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特開2022-157467糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157467
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/46 20060101AFI20221006BHJP
   C08G 65/28 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08G65/46
C08G65/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061712
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】大山 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克夫
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA04
4J005AA13
4J005BB00
4J005BC00
(57)【要約】
【課題】糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法において純度を向上する。
【解決手段】実施形態に係る糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法は、糖類とアルキレンオキシドとを反応させて得られた生成物と、飽和炭化水素とを混合する工程と、前記生成物と前記飽和炭化水素との混合物を静置し相分離させて飽和炭化水素相を除去する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類とアルキレンオキシドとを反応させて得られた生成物と、飽和炭化水素とを混合する工程を含む、糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項2】
前記生成物と前記飽和炭化水素との混合物を静置し相分離させて飽和炭化水素相を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項3】
前記混合する工程および前記除去する工程を5回以上繰り返す、請求項2に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項4】
前記生成物には糖類のアルキレンオキシド付加物とポリアルキレングリコールが含まれ、前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が100~2000である、請求項1~3のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項5】
前記生成物に対して質量比で0.6~4倍の前記飽和炭化水素を混合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項6】
前記糖類が、単糖および二糖からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項7】
前記糖類が、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノースおよびセロビオースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項8】
前記アルキレンオキシドが、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項9】
前記飽和炭化水素が、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショ糖などの糖類にアルキレンオキシドを付加した付加物は、界面活性剤をはじめとした様々な用途に用いられている。このような糖類のアルキレンオキシド付加物は、例えば反応触媒を用いて糖類にアルキレンオキシドを添加し付加反応させることにより合成することができる。
【0003】
特許文献1には、反応溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて、ショ糖にプロピレンオキシドを付加反応させることにより、ショ糖プロピレンオキシド付加物を合成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/101103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糖類にアルキレンオキシドを付加反応させると、糖類のアルキレンオキシド付加物とともに、副生物としてアルキレンオキシドのホモポリマー(ポリアルキレングリコール)が生成する。そのため、生成物からポリアルキレングリコールを除去して純度を向上することが望まれる。
【0006】
本発明の実施形態は、糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法において純度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 糖類とアルキレンオキシドとを反応させて得られた生成物と、飽和炭化水素とを混合する工程を含む、糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[2] 前記生成物と前記飽和炭化水素との混合物を静置し相分離させて飽和炭化水素相を除去する工程をさらに含む、[1]に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[3] 前記混合する工程および前記除去する工程を5回以上繰り返す、[2]に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[4] 前記生成物には糖類のアルキレンオキシド付加物とポリアルキレングリコールが含まれ、前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が100~2000である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[5] 前記生成物に対して質量比で0.6~4倍の前記飽和炭化水素を混合する、請求項[1]~[4]のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[6] 前記糖類が、単糖および二糖からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[7] 前記糖類が、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノースおよびセロビオースからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[8] 前記アルキレンオキシドが、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドを含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
[9] 前記飽和炭化水素が、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態であると、生成物に含まれるポリアルキレングリコールを糖類のアルキレンオキシド付加物から分離除去することができ、生成物の純度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例4~10の各混合比率での精製後ショ糖-50POの組成を示すグラフ
図2】実施例4~10の各混合比率での上相中に含まれるPPGの濃度を示すグラフ
図3】実施例11の精製回数ごとのショ糖-50POの組成変化を示すグラフ
図4】実施例12の精製回数ごとのショ糖-50POの組成変化を示すグラフ
図5】実施例13の精製回数ごとのショ糖-50POの組成変化を示すグラフ
図6】実施例14の精製回数ごとのショ糖-30POの組成変化を示すグラフ
図7】実施例15の精製回数ごとのショ糖-40POの組成変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係る糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法は、糖類とアルキレンオキシドとを反応させて得られた生成物と、飽和炭化水素とを混合する工程を含む。この工程は、精製工程であり、副生物であるポリアルキレングリコールを低減ないし除去することができる。すなわち、糖類にアルキレンオキシドを付加反応させて得られた生成物には、目的物である糖類アルキレンオキシド付加物(以下、糖類AO付加物ということがある。)とともに、副生物としてポリアルキレングリコールが含まれる。ポリアルキレングリコールは飽和炭化水素に溶解する一方、親水性部分を持つ糖類AO付加物は飽和炭化水素に溶解しにくいので、精製溶剤として飽和炭化水素を用いて上記生成物と混合することにより、ポリアルキレングリコールを糖類AO付加物から分離除去することができる。そのため、糖類AO付加物の純度を向上することができる。
【0011】
一実施形態に係る糖類AO付加物の製造方法は、以下の工程1~3を含み、工程2および3が精製工程である。
・工程1:糖類とアルキレンオキシドを反応させて生成物を得る。
・工程2:工程1で得られた生成物と飽和炭化水素を混合する。
・工程3:工程2で得られた混合物を静置し相分離させて飽和炭化水素相を除去する。
【0012】
糖類としては、単糖または二糖を用いることが好ましく、両者を併用してもよい。より詳細には、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等が挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
アルキレンオキシドとしては、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(1,2-ブチレンオキシド等)(BO)を用いることが好ましく、これらはそれぞれ単独で用いても併用してもよい。アルキレンオキシドとしては、POおよび/またはBOを主成分とすることが好ましいが、これらとともにエチレンオキシド(EO)等のその他のアルキレンオキシドを含んでもよい。アルキレンオキシドの全質量に基づく、POおよび/またはBOの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0014】
精製溶剤としての飽和炭化水素としては、鎖式飽和炭化水素(アルカン)でもよく、環式飽和炭化水素(シクロアルカン)でもよく、鎖式は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。これらの中でもポリアルキレングリコールに対する溶解性の観点から直鎖状アルカンを用いることが好ましい。
【0015】
飽和炭化水素の炭素数は、取り扱い性および収率等の観点から5~10であることが好ましく、より好ましくは6~8である。飽和炭化水素の好適な具体例としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等が挙げられ、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、またこれらはいずれか1種用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
工程1において、糖類とアルキレンオキシドとを反応させて生成物を得る方法としては、特に限定されず、公知の糖類AO付加物の合成方法を用いることができる。反応形式としては、アニオン重合、カチオン重合、配位アニオン重合等が挙げられる。
【0017】
糖類とアルキレンオキシドとの反応には反応触媒を用いてもよい。反応触媒としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化カリウム等)、アルカリ金属のアルコラート、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、3級アミン化合物、ルイス酸等が挙げられる。反応触媒の使用量は特に限定されず、糖類とアルキレンオキシドとの合計質量に対して、0.05~2質量%でもよく、0.1~1質量%でもよい。
【0018】
糖類とアルキレンオキシドとの反応には反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、ジメチルアミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、N-メチルピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、N,N-ジメチルピロールカルボン酸アミド等が挙げられる。
【0019】
糖類とアルキレンオキシドとの反応には耐圧性反応容器を用いることが好ましく、例えば、耐圧性反応容器に糖類と反応触媒を反応溶媒とともに仕込み、反応容器内を真空または窒素等の不活性気体の雰囲気とした後、アルキレンオキシドを反応系に導入することが好ましい。反応温度としては80~150℃が好ましい。反応圧力(ゲージ圧)としては0.8MPa以下が好ましい。反応溶媒を用いた場合、反応後に反応溶媒を除去することが好ましい。反応溶媒の除去は減圧留去や吸着除去等により行うことができる。
【0020】
糖類とアルキレンオキシドとの反応は、一段階で実施してもよく、二段階以上の複数段階で実施してもよい。例えば、糖類にアルキレンオキシドを反応させて糖類のアルキレンオキシド付加物を中間生成物として合成した後、得られた中間生成物にアルキレンオキシドを反応させてアルキレンオキシドの付加モル数を増加させた糖類AO付加物を合成してもよい。
【0021】
糖類とアルキレンオキシドを反応させる際のアルキレンオキシドの投入量は、特に限定されないが、糖類1モルに対して8~120モルであることが好ましく、より好ましくは10~100モルであり、さらに好ましくは20~80モルであり、25~75モルでもよい。反応により生成される糖類AO付加物におけるアルキレンオキシドの平均付加モル数も、特に限定されないが、4~90モルであることが好ましく、より好ましくは5~70モルであり、10~50モルでもよい。
【0022】
複数種類のアルキレンオキシドを用いる場合、アルキレンオキシドの付加形態は、ブロック状でもランダム状でもよく、ブロック状とランダム状を組み合わせてもよい。例えば、ランダム状に付加させる場合、複数種類のアルキレンオキシドを同時に投入すればよく、ブロック状に付加させる場合、ある種類のアルキレンオキシドを投入して反応させた後に、別の種類のアルキレンオキシドを投入して反応させればよい。
【0023】
このようにして工程1で得られる生成物には、糖類AO付加物とともに副生物としてのポリアルキレングリコールが含まれる。該生成物中における糖類AO付加物の含有率は、工程1の合成方法やアルキレンオキシドの投入モル数等により異なるため特に限定されないが、例えば30~99質量%でもよく、50~90質量%でもよく、60~85質量%でもよい。該生成物中におけるポリアルキレングリコールの含有率も特に限定されず、例えば1~70質量%でもよく、10~50質量%でもよく、15~40質量%でもよい。
【0024】
上記ポリアルキレングリコールとしては、工程1において投入されるアルキレンオキシドの種類に応じて、例えば、POを投入した場合はポリプロピレングリコール(PPG)であり、BOを投入した場合はポリブチレングリコールであり、POとBOを投入した場合はPOとBOの共重合体であり、POおよび/またはBOとともにEOを投入した場合はこれらの共重合体である。投入するアルキレンオキシドにおいて述べたように、ポリアルキレングリコールを構成するアルキレンオキシドは、POおよび/またはBOを主成分とすることが好ましく、ポリアルキレングリコール全体に占めるPOおよび/またはBOの含有量は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0025】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、飽和炭化水素による除去効率の観点から100以上であることが好ましい。すなわち、Mwが100以上であることにより、ポリアルキレングリコールの疎水性が大きくなり飽和炭化水素に対する溶解性が向上する。一方、糖類AO付加物の合成において、糖類1モルに対するアルキレンオキシドの投入量を120モル以下とすると、副生するポリアルキレングリコールのMwは通常2000以下になる。そのため、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は100~2000であることが好ましく、150~1300であることがより好ましく、200~1000でもよく、200~700でもよい。
【0026】
工程2では、上記で得られた生成物と飽和炭化水素とを混合する。生成物と飽和炭化水素との混合比率は、特に限定されず、例えば、生成物/飽和炭化水素(質量比)で5/1~1/50でもよく、3/1~1/32でもよく、2/1~1/10でもよい。飽和炭化水素の比率が大きいほど、生成物に含まれる糖類AO付加物の純度を高くすることができるが、飽和炭化水素相への糖類AO付加物の溶出量が増加し収量が低下する傾向がある。飽和炭化水素に取り込まれるポリアルキレングリコールの濃度を高くすることができるという観点から、生成物/飽和炭化水素(質量比)は、5/3~1/4であること、すなわち、生成物に対して質量比で0.6~4倍の飽和炭化水素を混合することが好ましい。生成物/飽和炭化水素(質量比)は、より好ましくは1/1~1/2である。
【0027】
生成物と飽和炭化水素との混合方法は、両者を乳化状態にすることができれば、特に限定されず、例えば、容器中に生成物と飽和炭化水素を投入し、攪拌機を用いて攪拌混合してもよい。混合温度および混合時間は、両者を乳化状態にすることができれば、特に限定されず、例えば混合温度を10~40℃としてもよい。
【0028】
工程3では、上記で得られた生成物と飽和炭化水素との混合物を静置し相分離させる。すなわち、混合物の乳化状態を解消させて、糖類AO付加物が含まれる生成物相と飽和炭化水素相との2相に分離させる。静置する際には、相分離を促進するために混合物を加熱してもよい。加熱時の温度は、混合温度よりも高ければ特に限定されず、例えば40~70℃でもよい。
【0029】
上記相分離により、通常は、飽和炭化水素相が上相、生成物相が下相に分かれるので、例えば下相を容器の底部から抜くか、または上相を容器の上部から取り出すことにより、飽和炭化水素相を除去することができる。その後、得られた生成物相から残存する飽和炭化水素を除去するために、エバポレータ等を用いて減圧留去してもよい。
【0030】
一実施形態に係る糖類AO付加物の製造方法において、上記の工程2および工程3の精製工程は複数回繰り返して実施されることが好ましい。上記のように生成物と混合する飽和炭化水素の比率が大きいほど、糖類AO付加物の純度が高くなる一方、糖類AO付加物の収量が低下する。そのため、純度と収量を両立するためには、1回の精製で使用する飽和炭化水素の量を増やすよりも、複数回精製した方が有利である。工程2および工程3を繰り返す回数は、要求される純度に応じて設定することができ、5回以上であることが好ましく、5回以上10回以下でもよい。
【0031】
工程2および工程3を複数回繰り返す場合、工程3で飽和炭化水素相を除去した後の生成物相にそのまま新しい飽和炭化水素を加えて工程2の混合工程に進んでもよい。そして、工程2および工程3を所定回数繰り返した後の最終の工程3の終了後に、得られた生成物相から残存する飽和炭化水素を除去するために、エバポレータ等を用いて減圧留去してもよい。
【0032】
本実施形態の製造方法により得られる糖類AO付加物の純度(即ち、精製後の最終生成物中に含まれる糖類AO付加物の質量比率)は、特に限定されず、例えば85質量%以上でもよく、90質量%以上でもよく、95質量%以上でもよく、98質量%以上でもよく、100質量%でもよい。また、ポリアルキレングリコールの残存率(即ち、精製後の最終生成物中に含まれるポリアルキレングリコールの質量比率)は、特に限定されず、例えば15質量%以下でもよく、10質量%以下でもよく、5質量%以下でもよく、2質量%以下でもよく、0質量%でもよい。
【0033】
本実施形態に係る製造方法により得られる糖類AO付加物の用途は、特に限定されず、例えば界面活性剤など、様々な用途に用いることができる。
【0034】
なお、上述した重量平均分子量や混合比率をはじめとする種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。
【実施例0035】
以下、実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例において、「ショ糖-nPO」の表記は、ショ糖1モルに対してnモルのプロピレンオキシドを投入することにより得られた生成物を表す。「グルコース-nPO」の表記は、グルコース1モルに対してnモルのプロピレンオキシドを投入することにより得られた生成物を表す。
【0037】
<測定・評価方法>
[GPC分析(Mw及びMnの測定)]
GPC(GelPermeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)分析には、装置検出器として、赤外検出器(島津製作所製「RID-10A」)、ポンプ(島津製作所製「LC-10AD型」)、カラム(昭和電工製「Shodex+ガードカラム」)、インテグレーター(島津製作所製「CBM-20A型」)を用いた。測定サンプル0.03gを移動相溶媒(THF)6gで溶解し、フィルター濾過後、10μL注入して、分析を行った。分析条件は、流速[mL/分]=0.8、測定圧力[kg/cm]=50~60、測定時間[分]=60とし、標準物質としては分子量既知のポリエチレングリコールを用いて、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを測定した。
【0038】
[平均付加モル数]
上記GPC分析にて得られた重量平均分子量Mwより糖類の分子量(ショ糖:342.3、グルコース:180.2)を引いた値から、付加したアルキレンオキシド種(EO:44.1、PO:58.1、BO:72.1)の分子量で除した数値を平均付加モル数として算出した。二種以上のアルキレンオキシドを用いた場合は、上記GPC分析にて得られた重量平均分子量Mwより、糖類の分子量を引いた値から、付加したアルキレンオキシド種の分子量に導入したモル比を掛けた値(例:EO/PO=20/30の場合:44.1×0.4+58.1×0.6=52.4)で除した数値を平均付加モル数として算出した。
【0039】
[合成例1:ショ糖-8POの合成]
ショ糖42.41質量部、純水9.47質量部、およびトリエチルアミン(TEA)0.75質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPa(ゲージ圧。以下同じ)まで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、-0.10MPaまで減圧し、105±5℃まで昇温し、150~200rpmで攪拌した。昇温後、耐圧釜よりプロピレンオキシド57.59質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-8PO水溶液)を抜き取った。
【0040】
[合成例2:ショ糖-50POの合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)27.59質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド75.15質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-50PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0041】
[合成例3:ショ糖-30POの合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)42.37質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド61.30質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-30PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0042】
[合成例4:ショ糖-40POの合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)33.14質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド69.73質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-40PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0043】
[合成例5:ショ糖-100POの合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)14.36質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド86.88質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-100PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0044】
[合成例6:ショ糖-20POの合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)58.73質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド46.35質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-20PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0045】
[合成例7:グルコース-50POの合成]
グルコース34.08質量部、純水7.61質量部、およびトリエチルアミン(TEA)0.75質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPa(ゲージ圧。以下同じ)まで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、-0.10MPaまで減圧し、105±5℃まで昇温し、150~200rpmで攪拌した。昇温後、耐圧釜よりプロピレンオキシド65.92質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(グルコース-6PO水溶液)を抜き取った。抜き取ったグルコース-6PO水溶液(溶質濃度:91.4質量%)18.76質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド82.86質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(グルコース-50PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0046】
[合成例8:ショ糖-(35PO/15EO)(ランダム)の合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)29.09質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、予め耐圧釜内で混合したプロピレンオキシド51.65質量部、エチレンオキシド21.78質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド、エチレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-(35PO/15EO))を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0047】
[合成例9:ショ糖-35PO-15EO(ブロック)の合成]
合成例1で得られたショ糖-8PO水溶液(溶質濃度:90質量%)29.09質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりプロピレンオキシド51.65質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。続いて、耐圧釜よりエチレンオキシド21.78質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。エチレンオキシド投入後、30分間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-35PO-15EO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0048】
[合成例10:ショ糖-8EOの合成]
ショ糖49.24質量部、純水10.99質量部、およびトリエチルアミン(TEA)0.75質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPa(ゲージ圧。以下同じ)まで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、-0.10MPaまで減圧し、105±5℃まで昇温し、150~200rpmで攪拌した。昇温後、耐圧釜よりエチレンオキシド50.76質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。エチレンオキシド投入後、1時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-8EO水溶液)を抜き取った。
【0049】
[合成例11:ショ糖-15EO-35PO(ブロック)の合成]
合成例10で得られたショ糖-8EO水溶液(溶質濃度:89質量%)25.05質量部、および48質量%KOH水溶液0.42質量部をオートクレーブに仕込み、室温下で攪拌した。オートクレーブ内を窒素置換し、室温にて-0.10MPaまで減圧後、常圧まで窒素で置換する作業を3回行った。その後、105±5℃まで昇温し、10mmHg以下で30分間脱水を行い、アルコラート化を行った。脱水後、耐圧釜よりエチレンオキシド10.16質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。エチレンオキシド投入後、30分間熟成した。続いて、耐圧釜よりプロピレンオキシド66.95質量部をオートクレーブ内に投入した(上限圧力は0.20MPa)。プロピレンオキシド投入後、2時間熟成した。その後、冷却し、オートクレーブから生成物(ショ糖-15EO-35PO)を抜き取った後、酢酸0.20質量部を添加、生成物のpHを6~7とした。
【0050】
[試験例1:精製溶剤の検討]
バイアル管に合成例2で得られたショ糖-50POを2g、精製溶剤を5g取り、混和した。混和後、常温で静置して乳化が解消されるか否かを確認し、解消されなければ50℃に加熱して乳化が解消されるか否かを目視で確認した。その後、乳化が解消した精製溶剤について、別のバイアル管にポリプロピレングリコール(PPG)(AGC株式会社製、商品名エクセノール420)2gと精製溶剤5gを取って混和し、PPGの溶解を目視で確認した。精製溶剤としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジエチルエーテルを用いた。
【0051】
その結果、n-ヘキサンでは、ショ糖-50POとの混和後すぐに乳化が解消し2相に分離した。またPPGは溶解可能であった。シクロヘキサンでは、ショ糖-50POとの混和後、乳化の解消までに時間を要したが、相分離は可能であった。またPPGは溶解可能であった。一方、トルエンとジエチルエーテルではショ糖-50POが常温で完全に溶解し、乳化を解消することはできなかった。以上より、炭素数が同じであるが、直鎖の飽和炭化水素の方が、環式飽和炭化水素よりもショ糖-50POとの親和性が低く、精製溶剤としてより優れていると考えられる。一方、芳香族であるトルエンは精製溶剤として用いることはできず、またジエチルエーテルはn-ヘキサンとSP値が同等であるにも拘わらず、精製溶剤として用いることはできないことが分かった。
【0052】
[実施例1~3]
合成例2に従い合成したショ糖-50POについて、精製溶剤として実施例1ではn-ヘプタン、実施例2ではn-ヘキサン、実施例3ではシクロヘキサンをそれぞれ用いて精製を行った。精製前のショ糖-50POについてGPC分析したところ、目的物であるショ糖プロピレンオキシド付加物(以下、ショ糖PO付加物という。)の含有率(即ち、純度)、PPGの含有率、Mw、Mn、POの平均付加モル数は下記表1のとおりであった。実施例1のショ糖-50POと実施例2,3のショ糖-50POは別ロットである。
【0053】
【表1】
【0054】
精製手法は以下のとおりである。
(1)ショ糖-50POを80g、精製溶剤200gをセパラブルフラスコに入れ、室温で10分間攪拌した。
(2)攪拌後、湯浴で50℃に加熱しながら10分間静置し、乳化の解消を確認した。10分間の静置で乳化が解消しない場合は乳化が解消するまで更に静置した。
(3)乳化が解消されたら加熱をやめ、下相(目的物)を取り出し、別のセパラブルフラスコに移した。
(4)上記1~3の操作を10回繰り返した。この際、上相(精製溶剤)は濃縮して残渣を回収した。
(5)残った下相をナスフラスコに移し、エバポレータで濃縮した(脱溶剤条件:110±5℃、10mmHg以下、30分)。
【0055】
精製後のショ糖-50POと、精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、目的物であるショ糖PO付加物の含有量、PPGの含有量、純度、目的物ロス率を測定した。結果を下記表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、精製溶剤としてヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンを用いた場合、いずれも精製後の最終生成物の純度が100質量%となった。いずれの精製溶剤についても目的物であるショ糖PO付加物が精製溶剤に溶解していたが、シクロヘキサンよりもヘキサン、ヘキサンよりもヘプタンの方が目的物のロスが少なく、収率の低下が抑えられていた。また、鎖式飽和炭化水素であるヘキサン、ヘプタンと比較して、環式飽和炭化水素であるシクロヘキサンは、乳化の解消に時間を要したため、ショ糖PO付加物との親和性が高いと考えられ、よって、ヘキサン、ヘプタンの方が精製溶剤として好適であった。
【0058】
[実施例4~10]
合成例2に従い合成したショ糖-50PO(実施例2で用いた精製前ショ糖-50POと同じロット)について、精製溶剤としてn-ヘプタンを用いて、下記手順により精製を行った。
(1)50gのショ糖-50POに対して、質量比でショ糖-50PO:ヘプタン=2:1、1:1、1:2、1:4、1:8、1:16、1:32となるように混合比率を変えてヘプタンを添加し、セパラブルフラスコ内で、室温下430rpmで10分間攪拌した。
(2)撹拌後、湯浴で50℃に加熱しながら10分間静置し、乳化の解消を確認した。
(3)乳化が解消されたら加熱をやめ、下相(目的物)を取り出して、エバポレータで脱溶剤し、残渣の質量を測定するとともに、残渣をGPC分析した。
(4)上相(精製溶剤)についても同様に、エバポレータで脱溶剤し、残渣の質量を測定するとともに、残渣をGPC分析した。
【0059】
各混合比率について、精製後のショ糖-50POにおける目的物(ショ糖PO付加物)の純度、PPG残存率、上相中に含まれるPPGの濃度、目的物ロス率を測定した。結果を下記表3に示す。PPG残存率とは、精製前のショ糖-50PO中に含まれるPPG量に対する精製後のショ糖-50PO中に含まれるPPG量の比率である。また、各混合比率について、精製前および精製後のショ糖-50POにおける組成を図1に示す。さらに、各混合比率と上相中に含まれるPPGの濃度との関係を図2に示す。
【0060】
表3および図1に示すように、精製溶剤の比率を大きくすると、目的物の純度が向上したが、それに伴い目的物の精製溶剤への溶出量が増えていた。一方、図2に示すように、1回の精製で精製溶剤中に取り込まれるPPGの割合は、ショ糖-50POに対して0.6~4倍量程度、より好ましくは1~2倍量程度の混合比率としたときに高くなっていた。そのため、1回の精製で使用する精製溶剤量を多くするよりも、ショ糖-50PO:ヘプタン=5/3~1/4程度の混合比率で複数回精製した方が、収量の低下を抑えながら純度を向上できることが示唆された。
【0061】
【表3】
【0062】
[実施例11~13]
合成例2に従い合成したショ糖-50POについて、精製溶剤としてn-ヘプタンを用いて、下記手順により精製を行った。
(1)100gのショ糖-50PO(但し、実施例13では50gとした。)に対して、質量比でショ糖-50PO:ヘプタン=1:1.5、1:2、1:4となるように混合比率を変えてヘプタンを添加し、セパラブルフラスコ内で、室温下430rpmで10分間攪拌した。
(2)撹拌後、湯浴で50℃に加熱しながら10分間静置し、乳化の解消を確認した。
(3)乳化が解消されたら加熱をやめ、下相(目的物)を取り出し、別のセパラブルフラスコに移した。
(4)それぞれの混合比率で、ヘプタンの総使用量がショ糖-50POに対して最大9倍量(質量比)となる精製回数まで、上記1~3の操作を繰り返した。すなわち、精製回数は、混合比1:1.5では6回、1:2では4回、1:4では2回とした。その際、上相(精製溶剤)はその都度回収した。
(5)精製後の各ショ糖-50POおよび精製溶剤をそれぞれエバポレータで脱溶剤し、質量を測定した。
(6)脱溶剤後のショ糖-50POおよび精製溶剤の濃縮残渣についてGPC分析した。
【0063】
精製後のショ糖-50POにおけるショ糖PO付加物およびPPGの含有量、純度、精製溶剤濃縮残渣におけるショ糖PO付加物およびPPGの含有量、純度、ならびに目的物ロス率の各結果を下記表4に示す。また、精製回数ごとにショ糖-50POの組成変化を分析し、その結果を図3~5に示した。
【0064】
表4および図3~5に示されるように、精製回数が多いほど目的物であるショ糖PO付加物の溶出量は多くなる傾向にあるが、精製回数が多いほど純度は向上していた。精製溶剤の比率を小さくし、複数回精製する方がPPGの除去効率は高くなる結果となった。
【表4】
【0065】
[実施例14,15]
実施例14では合成例3に従い合成したショ糖-30POを用い、実施例15では合成例4に従い合成したショ糖-40POを用いて、実施例1と同様の方法により精製を行った。但し、精製溶媒との混合比率は、ショ糖-30PO:n-ヘプタンおよびショ糖-40PO:n-ヘプタンともに1:2(質量比)とした。
【0066】
精製前のショ糖-30POおよびショ糖-40POについてそれぞれGPC分析したところ、目的物であるショ糖PO付加物の含有率(純度)、PPGの含有率、Mw、Mn、POの平均付加モル数は下記表5のとおりであった。
【0067】
【表5】
【0068】
実施例14において、精製後のショ糖-30POと、精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、精製後のショ糖-30POにおけるショ糖PO付加物およびPPGの含有量、純度、精製溶剤濃縮残渣におけるショ糖PO付加物およびPPGの含有量、純度、ならびに目的物ロス率を測定した。また、実施例15において、精製後のショ糖-40POと、精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、精製後のショ糖-40POにおけるショ糖PO付加物およびPPGの含有量、純度、精製溶剤濃縮残渣におけるショ糖PO付加物およびPPGの含有量、純度、ならびに目的物ロス率を測定した。各結果を下記表6に示す。
【0069】
実施例14において、精製回数ごとにショ糖-30POの組成変化を分析し、その結果を図6に示した。また、実施例15において、精製回数ごとにショ糖-40POの組成変化を分析し、その結果を図7に示した。
【0070】
表6および図6,7に示すように、ショ糖-30POおよびショ糖-40POでも、ショ糖-50POと同様に、複数回の精製により純度100%の目的物を得ることができた。図6図7との対比より、実施例14のショ糖-30POよりも実施例15のショ糖-40POの方が少ない精製回数でPPGを除去できていた。
【0071】
【表6】
【0072】
[実施例16~19]
実施例16,18では合成例5に従い合成したショ糖-100POについて、実施例17,19では合成例6に従い合成したショ糖-20POについて、精製溶剤としてn-ヘプタンとn-ヘキサンを用いて、精製を行った。精製前のショ糖-100POおよびショ糖-20POについてそれぞれGPC分析したところ、目的物であるショ糖PO付加物の含有率(純度)、PPGの含有率、Mw、Mn、POの平均付加モル数は下記表7のとおりであった。
【0073】
【表7】
【0074】
精製手法は以下のとおりである。
(1)ショ糖-100POまたはショ糖-20POを50g、精製溶剤125.0gをセパラブルフラスコ(分液用)に取り、60℃で10分間攪拌した。
(2)攪拌後、60℃の湯浴で加熱し、乳化の解消を待った。
(3)乳化が解消されたら下相(ショ糖-100PO、ショ糖-20PO)を取り出し、エバポレータで溶け込んだ精製溶剤を除去した。
(4)残った上相(精製溶剤)を取り出し、エバポレータで精製溶剤を除去し、濃縮残渣を取り出した。
【0075】
実施例16,18において、精製後のショ糖-100POと、精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、精製後のショ糖-100POにおけるショ糖PO付加物の含有率(純度)およびPPGの含有率、精製溶剤濃縮残渣におけるショ糖PO付加物の含有率およびPPGの含有率を測定した。また、実施例17,19において、精製後のショ糖-20POと、精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、精製後のショ糖-20POにおけるショ糖PO付加物の含有率(純度)およびPPGの含有率、精製溶剤濃縮残渣におけるショ糖PO付加物の含有率およびPPGの含有率を測定した。各結果を下記表8に示す。
【0076】
表8に示すように、ショ糖-100POおよびショ糖-20POについてもヘプタン、ヘキサンで目的物の純度を向上できることがわかった。ショ糖-100POについては、ショ糖-50POよりも疎水性が高いことからヘプタンやヘキサンとの親和性が高くなっており、目的物がヘプタンやヘキサンに流出した量が多い傾向にあった。ショ糖-20POについては、ヘプタンやヘキサンに流出する量は少ないものの、精製効率としてはショ糖-50POよりも低い傾向にあった。
【0077】
【表8】
【0078】
[実施例20,21]
合成例7に従い合成したグルコース-50POについて、精製溶剤としてn-ヘプタンとn-ヘキサンを用いて、精製を行った。精製前のグルコース-50POについてGPC分析したところ、目的物であるグルコースプロピレンオキシド付加物(以下、グルコースPO付加物という。)の含有率(純度)、PPGの含有率、Mw、Mn、POの平均付加モル数は下記表9のとおりであった。
【0079】
【表9】
【0080】
精製手法は以下のとおりである。
(1)グルコース-50PO付加物を50.0g、洗浄溶剤125.0gをセパラブルフラスコ(分液用)に取り、60℃で10分間攪拌した。
(2)攪拌後、60℃の湯浴で加熱し、乳化の解消を待った。
(3)乳化が解消されたら下相(グルコース-50PO)を取り出し、エバポレータで溶け込んだ精製溶剤を除去した。
(4)残った上相(精製溶剤)を取り出し、エバポレータで精製溶剤を除去し、濃縮残渣を取り出した。
【0081】
精製後のグルコース-50POと、精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、精製後のグルコース-50POにおけるグルコースPO付加物の含有率(純度)およびPPGの含有率、精製溶剤濃縮残渣におけるグルコースPO付加物の含有率およびPPGの含有率を測定した。結果を下記表10に示す。
【0082】
表10に示すように、単糖のPO付加物であるグルコース-50POについても、二糖のPO付加物であるショ糖-50POと同様に、ヘプタン、ヘキサンで目的物の純度を向上できることがわかった。
【0083】
【表10】
【0084】
[実施例22~24]
実施例22では合成例8に従い合成したショ糖-(35PO/15EO)(ランダム)を用い、実施例23では合成例9に従い合成したショ糖-35PO-15EO(ブロック)を用い、実施例24では合成例11に従い合成したショ糖-15EO-35PO(ブロック)を用いて、実施例1と同様の方法により精製を行った。精製前のショ糖-(35PO/15EO)、ショ糖-35PO-15EOおよびショ糖-15EO-35POについてそれぞれGPC分析したところ、目的物であるショ糖AO付加物の含有率(純度)、PAG(ポリアルキレングリコール)の含有率、Mw、Mn、AO平均付加モル数は下記表11のとおりであった。
【0085】
【表11】
【0086】
実施例22~24において、精製後のショ糖-(35PO/15EO)、ショ糖-35PO-15EOおよびショ糖-15EO-35POと、各精製溶剤濃縮残渣をGPC分析して、ショ糖AO付加物の含有率(純度)およびPAGの含有率を測定した。結果を下記表12に示す。
【0087】
表12に示すように、ショ糖-(35PO/15EO)、ショ糖-35PO-15EOおよびショ糖-15EO-35POについても、ヘプタンで目的物の純度を向上できることがわかった。
【0088】
【表12】
【0089】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7