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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157512
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20221006BHJP
   C08K 3/012 20180101ALI20221006BHJP
   C08K 7/26 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08K3/012
C08K7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061784
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】菅 崇大
(72)【発明者】
【氏名】小林 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】大内 清美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
(72)【発明者】
【氏名】東瀬 壮慶
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002DJ016
4J002FA096
4J002FD196
4J002GL00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】グリコール酸系重合体を含有する組成物における厚み減少速度を高める新たな技術を提供する。
【解決手段】本発明における組成物は、グリコール酸系重合体と無機微粒子とを含有する。無機微粒子は、複数の細孔を有している。細孔の平均細孔径は20nm以上50nm以下であり、無機微粒子のBET比表面積は50~300m/gである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール酸系重合体と無機微粒子とを含有し、
前記無機微粒子は、複数の細孔を有し、
前記細孔の平均細孔径は20nm以上50nm以下であり、
前記無機微粒子のBET比表面積が50~300m/gである、
組成物。
【請求項2】
前記無機微粒子の含有量は、前記組成物100質量部に対して5質量部以上60質量部以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記無機微粒子の平均粒子径は、1μm以上150μm以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記無機微粒子は、二酸化珪素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸は、高強度を有しつつ、加水分解性および生分解性を有する分解性樹脂材料である。ポリグリコール酸は、その特性を活かし、骨固定材または縫合糸などの医療材料として利用されている。また、近年では炭化水素資源の回収に使用されるダウンホールツール用の部材の材料としても利用されている。
【0003】
また、近年では、ポリグリコール酸の分解速度を制御するための様々な検討がなされている。たとえば、ポリグリコール酸の分解を促進させる技術としては、ポリグリコール酸を主成分とする樹脂組成物にカルボン酸無水物を添加する技術が知られている。当該樹脂組成物は、カルボン酸無水物の含有量が多いほど、40℃の水中での当該組成物の質量減少率が高くなる傾向にある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ポリグリコール酸の分解を抑制する技術としては、短繊維補強材を分散させたポリグリコール酸の樹脂成形体が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/162002号
【特許文献2】国際公開第2014/010267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリグリコール酸の樹脂組成物は、上述のように種々の用途で利用されていることから、その用途によっては、さらなる分解促進を求められることがある。また、ポリグリコール酸の分解を促進させるための手段が、当該樹脂組成物における分解性以外の他の特性に実質的に影響を及ぼさないことが求められる。したがって、ポリグリコール酸の樹脂組成物では、その用途に応じた種々の特性を有しつつ、分解の促進を可能とする新たな技術が求められている。
【0007】
本発明は、グリコール酸系重合体を含有する組成物における厚み減少速度を高める新たな技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る組成物は、グリコール酸系重合体と無機微粒子とを含有し、前記無機微粒子は、複数の細孔を有し、前記細孔の平均細孔径は20nm以上50nm以下であり、前記無機微粒子のBET比表面積が50~300m/gである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、グリコール酸系重合体を含有する組成物における厚み減少速度を高める新たな技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る組成物は、グリコール酸系重合体と無機微粒子とを含有する。当該組成物は、後述する特定の無機微粒子を含有する。これにより、当該組成物で形成された成形体内の水の拡散が促進され、成形体の全体的なグリコール酸系重合体の加水分解を促進させることが可能となる。
【0011】
〔グリコール酸系重合体〕
グリコール酸系重合体は、繰り返し単位としてグリコール酸単位(-OCH-CO-)を含む高分子化合物である。グリコール酸系重合体は、グリコール酸単位のみからなるグリコール酸単独重合体(すなわちポリグリコール酸(PGA))であってもよいし、他の単量体由来の繰り返し単位をさらに含む共重合体であってもよい。
【0012】
他の繰り返し単位の例には、乳酸などのヒドロキシルカルボン酸単位が含まれる。他の繰り返し単位は、グリコール酸系重合体の物性を調整する観点から採用することができ、グリコール酸系重合体における他の繰り返し単位の含有量は、50質量%以下であってよく、好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。他の繰り返し単位の採用により、グリコール酸系重合体の加水分解速度あるいは結晶性を調整することが可能である。
【0013】
グリコール酸系重合体の分子量は、組成物の用途に応じて適宜に決めてよい。たとえば、組成物の用途がダウンホールツール用部材である場合では、グリコール酸系重合体の分子量は、低すぎると強度が不十分となることがあり、高すぎると成形加工性が不十分となることがある。用途に応じた強度を発現するとともに良好な成形加工性を実現する観点から、グリコール酸系重合体の分子量は、重量平均分子量で7万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましく、また50万以下であることが好ましい。
【0014】
グリコール酸系重合体は、公知の方法により製造することが可能である。たとえば、グリコール酸系重合体は、グリコール酸の二量体であるグリコリドを少量の触媒の存在下で、かつ溶剤が実質的には存在しない条件(すなわち塊状重合条件)において、約120~250℃で開環重合させることにより好適に製造することができる。なお、本明細書において、「~」は、その両端の数値を含む数値範囲を意味する。
【0015】
上記触媒の例には、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫およびハロゲン化アンチモンなどのカチオン触媒が含まれる。共重合体は、グリコリドにコモノマーを併用することにより上記の方法で製造することが可能である。コモノマーの例には、乳酸の二量体であるラクチドを代表とするラクチド類およびラクトン類が含まれる。ラクトン類の例には、カプロラクトン、β-プロピオラクトンおよびβ-ブチロラクトンが含まれる。
【0016】
組成物におけるグリコール酸系重合体の含有量は、無機微粒子をフィラーとする組成物のマトリックスを構成し得る範囲から適宜に決めることが可能であり、また組成物の用途に応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、グリコール酸系重合体の含有量は、組成物100質量部に対して40質量部以上90質量部以下であってよい。
【0017】
〔無機微粒子〕
無機微粒子は、複数の細孔を有する。無機微粒子は、組成物の分解を促進するのに十分な量の細孔を有していればよい。無機微粒子が十分に細孔を有していることは、例えば、比表面積および細孔の容積などの細孔の量を表す物性によって確認することが可能である。
【0018】
たとえば、組成物の分解の促進効果を十分に発現させる観点から、無機微粒子の比表面積は、BET比表面積で50m/g以上であり、100m/g以上であることが好ましい。また、比表面積が大きいと粒子の細孔径が小さくなり、水の拡散がしにくくなる観点から、無機微粒子のBET比表面積は、300m/g以下であり、200m/g以下であることが好ましい。比表面積は、窒素吸着によるBET法によって求めることが可能である。
【0019】
細孔の平均細孔径は20nm以上50nm以下である。細孔の平均細孔径が小さすぎると、無機微粒子の細孔内に水の吸着が起き、組成物におけるグリコール酸系重合体への水の拡散がしづらくなり分解の促進が不十分になる。細孔の平均細孔径が大きすぎると、比表面積が小さくなり水の拡散量が小さくなり分解の促進が不十分となることがある。分解の促進の観点から、細孔の平均細孔径は、1nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。また、水分子が通るのに十分な大きさであり、水を十分に拡散させる観点から、細孔の平均細孔径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。平均細孔径は、例えば、Kelvinの毛細管凝縮理論に基づきメソ孔がシリンダ形状を有すると仮定してメソ孔の細孔径分布を解析するBarrett-Joyner-Halenda法(BJH法)から求めることが可能である。
【0020】
細孔は、本実施形態の効果が得られる範囲において、細孔径で分類される異なる種類の孔を含んでいてもよい。たとえば、細孔は、マクロ孔またはミクロ孔を含んでもよい。マクロ孔とは、50nm以上1,000nm未満の孔径を有する細孔である。マクロ孔の容積は、水銀圧入法などの公知の方法によって測定することが可能である。ミクロ孔とは、2nm未満の孔径を有する細孔である。ミクロ孔の容積は、窒素吸着法などの公知の方法によって測定することが可能である。
【0021】
細孔は、貫通孔を含むことが好ましい。貫通孔は、組成物の分解を促進させるのに十分な数量含まれていればよい。貫通孔の存在は、透過電子顕微鏡によって無機微粒子の二次粒子の構造を観察することによって、例えば凝集している個々の一次粒子の間隔を確認することによって、推定することが可能である。
【0022】
無機微粒子の平均粒子径が小さすぎると、粒子自体の凝集が強くなり分散不良になることがあり、あるいは、表面積が大きくなるため、樹脂に溶融混錬する際に水分による分子量の低下が起きる可能性がある。無機微粒子の平均粒子径が大きすぎると、組成物(成形品)に割れが発生したり分散不良となる可能性がある。分散性をよくするとの観点から、無機微粒子の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、組成物の割れまたは分散不良の発生を抑制するとの観点から、無機微粒子の平均粒子径は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
無機微粒子の平均粒子径は、無機微粒子の寸法を代表する値であればよく、例えば、体積基準のメジアン径であってよい。また、無機微粒子の平均粒子径は、実測値であってもよいし、カタログ値であってもよい。無機微粒子の平均粒子径は、無機微粒子の粒子径を測定可能な公知の方法によって適宜に求めることが可能である。また、無機微粒子の平均粒子径は、たとえば分級または分級品の混合によって調整することが可能である。
【0024】
無機微粒子は、一種でもそれ以上でもよい。無機微粒子は、グリコール酸系重合体の加水分解を促進させる観点から、高い親水性を有することが好ましく、そのような材料で構成されていることが好ましい。無機微粒子の材料の例には、二酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化カルシウム、酸化ジルコニウム(ジルコニア)およびゼオライトが含まれる。中でも、高い親水性を有する観点から、無機微粒子は、二酸化珪素を材料として含むことが好ましい。二酸化珪素を材料として含む無機微粒子の例には、シリカゲル粒子およびゼオライト粒子が含まれる。
【0025】
組成物における無機微粒子の含有量は、組成物で形成された成形体における水の拡散を十分に促進可能な範囲から適宜に決めることが可能であり、また組成物の用途に応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、無機微粒子の含有量は、組成物100質量部に対して5質量部以上60質量部以下であってよい。
【0026】
無機微粒子は、公知の技術に基づいて製造されてもよい。たとえば、無機微粒子は、ナノサイズの一次粒子の凝集によって二次粒子を形成することにより製造されてもよい。あるいは、無機微粒子は、金属アルコキシドのゲル中の可溶性粒子を溶解させたのちに当該ゲルを焼成して多孔質体を生成し、必要に応じてそれを粉砕、分級することによって製造されてもよい。
【0027】
また、無機微粒子は、市販品であってもよい。当該市販品の例には、株式会社ケムコプラス販売のシリカゲル「SPW-C-Si」が含まれる。
【0028】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態において、組成物は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、前述したグリコール酸系重合体および無機微粒子以外の他の材料をさらに含有していてもよい。他の材料は、一種でもそれ以上でもよく、他の材料による効果がさらに発現され得る量で用いればよい。
【0029】
たとえば、組成物は、グリコール酸系重合体以外の他の熱可塑性樹脂をさらに含有していてもよい。他の熱可塑性樹脂の添加により、組成物の分解性を制御することが可能である。他の熱可塑性樹脂の例には、グリコール酸系重合体以外の他の脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルおよびエラストマーが含まれる。
【0030】
組成物における他の熱可塑性樹脂の含有量は、グリコール酸系重合体による効果を十分に発現させる観点から、組成物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、組成物は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、無機微粒子以外の他のフィラーおよび添加剤をさらに含有していてもよい。他のフィラーは、一種でもそれ以上でもよく、その例には、繊維が含まれる。繊維の例には、無機繊維および有機繊維が含まれ、より具体的には、ガラスファイバー、カーボンファイバー、ボロンファイバー、アラミド繊維、液晶ポリマー繊維、および、ケナフ繊維などのセルロース系繊維が含まれる。また、添加剤は一種でもそれ以上でもよく、その例には、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、酸化防止剤、分解促進剤および分解遅延剤が含まれる。
【0032】
〔用途〕
本発明の実施形態の組成物は、グリコール酸系重合体による生分解性と、無機微粒子による分解促進機能とを発現することから、ダウンホールツール用部材またはその原料に好適に用いられる。当該組成物は、成形に供された成形物であってもよいし、当該成形物を材料とする二次成形物であってもよいし、当該成形物または当該二次成形物を加工して形成された加工品であってもよい。成形方法は限定されず、その例には、射出成形、溶融押出成形、固化押出成形、圧縮成形(プレス成形)および遠心成形が含まれる。また、加工の好ましい例には、切削加工が含まれる。
【0033】
ダウンホール用部材は、石油およびガスなどの炭化水素資源を地中から回収のための地下掘削に用いられる部材である。ダウンホールツール用部材の例には、フラックプラグ、ブリッジプラグ、セメントリテイナー、パーフォレーションガン、ボールシーラー、目止めプラグ、パッカー、およびそれらの一部を構成する部材、が含まれる。
【0034】
〔作用効果〕
本発明の実施形態の組成物は、グリコール酸系重合体と無機微粒子とを含有し、無機微粒子は、貫通孔を含む複数の細孔を有する。そして、当該細孔は、20nm以上50nm以下の平均細孔径を有する。上記組成物は、適度な大きさの貫通孔を有する無機微粒子を含有することから、組成物内において、当該貫通孔を介して水が拡散する。その結果、組成物の水による分解が促進される。このように本発明の実施形態では、上記のような特定の無機微粒子を用いることによって、厚み減少速度の高い成形体を与えるポリグリコール酸系樹脂組成物が実現される。
【0035】
なお、厚み減少速度とは、本発明の実施形態における組成物の表面部から中心部に向かって脆化していない部分の厚みが減少していく速度のことである。厚み減少速度は、当該組成物が脆化していない部分、つまり、脆化層を除去した残りの部分の厚みの減少量を経時的に測定することによって求められる。
【0036】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態における組成物は、グリコール酸系重合体と無機微粒子とを含有し、無機微粒子は、複数の細孔を有し、細孔の平均細孔径は20nm以上50nm以下であり、無機微粒子のBET比表面積が50~300m/gである。よって、上記組成物によれば、グリコール酸系重合体を含有する組成物における厚み減少速度を高める新たなタイプの組成物が提供される。
【0037】
無機微粒子の含有量は、組成物100質量部に対して5質量部以上60質量部以下であってもよい。この構成は、無機微粒子による当該組成物の厚み減少速度向上効果を十分に高める観点からより一層効果的である。
【0038】
また、無機微粒子の平均粒子径は、1μm以上150μm以下であってもよい。この構成は、粒子の分散状態の観点からより一層効果的である。
【0039】
また、無機微粒子は、二酸化珪素を含んでもよい。この構成は、水による組成物の分解促進効果をさらに高める観点からより一層効果的である。
【0040】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0041】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0042】
〔無機微粒子の準備〕
無機微粒子1~5を用意した。無機微粒子1~5の性状を表1に示す。無機微粒子1は、下記表1に示す製品をミキサーで粉砕した粉体であり、無機微粒子1の粒子径は、体積基準の平均粒子径(メジアン径)である。無機微粒子1~5におけるその他の情報は、いずれも各製品のカタログに記載の情報である。
【0043】
【表1】
【0044】
〔実施例1〕
[コンパウンドの調製]
77質量部のPGAと、23質量部の無機微粒子1とを含有する100質量部のコンパウンドを用意した。なお、当該PGAの重量平均分子量は20万g/molであり、当該PGAの、270℃、せん断速度122sec-1で測定した溶融粘度は400~600Pa・sである。
【0045】
[ペレットの作製]
二軸押出機を使用して上記コンパウンドを押出成形し、上記の組成を有する成形物である複合ペレットを作製した。押出温度は240℃である。
【0046】
[二次成形物の作製]
射出成型機を使用して上記複合ペレットを射出成形し、底面が1辺12.5mmの正方形であり、高さが約15cmの角柱棒状である二次成形物を作製した。射出成形条件は、シリンダ温度が240℃、金型温度が100℃、背圧が10MPa、射出圧力が90MPaである。
【0047】
[加工品の作製]
上記二次成形物から一辺が12.5cmの立方体を切削加工によって切り出して加工品1を作製した。
【0048】
〔比較例1~6〕
PGAの量を100質量部に変更し、無機微粒子1を用いない以外は実施例1と同様にして、加工品2を作製した。また、PGAの量を95質量部に変更し、23質量部の無機微粒子1に代えて5質量部の無機微粒子2を用いる以外は実施例1と同様にして、加工品3を作製した。また、PGAの量を95質量部に変更し、23質量部の無機微粒子1に代えて5質量部の無機微粒子3を用いる以外は実施例1と同様にして、加工品4を作製した。また、PGAの量を80質量部に変更し、23質量部の無機微粒子1に代えて20質量部の無機微粒子4を用いる以外は実施例1と同様にして、加工品5を作製した。また、PGAの量を95質量部に変更し、23質量部の無機微粒子1に代えて5質量部の無機微粒子5を用いる以外は実施例1と同様にして、加工品6を作製した。また、PGAの量を90質量部に変更し、23質量部の無機微粒子1に代えて10質量部の無機微粒子5を用いる以外は実施例1と同様にして、加工品7を作製した。
【0049】
〔評価〕
加工品1~7のそれぞれについて、水中での分解試験を行い、厚み減少速度を求めた。水中分解試験は、加工品1~7のそれぞれを六個ずつ、所定時間(24時間、48時間および72時間)、66℃の水に浸漬することによって行った。
【0050】
所定時間経過後に各加工品を二個ずつ取り出し、それぞれの加工品の表面の脆化した部分を、カッターを用いて削り取り、所定時間水中浸漬後の加工品の寸法(縦、横、高さ)を測定した。当該脆化した部分とは、加工品の表面部のPGAが加水分解することによって脆くなることで生じた部分である。加工品の上記寸法の減少量をプロットし、その傾きを求め、厚み減少速度とした。なお、「減少量」は、初期の縦、横、高さの寸法の総和からの浸漬後の寸法の総和の差である。
【0051】
加工品1~7の組成および厚み減少速度を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
〔考察〕
表1、表2から明らかなように、実施例1の加工品1では、無機微粒子を含有しない比較例1の加工品2に比べて、66℃の水による厚み減少速度が高い。これは、加工品1中の無機微粒子が適度な大きさの孔径の貫通孔を有することから、加工品1内において貫通孔を介した水の拡散が可能となり、PGAの水による分解が促進されるため、と考えられる。
【0054】
一方、比較例2~7の厚み減少速度は、比較例1の厚み減少速度と同等かそれ以下である。これは、加工品中の無機微粒子が貫通孔を実質的に有さないため、あるいは貫通孔を有していてもその孔径が小さいため、と考えられる。たとえば、無機微粒子2は、そのBET比表面積は180~220m/gだが、多孔体ではないと考えられ、そのため、無機微粒子の添加による水の浸透促進効果が発現しないと考えられる。また、無機微粒子2のBET比表面積が大きいのは、細孔ではなく粒子表面積の影響と考えられる。すなわち、無機微粒子2の粒子径が7nmで他の無機微粒子よりも明らかに小さいため、重量に対する表面積が大きくなる。したがって、比較例2~7では、無機微粒子の細孔に水が吸着され、貫通孔を介する水の拡散が抑制され、その結果、PGAの水による分解が抑制されるため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、水の存在下で分解による消失が望まれる部材を用いる技術分野に適用することが可能であり、当該分野のさらなる発展に寄与することが期待される。