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  • 特開-培養細胞の剥離判定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157161
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】培養細胞の剥離判定装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061236
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】米田 健二
(72)【発明者】
【氏名】越田 一朗
(72)【発明者】
【氏名】牧畠 亮太
(72)【発明者】
【氏名】三野 平
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA01
4B029FA15
(57)【要約】
【課題】 培養容器2を揺動させて培養細胞を剥離させることにより、安価で細胞を損傷させる危険性の少ない培養細胞の剥離判定装置を提供する。
【解決手段】 培養細胞の剥離判定装置1は、培養容器2を支持する支持部材3と、上記培養容器2内の培養細胞を撮影する撮影手段5と、上記撮影手段5からの信号を入力して培養容器2の底面に接着した培養細胞が該底面から剥離したことを判定する制御手段7とを備えている。振盪手段11は上記支持部材3を揺動させてこれに支持された培養容器2と撮影手段5とを一体的に揺動させることができるようになっており、制御手段7は培養容器2の揺動中の画像の差異から培養細胞が培養容器の底面から剥離したことを判定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器を支持する支持部材と、上記培養容器内の培養細胞を撮影する撮影手段と、上記撮影手段からの信号を入力して培養容器の底面に接着した培養細胞の接着状態を判定する制御手段とを備えた培養細胞の剥離判定装置において、
上記撮影手段を上記支持部材と一体的に設けるとともに、上記支持部材を揺動させてこれに支持された培養容器を揺動させる振盪手段を設け、上記振盪手段は、上記支持部材を揺動させて上記培養容器と撮影手段とを一体的に揺動させ、上記制御手段は、揺動される培養容器内の培養細胞を上記撮影手段によって撮影し、培養容器の揺動中の画像の差異から培養細胞が該底面から剥離したことを判定することを特徴とする培養細胞の剥離判定装置。
【請求項2】
上記支持手段に支持される培養容器を照明する照明手段を上記支持部材と一体的に設け、上記振盪手段は上記支持部材を揺動させて上記培養容器と照明手段とを一体的に揺動させることを特徴とする請求項1に記載の培養細胞の剥離判定装置。
【請求項3】
上記支持部材は培養容器が載置される載置部と、該載置部の上方から該載置部に臨む天面部とを備えており、上記載置部に上記撮影手段が設けられて上記載置部に載置された培養容器の底面から培養細胞を撮影するようになっており、上記天面部に上記照明手段が設けられて上記載置部に載置された培養容器を照明することを特徴とする請求項2に記載の培養細胞の剥離判定装置。
【請求項4】
上記支持部材は培養容器が載置される載置部と、該載置部の上方から該載置部に臨む天面部を備えており、該天面部に上記撮影手段が設けられて上記載置部に載置された培養容器の天面から培養細胞を撮影するようになっており、また上記天面部に上記照明手段が設けられて上記載置部に載置された培養容器を照明することを特徴とする請求項2に記載の培養細胞の剥離判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は培養細胞の剥離判定装置に関し、より詳しくは、培養容器の底面に接着した培養細胞の接着状態を判定する培養細胞の剥離判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養容器を支持する支持部材と、上記培養容器内の培養細胞を撮影する撮影手段と、上記撮影手段からの信号を入力して培養容器の底面に接着した培養細胞の接着状態を判定する制御手段とを備えた培養細胞の剥離判定装置が知られている(特許文献1)。
上記撮影手段は位相差顕微鏡に組み込まれており、制御手段は光の回折と干渉を利用した位相差観察によって培養細胞が該底面に接着しているか否かを判定するようになっている。
また培養細胞が培養容器の底面に接着しているか否かを判定する際には、培養容器を支持する支持部材を振動手段によって振動させて、振動させた後で判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5446082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の判定装置においては培養容器を振動させて培養細胞が培養容器の底面に接着しているか否かを判定することができるので、培養容器に剥離剤を注入して所定時間振動させて底面に接着した培養細胞を該底面から剥離させる際には、その所定時間の振動の後で剥離の有無を判定することが可能となる。
しかしながら、上記判定装置においては位相差顕微鏡を必要としているので高価となり、また剥離剤や振動は細胞を損傷させる危険性があるのでこれらの影響は最小限であることが望ましい。
本発明は上述した事情に鑑み、安価で細胞を損傷させる危険性の少ない培養細胞の剥離判定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、培養容器を支持する支持部材と、上記培養容器内の培養細胞を撮影する撮影手段と、上記撮影手段からの信号を入力して培養容器の底面に接着した培養細胞の接着状態を判定する制御手段とを備えた培養細胞の剥離判定装置において、
上記撮影手段を上記支持部材と一体的に設けるとともに、上記支持部材を揺動させてこれに支持された培養容器を揺動させる振盪手段を設け、上記振盪手段は、上記支持部材を揺動させて上記培養容器と撮影手段とを一体的に揺動させ、上記制御手段は、揺動される培養容器内の培養細胞を上記撮影手段によって撮影し、培養容器の揺動中の画像の差異から培養細胞が該底面から剥離したことを判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、培養細胞が培養容器の底面に接着している状態では振盪手段により培養容器を揺動させても培養細胞が培養容器内で大きく移動することはないが、培養細胞が培養容器の底面から剥離すると該培養細胞は培養容器内で大きく移動するようになり、したがって撮影手段によってその移動前後における画像の差異から培養細胞が該底面から剥離したか否かを容易に判定することが可能となる。
つまり撮影手段として高価な位相差顕微鏡を用いる必要がなく、CCDのような安価な撮影手段によって剥離の有無を容易に判定することが可能となる。また振盪手段は培養容器を振動させるのではなく揺動させているので、振動を加える場合に比較して培養細胞を損傷させる危険性を低減することができる。
さらに本発明によれば、上記振盪手段は上記支持部材を揺動させて上記培養容器と撮影手段とを一体的に揺動させるので、培養容器の揺動位置を気にすることなく任意のタイミングで撮影することができ、それによって培養細胞が剥離したことを直ちに検出することができる。
つまり撮影手段を固定して培養容器のみを揺動させた場合には、培養容器の姿勢が水平位置と傾斜位置とではそれだけで撮影画像に差異が生じてしまうが、培養容器と撮影手段とを一体的に揺動させれば撮影された培養容器の姿勢は常に一定となるので、画像を比較する際に培養容器の姿勢を同一に揃えてから撮影する必要がなく、撮影のタイミング設定が容易となる。しかも振盪手段の揺動中でも剥離の有無を判定することができるので、培養細胞が剥離したことを速やかに検出することができ、それによって剥離作業を直ちに停止することができるので剥離剤による培養細胞に対する悪影響を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1において、培養細胞の剥離判定装置1は培養容器2を支持する支持部材3を備えており、培養容器2は支持部材3の載置部3A上に載置されて、例えば該培養容器2の周囲複数個所に設けた係合爪などの保持手段4によって載置部3A上に着脱可能に保持される。
上記培養容器2内には、該培養容器2の底面に接着して増殖する接着性の培養細胞が収容されており、上記剥離判定装置1の全体が図示しないインキュベーター内に収容されて、培養容器2内の細胞が培養されるようになっている。
上記培養容器2は例えばガラス製又は樹脂製の透明な容器であり、シャーレあるいはペトリ皿と呼ばれるディッシュ型の容器であってもよいし、横置きのフラスコ型の容器であってもよい。
【0009】
図示実施例では、上記支持部材3は上記培養容器2が載置される上述した水平板状の載置部3Aと、該載置部3Aの一側から上方に伸びる側壁部3Bと、該側壁部3Bの上端部から上記載置部3Aの上面に臨む水平板状の天面部3Cとから全体として断面コ字形に一体的に形成されている。
上記載置部3Aの培養容器2が載置される箇所の中心部には、該載置部3Aに載置された培養容器2の底部を、より具体的には該培養容器2の底部に接着して増殖する接着性の培養細胞を撮影する撮影手段5が設けられており、該撮影手段5としては撮像素子、例えばCCDカメラを用いることができる。
他方、上記天面部3Cには、載置部3Aに設けられた撮影手段5と対向する直上位置に、上記培養容器2を天面から照明する照明手段6が設けられており、該照明手段6としては発光素子、例えばLEDを用いることができる。
上記撮影手段5からの信号は、インキュベーターの外部に設けられた制御手段7に有線又は無線により伝達され、該制御手段7によって上記撮影手段5から入力した画像解析が行われて、上記培養容器2の底面に接着した培養細胞が該底面から剥離したか否かの接着状態を判定することができるようになっている。
【0010】
上記剥離判定装置1は、上記支持部材3を揺動させてこれに支持した培養容器2を揺動させる振盪手段11を備えており、図示実施例の振盪手段11においては、上記支持部材3および培養容器2をシーソー状に揺動させることができるようになっている。
上記振盪手段11は、上記インキュベーター内に配置される箱状の基台12と、この基台12の上面両側に立設した2本の支柱13とを備えており、上記支持部材3における載置部3Aの両側に水平に突出させて固定した回転軸14を各支柱13のそれぞれに回転自在に軸支してある。
一方の回転軸14の先端部には従動プーリ15を固定してあり、この従動プーリ15に無端状の駆動ベルト16を掛け渡してある。
上記箱状の基台12の内部には駆動モータ17を設けてあり、該駆動モータ17の駆動軸17Aの先端部に設けた駆動プーリ18に上記駆動ベルト16を掛け渡してある。
【0011】
したがって、駆動モータ17を正逆に回転させることにより、駆動モータ17の駆動軸17A、駆動プーリ18、駆動ベルト16、従動プーリ15および回転軸14を介して支持部材3をシーソー状に揺動させることができる。
上記駆動モータ17は制御手段7によって運転を制御されるようになっており、制御手段7は駆動モータ17を正逆に回転駆動させることにより支持部材3を揺動させて該支持部材3に載置された培養容器2を揺動させることができるようになっており、該培養容器2を上記支持部材3と一体的に設けられた撮影手段5および照明手段6と一体的に揺動させることができるようになっている。
その際、上記制御手段7は「なじませ動作」により、培養容器2内の培養液が全ての細胞に均一に行き渡るようにして良好な細胞の培養を促し、またはトリプシンなどの剥離剤が全ての細胞に均一に行き渡るようにして良好な剥離を促すように、培養容器2を揺動させることができるようになっている。
また、上記制御手段7は「剥離動作」により、培養容器2の底面に接着した培養細胞をその底面から剥離させる際に、その剥離を促すように培養容器2を揺動させることができるようになっている。
上記培養容器2は、上記「なじませ動作」では相対的にゆっくりと揺動され、「剥離動作」ではより移動幅を大きくやや急激に揺動されるようになる。なお上記「なじませ動作」はPBS洗浄時にも用いることができる。
【0012】
以上の構成において、上述したように上記剥離判定装置1はインキュベーター内に配置されており、支持部材3の載置部3Aは水平状態に維持されている。この状態において載置部3A上に培養容器2が載置され、細胞容器2内の細胞の培養が開始される。
インキュベーター内は例えば37℃、湿度95%RHに維持されており、所定のタイミングで上記制御手段7により「なじませ動作」が実行され、培養容器2内の培養液が全ての細胞に均一に行き渡らされる。
【0013】
細胞培養が完了して培養容器2から培養細胞を取り出す際には、例えばトリプシンといった剥離剤が培養容器2内に注入される。この注入は手動によって行ってもよいし自動であってもよい。
剥離剤が培養容器2内に注入されると、制御手段7は先ず「なじませ動作」に基づいて振盪手段11の駆動モータ17を起動して培養容器2を揺動させ、培養容器2内の剥離剤を全ての細胞に均一に行き渡らせる。
その後、制御手段7は「剥離動作」に基づく所定のタイミングで駆動モータ17を制御して、培養容器2の底面に接着した培養細胞をその底面から剥離させるのに好適な条件で培養容器2を揺動させる。
【0014】
これと同時に制御手段7は、培養容器2の底面に接着した培養細胞を照明手段6により天面から照明するとともに撮影手段5により底面から撮影し、撮影手段5からの信号を入力して、振盪手段11による培養容器2の姿勢変化の前後における画像を比較する。例えば培養容器2が水平の状態で撮影した前画像と、培養容器2が傾斜した状態で撮影した後画像との画像が比較される。
この際、撮影手段5は培養容器2と一体的に揺動されているので、培養容器2が水平の状態で撮影された前画像における培養容器2の姿勢と、培養容器2が傾斜した状態で撮影された後画像における培養容器2の姿勢は同一となる。つまり振盪手段11による培養容器2の姿勢を気にすることなく、任意のタイミングで培養容器2の撮影を実行しても前画像と後画像とにおける培養容器2の姿勢は同一となるので、前画像と後画像とから培養細胞だけの変位を検出することが可能となる。
そして例えば、画像を2値化処理して細胞の輪郭を把握して、輪郭位置の変化を認識することにより剥離を判定することができる。
なお、後画像として、培養容器2が水平の状態から傾斜して再び水平の状態となった際の画像や逆方向に傾斜した際の画像を採用してもよいことは勿論である。
また、照明手段6も撮影手段5や培養容器2と一体的に揺動されているので、揺動に伴って照明の方向が変化することがなく、画像の差異を正確に把握することができる。
【0015】
培養細胞が培養容器2の底面に接着したままで剥離していない状態では、培養容器2の底面に接着している培養細胞は揺動中の前後で移動がないため上記前画像と後画像とでは実質的に変化はなく、したがってこのことから制御手段7は培養細胞が培養容器2の底面から剥離していないと判断することができる。
培養細胞が培養容器2の底面から剥離していないと判断した場合には、制御手段7は所定のタイミングで「剥離動作」を継続する。
他方、培養細胞が培養容器2の底面から剥離すると、培養細胞は培養容器2が傾斜することによって大きく動くことになるので、上記揺動中の前画像と後画像とで大きな変化が生じることになり、このことから制御手段7は培養細胞が培養容器2の底面から剥離したことを容易に確認することができる。
上記制御手段7は、培養細胞が培養容器2の底面から剥離したことを確認したらその旨を表示・警告するとともに、培養容器2を水平状態に戻して剥離動作を終了し、その後、速やかに手動又は自動により培養容器2内にトリプシン不活性剤が注入される。
【0016】
なお、上記実施例では撮影手段5を支持部材3の載置部3Aに設けて培養細胞を培養容器2の底面から撮影するようになっているが、これに限定されるものではない。支持部材3の天面部3Cに撮影手段5を設けてもよい。この場合は、図1における天面部3Cの照明手段6の位置に撮影手段5を配置し、照明手段6は該撮影手段5の周囲を取り囲むリング照明とする。すなわち、培養容器2の底面に接着した培養細胞を培養容器2の天面から撮影する場合には焦点距離の調節が必要となるが、これを省略するために照明を撮影と同じく天面から行って培養細胞の反射画像を得るようにして、やや焦点の合わない画像であっても反射する輝度の変化を捉えて揺動中の前画像と後画像の差異を認識して培養細胞の接着状態を判定する。
また、上記実施例では振盪手段11は支持部材3をシーソー状に傾斜させて揺動させているが、これに限定されるわけではない。振盪手段11としては従来すでに種々の構成のものが提案されており、そこで提示されているように培養容器2を平面上で旋回させたり往復動させたりするものであってもよく、これらの複合動作をするものでもよい。
【符号の説明】
【0017】
1 培養細胞の剥離判定装置 2 培養容器
3 支持部材 3A 載置部
3B 天面部 5 撮影手段
6 照明手段 7 制御手段
11 振盪手段
図1