(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157198
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】中性固化材及び土の処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/40 20060101AFI20221006BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20221006BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20221006BHJP
C09K 17/20 20060101ALI20221006BHJP
C09K 17/22 20060101ALI20221006BHJP
E02D 17/18 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C09K17/40
C09K17/02 P
C09K17/06 P
C09K17/20 P
C09K17/22 P
E02D17/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061292
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】川村 健太
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 真吾
(72)【発明者】
【氏名】尾花 誠一
【テーマコード(参考)】
2D044
4H026
【Fターム(参考)】
2D044CA10
4H026CA06
4H026CB08
4H026CC02
(57)【要約】
【課題】pHを中性付近に維持しつつ、且つ高い強度を発現した土に改良できる中性固化材を提供すること。
【解決手段】本発明の中性固化材は、酸化マグネシウムと、硫酸第一鉄と、アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤とを含む。前記酸化マグネシウムに対する前記硫酸第一鉄の無水物換算での質量比が、1.50~2.50である。前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が35~98mol%である。中性固化材は、石膏を更に含むことも好適である。また本発明は、前記中性固化材を用いた土の処理方法も提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムと、硫酸第一鉄と、アクリルアミドユニット及びアクリル酸ナトリウムユニットを有する高分子凝集剤とを含み、
前記酸化マグネシウムに対する前記硫酸第一鉄の無水物換算での質量比が1.50~2.50であり、
前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が35~98mol%である、中性固化材。
【請求項2】
石膏を更に含む、請求項1に記載の中性固化材。
【請求項3】
前記高分子凝集剤を1~8質量%含む、請求項1又は2に記載の中性固化材。
【請求項4】
前記酸化マグネシウムを2~41質量%含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の中性固化材。
【請求項5】
処理対象となる土と中性固化材とを混合する工程を備え、
前記中性固化材が、酸化マグネシウムと、硫酸第一鉄と、アクリルアミドユニット及びアクリル酸ナトリウムユニットを有する高分子凝集剤とを含み、且つ
前記酸化マグネシウムに対する前記硫酸第一鉄の無水物換算での質量比が1.50~2.50であり、
前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が35~98mol%である、土の処理方法。
【請求項6】
気泡剤を含む前記土を処理対象とする、請求項5に記載の土の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性固化材及び土の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質土壌や建設発生土等の搬出や再利用を容易にするために、土の強度を向上させる土壌固化材が用いられる。このような土壌固化材は、水質や植生等の周囲環境の保全を考慮して、土壌改良後の土壌のpHを中性付近に維持しつつ、十分な強度を発現させることが望まれる。
【0003】
土壌固化材を用いた際の改良土の強度向上を目的として、特許文献1には、酸化マグネシウムと、硫酸アルミニウム及び/または硫酸鉄、残部が石膏からなる土壌固化材が開示されている。また特許文献2には、金属硫酸塩等の金属塩、マグネシウム含有物及び高分子系の増粘用材料に加えて、半水石膏等の助材を含む土壌用改良材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-109829号公報
【特許文献2】特開2008-100313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の土壌改良材は、改良土のpHを中性付近に維持しつつ、強度発現性を十分に高める点で改善の余地があった。
【0006】
また、建設発生土に固化処理を行って得られた改良土は、建設発生土が発生した現場で再利用される場合と、別の現場で再利用される場合とがある。後者の場合、典型的には、改良土は、建設発生土が発生した現場で一定期間養生した後、再利用される場所へ搬入される。このとき、掘削や解きほぐし等の工程を行うことに起因して、改良土としての強度低下が生じ得る。その結果、再利用される場所での十分な強度が発現できないことがある。このような点を改善することに関して、特許文献1及び2に記載の土壌改良材では何ら検討されていない。
【0007】
そこで本発明は、pHを中性付近に維持しつつ、且つ掘削、解きほぐしによる強度低下が発生しにくい改良土を得ることができる中性固化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸化マグネシウムと、硫酸第一鉄と、アクリルアミドユニット及びアクリル酸ナトリウムユニットを有する高分子凝集剤とを含み、
前記酸化マグネシウムに対する前記硫酸第一鉄の無水物換算での質量比が、1.50~2.50であり、
前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が35~98mol%である、中性固化材を提供するものである。
【0009】
また本発明は、処理対象となる土と中性固化材とを混合する工程を備え、
前記中性固化材が、酸化マグネシウムと、硫酸第一鉄と、アクリルアミドユニット及びアクリル酸ナトリウムユニットを有する高分子凝集剤とを含み、且つ
前記酸化マグネシウムに対する前記硫酸第一鉄の無水物換算での質量比が1.50~2.50であり、
前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が35~98mol%である、土の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、pHを中性付近に維持しつつ、且つ高い強度を発現した土に改良できるので、改良土を幅広い用途で再利用することができ、資源の有効利用に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、中性固化材による土の処理方法の一例を、気泡シールド工法に用いられるシールドマシンの一例とともに示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1、3及び4並びに比較例4の中性固化材におけるアクリルアミドユニットの組成比と、改良土のコーン指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字であり、[Z]は必要に応じて付される単位である。)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」又は「X以上Y以下」を意味する。
【0013】
本発明の中性固化材は、改良対象となる土と混合することによって、pHが中性に維持され、且つ高い強度を発現した土を得るために用いられる材料である。改良対象となる土は、例えば水を含んだ軟質土壌等の含水土壌、あるいは、泥土等といった、道路工事、シールド工法等によるトンネル工事及び建造物建設工事等の各種建設工事によって副次的に発生した建設発生土や建設汚泥等が挙げられる。つまり、本発明の中性固化材は、含水土壌、建設発生土及び建設汚泥の少なくとも一種を固化するために好適に用いられる。
以下の説明では、「改良土」は、改良対象となる土に本発明の中性固化材を含有させて改良させた後の土を指す。
【0014】
本発明における「中性」とは、「改良土におけるpHが5.8以上8.6以下である」ことを指す。これは、水質汚濁防止法に規定される排水基準のpHにおける「海域以外の公共用水域に排出されるもの」の項に示されている数値である。したがって、本発明の中性固化材を含む改良土は、例えば該改良土に浸透した雨水が地下水や河川に流出してしまった場合でも、排水基準に適合しているので、改良土の用途や使用場所に制限されず、環境負荷を低減して再利用することができる。
【0015】
本発明の中性固化材は、以下の(1)ないし(3)に示す成分を含む。
(1)酸化マグネシウム。
(2)硫酸第一鉄。
(3)アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤。
【0016】
本発明の中性固化材は、酸化マグネシウムを含む。酸化マグネシウムは、主に、改良対象となる土を固化するために配合される成分である。
酸化マグネシウムとしては、例えば水酸化マグネシウム又は炭酸マグネシウムを600~900℃で焼成した軽焼酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0017】
中性固化材における酸化マグネシウムの含有量は、無水物換算として、好ましくは2~41質量%であり、より好ましくは3~30質量%であり、更に好ましくは4~21質量%であり、一層好ましくは15~21質量%である。酸化マグネシウムを上述した含有量とすることによって、改良対象となる土の強度発現性と、pHを中性に維持することとを高いレベルで両立することができる。これに加えて、重金属類等により汚染された土壌を改良対象とした場合に、重金属類を不溶化させて、改良土からの重金属類の溶出を抑制することができる。その結果、改良土を用いた周囲の環境を保全できるという利点もある。
【0018】
本発明の中性固化材は、硫酸第一鉄を含む。硫酸第一鉄は、主に、改良対象となる土のpHを中性に維持するために配合される成分である。
【0019】
中性固化材における硫酸第一鉄の含有量は、無水物換算として、好ましくは2.8~70質量%、より好ましくは5~50質量%、更に好ましくは10~40質量%、より一層好ましくは30~40質量%である。これらの含有量は、後述する酸化マグネシウムに対する硫酸第一鉄の質量比(S/M比)を満たすこと、並びに、酸化マグネシウム及び高分子凝集材の含有量との和が100質量%以下となることを条件とする。
硫酸第一鉄を上述した含有量とすることによって、改良対象となる土のpHを中性に維持しながら、強度をより高く発現させることができる。これに加えて、重金属類等により汚染された土壌を改良対象とした場合に、重金属類を還元させて不溶化させて、改良土からの重金属類の溶出を抑制することができる。
【0020】
酸化マグネシウムに対する硫酸第一鉄の質量比(S/M比)は、無水物換算での各質量を基準として、好ましくは1.50~2.50、より好ましくは1.60~2.45、更に好ましくは1.70~2.40、一層好ましくは1.70~2.0である。このような質量比とすることによって、従来技術では再利用が困難であった含水土壌や泥土などの土に対して、再利用に適した強度を十分に発現させることができ、資源を有効に利用することができる。
【0021】
本発明の中性固化材は、アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤を含む。
高分子凝集剤は、主に、改良対象となる土の粒子を凝集させて、改良土の強度を高めるために配合される成分である。高分子凝集剤は、好ましくは有機ポリマーの単一成分又は混合物である。本発明における「ユニット」とは、ポリマーの化学構造を構成するモノマー単位を指す。
【0022】
中性固化材に含まれる高分子凝集剤の具体的態様は、例えば、第1モノマーであるアクリルアミドと、第2モノマーであるアクリル酸ナトリウムとが重合してなる共重合体(コポリマー)である態様が挙げられる。
また、前記共重合体は、各モノマーが交互に重合した交互共重合体、各モノマーの配列が無秩序であるランダム共重合体、同種のモノマーが連続して重合した構成単位を有するブロック共重合体、及び一方のモノマーからなる重合体が他方のモノマーからなる重合体に分枝して結合しているグラフト共重合体等の少なくとも一種の態様であり得る。いずれの態様であっても、高分子凝集剤は、その化学構造中にアクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有するものである。
【0023】
中性固化材に含まれる高分子凝集剤は、該高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットが特定の組成比であることを特徴の一つとしている。
詳細には、高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比は、好ましくは35~98mol%、より好ましくは40~98mol%、更に好ましくは50~97mol%、一層好ましくは55~97mol%、より一層好ましくは65~75mol%である。アクリルアミドユニットがこのような割合で構成された高分子凝集剤を用いることによって、改良対象となる土の強度発現性と、pHを中性に維持することとを高いレベルで両立させることができる。
【0024】
アクリルアミドユニットが上述した割合で構成された高分子凝集剤を用いることによって、強度を向上させるように改質できる理由は明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
一般的に、中性~アルカリ性のpH領域(すなわちpHが5.8以上の領域)では、土粒子を構成する鉱物粒子の等電点が低いことに起因して、該粒子が負に帯電しており、水と土粒子との間で静電的な反発が生じやすい。そのため、土粒子は凝集等の団粒化が生じにくいため、結果として土全体の強度が低くなりやすい。
上述した高分子凝集剤を添加すると、まず、アクリルアミドユニットに由来するアミド基が土粒子表面に吸着する。次いで、アクリル酸ナトリウムユニットに由来するカルボキシ基が反発しあって、高分子凝集剤の分子鎖を広げ、その広がりによって土粒子や水を抱え込む(取り込む)。その結果、土粒子を効果的に団粒化させ、土粒子間に水を保持させることによって、改良土の強度を向上させることができると考えられる。
特に、上述した高分子凝集剤の添加による強度発現プロセスは、(i)凝集剤の土粒子の表面への吸着、(ii)土粒子どうしの架橋、及び(iii)土粒子の団粒化といった順に進むものと考えられており、高分子凝集剤に含まれるアクリルアミドユニットの組成比を上述した好適な割合とすることによって、強度発現に重要な前記(i)及び(ii)の過程をバランス良く且つ効果的に進行させることができると考えられる。
【0025】
高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの含有量は、例えば高分子凝集剤の構成元素である炭素、水素及び窒素の各元素を測定して、以下の方法で算出することができる。
詳細には、測定対象となる高分子凝集剤を約2mg精秤し、これを元素分析装置(例えばジェイ・サイエンス・ラボ社製、マイクロコーダーJM10)に導入して、各元素の質量を定量測定する。標品は、例えばアンチピリン(炭素元素:70.2質量%、水素元素:6.4質量%、窒素元素:14.9質量%)を用いることができる。
【0026】
上述の方法で測定された炭素元素の質量比(質量%)をC1とし、窒素元素の質量比(質量%)をN1とする。これらの値から、アクリルアミドユニット及びアクリル酸ナトリウムユニットの各組成比を以下の方法で算出する。
まず、アクリルアミドユニットは「-CH2-CH(CO-NH2)-」の化学式であるところ、該ユニット中の炭素数は3であり、該ユニット中の窒素数は1である。
また、アクリル酸ナトリウムユニットは「-CH2-CH(COONa)-」の化学式であるところ、該ユニット中の炭素数は3であり、該ユニット中の窒素数はゼロである。
【0027】
高分子凝集剤中のアクリルアミドユニットの組成比(mol%)を「A」とし、高分子凝集剤中のアクリル酸ナトリウムユニットの組成比(mol%)を「100-A」とし、各ユニットの炭素数及び窒素数に基づくと、アクリルアミドユニットの炭素の組成比(mol%)は「3×A」で表され、アクリルアミドユニットの窒素の組成比(mol%)は「A」で表される。また、アクリル酸ナトリウムユニットの炭素の組成比(mol%)は「3×(100-A)」で表される。
【0028】
上述の各割合に基づいて、高分子凝集剤中における、窒素元素の組成比(N5)に対する炭素元素の組成比(C5)の比(C5/N5)は、以下の式(I)により算出される。
(C5/N5)={(3×A)+3×(100-A)}/A=300/A ・・(I)
【0029】
ここで、C5/N5は、「{(C1)/(炭素原子量)}/{(N1)/(窒素原子量)}」に相当する(炭素原子量=12、窒素原子量=14)。したがって、アクリルアミドユニットの組成比Aは、以下の式(II)で算出される。
アクリルアミドユニットの組成比A(mol%)=300/(C5/N5)=300/{(C1)/(炭素原子量)}/{(N1)/(窒素原子量)} ・・(II)
【0030】
また、アクリル酸ナトリウムユニットの組成比は、以下の式(III)で算出される。
アクリル酸ナトリウムユニットの組成比(mol%)=100-A ・・(III)
【0031】
高分子凝集剤を構成するアクリル酸ナトリウムユニットの組成比は、好ましくは2~65mol%、より好ましくは2~60mol%、更に好ましくは3~50mol%、一層好ましくは3~45mol%、より一層好ましくは25~35mol%である。アクリル酸ナトリウムユニットがこのような割合で構成された高分子凝集剤を用いることによって、本発明の中性固化材を現場で土に混合した後や、一定期間養生した後、あるいは再利用される場所へ搬入される際の、掘削、解きほぐしによる強度低下が発生しづらくなるので有利である。
【0032】
中性固化材における高分子凝集剤の総含有量は、無水物換算で、好ましくは1~8質量%、より好ましくは1~7質量%、更に好ましくは1~6質量%、一層好ましくは1~3質量%である。このような含有量であることによって、改良土に十分な強度が得られ、且つ材料コストを低減することができる。
【0033】
本発明の中性固化材は、石膏を非含有(すなわち0質量%)としてもよく、これに代えて、石膏を更に含有してもよい。
石膏自体が有する水硬性によって、改良土の強度を更に高く発現させる観点から、中性固化材は、石膏を更に含むことが好ましい。
【0034】
石膏を含む場合、中性固化材における石膏の含有量は、無水物換算として、好ましくは0質量%超94質量%以下、より好ましくは40~91質量%、更に好ましくは40~88質量%、一層好ましくは40~85質量%、より一層好ましくは40~50質量%である。石膏を上述した含有量とすることによって、土の強度発現性と、pHを中性に維持することを高いレベルで両立できる。
また、石膏を含む場合、中性固化材における石膏の含有量は、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び高分子凝集剤の各含有量を上述の範囲としたときの残部とすることも、強度発現の観点から好ましい。
【0035】
中性固化材が石膏を含む場合、石膏としては、無水石膏、半水石膏及び二水石膏等のうち少なくとも一種を用いることができる。またJIS R9151に規定する石膏を用いることもできる。これらのうち、改良対象となる土の強度向上及びpHの維持に加えて、製造コストの低減を達成する観点から、石膏として半水石膏を用いることが好ましい。
【0036】
酸化マグネシウム、硫酸塩及び高分子凝集剤は、その性状が、それぞれ独立して、粉末状であってもよく、あるいは水等の溶媒に溶解又は分散させた液状又はスラリー状であってもよい。酸化マグネシウム及び硫酸塩は、それぞれ独立して、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
中性固化材の運搬時及び使用時における取り扱い性や施工性を高める観点から、酸化マグネシウム、硫酸塩及び高分子凝集剤はいずれも粉末状であることが好ましい。
また同様の観点から、本発明の中性固化材は、粉末状であることが好ましい。
【0037】
酸化マグネシウムのブレーン比表面積は、好ましくは6000~20000cm2/gであり、より好ましくは7000~20000cm2/gであり、更に好ましくは8000~20000cm2/gである。
ブレーン比表面積をこのような範囲とすることによって、中性固化材の施工性を高めることができるとともに、高い水和活性に起因して改良対象となる土の固化性を高めて、改良土の強度を向上することができる。また、上述のブレーン比表面積の範囲は、酸化マグネシウムとして軽焼酸化マグネシウムを用いた場合に満たされることが、施工性の向上と改良土の強度の向上とを高いレベルで両立できる点で好ましい。
酸化マグネシウムのブレーン比表面積は、例えばJIS R5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定することができる。
【0038】
酸化マグネシウムのBET比表面積は、好ましくは5~30m2/gであり、より好ましくは7~30m2/gであり、更に好ましくは8~30m2/gである。
このような範囲とすることによって、中性固化材の施工性を高めることができるとともに、高い水和活性に起因して改良対象となる土の固化性を高めて、改良土の強度を向上することができる。また、上述のブレーン比表面積の範囲は、酸化マグネシウムとして軽焼酸化マグネシウムを用いた場合に満たされることが、施工性の向上と改良土の強度の向上とを高いレベルで両立できる点で好ましい。
酸化マグネシウムのBET比表面積は、例えば高精度ガス吸着装置(日本ベル社製、BELSORP-mini)を用いて、定容量型ガス吸着法によって測定することができる。
【0039】
酸化マグネシウムにおけるMgO含有割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。このような含有割合となっていることによって、改良土の周辺環境のpH緩衝能が減弱しづらくなるとともに、改良土の強度を向上させることができる。
【0040】
酸化マグネシウムにおけるCaO含有割合は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。このような含有割合となっていることによって、改良土の周辺環境のpHを中性に維持しやすくすることができるとともに、改良土の強度を向上させることができる。
【0041】
上述した酸化マグネシウムに含有するMgO含有率およびCaO含有率は、JIS M8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0042】
本発明の効果が奏される限りにおいて、中性固化材は、改良対象となる土の性状に応じて、上述した酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び高分子凝集剤以外の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0043】
添加剤としては、例えば、硫酸アルミニウム等の硫酸第一鉄及び石膏以外の硫酸塩、ハイドロタルサイト及びハイドロカルマイト等のカルシウムアルミネート系鉱物、珪石等のケイ素含有鉱物、炭酸マグネシウム及び石灰石等の炭酸塩、セピオライト、パーライト、ゼオライト及びシリカ等の多孔質体、並びにキレート剤等の少なくとも一種が挙げられる。
【0044】
上述した各種添加剤の性状は、それぞれ独立して、粉末状であってもよく、あるいは水等の溶媒に溶解又は分散させた液状又はスラリー状であってもよい。
また各種添加剤は、それぞれ独立して、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
各種添加剤の添加の有無及び混合量については、予め配合試験を行って、その結果に基づいて決定することが好ましい。
【0045】
本発明の中性固化材は、該中性固化材と、処理対象の土とを混合して固化処理を行って当該土を改良する、土の処理方法に供することができる。
改良対象の土との混合時における中性固化材の性状は、粉末であってもよく、スラリー状であってもよい。
また、中性固化材と、改良対象の土との混合は、中性固化材と改良対象の土とを同時に混合してもよく、中性固化材及び改良対象の土のうち一方を他方に添加してもよい。
【0046】
改良対象の土1m3当たりの中性固化材の添加量は、改良対象の土の種類や性状、並びに目的とする発現強度に応じて適宜変更可能であるが、混合の均一性、発現強度の向上及び処理コストの低減を兼ね備える観点から、好ましくは20~200kg/m3であり、より好ましくは20~150kg/m3であり、更に好ましくは20~75kg/m3である。
【0047】
中性固化材と改良対象の土とを混合する装置は、例えば、バックホウ、ミキシングバケット装着バックホウ、スタビライザー、自走式土質改良機、定置式ミキサー、トレンチャー型撹拌混合機、深層混合処理機、パワーブレンダー及びプラント混合等といった、当該技術分野において通常用いられる混合装置を用いることができる。
【0048】
以下に、本発明の中性固化材を用いた土の処理方法の一例を
図1を参照して説明する。本発明の中性固化材は、改良処理の対象となる土として、例えば泥土圧シールド工法や気泡シールド工法等のシールド工法によって排出された泥土等の掘削土に対して用いることができる。
【0049】
図1に示すシールドマシン1は、典型的には気泡シールド工法に用いられるものである。シールドマシン1は、掘削方向に貫通した穴を複数備える円盤状のカッター11と、該カッター11に接続され、カッター11を回転駆動させるためのモーター12とを備える。モーター12の駆動軸の延びる方向は、掘削方向と一致している。また、同図に示すシールドマシン1は、スクリューコンベア3を備える。スクリューコンベア3は、カッター11よりも掘削方向後方に位置し、カッター11によって掘削された掘削土を掘削方向後方に搬送するためのものである。
【0050】
まず、シールドマシン1によって地盤を掘削する。本実施形態では、地盤を掘削するにあたり、掘削土の流動性を高めることを目的として、掘削対象の土に気泡を注入する気泡注入管15を備えている。気泡注入管15は、その一方がポンプ等の気泡供給装置(図示せず)と接続されており、他方はカッター11側へ開口している。気泡供給装置は、気泡の形成を促進し、気泡を安定化させる剤である気泡剤とともに気泡を供給してもよい。
【0051】
地盤の掘削によって発生した掘削土は、カッター11に設けられた穴を介して、シールドマシン1におけるチャンバー2及びスクリューコンベア3によって、掘削方向とは反対方向に搬送される。気泡剤を含む掘削土は、流動性が高くなり、搬送しやすくなっている。
スクリューコンベア3による搬送の際、スクリューコンベア3からの掘削土の排出時における圧力変化に起因する噴発防止を目的として、スクリューコンベア3の掘削方向前方側に設けられた投入装置4で、スクリューコンベア3の内部に噴発防止材を添加して、掘削土10と混合しながら搬送してもよい。
【0052】
続いて、スクリューコンベア3によって掘削方向後方に搬送された掘削土10は、スクリューコンベア3における掘削方向後方側に位置するゲート31を介して、ベルトコンベア5上に排出され、掘削方向とは反対方向に搬送される。
【0053】
そして、ベルトコンベアによって搬送された掘削土10をバケット6に入れ、掘削土10に本発明の中性固化材を固化材添加装置20から添加して、ミキサ30により混合し、好ましくは一定期間養生する。これらの操作は、掘削土10をズリトロや立坑を介して地上に搬出した後で行ってもよく、トンネル建設現場内で行ってもよい。
【0054】
本発明の中性固化材は、処理対象の土との混合直後においても十分な強度を発現可能であるので、改良土の養生を行わずに以後の工程に供してもよい。あるいは、目的とする強度や搬出先の受け入れ状況等に応じて、養生を行ってもよい。養生を行う場合、その期間は好ましくは1日~14日程度、より好ましくは1日~7日程度とすることができる。
【0055】
また養生を行う場合、強度が発現した改良土を特段の処理を行うことなくすぐに使用可能とする観点から、中性固化材と処理対象の土とを混合して、JIS A1228に準じて測定されるコーン指数が、好ましくは400kN/m2以上となるまで養生することも好ましい。この指標は、後述する「第3種建設発生土」の現場におけるコーン指数であり、このようなコーン指数であれば、他の施工現場で効率的に再利用でき、且つ強度も十分に発現できる。
【0056】
以上の工程を経て、処理対象の土に強度を発現させた改良土を得ることができる。その後、養生後の土を、ズリトロやトラック等の搬送設備を用いて、処理場や再利用現場等の目的の場所へ搬送して、再利用されるか、又は必要に応じて廃棄される。この改良土は再利用可能なレベルに強度が向上しているので、建設資材として搬出可能であり、また有効利用が可能となる。
【0057】
このように、本発明の中性固化材を用いることによって、従来技術では強度不足により産業廃棄物又は用途が限定された土として処理されていた建設発生土を、建設発生土の発生現場から外部に搬出する前に固化処理して、同一の又は異なる建設現場で改良土を建設資材として再利用することができる。
【0058】
特に、建設発生土が発生した建設現場と異なる建設現場で改良土を用いる場合、改良土を一定期間養生した後で他の建設現場に搬出されるところ、本発明の中性固化材を用いて固化した改良土は、搬出時において掘削や解きほぐしを行った場合でも、改良土の強度が十分に維持された状態で搬出することができる。また改良土を搬入した他の建設現場でも、特段の工程を経ることなく、改良土をそのまま再利用することができるので、高い施工性を有する。
また、気泡剤を含む土は、気泡剤を含まない土と比較して流動性が高くなっており、そのままの状態では取り扱いや再利用に供することが困難であるところ、中性固化材によって気泡剤を含む土を改良することによって、強度及びpH制御を高いレベルで発現させて、取り扱い性を高め、様々な用途で改良土を有効利用できる点で有利である。
【0059】
また、本発明の中性固化材によって改良された土は、高い強度を発現したものであるので、例えば国土交通省による通達「発生土利用基準について」の土質区分基準に規定される「第3種建設発生土」や、国土交通省による通知「建設汚泥処理度利用技術基準」の品質基準に規定される「第3種処理土」として好適に利用することができる。詳細には、本発明の中性固化材によって改良された土は、例えば、工作物の埋戻し、建築物の埋戻し、土木構造物の裏込め、道路用盛土、築堤、土地造成、鉄道盛土、空港盛土及び水面埋立等の土木工事用又は建設用等の広範な用途で好適に利用することができる。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下の説明では、特に断りのない限り「%」は「質量%」を表す。また以下の表中、「-」で示す欄は非含有であることを示す。
【0061】
〔実施例1~2、並びに比較例1~5〕
<1.建設発生土再現試料の調製>
原土として、粉末状の試料土を用いた。この試料土は、JIS A1203に準じて測定された含水比(以下、単に含水比ともいう。)は5.8%であり、JGS 0211-2000に準じて測定されたpHは5.1であった。試料土の他の物性を以下の表1に示す。
次いで、前記の試料土に、水、気泡剤(タック社製、掘進用添加剤マジカルラスティングホーム)及び噴発防止材(大興物産社製、泥土改質剤アルカスーパーロック)を以下の表1に示す割合で添加して、以下の表1に示す物性を有する建設発生土再現試料(泥土状試料)を得た。表1中、湿潤密度は、JIS A1210に準じて測定されたものである。
【0062】
【0063】
<2.中性固化材の調製>
原料として、以下に示す酸化マグネシウム、硫酸第一鉄、並びに、アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとの含有mol%が異なる高分子凝集剤を以下の表2に示す割合で混合し、粉末状の中性固化材を室内で調製した。使用した原料はいずれも粉末状である。比較例4については高分子凝集剤を非含有とし、その代わりに石膏を残部として添加した。
【0064】
(原料)
・酸化マグネシウム:宇部マテリアルズ(株)製、軽焼酸化マグネシウム(MgO含有量91.1質量%)。
・硫酸第一鉄:中国産、硫酸第一鉄1水和物。
・石膏:チヨダウーテ社製、半水石膏。
・高分子凝集剤:三洋化成工業社製、サンフロックAH-4SFA(上述の方法で測定したアクリルアミドユニット組成比:72mol%)。
【0065】
<3.改良土の調製>
粉末状の中性固化材を、90kg/m3の添加量にて発生土試料に添加して混合し、目的とする改良土を得た。なお、各改良土のpHは、いずれも中性に維持されていた。
【0066】
〔土の強度評価〕
発生土試料及び改良土を対象として、JIS A1228に従って、各材料の混合直後におけるコーン指数(kN/m2)を測定した。
土の強度判定は、コーン指数が500kN/m2以上(室内での第3種建設発生土に相当する基準)であるものを良好(表中、符号「〇」で示す。)と評価し、コーン指数が500kN/m2未満のものを不良(表中、符号「×」で示す。)と評価した。結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
表2に示すように、酸化マグネシウムと、硫酸塩と、アクリルアミドユニット組成比が所定の割合である高分子凝集剤とを用い、且つS/M比を所定の範囲とした実施例1及び2の中性固化材は、各比較例のものと比較して、改良土の強度を十分に発現できることが判る。このことは、発生土試料のコーン指数が、前記通達「発生土利用基準について」の土質区分基準における第4種建設発生土に区分される程度の値であったものが、中性固化材の添加によって、第3種建設発生土相当のコーン指数を有する改良土に改良されたことからも支持される。
【0069】
〔実施例3~4〕
本実施例では、各原料の配合割合を実施例1と同一にした状態で、アクリルアミドユニット組成比が異なる粉末状の高分子凝集剤を用いて、アクリルアミドユニット組成比と強度発現との関係を評価した。実施例3及び4で使用した高分子凝集剤を以下に示す。
【0070】
・実施例3:三洋化成工業社製、サンフロックAH-9S(上述の方法で測定したアクリルアミドユニット組成比:60mol%)。
・実施例4:MTアクアポリマー社製、アコフロックA-220(上述の方法で測定したアクリルアミドユニット組成比:96mol%)。
【0071】
実施例3及び4について、実施例1と同様に改良土を調製し、上述の方法と同様に、コーン指数による土の強度測定及び評価を行った。その結果を、高分子凝集剤におけるアクリルアミドユニット組成比とともに以下の表3に示す。表3には、実施例1及び比較例4の組成及び結果を再掲する。
【0072】
【0073】
表3に示すように、高分子凝集剤におけるアクリルアミドユニット組成比を所定の範囲にした実施例1、3及び4は、比較例のものと比較して、第3種建設発生土相当のコーン指数を有する改良土となる程度に、土の強度を十分に発現できることが判る。
【0074】
表3に示したアクリルアミドユニット組成比とコーン強度との関係を、線形近似直線(破線で示す)とともに
図2に示す。
図2に示されるように、高分子凝集剤におけるアクリルアミドユニット組成比が高くなるにつれて、コーン強度も高くなるという相関関係を有することが判る。そして、改良土を幅広い用途で効率的に再利用することができるコーン指数の閾値として500kN/m
2以上とした場合には、アクリルアミドユニットの組成比は約35mol%と推定される。このような知見に基づいて、本発明は、アクリルアミドユニット組成比の好適な範囲を上述のとおり設定して完成したものである。
【0075】
以上のとおり、本発明の中性固化材は、改良対象となる土を、pHを中性付近に維持しつつ、且つ高い強度を発現した土に改良できるので、改良土を幅広い用途で再利用することができ、資源の有効利用に繋げることができる。