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特開2022-157253養液栽培に用いるガラス質微量要素肥料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157253
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】養液栽培に用いるガラス質微量要素肥料
(51)【国際特許分類】
   C05D 9/02 20060101AFI20221006BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20221006BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C05D9/02
A01G31/00 601A
C03C3/062
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061373
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229874
【氏名又は名称】TOMATEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 美加
(72)【発明者】
【氏名】秋友 勝
(72)【発明者】
【氏名】升田 裕久
【テーマコード(参考)】
2B314
4G062
4H061
【Fターム(参考)】
2B314MA14
4G062BB09
4G062CC10
4G062DA02
4G062DA03
4G062DA04
4G062DB01
4G062DC01
4G062DD04
4G062DD05
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB02
4G062EB03
4G062EC04
4G062EC05
4G062ED01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF01
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4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
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4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
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4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
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4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM13
4G062MM17
4G062PP01
4G062PP02
4G062PP11
4G062PP13
4H061AA01
4H061BB21
4H061BB56
4H061CC24
4H061EE11
4H061EE15
4H061EE16
4H061EE17
4H061EE19
4H061FF02
4H061FF10
4H061KK08
(57)【要約】
【課題】微量要素が水中にゆっくり溶解することにより、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用の肥料を提供する。
【解決手段】本発明に係るガラス質微量要素肥料は、水耕栽培用および養液栽培全般用のガラス質微量要素肥料であって、ガラス質微量要素肥料は、ガラス組成物および無機化合物由来の6成分の微量要素を含み、ガラス組成物は、PおよびKOを少なくとも含むガラス組成物であり、6成分の微量要素は、ホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンを含む微量要素である、ガラス質微量要素肥料に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水耕栽培用および養液栽培全般用のガラス質微量要素肥料であって、前記ガラス質微量要素肥料は、ガラス組成物および無機化合物由来の6成分の微量要素を含み、
前記ガラス組成物は、PおよびKOを少なくとも含むガラス組成物であり、
前記6成分の微量要素は、ホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンを含む微量要素である、ガラス質微量要素肥料。
【請求項2】
前記ガラス組成物は、
20mol%~44mol%、
O 18mol%~40mol%を含み、
前記6成分の微量要素は、
0.5mol%~2.0mol%、
FeO 2.0mol%~6.0mol%、
ZnO 0.5mol%~1.5mol%、
MnO 1.0mol%~3.0mol%、
CuO 0.1mol%~0.4mol%、および
MoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、
前記6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、
/KOのモル比が1.1~1.4である、請求項1に記載のガラス質微量要素肥料。
【請求項3】
前記ガラス組成物は、
20mol%~44mol%、
O 18mol%~40mol%、
SiO 0.1mol%~25mol%、
CaO 0.1mol%~20mol%、および
NaO 0.1mol%~10mol%を含み、
前記6成分の微量要素は、
0.5mol%~2.0mol%、
FeO 2.0mol%~6.0mol%、
ZnO 0.5mol%~1.5mol%、
MnO 1.0mol%~3.0mol%、
CuO 0.1mol%~0.4mol%、および
MoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、
前記6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、
/KOのモル比が1.1~1.4である、請求項1に記載のガラス質微量要素肥料。
【請求項4】
前記ガラス質微量要素肥料は、ガラスの熔融時に還元状態を保つために還元剤をさらに含む、請求項1-3のいずれか1項に記載のガラス質微量要素肥料。
【請求項5】
前記ガラス質微量要素肥料の形状はフレークである、請求項1-4のいずれか1項に記載のガラス質微量要素肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス質微量要素肥料に関する。より詳しくは、ガラス組成物および無機化合物由来の6成分の微量要素を含むガラス質微量要素肥料であって、水耕栽培および養液栽培全般に用いるガラス質微量要素肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培とは、土壌を全く使わず、植物の生育に必要な養分を溶かした水溶液(養液)を用いて植物を育てる方法である。水耕栽培では、栽培する植物の根の部分を養液に浸たし、栄養成分を根から吸収させることで植物を生長させる。そのため、水耕栽培は土の入れ替えがないことから手が汚れにくく、室内の限られたスペースで草花、野菜、またはハーブなどを気軽に栽培できる。
【0003】
水耕栽培と土耕栽培を比較すると、水耕栽培は、土よりも栄養成分が少ない水を用いるために、植物が取り込む栄養成分が少なくなり、植物の生育が抑制されることがある。そのため、水耕栽培においては養液が重要であり、養液を提供できる肥料が重要となる。
【0004】
水耕栽培用の肥料は、植物の必須栄養素のすべての成分をバランス良く含む必要があり、一つの成分でも欠けると生育に障害を生ずる。植物の生育に必要不可欠な栄養素のうち必要量が多いものを多量要素、必要量が少ないものを微量要素と呼んでいる。
【0005】
微量要素であるホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンなどの栄養素は、植物の生育のために必要とされ、必要量は微量ではあるものの、光合成あるいは硝酸還元などの代謝において重要な役割を果たしている。それゆえ、養液中の微量要素が不足した場合には、植物の光合成機能の低下あるいは窒素代謝などを狂わせてしまい、各成分に由来する欠乏症を引き起こしてしまう。そのため、養液に微量要素をバランス良く提供できる肥料が、植物の生育の観点から重要である。
【0006】
水耕栽培用の肥料を作成する場合、量的にはそのほとんどが多量要素の肥料であり、硝酸カリウムが原料の7割程度を占めるのが一般的である。そして、その他のリン、カルシウムなどの栄養素が続き、微量要素の添加量はごくわずかである。しかし、そのような微量な添加量にもかかわらず、例えば鉄、亜鉛、または銅などの微量要素は、リンなどと化学変化を起こし、養液を白く濁らせ、やがて沈殿してしまう。このような微量要素の沈殿が起きてしまうと、養液中の微量要素濃度を維持できなくなり、各微量要素成分に由来する欠乏症を引き起こすおそれがある。
【0007】
微量要素の沈殿性の問題に対応するために、水耕栽培用の肥料では、微量要素としてEDTA―Fe、EDTA-Zn、EDTA-Mn、およびEDTA-Cu、またはDTPA―Fe、DTPA-Zn、DTPA-Mn、およびDTPA-Cuなどの合成キレート金属化合物を用いることにより、養液中での微量要素の沈殿を防止することが常に行われている。
【0008】
例えば、特許文献1には、養液栽培用微量要素において、各要素がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又はその塩でキレートした要素である養液栽培用微量要素が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-080386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の養液栽培用微量要素は、DTPA塩を含む微量要素を用いているため、広範囲のpH領域においても沈殿を起こさない養液栽培用の肥料が開示されている。
【0011】
しかし、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を水耕栽培に用いる場合、微量要素の沈殿については防止できるが、水に添加した直後には微量要素が一気に水中に溶解してしまうという問題点がある。また、例えばEDTA塩である微量要素を用いる場合、EDTAの光分解による微量要素の沈殿については防止することができない。
【0012】
微量要素は植物の生育に必須とされるものの、微量要素が多くなりすぎた場合には、植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。したがって、従来においては、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素について、1回毎の添加量を適切に調節する必要があり、手間がかかるものであった。
【0013】
そこで、微量要素が水中にゆっくり溶解することにより、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用の肥料があると好適である。
【0014】
上記問題に鑑みて鋭意研究したところ、無機化合物由来の6成分の微量要素とガラス組成物を含むガラス質微量要素肥料を水耕栽培用の肥料とすることにより、微量要素が水中においてゆっくり溶けていくことを見出し、本発明に至った。このようなガラス質微量要素肥料を養液に供給することにより、あらかじめ理想的な成分比で配合した微量要素を養液に供給でき、EDTAなどのキレート剤を使わないために環境にやさしく、および太陽光や紫外線ランプ、オゾン殺菌装置などによるキレート剤の変質による影響を受けにくいため、安定して微量要素を供給できることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、水耕栽培用および養液栽培全般用のガラス質微量要素肥料であって、前記ガラス質微量要素肥料は、ガラス組成物および無機化合物由来の6成分の微量要素を含み、前記ガラス組成物は、PおよびKOを少なくとも含むガラス組成物であり、前記6成分の微量要素は、ホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンを含む微量要素である、ガラス質微量要素肥料に関する。
【0016】
請求項2に係る発明は、前記ガラス組成物は、P 20mol%~44mol%、KO 18mol%~40mol%を含み、前記6成分の微量要素は、B 0.5mol%~2.0mol%、FeO 2.0mol%~6.0mol%、ZnO 0.5mol%~1.5mol%、MnO 1.0mol%~3.0mol%、CuO 0.1mol%~0.4mol%、およびMoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、前記6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、P/KOのモル比が1.1~1.4である、請求項1に記載のガラス質微量要素肥料に関する。
【0017】
請求項3に係る発明は、前記ガラス組成物は、P 20mol%~44mol%、KO 18mol%~40mol%、SiO 0.1mol%~25mol%、CaO 0.1mol%~20mol%、およびNaO 0.1mol%~10mol%を含み、前記6成分の微量要素は、B 0.5mol%~2.0mol%、FeO 2.0mol%~6.0mol%、ZnO 0.5mol%~1.5mol%、MnO 1.0mol%~3.0mol%、CuO 0.1mol%~0.4mol%、およびMoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、前記6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、P/KOのモル比が1.1~1.4である、請求項1に記載のガラス質微量要素肥料に関する。
【0018】
請求項4に係る発明は、前記ガラス質微量要素肥料は、ガラスの熔融時に還元状態を保つために還元剤をさらに含む、請求項1-3のいずれか1項に記載のガラス質微量要素肥料に関する。
【0019】
請求項5に係る発明は、前記ガラス質微量要素肥料の形状はフレークである、請求項1-4のいずれか1項に記載のガラス質微量要素肥料に関する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、水耕栽培用および養液栽培全般用のガラス質微量要素肥料であって、前記ガラス質微量要素肥料は、ガラス組成物および無機化合物由来の6成分の微量要素を含み、前記ガラス組成物は、PおよびKOを少なくとも含むガラス組成物であり、前記6成分の微量要素は、ホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンを含む微量要素である、ガラス質微量要素肥料であるため、無機化合物由来の微量要素が水中にゆっくり溶けていき、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持できる。ゆえに、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料を提供できる。また、ガラス質微量要素肥料を水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料として用いることにより、栽培者の負担を減らし、微量要素を植物に程良く含有させることから植物が生育障害を起こすおそれがない水耕栽培および養液栽培全般を可能にする。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、前記ガラス組成物は、P 20mol%~44mol%、KO 18mol%~40mol%を含み、前記6成分の微量要素は、B 0.5mol%~2.0mol%、FeO 2.0mol%~6.0mol%、ZnO 0.5mol%~1.5mol%、MnO 1.0mol%~3.0mol%、CuO 0.1mol%~0.4mol%、およびMoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、前記6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、P/KOのモル比が1.1~1.4であるため、無機化合物由来の微量要素が水中にゆっくり溶けていき、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持できる。ゆえに、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料を提供できる。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、ガラス組成物は、P 20mol%~44mol%、KO 18mol%~40mol%、SiO 0.1mol%~25mol%、CaO 0.1mol%~20mol%、およびNaO 0.1mol%~10mol%を含み、前記6成分の微量要素は、B 0.5mol%~2.0mol%、FeO 2.0mol%~6.0mol%、ZnO 0.5mol%~1.5mol%、MnO 1.0mol%~3.0mol%、CuO 0.1mol%~0.4mol%、およびMoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、前記6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、P/KOのモル比が1.1~1.4であるため、無機化合物由来の微量要素が水中にゆっくり溶けていき、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持できる。ゆえに、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料を提供できる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、前記ガラス質微量要素肥料は、ガラスの熔融時に還元状態を保つために還元剤をさらに含むため、添加した微量要素元素の原子価を変化させることによりガラス組成物の骨格を適度に切断することができ、ガラス質微量要素肥料に含まれる微量要素を水中にゆっくり溶かすことができる。それゆえ、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料を提供できる。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、前記ガラス質微量要素肥料の形状はフレークであるため、養液中で固まることがなく、ガラス質微量要素肥料に含まれる微量要素を水中にゆっくり溶かすことができ、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る実施例のガラス質微量要素肥料と比較例のEDTA塩を含む微量要素含有肥料をそれぞれ水に溶解した養液を使用してレタスの水耕栽培を行った際の養液中のホウ素の濃度を示す図である。
図2】本発明に係る実施例のガラス質微量要素肥料と比較例のEDTA塩を含む微量要素含有肥料をそれぞれ水に溶解した養液を使用してレタスの水耕栽培を行った際の養液中の鉄濃度を示す図である。
図3】本発明に係る実施例のガラス質微量要素肥料と比較例のEDTA塩を含む微量要素含有肥料をそれぞれ水に溶解した養液を使用してレタスの水耕栽培を行った際の養液中の亜鉛濃度を示す図である。
図4】本発明に係る実施例のガラス質微量要素肥料と比較例のEDTA塩を含む微量要素含有肥料をそれぞれ水に溶解した養液を使用してレタスの水耕栽培を行った際の養液中のマンガン濃度を示す図である。
図5】本発明に係る実施例のガラス質微量要素肥料と比較例のEDTA塩を含む微量要素含有肥料をそれぞれ水に溶解した養液を使用してレタスの水耕栽培を行った際の養液中の銅濃度を示す図である。
図6】本発明に係る実施例のガラス質微量要素肥料と比較例のEDTA塩を含む微量要素含有肥料をそれぞれ水に溶解した養液を使用してレタスの水耕栽培を行った後に収穫したレタスの写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るガラス質微量要素肥料(以下、単に「本ガラス質微量要素肥料」とも称する)の好適な実施形態について説明する。
【0027】
本ガラス質微量要素肥料は、P(五酸化二リン)およびKO(酸化カリウム)を含んでおり、その熔解原料としてリン酸カリウム、リン酸アンモニウム、炭酸カリウムなどが使用できる。
【0028】
およびKOは、本ガラス質微量要素肥料における骨格としての役割を有しており、肥料の形状を定めるとともに、肥料成分の水中への溶解速度を調節することができる。そのため、本ガラス質微量要素肥料を特定の組成とすることにより、微量要素の水中への溶解速度を調節し、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持でき、従来のようにEDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加えなくとも、微量要素を養液に安定して供給することができる。
【0029】
ガラス組成物中のPの含有量は、例えば、20mol%~44mol%の範囲内とすることができる。Pの含有量が20mol%未満である場合、微量要素が水中に溶解しすぎてしまい、Pの含有量が44mol%を超える場合、微量要素が水中に溶解しにくくなる。また、ガラス組成物中のPの含有量は、32mol%~37mol%であるとより好ましく、微量要素を水中にゆっくり溶解させることができる。
【0030】
ガラス組成物中のKOの含有量は、例えば、18mol%~40mol%の範囲内とすることができる。KOの含有量が18mol%未満である場合、微量要素が水中に溶解しにくくなり、KOの含有量が40mol%を超える場合、微量要素が水中に溶解しすぎてしまう。また、ガラス組成物中のKOの含有量は、24mol%~29mol%であるとより好ましく、微量要素を水中にゆっくり溶解させることができる。
【0031】
本ガラス質微量要素肥料のガラス組成物中のP/KOのモル比は、例えば、1.1~1.4の範囲内とすることができる。P/KOのモル比が1.1未満である場合、ガラスの骨格が弱くなって、微量要素が水中に溶解しすぎてしまう。P/KOのモル比が1.4を超える場合、ガラスの骨格が強くなりすぎて、微量要素が水中に溶解しにくい。
【0032】
本ガラス質微量要素肥料は、ガラス組成物として、SiO(二酸化ケイ素)、CaO(酸化カルシウム)、NaO(酸化ナトリウム)などをさらに含んでもよい。これらのガラス組成物をさらに含有することで、ガラス組成物の骨格の強度を変化させることができるので、微量要素の水中への溶解速度を調節することができる。
【0033】
ガラス組成物中のSiOの含有量は、例えば、0.1mol%~25mol%の範囲内とすることができる。SiOの含有量が25mol%を超える場合、微量要素が水中に溶けなくなる。また、SiOの含有量は、15mol%~19mol%であるとより好ましく、微量要素を水中にゆっくり溶解させることができる。
【0034】
ガラス組成物中のCaOの含有量は、例えば、0.1mol%~20mol%の範囲内とすることができる。CaOの含有量が20mol%を超える場合、微量要素が水中に溶け過ぎとなる。また、CaOの含有量は、8mol%~12mol%であるとより好ましく、微量要素を水中にゆっくり溶解させることができる。
【0035】
ガラス組成物中のNaOの含有量は、例えば、0.1mol%~10mol%の範囲内とすることができる。NaOの含有量が10mol%を超える場合、微量要素が水中に溶け過ぎとなる。また、NaOの含有量は、3mol%~6mol%であるとより好ましく、微量要素を水中にゆっくり溶解させることができる。
【0036】
本ガラス質微量要素肥料は、主として無機化合物由来の微量要素を含有し、EDTA塩あるいはDTPA塩などの合成キレート金属化合物である微量要素を含有しない。合成キレート金属化合物を含有する肥料を用いた場合、成分が水溶性で全てが溶けるため、養液中の微量要素の濃度を一定に維持するためには成分の減量を常に補給する必要がある。また、EDTA塩である微量要素を用いる場合、EDTAの光分解による微量要素の沈殿を防止することができず、養液中の微量要素濃度を維持できなくなり、各微量要素成分に由来する欠乏症を引き起こすおそれがある。
【0037】
本ガラス質微量要素肥料は、無機化合物由来のホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンである6成分の微量要素を少なくとも含む。このような本ガラス質微量要素肥料を水に添加することにより、6成分の微量要素が水中に徐々に溶解し、養液中の6成分の微量要素が常に過不足ない濃度で維持され、植物の生育のためにバランスの良い養液を提供できる。
【0038】
本明細書において、「6成分の微量要素」とは、ホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンの6種の微量要素のことを指す。なお、一般的には微量要素とは、上記6成分の微量要素に塩素とニッケルを加えた8成分のことを指すが、養液栽培用肥料に添加が必要なのは上記6成分とされている。
【0039】
本ガラス組成物中のBの含有量は、例えば、0.5mol%~2.0mol%の範囲内とすることができる。Bの含有量が0.5mol%未満である場合、養液中のホウ素の濃度が低くなるために植物の生育が難しくなり、Bの含有量が2.0mol%を超える場合、養液中のホウ素の濃度が高すぎるために植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。また、ガラス組成物中のBの含有量は、0.8mol%~1.2mol%であることがより好ましく、ホウ素を水中にゆっくり溶解させることができる。なお、Bを得るためのガラスの熔解原料には、酸化ホウ素、ホウ酸などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0040】
本ガラス組成物中のFeOの含有量は、例えば、2.0mol%~6.0mol%の範囲内とすることができる。FeOの含有量が2.0mol%未満である場合、養液中の鉄の濃度が低くなるために植物の生育が難しくなり、FeOの含有量が6.0mol%を超える場合、養液中の鉄の濃度が高すぎるために植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。また、ガラス組成物中のFeOの含有量は、3.0mol%~4.0mol%であることがより好ましく、鉄を水中にゆっくり溶解させることができる。なお、FeOを得るためのガラスの熔解原料には、酸化鉄や炭酸鉄などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0041】
本ガラス組成物中のZnOの含有量は、例えば、0.5mol%~1.5mol%の範囲内とすることができる。ZnOの含有量が0.5mol%未満である場合、養液中の亜鉛の濃度が低くなるために植物の生育が難しくなり、ZnOの含有量が1.5mol%を超える場合、養液中の亜鉛の濃度が高すぎるために植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。また、ガラス組成物中のZnOの含有量は、0.7mol%~0.9mol%であることがより好ましく、亜鉛を水中にゆっくり溶解させることができる。なお、ZnOを得るためのガラスの熔解原料には、酸化亜鉛などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0042】
本ガラス組成物中のMnOの含有量は、例えば、1.0mol%~3.0mol%の範囲内とすることができる。MnOの含有量が1.0mol%未満である場合、養液中のマンガンの濃度が低くなるために植物の生育が難しくなり、MnOの含有量が3.0mol%を超える場合、養液中のマンガンの濃度が高すぎるために植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。また、ガラス組成物中のMnOの含有量は、1.7mol%~2.1mol%であることがより好ましく、マンガンを水中にゆっくり溶解させることができる。なお、MnOを得るためのガラスの熔解原料には、マンガン鉱石や二酸化マンガンなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0043】
マンガンは、ヒトに対する生殖毒性、もしくは神経障害、呼吸器系障害等の健康被害を及ぼすおそれがあることから労働安全衛生法の特定化学物質に指定されている。一方、本ガラス質微量要素肥料は、マンガンをガラス組成内に閉じ込めているために粉じんやヒュームとなって空気中に舞う恐れがなく、特定化学物質として取り扱う必要がなくなるため、作業者の負担を大幅に低減でき、作業者はマンガンを含むガラス質微量要素肥料を安全に取り扱うことができる。
【0044】
本ガラス組成物中のCuOの含有量は、例えば、0.1mol%~0.4mol%の範囲内とすることができる。CuOの含有量が0.1mol%未満である場合、養液中の銅の濃度が低くなるために植物の生育が難しくなり、CuOの含有量が0.4mol%を超える場合、養液中の銅の濃度が高すぎるために植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。また、ガラス組成物中のCuOの含有量は、0.20mol%~0.25mol%であることがより好ましく、銅を水中にゆっくり溶解させることができる。なお、CuOを得るためのガラスの熔解原料には、酸化銅などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0045】
本ガラス組成物中のMoOの含有量は、例えば、0.01mol%~0.2mol%の範囲内とすることができる。MoOの含有量が0.01mol%未満である場合、養液中のモリブデンの濃度が低くなるために植物の生育が難しくなり、MoOの含有量が0.2mol%を超える場合、養液中のモリブデンの濃度が高すぎるために植物が生育障害を起こしてしまうおそれがある。また、ガラス組成物中のMoOの含有量は、0.04mol%~0.08molであることがより好ましく、モリブデンを水中にゆっくり溶解させることができる。なお、MoOを得るためのガラスの熔解原料には、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0046】
6成分の微量要素であるホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンの合計量は、例えば、5mol%~10mol%の範囲内とすることができる。6成分の微量要素の合計量をこの範囲内とすることにより、植物の生育に必要な微量要素を養液にバランス良く供給できる。6成分の微量要素の合計量が5mol%未満である場合、養液に供給できる微量要素の量が不足してしまい、植物の生育に支障が出るおそれがある。6成分の微量要素の合計量が10mol%を超える場合、ガラスが溶けにくくなり微量要素を養液に安定して供給できない。また、6成分の微量要素の合計量は、7mol%~8mol%の範囲内とすることがより好ましい。
【0047】
本ガラス質微量要素肥料は、還元剤を添加して熔融することで添加した微量要素元素の原子価を変化させることによりガラス組成物の骨格を適度に切断することができ、微量要素の水への溶解速度を調節できる。還元剤は、例えば、石炭、コークスなどの各種有機物、または天然ガスなどを使用できる。コークスを使用する場合は、0.01wt%~3.0wt%が好ましい。
【0048】
本ガラス質微量要素肥料の1つの例は、ガラス組成物として、P 20mol%~44mol%、KO 18mol%~40mol%を含み、6成分の微量要素として、B 0.5mol%~2.0mol%、FeO 2.0mol%~6.0mol%、ZnO 0.5mol%~1.5mol%、MnO 1.0mol%~3.0mol%、CuO 0.1mol%~0.4mol%、およびMoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、P/KOのモル比が1.1~1.4であるガラス質微量要素肥料とすることができる。このようなガラス質微量要素肥料は、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持できるため、養液栽培用の肥料として好適に使用できる。
【0049】
本ガラス質微量要素肥料の他の例は、ガラス組成物として、P 20mol%~44mol%、KO 18mol%~40mol%、SiO 0.1mol%~25mol%、CaO 0.1mol%~20mol%、およびNaO 0.1mol%~10mol%を含み、6成分の微量要素として、B 0.5mol%~2.0mol%、FeO 2mol%~6mol%、ZnO 0.5mol%~1.5mol%、MnO 1.0mol%~3.0mol%、CuO 0.1mol%~0.4mol%、およびMoO 0.01mol%~0.2mol%を含み、6成分の微量要素のB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOの合計量が5mol%~10mol%であり、P/KOのモル比が1.1~1.4であるガラス質微量要素肥料とすることができる。このようなガラス質微量要素肥料は、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持できるため、養液栽培用の肥料として好適に使用できる。
【0050】
本ガラス質微量要素肥料の形状は特に限定されないが、フレークの形状のものを用いることが好ましい。例えば、サイズが1mm~4mmであるフレークの形状のガラス質微量要素肥料を水耕栽培において使用する場合、養液中で固まることがないため好適に使用できる。このように、粉末状のガラス質微量要素肥料よりもフレークの形状のガラス質微量要素肥料の方が、水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料として好適に使用できる。
【0051】
本ガラス質微量要素肥料は、例えば、上述したガラス組成物の原料、および還元剤を坩堝に入れて1250℃で熔融させ、ガラス化した後に急冷することでガラス質微量要素肥料を製造する。
【0052】
本ガラス質微量要素肥料の製造において、熔融温度は、製造するガラス質微量要素肥料の種類に応じて最適な熔融温度を適宜設定でき、例えば1000℃~1300℃の範囲とすることができる。
【0053】
本ガラス質微量要素肥料は、養液栽培全般用の肥料として好適に使用できる。養液栽培全般用とは、水耕栽培用、噴霧耕用、または固形培地耕用のことを指す。また、本ガラス質微量要素肥料は、水耕栽培用の肥料として用いることがより好ましい。
【実施例0054】
以下、本発明に係るガラス質微量要素肥料の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
[実施例]
(無機化合物由来の6成分の微量要素を含むガラス質微量要素肥料の調製)
ガラス成分としてP、KO、SiO、CaO、およびNaO、6成分の微量要素としてB、FeO、ZnO、MnO、CuO、およびMoOを含む各原料、ならびに還元剤としてコークスを混合し坩堝に加えた。続いて、坩堝を窯内で1250℃に加熱熔融することで、ガラス化した。坩堝を窯から出して熔融物を水冷のステンレスロール上に流し出して急冷し、フレークの形状のガラスを得て、これを粗粉砕してガラス質微量要素肥料とした。本ガラス質微量要素肥料の成分割合、P/KO比、およびフリットのサイズを表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
[比較例]
(EDTA塩を含む微量要素肥料の調製)
6成分の微量要素としてホウ酸、EDTA-鉄、硫酸亜鉛およびEDTA-亜鉛、EDTA-マンガン、EDTA-銅、ならびにモリブデン酸アンモニウムを混合し、表2に示した成分の粉末状の水溶性微量要素肥料(A)を調製した。
【0058】
【表2】
【0059】
(水耕栽培用養液の調製)
水耕栽培で用いる養液は、6成分の微量要素のみを含有するだけでは不十分であり、多量要素肥料を添加しなければ植物の栽培を行うことはできない。そこで微量要素以外の肥料成分を補うために表3に示した肥料を実施例、比較例の栽培で共通に使用した。
【0060】
【表3】
【0061】
(レタスの水耕栽培試験)
本ガラス質微量要素肥料の肥効を確認するため、上述の配合肥料(B)および硝酸石灰(C)と実施例の本ガラス質微量要素肥料を併用し、レタスの水耕栽培を行った。また、比較対象として、上述の配合肥料(B)および硝酸石灰(C)とEDTA塩を含む6成分の水溶性微量要素肥料(A)を用いてレタスの水耕栽培を行った。
【0062】
水耕栽培試験は、閉鎖型植物栽培ユニットである、やさいえ(株式会社エム式水耕研究所の登録商標)を用いて行った。水耕栽培は湛液型水耕で行い、栽培面積は5.4m(320株)とした。水耕栽培用養液をそれぞれ350L用い、実施例には本ガラス質微量要素肥料を添加した。養液は多段循環とし、光源には白色LEDを用いた。
【0063】
実施例と比較例の養液を用いるレタスの水耕栽培試験は、播種から9日目に移植し、移植から28日後(播種から37日目)に収穫した。
【0064】
配合肥料(B)および硝酸石灰(C)を表4に示すような日数および量で添加し、EC(Electric Conductivity)を1.2dS/mで維持するように管理した。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例のガラス質微量要素肥料は、移植の1日前に35g/区を添加し、比較例の肥料は、表5に示すように3回添加した。
【0067】
【表5】
【0068】
(養液中の微量要素の濃度調査)
レタスを水耕栽培している期間中、各試験区における養液の微量要素濃度を調査し、その平均値を算出した。結果を図1図5に示した。なお、各試験区では、それぞれ3反復でレタスを水耕栽培した。
【0069】
(生育収量調査)
栽培試験を終了した後、各試験区のレタスを収穫し、栽培終了後の葉長、重量、標準偏差、収量、および収量比を調べ、その平均値を算出した。結果を表6に示した。また、収穫したレタスの写真を図6に示した。
【0070】
【表6】
【0071】
(レタスの無機成分含有率)
栽培試験を終了した後、各試験区のレタスを収穫し、栽培終了後の無機成分含有率および水分量を調べ、その平均値を算出した。結果を表7に示した。
【0072】
【表7】
【0073】
(考察)
実施例および比較例の試験区は、ともに充分な重量および良好な形状のレタスが収穫できた。これは表6および図6の結果からも明らかである。また、表7の結果から分かるように、実施例の試験区で収穫したレタスは、比較例の試験区で収穫したレタスよりもマンガンおよび亜鉛含有率が高かった。そのため、実施例のガラス質微量要素肥料を用いて水耕栽培を行うことで、ミネラルを豊富に含むレタスを栽培できることが分かった。
【0074】
実施例および比較例の試験区において、養液の有効性の差異も観察された。以下、その内容について詳述する。
【0075】
図1~5では、養液中の5成分の微量要素(モリブデン以外の5成分)の濃度の調査結果を示した。なお、養液中のモリブデン濃度は測定が難しいため、今回は測定していない。なお、図1~5において示されている各点線は、植物の生育のために必要な各微量要素濃度を示している。したがって、植物の生育のためには、点線で示される濃度以上を維持することが求められる。
【0076】
図1は、実施例および比較例の試験区における養液中のホウ素の濃度を示している。実施例の試験区では、植物の生長にあわせて徐々にホウ素濃度が高まり、収穫日までホウ素濃度0.20ppm以上を維持していた。すなわち初めの1回の本ガラス質微量要素肥料の添加により、養液中のホウ素濃度0.20ppm以上を4週間以上維持できることが分かり、実施例のガラス質微量要素肥料は水耕栽培用の肥料として有効であることが分かった。他方、比較例の試験区では、生育途中に養液中のホウ素濃度を維持するために、比較例の肥料を追加で2回加えた。また、仮にホウ酸を含む肥料の一度の添加で養液中のホウ素濃度を0.20ppm以上に維持しようとすると、はじめの養液中のホウ素濃度を高くしなければならないが、植物にはホウ素の過剰害が発生するおそれがあり、とくに生育初期の植物にはホウ素過剰害が発生しやすいため、比較例の肥料は数回に分けて添加する必要があることが分かった。
【0077】
図2は、実施例および比較例の試験区における養液中の鉄の濃度を示している。実施例の試験区では、初期の鉄濃度は低いものの、植物の生長にあわせて徐々に鉄濃度が高まり、移植15日後からは鉄濃度が下がるものの、収穫日まで鉄濃度0.80ppm以上を維持していた。すなわち初めの1回の本ガラス質微量要素肥料の添加により、養液中の鉄濃度0.80ppm以上を4週間程度維持できることが分かり、実施例のガラス質微量要素肥料は水耕栽培用の肥料として有効であることが分かった。他方、比較例の試験区では、生育途中に養液中の鉄濃度を0.80ppm以上に維持することができず、比較例の肥料を追加で2回加える必要があった。また、仮にEDTA鉄を含む肥料濃縮液の一度の添加で養液中の鉄濃度を0.80ppm以上に維持しようとすると、はじめの養液中の鉄濃度を高くしなければならないが、植物にはEDTA-鉄の薬害が発生する恐れがあるため、比較例の肥料は数回に分けて添加する必要があることが分かった。
【0078】
図3は、実施例および比較例の試験区における養液中の亜鉛の濃度を示している。実施例の試験区では、初期の亜鉛濃度は低いものの、植物の生長にあわせて徐々に亜鉛濃度が高まり、移植15日後からは亜鉛濃度が下がるものの、収穫日まで亜鉛濃度0.10ppm以上を維持していた。すなわち初めの1回の本ガラス質微量要素肥料の添加により、養液中の亜鉛濃度0.10ppm以上を4週間程度維持できることが分かり、実施例のガラス質微量要素肥料は水耕栽培用の肥料として有効であることが分かった。他方、比較例の試験区では、生育途中に養液中の亜鉛濃度を0.10ppm以上に維持することが難しくなり、比較例の肥料を追加で2回加えた。また、仮に硫酸亜鉛およびEDTA-亜鉛を含む肥料の一度の添加で養液中の亜鉛濃度を0.10ppm以上に維持しようとすると、はじめの養液中の亜鉛濃度を高くしなければならないが、植物にはEDTA-亜鉛の過剰害が発生するおそれがあるため、比較例の肥料は数回に分けて添加する必要があることが分かった。
【0079】
図4は、実施例および比較例の試験区における養液中のマンガンの濃度を示している。実施例の試験区では、初期のマンガン濃度は低いものの、植物の生長にあわせて徐々にマンガン濃度が高まり、移植15日後からはマンガン濃度が下がるものの、収穫日までマンガン濃度0.25ppm以上を維持していた。すなわち初めの1回の本ガラス質微量要素肥料の添加により、養液中のマンガン濃度0.25ppm以上を4週間以上維持できることが分かり、実施例のガラス質微量要素肥料は水耕栽培用の肥料として有効であることが分かった。他方、比較例の試験区では、レタスの生育のためには、比較例の肥料を追加で2回加える必要があり、移植から20日後は、養液中のマンガン濃度0.25ppm以上に維持することも難しかった。また、仮にEDTA-マンガンを含む肥料濃縮液の一度の添加で養液中のマンガン濃度を充分に維持しようとすると、はじめの養液中のマンガン濃度を高くしなければならないが、植物にはEDTA-マンガンの過剰害が発生するおそれがあるため、比較例の肥料は数回に分けて添加する必要があることが分かった。
【0080】
図5は、実施例および比較例の試験区における養液中の銅の濃度を示している。実施例の試験区では、生育初期から銅濃度は低いものの、養液中の銅濃度0.01ppm以上を維持できていた。すなわち初めの1回の本ガラス質微量要素肥料の添加により、養液中の銅濃度0.01ppm以上を4週間程度維持できることが分かり、実施例のガラス質微量要素肥料は水耕栽培用の肥料として有効であることが分かった。他方、比較例の試験区では、生育途中に養液中の銅濃度を0.01ppm以上に維持することが難しくなり、比較例の肥料を追加で2回加えた。また、仮にEDTA-銅を含む肥料の一度の添加で養液中の銅濃度を0.01ppm以上に維持しようとすると、はじめの養液中の銅濃度を高くしなければならないが、植物にはEDTA-銅の過剰害が発生するおそれがあるため、比較例の肥料は数回に分けて添加する必要があることが分かった。
【0081】
レタスの水耕栽培試験の結果から、実施例のガラス質微量要素肥料は、水耕栽培用の肥料として有効であることが分かった。とりわけ、6成分の微量要素の合計量を7.0~8.0mol%とすることにより、養液中に微量要素をバランス良く供給できることが分かった。したがって、実施例のガラス質微量要素肥料は、無機化合物由来の微量要素が水中にゆっくり溶けていくことにより養液中の微量要素の濃度を4週間程度維持でき、EDTA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がないため、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用の肥料として好適に利用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るガラス質微量要素肥料によれば、水耕栽培用および養液栽培全般用のガラス質微量要素肥料であって、前記ガラス質微量要素肥料は、ガラス組成物および無機化合物由来の6成分の微量要素を含み、前記ガラス組成物は、PおよびKOを少なくとも含むガラス組成物であり、前記6成分の微量要素は、ホウ素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、およびモリブデンを含む微量要素である、ガラス質微量要素肥料であるため、無機化合物由来の微量要素が水中にゆっくり溶けていき、養液中の微量要素の濃度を長期にわたって維持できる。ゆえに、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料を提供できる。また、本ガラス質微量要素肥料を水耕栽培用および養液栽培全般用の肥料として用いることにより、栽培者の負担を減らし、微量要素を植物に程良く含有させることから植物が生育障害を起こすおそれがない水耕栽培および養液栽培全般を可能にする。
【0083】
したがって、本発明に係るガラス質微量要素肥料は、微量要素が水中にゆっくり溶解することにより、EDTA塩あるいはDTPA塩を含む微量要素を定期的に加える必要がなく、養液中の微量要素が過不足ない濃度で維持される水耕栽培用の肥料として好適に幅広く利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6