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特開2022-157432カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素変異体のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157432
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素変異体のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 303/04 20060101AFI20221006BHJP
   C12P 23/00 20060101ALI20221006BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20221006BHJP
   C07C 33/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C07D303/04
C12P23/00 ZNA
C12N15/52 Z
C07C33/02 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061647
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】梅野 太輔
(72)【発明者】
【氏名】大谷 悠介
【テーマコード(参考)】
4B064
4C048
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AH01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4C048AA01
4C048BB02
4C048CC01
4C048UU10
4C048XX02
4C048XX04
4C048XX10
4H006AA01
4H006AA02
4H006FE11
(57)【要約】
【課題】カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素変異体のスクリーニング方法を提供することである。
【解決手段】カロテノイド不飽和化酵素がオキシドスクアレンを各種のカロテノイドに転換するという新たな知見により、カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素の変異体のスクリーニング方法を完成した
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
以下の式(3)で表される化合物。
【化5】
【請求項3】
以下の式(2)で表される化合物。
【化6】
【請求項4】
以下の式(1)で表される化合物。
【化7】
【請求項5】
以下の式(4)で表される化合物。
【化8】
【請求項6】
以下の式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物の製造方法:
1)SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びCrtN(4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主から式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を抽出する;
2)SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子、及びCrtN (4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主から式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を抽出する;又は
3)CrtN (4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子が導入されたオキシドスクアレン産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主から式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を抽出する、
ことを特徴とする製造方法。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項7】
オキシドスクアレン消費酵素遺伝子、基質、並びにオキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素又は該酵素遺伝子を、オキシドスクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞に導入し、該色素合成量の増加又は低下を指標とする、オキシドスクアレン消費酵素及び/又はその変異体のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下の1)~8)のいずれか1に記載の請求項7に記載のスクリーニング方法:
1)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレン-ラノステロールシクラーゼライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
2)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がβ-Amyrin合成酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
3)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がdammarenediol-IIsynthaseライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
4)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がCycloartenol合成酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
5)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンのエポキシ基への糖転移酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
6)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンのエポキシ基を有さない側をエポキシ化するスクアレンエポキシダーゼライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
7)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンの切断酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;及び
8)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンの不飽和化活性を有する不飽和化酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がスクアレンエポキシダーゼおよびオキシドスクアレン環化酵素であり、前記色素合成量の増加を指標とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素の変異体のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(トリテルペン)
トリテルペンは、動物・植物・微生物がつくる巨大な化合物群であり,20,000を超える化合物が知られている。トリテルペンの中には、ステロールやホパノイドといった細胞膜の重要な構成成分やステロイドホルモンや植物サポニンなどの種々の生理活性を持つものが多数知られ、その生合成経路の解明や異種宿主での再構築が盛んに行われている。興味深いことに,20,000を超えるトリテルペンのほぼ全て(カロテノイド・ボトリオコッセン以外)は、スクアレンというただ一つの化合物を出発物質として生合成される(参照:図1)。
【0003】
(エポキシカロテノイドの生合成)
カロテノイド類のエポキシ化カロテノイドは、大腸菌等を使用した異種発現が困難だとされていた。しかし、近年、本発明者らのグループを含むいくつかのグループが、ゼアキサンチンを自然界に知られるヴィオラキサンチンに転換することに成功している。
【0004】
(スクアレン消費酵素のスクリーニング方法)
本発明者らは、「スクアレン消費酵素遺伝子を、スクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞に導入し、該色素合成量の増加又は低下を指標とする、スクアレン消費酵素及び/又はその変異体のスクリーニング方法」を開発し、さらに該方法により変異型スクアレンホペン環化酵素を取得している(参照:特許文献1)。
しかし、エポキシ基を持つカロテノイド化合物を取得する方法は開示又は示唆はされていない。
【0005】
(テルペン合成酵素をコードする遺伝子のスクリーニング方法)
本発明者らは、「酵素活性および/またはその発現が野生型酵素と比較して増強されたテルペン合成酵素変異体を導入した細胞に被検遺伝子を導入して培養し、細胞に導入した被検遺伝子のうち生存した細胞に導入した被検遺伝子を選択することにより、テルペン合成に関わる酵素をコードする遺伝子および/またはその変異体をスクリーニングする方法」を報告している(参照:特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-170350
【特許文献2】特開2014-223038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高等生物型の生理活性トリテルペンは、すべてがオキシドスクアレンを経由して合成され、該合成の最初のボトルネックがオキシドスクアレンの環化反応である。
本発明者らは、カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素変異体のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カロテノイド不飽和化酵素がオキシドスクアレンを各種のカロテノイドに転換するという新たな知見により、カロテノイド化合物(特に、エポキシ基を持つカロテノイド化合物)、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素変異体のスクリーニング方法を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.以下の式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
2.以下の式(3)で表される化合物。
【化5】
3.以下の式(2)で表される化合物。
【化6】
4.以下の式(1)で表される化合物。
【化7】
5.以下の式(4)で表される化合物。
【化8】
6.以下の式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物の製造方法:
1)SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びCrtN(4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主から式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を抽出する;
2)SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子、及びCrtN (4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主から式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を抽出する;又は
3)CrtN (4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子が導入されたオキシドスクアレン産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主から式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を抽出する、
ことを特徴とする製造方法。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
7.オキシドスクアレン消費酵素遺伝子、基質、並びにオキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素又は該酵素遺伝子を、オキシドスクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞に導入し、該色素合成量の増加又は低下を指標とする、オキシドスクアレン消費酵素及び/又はその変異体のスクリーニング方法。
8.以下の1)~8)のいずれか1に記載の前項7に記載のスクリーニング方法:
1)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレン-ラノステロールシクラーゼライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
2)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がβ-Amyrin合成酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
3)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がdammarenediol-IIsynthaseライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
4)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がCycloartenol合成酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
5)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンのエポキシ基への糖転移酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
6)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンのエポキシ基を有さない側をエポキシ化するスクアレンエポキシダーゼライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;
7)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンの切断酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がジアポフィトエン不飽和化酵素であり、前記色素合成量の低下を指標とする;及び
8)前記オキシドスクアレン消費酵素遺伝子がオキシドスクアレンの不飽和化活性を有する不飽和化酵素ライブラリであり、前記基質がオキシドスクアレンであり、前記オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素がスクアレンエポキシダーゼおよびオキシドスクアレン環化酵素であり、前記色素合成量の増加を指標とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、新規カロテノイド化合物(特に、新規エポキシ基を持つカロテノイド化合物)、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素の変異体のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】トリテルペンの合成経路の概要図。
図2】SQS,SQE,CrtN共発現株の生産物解析(A)各プラスミド発現株の生産物のHPLC-MSクロマトグラム。クロマトグラムはSIM(+)モードで測定したm/z 401,403,411,419,421,427のシグナルのみを表示した。図中の「hsqs」は、ヒト由来のsqsを意味する。「shcdead]は、失活したスクアレンーホペンシクラーゼを意味する。(B)クロマトグラム中のI~IIIのピークの吸収波長。pUC-SQS(pUC-hsqs)は、文献「J. Biosci. Bioeng.,119, 165~171 (2015)」を参照した。pUC-hsqs-crtNは図8を参照。Sqe(pJ211-sqe)は図9を参照。
図3】新しいカロテノイドの生合成経路の概要図。
図4】CrtM,SQE,CrtN共発現株の生産物解析(A)各プラスミド発現株の生産物のHPLC-MSクロマトグラム。クロマトグラムはSIM(+)モードで測定したm/z 401,403,409,417,419,425のシグナルのみを表示した。(B)クロマトグラム中のIV~Vのピークの吸収波長。CrtM (pUC-CrtM)は、文献「Nat. Commun., 6, 1~10(2015)」を参照した。CrtM-N(pUC-CrtMN)は、文献「J. Bacteriol., 184,6690~6699 (2002).」を参照した。Sqe(pJ211-sqe)は図9の構造を参照。
図5】新規エポキシ化カロテノイドの生合成ルートの概要図。図中の括弧内の数字は各化合物のExact Massを表す。
図6】Oxidosqualene環化酵素の追加発現によるコロニーの色の変化(A)pSC101-hsqsで形質転換したXL1Blueに各plasmidを導入し、NC膜上に植菌しコロニー形成後、22℃で48時間培養した時点のコロニーの様子。白黒写真は撮影した画像をRGB分解し、青チャネルのみを表示した。(B)コロニーの色の変化の概要図。pJ404-sqeは図10を参照。pJ404-sqe-erg7は図11を参照。pAC-crtN-crtNb-idiは図12を参照。pAC-CrtN-idiは、文献「J. Biosci. Bioeng., 119, 165~171 (2015)」を参照した。
図7】コロニーの画像。矢印は、親よりも薄い色のコロニーを示す。
図8】pUC-hsqs-crtNの構造図。
図9】pJ211-sqeの構造図。
図10】pJ404-sqeの構造図。
図11】pJ404-sqe-erg7の構造図。
図12】pAC-crtN-crtNb-idiの構造図。
図13】pAC-crtN-idi-sqeの構造図。
図14】pSC-sqsの構造図。
図15】スクリーニング方法の概要(オキシドスクアレンの合成が必要な場合には、スクアレン合成酵素(SQS)及びスクアレンエポキシダーゼ(SQE)を追加する)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の対象)
本発明は、カロテノイド化合物、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素変異体のスクリーニング方法に関する。
【0013】
(カロテノイド化合物)
本発明は、以下の実施例により、式(1)~式(4)で表される構造を有する新規カロテノイド化合物(特に、新規エポキシ基を持つカロテノイド化合物、以後、「目的化合物」と称する)を取得した。
【0014】
(6-Hydro-7’,8’-dihydro-4,4’-diapolycopene-5-ol)
6-Hydro-7’,8’-dihydro-4,4’-diapolycopene-5-ol(6-ハイドロ-7 '、8'-ジヒドロ-4,4'-ジアポリコペン-5-オール)は、下記式(1)で表される構造を有する(参照:図3図5の「peak I」)。
【化13】
【0015】
(6-Hydro-4,4’-diapolycopene-5-ol)
6-Hydro-4,4’-diapolycopene-5-ol(6-ハイドロ-4,4'-ジアポリコペン-5-オール)は、下記式(2)で表される構造を有する(参照:図3図5の「peak II」)。
【化14】
【0016】
(Diaponeurosporene 5,6-epoxide)
Diaponeurosporene 5,6-epoxide(ジアポニューロスポレン5,6-エポキシド)は、下記式(3)で表される構造を有する(参照:図3図5の「peak III」)。
【化15】
【0017】
(Diapophytoene 5,6-epoxide)
Diapophytoene 5,6-epoxide(ジアポフィトエン5,6-エポキシド)は、下記式(4)で表される構造を有する(参照:図3図5の「peak IV」)。
【化16】
【0018】
(式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物の製造方法)
本発明の目的化合物の製造方法は、特に限定されないが、以下の宿主を使用する方法を例示することができる。
【0019】
(式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物を産生する宿主)
本発明の目的化合物を産生する宿主は、式(1)~式(4)のいずれか1で表される化合物の合成に関与する遺伝子群に加えて、好ましくは、Idi (IPPisomerase) をコードする遺伝子、電子伝達系タンパク質をコードする外来性の遺伝子及び/又はNADPH再生系タンパク質をコードする外来性の遺伝子が導入された遺伝子組換え宿主のことである。
具体的には、下記を列挙するが、特に限定されない。
【0020】
1)SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びCrtN(4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ宿主。
2)SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子、及びCrtN (4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ宿主。
3)CrtN (4,4'-diapophytoene desaturase)をコードする遺伝子の遺伝子が導入されたオキシドスクアレン産生能を持つ宿主。
宿主としては、組換え大腸菌、昆虫系、酵母系、植物細胞系、無細胞系(コムギ胚芽等)等を使用することができるが、特に好ましいのは大腸菌である。
【0021】
(目的化合物合成に関与する酵素をコードする遺伝子群)
目的化合物合成に関与する酵素をコードする遺伝子群は、以下の遺伝子を例示するが、特に限定されない。
(1)ファルネシル二リン酸(farnesyl diphosphate; FPP)からスクアレンを合成する酵素であるスクアレン合成酵素(SQS)をコードする遺伝子
(2)スクアレンから2,3-オキシドスクアレンを合成する酵素であるスクアレンエポキシダーゼ(SQE)をコードする遺伝子
(3)ジアポフィトエンを3段階不飽和化してジアポニューロスポレンを合成する等の作用を有する酵素(ジアポフィトエン不飽和化酵素:CrtN)をコードする遺伝子
さらに、本発明では、好ましくは、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子、NADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入する。
【0022】
(大腸菌形質転換ベクター)
目的化合物を合成する酵素遺伝子(群)は、公知の方法により、例えば、大腸菌に導入される。大腸菌への外来性遺伝子の導入方法は特に限定されず、例えば、導入したい外来性遺伝子を、公知の方法により適当なプロモータとターミネータの利用により発現する形にして大腸菌の形質転換用ベクターに挿入してプラスミドを作製し、該プラスミドを大腸菌の細胞に導入すればよい。複数の遺伝子を導入する場合、それらの遺伝子は、1つの形質転換用ベクターにより導入されてもよく、それぞれ異なる形質転換用ベクターにより導入されてもよい。
大腸菌の形質転換用ベクターは、導入遺伝子の数や種類等により適宜選択すればよいが、大腸菌のタンパク質発現用ベクター等が好ましい。また、プロモータは、大腸菌中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。
また、大腸菌形質転換ベクターにより目的とする外来性遺伝子(例えば、SQEをコードする遺伝子等)が導入された大腸菌細胞を効率よく選抜するために、各種選抜マーカー遺伝子を用いてもよい。
【0023】
(大腸菌の形質転換と遺伝子組換え大腸菌の取得)
大腸菌の形質転換は、公知の方法により行うことができる。例えば、導入したい外来遺伝子や選抜マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子など)を適当なプロモータとターミネータの利用により発現する形にしたDNA断片を作製し、該DNA断片を熱ショック法等により導入すればよい。遺伝子が導入された大腸菌は、薬剤により選抜することにより得られる。
大腸菌に導入した外来性遺伝子が遺伝子組換え大腸菌において発現していることは、例えば、ノザンブロッティング、RT-PCR、ウェスタンブロッティング等の方法により確認することができる。また、該大腸菌において目的化合物が産生されていることは、例えば、GC-MS分析等の方法により確認することができる。
【0024】
(遺伝子組換え大腸菌から目的化合物の抽出方法)
作出した遺伝子組換え大腸菌を、通常、培養することにより、該大腸菌内に目的化合物が産生される。遺伝子組換え大腸菌の培養方法は、特に限定されない。
例えば、遺伝子組換え大腸菌には、目的化合物が含まれる。このため公知の抽出方法(溶媒・固相抽出等)により、遺伝子組換え大腸菌から目的化合物を精製することができる。
【0025】
(組換え大腸菌以外の宿主)
本発明の目的化合物の製造方法において、組換え大腸菌以外の宿主としては、昆虫系、酵母系、植物細胞系、無細胞系(コムギ胚芽等)等を使用することができる。
これらの宿主においても、適切な各合成酵素遺伝子(SQSSQE、及びCrtN)及び必要に応じてidi遺伝子(1型及び/又は2型)、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子とNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子等を導入することにより、組換え大腸菌系と同様に、目的化合物の製造が可能になる。
すなわち、各宿主に追加で必要な合成酵素遺伝子は、以下の通りである。
酵母系:SQSSQE、及びCrtN
昆虫系:SQSSQE、及びCrtN
植物系:SQSSQE、及びCrtN
ただし、昆虫系、酵母系、植物細胞系(ただし細胞質)、無細胞系(コムギ胚芽等)等の真核生物が宿主の場合、大腸菌と違って、これらの宿主は元々SQSSQE遺伝子を持っているので、この2つの遺伝子の導入は必ずしも必要とされない場合もある。
【0026】
(本発明のスクリーニング方法)
本発明のオキシドスクアレン消費酵素のスクリーニング方法は、オキシドスクアレン消費酵素の探索を行うため、基質から色素を合成することができる細胞にオキシドスクアレン消費酵素遺伝子(候補オキシドスクアレン消費酵素遺伝子)を導入し発現させて、基質の消費をオキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素と競合させ、色素合成量の増減を検出することによる、オキシドスクアレン消費酵素遺伝子のスクリーニング方法に関する。
さらに、本発明は、オキシドスクアレン消費酵素遺伝子ライブラリ(特に、ランダム変異を導入したオキシドスクアレン消費酵素遺伝子ライブラリ)を色素合成可能な細胞に導入し、色素合成量の増減を検出することによる、野生型オキシドスクアレン消費酵素と比較して活性の高い又は安定性が高い変異型オキシドスクアレン消費酵素遺伝子のスクリーニング方法に関する。
【0027】
(オキシドスクアレン消費酵素)
本発明での「オキシドスクアレン消費酵素」とは、オキシドスクアレンの消費に関与する酵素(複数の酵素群も含む)である。特に、オキシドスクアレン消費酵素は、スクアレンを直接又は間接的に色素に転換する作用を有すれば特に限定されない。
例えば、オキシドスクアレン-ラノステロールシクラーゼ、β-Amyrin合成酵素、dammarenediol-IIsynthase、Cycloartenol合成酵素、オキシドスクアレンのエポキシ基への糖転移酵素、オキシドスクアレンのエポキシ基を有さない側をエポキシ化するスクアレンエポキシダーゼ、オキシドスクアレンの切断酵素、オキシドスクアレンの不飽和化活性を有する不飽和化酵素等を例示することができる。
また、本発明での「オキシドスクアレン消費酵素遺伝子」とは、オキシドスクアレン消費酵素をコードする遺伝子である。「その変異体」とは、オキシドスクアレン消費酵素遺伝子のDNAがその一部のヌクレオチドの置換、欠失、付加などにより変異した遺伝子の概念である。自然界で生じた変異でもよいし、人工的になされた変異でもよい。
変異は、発現酵素の酵素活性、発現量又は安定性が高くなる変異が好ましい。また基質特異性を高めるような変異も好ましい。特に、酵素活性を高める変異が好ましい。
変異体のライブラリを作成し、そのライブラリから、その宿主において酵素活性、発現量又は安定性が高い変異体を本発明の方法により、スクリーニングできる。
本発明における「オキシドスクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞へ導入されるオキシドスクアレン消費酵素遺伝子」とは、オキシドスクアレン消費酵素遺伝子若しくはその変異体を含むと考えられる遺伝子又は遺伝子群である。天然の細胞から抽出した遺伝子、作製したライブラリの遺伝子、化学合成遺伝子、PCR増幅遺伝子など由来は問わない。本発明のスクリーニング方法は、発現する酵素の基質消費能を指標とするため、未同定の遺伝子をスクリーニングすることができる。
オキシドスクアレン消費酵素遺伝子又はその変異体の、オキシドスクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞への導入は、遺伝子組み換え技術で用いられている常法によることができる。例えば、ベクターにスクリーニング対象の遺伝子を組み込み、細胞を形質転換する等である。
【0028】
(オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素)
本発明での「オキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素」とは、基質の消費をオキシドスクアレン消費酵素と競合する特性を有する。
例えば、図15に記載の酵素を例示することができる。
【0029】
(色素合成に関与又は競合する酵素の基質)
本発明での「色素合成に関与又は競合する酵素の基質」とは、オキシドスクアレンだけでなく、diapophytoeneepoxide(式(4)で表される化合物)も対象とする。
【0030】
(本発明のスクリーニング方法での組合せ)
本発明のスクリーニング方法では、図15に記載の組合せを例示することができるが、特に限定されない。
【0031】
オキシドスクアレン-ラノステロールシクラーゼ(ERG7)の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のLanosterolの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
β-Amyrin合成酵素(AS) の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のβ-Amyrinの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
dammarenediol-IIsynthase (DDS)の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のdammarenediol-Iの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
Cycloartenol合成酵素の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のCycloartenolの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
オキシドスクアレンのエポキシ基への糖転移酵素の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のsqualene glycosideの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
オキシドスクアレンのエポキシ基を有さない側をエポキシ化するスクアレンエポキシダーゼの変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のSqualene Diepoxideの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
オキシドスクアレンの切断酵素の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が少ない形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体のapooxidosqualeneの合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
オキシドスクアレンの不飽和化活性を有する不飽和化酵素の変異体(酵素活性が高い変異体)を取得する場合には、野生型と比較して、色素合成量(黄色)が多い形質転換体を選択する。さらに、必要に応じて、該変異体の式(1)~(3)で表される化合物の合成量を確認することにより、酵素活性が高いかを確認することができる。
【0032】
(オキシドスクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞)
本発明での「オキシドスクアレンを経由して合成される色素合成可能な細胞」は、上記の酵素により色素を生合成することができる細胞であれば制限されない。天然の細胞でも、遺伝子組み換えにより形質転換されている細胞でもよい。遺伝子組み換え細胞は、遺伝子組み換えの操作に簡便な細胞である、大腸菌、枯草菌、酵母などが挙げられる。
本発明で用いる好ましい色素合成可能な細胞は、色素合成に関与する酵素遺伝子若しくはその変異体、及び/又は、色素合成に競合する酵素遺伝子若しくはその変異体により形質転換されている細胞である。また、さらにイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(idi)遺伝子により、Idiを細胞に導入し、イソプレノイド経路を強化した細胞が好ましい。
本発明で用いる色素合成可能な細胞は、必要に応じて、ジアポフィトエン合成酵素(CrtM)遺伝子若しくはその変異体、及び/又はデヒドロスクアレン不飽和化酵素(CrtN)遺伝子若しくはその変異体を形質転換された細胞でも良い。その色素合成可能細胞は、C15PPを基質として、ジアポニューロスポレン(黄色)、ジアポリコペン(赤色)等を生成し、細胞が黄色や赤色等になる。CrtM遺伝子とCrtN遺伝子又はそれらの変異体は、同一のベクターに組み込まれていてもよいし、別のベクターに組み込まれていてもよい。
また、本発明で用いる色素合成可能な細胞は、必要に応じて、CrtM遺伝子若しくはその変異体、及び/又はCrtN遺伝子若しくはその変異体に加え、さらにファルネシル二リン酸合成酵素(FPPS)遺伝子又はその変異体により形質転換された細胞でも良い。その色素合成可能な細胞は、C15PPを基質として、ジアポニューロスポレン(黄色)、ジアポリコペン(赤色)等を生成し、細胞が黄色や赤色等になる。CrtM遺伝子、CrtN遺伝子及びFPPS遺伝子又はそれらの変異体は、同一のベクターに組み込まれていてもよいし、別のベクターに組み込まれていてもよい。
【0033】
(色素合成量の増加又は低下)
本発明での「色素合成量の増加又は低下」は、細胞における色素生合成の量が増加又は低下し、細胞中の色素量が増加又は減少することである。オキシドスクアレン消費酵素とオキシドスクアレン消費酵素と競合する酵素が基質の消費を競合することにより、色素合成量が増加又は低下する。すなわち、本発明のスクリーニング方法では、オキシドスクアレン消費酵素遺伝子を導入した色素合成可能な細胞における色素合成量を、オキシドスクアレン消費酵素遺伝子を導入していない色素合成可能な細胞における色素合成量と比較し、色素合成量が増加又は低下した細胞を選択し、その細胞に導入された該遺伝子を酵素活性の高いオキシドスクアレン消費酵素遺伝子であると決定する。
【0034】
色素合成量の増加若しくは低下を検出する方法、又は色素合成量の増加若しくは低下を測定する方法は、視認により実施できる。また、各種測定機器、マイクロプレートリーダー、分光光度計、測色光度計などの各種測定機器により検出できる。
本発明のスクリーニング方法を用いれば、細胞を破壊することなく、オキシドスクアレン消費酵素の活性を検出又は測定することができる。具体的には、視認によるときは、細胞のコロニーをプレート上に作成し、コロニー色を観察する。視認によるものであれば、0.3-1.5 mm、特に0.5-1.0 mm直径のコロニーを形成させ、目視により探索する。
スループットをあげる必要があるときは、低倍率拡大鏡などを用い、より小さなコロニーを密集させる手法を用いることができる。また、画像解析ソフトウエアを用いることによって、コロニー色の強弱を定量化し、コロニーピッカーを用いてスクリーニング全般を半自動化することもできる。
【0035】
(色素合成可能細胞の製造方法)
色素合成可能細胞は、常法により製造することができる。例えば、各遺伝子を、購入又はPCRなどにより常法により調製し、その遺伝子を宿主に適する発現ベクターに常法により組み込み、目的のベクターを選択し、そのベクターにより宿主細胞を常法により形質転換することにより得られる。
用いる宿主細胞は、制限されないが、培養時間の短縮やクローニングの容易さを考えれば、大腸菌、枯草菌、酵母などが好ましい。特に大腸菌、酵母が好ましく、好適な大腸菌としては、Escherichia coli XL1-Blueのようなクローニング株、HB101やBL21などの発現株に加え、テルペン前駆体の合成量が豊富な遺伝子ノックアウト株、たとえばJW1750ΔgdhA (glutamate dehydrogenase欠損)、JW0110 ΔaceE(pyruvate dehydrogenase欠損)(Baba,T. et al.; Mol Syst Biol 2, 2006 0008 (2006))等が挙げられ、好適な酵母としては、標準的な発芽酵母、INVSc1(invitrogen)、YPH499(stratagene)等が挙げられる。
好適なベクターは、特に制限はなく、一般に用いられているベクターでよい。例えば、宿主が大腸菌であるときは、pUC18、pACYC184、などに由来するものが挙げられ、宿主が枯草菌であるときはpUB110、pE194、pC194、pHY300PLKDNAなどが、宿主が酵母であるときは、pRS303、YEp213、TOp2609等が挙げられる。
【0036】
(オキシドスクアレン消費酵素遺伝子又はその変異体のスクリーニング用キット)
本発明のオキシドスクアレン消費酵素遺伝子又はその変異体のスクリーニング用キットは、色素合成可能細胞を含むものであり得る。色素合成可能細胞は、冷凍保存してバイアル内に封入したものが好適である。あるいは、本発明に係るキットは、所望の細胞を色素合成可能細胞に形質転換するための色素合成酵素遺伝子発現ベクターを構成要素として含むものであり得る。
さらに、上記本発明に係るキットは、被検遺伝子用の発現ベクター、クローニング酵素セット、メタゲノムソース、あるいは配列データベースをもとに作製された(候補)遺伝子ライブラリ、マイクロプレート、イソプレノイド経路(テルペン上流経路)の強化された菌株、培地や添加剤などのスクリーニングに有用な物質や器具(画像スキャナや測色光度計、色見本、コロニーピッカー)などをキットの構成要素として加えることができる。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0038】
(新規カロテノイド化合物の製造)
本発明者らは、カロテノイド不飽和化酵素がオキシドスクアレンを各種のカロテロノイドに転換するという新たな知見により、新規カロテノイド化合物(特に、エポキシ基を持つカロテノイド化合物)を製造した。詳細は、以下の通りである。
【0039】
(発現系の構築)
シロイヌナズナ(Arabidopsis thariana)由来のスクアレンエポキシダーゼの遺伝子(sqe)を大腸菌にコドン最適化した形で合成した。
コドン最適化したスクアレンエポキシダーゼの遺伝子(sqe:(配列番号1)をT5/lacO-promoter下流の制限酵素EcoRIおよびSpeIサイトに挿入し,pJ404-pT5/lacO-SQEを作製した。
【0040】
(エポキシ基を持つ新規カロテノイドの生合成及び合成確認)
SQS (スクアレン合成酵素)およびSQE(スクアレンエポキシダーゼ)をCrtN(ジアポフィトエン不飽和化酵素)と共存させた大腸菌株XL1Blueの生産物解析をHPLC-MSを用いて行ったところ、スクアレン/カロテノイド/オキシドスクアレン以外の新規な化合物が3つ検出された(参照:図2のpeak I, II, III)。
peak IIIの化合物の吸収波長は、Diaponeurosporene(peak IV)と同じであり、m/zの値から Squaleneにエポキシ基が付加されていることが分かる。よって、peak IIIの化合物はDiaponeurosporeneの末端にエポキシ基を持つ新規カロテノイドであることを確認した。これにより、peak IIIの化合物は、Diaponeurosporene 5,6-epoxideであると特定した。
peak IIの吸収波長は、共役二重結合数が10のSpheroidene [参照文献:(George Britton, Synnove Liaaen-Jensen, & Hanspeter Pfander,“Carotenoids Handbook”, Birkh&auml;user Basel (2004))]とほぼ同じため、peak IIIがさらにもう1回不飽和化された化合物である。しかし,m/zの値は419とpeak IIIと同じであり、不飽和化されていればm/zはpeak IIIよりも2小さくなるはずである。この結果から,peak IIの構造は、peak IIIがさらにもう一回不飽和化されかつエポキシ基が開環した構造である。これにより、peak IIの化合物は、6-Hydro-4,4’-diapolycopene-5-olであると特定した。
peak Iの吸収波長はpeak IIIよりも短波長側にシフトしており,m/zはpeak IIよりも2大きい。そのため、peak I は、peak IIよりも不飽和化が一段階手前の化合物であると考えられる。これにより、peak Iの化合物は、6-Hydro-7’,8’-dihydro-4,4’-diapolycopene-5-olであると特定した。
CrtM (ジアポフィトエン合成酵素)およびSQE(スクアレンエポキシダーゼ)をCrtN(ジアポフィトエン不飽和化酵素)と共存させた大腸菌株XL1Blueの生産物解析をHPLC-MSを用いて行ったところ、ジアポフィトエン/カロテノイド以外の新規な化合物が1つ検出された(参照:図4のpeak VI)。
peak VIのm/zは、Diapophytoeneよりも16大きい。そのため、peak VIの化合物は、Diapophytoeneの末端にエポキシ基を持つDiapophytoene 5,6-epoxideであることを特定した。
以上により、本実施例により、4つの新規カロテノイドを合成できることを確認した。
【実施例0041】
(新規カロテノイドの生合成経路の特定)
CrtNは、Diapophytoeneの不飽和化を担う酵素であるが,基質特異性の低い酵素である(参照:図3)。そのため,peak I, IIの化合物はOxidosqualeneがCrtNによって不飽和化されて合成されると考えられる。これを確かめるために,SQEをCrtMまたはCrtM-CrtNと共発現して,その生産物解析を行った(参照:図4)。SQEをCrtM-CrtNと共発現したところpeak I, II,およびIIIは検出されなかった。一方、SQEをCrtMと共発現した場合、Diapophytoeneのエポキシ化物と思われるpeak VIがわずかではあるが検出された。peak VIのm/zはDiapophytoeneよりも16大きい。そのため,peak VIの化合物はDiapophytoeneの末端にエポキシ基を持つDiapophytoene 5,6-epoxideである。つまり,SQEはSqualeneに対する活性よりは弱いがDiapophytoeneもエポキシ化することを確認した。
これらの結果から,エポキシカロテノイドの合成は、先にSqualeneがエポキシ化された後不飽和化されて合成されるルートが主であることを確認した(参照:図5)。
【実施例0042】
(オキシドスクアレン消費酵素の活性スクリーニング)
本実施例では、Oxidosqualeneの色素化経路との共存によってERG7の活性を可視化できるかを確認した。
Squalene合成plasmidとしてpSC-hsqsを、色素化plasmidとしてpAC-crtN-idiまたはpAC-crtN-crtNb-idiを、Oxidosqualene合成およびその消費としてpJ404-sqe-erg7をXL1Blueに導入し、コロニーの色を観察した(参照:図6)。
SQEのみの場合では、濃く色が付いた。一方で、ERG7を追加発現するとコロニーの色は薄くなった。さらに、CrtNbという末端をアルデヒド化し共役系を広げる酵素を追加すると、コロニーの色は赤くなり、より視認性が高まると共に、ERG7追加発現による色の変化が大きくなった。
より詳しくは、SQEの存在により、ERG7の活性の強弱を確認することができる。例えば、図3を参照すると、スクリーニングしたERG7(図3中の“cyclase”)の活性が高い場合には、図3の右上方向の合成が優位になる。なお、右下方向にいくには、crtNが必要である。また、スクリーニングしたSQEの活性が弱い場合には、図3の左下方向の合成が優位になる。
この結果から、Oxidosqualene消費酵素の変異体のスクリーニングも可能であることが分かり、様々なOxidosqualene環化酵素の機能発現や活性改良に使用することができる。
【0043】
詳しくは、以下のオキシドスクアレン消費酵素をスクリーニングすることができる。
1)スクアレンエポキシダーゼの存在下において、各種ステロール化合物の合成量を向上させる酸化スクアレン環化酵素(例えば,β-Amyrin,Lanosterol,Cycloartenol,Dammarenediol II等の合成酵素,およびそれらのより活性が高い・安定性が高い変異体)
2)スクアレンエポキシダーゼの存在下において、オキシドスクアレンの二重結合を水素化する飽和化酵素
3)スクアレンエポキシダーゼの存在下において、オキシドスクアレンのエポキシ基への糖転移酵素
4)スクアレンエポキシダーゼの存在下において、オキシドスクアレンのエポキシ基を有さない側をエポキシ化するスクアレンエポキシダーゼ
5)スクアレンエポキシダーゼの存在下において、オキシドスクアレンの切断酵素
6)スクアレンエポキシダーゼおよびオキシドスクアレン環化酵素(例えばLanosterol合成酵素)の存在下において、オキシドスクアレンの不飽和化活性を有する不飽和化酵素
【実施例0044】
(オキシドスクアレン消費酵素の活性スクリーニングによる変異体取得)
本実施例では、本発明のスクリーニング方法により、野生型と比較して活性の高いオキシドスクアレン-ラノステロールシクラーゼ(ERG7)、野生型と比較して活性の高いβ-Amyrin合成酵素(AS)及びdammarenediol-IIsynthase (DDS)を取得できることを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0045】
Saccharomyces cerevisiae由来のERG7(配列番号2)、Euphorbia tirucalli由来のAS(配列番号3)又はPanax ginseng 由来のDDSの遺伝子(配列番号4)をpT5-LacO下流に配置した発現系を構築した。
上記の遺伝子をepPCR法によって増幅した。
〇反応条件は以下の通りである。
テンプレートplamsid 量:5 ng/ 反応体積50 μL
PCRバッファNEB10×Thermo Pol Reaction Buffer
dNTP濃度0.2 mM each,Mg濃度0.2 mM,Mn濃度10 μM
NEB Taq DNA Polymerase,5 units
最終収量5000 ng,増幅率1000倍
〇得られたDNAをゲル抽出および精製し,ベクターにライゲーションした。
vector:100 ng,insert:122 ng,反応体積10 μL,
反応時間16時間、反応温度16℃、NEB T4 DNA Ligase,40 units
得られらLigation液を精製し、大腸菌株BW25113を形質転換した。得られた形質転換体を40 mLのLB培地にて一晩37℃で振とう培養した。得られた培養液のうち2 mLを回収し,菌体からプラスミドを回収しライブラリを得た。形質転換体の一部を固体培地上に植菌し,コロニー形成数からライブラリサイズは以下のようになった。また,各ライブラリのBack ligationは1%以下であった。
[AS]lib: 7.2×104
[DDS]lib: 4.1×104
[ERG7]lib: 1.2×104
【0046】
上記得られた各ライブラリpSC-SQS(参照:図14)およびpAC-CrtN-SQE-idi(参照:図13)と共に大腸菌株XL1Blueに導入した。得た形質転換体をニトロセルロース(NC)膜上に植菌し、37℃で24時間静置培養しコロニーを形成させた。その後22℃にてさらに72時間培養し、スクリーニングを行った。[AS]libはおよそ4000個のコロニーのうち、約5%が親よりも薄い色のコロニーであった。[DDS]libはおよそ3000個のコロニーのうち、約5%が親よりも薄い色のコロニーであった(図7)。
すなわち、親より薄い色のコロニーのDDSおよびASは、親と比較して、それぞれDammarenediol-IIおよびβ-Amyrin合成酵素活性が高い。
【0047】
(総論)
本実施例では、以下の点を確認及び構築した。
新しい、オキシドスクアレンを経由した色素合成経路を構築した。ここで得られる色素は、末端にエポキシ基を有する特徴的な機能性色素・抗酸化剤であり、エポキシ基を反応点として,適切な触媒の元、タンパク質や機能性化合物と反応させることが可能である。また,末端エポキシ基は有機無機表面・基盤上への固定点となるため,太陽電池や電極上への光捕集機能の付与・固定が可能となる。
これらの色素群は,オキシドスクアレンを経由して合成されるため、オキシドスクアレンを基質とする様々な酵素活性のスクリーニングに使うことが出来る。すなわち,オキシドスクアレン消費活性に応じて、色素合成量が上昇又は低下し、細胞の色の違いとして視認することが出来る。生理活性を持つ高等生物型の様々なオキシドスクアレン環化酵素変異体を取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
新規カロテノイド化合物(特に、新規エポキシ基を持つカロテノイド化合物)、該化合物の製造方法、並びに、酸化スクアレン環化酵素の変異体のスクリーニング方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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