(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157257
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】めっき液添加剤
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20221006BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20221006BHJP
C25D 3/38 20060101ALI20221006BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C01B32/00
C25D15/02 L
C25D3/38 101
C25D3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061378
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【テーマコード(参考)】
4G146
4K023
【Fターム(参考)】
4G146AA07
4G146AB01
4G146AD13
4G146AD20
4G146AD22
4G146BA02
4G146BB04
4G146CB01
4G146CB10
4K023AA04
4K023AA12
4K023AA19
4K023AB04
4K023AB11
4K023AB15
4K023BA06
4K023CA09
4K023CB03
4K023CB09
4K023CB21
4K023DA07
(57)【要約】
【課題】水中への分散性に優れ、めっき液に投入するだけでナノカーボンが共析できるため特殊な前処理や反応が不要であり、且つ、少量で効率よくめっき中にナノカーボンを共析できるめっき液添加剤を提供する。
【解決手段】厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有し、前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.1~100質量部含有する、めっき液添加剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有し、
前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.1~100質量部含有する、めっき液添加剤。
【請求項2】
前記親水基が、一般式(1)~(4):
【化1】
[式中、-OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を示す。Rは2価の有機基を示す。X
1は水素原子、アルカリ金属、NH
4又は有機アンモニウムを示す。X
2は水素原子、アルカリ金属、NH
4、有機アンモニウム又はアルキル基を示す。一般式(2)の酸素原子はエーテル結合である。]
で表される少なくとも1種である、請求項1に記載のめっき液添加剤。
【請求項3】
前記親水基が、フェノール性水酸基及び/又はポリオキシエチレン基である、請求項1又は2に記載のめっき液添加剤。
【請求項4】
前記疎水基が、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、及び炭素数3以上のポリオキシアルキレン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【請求項5】
前記疎水基が、2個以上の芳香環を有するアリール基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【請求項6】
前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が、ポリオキシエチレンナフチルエーテル及び/又は植物性ポリフェノールである、請求項1~5のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【請求項7】
前記植物性ポリフェノールが、カキタンニン、タンニン酸、カテキン、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン及びコーヒー酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のめっき液添加剤。
【請求項8】
水を含む溶媒の分散液である、請求項1~7のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【請求項9】
前記水の含有量が、前記めっき液添加剤の総量を100質量%として、25質量%以上である、請求項8に記載のめっき液添加剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のめっき液添加剤と、
ニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物、クロム化合物、スズ化合物、銀化合物及び金化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含有する、めっき液。
【請求項11】
前記めっき液の総量を100質量%として、前記薄片状カーボンを0.001~5質量%含有する、請求項10に記載のめっき液。
【請求項12】
前記めっき液の総量を100質量%として、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.001~10質量%含有する、請求項10又は11に記載のめっき液。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載のめっき液の製造方法であって、
前記金属化合物を含有する溶液と、前記めっき液添加剤とを混合する工程
を備える、製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載のめっき液添加剤と、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、スズ、銀及び金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属とを含有する、めっき薄膜。
【請求項15】
電解めっき方法であって、
請求項10~12のいずれか1項に記載のめっき液を用いて、5A/dm2未満の電流密度を印加する、電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
めっきに微粒子等の固形分(フィラー)を共析させて高機能化させることが行われている。例えば、ニッケルめっきにフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を共析させて摺動性や撥水性を持たせることが代表例である。
【0003】
この際、フィラーの水中への分散性が悪い、効率よく共析せず大量にフィラーを投入する必要がある、フィラーが均一に共析されない等の問題が起こり得る。
【0004】
特に、フィラーとしてナノカーボンを添加した場合は、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性等を高めることが期待されるものの、ナノカーボンは水との親和性が悪く、ナノカーボン同士が凝集しやすいため、上記の問題が起こりやすい。
【0005】
そのため、非特許文献1及び2では、カーボンナノチューブを硝酸、硫酸等による酸処理が行われている。この方法では、疎水性のカーボンナノチューブの表面を親水化することで、上記の問題を解決しようとしているが、生産効率が悪く、且つ、加熱によりNOxが発生するため量産化が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IOP Conference Series: Materials Science and Engineering. Vol. 438, No. 1, 012003, 2018.
【非特許文献2】Journal of Nanomaterials 2011, 6348 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、ナノカーボンにより熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性等を高めることが期待されるものの、ナノカーボンが水との親和性が悪く、ナノカーボン同士が凝集しやすいため、ナノカーボンの水中への分散性が悪い、効率よく共析せず大量にナノカーボンを投入する必要がある、ナノカーボンが均一に共析されない等の問題が起こり得る。
【0008】
そこで、本発明は、水中への分散性に優れ、めっき液に投入するだけでナノカーボンが共析できるため特殊な前処理や反応が不要であり、且つ、少量で効率よくめっき中にナノカーボンを共析できるめっき液添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを所定量含有することで、水中への分散性に優れ、めっき液に投入するだけでナノカーボンが共析できるため特殊な前処理や反応が不要であり、且つ、少量で効率よくめっき中にナノカーボンを共析できるめっき液添加剤が得られることを見出した。本発明者らは、当該知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の構成を包含する。
【0010】
項1.厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有し、
前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.1~100質量部含有する、めっき液添加剤。
【0011】
項2.前記親水基が、一般式(1)~(4):
【0012】
【0013】
[式中、-OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を示す。Rは2価の有機基を示す。X1は水素原子、アルカリ金属、NH4又は有機アンモニウムを示す。X2は水素原子、アルカリ金属、NH4、有機アンモニウム又はアルキル基を示す。一般式(2)の酸素原子はエーテル結合である。]
で表される少なくとも1種である、項1に記載のめっき液添加剤。
【0014】
項3.前記親水基が、フェノール性水酸基及び/又はポリオキシエチレン基である、項1又は2に記載のめっき液添加剤。
【0015】
項4.前記疎水基が、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、及び炭素数3以上のポリオキシアルキレン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~3のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【0016】
項5.前記疎水基が、2個以上の芳香環を有するアリール基である、項1~4のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【0017】
項6.前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が、ポリオキシエチレンナフチルエーテル及び/又は植物性ポリフェノールである、項1~5のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【0018】
項7.前記植物性ポリフェノールが、カキタンニン、タンニン酸、カテキン、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン及びコーヒー酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載のめっき液添加剤。
【0019】
項8.水を含む溶媒の分散液である、項1~7のいずれか1項に記載のめっき液添加剤。
【0020】
項9.前記水の含有量が、前記めっき液添加剤の総量を100質量%として、25質量%以上である、項8に記載のめっき液添加剤。
【0021】
項10.項1~9のいずれか1項に記載のめっき液添加剤と、
ニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物、クロム化合物、スズ化合物、銀化合物及び金化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含有する、めっき液。
【0022】
項11.前記めっき液の総量を100質量%として、前記薄片状カーボンを0.001~5質量%含有する、項10に記載のめっき液。
【0023】
項12.前記めっき液の総量を100質量%として、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.001~10質量%含有する、項10又は11に記載のめっき液。
【0024】
項13.項10~12のいずれか1項に記載のめっき液の製造方法であって、
前記金属化合物を含有する溶液と、前記めっき液添加剤とを混合する工程
を備える、製造方法。
【0025】
項14.項1~9のいずれか1項に記載のめっき液添加剤と、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、スズ、銀及び金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属とを含有する、めっき薄膜。
【0026】
項15.電解めっき方法であって、
項10~12のいずれか1項に記載のめっき液を用いて、5A/dm2未満の電流密度を印加する、電解めっき方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、水中への分散性に優れ、めっき液に投入するだけでナノカーボンが共析できるため特殊な前処理や反応が不要であり、且つ、少量で効率よくめっき中にナノカーボンを共析できるめっき液添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が少ない場合(薄片状カーボンの表面に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が被覆されている場合)の本発明のめっき液添加剤の構成を示す。
【
図2】親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が多い場合(炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物中に薄片状カーボンが分散している場合)の本発明のめっき液添加剤の構成を示す。
【
図3】実施例1で得られたニッケルめっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図4】実施例2で得られたニッケルめっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図5】実施例3で得られた銅めっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図6】実施例4で得られた銅めっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図7】実施例5で得られた銅めっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図8】比較例2で得られたニッケルめっき液の製造20時間後の外観写真である。
【
図9】実施例2で得られた銅めっきを用いた実験例1の動摩擦係数測定の結果である。
【
図10】比較例1で得られたニッケルめっきを用いた実験例1の動摩擦係数測定の結果である。
【
図11】実施例1で得られたニッケルめっきを用いた実験例2の動摩擦係数測定の結果である。
【
図12】実施例2で得られたニッケルめっきを用いた実験例2の動摩擦係数測定の結果である。
【
図13】比較例1で得られたニッケルめっきを用いた実験例2の動摩擦係数測定の結果である。
【
図14】実施例4で得られた銅めっきを用いた実験例3の動摩擦係数測定の結果である。
【
図15】実施例5で得られた銅めっきを用いた実験例3の動摩擦係数測定の結果である。
【
図16】比較例3で得られた銅めっきを用いた実験例3の動摩擦係数測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0030】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0031】
以下、本発明の実施形態を説明するが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【0032】
1.めっき液添加剤
本発明のめっき液添加剤は、厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有し、前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.01~10質量部含有する。
【0033】
(1-1)薄片状カーボン
薄片状カーボンは、熱伝導材、導電材、潤滑剤、摩擦低減材、耐摩耗材、ガスバリア材料、耐食材料、強度向上材等として機能する。
【0034】
薄片状カーボンとしては、薄いほうが熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度等に優れ、薄いシートや塗膜のような軽量で加工性のよい形態にすることが可能であるため好ましいが、その厚みは1~100nm、好ましくは1~20nmである。また、同様の理由で、厚みが1~10nmである薄片状カーボンの含有割合は、薄片状カーボンの総数を100%として、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。つまり、厚みが大きい薄片状カーボンが含まれてもよいが、多数の薄片状カーボンの厚みは10nm以下であることが好ましい。なお、薄片状カーボンの厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0035】
薄片状カーボンは、薄いほうが熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度等に優れ、薄いシートや塗膜のような軽量で加工性のよい形態にすることが可能であるため好ましいが、300層以下(つまり1~300層)のグラフェンが積層した層状構造を有する薄片状カーボンが好ましく、1~60層のグラフェンが積層した層状構造を有する薄片状カーボンがより好ましい。また、同様の理由で、積層数が1~30層である薄片状カーボンの含有割合は、薄片状カーボンの総数を100%として、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。つまり、厚みが大きい薄片状カーボンが含まれてもよいが、多数の薄片状カーボンの厚みは30層以下であることが好ましい。なお、薄片状カーボンの積層は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定した厚みにより算出する。
【0036】
薄片状カーボンは、通常、多くの凸角と凹角を有する平面形状をしているため、厚み以外のサイズは一概には規定しにくい。本明細書では、一枚の薄片状カーボンにおいて最も離れている凸角間の距離をその薄片状カーボンの大きさとする。
【0037】
このような薄片状カーボンの大きさは、20nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、200nm以上がさらに好ましい。このような大きさの薄片状カーボンを使用することにより、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度等に特に優れ、薄いシートや塗膜のような軽量で加工性のよい形態にしやすい。なお、薄片状カーボンの大きさは、大きい方が熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性等に優れるが、めっき液中で凝集しにくく、めっき膜中で凹凸ができにくい観点では、薄片状カーボンの大きさは、100μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、薄片状カーボンの大きさは透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0038】
本発明のめっき液添加剤において、薄片状カーボンの含有量は、特に制限されないが、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、水に対する分散性(凝集しにくさ)等の観点から、本発明のめっき液添加剤の総量を100質量%として、0.1~75.0質量%が好ましく、1.0~66.0質量%がより好ましい。
【0039】
(1-2)親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物
本発明においては、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を使用することにより、グラフェン構造を維持した薄片状カーボンが凝集することなく、本発明のめっき液添加剤中の薄片状カーボンを均一分散した状態で維持することができ、この結果、少量で、前処理や反応をせずとも薄片状カーボンを効率よく金属とともにめっき中に共析させることができる。なお、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボンを均一分散させるための分散剤としても機能し得る。
【0040】
このような親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、特に制限されるわけではなく、薄片状カーボンの分散剤として機能し得る種々多様な有機化合物(特に水溶性化合物)を使用し得る。
【0041】
なかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が有する疎水基としては、特に制限はないが、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、炭素数3以上のポリオキシアルキレン基等が好ましい。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、このような疎水基を、1種又は2種以上含むことができる。また、複数の疎水基を使用する場合には、同じ疎水基を複数用いてもよいし、同じ疎水基を複数用いてもよいし、異なる疎水基を複数用いてもよい。
【0042】
アルキル基としては、鎖状アルキル基でも分岐鎖状アルキル基でもよいが、炭素との親和性の観点から、鎖状アルキル基が好ましい。また、アルキル基の炭素数は、炭素との親和性の観点から、6以上が好ましく、8~28がより好ましく、10~22がさらに好ましい。このようなアルキル基としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(又はラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(又はミリスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(又はセチル基)、オクタデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0043】
このアルキル基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。なお、シクロアルキル基及びアリール基としては、後述のものが例示される。
【0044】
アルキル基の置換基としてのアラルキル基としては、後述のアリール基と炭素数1~6のアルキル基を有する炭素数7~14のアラルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が好ましい。
【0045】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0046】
アルケニル基としては、炭素との親和性と水溶性の観点から、炭素数は4以上が好ましく、6~100がより好ましく、8~30がさらに好ましい。このようなアルケニル基としては、例えば、オレイル基、リノレイル基等が挙げられる。
【0047】
このアルケニル基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。なお、アラルキル基としては前記したものが例示され、シクロアルキル基及びアリール基としては、後述のものが例示される。
【0048】
アルケニル基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0049】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0050】
シクロアルキル基としては、炭素数5~10(好ましくは5~8、特に5~6)のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が好ましい。
【0051】
このシクロアルキル基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0052】
シクロアルキル基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0053】
シクロアルキル基の置換基としてのアリール基及びアラルキル基としては、前記例示したものが挙げられる。
【0054】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0055】
アリール基としては、炭素数6~22(特に6~18)のアリール基が好ましく、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、テトラセニル基、フェナントレニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、アセナフテニル基、アセナフチレニル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基等が挙げられる。なお、炭素との親和性の観点から、2個以上の芳香環を有するアリール基(縮環アリール基及び多環アリール基)が好ましい。
【0056】
このアリール基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基等が挙げられる。
【0057】
アリール基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0058】
アリール基の置換基としてのシクロアルキル基及びアラルキル基としては、前記例示したものが挙げられる。
【0059】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。
【0060】
ポリオキシエチレン基は通常親水性であるが、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等、炭素数3以上のポリオキシアルキレン基は重合度が上がるほど疎水性が増し、疎水基として機能する。特に重合度4以上のポリオキシプロピレン基、重合度3以上のポリオキシブチレン基が好ましい。例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンやポリオキシエチレン-ポリオキシブチレンを親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物として使用した場合には、ポリオキシプロピレン基及びポリオキシブチレン基も疎水基として機能し得る。
【0061】
この炭素数3以上のポリオキシアルキレン基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0062】
炭素数3以上のポリオキシアルキレン基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0063】
炭素数3以上のポリオキシアルキレン基の置換基としてのシクロアルキル基、アラルキル基及びアリール基としては、前記例示したものが挙げられる。
【0064】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0065】
このような疎水基としては、炭素との親和性や、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、水に対する分散性(凝集しにくさ)、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、アリール基及び炭素数3以上のポリオキシアルキレン基が好ましく、アリール基がより好ましく、2個以上の芳香環を有するアリール基(縮環アリール基及び多環アリール基)がさらに好ましい。具体的には、ナフチル基、アントラセニル基、テトラセニル基、フェナントレニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、アセナフテニル基、アセナフチレニル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基、重合度4以上のポリオキシプロピレン基、重合度3以上のポリオキシブチレン基等が好ましい。
【0066】
また、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が有する親水基としては、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水に対する溶解度を上昇させることができるものであれば特に制限はないが、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、一般式(1)~(4):
【0067】
【0068】
[式中、-OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を示す。Rは2価の有機基を示す。X1は水素原子、アルカリ金属、NH4又は有機アンモニウムを示す。X2は水素原子、アルカリ金属、NH4、有機アンモニウム又はアルキル基を示す。一般式(2)の酸素原子はエーテル結合である。]
で表される親水基が好ましい。
【0069】
親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、このような親水基を、1種又は2種以上含むことができる。また、複数の親水基を使用する場合には、同じ親水基を複数用いてもよいし、同じ一般式で表される親水基を複数種用いてもよいし、異なる一般式で表される親水基を複数種用いてもよい。
【0070】
一般式(1)において、-OHはアルコール性水酸基及びフェノール性水酸基のいずれも採用し得る。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点からは、アルコール性水酸基が好ましいものの、フェノール性水酸基を含む場合(特に、複数のフェノール性水酸基を含む場合)は、必然的に疎水性に優れたベンゼン環も含むこととなり、全体として熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、水に対する分散性(凝集しにくさ)、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に優れるため好ましい。
【0071】
特に、ベンゼントリオール構造(ピロガロール構造、ヒドロキシキノール構造、フロログルシノール構造等)、ベンゼンジオール構造(カテコール構造、レゾルシノール構造、ヒドロキノン構造)等を有する場合(特に2個以上有する場合)には、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、水に対する分散性(凝集しにくさ)、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に特に優れる。このような構造を有する親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、人工的に合成した化合物のみならず、天然由来のポリフェノールを使用することもできる。
【0072】
ポリフェノールは、多価フェノールとも呼ばれる化合物の総称であり、芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシル基で置換された化合物、又はそれらの混合物の総称を意味する。このようなポリフェノールとしては、特に制限はなく、例えば、カキタンニン、タンニン酸、カテキン(エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、コーヒー酸、クエルセチン、ヘスペリジン、テアフラビン、プロシアニジン、ロイコアントシアニジン、ルチン等が挙げられる。これらのなかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、カキタンニン、タンニン酸、カテキン(エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、コーヒー酸等が好ましく、タンニン酸、カテキン(緑茶ポリフェノール等)等がより好ましい。
【0073】
これらのポリフェノールは、多くの植物中に存在しているため、植物をそのまま使用してもよいし、植物抽出物を使用してもよい。一方、ポリフェノールを常法により精製して使用してもよい。特に、安定した親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の効果が得られやすいことから、精製物(アルコール精製物等)を使用することが好ましい。
【0074】
一般式(2)において、Rで示される2価の有機基としては、特に制限されず、2価の炭化水素基が好ましい。2価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基(アルキレン基(又はアルキリデン基)、シクロアルキレン基、アルキレン(又はアルキリデン)-シクロアルキレン基、ビ又はトリシクロアルキレン基等)、芳香族炭化水素基(アリーレン基、アルキレン(又はアルキリデン)-アリーレン基等)等が挙げられる。
【0075】
一般式(2)において、基Rで示される2価の有機基としてのアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、アルキレン基が好ましく、C1-8アルキレン基がより好ましく、C1-4アルキレン基がさらに好ましく、C2-4アルキレン基が特に好ましく、C2-3アルキレン基が最も好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ブタン-2-イリデン基、1,2-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ペンタン-2,3-ジイル基等が例示できる。
【0076】
一般式(2)において、基Rで示される2価の有機基としてのシクロアルキレン基としては、C5-10シクロアルキレン基が好ましく、C5-8シクロアルキレン基がより好ましい。具体的には、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が例示できる。
【0077】
一般式(2)において、基Rで示される2価の有機基としてのアルキレン(又はアルキリデン)-シクロアルキレン基としては、アルキレン-シクロアルキレン基が好ましく、C1-6アルキレン-C5-10シクロアルキレン基がより好ましく、C1-4アルキレン-C5-8シクロアルキレン基がさらに好ましい。具体的には、メチレン-シクロへキシレン基、エチレン-シクロへキシレン基、エチレン-メチルシクロへキシレン基、エチリデン-シクロへキシレン基等が例示できる。
【0078】
一般式(2)において、基Rで示される2価の有機基としてのビ又はトリシクロアルキレン基としては、具体的には、ノルボルナン-ジイル基等が例示できる。
【0079】
一般式(2)において、基Rで示される2価の有機基としてのアリーレン基としては、C6-10アリーレン基が好ましい。具体的には、フェニレン基、ナフタレンジイル基等が例示できる。
【0080】
一般式(2)において、基Rで示される2価の有機基としてのアルキレン(又はアルキリデン)-アリーレン基としては、アルキレン-アリーレン基が好ましく、C1-6アルキレン-C6-20アリーレン基がより好ましく、C1-4アルキレン-C6-10アリーレン基がさらに好ましく、C1-2アルキレン-フェニレン基が特に好ましい。具体的には、メチレン-フェニレン基、エチレン-フェニレン基、エチレン-メチルフェニレン基、エチリデンフェニレン基等が例示できる。
【0081】
基Rで示される2価の有機基としては、これらのうち、2価の脂肪族炭化水素基、特に、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等のC1-4アルキレン基等)が好ましい。
【0082】
なお、アルキレン(若しくはアルキリデン)-シクロアルキレン基並びにアルキレン(アルキリデン)-アリーレン基とは、-Ra-Rb-(式中、Raは、一般式(2)において、それぞれ別個の酸素原子に結合したアルキレン基又はアルキリデン基、Rbはシクロアルキレン基又はアリーレン基を示す)で表される基を示す。
【0083】
このような一般式(2)で表される親水基としては、特に制限されず、例えば、-OCH2CH2O-、-OCH2CH2CH2O-、-OCH2O-等が使用され得る。これらを複数(好ましくは3~100個)有するものも好ましく使用することができ、例えば、トリオキシエチレン基、テトラオキシエチレン基、ポリオキシメチレン基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシトリメチレン基等を使用することができる。特に一般式(2)で表される親水基が3つ以上重合した構造を有する場合は、Rの炭素が多いほど(例えば炭素数3以上)親水性が下がりやすく疎水性を増大しやすいため、重合度が増しても親水性を保持しやすい-OCH2CH2O-、-OCH2O-が好ましい。これらを複数(好ましくは3~100個)有するものとして、トリオキシエチレン基、テトラオキシエチレン基、ポリオキシメチレン基、ポリオキシエチレン基等が好ましく、ポリオキシエチレン基が特に好ましい。
【0084】
このような一般式(2)で表される親水基、特にポリオキシアルキレン基、さらにはポリオキシエチレン基を有する場合は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に特に優れやすい。
【0085】
一般式(3)において、X1で示されるアルカリ金属としては、特に制限されず、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
【0086】
一般式(3)において、X1で示される有機アンモニウムとしては、第四級アンモニウムが好適であり、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が好適に使用され得る。
【0087】
このような一般式(3)で表される親水基としては、特に制限されないが、例えば、-SO3
-H+、-SO3
-Na+、-SO3
-K+、-SO3
-Li+、-SO3
-NH4
+、-SO3
-N(CH3)4
+、-SO3
-N(C2H5)4
+、-SO3
-N(C3H7)4
+、-SO3
-N(C4H9)4
+等が挙げられる。
【0088】
一般式(4)において、X2で示されるアルカリ金属及び有機アンモニウムとしては、上記例示したものが挙げられる。
【0089】
一般式(4)において、X2で示されるアルキル基としては、鎖状アルキル基でも分岐鎖状アルキル基でもよいが、炭素との親和性や、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、鎖状アルキル基が好ましい。また、アルキル基の炭素数は、炭素との親和性や、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、1~2が好ましい。
【0090】
このような一般式(4)で表される親水基としては、特に制限されないが、例えば、-COOH、-COONa、-COOK、-COOLi、-COONH4、-COON(CH3)4、-COON(C2H5)4、-COON(C3H7)4
+、-COON(C4H9)4
+等が挙げられる。
【0091】
これら親水基のなかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、pHによらない安定性、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、一般式(1)又は(2)で表される親水基が好ましい。
【0092】
ただし、一般式(2)で表される同じ親水基を複数有する、つまり重合した構造を有する場合、炭素数2以下は重合度が増すほど水溶性化合物の親水性は高くなるが、炭素数3以上の場合は重合度が増すほど疎水性が増す可能性がある。
【0093】
また、本発明において、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物として、非イオン系材料(ノニオン界面活性剤等)を使用する場合には、そのHLB値は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、12以上が好ましく、13~19がより好ましい。なお、疎水基を同じとした場合(薄片状カーボンとの親和性が同程度の場合)には、HLB値は高いほど好ましい。
【0094】
上記のような条件を満たす親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、特に制限はないが、芳香族水溶性化合物を使用してもよいし、非芳香族水溶性化合物を使用してもよいが、芳香族水溶性化合物が好ましい。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシプロピレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンウンデシルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンウンデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレントリデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンペンタデシルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンペンタデシルフェニルエーテル、カキタンニン、タンニン酸、カテキン(エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、コーヒー酸、クエルセチン、ヘスペリジン、テアフラビン、プロシアニジン、ロイコアントシアニジン、ルチン等が挙げられ、なかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、ポリオキシエチレンナフチルエーテルや、植物性ポリフェノールであるカキタンニン、タンニン酸、カテキン(エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、コーヒー酸等が好ましい。
【0095】
このような親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、特に制限されるわけではないが、例えば、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン109P、エマルゲン120、エマルゲン123P、エマルゲン130K、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン210P、エマルゲン220(以上、花王(株)製ポリオキシエチレンアルキルエーテル類)、トリトンX-100、トリトンX-114、トリトンX-305、トリトンX-405(以上、ダウケミカル社製ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類)、ノイゲンEN、ノイゲンEN-10(以上、第一工業製薬工業(株)製のポリオキシエチレンナフチルエーテル)、カキタンニン、タンニン酸、カテキン類(エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等、ポリフェノール類を含む)、アントシアニン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、コーヒー酸、クエルセチン、ヘスペリジン、テアフラビン、プロシアニジン、ロイコアントシアニジン、ルチン、没食子酸、没食子酸エステル、柿渋(タンニン類を含む)等を使用できる。
【0096】
本発明のめっき液添加剤中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液添加剤の総量を100質量%として、0.1~90質量%が好ましく、0.5~70質量%がより好ましい。また、本発明のめっき液添加剤中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、薄片状カーボン1質量部に対して、0.1~100質量部、好ましくは0.5~10質量部である。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が0.1質量部未満では、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に劣る。また、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が100質量部をこえると、パウダー化が困難となり、軽量等取り扱いが難しくなる。
【0097】
なお、本発明のめっき液添加剤が水を含んでいる場合は、水によって凝集が防止されているため、水を含まない場合と比較して薄片状カーボンに対する親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の質量比を小さくすることもできる。このため、本発明のめっき液添加剤中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量を、薄片状カーボン1質量部に対して、0.5~20質量部とすることもできるし、本発明のめっき液添加剤が水分散液状である場合は強い凝集が起こりにくいため、本発明のめっき液添加剤中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量を、薄片状カーボン1質量部に対して、0.1~10質量部とすることもできる。
【0098】
なお、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が少ない場合には、本発明のめっき液添加剤は、薄片状カーボンの表面に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が被覆されている構成を有する(
図1)。一方、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が多い場合には、本発明のめっき液添加剤は、炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物中に薄片状カーボンが分散している構成を有する(
図2)。いずれの場合も、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が薄片状カーボンの周囲に介在することで、薄片状カーボンの凝集を抑制し、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に特に優れる材料を得ることができる。
【0099】
(1-3)他の成分
本発明のめっき液添加剤において、薄片状カーボン及び親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物以外にも、他の成分を含ませてもよい。このような他の成分としては、例えば、カーボンマイクロコイル、カーボンファイバー(特に繊維径500nm以下のカーボンナノファイバー)、活性炭、カーボンブラック(アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等;特に導電性が高く、比表面積が大きいケッチェンブラック)、ガラス状カーボン、カーボンマイクロコイル、フラーレン、バイオマス系炭素材料(バガス、ソルガム、木くず、おがくず、竹、木皮、稲ワラ、籾殻、コーヒーかす、茶殻、おからかす、米糠、パルプくず等を原料としたもの;リグニンから製造したカーボンファイバー等)、セルロースナノファイバー、窒化ホウ素、モリブデン化合物(二硫化モリブデン、有機モリブデン等)、二硫化タングステン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、メラミンシアヌレート、フタロシアニン、酸化鉛、フッ化カルシウム、層状鉱物(マイカ、タルク等)等を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することもできる。
【0100】
ただし、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点からは、他の成分の含有量は少ないことが好ましく、本発明のめっき液添加剤の総量を100質量%として、0.01~10質量%が好ましく、0.02~5質量%がより好ましい。
【0101】
(1-4)めっき液添加剤
このような本発明のめっき液添加剤の形状としては、特に制限はなく、分散液、スラリー等の流動性のある液状や、パウダー、塊状等の固体を挙げることができる。
【0102】
また、本発明のめっき液添加剤は、水を含む半固形状とすることもできる。
【0103】
本発明のめっき液添加剤を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、本発明のめっき液添加剤において、薄片状カーボンの含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液添加剤の総量を100質量%として、0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0104】
本発明のめっき液添加剤を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、本発明のめっき液添加剤において、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液添加剤の総量を100質量%として、0.01~30質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましい。
【0105】
本発明のめっき液添加剤を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、環境面及び除去しやすさ等の観点から、水を主溶媒として用いることが好ましい。
【0106】
使用する溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、溶媒総量を100質量%として、70質量%以上(70~100質量%)が好ましく、80質量%以上(80~100質量%)がより好ましい。
【0107】
本発明のめっき液添加剤を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、本発明のめっき液添加剤中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液添加剤総量を100質量%として、25質量%以上(25~100質量%)が好ましく、50~99質量%がより好ましい。
【0108】
なお、本発明において、溶媒としては、水のみを使用してもよく、有機溶媒は必ずしも使用しなくてもよいが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性等をより向上させるために、メタノール、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール等のアルコール;エチレングリコール等のグリコール;グリセリン;2-メトキシエタノール等の有機溶媒を使用してもよい。
【0109】
使用する溶媒中の有機溶媒の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、溶媒総量を100質量%として、30質量%以下(0~30質量%)が好ましく、20質量%以下(0~20質量%)がより好ましい。
【0110】
本発明のめっき液添加剤を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、本発明のめっき液添加剤中の有機溶媒の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液添加剤総量を100質量%として、0~20質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましい。
【0111】
このような本発明のめっき液添加剤は、上記のとおり、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性等に優れており、箔変更カーボンの凝集を抑制することができ、また、前処理や反応を施さずともめっき中に薄片状カーボンを容易に共析させることができ、その結果、めっきに熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性等の特性を付与することが可能である。
【0112】
このような本発明のめっき液添加剤は、電子部品、自動車部品のめっき等の用途に用いることができる。
【0113】
2.めっき液添加剤の製造方法
本発明のめっき液添加剤は、例えば、
(1)前記薄片状カーボンと、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有し、前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.1~100質量部含有する薄片状カーボン分散体から溶媒を除去する工程
により製造することができる。
【0114】
なお、本発明のめっき液添加剤が、水を含む溶媒の分散液である場合は、前記薄片状カーボンと、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有し、前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.1~100質量部含有する薄片状カーボン分散体を、そのまま本発明のめっき液添加剤として使用することができる。
【0115】
(2-1)分散体(薄片状カーボン分散体)
薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有する分散体(薄片状カーボン分散体)において、薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物については、上記した説明を採用することができる。また、薄片状カーボン分散体には、必要に応じて、上記した他の成分を含ませることもできる。
【0116】
この薄片状カーボン分散体は、分散液として形成してもよいし、基板上に塗膜として形成してもよい。なお、本発明のめっき液添加剤が、水を含む溶媒の分散液である場合は、分散液として形成することが好ましい。また、薄片状カーボン分散体(薄片状カーボン分散液又は薄片状カーボン塗膜)を作製するために使用される溶媒としては、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、得られるめっき液添加剤における熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、水を主溶媒として用いることが好ましい。つまり、薄片状カーボン分散体の詳細は、上記した分散液としてのめっき液添加剤と同様とすることができる。
【0117】
(2-2)薄片状カーボン分散体の製造方法
本発明において、上記薄片状カーボン分散体の製造方法は、特に制限されず、溶媒に対して薄片状カーボン及び親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を投入することもできる。具体的には、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の分散体に薄片状カーボンを投入することもできるし、薄片状カーボンの分散体に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を投入することもできる。また、溶媒中に、薄片状カーボン及び親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を同時に投入することもできる。
【0118】
ただし、薄片状カーボンの分散性をより向上させて凝集しにくくし、得られる本発明のめっき液添加剤の熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等をさらに高める観点からは、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記組成物中の炭素質材料に対してせん断を加えることが好ましい(磨砕法)。
【0119】
また、薄片状カーボン分散体は、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物に対して、30MPa以上の加圧処理を行うことによっても好ましく製造することができる(高圧分散法)。
【0120】
なお、薄片状カーボンの分散性、得られる本発明のめっき液添加剤の熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点からは、磨砕法が最も好ましい。
【0121】
従来は、湿式法にて薄片状カーボンを作製する場合、薄片状カーボンの酸化物及び水性溶媒を含む水分散体に還元処理を施していたが、この方法ではグラフェン構造を維持することが困難であるとともに、得られる薄片状カーボンが激しく凝集してしまうため、薄片状カーボン水分散体を得ることは困難であった。また、安全性の観点でも問題があった。一方、本発明においては、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を使用することにより、グラフェン構造を維持した薄片状カーボンが凝集することなく、均一分散した状態(薄片状カーボン分散体)で薄片状カーボンを得ることができ、得られる薄片状カーボンも破壊されにくく、短時間で薄片状カーボンを得ることもできるうえに剥離し損ねた塊も残存しにくい。この際、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボンを均一分散させるための分散剤としても機能し得る。
【0122】
また、せん断方法によれば、力のかかる方向が層状構造を有する炭素質材料の面方向と平行であり、且つ、狭い空間で処理するため、従来の高速攪拌、超音波処理等による製造方法と比較して、破壊が少なく、大きめのサイズの薄片状カーボン(例えば、大きさが1μm以上の薄片状カーボン)を得ることができ、剥離の効率がよく短時間(少ないパス回数)で処理を行うことができるとともに、剥離し損ねた厚みのある塊が残りにくい。
【0123】
層状構造を有する炭素質材料
層状構造を有する炭素質材料としては、特に制限はないが、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛、酸化黒鉛等が挙げられる。酸化黒鉛とは、例えば、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素等の1種以上の酸化剤により酸化された黒鉛が使用され得る。例えば、ハマーズ法により酸化黒鉛を得る場合には、黒鉛を濃硫酸中に浸し、過マンガン酸カリウムを加えて黒鉛を酸化させた後、反応物を希硫酸及び/又は過酸化水素でクエンチし、その後、蒸留水で洗浄すること等により、炭素原子に酸素原子が結合し、層間に酸素原子が導入されて酸化黒鉛を得ることができる。
【0124】
なかでも、酸素等の異種原子を含まない純度の高い薄片状カーボンを得ようとする場合には、黒鉛を原料として用いることが好ましく、天然黒鉛及び膨張黒鉛がより好ましい。なお、膨張黒鉛を使用する場合は、グラフェン構造の酸化が少ない膨張黒鉛を採用することが好ましい。また、膨張黒鉛を使用する場合は、300~1000℃程度で10秒~5時間程度加熱処理を加えてから用いてもよい。これにより、適度に膨張させた膨張黒鉛とすることも可能である。
【0125】
また、製造の容易さを重視する場合には、酸化黒鉛を使用してもよい。酸化黒鉛を使用することにより、層間に溶媒分子が挿入されやすく、層方向にのみ剥離させることが容易であり、薄片化効率及び分散性が向上するため、処理時間をより短くすることが可能である。ただし、酸化黒鉛を使用する場合には、後に還元処理が必要となり、グラフェン構造、導電性及び強度をより維持する観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛)が好ましい。
【0126】
一方、分散性をより向上させるために、土状黒鉛を採用することも可能である。ただし、結晶性、純度及び構造維持の観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、酸化黒鉛)が好ましい。
【0127】
また、得られる薄片状カーボンの結晶性、強度、構造維持等を重視する場合には、人造黒鉛を使用することもできる。
【0128】
本発明において、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物における層状構造を有する炭素質材料の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物の総量を100質量%として、20質量%以下が好ましく、0.0001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましい。なお、層状構造を有する炭素質材料の含有量は、薄いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られ、処理回数をより少なくできる傾向があるとともに、粘度を適切に維持してせん断処理等を行いやすい傾向がある。一方、層状構造を有する炭素質材料の含有量が濃いほうがより生産性に優れている。このため、薄片化の効率、粘度、生産性等のバランスの観点から、層状構造を有する炭素質材料の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該薄片状カーボン分散体中の層状構造を有する炭素質材料の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
【0129】
親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物
親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、上記したものを採用できる。
【0130】
本発明において、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物の総量を100質量%として、0.00001~40質量%が好ましく、0.0001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましい。一方、本発明において、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、層状構造を有する炭素質材料1質量部に対して、0.01~1.0質量部が好ましく、0.02~0.8質量部がより好ましい。なお、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、薄いほうが相対的に層状構造を有する炭素質材料の含有量が大きくなり、得られる本発明のめっき液添加剤の熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等が向上しやすく、また、安価に処理しやすい。一方、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が濃いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られる傾向があるが、薄片化効率を考慮すると多過ぎないほうが好ましい。なお、この製造方法において、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該炭素質材料分散体中の親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
【0131】
溶媒
上記した薄片状カーボン分散体の製造方法においては、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を用いて、特定の処理を行うことが好ましいが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる本発明のめっき液添加剤の熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む炭素質材料分散体に対して、特定の処理を行うことが好ましい。
【0132】
この炭素質材料分散体としては、分散液として形成してもよいし、基板上に塗膜として形成してもよい。
【0133】
この際、炭素質材料分散体(炭素質材料分散液又は炭素質材料塗膜)を作製するために使用される溶媒としては、上記したものを採用できる。
【0134】
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定の処理を行う場合、炭素質材料分散体中の溶媒の総量は、特に制限されないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の溶解度等の観点から、炭素質材料分散体の総量を100質量%として、40~99.9998質量%が好ましく、63~99.998質量%がより好ましく、85~99.98質量%がさらに好ましい。
【0135】
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定の処理を行う場合、炭素質材料分散体は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物分散体に層状構造を有する炭素質材料を投入してもよいし、層状構造を有する炭素質材料分散体に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を投入してもよい。また、溶媒中に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを同時に投入してもよい。
【0136】
他の成分
本発明において、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物(例えば、炭素質材料分散体等)には、他の成分を含ませてもよい。これにより、最終的に得られる薄片状カーボン分散体や電磁波吸収材料中にも、これら他の成分を含ませることができる。このような他の成分としては、上記したものを採用でき、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。ただし、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に特に優れためっき液添加剤を得やすい観点からは、他の成分の含有量は少ないことが好ましく、炭素質材料分散体の総量を100質量%として、0.00001~5質量%が好ましく、0.0001~2質量%がより好ましい。
【0137】
せん断処理(摩砕法)
本発明では、磨砕法を採用する場合、上記のとおり、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記組成物中の炭素質材料に対してせん断を加える処理を行うことが好ましい。なお、炭素質材料分散体を使用する場合には、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、炭素質材料分散体を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記炭素質材料分散体中の炭素質材料に対してせん断を加える処理を行うことが好ましい。
【0138】
せん断処理を施すことにより、層状構造を有する炭素質材料の微粒化が起こるために、条件によってはグラフェン構造を維持できない可能性もあるが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を効率よく行うことができ、処理時間を低減することができる。このようなせん断処理を施す際の前記回転盤と前記盤とは略平行に設置されているが、厳密に平行でなくてもよい。具体的には、前記回転盤に垂直な軸と、前記盤に垂直な軸とのなす角は10°以下が好ましく、5°以下がより好ましい。なお、前記回転盤に垂直な軸と、前記盤に垂直な軸とが厳密に平行であることが最も好ましい。このようなせん断処理を施す際の二面間の最短距離は、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができるものであれば特に制限はないが、200μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。せん断処理を施す際の二面間の最短距離は短いほど薄片化効率に優れており、通常0μmである。なお、本発明において、せん断処理を施す際の二面間の最短距離とは、回転盤と盤との間の実測の最短距離から層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物の厚みを除いた距離を意味する。つまり、回転盤と盤との間の実測の最短距離が0μmであることは、回転盤と盤との間に密接するように層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を設置する、つまり、回転盤と盤との間に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物以外の空間は存在しないことを意味する。なお、前記回転盤と前記盤とは略平行に設置されているが、前記回転盤と前記盤との距離は場所によって異なることもある。この場合、前記回転盤と前記盤との最短距離は、前記回転盤と前記盤との間の距離のうち、最も短い箇所の距離を意味する。また、必ずしもあらかじめ前記回転盤と前記盤とを空ける必要はなく、前記回転盤と前記盤との間に処理する材料を挟んでもよく、また、前記回転盤と前記盤とを接触させておき、層状構造を有する炭素質材料が挟まることにより前記回転盤と前記盤との間が広がる状態になってもよい。このようなせん断処理は、盤状のものを回転させる機構があればよく、石臼、振動式ミキサー、スピンコーター、グラインダー等を用いて行い得る。
【0139】
この際使用できる前記回転盤と前記盤の大きさは特に制限はなく、5~500mmが好ましく、10~200mmがより好ましい。また、せん断処理を行う際の回転盤の回転数は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる範囲とすることが好ましく、例えば、1000~10000ppmが好ましく、2000~5000ppmがより好ましい。
【0140】
このようなせん断処理をすることにより、盤と層状構造を有する炭素質材料、層状構造を有する炭素質材料と層状構造を有する炭素質材料を接触させて層状構造を有する炭素質材料に対して層状構造を有する炭素質材料のグラフェン層と平行方向にせん断をかけることができる。
【0141】
せん断処理における前記回転盤と前記盤との間の最短距離を小さくし、回転盤の回転速度を早くすることにより、条件をより強くすることが可能であり、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより効率よく行うことができ、処理時間をより低減することができる。このせん断操作は、1回以上、好ましくは3回以上行い得る。
【0142】
せん断処理を行う温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0℃以上、さらに0~100℃、特に20~95℃とし得る。なお、せん断処理を行う温度は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の溶解度が高い条件がよく、温度が高いほうが溶解度が増す場合は高温のほうが好ましく、曇点を有する水溶性化合物を使用する場合は曇点以下の温度に保持することが好ましい。
【0143】
上記のせん断処理を行う前に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とをよく接触させるため、撹拌装置、超音波分散装置等を用いて組成物を作製する前にあらかじめ撹拌し、層状構造を有する炭素質材料表面に、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物をなじませておいてもよい。
【0144】
なお、本発明において、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、上記せん断処理を施した分散体中には、薄片状カーボンの酸化物として存在している。このため、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、後処理として還元処理を施すことが好ましい。還元処理としては、化学還元、電気化学還元等、種々の方法が採用できるが、化学還元が好ましい。なかでも、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等のような還元剤による化学還元が好ましい。還元剤量は、薄片状カーボンの酸化物1質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。また、還元時に加熱を行うとより還元しやすくなる。加熱温度は、40~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、60~120℃がさらに好ましい。還元時間は10分~64時間が好ましく、30分~48時間がより好ましく、1~24時間がさらに好ましい。ただし、グラフェン構造が過度に破壊されない程度とすることが好ましい。
【0145】
上記したせん断処理によれば、薄片状カーボンは、上記した薄片状カーボン分散体として得られ得る。このせん断処理では、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を含んでいるため、薄片状カーボン分散体においても、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が含まれている。この親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボン表面に吸着して溶媒中で薄片状カーボンを高濃度に孤立分散させることも可能であるため、薄片状カーボン分散体においては分散剤としても機能する。また、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は市販品を用いることができ、コスト及び分散性の両方で従来品より優位性がある。さらに、この親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボン表面に残存することによって、得られる本発明のめっき液添加剤は熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等に優れることができる。
【0146】
ただし、このせん断処理を施した直後の材料は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が多くなる傾向があり、この場合、めっき液添加剤が可塑化しやすく、加工性に課題が出る可能性がある。このため、得られた薄片状カーボン分散体を洗浄することによって、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量を少なくすることで、めっき液添加剤の配合の自由度を増し、加工性を向上させることができる。
【0147】
具体的には、得られた薄片状カーボン分散体に対してエタノール、2-プロパノール等のアルコールを添加して濾過した後に、得られたケーキに対してアセトン、2-ブタノン等のケトンを添加して濾過することが好ましい。
【0148】
この際使用できる溶媒の含有量は特に制限されるわけではないが、アルコールは薄片状カーボン分散体1質量部に対して1~20質量部(特に1.5~10質量部)が好ましく、ケトンは上記したケーキ1質量部に対して1~50質量部(特に1.5~30質量部)が好ましい。
【0149】
また、従来の酸化処理及び還元処理を行う方法においては、還元処理の際にプラスチック基板が加水分解されること、還元処理を施すと薄片状カーボンが凝集するため分散体として存在し得ないこと等から、プラスチック基板上に薄片状カーボン分散体を形成することは不可能であったが、本発明においては、上記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を含ませつつ特定の処理を行うことで、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基板が加水分解を受けることなく、薄片状カーボン分散体や電磁波吸収材料を基板上に形成することも可能である。
【0150】
加圧処理(高圧分散法)
本発明では、高圧分散法を採用する場合、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物に対して、30MPa以上の加圧処理を行うことが好ましい。
【0151】
加圧処理を施すことにより、層状構造を有する炭素質材料の微粒化が起こるために、条件によってはグラフェン構造を維持できない可能性もあるが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を効率よく行うことができ、処理時間を低減することができる。このような加圧処理を施す際の加圧レベルは、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができるものであれば特に制限はないが、30MPa以上が好ましく、50~400MPaがより好ましく、100~300MPaがさらに好ましい。このような加圧処理は、高圧分散装置や超臨界水作製装置等を用いて行い得る。高圧分散装置は力学的な圧力をかけることにより分散することができ、超臨界水作製装置においては、水を加熱することにより系の圧力を上げることができる。
【0152】
このような加圧により、例えば、
(i)2個以上の前記炭素質材料分散体同士を衝突させること、
(ii)前記炭素質材料分散体と金属又はセラミックス材料(炭化ケイ素、アルミナ等高硬度の材料)とを衝突させること、
(iii)前記炭素質材料分散体を断面積1cm2以下の空間を通過させること
等の処理を行い得る。
【0153】
上記(i)及び(ii)によれば、加圧条件をより強くすることが可能であり、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより効率よく行うことができ、処理時間をより低減することができる。また、上記(iii)によれば、グラフェン構造をより維持しつつ、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより適切に行うことができる。この加圧操作を1回以上、好ましくは10回以上行うことができる。
【0154】
加圧温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、上記(i)及び(ii)の場合は0~100℃、特に20~95℃とし得る。また、上記(iii)の場合、力学的に圧力をかける場合は、0~100℃が好ましく、水の超臨界状態により圧力を生み出す場合は、373~700℃が好ましく、380~450℃がより好ましい。
【0155】
なお、前記加圧処理を行う際には、予備処理(前処理)として、超音波分散処理を行い、層状構造を有する炭素質材料の微粒化を行っておくことが好ましい。これにより、目詰まり防止等の効果を有し得る。
【0156】
超音波分散処理を施す際の出力は特に制限はないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化の観点から、通常行われる超音波分散処理(40~50W程度)よりも強力なものとすることが好ましい。具体的には、超音波分散処理の出力は、100W以上が好ましく、300~20000Wがより好ましく、400~18000Wがさらに好ましい。
【0157】
超音波分散温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0~80℃、特に10~70℃とし得る。超音波分散時間は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる時間とすればよく、1~600分、特に3~120分とし得る。
【0158】
また、これらの処理の前処理又は後処理として、通常の機械的撹拌、乳化装置による分散処理、ビーズミルによる分散処理等の他の分散装置による分散処理を併用してもよい。
【0159】
なお、本発明において、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、上記加圧処理を施した分散体中には、薄片状カーボンの酸化物として存在している。このため、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、後処理として還元処理を施すことが好ましい。還元処理としては、化学還元、電気化学還元等、種々の方法が採用できるが、化学還元が好ましい。なかでも、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等のような還元剤による化学還元が好ましい。還元剤量は、薄片状カーボンの酸化物1質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。また、還元時に加熱を行うとより還元しやすくなる。加熱温度は、40~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、60~120℃がさらに好ましい。還元時間は10分~64時間が好ましく、30分~48時間がより好ましく、1~24時間がさらに好ましい。ただし、グラフェン構造が過度に破壊されない程度とすることが好ましい。
【0160】
(2-3)本発明のめっき液添加剤の製造方法
本発明のめっき液添加剤が溶媒を含有しない場合は、本発明のめっき液添加剤は、上記の薄片状カーボン分散体から溶媒を除去することで得ることができる。また、本発明のめっき液添加剤が溶媒を含有する場合は、上記の薄片状カーボン分散体をそのまま本発明のめっき液添加剤として使用することができる。
【0161】
溶媒を除去する場合、薄片状カーボン分散体を濃縮する方法が挙げられ、薄片状カーボン分散体の乾燥の他、基板上に薄片状カーボン分散体をスピンコートや塗布後に乾燥する方法、通常の固液分離により本発明の熱伝導材料を回収する方法等により実施することができる。固液分離を行う方法としては、例えば、通常の固液分離に使用されている方法、例えば、濾紙、ガラスフィルター等を用いて濾過する方法;遠心分離後に濾過する方法;減圧濾過器を使用する方法を例示できる。次に、乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、温風乾燥機等を用いて50~200℃程度で1~24時間程度乾燥させる方法を例示できる。
【0162】
3.めっき液及びその製造方法
本発明のめっき液は、本発明のめっき液と、ニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物、クロム化合物、スズ化合物、銀化合物及び金化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含有する。
【0163】
本発明のめっき液において、薄片状カーボンの含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液の総量を100質量%として、0.001~5質量%が好ましく、0.01~3質量%がより好ましい。
【0164】
本発明のめっき液において、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液の総量を100質量%として、0.001~10質量%が好ましく、0.001~5質量%がより好ましい。
【0165】
本発明のめっき液において、含まれるニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物、クロム化合物、スズ化合物、銀化合物及び金化合物としては、めっきしようとする金属種に応じて適宜選択することができ、特に制限されるわけではないが、本発明のめっき液は、水を主溶媒とする溶媒を使用することが好ましいことから、水溶性化合物を使用することが好ましい。
【0166】
このような金属化合物としては、具体的には、ニッケル化合物として硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸水素化ニッケル等が好ましく、銅化合物として硫酸銅、シアン化銅、ピロリン酸銅等が好ましく、亜鉛化合物として硫酸亜鉛、塩化亜鉛、ホウフッ化亜鉛、酢酸亜鉛等が好ましく、クロム化合物として塩化クロム、硝酸クロム、クロム酸、酢酸クロム等が好ましく、スズ化合物として硫酸スズ、ほうフッ化スズ、ピロリン酸スズ、有機スルホン酸スズ、塩化スズ、スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウム等が好ましく、銀化合物としてシアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化銀ナトリウム、硝酸銀、ヨウ化銀、スルファミン酸銀、チオ硫酸銀、チオ尿素銀、メタンスルホン酸銀等が好ましく、金化合物としてシアン酸銀カリウム、シアン酸金ナトリウム、硫酸金ナトリウム等が好ましい。これらの金属化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0167】
本発明のめっき液において、上記した金属化合物の含有量は、特に制限されず、用途や金属種、めっき条件等によっても異なるが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液の総量を100質量%として、5~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましい。なお、本発明のめっき液中に複数の金属化合物が含まれる場合は、その含有量の合計を上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0168】
また、本発明のめっき液は、水を含む溶媒の分散液とすることもできる。
【0169】
本発明のめっき液を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、環境面及び除去しやすさ等の観点から、水を主溶媒として用いることが好ましい。
【0170】
使用する溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、溶媒総量を100質量%として、70質量%以上(70~100質量%)が好ましく、80質量%以上(80~100質量%)がより好ましい。
【0171】
本発明のめっき液を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、本発明のめっき液中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液総量を100質量%として、50~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましい。
【0172】
なお、本発明において、溶媒としては、水のみを使用してもよく、有機溶媒は必ずしも使用しなくてもよいが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性等をより向上させるために、メタノール、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール等のアルコール;エチレングリコール等のグリコール;グリセリン;2-メトキシエタノール等の有機溶媒を使用してもよい。
【0173】
使用する溶媒中の有機溶媒の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、溶媒総量を100質量%として、30質量%以下(0~30質量%)が好ましく、20質量%以下(0~20質量%)がより好ましい。
【0174】
本発明のめっき液を、水を含む溶媒の分散液とする場合は、本発明のめっき液中の有機溶媒の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液総量を100質量%として、0~10質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましい。
【0175】
本発明のめっき液には、上記した各成分のみならず、pH調整剤、光沢剤等の各種添加剤を含ませることもできる。これらの各種添加剤は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらの各種添加剤は、例えば、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、スズ、銀、金等のめっき液に通常含まれている添加剤を使用することができる。
【0176】
本発明のめっき液中に添加剤が含まれる場合は、本発明のめっき液中の添加剤の含有量は、特に制限されず、用途やめっきさせる金属種によっても異なるが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、本発明のめっき液総量を100質量%として、1~30質量%が好ましく、3~25質量%がより好ましい。
【0177】
上記した本発明のめっき液の製造方法は、特に制限されるわけではないが、上記金属化合物を含有する溶液と、本発明のめっき液添加剤とを混合することにより、本発明のめっき液を製造することができる。
【0178】
なお、本発明のめっき液中に上記した添加剤を含ませる場合は、金属化合物を含有する溶液中に含ませることができる。つまり、従来から使用されるめっき液と、本発明のめっき液添加剤とを混合することにより、本発明のめっき液を製造することが可能である。
【0179】
金属化合物を含有する溶液において、上記した金属化合物の含有量は、特に制限されず、用途や金属種、めっき条件等によっても異なるが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、金属化合物を含有する溶液の総量を100質量%として、10~60量%が好ましく、15~50質量%がより好ましい。なお、金属化合物を含有する溶液中に複数の金属化合物が含まれる場合は、その含有量の合計を上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0180】
金属化合物を含有する溶液中に上記した添加剤を含ませる場合において、上記した添加剤の含有量は、特に制限されず、用途や金属種、めっき条件等によっても異なるが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、金属化合物を含有する溶液の総量を100質量%として、0.1~100質量%が好ましく、0.5~50質量%がより好ましい。なお、金属化合物を含有する溶液中に複数の添加剤が含まれる場合は、その含有量の合計を上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0181】
金属化合物を含有する溶液としては、金属化合物を溶解させることができる溶媒を使用していれば特に制限されるわけではないが、上記のとおり、本発明のめっき液は、水を主溶媒とする溶媒を使用することが好ましいので、ここでも水を主溶媒とする溶媒を使用することが好ましい。
【0182】
使用する溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、溶媒総量を100質量%として、70質量%以上(70~100質量%)が好ましく、80質量%以上(80~100質量%)がより好ましい。
【0183】
金属化合物を含有する溶液を、水を含む溶媒の溶液とする場合は、金属化合物を含有する溶液中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、金属化合物を含有する溶液総量を100質量%として、40~85質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。
【0184】
なお、本発明において、溶媒としては、水のみを使用してもよく、有機溶媒は必ずしも使用しなくてもよいが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性等をより向上させるために、メタノール、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール等のアルコール;エチレングリコール等のグリコール;グリセリン;2-メトキシエタノール等の有機溶媒を使用してもよい。
【0185】
使用する溶媒中の有機溶媒の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、溶媒総量を100質量%として、30質量%以下(0~30質量%)が好ましく、20質量%以下(0~20質量%)がより好ましい。
【0186】
金属化合物を含有する溶液を、水を含む溶媒の溶液とする場合は、金属化合物を含有する溶液中の有機溶媒の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、金属化合物を含有する溶液総量を100質量%として、0~10質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましい。
【0187】
上記金属化合物を含有する溶液と、本発明のめっき液添加剤との混合比率は、特に制限はないが、薄片状カーボンの分散性、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性、めっき中への薄片状カーボンの共析のさせやすさ等の観点から、上記金属化合物を含有する溶液と、本発明のめっき液添加剤との合計量を100質量%として、本発明のめっき液添加剤を0.1~50質量%含むことが好ましく、0.5~30質量%含むことがより好ましい。
【0188】
上記金属化合物を含有する溶液と、本発明のめっき液添加剤とを混合する方法や条件等は特に制限されず、常法にしたがって行うことができる。
【0189】
4.めっき薄膜及び電解めっき方法
本発明のめっき薄膜は、本発明のめっき液を使用して、常法により基板上にめっきすることにより形成することができる。この際のめっき方法は特に制限はなく、通常のめっき方法と同様とすることができるが、例えば、5A/cm2未満(特に0.1~3A/dm2)の電流密度を印加する電解めっき方法を採用することが好ましい。
【0190】
これにより、本発明のめっき液添加剤と、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、スズ、銀、金等とを含有するめっき薄膜が得られる。つまり、めっき薄膜中に、本発明のめっき液添加剤(なかでも薄片状カーボン)を、0.01~10質量%程度(特に0.02~5質量%程度)共析させることが可能である。これにより、めっき薄膜に熱伝導性(放熱性)、導電性、潤滑性、耐摩耗性、ガスバリア性、耐食性、強度、軽量性、加工性等の各種機能を付与することが可能である。
【0191】
また、このようにして得られる本発明のめっき薄膜の厚みは、特に制限はないが、例えば、0.1~50μm(特に0.5~30μm)とすることができる。
【実施例0192】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0193】
[実施例1]
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、タンニン酸(冨士化学(株)製)250g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。
【0194】
この混合液を半径300mmのセラミックグラインダーを用いて、1700rpmで30分間のせん断処理を5回施した。なお、セラミックグラインダーの最短距離は、約10μmであった。
【0195】
これらの処理により、均一かつ滑らかな薄片状カーボンの分散液を得た。なお、装置中からの押し出し、装置の洗浄を水で行ったため、炭素分は2.5重量%であった。
【0196】
硫酸ニッケル240g、塩化ニッケル50g、ホウ酸30gに水を加え、1Lとし、ニッケルめっき液を作製した。このめっき液に上記の薄片状炭素分散液を10g加えて分散性を確認した。その結果、20時間後も上澄みは見られなかった。
【0197】
この液を用いて、50mm角の鋼鉄製テストピースに対して、浴温度50℃、電流密度2A/dm2で25分間めっきを行った。その結果、ニッケルめっき(厚み10μm)中に大きさ1~20μmのサイズの薄片状カーボンが共析されていることを確認した。
【0198】
得られたニッケルめっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図3に示す。
【0199】
[実施例2]
薄片状カーボン分散液を50g加える以外は実施例1と同様にめっきを行った。その結果、ニッケルめっき(厚み10μm)中に大きさ1~30μmのサイズの薄片状カーボンが共析されていることを確認した。
【0200】
得られたニッケルめっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図4に示す。
【0201】
[実施例3]
硫酸銅200g、硫酸50gに水を加え、1Lとし、銅めっき液を作製した。このめっき液に実施例1に記載の薄片状カーボン分散液を10g加えて分散性を確認した。その結果、20時間後も上澄みは見られなかった。
【0202】
この液を用いて、50mm角の鋼鉄製テストピースに対して、浴温度50℃、電流密度2A/dm2で25分間めっきを行った。その結果、銅めっき(厚み10μm)中に大きさ1~10μmのサイズの薄片状カーボンが共析されていることを確認した。
【0203】
得られた銅めっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図5に示す。
【0204】
[実施例4]
薄片状カーボン分散液を50g加える以外は実施例3と同様にめっきを行った。その結果、銅めっき(厚み10μm)中に大きさ1~15μmのサイズの薄片状カーボンが共析されていることを確認した。
【0205】
得られた銅めっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図6に示す。
【0206】
[実施例5]
薄片状カーボン分散液を150g加える以外は実施例3と同様にめっきを行った。その結果、銅めっき(厚み10μm)中に大きさ1~10μmのサイズの薄片状カーボンが共析されていることを確認した。
【0207】
得られた銅めっきの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図7に示す。
【0208】
[比較例1]
硫酸ニッケル240g、塩化ニッケル50g、ホウ酸30gに水を加え、1Lとし、ニッケルめっき液を作製し、薄片状カーボンを入れずに実施例1と同様の条件でめっきを行った。
【0209】
[比較例2]
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(東京化成工業(株)製)250g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。
【0210】
この混合液を半径300mmのセラミックグラインダーを用いて、1700rpmで30分間のせん断処理を5回施した。なお、セラミックグラインダーの最短距離は、約10μmであった。
【0211】
これらの処理により、均一かつ滑らかな薄片状カーボン分散液を得た。なお、装置中からの押し出し、装置の洗浄を水で行ったため、炭素分は2.5質量%であった。
【0212】
硫酸ニッケル240g、塩化ニッケル50g、ホウ酸30gに水を加え、1Lとし、ニッケルめっき液を作製した。このめっき液に上記の薄片状カーボン分散液を50g加えて分散性を確認した。その結果、1時間後に既に上澄みが見られたため、めっきを行うことができなかった。なお、その混合液は20時間後には完全に分離した。
【0213】
得られためっき液の製造20時間後の外観写真を
図8に示す。
【0214】
[比較例3]
硫酸銅200g、硫酸50gに水を加え、1Lとし、銅めっき液を作製した。この銅めっき液を用いて、50mm角の鋼鉄製テストピースに対して、浴温度50℃、電流密度2A/dm2で25分間めっきを行った。
【0215】
[実験例1]
表面性測定機TYPE:14FW(新東科学(株)製)で実施例2と比較例1の摩擦係数を測定し、比較した。
【0216】
直径10mmのステンレス(SUS)球、荷重100g、往復距離20mmで10往復行い、動摩擦抵抗の測定を行った。その結果、μk(動摩擦係数)は以下の結果となった。
【0217】
実施例2:(平均)0.186、(10回目)0.225
比較例1:(平均)0.557、(10回目)0.673。
【0218】
実施例2及び比較例1の結果を
図9~10に示す。薄片状カーボンを共析することにより、動摩擦抵抗が低減されている。
【0219】
[実験例2]
表面性測定機TYPE:14FW(新東科学(株)製)で実施例1~2と比較例1の摩擦係数を測定し、比較した。
【0220】
直径10mmのステンレス(SUS)球、荷重50g、往復距離20mmで50往復行い、動摩擦抵抗の測定を行った。その結果、μk(動摩擦係数)は以下の結果となった。
【0221】
実施例1:(平均)0.421、(50回目)0.503
実施例2:(平均)0.237、(50回目)0.281
比較例1:(平均)1.092、(50回目)1.065。
【0222】
実施例1~2及び比較例1の結果を
図11~13に示す。薄片状カーボンをごく少量加え共析することで、動摩擦抵抗が低減され、薄片状カーボン添加量を増やすとさらに動摩擦抵抗が低減されることがわかる。
【0223】
[実験例3]
表面性測定機TYPE:14FW(新東科学(株)製)で実施例4~5と比較例3の摩擦係数を測定し、比較した。
【0224】
直径10mmのステンレス(SUS)球、荷重50g、往復距離20mmで50往復行い、動摩擦抵抗の測定を行った。その結果、μk(動摩擦係数)は以下の結果となった。
【0225】
実施例4:(平均)0.303、(50回目)0.395
実施例5:(平均)0.207、(50回目)0.219
比較例3:(平均)0.703、(10回目)0.753。
【0226】
実施例5及び比較例3の結果を
図14~16に示す。薄片状カーボンをごく少量加え共析することで、動摩擦抵抗が低減され、薄片状カーボン添加量を増やすとさらに動摩擦抵抗が低減されることがわかる。