(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157155
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】多層基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20221006BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20221006BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K1/02 N
H05K1/03 630D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061230
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】夏原 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】奥長 剛
【テーマコード(参考)】
5E316
5E338
【Fターム(参考)】
5E316AA13
5E316AA22
5E316AA38
5E316BB02
5E316BB04
5E316BB06
5E316CC09
5E316CC12
5E316CC13
5E316CC14
5E316CC32
5E316CC34
5E316CC38
5E316CC39
5E316DD02
5E316EE02
5E316HH06
5E338AA03
5E338AA16
5E338CC02
5E338CC06
5E338CD23
5E338EE11
(57)【要約】
【課題】各々の誘電率が異なる複数の誘電体層を備える多層基板において、伝送ロスを改善する。
【解決手段】多層基板は、第1基板と、第2基板とを備える。第1基板は、第1面と該第1面とは反対側の第2面とを有し、第1誘電体によって形成されている。第2基板は、第3面と該第3面とは反対側の第4面とを有し、第2誘電体によって形成されている。第1基板と第2基板とは、第2面と第3面とが直接的又は間接的に対向するように積層されている。多層基板は、第1伝送グランドと、第2伝送グランドと、伝送パターンとをさらに備える。第1伝送グランドは、第1面に積層されている。第2伝送グランドは、第4面に積層されている。伝送パターンは、第1基板と第2基板との間に配置されている。第2誘電体の誘電率は、第1誘電体の誘電率よりも高い。第2基板の厚みは、第1基板の厚みよりも厚い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有し、第1誘電体によって形成された第1基板と、
第3面と前記第3面とは反対側の第4面とを有し、第2誘電体によって形成された第2基板とを備え、
前記第1基板と前記第2基板とは、前記第2面と前記第3面とが直接的又は間接的に対向するように積層されており、
前記第1面に積層された第1伝送グランドと、
前記第4面に積層された第2伝送グランドと、
前記第1基板と前記第2基板との間に配置された伝送パターンとをさらに備え、
前記第2誘電体の誘電率は、前記第1誘電体の誘電率よりも高く、
前記第2基板の厚みは、前記第1基板の厚みよりも厚い、多層基板。
【請求項2】
前記第1誘電体の誘電率をDk1とし、前記第2誘電体の誘電率をDk2とし、前記第1基板の厚みをd1とし、前記第2基板の厚みをd2とした場合に、以下の式(1)に示される関係が成立する、請求項1に記載の多層基板。
Dk1×d2=Dk2×d1・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-239511号公報(特許文献1)は、多層基板を開示する。この多層基板においては、誘電体層の両面の各々にグランド層が形成され、誘電体層中に配線層が形成されている。この多層基板において、誘電体層は複数の誘電体層によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多層基板が複数の誘電体層を含む場合に、複数の誘電体層の各々の誘電率が異なることがある。このような構成を採用する目的の一つは、多層基板における伝送ロスを改善することである。しかしながら、このような構成が採用されたとしても、条件次第で、多層基板における伝送ロスが十分に改善されないことを本発明者(ら)は見出した。上記特許文献1は、このような問題の解決手段を開示していない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、各々の誘電率が異なる複数の誘電体層を備える多層基板において、伝送ロスを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従う多層基板は、第1基板と、第2基板とを備える。第1基板は、第1面と該第1面とは反対側の第2面とを有し、第1誘電体によって形成されている。第2基板は、第3面と該第3面とは反対側の第4面とを有し、第2誘電体によって形成されている。第1基板と第2基板とは、第2面と第3面とが直接的又は間接的に対向するように積層されている。多層基板は、第1伝送グランドと、第2伝送グランドと、伝送パターンとをさらに備える。第1伝送グランドは、第1面に積層されている。第2伝送グランドは、第4面に積層されている。伝送パターンは、第1基板と第2基板との間に配置されている。第2誘電体の誘電率は、第1誘電体の誘電率よりも高い。第2基板の厚みは、第1基板の厚みよりも厚い。
【0007】
この多層基板においては、誘電率が高い第2誘電体によって形成される第2基板の厚みが、誘電率が低い第1誘電体によって形成される第1基板の厚みよりも厚い。したがって、この多層基板によれば、第1及び第2基板の各々の厚みが同一である場合と比較して、伝送パターンから放出される電気力線が第2基板側に偏ることが抑制されるため、多層基板における伝送ロスを改善することができる。
【0008】
上記多層基板において、第1誘電体の誘電率をDk1とし、第2誘電体の誘電率をDk2とし、第1基板の厚みをd1とし、第2基板の厚みをd2とした場合に、以下の式(1)に示される関係が成立してもよい。
Dk1×d2=Dk2×d1・・・(1)
【0009】
式(1)に示される関係が成立することにより、第1及び第2基板の各々における電界強度が均等となる。その結果、この多層基板によれば、第1及び第2基板の各々において電解強度のバランスがとれるため、多層基板における伝送ロスを改善することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各々の誘電率が異なる複数の誘電体層を備える多層基板において、伝送ロスを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図1のII-II断面を模式的に示す図である。
【
図3】比較対象の多層基板の断面を模式的に示す図である。
【
図4】多層基板において生じる電界の例を模式的に示す図である。
【
図5】第1の変形例における多層基板の断面を模式的に示す図である。
【
図6】第2の変形例における多層基板の断面を模式的に示す図である。
【
図7】解析周波数が20GHzである場合の結果を示す図である。
【
図8】解析周波数が25GHzである場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[1.多層基板の構成]
図1は、本実施の形態に従う多層基板10の平面を模式的に示す図である。
図2は、
図1のII-II断面を模式的に示す図である。以下では、説明の便宜のため、
図1及び
図2に示す方向に従って説明を行なうこととする。なお、ここで規定した方向は、あくまでも説明のためであり、本実施の形態に従う多層基板10の向きを限定するものではない。
【0014】
図1及び
図2を参照して、多層基板10は、下から上へ積層された、第2伝送グランド32、第2基板22、伝送パターン40、第1基板21及び第1伝送グランド31を含んでいる。
【0015】
第1基板21は、第1面211(上面)と該第1面211とは反対側の第2面212(下面)とを有し、液晶ポリマー又はふっ素樹脂等の誘電体によって形成されている。第1基板21の誘電率Dk1は、特に限定されないが、例えば、2~3とすることができる。そして、第1伝送グランド31は、第1基板21の第1面211のほぼ全面に薄膜状に形成されている。
【0016】
第2基板22は、第3面221(上面)と該第3面221とは反対側の第4面222(下面)とを有し、ガラスエポキシ樹脂又はフェノール樹脂等の誘電体によって形成されている。第2基板22の誘電率Dk2は、特に限定されないが、例えば、3~5とすることができる。但し、第2基板22の誘電率Dk2は、第1基板21の誘電率Dk1よりも高い。第2基板22の誘電率Dk2が第1基板21の誘電率Dk1よりも高い限り、第1基板21及び第2基板22は同一の材料で構成されていてもよいし異なる材料で構成されていてもよい。
【0017】
多層基板10において、第1基板21と第2基板22とは、第1基板21の第2面212と第2基板22の第3面221とが直接的に対向するように積層されている。また、第2伝送グランド32は、第2基板22の第4面222のほぼ全面に薄膜状に形成されている。
【0018】
伝送パターン40は、第1基板21と第2基板22との間に配置され、左右方向の中央付近で前後方向(
図2紙面に垂直な方向)に線状に延びている。なお、伝送パターン40、第1伝送グランド31及び第2伝送グランド32の各々は、例えば、金、銀、銅、銅合金、アルミニウム等の金属材料によって形成される。
【0019】
多層基板10において、第2基板22の厚みd2は、第1基板21の厚みd1よりも厚い。すなわち、多層基板10においては、誘電率の大きい第2基板22の厚みが、誘電率の小さい第1基板21の厚みよりも厚くなっている。このような構成となっている理由について次に説明する。
【0020】
[2.第1及び第2基板の各々の厚みが異なる理由]
誘電率の高い基板と誘電率の低い基板とが積層された多層基板(例えば、多層基板10)においては、次のような利点がある。例えば、全ての基板を誘電率の低い誘電体(例えば、ガラスフッ素樹脂)により形成するよりも、安価に多層基板を形成することができる。また、例えば、全ての基板を誘電率の高い誘電体(例えば、ガラスエポキシ樹脂)により形成するよりも、伝送ロスの低い多層基板を形成することができる。
【0021】
しかしながら、例えば多層基板10において、第1基板21及び第2基板22の各々の厚みが同一であると、このような利点が十分に得られないことを本発明者(ら)は見出した。
【0022】
図3は、比較対象の多層基板10Aの断面を模式的に示す図である。
図3に示されるように、多層基板10Aは、下から上へ積層された、第2伝送グランド32、第2基板22A、伝送パターン40、第1基板21A及び第1伝送グランド31を含んでいる。第2基板22Aの誘電率は、第1基板21Aの誘電率よりも高い。多層基板10Aにおいて、第1基板21A及び第2基板22Aの各々の厚みは同一である。
【0023】
第1基板21A及び第2基板22Aの各々の厚みが同一であるため、伝送パターン40から放出される電気力線は、誘電率の高い第2基板22A側に集中する。すなわち、第2基板22Aに電界が集中する。したがって、多層基板10Aにおいては、誘電率の低い第1基板21Aが一部に採用されているにもかかわらず、第1基板21Aを採用することによる効果が十分に得られず、伝送ロスが十分に改善されない。
【0024】
図4は、多層基板10において生じる電界の例を模式的に示す図である。
図4に示されるように、多層基板10においては、第2基板22の厚みd2が、第1基板21の厚みd1よりも厚い。より具体的には、第1基板21及び第2基板22の各々における電界強度が略同一となるように、以下のような関係が成り立つ。
【0025】
第1基板21を形成する誘電体の誘電率をDk1とし、第2基板22を形成する誘電体の誘電率をDk2とする。そして、第1基板21の厚みをd1とし、第2基板22の厚みをd2とする。この場合に、以下の式(1)に示される関係が成立する。
Dk1×d2=Dk2×d1・・・(1)
【0026】
このような関係が成立することによって、第1基板21及び第2基板22の各々における電界強度が略同一となる。その結果、多層基板10によれば、第1基板21及び第2基板22の各々の厚みが同一である場合と比較して、伝送パターン40から放出される電気力線が第2基板22側に偏ることが抑制されるため、多層基板10における伝送ロスを改善することができる。
【0027】
[3.特徴]
以上のように、本実施の形態に従う多層基板10においては、誘電率が高い誘電体によって形成される第2基板22の厚みが、誘電率が低い誘電体によって形成される第1基板21の厚みよりも厚い。したがって、多層基板10によれば、第1基板21及び第2基板22の各々の厚みが同一である場合と比較して、伝送パターン40から放出される電気力線が第2基板22側に偏ることが抑制されるため、多層基板10における伝送ロスを改善することができる。
【0028】
[4.変形例]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0029】
<4-1>
伝送パターン40の形状は特には限定されず、上述したような直線状のほか、L字状、T字状など、種々の形状にすることができる。また、複数の伝送パターンを配置することもできる。例えば、差動伝送路が形成されてもよい。
【0030】
図5は、第1の変形例における多層基板10Xの断面を模式的に示す図である。
図5に示されるように、多層基板10Xは、下から上へ積層された、第2伝送グランド32X、第2基板22X、伝送パターン41X,42X、第1基板21X及び第1伝送グランド31Xを含んでいる。第2基板22Xの誘電率は、第1基板21Xの誘電率よりも高い。第2基板22Xの厚みは、第1基板21Xの厚みよりも厚い。このような構成であってもよい。
【0031】
<4-2>
また、第1基板21と第2基板22とは、ボンディングフィルムを介して積層されていてもよい。すなわち、第1基板21と第2基板22とは、第2面212と第3面221とがボンディングフィルムを介して間接的に対向するように積層されていてもよい。
【0032】
図6は、第2の変形例における多層基板10Yの断面を模式的に示す図である。
図6に示されるように、多層基板10Yは、下から上へ積層された、第2伝送グランド32Y、第2基板22Y、伝送パターン40Y、ボンディングフィルム50Y、第1基板21Y及び第1伝送グランド31Yを含んでいる。第2基板22Yの誘電率は、第1基板21Yの誘電率とボンディングフィルム50Yの誘電率との平均値よりも高い。第2基板22Yの厚みd2は、第1基板21Yの厚みd11とボンディングフィルム50Yの厚みd12との合計の厚みd1よりも厚い。このような構成であってもよい。
【0033】
なお、この場合には、例えば、以下のような関係が成り立ってもよい。
【0034】
第1基板21Yを形成する誘電体の誘電率をDk1Yとし、第2基板22Yを形成する誘電体の誘電率をDk2Yとする。ボンディングフィルム50Yの誘電率をDk3Yとする。(Dk1Y+Dk3Y)/2をDkAveとする。そして、第1基板21Yの厚みをd11とし、ボンディングフィルム50Yの厚みをd12とし、d11+d12をd1とする。第2基板22Yの厚みをd2とする。この場合に、以下の式(2)に示される関係が成立してもよい。
DkAve×d2=Dk2×d1・・・(2)
【0035】
このような関係が成立することによって、第1基板21Y側及び第2基板22Y側の各々における電界強度が略同一となる。その結果、多層基板10Yによれば、伝送パターン40Yから放出される電気力線が第2基板22Y側に偏ることが抑制されるため、多層基板10Yにおける伝送ロスを改善することができる。
【0036】
[5.実施例等]
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0037】
シミュレーションにより、以下のような多層基板の解析モデルを生成した。概要は
図1及び
図2に示す通りである。
(1)第1基板
・誘電率:2.7
・サイズ:横幅24mm×奥行き10mm
(2)第2基板
・誘電率:4.4
・サイズ:横幅24mm×奥行き10mm
(3)伝送パターン
・厚み:0.018mm
・幅:0.2mm
・長さ(奥行き):10mm
(4)第1及び第2伝送グランド
・厚み:0.018mm
(5)解析周波数:20GHz及び25GHz
このような解析モデルにおいて、第1及び第2基板の各々の厚みを変化させながら、伝送ロスを計算した。結果は、
図7及び
図8に示す通りである。
図7は解析周波数が20GHzである場合の結果を示す図であり、
図8は解析周波数が25GHzである場合の結果を示す図である。
図7及び
図8の各々において、縦軸は伝送ロス(dB/cm)を示し、横軸はD1/D2を示す。ここで、D1は(第2基板の誘電率)/(第2基板の厚み)であり、D2は(第1基板の誘電率)/(第1基板の厚み)である。
【0038】
図7において、L1は第1基板及び第2基板の厚みの合計が0.2mmである場合の伝送ロスの変化を示し、L2は第1基板及び第2基板の厚みの合計が0.25mmである場合の伝送ロスの変化を示し、L3は第1基板及び第2基板の厚みの合計が0.3mmである場合の伝送ロスの変化を示す。
【0039】
図8において、L4は第1基板及び第2基板の厚みの合計が0.2mmである場合の伝送ロスの変化を示し、L5は第1基板及び第2基板の厚みの合計が0.25mmである場合の伝送ロスの変化を示し、L6は第1基板及び第2基板の厚みの合計が0.3mmである場合の伝送ロスの変化を示す。
【0040】
D1/D2が1.567となる位置において、第1基板の厚みと第2基板の厚みとが同一である。
図7及び
図8の各々において、D1/D2が1に近付くにつれて伝送ロスが小さくなることが確認された。すなわち、第1基板の厚みよりも第2基板の厚みを厚くすることで伝送ロスが小さくなることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
10,10A,10X,10Y 多層基板、21,21A,21X,21Y 第1基板、22,22A,22X,22Y 第2基板、31,31X,31Y 第1伝送グランド、32,32X,32Y 第2伝送グランド、40,40Y,41X,42X 伝送パターン、211 第1面、212 第2面、221 第3面、222 第4面、50Y ボンディングフィルム。