(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157219
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】送りねじ装置における診断方法及び診断装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/19 20060101AFI20221006BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G05B19/19 K
G05D3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061321
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】北郷 匠
【テーマコード(参考)】
3C269
5H303
【Fターム(参考)】
3C269AB26
3C269BB12
3C269GG01
3C269MN16
3C269MN29
5H303AA01
5H303BB01
5H303CC10
5H303DD01
5H303DD25
(57)【要約】
【課題】送りねじと案内との両方に複合的に摩耗が発生したような場合においても、送りねじの摩耗と案内の摩耗とを夫々個々に診断することができる送りねじ装置における診断方法及び診断装置を提供する。
【解決手段】第1位置情報と第2位置情報とから弾性変形量を算出し、弾性変形量と送りねじ装置の軸剛性とを用いて、駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離し、回転成分トルクを用いて送りねじの予圧低下割合を算出し、予圧低下割合を用いて送りねじ装置の軸剛性を算出し、今回算出した送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した送りねじ装置の軸剛性とから送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで上記工程を繰り返しており、送りねじ装置の軸剛性が収束した際の直動成分トルクから案内の摩耗状態を、回転成分トルクから送りねじの摩耗状態を夫々診断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断方法であって、
前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する第1工程と、
前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離する第2工程と、
前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する第3工程と、
前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する第4工程と、
今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す第5工程と、
前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記回転成分トルクから前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する第6工程と
を実行することを特徴とする送りねじ装置における診断方法。
【請求項2】
モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断装置であって、
前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する弾性変形量算出部と、
前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離するトルク指令値分離部と、
前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する予圧低下割合算出部と、
前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する軸剛性算出部と、
今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す収束判定部と、
前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記回転成分トルクから前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する診断部と
を備えていることを特徴とする送りねじ装置における診断装置。
【請求項3】
モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断方法であって、
前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する第1工程と、
前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離する第2工程と、
前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する第3工程と、
前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する第4工程と、
今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す第5工程と、
前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記予圧低下割合から前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する第6工程と
を実行することを特徴とする送りねじ装置における診断方法。
【請求項4】
モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断装置であって、
前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する弾性変形量算出部と、
前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離するトルク指令値分離部と、
前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する予圧低下割合算出部と、
前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する軸剛性算出部と、
今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す収束判定部と、
前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記予圧低下割合から前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する診断部と
を備えていることを特徴とする送りねじ装置における診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送りねじの回転により、案内に沿って駆動対象を移動させる送りねじ装置の状態を診断するための診断方法及び診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械としては、送りねじの回転により、所定方向に配設された案内に沿ってテーブル等の移動体を移動させる送りねじ装置を備えたものがある。このような送りねじ装置では、経年劣化による送りねじの摩耗や異物の混入による損傷等によって、動作精度が低下したり動作時に異音が発生したりする等の不具合が生じてしまう。したがって、そのような不具合の発生を防止しようとすると、不具合が発生する前に機械要素を交換することが望まれる。そこで、従来、送りねじ装置における機械要素の状態を診断するための種々の診断方法が考案されている。
【0003】
たとえば特許文献1に記載の診断方法では、送りねじを回転させるためのモータのトルク指令値にもとづいて駆動対象の駆動力を推定し、その駆動力から送りねじの弾性変形量を推定する一方、モータの回転位置情報とテーブルの位置情報とから位置偏差を演算し、弾性変形量と位置偏差とを比較することによって駆動対象の損傷状況を診断するとしている。また、特許文献2に記載の診断方法では、モータの回転位置情報とテーブルの位置情報とからロストモーション値を算出するとともに、そのロストモーション値とモータへ供給される電流値とを用いてすべり案内のギブ締め付け状態を診断するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-154274号公報
【特許文献2】特開2013-69192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の診断方法では、モータのトルク指令値やモータへ供給される電流値について送りねじと案内とで負荷成分を分離しておらず、また送りねじの摩耗による送りねじ剛性の低下影響についても考慮していない。したがって、たとえば送りねじと案内との両方に摩耗が生じた場合等、複合的に異常が発生している場合に考慮していない現象が誤差要因となって診断を誤りかねないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、送りねじと案内との両方に複合的に摩耗が発生したような場合においても、送りねじの摩耗と案内の摩耗とを夫々個々に診断することができる送りねじ装置における診断方法及び診断装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断方法であって、前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する第1工程と、前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離する第2工程と、前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する第3工程と、前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する第4工程と、今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す第5工程と、前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記回転成分トルクから前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する第6工程とを実行することを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項2に記載の発明は、モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断装置であって、前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する弾性変形量算出部と、前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離するトルク指令値分離部と、前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する予圧低下割合算出部と、前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する軸剛性算出部と、今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す収束判定部と、前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記回転成分トルクから前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する診断部とを備えていることを特徴とする。
さらに、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項3に記載の発明は、モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断方法であって、前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する第1工程と、前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離する第2工程と、前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する第3工程と、前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する第4工程と、今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す第5工程と、前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記予圧低下割合から前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する第6工程とを実行することを特徴とする。
加えて、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項4に記載の発明は、モータと、前記モータの駆動に応じて回転する送りねじと、前記送りねじの回転に応じてねじ送りされる駆動対象と、前記駆動対象の移動を案内する案内とを備えているとともに、前記モータの回転位置を第1位置情報として検出する第1位置検出器と、前記駆動対象のねじ送り方向での位置を第2位置情報として検出する第2位置検出器とを備え、入力される位置指令値、前記第1位置情報、及び前記第2位置情報にもとづいて前記駆動対象の位置を制御する送りねじ装置において、前記送りねじ及び前記案内の摩耗状態を診断する診断装置であって、前記第1位置情報と前記第2位置情報とから弾性変形量を算出する弾性変形量算出部と、前記弾性変形量と前記送りねじ装置の軸剛性とを用いて、前記駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離するトルク指令値分離部と、前記回転成分トルクを用いて前記送りねじの予圧低下割合を算出する予圧低下割合算出部と、前記予圧低下割合を用いて前記送りねじ装置の軸剛性を算出する軸剛性算出部と、今回算出した前記送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した前記送りねじ装置の軸剛性とから前記送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで前記第1工程から前記第4工程までを繰り返す収束判定部と、前記送りねじ装置の軸剛性が収束した際の前記直動成分トルクから前記案内の摩耗状態を、前記予圧低下割合から前記送りねじの摩耗状態を夫々診断する診断部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1位置情報と第2位置情報とから弾性変形量を算出し、弾性変形量と送りねじ装置の軸剛性とを用いて、駆動対象の位置の制御に係るトルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離し、回転成分トルクを用いて送りねじの予圧低下割合を算出し、予圧低下割合を用いて送りねじ装置の軸剛性を算出し、今回算出した送りねじ装置の軸剛性と、前回算出した送りねじ装置の軸剛性とから送りねじ装置の軸剛性が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで上記工程を繰り返しており、送りねじ装置の軸剛性が収束した際の直動成分トルクから案内の摩耗状態を、回転成分トルク(請求項3及び4では予圧低下割合)から送りねじの摩耗状態を夫々診断するようになっている。したがって、送りねじと案内との両方に複合的に摩耗が発生したような場合においても、送りねじの摩耗と案内の摩耗とを夫々個々に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】診断装置での診断方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態となる送りねじ装置の状態を診断する診断方法及び診断装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0011】
図1は、送りねじ装置のブロック構成図である。
送りねじ装置は、サーボモータ7と、サーボモータ7の駆動によって回転する送りねじ8と、送りねじ8の回転によってねじ送りされるテーブル9と、テーブル9の移動を案内するための案内15(
図1では、案内15を構成する要素のうち、テーブル9側の案内のみを示している)とを備えてなる。また、サーボモータ7には、サーボモータ7の回転位置(以下、第1位置情報と称す)を検出するための第1位置検出器6が取り付けられている。さらに、送りねじ8と平行にスケール10が配設されており、当該スケール10には、テーブル9のねじ送り方向での位置(以下、第2位置情報と称す)を検出するための第2位置検出器11が、スケール10に沿ってテーブル9の移動に連動してスライド可能に取り付けられている。
【0012】
そして、上記送りねじ装置では、図示しないNC装置から入力された位置指令値について、第2位置検出器11からフィードバックされる第2位置情報を減算器1で減算して位置偏差を算出する。また、その位置偏差にもとづいて位置制御部2で速度指令値を算出する。さらに、速度指令値と、第1位置検出器6からフィードバックされる第1位置情報を微分器5で微分して求められるサーボモータ7の回転速度とにもとづいて、速度制御部3でモータトルク指令値を算出する。それから、このモータトルク指令値を電流制御部4において増幅した上で、サーボモータ7へ出力するフルクローズドループ位置制御を実行するようになっている。
【0013】
ここで、本発明の要部となる送りねじ装置の状態診断、特に送りねじ8及び案内15の摩耗の診断について説明する。
送りねじ装置には、送りねじ8及び案内15の摩耗を診断するための診断部13が設けられており、診断部13には、NC装置からの位置指令値と、電流制御部4で算出されたトルク指令値とが入力されるようになっている。また、診断部13には、減算器12で算出される第1位置情報と第2位置情報との差が弾性変形量εとして入力されるようになっている。そして、診断部13では、トルク指令値、及び弾性変形量εをもとに送りねじ8及び案内15の摩耗を診断することになる。
【0014】
図2に示すフローチャートに沿って上記診断を具体的に説明すると、まず減算器12において、第1位置検出器6で検出される第1位置情報と、第2位置検出器11で検出される第2位置情報との差分を算出し、当該差分を弾性変形量εとして診断部13に入力する(S1)。この弾性変形量εの算出に係る第1位置情報及び第2位置情報の検出にあたっては、テーブル9の加減速時、高速移動時、及び駆動方向の反転時等であると慣性力等の影響が大きくなったり、補正がなされていたりしていて機械状態を推定することが困難であることが多いため、一定速度での送り時に検出することが望ましい。
【0015】
次に、診断部13では、S1で算出された弾性変形量εと送りねじ装置の軸剛性K(n-1)とを用いて、下記式1及び式2によりトルク指令値Tを直動成分トルクTg(n)と回転成分トルクTr(n)とに分離する(S2)。なお、初回の演算時における送りねじ装置の軸剛性は、予め設定されている初期設定値を利用する。
【数1】
【0016】
また、診断部13では、回転成分トルクTr(n)と予め設定されている初期予圧トルクTp(0)とを比較することにより、送りねじ8の予圧低下割合ΔF(n)を算出する(S3)。回転成分トルクTr(n)は、下記式3に示すように、速度によらず一定となる予圧トルクTp(n)と、潤滑剤の粘性抵抗等の速度によって変化する速度比例成分Tvとに分離することができる。したがって、予め速度比例成分Tvの係数を設定しておき、第1位置情報及び第2位置情報の検出時における送り速度から速度比例成分Tvを算出すれば、現在の予圧トルクTp(n)を算出することができる。そして、送りねじ8の予圧低下割合ΔF(n)については、下記式4で算出する。
【数2】
【0017】
さらに、診断部13では、S3で算出した予圧低下割合ΔF(n)を用いて、送りねじ装置全体の軸剛性K(n)を算出する(S4)。この軸剛性K(n)の算出に係り、まだ摩耗しておらず、初期予圧荷重F
a0が付与された状態における初期のナットの軸方向剛性K
nut0は下記式5で算出され、予圧Faにおけるナットの軸方向剛性K
nutは、初期のナットの軸方向剛性K
nut0と予圧低下割合ΔFとを用いて、下記式6で表されることになる。したがって、送りねじ装置全体の軸剛性K(n)は、下記式7で算出される。なお、送りねじの剛性に関与しない各部の軸方向剛性は、予め設定しておく。
【数3】
【0018】
加えて、診断部13では、今回算出した軸剛性K(n)と前回算出した軸剛性K(n-1)とを比較し、軸剛性K(n)の値が収束しているか否かを判定し(S5)、軸剛性K(n)が収束するまでS2~S5の処理を繰り返す。この収束しているか否かの判定については、|1-K(n-1)/K(n)|や|K(n)-K(n-1)|により演算された収束判定値が一定値を下回るか否かにより行っており、一定値を下回ると収束したと判定する(S5でYESと判定する)。たとえば、|1-K(n-1)/K(n)|による収束判定では、当該演算による収束判定値が0.01以下(誤差1%以下)になった際に収束したと判定する。
【0019】
最後に、診断部13では、収束判定後の直動成分トルクTg(n)が所定の直動成分閾値を下回るか否かを判定し(S6)、直動成分トルクTg(n)が直動成分閾値を下回っている(S6でYESと判定する)と、案内15の摩耗が進行していると診断する(S7)。また、収束判定後の回転成分トルクTr(n)が所定の回転成分閾値を下回っているか否かを判定し(S8)、回転成分トルクTr(n)が回転成分閾値を下回っている(S8でYESと判定する)と、送りねじ8の摩耗が進行していると診断する(S9)。
【0020】
以上のような送りねじ装置における診断方法及び診断装置によれば、第1位置情報と第2位置情報とから弾性変形量εを算出し、弾性変形量εと送りねじ装置の軸剛性k(n-1)とを用いて、トルク指令値を直動成分トルクと回転成分トルクとに分離し、回転成分トルクを用いて送りねじ8の予圧低下割合を算出し、予圧低下割合を用いて送りねじ装置の軸剛性K(n)を再算出し、今回算出した送りねじ装置の軸剛性K(n)と、前回算出した送りねじ装置の軸剛性K(n-1)とから送りねじ装置の軸剛性K(n)が収束しているか否かを判定するとともに、収束するまで上記工程を繰り返しており、送りねじ装置の軸剛性K(n)が収束した際の直動成分トルクから案内15の摩耗状態を、回転成分トルクから送りねじ8の摩耗状態を夫々診断するようになっている。したがって、送りねじ8と案内15との両方に複合的に摩耗が発生したような場合においても、送りねじ8の摩耗と案内15の摩耗とを夫々個々に診断することができる。
【0021】
なお、本発明に係る送りねじ装置における診断方法及び診断装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、送りねじ装置の全体的な構成は勿論、診断に係る具体的な制御等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0022】
たとえば、上記実施形態では、送りねじ装置の軸剛性K(n)が収束した際の回転成分トルクから送りねじ8の摩耗状態を診断するようにしているが、回転成分トルクに代えて、送りねじ装置の軸剛性K(n)が収束した際の予圧低下割合ΔF(n)を採用し、当該予圧低下割合ΔF(n)が予め設定されている所定の閾値を下回っていると、送りねじ8の摩耗が進行していると診断するように構成することも可能である。
また、上記実施形態では駆動対象をテーブルとしているが、送りねじにより案内に沿って移動するものであれば駆動対象がテーブル以外であっても何ら問題はない。
さらに、上記実施形態の診断装置において、診断に係り算出した各種情報や使用する値、診断結果等を表示する表示装置を設けることも可能であるし、NC装置の表示部や記憶部を利用して診断に係り算出した各種情報や使用する値、診断結果等を表示したり記憶したりするように構成してもよい。
【符号の説明】
【0023】
6・・第1位置検出器、7・・サーボモータ(モータ)、8・・送りねじ、9・・テーブル(駆動対象)、11・・第2位置検出器、12・・減算器(弾性変形量算出部)13・・診断部(トルク指令値分離部、予圧低下割合算出部、軸剛性算出部、収束判定部、診断部)。