(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157230
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】マーキングペン用油性インキ組成物およびそれを内蔵したマーキングペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20221006BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061336
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 将太
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD07
4J039BA13
4J039BA32
4J039BC07
4J039BC20
4J039BC54
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE16
4J039BE22
4J039BE28
4J039GA26
(57)【要約】
【課題】非浸透面を有する筆記板に、鮮明で、優れた消去性を奏する筆跡を形成できるマーキングペン用油性インキ組成物およびそれを内蔵したマーキングペンを提供すること。
【解決手段】着色材と、有機溶剤と、樹脂と、剥離剤と、体積基準の算術平均粒子径が20nm以上、100nm未満であるアルミナ粒子とを含有し、EL型粘度計で、20℃、20rpmの条件において測定した粘度が3~20mPa・sであるマーキングペン用油性インキ組成物とし、前記インキ組成物を内蔵するマーキングペンとする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色材と、有機溶剤と、樹脂と、剥離剤と、体積基準の算術平均粒子径が20nm以上、100nm未満であるアルミナ粒子とを含有し、EL型粘度計で、20℃、20rpmの条件において測定した粘度が3~20mPa・sである、マーキングペン用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記アルミナ粒子の体積基準の算術平均粒子径が30~80nmである、請求項1に記載の油性インキ組成物。
【請求項3】
前記アルミナ粒子の含有量がインキ組成物全質量に対して0.01~5質量%である、請求項1または2に記載の筆記板用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤の全質量を基準として有機溶剤全体の50質量%以上をエタノールが占める、請求項1~3のいずれか1項に記載の油性インキ組成物。
【請求項5】
前記剥離剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルおよびポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルから選ばれる1種以上である、請求項1~4に記載の油性インキ組成物。
【請求項6】
前記樹脂がポリビニルブチラール樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の油性インキ組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の油性インキ組成物を内蔵してなるマーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングペン用油性インキ組成物およびそれを内蔵したマーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホーローや金属または樹脂等からなる非浸透面を有する筆記板に筆記可能であり、形成した筆跡はフェルト等の不織布やパイルからなる消去部を備えたボードイレーザーで消去できるマーキングペンが知られている。このようなマーキングペンには顔料と有機溶剤と樹脂とともに剥離剤を含有するインキが適用され、筆記性と筆跡消去性の両立が図られている。
前記剥離剤としては種々の材料が研究されているが、インキ中での安定性が高い点から一塩基酸エステルや二塩基酸エステル等の脂肪酸エステルが広く用いられている。しかしながら、筆記板やイレーザーの材質によっては筆跡が消去され難く、強い力での擦過が必要となる等の不具合を生じるものであった。この点を解消するべく、パーフルオロ基含有界面活性剤を添加する技術が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
特許文献1には、顔料と、沸点が120℃未満の有機溶剤と、皮膜形成性樹脂と、常温で液状の剥離剤と、パーフルオロ基含有の界面活性剤を含有する筆記板用インキが記載されている。この従来技術のインキは、パーフルオロ基含有界面活性剤を添加することで擦過消去性を改善するものであるが、インキ安定性を悪化させ易くなるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非浸透面を有する筆記板に、鮮明で、優れた消去性を奏する筆跡を形成できるマーキングペン用油性インキ組成物およびそれを内蔵したマーキングペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために、
「1.着色材と、有機溶剤と、樹脂と、剥離剤と、体積基準の算術平均粒子径が20nm以上、100nm未満であるアルミナ粒子とを含有し、EL型粘度計で、20℃、20rpmの条件において測定した粘度が3~20mPa・sである、マーキングペン用油性インキ組成物。
2.前記アルミナ粒子の体積基準の算術平均粒子径が30~80nmである、第1項に記載の油性インキ組成物。
3.前記アルミナ粒子の含有量が、インキ組成物全質量に対して0.01~5質量%である、第1項または第2項に記載の油性インキ組成物。
4.前記有機溶剤の全質量を基準として、有機溶剤全体の50質量%以上をエタノールが占める、第1項~第3項のいずれか1項に記載の油性インキ組成物。
5.前記剥離剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルおよびポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルから選ばれる1種以上である、第1項~第4項に記載の油性インキ組成物。
6.前記樹脂がポリビニルブチラール樹脂である、第1項~第5項に記載の油性インキ組成物。
7.第1項~第6項のいずれか1項に記載の油性インキ組成物を内蔵してなるマーキングペン。」とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非浸透面を有する筆記板、特には樹脂からなる非浸透面を有する筆記板に、鮮明で、長期に亘って優れた消去性を奏する筆跡を形成できるマーキングペン用油性インキ組成物およびそれを内蔵したマーキングペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。尚、本明細書において、配合を示す「部」、「% 」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0009】
本発明による油性インキ組成物( 以下、場合により、「インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)は、着色材と有機溶剤と樹脂と剥離剤とアルミナ粒子とを含有してなる。以下、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0010】
(着色材)
着色材には、従来公知の染料、顔料が適用できる。
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料等が挙げられ、顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄等の無機顔料、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系等の有機顔料、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。その他、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包または固溶化させたマイクロカプセル顔料、液晶類、可逆熱変色性組成物、フォトクロミック材料などの機能性材料を内包したマイクロカプセル顔料を用いてもよい。さらに、顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子などや、また着色樹脂粒子や無色樹脂粒子を、顔料もしくは染料で着色したもの等も用いることもできる。
着色材の中でも、筆跡の消去性を良好とし、着色材による筆記板への染着を抑制しやすいことから顔料が好ましく適用される。
これらの着色剤は、単独または2種以上組み合わせて使用してもよい。含有量は、インキ組成物の総質量に対して、1~40質量%が好ましい。
顔料は、溶媒に分散させ、顔料分散体としたものであっても良い。
【0011】
(有機溶剤)
有機溶剤は、従来汎用の溶剤を使用できる。また、インキ組成物は、二種以上の有機溶剤を含んでいてもよい。
本発明のインキ組成物は、有機溶剤が揮発し易い20℃における蒸気圧が5.0~50mmHg、より好ましくは10~50mmHgの有機溶剤を使用することが好ましい。
このような蒸気圧を有する有機溶剤を使用することにより、筆跡の乾燥性を向上させることができる。そのため、筆跡を手触した際、未乾燥のインキが手に付着したり、筆記面上の筆跡を形成していない空白部分を汚染する等の不具合を生じることなく、良好な筆跡を形成できる。
20℃における蒸気圧が5.0~50mmHgの有機溶剤としては、エチルアルコール(45)、n-プロピルアルコール(14.5)、イソプロピルアルコール(32.4)、n-ブチルアルコール(5.5)、イソブチルアルコール(8.9)、sec-ブチルアルコール(12.7)、tert-ブチルアルコール(30.6)、tert-アミルアルコール(13.0)等のアルコール系有機溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル(8.5)、エチレングリコールジエチルエーテル(9.7)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(6.0)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(7.6)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(10.6)等のグリコールエーテル系有機溶剤、n-ヘプタン(35.0)、n-オクタン(11.0)、イソオクタン(41.0)、メチルシクロヘキサン(37.0)、エチルシクロヘキサン(10.0)、トルエン(24.0)、キシレン(5.0~6.0)、エチルベンゼン(7.1)等の炭化水素系有機溶剤、メチルイソブチルケトン(16.0)、メチルn-プロピルケトン(12.0)、メチルn-ブチルケトン(12.0)、ジ-n-プロピルケトン(5.2)等のケトン系有機溶剤、炭酸ジメチル(39.8)、蟻酸n-ブチル(22.0)、蟻酸イソブチル(33.0)、酢酸n-プロピル(25.0)、酢酸イソプロピル(48.0)、酢酸n-ブチル(8.4)、酢酸イソブチル(13.0)、プロピオン酸エチル(28.0)、プロピオン酸n-ブチル(45.0)、酪酸メチル(25.0)、酪酸エチル(11.0)等のエステル系有機溶剤等が挙げられる。
尚、括弧内の数字は20℃におけるそれぞれの有機溶剤の蒸気圧を示す。
【0012】
前記した有機溶剤の中でも、筆跡の速乾性、及び使用しうる樹脂や添加剤の溶解性という観点から、炭素数4以下のアルコール及び/又は炭素数4以下のグリコールエーテル類がより好ましく、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルがさらに好ましく、さらにアルミナ粒子の分散安定性を良好として、消去性に優れる筆跡を安定して形成させることも考慮するとエタノールが特に好ましい。
【0013】
また、本発明のインキ組成物は、沸点が160~250℃の有機溶剤を含んでいても良い。
このような比較的高沸点の有機溶剤をインキ組成物に含有させ、筆跡の乾燥速度を調整することにより、多湿環境下において生じやすい筆跡の白化を抑制することができる。特に、炭素数3以下のアルコール及び/又は炭素数4以下のグリコールエーテル類といった20℃における蒸気圧が5.0~50mmHgの有機溶剤を使用する場合、このような高沸点有機溶剤を使用し、乾燥速度を調整することが好ましい。
高沸点有機溶剤としては、ベンジルアルコール(205)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(245)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(170)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(190)、プロピレングリコールジアセテート(190)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(175)、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル(212)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(209)、プロピレングリコールフェニルエーテル(243)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(242)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(229)、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(274)、p-キシレングリコールジメチルエーテル(235)、ギ酸ベンジル(201)、酢酸ベンジル(212)、プロピオン酸ベンジル(222)、酪酸ベンジル(240)及びイソ酪酸ベンジル(230)等が挙げられる。
尚、括弧内の数字は、1気圧(101325Pa)におけるそれぞれの有機溶剤の沸点(摂氏)を示す。
【0014】
また、インキ組成物は前記した有機溶剤以外に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルグリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル及びγ-ブチロラクトン等の有機溶剤も適用できる。
【0015】
有機溶剤は、有機溶剤の全質量を基準としてエタノールが50質量%以上を占めることが好ましく、60質量%以上を占めることがより好ましく、70質量%を占めることがさらに好ましい。有機溶剤に占めるエタノールの含有率が前記範囲内であると、筆跡の乾燥性を高めることができるとともに、アルミナの分散安定性が良好となって優れた消去性を奏する筆跡を安定して形成させやすい。
【0016】
有機溶剤の含有量は、筆跡の発色性、消去性およびインキ吐出性を良好とすることを考慮して、インキ組成物の総質量に対して40~90質量%であることが好ましく、60~90質量であることがより好ましい。
【0017】
(樹脂)
樹脂は、筆跡を筆記面へ定着させたり、インキの粘性を付与するために用いられる。樹脂はまた、乾燥後の筆跡のバインダー、所謂“つなぎ”としても作用し、筆跡を不織布やイレーザー等の消去具で擦過したときに筆跡が纏まってからめ取られるようにして筆跡の消去性を高めるものでもある。
樹脂としては、先の有機溶剤に対して可溶なものであれば特に限定されることなく適用できる。具体的には、エチルセルロースやアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ケトン樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、テルペン系樹脂、クマロン-インデン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル樹脂、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル、ケトン-ホルムアルデヒド樹脂、α-及びβ-ピネン・フェノール重縮合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物等が挙げられ、後述する剥離剤とアルミナ粒子とともに適用されて、筆跡の消去性を損なうことなく充分な定着性を付与しつつ、筆跡の鮮明性を高めることができることからポリビニルブチラール樹脂が好適である。
【0018】
樹脂の含有量はインキ組成物全質量に対して1質量%~10質量%とすることが好ましく、2質量%~8質量%とすることがより好ましい。含有量を前記範囲とすると、インキが過度に増粘してインキ吐出性が低下することを抑制しつつ筆跡の定着性を適度に高めやすく、また、筆跡の消去性を良好としやすい。
【0019】
(剥離剤)
剥離剤としては、筆記板用インキに適用される従来公知のものが利用できる。インキ組成物に適用できる剥離剤としては、カルボン酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルおよびポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル等が挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルおよびポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルが好ましく用いることができる。前記脂肪族一塩基酸エステルとしては、オクタン酸セチル、イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸ブトキシエチル等が挙げられ、二塩基酸エステルとして、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ2-エチルヘキシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル、デカン酸ジ2-エチルヘキシル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、セバシン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]等を例示できる。
剥離剤は、一種又は二種以上を併用して用いることができる。
【0020】
剥離剤の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.5質量%~20質量%とすることが好ましく、1質量%~15質量%とすることがより好ましい。含有量をこのような範囲に設定すると、筆跡の消去性を良好としつつインキの安定性を高めやすい。
【0021】
(アルミナ粒子)
アルミナ粒子は前記した樹脂および剥離剤とともに適用されて、ホーローや金属または樹脂等からなる非浸透面を有する筆記板に形成された筆跡の消去性を長期に亘って良好とし、フェルト等の不織布やパイルからなる消去部を備えたボードイレーザーで擦過したときに筆跡が筆記板から剥離することを容易とする。特に非浸透面が樹脂からなる筆記板は、非浸透面がホーローや金属からなる筆記板と比較して表面の凹凸が大きいことから筆跡が定着しやすく、筆跡を消去し難い傾向にある。しかしながら、本発明のインキ組成物で形成される筆跡は消去性に優れるため、非浸透面が樹脂からなる筆記板であっても筆跡の消去が容易となる。剥離剤は、筆跡から有機溶媒が蒸発するときに、筆跡と筆記面との間に介在することで筆跡が筆記板に強く固着することを抑制して筆跡消去性を高めるものであるが、剥離剤をアルミナ粒子とともに適用すると、剥離剤とアルミナ粒子が筆跡と筆記面との間に介在して筆跡が強固に固着することをより抑制し、筆跡の消去性を一層高めることができる。
【0022】
本発明のインキ組成物においては、インキ吐出性と、非浸透面を有する筆記板に形成された筆跡の消去性を長期に亘って良好とすることを考慮して、アルミナ粒子は平均粒子径が20nm以上、100nm未満のものが適用される。アルミナ粒子の平均粒子径は好ましくは80nm以下であり、70nm以下がより好ましく、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。
アルミナ粒子をインキ組成物に適用する場合は、アルミナ粒子を分散質としたアルミナ分散体を用いても良い。具体的には、市販品として、商品名:アルミゾル アルミナエタノールゾルA2K5-10(川研ファインケミカル社製)を例示できるが、インキ組成物に適用できるアルミナ粒子はこれに限られるものではない。
尚、本発明における平均粒子径は体積基準の算術平均粒子径であり、動的光散乱法によって測定する。動的光散乱法の測定には、粒子径分布測定装置(製品名:NANO-flex、日機装社製)を用いることができる。
【0023】
アルミナ粒子の含有量は、非浸透面を有する筆記板に形成された筆跡の消去性と、インキ中のおけるアルミナ粒子の分散安定性を良好にすることを考慮すると、インキ組成物全質量に対して0.01~5質量%とすることが好ましく、0.05~2質量%とすることがより好ましい。
【0024】
更に、本発明の筆記具用油性インキ組成物には、必要に応じて上記成分以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤、潤滑剤、粘度調整剤、顔料分散剤、消泡剤、剪断減粘性付与剤、界面活性剤等の各種添加剤を使用できる。
前記添加剤はいわゆる慣用的添加剤と呼ばれるもので、公知の化合物から適宜必要に応じて使用することができる。
【0025】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等が使用できる。
酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドロキシトルエン、フラボノイド、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸誘導体、α-トコフェロール、カテキン類等が使用できる。
紫外線吸収剤としては、2-(2′-ヒドロキシ-3′-t-ブチル5′-5′-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、p-安息香酸-2-ヒドロキシベンゾフェノン等が使用できる。
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等が使用できる。
【0026】
インキ組成物は3~20mPa・sの粘度を有する。前記した粘度範囲を有する組成物はインキ吐出性が良好であり、鮮明な筆跡を形成することができる。インキ組成物の好ましい粘度は、インキ吐出性を良好として鮮明な筆跡を形成することをより考慮すれば、5~15mPa・sであり、7~14mPa・sであることがより好ましい。インキ粘度が20mPa・sを超えるとインキ吐出性が低下し、筆跡に掠れが生じやすい。
尚、インキ組成物の粘度はEL型粘度計を用いて、20℃、20rpmの条件下で測定する。
【0027】
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0028】
前記インキ組成物は、チップを筆記先端部に装着したマーキングペンに充填して実用に供される。マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内に繊維集束体からなるインキ吸蔵体を内蔵し、繊維束樹脂加工体または毛細間隙が形成された樹脂成型体からなるマーキングペンチップを直接或いは中継部材を介して軸筒に装着してなり、インキ吸蔵体とチップが連結されてなるマーキングペンや、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させ、インキ流量調節部材とチップが連結されてなる構造を備えるマーキングペン、およびチップの押圧により開放する弁体を介してチップとインキ収容管とを配置し、インキ収容管内にインキを直接収容させたマーキングペン等を例示できる。
【0029】
チップは、繊維束樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30~70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材、または軸方向に延びる複数のインキ導出孔を有する合成樹脂の押出成型体であり、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させたものであり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲に調整して構成される。
【0030】
また、弁体は、従来より汎用のポンピング式形態が使用できるが、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0031】
更に、マーキングペンの形態は前述したものに限らず、相異なる形態のチップを装着させたり、相異なる色調のインキを導出させるペン先を装着させた複合筆記具(両頭式やペン先繰り出し式等)であってもよい。
【0032】
前記した構造のマーキングペンは、ペン先の保護や、乾燥防止のためにキャップを備えることもできる。
【0033】
また、インキ収容管内に、インキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、ペン体を筆記先端部に装着してレフィルを調製し、レフィルを軸筒内に収容して出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造の出没式筆記具とすることもできる。
【0034】
出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
【実施例0035】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に実施例及び比較例のインキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は質量部を示す。
また、平均粒子径は、本実施例においては、粒子径分布測定装置、製品名:NANO-flex(日機装社製)を用いて測定された体積基準の算術平均粒子径である。
また、インキの粘度値はEL型粘度計(製品名:RE-85L、東機産業社製)を用いて、20℃、20rpmの条件下で測定した数値である。
【0036】
【0037】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)黒色顔料(ピグメントブラック7とポリビニルブチラール樹脂との混錬物:ピグメントブラック7を50質量%含有)
(2)青色顔料(ピグメントブルー60とポリビニルブチラール樹脂との混錬物:ピグメントブルーを45質量%含有)
(3)赤色顔料(ピグメントレッド58とポリビニルブチラール樹脂との混錬物:ピグメントレッド58を55質量%含有)
(4)ポリビニルブチラール樹脂(製品名:エスレックBM-1、積水化学社製)
(5)ポリビニルブチラール樹脂(製品名:エスレックBL-5、積水化学社製)
(6)ロジン変性フマル酸樹脂(製品名:マルキード樹脂、荒川化学工業社製)
(7)ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル硫酸アンモニウム(製品名:ハイテノール18E、第一工業製薬社製)
(8)オクタン酸セチル
(9)アルミナ粒子(アルミナ分散体、分散媒:エタノール、製品名:アルミゾル アルミナエタノールゾルA2K5-10、川研ファインケミカル社製、アルミナ粒子含有量:10質量%、アルミナ粒子の平均粒子径:60nm)
(10)アルミナ粒子(製品名:タイミクロンTM-5D、大明化学工業社製、アルミナ粒子の平均粒子径:200nm)
【0038】
・インキの調製
樹脂以外の各成分とエタノールおよび/又はイソプロピルアルコールをディスパーにて2000rpm、1時間攪拌した後、樹脂を加えて更に1時間攪拌することで各インキを調製した。
【0039】
・試験用筆記体の作製
前記実施例及び比較例で作製したインキを用いて、試験用の筆記体を作製した。
尚、インキを収容する筆記体には、マーキングペン[商品名:イレーザー付きホワイトボードマーカー(中字)、(株)パイロットコーポレーション製]を用いた。インキの充填量は4gとした。
尚、前記マーキングペンは、連通気孔を有する、砲弾形状のフェルト製チップと捲縮状繊維を長手方向に集束させてなるインキ吸蔵体とを備え、軸筒後端にフェルト製イレーザーを備えてなる。
【0040】
前記試験用筆記体の作製、で作製した筆記体と非浸透面を有する筆記板を用いて以下の試験を行った。
尚、前記筆記板には、表面が樹脂でコーティングされてなるホワイトボード(商品名:ホームボードV、(株)パイロットコーポレーション製)を用いた。
・筆跡鮮明性の評価
試験用筆記体にて筆記板にらせん状に筆記して円を描き、筆跡を目視で確認した。評価基準はSおよびAを合格とし、BおよびCを不合格とした。尚、筆記した円の直径は3cmであり、筆記速度は円2つを1秒で筆記する速度とした。
S…色濃く、掠れがなく、明瞭である。
A…若干色が薄いが掠れはなく、筆記線の視認性は高い。
B…所々掠れているものの、筆記線は十分視認できる。
C…掠れや筆記線の途切れが顕著である。
【0041】
・筆跡消去性(初期)の評価
試験用筆記体にて筆記板に文字「PILOT」を筆記して、室温で筆跡を乾燥させた後、筆記体後端に備わるイレーザーを用いて筆跡を擦過し、擦過後の筆記板を目視で観察した。尚、筆跡を擦過したときの筆跡への荷重は100gであり、評価基準はSおよびAを合格とし、BおよびCを不合格とした。
S…5回以内の擦過で消去可能
A…6~10回以内の擦過で消去可能
B…10回の擦過で筆跡のおおよそを消去可能だが、擦過跡が一部残る。
C…10回の擦過で筆跡を消去できない。
【0042】
・筆跡消去性(長期)の評価
試験用筆記体にて筆記板に文字「PILOT」を筆記し、前記筆記板を20℃、60%RH環境下に30日間保管した後、前記イレーザーを用いて筆跡を擦過し、擦過後の筆記板を目視で観察した。
評価基準は前記、筆跡消去性(初期)の評価基準と同じとした。
【0043】
前記各試験の結果を以下の表に示す。
【0044】