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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157364
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/08 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061542
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新庄 右典
(72)【発明者】
【氏名】中野 恭兵
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB01
3J027HB06
3J027HC03
3J027HC07
3J027HC10
(57)【要約】
【課題】デフケースと、そのデフケース内に収納される差動ギヤ機構とを備え、差動ギヤ機構が、デフケースに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、その両サイドギヤに噛合すると共にデフケースに回転自在に支持される複数のピニオンギヤとを有する差動装置において、サイドギヤ用のワッシャを簡単な構造でデフケースに回り止め可能とする。
【解決手段】デフケース(2)の少なくとも一方側の側壁(20s,20s′)と、該側壁(20s,20s′)と同側のサイドギヤ(24)の背面とは、環状のワッシャ(Ws)を挟んで摺動可能に当接しており、前記側壁(20s,20s′)の内面に設けた突起部(t)とワッシャ(Ws)との相互間には、該ワッシャ(Ws)をデフケース(2)に回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部(to,Wst)が設けられる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフケース(2)と、そのデフケース(2)内に収納される差動ギヤ機構(21)とを備え、前記差動ギヤ機構(21)は、前記デフケース(2)に回転自在に支持される一対のサイドギヤ(24)と、その両サイドギヤ(24)に噛合すると共に前記デフケース(2)に回転自在に支持される複数のピニオンギヤ(23)とを有する差動装置において、
前記デフケース(2)の少なくとも一方側の側壁(20s,20s′)と、該側壁(20s,20s′)と同側の前記サイドギヤ(24)の背面とは、環状のワッシャ(Ws)を挟んで摺動可能に当接しており、
前記側壁(20s,20s′)の内面に設けた突起部(t)と前記ワッシャ(Ws)との相互間には、該ワッシャ(Ws)を回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部(to,Wst,Wst′)が設けられることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
前記突起部(t)は、前記側壁(20s,20s′)の内側面より軸方向に突出しており、
前記凹凸係合部は、前記突起部(t)に設けた係合凹部(to)と、前記ワッシャ(Ws)に設けられて前記係合凹部(to)に相対回転不能に係合する突片部(Wst,Wst′)とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記突起部(t)は、前記デフケース(2)の回転軸線(X1)と同軸上に位置し、且つ前記側壁(20s,20s′)の内側面の内周部、及び/又は内周端寄りの中間部に配置されていて、周方向に延びるか或いは配列されることを特徴とする、請求項2に記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置、特にデフケースと、そのデフケース内に収納される差動ギヤ機構とを備え、差動ギヤ機構が、デフケースに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、その両サイドギヤに噛合すると共にデフケースに回転自在に支持される複数のピニオンギヤとを有する差動装置に関する。
【0002】
本発明及び本明細書において、「軸方向」とは、デフケースの回転軸線(実施形態では第1軸線)に沿う方向をいい、また「周方向」とは、前記回転軸線を中心線とする仮想円の円周方向をいう。
【背景技術】
【0003】
上記差動装置は、従来より知られている(例えば下記特許文献1を参照)。この特許文献1の差動装置では、ピニオンギヤ用ワッシャを、これとピニオン軸との嵌合部に設けた回り止め手段によりデフケースに固定しているが、サイドギヤ用ワッシャの回り止め対策は、とられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-100705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでサイドギヤ用ワッシャをデフケースの側壁に回り止めすれば、側壁とワッシャ間での摺動がなくなることから、設計上、サイドギヤとワッシャ間での摺動に因る焼付け対策のみを考慮すればよく、好都合であるが、従来では、サイドギヤ用ワッシャを簡単な構造で回り止めする技術手段は提案されていない。
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、サイドギヤ用ワッシャを簡単な構造でデフケースに回り止め可能とした差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、デフケースと、そのデフケース内に収納される差動ギヤ機構とを備え、前記差動ギヤ機構は、前記デフケースに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、その両サイドギヤに噛合すると共に前記デフケースに回転自在に支持される複数のピニオンギヤとを有する差動装置において、前記デフケースの少なくとも一方側の側壁と、該側壁と同側の前記サイドギヤの背面とは、環状のワッシャを挟んで摺動可能に当接しており、前記側壁の内面に設けた突起部と前記ワッシャとの相互間には、該ワッシャを回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部が設けられることを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記突起部は、前記側壁の内側面より軸方向に突出しており、前記凹凸係合部は、前記突起部に設けた係合凹部と、前記ワッシャに設けられて前記係合凹部に相対回転不能に係合する突片部とを含むことを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第2の特徴に加えて、前記突起部は、前記デフケースの回転軸線と同軸上に位置し、且つ前記側壁の内側面の内周部、及び/又は内周端寄りの中間部に配置されていて、周方向に延びるか或いは配列されることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の特徴によれば、デフケースの少なくとも一方側の側壁とサイドギヤの背面とは、環状のワッシャを挟んで摺動可能に当接しており、側壁の内面に設けた突起部とワッシャとの相互間には、ワッシャを回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部が設けられるので、そのワッシャをデフケースの側壁に、該側壁の突起部を含む簡単な回り止め構造で回り止めすることができる。これにより、サイドギヤ用ワッシャの焼付けに関しては、ワッシャに対するサイドギヤ背面の摺動による焼付け対策のみ行えばよく、その焼付け対策を特定部位に行う上での設計自由度が高められる。
【0011】
また第2の特徴によれば、突起部は、デフケース側壁の内側面より軸方向に突出し、また凹凸係合部は、突起部に設けた係合凹部と、ワッシャに設けられて係合凹部に相対回転不能に係合する突片部とを含む。この場合、側壁の内側面より軸方向に張出す突起部は、側壁の一部を軸方向厚肉にして側壁の剛性アップを達成可能であり、また、このように補強壁として機能する突起部に係合凹部を設けても、それによる側壁自体の剛性低下を最小限に抑えることができる。
【0012】
また第3の特徴によれば、突起部は、デフケース側壁の内側面の内周部、及び/又は内周端寄りの中間部に配置されていて、周方向に延びるか或いは配列されるので、この突起部によって、側壁の内周端周辺部を周方向広範囲に亘り補強可能となる。また、突起部は、デフケースの回転軸線と同軸上に位置していて、該突起部を囲繞するワッシャを同心状に保持できるので、ワッシャとサイドギヤとが同軸上に配置されることとなり、ワッシャとサイドギヤ背面とを径方向に偏心することなく摺動させることができる。これにより、ワッシャとサイドギヤ背面との摺動面の面圧が局所的に高まるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の第1実施形態に係る伝動装置を示す全体縦断面図と要部拡大断面図である。
図2図2は差動装置の、サイドギヤ及びサイドギヤ用ワッシャを省略して示す全体横断面図(図1の2-2線断面図)である。
図3図3はデフケースの第1側壁20sをキャリヤ側から見た側面図(図1の3-3線矢視図)であって、図3(A)はサイドギヤ用ワッシャを省いて描いた図、図3(B)は同ワッシャを実線で描いた図である。
図4図4はデフケース本体をキャリヤ側から見た側面図(図1の4-4線矢視図)である。
図5図5はキャリヤの第1端壁部31(即ちデフケースの第2側壁20s′)をデフケース本体側から見た側面図(図1の5-5線矢視図)であって、図5(A)はサイドギヤ用ワッシャを省いて描いた図(図3(A)対応図)、また図5(B)は同ワッシャを実線で描いた図(図3(B)対応図)である。
図6図6は減速機の要部横断面図(図1の6-6線断面図)である。
図7図7はデフケース本体とキャリヤとの相対向面の、溶接前の関係構成を説明するための分解側面図である。
図8図8は第2実施形態に係るキャリヤ端壁部(即ちデフケースの第2側壁20s′)をデフケース本体側から見た側面図であって、図5(B)に対応した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、図1図7を参照して、第1実施形態について説明する。
【0015】
図1において、車両、例えば自動車に搭載した伝動装置Aは、車体適所に固定支持されたミッションケース10と、そのミッションケース10内に収容、支持された単一の伝動ユニットUとを備えている。
【0016】
伝動ユニットUは、図示しない動力源(例えば車載の電動モータ)からの動力を減速する遊星歯車機構よりなる減速機Rと、減速機Rの出力を第1,第2出力軸51,52に差動回転を許容しつつ分配して伝達する差動装置Dとを一纏めにユニット化したものであって、減速機RのキャリヤCと差動装置Dとは第1軸線X1回りに一体的に回転する。そして、第1,第2出力軸51,52は、図示しない連動機構を介して左右の駆動車輪を連動回転させる。
【0017】
次に差動装置Dの具体例を、主として図1図2を参照して説明する。差動装置Dは、減速機Rから回転力を受けるデフケース2と、デフケース2内部の機構室に収納される差動ギヤ機構21とを備える。特に実施形態の差動装置Dは、デフケース2の第1,第2側壁20s,20s′がその回転軸線(第1軸線X1)と直交する仮想平面に沿う薄肉円板状に形成された扁平デフケース構造とされる。
【0018】
差動ギヤ機構21は、デフケース2に両端部が嵌合、固定されて、第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置される複数(実施形態は4個)のピニオン軸22と、このピニオン軸22に各々回転自在に支持される複数のピニオンギヤ23と、各ピニオンギヤ23と噛合し且つ第1軸線X1回りに回転可能な一対のサイドギヤ24とを備える。4個のピニオン軸22(従ってピニオンギヤ23)は、デフケース2の周方向に等間隔置きに、即ち90度の位相差を以て配置される。
【0019】
ピニオンギヤ23及びサイドギヤ24は、ベベルギヤで構成されるが、ギヤの種類は、ベベルギヤに限定されない。一対のサイドギヤ24は、差動ギヤ機構21の出力ギヤとして機能するものであり、両サイドギヤ24の中央部に設けた円筒状ボス部24bの内周面には、第1,第2出力軸51,52の内端部がそれぞれスプライン嵌合される。
【0020】
一対のサイドギヤ24は、前記ボス部24bと、ボス部24bの外周中央部より、前記仮想平面に沿って径方向外方側に延びる薄肉円板状の薄肉中間部24mと、その薄肉中間部24mの先部に一体に連設されるギヤ部24gとを有している。
【0021】
またギヤ部24gの背面(即ち後記サイドギヤ用ワッシャWsとの当たり面)は、前記仮想平面と平行な円環状の平面に形成されており、且つ薄肉中間部24mの外側面よりも軸方向外方側に張り出している。従って、薄肉中間部24mの外側面には、前記扁平デフケース構造に特有の環状且つ扁平なデッドスペースが形成される。
【0022】
尚、実施形態では、説明の便宜上、図1で左側のサイドギヤ24を第1サイドギヤと呼び、右側のサイドギヤ24を第2サイドギヤと呼ぶ。またデフケース2の両側壁のうち、図1で左側の側壁を第1側壁20sと呼び、右側の側壁を第2側壁20s′と呼ぶ。
【0023】
デフケース2は、一端を開放した概略椀状体に形成されるデフケース本体20と、そのデフケース本体20に結合されてその開放端を閉じる、第2側壁20s′としての閉塞壁とを備える。その閉塞壁は、本実施形態ではキャリヤCの第1端壁部31で構成される。即ち、第1端壁部31は、キャリヤCの一部(端壁部)であるが、デフケース2の一部(第2側壁20s′)としても機能する。
【0024】
尚、差動装置Dを単独で(即ち減速機Rから分離独立して)用いる場合には、上記閉塞壁は、デフケース専用の第2側壁20s′となる。
【0025】
デフケース本体20は、ケース本体主部20Mと、ケース本体主部20Mの外周端部に嵌合、固定(例えば溶接)される円筒状の胴部20Dとを備えており、ケース本体主部20Mは、円筒状の軸受ボス部20bと、軸受ボス部20bの内端に一体に連設されて前記仮想平面に沿って径方向外方側に延びる薄肉円板状の第1側壁20sとを含む。
【0026】
第1側壁20sの内側面の、第1サイドギヤ24のギヤ部24gに対応する部位は、前記仮想平面と平行な平面状のサイドギヤ支持面20sf1を構成する。即ち、サイドギヤ支持面20sf1は、円環状のサイドギヤ用ワッシャWsを介して第1サイドギヤ24のギヤ部24g背面を回転摺動可能に当接、支持する。
【0027】
図3(B)で明らかなように、サイドギヤ用ワッシャWsの内周部には、径方向内向きに突出する複数の回り止め用突片部Wstが周方向に間隔をおいて一体に突設される。尚、回り止め用突片部Wstは、設置個数は実施形態に限定されず、少なくとも1つ有ればよい。
【0028】
また図1及び図3で明らかなように、第1側壁20sの内側面は、これの内周部に軸方向外方側に一段窪んで形成される環状段部20soと、その環状段部20soの径方向外端に隣接し且つサイドギヤ支持面20sf1よりも軸方向内方側に張出す円環状の突起部tと、上記内側面を放射状に延びてサイドギヤ支持面20sf1を横切る複数条の油溝2gとを有しており、環状段部20soには、第1サイドギヤ24のボス部24b外端が回転可能に受容される。
【0029】
突起部tは、第1サイドギヤ24の、ギヤ部24g背面より軸方向内方側に後退した薄肉中間部24mの外側面と対向する位置(即ち前記デッドスペースに張出す位置)に配置される。従って、そのデッドスペースを活用して、突起部tを第1側壁20sの内側面に無理なく、しかもデフケース2を軸方向に拡幅させずに突設できるため、デフケース2の軸方向扁平化を図る上で有利となる。
【0030】
また複数状の油溝2gの内端部は、図3(A)で明らかなように、円環状の突起部tを径方向に横切るように突起部tに食い込んでおり、その食い込み部は、突起部tの凸面より凹んだ係合凹部toを形成する。そして、図1及び図3(B)で明らかなように、少なくとも一部の係合凹部toには、サイドギヤ用ワッシャWsの内周部に突設した前記回り止め用突片部Wstが相対回転不能に係合しており、これにより、ワッシャWsがデフケース2に対し回り止めされる。
【0031】
尚、実施形態では、油溝2gを、これが突起部tを横切るように形成することで、溝部2gの形成と同時にその内端部で係合凹部toを形成し、これにより、係合凹部toの成形を容易化しているが、別の実施形態として、係合凹部toを油溝2gとは別の位置で(即ち油溝2gの形成とは別個独立して)突起部tに形成してもよい。また、係合凹部toは、突起部tを必ずしも横切らせる必要はない。
【0032】
而して、突起部tに設けた係合凹部toと、ワッシャWsの内周部に設けた回り止め用突片部Wstとは、ワッシャWsをデフケース本体20に回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部を構成する。即ち、その凹凸係合部の一方が係合凹部toであり、また他方が突片部Wstである。
【0033】
また、軸受ボス部20bは、これに外周面が軸受26を介してミッションケース10の内周面に第1軸線X1回りに回転自在に支持される。また軸受ボス部20bの内周面には、必要に応じて螺旋溝20bgが設けられ、螺旋溝20bgは、軸受ボス部20bと第1出力軸51との相対回転に伴いデフケース2外の潤滑油をデフケース2内に給送するネジポンプ作用を発揮可能である。尚、軸受ボス部20bの外端面には、ミッションケース10内に流動する油を螺旋溝20bgに誘導する誘導突起が必要に応じて設けられる。
【0034】
次にデフケース本体20の胴部20Dの一例を説明する。胴部20Dは、円筒状の外周壁部20cと、サイドギヤ24のボス部24bを囲繞する環状の内周壁部20aと、ピニオンギヤ23を迂回するように配置されて外周壁部20c及び内周壁部20a間を一体に接続する中間壁部20mとを備える。そして、その外周壁部20cには、これの内外を連通して周方向90度おきに並ぶ複数個(実施形態は4個)の孔としての第1開口O1が形成され、第1開口O1の径方向内方側には前記中間壁部20mが臨んでいる。また外周壁部20c及び内周壁部20a間には、ピニオンギヤ24を各々収容可能な複数の第2開口O2が画成される。
【0035】
そして、外周壁部20cの、周方向に隣り合う第1開口O1,O1間で周方向に挟まれた壁部分は、ピニオンギヤ軸支部20cpとして機能するものであり、その壁部分の中央部には、ピニオン軸22の外端部を嵌合、支持する第1支持孔h1が形成される。また内周壁部20aは、ピニオン軸22の内端部を嵌合、支持する複数の第2支持孔h2を有していて、その第2支持孔h2周辺の壁部分もピニオンギヤ軸支部として機能する。
【0036】
ピニオン軸22の外端部は、これを横切り且つ外周壁部20cの横孔に挿入される抜け止めピン28(図1参照)で胴部20Dに固定される。抜け止めピン28は、デフケース本体20に溶接されるキャリヤCとの係合により、デフケース2に確実に抜け止めされる。尚、ピニオン軸22の固定手段は、実施形態に限定されず、他の固定手段(例えばカシメ、ボルト、止め環等)を実施可能である。
【0037】
尚また、ケース本体主部20Mと胴部20Dとの固定手段は、溶接に代えて、他の固定手段(例えばボルト止め、カシメ等)を用いてもよく、或いは、ケース本体主部20Mと胴部20Dとを一体に形成してもよい。
【0038】
次にキャリヤCの第1端壁部31(即ち第2側壁20s′)による第2サイドギヤ24の支持構造を説明する。
【0039】
第1端壁部31は、前記仮想平面に沿う円板状に形成されるものであって、これの、第2サイドギヤ24側の外側面31f(即ち第2側壁20s′の内側面に相当)は、前記仮想平面と平行な平面状のサイドギヤ支持面20sf2を有する。そのサイドギヤ支持面20sf2は、サイドギヤ用ワッシャWsを介して第2サイドギヤ24のギヤ部24g背面を回転摺動可能に当接、支持する。
【0040】
さらに第1端壁部31の外側面31fは、これの内周部に位置してサイドギヤ支持面20sf2よりも軸方向内方側に張出す円環状の突起部tと、外側面31fを放射状に延びてサイドギヤ支持面20sf2を横切る複数条の油溝2g′とを有しており、特に突起部tは、第2サイドギヤ24の薄肉中間部24mの外側面と対向する位置(即ち前記デッドスペースに張出す位置)に配置される。
【0041】
しかも複数状の油溝2g′の内端は、図5(A)で明らかなように、円環状の突起部tの一部に(即ち突起部tの径方向幅の中間部まで)食い込んでおり、その食い込み部は、突起部tの凸面より凹んだ係合凹部toを形成する。そして、図5(B)で明らかなように、少なくとも一部の係合凹部toには、サイドギヤ用ワッシャWsの内周部に径方向内向きに突設した回り止め用突片部Wstが相対回転不能に係合し、これにより、ワッシャWsが、第2側壁20s′を兼ねるキャリヤCに対し回り止めされる。
【0042】
而して、第2側壁20s′側においても、係合凹部toとワッシャWsの内周部に突設した回り止め用突片部Wstとが、ワッシャWsを回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部を構成する。
【0043】
また第1端壁部31の内周面には、必要に応じて螺旋溝31gが設けられ、螺旋溝31gは、第1端壁部31と第2出力軸52との相対回転に伴い減速機R内の潤滑油をデフケース2内に給送するネジポンプ作用を発揮可能である。
【0044】
尚、第1,第2側壁20s,20s′に設けるべき突起部tは、例えば第2側壁20s′側の突起部tのように側壁20s′の内側面の内周部(即ち内周端乃至その近傍部)に設けてもよいし、或いはまた、第1側壁20s側の突起部tのように側壁20sの内周端寄りの中間部に設けてもよい。
【0045】
尚また、突起部tは、例えば第2側壁20s′側の突起部tのように第1軸線X1を中心とした円環状に連続的に形成してもよいし、或いはまた、第1側壁20s側の突起部tのように周方向に沿って円弧状に配列してもよい。或いはまた、周方向に延びない任意形状に形成してもよい。
【0046】
次に図1及び図6を主として参照して、減速機Rの一例を説明する。減速機Rは、これの入力側となるサンギヤ41と、サンギヤ41のギヤ部41gに対し同心状に配置されてミッションケース10内周に回転不能に嵌合、固定されるリングギヤ42と、サンギヤ41及びリングギヤ42と噛合する複数(図示例は4個)の遊星ギヤPと、複数の遊星ギヤPを回転自在に支持するキャリヤCとを有する。
【0047】
サンギヤ41は、円筒軸状のサンギヤ本体41mの先部外周にギヤ部41gが形成されて構成される。サンギヤ本体41mは、図示しないが軸受を介してミッションケース10に回転自在に支持され、そのサンギヤ本体41m内には第2出力軸52が緩く縦通する。サンギヤ本体41mの、図示しない外端部は、不図示の動力源(例えば電動モータ)の出力側に不図示の連動機構を介して連動、連結されていて、動力源から回転動力を入力可能である。
【0048】
キャリヤCは、各々円板状に形成されて軸方向に互いに間隔をおいて並ぶ第1,第2端壁部31,32と、その両端壁部31,32間を一体に接続すべく第1軸線X1に沿う方向に延び且つ周方向に等間隔置きに(即ち90度の位相差を以て)配列される4個の柱部33とを備える。各柱部33は、図6で明らかなように、横断面扇形状に形成される。
【0049】
そして、周方向に隣り合う柱部33間に画成される空間には、4個の遊星ギヤPがそれぞれ配置され、それら遊星ギヤPは、第1,第2端壁部31,32に枢軸34を介して回転自在に両端支持される。
【0050】
尚、キャリヤCは、必要に応じて、ミッションケース10に軸受を介して回転自在に支持させてもよい。また図5で符号31hは、第1端壁部31に設けられて枢軸34を嵌合支持(例えば圧入)する支持孔であって、減速機Rの組立状態では枢軸34の位置と合致する。尚また、図示例では枢軸34を遊星ギヤPのギヤ本体部と別部品としたものを示したが、枢軸34を遊星ギヤPのギヤ本体部と一体に構成してもよく、この場合は、第1,第2端壁部31,32に軸受を介して枢軸34を回転自在に支持させる。
【0051】
ところでデフケース本体20の胴部20Dと、減速機RのキャリヤCとは、その両者の外周端部相互が溶接部wを介して一体的に結合され、その溶接構造の一例について、次に図1,4,5,7を主として参照して説明する。
【0052】
キャリヤCの第1端壁部31と、デフケース本体20の胴部20Dとの相対向面間には、その外周端部に位置してキャリヤC及びデフケース本体20Mの相互間を径方向に位置決めするためのインロー嵌合部Iと、そのインロー嵌合部Iの径方向内側に隣接配置されてキャリヤCとデフケース本体20Mの相互間を軸方向に位置決めするための複数の突き当て部Tとが設けられる。
【0053】
インロー嵌合部Iは、第1端壁部31と胴部20Dとの外周端部相互の相対向面の何れか一方(実施形態では胴部20Dの外側面)を一段突出させて設けた環状凸部20Diと、その何れか他方(実施形態では第1端壁部31の外側面31f)より一段後退させて設けた環状凹部31iとで構成され、それら環状凸部20Diと環状凹部31iとの同心嵌合により、キャリヤC及びデフケース本体20相互の径方向位置決めがなされる。そして、その同心嵌合状態の環状凸部20Diと環状凹部31iとの嵌合面より径方向外側で第1端壁部31と胴部20Dとの対向面間を径方向外方側から溶接(例えばレーザ溶接)することで、その溶接部wを介してキャリヤCとデフケース本体20間が結合される。
【0054】
尚、溶接前において第1端壁部31と胴部20Dの被溶接面は、突き当て部Tの突き当て(即ち軸方向位置決め)や溶接作業の障害とならない程度に対向、近接させる。
【0055】
またインロー嵌合部Iの径方向内端に隣接し且つ円環状に延びる領域で第1端壁部31と胴部20Dとの相対向面F1,F2は、その何れか一方側の第1対向面F1(実施形態では第1端壁部31の外側面31fのうちインロー嵌合部Iの径方向内側に隣接する側面部)が前記仮想平面と平行な円環状の同一平面で形成される。
【0056】
これに対し、上記相対向面F1,F2の何れか他方側の第2対向面F2(実施形態では外周壁部20cの外端面のうちインロー嵌合部Iの径方向内側に隣接する端面部)は、周方向に間隔をおいて第1対向面F1と密接する複数の突き当て凸面F2tと、周方向に隣り合う突き当て凸面F2t相互間に各々挟まれた複数の凹面F2hとを有している。各凹面F2hは、突き当て凸面F2tよりも凹んでいるため、第1対向面F1とは接触せず、即ち第1対向面F1との間に軸方向の間隙を画成する。
【0057】
かくして、インロー嵌合部I(従って溶接部w)の径方向内方側で第1端壁部31と胴部20Dとの相対向面F1,F2は、第1対向面F1に対し第2対向面F2の特に突き当て凸面F2tのみが突き当てられ、その突き当て部T(即ち第1対向面F1と突き当て凸面F2tとの接触部)によってデフケース本体20とキャリヤCとの軸方向位置決めがなされる。即ち、上記第1,第2対向面F1,F2の相互間は、その全周に亘り突き当たるのではなくて、周方向に間隔をおいて並ぶ複数の突き当て部Tのみで突き当たる。
【0058】
而して、凹面F2h(従って上記第1,第2対向面F1,F2相互の非突き当て領域)の周方向位置は、図7で明らかなように、デフケース本体20及びキャリヤC(第1端壁部31)の各外周壁部における後記高剛性壁部H,H′の周方向範囲と同じか或いはそれよりも少し広い範囲に設定される。換言すれば、突き当て部Tの周方向位置は、デフケース本体20及びキャリヤC(第1端壁部31)における後記低剛性壁部L,L′の周方向範囲と同じか或いはそれよりも少し狭い範囲に設定されている。
【0059】
尚、上記した突き当て凸面F2t及び凹面F2hは、これらを上記第1対向面F1に設けた構造に代えて/又は加えて、上記第2対向面F2に設けてもよい。
【0060】
ところで実施形態のデフケース本体20及びキャリヤCの各外周壁部においては、図7で明らかなように、高剛性壁部H,H′と低剛性壁部L,L′とが周方向で互いに異なる位置に分布する。例えば、デフケース本体20で言えば、胴部20Dの外周壁部20cの、複数のピニオン軸22を支持する壁部分(即ちピニオンギヤ軸支部20cp)は、ピニオン軸22を強固に支持すべく厚肉頑丈に構成されていて高剛性壁部Hとなり、一方、周方向で隣り合うピニオンギヤ軸支部20cpで挟まれた壁部分は、これの外周面に開口する窓孔(即ち第1開口O1)や中空部が有ることで、ピニオンギヤ軸支部20cp即ち高剛性壁部Hよりも剛性が低い低剛性壁部Lとなる。
【0061】
これに対し、キャリヤCの第1端壁部31は、これから複数の柱部33が一体に延びることで、各柱部33に対応する壁部分が柱部33で十分に補強されていて高剛性壁部H′になるが、周方向で隣り合う柱部33の相互間の空間に対応する壁部分は、柱部33による補強効果が十分でないことで、柱部33対応の壁部分即ち高剛性壁部H′よりも剛性が低い低剛性壁部L′になる。
【0062】
しかも実施形態では、図2,6,7で明らかなように、デフケース本体20の外周壁部20cの複数のピニオンギヤ軸支部20cpと、キャリヤCの複数の柱部33とが、第1軸線X1と直交する投影面で見て一部(図示例では大部分)が重なり合う配置となっている。即ち、デフケース本体20の高剛性壁部Hとなるピニオンギヤ軸支部20cpと、キャリヤCの高剛性壁部H′となる、第1端壁部31の柱部33対応の壁部分との位相が一致又は略一致した配置であるが、実施形態では、その双方の高剛性壁部H,H′を避けた周方向位置に突き当て部Tが配置されている。
【0063】
また実施形態では、周方向で隣り合う突き当て部Tの相互間に挟まれる非突き当て領域(即ち凹面F2hの領域)の周方向範囲は、その非突き当て領域と対応する位置にあるデフケース本体20及び第1端壁部31の外周壁部の高剛性壁部H,H′よりも周方向に幅広に設定されている。
【0064】
次に前記実施形態の作用を説明する。
【0065】
伝動装置Aにおいて、不図示の電動モータでサンギヤ41が回転駆動されると、サンギヤ41及びリングギヤ42と、各遊星ギヤPとが互いに噛合して、サンギヤ41の回転駆動力を減速しながらキャリヤCに伝達する。そして、キャリヤCに固定のデフケース本体20に伝達された回転駆動力がデフケース本体20内の差動ギヤ機構21により、第1,第2出力軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配され、更にその第1,第2出力軸51,52から左右の駆動車輪に伝達される。
【0066】
この実施形態において、デフケース本体20と、キャリヤCの第1端壁部31との相互の対向面間には、前述のように溶接部wとは別の部位(即ち前記インロー嵌合部Iの径方向内端に隣接した部位に存する前記第1,第2対向面F1,F2の相互間)で、軸方向位置決め用の複数の突き当て部Tが配置される。しかも、それら突き当て部Tの位置は、デフケース本体20及びキャリヤC(第1端壁部31)の各外周壁部の前記高剛性壁部H,H′の周方向位置を少なくとも除いた周方向位置(換言すれば前記低剛性壁部L,L′の少なくとも一部に対応した周方向位置)に設定されている。
【0067】
これにより、溶接後に溶接部wが熱収縮して軸方向に縮み変形しても、突き当て部Tが上記縮み変形に対し強い突っ張り作用を発揮する懸念はなくなるから、溶接部wの残留応力を効果的に低減して、遅れ破壊の発生を有効に防止できる。また低剛性壁部L,L′に対応した部位では突き当て部Tが軸方向位置決め機能を有効に発揮し得るため、キャリヤC及びデフケース本体20を溶接時に互いに的確に位置決め可能である。
【0068】
しかも突き当て部Tは、第1端壁部31の、柱部33に対応した壁部分(即ち高剛性壁部H′)の周方向位置を少なくとも除いた周方向位置に配設されるので、キャリヤCの、柱部33に関係した高剛性壁部H′を避ける周方向位置に突き当て部Tを配置でき、溶接部wの残留応力を効果的に低減することができる。
【0069】
またデフケース本体20の外周壁部20cに設けたピニオンギヤ軸支部20cpは、第1軸線X1と直交する投影面で見てキャリヤCの柱部33と少なくとも一部(図示例は大部分)が重なっており、ピニオンギヤ軸支部20cp、即ちデフケース本体20の高剛性壁部Hと、キャリヤCの、柱部33に関係した高剛性壁部H′との位相が一致又は略一致しているが、実施形態では、その双方の高剛性壁部H,H′を避けた周方向位置に突き当て部Tを配置できることから、溶接部wの残留応力をより効果的に低減可能となる。
【0070】
さらに実施形態の突き当て部Tは、図7で明らかなように、前記した第1,第2対向面F1,F2の相互間で周方向に間隔をおいて複数配置され、周方向で隣り合う突き当て部Tの相互間に位置する非突き当て領域(即ち凹面F2hの領域)の周方向範囲は、その非突き当て領域と対応する位置にある高剛性壁部H,H′よりも周方向に幅広である。これにより、上記非突き当て領域を高剛性壁部H,H′の周方向幅以上に拡げることができて、突き当て部Tの周方向幅を必要最小限に絞り得るため、溶接部wの残留応力をより効果的に低減可能である。
【0071】
またデフケース本体20の外周壁部20cは、これの外周面に開口する孔、即ち第1開口O1を有することで、その第1開口O1の周辺部分が低剛性壁部Lとなっているので、この低剛性壁部Lの対応部位に突き当て部Tを配置でき、これにより、溶接部wの残留応力を効果的に低減可能である。
【0072】
ところで実施形態の差動装置Dでは、デフケース2の少なくとも一方側(図示例は両側)の側壁20s,20s′と、これに対応するサイドギヤ24の背面とは、ワッシャWsを挟んで摺動可能に当接するが、側壁20s,20s′内面の突起部tとワッシャWsの内周部との相互間には、ワッシャWsをデフケース2に回り止めすべく互いに凹凸係合する凹凸係合部(即ち突起部tの係合凹部toと、ワッシャWsの突片部Wst)が設けられる。これにより、ワッシャWsをデフケース2に、側壁20s,20s′の突起部tを含む簡単な回り止め構造で回り止めできる。そして、この回り止め効果によれば、ワッシャWsの焼付け対策は、ワッシャWsに対するサイドギヤ24の摺動による焼付け対策のみ行えばよくなり、従って、後述するように、その焼付け対策を特定部位に効率よく施す上で優位性がある。
【0073】
しかも軸方向内方側に張り出す突起部tは、側壁20s,20s′の一部を軸方向厚肉にして補強リブの機能を果たすことで、側壁20s,20s′の剛性アップを図り得るものであるが、このような突起部t(補強リブ)の一部に係合凹部toを設けても、それによる側壁20s,20s′の剛性低下を最小限に抑えることができる。
【0074】
さらに上記突起部tは、側壁20s,20s′の内側面の内周部、又は内周端寄りの中間部に配置されていて、周方向に延びるか或いは配列されるため、この突起部tによって、側壁20s,20s′の内周端周辺部を周方向広範囲に亘り補強可能となる。また、突起部tは、第1軸線X1と同軸上に位置していて、該突起部tを囲繞するワッシャWsを同心状に保持しているので、ワッシャWsとサイドギヤ24とが同軸上に配置されることとなり、ワッシャWsとサイドギヤ24とを径方向に偏心することなく摺動させることができる。これにより、ワッシャWsとサイドギヤ24との摺動面の面圧が局所的に高まるのを防止することができる。
【0075】
ところで実施形態の差動装置Dは、前述のように軸方向に扁平なデフケース構造であることから、デフケース2の軸方向サイズを大型化することなくサイドギヤ24を大径化でき、この大径化によりサイドギヤ用ワッシャWsの摺動面積を広く確保可能である。
【0076】
しかも実施形態の扁平デフケース構造では、ワッシャWsを前記回り止め構造により側壁20s,20s′に回り止めしたことで、ワッシャWsに対するサイドギヤ24の摺動による焼付け対策をピンポイントで効率よく行うことが可能となり、焼付け対策上の設計自由度が高められる。例えば、側壁20s,20s′の内側面に凹設した複数の油溝2g,2g′を、実施形態のように周方向で各ピニオンギヤ23の両側に近接配置すれば、その油溝2g,2g′内の流動油でワッシャWsの、特に高面圧となるピニオンギヤ23付近を効果的に冷却可能となる。
【0077】
その上、実施形態の扁平デフケース構造では、側壁20s,20s′の内側面より軸方向に張出す前記突起部tの特設(即ち補強リブ効果)により、扁平な側壁20s,20s′の剛性アップが図られ、即ち、側壁20s,20s′(従ってサイドギヤ支持面20sf1,20sf2)の撓み変形が効果的に抑制される。これにより、そのサイドギヤ支持面20sf1,20sf2上のワッシャWsと、サイドギヤ24の背面との摺動面積を十分に確保可能となる。
【0078】
このように実施形態の扁平デフケース構造ではワッシャWsの回り止め手段を特設し、且つその回り止め手段の一部(側壁20s,20s′内側面の突起部t)で側壁20s,20s′の剛性アップ(変形抑制)を図り得るようにしたことで、ワッシャWsの、サイドギヤ24との十分な摺動面積の確保と、高面圧となるピニオンギヤ23付近の冷却性向上とを何れも達成可能となる。
【0079】
また図8には第2実施形態が示される。第1実施形態では、デフケース2の第1,第2側壁20s,20s′の内側面に突設される回り止め用突起部tが径方向一定幅の円形リング状であるのに対し、第2実施形態では、第1,第2側壁20s,20s′の内側面に突設される円形リング状の回り止め用突起部t′の外周部の一部がストレートに切欠かれて、二面幅形状(即ち、互いに平行な一対の平面部tf′)に形成される。その二面幅形状に対応してサイドギヤ用ワッシャWsの内周面の対応部位(即ち突片部Wst′)も、同様の二面幅形状に形成される。
【0080】
そして、このワッシャWsの内周面の二面幅部すなわち突片部Wst′と、外周形態が二面幅形状の突起部t′とが相対回転不能に凹凸係合することで、ワッシャWsのデフケース2に対する回り止めが確実に行われる。尚、図8では、デフケース2の第2側壁20s′を兼ねるキャリヤCの第1端壁部31の外側面31fと、ワッシャWsのみを例示したが、第1側壁20sの内側面とワッシャWsも同様の形態である。
【0081】
第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と基本的に同様であるので、第2実施形態の各構成要素には、これと対応する第1実施形態の構成要素と同じ参照符号を付すに止め、それ以上の説明は省略する。而して、第2実施形態も、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を発揮可能である。
【0082】
尚、図示はしないが、第2実施形態の変形例として、第1,第2側壁20s,20s′の内側面に突設される回り止め用の突起部t′の外周部を、二面幅形状に代えて、多角形状(例えば三角形状、四角形状、六角形状等)に変更した変形例も実施可能であり、この場合には、上記多角形状に対応してサイドギヤ用ワッシャWsの内周面の対応部位も、同様の多角形状に形成される。そして、このワッシャWsの内周面の多角形状部と、側壁20s,20s′内側面の、外周形態が多角形状の突起部t′とが相対回転不能に凹凸係合することで、ワッシャWsのデフケース2に対する回り止めが確実になされる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0084】
例えば、前記実施形態では、伝動装置Aの入力部(サンギヤ41)に回転駆動力を付与する動力源として電動モータを例示したが、電動モータに代えて、或いは加えて、車載のエンジンを動力源として用いてもよい。
【0085】
また前記実施形態では、伝動装置Aを車両(例えば自動車)用伝動装置に実施して、その伝動装置A中の差動装置Dで車両の左右の駆動車輪に回転駆動力を分配、付与するようにしたものを示したが、本発明では、差動装置Dをセンターデフとして用いて車両の前後の駆動車輪に回転駆動力を分配、付与するようにしてもよい。或いはまた、本発明の伝動装置Aを、車両以外の種々の機械装置において減速機R及び差動装置Dを複合した伝動装置として実施してもよい。
【0086】
また前記実施形態では、キャリヤCとデフケース本体20との結合構造として、例えばキャリヤCの一部である端壁部31が、デフケース2の第2側壁20s′を兼ねていて、その端壁部31とデフケース本体20とを溶接するものを示したが、そのような結合構造に代えて、デフケース2の一部である第2側壁が、キャリヤCの端壁部を兼ねていて、その第2側壁とキャリヤCの柱部とを溶接する結合構造も実施可能である。或いはまた、キャリヤCの端壁部31と、デフケース本体20の第2側壁20s′とを別々に構成し、その両者間を溶接する結合構造の実施も可能である。
【0087】
また前記実施形態では、キャリヤCとデフケース本体20との対向面相互の溶接を全周に亘り連続的に行うものを示したが、その対向面相互の溶接を周方向の一部だけに行うようにしてもよい。
【0088】
また前記実施形態では、デフケース2を、これの第1,第2側壁20s,20s′が前記仮想平面に沿う薄肉円板状である扁平デフケース構造としたものを示したが、第1,第2側壁20s,20s′を前記仮想平面に対しやや傾斜させたテーパ状に形成した扁平デフケース構造に実施してもよい。或いはまた、第1,第2側壁20s,20s′をドーム状に彎曲させたデフケース構造に実施してもよい。
【0089】
また前記実施形態では、デフケース本体20及びキャリヤCの各外周壁部の高剛性壁部H,H′の周方向位置を一致させたものを示したが、その双方の高剛性壁部H,H′の周方向位置がずれた実施形態も実施可能である。この場合、それら高剛性壁部H,H′の周方向位置を少なくとも除いた周方向位置に突き当て部Tが配設される。
【0090】
また前記実施形態では、差動装置Dのデフケース本体20にキャリヤCを後付けで結合(溶接)して、差動装置Dと、遊星歯車式の減速機Rとをユニット化した伝動装置Aに本発明を適用したものを示したが、本発明は、減速機から分離独立した差動装置に適用してもよい。
【0091】
また前記実施形態では、差動装置DとキャリヤCとを溶接で結合するものを示したが、差動装置DとキャリヤCを溶接以外の結合手段(例えばボルト止め、かしめ、ピン止め、圧入等)で結合してもよい。
【符号の説明】
【0092】
D・・・・・・差動装置
P・・・・・・遊星ギヤ
t・・・・・・突起部
to・・・・・凹凸係合部の一方を構成する係合凹部
X1・・・・・デフケースの回転軸線としての第1軸線
Ws・・・・・ワッシャ
Wst・・・・凹凸係合部の他方を構成する突片部
2・・・・・・デフケース
20s,20s′・・側壁としての第1,第2側壁
21・・・・・差動機構としての差動ギヤ機構
23・・・・・ピニオンギヤ
24・・・・・サイドギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8