスライディングゲート1が全開であり、上固定板3の下流側表面開孔8dとスライド板4の上流側表面開孔8u、スライド板4の下流側表面開孔8dと下固定板5の上流側表面開孔8uが、それぞれ一致するように、スライド板4の摺動位置が定まっている。そこで、スライディングゲート1を閉とするときにスライド板4を摺動する方向を、以下「摺動閉方向33」と呼ぶ。
【0018】
本発明のスライディングゲートは、特許文献1に記載の発明の特徴である、流路孔6の向く方向を傾斜させた斜孔とし、摺動面30に投影した斜孔の方向を2枚ないしは3枚のプレートで異なった方向にしたものを適宜組み合わせる点を維持しつつ、それぞれのプレートにおける流路孔は、上流側表面開孔8uの面積が、下流側表面開孔8dの面積より大きな形状であることを特徴とする。以下、
図2~
図4によって、本発明のスライディングゲートについて説明する。
【0019】
図2のスライディングゲート1は、3枚のプレート2を有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレート2には流路孔6が形成される。
ここで、「最長側壁線方向」を定義する。最長側壁線方向34とは、摺動面垂直下流方向32に平行かつ上流側表面開孔8uの図形重心(上流開孔重心9u)を含む断面であって、流路孔6の側壁36が最も長くなる断面において、当該最も長くなった側壁線が向かう方向を意味する。
図2の場合、
図2(F)が当該断面の断面図であり、同図に最長側壁線方向34が現れている。
また、流路軸線方向10を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向31として定める。
図2(A)~(C)、(F)それぞれ、摺動面流路軸線方向31を細線矢印で示している。なお、
図2(A)~(C)では、摺動面流路軸線方向31は流路軸線方向10と重なっている。また、
図7に示す例では、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32を向いているため、
図7(A)~(C)には摺動面流路軸線方向31が現れない。
【0020】
本発明の最大の特徴は第1に、それぞれのプレートにおける流路孔において、上流側表面開孔8uの開孔面積(上流側表面開孔面積)が、下流側表面開孔8dの開孔面積(下流側表面開孔面積)より大きく、摺動面垂直下流方向32に見たとき、上流側表面開孔8uの図形重心(上流開孔重心9u)と下流側表面開孔8dの図形重心(下流開孔重心9d)とが異なった位置に配置されていることにある。
上流開孔重心9uと下流開孔重心9dとを通過して下流側に向くように、流路軸線方向10を定めることができる(
図2(F))。ここで、流路軸線方向10を定めるのに円の中心ではなく開孔重心を用いているのは、開孔形状が真円でない場合にも普遍的に流路軸線方向10を定義するためである。
図2(A)~(C)に示すように、3枚のプレート2のいずれも、上流側表面開孔8uの開孔面積(上流側表面開孔面積)が、下流側表面開孔8dの開孔面積(下流側表面開孔面積)より大きい形状を有している。そして、摺動面垂直下流方向32に見たとき、上流側表面開孔8uの図形重心(上流開孔重心9u)と下流側表面開孔8dの図形重心(下流開孔重心9d)とが異なった位置に配置されている。そのため、上流開孔重心9uから下流開孔重心9dに向く方向(流路軸線方向10)が摺動面垂直下流方向32に対して角度を有するとともに、摺動面流路軸線方向31が形成されることとなる。
図2(F)は、
図2(A)のF-F矢視断面図である。当該断面図は、摺動面垂直下流方向32に平行、かつ上流開孔重心9uと下流開孔重心9dの両方を含む断面に該当する。そして、当該断面図において、上流開孔重心9uに対し、下流開孔重心9dが図の左側に位置しており、摺動面流路軸線方向31が図の右から左に向かう方向となっている。摺動面流路軸線方向31が向かう反対方向である図の右側の側壁36の傾斜は、緩い傾斜となっている。そして、
図2(F)断面図において右側の側壁が向かう方向が、上記定義した「最長側壁線方向34」に対応している。一方、摺動面流路軸線方向31が向かう方向である図の左側の側壁36の傾斜は、右側の側壁の傾斜よりも急になっている。この傾斜は摺動面垂直下流方向32に一致するかほぼ近い急な傾斜であることが好ましい。
【0021】
特許文献1に記載のスライディングゲートでは、流路が斜孔を形成しているため、
図5(F)に見られるように、上流側表面7uの鋭角部35u、下流側表面7dの鋭角部35dが形成される。このスライディングゲートを連続鋳造に使用したとき、上記鋭角部を起点として材料の欠損を生じることがあり、これがためにスライディングゲートの寿命が短くなることがあった。
本発明のスライディングゲートは、上記のように、上流側表面開孔8uの開孔面積(上流側表面開孔面積)が、下流側表面開孔8dの開孔面積(下流側表面開孔面積)より大きく、摺動面垂直下流方向に見たとき、上流側表面開孔の図形重心と下流側表面開孔の図形重心とが異なった位置に配置されている。その結果として、
図2(F)から明らかなように、摺動面流路軸線方向31が向かう方向である図の左側の側壁の傾斜は、摺動面垂直下流方向に一致するかほぼ近い急な傾斜を有する。そのため、
図2(F)の流路左側の側壁については、上流側表面7uとで形成される角部が鋭角ではなく、直角またはそれに近い角度まで大きくなった。その結果として、
図5(F)に見られるような上流側表面7uの鋭角部35uが解消されることとなった。
【0022】
本発明のスライディングゲートを連続鋳造に使用したところ、スライディングゲートの流路における材料の欠損発生頻度が低減し、使用時の耐久性が向上した。上流側表面7uについては、
図5(F)の鋭角部35uが、
図2(F)から明らかなように解消しており、これがために欠損の発生頻度が低減したものと考えられる。さらに、下流側表面7dについても、材料の欠損が低減する効果が見られた。
図2(F)にあるように、下流側表面7dについては鋭角部35dが解消していない。それにもかかわらず欠損が低減した点については、各プレートの下流側表面7dにおける流路孔6の側壁36とプレートの下流側表面7dとがなす角度について、下流側表面開孔8dの周方向の変化が小さく、応力集中が小さいため、欠損が起こりにくくなったものと推定される。
【0023】
本発明の特徴は第2に、摺動面垂直下流方向32と、プレートにおける流路孔の最長側壁線方向34との間の角度(最長側壁線傾斜角度α)は5°以上75°以下を有するとともに、摺動閉方向33に対し、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付け、ΔθN=θN-θN+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、角度ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることを特徴とする。以下、詳述する。
【0024】
摺動閉方向33に対し、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θと呼ぶ。流路軸線回転角度θは、±180°の範囲の角度として定義する。即ち、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りに+180°を超える角度(θ’)となったときには、「θ=θ’-360°」として、角度θをマイナスの値として定める。角度θの下添え字として、最も上流側のプレートのθをθ
1、その一つ下流側のプレートのθをθ
2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ
3と順に番号を付ける。代表してθ
Nと表現するとき、Nは1以上の整数でスライディングゲート1のプレート枚数-1までの数値を意味する。
図2に示す例では、上固定板3は角度θ
1=-45°、スライド板4は角度θ
2=+90°、下固定板5は角度θ
3=-135°となる。
【0025】
さらに、スライディングゲート1において、相互に接する2枚のプレート間の流路軸線回転角度の関係について以下のように定義する。即ち、Δθ
N=θ
N-θ
N+1としてΔθ
Nを定める。Δθ
Nは、上記θ
Nと同様、±180度の範囲の角度として定義する。即ち、Δθ
Nが+180°を超える角度(Δθ
N’)となったときには、「Δθ
N=Δθ
N’-360°」として、Δθ
Nをマイナスの値として定める。また、Δθ
Nが-180°未満の角度(Δθ
N’)となったときには、「Δθ
N=Δθ
N’+360°」として、Δθ
Nをプラスの値として定める。これにより、Δθ
Nは±180°の範囲内の数字となる。ここで、Δθ
Nが0°超+180°未満の場合には、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θ
Nが反時計回りに変化していることを示す。逆に、Δθ
Nが-180°超0°未満の場合には、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θ
Nが時計回りに変化していることを示す。
図2に示す例では、Δθ
1=θ
1-θ
2=-135°、Δθ
2’=θ
2-θ
3=225°であるからΔθ
2=Δθ
2’-360°=-135°となる。Δθ
1、Δθ
2いずれも-180~0°の範囲内にあるので、流路軸線回転角度が時計回りに変化していることを示す。
【0026】
以上のような準備のもと、本発明のスライディングゲート1が具備すべき条件とその理由について説明する。
【0027】
図7に示すような従来のスライディングゲート1においては、流路軸線方向10が摺動面に垂直であり、即ち流路軸線傾斜角度βが0°であり、傾きを有していなかった。それに対して本発明のプレートにおける流路孔6は、上流側表面開孔面積が、下流側表面開孔面積より大きく、摺動面垂直下流方向32に見たとき、上流側表面開孔8uの図形重心(上流開孔重心9u)と下流側表面開孔8dの図形重心(下流開孔重心9d)とが異なった位置に配置されていることを特徴とする。その結果、流路孔6の最長側壁線方向34が摺動面垂直下流方向32に対して傾いていることも相まって、プレート内を流れる溶融金属は、摺動面垂直下流方向32の速度成分のみならず、摺動面垂直下流方向32に対して直角の速度成分(通常の連続鋳造であれば水平方向の速度成分)を有することとなる。本発明においては、最長側壁線傾斜角度αが5°以上75°以下である。角度αを5°以上とすることにより、溶融金属は十分な水平方向の速度成分を持つこととなり、下記に示すように注入管内における旋回流の形成を可能とする。角度αは、好ましくは15°以上、より好ましくは25°以上である。一方、角度αが大きすぎると耐火物の強度確保や損耗抑制の観点から好ましくないので、角度αを75°以下とする。角度αは、好ましくは65°以下、より好ましくは55°以下である。
【0028】
図2の本発明のスライディングゲート1については、前述のように、隣接する流路軸線回転角度θ
Nの差Δθ
Nは、Δθ
1=Δθ
2=-135°であって、いずれもΔθ
Nが-180°超0°未満であるから、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θ
Nが時計回りに変化していることを示す。上固定板3の流路孔6内を流れる溶融金属流は、
図3(A)の流線18に示すように、上固定板3の流路軸線方向10に沿って流れる。上固定板3とスライド板4の接触面では、上固定板3の下流側表面開孔8d(
図3(B)の1点鎖線)からスライド板4内を下流側に流下する。スライド板4の流路孔6内においては、上固定板3の下流側表面開孔8d(
図3(B)の1点鎖線)から流出した溶融金属流は、
図3(B)に流線18を示すように、スライド板4の流路孔6の側壁36に沿った旋回流を形成し、下流側の、スライド板4の下流側表面開孔8d(
図3(B)の実線、
図3(C)の1点鎖線)から、さらに下固定板5の流路孔6内に流出する。下固定板5の流路孔6内では、
図3(C)に流線18を示すように、下固定板5の流路孔6の側壁36に沿った旋回流を形成し、そのまま、下固定板5の下流側表面開孔8dから下流側の注入管11内に流出し、
図3(D)(E)に示すように、流路17内で流線18は旋回流を維持したまま、注入管11内を下流側に移動していく。
【0029】
図7に示すような従来のスライディングゲート1を用いた場合、スライディングゲート1の開孔部から流出する際に溶融金属流が有している運動エネルギーのすべてが下流方向に向かう流速に費やされている。それに対して、
図3に示すような本発明のスライディングゲート1を用いた場合、スライディングゲート1から流出する際に、溶融金属流の運動エネルギーは下流方向に向かう流速と旋回して注入管の内周面を旋回する旋回速度とに分散されるので、
図7に示す従来のスライディングゲート1と比較し、下流方向に向かう流速を抑制することが可能となる。その結果、注入管11がロングノズル12である場合、注入管11の下端から溶融金属がタンディッシュ15内の溶融金属21に流出するに際しても、注入管11内の旋回流に起因して、注入管11の下端から半径方向に向かう流速成分が存在する結果、注入管11の下端から下方向に向かう流速を抑制することができる。
【0030】
スライディングゲート1の流路孔6内に旋回流を形成し、スライディングゲート下流側の注入管内においても旋回流を形成するための、隣接するプレートの流路軸線回転角度θN相互間の差である角度ΔθNの条件について説明する。前述のように、ΔθNは±180°の範囲内の角度として定義されている。ここにおいて、ΔθN=-10°超かつ+10°未満の場合には、流路軸線回転角度θNとθN+1の差異が小さすぎ、旋回流を形成できない。一方、ΔθNが+170°以上又は-170°以下の場合、ΔθNの絶対値が大きすぎ、かえって旋回流の形成を阻害することとなる。スライディングゲート1が2枚のプレートを有する場合、Δθ1のみが定義され、当該Δθ1が上記条件を満たしていればよい。スライディングゲート1が3枚以上のプレートを有する場合、Δθ1に加え、Δθ2、さらにはそれ以上のΔθNが定義される。そして、ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることが必要である。これにより、プレートの1枚目と2枚目の流路軸線方向10が時計回りに変化するときには3枚目以降についても同じように時計回りに変化し、プレートの1枚目と2枚目の流路軸線方向10が反時計回りに変化するときには3枚目以降についても同じように反時計回りに変化するので、スライディングゲート内で旋回流を有効に形成することが可能となる。ΔθNのより好ましい範囲は、30°以上、165°未満、又は-165°超、-30°以下である。
【0031】
スライディグゲートのプレートを製造するに際し、原料となる粉粒状の黒鉛を枠型内に充填し、成型が行われる。プレート2の流路孔6についても、型枠成型で流路まで成型できれば、生産が容易になる。特許文献1に記載のスライディングゲートにおいては、
図5に記載されたように、円筒形状の流路が斜孔を構成しているので、この流路を枠型成型で形成することは困難である。型枠で流路の存在しないプレートを成型した後に、ドリル加工あるいは切削加工によって斜孔流路の形成が行われる。
本発明のスライディングゲートにおいて好ましくは、摺動面垂直下流方向32に見たとき、下流側表面開孔8dの図形が上流側表面開孔8uの図形の内側に収まることを特徴とする。このような実施の形態では、プレート2の上流側表面7uを上にして水平に載置したとき、流路孔6の側壁36にはオーバーハングとなる形状の部位が存在しないので、流路孔6を型枠に設けた上で型枠内に原料を充填することにより、型枠成型が完了した時点でプレート2に流路孔6ができあがることになる。流路形成のために別途ドリル加工や切削加工を行う必要がないので、生産工程が簡略化され、製造コストを低減し、大量生産を実施することが可能となる。
【0032】
スライディングゲート1を形成するプレートの数は、2枚もしくは3枚であると好ましい。
図2、
図3に示す例は、上述のとおり、プレートの数が3枚の場合である。
図4は、プレートの数が2枚であり、上流側から1枚目が上固定板3、2枚目がスライド板4を構成している。α=53°、θ
1=-27°、θ
2=+27°であり、Δθ
1=-53°であって、時計回りの旋回流を形成することができる。スライディングゲート1を形成するプレートの数が2枚もしくは3枚であると好ましい理由は、スライディングゲートの絞り機構発現には最低2枚のプレートが必要であり、4枚以上のプレートは流量調整に不要で、プレート数の増加に伴いコストが上昇するからである。
【0033】
なお、以下に示す実施例および比較例では、スライディングゲート1を構成するプレートの厚みは同一としたが、スライド板4が最も薄いなどプレート毎に厚みが異なっていても構わない。プレートの厚みの好ましい範囲は、10mm以上50mm以下である。また、これらの実施例および比較例では、スライディングゲート各プレートの入口および出口の流路孔形状は同じ大きさの円である例を示したが、これが楕円もしくは長円であっても、本発明の規定を満たす限りにおいては、旋回流を得ることが可能である。上流側表面開孔面積の好ましい範囲は、700mm2~18000mm2である。
【0034】
好ましくは、スライディングゲート全開時において、摺動面垂直下流方向32に見たとき、各プレートの上流側表面開孔8uの図形重心(上流開孔重心9u)の位置が一致していると良い。
【実施例0035】
以下に、実施例を示して本発明の内容を具体的に説明する。
図1は、溶融金属の連続鋳造機のレードル14(取鍋)から鋳型16(モールド)までの構成を示す。実施例では溶融金属として鋼を想定している。本発明は、例えばレードル14のスライディングゲート1に適用すると、スライディングゲート下流側に接続した注入管11(ロングノズル12)内に旋回流を形成し、注入管11下端からタンディッシュ15内溶鋼中に吐出する吐出流の最大流速を低減し、タンディッシュ内の流動を整流化し非金属介在物の浮上除去を促進するなどの効果が期待できる。実施例のスライディングゲート1の形状を以下に例示する。
【0036】
ここで、3枚のプレートを有するスライディングゲート1のプレートを上から順に、上固定板3、スライド板4、下固定板5と呼ぶ。2枚のプレートを有するスライディングゲート1の場合は、上から順に、上固定板3、スライド板4、である。
【0037】
表1の「上下開孔面積差」欄において、上流側表面開孔8uの開孔面積(上流側表面開孔面積)が、下流側表面開孔8dの開孔面積(下流側表面開孔面積)より大きい形状を有している場合(本発明)に「大」と記載し、上記両者の面積が等しい場合(比較例)に「同」と記載している。
【0038】
最長側壁線傾斜角度α(上下開孔面積差が「同」の比較例では流路軸線傾斜角度β)、流路軸線回転角度θについて、最も上流側のプレート2から順に、下添え字1、2(、3)を付している。最長側壁線傾斜角度αについては、最も上流側のプレートのαをα1、その一つ下流側のプレートのαをα2、さらに一つ下流側のプレートのαをα3と順に番号を付ける。流路軸線傾斜角度βも同様である。流路軸線回転角度θについては、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付ける。
【0039】
レードル14とタンディッシュ15について、実機の1/1の水モデル実験機を用いた実験、及び実機連続鋳造を行い、本発明の効果を確認した。
スライディングゲート1の各プレート2の厚さは35mm、プレート2に形成された流路孔6の上流側表面7uの形状は直径80mmの真円形状である。流路孔6の下流側表面7dの形状は、上下開孔面積差が「大」の場合は直径が51mmの真円、上下開孔面積差が「同」の場合は直径80mmの真円形状である。最長側壁線傾斜角度α(上下開孔面積差が「同」の比較例では流路軸線傾斜角度β)と流路軸線回転角度θを表1に示す所定の角度としたものを用いている。スライディングゲート1の下方に設ける注入管11としてのロングノズル12は、内径を100mmとし、ロングノズル12下端はタンディッシュ15内に浸漬している。
【0040】
水モデル実験において、レードル14内の水面からスライディングゲート1位置までの高さは3m、レードル14底部のスライディングゲート1からタンディッシュ15内の水面までの高さは1m、スライディングゲート1のスライド板4の位置を調整して開度を30mm(全開から50mm閉)とし、タンディッシュ内の水面位置を一定高さに保持しつつ、スライディングゲートから定常状態で水を流出させた。
ロングノズル12下端位置において、ロングノズル12下端からタンディッシュ15内に流出する水の流れ方向別の流速を、レーザードップラー法によって計測した。ロングノズル12下端位置において、水平方向の流速が存在する場合には「旋回流評価結果」を「○」に、水平方向の流速が存在しない場合には「×」に表示した。
【0041】
実機連続鋳造において鋳造試験を行った。耐火物損耗は、使用後の耐火物を回収し、プレート孔に沿う耐火物表面に存在するヒビや欠けを基に、耐火物の再利用性を評価することで行なった。手入れせずに再利用可能な状態であれば○、手入れを行えば再利用可能な状態であれば△と評価した。
スライディングゲートの耐火物製造容易性について評価した。型枠製造で流路の形成ができる場合は○、ドリル加工や切削加工での製造を要した場合は△とした。
【0042】
【0043】
本発明例A(
図2参照)では、上下開孔面積差が「大」であり、3枚プレート式のスライディングゲート1の上固定板3にはθ
1=-45°の斜孔、スライド板4にはθ
2=90°の斜孔、下固定板5にはθ
3=-135°の斜孔を穿っている。流路軸線傾斜角度α
1~α
3は表1に示す。その組み合わせによって、スライディングゲート1が全開であっても絞られていても、溶融金属流に周方向流速を付与し、スライディングゲート1下方に取り付けた注入管11の流路17内部に旋回流を形成することができる。旋回流評価結果は○であった。耐火物損耗評価、耐火物製造容易性はいずれも○であった。
【0044】
本発明例B(
図4参照)では、上下開孔面積差が「大」であり、2枚プレート式のスライディングゲート1の上固定板3にはθ
1=-27°の斜孔、スライド板4にはθ
2=27°の斜孔を穿っている。流路軸線傾斜角度α
1~α
2は表1に示す。その組み合わせによって、スライディングゲート1が全開であっても絞っていても、溶融金属流に周方向流速を付与し、スライディングゲート1下方に取り付けた注入管11の流路17内部に旋回流を形成することができる。旋回流評価結果は○であった。耐火物損耗評価、耐火物製造容易性はいずれも○であった。
【0045】
比較例C(
図5参照)では、上下開孔面積差が「同」であり、3枚プレート式のスライディングゲート1の上固定板3にはθ
1=-45°の斜孔、スライド板4にはθ
2=90°の斜孔、下固定板5にはθ
3=-135°の斜孔を穿っている。流路軸線傾斜角度α
1~α
3は表1に示す。その組み合わせによって、スライディングゲート1が全開であっても絞られていても、溶融金属流に周方向流速を付与し、スライディングゲート1下方に取り付けた注入管11の流路17内部に旋回流を形成することができる。旋回流評価結果は○であった。耐火物損耗評価、耐火物製造容易性はいずれも△であった。
【0046】
比較例D(図示せず)では、上下開孔面積差が「同」であり、2枚プレート式のスライディングゲート1の上固定板3にはθ1=-27°の斜孔、スライド板4にはθ2=27°の斜孔を穿っている。流路軸線傾斜角度α1~α2は表1に示す。その組み合わせによって、スライディングゲート1が全開であっても絞っていても、溶融金属流に周方向流速を付与し、スライディングゲート1下方に取り付けた注入管11の流路17内部に旋回流を形成することができる。旋回流評価結果は○であった。耐火物損耗評価、耐火物製造容易性はいずれも△であった。
【0047】
比較例E(
図6参照)は、上下開孔面積差が「大」であり、本発明例Aに似た構成ではあるが、Δθ
1とΔθ
2がそれぞれ-170°以下、170°以上であるので、旋回が得られない例である。旋回流評価結果は×であった。耐火物損耗評価、耐火物製造容易性はいずれも○であった。
比較例F(
図7参照)は、上下開孔面積差が「同」であり、流路軸線傾斜角度βが全て0°である通常のスライディングゲートである。旋回流評価結果は×であった。耐火物損耗評価、耐火物製造容易性はいずれも○であった。