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  • 特開-繰出式筆記具 図1
  • 特開-繰出式筆記具 図2
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  • 特開-繰出式筆記具 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157461
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】繰出式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/02 20060101AFI20221006BHJP
   B43K 24/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B43K24/02
B43K24/08 110
B43K24/08 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061697
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】真田 裕右
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 千夏
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HC04
2C353HG04
2C353HJ03
(57)【要約】
【課題】筆記具の軸筒をシートで簡単に被覆することができ、また筆記具の軸筒から使用したシートを簡単に取り外して交換することができる繰出式筆記具を得る。
【解決手段】軸筒4の側面に、軸筒4の内外を連通させる複数の孔部Kを有し、軸筒4の前方に 該軸筒4に対して筆記体5の移動に連動して前後動する前方気密部Z1を有し、軸筒4の後方に 該軸筒4に対して筆記体5の移動とは連動せずに特定位置で固定される後方気密部Z2を有し、操作部7dを前進させ前方気密部Z1を後方気密部Z2に対して前進させることにより、軸筒4内を負圧にする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に筆記体を収容し、操作部を前後動させることにより、前記操作部に連動した筆記体の先端が、前記軸筒の前方より出没する出没機構を備えた繰出式筆記具であって、
前記軸筒の側面に、該軸筒の内外を連通させる複数の孔部を有し、
前記軸筒の前方に 該軸筒に対して前記筆記体の移動に連動して前後動する前方気密部を有し、
前記軸筒の後方に 該軸筒に対して前記筆記体の移動とは連動せずに特定位置で固定される後方気密部を有し、
前記操作部を前進させ前記前方気密部を前記後方気密部に対して前進させることにより、前記軸筒内を負圧にする構造の繰出式筆記具。
【請求項2】
前記前方気密部が、前記筆記体の外面に設けた円環状の外鍔と前記軸筒の内面との接触部で構成され、
前記後方気密部が、前記軸筒の内面に設けた円環状の内鍔と前記操作部の外面との接触部で構成された請求項1に記載の繰出式筆記具。
【請求項3】
前記出没機構が、
前記軸筒内に収容した前記筆記体が前記先口に係止させたコイルスプリングで後方へ弾発され、
前記軸筒内に設けた複数のカム溝に沿って摺動可能な摺動突起を側面に有し前記操作部を後方に有する固定カムと、前記固定カムの前方で前記カム溝を摺動して回転し該カム溝の前端部に設けた係止部に係止される係止突起を有した回転カムとを有し、
前記固定カムと前記回転カムとが、前記固定カムの係止突起に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部に、前記回転カムに形成した前記噛合部にかみ合う被噛合部をかみ合わせて縦列配置され、
前記固定カムを前方へ押動することにより、前記回転カムを摺動させると共に、前記回転カムの回転に伴い、前記軸筒内に収容した前記筆記体の筆記先端を前記先口から出没させる構造の請求項2に記載の繰出式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に筆記体を収容し、操作部を前後動させることにより、操作部に連動した筆記体の先端が、軸筒の前方より出没する構造の繰出式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
繰出式筆記具は、例えば特許文献1(特開平11-78361号公報)に記載のノック式筆記具のように、中空の軸筒と、軸筒内側の空間に収容されたレフィルを有する構造のものがある。ここで、レフィルとは、インキを収容する筒体と、インキを排出するペン先とを備えた、筆記体をいう。
【0003】
近年、衛生に対する関心が高まっており、特に、ウイルスや細菌等による感染防止の観点から、直接手に触れる筆記具について、使用する前に洗浄する要望が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-78361号公報
【特許文献2】実開平7-17580号公報
【特許文献3】実開昭61-128084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筆記具は、筆記具を分解して筆記体を取り出してから、洗浄する。洗浄の際に使用される洗浄液及び水は筆記具用軸筒の内部に侵入する。筆記具用軸筒には開口が少なく、軸筒の中に侵入した水は外部に排出され難く、乾燥し難い。
特に特許文献1に記載のノック式筆記具などでは、筆記体を前後動させるために軸筒内に配設した固定カムや回転カムなどのカム部材が存在することから、軸筒の中に侵入した水が排出され難く、また乾燥し難い。
【0006】
軸筒の中に液体が残存した状態で筆記体を収容して、筆記具を使用すると、筆記中の紙面に、軸筒内部の液体が滴下する不具合がある。軸筒の内部を乾燥させる場合は、長い時間放置する必要があり、その間は、筆記具を使用できない不具合がある。
【0007】
このようなことから、筆記具の軸筒を、合成樹脂などで成形された清潔なシートで被覆して、使用する度に、あるいは使用者が変わる度に、そのシートを交換できる衛生的な構造が求められている。
例えば特許文献2(実開平7-17580号公報)には、筒状芯体にコルクシートを被覆した筆記具の軸筒が記載されているが、コルクシートの片面に接着剤を塗布し、塗布面を筒状芯体に密着させながら捲く構造であることから、簡単にシートを被覆できるのもではなく、また簡単に交換もできない。
また特許文献3(実開昭61-128084号公報)には、シリコンゴム製のチューブを軸部に被着した筆記具が記載されているが、チューブは加熱されることで収縮して軸部に密着される構造であることから、簡単にチューブを被覆できるのもではなく、また簡単に交換もできない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その目的とするところは、筆記具の軸筒をシートで簡単に被覆することができ、また筆記具の軸筒から使用したシートを簡単に取り外して交換することができる繰出式筆記具を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
「1.
軸筒内に筆記体を収容し、操作部を前後動させることにより、前記操作部に連動した筆記体の先端が、前記軸筒の前方より出没する出没機構を備えた繰出式筆記具であって、
前記軸筒の側面に、該軸筒の内外を連通させる複数の孔部を有し、
前記軸筒の前方に 該軸筒に対して前記筆記体の移動に連動して前後動する前方気密部を有し、
前記軸筒の後方に 該軸筒に対して前記筆記体の移動とは連動せずに特定位置で固定される後方気密部を有し、
前記操作部を前進させ前記前方気密部を前記後方気密部に対して前進させることにより、前記軸筒内を負圧にする構造の繰出式筆記具。
2.
前記前方気密部が、前記筆記体の外面に設けた円環状の外鍔と前記軸筒の内面との接触部で構成され、
前記後方気密部が、前記軸筒の内面に設けた円環状の内鍔と前記操作部の外面との接触部で構成された前記1項に記載の繰出式筆記具。
3.
前記出没機構が、
前記軸筒内に収容した前記筆記体が前記先口に係止させたコイルスプリングで後方へ弾発され、
前記軸筒内に設けた複数のカム溝に沿って摺動可能な摺動突起を側面に有し前記操作部を後方に有する固定カムと、前記固定カムの前方で前記カム溝を摺動して回転し該カム溝の前端部に設けた係止部に係止される係止突起を有した回転カムとを有し、
前記固定カムと前記回転カムとが、前記固定カムの係止突起に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部に、前記回転カムに形成した前記噛合部にかみ合う被噛合部をかみ合わせて縦列配置され、
前記固定カムを前方へ押動することにより、前記回転カムを摺動させると共に、前記回転カムの回転に伴い、前記軸筒内に収容した前記筆記体の筆記先端を前記先口から出没させる構造の前記2項に記載の繰出式筆記具。」である。
【0010】
本発明の繰出式筆記具によれば、軸筒の側面の複数の孔部に非通気性のシートを近づけ、操作部を前進させ前方気密部を後方気密部に対して前進させ、軸筒内を大気圧から負圧にすることで、簡単に軸筒の側面をシートで簡単に被覆することができる。反対に、操作部を後退させ前方気密部を後方気密部に対して後退させ、軸筒内を大気圧に戻すことで、簡単に軸筒の側面からシートを取り外すことができる。
このことから、本発明の繰出式筆記具は、使用時に、筆記体の先端を軸筒の前方より突出させる動作に伴って、軸筒の側面を新しい清潔なシートで被覆することができ、使用後に、筆記体の先端を軸筒に没入させる動作に伴って、軸筒の側面から使用したシートが自動で外れるため、使用者が次回使用するときや、別の人が使用するときには、新しい清潔なシートを使用することを意識することができ、衛生面が優れる。
【0011】
本発明構造では、前方気密部が後方気密部に対して前進することで、軸筒内における前方気密部と後方気密部との間の容積が増大して該軸筒内が負圧になる構造であることから、筆記体が軸筒内に収容された状態における前方気密部と後方気密部との間の容積を小さくして、前方気密部が前進したときの容積変化による圧力変化が大きくなるようにすることが好ましい。具体的には、軸筒の内面と、該軸筒内に収容される筆記体や操作部の外面との間に生じる隙間を小さくしたり、軸筒内に配置される部材内に空間が存在しないようにすることで、前方気密部と後方気密部との間に存在する空間の容積を小さくすることができる。あるいは、筆記体の先端を軸筒の前方より突出させる際の該筆記体の移動距離を大きくすることで、前方気密部が前進したときの容積変化による圧力変化が大きくなるようにしてもよい。
【0012】
軸筒の側面の内外を連通させる複数の孔部は、軸筒の外周面においても前後方向においてもまんべんなく配置させることで、軸筒全体をシートで被覆し易くなる。特に軸筒の前方部から中央部の指で把持する部分に孔部を数多く設けることにより、筆記時において軸筒からシートが外れ難くなる。孔部は、軸筒の強度を低下させないよう、同一円周上に多数設けない方がよい。
孔部の大きさや形状は、特に限定されるものではなく、孔部の数や、軸筒内の負圧圧力に応じて、適宜設定することができる。但し、特定箇所の孔部を大きくすることなく、軸筒の全体に小さな孔部を多数設けた方が、軸筒の側面に対してシートを均一に吸引させることができるので好ましい。
【0013】
出没機構は、回転カムの回転の作用を利用した回転カム機構や、軸筒の係止部にノック体に形成した突部を係止し、ボタンやクリップの開閉によって係止状態を解除する係止型のノック機構などがある。あるいは、前軸と後軸とが相対的に回動することにより、軸筒内のカム山や螺旋溝を回動させ、カム山や螺旋溝に沿ってカム突起が前進し、筆記体の先端が突出する回転機構などがある。
【0014】
軸筒の側面を被覆するシートは、反発力が働くように撓むことなく、軸筒の側面に沿って柔軟に変形できる厚さと材料からなるものであり、例えばポリエチレン、ポリエステル、塩化ビニル、フッ化ビニル、スチレンゴム、シリコンゴムなど、またそれらを重合又は共重合したポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなど、あるいはパラフィンシートやアルミ箔、またはそれらの積層体などで、非透気性のシートとして使用されているものが挙げられる。
なお、シートの質量が軽い方が軸筒内の負圧による吸引力に対し脱落し難くなることから、比重が小さい材料で且つ薄く形成されたシートを用いるとよい。
【0015】
前方気密部を、筆記体の外面に設けた円環状の外鍔と軸筒の内面との接触部で構成し、後方気密部を、軸筒の内面に設けた円環状の内鍔と操作部の外面との接触部で構成する場合には、円環状の外鍔や内鍔をゴム製やエラストマー製のOリングで形成すると、安定した気密性を得ることができる。
【0016】
出没機構を、軸筒内に収容した筆記体が先口に係止させたコイルスプリングで後方へ弾発され、軸筒内に設けた複数のカム溝に沿って摺動可能な摺動突起を側面に有し操作部を後方に有した固定カムと、固定カムの前方でカム溝を摺動して回転し該カム溝の前端部に設けた係止部に係止される係止突起を有した回転カムとを有し、固定カムと回転カムとが、固定カムの係止突起に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部に、回転カムに形成した噛合部にかみ合う被噛合部をかみ合わせて縦列配置され、固定カムを前方へ押動することにより、回転カムを摺動させると共に、回転カムの回転に伴い、軸筒内に収容した筆記体の筆記先端を先口から出没させる構造とする場合には、筆記体の外面に円環状の凹部を設け、該凹部にゴム製やエラストマー製のOリングを密嵌させ、軸筒の内面に円環状の凹部を設け、該凹部にゴム製やエラストマー製のOリングを密嵌させ、軸筒内における各Oリング間の気密性を確保できるようにすると組立性がよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、筆記具の軸筒をシートで簡単に被覆することができ、また筆記具の軸筒から使用したシートを簡単に取り外して交換することができる繰出式筆記具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態のボールペンであり、筆記先端を没入させた状態の縦断面図である。
図2図2は、本実施形態のボールペンであり、筆記先端を先口から突出させた状態の縦断面図である。
図3図3は、本実施形態のボールペンのカム動作を模式的に示した図であり、図3Aは筆記先端が没入した状態で、図3Bは筆記先端が突出した状態の図である。
図4図4は、本実施形態のボールペンであり、軸筒の側面にシートを被覆した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本実施形態のボールペンについて説明をする。本実施形態では、出没機構として、回転カム機構を用いたノック式のボールペンについて説明を行うが、本発明は以下のノック式のボールペンに限定されるものではなく、万年筆やマーキングペンあるいはシャープペンシルなどの繰出式筆記具に採用することもできる。
本施例では、筆記先端がある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。なお、説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0020】
図1は、本実施形態のボールペンであり、筆記先端を没入させた状態の縦断面図である。図2は、本実施形態のボールペンであり、筆記先端を先口から突出させた状態の縦断面図である。図3は、本実施形態のボールペンのカム動作を模式的に示した図であり、図3Aは筆記先端が没入した状態で、図3Bは筆記先端が突出した状態の図である。
【0021】
ボールペン1は、軸筒本体2の前方に先口3が螺合されて軸筒4を構成し、軸筒4内に収容したボールペンレフィル5(筆記体)が先口3に係止したコイルスプリング6で後方へ弾発され、軸筒4内に設けた複数のカム溝2aに沿って摺動可能な摺動突起7aを有する固定カム7を有し、固定カム7の前方でカム溝2aを摺動して回転し該カム溝2aの前端部に設けた係止部2bに係止される係止突起8aを有した回転カム8とを有している。固定カム7と回転カム8とは、固定カム7に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部7bに、回転カム8に形成した前記噛合部7bにかみ合う被噛合部8bをかみ合わせて縦列配置されている。
ボールペン1は、固定カム7を押動することにより回転カム8を摺動させると共に、回転カム8の回転に伴い、軸筒4内に収容したボールペンレフィル5の筆記先端5aを先口3から出没させる。
【0022】
次に図2及び図3を用いて、先口から筆記先端を突出させる動作について説明を行う。
図2は、本実施形態のボールペンであり、筆記先端を先口から突出させた状態の縦断面図である。図3は、本実施形態のボールペンのカム動作を模式的に示した図であり、図3Aは筆記先端が没入した状態で、図3Bは筆記先端が突出した状態の図である。
ボールペン1は、軸筒4の後方に、ノック操作により作動する従来の回転カム機構が設けられている。回転カム機構は、軸筒4の内面22aの円周上に等間隔で形成したカム溝2aと、軸筒4の後端に形成した後端開口部22cから突出した筒状の前記固定カム7と、固定カム7の前方に配した筒状の前記回転カム8とで構成してある。
固定カム7は、先端に凹凸状の噛合部7bを有し、外面には、カム溝2bに係合する複数の摺動突起7aを、噛合部7bの頂部7cに位置するよう円周上に等間隔で設けてある。
回転カム8の外周面には、カム溝2aに係合する複数の係止突起8aを有し、係止突起8aの後端に前記固定カム7の噛合部7bにかみ合う傾斜面8bで構成した被噛合部8cを設けてある。
【0023】
図3Aに示すように、本実施形態のカム機構は、固定カム7の摺動突起7a及び回転カム8の係止突起8aをカム溝2aに係合させた際、固定カム7の噛合部7bの頂部7cが、回転カム8の被噛合部8cの傾斜面8bの中間点に位置するようにしてある。
【0024】
図1に示すボールペン1は、軸筒4の後端開口部22cから突出した固定カム7のノック部7d(操作部)を軸筒4の前方へ押動すると、固定カム7が、軸筒本体2の内面22aに形成した深いカム溝221aと浅いカム溝222aに係合した摺動突起7aに導かれて前進し、固定カム7に連接した回転カム8は、深いカム溝221aに係合した係止突起8aに導かれて前進する(図3参照)。
係止突起8aが、深いカム溝221aの先端に達して該カム溝から離脱すると、固定カム7の噛合部7bの頂部7cは、回転カム8の被噛合部8cの傾斜面8bの中間に位置する。このとき、回転カム8は、先口3に係合したコイルスプリング6で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後方へ後退しようとして右側から左側に回転し(図において、被噛合部8cの傾斜面8bが右下がりのため)、回転カム8の被噛合部8cは固定カム7の噛合部7bを滑って、係止突起8aの被噛合部8cが浅いカム溝222aの先端の係止斜面223aに係止され、図2に示したように、先端開口部3aから筆記先端5aを突出させた状態で維持することができる。
【0025】
また再度、固定カム7のノック部7dを軸筒4の前方へ押動することにより、係止突起8aの被噛合部8cと浅いカム溝222aの係止斜面223aとの係止状態が解かれ、コイルスプリング6に弾発された回転カム8が後退しようとして右側から左側に回転し(図において、被噛合部8cの傾斜面8bが右下がりのため)、回転カム8の係止突起8aが深いカム溝221aを後退して図3Aの状態となり、図1に示したように、先端開口部3aに筆記先端5aが没入した状態となる。
【0026】
なお、本実施形態のボールペン1は、図1及び図2に示すように、軸筒本体2の側面に、軸筒本体2の内外を連通させる複数の孔部Kを有しており、軸筒4内と外部との空気が流通できるようにしてある。複数の孔部Kは、同一円周上に多数設けずに、軸筒本体2の外周面においても前後方向においてもまんべんなく設けてある。
筆記体5の前方部の外面には円環状の凹部50が設けられており、エラストマー製のOリング9Aを密嵌させている。これにより、軸筒本体2の内面とOリング9Aとが密着して前方気密部Z1が形成される。前方気密部Z1は、ボールペンレフィル5の移動に連動して軸筒4に対して前後動する。
軸筒本体2の後端部の内面には円環状の凹部20が設けられており、エラストマー製のOリング9Bを密嵌させている。これにより、固定カム7の外面とOリング9Bとが密着して後方気密部Z2が形成される。前方気密部Z2は、ボールペンレフィル5の移動に連動せずに特定位置で固定される。
したがって、前方気密部Z1と後方気密部Z2との間に形成される軸筒4と筆記体5及び固定カム7と回転カム8との隙間の容積は、ボールペンレフィル5及びOリング9Aの前進に伴って、図1の状態の隙間S1から図2の状態の隙間S2に増大し、結果、軸筒4内が負圧になる。
また、本実施形態のボールペン1では、軸筒本体2と先口3との螺合部に、Oリング9Cを挟み、軸筒4内の密閉度を高めている。さらに、軸筒本体2の内面にボールペンレフィル5の外面が近接するようにしてあり、軸筒4内に配置される固定カム7や回転カム8という部材の内方の隙間が小さくなるようにしてある。これにより、隙間S1から隙間S2への容積増大による負圧圧力が効率よく作用する。
【0027】
次に、軸筒の側面にシートを被覆する状態について説明する。図4は、本実施形態のボールペンであり、軸筒の側面にシートを被覆した状態の図である。
本実施形態のシート10は、柔軟なポリ塩化ビニリデン製の厚さ45μmのシートで形成しており、軸筒本体2の全長より若干短い長さで、軸筒本体2の外周長より若干短い長さの巾で長方形状に成形してある。シート10を軸筒4に被覆するには、図1の状態でシート10を軸筒本体2の外周に捲き、固定カム7のノック部7dを軸筒4の前方へ押動することにより、軸筒4内を負圧にして、孔部Kを介して軸筒本体2にシート10を吸着させる。
【0028】
本実施形態では、軸筒本体2の後端外面に突起2cを形成して、シート10の後端縁の位置決めとしてある。図1の状態でシート10を軸筒本体2の外周に捲いて、ノック部7dを軸筒4の前方へ押動する際には、軸筒4を把持した手により、シート10を軸筒4に対して相対的に後方へ移動させようとする力が働くが、突起2cによりシート10の移動を防止することができる。ノック部7dを軸筒4の前方へ押動する際における、シート10の後方への移動を防止するには、軸筒本体2の表面をエラストマーやゴムなどの摩擦力が高いもので形成し、軸筒に対してシートが滑り難い構造を採用することもできる。
【0029】
図4の状態から、再度、固定カム7のノック部7dを軸筒4の前方へ押動することにより、ボールペンレフィル5及びOリング9Aの後退に伴って、図4の状態の隙間S2から図1の状態の隙間S1に減少し、結果、軸筒4内が大気圧に戻り、シート10が自動で外れる。これにより、軸筒4を使用済みのシート10で被覆したままという状況はなく、使用者が次回使用するときや、別の人が使用するときには、新しい清潔なシートを使用することを意識することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…ボールペン、
2…軸筒本体、2a…カム溝、2b…係止部、2c…突起、
20…円環状の凹部、
22a…内面、221a…深いカム溝、222a…浅いカム溝、223a…係止斜面、
22c…後端開口部、
3…先口、3a…先端開口部、
4…軸筒、
5…ボールペンレフィル、5a…筆記先端、
50…円環状の凹部、
6…コイルスプリング、
7…固定カム、7a…噛合部、7b…摺動突起、7c…頂部、7d…ノック部(操作部)、
8…回転カム、8a…係止突起、8b…傾斜面、8c…被噛合部。
9A…Oリング、9B…Oリング、9C…Oリング、
K…複数の孔部、Z1…前方気密部、Z2…前方気密部、S1…隙間、S2…隙間。
図1
図2
図3
図4