(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157453
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】天然ゴム粒子とその製造方法、および化粧料
(51)【国際特許分類】
C08C 19/00 20060101AFI20221006BHJP
C08C 1/02 20060101ALI20221006BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20221006BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08C19/00
C08C1/02
A61K8/97
A61Q1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061685
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 裕一
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 郁子
(72)【発明者】
【氏名】塚本 早紀
【テーマコード(参考)】
4C083
4J100
【Fターム(参考)】
4C083AB222
4C083AB232
4C083AB242
4C083AB432
4C083AC122
4C083AC342
4C083AC422
4C083AC482
4C083AC912
4C083AD021
4C083AD022
4C083AD162
4C083AD172
4C083AD262
4C083AD352
4C083BB22
4C083CC12
4C083DD23
4C083DD32
4C083EE06
4C083EE07
4C083FF01
4J100AS03P
4J100CA01
4J100CA31
4J100DA19
4J100DA25
4J100DA72
4J100EA09
4J100HA53
4J100HE21
4J100HG32
4J100JA61
(57)【要約】
【課題】高い弾性と良好な生分解性を持つ天然ゴムを用いて、弾性の高いシリコーンビーズやポリウレタンビーズの代替材料を実現する。
【解決手段】 本発明の天然ゴム粒子は、平均粒子径d1が0.01~20μm、最大粒子径d2がd1の3倍以内、CV値が40%未満、真球度が0.80以上、硝子転移温度が-53~10℃である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム成分を架橋させて形成した天然ゴム粒子であって、平均粒子径d1が0.01~20μm、最大粒子径d2は30μm未満、粒径比(d2/d1)が3.0以下、粒子変動係数が40%未満、真球度が0.80以上、硝子転移温度が-53~10℃であることを特徴とする天然ゴム粒子。
【請求項2】
タンパク質の含有量が10ppm未満である請求項1に記載の天然ゴム粒子。
【請求項3】
赤外線吸収スペクトルにおいて、1710cm-1付近と1740cm-1付近でピークが認められないことを特徴とする請求項1または2に記載の天然ゴム粒子。
【請求項4】
リンの含有量が100ppm未満である請求項1~3のいずれか一項に記載の天然ゴム粒子。
【請求項5】
未架橋の天然ゴムラテックスを含む溶液にアルカリ成分を加え、脂質を加水分解して、精製天然ゴムの固体を得る精製工程と、
前記精製天然ゴムに有機溶媒を加え、前記精製天然ゴムを溶解させて溶解液を得る工程と、
前記溶解液と界面活性剤と水を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する工程と、
前記乳化液に電離放射線を照射して前記乳化液滴中の天然ゴム成分を架橋させる架橋工程と、
前記乳化液滴から有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、
前記架橋工程と前記有機溶媒除去工程を経て得られた水分散体を固液分離して、天然ゴム粒子を固形物として得る固液分離工程と、を備える天然ゴム粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒除去工程が、前記架橋工程の前に行われることを特徴とする請求項5に記載の天然ゴム粒子の製造方法。
【請求項7】
化粧料成分と、請求項1~4のいずれか一項に記載された天然ゴム粒子が配合された化粧料。
【請求項8】
前記天然ゴム粒子の平均粒子径d1が1~20μmである請求項7に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い弾性と良好な生分解性を持つ天然ゴム粒子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、石油由来の合成高分子(プラスチック)は、さまざまな産業で利用されている。合成高分子は、長期安定性を求めて開発されることが多く、自然環境中で分解されない。そのため、様々な環境問題が起こっている。例えば、水環境に流出したプラスチック製品が長い期間蓄積され、海洋や湖沼の生態系が大きな影響を受けている。また、近年、長さが5mm以下からnmレベルまでのマイクロプラスチックが大きな問題となっている。マイクロプラスチックに該当するものとして、化粧用品等に含まれる微粒子、加工前のプラスチック樹脂の小さな塊、大きな製品が海中で浮遊するうちに微細化した物、等が挙げられている。
【0003】
プラスチック粒子は、真比重が軽いため下水処理場で除去し難く、河川、海洋、池沼等に流れ出易い。更に、プラスチック粒子は、殺虫剤等の化学物質を吸着し易いため、生物濃縮により人体に影響を与えるおそれがある。このことは国連環境計画等でも指摘されており、各国、各種業界団体が規制を検討している。例えば、化粧品の自然・オーガニック指数表示に関するガイドライン(ISO16128)が制定されている。このガイドラインによれば、製品中の原料を、自然原料、自然由来原料、非自然原料に分類し、各原料の含有量に基づいて指数が算出される。既に、商品にこの指数が表示されるようになっており、自然由来原料、更に、自然原料が要求されている。
【0004】
このような背景から、自然環境中で微生物等により水と二酸化炭素に分解され、自然界の炭素サイクルに組み込まれる生分解性プラスチックが注目されている。特に、植物由来の自然原料であるセルロース粒子は、環境に流出しても水に浮くことがなく、また、良好な生分解性を持つため、環境問題を引き起こす懸念が少ない。例えば、良好な生分解性を持つI型セルロースで形成された多孔質セルロース粒子が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この粒子を化粧料に配合すると、良好な感触特性が得られる。また、生分解性、触感および親油性に優れたセルロースアセテートを含む粒子が知られている(例えば、特許文献2を参照)。さらに、アミロペクチンの含有量が90重量%以上の生分解性に優れた澱粉粒子が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2020/004604号公報
【特許文献2】WO2020/188698号公報
【特許文献3】WO2021/033742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの特許文献に開示された粒子は、生分解に優れ、PMMAやNylon等のプラスチックビーズと同様なソフトで滑らかな感触特性を具備している。しかし、素材そのものが比較的硬質であることから、高い弾性が得られず、シリコーンビーズやポリウレタンビーズの代替材料としては適さない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い弾性と良好な生分解性を持つ天然素材の粒子を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による天然ゴム粒子は、平均粒子径d1が0.01~20μm、最大粒子径d2は30μm未満かつ、平均粒子径d1の3.0倍以内であり、CV値が40%未満、真球度が0.80以上、硝子転移温度が-53~10℃である。
【0009】
本発明による天然ゴム粒子の製造方法は、未架橋の天然ゴムラテックスを含む溶液にアルカリ成分を加え、脂質を加水分解して精製天然ゴムの固体を得る精製工程と、精製天然ゴムに有機溶媒を加え、精製天然ゴムを溶解させて溶解液を得る工程と、溶解液と界面活性剤と水を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する工程と、乳化液に電離放射線を照射して天然ゴム粒子を架橋させる架橋工程と、乳化液滴から有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、架橋工程と有機溶媒除去工程を経て得られた水分散体を固液分離して天然ゴム粒子を固形物として得る固液分離工程と、を備えている。
【0010】
また、乳化液から有機溶媒を除去した後に、架橋工程を行ってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、天然ゴム成分を架橋させて形成した天然ゴム粒子に関し、平均粒子径d1が0.01~20μm、最大粒子径d2が30μm未満、粒径比(d2/d1)が3.0以内、粒子変動係数が40%未満、真球度が0.80以上、硝子転移温度が-53~10℃である。このような粒子は、高い弾性と良好な生分解性を持っている。
【0012】
粒子の形状は粉体の感触特性に影響を与える。平均粒子径d1が20μmより大きい粒子、あるいは、最大粒子径d2が30μm以上の粒子では、ざらつきが感じられ、ソフト感としっとり感が低下する。最大粒子径が平均粒子径の3.0倍を超えると、均一な延び広がり性が低下する。平均粒子径d1が0.01μm未満の粒子は、工業的に製造することが難しい。粒子(粉体)を感触改良材として用いる場合、平均粒子径d1は1~20μmが好ましく、5~15μmが最適である。1μm未満では、転がり感、転がり感の持続性、均一な延び広がり性等の感触特性が低下する。平均粒子径d1が0.01~1μm未満の粒子は、光散乱効果が高いため、ソフトフォーカス材料として好適である。
【0013】
また、粒子変動係数(CV値)が40%未満である。粒子変動係数が40%以上だと、均一な転がり性が得られないおそれがある。粒子変動係数は、30%以下が好ましい。なお、粒子変動係数は、小さいほど好適であるものの、狭小分布の粒子を得ることは工業的に困難である。概ね3%以上であれば、特に問題なく製造できる。
【0014】
また、硝子転移温度は天然ゴムの架橋の程度に関係する。硝子転移温度が-53℃より低い状態の天然ゴムは、架橋が十分進んでおらず、粘着性があるため、粉体(粒子)として取り出すことができない。架橋が進み10℃以上になると弾性が低下すると共に、生分解性が低下してしまう。硝子転移温度は、-50~0℃が好ましく、-40~-10℃が最適である。
【0015】
真球度は0.80以上である。真球度が高いほど粉体(粒子)の転がり感が向上する。真球度は0.90以上が特に好ましい。
【0016】
さらに、タンパク質の含有量は10ppm未満が好ましい。タンパク質による即時型アレルギー(ラテックスアレルギー)を発症させる虞が少ない。さらに、リン脂質由来のリンの含有量は100ppm未満が好ましい。また、脂肪酸を含まないことが好ましい。臭気、菌の増殖、変質、腐敗を抑制することができる。天然ゴム粒子の赤外線吸収スペクトルにおいて、脂肪酸に特有な1710cm-1付近の吸収、および脂肪酸エステルに特有な1740cm-1付近の吸収が実質的に認められなければ、脂肪酸を含んでいないと判断できる。
【0017】
分子構造がシス型の天然ゴムを成分として粒子を構成することにより、高い弾性が得られる。シス型の天然資源として、パラゴムノキ、グアユール、ロシアタンポポ等が例示できる。トランス型のアラビアゴムから得られる粒子では、高い弾性が得られないおそれがある。
【0018】
架橋した天然ゴムは、未架橋の天然ゴムに比べて生分解速度が遅い。しかし、本発明の天然ゴム粒子は、粒径が微細であり、比表面積が大きい。そのため、OECD TG301F(易分解性)による生分解性試験で28日間暴露すると、60%以上が分解される。このような天然ゴム粒子は、欧州化学物質庁が提案するマイクロプラスチックスの定義案に該当しない。
【0019】
また、天然ゴムの比重は、水よりも軽く、水に浮きやすい。そのため、排水処理設備で除去できず、環境中にそのまま放出されることが懸念される。しかし、天然ゴムは光分解性を有しているので、自然界における物質循環のサイクルに組み込まれやすい。
【0020】
また、天然ゴム粒子は疎水性であるが、表面処理を行って親水性とすることにより、水系の化粧料に配合することができる。表面処理方法は、天然ゴム粒子の表面を親水性に改質できる方法であればよく、例えば、HLB値が8~18のノニオン系またはアニオン系界面活性剤処理、アミノ酸やリポアミノ酸処理、アルギン酸やポリアクリル酸等の水溶性高分子処理などが挙げられる。
【0021】
<天然ゴム粒子の製造方法>
はじめに、未架橋の天然ゴムラテックス溶液にアルカリを加えて、脂質を加水分解し、水洗する。これに酸を加えて、ラテックスを凝固させた後、更に水洗して乾燥する(精製工程)。これにより、脂質が低減された精製天然ゴムの固体が得られる。次に、この天然ゴムの固体を有機溶媒に加えて、完全に透明になるまで溶解する(溶解工程)。これにより天然ゴムが有機溶媒に溶解した溶液が得られる。次に、この溶液と界面活性剤と水を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する(乳化工程)。これにより、天然ゴムが有機溶媒に溶解した溶液が内層、水が外層からなる乳化液滴を含むO/W乳化液が得られる。この乳化液に電離放射線を照射して、天然ゴムを架橋させる(架橋工程)。これにより、天然ゴムの構成成分(鎖状ポリイソプレン)が架橋した三次元の網目構造体が得られる。続いて、O/W乳化液中の乳化液滴から有機溶媒を除去する(有機溶媒除去工程)。これにより架橋された天然ゴム粒子の水分散体が得られる。次に、この水分散体を固液分離し、更に水洗して、ケーキ状物質を取り出す(固液分離工程)。次に、このケーキ状物質を乾燥し、解砕して天然ゴム粒子の粉体が得られる(乾燥工程)。ここで、架橋工程と有機溶媒除去工程の順を入れ替えてもよい。すなわち、乳化工程で得られた乳化液から有機溶媒を除去した後に、電離放射線を照射してもよい。
【0022】
以下、各工程を詳細に説明する。
【0023】
[精製工程]
未架橋の天然ゴムラテックスにアルカリを加えて、室温~200℃に加熱して脂質を加水分解する。天然ゴムラテックスは、ゴムノキ等の樹液に含まれるシス-ポリイソプレンを主成分としている。さらに、タンパク質、脂肪酸、リン脂質などの非ゴム成分を約6重量%含んでいる。脂質を低減することにより、以降の溶解工程で有機溶媒に不溶なゲル成分が少なくなり、収率が向上する。ここで用いるアルカリとして、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示できる。アルカリの濃度は高いほど効果的であり、5%以上が好ましい。
【0024】
加水分解後、限外濾過、遠心分離等によりゴム成分と脂質の分離を行う。次いで、鉱酸等の酸性成分を加えて、ゴム成分を固液分離して水洗する。その後、真空乾燥を行って天然ゴムの固形物を得る。
【0025】
また、市場には、天然ゴムラテックスにアンモニアを加えて、遠心分離等で60%程度に濃縮した製品が流通しており、これを原料に用いてもよい。
【0026】
さらに、酵素を用いた酵素処理、変性剤を用いた変性処理、アセトン等での抽出により、タンパク質を低減することが望ましい。市場には、脱タンパク天然ゴムラテックス(例えば、酵素処理されたラテックス(住友ゴム工業社製セラテックス)、水酸化アルミニウム処理されたラテックス(泰国MMGポリマー製)等が流通しており、これを利用してもよい。残留タンパク質を1%未満に低減したものが好ましい。他方、固形ゴムとして流通しているシート状(視覚的格付けゴム)、ブロック状(技術的格付けゴム)のゴムは、非ゴム成分が多く含まれており、精製が困難である。
【0027】
[溶解工程]
次に、天然ゴムの固形物を有機溶媒中に加えて、室温から溶媒の沸点以下に加熱して溶解させる。有機溶媒のSP値は、6~10(天然ゴムのSP値8に対して、おおよそ±2の範囲)が好ましい。シクロへサン等が好適である。ゲル成分は、オートクレーブ中で高温、高圧をかけても溶解しない。そのため、溶解液を限外濾過し、ゲルを分離する。これにより、透明な天然ゴム溶解液を得る。なお、タンパク質と脂質は水溶性なので、この限外濾過により低減できる。天然ゴム溶解液中の固形分は50%以上が経済的である。
【0028】
[乳化工程]
天然ゴム溶解液と水と界面活性剤を混合する。界面活性剤は、O/W型の乳化液滴を形成するために添加される。界面活性剤のHLB値は8~18が適している。次に、この混合溶液を乳化装置により乳化させる。この時、平均径が、約0.02~40μmの乳化液滴を含む乳化液が得られるように、乳化条件を設定する。乳化液滴中には天然ゴム溶解液が存在している。乳化装置には、一般的な高速せん断装置を用いることができる。その他にも、より微細なナノサイズの乳化液滴が得られる高圧乳化装置、より均一な乳化液滴が得られる膜乳化装置、マイクロチャネル乳化装置等の公知の装置を目的に応じて適用できる。
【0029】
なお、乳化液滴の平均径は次のように測定した。乳化液をスライドガラスに滴下し、その上からカバーガラスを被せる。デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-600)により、カバーガラス越しに30倍から2000倍の倍率で撮影し、乳化液滴の写真投影図を得る。この写真投影図から、50個の液滴を任意に選び、付属のソフトウェアにて円相当径を算出する。それら50個の円相当径の平均値を平均径(平均液滴径)とした。
【0030】
[架橋工程]
この乳化液を金属製容器に入れ、電離放射線を照射する。未架橋の天然ゴムの硝子転移温度に対して、約10℃上昇する程度に電離放射線を照射すると、粒子の粘着性が抑えられ、粉体として取り出せるようになる。また、電離放射線の照射により、残留している非ゴム成分が分解し、水層に移行する。そのため、天然ゴムの純度が高くなる。電離放射線は、x線、γ線、電子線のいずれかを適用し、照射線量は、50~500kGyの範囲が好ましい。50kGy未満の場合、架橋が未発達なため、乳液を固液分離した際、ゴム粒子同士が粘着して固まりとなり、個別の粉体として取り出すことができない。また、500kGyを超えると架橋密度が高すぎて、弾性が低下すると共に、生分解速度が低下する。
【0031】
また、前述の乳化を希薄系にて行い、これに電離放射線を照射すると、より高い弾性の粒子が得られる。なお、この架橋工程で天然ゴム粒子の硝子転移温度を調整することができる。金属製容器は200Lドラム缶がハンドリング上も好適である。
【0032】
[有機溶媒除去工程]
架橋工程で得られた乳化液から有機溶媒を除去する。常圧または減圧下で加熱することにより、有機溶媒を蒸発させる。これにより、乳化液滴から有機溶媒が除去され、粒子径0.02~40μm程度の天然ゴム粒子を含む水分散体が得られる。
【0033】
例えば、常圧下の加熱除去法では、冷却管を備えたセパラブルフラスコを加熱し、有機溶媒を取り除く。また、減圧下の加熱除去法では、ロータリーエバポレーターや蒸発缶等用いて減圧加熱し、有機溶媒を取り除く。
【0034】
[固液分離工程]
次に、有機溶媒除去工程で得られた水分散体から、公知の濾過、遠心分離等の方法により固形分を分離する。これにより、天然ゴム粒子のケーキ状物質が得られる。得られたケーキ状物質を洗浄することにより、界面活性剤を低減できる。天然ゴム粒子を乳化物等の液体製剤に配合する場合、界面活性剤が長期安定性を阻害するおそれがある。そのため、天然ゴム粒子に含まれる界面活性剤の残留量は100ppm以下が好ましい。界面活性剤を低減するためには、有機溶媒を用いて洗浄すると良い。
【0035】
[乾燥工程]
乾燥工程では、常圧または減圧下での加熱により、固液分離工程で得られたケーキ状物質に含まれる水分を蒸発させる。その後、ミキサー等で解砕することで、平均粒子径0.01~20μmの天然ゴム粒子の粉体が得られる。
【0036】
<化粧料>
上述の天然ゴム粒子と各種化粧料成分を配合して化粧料を調製できる。このような化粧料によれば、シリコーンビーズやポリウレタンビーズと同様な柔軟性が感じられる。同時に、天然ゴム粒子の粉体が持つ優れた感触特性(転がり感、転がり感の持続性、および均一な延び広がり性、ソフト感としっとり感)を得ることができる。すなわち、化粧料の感触改良材に求められる代表的な感触特性を満たすことができる。感触改良材としては、平均粒子径d1が1~20μmの天然ゴム粒子が特に適している。
【0037】
具体的な化粧料を表1に分類別に例示する。このような化粧料は、従来の一般的な方法で製造できる。化粧料は、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、クリーム状、ジェル状、ムース状、液状、クリーム状等の各種形態で使用される。
【0038】
各種化粧料成分として代表的な分類や成分を表2に例示する。さらに、医薬部外品原料規格2006(発行:株式会社薬事日報社、平成18年6月16日)や、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(発行:The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association、Eleventh Edition2006)等に収載されている化粧料成分を配合してもよい。
【0039】
【0040】
【実施例0041】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0042】
[実施例1]
天然ゴムラテックスとして脱タンパク天然ゴム(住友ゴム工業社製SELATEX-1101)を用いた。これを純水で希釈してゴム濃度を30重量%とし、これに水酸化ナトリウムを濃度が5%となるように加えた。得られた水分散液のpHは13.5であった。この水分散液を40℃に加温し、24時間攪拌し、脂質を加水分解した。次いで、限外濾過膜を用いて、電気伝導度が10mS/m以下になるまで洗浄した。次に、ロータリーエバポレーターを用いて真空乾燥して、精製天然ゴムの固体を得た。
【0043】
この固体にシクロヘキサンを加えて固形分50重量%とした後、60℃で2時間攪拌を行い、透明な天然ゴムの溶解液を得た。
【0044】
この溶解液200gに水3346gと界面活性剤(花王社製レオドールTW-O120V)25gの混合溶液に加えた。この混合溶液を、乳化分散機(プライミクス社製T.K.ロボミックス)を用いて10000rpmで10分間撹拌した。これにより乳化され、乳化液滴を含む乳化液が得られた。
【0045】
この乳化液を4L金属角缶(アズワン社製)に詰めて、線量270kGyのγ線を照射し、乳化液滴中の天然ゴムを架橋した。
【0046】
次に、この乳化液から、ロータリーエバポレーターを用いてシクロヘキンを蒸留して取り除いた。得られた水分散液を、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。その後、電気伝導度が1mS/mになるまで水洗を行い、非ゴム成分を除去した。次いで、ヘプタン1Lを用いた洗浄を3回繰り返し、界面活性剤を除去した。このようにして得られたケーキ状物質を、60℃で12時間乾燥した。この乾燥粉体をジューサーミキサーで解砕し、250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけ、天然ゴム粒子を得た。
【0047】
天然ゴム粒子の調製条件を表3にまとめた。また、天然ゴム粒子の粉体の物性を以下の方法で測定した。他の実施例や比較例についても同様に測定し、その結果を表4に示す。
【0048】
(1)平均粒子径、最大粒子径、粒子変動係数
レーザー回折装置(堀場製作所製のLA-950v2)を用いて、天然ゴム粒子の粒度分布を測定した。この粒度分布からメジアン値を求め、平均粒子径d1とした。また、粒度分布で検出される最も大きい粒子径を最大粒子径d2とした。さらに、粒度分布(母集団)から標準偏差σと母平均μを求め、粒子変動係数(CV=σ/μ)を得た。表4では百分率で表している。また、最大粒子径d2を平均粒子径d1で除して最大粒子径と平均粒子径の比(d2/d1)を求めた。
【0049】
(2)真球度
透過型電子顕微鏡(日立製作所製、H-8000)により、2000倍から25万倍の倍率で撮影し、写真投影図を得る。この写真投影図から、任意の50個の粒子を選び、それぞれの最大径DLと、これに直交する短径DSを測定し、比(DS/DL)を求めた。それらの平均値を真球度とした。
【0050】
(3)タンパク質の含有量
ケルダール法にて測定した。具体的には、硫酸を用いて試料を加熱分解し、試料に含まれる窒素を硫酸アンモニウムとした。次に、この分解液をアルカリ性とし、遊離したアンモニアを蒸留し、そのN量を滴定により測定した。このN量に6.25を乗じた値をタンパク質の含有量とした。本実施例では、Nを定量した結果、検出限界の1ppm未満であった。そこで、タンパク質量は6ppm未満と判断した。
【0051】
(4)リンの定量
天然ゴム粒子の粉末約1gを白金皿に採取する。硝酸5ml、弗化水素酸10mlを加えて、サンドバス上で加熱する。乾固したら、少量の水と硝酸50mlを加えて溶解させて100mlのメスフラスコに入れ、水を加えて100mlとする。次に、この溶液から分液10mlを20mlメスフラスコに採取する操作を5回繰り返し、分液10mlを5個得る。そして、これを用いて、リンについてICPプラズマ発光分析装置(SII社製SPS5520)にて標準添加法で測定を行った。
【0052】
(5)脂肪酸、脂肪酸エステルの確認試験
赤外線吸収スペクトルにおいて、脂肪酸に特有なカルボニル基に帰属される1710cm-1付近の吸収、および脂肪酸エステルに特有なカルボニル基に帰属される1740cm-1付近の吸収の有無を確認した。
【0053】
具体的には、天然ゴム粒子の粉末20mgを20φのディスクに成型する。これを真空ラインに接続されたIRセルに設置して、70oCで1時間、真空排気処理を行って吸着水分を除去した。真空排気処理後、25oCに降温して、試料ディスクのIRスペクトルを赤外吸光分光計(日本分光社製 FT/IR-4600)で測定した。
【0054】
(6)硝子転移温度
示差走査熱量計(リガク社製 DSC8230L)を用い、-80℃から80℃まで、10℃/分で昇温させて測定した。
【0055】
(7)生分解性
天然ゴム粒子の粉末をOECD TG301F(易分解性)に基づいて生分解性試験を行い、28日間の暴露における分解率を測定した。本実施例では、この分解率は90%であった。
【0056】
[実施例2]
乳化分散機の回転数を5000rpmとした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0057】
[実施例3]
乳化分散機の回転数を13000rpmとした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0058】
[実施例4]
γ線照射量を160kGyとした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0059】
[実施例5]
γ線照射量を400kGyとした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0060】
[実施例6]
天然ゴムラテックスとして、脱タンパク天然ゴム(住友ゴム工業社製SELATEX 3821)を用いた以外は、実施例1と同様に調製した。
【0061】
[実施例7]
乳化分散機の回転数を16000rpmで20分間とした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0062】
[比較例1]
乳化分散機の回転数を2000rpmとした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0063】
[比較例2]
架橋工程を行わないこと以外は、実施例1と同様な操作を行ったところ、乾燥品はシート状となり、ジューサーミキサーで解砕できなかった。そのため、天然ゴム粒子が得られなかった。
【0064】
[比較例3]
γ線照射量を600kGyとした以外は、実施例1と同様に調製した。
【0065】
[比較例4]
γ線照射量を40kGyとした以外は、実施例1と同様な操作を行ったところ、乾燥品はシート状となり、ジューサーミキサーで解砕できなかった。そのため、天然ゴム粒子が得られなかった。
【0066】
【0067】
【0068】
〈天然ゴム粒子の粉体の感触特性〉
次に、各実施例と比較例で得られた粉体の感触特性を評価した。各粉体について、20名の専門パネラーによる官能テストを行い、さらさら感、しっとり感、転がり感、均一な延び広がり性、肌への付着性、転がり感の持続性、およびソフト感の7つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。評価点基準(a)に基づく各人の評価点を合計し、評価基準(b)に基づき感触特性を評価した。結果を表5に示す。
評価点基準(a)
5点:非常に優れている。
4点:優れている。
3点:普通。
2点:劣る。
1点:非常に劣る。
評価基準(b)
◎:合計点が80点以上
○:合計点が60点以上80点未満
△:合計点が40点以上60点未満
▲:合計点が20点以上40点未満
×:合計点が20点未満
【0069】
【0070】
〈リキッドファンデーションの使用感〉
天然ゴム粒子の粉体を用いて、表6に示す配合比率(重量%)となるようにW/O型リキッドファンデーションを作製した。すなわち、各例の粉体を成分(10)として、成分(2)~(14)と共にディスパーにて均一に分散させ、その後で、成分(1)と混合した。さらに、成分(15)~(19)を同様に均一混合した。これらを70℃に加熱し成分を融解した後、ディスパーで乳化・冷却・脱泡し、W/O型リキッドファンデーションを得た。この様にして得られたリキッドファンデーションについて、20名の専門パネラーによる官能テストを行った。肌への塗布中の均一な延び、しっとり感、滑らかさ、および、肌に塗布後の化粧膜の均一性、しっとり感、やわらかさの6つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。前述の評価点基準(a)に基づく各人の評価点を合計し、前述の評価基準(b)に基づきファンデーションの使用感を評価した。結果を表7に示す。実施例による化粧料は、塗布中でも塗布後でも、使用感が優れている。しかし、比較例の化粧料は、使用感がよくない。
【0071】
【0072】