(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157554
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】浴槽可動式浴室
(51)【国際特許分類】
A47K 3/16 20060101AFI20221006BHJP
E03C 1/20 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A47K3/16
E03C1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061842
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】半田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】上田 恭平
【テーマコード(参考)】
2D061
2D132
【Fターム(参考)】
2D061CA02
2D061CB10
2D132EA01
2D132EA05
(57)【要約】
【課題】浴槽パン上に床ボードを敷設し、その上に可動浴槽を設置した浴槽構造において、可動浴槽をスムーズに移動でき、さらに床ボードの取り外しや浴槽パンの清掃に支障を来すことがなく、床ボードを取り外した状態でも可動浴槽の安定を保持する。
【解決手段】浴槽可動式浴室1の洗い場パン2a奥側に浴槽パン4を配置し、その上に床ボード5を敷設する。床ボード5上に可動浴槽3の浴槽本体10を配置し、浴槽本体10における洗い場側を向く前側部を支柱30で支持する。支柱30を洗い場パン2aに着地させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室の洗い場の床面を構成する洗い場パンと、
奥行方向における前記洗い場パンの奥側に配置された浴槽パンと、
前記浴槽パン上に敷設された床ボードと、
前記床ボード上に配置されて前記奥行方向と直交する幅方向へ移動可能な可動浴槽と、
を備え、前記可動浴槽が、浴槽本体と、前記浴槽本体における洗い場側を向く前側部を支持する支柱を含み、前記支柱が、前記洗い場パンに着地していることを特徴とする浴槽可動式浴室。
【請求項2】
前記支柱の下端部に車輪が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項3】
前記支柱の下端部、又は前記洗い場パンにおける前記支柱との摺擦部分に滑り材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項4】
前記可動浴槽にはカム機構が設けられており、
前記カム機構が、前記浴槽本体又は前記支柱に平常位置と作動位置との間で変位可能に設けられたカムと、前記支柱又は前記浴槽本体に設けられて前記カムと相対昇降し合うように係合されたカム受け部と、前記カムを変位させる操作部と、を含み、
前記カムが前記平常位置のとき、前記浴槽本体が前記床ボードに着地されており、
前記カムが前記作動位置のとき、前記相対昇降によって前記浴槽本体が前記床ボードから浮上されることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項5】
前記浴室の奥側壁には、前記浴槽本体の奥側框部を前記幅方向へ移動可能に支持するバックハンガーが設けられていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項6】
前記奥側框部には、前記幅方向へ延びる摺動レールが設けられており、
前記バックハンガーが、前記摺動レールと前記幅方向へ摺動可能に係合する摺動ガイドを有していることを特徴とする請求項5に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項7】
前記浴槽本体の奥側框部が、奥側支柱によって前記幅方向へ移動可能に支持されており、
前記浴槽パンの奥端部には段差状の受け台が形成され、前記奥側支柱が前記受け台の上に載っており、
前記受け台の段差状の側面に前記床ボードの奥側の端面が対面していることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項8】
前記奥側支柱の底部に奥側車輪が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項9】
前記奥側支柱の底部に奥側滑り材が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の浴槽可動式浴室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動式の浴槽を有する浴室に関し、特に要介助者などの利用に適した浴槽可動式浴室に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅や介助施設における要介助者などのための浴室は、その身体機能や介助の仕方に合わせて、浴槽の位置を変更可能にしたものが知られている(特許文献1、2など参照)。
【0003】
特許文献1においては、浴槽の配置に合わせて、浴槽パンにおける浴槽が置かれていない空きスペースには床ボードを設置している。
特許文献2においては、浴槽の底部の四隅に板バネを介して車輪が設けられている。浴槽パン上で車輪を転がすことにより、浴槽を容易に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-066011号公報([0034])
【特許文献2】実用新案登録第2551207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の浴室においては、浴槽の移動の際、移動させる側の床ボードを取り外し、移動後、空いたスペースに床ボードを移し替える必要があり、煩雑である。
そこで、浴槽パン上に床ボードを敷き詰め、これら床ボードの上に浴槽を設置することが考えられる。しかし、この場合、清掃等のために床ボードを取り外すと、浴槽が傾いて不安定になったり、特許文献2の浴槽においては車輪が脱輪したりするおそれがある。また、浴槽の支柱や車輪が床ボード上にあると、床ボードの取り外しや再設置が容易でない。さらに、浴槽の移動時には、浴槽の支柱や車輪が床ボードの継ぎ目に引っ掛かるそれがある。
本発明は、かかる事情に鑑み、浴槽パン上に床ボードを敷設し、その上に可動浴槽を設置した浴槽構造において、可動浴槽をスムーズに移動でき、さらに床ボードの取り外しや浴槽パンの清掃に支障を来すことがなく、床ボードを取り外した状態でも可動浴槽の安定を保持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る浴槽可動式浴室は、
浴室の洗い場の床面を構成する洗い場パンと、
奥行方向における前記洗い場パンの奥側に配置された浴槽パンと、
前記浴槽パン上に敷設された床ボードと、
前記床ボード上に配置されて前記奥行方向と直交する幅方向へ移動可能な可動浴槽と、
を備え、前記可動浴槽が、浴槽本体と、前記浴槽本体における洗い場側を向く前側部を支持する支柱を含み、前記支柱が、前記洗い場パンに着地していることを特徴とする。
【0007】
当該浴槽可動式浴室においては、可動浴槽の前側部の荷重が支柱から洗い場パンに受け渡される。可動浴槽の移動時には、支柱が洗い場パン上を移動される。したがって、浴槽パン上の床ボードどうしの継ぎ目に隙間や段差があったとしても、そのような隙間や段差に支柱が引っ掛かることはない。したがって、可動浴槽をスムーズに移動させることができる。
床ボードには支柱が載っていないから、床ボードを簡単に取り外すことができる。床ボードを取り外すことで、浴槽パンを容易に清掃できる。可動浴槽の真下の床ボードについても、可動浴槽を移動させることで簡単に取り外すことができる。床ボードを取り外したからといって、可動浴槽が傾くことはなく、可動浴槽の移動に支障を来すこともない。清掃後、床ボードを再度設置するのも容易である。
【0008】
前記支柱の下端部に車輪が設けられていることが好ましい。
これによって、可動浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を十分に低減することができる。
【0009】
前記支柱の下端部、又は前記洗い場パンにおける前記支柱との摺擦部分に滑り材が設けられていてもよい。前記滑り材は、低摩擦材料からなることが好ましい。これによって、可動浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を十分に低減することができる。
【0010】
前記可動浴槽にはカム機構が設けられており、
前記カム機構が、前記浴槽本体又は前記支柱に平常位置と作動位置との間で変位可能に設けられたカムと、前記支柱又は前記浴槽本体に設けられて前記カムと相対昇降し合うように係合されたカム受け部と、前記カムを変位させる操作部と、を含み、
前記カムが前記平常位置のとき、前記浴槽本体が前記床ボードに着地されており、
前記カムが前記作動位置のとき、前記相対昇降によって前記浴槽本体が前記床ボードから浮上されることが好ましい。
平常時は、カムを平常位置にしておくことで、カム及びカム受け部どうしを互いに平常の相対高さにする。これによって、浴槽本体が床ボードに着地されて安定的に静置される。したがって、入浴などに支障を来すことが無い。
可動浴槽の移動時には、操作部によってカムを作動位置にする。すると、カム及びカム受け部どうしが互いのカム作用によって相対昇降し合うことで、浴槽本体が床ボードから浮き上がる。これによって、可動浴槽を浴室幅方向へ軽い力で容易に移動させることができる。
浴槽を所望の位置まで移動させた後、操作部によってカムを平常位置に戻す。これによって、カム及びカム受け部どうしが互いのカム作用によって平常の相対高さになり、浴槽本体が下降されて床ボードに着地される。
【0011】
前記浴室の奥側壁には、前記浴槽本体の奥側框部を前記幅方向へ移動可能に支持するバックハンガーが設けられていることが好ましい。
これによって、可動浴槽の奥側部の支持構造が、床ボードの取り外しや再設置の邪魔になることがない。可動浴槽の奥側部の荷重はバックハンガーから浴室奥側壁に受け渡される。可動浴槽の移動時には、奥側框部がバックハンガーに対して摺動される。
【0012】
前記奥側框部には、前記幅方向へ延びる摺動レールが設けられており、
前記バックハンガーが、前記摺動レールの前記幅方向への相対移動を許容し、かつ前記幅方向と直交する奥行方向への相対移動を規制するようにして前記摺動レールと係合する摺動ガイドを有していることが好ましい。前記摺動レール又は摺動ガイドは、低摩擦材料からなることが好ましい。これによって、浴槽の移動時に、奥側框部とバックハンガーとの間に作用する摩擦抵抗を低減することができる。
【0013】
前記浴槽本体の奥側框部が、奥側支柱によって前記幅方向へ移動可能に支持されており、
前記浴槽パンの奥端部には段差状の受け台が形成され、前記奥側支柱が前記受け台の上に載っており、
前記受け台の段差状の側面に前記床ボードの奥側の端面が対面していることが好ましい。
これによって、可動浴槽の移動時には、奥側支柱が受け台上を移動される。したがって、浴槽パン上の床ボードどうしの継ぎ目に隙間や段差があったとしても、そのような隙間や段差に奥側支柱が引っ掛かることはない。したがって、可動浴槽をスムーズに移動させることができる。床ボードには奥側支柱が載っていないから、床ボードを簡単に取り外したり、再設置したりできる。
受け台の段差状の側面に前記床ボードの奥側の端面が対面されることによって、床ボードを浴室奥行方向に位置決めできる。
【0014】
前記奥側支柱の底部に奥側車輪が設けられていることが好ましい。
これによって、可動浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を十分に低減することができる。
【0015】
前記奥側支柱の底部に奥側滑り材が設けられていてもよい。前記奥側滑り材は、低摩擦材料からなることが好ましい。これによって、可動浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を十分に低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、浴槽パンに敷設された床ボード上の可動浴槽をスムーズに移動させることができる。床ボードの取り外しや浴槽パンの清掃に支障を来すこともない。さらに床ボードを取り外した状態でも可動浴槽の安定を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る浴槽可動式浴室の平面図である。
【
図2】
図2(a)は、浴槽が幅方向の中央部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
図2(b)は、浴槽が幅方向の左側部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
図2(c)は、浴槽が幅方向の右側部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
【
図3(a)】
図3(a)は、前記浴槽を前側から見た斜視図である。
【
図3(b)】
図3(b)は、前記浴槽を奥側から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1のIV-IV線に沿う、前記浴槽の側面断面図である。
【
図6】
図6は、
図5に表されたバックハンガー及び摺動レールを浴室前方かつ下方から矢視した斜視図である。
【
図7】
図7は、前記バックハンガーを浴室奥側から矢視した斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施形態に係る浴槽の側面断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3実施形態に係る浴槽の側面断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第4実施形態に係る浴槽の側面断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第5実施形態に係る浴槽を、着地位置にして示す側面断面図である。
【
図12】
図12は、前記第5実施形態に係る浴槽を、浮上位置にして示す側面断面図である。
【
図13】
図13(a)は、前記着地位置の浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
図13(b)は、前記浮上位置の浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(
図1~
図7)>
図1に示すように、浴槽可動式浴室1は、浴室床2と、可動浴槽3を備えている。浴室床2は、洗い場パン2a及び浴槽パン4と敷設体5によって構成されている。浴室1の幅方向と直交する奥行方向の前側(
図1において下)に防水構造の洗い場パン2aが配置されている。洗い場パン2aによって、浴室1の洗い場の床面が構成されている。前記奥行方向における洗い場パン2aの奥側(
図1において上)に防水構造の浴槽パン4が配置されている。浴槽パン4上に複数(ここでは4つ)の四角形の床ボード5aが幅方向に並べられて敷設されている。これら床ボード5aによって敷設体5が構成されている。
図4に示すように、床ボード5aの上面ひいては敷設体5の上面には、浴室の奥側(
図4において右)へ向かって緩やかに下傾する排水勾配が形成されている。
【0019】
床ボード5aひいては敷設体5上に可動浴槽3が配置されている。
図1に示すように、可動浴槽3の幅は、浴槽パン4の幅より小さい。
図2(a)~同図(c)に示すように、可動浴槽3は、浴室1の幅方向に移動(位置変更)可能である。
【0020】
図3(a)及び同図(b)に示すように、浴槽3は、浴槽本体(バスタブ)10と、エプロン20を含む。浴槽本体10の上端部には、全周にわたって框12が設けられている。
図1及び
図4に示すように、浴槽本体10の底部には、脚部17が設けられている。脚部17は、例えば浴槽本体10の幅方向の両側に配置され、奥行方向へ延びている。脚部17が敷設体5に着地している。エプロン20は、浴槽本体10の前面および両側面を覆っている。
【0021】
図4に示すように、可動浴槽3には、奥行方向の前側部及び奥側部をそれぞれ支持する支持構造が設けられている。
前側部の支持構造は、次のように構成されている。
図1に示すように、可動浴槽3の前側部の左右のコーナーに一対の支柱30(支持体)が設けられている。支柱30によって浴槽3の前側部が支持されている。
図4に示すように、支柱30の上端部は、ボルト等の連結手段によって浴槽本体10に連結されている。支柱30の中間部は、支持ブラケット34を介してエプロン20に連結されている。したがって、支柱30は、浴槽本体10及びエプロン20と固定されている。
【0022】
支柱30の下端部には、キャスター33(車輪)が設けられている。キャスター33の車軸は、浴室奥行方向へ向けられている。キャスター33(支持体の底部)が、浴室床2の洗い場パン2aにおける浴槽側の縁近くの上面に載っている。これによって、可動浴槽3の前側部が、支柱30を介して、洗い場パン2aに支持されている。
【0023】
キャスター33は、洗い場パン2a上を浴室幅方向へ転動可能である。キャスター33は、支柱30と浴室床2との間の摩擦を低減する前側摩擦低減手段を構成している。キャスター33には回転ロック機構(図示せず)が設けられていてもよい。キャスター33の前面部は、エプロン20と同じ質感のキャスターカバー23によって覆われている。
【0024】
可動浴槽3における奥側部は、次のようにして支持されている。
図5に示すように、浴槽3の奥側部には、摺動レール60が設けられている。摺動レール60は、浴槽本体10の奥側框部12dの上板部に固定されている。摺動レール60は、概略四角形の一定断面に形成され、浴室1の幅方向へ直線状に延びている。摺動レール60は、低摩擦材料によって構成されている。低摩擦材料としては、ポリアセタール(POM)、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどが挙げられる。
【0025】
図5及び
図6に示すように、摺動レール60の底面及び前側面には、複数条の凹溝61が並んで形成されている。これによって、隣接する凹溝61の間に摺動突条62が形成されている。各凹溝61及び摺動突条62は、摺動レール60の長手方向(浴室の幅方向)へ真っ直ぐ延びている。摺動レール60の底面には、長手方向(浴室の幅方向)に間隔を置いて複数のクリック孔64が形成されている。
【0026】
図3(b)及び
図4に示すように、浴室1の奥側壁7には、1又は複数のバックハンガー50が設けられている。ここでは、2つのバックハンガー50が、互いに浴室幅方向に間隔を置いて設けられている。これらバックハンガー50によって、浴槽本体10の奥側框部12dが幅方向に移動可能に支持されている。
【0027】
詳しくは、
図6及び
図7に示すように、バックハンガー50は、壁固定部材51と、ガイド部材52を含む。壁固定部材51は、硬質樹脂の成形品であり、上端が開口された概略角筒状に形成されている。壁固定部材51の材質としては、強度確保のために、POM、ガラス繊維強化ポリプロピレンなどを用いることが好ましい。
なお、壁固定部材51は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0028】
図7に示すように、壁固定部材51にガイド部材52が保持されている。ガイド部材52は、硬質樹脂の成形品であり、概略四角形の筒状に形成されている。ガイド部材52の材質としては、摺動を高めるために、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が用いられている。ガイド部材52を構成する低摩擦材料は、摺動レール60を構成する低摩擦材料と同一でもよく、異なっていてもよい。ガイド部材52は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0029】
図7に示すように、ガイド部材52の上端部には、上方へ開口する凹部状の摺動ガイド54が形成されている。
図5に示すように、摺動レール60が、ガイド部材52に載せられ、摺動ガイド54に係合されている。摺動ガイド54は、摺動レール60の浴室幅方向への相対移動を許容し、かつ浴室奥行方向への相対移動を規制している。このようにして、可動浴槽3の奥側框部12dが、バックハンガー50によって浴室幅方向へ移動可能に支持されている。
さらに、ガイド部材52には、浴槽3の前記傾斜時や浴室幅方向への移動時に奥側框部12dが奥側壁7にぶつからないように、奥側框部12dの奥側方向への変位を規制する奥側規制部54dが設けられている。
【0030】
摺動ガイド54の凹底面54aには、わずかに隆起する部分球状のクリック凸部57が形成されている。摺動レール60ひいては浴槽3が浴室幅方向の所定位置に在るとき、クリック凸部57が所定のクリック孔64に嵌っている。
【0031】
浴槽可動式浴室1においては、可動浴槽3の前側部の荷重は支柱30から洗い場パン2aに受け渡される。可動浴槽3の奥側部の荷重は、バックハンガー50から奥側壁7に受け渡される。したがって、可動浴槽3から床ボード5aにかかる荷重を十分に軽減できる。
可動浴槽3は、要介助者の身体機能などに応じて適切な浴室幅方向位置に配置されて利用される。可動浴槽3の位置変更の際は、支柱30のキャスター33が浴室床2の洗い場パン2a上を転動される。したがって、浴槽3の前側部にかかる摩擦抵抗を十分に小さくできる。また、奥側框部12dにおける低摩擦材料の摺動レール60がバックハンガー50の摺動ガイド54と摺擦される。したがって、浴槽3の奥側部にかかる摩擦抵抗をも十分に小さくできる。これによって、浴槽3を軽い力で移動させることができる。
【0032】
摺動レール60に対して幅方向への移動力を付与することによって、クリック凸部57がクリック孔64から抜け出す。浴槽3が浴室幅方向の1の所定位置まで移動された時、摺動レール60における1のクリック孔64がクリック凸部57と一致し、該クリック孔64にクリック凸部57が嵌入される。この時、クリック感が生じ、浴槽3が所定位置に来たことを感知できる。
【0033】
可動浴槽3の移動に際して、特許文献1のような床ボードの位置替えを行う必要はない。したがって、浴槽3の移動作業を簡易化できる。
キャスター33は浴槽パン4側ではなく洗い場パン2a側に配置されているから、浴槽パン4上の床ボード5aどうしの継ぎ目に隙間や段差があったとしても、そのような隙間や段差に移動中のキャスター33が引っ掛かることはない。したがって、浴槽3をスムーズに移動させることができる。
床ボード5aには支柱30が載っていないから、床ボード5aを簡単に取り外すことができる。床ボード5aを取り外すことで、浴槽パン4を容易に清掃できる。可動浴槽3の真下の床ボード5アについても、可動浴槽3を移動させることで簡単に取り外すことができる。床ボード5aを取り外したからといって、可動浴槽3が傾くことはなく、可動浴槽3の移動に支障を来すこともない。清掃後、床ボード5aを再度設置するのも容易である。
【0034】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の実施形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態(
図8)>
図8に示すように、第2実施形態においては、可動浴槽3の前側部及び奥側部が、共にキャスター33,73付きの支柱30,70によって支持されている。詳しくは、浴槽3の奥側部には、バックハンガー50(
図4参照)に代えて、奥側支柱70が設けられている。奥側支柱70は、奥側壁7に沿って立設されている。奥側支柱70の上端部が、浴槽本体10の奥側框部12dに突き当てられて固定されている。奥側支柱70の底部には、奥側キャスター73(奥側車輪)が設けられている。これによって、奥側支柱70は、奥側框部12dを浴室幅方向へ移動可能に支持している。
なお、詳細な図示は省略するが、好ましくは、奥側支柱70は、浴室幅方向(
図8において紙面と直交する方向)に離れて一対設けられており、これら一対の奥側支柱70によって、奥側框部12dの両端部を支持している。
【0035】
第2実施形態の床ボード5aの奥端部(
図8において右端部)は、奥側壁7まで達していない。浴槽パン4の奥端部が、床ボード5aよりも奥側へ突出されている。該浴槽パン4の奥端部には、段差状の受け台4bが上へ突出するように形成されている。受け台4bの段差状の側面に床ボード5aの奥側の端面が対面している。
【0036】
キャスター73が受け台4bの上面に載っている。ひいては、奥側支柱70が受け台4b上に載っている。これによって、可動浴槽3の奥側部が、奥側支柱70を介して、浴槽パン4に支持されている。
【0037】
可動浴槽3の浴槽幅方向への移動時には、前側のキャスター33が洗い場パン2a上を転動するとともに、奥側のキャスター73が受け台4b上を転動する。これによって、可動浴槽3を軽い力でスムーズに移動させることができる。
【0038】
<第3実施形態(
図9)>
図9に示すように、第3実施形態においては、前側支柱30の下端部に、キャスター33(
図4、
図8参照)に代えて、摺動材36が設けられている。摺動材36が洗い場パン2aに接地されている。奥側支柱70の下端部には、キャスター73(
図8参照)に代えて、摺動材76が設けられている。摺動材76が受け台4bに接地されている。摺動材36,76の材質としては、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が挙げられる。
【0039】
可動浴槽3の移動時には、前側支柱30の下端の低摩擦材料からなる摺動材36が洗い場パン2aに摺擦されるとともに、奥側支柱70の下端の低摩擦材料からなる摺動材76が受け台4bに摺擦される。これによって、可動浴槽3と浴室床2との間の摩擦抵抗を軽減できる。
【0040】
<第4実施形態(
図10)>
図10に示すように、第4実施形態においては、支柱30,70の下端の摺動材36,76に加えて、浴室床2に摺動材2s,4sが設けられている。前側の摺動材2sは、洗い場パン2aの上面における浴槽との境2bに沿って配置され、浴室幅方向(
図10において紙面直交方向)へ延びる長板状に形成されている。該摺動材2sが、支柱30の下端の摺動材36と接している。
【0041】
奥側の摺動材4sは、受け台4bの上面に配置され、浴室幅方向(
図10において紙面直交方向)へ延びる長板状に形成されている。該摺動材4sが、支柱70の下端の摺動材76と接している。
【0042】
摺動材2s,4sの材質としては、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が挙げられる。
可動浴槽3の移動時には、低摩擦材料からなる前側摺動材36,2sどうしが摺擦されるとともに、低摩擦材料からなる奥側摺動材76,4sどうしが摺擦される。これによって、可動浴槽3と浴室床2との間の摩擦抵抗を一層軽減できる。
【0043】
<第5実施形態(
図11~
図13)>
図11に示すように、第5実施形態においては、浴槽3の前側部の支柱30Eが、第1支柱部31と、第2支柱部32を含む。第1支柱部31の上端部は、ボルト等の連結手段によって浴槽本体10に連結されている。第1支柱部31の中間部は、支持ブラケット34,35及びエプロン20の本体21を介して浴槽本体10と固定されている。第1支柱部31の下端の脚底部材31bが、浴室床2の敷設体5に着地されている。脚底部材31bの底面(下面)には、滑り止め材が設けられていてもよい。
【0044】
第2支柱部32は、第1支柱部31の前方(
図11において左方)にずれて配置されている。洗い場と浴槽の境2bを挟んで、第1支柱部31は浴槽側に配置され、第2支柱部32は洗い場側に配置されている。
【0045】
第2支柱部32は、支持ブラケット34,35に上下変位可能に支持されている。ひいては、第2支柱部32は、支持ブラケット34,35を介して第1支柱部31と相対的に上下変位可能に連結されている。第2支柱部32の下端部に、キャスター33が洗い場パン2a上を浴室幅方向へ転動可能に設けられている。したがって、第2支柱部32の下端部は、第1支柱部31の下端部より浴室床2に対する浴室幅方向の摩擦抵抗が低い。
【0046】
さらに、第2支柱部32は、エプロン20の裾部22を支持する裾支持部を構成している。詳しくは、
図11に示すように、第5実施形態のエプロン20は、下端のエプロン裾部22が、それより上側のエプロン本体21とは別体になっている。エプロン本体21が、浴槽本体10及び第1支柱部31と固定されている。
図13(a)に示すように、エプロン本体21の下端部には、下向き段差21dを介して凹み壁24が垂設されている。凹み壁24にエプロン裾部22が相対的に上下変位可能に係合されている。エプロン裾部22は、例えばエプロン本体21より薄肉の樹脂によって構成され、断面U字状に形成されており、その内部に凹み壁24が差し入れられている。エプロン裾部22の長手方向の端部が、第2支柱部32に固定されて支持されている。エプロン裾部22は、キャスター33のコ字状の車輪ホルダー33hに固定されていてもよく、第2支柱部32の本体部32aに直接又はブラケット(図示せず)を介して固定されていてもよい。
【0047】
エプロン裾部22と浴室床2との間の隙間25の大きさ(上下寸法)は、0mm超~8mm未満である。
なお、エプロン裾部22における、浴槽側方を覆う側面エプロン裾部22bの奥側の端部は、エプロン本体21に連結軸27を介して連結されている。
【0048】
図11に示すように、さらに、第5実施形態における浴槽3の前側部には、支柱30Eと連係するカム機構40が設けられている。カム機構40は、カム41と、カム受け部42と、操作レバー43(操作部)を含む。
【0049】
カム41は、第2支柱部32の上方における、エプロン20と第1支柱部31との間に形成されたスペースに配置され、支持ブラケット34に添えられている。支持ブラケット34にはカム軸41c(カム連結部)が設けられている。該カム軸41cのまわりに、カム41が、平常位置と作動位置の間で回転変位可能に取り付けられている。カム41は、カム軸41c及び支持ブラケット34を介して、浴槽本体10及び第1支柱部31に連結されている。カム41における平常位置から作動位置にかけて下を向く側面(第2支柱部32と対向する面)が、カム面41aを構成している。
【0050】
カム受け部42は、第2支柱部32の上端部に取り付けられ、第2支柱部32に対して位置固定されている。該カム受け部42がカム面41aに突き当てられることで、カム41とカム受け部42とが、互いのカム作用によって相対昇降し合うように係合されている。
【0051】
カム41から操作レバー43が延び出ている。操作レバー43の操作によって、カム41が平常位置と作動位置との間で変位される。エプロン本体21の前面部の両側部には、カム41及び操作レバー43が収まる縦長の開口部21gが形成されている。
【0052】
図11に示すように、カム41が平常位置のときの操作レバー43は、前面エプロン本体21aに沿ってカム41から垂下され、開口部21gに収まっている。このとき、カム41及びカム受け部42どうしは、互いに平常の相対高さにあり、浴槽本体10が着地位置に配置されるとともに、第1支柱部31と第2支柱部32の下端部どうしが、略同じ高さに配置されて、それぞれ浴室床2に着地されている。すなわち、浴槽本体10の底部の脚部17が床ボード5aに着地されるとともに、第1支柱部31の下端の脚底部材31bが床ボード5aに着地され、第2支柱部32のキャスター33は、洗い場パン2aに着地されている。
【0053】
図12に示すように、カム41が作動位置のときの操作レバー43は、前面エプロン本体21aから前方へ突出される。このとき、カム41及びカム受け部42どうしは、平常時とは異なる相対高さになる。具体的には、カム軸41cとカム受け部42の高低差が前記平常位置のときより増大される。このため、支柱30Eの全体高さが平常位置のときより伸長される。これによって、
図12及び
図13(b)に示すように、浴槽本体10の前側部及び第1支柱部31が浴室床2から浮上されて、浴槽本体10が浮上位置に配置される。かつ、第2支柱部32のキャスター33が、第1支柱部31の脚底部材31bより下方へ突出され、第1支柱部31及び第2支柱部32のうち、第2支柱部32のキャスター33だけが、浴室床2に着地される。
【0054】
図11に示すように、第5実施形態においては、通常使用時は、操作レバー43が開口部21g内に収まり、カム41が平常位置に配置され、カム軸41cとカム受け部42どうしの高低差が平常になっている。これによって、浴槽本体10及び第1支柱部31が床ボード5aに着地されている。したがって、可動浴槽3を浴室床2に安定的に載置でき、入浴に支障を来すことが無い。浴槽本体10に加わる荷重は、該浴槽本体10から浴室床2へ直接受け渡されるとともに、第1支柱部31から浴室床2へ受け渡される。したがって、第2支柱部32に加わる荷重を十分に小さくでき、カム機構40やキャスター33への負荷を軽減できる。
【0055】
図12に示すように、可動浴槽3の移動時には、操作レバー43を手前側へ回すことによって、カム41を作動位置にする。これによって、カム41とカム受け部42が相対昇降される。具体的には、カム軸41cとカム受け部42の高低差が平常位置のときより増大される。これによって、支柱30Eの全体高さが伸長される。
このため、浴槽本体10の前側部が、バックハンガー50を回転支点として、浴室床2から浮き上がる。したがって、可動浴槽3の配置変更時に、浴槽本体10と浴室床2との間に働く摩擦抵抗を低減できる。かつ、浴槽本体10と一緒に第1支柱部31も浴室床2から浮き上がる。したがって、第1支柱部31と浴室床2との間に摩擦が働くことが無い。
【0056】
これに対し、第2支柱部32は、浮上されることなく、元の高さにとどまり、キャスター33が浴室床2に着地した状態を保持する。これによって、キャスター33を浴室床2に沿って転動させながら、可動浴槽3を浴室幅方向へ軽い力で容易に移動させることができる。バネ等の振動で可動浴槽3が不安定になることが無く、可動浴槽3の移動作業を安定的に行うことができる。
【0057】
エプロン本体21は、浴槽本体10の前側部及び第1支柱部31と一体に浮上される。一方、エプロン裾部22は、浮上されることなく、第2支柱部32と共に元の高さにとどまり、浴室床2に対して平常時と同じ高さを維持する。したがって、隙間25の大きさを常時8mm未満に維持でき、配置変更作業中に隙間25に足の指を挟むのを防止することができる。
【0058】
可動浴槽3を浴槽幅方向の所望の位置まで移動させた後、
図11に示すように、操作レバー43を倒し、カム41を平常位置にする。これによって、カム軸41cとカム受け部42の高低差が平常に戻り、支柱30Eの全体高さが収縮されるとともに、浴槽本体10及び第1支柱部31が下降して床ボード5aに着地される。これによって、可動浴槽3を、変更後の配置位置に安定的に設置できる。
【0059】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の改変をなすことができる。
例えば、複数の実施形態の独自形態を互いに組み合わせてもよい。一例として、第1実施形態(
図4)において、前側のキャスター33を、第3実施形態(
図9)の摺動材36に置き換えてもよい。第2実施形態(
図8)において、前後のキャスター33,73の何れか一方を、第3実施形態(
図9)の摺動材36,76に置き換えてもよい。
第4実施形態(
図10)において、前側摺動材2s,36のうち支柱側の摺動材36を省略してもよい。奥側摺動材4s,76のうち支柱側の摺動材76を省略してもよい。
第2実施形態(
図8)における奥側支柱70を、第5実施形態(
図11~
図13)の支柱30Eのように、第1支柱部及び第2支柱部によって構成し、かつカム機構によって全体高さが伸縮されるようにしてもよい。
カム機構は、操作部43の操作力を第1及び第2支柱部31,32どうしの相対高さ変位に変換するものであればよい。カム機構が、ネジ機構によって構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば介護施設における浴槽に適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 浴槽可動式浴室
2 浴室床
2a 洗い場パン
3 可動浴槽
4 浴槽パン
4b 段差状の受け台
5 敷設体
5a 床ボード
7 奥側壁
10 浴槽本体
12 框
12d 奥側框部
30 支柱
30E 支柱
33 キャスター(車輪)
31 第1支柱部
32 第2支柱部
40 カム機構
41 カム
41a カム面
42 カム受け部
43 操作レバー(操作部)
50 バックハンガー
54 摺動ガイド
60 摺動レール
70 奥側支柱
73 奥側キャスター(奥側車輪)