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  • 特開-噛合クラッチ装置及び動力伝達装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157289
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】噛合クラッチ装置及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/28 20060101AFI20221006BHJP
   F16H 63/18 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16H61/28
F16H63/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061420
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 将之
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AA21
3J067AB23
3J067AC05
3J067BA17
3J067DA35
3J067DB32
3J067FB42
3J067FB57
3J067FB71
3J067FB83
3J067GA01
(57)【要約】
【課題】小型化を図ることができる噛合クラッチ装置及び動力伝達装置を提供する。
【解決手段】係脱機構11は、第1位置から第2位置まで回転するシフトドラム13と、電動モータ12の駆動によって切替スリーブ55の第1方向D1への移動が停止した場合に、弾性変形により電動モータ12の駆動を吸収するコイルばね18と、を有する。シフトドラム13が第1位置であるときに、内スプライン55sと外スプライン51sとが噛合を解放された解放状態であり、シフトドラム13が第2位置であるときに、内スプライン55sと外スプライン51sとが噛合状態であり、かつ、切替スリーブ55が第1ストッパ21により第1方向D1に移動することを規制された規制状態であり、コイルばね18が弾性変形することにより切替スリーブ55が第1ストッパ21を押圧している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1突歯と第2突歯とを有し、前記第1突歯及び前記第2突歯を係脱可能な噛合クラッチと、前記噛合クラッチを係脱する係脱機構と、を備え、
前記係脱機構は、
アクチュエータと、
前記アクチュエータから出力された駆動力により第1位置から第2位置まで回転するシフトドラムと、
前記シフトドラムの回転により移動するシフトフォークと、
前記第1突歯と一体化され、回転中心軸を中心に回転可能に設けられ、前記シフトフォークにより前記回転中心軸の軸方向に移動するスリーブと、
前記アクチュエータから前記スリーブまでの動力伝達経路に介在され、前記第1突歯の前記軸方向の先端と前記第2突歯の前記軸方向の先端とが当接して前記アクチュエータの駆動によって前記スリーブの前記軸方向の一方への移動が停止した場合に、弾性変形により前記アクチュエータの駆動を吸収する弾性部材と、
前記第1突歯及び前記第2突歯が噛合した噛合状態において、前記スリーブが前記軸方向の一方に移動することを規制するストッパと、を有し、
前記シフトドラムが前記第1位置であるときに、前記第1突歯と前記第2突歯とが噛合を解放された解放状態であり、
前記シフトドラムが前記第2位置であるときに、前記第1突歯と前記第2突歯とが前記噛合状態であり、かつ、前記スリーブが前記ストッパにより前記軸方向の一方に移動することを規制された規制状態であり、前記弾性部材が弾性変形することにより前記スリーブ又は前記シフトフォークが前記ストッパを押圧している、
噛合クラッチ装置。
【請求項2】
前記シフトドラムは、前記第1位置から前記第2位置まで回転する間の第3位置であるときに、前記第1突歯と前記第2突歯とが前記噛合状態であり、かつ、前記スリーブが前記ストッパにより規制されていない非規制状態から前記規制状態に切り替わり、
前記シフトドラムが前記第3位置から前記第2位置に移動することにより、前記弾性部材が弾性変形することにより前記スリーブ又は前記シフトフォークが前記ストッパを押圧する、
請求項1に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項3】
前記係脱機構は、前記動力伝達経路において前記シフトドラムと前記シフトフォークとの間に設けられた押圧部材を有し、
前記シフトドラムは、外周部に設けられた案内部を有し、
前記押圧部材は、前記案内部に案内される摺動子を有して、前記シフトドラムの回転により前記案内部の傾斜部が前記摺動子を案内することで前記軸方向に移動し、
前記弾性部材は、前記動力伝達経路において前記押圧部材と前記シフトフォークとの間に設けられ、前記軸方向を伸縮方向とする圧縮コイルばねであり、
前記弾性部材の前記軸方向の一方の第1端部は前記シフトフォークに当接し、前記弾性部材の前記軸方向の他方の第2端部は前記押圧部材に当接し、
前記シフトドラムの前記第1位置から前記第2位置への回転により、前記押圧部材が前記軸方向の一方に移動して前記弾性部材の前記第2端部を押圧し、前記弾性部材の前記第1端部が前記シフトフォークを押圧して前記軸方向の一方に移動させる、
請求項1又は2に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項4】
前記噛合クラッチは、第1噛合クラッチであり、
前記ストッパは、第1ストッパであり、
前記解放状態は、第1解放状態であり、
前記噛合状態は、第1噛合状態であり、
前記規制状態は、第1規制状態であり、
前記スリーブに一体化された第3突歯と、前記第3突歯の前記軸方向の他方に配置された第4突歯とを有し、前記第3突歯及び前記第4突歯を係脱可能であって、前記第3突歯が前記軸方向の他方に移動することで前記第4突歯に噛合し、前記第3突歯が前記軸方向の一方に移動することで前記第4突歯への噛合が解放される第2噛合クラッチを備え、
前記係脱機構は、前記第3突歯及び前記第4突歯が噛合した第2噛合状態において、前記スリーブが前記軸方向の他方に移動することを規制する第2ストッパを有し、
前記押圧部材は、前記第1端部を押圧する第1押圧部と、前記第2端部を押圧する第2押圧部と、を有し、
前記シフトフォークは、前記第1端部により押圧される第1被押圧部と、前記第2端部により押圧される第2被押圧部と、を有し、
前記シフトドラムは、前記アクチュエータから出力された駆動力により、前記第1位置から前記第2位置まで回転する方向とは反対方向に回転することで前記第1位置から第4位置まで回転し、
前記シフトドラムが前記第1位置であるときに、前記第3突歯と前記第4突歯とが噛合を解放された第2解放状態であり、
前記シフトドラムが前記第4位置であるときに、前記第3突歯と前記第4突歯とが噛合した第2噛合状態であり、かつ、前記スリーブが前記第2ストッパにより前記軸方向の他方に移動することを規制された第2規制状態であり、前記弾性部材が弾性変形することにより前記スリーブ又は前記シフトフォークが前記第2ストッパを押圧し、
前記シフトドラムの前記第1位置から前記第4位置への回転により、前記押圧部材の前記第1押圧部が前記軸方向の他方に移動して前記弾性部材の前記第1端部を押圧し、前記弾性部材の前記第2端部が前記シフトフォークの前記第2被押圧部を押圧して前記軸方向の他方に移動させる、
請求項3に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項5】
駆動源に駆動連結された入力部材と、
車輪に駆動連結された出力部材と、
前記入力部材から前記出力部材までの動力伝達経路に介在された請求項1乃至4のいずれか1項に記載の噛合クラッチ装置と、を備え、
前記噛合クラッチ装置が係合しているときに、変速段を形成して前記入力部材に入力された回転を前記出力部材から出力する、
動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車等の車両に搭載される噛合クラッチ装置、及びこれを有する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車両に用いて好適な動力伝達装置として、例えば、噛合クラッチ装置を有し、噛合クラッチの係脱によって複数の変速段を形成する有段変速機構が知られている(特許文献1参照)。この有段変速機構では、噛合クラッチ装置は、噛合クラッチ(例えば、ドグクラッチ)と、噛合クラッチを接断する係脱機構とを有している。係脱機構は、アクチュエータである電動モータと、電動モータにより回転駆動されるシフトドラムと、カム機構と、シフトフォーク等を有している。電動モータによりシフトドラムを回転し、カム機構を介してシフトフォークを軸方向に移動させ、噛合クラッチの一方の歯が形成されたスリーブを軸方向に移動させることで、噛合クラッチを係脱するようにしている。
【0003】
また、スリーブを軸方向に移動させて噛合クラッチを噛合させる際に、歯の先端同士が軸方向に当接してスリーブがそれ以上移動できなくなるアップロックが発生する場合があることを想定して、電動モータとシフトドラムとの間に捩りコイルばねを介在させている。これにより、アップロックを発生した場合には、電動モータを停止せずに回転を捩りコイルばねによって吸収し、噛合クラッチの位相をずらすことで捩りコイルばねが解放されて噛合クラッチを噛合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-180342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載した噛合クラッチ装置では、シフトドラムが回転し、シフトフォークが移動している途中で噛合クラッチの噛合が開始され、その後もシフトフォークを移動して、噛合クラッチの噛合状態を確保する。しかしながら、シフトドラムからスリーブまでの動力伝達経路上のガタ等を考慮しつつ噛合状態を確保するためには、噛合クラッチの歯同士の軸方向の噛合い長さを十分に取る必要がある。このため、噛合クラッチの軸方向の寸法や、スリーブを移動させるシフトドラムの軸方向の寸法が長くなり、噛合クラッチ装置が大型化してしまう虞があるが、特許文献1にはこの点については言及されていない。
【0006】
そこで、小型化を図ることができる噛合クラッチ装置及び動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る噛合クラッチ装置は、第1突歯と第2突歯とを有し、前記第1突歯及び前記第2突歯を係脱可能な噛合クラッチと、前記噛合クラッチを係脱する係脱機構と、を備え、前記係脱機構は、アクチュエータと、前記アクチュエータから出力された駆動力により第1位置から第2位置まで回転するシフトドラムと、前記シフトドラムの回転により移動するシフトフォークと、前記第1突歯と一体化され、回転中心軸を中心に回転可能に設けられ、前記シフトフォークにより前記回転中心軸の軸方向に移動するスリーブと、前記アクチュエータから前記スリーブまでの動力伝達経路に介在され、前記第1突歯の前記軸方向の先端と前記第2突歯の前記軸方向の先端とが当接して前記アクチュエータの駆動によって前記スリーブの前記軸方向の一方への移動が停止した場合に、弾性変形により前記アクチュエータの駆動を吸収する弾性部材と、前記第1突歯及び前記第2突歯が噛合した噛合状態において、前記スリーブが前記軸方向の一方に移動することを規制するストッパと、を有し、前記シフトドラムが前記第1位置であるときに、前記第1突歯と前記第2突歯とが噛合を解放された解放状態であり、前記シフトドラムが前記第2位置であるときに、前記第1突歯と前記第2突歯とが前記噛合状態であり、かつ、前記スリーブが前記ストッパにより前記軸方向の一方に移動することを規制された規制状態であり、前記弾性部材が弾性変形することにより前記スリーブ又は前記シフトフォークが前記ストッパを押圧している。
【0008】
本開示に係る動力伝達装置は、駆動源に駆動連結された入力部材と、車輪に駆動連結された出力部材と、前記入力部材から前記出力部材までの動力伝達経路に介在された上記の噛合クラッチ装置と、を備え、前記噛合クラッチ装置が係合しているときに、変速段を形成して前記入力部材に入力された回転を前記出力部材から出力する。
【発明の効果】
【0009】
本噛合クラッチ装置及び動力伝達装置によると、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトンを示す概略図であり、(b)は解放状態の第1クラッチを示す概略図であり、(c)は係合状態の第1クラッチを示す概略図である。
図2】実施形態に係る噛合クラッチ装置を示す概略図であり、(a)はシフトドラムの回転位置が第1位置であるとき、(b)は第1クラッチの歯の先端同士が当接したときである。
図3】実施形態に係る噛合クラッチ装置を示す概略図であり、(a)はシフトドラムの回転位置が噛合確定位置であるとき、(b)はシフトドラムの回転位置が第3位置であるときである。
図4】実施形態に係る噛合クラッチ装置を示す概略図であり、(a)はシフトドラムの回転位置が第2位置であるとき、(b)はシフトドラムの回転位置が第4位置であるときである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施形態を図1(a)~図4(b)に沿って説明する。まず、図1(a)に沿って、本実施形態に係る車両用駆動装置2を搭載した車両の一例であるハイブリッド車1について説明する。本実施形態では、ハイブリッド車1は、所謂FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型としている。但し、ハイブリッド車1は、FF型には限られず、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型であってもよい。また、駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、それら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いはそれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。
【0012】
[車両用駆動装置の概略構成]
ハイブリッド車1は、大まかに、車両用駆動装置2の各部を制御可能な制御部(ECU)5と、駆動源の一例であるエンジン20と、ハイブリッド駆動装置である車両用駆動装置2と、その車両用駆動装置2に左右のドライブシャフト63を介して駆動連結される左右の車輪である前輪70と、車両用駆動装置2の電力を蓄電可能な不図示のハイブリッドバッテリユニット(以下、単に「バッテリ」という)と、を備えている。
【0013】
車両用駆動装置2は、エンジン20に駆動連結される変速機4と、駆動源の一例であるモータ・ジェネレータ(MG1)である電動モータ(以下、単に「モータ」という)40と、を備えている。モータ40は、不図示のケースに固定されたステータ41と、ステータ41により力行又は回生されるロータ42とを備えており、ロータ42のロータ軸42aは、変速機4のモータギヤ列45に駆動連結されている。モータギヤ列45は、ロータ軸42aに固定された出力ギヤ43と、その出力ギヤ43に噛合したアイドラギヤ44とを有しており、アイドラギヤ44は後述のプラネタリギヤPRのリングギヤRに駆動連結された第1カウンタギヤ94に噛合している。
【0014】
変速機4は、エンジン20の出力軸20aと同軸上に、大まかに、ダンパ装置90、エンジン切離しクラッチK0、接断クラッチ95、プラネタリギヤPRを備えており、それらと平行な別軸上に、上記モータギヤ列45、カウンタギヤ部46、ディファレンシャル装置60を備えて構成されている。
【0015】
ダンパ装置90は、エンジン20の出力軸20aに駆動連結され、エンジン20の爆発振動を吸収しつつ入力軸91にエンジン20の回転を伝達する。エンジン切離しクラッチK0は、係合することで入力軸91と中間軸92とを駆動連結してエンジン20の回転を中間軸92に伝達し、解放されることで中間軸92からエンジン20の駆動連結を切離す。中間軸92は、入力部材の一例であり、プラネタリギヤPRのサンギヤSに駆動連結されている。
【0016】
プラネタリギヤPRは、サンギヤSと、リングギヤRと、これらサンギヤS及びリングギヤRに噛合するピニオンPを回転自在に支持するキャリヤCRと、を有するシングルピニオンプラネタリギヤで構成されている。このうちのサンギヤSは、上述したように中間軸92、エンジン切離しクラッチK0、ダンパ装置90を介してエンジン20に駆動連結される。また、リングギヤRは、第1カウンタギヤ94に駆動連結されており、上記モータギヤ列45を介してモータ40に駆動連結される。さらに、キャリヤCRは、第1カウンタギヤ94よりも小径な第2カウンタギヤ93に駆動連結されている。そして、接断クラッチ95は、噛合クラッチからなり、キャリヤCRに駆動連結されたギヤCRGの外周を軸方向にスライド移動することで、リングギヤRに駆動連結されたギヤRGに噛合可能に構成されており、つまりキャリヤCRとリングギヤRとを係合可能に構成されている。なお、接断クラッチ95は、リングギヤRとキャリヤCRとを係合するものに限らず、サンギヤS、キャリヤCR、リングギヤRの何れか2つを係合可能に構成されていればよい。
【0017】
カウンタギヤ部46は、カウンタ軸50と、固定ギヤ54と、第1ドリブンギヤ51と、第2ドリブンギヤ52と、噛合クラッチ装置10と、出力ギヤ53とを有して構成されている。固定ギヤ54は、カウンタ軸50に回転不能にかつ軸方向移動不能に固定されて駆動連結されており、噛合クラッチ装置10の切替スリーブ55が軸方向にスライド移動自在に噛合されている。噛合クラッチ装置10は、第1クラッチC1と、第2クラッチC2と、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係脱する係脱機構11とを有している。噛合クラッチ装置10の詳細な構成については、後述する。
【0018】
第2ドリブンギヤ52は、カウンタ軸50に対して回転自在に支持され、上記第2カウンタギヤ93に噛合され、つまりキャリヤCRの回転を減速する減速ギヤを構成している。第1ドリブンギヤ51は、同様に、カウンタ軸50に対して回転自在に支持され、第2ドリブンギヤ52よりも小径に形成されて上記第1カウンタギヤ94に噛合される。一方、出力部材としての出力ギヤ53は、カウンタ軸50に駆動連結されており、後述のディファレンシャル装置60のデフリングギヤ61に噛合している。
【0019】
上記噛合クラッチ装置10は、係脱機構11によって切替スリーブ55を軸方向にスライド移動させ、第2ドリブンギヤ52に駆動連結された外スプライン52sに噛合う位置に移動することでLo状態(第1速段)を形成する第2クラッチC2を構成し、第1ドリブンギヤ51に駆動連結された外スプライン51sに噛合う位置に移動することでHi状態(第2速段)を形成する第1クラッチC1を構成している。なお、これら第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、モータ40と出力ギヤ53との間に介在していると言える。
【0020】
ディファレンシャル装置60は、デフリングギヤ61と、そのデフリングギヤ61に駆動連結されたピニオンギヤ62P1,62P2と、それらピニオンギヤ62P1,62P2に噛合され、それぞれ左右のドライブシャフト63に駆動連結されたサイドギヤ62SL,62SRと、を有しており、サイドギヤ62SL,62SRの差回転を吸収しつつデフリングギヤ61の回転を左右のドライブシャフト63及び前輪70に伝達するように構成されている。
【0021】
[噛合クラッチ装置の構成]
次に、噛合クラッチ装置10の構成について、詳細に説明する。噛合クラッチ装置10は、噛合クラッチ及び第1噛合クラッチの一例である第1クラッチC1と、第2噛合クラッチの一例である第2クラッチC2と、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係脱可能にする係脱機構11とを有している。第1クラッチC1は、カウンタ軸50と一体回転するよう固定ギヤ54の外周部に設けられた外スプライン54sと、外スプライン54sに隣接して第1ドリブンギヤ51に形成された第2突歯の一例である外スプライン51sと、後述する切替スリーブ55の内周側に設けられた第1突歯の一例である内スプライン55sとを備えている。第2クラッチC2は、上述した外スプライン54sと、外スプライン54sに隣接して第2ドリブンギヤ52に形成された第4突歯の一例である外スプライン52sと、第3突歯の一例である上述した内スプライン55sとを備えている。各外スプライン51s,52s,54sの外径は、同径になっている。
【0022】
切替スリーブ55は、スリーブ状で、内周部に各外スプライン51s,52s,54sに係合可能な内スプライン55sを備え、外スプライン51s,52s,54sに対して軸方向に移動可能に設けられている。本実施形態では、第1クラッチC1と第2クラッチC2とで外スプライン54sと、内スプライン55sとを共用している。但し、これには限られず、第1クラッチC1の第1突歯と第2クラッチC2の第3突歯とを別個に形成するようにしてもよい。
【0023】
図1(b)に示すように、第1ドリブンギヤ51に形成された外スプライン51sは、軸方向に沿って平行に設けられた複数のスプライン歯51tを有している。各スプライン歯51tの軸方向の先端部分には、軸方向に対して例えば45°程度傾斜した先端部51eが形成されている。また、切替スリーブ55に形成された内スプライン55sは、軸方向に沿って平行に設けられた複数のスプライン歯55tを有している。各スプライン歯55tの軸方向の先端部分には、軸方向に対して例えば45°程度傾斜した先端部55eが形成されている。外スプライン51sと内スプライン55sとが図1(b)に示す解放状態から図1(c)に示す噛合状態に切り替わるときは、係脱機構11によって切替スリーブ55が第1ドリブンギヤ51側にストロークされ、スプライン歯55tの先端部55eがスプライン歯51tの間に入り込んで噛合する。本実施形態では、係脱機構11によってスプライン歯51t及びスプライン歯55tの噛み合いを完了した状態(図1(c)に示す状態)とする位置を、係合完了位置とする。尚、図示していないが、第2ドリブンギヤ52に形成された外スプライン52sと内スプライン55sとの関係も同様に構成されている。即ち、係脱機構11は、スプライン歯51t及びスプライン歯55tの少なくとも一方を係脱させる方向にストロークさせる。
【0024】
これにより、切替スリーブ55は、移動により、カウンタ軸50と第1ドリブンギヤ51とを連結して2速段を形成する状態(図1(c)参照)、カウンタ軸50と第2ドリブンギヤ52とを連結して1速段を形成する状態、いずれも連結しない解放状態としてのニュートラル状態(図1(b)参照)との3つの状態に切り替わることができる。
【0025】
この第1クラッチC1では、切替スリーブ55がニュートラル状態から第1ドリブンギヤ51側に移動されると、切替スリーブ55の内スプライン55sは、外スプライン54sと第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sとに跨って係合し、切替スリーブ55がカウンタ軸50と第1ドリブンギヤ51とを連結する高速段形成状態になる。これにより、中間軸92の回転は、第1カウンタギヤ94、第1ドリブンギヤ51、切替スリーブ55を介して、カウンタ軸50に伝達される。
【0026】
また、第2クラッチC2では、切替スリーブ55がニュートラル状態から第2ドリブンギヤ52側に移動されると、切替スリーブ55の内スプライン55sは、外スプライン54sと第2ドリブンギヤ52の外スプライン52sとに跨って係合し、切替スリーブ55がカウンタ軸50と第2ドリブンギヤ52とを連結する低速段形成状態になる。これにより、中間軸92の回転は、第2カウンタギヤ93、第2ドリブンギヤ52、切替スリーブ55を介して、カウンタ軸50に伝達される。
【0027】
即ち、第1クラッチC1は、中間軸92に駆動連結されたスプライン歯51tとカウンタ軸50に駆動連結されたスプライン歯55tとを有して、スプライン歯51t及びスプライン歯55tの係脱により中間軸92及びカウンタ軸50の間の動力伝達経路を接断する。また、第2クラッチC2では、低速段形成時は、高速段形成時に比べてより大きく減速するように、各部のギヤ比が設定されている。
【0028】
次に、係脱機構11について、図2(a)を用いて説明する。係脱機構11は、アクチュエータの一例である電動モータ12と、電動モータ12から出力された駆動力により回転するシフトドラム13と、シフトドラム13の回転により移動する押圧部材14と、第1補助部材15及び第2補助部材16と、押圧部材14の移動により移動するシフトフォーク17と、切替スリーブ55と、弾性部材の一例であるコイルばね18と、第1ストッパ21及び第2ストッパ22とを有している。電動モータ12が駆動すると、ギヤ機構を介してシフトドラム13、押圧部材14、第1補助部材15及び第2補助部材16、コイルばね18、シフトフォーク17を介して切替スリーブ55が軸方向に移動される。即ち、電動モータ12から切替スリーブ55まで動力伝達経路が形成されている。本実施形態では、アクチュエータとして電動モータ12を適用した場合ついて説明しているが、これには限られず、油圧アクチュエータを適用してもよい。
【0029】
切替スリーブ55は、内スプライン55sと一体化され、回転中心軸を中心に回転可能に設けられ、シフトフォーク17により回転中心軸の軸方向に移動(ストローク)する。この軸方向に関して、切替スリーブ55に対して第1ドリブンギヤ51側の方向を軸方向の一方である第1方向D1とし、第2ドリブンギヤ側の方向を軸方向の他方である第2方向D2とする。
【0030】
前記シフトドラム13は、外周部に設けられた案内部の一例であるカム溝30を有している。カム溝30は、周方向に沿ったニュートラル部33と、ニュートラル部33の第1方向D1側に周方向に沿って配置された第1溝部31と、ニュートラル部33の第2方向D2側に周方向に沿った配置された第2溝部32と、ニュートラル部33と第1溝部31とを連通する傾斜した第1傾斜部34と、ニュートラル部33と第2溝部32とを連通する傾斜した第2傾斜部35と、を有している。押圧部材14は、カム溝30に案内される摺動子14aを有しており、シフトドラム13の回転により摺動子14aがカム溝30に沿って案内されることで軸方向に移動するようになっている。また、摺動子14aがニュートラル部33に位置するときのシフトドラム13の位置を第1位置とし、摺動子14aが第1溝部31に位置するときのシフトドラム13の位置を第2位置とし、摺動子14aが第2溝部32に位置するときのシフトドラム13の位置を第4位置とする。即ち、シフトドラム13は、電動モータ12から出力された駆動力により第1位置から第2位置まで回転する。
【0031】
押圧部材14は、第1方向D1側に設けられた第1押圧部141と、第2方向D2側に設けられた第2押圧部142とを有し、軸方向に移動可能に設けられている。第1押圧部141は、第1補助部材15を介してコイルばね18の第1端部181を第2方向D2に向けて押圧可能である。第2押圧部142は、第2補助部材16を介してコイルばね18の第2端部182を第1方向D1に向けて押圧可能である。
【0032】
シフトフォーク17は、軸方向に沿った軸部170と、切替スリーブ55に回転可能、かつ、軸方向に固定して設けられたフォーク部17aと、第1被押圧部171と、第2被押圧部172とを有し、軸方向に移動可能に設けられている。第1被押圧部171及び第2被押圧部172は、軸部170に設けられたスナップリングなどによって構成されている。第1被押圧部171は、第1補助部材15の第2端部152を介してコイルばね18の第1端部181から第1方向D1に向けて押圧され得る。第2被押圧部172は、第2補助部材16の第1端部161を介してコイルばね18の第2端部182から第2方向D2に向けて押圧され得る。
【0033】
第1補助部材15は、第1方向D1側の第1端部151と、第2方向D2側の第2端部152とを有し、軸方向に移動可能に設けられている。第1端部151は、押圧部材14の第1押圧部141に第1方向D1に向けて当接可能である。第2端部152は、第1方向D1側はシフトフォーク17の第1被押圧部171に当接可能であり、第2方向D2側はコイルばね18の第1端部181に当接可能になっている。これにより、シフトフォーク17の第1被押圧部171とコイルばね18の第1端部181とは、第1補助部材15の第2端部152を介して押圧可能になっている。
【0034】
第2補助部材16は、第1方向D1側の第1端部161と、第2方向D2側の第2端部162とを有し、軸方向に移動可能に設けられている。第2端部162は、押圧部材14の第2押圧部142に第2方向D2に向けて当接可能である。第1端部161は、第2方向D2側はシフトフォーク17の第2被押圧部172に当接可能であり、第1方向D1側はコイルばね18の第2端部182に当接可能になっている。これにより、シフトフォーク17の第2被押圧部172とコイルばね18の第2端部182とは、第2補助部材16の第1端部161を介して押圧可能になっている。
【0035】
コイルばね18は、軸方向を伸縮方向とする圧縮コイルばねであり、第1方向D1側の第1端部181と、第2方向D2側の第2端部182とを有している。コイルばね18は、シフトフォーク17の軸部170において、第1被押圧部171と第2被押圧部172との間で軸方向に移動可能に装着されている。
【0036】
ここで、本実施形態では、シフトフォーク17の第1被押圧部171に当接した第1補助部材15の第2端部152と、シフトフォーク17の第2被押圧部172に当接した第2補助部材16の第1端部161との間隔は、コイルばね18の軸方向の長さ(自然長)以下になるように設定されている。また、第1補助部材15の第2端部152がシフトフォーク17の第1被押圧部171に当接し、第2補助部材16の第1端部161がシフトフォーク17の第2被押圧部172に当接しているときは、第1補助部材15の第1端部151が押圧部材14の第1押圧部141に当接し、第2補助部材16の第2端部162が押圧部材14の第2押圧部142に当接するように設定されている。これにより、切替スリーブ55に第1ドリブンギヤ51及び第2ドリブンギヤ52から外力が作用しないニュートラル状態であっても、コイルばね18は第1補助部材15の第2端部152と第2補助部材16の第1端部161とに当接し、第1補助部材15及び第2補助部材16は押圧部材14に当接している。このため、ニュートラル状態において押圧部材14に対してシフトフォーク17及び切替スリーブ55が軸方向に遊びを有して移動してしまうことを抑制できる。
【0037】
ストッパの一例である第1ストッパ21は、シフトフォーク17の軸部170の第1方向D1側の端部17bに対向してケースに設けられており、軸部170の端部17bが当接したときにシフトフォーク17の第1方向D1への移動を規制する。第1ストッパ21は、切替スリーブ55の内スプライン55sと第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sとが噛合した第1噛合状態(噛合状態、図3(b)及び図4(a)参照)において、シフトフォーク17の第1方向D1への移動を規制することで、切替スリーブ55が第1方向D1に移動することを規制する。
【0038】
第2ストッパ22は、シフトフォーク17の軸部170の第2方向D2側の端部17cに対向してケースに設けられており、軸部170の端部17cが当接したときにシフトフォーク17の第2方向D2への移動を規制する。第2ストッパ22は、切替スリーブ55の内スプライン55sと第2ドリブンギヤ52の外スプライン52sとが噛合した第2噛合状態(図4(b)参照)において、シフトフォーク17の第2方向D2への移動を規制することで、切替スリーブ55が第2方向D2に移動することを規制する。
【0039】
[噛合クラッチ装置の動作]
次に、噛合クラッチ装置10の動作について、詳細に説明する。第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係脱は、シフトドラム13の回転によって行われるため、ここではシフトドラム13の回転に沿って説明する。まず、シフトドラム13の回転位置が第1位置に位置するとき、即ち、押圧部材14の摺動子14aがニュートラル部33に位置するときは、図2(a)に示すように、第1クラッチC1が第1解放状態(解放状態)であり、第2クラッチC2が第2解放状態となる。即ち、シフトドラム13が第1位置であるときに、第1クラッチC1が噛合を解放された解放状態となる。
【0040】
シフトドラム13が第1位置から第2位置に向けて回転し、押圧部材14の摺動子14aが第1傾斜部34に案内されると、押圧部材14から切替スリーブ55までが第1方向D1に向けて移動する。即ち、シフトドラム13の第1位置から第2位置への回転により、押圧部材14が第1方向D1に移動してコイルばね18の第2端部182を押圧し、コイルばね18の第1端部181がシフトフォーク17を押圧して第1方向D1に移動させる。
【0041】
ここで、切替スリーブ55の移動により、図2(b)に示すように、内スプライン55sの第1方向D1側の先端と第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sの第2方向D2側の先端とが当接することがある。この場合、シフトフォーク17は第1方向D1に移動できなくなるので、押圧部材14の第2押圧部142が第2補助部材16を介してコイルばね18の第2端部182を押圧するが、コイルばね18の第1端部181は第1方向D1に移動できないので、コイルばね18が圧縮されることで、シフトフォーク17の移動が吸収される。即ち、コイルばね18は、内スプライン55sの第1方向D1側の先端と第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sの第2方向D2側の先端とが当接して電動モータ12の駆動によって切替スリーブ55の第1方向D1への移動が停止した場合に、弾性変形により電動モータ12の駆動を吸収する。この場合は、モータ3の駆動により第1ドリブンギヤ51を僅かに回転させることで切替スリーブ55が移動可能になり、コイルばね18によって切替スリーブ55が移動される。
【0042】
一方、シフトドラム13が第1位置から第2位置に向けて回転し、押圧部材14から切替スリーブ55までが第1方向D1に向けて移動し、歯の先端同士が当接して停止しない場合は、図3(a)に示すように、切替スリーブ55の内スプライン55sの第1方向D1側の先端部は、第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sの先端部に噛合する。このときのシフトドラム13の回転位置を噛合確定位置とする。また、本実施形態では、切替スリーブ55の内スプライン55sの第1方向D1側の先端部が第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sの先端部に噛合したときのシフトフォーク17の位置を検出する位置センサが設けられている。更に、シフトドラム13の回転位置を検出する回転位置センサが設けられている。ECU5は、回転位置センサの検出情報と位置センサの検出情報とに基づいて、切替スリーブ55の内スプライン55sの第1方向D1側の先端部が第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sの先端部に噛合したか否かを判断する。
【0043】
シフトドラム13が噛合確定位置から第2位置に向けて回転し、押圧部材14の摺動子14aが第1傾斜部34に更に案内されると、図3(b)に示すように、シフトフォーク17の軸部170の第1端部17bが第1ストッパ21に当接し、シフトフォーク17の第1方向D1への移動が規制される。このとき、押圧部材14の摺動子14aが第1傾斜部34の途中に位置しており、このときのシフトドラム13の回転位置を第3位置とする。即ち、シフトドラム13は、第1位置から第2位置まで回転する間の第3位置であるときに、切替スリーブ55の内スプライン55sと第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sとが第1噛合状態であり、かつ、切替スリーブ55が第1ストッパ21により規制されていない非規制状態から第1規制状態に切り替わる。
【0044】
シフトドラム13が第3位置から第2位置に向けて回転し、押圧部材14の摺動子14aが第1傾斜部34に更に案内されると、図4(a)に示すように、押圧部材14の摺動子14aが第1溝部31に位置してシフトドラム13の回転位置が第2位置に位置する。このとき、シフトドラム13が第3位置であるときに対し、押圧部材14は第1方向D1に移動されているが、シフトフォーク17は移動が規制されている。このため、押圧部材14の第2押圧部142が第2補助部材16を介してコイルばね18の第2端部182を押圧するが、コイルばね18の第1端部181は第1方向D1に移動できないので、コイルばね18が圧縮される。即ち、シフトドラム13が第3位置から第2位置に移動することにより、コイルばね18が弾性変形することにより切替スリーブ55がシフトフォーク17を介して第1ストッパ21を押圧する。これにより、シフトドラム13が第2位置であるときは、切替スリーブ55の内スプライン55sと第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sとが第1噛合状態であり、かつ、切替スリーブ55が第1ストッパ21により第1方向D1に移動することを規制された第1規制状態であり、コイルばね18が弾性変形することにより切替スリーブ55が第1ストッパ21を押圧している。
【0045】
本実施形態では、シフトドラム13のカム溝30の第1傾斜部34の途中に摺動子14aが位置するときに、シフトフォーク17が第1ストッパ21に当接して停止する。これに対し、例えば、従来のように噛合クラッチの噛合状態を確保するために噛合クラッチの歯同士の軸方向の噛合い長さを十分に取る場合は、摺動子14aがシフトドラム13のカム溝30の第1傾斜部34を抜けきって第1溝部31に達するまでシフトフォーク17が移動する。これにより、本実施形態によれば、噛合クラッチの噛合状態を確保するために噛合クラッチの歯同士の軸方向の噛合い長さを十分に取る場合に比べて、切替スリーブ55の移動量を短くすることができるので、内スプライン55s及び外スプライン51sの長さや、シフトドラム13の長さを短くすることができ、噛合クラッチ装置10の小型化を図ることができる。
【0046】
また、噛合クラッチの噛合状態を確保するために噛合クラッチの歯同士の軸方向の噛合い長さを十分に取る場合は、係合完了状態で歯同士を付勢していないので、走行中にギヤ抜けを発生する可能性があった。これに対し、本実施形態では、第1クラッチC1の係合完了状態においてコイルばね18によって噛合する歯同士が常時付勢されているので、走行中のギヤ抜けを抑制することができる。
【0047】
尚、シフトドラム13が第2位置に位置するときのコイルばね18の長さは、自然長に近い長さとなるように、各部の寸法を設定している。これにより、シフトドラム13が第3位置から第2位置に回転する際に、コイルばね18からシフトドラム13の回転に対して与えられる抗力が過度に大きくならないよう抑えることができる。
【0048】
また、本実施形態では、シフトドラム13の回転速度に関して、シフトドラム13が第1位置から、切替スリーブ55の内スプライン55sの第1方向D1側の先端が第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sの先端に達する位置(先端同士が当たらない場合を含む)になるまでの回転速度を速く設定し、それ以降の回転速度は遅くしている。これにより、シフトドラム13が噛合確定位置、第3位置、第2位置に位置するときの回転速度を遅くできるので、第1クラッチC1や第1ストッパ21の接触などに伴うノイズの発生を小さく抑えることができる。
【0049】
一方、シフトドラム13が第1位置から第4位置に向けて回転する場合は、第1位置から第2位置に移動する場合の反対方向への回転であり、動作自体は同様である。シフトドラム13が第1位置から第4位置に向けて回転し、押圧部材14の摺動子14aが第2傾斜部35に案内されると、シフトフォーク17の軸部170の第2端部17cが第2ストッパ22に当接し、シフトフォーク17の第2方向D2への移動が規制される。このとき、押圧部材14の摺動子14aが第2傾斜部35の途中に位置しており、このときのシフトドラム13の回転位置を第5位置とする。即ち、シフトドラム13は、第1位置から第4位置まで回転する間の第5位置であるときに、切替スリーブ55の内スプライン55sと第2ドリブンギヤ52の外スプライン52sとが第2噛合状態であり、かつ、切替スリーブ55が第2ストッパ22により規制されていない非規制状態から第2規制状態に切り替わる。
【0050】
シフトドラム13が第5位置から第4位置に向けて回転し、押圧部材14の摺動子14aが第2傾斜部35に更に案内されると、図4(b)に示すように、押圧部材14の摺動子14aが第2溝部32に位置してシフトドラム13の回転位置が第4位置に位置する。このとき、シフトドラム13が第5位置であるときに対し、押圧部材14は第2方向D2に移動されているが、シフトフォーク17は移動が規制されている。このため、押圧部材14の第1押圧部141が第1補助部材15を介してコイルばね18の第1端部181を押圧するが、コイルばね18の第2端部182は第2方向D2に移動できないので、コイルばね18が圧縮される。即ち、シフトドラム13が第5位置から第4位置に移動することにより、コイルばね18が弾性変形することにより切替スリーブ55がシフトフォーク17を介して第2ストッパ22を押圧する。これにより、シフトドラム13が第4位置であるときは、切替スリーブ55の内スプライン55sと第2ドリブンギヤ52の外スプライン52sとが第2噛合状態であり、かつ、切替スリーブ55が第2ストッパ22により第1方向D1に移動することを規制された第2規制状態であり、コイルばね18が弾性変形することにより切替スリーブ55が第2ストッパ22を押圧している。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の噛合クラッチ装置10によると、シフトドラム13が第2位置であるときは、切替スリーブ55の内スプライン55sと第1ドリブンギヤ51の外スプライン51sとが第1噛合状態であり、かつ、切替スリーブ55が第1ストッパ21により第1方向D1に移動することを規制された第1規制状態であり、コイルばね18が弾性変形することにより切替スリーブ55が第1ストッパ21を押圧している。これにより、噛合クラッチの噛合状態を確保するために噛合クラッチの歯同士の軸方向の噛合い長さを十分に取る場合に比べて、切替スリーブ55の移動量を短くすることができるので、内スプライン55s及び外スプライン51sの長さや、シフトドラム13の長さを短くすることができ、噛合クラッチ装置10の小型化を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態の噛合クラッチ装置10によれば、第1クラッチC1の係合完了状態においてコイルばね18によって噛合する歯同士が常時付勢されているので、走行中のギヤ抜けを抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態の噛合クラッチ装置10によれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の2つのクラッチに対して、係脱機構11を共用しているので、部品点数の増加を抑えることができる。
【0054】
上述した本実施形態の噛合クラッチ装置10では、第1ストッパ21及び第2ストッパ22とシフトフォーク17とが当接することで切替スリーブ55の軸方向への移動を停止する場合について説明したが、これには限られず、切替スリーブ55と第1ドリブンギヤ51及び第2ドリブンギヤ52とが当接することで切替スリーブ55の軸方向への移動を停止するようにしてもよい。この場合、例えば、切替スリーブ55の端面と第1ドリブンギヤ51及び第2ドリブンギヤ52に設けられたフランジ状の端面とを当接するようにする。いずれの場合も、当接部材同士で相対回転がないことが好ましい。
【0055】
また、本実施形態の噛合クラッチ装置10では、弾性部材であるコイルばね18は押圧部材14とシフトフォーク17との間に介在されている場合について説明したが、これには限られず、例えば、電動モータ12とシフトドラム13との間に介在された捩りコイルばねであってもよい。
【0056】
また、本実施形態の噛合クラッチ装置10では、噛合クラッチ装置10は第1クラッチC1及び第2クラッチC2の2つのクラッチの係脱を行うものとした場合について説明したが、これには限られず、1つのクラッチの係脱を行うものとしてもよい。
【0057】
また、本実施形態の噛合クラッチ装置10では、第1噛合クラッチの一例としてスプライン歯同士が噛合する第1クラッチC1を適用した場合について説明したが、これには限られず、噛合クラッチとしてドグクラッチなどを適用してもよい。また、本実施形態の車両用駆動装置2では、噛合クラッチ装置10を変速機4に適用した場合について説明したが、これには限られず、動力伝達経路を接断する噛合クラッチを利用する動力伝達機構の全般に適用することができる。また、本実施形態では、噛合クラッチ装置10をハイブリッド車1に適用した場合について説明したが、これには限られず、電気自動車やエンジンのみを駆動源とする車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
4…変速機(動力伝達装置)、10…噛合クラッチ装置、11…係脱機構、12…電動モータ(アクチュエータ)、13…シフトドラム、14…押圧部材、14a…摺動子、17…シフトフォーク、18…コイルばね(弾性部材、圧縮コイルばね)、20…エンジン(駆動源)、21…第1ストッパ(ストッパ)、22…第2ストッパ、30…カム溝(案内部)、34…第1傾斜部(傾斜部)、35…第2傾斜部(傾斜部)、40…モータ・ジェネレータ(駆動源)、50…カウンタ軸、51s…外スプライン(第2突歯)、52s…外スプライン(第4突歯)、53…出力ギヤ(出力部材)、55…切替スリーブ(スリーブ)、55s…内スプライン(第1突歯、第3突歯)、70…前輪(車輪)、92…中間軸(入力部材)、141…第1押圧部、142…第2押圧部、171…第1被押圧部、172…第2被押圧部、181…弾性部材の第1端部、182…弾性部材の第2端部、C1…第1クラッチ(噛合クラッチ、第1噛合クラッチ)、C2…第2クラッチ(第2噛合クラッチ)、D1…第1方向(軸方向の一方)、D2…第2方向(軸方向の他方)
図1
図2
図3
図4