(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157250
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物及びそれを使用する発酵製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20221006BHJP
A23L 7/104 20160101ALI20221006BHJP
A23L 11/65 20210101ALI20221006BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20221006BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20221006BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L7/104
A23L11/65
C12N1/14 A
A23L2/38 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061367
(22)【出願日】2021-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】500175565
【氏名又は名称】株式会社ぐるなび
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100122116
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】100207778
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】山本 希
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 仁
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和典
(72)【発明者】
【氏名】矢後 妃奈子
【テーマコード(参考)】
4B020
4B023
4B035
4B065
4B117
【Fターム(参考)】
4B020LB18
4B020LC02
4B020LG05
4B020LK09
4B020LK17
4B020LP18
4B023LC02
4B023LC05
4B023LK12
4B023LK18
4B023LP16
4B035LC01
4B035LC03
4B035LG33
4B035LG34
4B035LG50
4B035LP42
4B065AA60X
4B065AC20
4B065BA21
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA50
4B117LC03
4B117LG11
4B117LG12
4B117LK23
4B117LP05
(57)【要約】
【課題】特定の発酵産物が調節された発酵製品を製造するために使用される、発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物の提供。
【解決手段】発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物であって、同一条件下で発酵原料を発酵した場合において、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株よりも低い発酵産物の産生量を示す少なくとも1つの麹菌を発酵産物の産生抑制剤として含む、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物であって、
同一条件下で発酵原料を発酵した場合において、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株よりも低い発酵産物の産生量を示す少なくとも1つの泡盛麹菌株を発酵産物の産生抑制剤として含む、前記組成物。
【請求項2】
、
前記産生抑制剤が、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌株の突然変異株である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記発酵原料が米、米麹と水との混合物、又は米麹と豆乳の混合物であり、前記発酵産物がアラニン、アルギニン、アスパラギン、グリシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びGABAから成る群から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記発酵原料が米であり、
前記産生抑制剤がGN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌株の突然変異株である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記発酵原料が米麹と水との混合物であり、
前記産生抑制剤がGN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌株の突然変異株であり、
前記組成物は米麹に含まれている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記発酵原料が米麹と豆乳との混合物であり、
前記産生抑制剤がGN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記麹菌株の突然変異株であり、
前記組成物は米麹に含まれている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
発酵製品の製造方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物を使用して、発酵原料を発酵させる工程を含む、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物及びそれを使用する発酵製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麹菌は、清酒、味噌、醤油、みりん等の発酵食品を製造する醸造産業において古くから利用され、直接に食されてきた菌類である(特許文献1)。これまでに、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)RIB40株(NBRC100959)の全ゲノム配列が明らかにされているが(非特許文献1)、それ以外の麹菌株のゲノム及びその機能は十分に評価されていない。
【0003】
また、泡盛を製造する際に使用する泡盛麹菌は1901年にアスペルギルス・リューキューエンシス(Aspergillus luchuensis)と命名された後、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)の名称で統一されていた。しかしながら、アスペルギルス・アワモリと分類されている菌株には、黒い胞子を産生するアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などの黒カビが混在することが明らかになっていた。近年、表現型観察、RFLP解析、シーケンス解析などを通して泡盛麹菌の再分類が行われ、アスペルギルス・リューキューエンシスはアスペルギルス・ニガーとは異なる別の種であることが改めて確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature, 2005, 438(7071), pp.1157-1161
【非特許文献2】醸協(2015)vol. 100, issue 2, pp.64-67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特定の発酵産物が調節された発酵製品は、食感や風味の向上などの観点から食品分野などにおいて求められている。しかし、どの泡盛麹菌を使用した場合に所望の発酵産物の産生が抑制されて、所望の量以下で当該発酵産物を含む発酵製品を製造できるかについて、十分に知られていない。
【0007】
本発明は、特定の発酵産物が低下した発酵製品を製造するために使用される、発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、同一条件下で発酵原料を発酵した場合において、RIB2462株よりも低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌株を複数見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明の一以上の実施形態は以下を含む。
<1>
発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物であって、
同一条件下で発酵原料を発酵した場合において、アスペルギルス・リューキューエンシス(RIB2462株)よりも低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌株を発酵産物の産生抑制剤として含む、
組成物。
<2>
前記産生抑制剤が、泡盛麹菌株GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌の突然変異株である、<1>に記載の組成物。
<3>
前記発酵原料が米、米麹と水との混合物、又は米麹と豆乳の混合物であり、前記発酵産物がアラニン、アルギニン、アスパラギン、グリシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びGABAから成る群から選択される少なくとも1つである、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4>
前記発酵原料が米であり、
前記産生抑制剤がGN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌株の突然変異株である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<5>
前記発酵原料が米麹と水との混合物であり、
前記産生抑制剤がGN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌株の突然変異株であり、
前記組成物は米麹に含まれている、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<6>
前記発酵原料が米麹と豆乳との混合物であり、
前記産生抑制剤がGN-53又はGN-58株の泡盛麹菌株であるか、又は前記麹菌株に由来し、かつ前記麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記麹菌株の突然変異株であり、
前記組成物は米麹に含まれている、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<7>
発酵製品の製造方法であって、
<1>~<6>のいずれか1つに記載の組成物を使用して、発酵原料を発酵させる工程を含む、
製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物を使用することによって、所望の発酵産物を所望の量以下で含む発酵製品を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物>
本発明の発酵原料の発酵産物の産生抑制用組成物(以下で「本発明の組成物」とも呼ぶ)は、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株(以下、単に「RIB2462株」とも呼ぶ)よりも低い発酵産物の産生量を示す少なくとも1つの泡盛麹菌株を発酵産物の産生抑制剤として含む。本発明の発酵抑制剤に用いられる泡盛麹菌株は、泡盛麹菌の菌体及び胞子のいずれの形態であってもよく、単離されていてもよい。種麹として使用する観点から、胞子、好ましくは乾燥胞子が使用されうる。
【0012】
発酵産物の産生抑制用組成物は、少なくとも1の発酵産物に着目し、その発酵産物の産生抑制することができる。一例として、発酵産物の味の強化の観点から、少なくとも1の悪味を呈する成分の産生を抑制することが好ましい。アミノ酸及びその他の成分の組み合わせとそれらのバランスにより様々な味を構成することができる。一例として、苦み成分であるトリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、アルギニン、ロイシン、バリン、システイン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、及びチロシンからなる群から選ばれる少なくとも1の成分を抑制することができる。
【0013】
泡盛麹菌とは、アスペルギルス・リューキューエンシス(Aspergillus luchuensis)に分類される微生物(菌)である。泡盛麹菌は、発酵原料中に含まれるデンプン及びタンパク質を分解して、発酵産物としてグルコース、アミノ酸を産生し、それらを栄養源として増殖する。また、日本酒などに用いるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)と比較して、クエン酸を多く生成する点に特徴がある。
【0014】
本発明において、「発酵原料の発酵産物の産生抑制剤」(以下で「本発明で使用される産生抑制剤」とも呼ぶ)とは、本発明で使用される産生抑制剤又はRIB2462株を用いて、同一の発酵原料を同一条件で発酵した場合、発酵産物の少なくとも1つの産生量がRIB2462株を用いた場合と比較して低下することができる任意の泡盛麹菌株のことである。好ましくは、本発明で使用される産生抑制剤は、RIB2462株を用いた場合と比較して、1.0倍未満、0.9倍以下、0.75倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下に発酵産物の少なくとの1つの産生量を減少させることができる。
【0015】
本発明で使用される産生抑制剤は、発酵産物の産生抑制機能を有する限り特に限定されないが、GN-53及び/又はGN-58株の泡盛麹菌株のDNAを有する泡盛麹菌株である。このような泡盛麹菌株は市販品であってもよいし、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)などの様々な公的寄託機関から入手したものであってもよい。あるいは、当業者に公知の任意の方法及び手段(例えば人工染色体ベクターによる組み込み)を用いて当該遺伝子配列を人工的に泡盛麹菌株に組み込んだものであってもよい。上記DNAを有するか否かは、例えば次世代シーケンサーを用いたゲノム解析によって容易に確認することができる。
【0016】
また、本発明で使用される産生抑制剤は、GN-53及び/又はGN-58株の泡盛麹菌株に由来し、かつ前記泡盛麹菌株と同等の発酵産物産生抑制作用を有する前記泡盛麹菌株の突然変異株であってもよい。このような突然変異株は、自然突然変異株及び人工的突然変異株のいずれであってもよい。突然変異株は、当業者に公知の任意の方法及び手段を用いて作製することが可能である。人工的突然変異株の製造は、例えば、紫外線やX線を照射して物理的にDNAを損傷させる方法、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)及びエチルメタンスルホン酸(EMS)などの突然変異誘発剤で処理して化学的にDNAを損傷して変異を導入する方法、ならびに遺伝子組み換えによる方法などによって行うことができるが、これらに限定されない。突然変異株のゲノムDNAの塩基配列は、親泡盛麹菌株のゲノムDNAの塩基配列に対して、好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の配列同一性を有する。塩基配列の「同一性」とは、比較すべき2つの塩基配列のヌクレオチド残基ができるだけ多く一致するように両塩基配列を整列させ、一致したヌクレオチド残基数を全ヌクレオチド残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化方法は、特に限定されないが、例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等の周知の配列比較プログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記ヌクレオチド残基数は、1つのギャップを1つのヌクレオチド残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全ヌクレオチド残基数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、配列同一性(%)は、長い方の配列の全ヌクレオチド残基数で、一致したヌクレオチド残基数を除して算出される。
【0017】
本発明の組成物は、任意の発酵原料に対して使用することが可能である。例えば、米を発酵させて、米麹を製造するときに使用することができる。また例えば、小麦を発酵させて麹を製造するときに使用することができる。また例えば、大麦を発酵させて麹を製造するときに使用することができる。また例えば、大豆を発酵させて大豆麹を製造するときに使用することができる。また例えば、芋を発酵させて芋麹を製造するときに使用することができる。また例えば、コーヒー豆を発酵させてコーヒー豆麹を製造するときに使用することができる。
また本発明の組成物は、水、豆乳、小麦、大麦、大豆、芋又はコーヒー豆などの発酵原料と、上記で得られた麹との混合物を発酵させて発酵産物を製造するときにも使用することが可能である。この場合、本発明の組成物は麹の中に含まれ得るか、又はその麹自体が本発明の組成物となる。具体的には、例えば、米麹と水の混合物を発酵させて、甘酒を製造するときに本発明の組成物は使用することができる。また例えば、米麹と豆乳の混合物を発酵させて、甘酒豆乳を製造するときに本発明の組成物は使用することができる。
【0018】
米、米麹と水との混合物、又は米麹と豆乳の混合物を発酵原料として使用した場合、発酵産物として、アミノ酸(例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、オルニチン、GABA)及びグルコースが産生される。
【0019】
本発明の組成物は、発酵産物の産生抑制剤以外の成分として、賦形剤、結合剤、調味剤、崩壊剤、滑沢剤、保存剤、香料などの添加剤が適宜添加されても良い。
【0020】
発酵原料として米を使用する場合、
好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の1.0倍未満の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。1.0倍未満の低い産生量の発酵産物として、アラニン、アスパラギン、グリシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、スレオニンが挙げられる。
好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.9倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.9倍以下の低い産生量の発酵産物として、アラニン、アスパラギン、グリシン、ロイシン、リジン、メチオニン、セリン、スレオニンが挙げられる。
好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.75倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.75倍以下の低い産生量の発酵産物として、アラニン、アスパラギン、グリシン、リジン、セリンが挙げられる。
好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.6倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.6倍以下の低い産生量の発酵産物として、アスパラギン、グリシン、セリンが挙げられる。
より好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.5倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.5倍以下の低い産生量の発酵産物として、アスパラギン、グリシン、セリンが挙げられる。
【0021】
発酵原料として米麹及び水の混合物を使用する場合、
好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の1倍未満の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-53又はGN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。1.0倍未満の低い産生量の発酵産物として、アラニン、アルギニン、アスパラギン、グリシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、GABAが挙げられる。
さらに好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.9倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.9倍以下の低い産生量の発酵産物として、アラニン、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、GABAが挙げられる。
さらにより好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.75倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.75倍以下の低い産生量の発酵産物として、アラニン、アスパラギン、グリシン、セリンが挙げられる。
さらにより好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.6倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.6倍以下の低い産生量の発酵産物として、グリシンが挙げられる。
【0022】
発酵原料として米麹及び豆乳の混合物を使用する場合、
好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の1.0倍未満の低いい発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。1.0倍未満の低い産生量の発酵産物として、アラニン、GABAが挙げられる。
より好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.9倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産生抑制剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、例えば、GN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.9倍以下の低い産生量の発酵産物として、GABAが挙げられる。
さらに好ましくは、アスペルギルス・リューキューエンシスRIB2462株の0.75倍以下の低い発酵産物の産生量を示す泡盛麹菌が発酵産物の産抑制進剤として使用される。そのような泡盛麹菌としては、GN-58株の泡盛麹菌が挙げられる。0.75倍以下の低い産生量の発酵産物として、GABAが挙げられる。
【0023】
本発明の組成物は、例えば、RIB2462株を使用して所望の量の発酵産物が得られなかった場合に、その産生を抑制するために使用することができる。本発明の組成物は、RIB2462株と共に使用してもよいし、又はRIB2462株とは併用せずに使用してもよい。
【0024】
<発酵製品の製造方法>
本発明の発酵製品の製造方法(以下で「本発明の方法」とも呼ぶ)は、本発明の組成物を使用して発酵原料を発酵させる工程を含む。
【0025】
本発明の方法において、本発明の組成物を使用して発酵原料を発酵させる工程は、当業者にとって一般的に行われる発酵方法を利用すればよい。
【0026】
例えば、米を発酵させて米麹を製造する場合には、米を蒸米とした後、蒸米に本発明
の組成物を適用し、好ましくは10℃~40℃又は20℃~35℃で、1時間~100時間又は40~50時間反応させる。蒸米1gに対して、産生抑制剤である泡盛麹菌は、好ましくは1.0x103spores~1.0x109spores、又は1.0x104spores~1.0x108spores使用される。
【0027】
また例えば、米麹と水の混合物を発酵させて甘酒を製造する場合には、本発明の組成物を含む米麹と水を混合して、好ましくは20~60℃又は45~60℃で、1~24時間又は6~10時間反応させる。米麹1gに対して、産生抑制剤である泡盛麹菌は、好ましくは1.0x103spores~1.0x109spores、又は1.0x104spores~1.0x108spores使用される。また、米麹1gに対して、水は好ましくは1~20mL、1~10mL又は1~3mL使用される。
【0028】
また例えば、米麹と豆乳の混合物を発酵させて甘酒豆乳を製造する場合には、本発明の組成物を含む米麹と豆乳を混合して、好ましくは20~60℃又は45~60℃で、1~24時間又は6~10時間反応させる。米麹1gに対して、産生抑制剤である泡盛麹菌は、1.0x103spores~1.0x109spores、又は1.0x104spores~1.0x108spores使用される。また、米麹1gに対して、豆乳は好ましくは、1~20mL、1~10mL又は1~3mL使用される。
【実施例0029】
菌株
試験に使用した泡盛麹菌株は、GN-53及びGN-58株である。当該泡盛麹菌株は、菱六もやし(京都市東山区松原通大和大路東入二丁目轆轤町79)から入手した。
アスペルギルス・リューキューエンシス(A. luchuensis)(RIB2462)株を、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンターから購入した。
【0030】
胞子懸濁液の調製
菌株の一部を滅菌ミリQ水に懸濁し、ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地、Difco Laboratorie社製)に接種して生育を確認した。さらに生育したコロニーの一部をグリセロール水溶液(グリセロール(富士フィルム和光純薬社製)を精製水で希釈した溶液)に懸濁し、-85℃で保管した。このグリセロールストック溶液の一部を再度PDA培地に植菌し、30℃で2~3日間培養した。培養後のコロニーを一部かき取り、0.1%Tweenを含む0.8%NaCl溶液に懸濁した。その後25μmセルストレイナー(フナコシ株式会社)で夾雑物を取り除いたものを胞子懸濁液とした。この懸濁液の胞子数をトーマタイプセルカウンタープレート(WATSON株式会社)で計測し、約1,000 spores/μLとなるように上述のNaCl溶液で希釈した。このようにして調製された胞子懸濁液を米麹作成の材料とした。
【0031】
実施例1
米麹の調製及び成分分析
(1)米麹の調製
無洗米(コシヒカリ)約0.1gをウェルプレート(ザルスタット株式会社製)に入れ、滅菌済みのミリQ水2mLを添加して室温で1時間吸水させた。吸水後水を除去し、米をアルミホイルで包んでオートクレーブ処理し、滅菌蒸米を作成した。処理後の蒸米をウェルプレートに移し、胞子懸濁液を10μLずつ接種した。その後ウェルプレートごと保湿用の容器に入れ、30℃で2日間静置培養することで、米麹を調製した。
【0032】
(2)成分抽出
サンプル中の水溶性成分抽出を、メタボロミクス前処理ハンドブック(島津製作所)に準じて行った。内部標準として10mg/mLメタンスルホン酸を用いた。5mLチューブ(labcon社製)に、(1)で調製した米麹全量を、ミリQ水280μLとステンレスビーズ(直径10mm、株式会社バイオメディカルサイエンス)1粒と共に入れ、ビーズ式細胞破砕機(MicroSmash、株式会社トミー精工)で2500rpm、1分処理した後、抽出バッファー1mL(メタノール:クロロホルム=2.5:1)を添加し、抽出を行った。
【0033】
(3)成分分析
以下の表1~3に記載のアミノ酸22種を、LC-MS/MS(LCMS-8050、島津製作所)で分析した。分析メソッドとして、LC/MS/MSメソッドパッケージ一次代謝物ver.2(島津製作所)を用いた。定量のためアミノ酸スタンダード溶液(SIGMA社製)も同ランで分析した。また、グルコースを高速液体クロマトグラフ(Chromaster、株式会社日立ハイテクサイエンス)で計測を行った。定量のためグルコースのスタンダード溶液(グルコース(富士フィルム和光純薬社製)を精製水で希釈した溶液)も同ランで分析した。1サンプルにつき一回分析を行った。スタンダード溶液中の各成分の面積データおよび、各株における成分の面積データよりアミノ酸濃度、グルコース濃度を算出し、各株における三連の最大値を算出した。各株の最大値をRIB2462株のデータの最小値で除し、RIB2462株のアミノ酸濃度に対する比率を算出した。
【0034】
実施例2
甘酒の調製及び成分分析
(1)甘酒の調製
実施例(1)で調製した米麹全量をチューブ(BIO-BIK社製)に入れ、滅菌済みのミリQ水(280μL)を加え、57℃で8時間培養することで甘酒を調製した。各株は三連で試験を行った。
【0035】
(2)成分抽出及び成分分析
サンプル中の水溶性成分抽出を、メタボロミクス前処理ハンドブック(島津製作所)に準じて行った。内部標準として10 mg/mLメタンスルホン酸を用いた。成分分析及びデータ解析は、実施例1の(3)に準じた方法で行った。
【0036】
実施例3
甘酒豆乳の調製及び成分分析
(1)甘酒豆乳の調製
実施例(1)で調製した米麹全量をチューブ(BIO-BIK社製)に入れ、無調整豆乳(280μL)を加え、57℃で8時間培養することで甘酒を調整した。各株は三連で試験を行った。
【0037】
(2)成分抽出及び成分分析
サンプル中の水溶性成分抽出を、メタボロミクス前処理ハンドブック(島津製作所)に準じて行った。内部標準として10 mg/mLメタンスルホン酸を用いた。成分分析及びデータ解析は、実施例1の(3)に準じた方法で行った。
【0038】
実施例1~3の成分分析の結果を表1~3に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】