(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157440
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】コイル部品、回路基板及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20221006BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20221006BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/29 123
H01F1/26
H01F17/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061661
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】松井 基樹
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BB05
5E041BD12
5E070AA01
5E070AB08
5E070BA12
5E070BB03
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属磁性粒子に生じる応力歪による金属磁性粒子間の絶縁性の低下を抑制することで基体の絶縁耐圧を改善可能なコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品は、基体と、基体に設けられたコイル導体と、コイル導体と電気的に接続された第1外部電極と、コイル導体と電気的に接続された第2外部電極と、を備える。基体は、第1金属磁性粒子群と、第2金属磁性粒子群と、を含む。第1金属磁性粒子群は、各々がFeを含有する複数の第1金属磁性粒子31から成り、第2金属磁性粒子群は、各々がFeを含有する複数の第2金属磁性粒子41から成る。第1金属磁性粒子群は、第1平均粒径及び0.75以上の第1平均円形度を有する。第2金属磁性粒子群は、第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径及び第1平均円形度よりも大きな第2平均円形度を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がFeを含有する複数の第1金属磁性粒子から成り第1平均粒径及び0.75以上の第1平均円形度を有する第1金属磁性粒子群と、各々がFeを含有する複数の第2金属磁性粒子から成り前記第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径及び前記第1平均円形度よりも大きな第2平均円形度を有する第2金属磁性粒子群と、を含む基体と、
前記基体に設けられたコイル導体と、
前記コイル導体と電気的に接続された第1外部電極と、
前記コイル導体と電気的に接続された第2外部電極と、
を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記複数の第2金属磁性粒子の各々の強度は、前記複数の第1金属磁性粒子の各々の強度よりも高い、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1平均粒径は、前記第2平均粒径よりも5倍以上大きい、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記基体において、前記複数の第1金属磁性粒子の重量比は、前記複数の第2金属磁性粒子の重量比よりも大きい、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、Siを含有する、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記複数の第2金属磁性粒子の各々は、Siを含有しており、
前記複数の第1金属磁性粒子におけるSiの含有比率は、前記複数の第1金属磁性粒子におけるSiの含有比率よりも高い、
請求項3に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記基体は、樹脂を含有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記コイル導体は、コイル軸の周りに巻回される周回部を有し、
前記基体は、前記周回部の径方向内側にあるコア領域と、前記周回部の径方向外側にあるマージン領域と、を有し、
前記コア領域における前記第1平均円形度は、前記マージン領域における前記第1平均円形度よりも大きい、
請求項1から7のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記コア領域における前記第2平均円形度は、前記マージン領域における前記第2平均円形度よりも大きい、
請求項8に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記基体は、各々がFeを含有する複数の第3金属磁性粒子から成り前記第2平均粒径よりも小さな第3平均粒径を有する第3金属磁性粒子群を含む、
請求項1から9のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記複数の第3金属磁性粒子は、前記第2平均円形度よりも小さな第3平均円形度を有する、
請求項10に記載のコイル部品。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のコイル部品と、
前記外部電極にはんだにより接合されている前記実装基板と、
を備える回路基板。
【請求項13】
請求項12に記載の回路基板を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、コイル部品、回路基板及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品用の磁性材料として、従来から軟磁性金属材料が知られている。軟磁性金属材料は、フェライト材料よりも飽和磁束密度が高いため、大電流が流れるコイル部品の基体の材料として特に適している。軟磁性金属材料は、金属磁性粒子の形態で基体中に含まれる。金属磁性粒子は、軟磁性金属材料を造粒することで作製される。金属磁性粒子は、数nm~数μmの粒径を有することが多い。基体に含まれる各金属磁性粒子の表面には、隣接する金属磁性粒子間でショートが起きないようにするために絶縁膜が設けられる。
【0003】
金属磁性粒子を含む基体は、金属磁性粒子と樹脂とを混練して得られた混合樹脂組成物を成形金型に流し込み、この成形金型内で当該混合樹脂組成物に圧力を加える圧縮成形プロセスを経て作製される。
【0004】
コイル部品の基体は、高い透磁率を有することが求められる。特開2017-183655(特許文献1)に記載されているように、圧縮成形プロセスにおける成形圧力を高めることで基体に含まれる金属磁性粒子の充填率を高め、これにより基体の透磁率を改善できることが知られている。特許文献1では、成形圧力が低いと基体の透磁率が低くなってしまうことを指摘しており、圧縮成形工程では比較的高い600MPa前後の成形圧力を用いている。要求される透磁率によって成形圧力は変更され得るが、従来は、400~800MPa程度の成形圧力で圧縮成形を行うことが望ましいと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
400~800MPa程度の成形圧力で金属磁性粒子を含む磁性材料を圧縮成形すると、当該磁性材料に含まれる金属磁性粒子が変形する。例えば、特許文献1の
図1には、変形した金属磁性粒子を含む基体の断面の写真が示されている。
【0007】
圧縮成形プロセスまたはそれ以外のプロセスにより変形した低い円形度の金属磁性粒子には応力歪が生じている。変形した金属磁性粒子を含む基体においては、金属磁性粒子に生じている応力歪により透磁率が低下するという問題がある。より高い成形圧力で磁性材料を圧縮すると、金属磁性粒子に生じる応力歪がより大きくなるため、基体の透磁率の低下度合いが大きくなる。このため、成形圧力を大きくすることにより実現される透磁率の向上は、金属磁性粒子に生じる応力歪による透磁率の低下によって、少なくともある程度相殺されてしまう。また、金属磁性粒子の変形は、金属磁性粒子間の絶縁性が低下の原因ともなる。このため、透磁率を高めるために成形圧力を大きくすると、磁性基体の絶縁耐圧が低下するという問題がある。さらに、金属磁性粒子に生じる応力歪が大きくなるほどコア損失が大きくなる。
【0008】
本明細書に開示される発明の目的の一つは、上記の問題の少なくとも一つを解消又は緩和することである。本明細書に開示される発明のより具体的な目的の一つは、金属磁性粒子に生じる応力歪による金属磁性粒子間の絶縁性の低下を抑制することで基体の絶縁耐圧を改善可能な新規なコイル部品を提供することである。
【0009】
本明細書に開示される発明の前記以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかになる。本明細書に開示される発明は、前記の課題に代えて又は前記の課題に加えて、本明細書の記載から把握される課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の少なくとも一つの実施形態によるコイル部品は、基体と、前記基体に設けられたコイル導体と、前記コイル導体と電気的に接続された第1外部電極と、前記コイル導体と電気的に接続された第2外部電極と、を備える。本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体は、第1金属磁性粒子群と、第2金属磁性粒子群と、を含む。第1金属磁性粒子群は、各々がFeを含有する複数の第1金属磁性粒子から成り、第2金属磁性粒子群は、各々がFeを含有する複数の第2金属磁性粒子から成る。第1金属磁性粒子群は、第1平均粒径及び0.75以上の第1平均円形度を有する。第2金属磁性粒子群は、第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径及び第1平均円形度よりも大きな第2平均円形度を有する。
【0011】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、複数の第2金属磁性粒子の各々の強度は、複数の第1金属磁性粒子の各々の強度よりも高い。
【0012】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1平均粒径は、第2平均粒径よりも5倍以上大きい。
【0013】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体における複数の第1金属磁性粒子の重量比は、複数の第2金属磁性粒子の重量比よりも大きい。
【0014】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、複数の第1金属磁性粒子の各々は、Siを含有する。
【0015】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、複数の第2金属磁性粒子の各々は、Siを含有しており、複数の第1金属磁性粒子におけるSiの含有比率は、前記複数の第1金属磁性粒子におけるSiの含有比率よりも高い。
【0016】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体は、樹脂を含有する。
【0017】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、コイル導体は、コイル軸の周りに巻回される周回部を有し、基体は、前記周回部の径方向内側にあるコア領域と、前記周回部の径方向外側にあるマージン領域と、を有する。本発明の少なくとも一つの実施形態において、コア領域における第1平均円形度は、マージン領域における前記第1平均円形度よりも大きい。本発明の少なくとも一つの実施形態において、コア領域における前記第2平均円形度は、マージン領域における前記第2平均円形度よりも大きい。
【0018】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体は、各々がFeを含有する複数の第3金属磁性粒子から成り前記第2平均粒径よりも小さな第3平均粒径を有する第3金属磁性粒子群を含む。本発明の少なくとも一つの実施形態において、複数の第3金属磁性粒子は、第2平均円形度よりも小さな第3平均円形度を有する。
【0019】
本発明の一態様による回路基板は、上記のいずれかのコイル部品と、前記外部電極にはんだにより接合されている前記実装基板と、を備える。
【0020】
本発明の一態様による電子機器は、上記の回路基板を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、金属磁性粒子に生じる応力歪による透磁率の低下を抑制することで基体の透磁率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一の実施形態によるコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図2に示されている基体の領域Aを拡大して模式的に示す図である。
【
図4】従来のコイル部品が有する基体の断面を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の別の実施形態によるコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図6】本発明のさらに別の実施形態によるコイル部品を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明のさらに別の実施形態によるコイル部品を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
図1及び
図2を参照して本発明の一の実施形態によるコイル部品1について説明する。
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、
図2はコイル部品1の模式的な断面図である。図示のように、コイル部品1は、基体10と、基体10に設けられたコイル導体25と、基体10の表面に設けられた外部電極21と、基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。基体10は、磁性材料を含む。
【0025】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向及び「T軸」方向とする。「厚さ」方向を「高さ」方向と呼ぶこともある。L軸、W軸、及びT軸は、互いに直交している。
【0026】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。図示の明瞭さのために、
図1以外では、実装基板2a、ランド部3a、3bの図示を省略している。
【0027】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1は、例えば、DC/DCコンバータに用いられるインダクタであってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0028】
基体10は、磁性材料で構成され、概ね直方体形状を有する。本発明の一実施形態において、基体10は、L軸方向における寸法(長さ寸法)がW軸方向における寸法(幅寸法)及びT軸方向における寸法(高さ寸法)よりも大きくなるように構成されている。例えば、長さ寸法は、1.0mm~6.0mmの範囲にあり、幅寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にあり、高さ寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にある。基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0029】
基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。基体10は、これらの6つの面によってその外表面が画定されている。第1主面10aと第2主面10bとはそれぞれ基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ基体10の幅方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ基体10の長さ方向両端の面を成している。上面10aと下面10bとの間は基体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は基体10の幅寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は基体10の長さ寸法だけ離間している。
図1に示されているように、第1主面10aは基体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2主面10bが基板2と対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。
【0030】
本発明の一の実施形態において、外部電極21は、基体10の実装面10b及び端面10cに設けられている。外部電極22は、基体10の実装面10b及び端面10dに設けられている。外部電極21と外部電極22とは、長さ方向において互いに離間して配置されている。各外部電極21、22の形状及び配置は、図示された例には限定されない。外部電極21、22は、基体10の表面に導体ペーストを塗布することにより形成されてもよい。この導電性ペーストは、Ag、Cu等の導電性に優れた金属粒子を含有する。外部電極21、22は、めっき層を含んでもよい。このめっき層は2層以上であってもよい。2層のめっき層は、Niめっき層と、当該Niめっき層の外側に設けられるSnめっき層と、を含んでもよい。
【0031】
コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Axの周りに巻回されている周回部25Aと、周回部25Aの一端を外部電極21に接続する引出部25Bと、周回部25Aの他端を外部電極22に接続する引出部25Cと、を有する。図示の実施形態において、コイル導体25は、その両端のみが基体10から露出しており、それ以外の部位は基体内に設けられている。図示の実施形態において、コイル軸Axは、第1主面10a及び第2主面10bと交わっているが、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fとは交わっていない。言い換えると、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fは、コイル軸Axに沿って延びている。一実施形態において、コイル軸Axは、基体10を平面視したときに、基体10の2本の対角線の交点を通過する。コイル導体25の形状は、図示されたものには限られない。例えば、コイル導体25は、平面視したとき(T軸方向から見たとき)に、1ターンより少ないターン数だけコイル軸Axの周りに巻回されていてもよい。平面視におけるコイル導体25の形状は、楕円形状、ミアンダ形状、直線形状、又はこれらを組み合わせた形状であってもよい。
【0032】
本明細書においては、基体10のうち、コイル軸Axの方向から見たときに周回部25Aの内側にある領域をコア領域10Xとし、周回部25Aの外側にある領域をマージン領域10Yとする。平面視においてコイル導体25が1ターンより少ない数だけコイル軸Axの周りに巻回されている場合でも、コイル軸Axの周りに2/3以上(平面視において240°以上)周回している部位を有する場合には、その2/3以上周回している部位を周回部25Aとみなすことができ、基体10のうちコイル導体25の1ターン未満の周回部の内側の領域をコア領域10Xとみなし、その外側の部位をマージン領域10Yとみなすことができる。
【0033】
コイル導体25がコイル軸Axの周りに2/3以上(平面視において240°以上)周回している部位を有しないが(、コイル導体25がT軸に平行に延びるいずれかの軸線の周りの周方向に2/3ターン以上延びる部位を有する場合(例えば、平面視におけるコイル導体25の形状がミアンダ形状である場合))、基体10のうちその軸線の周りに2/3ターン以上延びる部位よりも当該軸線を中心とする径方向(当該軸線に直交し当該軸線を中心とする径方向)の内側の領域(当該軸線に近い領域)をコア領域10Xとみなし、その外側の部位をマージン領域10Yとみなすことができる。コイル導体25がコイル軸Axの周りに2/3以上周回している部位を有しておらず、コイル導体25がT軸に平行に延びるいずれかの軸線の周りの周方向に2/3ターン以上延びる部位も有しない場合(例えば、平面視によるコイル導体25の形状が直線形状である場合)には、基体10にはコア領域10X又はマージン領域10Yとみなせる領域は存在しない。
【0034】
コイル導体25の表面は、絶縁性に優れた絶縁材料から構成される絶縁被膜で覆われていてもよい。この絶縁被膜は、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエステル-イミド等の絶縁性に優れた樹脂から構成されてもよい。基体10は、絶縁性に優れる絶縁材料から構成された基板を有していてもよく、コイル導体25はこの基板上に形成されていても良い。
【0035】
本発明の一実施形態において、基体10は、複数の金属磁性粒子を含む磁性材料から構成される。
図3を参照して、基体10の微細構造について説明する。
図3は、基体10の断面を拡大して模式的に示す拡大断面図である。具体的には、
図3は、
図2に示されている領域Aを拡大して示している。
図2は、コイル軸Axを通る平面でコイル部品1を切断した断面を示しており、領域Aは、
図2に示されている基体10の断面の一部を示す。
【0036】
図3に示されているように、一実施形態における基体10は、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子41と、を含む。本明細書では、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31をまとめて第1金属磁性粒子群と呼ぶことがあり、基体10に含まれる複数の第2金属磁性粒子41をまとめて第2金属磁性粒子群と呼ぶことがある。つまり、第1金属磁性粒子群は複数の第1金属磁性粒子31から構成され、第2金属磁性粒子群は複数の第2金属磁性粒子41から構成される。本明細書において、文脈上、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41とを区別する必要がない場合には、説明の簡潔さのために、両者をまとめて「金属磁性粒子」と呼ぶことがある。
【0037】
第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41はそれぞれ、軟磁性金属材料から構成される。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41用の軟磁性金属材料として、例えば、(1)金属系のFe、(2)合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、Fe-NiもしくはNi、(3)非晶質のFe―Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、(4)これ以外の金属系として、Fe-B-P-Cu、Fe-Si-B-P-CuもしくはFe-Co-Zr-B-Cu、または(5)これらの混合材料を用いることができる。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41用の軟磁性金属材料は、上述のものには限られない。例えば、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41用の軟磁性金属材料は、上記の元素以外に、Zr、Nb、Cu、及びPのうちの少なくとも一つの元素を含むことができる。本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41とを合わせて求められるFeの含有比率は、80wt%以上とされる。
【0038】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31の組成は、第2金属磁性粒子41の組成と異なっていてもよい。例えば、第1金属磁性粒子31は、第2金属磁性粒子41に含有されていない元素を含有していてもよい。例えば、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41はいずれもFe及びSiを含有するが、一方のみにNb、Cu、及びCrのうちのいずれか一つが含まれていてもよい。例えば、第1金属磁性粒子群を構成する第1金属磁性粒子31の各々がFe、Si、Nb、Cu、B、Cを含有し、第2金属磁性粒子群を構成する第2金属磁性粒子41の各々がFe、Si、Cr、B、Cを含んでもよい。この場合、第1金属磁性粒子31に含まれているNb、Cuが第2金属磁性粒子41には含まれておらず、また、第2金属磁性粒子41に含まれているCrが第1金属磁性粒子31には含まれていない。このように、少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31は、含有する元素の相違に基づいて第2金属磁性粒子41から区別され得る。
【0039】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41がともに含有する元素の組成比の相違に基づいて第2金属磁性粒子41から区別できてもよい。例えば、本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41がいずれもSiを含有する場合に、第1金属磁性粒子31におけるSiの含有比率は、第2金属磁性粒子41におけるSiの含有比率よりも高くてもよい。
【0040】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、第2金属磁性粒子41の各々の強度は、第1金属磁性粒子31の各々の強度よりも高い。例えば、第1金属磁性粒子31におけるSiの含有比率を第2金属磁性粒子41におけるSiの含有比率よりも高くすることにより、第1金属磁性粒子31の各々の強度を第2金属磁性粒子41の各々の強度よりも高くすることができる。
【0041】
本発明の別の実施形態において、第1金属磁性粒子31の各々の強度は、第2金属磁性粒子41の各々の強度よりも高くてもよい。これにより、基体10が圧縮成形プロセスにより作製される場合に、成形圧力が作用しやすい第1金属磁性粒子31の変形を抑制することができる。
【0042】
本明細書において金属磁性粒子の「強度」という場合には、金属磁性粒子に塑性変形が起こる場合の変形強度を意味してもよく、金属磁性粒子に弾性変形が起こる場合の変形強度を意味してもよい。金属磁性粒子の変形強度は、当該金属磁性粒子が圧縮される場合の変形に要する強度を表す。金属磁性粒子の強度は、当該金属磁性粒子の変形のしにくさを表す指標であり、例えば、JIS Z 8844:2019に従って測定される変形強度を意味する。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41の強度は、市販の圧縮試験機(例えば、株式会社島津製作所から提供されているMCT510)によって測定することができる。例えば、複数の第1金属磁性粒子31の各々について粒子径の10%の圧縮変位に対する変形強度を求め、この各粒子についての変形強度の平均値を第1金属磁性粒子31の強度とすることができる。同様に、複数の第2金属磁性粒子41の各々について粒子径の10%の圧縮変位に対する変形強度を求め、この各粒子についての変形強度の平均値を第2金属磁性粒子41の強度とすることができる。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41の強度は、基体10をT軸方向に沿って切断することで露出させた断面において、ビッカース硬度を測定し、この測定されたビッカース硬度を強度とすることもできる。この場合、ビッカース硬度の測定は、基体10に含まれている金属磁性粒子のうち5μm以上のものを選択し、その選択した粒子に対して行われる。ビッカース硬度は、市販のマイクロビッカース硬度試験機(例えば、株式会社マツザワから提供されているMMT-X7)によって測定することができる。本発明の少なくとも一つの実施形態においては、第1金属磁性粒子31の各々の強度が第2金属磁性粒子41の各々の強度よりも高いため、第1金属磁性粒子31の方が第2金属磁性粒子41よりも変形しにくい。このため、基体10を例えば圧縮成形法により作製する場合に、第1金属磁性粒子31の変形が抑制される。金属磁性粒子におけるSiの含有比率を高くすることにより、当該金属磁性粒子の強度を高くすることができる。また、金属磁性粒子の磁性材料として非晶質の材料を用いることにより、当該金属磁性粒子の強度を高くすることができる。非晶質の金属磁性粒子を加熱することにより、一部が結晶質で残部が非晶質の金属磁性粒子を形成することができる。このような一部が結晶質の金属磁性粒子も高い強度を有する。本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31の各々の強度及び第2金属磁性粒子41の各々の強度はそれぞれ500MPa以上とされる。本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1金属磁性粒子31の各々の強度及び第2金属磁性粒子41の各々のビッカース硬度はそれぞれ1000Hv以上とされる。
【0043】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均粒径(つまり、第1金属磁性粒子群の平均粒径)は、当該基体10に含まれる複数の第2金属磁性粒子41の平均粒径(つまり、第2金属磁性粒子群の平均粒径)よりも大きい。第1金属磁性粒子31の平均粒径は、例えば、4μm~30μmとされる。第2金属磁性粒子41の平均粒径は、例えば、0.2μm~6μmとされる。本明細書においては、第1金属磁性粒子群の平均粒径を第1平均粒径と呼び、第2金属磁性粒子群の平均粒径を第2平均粒径と呼ぶことがある。第1平均粒径及び第2平均粒径は、例えば、以下のようにして求められる。まず、基体10をT軸方向に沿って切断して断面を露出させ、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により2000倍~5000倍の倍率で撮影してSEM像を得る。また、このSEM像の視野内でSEM-EDSマッピングを行って第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41とを識別する。例えば、第1金属磁性粒子31は、第2金属磁性粒子41よりもSiの含有比率が高いので、Siの含有比率が所定値より大きいか否かを基準として、基体10に含まれる金属磁性粒子を第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41とに分けることができる。そして、当該SEM像において、第1金属磁性粒子31の粒度分布を求め、この粒度分布の50%値を第1金属磁性粒子群の平均粒径(第1平均粒径)とすることができる。同様に、当該SEM像において、第2金属磁性粒子41の粒度分布を求め、この粒度分布の50%値を第2金属磁性粒子群の平均粒径(第2平均粒径)とすることができる。本発明の少なくとも一つの実施形態において、第1平均粒径は、第2平均粒径よりも5倍以上大きい。本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、基体10が第1平均粒径を有する複数の第1金属磁性粒子31及び第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径を有する複数の第2金属磁性粒子を含むため、第1金属磁性粒子31の間に第2金属磁性粒子41が入り込むことで基体10における金属磁性粒子の充填率を高めることができる。
【0044】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体10は、第1金属磁性粒子群及び第2金属磁性粒子群を重量比で60:40~80:20の範囲で含む。すなわち、基体10における第1金属磁性粒子群及び第2金属磁性粒子群の質量の合計を100wt%としたときに、基体10は、第1金属磁性粒子群を60~80wt%の範囲で含有し、第2金属磁性粒子群を20~40wt%の範囲で含有する。このように、基体10においては、第1金属磁性粒子群の重量比は、第2金属磁性粒子群の重量比よりも大きい。大径の第1金属磁性粒子31を質量比で多く含むことにより、基体10の透磁率を高めることができる。
【0045】
本発明の少なくとも一つの実施形態においては、基体10は、複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子41に加えて、複数の第3金属磁性粒子(不図示)を含んでもよい。基体10に含まれる複数の第3金属磁性粒子をまとめて第3金属磁性粒子群と呼ぶことがある。複数の第3金属磁性粒子の平均粒径は、複数の第2金属磁性粒子41の平均粒径(第2平均粒径)よりも小さい。例えば、複数の第3金属磁性粒子の粒径は、第2平均粒径の0.75倍以下とされる。複数の第3金属磁性粒子の平均粒径(つまり、第3金属磁性粒子群の平均粒径)は、例えば、0.1μm~3μmとされる。本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体10は、第1金属磁性粒子群、第2金属磁性粒子群、及び第3金属磁性粒子群の質量の合計を100wt%としたときに、第3金属磁性粒子群を0~5wt%の範囲で含有することができる。第3金属磁性粒子の組成は、第1金属磁性粒子31の組成及び第2金属磁性粒子41の組成のいずれとも異なっていてもよい。この場合、第3金属磁性粒子は、含有する元素の相違に基づいて、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41と区別できる。第3金属磁性粒子は、含有する元素の組成比の相違に基づいて第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41から区別できてもよい。第3金属磁性粒子は、第1金属磁性粒子31の間の隙間、第2金属磁性粒子41の間の隙間、及び第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41との間の隙間を充填することができるので、基体10の機械的強度を高めることができる。更には、基体10は、複数の第4金属磁性粒子を含んでもよい。複数の第4金属磁性粒子の平均粒径は、複数の第3金属磁性粒子の平均粒径(第3平均粒径)よりも小さい。
【0046】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、複数の第1金属磁性粒子31の円形度の平均を表す第1平均円形度は、0.75以上である。本発明の少なくとも一つの実施形態において、複数の第2金属磁性粒子41の円形度の平均を表す第2平均円形度は、0.8以上である。基体10に含まれる複数の第2金属磁性粒子41の平均円形度は、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均円形度よりも高い。基体10において、複数の第1金属磁性粒子31は0.75以上の第1平均円形度を有し、複数の第2金属磁性粒子41は、第1平均円形度よりも大きな第2平均円形度を有するので、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41に生じる応力歪が抑制されており、応力歪の増大に起因する基体10の透磁率の低下が抑制される。また、金属磁性粒子の円形度が高いほど、当該金属磁性粒子の表面積は小さくなる。第2金属磁性粒子群の第2平均円形度が第1金属磁性粒子群の第1平均円形度よりも大きい場合には、第2金属磁性粒子の表面積を小さくすることができる。これにより、第2金属磁性粒子41の凝集を抑制することができる。第2金属磁性粒子41が凝集すると、第1金属磁性粒子31間の隙間に入り込む第2金属磁性粒子41が不足し、その結果、基体1における金属磁性粒子の充填率が低下する。よって、第2金属磁性粒子群の第2平均円形度が第1金属磁性粒子群の第1平均円形度よりも大きくして第2金属磁性粒子41の表面積を小さくすることにより、第2金属磁性粒子41の凝集を抑制し、その結果、第2金属磁性粒子41の凝集に起因する基体10における金属磁性粒子の充填率の低下を抑制することができる。
【0047】
基体10における第1金属磁性粒子31の平均円形度は、以下のようにして算出できる。まず、平均粒径の算出時と同様に基体10の断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により例えば5000から50000倍の倍率で撮影したSEM像を取得し、このSEM像の視野内でSEM-EDSマッピングを行って第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41とを識別する。既述のとおり、特定の元素(例えば、Si)の含有比率が所定値より大きいか否かを基準として、基体10に含まれる金属磁性粒子を第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41とに分けることができる。そして、市販の画像処理ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテックから提供されているMac-View)を用いて当該SEM像に含まれる第1金属磁性粒子31の各々の円形度を算出し、その算出した円形度の平均値を第1平均円形度とする。同様に、上記のSEM像に含まれる第2金属磁性粒子41の各々の円形度を算出し、その算出した円形度の平均値を第2平均円形度とする。SEM像を取得する際の倍率は、観察対象の第1金属磁性粒子31及び/又は第2金属磁性粒子41の粒径によって変更され得る。
【0048】
本発明の少なくとも一つの実施形態において基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の第1平均円形度及び複数の第2金属磁性粒子41の第2平均円形度はいずれも0.75以上であるため、基体10の断面において第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41の各々は、概して、
図3に例示されているような比較的複雑でない(すなわち、円に近い)形状を有する。本発明の実施形態と比較するために、従来のコイル部品の基体の断面の例を
図4に示す。従来のコイル部品においては、400MPa~800MPa程度の比較的高い成形圧力で金属磁性粒子が圧縮されるため、従来のコイル部品の基体に含まれている金属磁性粒子51は、圧縮成形過程で変形を受け
図4に示されているような複雑な形状を有する。
図3と
図4とを比較すると、本発明の実施携帯における第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41の各々の外周面は内側に向かって凹む凹部を有していないのに対して、従来のコイル部品における金属磁性粒子51の少なくとも一部は、内側に凹む凹部を有している。このような凹部は、特許文献1において
図1として提出されている写真でも確認することができる。
【0049】
既述のとおり、基体10は、コア領域10Xと、マージン領域10Yと、を有することができる。コア領域10Xにおける第1平均円形度とマージン領域10Yにおける第1平均円形度と異なっていてもよい。例えば、コア領域10Xにおける第1平均円形度は、マージン領域10Yにおける第1平均円形度よりも大きくてもよい。コイル導体25に電流が流れる際に生じる磁束の磁束密度が大きいコア領域10Xにおける第1平均円形度をマージン領域10Yにおける第1平均円形度よりも高くすることで、基体10の透磁率をさらに向上させることができる。同様に、本発明の少なくとも一つの実施形態において、コア領域10Xにおける第2平均円形度は、マージン領域10Yにおける第2平均円形度よりも大きくてもよい。
【0050】
コア領域10Xにおける第1平均円形度とマージン領域10Yにおける第1平均円形度とが異なる場合には、両者の差は、コア領域10Xにおける第1平均円形度の5%以下とされる。基体10において、コア領域10Xにおける第1平均円形度とマージン領域10Yにおける第1平均円形度との差を所定の範囲内(例えば、コア領域10Xにおける第1平均円形度の5%以下)とすることにより、基体10において第1金属磁性粒子31が均一に分布する。同様に、コア領域10Xにおける第2平均円形度とマージン領域10Yにおける第2平均円形度とが異なる場合には、両者の差は、コア領域10Xにおける第2平均円形度の5%以下とされる。基体10において、コア領域10Xにおける第2平均円形度とマージン領域10Yにおける第2平均円形度との差を所定の範囲内(例えば、コア領域10Xにおける第2平均円形度の5%以下)とすることにより、基体10において第2金属磁性粒子31が均一に分布する。基体10において第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41を均一に分布させることにより、コイル導体25に電流が流れた際に基体10内の一部の領域に局所的に磁束が集中することを防止できる。また、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41を基体10内に均一に分布させることにより、基体10における金属磁性粒子の充填率を高くすることができる。
【0051】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体10は、第1金属磁性粒子31及び/又は第2金属磁性粒子31の表面の形状に従って変形しやすい第3金属磁性粒子を含むことができる。これにより、第3金属磁性粒子によって、第1金属磁性粒子31の間、第2金属磁性粒子41の間、及び/又は第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子41との間に入り込んだ第3金属磁性粒子によって基体10の機械的強度を効果的に改善することができる。この場合、基体10に含まれる複数の第3金属磁性粒子の平均円形度(本明細書において、「第3平均円形度」と呼ぶ。)は、第2平均円形度よりも小さい。
【0052】
本発明の少なくとも一つの実施形態において、第3平均円形度は、第2平均円形度より高くてもよい。本発明の少なくとも一つの実施形態において、第3金属磁性粒子の第3平均円形度は、0.8以上であってもよい。第2金属磁性粒子41の凝集に起因する基体10における金属磁性粒子の充填率の低下を抑制することができる。第3平均円形度が第2平均円形度よりも大きい場合には、第3金属磁性粒子の表面積を小さくすることができので、これにより、第2金属磁性粒子41の凝集を抑制することができる。これにより、第3金属磁性粒子の凝集に起因する基体10における金属磁性粒子の充填率の低下を抑制することができる。
【0053】
基体10に含まれる複数の金属磁性粒子の各々は、隣接する金属磁性粒子と絶縁膜を介して結合してもよい。絶縁膜は、金属磁性粒子の構成元素の酸化物を含んでもよいし、金属磁性粒子の構成元素以外の絶縁性の材料から形成されてもよい。
【0054】
基体10は、樹脂を含んでもよい。基体10は、例えば、金属磁性粒子同士を結合する樹脂製の結着材を含んでいてもよい。結着材は、例えば、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂からなる。結着材の材料として用いられる樹脂材料は、第1磁性材料よりも小さな透磁率を有する。結着材用の樹脂材料として、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂が用いられ得る。本発明の少なくとも一つの実施形態において、基体10に含まれる樹脂の含有比率は、基体10に含まれる金属磁性粒子の質量の合計を100wt%としたときに、1~3wt%とされる。
【0055】
続いて、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法の例について説明する。以下では、圧縮成形法を利用するコイル部品1の製造方法の一例を説明する。圧縮成形法を利用するコイル部品1の製造方法は、金属磁性粒子と樹脂を混練して混合樹脂組成物を生成する準備工程と、この混合樹脂組成物を圧縮成形して成形体を形成する圧縮成形工程と、当該圧縮成形工程により得られた成形体を加熱する熱処理工程と、を備える。
【0056】
準備工程においては、まず、複数の第1金属磁性粒子31を含む第1金属磁性粒子群と複数の第2金属磁性粒子41を含む第2金属磁性粒子群との混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して混合樹脂組成物を生成する。基体が第3金属磁性粒子も含む場合には、混合粒子には、複数の第3金属磁性粒子が含まれる。本発明の少なくとも一つの実施形態においては、混合樹脂組成物中の原料となる第1金属磁性粒子31、第2金属磁性粒子41、及び第3金属磁性粒子として、平均円形度が0.9以上の粒子が用いられる。第1金属磁性粒子31、第2金属磁性粒子41、及び第3金属磁性粒子の平均円形度は、後段の圧縮成形工程において圧縮力による変形を受けることで低下し得るが、準備工程においては0.9以上であってもよい。
【0057】
次に、圧縮成形工程において成型金型内に予め準備したコイル導体25を配置し、コイル導体25が設置された成型金型内に上記のようにして生成した混合樹脂組成物を入れ、この成型金型内の混合樹脂組成物を加熱しながら適切な成形圧力で加圧することで、内部にコイル導体25を含む成形体を作製する。本発明の少なくとも一つの実施形態において、適切な成形圧力は100MPa以下である。成型圧力が高すぎると金属磁性粒子の変形の原因となり円形度が低下してしまう。本発明の実施形態において、成形体を作製する際の成形圧力は、50MPa以下、40MPa以下、又は30MPa以下とされ得る。成型圧力が低すぎると、成形体における金属磁性粒子の充填率が低下してしまうため、成形圧力には下限が設定され得る。本発明の実施形態において、成形体を作製する際の成形圧力の下限は、10MPa又は15MPaとされ得る。
【0058】
圧縮成形工程において成形体が得られた後に、当該製造方法は熱処理工程に進む。熱処理工程においては、圧縮成形工程により得られた成形体に対し熱処理が行われ、この熱処理により内部にコイル導体25が設けられた基体10が得られる。この熱処理により、混合樹脂組成物中の樹脂が硬化して結着材となり、結着材により複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子41が結着される。熱処理工程における熱処理は、混合樹脂組成物中の樹脂の硬化温度以上の温度で行われる。熱処理工程における熱処理は、例えば100℃から200℃にて30分~240分間行われる。このような基体10の形成プロセスにおいては、10~100MPaの範囲の低い成形圧力が用いられている。このため、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41に高い成形圧力が作用せず、このため、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41に生じる応力歪が抑制される。また、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41の円形度が高いため、円形度が低い金属磁性粒子(又は成形圧力により円形度が低くなってしまう金属磁性粒子)と比較して、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41を含む混合樹脂組成物を圧縮する際に混合樹脂組成物内で第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41に作用する摩擦力は小さくなる。このため、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41は、圧縮成形中に混合樹脂組成物中で流動しやすいので、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41は、成型金型内で最密充填構造に近い構造を取りやすい。このように、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子41の円形度を高くすることにより、低い成形圧力を用いることによる基体10における金属磁性粒子の充填率の低下を抑制することができる。
【0059】
次に、上記のようにして得られた基体10の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21は、基体10内に設けられているコイル導体25の一方の端部と電気的に接続され、外部電極22は、基体10内に設けられているコイル導体25の他方の端部と電気的に接続されるように設けられる。外部電極21、22は、めっき層を含んでもよい。このめっき層は2層以上であってもよい。2層のめっき層は、Niめっき層と、当該Niめっき層の外側に設けられるSnめっき層と、を含んでもよい。以上により、コイル部品1が製造される。
【0060】
製造されたコイル部品1は、リフロー工程により基板2に実装されてもよい。この場合、コイル部品1が配置された基板2は、例えばピーク温度260℃に加熱されているリフロー炉を高速で通過した後に、外部電極21、22がそれぞれ実装基板2aのランド部3にはんだ接合されることで、コイル部品1が実装基板2に実装され、回路基板2が得られる。
【0061】
続いて、
図5を参照して、本発明の別の実施形態によるコイル部品101について説明する。コイル部品101は、平面コイルである。図示のように、コイル部品101は、基体110と、基体110内に設けられた絶縁板150と、基体110内において絶縁板150の上面に設けられたコイル導体125と、基体110に設けられた外部電極121と、基体110に外部電極121から離間して設けられた外部電極122と、を備える。基体110は、基体10と同様の磁性材料から形成される。絶縁板150は、絶縁材料から板状に形成された部材である。
【0062】
基体110は、基体10と同様に複数の金属磁性粒子を含む磁性材料から成る。一実施形態における基体110は、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子41と、を含む。基体110においても、複数の第1金属磁性粒子31の円形度の平均を表す第1平均円形度は、0.75以上であり、複数の第2金属磁性粒子41の円形度の平均を表す第2平均円形度は、0.8以上である。基体110に含まれる複数の第2金属磁性粒子41の平均円形度は、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均円形度よりも高い。基体110は、概ね直方体形状を有する。基体10に関する説明は、基体110についても可能な限り当てはまる。
【0063】
図示の実施形態において、コイル導体125は、絶縁板150の上面において、厚さ方向(T方向)に沿って延びるコイル軸Axの周りに渦巻状に巻回されている周回部を有する。コイル導体125は、その一端において外部電極121と接続されており、その他端において外部電極122と接続されている。コイル導体125は、図示されている形状以外の形状を取り得る。例えば、コイル導体125は、絶縁板150の上面及び下面のそれぞれに、コイル軸Axの周りに渦巻状に巻回されている周回部を有していてもよい。この場合、コイル導体125は、絶縁板150の上面に設けられた周回部と絶縁板150の下面に設けられた周回部とを接続する接続部を有する。コイル導体125は、矛盾を生じさせない限り、本明細書で具体的に説明した形状以外の任意の形状を取り得る。
【0064】
次に、コイル部品101の製造方法の例を説明する。まず磁性材料から板状に形成された絶縁板を準備する。次に、当該絶縁板の上面及び下面にフォトレジストを塗布し、続いて、当該絶縁板の上面及び下面の各々に導体パターンを露光・転写し、現像処理を行う。これにより、当該絶縁板150の上面及び下面の各々に、コイル導体125を形成するための開口パターンを有するレジストが形成される。
【0065】
次に、めっき処理により、当該開口パターンの各々を導電性金属で充填する。続いて、エッチングにより上記絶縁板150からレジストを除去することで、当該絶縁板の上面及び下面の各々にコイル導体125が形成される。また、絶縁板150に設けられた貫通孔に導電性金属を充填することにより、コイル導体125の絶縁板の表側の部分と裏側の部分とを接続するビアが形成される。
【0066】
次に、上記コイル導体125が形成された絶縁板150の両面に、基体110を形成する。基体110を形成するために圧縮成形工程が行われる。この圧縮成形工程では、まず、複数の第1金属磁性粒子31を含む第1金属磁性粒子群と複数の第2金属磁性粒子41を含む第2金属磁性粒子群との混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して混合樹脂組成物を得る。次に、この混合樹脂組成物をPETフィルムなどの基材上にシート状に塗工し、この塗工された混合樹脂組成物を乾燥させることで希釈溶剤を揮発させる。これにより、樹脂中に複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子41が分散したシート状の成形体が作製される。このシート状の樹脂成形体を磁性体シートと呼ぶ。この磁性体シートを2枚準備し、この2枚の磁性体シートの間に上記のコイル導体125を配置して加熱しながら10~100MPaで加圧することで、内部にコイル導体を含む圧縮成形体(積層体)を作製する。
【0067】
コイル部品101の製造方法は、次に、熱処理工程に進む。熱処理工程においては、上記の積層体に対して熱処理が行われ、この熱処理により内部にコイル導体125を有する基体110が得られる。この熱処理により、混合樹脂組成物中の樹脂が硬化して結着材となり、結着材により複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子41が結着される。熱処理工程における熱処理は、混合樹脂組成物中の樹脂の硬化温度以上の温度で行われる。熱処理工程における熱処理は、例えば100℃から200℃にて30分~240分間行われる。
【0068】
上記の製造工程における積層体の作製方法の別の例を説明する。この積層体の別の作成方法においては、コイル導体125が形成された絶縁板150を成型金型に設置し、この成型金型内複数の第1金属磁性粒子31を含む第1金属磁性粒子群と複数の第2金属磁性粒子41を含む第2金属磁性粒子群との混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して得られた混合樹脂組成物を入れ、加熱しながら10~100MPaの成形圧力で加圧することで内部にコイル導体125を有する成形体が作成される。この成形体に対して上記の熱処理を行うことにより内部にコイル導体125を有する基体110が得られる。
【0069】
次に、上記のようにして得られた基体110の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極121及び外部電極122を形成する。外部電極121は、基体110内に設けられているコイル導体125の一方の端部と電気的に接続され、外部電極122は、基体110内に設けられているコイル導体125の他方の端部と電気的に接続されるように設けられる。以上により、コイル部品101が製造される。
【0070】
続いて、
図6を参照して、本発明の別の実施形態によるコイル部品201について説明する。コイル部品201は、積層コイルである。図示のように、コイル部品201は、基体210と、基体210内に設けられたコイル導体225と、基体210に設けられた外部電極221と、基体210に外部電極221から離間して設けられた外部電極222と、を備える。基体210は、基体10と同様に磁性材料から構成される。
【0071】
基体210は、基体10と同様に複数の金属磁性粒子を含む磁性材料から構成される。本発明の少なくとも一つの実施形態における基体210は、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子41と、を含む。基体210においても、複数の第1金属磁性粒子31の円形度の平均を表す第1平均円形度は、0.75以上であり、複数の第2金属磁性粒子41の円形度の平均を表す第2平均円形度は、0.8以上である。基体110に含まれる複数の第2金属磁性粒子41の平均円形度は、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均円形度よりも高い。基体210は、概ね直方体形状を有する。基体10に関する説明は、基体210についても可能な限り当てはまる。
【0072】
コイル導体225は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Axの周りに螺旋状に巻回されている。コイル導体225は、導体パターンC11~C16と、この導体パターンC11~C16のうち隣接して配置されたもの同士を接続するビア導体(不図示)とを有する。ビア導体は、概ねコイル軸Axに沿って延びる。導体パターンC11~C16は、例えば、導電性に優れた金属又は合金から成る導電ペーストをシート状の圧縮成形体にスクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導体パターンC11~C16の各々は、隣接する導体パターンとビア導体を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターンC11~C16が、螺旋状のコイル導体225を形成する。
【0073】
次に、コイル部品201の製造方法の例を説明する。コイル部品201は、例えば積層プロセスによって製造することができる。以下では、積層プロセスによるコイル部品201の製造方法の一例を説明する。
【0074】
まず、磁性材料から成る複数の磁性体シートを作成する。これらの磁性体シートの各々は、複数の第1金属磁性粒子31を含む第1金属磁性粒子群と複数の第2金属磁性粒子41を含む第2金属磁性粒子群との混合粒子を結着剤としての熱分解性の樹脂(例えばポリビニルブチラート(PVB)樹脂)及び希釈溶剤と混練して得られた混合樹脂組成物をPETフィルムなどの基材上にシート状に塗工し、この塗工された混合樹脂組成物を乾燥させて希釈溶剤を揮発させることで得られる。これにより、樹脂中に複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子41が分散した磁性体シートが作成される。このようにして作成した磁性体シートを型内に配置して加熱しながら10~100MPaで加圧することで、シート状の圧縮成形体を作製する。
【0075】
次に、以下のようにしてシート状の圧縮成形体に対してコイル導体を設ける。まず、シート状の圧縮成形体の所定の位置に当該シート状の圧縮成形体をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、次に、シート状の圧縮成形体の各々の上面に、導電ペーストをスクリーン印刷法により印刷することで、各圧縮成形体に未焼成導体パターンを形成し、各圧縮成形体に形成された各貫通孔に導電ペーストを埋め込む。
【0076】
次に、各圧縮成形体を積層してコイル積層体を得る。各圧縮成形体は、当該各磁性体シートに形成されている導体パターンC11~C16に対応する未焼成導体パターンの各々が隣接するも同士で未焼成のビアを介して電気的に接続されるように積層される。
【0077】
次に、複数のシート状の圧縮成形体を積層して上側カバー層となる上側積層体を形成する。また、複数のシート状の圧縮成形体を積層して下側カバー層となる下側積層体を形成する。次に、下側積層体、コイル積層体、上側積層体をT軸方向の負方向側から正方向側に向かってこの順序で積層し、この積層された各積層体をプレス機により熱圧着することで本体積層体が得られる。本体積層体は、下側積層体、コイル積層体、及び上側積層体を形成せずに、準備したシート状の圧縮成形体全てを順番に積層して、この積層された圧縮成形体を一括して熱圧着することにより形成しても良い。
【0078】
次に、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機を用いて上記本体積層体を所望のサイズに個片化することで、チップ積層体が得られる。次に、このチップ積層体に対して熱処理を行う。この熱処理は、例えば100℃から200℃にて30分~240分間行われる。このチップ積層体の端部に対して、必要に応じて、バレル研磨等の研磨処理を行う。
【0079】
次に、このチップ積層体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極221及び外部電極222を形成する。以上により、コイル部品201が得られる。
【0080】
続いて、
図7を参照して、本発明の別の実施形態によるコイル部品301について説明する。本発明の一実施形態によるコイル部品301は、巻線型のインダクタである。図示のように、コイル部品301は、基体310と、コイル導体325(巻線325)と、第1の外部電極321と、第2の外部電極322と、を備えている。基体310は、巻芯311と、当該巻芯311の一方の端部に設けられた直方体形状のフランジ312aと、当該巻芯311の他方の端部に設けられた直方体形状のフランジ312bとを有する。巻芯311には、コイル導体325が巻回されている。コイル導体325は、導電性に優れた金属材料から成る導線と、当該導線の周囲を被覆する絶縁被膜とを有する。第1の外部電極321は、フランジ312aの下面に沿って設けられており、第2の外部電極322は、フランジ312bの下面に沿って設けられている。
【0081】
基体310は、基体10と同様に複数の金属磁性粒子を含む磁性材料から成る。一実施形態における基体310は、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子41と、を含む。基体310においても、複数の第1金属磁性粒子31の円形度の平均を表す第1平均円形度は、0.75以上であり、複数の第2金属磁性粒子41の円形度の平均を表す第2平均円形度は、0.8以上である。基体310に含まれる複数の第2金属磁性粒子41の平均円形度は、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均円形度よりも高い。基体10に関する説明は、基体310についても可能な限り当てはまる。
【0082】
次に、コイル部品301の製造方法の例を説明する。まず、基体310が作製される。基体310は、混合樹脂組成物を準備する準備工程と、この混合樹脂組成物を圧縮成形する圧縮成形工程を含む。準備工程では、まず、複数の第1金属磁性粒子31を含む第1金属磁性粒子群と複数の第2金属磁性粒子41を含む第2金属磁性粒子群との混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して混合樹脂組成物を得る。この混合樹脂組成物には、金属磁性粒子が分散している。この混合樹脂組成物を成型金型に入れ、この成型金型内の混合樹脂組成物を加熱しながら10~100MPaの成形圧力で加圧することで成形体が作製される。
【0083】
次に、上記の圧縮成形工程により得られた成形体に対して熱処理を行う熱処理工程が行われる。この熱処理工程により基体310が得られる。この熱処理により、混合樹脂組成物中の樹脂が硬化して結着材となり、結着材により複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子41が結着される。熱処理は、例えば100℃から200℃にて30分~240分間行われる。
【0084】
次に、上記の熱処理工程により得られた基体310にコイル導体325を設けるコイル設置工程が行われる。コイル設置工程においては、基体310の周りにコイル導体325を巻回し、このコイル導体325の一端を第1の外部電極321に接続し、他端を第2の外部電極322に接続する。以上により、コイル部品301が得られる。
【実施例0085】
以下のようにして5種類のコイル部品を作成した。各コイル部品をそれぞれ試料1~試料5と呼ぶ。試料1~試料5のコイル部品を作製するために、まず、平均粒径が20μmであり表1の「大粒子(円形度)」の欄に示されている平均円形度を有するFe-Si-Cr結晶質合金粒子(以下、「大粒子」という。)を準備し、また、平均粒径が4μmであり表1の「小粒子(円形度)」の欄に示されている平均円形度を有するFe-Si-Cr結晶質合金粒子(以下、「小粒子」という。)を準備した。平均円形度は、混合前の金属磁性粒子からサンプルを10個抜き出し、その10個のサンプルの各々の円形度の平均値とすることができる。平均粒径は、混合前の金属磁性粒子からサンプルを10個抜き出し、その10個のサンプルの粒径の平均とすることができる。大粒子の組成は、Fe:95wt%、Si:3.5%、Cr:1.5wt%とし、小粒子の組成は、Fe:90.5t%、Si:7.0%、Cr:2.5wt%とした。
【表1】
【0086】
この2種類の金属磁性粉末を大粒子が70wt%であり、小粒子が30wt%となる比率で混合して各試料用の混合粒子を得た。例えば、試料番号1の試料を作成するために、平均円形度が75の大粒子が70wt%含有し、平均円形度が70の小粒子を30wt%含有する混合粒子を作成した。
【0087】
次に、この各試料用の混合粒子をエポキシ樹脂と混練して混合樹脂組成物を生成した。次に、成型金型内に予め準備した銅製で表面に絶縁膜が設けられた巻線コイルを配置し、この巻線コイルが設置された成型金型内に上記のようにして生成した混合樹脂組成物を入れ、この成型金型内の混合樹脂組成物に30MPaの成形圧力を加えて内部にコイル導体を含む成形体を作製した。次に、上記のようにして作製した成形体に対し180℃で120分間熱処理を行って混合樹脂組成物中の樹脂を硬化させた。これにより、内部にコイル導体を有する基体が得られた。
【0088】
次に、上記のようにして得られた基体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21及び外部電極22を形成した。このようにして得られたコイル部品の各々を試料1~試料5とする。
【0089】
上記のようにして得られた試料1~試料5のそれぞれについて、市販のB-Hアナライザを用いてインダクタンス(μH)を測定し、市販のインピーダンス・アナライザを用いて自己共振周波数の測定し、市販の抵抗計を用いて比抵抗を測定した。
【0090】
また、試料1~試料5の各々に含まれる大粒子の平均円形度と小粒子の平均円形度を以下のようにして算出した。巻線コイルのコイル軸に沿って試料1~試料5の各々のコイル部品を切断して基体の断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、それぞれ5000倍及び20000倍の倍率で撮影した複数のSEM像を取得した。この複数のSEM像の視野内で各々SEM-EDSマッピングを行って大粒子と小粒子とを識別した。そして、上記の複数のSEM像のうち倍率5000倍で撮影されたSEM像を株式会社マウンテックから提供されているMac-Viewを用いて解析し、当該SEM像に含まれる大粒子の各々の円形度を算出し、その算出した円形度の平均値を第1平均円形度とした。同様に、上記の複数のSEM像のうち倍率20000倍で撮影されたSEM像をMac-Viewを用いて解析し、当該SEM像に含まれる小粒子の各々の円形度を算出し、し、その算出した円形度の平均値を第2平均円形度とした。
【0091】
以上の測定結果及び計算結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0092】
表2に示されている測定結果から、大粒子の平均円形度を0.75以上とし、小粒子の平均円形度を大粒子の平均円形度よりも大きくすることで、インダクタンスを劣化させることなく、比抵抗が改善できることが確認された。また、比抵抗が改善されたことにより共振周波数が改善することも確認された。
【0093】
試料1~試料5のいずれについても、成形圧力の印加前後で大粒子及び小粒子それぞれの平均円形度が変わらないことが確認できた。上記のとおり、各試料の基体を作製する圧縮プロセスにおいては、30MPaの成形圧力を用いている。100MPa以下の成形圧力を用いれば、金属磁性粒子の円形度を低下させることなく、基体を作製することができると考えられる。
【0094】
次に、上記の実施形態が奏する作用効果について説明する。本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第1金属磁性粒子群は0.75以上の第1平均円形度を有し、第2金属磁性粒子群は、第1平均円形度よりも大きな第2平均円形度を有するので、第1金属磁性粒子及び第2金属磁性粒子に生じる応力歪が抑制されている。これにより、金属磁性粒子に生じる応力歪に起因する基体10の透磁率の低下を抑制することができる。また、第1金属磁性粒子群の第1平均円形度及び第2金属磁性粒子群の第2平均円形度を高くすることで、第1金属磁性粒子群及び第2金属磁性粒子群に含まれる各金属磁性粒子間の接触面積を少なくすることができるため、この結果、金属磁性粒子間での絶縁破壊が起こりにくくなる。このため、本発明の実施形態においては基体10の比抵抗を高くすることができる。また、第1金属磁性粒子及び第2金属磁性粒子に生じる応力歪が抑制されているため、基体10におけるコア損失も抑制される。
【0095】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、基体10が第1平均粒径を有する第1金属磁性粒子群及び第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子群を含むため、第1金属磁性粒子の間に第2金属磁性粒子が入り込むことで基体10における金属磁性粒子の充填率を高めることができる。
【0096】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第1金属磁性粒子群は0.75以上の第1平均円形度を有し第2金属磁性粒子群は、第1平均円形度よりも大きな第2平均円形度を有しているので、第1金属磁性粒子及び第2金属磁性粒子は、それぞれの円形度に応じた小さな表面積を有する。第1金属磁性粒子及び第2金属磁性粒子が各々の円形度に応じた小さな表面積を有するため、基体10においては金属磁性粒子の凝集を抑制することができ、その結果、金属磁性粒子の凝集による金属磁性粒子の充填率の低下を抑制することができる。本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、より小径の第2金属磁性粒子がより大径の第1金属磁性粒子よりも高い円形度を有しているため、第1金属磁性粒子よりも凝集が起こりやすい第2金属磁性粒子の凝集を抑制することが可能である。
【0097】
比較的大径の第1金属磁性粒子と比較的小径の第2金属磁性粒子とが混合された混合粒子を含む磁性材料に成形圧力を加えると、成形圧力は比較的大径の第1金属磁性粒子に伝達されやすい。本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第1金属磁性粒子31の硬度を第2金属磁性粒子41の硬度よりも高くすることで、成形圧力が作用しやすい第1金属磁性粒子31の変形を抑制することができる。
【0098】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、基体10において大径の複数の第1金属磁性粒子31の重量比が小径の複数の第2金属磁性粒子41の重量比よりも大きいため、基体10の透磁率をさらに高めることができる。
【0099】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第1金属磁性粒子31にSiを含有させることにより、第1金属磁性粒子31の結晶磁気異方性定数や磁歪定数を低下させ、これにより第1金属磁性粒子31における保磁力を減少させることができるので、ヒステリシス損失を小さくすることができる。また、第1金属磁性粒子31にSiを含有させることにより、第1金属磁性粒子31の電気抵抗率を高くすることができ、これにより第1金属磁性粒子31における渦電流損失を減少させることができる。
【0100】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、コイル導体25に電流が流れたときに生じる磁束の磁束密度が高くなるコア領域10Xに含まれる第1金属磁性粒子31の平均円形度がマージン領域10Yに含まれる第1金属磁性粒子31の平均円形度よりも小さいので、基体10の透磁率をさらに高めることができる。
【0101】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第3金属磁性粒子により第1金属磁性粒子の間、第2金属磁性粒子の間、及び第1金属磁性粒子と第2金属磁性粒子との間の隙間を充填することができるので、基体の機械的強度を高めることができる。
【0102】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第3金属磁性粒子によって、第1金属磁性粒子の間、第2金属磁性粒子の間、及び第1金属磁性粒子と第2金属磁性粒子との間の隙間のより多くの領域を充填することができるため、基体10における金属磁性粒子の充填率を高めることができる。
【0103】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0104】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0105】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。