(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157274
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】災害情報提供装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20221006BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01W1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061399
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福本 博文
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA21
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA30
2G024DA12
2G024DA30
2G024FA01
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】建物の被災情報の取り扱いの自由度を高める。
【解決手段】災害情報提供装置は、被害推定対象エリア内の災害の面的広がりの状況を示す災害情報を取得する災害情報取得部と、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す建物情報を取得する建物情報取得部と、災害情報取得部が取得する災害情報と、建物情報取得部が取得する建物情報とに基づいて、災害情報が示す災害の状況における建物の被災の程度を推定した被害推定情報を、被害推定対象エリアが面的に区分された区画ごとに生成する被害推定情報生成部と、被害推定情報生成部が区画ごとに生成する被害推定情報と、複数の区画のうちのいずれの区画についての被害推定情報であるかを示す区画識別情報とを紐づけて出力する被害推定情報出力部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被害推定対象エリア内の災害の面的広がりの状況を示す災害情報を取得する災害情報取得部と、
災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す建物情報を取得する建物情報取得部と、
前記災害情報取得部が取得する前記災害情報と、前記建物情報取得部が取得する前記建物情報とに基づいて、前記災害情報が示す前記災害の状況における建物の被災の程度を推定した被害推定情報を、前記被害推定対象エリアが面的に区分された区画ごとに生成する被害推定情報生成部と、
前記被害推定情報生成部が前記区画ごとに生成する前記被害推定情報と、複数の前記区画のうちのいずれの区画についての前記被害推定情報であるかを示す区画識別情報とを紐づけて出力する被害推定情報出力部と、
を備える災害情報提供装置。
【請求項2】
前記建物情報とは、前記災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を建物の種類ごとに示す情報であり、
前記被害推定情報生成部は、前記災害情報が示す災害の程度における建物の被災の程度を前記建物の種類ごとに推定した被害推定情報を生成し、
前記被害推定情報出力部は、前記被害推定情報を、指定された前記建物の種類ごとに出力可能である
請求項1に記載の災害情報提供装置。
【請求項3】
指定された建物の所在地に基づいて、複数の前記区画のうち、前記指定された建物が含まれる前記区画を特定する区画特定部
をさらに備え、
前記被害推定情報出力部は、前記区画特定部が特定した前記区画についての前記被害推定情報に基づいて、前記指定された建物の被害状況を出力する
請求項1または請求項2に記載の災害情報提供装置。
【請求項4】
前記被害推定情報出力部は、指定された建物の種類と、前記被害推定情報出力部が出力する前記被害推定情報とに基づいて、前記指定された建物の種類に応じた当該建物の被害状況を出力する
請求項2に従属する請求項3に記載の災害情報提供装置。
【請求項5】
前記災害情報には、所定粒度のメッシュの網目ごとに災害の状況を示す情報が含まれ、
前記被害推定情報生成部は、前記災害情報に基づいて前記災害の程度を前記メッシュの網目ごとに推定することにより、前記被害推定情報を生成する
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の災害情報提供装置。
【請求項6】
前記メッシュの粒度は、災害の種類ごとに定められている
請求項5に記載の災害情報提供装置。
【請求項7】
前記災害情報には、互いに粒度が異なる複数の所定粒度のメッシュによる情報が含まれ、
前記被害推定情報生成部は、前記災害情報のメッシュの粒度と、前記区画の粒度とを対応付けることにより、前記被害推定情報を前記区画ごとに生成する
請求項5または請求項6に記載の災害情報提供装置。
【請求項8】
前記災害情報には、前記被害推定対象エリア内の建物に設置された災害センサによる災害の状況の検出結果を示す情報が含まれ、
前記被害推定情報生成部は、前記災害情報と、前記区画ごとの空間の状態を示す地理空間情報とに基づいて前記災害の程度を推定することにより、前記被害推定情報を生成する
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の災害情報提供装置。
【請求項9】
前記地理空間情報には、前記区画ごとの地盤の状態を示す地盤情報が含まれ、
前記被害推定情報生成部は、前記災害情報と、前記地盤情報とに基づいて前記災害の程度を推定することにより、前記被害推定情報を生成する
請求項8に記載の災害情報提供装置。
【請求項10】
前記災害センサには地震センサが含まれ、
前記被害推定情報生成部は、地震による被害の程度を前記被害推定情報として生成する
請求項9に記載の災害情報提供装置。
【請求項11】
前記区画の粒度は、前記地盤情報が示す地盤の状態の分布に基づいて定められている
請求項9または請求項10に記載の災害情報提供装置。
【請求項12】
前記被害推定情報生成部は、
前記区画の粒度である第1粒度よりも粒度が細かい第2粒度によって被害の程度を推定した前記被害推定情報を生成し、
前記被害推定情報出力部は、
前記第2粒度による前記被害推定情報を前記第1粒度の前記被害推定情報に変換することにより、前記第1粒度による前記区画ごとの前記被害推定情報を出力する
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の災害情報提供装置。
【請求項13】
前記区画の粒度は、前記区画内に含まれる測定対象の建物の数に応じている
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の災害情報提供装置。
【請求項14】
コンピュータに、
被害推定対象エリア内の災害の面的広がりの状況を示す災害情報を取得させることと、
災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す建物情報を取得させることと、
取得した前記災害情報と、取得した前記建物情報とに基づいて、前記災害情報が示す前記災害の状況における建物の被災の程度を推定した被害推定情報を、前記被害推定対象エリアが面的に区分された区画ごとに生成させることと、
前記区画ごとに生成された前記被害推定情報と、複数の前記区画のうちのいずれの区画についての前記被害推定情報であるかを示す区画識別情報とを紐づけて出力させることと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害情報提供装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震計の設置地点で観測された地震動と、地震計の設置地点及び地震計が設置されていない設置予定地点のそれぞれの地震動の増幅特性とに基づいて、当該設置予定地点の地震動を推定する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術においては、地震動の推定の結果得られた建物の被災情報の提供の仕方までは明らかにされていない。例えば、建物の被災情報を特定の建物等に紐づけて提供するとした場合には、当該特定の建物の所有者等と建物の被災情報との関係性が発生し、建物の被災情報の自由な流通が阻害されてしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、建物の被災情報の取り扱いの自由度を高めることができる災害情報提供装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、被害推定対象エリア内の災害の面的広がりの状況を示す災害情報を取得する災害情報取得部と、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す建物情報を取得する建物情報取得部と、前記災害情報取得部が取得する前記災害情報と、前記建物情報取得部が取得する前記建物情報とに基づいて、前記災害情報が示す前記災害の状況における建物の被災の程度を推定した被害推定情報を、前記被害推定対象エリアが面的に区分された区画ごとに生成する被害推定情報生成部と、前記被害推定情報生成部が前記区画ごとに生成する前記被害推定情報と、複数の前記区画のうちのいずれの区画についての前記被害推定情報であるかを示す区画識別情報とを紐づけて出力する被害推定情報出力部と、を備える災害情報提供装置である。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記建物情報とは、前記災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を建物の種類ごとに示す情報であり、前記被害推定情報生成部は、前記災害情報が示す災害の程度における建物の被災の程度を前記建物の種類ごとに推定した被害推定情報を生成し、前記被害推定情報出力部は、前記被害推定情報を、指定された前記建物の種類ごとに出力可能である。
【0008】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、指定された建物の所在地に基づいて、複数の前記区画のうち、前記指定された建物が含まれる前記区画を特定する区画特定部をさらに備え、前記被害推定情報出力部は、前記区画特定部が特定した前記区画についての前記被害推定情報に基づいて、前記指定された建物の被害状況を出力する。
【0009】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記被害推定情報出力部は、指定された建物の種類と、前記被害推定情報出力部が出力する前記被害推定情報とに基づいて、前記指定された建物の種類に応じた当該建物の被害状況を出力する。
【0010】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記災害情報には、所定粒度のメッシュの網目ごとに災害の状況を示す情報が含まれ、前記被害推定情報生成部は、前記災害情報に基づいて前記災害の程度を前記メッシュの網目ごとに推定することにより、前記被害推定情報を生成する。
【0011】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記メッシュの粒度は、災害の種類ごとに定められている。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記災害情報には、互いに粒度が異なる複数の所定粒度のメッシュによる情報が含まれ、前記被害推定情報生成部は、前記災害情報のメッシュの粒度と、前記区画の粒度とを対応付けることにより、前記被害推定情報を前記区画ごとに生成する。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記災害情報には、前記被害推定対象エリア内の建物に設置された災害センサによる災害の状況の検出結果を示す情報が含まれ、前記被害推定情報生成部は、前記災害情報と、前記区画ごとの空間の状態を示す地理空間情報とに基づいて前記災害の程度を推定することにより、前記被害推定情報を生成する。
【0014】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記地理空間情報には、前記区画ごとの地盤の状態を示す地盤情報が含まれ、前記被害推定情報生成部は、前記災害情報と、前記地盤情報とに基づいて前記災害の程度を推定することにより、前記被害推定情報を生成する。
【0015】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記災害センサには地震センサが含まれ、前記被害推定情報生成部は、地震による被害の程度を前記被害推定情報として生成する。
【0016】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記区画の粒度は、前記地盤情報が示す地盤の状態の分布に基づいて定められている。
【0017】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記被害推定情報生成部は、前記区画の粒度である第1粒度よりも粒度が細かい第2粒度によって被害の程度を推定した前記被害推定情報を生成し、前記被害推定情報出力部は、前記第2粒度による前記被害推定情報を前記第1粒度の前記被害推定情報に変換することにより、前記第1粒度による前記区画ごとの前記被害推定情報を出力する。
【0018】
また、本発明の一実施形態は、上述の災害情報提供装置において、前記区画の粒度は、前記区画内に含まれる測定対象の建物の数に応じている。
【0019】
本発明の一実施形態は、コンピュータに、被害推定対象エリア内の災害の面的広がりの状況を示す災害情報を取得させることと、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す建物情報を取得させることと、取得した前記災害情報と、取得した前記建物情報とに基づいて、前記災害情報が示す前記災害の状況における建物の被災の程度を推定した被害推定情報を、前記被害推定対象エリアが面的に区分された区画ごとに生成させることと、前記区画ごとに生成された前記被害推定情報と、複数の前記区画のうちのいずれの区画についての前記被害推定情報であるかを示す区画識別情報とを紐づけて出力させることと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、建物の被災情報の取り扱いの自由度を高めることができる災害情報提供装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態の災害情報提供システムの構成を示す図である。
【
図2】本実施形態の被害推定対象エリアの一部を示す図である。
【
図3】本実施形態のメッシュ震度情報の一部を示す図である。
【
図4】本実施形態の地震センサの設置状況の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態の建物情報の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態の被害推定情報の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態の建物情報の変形例の一例である。
【
図8】災害情報提示システムのディスプレイに表示される操作表示画像の一例を示す図である。
【
図9】本実施形態の災害情報提供装置の動作の流れの一例を示す図である。
【
図10】本実施形態の被害推定情報生成部による地震動の引戻し計算・増幅計算の概要を示す図である。
【
図11】本実施形態の被害推定情報生成部の具体的な機能構成の一例を示す図である。
【
図12】本実施形態の被害推定情報生成部の動作の一例を示す図である。
【
図13】本実施形態の災害情報のメッシュの粒度と、被害推定情報生成部が推定する被害推定情報の区画の粒度との対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[災害情報提供システムの装置構成]
図1は、本実施形態の災害情報提供システム1の構成を示す図である。
災害情報提供システム1は、災害情報提供装置10と、災害情報提示システム20と、建物データベース50とを備える。
災害情報提供装置10は、災害情報12に基づいて被害推定情報141を生成する。災害情報12とは、被害推定対象エリア11内の災害の面的広がりの状況を示す情報である。被害推定情報141とは、災害発生時の被害推定対象エリア11内の建物の被害の程度を示す情報である。
【0023】
[災害情報の例]
災害情報提供装置10が取得する災害情報12の一例について説明する。本実施形態でいう災害には、地震、洪水、降雨、降雪、暴風、津波、火災など各種の事象が広く含まれる。
本実施形態の一例では、災害情報12が地震の発生状況を示す情報であるとして説明する。本実施形態の災害情報提供装置10が取得する災害情報12には、メッシュ震度情報12aと、地震センサ情報12bとがある。メッシュ震度情報12a及び地震センサ情報12bの一例について
図2から
図4を参照して説明する。
【0024】
[災害情報の具体例(1)メッシュ震度情報の場合]
図2は、本実施形態の被害推定対象エリア11の一部を示す図である。
図3は、本実施形態のメッシュ震度情報12aの一部を示す図である。
図3には、
図2に示す被害推定対象エリア11を所定の粒度の網目によって区切ったメッシュ震度情報の一例を示している。
メッシュ震度情報12aは、メッシュ震度供給装置40によって災害情報提供装置10に提供される。メッシュ震度供給装置40は、例えば、公的機関のコンピュータシステムとして構成される。本実施形態の場合、メッシュ震度情報12aの粒度(網目の大きさ)は、250m四方である。メッシュ震度情報12aのことを、250mメッシュ震度分布ともいう。
【0025】
なお、メッシュ震度情報12aが示す震度分布の精度は、被害推定対象エリア11aの各地域によって互いに異なる場合がある。例えば、メッシュ震度情報12aが250mメッシュ震度分布である場合において、関東地方のメッシュ震度情報12aは、その他の地方のメッシュ震度情報12aよりも、震度推定の精度が高い場合がある。
【0026】
[災害情報の具体例(2)地震動情報の場合]
図4は、本実施形態の地震センサ30の設置状況の一例を示す図である。
地震センサ30は、被害推定対象エリア11内のセンサ設置住宅の敷地に設置され、地表SFにおける地震動の変位、速度、加速度などを時間的に連続記録する。本実施形態の一例においては、第1のセンサ設置住宅に設置された地震センサ30を地震センサ30-1と、第2のセンサ設置住宅に設置された地震センサ30を地震センサ30-2と、第n(nは自然数。)のセンサ設置住宅に設置された地震センサ30を地震センサ30-nと記載する。これら地震センサ30-1~nを区別しない場合には、地震センサ30と総称する。
【0027】
地震センサ30は、地表SFに独立して設置されてもよいし、センサ設置住宅の基礎部分に据え付けられてもよい。地震センサ30は、地震動を記録したタイミング毎に、計測震度、計測震度相当値、加速度応答スペクトル、平均加速度応答スペクトル、SI(Spectral Intensity)値などを計算し記録する。以下の説明において、地震センサ30が計算するこれらの情報を総称して地震動情報と記載する。
【0028】
ここで、加速度応答スペクトルについて簡単に説明する。地震動を示す入力波形は、複数の周期成分を含んでいる。入力波形をある固有周期の振子に入力した場合の振子の振れ幅が応答波形である。固有周期T1の振子に入力波形を入力した場合の応答波形の最大値を応答値A1という。固有周期T2の振子に入力波形を入力した場合の応答波形の最大値を応答値A2という。同様に、固有周期Tm(mは自然数。)の振子に入力波形を入力した場合の応答波形の最大値を固有周期Tmの応答値Amという。これら、固有周期T1~mと、応答値A1~mとの関係を示す関数を応答スペクトルという。
入力波形を変位とした場合の応答スペクトルを変位応答スペクトルといい、入力波形を速度とした場合の応答スペクトルを速度応答スペクトルという。また、入力波形を加速度とした場合の応答スペクトルを加速度応答スペクトルという。
加速度応答スペクトルのうち、ある周期範囲の応答値を平均化したものを、平均加速度応答スペクトルという。
また、SI値とは、地振動による構造物の被害の程度を示す値であり、速度応答スペクトルを所定の周期範囲で積分した値である。
【0029】
本実施形態の一例では、地震センサ30は、所定の振幅よりも大きい地震動を感知した場合に、当該地震動の加速度応答スペクトルを算出し、算出した加速度応答スペクトルを被害推定情報生成部130に出力するものとして説明する。
【0030】
[災害情報提供装置10について]
災害情報提供装置10は、地震センサ30及びメッシュ震度供給装置40のいずれか又は両方と、例えばネットワークを介して接続される。本実施形態の一例では、災害情報提供装置10が、複数の地震センサ30と、メッシュ震度供給装置40との両方に接続される場合について説明する。
災害情報提供装置10は、地震センサ30及びメッシュ震度供給装置40から災害情報12を取得する。
【0031】
なお、災害情報提供装置10は、地震センサ30と接続される代わりに、複数の地震センサ30を管理する地震計管理サーバ(不図示)と接続されていてもよい。この場合、災害情報提供装置10は、地震計管理サーバを介して、地震センサ30の出力情報を取得する。以下では、地震計管理サーバの説明を省略する。
【0032】
地震センサ30は、それぞれネットワークを介して災害情報提供装置10に接続されている。
ここで、ネットワークは、インターネット、専用通信回線などであってよく、無線や有線など形式を問わない。ネットワークは、地震センサ30が出力する地震動情報を災害情報提供装置10に上り伝送するだけでなく、地震センサ30のソフトウエアの点検や更新の情報、平均加速度応答スペクトルの算出に用いる周期範囲情報など、各種の情報の下り伝送にも用いられる。
【0033】
図1に戻り災害情報提供システム1の構成の説明を続ける。
災害情報提供装置10は、災害情報提示システム20及び建物データベース50と接続される。
【0034】
災害情報提示システム20は、災害情報提供装置10が生成する被害推定情報141を災害情報提供システム1の利用者に提示する。
なお、災害情報提示システム20は、利用者の災害情報提供システム1に対する各種の指示を災害情報提供装置10に通知する機能を有していてもよい。この場合、災害情報提示システム20は、利用者に対してユーザインターフェース機能を提供する。例えば、災害情報提供システム1の利用者が特定の建物の被害推定を行う場合、災害情報提示システム20は、ユーザインターフェースを介して、利用者による建物の指定指示を受け付ける。災害情報提示システム20は、受け付けた指示を災害情報提供装置10に対して通知する。
【0035】
建物データベース50は、建物情報51が記憶されており、災害情報提供装置10に対して建物情報51を供給する。建物情報51とは、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す情報である。建物情報51の詳細については、災害情報提供装置10の機能構成の説明において説明する。
【0036】
[災害情報提供装置(プラットフォームサーバ)の機能構成]
次に、災害情報提供装置10の機能構成について説明する。
災害情報提供装置10は、災害情報取得部110と、建物情報取得部120と、被害推定情報生成部130と、被害推定情報出力部140と、区画特定部150とを、その機能部として備える。
【0037】
[災害情報取得部110について]
災害情報取得部110は、災害情報12を取得する。上述したように、災害情報12とは、被害推定対象エリア11内の災害の面的広がりの状況を示す情報である。
すなわち、災害情報取得部110は、被害推定対象エリア11内の災害の面的広がりの状況を示す災害情報12を取得する。
【0038】
[建物情報取得部120について]
建物情報取得部120は、建物情報51を取得する。上述したように、建物情報51とは、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す情報である。建物情報51の一例について、
図5を参照して説明する。
【0039】
[建物情報の例]
図5は、本実施形態の建物情報51の一例を示す図である。本実施形態の建物情報51(建物情報51a)は、災害の程度が複数の段階に分けられ、これら災害の程度の段階と、建物の被災の程度とが対応付けられた情報である。
【0040】
建物情報取得部120は、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を示す建物情報51を取得する。
図1に戻り説明を続ける。
【0041】
[被害推定情報生成部130について]
被害推定情報生成部130は、災害情報取得部110が取得する災害情報12と、建物情報取得部120が取得する建物情報51とに基づいて、被害推定情報141を生成する。
【0042】
[被害推定情報出力部140について]
被害推定情報出力部140は、被害推定情報141と、区画識別情報143とを紐づけて出力する。
図6を参照して、被害推定情報141及び区画識別情報143の具体例について説明する。
【0043】
[被害推定情報の例]
図6は、本実施形態の被害推定情報141の一例を示す図である。本実施形態の被害推定情報141は、被害推定対象エリア11の区画ごとに、建物の被害の程度を示す。ここでいう区画とは、被害推定対象エリア11が面的に区分されたマスのことをいう。同図の一例では、被害推定対象エリア11が東西方向に1~5、南北方向にA~Eの、合わせて25区画に面的に区分されている。ここで、区画を識別する情報を、区画識別情報143ともいう。本実施形態の一例では、区画識別情報143は、東西方向の1~5と南北方向のA~Eとを組み合わせて、例えば(C3)や(E2)のように表現される。
【0044】
上述したように、被害推定情報生成部130は、被害推定情報141を、被害推定対象エリア11が面的に区分された区画142ごとに生成する。
図6に示した一例では、被害推定情報生成部130は、25区画のそれぞれについて、被害推定情報141を生成する。ここで、被害推定情報141とは、災害情報12が示す災害の状況における建物の被災の程度を推定した情報である。
例えば、区画(C3)について、建物の被害の程度としての「室内クロス破れ」を、被害推定情報141として生成する。また、例えば、区画(E2)について、建物の被害の程度としての「外壁ひび割れ」を、被害推定情報141として生成する。
【0045】
すなわち、被害推定情報生成部130は、災害情報12が示す災害の状況における建物の被災の程度を推定した被害推定情報141を、被害推定対象エリア11が面的に区分された区画142ごとに生成する。
【0046】
また、被害推定情報出力部140が出力する被害推定情報141には、区画識別情報143が紐づけられている。例えば、区画(C3)についての被害推定情報141である「室内クロス破れ」には、区画識別情報143である(C3)が紐づけられている。また、区画(E2)についての被害推定情報141である「外壁ひび割れ」には、区画識別情報143である(E2)が紐づけられている。
【0047】
すなわち、被害推定情報出力部140は、被害推定情報生成部130が区画142ごとに生成する被害推定情報141と、複数の区画142のうちのいずれの区画142についての被害推定情報141であるかを示す区画識別情報143とを紐づけて出力する。
【0048】
図1に戻り、被害推定情報出力部140は、被害推定情報生成部130が生成した被害推定情報141を、災害情報提示システム20に対して出力する。災害情報提示システム20は、被害推定情報出力部140から出力された被害推定情報141を、利用者に提示する。
【0049】
[建物情報の変形例]
なお、建物情報51が、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係を建物の種類ごとに示す情報であってもよい。
図7は、本実施形態の建物情報51の変形例の一例である。この変形例における建物情報51を、建物種類別建物情報51bともいう。
建物種類別建物情報51bとは、上述した建物情報51が建物の種類ごとに分類された情報である。ここで、建物の種類には、軽量鉄骨造、重量鉄骨造、軸組木造、2×4木造などの建物構造の種類や、階数の種類、建築時期の種類などがある。例えば、地震の場合には、災害の程度に対する建物の被災の程度が、建物の種類によって互いに異なる場合がある。建物種類別建物情報51bには、建物の種類ごとに、災害の程度と建物の被災の程度との対応関係が示されている。
【0050】
この変形例の場合、被害推定情報生成部130は、災害情報12が示す災害の程度における建物の被災の程度を建物の種類ごとに推定した被害推定情報141を生成する。
また、被害推定情報出力部140は、被害推定情報141を、指定された建物の種類ごとに出力可能である。
【0051】
[区画特定部150について]
図1に戻り、災害情報提供装置10の機能構成の説明を続ける。
区画特定部150は、指定された建物の所在地に基づいて、複数の区画142のうち、指定された建物が含まれる区画142を特定する。
上述したように、災害情報提示システム20は、利用者による種々の指示を、災害情報提供装置10に通知可能である。この一例では、利用者が建物の住所と、この建物の種類とを指示することにより、指示された住所に存在する建物の被災状況を表示させる場合について説明する。
【0052】
[災害情報提示システムに表示される画像の一例]
図8は、災害情報提示システム20のディスプレイに表示される操作表示画像21の一例を示す図である。操作表示画像21には、建物の住所指定欄21-1と、建物の種類指定欄21-2と、建物の所在区画表示欄21-3と、建物の被災推定結果表示欄21-4とが含まれる。
【0053】
図1を参照して、利用者が、建物の住所を指定する場合及び建物の種類を指定する場合における、災害情報提示システム20と災害情報提供装置10との間の情報のやり取りについて説明する。
利用者が、建物の住所指定欄21-1に建物の住所を入力すると、災害情報提示システム20は、入力された情報を、災害情報提供装置10に対して通知する。災害情報提供装置10の区画特定部150は、通知された建物の住所が存在する区画142を特定する。被害推定情報出力部140は、区画特定部150が特定した区画142の被害推定情報141を災害情報提示システム20に対して出力する。
【0054】
すなわち、被害推定情報出力部140は、区画特定部150が特定した区画142についての被害推定情報141に基づいて、指定された建物の被害状況を出力する。
【0055】
また、被害推定情報出力部140は、指定された建物の種類に応じた、建物の被害状況を出力してもよい。この場合、被害推定情報出力部140は指定された建物の種類と、被害推定情報出力部140が出力する被害推定情報141とに基づいて、指定された建物の種類に応じた当該建物の被害状況を出力する。
【0056】
具体的には、利用者が、上述した建物の住所に加えて、建物の種類指定欄21-2に建物の種類を入力すると、災害情報提示システム20は、入力された情報を、災害情報提供装置10に対して通知する。災害情報提供装置10の建物情報取得部120は、建物種類別建物情報51bの中から、通知された建物の種類に応じた建物情報51を選択し、選択した建物情報51を被害推定情報生成部130に供給する。被害推定情報生成部130は、建物情報取得部120が選択した建物情報51に基づいて被害推定情報141を生成する(つまり、被害推定情報生成部130は、利用者が指定した建物の種類に応じた被害推定情報141を生成する。)。被害推定情報出力部140は、被害推定情報生成部130が生成した被害推定情報141(つまり、利用者が指定した建物の種類に応じた被害推定情報141)を災害情報提示システム20に対して出力する。
【0057】
[災害情報提供装置(プラットフォームサーバ)の動作]
次に災害情報提供装置10の動作について説明する。
図9は、本実施形態の災害情報提供装置10の動作の流れの一例を示す図である。
【0058】
(ステップS10)災害情報提供装置10の災害情報取得部110は、災害情報12を取得する。ここで、災害情報取得部110は、災害情報12をメッシュ震度供給装置40から取得してもよいし、地震センサ30から取得してもよい。災害情報取得部110は、取得した災害情報12を被害推定情報生成部130に供給する。
【0059】
(ステップS20)被害推定情報生成部130は、ステップS10において供給された災害情報12に基づいて、災害の状況を推定する。
【0060】
[被害推定情報生成部の動作(地震計から災害情報を取得した場合の一例)]
一例として、被害推定情報生成部130が地震センサ30から取得された地震動情報に基づいて、災害の状況を推定する場合の動作の流れについて説明する。
【0061】
[地震動の引戻し計算・増幅計算]
図10は、本実施形態の被害推定情報生成部130による地震動の引戻し計算・増幅計算の概要を示す図である。被害推定情報生成部130は、地震センサ30から地震動情報を取得する。上述したように、この地震動情報には、地震センサ30が設置された地表SFの加速度応答スペクトルが含まれている。被害推定情報生成部130は、地表面の加速度応答スペクトルを基盤BSの加速度応答スペクトルに引き戻し、基盤BSのある位置での振動の推定を行い、推定した振動を増幅演算することにより、当該位置の地表SFにおける位置(つまり、同図に示す位置31)における振動を推定する。
以下の説明において、地表SFの加速度応答スペクトルのことを地表面応答スペクトルともいう。また、基盤BSの加速度応答スペクトルのことを基盤応答スペクトルともいう。
また、地表面応答スペクトルから基盤応答スペクトルを計算する手段を地震動引き戻し計算(又は、単に「引き戻し」)ともいう。基盤応答スペクトルから地表面応答スペクトルを計算する手段を地震動増幅計算(又は、単に「増幅」)ともいう。
【0062】
[被害推定情報生成部130の機能構成]
図11は、被害推定情報生成部130の具体的な機能構成の一例を示す図である。
被害推定情報生成部130は、地震動情報取得部131と、応答予測式取得部132と、位置情報取得部133と、振動推定部134とを備える。
【0063】
地震動情報取得部131は、ネットワークを介して、地震センサ30から地震動情報を取得する。すなわち、地震動情報取得部131は、地表SFに設置された複数の地震センサ30がそれぞれ検出する地震動を示す地震動情報を取得する。
地震動情報取得部131は、取得した地震動情報を振動推定部134に出力する。
【0064】
応答予測式取得部132は、応答予測式記憶部60から、予め定められた応答予測式を取得する。応答予測式とは、ある所定位置における、基盤応答スペクトルに基づくASA値と、地表面応答スペクトルとの対応関係を示す式である。また、応答予測式とは、ある所定位置における、地表面応答スペクトルに基づくASA値と、基盤応答スペクトルとの対応関係を示す式である。
【0065】
この応答予測式には、第1応答予測式1と第2応答予測式2とが含まれる。
第1応答予測式1は、基盤BSの基盤所定位置LBに地震波形WQを入力した場合の基盤応答スペクトルと、地震波形WQについての非線形地震応答解析の結果として得られる、基盤所定位置LBに対応する地表所定位置LSにおける地表面応答スペクトルとの関係において基盤応答スペクトルから地表面応答スペクトルを予測する式を示している。
また、第2応答予測式2は、基盤BSの基盤所定位置LBに地震波形WQを入力した場合の基盤応答スペクトルと、地震波形WQについての非線形地震応答解析の結果として得られる、基盤所定位置LBに対応する地表所定位置LSにおける地表応答スペクトルとの関係において地表面応答スペクトルから基盤応答スペクトルを予測する式を示している。
【0066】
換言すれば、応答予測式取得部132は、基盤BSの基盤所定位置LBに地震波形WQを入力した場合の基盤応答スペクトルと、地震波形WQについての非線形地震応答解析の結果として得られる、基盤所定位置LBに対応する地表所定位置LSにおける地表面応答スペクトルとの対応関係を示す応答予測式を取得する。
【0067】
位置情報取得部133は、災害情報提示システム20から位置情報DLを取得する。この位置情報DLは、例えば、地震被害推定対象の建物(例えば、センサ非設置住宅)の所在地を示している。
【0068】
振動推定部134は、地震動情報取得部131が取得する地震動情報と、応答予測式取得部132が取得する応答予測式と、位置情報取得部133が取得する位置情報DLとに基づいて、位置情報DLが示す算出対象の位置(つまり、位置31)における地表面の振動の状況を推定する。
振動推定部134は、推定結果を被災程度推定部135に出力する。
【0069】
被災程度推定部135は、振動推定部134による推定結果と、建物情報51とに基づいて建物の被災の程度を推定することにより、被害推定情報141を生成する。
【0070】
[被害推定情報生成部130の動作]
ここで、地震が発生した直後における、被害推定情報生成部130の動作について説明する。
図12は、本実施形態の被害推定情報生成部130の動作の一例を示す図である。なお、以下の説明においては、被害推定情報生成部130の各機能部のうち、振動推定部134以外の機能部の動作の説明は省略する。
(ステップS110)振動推定部134は、地震センサ30が出力する地震動情報を取得する。この地震動情報には、地震センサ30が算出した地表面応答スペクトルが含まれている。
【0071】
(ステップS120)振動推定部134は、地震センサ30が設置されている位置(つまり、地表所定位置LS)の応答予測式と、ステップS110において取得した地表面応答スペクトルとに基づいて、地震動引き戻し計算を行う。具体的には、振動推定部134は、応答予測式に基づいて、地表面応答スペクトルのASAに対応する基盤応答スペクトルを算出する。
【0072】
(ステップS130)振動推定部134は、ステップS120の処理を、複数の地震センサ30から取得した地表面応答スペクトルのそれぞれについて実行する。これにより、複数の基盤所定位置LBにおける基盤応答スペクトルがそれぞれ求められる。
振動推定部134は、複数の基盤所定位置LBについて求めた基盤応答スペクトルに基づいて、基盤BS(すなわち、工学的基盤)での地震動コンタを生成する。
【0073】
振動推定部134は、種々の方法によって地震動コンタを生成することができる。例えば、振動推定部134は、基盤BSの任意位置の加速度応答スペクトルを、基盤所定位置LBからの距離の関数によって補間することにより、地震動コンタを生成する。振動推定部134が行う補間演算には、対象地点を囲む4の観測地点の値を利用する方法、対象地点と観測地点の距離に基づいて内挿する方法、距離の逆数を重みとする加重平均による方法、又は距離の逆数の二乗を重みとする方法など、種々の既知の方法が適用可能である。
【0074】
(ステップS140)振動推定部134は、ステップS130において算出した地震動コンタに基づいて、位置情報DLが示す算出対象の位置(すなわち、推定サイト)における、基盤応答スペクトルのASA値を算出する。
【0075】
(ステップS150~S160)振動推定部134は、ステップS140において算出した基盤応答スペクトルのASA値について地震動増幅計算を行い、地表面応答スペクトルを算出することにより、推定サイトの地表SFにおける地震動を推定する。
【0076】
上述した内容をまとめると、振動推定部134は、地震動情報と、応答予測式とに基づいて、地震センサ30が設置されている位置に対応する基盤BSの位置における基盤応答スペクトルを、地震センサ30ごとに算出する。また、振動推定部134は、算出した複数の基盤応答スペクトルを合成(例えば、内挿)することにより、位置情報DLが示す基盤所定位置LBにおける基盤応答スペクトルを算出する。振動推定部134は、算出した基盤所定位置LBにおける基盤応答スペクトルと、応答予測式とに基づいて、基盤所定位置LBに対応する位置における地表面の振動の状況を推定する。
【0077】
以上説明したように、被害推定情報生成部130は、センサ設置住宅の敷地における地震動(つまり、地震センサ30が感知した地表面における地震動)を、地下の基盤面における地震動に引き戻し、基盤面内の地震動の伝達状態に基づいて基盤面の特定位置における地震動を推定し、推定した基盤面の地震動を増幅演算することにより地表面の特定位置における地震動を推定する。したがって本実施形態の被害推定情報生成部130は、センサ設置住宅の地表面における地震動を基盤面での地震動に引き戻すことにより、ある地点間における地震動の伝達状態を精度よく推定することができる。このため、本実施形態の被害推定情報生成部130によれば、あるエリアにおけるセンサ設置住宅の件数、すなわち地震センサの設置密度が比較的少なくても、地震センサを備えない地点での地震動を精度よく推定することができる。
また、本実施形態の被害推定情報生成部130は、あらかじめ求められている応答予測式を利用して、地震センサを備えない地点での地震動を推定する。このように構成された被害推定情報生成部130によれば、地震動推定のための演算量を低減することができ、比較的計算能力が低い演算装置によっても、短時間で地震動を推定することができる。
すなわち、本実施形態の被害推定情報生成部130によれば、地震センサの設置台数を低減させつつ、実用的な精度で高速に推定することができる。
【0078】
[地震動推定動作のまとめ]
上述したように、災害情報12には、被害推定対象エリア11内の建物に設置された災害センサ(例えば、地震センサ30)による災害の状況の検出結果を示す情報が含まれている。ここで、災害センサによる災害の状況の検出結果を示す情報には、地震波形、加速度スペクトルなどが含まれる。被害推定情報生成部130は、災害情報12と、地盤情報とに基づいて災害の程度を推定することにより、被害推定情報141を生成する。
地盤情報とは、区画142ごとの地盤の状態を示す情報である。地盤情報は、地盤データベース(不図示)に記憶されている。被害推定情報生成部130は、地盤データベース(不図示)から推定対象の地点の地盤情報を取得し、取得した地盤情報に基づいて災害の程度を推定することにより、被害推定情報141を生成する。
【0079】
すなわち、この一例では、災害センサには地震センサ30が含まれ、被害推定情報生成部130は、地震による被害の程度を被害推定情報141として生成する。
なお、本実施形態において災害センサが地震に関する状況を検出するとして説明したがこれに限られない。災害センサは、風害、水害、火災、土砂崩れ、地盤沈下、津波被害などの災害の状況を検出するものであってもよい。また、地盤情報とは、地理空間情報の一例である。地理空間情報とは、区画142ごとの空間の状態(例えば、標高、微地形区分など)を示す情報である。このような地理空間情報によれば、被害推定情報生成部130は、地震以外の災害の程度を推定することができる。
【0080】
[変形例]
なお、区画142の粒度は、地盤情報が示す地盤の状態の分布に基づいて定められていてもよい。
【0081】
また、被害推定情報出力部140が出力する被害推定情報141の区画142の粒度は、災害センサ(地震センサ30)が設置された建物の所在地が判明しない程度の粒度にされていてもよい。
【0082】
また、
図3に示したように、災害情報12には、所定粒度のメッシュの網目ごとに災害の状況を示す情報が含まれている。
被害推定情報生成部130は、災害情報12に基づいて災害の程度をメッシュの網目ごとに推定することにより、
図6に示す被害推定情報141を生成する。
【0083】
なお、メッシュの粒度は、災害の種類ごとに定められていてもよい。上述したように、災害の種類には、地震、洪水、降雨、降雪、暴風、津波、火災などがある。メッシュの粒度は、例えば、地震の粒度よりも洪水の粒度のほうが細かく設定されていてもよい。
【0084】
また、災害情報12には、互いに粒度が異なる複数の所定粒度のメッシュによる情報が含まれていてもよい。例えば、災害の種類が地震である場合に、地震メッシュの粒度は、日本全国版のメッシュの粒度よりも、関東地方版のメッシュの粒度のほうが細かく設定されていてもよい。
この場合、被害推定情報生成部130は、粒度が互いに異なる複数の災害情報12に基づいて被害推定情報141を生成する。すなわち、災害情報12のメッシュの粒度と、被害推定情報141の区画142の粒度とが一致しない場合が生じる。この場合、被害推定情報生成部130は、災害情報12のメッシュの粒度と、区画142の粒度とを対応付けることにより、被害推定情報141を区画142ごとに生成する。
ここで、「災害情報12のメッシュの粒度と区画142の粒度とを対応付ける」ということには、災害情報12のメッシュの網目のうち、隣接する複数の網目を1つの区画142に割り付けることが含まれる。例えば、被害推定情報生成部130は、災害情報12の隣接する4つの網目を1つの区画142に割り付ける。この場合の災害情報12と区画142の面積比は4:1となる。
【0085】
[被害推定情報の変形例]
図13は、本実施形態の災害情報12のメッシュの粒度と、被害推定情報生成部130が推定する被害推定情報141の区画の粒度との対応関係の一例を示す図である。災害情報12のメッシュの粒度G1の一例を
図13(A)に示す。被害推定情報141の区画の粒度G2の一例を
図13(B)に示す。
被害推定情報生成部130は、区画142の粒度である第1粒度よりも粒度が細かい第2粒度によって被害の程度を推定した被害推定情報141を生成する。
被害推定情報出力部140は、第2粒度による被害推定情報141を第1粒度の被害推定情報141に変換することにより、第1粒度による区画142ごとの被害推定情報141を出力する。
【0086】
なお、区画142の粒度は、区画142内に含まれる測定対象の建物の数に応じていてもよい。
【0087】
[実施形態のまとめ]
【0088】
上述したように、本実施形態の災害情報提供装置10は、被害推定情報生成部130が被害推定情報141を区画142ごとに生成する。この区画142は、被害推定対象エリア11が面的に区分されたものであり、特定の建物を示すものではない。ここで、被害推定情報が特定の建物の被害を示すものである場合には、被害推定情報が示す建物の被害推定状況と、建物の所有者との関係性が生じることがあり、この場合、建物の被災情報の自由な流通が阻害されてしまうという課題がある。
一方、本実施形態の災害情報提供装置10が提供する被害推定情報141は、特定の建物を示すものではないため、建物の所有者との関係性が生じることがなく、建物の被災情報の取り扱いの自由度を高めることができる。
また、本実施形態の災害情報提供装置10から出力される被害推定情報141には、区画識別情報143が紐づけられている。このように構成された災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141を利用する装置(例えば、災害情報提示システム20)において、所望の区画を指示することにより、この区画に紐づけられた被害推定情報141を参照することができる。したがって、本実施形態の災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141の利用時の利便性を高めることができる。
【0089】
また、本実施形態の被害推定情報生成部130は、災害情報12が示す災害の程度における建物の被災の程度を建物の種類ごとに推定した被害推定情報141を生成する。このように構成された災害情報提供装置10によれば、ある災害に対する建物の被災の程度が、建物の種類によって異なる場合であっても、被害推定情報141の推定精度を高めることができる。
【0090】
また、本実施形態の災害情報提供装置10は、指定された建物の所在地に基づいて、複数の区画142のうち、指定された建物が含まれる区画142を特定する区画特定部150を備えている。このように構成された災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141を利用する装置(例えば、災害情報提示システム20)において、建物の所在地を指示することにより、この建物に紐づけられた被害推定情報141を参照することができる。また、被害推定情報141を利用する装置(例えば、災害情報提示システム20)において、建物の所有者の情報と、当該所有者が所有する建物の所在地を示す情報とを紐づけておくことにより、建物の所有者を指定することにより、当該所有者が所有する建物の被災状況を提示するように構成することもできる。
このように本実施形態の災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141の利用時の利便性を高めることができる。
【0091】
また、本実施形態の被害推定情報出力部140は、指定された建物の種類と、被害推定情報出力部140が出力する被害推定情報141とに基づいて、指定された建物の種類に応じた当該建物の被害状況を出力する。このように構成された災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141を利用する装置(例えば、災害情報提示システム20)において、建物の種類を指示することにより、この種類の建物に紐づけられた被害推定情報141を参照することができる。また、被害推定情報141を利用する装置(例えば、災害情報提示システム20)において、建物の所有者の情報と、当該所有者が所有する建物の種類を示す情報とを紐づけておくことにより、建物の所有者を指定することにより、当該所有者が所有する種類の建物の被災状況を提示するように構成することもできる。
このように本実施形態の災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141の利用時の利便性を高めることができる。
【0092】
また、本実施形態の被害推定情報生成部130は、災害情報12に基づいて災害の程度をメッシュの網目ごとに推定することにより、被害推定情報141を生成する。このように構成された災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141のメッシュの網目の粒度を、メッシュ震度供給装置40から提供されるメッシュ震度情報のメッシュの粒度に対応させることができる。
【0093】
また、本実施形態の災害情報提供装置10が取得する災害情報12のメッシュの粒度は、災害の種類ごとに定められている。このように構成された災害情報提供装置10によれば、様々な種類の災害情報12について、被害推定情報141を生成することができる。
【0094】
また、本実施形態の被害推定情報生成部130は、災害情報12のメッシュの粒度と、区画142の粒度とを対応付けることにより、被害推定情報141を区画142ごとに生成する。このように構成された災害情報提供装置10によれば、様々な粒度の災害情報12について、被害推定情報141を生成することができる。
【0095】
また、本実施形態の被害推定情報生成部130は、災害情報12と、区画142ごとの地盤の状態を示す地盤情報とに基づいて災害の程度を推定することにより、被害推定情報141を生成する。また、被害推定情報生成部130は、地震による被害の程度を被害推定情報141として生成する。このように構成された災害情報提供装置10によれば、メッシュ震度情報など、外部装置から提供される災害情報12に基づく場合に比べて、より推定精度の高い被害推定情報141を生成することができる。
【0096】
また、本実施形態の区画142の粒度は、地盤情報が示す地盤の状態の分布に基づいて定められている。このように構成された災害情報提供装置10によれば、地盤の状態の分布に基づかずに被害推定をする場合に比べて、より推定精度の高い被害推定情報141を生成することができる。
【0097】
また、本実施形態の被害推定情報出力部140が出力する被害推定情報141の区画142の粒度は、災害センサ(地震センサ30)が設置された建物の所在地が判明しない程度の粒度にされている。ここで、被害推定情報から災害センサが設置されている建物の所在地が判明する場合には、被害推定情報と、当該建物の所有者との関係性が生じることがあり、この場合、建物の被災情報の自由な流通が阻害されてしまうという課題がある。
一方、上述のように構成された災害情報提供装置10によれば、建物の所有者との関係性が生じることがなく、建物の被災情報の取り扱いの自由度を高めることができる。
【0098】
また、本実施形態の被害推定情報生成部130は、区画142の粒度である第1粒度よりも粒度が細かい第2粒度によって被害の程度を推定した被害推定情報141を生成し、被害推定情報出力部140は、第2粒度による被害推定情報141を第1粒度の被害推定情報141に変換することにより、第1粒度による区画142ごとの被害推定情報141を出力する。このように構成された災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141の推定精度の向上と、被害推定情報141から建物の所在地が判明してしまうことによる不都合の低減とを両立させることができる。
【0099】
また、本実施形態の区画142の粒度は、区画142内に含まれる測定対象の建物の数に応じている。このように構成された災害情報提供装置10によれば、被害推定情報141を建物の数に応じた粒度にすることができ、被害推定情報141の推定精度の向上と、被害推定情報141から建物の所在地が判明してしまうことによる不都合の低減とを両立させることができる。
【0100】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0101】
なお、上記の実施形態における各装置が備える各部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
【0102】
なお、各装置が備える各部は、メモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、各装置が備える各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0103】
また、各装置が備える各部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、制御部が備える各部による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0104】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…災害情報提供システム、10…災害情報提供装置、20…災害情報提示システム、30…地震センサ、40…メッシュ震度供給装置、50…建物データベース、60…応答予測式記憶部、110…災害情報取得部、120…建物情報取得部、130…被害推定情報生成部、131…地震動情報取得部、132…応答予測式取得部、133…位置情報取得部、134…振動推定部、140…被害推定情報出力部、150…区画特定部