(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157306
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電子制御燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 57/02 20060101AFI20221006BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20221006BHJP
F02M 37/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F02M57/02 330A
F02M57/02 330C
F02M51/06 A
F02M37/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061442
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】307043902
【氏名又は名称】ザマ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】下山 勇暢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 百合
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA01
3G066AB02
3G066BA48
3G066BA56
3G066CA08
3G066CA09
3G066CA23U
3G066CC06U
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】
アマチャーとインナーヨークとの間におけるクリアランスおよびプランジャーと加圧室との間におけるクリアランスを大きく設定することなく、設計通りのクリアランスでプランジャーおよびアマチャーの往復動を円滑に行わせることを可能にして十分な性能を発揮させることが可能であり、また、組み立ても簡単な電子制御燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】
加圧室3に軸線方向に往復運動可能に嵌挿されたプランジャー7が基端側に向けて付勢する戻しばね8を有して軸線方向に所定の待機位置に嵌挿、配置されているとともにインナーヨーク6に配置した電磁コイル4により励磁して軸線方向に往復運動するプランジャー7と別体に形成されたアマチャー9がその先端面92をプランジャー7の基端面74に軸線方向に当接させた状態で且つ常時はプランジャー7を戻しばね8に抗して所定の待機位置に保持する位置に嵌挿、配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側にエンジンの吸気口へ向けた噴射弁と噴射ノズルを備えた筒状の加圧室の基端側に内周面が前記加圧室よりも大径の筒状で外周に電線を巻回して電磁コイルを形成した筒状のボビンの内側に配置したインナーヨークが連設されており、前記加圧室に軸線方向に往復運動可能に嵌挿されたプランジャーが基端側に向けて付勢する戻しばねを有して軸線方向に所定の待機位置に嵌挿、配置されているとともに前記インナーヨーク外周に配置された前記電磁コイルにより励磁する力と前記戻しばねの付勢力により軸線方向に往復運動する前記プランジャーと別体に形成されたアマチャーがその先端面を前記プランジャーの基端面に軸線方向に当接させた状態で且つ常時は前記プランジャーを前記戻しばねに抗して所定の待機位置に保持する位置に嵌挿、配置されており、前記電磁コイルを励磁してアマチャーをプランジャー方向に移動させてプランジャーを戻しばねに抗して先端側に移動させ、燃料タンクから燃料取入れ管路を介して加圧室に供給された燃料を加圧して前記噴射弁を介して前記噴射ノズルからエンジンに噴射することを特徴とする電子制御燃料噴射装置。
【請求項2】
前記プランジャーにおける基端側部分が加圧室に連接する前記インナーヨーク内に挿入されているとともに前記プランジャーは基端側にフランジが形成されており、このフランジの先端面と前記インナーヨークの前記加圧室との間に形成される段部とに前記プランジャーを基端側に向けて付勢する戻しばねが配置されているとともに、前記インナーヨーク内にはインナーヨーク内に嵌挿されたアマチャーを保持させて前記アマチャーの先端面に前記フランジの基端面で接している前記プランジャーを前記戻しばねに抗して軸線方向の所定の待機位置に保持させるための保持部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電子制御燃料噴射装置。
【請求項3】
前記保持部がインナーヨークのアマチャー摺動壁の内面にあって、前記保持部に前記アマチャーの基端面を保持させることを特徴とする請求項2記載の電子制御燃料噴射装置。
【請求項4】
前記プランジャーの基端側に形成されたフランジの外形が前記インナーヨークの内周面と同形であることを特徴とする請求項2または3記載の電子制御燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復運動するプランジャーにより加圧室に供給された燃料を圧送して噴射ノズルからエンジンの吸気口に噴射する電子制御燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁駆動されるプランジャーのポンプ作用により燃料を圧送して噴射ノズルから燃料をエンジンの吸気口に噴射するようにした電子制御燃料噴射装置が例えば特開2007-263016号公報などに提示されている。
【0003】
この従来の電子制御燃料噴射装置は、
図3に示すように、先端側(図示する下方)にエンジンの吸気口(図示せず)へ向けた噴射弁1と噴射ノズル2を備えた筒状の加圧室3の基端側(図示する上方)に内周面の径が前記加圧室3の内周面の径よりも大径の筒状で外周に電線を巻回して電磁コイル4を形成した筒状のボビン5の内側に配置したインナーヨーク6が前記加圧室3と同軸に連設されており、加圧室3に軸線方向に往復運動可能に嵌挿されたプランジャー7が基端側に向けて付勢する戻しばね8を有して軸線方向に所定の待機位置に嵌挿、配置されているとともに前記インナーヨーク6に前記電磁コイル(固定コア)4により励磁して軸線方向に往復運動する前記プランジャー7に一体に固着されたアマチャー(可動コア)9が嵌挿、配置された構成であり、電磁コイル4を励磁してアマチャー9と一体のプランジャー7を戻しばね8の付勢力に抗して先端側に移動させ、燃料タンク(図示せず)に接続された燃料取入れ管路10から燃料がインレットチェックバルブ11を介して加圧室3へ供給される燃料を加圧して噴射ノズル2からのエンジンへの噴射と、電磁コイル4の励磁を解除してアマチャー9と一体のプランジャー7を戻しばね8の付勢力により基端側に移動させ、再度、燃料を加圧室3に供給する操作を繰り返すものである。
【0004】
尚、前記従来のこの種の電子制御燃料噴射装置は、電磁コイル4により駆動されるプランジャー7が往復運動することにより、加圧室3への燃料供給と加圧室3への燃料吸引と加圧室3に吸引された燃料の圧送が行われ、また、加圧室3内では燃料を吸引する際に生じるベーパーおよび自然流入のベーパーが溜まるので、これらのベーパーは加圧室3に設けられたスピルバルブ12からアマチャー9を囲むインナーヨーク6の外側面とその外周に配置される電磁コイル4を巻回するボビン5の内壁面との間に形成した戻し通路13を介して前記加圧室3へ供給された燃料の一部とともに燃料戻り管路14から燃料タンク(図示せず)に戻すことが行われている。
【0005】
ところで、前記従来の電子制御燃料噴射装置において、電磁コイルにより励磁されるアマチャー9はインナーヨーク6とのクリアランスが小さい場合に得られる駆動力が高く、前記クリアランスが大きい場合には駆動力が低くなるように、前記クリアランスにより駆動力が変化することが知られており、前記クリアランスを小さくすることが望まれる。
【0006】
しかしながら、前記プランジャー7は往復運動を繰り返すため摩耗の観点から硬質であり、且つアマチャーの作用に干渉しない非磁性体などの材料などにより形成するのが好ましいが、加圧室3に供給された燃料を加圧して噴射するとともに燃料に含まれるベーパーを加圧室3から排出する作用を生じさせるものであることから気密性に優れた非磁性材料などにより形成するのが好ましい。
【0007】
また、前記アマチャー9は前記電磁コイル4により生じる電磁力により励磁して自身およびプランジャー7を軸線方向に移動する作用を生じさせるものであり、少なくとも一部が磁性を有する鉄などの金属により製造されることが好ましい。
【0008】
そこで、プランジャー7とアマチャー9とをそれぞれに異なる性質の素材により別々に形成し、例えば
図3に示したようにアマチャー9の先端面の中心位置に形成した連結穴91にプランジャー7の上部71を圧入などにより固着して一体化していた。
【0009】
そのため、実際の製品では別部品による寸法の精度により互いに固着したプランジャー7とアマチャー9との同軸度を一致させることが困難で、アマチャー9の往復動動を円滑に行わせるためもあり、実際の製品ではアマチャー9とインナーヨーク6とのクリアランスおよびプランジャー7と加圧室3との間におけるクリアランスが大きく設定されており、その結果、設計通りの性能を担保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、アマチャーとインナーヨークとの間におけるクリアランスおよびプランジャーと加圧室との間におけるクリアランスを大きく設定することなく、設計通りのクリアランスでプランジャーおよびアマチャーの往復運動を円滑に行わせることを可能にして十分な性能を発揮させることが可能であり、また、従来のようにそれぞれに異なる性質の素材により別々に形成したアマチャーおよびプランジャーを圧入などにより固着して一体化する必要がなく組み立ても簡単な電子制御燃料噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためになされた本発明である電子制御燃料噴射装置は、先端側にエンジンの吸気口へ向けた噴射弁と噴射ノズルを備えた筒状の加圧室の基端側に内周面が前記加圧室よりも大径の筒状で外周に電線を巻回して電磁コイルを形成した筒状のボビンの内側に配置したインナーヨークが連設されており、前記加圧室に軸線方向に往復運動可能に嵌挿されたプランジャーが基端側に向けて付勢する戻しばねを有して軸線方向に所定の待機位置に嵌挿、配置されているとともに前記インナーヨーク外周に配置された前記電磁コイルにより励磁する力と前記戻しばねの付勢力により軸線方向に往復運動する前記プランジャーと別体に形成されたアマチャーがその先端面を前記プランジャーの基端面に軸線方向に当接させた状態で且つ常時は前記プランジャーを前記戻しばねに抗して所定の待機位置に保持する位置に嵌挿、配置されており、前記電磁コイルを励磁してアマチャーをプランジャー方向に移動させてプランジャーを戻しばねに抗して先端側に移動させ、燃料タンクから燃料取入れ管路を介して加圧室に供給された燃料を加圧して前記噴射弁を介して前記噴射ノズルからエンジンに噴射することを特徴とする。
【0013】
また、本発明において、前記プランジャーにおける基端側部分が加圧室に連接する前記インナーヨーク内に挿入されているとともに前記プランジャーは基端側にフランジが形成されており、このフランジの先端面と前記インナーヨークの前記加圧室との間に形成される段部とに前記プランジャーを基端側に向けて付勢する戻しばねが配置されているとともに、前記インナーヨーク内にはインナーヨーク内に嵌挿されたアマチャーを保持させて前記アマチャーの先端面に前記フランジの基端面で接している前記プランジャーを前記戻しばねに抗して軸線方向の所定の待機位置に保持させるための保持部が形成されている場合には、前記電磁コイルを励磁していないときにプランジャーを所定の待機位置に確実に保持させることができるとともに組み立てもきわめて容易である。
【0014】
殊に、本発明において、前記プランジャーの基端側に形成されたフランジの外形が前記インナーヨークの内周面と同形である場合には、前記フランジが前記インナーヨークの内周面にガイドされて往復運動するので、往復運動時にプランジャーの軸心がブレることがない。
【発明の効果】
【0015】
本発明である電子制御燃料噴射装置によると、互いに異なる性質の素材により別々に形成したアマチャーおよびプランジャーの同軸度を加味してアマチャーとインナーヨークとのクリアランスおよびプランジャーと加圧室との間におけるクリアランスを大きく設定することなしにプランジャーおよびアマチャーの往復運動を設計通りに担保させて円滑に行わせることが可能であり、また、従来のようにそれぞれに異なる性質の素材により別々に形成したアマチャーおよびプランジャーを圧入などにより固着して一体化する必要がなく、組み立ても簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の好ましい実施の形態を示す正面縦断面図である。
【
図2】本発明の
図1に示した実施の形態と比較例とにおけるプランジャーの往復動と燃料流量との関係を示す状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の電子制御燃料噴射装置における実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明である電子制御燃料噴射装置の好ましい実施形態の正面縦断面図を示すものであり、基本的な構成および基本的な燃料噴射の作動状況は前記
図3に示した従来周知のものと同様であり、本実施の形態が前記
図3に示した従来例と最も異なる点は、互いに異なる材質で形成されたプランジャー7とアマチャー9とが互いに一体化されていない点である。
【0019】
更に説明すると、本実施の形態は、気密性、潤滑性に優れた高硬質の非磁性材料により成形されたプランジャー7が加圧室3内に軸線方向に往復運動可能に配置されているとともにプランジャー7における基端側部分が加圧室3に同軸に連接する前記インナーヨーク6内に挿入されているとともにプランジャー7は基端側に外形が前記インナーヨーク6の内周面と同形(本実施の形態では円形)であるフランジ72が形成されており、このフランジ72の先端面73と前記インナーヨーク6の前記加圧室3との間に形成される段部61とにプランジャー7を基端側に向けて付勢する戻しばね8が配置されている。
【0020】
また、インナーヨーク6内には少なくとも一部に磁性体を有して電磁コイル4により励磁して軸線方向に往復運動するアマチャー9がその先端面92をプランジャー7の基端面74に軸線方向に当接させた状態で且つ常時は前記戻しばね8に抗してプランジャー7を所定の待機位置に保持する位置に嵌挿、配置されている。
【0021】
尚、本実施の形態では、前記アマチャー9が非励磁時に、その基端面93をインナーヨーク6の基端側に配置した壁の保持部62に保持させることでプランジャー7を所定の待機位置に保持する位置に嵌挿、配置可能にし、前記電磁コイル4を励磁してアマチャー9をプランジャー7方向に移動させてプランジャー7を戻しばねに抗して先端側に移動させ、燃料タンク(図示せず)から燃料取入れ管路10を介して加圧室3に供給された燃料を加圧して噴射弁1を開放して噴射ノズル2からエンジンに噴射するものである。
【0022】
以上の構成を有する本実施の形態は、従来の電子制御燃料噴射装置と異なり、異なる材質で形成されたプランジャー7とアマチャー9とが例えば圧入などにより互いに同軸化して一体化することが不要であり、プランジャー7とアマチャー9とをそれぞれ個別に加圧室3とインナーヨーク6とにそれぞれ軸心を揃えて余計なクリアランスを設けることなしに往復動動可能に嵌挿、配置することで設計した通りの性能を発揮させることができる。
【0023】
以上のように本実施の形態は、電磁コイル4により励磁されるアマチャー9のインナーヨーク6とのクリアランスが小さいので高い駆動力を得ることが可能でアマチャー9の摺動性を十分に発揮でき、また、プランジャー7も加圧室3とのクリアランスが小さいので気密性に優れた燃料の圧縮を可能にしている。
【0024】
特に、本実施の形態は、それぞれ別体に形成したプランジャー7とアマチャー9とを軸線方向に当接させた構成としたのでそれぞれ個別に加圧室3およびインナーヨーク6に軸線方向に円滑に摺動可能に嵌挿すればよいので組み立ても容易である。
【0025】
図2は、本発明における
図1に示した実施の形態および
図3に示した従来例である比較例についてのプランジャーの往復動と燃料流量との関係を示す状態図であり、この図によると、
図1に示した実施の形態は比較例とほぼ同じ流量を供給できることが実証された。
【符号の説明】
【0026】
1 噴射弁、2 噴射ノズル、3 加圧室、4 電磁コイル、5 ボビン、6 インナーヨーク、7 プランジャー、8 戻しばね、9 アマチャー、10 燃料取入れ管路、11 インレットチェックバルブ、12 スピルバルブ、13 戻し通路、14 燃料戻り管路、61 段部、62 保持部、71 上部、72 フランジ、73 先端面、74 基端面、91 連結穴、92 先端面、93 基端面