(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157336
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20221006BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20221006BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20221006BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221006BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221006BHJP
B60L 50/10 20190101ALI20221006BHJP
【FI】
B60W20/15
F02D29/06 D
F02D45/00 362
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60L50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061497
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】丹田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】麻野 隼
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
3G384
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB16
3D202CC22
3D202DD17
3D202DD24
3D202DD44
3G093AA07
3G093BA32
3G093BA33
3G093DA07
3G093EA02
3G093EB08
3G093EC02
3G384AA28
3G384BA02
3G384BA52
3G384DA56
3G384EB02
3G384FA58Z
5H125AA01
5H125AC08
5H125BA00
5H125BD17
5H125EE31
(57)【要約】
【課題】エンジンのクランクシャフトに発電モータが直結された構成において、エンジンのNVを抑制できる、車両用制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンのクランク角が各気筒の燃焼行程内に設定した所定範囲に含まれないときには、発電モータからエンジンに対して負となる第1値のトルクがMG1トルクとして出力され、クランク角が所定範囲に含まれるときには、発電モータから第1値よりも絶対値の小さい第2値のトルク(第1値のトルクよりも弱いトルク)がMG1トルクとして出力される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトに発電モータが直結された構成を有する車両に用いられる制御装置であって、
前記エンジンのクランク角を取得し、
当該取得したクランク角が前記エンジンの各気筒で爆発トルクを発生する燃焼行程内に設定される所定範囲に含まれるときに、前記所定範囲に含まれないときよりも、前記発電モータが発電により出力する発電トルクを低減させる、車両用制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの各気筒の点火とほぼ同じタイミングで前記発電トルクの低減を開始する、請求項1に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクシャフトに発電モータが直結された構成を有する車両に用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよびエンジンの動力で発電する発電モータを搭載したハイブリッド車両(HV:Hybrid Vehicle)には、エンジンのクランクシャフトに発電モータを直結した構成のものがある(たとえば、特許文献1参照)。この構成では、フライホイールやダンパなどを省略することにより、コストの低減および燃費の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レシプロエンジンでは、吸気、圧縮、燃焼および排気の行程が繰り返され、燃焼行程(膨張行程)で爆発トルク(瞬時トルク)が発生する。エンジンと発電モータとを直結し、フライホイールやダンパを省略した構成では、爆発トルクを吸収する機構がないため、NV(ノイズバイブレーション)特性が悪化する懸念がある。
【0005】
本発明の目的は、エンジンのクランクシャフトに発電モータが直結された構成において、エンジンのNVを抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る車両用制御装置は、エンジンのクランクシャフトに発電モータが直結された構成を有する車両に用いられる制御装置であって、エンジンのクランク角を取得し、当該取得したクランク角がエンジンの各気筒で爆発トルクを発生する燃焼行程内に設定される所定範囲に含まれるときに、所定範囲に含まれないときよりも、発電モータが発電により出力する発電トルクを低減させる。
【0007】
この構成によれば、エンジンの各気筒の燃焼行程内に所定範囲が設定され、エンジンのクランク角が所定範囲に含まれるときに、クランク角が所定範囲に含まれないときよりも、発電モータが発電により出力する発電トルクが低減される。
【0008】
燃焼行程では、エンジンのピストンに爆発(燃焼)による爆発力が作用し、その爆発力は、ピストンからコンロッド(コネクティングロッド)に付与される回転力(爆発トルク)と、ピストンに付与されるストローク方向と直交する方向の側力とに分解される。クランク角が燃焼行程内の所定範囲に含まれるときに、発電トルクが低減されることにより、エンジンのクランクシャフトのイナーシャが小さくなり、コンロッドに付与される回転力に対する反力が小さくなる。その結果、ピストンに作用する側力(ロストルク)が小さくなるので、側力によるNVを抑制することができる。
【0009】
発電トルクの低減は、エンジンの各気筒の点火とほぼ同じタイミングで開始されてもよい。
【0010】
これにより、ピストンからコンロッドに回転力が付与され始めるときから、その回転力に対する反力を小さくでき、エンジンのNVを良好に抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ピストンに作用する側力(ロストルク)を小さくでき、側力によるNVを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が適用されたハイブリッド車両の要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】エンジンのクランク角と軸トルクおよび筒内圧との関係を示す図である。
【
図3】エンジンのピストンおよびクランク機構を図解的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
<ハイブリッド車両の要部構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が適用されたハイブリッド車両1の要部の構成を示すブロック図である。
【0015】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載した車両である。ハイブリッド車両1には、エンジン2、発電モータ(MG1)3および駆動モータ(MG2)4が搭載されている。
【0016】
エンジン2は、たとえば、3気筒4ストロークのレシプロエンジンである。エンジン2には、燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。
【0017】
発電モータ3および駆動モータ4は、たとえば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)からなる。
【0018】
発電モータ3は、エンジン2の動力により発電を行う発電モータとして、その回転軸がエンジン2のクランクシャフトと一体に回転するように設けられることにより、エンジン2に直結されている。
【0019】
駆動モータ4は、ハイブリッド車両1の走行用の動力を発生する駆動モータとして、その回転軸がハイブリッド車両1の走行駆動系に連結される。走行駆動系には、たとえば、デファレンシャルギヤ5が含まれており、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ6には、駆動モータ4の回転軸に一体に回転するように設けられた駆動モータギヤ7が噛合している。駆動モータ4が発生する動力は、駆動モータギヤ7からデファレンシャルギヤ5のリングギヤ6に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト8を介して、左右の駆動輪9に伝達される。これにより、駆動輪9が回転し、ハイブリッド車両1が前進走行または後進走行する。
【0020】
また、ハイブリッド車両1には、電池(BAT)11およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)12が搭載されている。
【0021】
電池11は、複数の二次電池を組み合わせた組電池である。二次電池は、たとえば、リチウムイオン電池である。電池11は、たとえば、約200~150V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0022】
PCU12は、発電モータ3および駆動モータ4の駆動を制御するためのユニットであり、インバータ13,14、コンバータ(CONV)15およびMGECU16を備えている。
【0023】
インバータ(INV1)13は、発電モータ3を駆動する三相電圧形インバータであり、2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ13は、発電モータ3の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を発電モータ3に供給する。また、インバータ13は、発電モータ3の回生運転(発電運転)時に、発電モータ3で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0024】
インバータ(INV2)14は、駆動モータ4を駆動する三相電圧形インバータであり、インバータ13と同様に、2個のIGBTの直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ14は、駆動モータ4の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を駆動モータ4に供給する。また、インバータ14は、駆動モータ4の回生運転(発電運転)時に、駆動モータ4で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0025】
コンバータ15は、発電モータ3および駆動モータ4の力行運転時に、電池11から出力される直流電力を昇圧してインバータ13,14に供給する。また、発電モータ3および駆動モータ4の回生運転時には、インバータ13,14から出力される直流電力を降圧して電池11に供給する。
【0026】
ハイブリッド車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されており、MGECU16は、複数のECUのうちの1つである。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラ)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0027】
複数のECUには、HV-ECU17、EFI-ECU18およびBMS-ECU19が含まれている。HV-ECU17は、エンジン2、発電モータ3および駆動モータ4を含むハイブリッドシステムの全体を統括的に制御するユニットである。EFI-ECU18は、エンジン2を制御するユニットである。エンジン2のクランク角を検出するため、EFI-ECU18には、クランクシャフトが一定角度回転する度にパルス信号を出力する角度センサ21と、特定の気筒が一定のクランク角であるときにパルス信号を出力する気筒判別センサ22とが接続されている。
【0028】
エンジン2の制御では、HV-ECU17からEFI-ECU18にエンジン制御指令が送信され、EFI-ECU18により、そのエンジン制御指令に従って、インジェクタによる燃料の噴射量および噴射タイミングなど、電子スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグの動作が制御される。また、発電モータ3および駆動モータ4の制御では、HV-ECU17からMGECU16にモータ制御指令が送信され、MGECU16により、そのモータ制御指令に従って、インバータ13,14およびコンバータ15の動作が制御される。BMS-ECU19は、バッテリ11を構成する各電池セルの端子電圧の均一化などの処理を行う。
【0029】
ハイブリッド車両1では、エンジン2の始動時には、電池11から発電モータ3に電力が供給されて、発電モータ3が力行運転されることにより、エンジン2が発電モータ3によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン2の回転数がファイアリングに必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン2の点火プラグがスパークされると、エンジン2がファイアリングする。
【0030】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ4が力行運転されて、駆動モータ4が動力を発生する。エンジン2が停止し、発電モータ3による発電が行われない状態で、電池11の出力で駆動モータ4が駆動されることにより、ハイブリッド車両1は、電気自動車としてEV(Electric Vehicle)走行する。また、エンジン2が運転状態(ファイアリング)にされて、発電モータ3が発電運転(回生運転)されながら、発電モータ3の出力(発電電力)と電池11の出力とを合わせた電力で駆動モータ4が駆動されることにより、ハイブリッド車両1は、HV走行する。
【0031】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ4が回生運転されて、駆動輪から駆動モータ4に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ4が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このときにも、駆動モータ4の発電電力が電池11に供給されることにより、電池11が充電される。
【0032】
<NV低減制御>
図2は、エンジン2のクランク角と軸トルクおよび筒内圧との関係を示す図である。
【0033】
3気筒4ストロークのエンジン2では、1番気筒の排気上死点(TDC:Top Dead Center)をクランク角の基準(0°CA)とし、各気筒の点火順序が1番気筒→3番気筒→2番気筒の順とした場合、1サイクルでクランク角が0°~720°CAの範囲で変化し、360~540°CAが1番気筒の燃焼行程となり、600~60°CAが3番気筒の燃焼行程となり、120~300°CAが1番気筒の燃焼行程となる。
【0034】
図3は、エンジン2のピストン31およびクランク機構32を図解的に示す図である。
【0035】
各気筒の燃焼行程では、エンジン2のピストン31に爆発(燃焼)による爆発力が作用し、その爆発力は、ピストン31からピストン31とクランク機構32(クランクピン)とを連結するコンロッド(コネクティングロッド)33に付与される爆発トルク(回転力)F1と、ピストン31に付与されるストローク方向と直交する方向の側力F2とに分解される。
【0036】
そのため、爆発トルクが大きいと、それに伴ってエンジン2のロストルクとなる側力F2が大きくなる。その結果、エンジン2の横揺れが大きくなり、NV(ノイズバイブレーション)特性が悪化する。
【0037】
そこで、HV-ECU17は、EFI-ECU18からエンジン2のクランク角の情報を取得し、
図2に示されるように、クランク角が各気筒の燃焼行程内に設定した所定範囲に含まれないときには、発電モータ3からエンジン2に対して負となる第1値のトルクがMG1トルクとして出力され、クランク角が所定範囲に含まれるときには、発電モータ3から第1値よりも絶対値の小さい第2値のトルク(第1値のトルクよりも弱いトルク)がMG1トルクとして出力されるように、MGECU16に発電モータ3のモータ制御指令を送信する。
【0038】
所定範囲は、クランク角の範囲として、たとえば、各気筒の点火タイミングとほぼ同じタイミングで開始され、その開始時のクランク角から一定角度だけ回転が進んだクランク角で終了される範囲に設定される。所定範囲には、各気筒の筒内圧がピークとなるクランク角が少なくとも含まれる。
【0039】
第1値は、電池11の充電容量に対する充電残量の比率を示すSOC(State Of Charge)に応じて可変に設定される。たとえば、電池11のSOCが低いほど、第1値が連続的に大きくなるように、または、第1値が段階的に大きくなるように設定されてもよい。
【0040】
また、第1値は、ハイブリッド車両1の車速に応じて可変に設定されてもよい。たとえば、ハイブリッド車両1の車速が速い、すなわち、消費電力量が大きいほど、第1値が連続的に大きくなるように、または、第1値が段階的に大きくなるように設定されてもよい。
【0041】
さらに、第1値は、電池11のSOCおよび車速(発電量)に応じて可変に設定されてもよい。
【0042】
<作用効果>
このように、エンジン2の各気筒の燃焼行程内に所定範囲が設定され、エンジン2のクランク角が所定範囲に含まれるときに、クランク角が所定範囲に含まれないときよりも、発電モータ3が発電により出力するMG1トルク(発電トルク)が低減される。
【0043】
クランク角が燃焼行程内の所定範囲に含まれるときに、MG1トルクが低減されることにより、エンジン2のクランクシャフトのイナーシャが小さくなり、コンロッド33に付与される爆発トルクF1に対する反力が小さくなる。その結果、ピストン31に作用する側力F2が小さくなるので、エンジン2の横揺れを抑制でき、その横揺れによるNV特性の悪化を抑制できる。
【0044】
所定範囲は、MG1トルクの低減がエンジン2の各気筒の点火とほぼ同じタイミングで開始されるように設定されている。これにより、ピストン31からコンロッド33に爆発トルクF1が付与され始めるときから、その回転力に対する反力を小さくでき、側力F2によるNVを良好に抑制することができる。
【0045】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0046】
たとえば、前述の実施形態では、クランク角が所定範囲に含まれるときに、発電モータ3から一定の第2値のMG1トルクが出力されるとしたが、第1値よりも絶対値の小さい値であれば、第2値が一定でなくてもよく、第2値が所定範囲で非線形に変更されてもよい。
【0047】
所定範囲は、各気筒の燃焼行程の全範囲であってもよい。
【0048】
また、HV-ECU17の不揮発性メモリに、エンジン2のクランク角と軸トルクとの関係がマップの状態で記憶されていて、その関係からエンジン2のクランク角に応じた軸トルクが取得されて、たとえば、軸トルクが開始閾値以上に上昇したときに、所定期間が開始され(MG1トルクの低減が開始され)、軸トルクが終了閾値以下に低下したときに、所定期間が終了されてもよい。
【0049】
エンジン2は、3気筒4ストロークのガソリンエンジンであるとしたが、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。
【0050】
また、前述の実施形態では、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両1を取り上げたが、本発明は、エンジンおよびエンジンに直結される発電モータを搭載したハイブリッド車両であれば、シリーズ方式以外の方式のハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両に適用することもできる。
【0051】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1:ハイブリッド車両(車両)
2:エンジン
3:発電モータ
17:HV-ECU(車両用制御装置)