(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157592
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】柱吊治具及び固定具
(51)【国際特許分類】
E04G 21/16 20060101AFI20221006BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
E04G21/16
F16B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061902
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504082025
【氏名又は名称】株式会社イング
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】小濱 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】南野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】潮見 真生
(72)【発明者】
【氏名】大内 和人
【テーマコード(参考)】
2E174
【Fターム(参考)】
2E174CA34
2E174CA38
2E174DA12
(57)【要約】
【課題】柱への取り付けが容易であり、且つ柱を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能な柱吊治具を提供する。
【解決手段】吊り上げ装置にワイヤ14によって連結されて、係合部2が設けられた鉄骨柱1を懸吊する柱吊治具10であって、第二係止部24を上下方向に移動させる操作部材25を有し、操作部材25は、上端の操作頭部25aと、ネジ部25b1が形成された操作軸部25bと、を有し、基部21には、上下方向に貫通したネジ孔21aが形成されており、基部21のネジ孔21aに操作部材25のネジ部25b1が螺合しており、操作頭部25aが回転されることで第二係止片24が上下方向に移動する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り上げ装置に連結部材によって連結されて、係合部が設けられた柱を懸吊する柱吊治具であって、
前記連結部材と連結され、前記柱の柱頭部を囲む枠状のヘッド部材と、
前記ヘッド部材から延びる連結部材と、
前記ヘッド部材より下方に配置され、前記連結部材と連結し、前記柱の前記係合部に着脱可能に固定される固定具と、を備え、
前記係合部は、前記柱の側面に設けられ、上下の端部に開口部を有しており、
前記固定具は、
前記ヘッド部材から延びる連結部材と連結する基部と、
前記係合部の下側端部の開口部に挿入される第一係止片が形成された第一係止部と、
前記係合部の上側端部の開口部に挿入される第二係止片が形成され、前記基部に対して上下方向に移動可能に設けられる第二係止部と、
前記第二係止部に接続され、前記第二係止部を上下方向に移動させる操作部材と、を有し、
前記操作部材は、
上端の操作頭部と、
前記操作頭部に接続され、ネジ部が形成された操作軸部と、を有し、
前記基部には、上下方向に貫通したネジ孔が形成されており、
前記基部の前記ネジ孔に前記操作部材の前記ネジ部が螺合しており、
前記操作頭部が回転されることで前記第二係止片が上下方向に移動することを特徴とする柱吊治具。
【請求項2】
前記操作軸部は、前記ネジ部の下側に、ネジ溝が形成されていない非ネジ部が設けられており、
上下方向において、前記ネジ部の長さは、前記非ネジ部の長さよりも短いことを特徴とする請求項1に記載の柱吊治具。
【請求項3】
前記固定具は、前記第二係止部に接続され、前記第二係止部を支持する支持部材を有し、
前記支持部材は、
上端の支持頭部と、
前記支持頭部に接続された支持軸部と、を有し、
前記基部には、上下方向に貫通したルーズ孔が形成されており、
前記基部の前記ルーズ孔に前記支持軸部が挿通されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の柱吊治具。
【請求項4】
前記操作頭部は、多角形状の外形を有し、
前記支持頭部は、円形状の外形を有していることを特徴とする請求項3に記載の柱吊治具。
【請求項5】
前記連結部材は、第1連結部材と第2連結部材が接続されており、
前記第1連結部材は、上端が前記ヘッド部材に接続されており、
前記第2連結部材は、上端が前記第1連結部材に接続されており、下端が前記固定具に連結されており、
前記第2連結部材は、長さ調節可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の柱吊治具。
【請求項6】
前記ヘッド部材の側面には、下端から上方に向かって受容部が形成されており、
前記受容部は、前記柱頭部に設けられた付属物を受容可能であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の柱吊治具。
【請求項7】
柱の側面に取り付けられ上下の端部に開口部を有する係合部に、着脱可能に固定される固定具であって、
連結部材と連結する基部と、
前記係合部の下側端部の開口部に挿入される第一係止片が形成された第一係止部と、
前記係合部の上側端部の開口部に挿入される第二係止片が形成され、前記基部に対して上下方向に移動可能に設けられる第二係止部と、
前記第二係止部に接続され、前記第二係止部を上下方向に移動させる操作部材と、を有し、
前記操作部材は、
操作頭部と、
前記操作頭部に接続され、ネジ部が形成された操作軸部と、を有し、
前記基部には、上下方向に貫通したネジ孔が形成されており、
前記基部の前記ネジ孔に前記操作部材の前記ネジ部が螺合しており、
前記操作頭部が回転されることで前記第二係止片が上下方向に移動することを特徴とする固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱の建て起こしに際して柱を懸吊するための柱吊治具に関し、特に柱への取り付けが容易で且つ柱を確実に保持することが可能な柱吊治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱の立設には、クレーン等の吊り上げ装置により柱の頂部(柱頭部)を吊り下げる方法が一般に用いられてきた。この方法では、柱をアンカーボルトで固定した後、柱の頂部に取り付けられたワイヤを外す作業が必要であるが、その作業は高所でのものとなるため、高所での作業を不要にすると共に安全性を向上させることを目的とした柱の吊り装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、クレーンにより吊られるフック掛けが備えられた上端金具と、上端金具の下方にワイヤを介して接続された枠状のヘッドと、ヘッドの下方にターンバックルにより長さが調整可能であるワイヤを介して接続された下端金具と、下端金具が着脱され柱の下部側面に固定された係止金具とからなる柱の吊り装置が提案されている。この柱の吊り装置によれば、柱との着脱は柱の下部側面で行われるため高所作業が伴わず安全性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の柱の吊り装置では、ワイヤと連結した下端金具を係止金具に取り付ける際、下端金具の下方からボルトを挿入して係止金具を締め付けている。そのため、取り付けるための工具が必要であり、下端金具の着脱に時間と手間がかかるものとなっていた。
【0006】
本発明は前記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、柱への取り付けが容易であり、且つ柱を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能な柱吊治具を提供することにある。また、本発明の他の目的としては、柱への取り付けが容易な固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、本発明の柱吊治具によれば、吊り上げ装置に連結部材によって連結されて、係合部が設けられた柱を懸吊する柱吊治具であって、前記連結部材と連結され、前記柱の柱頭部を囲む枠状のヘッド部材と、前記ヘッド部材から延びる連結部材と、前記ヘッド部材より下方に配置され、前記連結部材と連結し、前記柱の前記係合部に着脱可能に固定される固定具と、を備え、前記係合部は、前記柱の側面に設けられ、上下の端部に開口部を有しており、前記固定具は、前記ヘッド部材から延びる連結部材と連結する基部と、前記係合部の下側端部の開口部に挿入される第一係止片が形成された第一係止部と、前記係合部の上側端部の開口部に挿入される第二係止片が形成され、前記基部に対して上下方向に移動可能に設けられる第二係止部と、前記第二係止部に接続され、前記第二係止部を上下方向に移動させる操作部材と、を有し、前記操作部材は、上端の操作頭部と、前記操作頭部に接続され、ネジ部が形成された操作軸部と、を有し、前記基部には、上下方向に貫通したネジ孔が形成されており、前記基部の前記ネジ孔に前記操作部材の前記ネジ部が螺合しており、前記操作頭部が回転されることで前記第二係止片が上下方向に移動することにより解決される。
【0008】
上記のように構成された本発明の柱吊治具は、固定具の基部のネジ孔に螺合した操作部材を回転させるという簡易な操作で第二係止部を上下方向に移動できる。さらに、操作部材が基部のネジ孔に螺合しているため、第二係止部の第二係止片が柱の係合部から離脱してしまうことが防止される。したがって、固定具の柱への取り付けが容易であり、且つ柱を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能となる。
【0009】
このとき、前記操作軸部は、前記ネジ部の下側に、ネジ溝が形成されていない非ネジ部が設けられており、上下方向において、前記ネジ部の長さは、前記非ネジ部の長さよりも短いとよい。
上記の構成では、操作軸部の全体にネジ部を形成した場合と比較して、基部のネジ孔に対する操作部材の操作量が少なくなるため、ワイヤ固定具を係合部に固定する作業時間が短くなる。
【0010】
このとき、前記固定具は、前記第二係止部に接続され、前記第二係止部を支持する支持部材を有し、前記支持部材は、上端の支持頭部と、前記支持頭部に接続された支持軸部と、を有し、前記基部には、上下方向に貫通したルーズ孔が形成されており、前記基部の前記ルーズ孔に前記支持軸部が挿通されているとよい。
上記の構成では、第二係止部を支持する支持部材の支持軸部が、固定具の基部のルーズ孔に挿通されていることで、操作部材の操作による第二係止部の上下方向における移動が安定したものとなる。
【0011】
このとき、前記操作頭部は、多角形状の外形を有し、前記支持頭部は、円形状の外形を有しているとよい。
上記の構成では、第二係止部を上下方向に移動させる際に、操作をすべき操作頭部を判別でき、モンキーレンチや六角ソケットレンチなどの器具(工具)を用いて多角形状の操作頭部を回転させ、第二係止部を係合部に対して適切に係合させることが可能となる。
【0012】
このとき、前記連結部材は、第一連結部材と第二連結部材が接続されており、前記第一連結部材は、上端が前記ヘッド部材に接続されており、前記第二連結部材は、上端が前記第一連結部材に接続されており、下端が前記固定具に連結されており、前記第二連結部材は、長さ調節可能であるとよい。
上記の構成では、第二連結部材の長さを調整することで、異なる高さの柱に対応することが可能となる。
【0013】
このとき、前記ヘッド部材の側面には、下端から上方に向かって受容部が形成されており、前記受容部は、前記柱頭部に設けられた付属物を受容可能であるとよい。
上記の構成では、枠状のヘッド部材が、柱頭部を囲いつつ、柱頭部に設けられた付属物を受容部に受容可能であるため、柱を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能となる。
【0014】
上記課題は、本発明の固定具によれば、柱の側面に取り付けられ上下の端部に開口部を有する係合部に、着脱可能に固定される固定具であって、連結部材と連結する基部と、前記係合部の下側端部の開口部に挿入される第一係止片が形成された第一係止部と、前記係合部の上側端部の開口部に挿入される第二係止片が形成され、前記基部に対して上下方向に移動可能に設けられる第二係止部と、前記第二係止部に接続され、前記第二係止部を上下方向に移動させる操作部材と、を有し、前記操作部材は、操作頭部と、前記操作頭部に接続され、ネジ部が形成された操作軸部と、を有し、前記基部には、上下方向に貫通したネジ孔が形成されており、前記基部の前記ネジ孔に前記操作部材の前記ネジ部が螺合しており、前記操作頭部が回転されることで前記第二係止片が上下方向に移動することにより解決される。
【0015】
上記のように構成された本発明の固定具は、基部のネジ孔に螺合した操作部材を回転させるという簡易な操作で第二係止部を上下方向に移動できる。したがって、固定具の柱への取り付けが容易であり、且つ柱を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る柱吊治具によれば、柱への取り付けが容易であり、且つ柱を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能な柱吊治具を提供することにある。
また、本発明に係る固定具によれば、柱への取り付けが容易な固定具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る柱吊治具を柱に固定した状態の斜視図である。
【
図4A】柱吊治具のワイヤ固定具の正面図であり、ワイヤ固定具を柱に固定する前の状態を示す図である。
【
図5】柱吊治具のワイヤ固定具の正面図であり、ワイヤ固定具を柱に固定した状態を示す図である。
【
図6】柱に固定した状態のワイヤ固定具の側面図である。
【
図7】柱に固定した状態のワイヤ固定具の平面図である。
【
図8B】柱を建て起こす途中の状態を示す図である。
【
図8C】柱を吊り上げ装置により吊り上げた状態を示す図である。
【
図8D】柱を立設させ基礎に固定した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係る柱吊治具及び固定具について
図1乃至
図10を用いて説明する。以下の実施形態において同一又は類似の構成要素には共通の参照符号を付して示し、理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
【0019】
また、以下の説明中、
図1に記載の矢印で示すように、上下方向とは、立設した状態の鉄骨柱1に柱吊治具10が取り付けられたときの上下方向を意味する。また、ワイヤ固定具20の正面、背面とは、ワイヤ固定具20が鉄骨柱1に固定されたときに鉄骨柱1に対峙する面を背面とし、正面は鉄骨柱1とは反対側の面であることとする。また、鉄骨柱1を基準として外側及び内側を定める。すなわち、鉄骨柱1の中心に近付く方向を内方向、遠ざかる方向を外方向とする。
【0020】
[1.柱吊治具10の構成について]
図1に、柱である鉄骨柱1と、鉄骨柱1を懸吊するために取り付けられた柱吊治具10とを示す。柱吊治具10は、建物の躯体に使用される鉄骨柱1を、横倒しに仮置きした状態から、吊り上げ装置により建て起こし、吊り上げて所望の場所まで移動させた後、立設させた状態で固定するために用いられる。
【0021】
柱吊治具10は、吊り上げ装置、例えばクレーン(図示しない)に連結され、柱である鉄骨柱1を建て起こすものである。柱吊治具10は、ヘッド部材12(
図2A及び
図2B)と、一対のワイヤ固定具20(
図3乃至
図6)とを備える。
【0022】
柱吊治具10により建て起こす鉄骨柱1は、
図1及び
図3に示すように断面矩形の鉄骨柱1であり、柱頭部1aに付属物としてのガセットプレート1bが設けられている。また、鉄骨柱1の側面には、足場として仮設される作業床を設置するためにも用いられる係合部2が取り付けられている。係合部2は、
図1、
図3及び
図4Aに示すように屈曲した板状部材を折り曲げることにより形成され、溶接等により、鉄骨柱1の側面に取り付けることにより構成される。
【0023】
鉄骨柱1の外周面と係合部2との間には、折り曲げることにより形成された上下方向に延びる隙間が2か所形成されおり、上下の端部に開口部2a,2bがそれぞれ二つずつ形成されている。なお、作業床(図示しない)を設置する際は、係合部2の上側の開口部2aに作業床に形成された係止爪を挿入して、作業床を固定する。係合部2は、
図1に示すようにいくつかの高さで作業床を設置することができるよう、鉄骨柱1の各側面において上下方向に、所定の間隔にて設けられている。
【0024】
作業床を設置するための係合部2が溶接されていることにより、従来、鉄骨柱1の側面に作業床や梯子を取りつけるために形成された孔を設ける必要がなくなる。また、鉄骨柱1に孔を形成する作業には手間がかかることから、鉄骨柱1を吊り上げて移動するために、予め設けられた鉄骨柱1の係合部2を用いることが望ましい。また、鉄骨柱1に孔が形成されないため、孔を形成した場合と比較してより高い強度を得ることができ好適である。
【0025】
鉄骨柱1の下端には、基礎32に固定するための柱プレート30が設けられている。柱プレート30の四隅には、鉄骨柱1を基礎32に固定するアンカーボルト33(
図8D参照)を通す貫通孔30aが形成されている。
【0026】
<ヘッド部材12>
図2A及び
図2Bに示されるように、本実施形態の柱吊治具10が備えるヘッド部材12は枠状の部材であり、本実施形態では
図1に示すように鉄骨柱1の上端の柱頭部1aを囲むように配置され、クレーンから延びる2本のワイヤ14(連結部材)と連結する。後述するように、一対のワイヤ固定具20は、ヘッド部材12より下方に配置され、ヘッド部材12から延びる2本のワイヤ15(連結部材)のそれぞれと連結する。なお、連結部材としてのワイヤ14,15は、スリングやチェーンなど、他の連結部材であってもよい。
【0027】
ワイヤ15の長さLは、鉄骨柱1を建て起こしたとき、ヘッド部材12が、鉄骨柱1の柱頭部1a(上端部)から外れない長さに設定されている。言い換えれば鉄骨柱1を立設させたときのワイヤ15の上端の位置は、鉄骨柱1の高さHよりも低くなるように設定されている。なお、ワイヤ15は中間部分に不図示のターンバックルが設けられており、長さ調整可能になっている。
【0028】
ヘッド部材12の上方にはストッパ13を設けられている。ストッパ13は、クレーンから延びるワイヤ14が外れたとき下方にヘッド部材12が落下することを防止する。また、ヘッド部材12の側面12bには、ワイヤ14の端部に設けられたフック18と、ワイヤ15の端部に設けられたフック17とを掛けるためのフック掛け12aが設けられている。
【0029】
(スリット12c)
枠状のヘッド部材12の4つの側面12b(より詳細には、側面12bの中央)にはそれぞれ、ヘッド部材12の下端から上方に向かって延在する受容部としてのスリット12cが形成されている。このスリット12cは、鉄骨柱1の柱頭部1aに設けられた付属物としてのガセットプレート1bを受容可能である。スリット12cの長さは、鉄骨柱1の延在方向(つまり上下方向)におけるガセットプレート1bの長さの1/2以上となるように形成されている。
【0030】
ガセットプレート1bなどの付属物は、鉄骨柱1の4つの側面に配置される可能性があるが、本実施形態に係る柱吊治具10が備えるヘッド部材12は、4つの側面12bにそれぞれ、スリット12cが形成されているため、鉄骨柱1の柱頭部1aに配置される付属物の数、付属物が配置される側面の組み合わせが異なる場合にも対応することが可能である。
【0031】
本実施形態に係る柱吊治具10は、枠状のヘッド部材12が、鉄骨柱1の柱頭部1aを囲いつつ、付属物であるガセットプレート1bをスリット12cに受容可能である。つまり、柱頭部1aに付属物を備える鉄骨柱1であっても、スリット12cを備えるヘッド部材12により柱頭部1aを確実に保持して建て起こして懸吊することが可能となる。
【0032】
また、
図1及び
図2Aに示されるように、スリット12cは、鉄骨柱1の延在方向(つまり上下方向)におけるガセットプレート1bの長さよりも長く形成されている。この構成によれば、ヘッド部材12が鉄骨柱1の柱頭部1aを囲んだ状態で、鉄骨柱1の延在方向においてガセットプレート1bがスリット12c内に安定して受容されるため、鉄骨柱1の柱頭部1aをより確実に保持しつつ、鉄骨柱1を建て起こして懸吊することが可能となる。
【0033】
また、
図2Bに示されるように、ヘッド部材12の側面12bにおいて、フック17,18を介してワイヤ14,15が連結される連結部としてのフック掛け12aが、ヘッド部材12の上面視において点対称となるに配置されている。より詳細には、上面視において、ヘッド部材12の対向する側面12bにおいて中央に形成された各スリット12cに対して、反対側にフック掛け12aが配置されている。
【0034】
このようなフック掛け12aの配置によれば、ヘッド部材12のスリット12c内に付属物を受容しつつ、バランスよく適切にワイヤ14,15をフック掛け12aに対して連結することが可能となる。
【0035】
また、スリット12cは、ガセットプレート1bの厚みよりも幅が広く、ガセットプレート1bの上下方向の長さよりも長く(深く)なるように形成されているため、仮にヘッド部材12が傾いた場合や、鉄骨柱1が回転した場合であっても、スリット12cからガセットプレート1bが抜けることなく、ヘッド部材12によって、鉄骨柱1の柱頭部1aが安定して保持される。
【0036】
<ワイヤ固定具20>
本実施形態の柱吊治具10が備える一対のワイヤ固定具20(固定具)は、鉄骨柱1の側面に取り付けられ、互いに反対方向に位置する係合部2に着脱可能に固定される。ワイヤ固定具20は、上述したように、鉄骨柱1の側部に設けられた係合部2に着脱可能に固定される治具であり、
図3乃至
図7に示すように、ヘッド部材12から延びるワイヤ15に連結する基部21を有する。基部21は、矩形の板状に形成された金属製の部材であり、両端部から下方に延びる側部22が設けられている。
【0037】
また、ワイヤ固定具20は、側部22により基部21と所定距離離れた位置に設けられた第一係止部23を有する。第一係止部23の上端には、係合部2の下側端部の開口部2bに挿入される第一係止片23aが形成されている。
【0038】
ワイヤ固定具20は、操作部材25及び支持部材26を有している。また、操作部材25及び支持部材26の下端には、第二係止部24が接続されている。第二係止部24は後述する操作部材25及び支持部材26と接続されており、基部21に対して上下方向に移動可能である。ワイヤ固定具20を係合部2に対して取り付けるときに、操作部材25を操作(回転操作)することで、第二係止部24を基部21から係合部2に向けて、下方(
図5の矢印B方向)に移動させる。また、第二係止部24は、係合部2の上側端部の開口部2aに挿入される第二係止片24aが下端に形成されている。
【0039】
図5に示されるように、上側の第二係止片24aの上下方向の長さよりも、下側の第一係止片23aの上下方向の長さが長く形成されている。係合部2に対して下側から挿入される第一係止片23aが長く形成されているため、第一係止片23aが係合部2の下側端部の開口部2bから外れ難くなるので、鉄骨柱1の係合部2に対するワイヤ固定具20の取り付け状態が安定する。
【0040】
操作部材25は、
図3乃至
図7に示すように、上端の操作頭部25aと、操作頭部25aに接続され、ネジ部25b1及び非ネジ部25b2が形成された操作軸部25b(ネジ付軸部材)と、操作部材25の下端に取り付けられたナット25cと、を有している。ワイヤ固定具20の基部21には、上下方向に貫通したネジ孔21aが形成されており、このネジ孔21aに操作部材25の操作軸部25bに形成されたネジ部25b1が螺合している。また、操作部材25の下端側は、ナット25cが取り付けられており、第二係止部24に対して回転自在に保持されている。そして、操作頭部25aが回転されることで第二係止片24aが上下方向に移動する。
【0041】
操作軸部25bは、
図4Bに示されるように、上側から順に、操作頭部25a、ネジ部25b1(ネジ切りされており、ネジ溝が形成されている部分)、非ネジ部25b2(ネジ切りされておらず、ネジ溝が形成されていない部分)を備えている。ネジ部25b1の上下方向における長さN1は、非ネジ部25b2の上下方向における長さN2よりも短くなっている(N1<N2)。このような構成によれば、操作軸部25bの全体にネジ部を形成した場合と比較して、基部21のネジ孔21aに対する操作部材25の操作量(ネジ回し量)が少なくなるため(つまり、ネジ締めの距離が短くなるため)、ワイヤ固定具20を係合部2に固定する作業時間が短くなる。なお、ネジ部25b1の長さN1は、基部21のネジ孔21aの高さ(深さ)と略一致している(換言すると、ネジ部25b1の長さN1は、螺合する基部21の上下方向における板厚と同程度(例えば、基部21の上下方向における板厚の±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±3%、更に好ましくは±2%、更により好ましくは±1%)であれば良い)。また、操作軸部25bは、ボルトの中央部分を削ることで非ネジ部25b2が形成されているため、非ネジ部25b2の太さは、ネジ部25b1よりも細くなっている。
【0042】
支持部材26は、
図3乃至
図7に示すように、上端の支持頭部26aと、支持頭部26aに接続された支持軸部26bと、支持部材26の下端に取り付けられたナット26cと、を有している。ワイヤ固定具20の基部21には、上下方向に貫通したルーズ孔21b(ネジ部が形成されていない貫通孔)が形成されており、このルーズ孔21bに支持部材26の支持軸部26bが挿通されている。また、支持部材26の下端側は、ナット26cが取り付けられており、第二係止部24に対して保持されている。
【0043】
作業者は、ワイヤ固定具20を、鉄骨柱1に取り付ける際、操作部材25の操作頭部25aを回転させて、
図4Aに示すように、ワイヤ固定具20の第二係止部24を上方(
図4Aの矢印A方向)に押し上げる。第二係止部24が上方に配置されている状態では、第一係止片23aの先端と第二係止片24aの先端との距離D1が、係合部2の上下方向の長さL1より長くなる。そのため、第一係止部23と第二係止部24との間に係合部2を配置することができる。
【0044】
係合部2を第一係止部23と第二係止部24との間に配置した後、作業者は、操作部材25の操作頭部25aをレンチなどの工具を用いて回転させることで、第二係止部24を下方(
図5の矢印B方向)に移動させる。このようにして、第一係止部23の第一係止片23aが、係合部2の下端側の開口部2bのそれぞれに挿入されるとともに、第二係止部24の第二係止片24aが係合部2の上端側部の開口部2aに挿入される。
【0045】
そして、
図5に示すように、係合部2の長さL1より、第一係止片23aの先端と第二係止片24aの先端との距離D2が短くなる。操作部材25の操作軸部25bに形成されたネジ部25b1が、基部21に形成されたネジ孔21aに螺合しているため、操作部材25及び支持部材26は基部21に対して自由に移動することがない。換言すると、操作部材25の操作軸部25bに形成されたネジ部25b1と、基部21に形成されたネジ孔21aにより、第二係止部24(第二係止片24a)の上下移動を阻止するロック機構を構成している。このような構成によれば、第一係止片23a及び第二係止片24aが係合部2の上下の開口部2a,2bから外れ難くなり、ワイヤ固定具20を係合部2に確実に固定することができる。
【0046】
また、作業者はワイヤ固定具20の基部21のネジ孔21aに螺合した操作部材25を回転させるという簡易な操作で第二係止部24を上下方向に移動できる。さらに、操作部材25が基部21のネジ孔21aに螺合しているため、第二係止部24の第二係止片24aが鉄骨柱1の係合部2から離脱してしまうことが防止される。したがって、ワイヤ固定具20の鉄骨柱1への取り付けが容易であり、且つ鉄骨柱1を確実に保持して建て起こして懸吊することが可能となる。
【0047】
また、ワイヤ固定具20は、第二係止部24に接続され、第二係止部24を支持する支持部材26を有し、支持部材26は、上端の支持頭部26aと、支持頭部26aに接続された支持軸部26bと、を有している。そして、ワイヤ固定具20の基部21には、上下方向に貫通したルーズ孔21bが形成されており、ルーズ孔21bに支持軸部26bが挿通されている。このように、第二係止部24が基部21のルーズ孔21bに挿通された支持部材26に支持されていることで、支持部材26がガイド機能を発揮するため、操作部材25の操作による第二係止部24の上下方向における移動が安定したものとなる。
【0048】
また、操作頭部25aは、多角形状の外形(本実施形態では、六角形状)を有し、支持頭部26aは、円形状の外形を有している。このような構成では、第二係止部24を上下方向に移動させる際に、作業者は操作をすべき操作頭部25aを判別できる。そして、作業者は、モンキーレンチや六角ソケットレンチなどの器具(工具)を用いて多角形状の操作頭部25aを回転させることで、十分に第二係止部24を下方へと移動させることができるため、係合部2に対して第二係止部24を適切に係合させることが可能となる。
【0049】
また、基部21は、ヘッド部材12から延びるワイヤ15の下端に設けられたフック16を掛ける環状部27を有する。環状部27は、基部21の上面に固定される。環状部27は、基部21に対して上下方向を中心軸として、
図7の矢印D方向に回転可能に固定されてもよい。環状部27を回転可能に取り付けることで、例えばフック16を掛けた後、ワイヤ15がねじれたとしても、環状部27を回転させることでねじれを解消することができる。
【0050】
本実施形態では、第一係止部23の第一係止片23a及び第二係止部24の第二係止片24aは、それぞれ二つ設けられているが、第一係止片23a、第二係止片24aは、係合部2の開口部2a,2bの数に合わせて、1つ設けられていてもよいし、3つ以上設けられてよい。第一係止片23a、第二係止片24aを複数設けることで、ワイヤ固定具20を傾けることなく安定して係合部2に取り付けることができる。
【0051】
[2.柱吊治具10を用いた柱の建て起こし及び設置方法について]
図8A乃至
図8Dに、本実施形態の柱吊治具10の使用状態を示す。
図8Aに示すように、柱吊治具10は、横倒し状態で枕木31の上に仮置きされた鉄骨柱1に取り付けられる。まず、ヘッド部材12が、鉄骨柱1が立設されたときに上方になる柱頭部1aに被さるよう装着される。このとき、ヘッド部材12の側面12bに形成されたスリット12cに鉄骨柱1の柱頭部1aが備えるガセットプレート1bが受容される。
【0052】
ヘッド部材12を装着した後、ヘッド部材12とワイヤ固定具20とを、ワイヤ15により接続する。ワイヤ15の両端に、フック機構を有するフック16,17が設けられていると、容易にワイヤ15をヘッド部材12とワイヤ固定具20に取り付けることができる。そして、上述した手順に従い、ワイヤ固定具20を、鉄骨柱1が立設されたときに下方に位置する係合部2に取り付ける。このとき、ワイヤ15が備える不図示のターンバックルを操作して、ワイヤ15の長さを適宜調整する。
【0053】
次に、ヘッド部材12を、ワイヤ14を介してクレーン(吊り上げ装置)に接続する。そして、クレーンを作動させヘッド部材12を吊り上げる。
図8Bに示すように、ヘッド部材12が吊り上げられると、鉄骨柱1が徐々に立ち上がる。鉄骨柱1が立設するまで、クレーンでの引き上げを行う。
【0054】
鉄骨柱1を立設させた後、
図8Cに示すように、さらにクレーンにより鉄骨柱1を吊り上げて、鉄骨柱1を設置する場所まで移動させる。鉄骨柱1を設置する基礎32まで移動させた後、
図8Dに示すように、鉄骨柱1を下して、鉄骨柱1の柱プレート30の貫通孔30aにアンカーボルト33を挿入して基礎32に固定する。
【0055】
そして、操作部材25の操作頭部25aをレンチなどの工具を用いて回転させて第二係止部24を上方へと移動させ、第二係止片24aを係合部2の上側の開口部2aから脱係合させる。このようにして、ワイヤ固定具20を、鉄骨柱1の係合部2から取り外す。作業者は、操作部材25の操作頭部25aを回転させるという簡易な操作により、ワイヤ固定具20の第二係止部24(第二係止片24a)を上下に移動させることができるため、ワイヤ固定具20を時間や手間をかけることなく容易に着脱することができる。
【0056】
次に、ワイヤ15のフック16とワイヤ固定具20との連結を解除し、その後、クレーンによりヘッド部材12を更に吊り上げて鉄骨柱1の柱頭部1aから取り外して撤去する。ヘッド部材12は鉄骨柱1の柱頭部1aを囲むようにして被さっているだけなのでクレーンで上方向(
図8Dの矢印D方向)に吊り上げるだけで外すことができる。作業員が、柱吊治具10を取り外す作業は、鉄骨柱1の下側で行われるため、高所作業が伴うことがなく安全である。
【0057】
[3.変形例]
以上までに本発明の柱吊治具に関して、その構成及び利用方法についての一実施形態を例に挙げて説明してきたが、上述の実施形態は、あくまでも一例に過ぎず、他の例も考えられる。
【0058】
変形例に係る柱吊治具10Xを、
図9及び
図10に示す。変形例に係る柱吊治具10Xは、上述したヘッド部材12とワイヤ固定具20との間のワイヤ15の態様が異なっている。以下、上記の柱吊治具10と同じ構成については説明を省略し、異なる点を中心に説明をする。
【0059】
図9に模式的に示すように、変形例に係る柱吊治具10Xは、ヘッド部材12とワイヤ固定具20との間に上部連結部材15Xa及び下部連結部材15Xbが接続されてなる連結部材を有している。上部連結部材15Xaは、上端がヘッド部材12に接続されている。下部連結部材15Xbは、上端が上部フック16Xaを介して上部連結部材15Xaに接続されており、下端が下部フック16Xbを介してワイヤ固定具20の環状部27に連結されている。そして、下部連結部材15Xbは、長さ調節可能である。
【0060】
具体的には、
図10に示すように、下部連結部材15Xbを長さ調節可能なチェーンスリングとすることで、異なる高さの鉄骨柱1であっても柱吊治具10Xで対応することが可能となる。
【0061】
このとき、ヘッド部材12に連結させる上部連結部材15Xaをワイヤスリングで構成し、下部連結部材15Xbを長さ調節可能なチェーンスリングで構成すると良い。このような構成によれば、ヘッド部材12が動く際に力の加わり易い上側の上部連結部材15Xaを張力に強いワイヤスリングとしつつ、チェーンスリングである下部連結部材15Xbを適切な長さに調整して、ワイヤ固定具20を係合部2に取り付ける作業を行いやすくなる。
【0062】
上記の実施形態では、鉄骨柱1の柱頭部1aに付属物が設けられている場合を例示して説明を行ったが、鉄骨柱1の柱頭部1aにガセットプレート1bなどの付属物が無い場合であっても柱吊治具10を用いることが可能である。
【0063】
上記の実施形態では、主として本発明に係る柱吊治具及びワイヤ固定具に関して説明した。上記の実施形態では、鉄骨柱1を対象としていたが、柱吊治具は鉄骨柱1だけでなく、木造の柱を立設する際に用いてもよい。また、柱は角柱に限定されるものではなく、丸柱であってもよい。同様に、ヘッド部材は枠状であれば、矩形状に限定されるものではなく、円形状であってもよい。
【0064】
また、上記形態は、本発明の理解を容易に理解するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0065】
1 鉄骨柱(柱)
1a 柱頭部
1b ガセットプレート(付属物)
2 係合部
2a 開口部
2b 開口部
10,10X 柱吊治具
12 ヘッド部材
12a フック掛け(連結部)
12b 側面
12c スリット(受容部)
13 ストッパ
14 ワイヤ(連結部材)
15 ワイヤ(連結部材)
15Xa 上部連結部材(第一連結部材)
15Xb 下部連結部材(第二連結部材)
16,17,18 フック
16Xa 上部フック
16Xb 下部フック
20 ワイヤ固定具(固定具)
21 基部
21a ネジ孔
21b ルーズ孔
22 側部
23 第一係止部
23a 第一係止片
24 第二係止部
24a 第二係止片
25 操作部材
25a 操作頭部
25b 操作軸部
25b1 ネジ部
25b2 非ネジ部
25c ナット
26 支持部材
26a 支持頭部
26b 支持軸部
26c ナット
27 環状部
30 柱プレート
31 枕木
32 基礎
33 アンカーボルト