(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157488
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ワーク加工用シート、ワーク加工用シートの製造方法、及び、ワーク加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20221006BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20221006BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221006BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J11/06
C09J133/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061743
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】山口 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 周平
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
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(57)【要約】
【課題】粘着剤層を形成するための粘着剤組成物が適正なポットライフを有し、かつ、ウエハへの汚染性の少ないワーク加工用シート、及び、前記ワーク加工用シートの製造方法、並びに、ワーク加工物の製造方法を提供する。
【解決手段】
基材フィルム(11)上に設けられた粘着剤層(12)を備えるワーク加工用シート(101)であって、粘着剤層(12)は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた粘着剤層と、を備え、
前記粘着剤層は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものである、ワーク加工用シート。
【請求項2】
前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層の、前記基材フィルム側とは反対側の面を、シリコンウエハの一方の面に貼付することにより、前記ワーク加工用シートと前記シリコンウエハとの積層物を作製し、
前記積層物を、その作製直後から、常温常圧下で24時間静置保管し、
前記静置保管後の前記積層物の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、エネルギー線の照度を230mW/cm2とし、光量を190mJ/cm2として、前記エネルギー線を照射して、前記粘着剤層を硬化させ、
前記粘着剤層の硬化物を前記基材フィルムとともに、前記シリコンウエハから剥離させ、前記硬化物を剥離後の前記シリコンウエハの一方の面の全面に付着しているパーティクルの数を測定したとき、
前記パーティクルの数が1000個以下となる、請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワーク加工用シートの製造方法であって、
前記触媒の存在下で、水酸基を有するアクリル樹脂と、イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物と、を反応させて、前記イソシアネート基と、一部の前記水酸基と、からウレタン結合を形成することにより、前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を作製し、
前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、前記架橋剤と、を配合することにより、前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を調製し、
前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて、前記基材フィルム上に前記粘着剤層を設けることにより、前記ワーク加工用シートを作製する、ワーク加工用シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のワーク加工用シートを用いたワーク加工物の製造方法であって、
前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層の前記基材フィルム側とは反対側の面を、ワークの一方の面に貼付することにより、前記ワーク加工用シートと前記ワークとの積層物を作製する工程と、
前記積層物中の前記ワークを加工することにより、前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層によって、前記ワーク加工物が保持されて構成されているワーク加工物複合体を作製する工程と、
前記ワーク加工物複合体の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、エネルギー線を照射して、前記粘着剤層を硬化させる工程と、
前記粘着剤層の硬化物から、前記ワーク加工物を引き離してピックアップする工程と、を有する、ワーク加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク加工用シート、ワーク加工用シートの製造方法、及び、ワーク加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワーク加工用シートとしてのダイシングシートは、基材フィルム上に粘着剤層を備えて構成され、前記粘着剤層により半導体ウエハ等のワークに貼付し、この状態でダイシングを行うのに使用される。ダイシング後は、必要により、紫外線等のエネルギー線の照射による硬化で前記粘着剤層の粘着力を低下させ、半導体チップ等のワーク加工物をピックアップする。ダイシングシートとしては、その目的によって種々の構成のものがこれまでに提案されている。
【0003】
ダイシングシートの粘着剤層には、通常、エネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂が用いられており、粘着剤層に対して紫外線(UV)等のエネルギー線を照射することで被着体との粘着力が低下して、ワーク加工物をピックアップし易くしている。
【0004】
例えば、特許文献1には、塩化ビニルフィルム上に紫外線硬化型粘着剤層を有する半導体加工用粘着テープが開示されている。この半導体加工用粘着テープは、ダイシング工程でのチップ飛び及びチッピングを抑制でき、ピックアップ工程においても糊残りのない程度に粘着力が減少することで容易に剥離できる半導体加工用粘着テープで、且つ、前記ピックアップ工程終了後、半導体加工用粘着テープを重ね合わせ後、別途、容易に剥がすことができるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、前記基材上に形成された粘着剤層を有するダイシングフィルムであって、前記粘着剤層は、アクリル系粘着材料と、光硬化性樹脂とを含むことが開示されている。このダイシングフィルムは、粘着剤層と基材との密着性が良好であり、半導体チップ等を容易にピックアップでき、且つピックアップ時に、粘着剤層が基材から剥がれて半導体チップの裏面に粘着剤層が付着することを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-137376号公報
【特許文献2】特開2014-127609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記粘着剤層を形成するための粘着剤組成物が適正なポットライフを確保できないことがある。また、半導体チップ等のワーク加工物に対して、目視で見えないサイズの粘着剤層の残渣物、すなわち、パーティクルが懸念されることがある。
【0008】
そこで本発明は、前記粘着剤層を形成するための粘着剤組成物が適正なポットライフを有し、かつ、ウエハへの汚染性の少ないワーク加工用シート、及び、前記ワーク加工用シートの製造方法、並びに、ワーク加工物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた粘着剤層と、を備え、
前記粘着剤層は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものである、ワーク加工用シート。
[2]前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層の、前記基材フィルム側とは反対側の面を、シリコンウエハの一方の面に貼付することにより、前記ワーク加工用シートと前記シリコンウエハとの積層物を作製し、
前記積層物を、その作製直後から、常温常圧下で24時間静置保管し、
前記静置保管後の前記積層物の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、エネルギー線の照度を230mW/cm2とし、光量を190mJ/cm2として、前記エネルギー線を照射して、前記粘着剤層を硬化させ、
前記粘着剤層の硬化物を前記基材フィルムとともに、前記シリコンウエハから剥離させ、前記硬化物を剥離後の前記シリコンウエハの一方の面の全面に付着しているパーティクルの数を測定したとき、
前記パーティクルの数が1000個以下となる、前記[1]に記載のワーク加工用シート。
[3]前記[1]又は[2]に記載のワーク加工用シートの製造方法であって、
前記触媒の存在下で、水酸基を有するアクリル樹脂と、イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物と、を反応させて、前記イソシアネート基と、一部の前記水酸基と、からウレタン結合を形成することにより、前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を作製し、
前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、前記架橋剤と、を配合することにより、前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を調製し、
前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて、前記基材フィルム上に前記粘着剤層を設けることにより、前記ワーク加工用シートを作製する、ワーク加工用シートの製造方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載のワーク加工用シートを用いたワーク加工物の製造方法であって、
前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層の前記基材フィルム側とは反対側の面を、ワークの一方の面に貼付することにより、前記ワーク加工用シートと前記ワークとの積層物を作製する工程と、
前記積層物中の前記ワークを加工することにより、前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層によって、前記ワーク加工物が保持されて構成されているワーク加工物複合体を作製する工程と、
前記ワーク加工物複合体の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、エネルギー線を照射して、前記粘着剤層を硬化させる工程と、
前記粘着剤層の硬化物から、前記ワーク加工物を引き離してピックアップする工程と、を有する、ワーク加工物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物が適正なポットライフを有し、かつ、ウエハへの汚染性の少ないワーク加工用シート、及び、前記ワーク加工用シートの製造方法、並びに、ワーク加工物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のワーク加工用シートの一の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明のワーク加工用シートの他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明のワーク加工物の製造方法の一の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<ワーク加工用シート>>
【0013】
本発明のワーク加工用シートについて、図面を引用しながら説明する。なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明のワーク加工用シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
ここに示すワーク加工用シート101は、基材フィルム11と、基材フィルム11上に設けられた粘着剤層12と、を備える。
【0015】
ワーク加工用シート101においては、基材フィルム11の一方の表面(以下、「第1面」と称することがある)11aに粘着剤層12が積層されている。
【0016】
図1に示すワーク加工用シート101は、粘着剤層12の、基材フィルム11とは反対側の第1面12aが、半導体ウエハ等のワーク(図示略)の回路が形成されている面とは反対側の面に貼付されて、使用される。
【0017】
ここで、「ワーク」とは。ウエハ又は半導体装置パネルを云う。
「ウエハ」としては、シリコン、ゲルマニウム、セレン等の元素半導体や、GaAs、GaP、InP、CdTe、ZnSe、SiC等の化合物半導体、で構成される半導体ウエハ;サファイア、ガラス等の絶縁体で構成される絶縁体ウエハが挙げられる。
「半導体装置パネル」とは、一個又は二個以上の電子部品が封止樹脂層で封止された二個以上の半導体装置が、平面的に並んで配置された集合体を云う。
これらワークの一方の面上には、回路が形成されており、本明細書においては、このように回路が形成されている側のワークの面を「回路面」と称する。そして、ワークの回路面とは反対側の面を「裏面」と称する。
ワークは、ダイシング等の手段により分割され、ワーク加工物となる。本明細書においては、ワークの場合と同様に、回路が形成されている側のワーク加工物の面を「回路面」と称し、ワーク加工物の回路面とは反対側の面を「裏面」と称する。
ワークの回路面とワーク加工物の回路面には、いずれもバンプ、ピラー等の突状電極が設けられている。突状電極は、はんだで構成されていることが好ましい。
【0018】
ワーク加工用シート101において、前記粘着剤層は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものである。
【0019】
ワーク加工用シート101を用いて半導体チップ等のワーク加工物を製造する際には、ワーク加工用シート101において、前記粘着剤層が、前記触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものであるので、前記粘着剤層を形成する際には、粘着剤組成物のポットライフを良好なものとすることができる。
【0020】
前記触媒は、いずれも、金属錯体又は金属石鹸であり、静電気を帯びさせない性質を有するとともに、それ自体が残渣物(すなわち、パーティクル)になる性質のものではないので、ワーク加工物への汚染(すなわち、パーティクルの数)を抑えることができると推察される。
【0021】
本発明のワーク加工用シートは、下記[ウエハ汚染性の評価]の条件で測定されるパーティクルの数が1000個以下となることが好ましく、800個以下となることがより好ましく、600個以下となることがさらに好ましく、350個以下となることが特に好ましい。
【0022】
[ウエハ汚染性の評価]
前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層の、前記基材フィルム側とは反対側の面を、シリコンウエハの一方の面に貼付することにより、前記ワーク加工用シートと前記シリコンウエハとの積層物を作製する。
前記積層物を、その作製直後から、常温常圧下で24時間静置保管する。
前記静置保管後の前記積層物の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、エネルギー線の照度を230mW/cm2とし、光量を190mJ/cm2として、前記エネルギー線を照射して、前記粘着剤層を硬化させる。
前記粘着剤層の硬化物を前記基材フィルムとともに、前記シリコンウエハから剥離させ、前記硬化物を剥離後の前記シリコンウエハの一方の面の全面に付着しているパーティクルの数を測定する。
【0023】
前記エネルギー線の照射として、市販の紫外線照射装置を用いることができる。市販の紫外線照射装置として、例えば、リンテック社製、RAD2000が挙げられる。
パーティクルの数の測定は、市販のウエハ表面検査装置を用いることができる。市販のウエハ表面検査装置として、例えば、トプコン社製、WM-7Sが挙げられる。
【0024】
さらに、前記触媒は、水酸基含有化合物の水酸基と、イソシアネート基含有化合物のイソシアネート基と、が反応して、ウレタン結合を形成する際に、反応速度を促進させる。
したがって、前記触媒は、水酸基含有共重合体の水酸基に、イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物のイソシアネート基を反応させてウレタン結合を形成し、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を合成する際の反応速度を促進するとともに、前記触媒は、エネルギー線硬化性粘着剤組成物において、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂の水酸基に、イソシアネート基を有する架橋剤と反応して、ウレタン結合を形成する際の反応速度を促進する。
【0025】
ただし、前記触媒の室温における反応速度を促進させる効果は穏やかである。したがって、エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて前記粘着剤層を形成する際において、前記触媒を選択することで、前記アクリル樹脂の水酸基と、前記架橋剤との反応を穏やかに進めさせることができ、エネルギー線硬化性粘着剤組成物のポットライフを良好なものとすることができる。
【0026】
ワーク加工用シート101を粘着剤層12側の上方から見下ろして平面視したときに、粘着剤層12は、例えば、円形状等の形状を有する。
【0027】
本発明のワーク加工用シートは、
図1に示すワーク加工用シート101に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、
図1に示すものにおいて一部の構成が変更、削除又は追加されたものであってもよい。
【0028】
例えば、粘着剤層12は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよい。
図2は、本発明のワーク加工用シートの他の実施形態を模式的に示す断面図である。ここに示すワーク加工用シート101’は、基材フィルム11上に粘着剤層12を備えるダイシングシートである。
図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0029】
ワーク加工用シート101’においては、基材フィルム11の一方の表面(以下、「第1面」と称することがある)11aに粘着剤層12が積層されており、粘着剤層12が、基材フィルム11とは反対側の第1の粘着剤層121及び基材フィルム11側の第2の粘着剤層122からなり、第1の粘着剤層121が前記触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものである。
【0030】
図2に示すワーク加工用シート101’は、粘着剤層12の、基材フィルム11とは反対側の第1面12aが、半導体ウエハ等のワーク(図示略)の回路面とは反対側の裏面に貼付されて、使用される。
【0031】
以下、本発明のワーク加工用シートとして、ダイシングシートを構成する各層について説明する。
【0032】
[基材フィルム]
前記基材フィルムの構成材料は、各種樹脂であることが好ましく、具体的には、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPEと略すことがある)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPEと略すことがある)、高密度ポリエチレン(HDPE等と略すことがある))、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロック共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PETと略すことがある)、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリイミド、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、これらのいずれかの樹脂の水添加物、変性物、架橋物又は共重合物等が挙げられる。切削屑抑制、エキスパンド性の観点から、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、エチレン-メタクリル酸(EMAA)共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリレート(EMMA)共重合体フィルムが好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念とする。(メタ)アクリル酸と類似の用語につても同様であり、例えば、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の両方を包含する概念である。
【0034】
基材フィルムを構成する樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0035】
基材フィルムは1層(すなわち、単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよい。基材フィルムが複数層からなる場合、これら複数層は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよく、一部の層のみが同一であってもよい。そして、複数層が互いに異なる場合、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。ここで、複数層が互いに異なるとは、各層の材質及び厚さの少なくとも一方が互いに異なることを意味する。
なお、本明細書においては、基材フィルムの場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよく、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0036】
基材フィルムの厚さは、目的に応じて適宜選択できるが、20μm~200μmであることが好ましく、25μm~150μmであることがより好ましく、30μm~100μmであることが特に好ましい。
ここで、「基材フィルムの厚さ」とは、基材フィルム全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基材フィルムの厚さとは、基材フィルムを構成するすべての層の合計の厚さを意味する。なお、基材フィルムの厚さの測定方法としては、例えば、任意の5箇所において、接触式厚み計を用いて厚さを測定し、測定値の平均を算出する方法等が挙げられる。
【0037】
基材フィルムは、その上に設けられる粘着剤層等の他の層との密着性を向上させるために、サンドブラスト処理、溶剤処理、エンボス加工処理等による凹凸化処理や、コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理等が表面に施されたものであってもよい。
また、基材フィルムは、表面がプライマー処理を施されたものであってもよい。
また、基材フィルムは、帯電防止コート層、フィルム状接着剤複合シートを重ね合わせて保管する際に、基材フィルムが他のシートに接着することや、基材フィルムが吸着テーブルに接着することを防止する層等を有するものであってもよい。
これらの中でも基材フィルムは、ワークのダイシング時のブレードの摩擦による基材フィルムの断片の発生が抑制される点から、特に表面が電子線照射処理を施されたものが好ましく、一方で、ピックアップを容易に行う観点からは電子線照射処理を施していないものが好ましい。
【0038】
[粘着剤層]
前記粘着剤層は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものである。
【0039】
前記粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて、下記の測定方法で測定される、UV照射前の粘着力(β1)を適切なものに、容易に調整できる。
【0040】
[UV照射前の粘着力(β1)の測定方法]
ダイシングシートを幅25mm、長さ150mmの大きさに裁断した後、剥離フィルムを剥離し、23℃、50%相対湿度下で、シリコンウエハ(直径6インチ、厚さ600μm、シリコンミラーウエハ)のミラー面に粘着剤層の露出面を貼合し、2kgのローラーを1往復させることにより貼付する。
20分後に、JIS Z 0237に従い、180°引きはがし粘着力を測定して、その測定値を、UV照射前の粘着力(β1)(mN/25mm)とする。
【0041】
前記粘着剤層は、前記UV照射前の粘着力(β1)が、2000mN/25mm以上であることが好ましく、3000mN/25mm以上であることがより好ましく、4000mN/25mm以上であることがさらに好ましい。
前記粘着剤層は、前記UV照射前の粘着力(β1)が、10000mN/25mm以下であることが好ましく、8000mN/25mm以下であることがより好ましく、7000mN/25mm以下であることがさらに好ましい。
前記粘着剤層は、前記UV照射前の粘着力(β1)が、前記下限値以上であることで、ワークのダイシング不良を避けることができる。前記粘着剤層は、前記UV照射前の粘着力(β1)が、前記上限値以下であることで、UV照射の条件をより容易に調整できる。
【0042】
前記粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて、下記の測定方法で測定される、UV照射後の粘着力(β2)を適切なものに、容易に調整できる。
【0043】
[UV照射後の粘着力(β2)の測定方法]
ダイシングシートを幅25mm、長さ150mmの大きさに裁断した後、剥離フィルムを剥離し、23℃、50%相対湿度下で、シリコンウエハ(直径6インチ、厚さ600μm、シリコンミラーウエハ)のミラー面に粘着剤層の露出面を貼合し、2kgのローラーを1往復させることにより貼付する。
20分後に、基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、照度を230mW/cm2、光量を190mJ/cm2の条件で、紫外線(UV)を照射してから、JIS Z 0237に従い、180°引きはがし粘着力を測定して、その測定値を、UV照射後の粘着力(β2)(mN/25mm)とする。
【0044】
前記紫外線(UV)の照射として、市販の紫外線照射装置を用いることができる。市販の紫外線照射装置として、例えば、リンテック社製、RAD2000が挙げられる。
【0045】
前記粘着剤層は、前記UV照射後の粘着力(β2)が、200mN/25mm以下であることが好ましく、180mN/25mm以下であることがより好ましく、160mN/25mm以下であることがさらに好ましい。
前記粘着剤層は、前記UV照射後の粘着力(β2)が、10mN/25mm以上であることが好ましく、20mN/25mm以上であることがより好ましく、30mN/25mm以上であることがさらに好ましい。
前記粘着剤層は、前記UV照射後の粘着力(β2)が、前記上限値以下であることで、ワーク加工物のピックアップがより容易となる。前記粘着剤層は、前記UV照射後の粘着力(β2)が、前記下限値以上であることで、ワーク加工物のピックアップ不良を避けることができる。
【0046】
前記粘着剤層の厚さは、目的に応じて適宜選択できるが、1~100μmであることが好ましく、1~60μmであることがより好ましく、1~30μmであることが特に好ましい。
ここで、「粘着剤層の厚さ」とは、粘着剤層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる粘着剤層の厚さとは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。なお、粘着剤層の厚さの測定方法としては、例えば、任意の5箇所において、接触式厚み計を用いて厚さを測定し、測定値の平均を算出する方法等が挙げられる。
【0047】
粘着剤層は、これを構成するための各種成分を含有する粘着剤組成物を用いて形成できる。粘着剤組成物中の、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、粘着剤層の前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。なお、本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~30℃の温度等が挙げられる。
【0048】
前記粘着剤層は、エネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を含有するので、エネルギー線を照射してその粘着性を低下させることで、ワーク加工物のピックアップがより容易となる。粘着剤層にエネルギー線を照射して粘着性を低下させる処理は、ワーク加工用シートを被着体に貼付した後に行ってもよいし、被着体に貼付する前に予め行っておいてもよい。
【0049】
本発明において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、その例として、紫外線、電子線等が挙げられる。
紫外線は、例えば、紫外線源としてUV-LED、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ又はキセノンランプ等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
本発明において、「エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射することにより硬化する性質を意味し、「非エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射しても硬化しない性質を意味する。
【0050】
[粘着剤組成物]
前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、前記粘着剤層の製造原料であり、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とする。
前記粘着剤組成物におけるアクリル樹脂は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂である。
なお、本明細書においては、前記粘着剤層を形成するためのエネルギー線硬化性粘着剤組成物を、本明細書において、単に「粘着剤組成物」ということがある。粘着剤組成物における「アクリル樹脂」との記載は、特に断りのない限り、「水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂」を意味するものとする。
【0051】
(アクリル樹脂)
水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂は、水酸基を含有しない(メタ)アクリル酸エステルと、水酸基含有モノマーと、必要に応じて、これら以外の非(メタ)アクリル酸エステルと、を共重合させ、得られた水酸基を有するアクリル樹脂(以下、「プレ共重合体」ということがある。)の水酸基に、イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物のイソシアネート基を反応させて、ウレタン結合を形成して得られたものが例示できる。イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物中のイソシアネート基のモル量を、前記水酸基含有モノマー中の水酸基のモル量よりも少なくすることで、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を得ることができる。
前記アクリル樹脂は、エネルギー線重合性不飽和基を側鎖に有することにより、重合反応(硬化)後の粘着剤層の粘着性低下による被着体からの剥離性が向上し、ワーク加工物のピックアップ性が向上する。
【0052】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート(ミリスチル(メタ)アクリレート)、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート(パルミチル(メタ)アクリレート)、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、イソオクタデシル(メタ)アクリレート(イソステアリル(メタ)アクリレート)等の、アルキルエステルを構成するアルキル基が炭素数1~18の鎖状構造であるアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロアルケニル(メタ)アクリレート;ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等のシクロアルケニルオキシアルキル(メタ)アクリレート;イミド(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有(メタ)アクリレート等が例示できる。
【0053】
前記水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
前記非(メタ)アクリル酸エステルは、好ましいものとしては(メタ)アクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、N-メチロールアクリルアミド等が例示できる。
【0055】
アクリル樹脂を構成する前記(メタ)アクリル酸エステル、前記水酸基含有モノマー、前記非(メタ)アクリル酸エステル等のモノマーは、いずれも1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0056】
前記イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物としては、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステル等が例示できる。
前記アクリル樹脂を構成する、前記イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0057】
粘着剤組成物が含有するアクリル樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0058】
粘着剤組成物のアクリル樹脂の含有量は、粘着剤組成物中の溶媒以外の全ての含有成分の総量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、粘着剤組成物のアクリル樹脂の含有量は、粘着剤組成物中の溶媒以外の全ての含有成分の総量に対して99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
(触媒)
前記触媒は、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される。
【0060】
・アセチルアセトンジルコニウム錯体
アセチルアセトンジルコニウム錯体としては、ジルコニウム(IV)アセチルアセトンとして市販のものを使用することができる。
【0061】
・金属石鹸
粘着剤組成物に含まれる金属石鹸としては、金属種がジルコニウムであれば限定されない。金属石鹸としては、ミリスチン酸ジルコニウム、パルミチン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、オレイン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、リシノール酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム、(2-エチルヘキサン酸)酸化ジルコニウムなどの脂肪酸と結合した脂肪酸ジルコニウム塩、などが挙げられる。
【0062】
上記金属石鹸は、一種でもそれ以上でもよい。市販されている金属石鹸を用いてもよい。
【0063】
脂肪酸ジルコニウム塩の脂肪酸の炭素数は、5~20が好ましく、6~18がより好ましく、7~16が特に好ましい。
【0064】
・アセチルアセトン亜鉛錯体
アセチルアセトン亜鉛錯体としては、アセチルアセトン亜鉛(II)一水和物として市販のものを使用することができる。
【0065】
粘着剤組成物の触媒の含有量(配合量)は、前記触媒の活性により適宜調節すればよいが、アクリル樹脂100質量部に対して、0.001~1.5質量部であることが好ましく、0.005~1.0質量部であることがより好ましく、0.01~0.5質量部であることが特に好ましい。
粘着剤組成物の触媒の含有量(配合量)は、前記プレ共重合体100質量部に対して、0.001~1.5質量部であることが好ましく、0.005~1.0質量部であることがより好ましく、0.01~0.5質量部であることが特に好ましい。
【0066】
(架橋剤)
前記架橋剤として、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物に使用される架橋剤であれば限定されず、有機多価イソシアネート化合物等が例示できる。
【0067】
前記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物並びにこれら化合物の三量体、イソシアヌレート体及びアダクト体や、前記芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物又は脂環族多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等が例示できる。前記アダクト体は、前記芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物又は脂環族多価イソシアネート化合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン又はヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物を意味する。
【0068】
前記有機多価イソシアネート化合物として、より具体的には、2,4-トリレンジイソシアネート;2,6-トリレンジイソシアネート;1,3-キシリレンジイソシアネート;1,4-キシレンジイソシアネート;ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート;3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート;トリメチロールプロパン等のポリオールのすべて若しくは一部の水酸基に、トリレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートのいずれか一方又は両方を付加した化合物;リジンジイソシアネート等が例示できる。
【0069】
架橋剤がイソシアネート基を有する場合、イソシアネート基と水酸基との反応によって、粘着剤層に架橋構造を簡便に導入できる。
【0070】
粘着剤組成物が含有する架橋剤は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0071】
架橋剤を用いる場合、粘着剤組成物の架橋剤の含有量は、前記アクリル重合体100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~16質量部であることがより好ましい。
【0072】
(光重合開始剤)
粘着剤組成物は、前記アクリル樹脂、前記触媒及び前記架橋剤以外に、光重合開始剤を含有することが好ましい。
前記光重合開始剤は、公知のものでよく、具体的には、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α’-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα-ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール等のケタール系化合物;2-ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系化合物;1-フェノン-1,1-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2,4-ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4-ジクロロチオキサンソン、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナート等が例示できる。
【0073】
粘着剤組成物が含有する光重合開始剤は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0074】
光重合開始剤を用いる場合、粘着剤組成物の光重合開始剤の含有量は、前記アクリル樹脂100質量部に対して、0.05~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましい。光重合開始剤の前記含有量が前記下限値以上であることで、光重合開始剤を用いたことによる効果が十分に得られる。また、光重合開始剤の前記含有量が前記上限値以下であることで、光重合開始剤の析出や、過剰な光重合開始剤からの副生成分の発生が抑制されて、粘着剤層の硬化がより良好に進行する。
【0075】
(溶媒)
粘着剤組成物は、前記アクリル樹脂、前記触媒及び前記架橋剤以外に、さらに溶媒を含有することが好ましい。
前記溶媒は、特に限定されないが、好ましいものとしては、トルエン、キシレン等の炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール(2-メチルプロパン-1-オール)、1-ブタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド(アミド結合を有する化合物)等が例示できる。
粘着剤組成物が含有する溶媒は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0076】
粘着剤組成物が溶媒を含有する場合の溶媒の含有量は、40~90質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。
【0077】
(その他の成分)
粘着剤組成物は、アクリル樹脂及び架橋剤に、本発明の効果を損なわない範囲内において、光重合開始剤及び溶媒に該当しないその他の成分を含有していてもよい。
前記その他の成分は、公知のものでよく、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されないが、好ましいものとしては、染料、顔料、劣化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シリコーン化合物、連鎖移動剤等の各種添加剤が例示できる。
粘着剤組成物が含有する前記その他の成分は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0078】
前記粘着剤組成物は、アクリル樹脂と、前記アクリル樹脂以外の成分と、を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
例えば、前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を含有する反応物を調製し、前記反応物と、前記架橋剤と、を配合することにより、前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を得ることができる。
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、適宜調節すればよいが、温度は15~30℃であることが好ましい。
【0079】
粘着剤層は、エネルギー線照射による硬化後の弾性率が所定の範囲内となるように、例えば、粘着剤組成物に配合するアクリル樹脂等の各成分が有する、(メタ)アクリロイル基等のエネルギー線重合性不飽和基の数、架橋剤の種類及び配合量、アクリル樹脂を構成するモノマーの種類、触媒の種類及び量等を調節して、形成すればよい。
【0080】
粘着剤層は、前記基材フィルムの表面に粘着剤組成物を塗工し、乾燥させることで形成できる。
このとき必要に応じて、塗工した粘着剤組成物を加熱することで、架橋してもよい。加熱条件は、例えば、100~130℃で1~5分とすることができるが、これに限定されない。
また、剥離フィルムの剥離処理面に粘着剤組成物を塗工し、乾燥させることで形成した粘着剤層を、基材フィルムの表面に貼り合わせ、必要に応じて前記剥離フィルムを取り除くことでも、基材フィルム上に粘着剤層を形成できる。
【0081】
粘着剤組成物の基材フィルムの表面又は剥離材の剥離層表面への塗工は、公知の方法で行えばよく、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーターを用いる方法が挙げられる。
【0082】
<剥離フィルム>
剥離フィルムとしては、特に限定されず、市販の剥離フィルムを使用することができ、たとえばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。
【0083】
剥離フィルムの粘着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が比較的低い剥離フィルムは、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また剥離フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0084】
剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系、ゴム系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0085】
上記の剥離剤を用いて剥離フィルムの基体となるフィルム等の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアーナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、剥離剤が塗布された剥離フィルムを常温下または加熱下に供するか、または電子線により硬化させて剥離剤層を形成させればよい。
【0086】
剥離フィルムの表面粗さ(Ra)としては、10~100nmが好ましく、15~60nmが好ましく、20~50nmが好ましい。
【0087】
<<ワーク加工用シートの製造方法>>
本発明のワーク加工用シートの製造方法は、基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた粘着剤層と、を備える、前記ワーク加工用シートの製造方法であって、
前記触媒の存在下で、水酸基を有するアクリル樹脂と、イソシアネート基及びエネルギー線重合性不飽和基を有する化合物と、を反応させて、前記イソシアネート基と、一部の前記水酸基と、からウレタン結合を形成することにより、前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を作製し、
前記水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、前記架橋剤と、を配合することにより、前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を調製し、
前記エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて、前記基材フィルム上に前記粘着剤層を設けることにより、前記ワーク加工用シートを作製する。
【0088】
例えば、剥離フィルムの剥離処理面に、上述の粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に粘着剤層を形成し、粘着剤層と、基材フィルムとを貼付することにより、基材フィルムと、粘着剤層と、剥離フィルムとが、この順に積層されたワーク加工用シートとすることができる。剥離フィルムは、ワーク加工用シートを使用する際に、必要に応じて取り除けばよい。
【0089】
<<ワーク加工物の製造方法>>
本発明のワーク加工物の製造方法は、前記ワーク加工用シートを用いたワーク加工物の製造方法であって、
前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層の前記基材フィルム側とは反対側の面を、ワークの一方の面に貼付することにより、前記ワーク加工用シートと前記ワークとの積層物を作製する工程と、
前記積層物中の前記ワークを加工することにより、前記ワーク加工用シート中の前記粘着剤層によって、前記ワーク加工物が保持されて構成されているワーク加工物複合体を作製する工程と、
前記ワーク加工物複合体の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、エネルギー線を照射して、前記粘着剤層を硬化させる工程と、
前記粘着剤層の硬化物から、前記ワーク加工物を引き離してピックアップする工程と、を有する。
【0090】
例えば、
図3は、本発明のワーク加工物の製造方法の一の実施形態を模式的に示す断面図である。本実施形態のワーク加工物の製造方法において、ワーク加工用シート101は、基材フィルム11と、基材フィルム11上に設けられた粘着剤層12と、を備える。本実施形態のワーク加工物の製造方法は、
図3(a)に示されるように、ワーク加工用シート101中の粘着剤層12の基材フィルム11側とは反対側の面12aを、ワーク9の一方の面9bに貼付することにより、ワーク加工用シート101とワーク9との積層物を作製する工程と、
図3(b)に示されるように、前記積層物中のワーク9を加工することにより、ワーク加工用シート101中の粘着剤層12によって、ワーク加工物9’が保持されて構成されているワーク加工物複合体を作製する工程と、前記ワーク加工物複合体の基材フィルム11側の外部から、粘着剤層12に対して、エネルギー線を照射して、粘着剤層12を硬化させる工程と、
図3(c)に示されるように、引き離し手段7を用いて、粘着剤層12の硬化物から、ワーク加工物9’を引き離してピックアップする工程と、を有する。
【0091】
本発明のワーク加工用シートは、半導体素子をリードフレームや有機基板などに接合するためのフィルム状接着剤と組み合わされたダイシングダイボンディングシートとして使用することもできる。また、半導体装置のワークの裏面保護のための保護膜形成フィルムと組み合わされた裏面保護膜形成用複合シートとして使用することもできる。
【実施例0092】
以下、ワーク加工用シートとしてのダイシングシートの実施例により、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
(アクリル樹脂の製造)
窒素雰囲気下において、攪拌機、コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、ブチルアクリレート(BA)62質量部と、メチルメタクリレート(MMA)10質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)28質量部とを、0.1%のアゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.25質量部の存在下、60℃で24時間反応させて得られたプレ共重合体の酢酸エチル溶液(250質量部、固形分濃度40質量%)に、メチルエチルケトンを加え、Zr(C5H7O2)4(商品名:ナーセム(登録商標)ジルコニウム化合物、日本化学産業社製)0.012質量部及び50℃(MOI付加反応の温度)にて1時間撹拌して、固形分濃度が35質量%となる溶液を調製した。その後、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(メタクリル酸2-イソシアナトエチル、以下、「MOI」と略記することがある)30質量部(HEA中の水酸基100モル%に対してイソシアネート基が80モル%となる量)を添加し、50℃で48時間反応させて(MOI付加反応)、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を含有する反応物を得た。得られたアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量が50万であった。
【0094】
(粘着剤組成物の製造)
得られた水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂100質量部(固形分)に対して、光重合開始剤としてBASF社製「オムニラッド184(固形分100質量%)」を3質量部、トリレンジイソシアネート系(TDI系)ポリイソシアネート架橋剤「東ソー株式会社製、製品名:コロネート(登録商標)L(固形分75質量%)」2.85質量部(dry換算で2.175質量部)溶解させて、固形分濃度が30質量%になるように調整し、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物を調製した。
【0095】
(ダイシングシートの製造)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ:38μm)の片面に軽剥離型のシリコーン樹脂で剥離処理した剥離フィルム(SP-PET3801、リンテック社製)の剥離処理面に粘着剤組成物をコンマコーターによって塗布し、90℃で1分間乾燥させて、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。
【0096】
厚さ80μmのエチレン-メタクリル酸(EMAA)共重合体フィルムの片面にコロナ照射を行った後、前記粘着剤層の露出面を貼合し、23℃、50%相対湿度下で1週間保管して、基材フィルムと粘着剤層と剥離フィルムとが、この順に、これらの厚さ方向において積層されて構成されている実施例1のダイシングシートを得た。
【0097】
[実施例2]
実施例1において、粘着剤組成物で用いた、Zr(C5H7O2)4(商品名:ナーセム(登録商標)ジルコニウム化合物、日本化学産業社製)0.012質量部を、ZrO(C8H15O2)2(2-エチルヘキサン酸)酸化ジルコニウム(IV)、富士フイルム和光純薬社製)0.12質量部に変更し、MOI付加反応を、45℃で48時間に変更してアクリル樹脂を含有する反応物を調製した他は、実施例1と同様にして、実施例2のダイシングシートを得た。実施例2におけるアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量50万であった。
【0098】
[実施例3]
実施例1において、粘着剤組成物で用いた、Zr(C5H7O2)4(商品名:ナーセム(登録商標)ジルコニウム化合物、日本化学産業社製)0.012質量部を、Zn(C5H7O2)2・H2O(商品名:アセチルアセトン亜鉛(II)一水和物、富士フイルム和光純薬社製)0.100質量部に変更し、MOI付加反応を、60℃で48時間に変更してアクリル樹脂を含有する反応物を調製した他は、実施例1と同様にして、実施例3のダイシングシートを得た。実施例3におけるアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量50万であった。
【0099】
[比較例1]
実施例1において、粘着剤組成物で用いた、Zr(C5H7O2)4(商品名:ナーセム(登録商標)ジルコニウム化合物、日本化学産業社製)0.012質量部を、(C11H23COO)2Sn(C4H9)2(ジラウリン酸ジn-ブチル錫、-)0.140質量部に変更してアクリル樹脂を含有する反応物を調製した他は、実施例1と同様にして、比較例1のダイシングシートを得た。比較例1におけるアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量50万であった。
【0100】
[比較例2]
比較例1において、粘着剤組成物で用いた、(C11H23COO)2Sn(C4H9)2(ジラウリン酸ジn-ブチル錫、富士フイルム和光純薬社製)0.140質量部を、0.30質量部に変更し、50℃で48時間を、45℃で48時間に変更してアクリル樹脂を含有する反応物を調製した他は、比較例1と同様にして、比較例2のダイシングシートを得た。比較例2におけるアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量50万であった。
【0101】
[比較例3]
実施例1において、粘着剤組成物で用いた、Zr(C5H7O2)4(商品名:ナーセム(登録商標)ジルコニウム化合物、日本化学産業社製)0.012質量部を、Zn(C8H15O2)2(Zinc octoate、キシダ化学社製)1.900質量部に変更し、MOI付加反応を、60℃で48時間に変更してアクリル樹脂を含有する反応物を調製した他は、実施例1と同様にして、比較例3のダイシングシートを得た。実施例2におけるアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量50万であった。
【0102】
[比較例4]
実施例1において、粘着剤組成物で用いた、Zr(C5H7O2)4(商品名:ナーセム(登録商標)ジルコニウム化合物、日本化学産業社製)0.012質量部を、V(C5H7O2)3(アセチルアセトンバナジウム(III)、富士フイルム和光純薬社製)0.050質量部に変更してアクリル樹脂を含有する反応物を調製した他は、実施例1と同様にして、比較例3のダイシングシートを7得た。実施例2におけるアクリル樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量50万であった。
【0103】
[ポットライフ評価]
実施例1~3及び比較例1~4のダイシングシートを作製した際の粘着剤組成物について、それぞれ、調製直後の粘度を、B型粘度計を用いて測定した。その後、粘着剤組成物を23℃環境下にて保管し、1時間毎に、12時間後までの粘着剤組成物の粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
調製直後の粘度に対して、粘度が1.5倍になるまでの時間をその粘着剤組成物のポットライフとした。評価結果を表1~表2に示した。
【0104】
[UV照射前の粘着力(β1)の測定]
実施例1~4及び比較例1~4のダイシングシートを幅25mm、長さ150mmの大きさに裁断した後、剥離フィルムを剥離し、23℃、50%相対湿度下で、シリコンウエハ(直径6インチ、厚さ600μm、シリコンミラーウエハ)のミラー面に粘着剤層の露出面を貼合し、2kgのローラーを1往復させることにより貼付した。20分後に、JIS Z 0237に従い、180°引きはがし粘着力を測定して、その測定値を、UV照射前の粘着力(β1)(mN/25mm)とした。評価結果を表1~表2に示した。
【0105】
[UV照射後の粘着力(β2)の測定]
実施例1~4及び比較例1~4のダイシングシートを幅25mm、長さ150mmの大きさに裁断した後、剥離フィルムを剥離し、23℃、50%相対湿度下で、シリコンウエハ(直径6インチ、厚さ600μm、シリコンミラーウエハ)のミラー面に粘着剤層の露出面を貼合し、2kgのローラーを1往復させることにより貼付した。20分後に、紫外線照射装置(リンテック社製、RAD2000)を用いて、基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、照度を230mW/cm2、光量を190mJ/cm2の条件で、紫外線(UV)を照射してから、JIS Z 0237に従い、180°引きはがし粘着力を測定して、その測定値を、UV照射後の粘着力(β2)(mN/25mm)とした。評価結果を表1~表2に示した。
【0106】
[ウエハ汚染性の評価]
実施例1~3及び比較例1~4のダイシングシートから剥離フィルムを剥離し、粘着剤層の露出面を、シリコンウエハ(直径6インチ、厚さ600μm、シリコンミラーウエハ)のミラー面に貼合し、5kgのローラーを1往復させることにより荷重をかけて積層することにより、前記ダイシングシートと前記シリコンウエハとの積層物を作製した。
前記積層物を、その作製直後から、23℃、50%相対湿度下で24時間静置保管した。
紫外線照射装置(リンテック社製、RAD2000)を用いて、前記静置保管後の前記積層物の前記基材フィルム側の外部から、前記粘着剤層に対して、照度を230mW/cm2、光量を190mJ/cm2の条件で、紫外線(UV)を照射して、前記粘着剤層を硬化させた。
前記粘着剤層の硬化物を前記基材フィルムとともに、前記シリコンウエハから、剥離速度300mm/min、剥離角度180°にて剥離させ、除去した。その後、ウエハ表面検査装置(トプコン社製、WM-7S)を用いて、シリコンウエハ上における最大径0.27μm以上5μm以下のパーティクルの数を測定した。評価結果を表1~表2に示した。
【0107】
【0108】
【0109】
表1~表2に示された通り、実施例1~3のダイシングシートにおいて、前記粘着剤層は、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と、アセチルアセトンジルコニウム錯体、金属種がジルコニウムである金属石鹸、及びアセチルアセトン亜鉛錯体からなる群より選択される1種又は2種以上の触媒と、架橋剤と、を配合成分とするエネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いて形成されたものであるので、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物が適正なポットライフを有し、かつ、ウエハへの汚染性が少ない。紫外線(UV)照射前の粘着力(β1)が大きいので、半導体ウエハのダイシング時にチップ飛びの抑制効果に優れるとともに、紫外線(UV)照射後の粘着力(β2)が小さいので、ワーク加工物のピックアップが容易である。
【0110】
錫系の触媒を用いた比較例1のダイシングシートでは、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物のポットライフが短いので適正なポットライフを確保できなかった。比較例2のダイシングシートでは、水酸基及びエネルギー線重合性不飽和基を有するアクリル樹脂を合成するために必要最小限と思われる量まで、錫系の触媒の配合量を下げることを試みたが、粘着剤組成物のポットライフは十分ではなかった。
【0111】
Zn(C8H15O2)2を触媒として用いた比較例3のダイシングシートでは、適正なポットライフを確保できたが、ウエハへのパーティクルによる汚染が顕著であった。
【0112】
V(C5H7O2)3(アセチルアセトンバナジウム(III)を触媒として用いた比較例4のダイシングシートでは、粘着剤組成物のポットライフが短いので適正なポットライフを確保できなかった。紫外線(UV)照射前の粘着力(β1)が充分でなく、半導体ウエハのダイシング時にチップ飛びのおそれがあるとともに、紫外線(UV)照射後の粘着力(β2)も大きいので、ワーク加工物のピックアップ不良のおそれがある。
101,101’・・・ワーク加工用シート(ダイシングシート)、11・・・基材フィルム、11a・・・基材フィルムの第1面、12・・・粘着剤層、12a・・・粘着剤層の第1面、13・・・剥離フィルム、7・・・引き離し手段、9・・・ワーク、9a・・・ワークの回路面、9b・・・ワークの裏面、9’・・・ワーク加工物、9a’・・・ワーク加工物の回路面