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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157387
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】剥落防止構造及び剥落防止工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061578
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】深田 達也
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛史
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB04
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】低温環境下おいても、コンクリート構造物の表面状態の視認性を向上させ、かつ、コンクリート片のはく落防止性能を確保することが可能である剥落防止構造を提供する。
【解決手段】実施形態に係る剥落防止構造100は、エポキシ樹脂が用いられる透明性下塗材11を有するプライマー層1と、プライマー層1の上に形成される透明補強層2と、透明補強層2の上に形成される透明保護層3と、を備える。透明補強層2は、透明性を有するビニロン繊維、ナイロン繊維、又はPET繊維からなる経糸及び緯糸が織られて形成される開口部を有する繊維シート22と、繊維シート22に一体化される第1のポリウレア樹脂塗材21と、を有する。第1のポリウレア樹脂塗材21は、粒径D50が1μm以下の粉体を含み、当該粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含む、又は粉体が含まれていないものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に設けられる剥落防止構造であって、
エポキシ樹脂が用いられる透明性下塗材を有するプライマー層と、
前記プライマー層の上に形成される透明補強層と、
前記透明補強層の上に形成される透明保護層と、を備え、
前記透明補強層は、
第1のポリウレア樹脂塗材と、
前記第1のポリウレア樹脂塗材と一体化され、透明性を有する有機繊維からなる経糸及び緯糸が織られて形成される繊維シートと、を有し、
前記第1のポリウレア樹脂塗材は、
粒径D50が1μm以下の粉体を含み、前記第1のポリウレア樹脂塗材に含まれる前記粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含むこと
又は、
粉体が含まれていないこと
を特徴とする剥落防止構造。
【請求項2】
前記第1のポリウレア樹脂塗材は、無黄変ポリイソシアネートプレポリマーと、変性脂環式ポリアミンと、を含むこと
を特徴とする請求項1記載の剥落防止構造。
【請求項3】
前記繊維シートの経糸及び緯糸は、合成繊維であること
を特徴とする請求項1又は2記載の剥落防止構造。
【請求項4】
前記繊維シートの経糸及び緯糸は、ビニロン繊維、ナイロン繊維、及びPET繊維の何れかであること
を特徴とする請求項3記載の剥落防止構造。
【請求項5】
前記繊維シートは、100mmあたり8mm以上36mm以下の開口部が形成されること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の剥落防止構造。
【請求項6】
前記透明保護層は、第2のポリウレア樹脂塗材を含み、
前記第2のポリウレア樹脂塗材は、
粒径D50が1μm以下の粉体を含み、前記第2のポリウレア樹脂塗材に含まれる前記粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含むこと
又は、
粉体が含まれていないこと
を特徴とする請求項1~5の何れか1項記載の剥落防止構造。
【請求項7】
前記透明保護層は、前記第2のポリウレア樹脂塗材の上に塗布されるアクリルシリコーン樹脂塗材を含むこと、
を特徴とする請求項6記載の剥落防止構造。
【請求項8】
コンクリート構造物に適用される剥落防止工法であって、
エポキシ樹脂が用いられる透明性下塗材を有するプライマー層を形成するプライマー層形成工程と、
前記プライマー層の上に透明補強層を形成する透明補強層形成工程と、
前記透明補強層の上に透明保護層を形成する透明保護層形成工程と、を備え、
前記透明補強層形成工程では、
第1のポリウレア樹脂塗材を塗布し、
透明性を有する有機繊維からなる経糸及び緯糸が織られて形成される繊維シートを、前記第1のポリウレア樹脂塗材と一体化させ、
前記第1のポリウレア樹脂塗材は、
粒径D50が1μm以下の粉体を含み、前記第1のポリウレア樹脂塗材に含まれる前記粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含むこと
又は、
粉体が含まれていないこと
を特徴とする剥落防止工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥落防止構造及び剥落防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物などの内部補強鉄筋を有する構造物は、中性化や塩害により、ひび割れなどの亀裂等から二酸化炭素や塩化物イオンが侵入し、内部補強鉄筋が腐食膨張してかぶり部分のコンクリート片が剥離して落下するという問題があった。また、アルカリ骨材反応や施工不良でも骨材の膨張等により同様にコンクリート片が剥落するおそれがあった。そして、この剥落の問題は、鉄筋コンクリート製のトンネル・橋梁をはじめとする鉄筋コンクリート構造物に加え、表面から剥落物が落下するおそれのあるモルタル、ブロック、レンガなどのアルカリ性の強い吸水性無機質材表面を有する構造物に共通する問題でもあった。
【0003】
コンクリートの剥落を防止する技術として、非特許文献1、特許文献1が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、透明補強層としてエポキシ樹脂が用いられるクリアクロス工法が開示されている。しかしながら、非特許文献1の開示技術では、寒冷地等で使用した場合の強度発現性が低く、低温環境下におけるコンクリート片のはく落防止性能を向上させる必要があった。
【0005】
低温環境下においてコンクリートの剥落を防止する技術として、特許文献1が開示されている。特許文献1の剥落防止工法では、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂とアルキルフェノール型液状エポキシ樹脂と反応性希釈剤とポリアミドアミンと脂肪族変性ポリアミンとから成る透明性下塗材をコンクリート構造物の表面に塗布して下塗層を形成し硬化させ、該下塗層の上にポリエステル繊維シートと、無黄変イソシアネートプレポリマーと脂環式ポリアミンと硅砂から成るポリウレア樹脂塗材と、を一体化した状態で透明補強層を形成して硬化させ、該透明補強層の上に透明保護層を形成することを特徴とする。
【0006】
しかしながら、特許文献1の開示技術では、ポリウレア樹脂塗材には、親水性フュームドシリカと、コンクリート表面の大小の空隙を埋めることが出来る程度の粒径を有する硅砂と、が含まれる。この硅砂は、粒径D50が100~500μmと比較的大きな粒径である。このため、ポリウレア樹脂塗材には、親水性フュームドシリカと硅砂とを含めた粉体の粒径が比較的大きいものとなる。したがって、主に粒径の大きな硅砂により透明補強層の透明性が低下してしまい、透明補強層の下に設けられるコンクリートの表面状態の視認性が低い、という事情があった。
【0007】
したがって、低温環境下においても、コンクリート構造物の表面状態の視認性を向上させ、かつ、コンクリート片のはく落防止性能を向上させることが可能となる技術が切望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】http://www.sho-bond.co.jp/method/045.html
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-73913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、低温環境下においても、コンクリート構造物の表面状態の視認性を向上させ、かつ、コンクリート片のはく落防止性能を向上させることが可能である剥落防止構造及び剥落防止工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る剥落防止構造は、コンクリート構造物に設けられる剥落防止構造であって、エポキシ樹脂が用いられる透明性下塗材を有するプライマー層と、前記プライマー層の上に形成される透明補強層と、前記透明補強層の上に形成される透明保護層と、を備え、前記透明補強層は、第1のポリウレア樹脂塗材と、前記第1のポリウレア樹脂塗材と一体化され、透明性を有する有機繊維からなる経糸及び緯糸が織られて形成される繊維シートと、を有し、前記第1のポリウレア樹脂塗材は、粒径D50が1μm以下の粉体を含み、前記第1のポリウレア樹脂塗材に含まれる前記粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含むこと又は、粉体が含まれていないことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る剥落防止工法は、コンクリート構造物に適用される剥落防止工法であって、エポキシ樹脂が用いられる透明性下塗材を有するプライマー層を形成するプライマー層形成工程と、前記プライマー層の上に透明補強層を形成する透明補強層形成工程と、前記透明補強層の上に透明保護層を形成する透明保護層形成工程と、を備え、前記透明補強層形成工程では、第1のポリウレア樹脂塗材を塗布し、透明性を有する有機繊維からなる経糸及び緯糸が織られて形成される繊維シートを、前記第1のポリウレア樹脂塗材と一体化させ、前記第1のポリウレア樹脂塗材は、粒径D50が1μm以下の粉体を含み、前記第1のポリウレア樹脂塗材に含まれる前記粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含むこと又は、粉体が含まれていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、構造物の表面状態の視認性を向上させ、かつ、低温環境下におけるコンクリート片のはく落防止性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る剥落防止構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係る剥落防止構造における繊維シートの一例を模式的に示す平面図である。
図3図3は、ポリウレア樹脂塗材Aに含まれる粉体の累積粒度分布を示す図である。
図4図4は、ポリウレア樹脂塗材Bに含まれる粉体の累積粒度分布を示す図である。
図5図5は、本発明例1の供試体の写真である。
図6図6は、本発明例2の供試体の写真である。
図7図7は、本発明例3の供試体の写真である。
図8図8は、比較例1の供試体の写真である。
図9図9は、比較例2の供試体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態に係る剥落防止構造及び剥落防止工法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(剥落防止構造100)
実施形態に係るに係る剥落防止構造100は、コンクリート構造物に適用可能であり、実施形態に係る構造物として鉄筋コンクリート構造物RCに接着してコンクリート片が剥落するのを防止する場合を例示して説明する。
【0017】
剥落防止構造100は、図1に示すように、構造物である鉄筋コンクリート構造物RCの表面に接着されてその表面を被覆し、当該表面からコンクリート片が剥落するのを防止する機能を有している。
【0018】
剥落防止構造100は、プライマー層1と、透明補強層2と、透明保護層3と、を備える。
【0019】
(プライマー層1)
プライマー層1は、透明性下塗材11と、不陸調整材12と、を有する。
【0020】
(透明性下塗材11)
透明性下塗材11は、主剤と硬化剤とを混合することにより硬化する周知のエポキシ樹脂が用いられる。透明性下塗材11は、例えば主剤として、ビスフェノールA型液状グリシジルエーテルと、低粘度グリシジルエーテル類と、を含む。透明性下塗材11は、例えば硬化剤として、ポリアミノアミドと、脂肪族ポリアミンと、脂環式ポリアミンを含む。これにより、構造物に発生した幅0.2mm未満のひび割れに対して透明性下塗材11が含浸してひび割れを充填することで構造物の耐久性能を向上することができる。
【0021】
透明性下塗材11には、市販のエポキシ樹脂プライマーを使用することができ、市販のエポキシ樹脂プライマーとしてはHBプライマー、VEプライマー(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)やJUU-600(商品名、アイカ工業株式会社製)がある。
【0022】
不陸調整材12は、コンクリート表面の不陸を調整するためのものである。不陸調整材12は、難黄変エポキシ樹脂が用いられ、水素化ビスフェノールA型液状グリシジルエーテルを主剤とし、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、揺変剤を所定の重量配合比で混合したものを硬化剤とし、これら主剤と硬化剤とを所定の重量配合比にて混合したものを用いることができる。
【0023】
また、不陸調整材12は、2液無溶剤型エポキシ樹脂系不陸調整材が用いられ、例えば水添ビスフェノールA型液状グリシジルエーテル樹脂透明不陸調整材を用いることができる。不陸調整材12は、例えば主剤として、水添ビスフェノールA型液状グリシジルエーテルを含む。不陸調整材12は、例えば硬化剤として、脂肪族ポリアミンと、脂環式ポリアミンを含む。これにより、構造物の表面に不陸がある場合であっても、不陸調整を容易に行うことができる。なお、本発明に係る剥落防止構造では、不陸調整材12は省略されてもよい。
【0024】
不陸調整材12に含まれる水添ビスフェノールA型液状グリシジルエーテルはエポキシ当量が205~235の水添ビスフェノールA型液状グリシジルエーテルであって液状である。ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂の配合量は、不陸調整材12全体100重量部中55~70重量部が好ましい。55重量部未満もしくは70重量部以上では硬化が不十分となる。
【0025】
不陸調整材12に含まれる脂肪族ポリアミンは脂肪族ポリアミンをマンニッヒ変性したものやエポキシ樹脂を付加したものを使用することができる。脂肪族ポリアミンの配合量は、不陸調整材12全体100重量部中10~20重量部が好ましい。10重量部未満では押し抜き試験が1.5kNを下回る場合があり、20重量部超ではポリウレア樹脂塗材21との接着性が不十分となる。
【0026】
不陸調整材12に含まれる脂環式ポリアミンは脂環式ポリアミンをマンニッヒ変性したものやエポキシ樹脂を付加したものを使用することができる。脂環式ポリアミンの配合量は不陸調整材12全体100重量部中3~10重量部が好ましい。3重量部未満では低温時の硬化が不十分となり、10重量部超では可使時間が確保できなくなる。
【0027】
不陸調整材12に含まれる揺変剤はヒュームドシリカを使用することができる。ヒュームドシリカの配合量は不陸調整材12全体100重量部1~5重量部が好ましい。1重量部未満では高温時に不陸を調整できない場合があり、5重量部超では低温時に攪拌時の気泡が抜けない場合がある。ヒュームドシリカとしては、親水性ヒュームドシリカを使用することができ、市販の無機系揺変剤としてはAEROSIL380(商品名、日本アエロジル株式会社製)がある。
【0028】
不陸調整材12には、これらのほかにキシレンとホルムアルデヒドとの縮合によって得られるキシレン樹脂やアルキルフェノール等のフェノール類を添加しても良く、ヒュームドシリカの粒子表面のシラノール基と水素結合を形成し、該水素結合によりシリカ粒子と3次元構造を形成するフリーのOH基を有する揺変剤を使用することが出来る。該揺変剤としてはポリヒドロキシカルボン酸アミドを好適に使用することが出来、市販の揺変剤としては、BYK-405(商品名、株式会社ビックケミー社製、ポリヒドキシカルボン酸アミド含有量51%) がある。また、この他にシランカップリング剤等の接着性付与剤や消泡剤を配合しても良い。
【0029】
(透明補強層2)
透明補強層2は、第1のポリウレア樹脂塗材21と、繊維シート22と、を有する。
【0030】
(第1のポリウレア樹脂塗材21)
透明補強層2における第1のポリウレア樹脂塗材21は、繊維シート22に含浸され、繊維シート22と一体化される。第1のポリウレア樹脂塗材21は、無黄変ポリイソシアネートプレポリマーと、変性脂環式ポリアミンと、を含む。また、第1のポリウレア樹脂塗材21は、累積積算重量が50%となる粒径D50が1μm以下の粉体を含み、当該粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含む。また、第1のポリウレア樹脂塗材21は、粉体が含まれていなくてもよい。
【0031】
第1のポリウレア樹脂塗材21は、NCO重量%が10~30重量%の無黄変イソシアネートプレポリマーと変性脂環式ポリアミンから成り、NCO重量%が10~30重量%の無黄変イソシアネートプレポリマーにはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族2官能イソシアネートや、イソホロンジイソシアネート(IPDA)等の脂環式2官能イソシアネートや、4,4´ -メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水素化MDI)等を多価アルコールでプレポリマー化したものを使用することができる。
【0032】
第1のポリウレア樹脂塗材21は、変性脂環式ポリアミンは、イソホロンジアミン等の少なくとも一つのアミノ基がシクロヘキサン環等に直接結合しているポリアミンであり、第1級アミノ基を含まない第2級アミノ基のみを有するアミンが使用される。重量平均分子量(理論値)は300~1000が好ましい。300未満では可使時間が短くなって施工性が不良となり、1000超では 反応速度が低下し、指触乾燥までの時間および塗膜強度の立ち上がりが遅延する。第2級アミノ基のみを有する脂環式ポリアミンを使用することによって初めて、ポリウレア樹脂塗材を鏝等で塗付することが可能な可使時間を十分に確保することができ、さらには無黄変イソシアネートプレポリマーと組み合わせて使用することにより、硬化塗膜が紫外線で黄変することが無い。無黄変イソシアネートプレポリマーのNCO基と脂環式ポリアミンの活性水素基の当量比(NCO基数/活性水素基数)は0.8~1.2が好ましい。0.8未満では無黄変イソシアネートプレポリマーと脂環式ポリアミンを混合後の粘度上昇が早くなり可使時間が短くなる。1.2超では指触乾燥までの時間および塗膜強度の立上りが遅延する。
【0033】
第1のポリウレア樹脂塗材21には、塗付した際にタレが生じないよう有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかが用いられる。また、この他にシランカップリング剤等の接着性付与剤や消泡剤を配合しても良い。
【0034】
第1のポリウレア樹脂塗材21における粉体としては、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかが含む。有機系揺変剤としては、例えばアマイド系や酸化ポリエチレン系の揺変剤を使用することができ、市販の有機系揺変剤としてはフローノンRCM-100(商品名、共栄社化学株式会社製)がある。無機系揺変剤としては、親水性ヒュームドシリカを使用することができ、市販の無機系揺変剤としてはAEROSIL380(商品名、日本アエロジル株式会社製)がある。
【0035】
第1のポリウレア樹脂塗材21中の揺変剤の配合量は、ポリウレア樹脂塗材21全体100重量部中0~7重量部が望ましい。7重量部超では粘度が高いため、繊維シートへの含浸ができなくなる。
【0036】
第1のポリウレア樹脂塗材21には上記無黄変イソシアネートプレポリマーと変性脂環式ポリアミンの他に、光安定剤と紫外線吸収剤を含むことが好ましく、これらを含むことにより、長期間紫外線に曝されても透明補強層の強度の低下が生じない。光安定剤にはヒンダードアミン系光安定剤を使用することができ、紫外線吸収剤にはヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を使用することができる。市販のヒンダードアミン系光安定剤としては、TINUVIN292(商品名、化学名; ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート)、チバ・ジャパン株式会社製)が、市販のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては、TINUVIN400(商品名、化学名;2-(4,6-ビス(2,4- ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヒドロキシフェニルとオキシランとの反応生成物、チバ・ジャパン株式会社製) が、市販のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、TINUVIN928(商品名、化学名;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、チバ・ジャパン株式会社製)がある。
【0037】
また、第1のポリウレア樹脂塗材21は、透明性下塗材11の上に重ねて塗付されるが、透明性下塗材11は鉄筋コンクリート構造物RCの表面に含浸して該表面を補強し、この上層として塗付される該ポリウレア樹脂塗材21と強固に接着する。剥落防止構造100全体として透明性を長期間に亘り保持するためには、黄変しやすいエポキシ樹脂を含む該透明性下塗材11のコンクリート表面への塗付厚み(塗付量) は少ないことが好ましく、具体的には本願発明においては0.10~0.30kg/m程度の塗付量が好ましい。
【0038】
(繊維シート22)
繊維シート22は、図2に示すように、透明性を有する有機繊維からなる無撚糸の経糸22a及び緯糸22bが織られて形成される。繊維シート22は、近接する3本の経糸22a及び近接する3本の緯糸22bが模紗織りされて形成される。繊維シート22は、経糸22a及び緯糸22bが平織りされて形成されてもよい。
【0039】
繊維シート22は、経糸22a及び緯糸22bにより開口部23が形成される。繊維シート22は、100mmあたり8mm以上36mm以下の開口部を有する。開口部23が繊維シート22において、100mmあたり8mm未満の場合、繊維シートの密度が高く、被保護層からの水蒸気による圧力によって繊維シートとポリウレア樹脂塗材21からなる透明補強層2に膨れが生じるため、非接着部においてはく落防止性能を確保できない。開口部23が100mmあたり36mmを超える場合、所定の引張強度が確保できなくなる。
【0040】
メッシュシート22の経糸22a及び緯糸22bの原糸として、例えば、ビニロン繊維、ナイロン繊維、及びPET繊維の何れかであることが好ましい。
【0041】
経糸22a及び緯糸22bは、原糸が無撚糸であるが、有撚糸であってもよい。経糸22a及び緯糸22bは、原糸が1本の繊維からなるモノフィラメント糸であってもよいし、原糸が複数本の繊維が撚り合わされたマルチフィラメント糸であってもよい。
【0042】
(透明保護層3)
透明保護層3は、透明補強層2の上に形成される。透明保護層3は、透明性を有し、その下層となる透明補強層2における第1のポリウレア樹脂塗材21と接着性が良好であれば、どのようなものでも良い。透明保護層3は、例えば、第2のポリウレア樹脂塗材31と、アクリルシリコーン樹脂塗材32を有する。
【0043】
第2のポリウレア樹脂塗材31は、上述した透明補強層2における第1のポリウレア樹脂塗材21と、同様のものが用いられるため、詳細な説明を省略する。
【0044】
アクリルシリコーン樹脂塗材32は、透明性を有し、耐久性に優れる。アクリルシリコーン樹脂塗材32は、第2のポリウレア樹脂塗材31の上に塗布される。第2のポリウレア樹脂塗材31は、60°光沢度が70%程度であり、光沢が高い。第2のポリウレア樹脂塗材31にアクリルシリコーン樹脂塗材32が塗布されることにより、透明保護層3の60°光沢度が30%~50%程度にまで抑制される。このため、第2のポリウレア樹脂塗材31の艶消しをすることができ、日光や街灯等の外光によるぎらつきを低減することができる。なお、アクリルシリコーン樹脂塗材32は、省略されてもよい。
【0045】
(剥落防止工法)
次に、実施形態に係る剥落防止工法について説明する。剥落防止工法は、プライマー層形成工程と、透明補強層形成工程と、透明保護層形成工程と、を備える。
【0046】
プライマー層形成工程では、鉄筋コンクリート構造物RCの上にプライマー層1を形成する。先ず、プライマー層形成工程では、鉄筋コンクリート構造物RCの表面に、透明性下塗材11を塗布する。次に、プライマー層形成工程では、鉄筋コンクリート構造物RCの表面に形成された不陸91に、不陸調整材12を設置する。不陸91が形成されない場合には、不陸調整材12の設置は省略してもよい。
【0047】
次に、透明補強層形成工程では、プライマー層1に透明補強層2を形成する。透明保護層形成工程では、プライマー層1の上に、第1のポリウレア樹脂塗材21を塗布する。そして、透明補強層形成工程では、塗布した第1のポリウレア樹脂塗材21に、ロール状に巻かれた繊維シート22を展開してローラーや金鏝等で貼り付け、繊維シート22に第1のポリウレア樹脂塗材21を含浸させて一体化させる。このとき、第1のポリウレア樹脂塗材21から発生する気泡が、繊維シート22の開口部23から抜け出る。その後、第1のポリウレア樹脂塗材21が乾燥して硬化するまで残置する。
【0048】
次に、透明保護層形成工程では、透明補強層2の上に透明保護層3を形成する。先ず、透明保護層形成工程では、透明補強層2の上に、第2のポリウレア樹脂塗材31を塗布し塗布面を平滑にする。そして、透明保護層形成工程では、第2のポリウレア樹脂塗材31が乾燥して硬化するまで残置する。次に、透明保護層形成工程では、第2のポリウレア樹脂塗材31に、アクリルシリコーン樹脂塗材32を塗布し、乾燥するまで残置する。アクリルシリコーン樹脂塗材32は、必要に応じて省略することもできる。
【0049】
以上により、剥落防止工法が完了する。
【0050】
本実施形態によれば、透明補強層2は、透明性を有する有機繊維からなる経糸22a及び緯糸22bが織られて形成される繊維シート22と、繊維シート22に一体化される第1のポリウレア樹脂塗材21と、を有し、第1のポリウレア樹脂塗材21は、粒径D50が1μm以下の粉体が含まれ、第1のポリウレア樹脂塗材21に含まれる粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含む、又は、粉体が含まれていない。
【0051】
これにより、粒径D50が1μmを超える硅砂等の粉体による透明性の低下を抑制し、透明補強層2の透明性が向上する。加えて、透明補強層2として第1のポリウレア樹脂塗材21が用いられることにより、低温環境下において強度発現性が向上する。このため、低温環境下においても構造物の表面状態の視認性を向上させ、かつ、コンクリート片のはく落防止性能を向上させることが可能である。
【0052】
また、本実施形態によれば、第1のポリウレア樹脂塗材21には、硅砂等の粒径D50が1μm以上の粉体が含まれていないことにより、透明補強層2の厚さを低減させることができる。このため、剥落防止構造100全体の厚みを低減させることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、繊維シート22が100mmあたり8mm以上36mm以下の開口部23を有する。これにより、第1のポリウレア樹脂塗材21の主剤と硬化剤とを混合することにより発生する気泡が、開口部23から抜け出る。このため、気泡の発生による透明補強層2の浮き上がりやふくれを抑制、すなわち、耐ふくれ性を向上させることができ、鉄筋コンクリート構造物RCのコンクリート片の落下を防止することが可能となる。また、耐ふくれ性を向上させることで、気泡等によるふくれに起因する硬化したポリウレア樹脂の白化を防止することができ、構造物の表面状態の視認性を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、繊維シート22が100mmあたり8mm以上36mm以下の開口部を有する。これにより、第1のポリウレア樹脂塗材1を塗布後、未硬化の段階で開口部23より被保護層からの水蒸気を透明補強層2の外部に拡散することができ、かつ、引張強度を確保できる。
【0055】
本実施形態によれば、繊維シート22は、集束剤を用いない有機繊維が用いられる。これにより、繊維シート22に含浸される第1のポリウレア樹脂塗材21の含浸性が向上する。このため、透明補強層2をより透明にすることが可能となる。また、ポリウレア樹脂塗材21が有機繊維に直接接着されるため、繊維シート22の耐久性を向上させることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態によれば、繊維シート22としてビニロン繊維又はPET繊維が用いられるため、高温環境下でのコンクリート片のはく落防止性能を確保することが可能となる。
【0057】
また、本実施形態によれば、繊維シート22としてビニロン繊維が用いられるため、土木構造物において汎用的に用いられる有機繊維であるPET繊維やナイロン繊維、と比較して、紫外線による劣化が起きにくく引張強度が低下しにくいため、耐久性に優れるため、保護塗膜が透明であっても直射日光の当たる屋外での使用に適応できる。
【0058】
本実施形態によれば、繊維シート22は、経糸22a及び緯糸22bが模紗織りされる繊維シートが用いられる。これにより、経糸及び緯糸が平織りされるよりも、繊維シート22の引張強度が向上する。このため、透明補強層2に亀裂が発生するのを更に抑制することができ、鉄筋コンクリート構造物RCのコンクリート片の落下を防止することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態によれば、繊維シート22は、経糸22a及び緯糸22bが模紗織りされる繊維シートが用いられる。これにより、繊維シート22をローラーや金鏝等で展開してポリウレア樹脂塗材21に含浸させる際に、繊維シート22の網目がよれるのを抑制することができる。
【0060】
本実施形態によれば、透明保護層3は、第2のポリウレア樹脂塗材31を含み、第2のポリウレア樹脂塗材31は、無黄変ポリイソシアネートプレポリマーと、変性脂環式ポリアミンと、を含み、第2のポリウレア樹脂塗材31は、粒径D50が1μm以下の粉体を含み、当該粉体は、有機系揺変剤及び無機系揺変剤の少なくとも何れかを含む、又は粉体が含まれていない。これにより、硅砂等の粒径D50が1μmを超える粉体による透明性の低下を抑制し、透明保護層3の透明性が向上する。このため、構造物の表面状態の視認性を更に向上させることが可能である。
【0061】
本実施形態によれば、透明保護層3は、第2のポリウレア樹脂塗材31の上に塗布されるアクリルシリコーン樹脂塗材32を含む。これにより、透明保護層3の光沢が抑制される。このため、第2のポリウレア樹脂塗材31の艶消しをすることができ、日光や街灯等の外光によるぎらつきを低減することができる。
【0062】
以上、この発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、この発明は、上記の実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記の実施形態は、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【実施例0063】
実施例では、本発明例及び比較例を用いて、性能を評価した。実施例では、JIS A 5372 付属書5で規定する上ぶた式U形側溝(ふた)の1種呼び名300(400×600×60mm)のコンクリート中央部裏面をφ100mmの形状かつ55±3mmの深さで、コンクリート用コアカッターにより切込みを入れて、表面をディスクサンダーにより素地調整をしたものを試験基板(以下「U形ふた」という。)として、本発明例及び比較例の供試体を作成し、各供試体の透明性と、-30℃押し抜き性能と、含浸性と、耐ふくれ性と、50℃押し抜き性能を評価した。
【0064】
表1に、実施例で用いた供試体の概要と、その結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
本発明例1の供試体は、エポキシ樹脂Aと、難黄変エポキシ樹脂Aと、ポリウレア樹脂塗材Aと、ビニロン繊維シートを使用した。
【0067】
エポキシ樹脂Aは、ショーボンド HBプライマー(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)を用いた。主剤:硬化剤を重量配合比にて2:1(重量部)で混合したものをエポキシ樹脂Aとして使用した。エポキシ樹脂Aの塗布量は、0.15kg/mとした。
【0068】
難黄変エポキシ樹脂Aは、水素化ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂としてjER YX8000(商品名、三菱ケミカル社製)を主剤とした。難黄変エポキシ樹脂Aは、脂肪族ポリアミンとしてジェファーミンT-403(商品名、ハンツマン社製)を、脂環式ポリアミンとしてB-6136A(商品名、大都産業株式会社製)を、揺変剤としてAEROSIL380(商品名、日本アエロジル株式会社製)を13:13:4(重量部)で混合したものを硬化剤とした。難黄変エポキシ樹脂Aは、主剤:硬化剤を重量配合比にて7:3で混合したものを用いた。難黄変エポキシ樹脂Aの塗布量は、0.3kg/mとした。
【0069】
ポリウレア樹脂塗材Aは、無黄変イソシアネートプレポリマーとしてデュラネートTSE-100(商品名、旭化成ケミカルズ株式会社製、NCO重量%:12.0%、粘度:1650 mPa・s/25℃、固形分:100%、NCO当量:350)を主剤とし、変性脂環式ポリアミンとして、4,4´-メチレンビスシクロヘキサンアミン・マレイン酸ジエチル付加物 (重量平均分子量(Mw):548(理論値)、粘度:2000mPa・s/23℃)と4,4´-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)・マレイン酸ジエチル付加物(重量平均分子量(Mw):578(理論値)、粘度;2000mP・s/23℃) 、粉体として親水性ヒュームドシリカAEROSIL300を140:460:66(重量部)で混合したものを硬化剤として、主剤:硬化剤を重量配合比にて1:1で混合したものをポリウレア樹脂塗材Aとして使用した。ポリウレア樹脂塗材Aの塗布量は、0.5kg/mとした。
【0070】
ポリウレア樹脂塗材Aにおける粉体の粒度分布を、透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 HT7700)により測定した。図3に、ポリウレア樹脂塗材Aにおける粉体の累積粒度分布を示す。ポリウレア樹脂塗材Aにおける粉体の粒径D50は、0.006μmとなった。
【0071】
ビニロン繊維シートは、原糸の種類がビニロン繊維(1225-7、クラレ株式会社製)であり、経糸及び緯糸を織り(密度15本/25mm)、開口部を形成したものを用いた。原糸は、集束剤をしないものを用いた。また、原糸は、マルチフィラメント糸で構成される無撚糸を用いた。
【0072】
本発明例2の供試体は、エポキシ樹脂Aと、難黄変エポキシ樹脂Aと、ポリウレア樹脂塗材Aと、ナイロン繊維シートを使用した。
【0073】
本発明例2のナイロン繊維シートは、原糸の種類がナイロン繊維(940T-136-781S、東レ株式会社製)であり、経糸及び緯糸を織り(密度、15本/25mm)、開口部を形成したものを用いた。原糸は、集束剤をしないものを用いた。また、原糸は、マルチフィラメント糸で構成される有撚糸を用いた。
【0074】
本発明例3の供試体は、エポキシ樹脂Aと、難黄変エポキシ樹脂Aと、ポリウレア樹脂塗材Aと、PET繊維シートを使用した。
【0075】
本発明例3のPET繊維シートは、原糸の種類がPET繊維(500d/48f、ユニチカ株式会社製)であり、経糸及び緯糸を織り(密度、21本/25mm)、開口部が形成されないものを用いた。原糸は、集束剤をしないものを用いた。また、原糸は、マルチフィラメント糸で構成した。
【0076】
比較例1の供試体は、アクリル樹脂Aと、アクリル樹脂Bと、増粘剤と、アクリル樹脂Bと、ガラス繊維シートと、フッ素樹脂Aを使用した。比較例1の使用材料は、NAV-G工法(UV仕様)(工法名、デンカ株式会社製)における使用材料である。
【0077】
アクリル樹脂Aは、NAVレジン1(商品名、デンカ株式会社製)を用いたアクリル樹脂Aの塗布量は、0.2kg/mとした。
【0078】
アクリル樹脂Bは、NAVレジン2(商品名、デンカ株式会社製)を用いた。増粘剤は、AS380(商品名、デンカ株式会社製)を用いた。アクリル樹脂Bと増粘剤を100:2(重量部)で混合したものを不陸調整材とし、0.3kg/m塗布した。塗材1としてのアクリル樹脂Bの塗布量は、0.4kg/mとした。
【0079】
ガラス繊維シートは、NAV-Gシート(商品名、デンカ株式会社製)を用いた。
【0080】
フッ素樹脂Aは、NAVコートUV(商品名、デンカ株式会社製)を用いた。フッ素樹脂Aの塗布量は、0.1kg/mとした。
【0081】
比較例2の供試体は、エポキシ樹脂Bと、ポリウレア樹脂塗材Bと、ポリエステル繊維シートと、ポリウレア樹脂塗材Cと、アクリルシリコーン樹脂塗材Aを用いた。比較例2の使用材料はクリアタフレジン工法(工法名、アイカ工業株式会社製)における使用材料である。
【0082】
エポキシ樹脂Bは、JUU-600(商品名、アイカ工業株式会社製)を用いた。エポキシ樹脂Bの塗布量は、0.25kg/mとした。
【0083】
ポリウレア樹脂塗材Bは、無溶剤型ポリウレア樹脂塗材であって、JUU-610(商品名、アイカ工業株式会社製)を用いた。ポリウレア樹脂塗材Bは、親水性ヒュームドシリカと、硅砂と、が粉体として含まれ、粉体中の親水性フュームドシリカと硅砂の重量比は、1:10である。ポリウレア樹脂塗材Bの塗布量は、1.0kg/mとした。
【0084】
ポリウレア樹脂塗材Bに含まれる揺変剤の粒度分布を、透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 HT7700)により測定した。ポリウレア樹脂塗材Bに含まれる硅砂の粒度分布を、ロータップ型ふるい振とう機(株式会社丸東製作所)により測定した。測定した搖変剤と硅砂の粒度分布からポリウレア樹脂塗材Bに含まれる粉体の累積粒度分布を算出した。図4に、ポリウレア樹脂塗材Bにおける粉体の累積粒度分布を示す。ポリウレア樹脂塗材Bにおける粉体の粒径D50は、325μmとなった。
【0085】
ポリエステル繊維シートは、JUU-CE(商品名、アイカ工業株式会社製)を用いた。ポリウレア樹脂塗材Cは、無溶剤型ポリウレア樹脂塗材であって、JUU-620(商品名、アイカ工業株式会社製)を用いた。
【0086】
ポリウレア樹脂塗材Cにおける粉体は、ポリウレア樹脂塗材Bにおける粉体と同じものを用いた。
【0087】
アクリルシリコーン樹脂塗材Aは、溶剤型アクリルシリコーン樹脂塗材であって、JUU-630(商品名、アイカ工業株式会社製)を用いた。アクリルシリコーン樹脂塗材Aの塗布量は、を0.07kg/mとした。
【0088】
比較例3の供試体では、エポキシ樹脂Dと、エポキシ樹脂Eと、エポキシ樹脂Fと、ビニロン繊維シートと、アクリルシリコーン樹脂Bを使用した。比較例3の材料は、ショーボンド クリアクロス工法(工法名、ショーボンドマテリアル株式会社製)における使用材料である。
【0089】
エポキシ樹脂Dは、ショーボンド クリアクロスプライマー(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)を使用した。エポキシ樹脂Dの塗布量は、0.15kg/mとした。
【0090】
エポキシ樹脂Eは、ショーボンド クリアクロスパテ(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)を使用した。エポキシ樹脂Eの塗布量は、0.2kg/mとした。
【0091】
エポキシ樹脂Fは、ショーボンド PVM(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)を使用した。塗材1としてのエポキシ樹脂Fの塗布量は、0.4kg/mとした。塗材2としてのエポキシ樹脂Fの塗布量は、0.2kg/mとした。
【0092】
比較例3のビニロン繊維シートは、ショーボンド クリアクロス(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)を使用した。
【0093】
アクリルシリコーン樹脂Bは、ショーボンド PVMクリアトップ(商品名、ショーボンドマテリアル株式会社製)を使用した。アクリルシリコーン樹脂Bの塗布量は、0.12kg/mとした。
【0094】
比較例4の供試体は、本発明例1のビニロン繊維シートに代わり、ガラス繊維及びPP繊維の複合繊維シートを用いた。ガラス繊維及びPP繊維の複合繊維シートは、原糸の種類がガラス繊維及びPP繊維の複合繊維(日本電気硝子製)であり、経糸及び緯糸を織り(密度、6本/25mm)、開口部が形成されるものを用いた。原糸は、集束剤を使用したものを用いた。また、原糸は、マルチフィラメント糸で構成される無撚糸を用いた。
【0095】
(透明性の評価)
透明性の評価では、U形ふたの表面のうち40×40cmの範囲でコンクリートのひび割れの検査に使用される55×91×0.2mmのポリエステル製クラックスケールを貼り付けた上にプライマー層の材料を塗布して硬化させた後、各繊維シートを各塗材を用いて透明補強層を形成し、透明補強層の上に透明保護層を形成した供試体を作成した。作製した供試体について、クラックスケールのうち0.1mm未満の太さの線を視認できたものを「○」と表記し、0.1mm未満の太さの線を視認できないものを「×」と表記する。
【0096】
(-30℃押し抜き性能の評価)
-30℃押し抜き性能の評価では、JSCE-K 533及び、構造物施工管理要領(株式会社高速道路総合技術研究所発行)III保全編5-3はく落防止の試験方法に準拠して評価を実施した。まず、U形ふたを23℃環境下で24時間以上浸漬させた。透明性下塗材を塗布する直前にU形ふたの厚さ30mmまで水位を下げた状態を保持してU形ふたの表面の水をふき取った。ふき取ってから5分以内に透明性下塗材を塗布して硬化を確認後、実施例または比較例の不陸調整層を塗布して硬化させてプライマー層を形成後さらに、実施例または比較例の繊維シートを塗材1もしくは、塗材1及び塗材2で貼付け硬化させて透明補強層を形成させてさらに、塗材2もしくは塗材3を塗布して透明保護層を塗布して23℃環境下で5日間養生した後、水中より取出し、-30℃環境下で2日間温度調整したものを供試体とした。その後、該供試体を-30℃環境下でJSCE-K 533に準拠して試験を実施して、変位10mm以上かつ最大荷重1.5kN以上の試験値を示すものを「○」と表記し、それ以外を「×」と表記した。
【0097】
(含浸性の評価)
含浸性の評価では、U形ふたの表面のうち40×40cmの範囲でプライマー層の材料を塗布して硬化させた後、透明補強層の塗材1を塗布して各繊維シートをネジローラーを用いて含浸させ、塗膜が透明になった時点のローラーの往復回数を測定した。表3において、含浸性が良好で、20往復以内でU形ふたの骨材が概ね見える程度に透明になったものを「◎」と表記し、40往復以内で透明になったものを「〇」と表記し、含浸性が良好でなく、40往復以上かけても透明にならなかったものを「×」と表記する。
【0098】
(耐ふくれ性の評価)
耐ふくれ性の評価では、U形ふたを5℃環境下で24時間以上水中に浸漬させた。透明性下塗材を塗布する直前にU形ふたの厚さ30mmまで水位を下げた状態を保持してU形ふたの表面の水をふき取った。ふき取ってから5分以内に透明性下塗材を塗布して硬化を確認後、各繊維シートを塗材1で貼り付けて透明補強層を形成し直ちに水中から取り出し、30℃環境下で加温して透明補強層の膨れの有無を観察し、膨れの発生が無いものを「○」と表記し、膨れの発生があるものを「×」と評価した。
【0099】
(50℃押し抜き性能の評価)
50℃押し抜き性能の評価では、JSCE-K 533及び、構造物施工管理要領(株式会社高速道路総合技術研究所発行)III保全編5-3はく落防止の試験方法に準拠して評価を実施した。まず、U形ふたを23℃環境下で24時間以上浸漬させた。透明性下塗材を塗布する直前にU形ふたの厚さ30mmまで水位を下げた状態を保持してU形ふたの表面の水をふき取った。ふき取ってから5分以内に透明性下塗材を塗布して硬化を確認後、実施例または比較例の不陸調整層を塗布して硬化させてプライマー層を形成後さらに、実施例または比較例の繊維シートを塗材1もしくは、塗材1及び塗材2で貼付け硬化させて透明補強層を形成させてさらに、塗材2もしくは塗材3を塗布して透明保護層を塗布して23℃環境下で5日間養生した後、水中より取出し、50℃環境下で2日間温度調整したものを供試体とした。その後、該供試体を50℃環境下でJSCE-K 533に準拠して試験を実施して、変位10mm以上かつ最大荷重1.5kN以上の試験値を示すものを「○」と表記し、それ以外を「×」と表記した。
【0100】
本発明例1~3では、「透明性」が「〇」、かつ、「-30℃押し抜き性能」が「〇」を満足した。これに対して、比較例1~4では、「透明性」が「〇」、かつ、「-30℃押し抜き性能」が「〇」を満足しなかった。このため、本発明例1~3では、低温環境下においても、コンクリート構造物の表面状態の視認性を向上させることが可能となり、かつ、コンクリート片のはく落防止性能を確保することが可能となる。
【0101】
本発明例1~3では、「含浸性」が「◎」又は「〇」となった。本発明例1~3では、繊維シートとしてビニロン繊維、ナイロン繊維及びPET繊維が用いられるため、ポリウレア樹脂を含浸させると透明にすることができた。これに対して、比較例4では、「含浸性」が「×」となった。比較例4では、ポリウレア樹脂塗材とガラス繊維とが反応することにより気泡が発生し、ポリウレア樹脂が硬化した後においてもガラス繊維とポリウレア樹脂塗材との反応が継続されるものであった。このため、硬化したポリウレア樹脂に気泡が残存してしまい、透明性が失われてしまった。このため、ポリウレア樹脂塗材に用いられる繊維シートとして、ガラス繊維を含むものは不適であると考えられる。このことから、本発明では、繊維シートとして、例えば、ビニロン繊維、ナイロン繊維及びPET繊維が好適に用いられる。
【0102】
本発明例1~3では、「耐ふくれ性」が「〇」となった。本発明例1~3では、繊維シートとして100mmあたり8mm以上の開口部を有する。このとき、本発明例1~3では、著しい温度変化があっても、繊維シートの密着が維持された。
【0103】
本発明例1、3では、「50℃押し抜き性能」が「〇」となり、高温環境下でのコンクリート片のはく落防止性能を確保することができた。これに対して、本発明例2では、「50℃押し抜き性能」が「×」となり、高温環境下でのコンクリート片のはく落防止性能を満足できなかった。したがって、高温環境下でのコンクリート片のはく落防止性能を求められる場合には、繊維シートの原糸としてビニロン繊維又はPET繊維がより好適に用いられる。
【0104】
図5図9に示すように、本発明例1~3の供試体については、比較例1、2の供試体よりもクラックスケールをより明確に視認できることが確認された。
【符号の説明】
【0105】
100 :剥落防止構造
1 :プライマー層
11 :透明性下塗材
12 :不陸調整材
2 :透明補強層
21 :第1のポリウレア樹脂塗材
22 :繊維シート
22a :経糸
22b :緯糸
23 :開口部
3 :透明保護層
31 :第2のポリウレア樹脂塗材
32 :アクリルシリコーン樹脂塗材
RC :鉄筋コンクリート構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9