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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157558
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】推定装置およびモデル生成方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20221006BHJP
   G01V 1/00 20060101ALI20221006BHJP
   G01V 1/28 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G01V1/00 C
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061849
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】515130201
【氏名又は名称】株式会社Preferred Networks
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 仁志
(72)【発明者】
【氏名】柴山 拓也
【テーマコード(参考)】
2G105
5L096
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB01
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG06
2G105LL03
2G105LL05
2G105LL07
5L096AA09
5L096BA18
5L096CA25
5L096EA43
5L096FA06
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】観測対象の構造における物性値の空間分布を、低コストかつ高い信頼度で推定すること。
【解決手段】実施形態に係る推定装置は、推定部を備える。推定部は、観測対象の構造に関する観測データと、前記観測対象の構造に関する補助データとを入力として前記構造における物性値の空間分布を示す物性空間データを出力する学習済みモデルに、前記観測データと前記補助データとを入力することにより前記物性空間データを推定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象の構造に関する観測データと、前記観測対象の構造に関する補助データとを入力として前記構造における物性値の空間分布に関する物性空間データを出力する学習済みモデルに、前記観測データと前記補助データとを入力することにより前記物性空間データを推定する推定部を備える、
推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記観測データと、推定された前記物性空間データとに基づいて再度生成された前記補助データとを前記学習済みモデルに入力することにより、前記物性空間データを再度推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記補助データは、前記観測データに基づいて生成されたデータである、
請求項1または2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記補助データは、ユーザが生成した前記観測対象の構造に関するデータである、
請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記補助データは、データの信頼度に関する情報を有し、ユーザが生成した前記データに関する信頼度は、ユーザが生成した前記データを除く他のデータに関する信頼度と比較して高く設定される、
請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記ユーザの指示に基づいて、前記観測対象の構造に関するデータを編集して前記補助データを生成する編集部、を更に備える、
請求項4または5に記載の推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記学習済みモデルとは異なる他の学習済みモデルまたは前記学習済みモデルに前記観測データを入力することで、前記観測対象の構造に関するデータを生成し、
前記補助データは、前記観測対象の構造に関するデータを前記ユーザが編集することにより生成される、
請求項4乃至6のうちいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記補助データと前記物性空間データとにおいて、空間構造が同一である、
請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項9】
前記観測対象は地下であって、
前記観測データは、少なくとも、地下構造に関する観測値または前記観測値に対する所定の前処理により生成されたデータのいずれか1つに関するデータであって、
前記補助データは、前記物性値の空間分布に関連する地層境界面を示す境界画像に関する情報である、
請求項1乃至8のうちいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項10】
前記物性値は、前記地下における弾性波の速度、前記地下構造に関する密度、前記地下構造に関する硬さ、前記地下構造における空隙の割合の少なくとも一つに関する情報を含む、
請求項9に記載の推定装置。
【請求項11】
観測対象の構造における物性値の空間分布を示す正解データに基づいて、前記構造の観測データに対応する第1入力データと、前記空間分布に関する第2入力データとを生成し、
前記第1入力データと前記第2入力データとの対に対応する前記正解データと、前記第1入力データと、前記第2入力データとの組である学習用データを用いてモデルを学習して、学習済みモデルを生成すること、
を備えるモデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、推定装置およびモデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下探査には、例えば物理探査と地震探査などがある。物理探査において、実際に地下深く井戸を掘った高コストなボーリング調査により、当該井戸の中に計測機器を下ろし、地下岩盤のさまざまな物性値を直接計測したものを検層(well log)という。検層により得られたデータ(検層データ)は、検層に関する井戸を掘った特定地点における物性値を鉛直方向に(空間的に1次元的に)計測できるが、その他の地点についての情報は得られない。また、地震探査(震探)は広範囲で実施可能であり、広い範囲についての情報(震探データ)を獲得できるが、地下の物性値を直接計測できるわけではない。
【0003】
このような状況のもと、例えば、地下の音響インピーダンス(acoustic impedance)の推定において、検層データを用いてよりよい推定を獲得しようとした研究がある。また、鉛直方向(空間的に1次元)の地震インピーダンス(上述の音響インピーダンスと同様の物理量)を推定するニューラルネットワークモデルを訓練したのち、検層データを用いてfine-tuningすることで、高い推定性能を実現する研究がある。いずれの研究においても検層データの取得にはコストがかかること、および推定結果の信頼度は不明である問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Motaz Alfarraj and Ghassan AlRegib. Semi-supervised learning for acoustic impedance inversion. SEG Technical Program Expanded Abstracts, 2298-2302, 2019. DOI:10.1190/segam2019-3215902.1 arXiv:1905.13412
【非特許文献2】Bangyu Wu, Delin Meng, Lingling Wang, Naihao Liu, and Ying Wang. Seismic impedance inversion using fully convolutional residual network and transfer learning. IEEE Geoscience and Remote Sensing Letters, 17(12), 2140-2144, 2020. DOI:10.1109/LGRS.2019.2963106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明が解決しようとする課題は、観測対象の構造における物性値の空間分布を、低コストかつ高い信頼度で推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態にかかる推定装置は、推定部を備える。推定部は、観測対象の構造に関する観測データと、前記観測対象の構造に関する補助データとを入力として前記構造における物性値の空間分布を示す物性空間データを出力する学習済みモデルに、前記観測データと前記補助データとを入力することにより前記物性空間データを推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態にかかる推定装置を有する探査システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るプロセッサにおける機能ブロックの一例を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るエッジ画像の一例を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態に係り、図3に示すエッジ画像を編集した編集データを示す図である。
図5図5は、第1の実施形態に係り、データ生成処理の概要を示す概要図である。
図6図6は、第1の実施形態に係り、データ生成処理における手順の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第2の実施形態に係り、エッジ推定処理の概要を示す概要図である。
図8図8は、第1の実施形態に係る物性空間生成モデルの生成に関するモデル生成方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら実施形態について詳細に説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態にかかる推定装置3を有する探査システム1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、探査システム1は、推定装置3と、通信ネットワーク5を介して推定装置3に接続された取得装置7と、通信ネットワーク5を介して推定装置3に接続された外部装置9Aと、デバイスインタフェース39を介して接続された外部装置9Bと、を備えている。探査システム1は、観測対象に対して音波、電磁波などを出力し、観測対象の内部を伝搬した反射波に基づいて当該観測対象の構造を探査するシステムである。構造の一部として内部構造がある。取得装置7は、例えば、観測対象に対して音波、電磁波などを出力し、観測対象の内部で反射し伝搬した反射波を、観測データとして取得する装置である。推定装置3は、反射波に基づいて、当該内部構造における物性値の空間分布を推定する。観測対象は、地下、柱や橋などの人工構造物、雲、生体などである。探査システム1は、例えば、非破壊検査、構造物に対する音波診断、エコー検査、潜水艦ソナー、リモートセンシングなどに適用可能である。以下、説明を具体的にするために、観測対象は、地下であるものとして説明する。このとき、推定装置3は、地下の内部構造における物性値の空間分布を推定する。
【0010】
推定装置3は、コンピュータ30と、デバイスインタフェース39を介してコンピュータ30に接続された外部装置9Bと、を有する。また、取得装置7は、デバイスインタフェース39を介してコンピュータ30に接続されてもよい。コンピュータ30は、一例として、プロセッサ31と、主記憶装置(メモリ)33と、補助記憶装置(メモリ)35と、ネットワークインタフェース37と、デバイスインタフェース39と、を備える。推定装置3は、プロセッサ31と、主記憶装置33と、補助記憶装置35と、ネットワークインタフェース37と、デバイスインタフェース39とがバス41を介して接続されたコンピュータ30として実現されてもよい。なお、コンピュータ30は、取得装置15に搭載されてもよい。
【0011】
図1に示すコンピュータ30は、各構成要素を一つ備えているが、同じ構成要素を複数備えていてもよい。また、図1では、1台のコンピュータ30が示されているが、ソフトウェアが複数台のコンピュータにインストールされて、当該複数台のコンピュータそれぞれがソフトウェアの同一の又は異なる一部の処理を実行してもよい。この場合、コンピュータそれぞれがネットワークインタフェース37等を介して通信して処理を実行する分散コンピューティングの形態であってもよい。つまり、本実施形態における推定装置3は、1又は複数の記憶装置に記憶された命令を1台又は複数台のコンピュータが実行することで後述の各種機能を実現するシステムとして構成されてもよい。また、端末から送信された情報は、クラウド上に設けられた1台又は複数台のコンピュータで処理され、この処理結果は、表示装置43などの端末に送信するような構成であってもよい。
【0012】
本実施形態における推定装置3の各種演算は、1又は複数のプロセッサを用いて、又は、ネットワークを介した複数台のコンピュータを用いて、並列処理で実行されてもよい。また、各種演算が、プロセッサ内に複数ある演算コアに振り分けられて、並列処理で実行されてもよい。また、本開示の処理、手段等の一部又は全部は、ネットワークを介してコンピュータ30と通信可能なクラウド上に設けられたプロセッサ及び記憶装置の少なくとも一方により実行されてもよい。このように、本実施形態における後述の各種は、1台又は複数台のコンピュータによる並列コンピューティングの形態であってもよい。
【0013】
プロセッサ31は、コンピュータ30の制御装置及び演算装置を含む電子回路(処理回路、Processing circuit、Processing circuitry、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等)であってもよい。また、プロセッサ31は、専用の処理回路を含む半導体装置等であってもよい。プロセッサ31は、電子論理素子を用いた電子回路に限定されるものではなく、光論理素子を用いた光回路により実現されてもよい。また、プロセッサ31は、量子コンピューティングに基づく演算機能を含むものであってもよい。
【0014】
プロセッサ31は、コンピュータ30の内部構成の各装置等から入力されたデータやソフトウェア(プログラム)に基づいて演算処理を行い、演算結果や制御信号を各装置等に出力することができる。プロセッサ31は、コンピュータ30のOS(Operating System)や、アプリケーション等を実行することにより、コンピュータ30を構成する各構成要素を制御してもよい。
【0015】
本実施形態における推定装置3は、1又は複数のプロセッサ31により実現されてもよい。ここで、プロセッサ71は、1チップ上に配置された1又は複数の電子回路を指してもよいし、2つ以上のチップあるいは2つ以上のデバイス上に配置された1又は複数の電子回路を指してもよい。複数の電子回路を用いる場合、各電子回路は有線又は無線により通信してもよい。
【0016】
主記憶装置33は、プロセッサ31が実行する命令及び各種データ等を記憶する記憶装置であり、主記憶装置33に記憶された情報がプロセッサ31により読み出される。補助記憶装置35は、主記憶装置33以外の記憶装置である。なお、これらの記憶装置は、電子情報を格納可能な任意の電子部品を意味するものとし、半導体のメモリでもよい。半導体のメモリは、揮発性メモリ、不揮発性メモリのいずれでもよい。本実施形態における推定装置3において用いられる各種データを保存するための記憶装置は、主記憶装置33又は補助記憶装置35により実現されてもよく、プロセッサ31に内蔵される内蔵メモリにより実現されてもよい。例えば、本実施形態における記憶部は、主記憶装置33又は補助記憶装置35により実現されてもよい。
【0017】
記憶装置(メモリ)1つに対して、複数のプロセッサが接続(結合)されてもよいし、単数のプロセッサ31が接続されてもよい。プロセッサ1つに対して、複数の記憶装置(メモリ)が接続(結合)されてもよい。本実施形態における推定装置3が、少なくとも1つの記憶装置(メモリ)とこの少なくとも1つの記憶装置(メモリ)に接続(結合)される複数のプロセッサで構成される場合、複数のプロセッサのうち少なくとも1つのプロセッサが、少なくとも1つの記憶装置(メモリ)に接続(結合)される構成を含んでもよい。また、複数台のコンピュータに含まれる記憶装置(メモリ)とプロセッサ31とによって、この構成が実現されてもよい。さらに、記憶装置(メモリ)がプロセッサ31と一体になっている構成(例えば、L1キャッシュ、L2キャッシュを含むキャッシュメモリ)を含んでもよい。
【0018】
ネットワークインタフェース37は、無線又は有線により、通信ネットワーク5に接続するためのインタフェースである。ネットワークインタフェース37は、既存の通信規格に適合したもの等、適切なインタフェースを用いればよい。ネットワークインタフェース37により、通信ネットワーク5を介して接続された取得装置7および外部装置9Aと情報のやり取りが行われてもよい。なお、通信ネットワーク5は、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、PAN(Personal Area Network)等の何れか、又は、それらの組み合わせであってよく、コンピュータ30と外部装置9Aとの間で情報のやり取りが行われるものであればよい。WANの一例としてインターネット等があり、LANの一例としてIEEE802.11やイーサネット(登録商標)等があり、PANの一例としてBluetooth(登録商標)やNFC(Near Field Communication)等がある。
【0019】
デバイスインタフェース39は、表示装置等の出力装置、入力装置、および外部装置9Bと直接接続するUSB(Universal Serial Bus)等のインタフェースである。なお、出力装置は、音声等を出力するスピーカなどを有していてもよい。
【0020】
外部装置9Aはコンピュータ30とネットワークを介して接続されている装置である。外部装置9Bはコンピュータ30と直接接続されている装置である。
【0021】
外部装置9A又は外部装置9Bは、一例として、入力装置(入力部)であってもよい。入力装置は、例えば、カメラ、マイクロフォン、モーションキャプチャ、各種センサ、キーボード、マウス、又はタッチパネル等のデバイスであり、取得した情報をコンピュータ30に与える。また、外部装置9A又は外部装置9Bは、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、又はスマートフォン等の入力部とメモリとプロセッサを備えるデバイス等であってもよい。
【0022】
また、外部装置9A又は外部装置9Bは、一例として、出力装置(出力部)でもよい。出力装置は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)、PDP(Plasma Display Panel)、又は有機EL(Electro Luminescence)パネル等の表示装置であってもよいし、音声等を出力するスピーカ等であってもよい。また、外部装置9A又は外部装置9Bは、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、又はスマートフォン等の出力部とメモリとプロセッサを備えるデバイス等であってもよい。
【0023】
また、外部装置9A又は外部装置9Bは、記憶装置(メモリ)であってもよい。例えば、外部装置9Aはネットワークストレージ等であってもよく、外部装置9BはHDD等のストレージであってもよい。
【0024】
また、外部装置9A又は外部装置9Bは、本実施形態における推定装置3の構成要素の一部の機能を有する装置でもよい。つまり、コンピュータ30は、外部装置9A又は外部装置9Bの処理結果の一部又は全部を、送信又は受信してもよい。
【0025】
取得装置7は、例えば、人工地震を発生して地中に伝搬させる起震部と、人工地震による反射波を受振する受振部とを有する。起震部は、例えば、起震車により実現される。受振部は、反射波を受振し、当該反射波を電気信号に変換する複数のセンサにより実現される。当該センサは、例えば、地震計により実現される。複数のセンサは、1列に配置される。取得装置7は、1回の人工地震(ショット)に応じて受振されたデータに基づいて画像(以下、ショット画像と呼ぶ)を生成する。ショット画像は、観測対象の内部構造に関する観測データに対応し、例えば、地下構造に関する観測値である。例えば、ショット画像の縦軸はショットの実行時点からの時間に対応し、ショット画像の横軸は、取得装置7における受信部に関して、1列に配置された複数のセンサの番号(空間方向)に対応する。換言すれば、本実施形態における観測データは、少なくとも、地下構造に関する観測値または当該観測値に対する所定の前処理により生成されたデータのいずれか1つに関するデータであってもよい。
【0026】
観測データは、上記センサ等を通じて取得した観測対象の構造に関するデータであってもよい。前処理により生成されたデータは、複数のショットに対応する複数のショット画像を用いて、ショット画像とは異なる形式で表現されたデータである。前処理により生成されたデータは、例えば、CMP(Common Mid-Point:共通反射点)重合法により生成されたデータ(以下、CMPデータと呼ぶ)である。CMPデータ(CMPギャザー(CMP gather)とも称される)は、複数のショットに対応する複数のショット画像に対してCMR重合法を適用することにより生成される。CMPデータの生成は、取得装置7に搭載された処理回路により実行されてもよいし、プロセッサ31により実行されてもよい。取得装置7は、観測データを推定装置3に転送する。なお、デバイスインタフェース39と取得装置7とが接続されている場合、取得装置7は、デバイスインタフェース39を介して、観測データをコンピュータ30に出力する。なお、取得装置7は、ショット画像などを表示するディスプレイを有していてもよい。
【0027】
図2は、プロセッサ31における機能ブロックの一例を示す図である。プロセッサ31は、当該プロセッサ31により実現される機能として、推定部311と、編集部313と、制御部315とを有する。推定部311と、編集部313と、制御部315とにより実現される機能は、それぞれプログラムとして、例えば、主記憶装置33または補助記憶装置35などに格納される。プロセッサ31は、主記憶装置33または補助記憶装置35などに格納されたプログラムを読み出し、実行することで、推定部311と、編集部313と、制御部315とに関する機能を実現する。
【0028】
推定部311は、学習済みモデルに、観測対象の構造データに関する補助データと観測データとを入力することにより、観測対象の構造における物性値の空間分布に関する物性空間データを推定する。学習済みモデルにデータを入力することは、観測データと補助データとのうち少なくとも一つを処理して生成されたデータを、学習済みモデルに入力することを含んでもよい。なお、推定部311は、観測データと、推定された物性空間データとに基づいて再度生成された補助データとを学習済みモデルに入力することにより、物性空間データを再度推定してもよい。構造データは、観測対象の構造に関する情報である。当該構造は、例えば、観測対象の内部構造を含んでもよい。補助データは、例えば、構造データを編集して得られる編集データ、または観測データに基づいて生成されたデータ(補助情報)などである。補助情報は、ユーザによる編集が介入していないものと介入しているものとのと、の双方を含む。例えば、補助データは、ユーザが生成した観測対象の構造に関するデータである。編集データは、例えば、ユーザが知見に基づいて、一から順を追って生成した後述のエッジ画像、ユーザが既存のエッジ画像を知見に基づいて編集したものなどである。当該知見は、例えば、生成された物理空間データを含む。学習済みモデルは、観測データと補助データとを入力として物性空間データを出力するモデルであって、予め主記憶装置33または補助記憶装置35などに記憶される。学習済みモデル(以下、物性空間推定モデルと呼ぶ)は、例えば、学習対象のモデルとしてのディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network)を学習することにより予め生成される。なお、学習対象のモデルは、ニューラルネットワーク以外の他のモデルであってよい。
【0029】
補助データと物性空間データとにおいて、空間構造が同一である。例えば、補助データの一例としての編集データと物性空間データとにおいて空間構造が同一である場合、当該空間構造の対応関係を考慮して、当該ディープニューラルネットワークを構成することができる。このとき、当該ディープニューラルネットワークとして、例えば、U-Netが適用可能である。空間構造が同一とは、物性空間推定モデルの入力である構造データと物性空間推定モデルによる予測結果である物性空間データとにおいて、同一位置にある2つのピクセルが、実空間の位置(座標)として同一であることおよびスケールが等しいことに相当する。なお、物性空間推定モデルにおける入出力は、2次元空間を示すデータであってもよいし、3次元空間を示すデータであってもよい。
【0030】
ディープニューラルネットワークの生成方法については、後程説明する。補助データは、例えば、物性値の空間分布に関連する地層境界面を示す境界画像に関する情報である。補助データ(境界画像)の生成については、後程説明する。物性値は、例えば、地下における弾性波の速度、地下構造に関する密度、地下構造に関する硬さ、地下構造における空隙の割合の少なくとも一つに関する情報を含む。なお、物性値は、これらの例示に限定されず、観測対象に対する各種波の送受信により、当該観測対象の内部構造の調査対象となる物性値であれば、いずれの物性値であってもよい。
【0031】
編集部313は、ユーザの指示に基づいて、観測対象の構造に関するデータを編集して補助データを生成する。すなわち、補助データは、観測対象の構造に関するデータをユーザが編集することにより生成されてもよい。例えば、編集部313は、ユーザの指示により境界画像を編集することで、編集データを生成する。境界画像は、例えば、推定部311または外部装置9A、9Bなどにより観測データに基づいて生成され、予め主記憶装置33または補助記憶装置35などに記憶される。具体的には、境界画像は、地層境界面をエッジとして示したエッジ画像に相当する。エッジ画像は、例えば、地層境界面とその他の領域とを2値で区分した2値化画像である。境界画像の生成の詳細については、第2の実施形態において後程説明する。なお、境界画像の編集は、外部装置9A、9Bなどにおいて実行されてもよい。このとき、編集部313は、外部装置9A、9Bなどに搭載されることとなる。
【0032】
図3は、エッジ画像EIの一例を示す図である。図3に示すように、エッジ画像EIにおいて示された濃淡の境界を示す線すなわちエッジは、地層境界面を示している。編集前のエッジ画像EIは、所によって不明瞭となっている。図4は、図3に示すエッジ画像EI(Edge Image)を編集した編集データEEI(Edited Edge Image)を示す図である。エッジ画像EIを編集するユーザは、例えば、エッジ画像EIから地層境界面を推定する専門家(エキスパート)である。図4に示すように、編集後のエッジ画像EEIである編集データは、図3と比べて、編集により不明瞭なエッジが明瞭になっている。
【0033】
制御部315は、推定装置3における各種構成要素を制御する。例えば、制御部315は、推定部311と、編集部313とに関する機能を制御する。また、制御部317は、境界画像の表示、境界画像の編集、および物性値の空間分布を示す画像(以下、物性空間画像と呼ぶ)を表示する。物性空間画像は、物性空間データに対応する画像である。
【0034】
以上、探査システム1における構成について説明した。以下、探査システム1による物性空間データの生成に関する処理(以下、データ生成処理と呼ぶ)について説明する。データ生成処理における説明を具体的にするために、物性空間推定モデルへ入力される観測データはショット画像であって、物性空間推定モデルから出力される物性空間データは、地下における弾性波の速度の空間分布(地下の音速分布)を示す画像(以下、速度マップと呼ぶ)であるものとする。このとき、上記エッジ画像は、当該音速分布の微分値の絶対値を濃淡で示した画像や、当該音速分布の微分値(微分係数)の絶対値を所定の閾値で0または1に弁別したエッジの有無を示す2値化画像に相当する。また、物性空間推定モデルにおける入出力に関するデータは、2次元データであるものとする。
【0035】
図5は、データ生成処理の概要を示す概要図である。図5に示すように、推定部311は、物性空間推定モデルPSEM(Physical property Space Estimation Model)に、ショット画像SIと編集データ(編集後のエッジ画像)EEIとを入力する。エキスパートにより編集されたエッジ画像を物性空間生成モデルPSEMに入力することは、物性空間生成モデルPSEMに速度マップVM(Verocity Map)を出力させる際に、エキスパートによるヒントを与えることに相当する。これにより、物性空間生成モデルPSEMは、速度マップVMを出力する。
【0036】
図6は、データ生成処理における手順の一例を示すフローチャートである。
【0037】
(データ生成処理)
(ステップS601)
取得装置7は、起震部の駆動により人工地震を発生し、人工地震の反射波の受振により受振されたデータに基づいてショット画像を取得する。ショット画像は、主記憶装置33または補助記憶装置35に記憶される。このとき、エッジ画像は、ショット画像に基づいて生成される。
【0038】
(ステップS602)
表示装置は、エッジ画像を表示する。編集部313は、入力装置を介したユーザの指示によりエッジ画像を編集する。編集されたエッジ画像は、編集データとして主記憶装置33または補助記憶装置35に記憶される。
【0039】
(ステップS603)
図5に示すように、推定部311は、編集されたエッジ画像EEIとショット画像SIとを、物性空間生成モデルPSEMに入力することで、速度マップVMを推定する。速度マップVMは、物性空間画像として主記憶装置33または補助記憶装置35に記憶される。
【0040】
(ステップS604)
推定部311は、速度マップVMに対応するエッジ画像(以下、新たなエッジ画像と呼ぶ)を推定する。具体的には、推定部311は、編集されたエッジ画像とショット画像、または速度マップVMに基づいて、速度マップ画像に対応する新たなエッジ画像を生成する。例えば、物性空間生成モデルPSEMが、編集されたエッジ画像とショット画像とを入力として、速度マップと速度マップに対応するエッジ画像とを出力するように学習されていた場合、推定部311は、編集されたエッジ画像とショット画像とを物性空間生成モデルPSEMに入力して、新たなエッジ画像を推定する。
【0041】
なお、推定部311は、速度マップVMを入力としてエッジ画像を出力するように学習されたモデル(以下、エッジ検出モデルと呼ぶ)に、速度マップVMを入力することで、新たなエッジ画像を推定してもよい。このとき、エッジ検出モデルは、例えば、物性空間生成モデルPSEMとは異なる学習済みモデルで実現される。また、推定部311は、速度マップVMに対してエッジ検出処理を適用することで、新たなエッジ画像を推定してもよい。
【0042】
(ステップS605)
表示装置は、速度マップVMを物性空間画像として表示する。このとき、表示装置は、新たなエッジ画像を速度マップVMとともに、または速度マップVMとは別途、表示する。表示されたエッジ画像と速度マップVMとにおけるピクセルは、実空間における位置と対応している。
【0043】
(ステップS606)
ステップS605により表示された新たなエッジ画像に対して、入力装置を介してユーザにより編集指示が入力されれば(ステップS606のYes)、ステップS603以降の処理が繰り返される。表示されたエッジ画像と速度マップVMとにおけるピクセルは、実空間における位置と対応しているため、ユーザは、エッジ画像におけるエッジを、容易に解釈できる。このため、ユーザは、当該エッジの編集すること、換言すれば、エッジ画像におけるエッジの構造に対する当該ユーザの仮説を当該エッジ画像に反映させること、を、直感的かつ容易に実行することができる。
【0044】
新たなエッジ画像に対する編集指示が入力されなければ(ステップS606のNo)、データ生成処理は終了する。なお、本データ生成処理に用いられる物性空間生成モデルPSEMは、ステップS602乃至ステップS606に示すように、ユーザであるエキスパートによるヒントを入力しているため、対話的推論モデルと称されてもよい。
【0045】
上記データ生成処理における変形例として、ステップS604は省略することも可能である。このとき、ステップS605において、表示装置には、速度マップVMのみが表示される。エッジ画像をさらに編集する場合、ユーザは、表示装置に表示された速度マップVMを見ながら、ステップS602におけるエッジ画像を編集することとなる。他の処理は、本実施形態と同様なため、説明は省略する。
【0046】
本実施形態に係る推定装置3によれば、観測対象の内部構造に関する観測データと、観測対象の構造データを編集して得られる編集データとを入力として当該内部構造における物性値の空間分布を示す物性空間データを出力する学習済みモデルに、観測データと編集データとを入力することにより物性空間データを推定する。例えば、観測対象は地下である。また、観測データは、地下構造に関する観測値または観測値に対する所定の前処理により生成されたデータである。また、構造データは、当該物性値の空間分布に関連する地層境界面を示す境界画像である。また、物性値は、当該地下における弾性波の速度と、当該地下構造に関する密度と、当該地下構造に関する硬さと、当該地下構造における空隙の割合とのうち少なくとも一つに関する情報である。また、本推定装置3によれば、観測データに基づいて地層境界面を示す境界画像を生成し、ユーザによる指示により当該境界画像を編集することで、編集データを生成する。また、本推定装置3によれば、編集データと、構造データと物性空間データとにおいて、空間構造が同一である。
【0047】
これらのことから、本推定装置3によれば、観測対象の内部構造に対するエキスパートのヒントを、観測対象の内部構造全体ではなく編集された地層境界面などの編集データとして、学習済みモデルに教示として与えることで、観測対象の内部構造における物性値の空間分布を、高速かつ精度よく推測すること、すなわち予測を改善することができる。加えて、本推定装置3によれば、学習済みモデルにヒントとして入力されるデータは、内部構造全体ではなく例えばエッジなどの空間構造の一部を示す構造データあるため、検層データや内部構造全体を編集した(グランドトゥルースなどの)データなどに比べて、学習済みモデルにヒントとして入力されるデータの生成に関して、エキスパートなどのユーザに対する負担、金銭的および時間的コストを低減することができる。
【0048】
また、本推定装置3によれば、学習済みモデルにヒントとして入力されるデータは、エキスパートにより編集された内部構造のヒントである。本学習済みモデルは、このようなフレームワークであるため、本学習済みモデルから出力された物性空間データは、エキスパートの推測を反映したものとなる。このため、物性空間データを投資の指標とする顧客に対して、当該物性空間データに対する顧客の納得度を向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る推定装置3によれば、ユーザによる境界画像の編集後において、観測データと編集データとに基づいて物性空間データを推定し、推定された物性空間データに対応する境界画像を再度生成し、再度生成された境界画像に対する編集により、編集データを再度生成し、再度編集された編集データと観測データとを前記学習済みモデルに入力することにより、物性空間データを再度推定してもよい。なお、本推定装置3によれば、ユーザによる境界画像の編集後において、観測データと編集データとに基づいて境界画像を再度生成してもよい。これにより、エキスパートは、再度生成された境界画像を確認することで、前回の物性空間データの推定において学習済みモデルに与えたヒントが新たに推測された物性空間データに対応する境界画像(エッジ画像)に反映されているか否かを判断することができる。
【0050】
さらに、本推定装置3によれば、再度エッジ画像を編集して、編集されたエッジ画像を用いて物性空間データを再度推定するため、観測対象の内部構造における物性値の空間分布の精度を、さらに向上させることができる。加えて、本学習済みモデルから出力された物性空間データは、何度もエキスパートの推測を反映したものとなる。このため、物性空間データを投資の指標とする顧客およびエキスパートに対して、当該物性空間データに対する顧客およびエキスパートの納得度をさらに向上させることができる。
【0051】
(応用例)
本応用例は、境界画像における画素値(以下、境界画素値と呼ぶ)が地層境界面の尤もらしさや確からしさ、信頼性を示す値(以下、信頼度と呼ぶ)を有することにある。すなわち、補助データは、データの信頼度に関する情報を有する。例えば、信頼度は、地層境界面の確からしさに応じた確率値に対応する。このとき、編集データは、地層境界面の信頼性を示す信頼度を有することとなる。具体的には、編集された地層境界面の信頼度は、未編集の地層境界面の信頼度より高くなる。換言すれば、ユーザが生成したデータに関する信頼度は、ユーザが生成した当該データを除く他のデータに関する信頼度と比較して高く設定される。例えば、編集対象のエッジ画像において、エッジが存在しない領域に含まれる境界画素値には、0が割り当てれ、エッジの確からしさが最大である境界画素値には、1が割り当てられる。
【0052】
編集部313は、編集データすなわち編集されたエッジ画像においてユーザにより編集された画素値を、例えば、1に変更する。なお、編集部313は、エッジ画像を編集したユーザの業界内での経験(例えば、業界歴、勤続年数など)に応じて、編集された画素値の値を、境界画素値から増大させてもよい。例えば、エッジ画像を編集したユーザが地下探査の業界において新人である場合、境界画素値からの増分は、例えば、境界画素値の10%など、小さい値となる。また、エッジ画像を編集したユーザが地下探査の業界歴20年である場合、境界画素値は、1に変更される。
【0053】
なお、上記説明では、境界画像および編集データは、信頼度に応じた値を有する画像として説明したが、本実施形態における境界画像に付加的に上記信頼度を示すマップ(以下、信頼度マップと呼ぶ)が、第1の実施形態に記載の編集後のエッジ画像に付与されてもよい。このとき、本応用例における物性空間生成モデルPSEMには、ショット画像とエッジ画像とに加えて信頼度マップも入力されることとなる。
【0054】
本応用例におけるデータ生成処理は、物性空間生成モデルPSEMに入力される編集データが信頼度を有することのみ異なるため、詳細な説明は省略する。
【0055】
本実施形態に係る推定装置3によれば、編集データは地層境界面の信頼性を示す信頼度を有し、編集された地層境界面の信頼度は、未編集の前記地層境界面の信頼度より高いことにある。これにより、本推定装置3によれば、編集データにおける画素値の考慮の程度が、物性空間データの推定に反映される。このため、物性空間データを投資の指標とする顧客に対して、当該物性空間データに対する顧客の納得度をさらに向上させることができる。
【0056】
(第2の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態における学習済みモデル(物性空間生成モデルPSEM)とは異なる他の学習済みモデル(以下、エッジ推定モデルと呼ぶ)または物性空間生成モデルPSEMに観測データを入力することで、境界画像(エッジ画像)を推定することにある。すなわち、推定部311は、上記学習済みモデルとは異なる他の学習済みモデルまたは上記学習済みモデルに観測データを入力することで、観測対象の構造に関するデータを生成する。本実施形態におけるハードウェア構成は、図1と同様なため、説明は省略する。また、本実施形態のプロセッサ31における機能ブロックは、図2において編集部313を除いたものとなる。
【0057】
推定部311は、エッジ推定モデルまたは物性空間生成モデルPSEMに観測データ(ショット画像)を入力することで、エッジ画像を推定する。エッジ推定モデルは、例えば、学習対象のモデルとしてのディープニューラルネットワークを学習することにより予め生成される。エッジ推定モデルは、観測データを入力としてエッジ画像を出力するモデルである。エッジ推定モデルの代わりに物性空間生成モデルPSEMを用いる場合、入力層において編集データが入力される領域には、所定のデータ(例えば、ゼロパディングやランダムデータ)が入力されることとなる。
【0058】
すなわち、本実施形態において、物性空間生成モデルPSEMは、観測データに対応する訓練データと所定のデータとを入力として、正解データとしてエッジ画像を用いることで、訓練される。換言すれば、観測データとともに物性空間生成モデルPSEMに入力される所定のデータと編集データとの違いが、物性空間生成モデルPSEMをエッジ推定モデルとして機能させることとなる。このような物性空間生成モデルが第1の実施形態に用いられる場合、ステップS603とステップS604の処理とは統合されて、以下のような処理となる。ステップS603とステップS604とを統合した処理において、推定部311は、編集されたエッジ画像とショット画像とを、物性空間生成モデルPSEMに入力することで、速度マップVMとエッジ画像とを推定する。
【0059】
図7は、観測データであるショット画像SIを入力としてエッジ画像EIを推定する処理(以下、エッジ推定処理と呼ぶ)の概要を示す概要図である。図7に示すように、推定部311は、エッジ推定モデルEEMに、ショット画像SIを入力することで、エッジ画像EIを推定する。推定されたエッジ画像は、例えば、第1の実施形態における図6のステップS602の処理において用いられる。
【0060】
本実施形態に係る推定装置3によれば、観測対象の内部構造に関する観測データを入力として当該観測対象の構造データを出力する学習済みモデルに、当該観測データを入力することにより当該構造データを推定する。具体的には、本推定装置3によれば、物性空間生成モデルPSEMとは異なる他の学習済みモデル(エッジ推定モデルEEM)に観測データを入力すること、または学習済みモデルに観測データと所定のデータとを入力することで、エッジ画像を推定する。
【0061】
これにより、本実施形態に係る推定装置3によれば、第1の実施形態において物性空間生成モデルPSEMに入力される編集データを生成するための人的および金銭的コストを低減することができる。また、エッジ画像は、例えば、物性値の空間分布の推定に関する仮設の絞り込みに寄与すること、および石油がガスなどの地下資源が存在する可能性と関連するため、地下資源の探査に関する出資者の納得度を向上させることができる。
【0062】
(モデル生成方法)
以下、物性空間生成モデルPSEMの生成に関するモデル生成方法について説明する。以下で説明するモデル生成方法は、図1に示す点線3の枠内の構成要素により実現される。このとき、図1に示す点線3の枠は、訓練装置に相当する。物性空間生成モデルPSEMとして学習される前の正解データは、観測対象の内部構造における物性値の空間分布を示すデータである。正解データは、物質空間データに対応するデータである。
【0063】
図8は、物性空間生成モデルの生成に関するモデル生成方法の手順の一例を示すフローチャートである。学習過程では、プロセッサ31が主体として機能する。
【0064】
(ステップS801)
プロセッサ31は、正解データに基づいて、観測対象の内部構造に関する観測に対応する第1入力データを生成する。第1入力データは、観測データに対応する訓練用のデータである。プロセッサ31は、例えば、正解データに対する物理シミュレーションを実行することにより、第1入力データを生成する。正解データを用いてショット画像などの観測に対応する第1入力データを生成する物理シミュレーションは、順問題に相当する。
【0065】
(ステップS802)
プロセッサ31は、正解データに基づいて、正解データにおける物性値の空間分布に関する境界面を示す第2入力データを生成する。第2入力データは、編集データに対応するデータである。プロセッサ31は、例えば正解データに対する空間的な微分演算など所定の計算を実行し、第2入力データを生成する。なお、プロセッサ31は、第1入力データをエッジ推定モデルに入力して、第2入力データを生成しもよい。
【0066】
(ステップS803)
プロセッサ31は、第1入力データと第2入力データとの対に対応する正解データと、当該第1入力データと、当該第2入力データとの組を、学習用データとして設定する。プロセッサ31は、学習用データを、主記憶装置33や補助記憶装置35に記憶させる。
【0067】
(ステップS804)
学習用データの総数が所定の総数に等しくなければ(ステップS804のNo)、ステップS805の処理が実行される。学習用データの総数が所定の総数に等しければ(ステップS804のYes)、ステップS806の処理が実行される。
【0068】
(ステップS805)
プロセッサ31は、新たな正解データを設定する。本ステップの後、ステップS801乃至ステップS804の処理が繰り返される。
【0069】
(ステップS806)
プロセッサ31は、所定の総数に亘って、学習用データを用いてU-Netなどのモデルを学習(訓練)する。これにより、プロセッサ31は、物性空間生成モデルPSEMを、学習済みモデルとして生成する。プロセッサ31は、生成された物性空間生成モデルPSEMを、主記憶装置33や補助記憶装置35などに記憶させる。以上により、物性空間生成モデルPSEMの生成に関する学習は終了する。なお、上記モデル生成方法は、第1入力データと第2入力データとを同時に学習対象のモデルに入力して当該モデルを学習させる手順として説明したが、モデル生成方法の手順は、これに拘泥されない。例えば、本ステップの後、学習時において用いられた第2入力データにノイズを付与することなどにより、エッジの不確定性が高いデータを新たな第2入力データを生成し、ステップS803以降の処理を実行すること、すなわち2段階で学習を行うことで、プロセッサ31は、物性空間生成モデルPSEMを生成してもよい。
【0070】
本モデル生成方法によれば、観測対象の構造における物性値の空間分布を示す正解データに基づいて、当該構造に関する観測データに対応する第1入力データと、当該空間分布に関する第2入力データとを生成し、第1入力データと第2入力データとの対に対応する当該正解データと、当該第1入力データと、当該第2入力データとの組である学習用データを用いて、モデルを学習して、学習済みモデルを生成する。また、第2入力データと正解データとにおいて空間構造(例えば、スケールおよび位置関係)は、同一である。
【0071】
これらにより、本モデル生成方法によれば、正解データに応じて、モデルの学習時にモデルに入力される第1入力データと第2入力データとを容易に生成できる。以上のことから、本モデル生成方法によれば、観測対象の内部構造における物性値の空間分布を、低コストかつ高い信頼度で推定可能な物性空間生成モデルPSEMを、高速(良い収束性)かつ簡便に生成することができる。
【0072】
以上のことから、実施形態および応用例などに係る推定装置3によれば、観測対象の内部構造における物性値の空間分布を、低コストかつ高い信頼度で推定することができる。
【0073】
前述した実施形態における各装置の一部又は全部は、ハードウェアで構成されていてもよいし、CPU、又はGPU等が実行するソフトウェア(プログラム)の情報処理で構成されてもよい。ソフトウェアの情報処理で構成される場合には、前述した実施形態における各装置の少なくとも一部の機能を実現するソフトウェアを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、又はUSBメモリ等の非一時的な記憶媒体(非一時的なコンピュータ可読媒体)に収納し、コンピュータ30に読み込ませることにより、ソフトウェアの情報処理を実行してもよい。また、通信ネットワーク5を介して当該ソフトウェアがダウンロードされてもよい。さらに、ソフトウェアがASIC、又はFPGA等の回路に実装されることにより、情報処理がハードウェアにより実行されてもよい。
【0074】
ソフトウェアを収納する記憶媒体の種類は限定されるものではない。記憶媒体は、磁気ディスク、又は光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク、又はメモリ等の固定型の記憶媒体であってもよい。また、記憶媒体は、コンピュータ内部に備えられてもよいし、コンピュータ外部に備えられてもよい。
【0075】
本明細書(請求項を含む)において、「a、b及びcの少なくとも1つ(一方)」又は「a、b又はcの少なくとも1つ(一方)」の表現(同様な表現を含む)が用いられる場合は、a、b、c、a-b、a-c、b-c、又はa-b-cのいずれかを含む。また、a-a、a-b-b、a-a-b-b-c-c等のように、いずれかの要素について複数のインスタンスを含んでもよい。さらに、a-b-c-dのようにdを有する等、列挙された要素(a、b及びc)以外の他の要素を加えることも含む。
【0076】
本明細書(請求項を含む)において、「データを入力として/データに基づいて/に従って/に応じて」等の表現(同様な表現を含む)が用いられる場合は、特に断りがない場合、各種データそのものを入力として用いる場合や、各種データに何らかの処理を行ったもの(例えば、ノイズ加算したもの、正規化したもの、各種データの中間表現等)を入力として用いる場合を含む。また「データに基づいて/に従って/に応じて」何らかの結果が得られる旨が記載されている場合、当該データのみに基づいて当該結果が得られる場合を含むとともに、当該データ以外の他のデータ、要因、条件、及び/又は状態等にも影響を受けて当該結果が得られる場合をも含み得る。また、「データを出力する」旨が記載されている場合、特に断りがない場合、各種データそのものを出力として用いる場合や、各種データに何らかの処理を行ったもの(例えば、ノイズ加算したもの、正規化したもの、各種データの中間表現等)を出力とする場合も含む。
【0077】
本明細書(請求項を含む)において、「接続される(connected)」及び「結合される(coupled)」との用語が用いられる場合は、直接的な接続/結合、間接的な接続/結合、電気的(electrically)な接続/結合、通信的(communicatively)な接続/結合、機能的(operatively)な接続/結合、物理的(physically)な接続/結合等のいずれをも含む非限定的な用語として意図される。当該用語は、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきであるが、意図的に或いは当然に排除されるのではない接続/結合形態は、当該用語に含まれるものして非限定的に解釈されるべきである。
【0078】
本明細書(請求項を含む)において、「AがBするよう構成される(A configured to B)」との表現が用いられる場合は、要素Aの物理的構造が、動作Bを実行可能な構成を有するとともに、要素Aの恒常的(permanent)又は一時的(temporary)な設定(setting/configuration)が、動作Bを実際に実行するように設定(configured/set)されていることを含んでよい。例えば、要素Aが汎用プロセッサである場合、当該プロセッサが動作Bを実行可能なハードウェア構成を有するとともに、恒常的(permanent)又は一時的(temporary)なプログラム(命令)の設定により、動作Bを実際に実行するように設定(configured)されていればよい。また、要素Aが専用プロセッサ又は専用演算回路等である場合、制御用命令及びデータが実際に付属しているか否かとは無関係に、当該プロセッサの回路的構造が動作Bを実際に実行するように構築(implemented)されていればよい。
【0079】
本明細書(請求項を含む)において、含有又は所有を意味する用語(例えば、「含む(comprising/including)」及び有する「(having)等)」が用いられる場合は、当該用語の目的語により示される対象物以外の物を含有又は所有する場合を含む、open-endedな用語として意図される。これらの含有又は所有を意味する用語の目的語が数量を指定しない又は単数を示唆する表現(a又はanを冠詞とする表現)である場合は、当該表現は特定の数に限定されないものとして解釈されるべきである。
【0080】
本明細書(請求項を含む)において、ある箇所において「1つ又は複数(one or more)」又は「少なくとも1つ(at least one)」等の表現が用いられ、他の箇所において数量を指定しない又は単数を示唆する表現(a又はanを冠詞とする表現)が用いられているとしても、後者の表現が「1つ」を意味することを意図しない。一般に、数量を指定しない又は単数を示唆する表現(a又はanを冠詞とする表現)は、必ずしも特定の数に限定されないものとして解釈されるべきである。
【0081】
本明細書において、ある実施例の有する特定の構成について特定の効果(advantage/result)が得られる旨が記載されている場合、別段の理由がない限り、当該構成を有する他の1つ又は複数の実施例についても当該効果が得られると理解されるべきである。但し当該効果の有無は、一般に種々の要因、条件、及び/又は状態等に依存し、当該構成により必ず当該効果が得られるものではないと理解されるべきである。当該効果は、種々の要因、条件、及び/又は状態等が満たされたときに実施例に記載の当該構成により得られるものに過ぎず、当該構成又は類似の構成を規定したクレームに係る発明において、当該効果が必ずしも得られるものではない。
【0082】
本明細書(請求項を含む)において、「最大化(maximize)」等の用語が用いられる場合は、グローバルな最大値を求めること、グローバルな最大値の近似値を求めること、ローカルな最大値を求めること、及びローカルな最大値の近似値を求めることを含み、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきである。また、これら最大値の近似値を確率的又はヒューリスティックに求めることを含む。同様に、「最小化(minimize)」等の用語が用いられる場合は、グローバルな最小値を求めること、グローバルな最小値の近似値を求めること、ローカルな最小値を求めること、及びローカルな最小値の近似値を求めることを含み、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきである。また、これら最小値の近似値を確率的又はヒューリスティックに求めることを含む。同様に、「最適化(optimize)」等の用語が用いられる場合は、グローバルな最適値を求めること、グローバルな最適値の近似値を求めること、ローカルな最適値を求めること、及びローカルな最適値の近似値を求めることを含み、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきである。また、これら最適値の近似値を確率的又はヒューリスティックに求めることを含む。
【0083】
本明細書(請求項を含む)において、複数のハードウェアが所定の処理を行う場合、各ハードウェアが協働して所定の処理を行ってもよいし、一部のハードウェアが所定の処理の全てを行ってもよい。また、一部のハードウェアが所定の処理の一部を行い、別のハードウェアが所定の処理の残りを行ってもよい。本明細書(請求項を含む)において、「1又は複数のハードウェアが第1の処理を行い、前記1又は複数のハードウェアが第2の処理を行う」等の表現が用いられている場合、第1の処理を行うハードウェアと第2の処理を行うハードウェアは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。つまりく、第1の処理を行うハードウェア及び第2の処理を行うハードウェアが、前記1又は複数のハードウェアに含まれていればよい。なお、ハードウェアは、電子回路、又は電子回路を含む装置を含んでよい。
【0084】
本明細書(請求項を含む)において、複数の記憶装置(メモリ)がデータの記憶を行う場合、複数の記憶装置(メモリ)のうち個々の記憶装置(メモリ)は、データの一部のみを記憶してもよいし、データの全体を記憶してもよい。
【0085】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は上記した個々の実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲において種々の追加、変更、置き換え及び部分的削除等が可能である。例えば、前述した全ての実施形態において、数値又は数式を説明に用いている場合は、一例として示したものであり、これらに限られるものではない。また、実施形態における各動作の順序は、一例として示したものであり、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0086】
1 探査システム
3 推定装置
5 通信ネットワーク
7 取得装置
9A 外部装置
9B 外部装置
30 コンピュータ
31 プロセッサ
33 主記憶装置
35 補助記憶装置
37 ネットワークインタフェース
39 デバイスインタフェース
41 バス
311 推定部
313 編集部
315 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8