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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157190
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】自動二輪車の運転支援システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221006BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20221006BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20221006BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20221006BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/08
B60W50/14
B60W40/02
B60T7/12 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061283
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】片山 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 拡
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA31
3D241BA32
3D241BA33
3D241BA60
3D241BB27
3D241CE01
3D241CE02
3D241CE04
3D241CE05
3D241DC01Z
3D241DC33Z
3D241DC43Z
3D241DC57Z
3D246AA11
3D246DA01
3D246GB30
3D246HA02A
3D246HA08A
3D246HA13A
3D246HA86A
3D246HA94A
3D246HA95A
3D246HB11A
3D246HB18A
3D246HB20A
3D246HB24A
3D246JB12
3D246MA37
5H181AA05
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】衝突による自車の被害を軽減しつつ自車が自車走行車線外へ逸脱することによる二次事故を回避できる自動二輪車の運転支援システムを提供すること。
【解決手段】自動二輪車の運転支援システム1は、自車前方の道路状態を認識する外部センサユニット2と、この外部センサユニット2による自車前方の道路状態の認識結果に基づいて自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低を判定する衝突リスク判定部62と、衝突リスク判定部62による判定結果に応じてブレーキ装置83を自動で操作する自動制動を実行する自動制動制御部61と、自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定する逸脱リスク判定部64と、を備える。自動制動制御部61は、逸脱リスクが高いと判定された場合、自動制動の実行を停止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方の道路状態を認識する道路状態認識手段と、
前記道路状態認識手段による認識結果に基づいて得られる自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低に応じてブレーキ装置を自動で操作する自動制動を実行する自動制動制御手段と、を備える自動二輪車の運転支援システムであって、
前記自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定する逸脱リスク判定手段をさらに備え、
前記自動制動制御手段は、前記逸脱リスクが高い場合、前記自動制動の実行を停止することを特徴とする自動二輪車の運転支援システム。
【請求項2】
前記逸脱リスク判定手段により前記逸脱リスクが高いと判定されたことに起因して前記自動制動の実行が停止される場合、前記衝突リスクに関する情報とともに、前記自動制動の実行が停止されている旨の情報を運転者に報知する報知手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の運転支援システム。
【請求項3】
自車が旋回中であること又は自車の位置がカーブ手前であることを判定する走行環境判定手段をさらに備え、
前記逸脱リスク判定手段は、自車が旋回中であると判定されている場合又は自車の位置がカーブ手前であると判定されている場合に前記逸脱リスクの高低を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動二輪車の運転支援システム。
【請求項4】
前記逸脱リスク判定手段により前記逸脱リスクが低いと判定された場合に、運転者に対し自車を正立させる正立操作を促すか又は前記正立操作を自動で行う正立誘導手段をさらに備え、
前記自動制動制御手段は、前記正立誘導手段によって前記正立操作を運転者に促すか又は前記正立誘導手段によって前記正立操作を自動で行った後、前記自動制動を実行することを特徴とする請求項3に記載の自動二輪車の運転支援システム。
【請求項5】
前記衝突リスクが高いと判定された後、運転者による衝突回避操作を検出する衝突回避操作検出手段をさらに備え、
前記自動制動制御手段は、前記衝突回避操作検出手段により前記衝突回避操作が検出された場合、前記自動制動の実行を停止することを特徴とする請求項4に記載の自動二輪車の運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の運転支援システムに関する。より詳しくは、自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低に応じて自動制動を実行する自動二輪車の運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
四輪乗用車の多くには衝突被害軽減ブレーキ装置(以下、「AEB装置」ともいう)が搭載されている。AEB装置とは、自車が自車前方の障害物との衝突を回避するため、又は衝突速度を下げるため、自動で制動操作を操作するものをいう。
【0003】
自動二輪車においても、AEB装置によって衝突速度を下げることにより衝突被害を軽減できることから、近年、AEB装置を自動二輪車に搭載する研究が進められている。しかしながら自動二輪車では、自動ブレーキの作動時における姿勢によっては、転倒を誘発してしまうおそれがある。特に旋回中に自動ブレーキが作動すると転倒の可能性が高くなる。
【0004】
特許文献1には、自動二輪車のバンク角に応じて自動ブレーキによる制動力を変更する技術が示されている。特許文献1に示された自動二輪車では、バンク角が大きくなるほど制動力を弱めることにより、上述のような自動ブレーキによる転倒のリスクを軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-2328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1では、自動ブレーキによる自動二輪車の転倒リスクを軽減することは考慮されているものの、自動ブレーキによる自動二輪車の路肩や対向車線等への逸脱リスクについては検討されていない。車両が自車走行車線から逸脱してしまうと、二次事故が発生するおそれがある。例えば、カーブやカーブ手前では、その時の速度やカーブの曲率等によっては、たとえ正立した状態で自動ブレーキを作動させたとしても上述のような逸脱リスクが高くなるおそれがある。
【0007】
また例えば、高速道路を含む自動車専用道路のように、中央分離帯が存在する場合、逸脱リスクは低くなる。このような場合、自動ブレーキを作動させることにより、衝突速度を下げる方が好ましいと考えられる。
【0008】
本発明は、衝突による自車の被害を軽減しつつ自車が自車走行車線外へ逸脱することによる二次事故を回避できる自動二輪車の運転支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る自動二輪車の運転支援システム(例えば、後述の運転支援システム1)は、自車前方の道路状態を認識する道路状態認識手段(例えば、後述の外部センサユニット2)と、前記道路状態認識手段による認識結果に基づいて得られる自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低に応じてブレーキ装置(例えば、後述のブレーキ装置83)を自動で操作する自動制動を実行する自動制動制御手段(例えば、後述の自動制動制御部61)と、前記自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定する逸脱リスク判定手段(例えば、後述の逸脱リスク判定部64)と、を備え、前記自動制動制御手段は、前記逸脱リスクが高い場合、前記自動制動の実行を停止することを特徴とする。
【0010】
(2)この場合、前記運転支援システムは、前記逸脱リスク判定手段により前記逸脱リスクが高いと判定されたことに起因して前記自動制動の実行が停止される場合、前記衝突リスクに関する情報とともに、前記自動制動の実行が停止されている旨の情報を運転者に報知する報知手段(例えば、後述の運転者報知部65、HMI4)をさらに備えることが好ましい。
【0011】
(3)この場合、前記運転支援システムは、自車が旋回中であること又は自車の位置がカーブ手前であることを判定する走行環境判定手段(例えば、後述の走行環境判定部63、外部センサユニット2、車両センサユニット3、ナビゲーション装置5)をさらに備え、前記逸脱リスク判定手段は、自車が旋回中であると判定されている場合又は自車の位置がカーブ手前であると判定されている場合に前記逸脱リスクの高低を判定することが好ましい。
【0012】
(4)この場合、前記運転支援システムは、前記逸脱リスク判定手段により前記逸脱リスクが低いと判定された場合に、運転者に対し自車を正立させる正立操作を促すか又は前記正立操作を自動で行う正立誘導手段(例えば、後述の正立誘導部66、自動正立装置85、HMI4)をさらに備え、前記自動制動制御手段は、前記正立誘導手段によって前記正立操作を運転者に促すか又は前記正立誘導手段によって前記正立操作を自動で行った後、前記自動制動を実行することが好ましい。
【0013】
(5)この場合、前記運転支援システムは、前記衝突リスクが高いと判定された後、運転者による衝突回避操作を検出する衝突回避操作検出手段(例えば、後述の運転者操作検出部67、運転操作子81、ブレーキ装置83)をさらに備え、前記自動制動制御手段は、前記衝突回避操作検出手段により前記衝突回避操作が検出された場合、前記自動制動の実行を停止することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明に係る運転支援システムにおいて、自動制動制御手段は、自車前方の道路状態の認識結果に基づいて得られる自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低に応じて自動制動を実行する。これにより、自車と物体との衝突リスクが高くなった場合には、衝突速度を下げることができるので、自車の衝突による被害を軽減することができる。また運転支援システムは、自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定する逸脱リスク判定手段を備え、自動制動制御手段は、逸脱リスクが高い場合、自動制動の実行を停止する。これにより、自動制動を実行した場合に自車が自車走行車線外へ逸脱する可能性が高い場合、自動制動の実行を停止し、運転者による衝突回避操作や制動操作に委ねることができるので、自車が自車走行車線外へ逸脱してしまうことによる二次事故の発生を回避することができる。
【0015】
(2)本発明に係る運転支援システムは、逸脱リスクが高いと判定されたことに起因して自動制動の実行が停止される場合、衝突リスクに関する情報とともに、自動制動の実行が停止されている旨の情報を運転者に報知する報知手段を備える。これにより、自動制動が作動しないことを運転者に知らせることができるので、運転者は、最適な衝突回避操作及び制動操作を行うことができる。
【0016】
(3)本発明に係る運転支援システムにおいて、逸脱リスク判定手段は、自車が旋回中であると判定されている場合又は自車の位置がカーブ手前であると判定されている場合に、逸脱リスクの高低を判定する。自車が旋回中でもなくまた自車の位置がカーブ手前でもない場合、自車が自車走行車線外へ逸脱する可能性は判定するまでもなく低い。よって本発明によれば、逸脱リスクの誤判定によって自動制動の実行が停止されてしまうことを回避することができる。
【0017】
(4)本発明に係る運転支援システムでは、逸脱リスク判定手段は、自車が旋回中である場合又は自車の位置がカーブの手前である場合に逸脱リスクの高低を判定し、正立誘導手段は、逸脱リスクが低いと判定された場合に、運転者に対し自車を正立させる正立操作を促すか又はこの正立操作を自動で行い、自動制動制御手段は、正立操作が運転者に促されるか又は正立操作が自動で行われた後、自動制動を実行する。これにより、逸脱リスクが低い場合には、自車を正立させた上で自動制動を実行できるので、転倒しないよう安全に自動制動を実行できる。
【0018】
(5)本発明に係る運転支援システムでは、衝突回避操作検出手段は、衝突リスクが高いと判定された後、運転者による衝突回避操作を検出し、自動制動制御手段は、運転者による衝突回避操作が検出された場合、自動制動の実行を停止する。これにより、運転者の意思に基づく最適な衝突回避操作及び制動操作に委ねることができるので、衝突を回避又は衝突による被害を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の運転支援システムの構成を模式的に示す図である。
図2A】運転支援制御装置による衝突被害軽減ブレーキ制御処理の具体的な手順を示すフローチャートである(その1)。
図2B】運転支援制御装置による衝突被害軽減ブレーキ制御処理の具体的な手順を示すフローチャートである(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る自動二輪車の運転支援システムの構成について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る運転支援システム1の構成を示す図である。運転支援システム1は、図示しない自動二輪車に搭載される。なおこの自動二輪車の駆動源は、内燃機関でもよいし回転電機でもよいし、これらを組み合わせたものでもよい。また回転電機の電源は、二次電池でもよいし、キャパシタでもよいし、あるいは燃料電池でもよい。
【0022】
運転支援システム1は、運転者による自動二輪車の安全な運転を支援するものである。以下では、この運転支援システム1によって実現される様々な運転支援機能のうち、ブレーキ装置を自動で操作することにより、自車の衝突を回避又は衝突被害を軽減する衝突被害軽減ブレーキ機能について説明する。
【0023】
運転支援システム1は、外部センサユニット2と、車両センサユニット3と、マンマシンインターフェース(Human Machine Interface)4(以下、「HMI4」との略称を用いる)と、ナビゲーション装置5と、運転支援制御装置6と、運転操作子81と、走行駆動力出力装置82と、ブレーキ装置83と、自動正立装置85と、を備える。これら装置は、CAN(Controller Area Network)通信線等の多重通信線やシリアル通信線、無線通信網等によって互いに接続されている。
【0024】
外部センサユニット2は、カメラユニット21、ライダユニット22、レーダユニット23、及び外部認識装置24等によって構成される。
【0025】
カメラユニット21は、例えば、CCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Comleementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラを備える。ライダユニット22は、パルス状に発光するレーザー照射に対する対象からの散乱光を測定することにより、対象を検出するライダ(Light Detection and Rangin(LIDAR))を備える。レーダユニット23は、ミリ波照射に対する対象物からの反射波を測定することにより、対象を検出するミリ波レーダを備える。なおこれらカメラユニット21、ライダユニット22、及びレーダユニット23は、それぞれ自車前方側へ向けた状態で自動二輪車の任意の位置、例えばフロントウィンドシールドやミラー等に取り付けられる。
【0026】
外部認識装置24は、カメラユニット21、ライダユニット22、及びレーダユニット23のうち一部又は全部による検出結果に対してセンサフュージョン処理を行うことにより、自車前方に存在する道路や物体の位置、種類、速度等の状態(以下、これらをまとめて「道路状態」ともいう)を認識するコンピュータである。外部認識装置24は、その認識結果を、例えば運転支援制御装置6へ送信する。
【0027】
車両センサユニット3は、自車の速度を検出する車速センサや、5軸又は6軸の慣性計測装置等を備える。慣性測定装置は、自車の車体における3軸(ロール軸、ピッチ軸、及びヨー軸)の角度又は角速度及び加速度を検出する。車両センサユニット3の検出信号は、例えば運転支援制御装置6へ送信される。
【0028】
HMI4は、自車の乗員に対して各種情報を提示するとともに、乗員による入力操作を受け付ける。HMI4は、各種表示装置、スピーカ、ブザー、タッチパネル、スイッチ、及びキー等を備える。
【0029】
ナビゲーション装置5は、例えば、GNSS(Global Navigation Satelite System)衛星から受信した信号に基づいて自車の現在位置を特定するGNSS受信機や、地図情報を記憶する記憶装置等を備える。ナビゲーション装置5は、自車の現在位置に関する情報を現在位置の地図情報とともに運転支援制御装置6へ送信する。
【0030】
運転操作子81は、運転者が加減速時に操作をするアクセルグリップ及びブレーキレバー、運転者がシフト切替時に操作するクラッチレバー及びシフトペダル、運転者が旋回時に操作するステアリングハンドル、並びにこれらの操作量や操作の有無を検出する複数の操作子センサ等を備える。これら操作子センサの検出信号は、運転支援制御装置6へ送信される。
【0031】
走行駆動力出力装置82は、自車が走行するための走行駆動力を駆動輪に出力する。走行駆動力出力装置82は、内燃機関や回転電機等の駆動力源、変速機、及び運転支援制御装置6から送信される指令信号に基づいてこれら駆動力源及び変速機を制御し、指令に応じた加減速度を発生させる電子制御ユニット等を備える。
【0032】
ブレーキ装置83は、例えば、ブレーキキャリパー、このブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダ、シリンダに油圧を発生させる電動モータ、及び運転支援制御装置6から送信される指令信号に基づいて電動モータを制御し、指令に応じた制動力を発生させる電子制御ユニット等を備える。
【0033】
自動正立装置85は、運転支援制御装置6から送信される指令信号に基づいて、自車を正立させる正立操作を自動で行う。この自動正立装置85は、例えば、自車のステアリング装置を自動で操作する自動操舵装置や、本願出願人による特許第6081238号に記載された機構等が用いられる。
【0034】
運転支援制御装置6は、運転支援機能に関わる制御を担うコンピュータである。運転支援制御装置6は、複数の運転支援機能のうちの1つである衝突被害軽減ブレーキ機能を実現するモジュールとして、自動制動制御部61と、衝突リスク判定部62と、走行環境判定部63と、逸脱リスク判定部64と、運転者報知部65と、正立誘導部66と、運転者操作検出部67と、を備える。
【0035】
自動制動制御部61は、衝突リスク判定部62、走行環境判定部63、及び逸脱リスク判定部64における判定結果、並びに運転者操作検出部67における検出結果に基づいて、ブレーキ装置83を自動で操作する自動制動を実行したり停止したりする。また自動制動制御部61は、運転者によるブレーキ装置83の制動操作だけでは十分に衝突速度を低下させることができない場合、ブレーキ装置83を補助的に操作することによって、ブレーキ装置83による制動力を増加させるアシスト制動を実行する。
【0036】
衝突リスク判定部62は、外部認識装置24による自車前方の道路状態の認識結果に基づいて、自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低を判定する。なお衝突リスク判定部62における衝突リスクの判定には、道路状態の認識結果の他、車両センサユニット3の検出結果を組み合わせてもよい。衝突リスク判定部62による判定結果は、自動制動制御部61、運転者報知部65、及び運転者操作検出部67へ送信される。
【0037】
走行環境判定部63は、自車が旋回中であるか否か又は自車の位置がカーブ手前であるか否かを判定する。走行環境判定部63は、外部認識装置24による自車前方の道路状態の認識結果、車両センサユニット3の検出結果、及びナビゲーション装置5から送信される自車の位置情報や地図情報の全て、何れか、又はこれらの組み合わせに基づいて、自車が旋回中であるか否か又は自車の位置がカーブ手前であるか否かを判定する。走行環境判定部63による判定結果は、自動制動制御部61や逸脱リスク判定部64へ送信される。
【0038】
逸脱リスク判定部64は、自動制動制御部61によって自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定する。ここで、自車走行車線外とは、例えば、対向車線、及び歩道の他、自車走行車線と隣接する走行車線も含む。逸脱リスク判定部64は、例えば道路状態の認識結果、車両センサユニット3の検出結果、及びナビゲーション装置5から送信される自車の位置情報や地図情報の全て、何れか、又はこれらの組み合わせに基づいて、中央分離帯やガードレール等、自車走行車線の内外を区画する物体の有無を考慮することにより、自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定することが好ましい。すなわち、自車走行車線の内外を区画する物体が存在する場合、逸脱リスクは低くなり、またこのような物体が存在しない場合、逸脱リスクは高くなる。またこのような逸脱リスクは、自車が旋回中である場合や自車の位置がカーブ手前である場合に高くなることから、逸脱リスク判定部64は、走行環境判定部63において自車が旋回中であると判定されている場合又は自車の位置がカーブ手前であると判定されている場合に自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定することが好ましい。逸脱リスク判定部64による判定結果は、自動制動制御部61や運転者報知部65へ送信される。
【0039】
運転者報知部65は、走行中、HMI4を介して運転者に各種情報を報知する。より具体的には、運転者報知部65は、衝突リスク判定部62により衝突リスクが高いと判定された場合には、HMI4を用いることにより、前方衝突警報を実行したり、自動制動の実行の可否に関する情報を報知したりする。
【0040】
正立誘導部66は、逸脱リスク判定部64により逸脱リスクが低いと判定された場合でありかつ自動制動制御部61が自動制動を実行する前において、運転者に対し正立操作を促したり、この正立操作を自動で行ったりする。より具体的には、正立誘導部66は、例えばHMI4を介して正立操作を促すメッセージを表示したり警告灯を点灯したりすることにより、運転者に対し正立操作を促す。また正立誘導部66は、自動正立装置85へ指令信号を送信することにより、この自動正立装置85によって自動で正立操作を行うことができる。
【0041】
運転者操作検出部67は、衝突リスク判定部62によって衝突リスクが高いと判定された後、運転者による衝突回避操作や正立操作を検出する。ここで衝突回避操作とは、衝突が懸念される物体との衝突を回避するための運転者による操舵操作や、この物体に対する衝突速度を低下させるための制動操作等を含む。運転者操作検出部67は、例えば運転操作子81から送信される操作子センサの検出信号に基づいて運転者による衝突回避操作を検出する。この運転者操作検出部67による検出結果は、自動制動制御部61へ送信される。
【0042】
図2A及び図2Bは、運転支援制御装置6による衝突被害軽減ブレーキ制御処理の具体的な手順を示すフローチャートである。図2A及び図2Bに示す各ステップは、自動二輪車の走行中、図示しない記憶デバイスに格納されたコンピュータプログラムを運転支援制御装置6によって実行することで実現される。
【0043】
ステップST1では、運転支援制御装置6は、外部認識装置24による自車前方の道路状態の認識結果を取得し、ステップST2に移る。ステップST2では、衝突リスク判定部62は、ステップST1で取得した道路状態の認識結果等に基づいて自車と自車前方の物体との衝突リスクは高いか否かを判定する。衝突リスク判定部62は、ステップST2の判定結果がYESである場合、すなわち衝突リスクが高いと判定した場合には、ステップST3の処理に移り、ステップST2の判定結果がNOである場合、すなわち衝突リスクが低いと判定した場合には、ステップST1の処理に戻る。
【0044】
ステップST3では、走行環境判定部63は、自車は旋回中であるか否かを判定する。走行環境判定部63は、ステップST3の判定結果がYESである場合、ステップST11の処理に移り、ステップST3の判定結果がNOである場合、ステップST4の処理に移る。ステップST4では、走行環境判定部63は、自車の位置はカーブ手前であるか否かを判定する。走行環境判定部63は、ステップST4の判定結果がYESである場合、ステップST12の処理に移り、ステップST4の判定結果がNOである場合、ステップST5の処理に移る。
【0045】
ステップST5では、運転者報知部65は、HMI4を用いた前方衝突警報を実行し、自車前方に自車と衝突するおそれがある物体が存在することを運転者に報知し、ステップST6に移る。
【0046】
ステップST6では、自動制動制御部61は、運転者操作検出部67によって運転者による衝突回避操作が検出されたか否かを判定する。自動制動制御部61は、ステップST6における判定結果がNOである場合、ステップST7に移る。ステップST7では、自動制動制御部61は、自動制動を実行し、図2A及び図2Bに示す処理を終了する。以上のように運転支援制御装置6は、衝突リスクが高いと判定され、自車は旋回中でなく、自車の位置がカーブ手前でなく、また運転者による衝突回避操作が検出されなかった場合、自動制動を実行する。
【0047】
一方、ステップST6における判定結果がYESである場合、すなわち運転者による衝突回避操作が検出された場合、自動制動制御部61は、自動制動を実行する必要はないと判断し(ステップST8参照)、図2A及び図2Bに示す処理を終了する。すなわち運転支援制御装置6は、衝突リスクが高いと判定された後、運転者による衝突回避操作が検出された場合、自動制動の実行を停止する。なおこの場合、自動制動制御部61は、自動制動の実行を停止するとともに、必要に応じて運転者による制動操作を補助するアシスト制動を実行してもよい。
【0048】
一方、ステップST3における判定結果がYESである場合、すなわち走行環境判定部63によって自車は旋回中であると判定された場合、逸脱リスク判定部64は、旋回姿勢にある車体を正立させた後、自動制動を実行した場合における自車の進行方向や進行距離を算出することにより、自車の自車走行車線外への逸脱リスクを推定する(ステップST11参照)。
【0049】
またステップST4における判定結果がNOである場合、すなわち走行環境判定部63によって自車の位置はカーブ手前であると判定された場合、逸脱リスク判定部64は、自動制動を直ちに実行した場合における自車の進行方向や進行距離を算出することにより、自車の自車走行車線外への逸脱リスクを推定する(ステップST12参照)。なおこれらステップST11,ST12における逸脱リスクの推定では、逸脱リスク判定部64は、自動制動を実行した場合における自車の進行方向前方側における中央分離帯やガードレール等、自車の逸脱を防止する物体の有無を考慮することが好ましい。
【0050】
ステップST13では、逸脱リスク判定部64は、ステップST11又はステップST12における推定結果に基づいて、自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクが高いか否かを判定する。逸脱リスク判定部64は、ステップST13における判定結果がYESである場合、すなわち自動制動を実行すると自車が自車走行車線外へ逸脱する可能性が高い場合には、自動制動の実行を停止するべく、ステップST14に移る。
【0051】
ステップST14では、運転者報知部65は、HMI4を用いた前方衝突警報を実行し、自車前方に自車と衝突するおそれがある物体が存在することを運転者に報知するとともに、HMI4を用いることにより、自動制動を実行できない旨の情報を運転者に報知し、図2A及び図2Bに示す処理を終了する。以上のように運転支援制御装置6は、衝突リスクが高いと判定され、自車は旋回中であるか又は自車の位置がカーブ手前であり、さらに自動制動を実行した場合に逸脱リスクが高くなると判定された場合、自動制動の実行を停止する。またこの際、運転者報知部65は、このように逸脱リスクが高いと判定されたことに起因して自動制動の実行が停止される場合、前方衝突警報を実行するとともに、自動制動の実行が停止されている旨の情報を、HMI4を介して運転者に報知する。
【0052】
一方、ステップST13における判定結果がNOである場合、すなわち逸脱リスク判定部64により逸脱リスクは低いと判定された場合、逸脱リスク判定部64は、ステップST15の処理に移る。ステップST15では、正立誘導部66は、自車が成立した状態で自動制動を実行できるようにするため、HMI4を介して運転者に対し正立操作を促す旨のメッセージを表示する。
【0053】
ステップST16では、自動制動制御部61は、運転者操作検出部67によって運転者による正立操作が検出されたか否かを判定する。自動制動制御部61は、ステップST16における判定結果がYESである場合、すなわち運転者による正立操作が検出された場合、自動制動制御部61は、自動制動を実行する必要はないと判断し(ステップST8参照)、図2A及び図2Bに示す処理を終了する。以上のように運転支援制御装置6は、衝突リスクが高いと判定され、自車は旋回中であるか又は自車の位置がカーブ手前であり、逸脱リスクは低いと判定され、運転者による正立操作が検出された場合、自動停止の実行を停止する。なおこの場合、自動制動制御部61は、自動制動の実行を停止するとともに、必要に応じて運転者による制動操作を補助するアシスト制動を実行してもよい。
【0054】
一方、自動制動制御部61は、ステップST16における判定結果がNOである場合、ステップST17の処理に移る。ステップST17では、正立誘導部66は、自動正立装置85によって自動で正立操作を行った後、ステップST6の処理に移る。以上のように、運転支援制御装置6では、衝突リスクが高いと判定され、自車は旋回中であるか又は自車の位置がカーブ手前であり、逸脱リスクは低いと判定された場合、逸脱リスクが低いと判定された場合、運転者に対し正立操作を促したり、この正立操作を自動で行ったりした後、自動制動を実行する。
【0055】
本実施形態に係る自動二輪車の運転支援システム1によれば、以下の効果を奏する。
(1)運転支援システム1において、運転支援制御装置6は、自車前方の道路状態の認識結果に基づいて自車と自車前方の物体との衝突リスクの高低を判定し、この衝突リスクの判定結果に応じて自動制動を実行する。これにより、自車と物体との衝突リスクが高くなった場合には、衝突速度を下げることができるので、自車の衝突による被害を軽減することができる。また運転支援システム1は、自動制動を実行した場合における自車の自車走行車線外への逸脱リスクの高低を判定する逸脱リスク判定部64を備え、自動制動制御部61は、逸脱リスクが高いと判定された場合、自動制動の実行を停止する。これにより、自動制動を実行した場合に自車が自車走行車線外へ逸脱する可能性が高い場合、自動制動の実行を停止し、運転者による衝突回避操作や制動操作に委ねることができるので、自車が自車走行車線外へ逸脱してしまうことによる二次事故の発生を回避することができる。
【0056】
(2)運転支援システム1は、逸脱リスクが高いと判定されたことに起因して自動制動の実行が停止される場合、前方衝突警報を実行するとともに、自動制動の実行が停止されている旨の情報を、HMI4を介して運転者に報知する運転者報知部65を備える。これにより、自動制動が作動しないことを運転者に知らせることができるので、運転者は、最適な衝突回避操作及び制動操作を行うことができる。
【0057】
(3)運転支援システム1において、逸脱リスク判定部64は、自車が旋回中であると判定されている場合又は自車の位置がカーブ手前であると判定されている場合に、逸脱リスクの高低を判定する。自車が旋回中でもなくまた自車の位置がカーブ手前でもない場合、自車が自車走行車線外へ逸脱する可能性は判定するまでもなく低い。よって運転支援システム1によれば、逸脱リスクの誤判定によって自動制動の実行が停止されてしまうことを回避することができる。
【0058】
(4)運転支援システム1では、逸脱リスク判定部64は、自車が旋回中である場合又は自車の位置がカーブの手前である場合に逸脱リスクの高低を判定し、正立誘導部66は、逸脱リスクが低いと判定された場合に、運転者に対し自車を正立させる正立操作を促すか又はこの正立操作を自動で行い、自動制動制御部61は、正立操作が運転者に促されるか又は正立操作が自動で行われた後、自動制動を実行する。これにより、逸脱リスクが低い場合には、自車を正立させた上で自動制動を実行できるので、転倒しないよう安全に自動制動を実行できる。
【0059】
(5)運転支援システム1では、運転者操作検出部67は、衝突リスクが高いと判定された後、運転者による衝突回避操作を検出し、自動制動制御部61は、運転者による衝突回避操作が検出された場合、自動制動の実行を停止する。これにより、運転者の意思に基づく最適な衝突回避操作及び制動操作に委ねることができるので、衝突を回避又は衝突による被害を軽減できる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…運転支援システム
2…外部センサユニット(道路状態認識手段、走行環境判定手段)
3…車両センサユニット(走行環境判定手段)
4…HMI(正立誘導手段、報知手段)
5…ナビゲーション装置(走行環境判定手段)
6…運転支援制御装置
61…自動制動制御部(自動制動制御手段)
62…衝突リスク判定部
63…走行環境判定部(走行環境判定手段)
64…逸脱リスク判定部(逸脱リスク判定手段)
65…運転者報知部(報知手段)
66…正立誘導部(正立誘導手段)
67…運転者操作検出部(衝突回避操作検出手段)
81…運転操作子(衝突回避操作検出手段)
82…走行駆動力出力装置
83…ブレーキ装置(ブレーキ装置、衝突回避操作検出手段)
85…自動正立装置(正立誘導手段)
図1
図2A
図2B