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特開2022-157631還元鉄の製造方法および還元鉄の製造装置
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  • 特開-還元鉄の製造方法および還元鉄の製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157631
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】還元鉄の製造方法および還元鉄の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C21B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061960
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】照井 光輝
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆英
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012DA01
4K012DA05
(57)【要約】
【課題】事前に原料を予熱することなく、還元鉄を効率的に製造することができる還元鉄の製造方法を提供する。
【解決手段】還元鉄の原料となる塊成物を還元炉に装入するとともに、水素を主成分とする還元ガスを還元炉に導入して、還元ガスにより塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元鉄の製造方法において、還元炉に装入する塊成物は、その製造時に得た熱を保有する塊成物であり、上記熱を酸化鉄の還元反応に利用することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元鉄の原料となる塊成物を還元炉に装入するとともに、水素を主成分とする還元ガスを前記還元炉に導入して、前記還元ガスにより前記塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元鉄の製造方法において、
前記還元炉に装入する前記塊成物は、その製造時に得た熱を保有する塊成物であり、前記熱を前記酸化鉄の還元反応に利用することを特徴とする還元鉄の製造方法。
【請求項2】
前記塊成物を、その製造後、前記還元炉に直接装入する、請求項1に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記還元ガスは水素ガスである、請求項1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の還元鉄の製造方法に用いる還元鉄の製造装置であって、
前記塊成物の原料を塊成化して前記塊成物を製造する塊成物製造部と、
前記塊成物製造部により製造された前記塊成物を装入する塊成物装入口と、前記還元ガスを導入する還元ガス導入口と、前記還元反応に使用されなかった前記還元ガスおよび前記還元反応で生成された水を排出する排出口とを有し、前記還元ガスにより前記塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元部と、
を備える還元鉄の製造装置。
【請求項5】
前記還元部が前記塊成物製造部に直接接続されている、請求項4に記載の還元鉄の製造装置。
【請求項6】
前記塊成物製造部および前記還元部が横型である、請求項4または5に記載の還元鉄の製造装置。
【請求項7】
前記還元部は竪型である、請求項4または5に記載の還元鉄の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元鉄の製造方法および還元鉄の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄を含む原料を還元して鉄を生産する方式としては、還元材にコークスを利用して溶銑を製造する高炉法や、還元材に還元ガスを利用して竪型炉(以下、「シャフト炉」と言う。)に吹き込む方式、同じく還元ガスにより粉鉱石を流動層中で還元する方式、原料の塊成化と還元とが一体となった方式(ロータリーキルン方式)などが知られている。
【0003】
これらのうち、高炉法を除く還元鉄の製造法では、還元材として天然ガスや石炭を改質して製造した一酸化炭素(CO)または水素(H)を主成分とした還元ガスが用いられ、炉内に装入された原料は、還元ガスとの対流伝熱により昇温されて還元された後、炉外に排出される。炉内からは水(HO)や二酸化炭素(CO)などの酸化したガスや、還元反応に寄与しなかったHガスやCOガスが排出される。
【0004】
炉内に装入された原料(主に、Fe)は、還元ガスであるCOガスやHガスから、以下の式(1)および(2)に示す還元反応を受ける。
Fe+3CO→2Fe+3CO (1)
Fe+3H→2Fe+3HO (2)
【0005】
すなわち、式(1)に示したCOガスによる還元では、還元後の排出ガスとしてCOガスが排出される。一方、式(2)に示したHガスによる還元では、還元後の排出ガスとしてHOガスが排出される。
【0006】
ところで近年、COガス排出量の増加による地球温暖化が問題となっているが、温暖化の要因とされる温室効果ガスの1つであるCOの排出量を抑制するためには、式(1)のCOガスによる還元反応量を減らして、式(2)のHガスによる還元反応量を増加させればよく、そのためには、使用する還元ガス中のHの濃度を高めればよい。
【0007】
しかしながら、COガスおよびHガスによる還元反応では、それぞれ反応に伴い発熱または吸熱される熱量が異なる。すなわち、COガスによる還元反応熱が+6710kcal/kmol(Fe)であるのに対して、Hガスによる還元反応熱は-22800kcal/kmol(Fe)である。つまり、前者が発熱を伴う反応であるのに対し、後者は吸熱を伴う反応である。したがって、還元ガス中のH濃度を高めて式(2)の反応量の増大を意図した場合、著しい吸熱反応が生じて炉内の温度が低下し、還元反応の停滞を招く問題が生じる。そのため、何らかの方法によって不足する熱を補償する必要がある。
【0008】
こうした背景の下、特許文献1には、Hガスと酸化鉄との反応による吸熱を補償するために、還元炉の上部より装入される原料を事前に100℃以上627℃以下に予熱する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5630222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に提案された方法では、原料を事前に予熱する設備が必要となり、製造コストが増加する問題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、事前に原料を予熱することなく、還元鉄を効率的に製造することができる還元鉄の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]還元鉄の原料となる塊成物を還元炉に装入するとともに、水素を主成分とする還元ガスを前記還元炉に導入して、前記還元ガスにより前記塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元鉄の製造方法において、
前記還元炉に装入する前記塊成物は、その製造時に得た熱を保有する塊成物であり、前記熱を前記酸化鉄の還元反応に利用することを特徴とする還元鉄の製造方法。
【0013】
[2]前記塊成物を、その製造後、前記還元炉に直接装入する、前記[1]に記載の還元鉄の製造方法。
【0014】
[3]前記還元ガスは水素ガスである、前記[1]または[2]に記載の還元鉄の製造方法。
【0015】
[4]前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の還元鉄の製造方法に用いる還元鉄の製造装置であって、
前記塊成物の原料を塊成化して前記塊成物を製造する塊成物製造部と、
前記塊成物製造部により製造された前記塊成物を装入する塊成物装入口と、前記還元ガスを導入する還元ガス導入口と、前記還元反応に使用されなかった前記還元ガスおよび前記還元反応で生成された水を排出するガス排出口とを有し、前記還元ガスにより前記塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元部と、
を備える還元鉄の製造装置。
【0016】
[5]前記還元部が前記塊成物製造部に直接接続されている、前記[4]に記載の還元鉄の製造装置。
【0017】
[6]前記塊成物製造部および前記還元部が横型である、前記[4]または[5]に記載の還元鉄の製造装置。
【0018】
[7]前記還元部は竪型である、前記[4]または[5]に記載の還元鉄の製造装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、事前に原料を予熱することなく、還元鉄を効率的に製造することができる還元鉄の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】シャフト炉の概略を示す図である。
図2】本発明による還元鉄の製造装置の一例を示す図である。
図3】発明例および比較例について、シャフト炉の熱容量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、本発明の実施形態は下記の実施形態に限定されるものではない。本発明による還元鉄の製造方法は、還元鉄の原料となる塊成物を還元炉に装入するとともに、水素を主成分とする還元ガスを還元炉に導入して、還元ガスにより塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元鉄の製造方法である。ここで、還元炉に装入する塊成物は、その製造時に得た熱を保有する塊成物であり、上記熱を酸化鉄の還元反応に利用することを特徴とする。
【0022】
本発明者らは、還元鉄の原料となる塊成物を事前に予熱することなく、還元鉄を効率的に製造する方法について鋭意検討した。従来、還元炉で還元鉄を製造する際には、微粉鉱石のほか、通常ペレットと呼ばれる粉鉱石を球状に焼き固めた原料を使用している。また、高炉による還元鉄の製造ではあるが、通常、原料を焼結機と呼ばれる装置により焼結鉱に焼き固めたのちに高炉に装入する。ペレットを焼成する際には、通常1300℃、焼結鉱を焼成する際には、通常1250℃付近まで昇温される。本明細書では、上記ペレットと焼結鉱とを合わせて「塊成物」と称する。
【0023】
上述のように製造された塊成物は、使用する設備(サイト)まで搬送する必要があるが、塊成物の製造直後の温度は、ペレットが1260℃前後、焼結鉱が800~1200℃である。そのため、ベルトコンベアなどで搬送する場合には、ベルトが焼けてしまう問題がある。そこで、従来、製造されたペレットあるいは焼結鉱などの塊成物は、その後、クーラーと呼ばれる装置に装入され、これら塊成物が含有する顕熱が回収されている。回収された顕熱は、例えばボイラーなどに使用される。このように、塊成物が有する顕熱は回収されて再利用されているものの、中間工程が多くなるため、熱のロスが発生している。
【0024】
本発明者らは、従来、クーラーにより回収されていた製造後の塊成物が有する顕熱を、Hによる還元反応熱のための熱源として利用することに想到し、本発明を完成させたのである。
【0025】
本発明において、還元炉に装入する塊成物は、その製造時に得た熱を保有する塊成物である。ここで、「製造時に得た熱を保有する塊成物」とは、ペレットや焼結鉱の製造時に、鉄鉱石粉などの原料に与えられた熱の少なくとも一部を製造後に保有する塊成物、具体的には、室温(例えば、25℃)を超える温度の塊成物を意味する。従って、製造後に還元炉に搬送されるまでに自然冷却された塊成物、製造後に還元炉に搬送されるまでに意図的に室温よりも高い所定の温度まで冷却された塊成物は、上記「製造時に得た熱を保有する塊成物」に含まれる。
【0026】
還元炉に装入される塊成鉱の温度は、酸化物の還元反応熱を供給する点では高い方が好ましい。具体的には、還元炉に装入される塊成鉱の温度は、500℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましく、700℃以上であることがさらに好ましく、800℃以上であることが最も好ましい。
【0027】
本発明において、還元ガスとして、Hを主成分とするガスを用いる。なお、本明細書において、「Hを主成分とするガス」とは、H濃度が50体積%以上であるガスを意味している。これにより、COの排出削減を行うことができる。
【0028】
上記還元ガスのH濃度は、65体積%以上が好ましい。これにより、COの排出削減効果をより高めることができる。還元ガスのH濃度は、70体積%以上がより好ましく、80体積%以上がさらに好ましく、90体積%以上がさらにまた好ましく、100体積%、すなわち還元ガスとしてHガスを用いることが最も好ましい。還元ガスとしてHガスを用いることにより、COを排出することなく、還元鉄を製造することができる。
【0029】
また、還元炉に導入する還元ガスの温度は、800℃以上1000℃以下とすることが好ましい。還元ガスの温度を800℃以上とすることにより反応速度が向上し、温度が高い程反応速度は向上する。しかしながら、還元ガスの温度が高温になりすぎると、塊成物同士が相互に固着する、いわゆるクラスタリング現象が生じ、炉内において塊成物が大塊化し、搬送性が低下する。そのため、還元ガスの温度は、1000℃以下が好ましい。より好ましくは、還元ガスの温度は860℃以上950℃以下である。
【0030】
以下、本発明による還元鉄の製造方法を、還元炉として、竪型炉であるシャフト炉を用いる場合を例として説明する。図1は、シャフト炉の概略を示している。図1に示したシャフト炉の上部には、還元鉄の原料である塊成物を貯留するサージビンが配設されており、炉上部に設けられた塊成物装入口から、製造時に得た熱を保有する塊成物を装入する。一方、炉下部には、還元ガス導入口が設けられており、例えば天然ガスを改質して製造したCOガスとHガスとの混合ガスであり、Hが主成分である還元ガスが吹き込まれる。
【0031】
炉内に装入された原料である塊成物は、還元ガスとの熱交換により昇温されて塊成物に含まれる酸化鉄が、式(1)および(2)に示した反応で還元される。その際、塊成物が保有する熱が式(2)の吸熱を補償するため、還元反応の停滞を抑制して効率的に還元鉄を得ることができる。得られた還元鉄は、炉下部から炉外に排出される。
【0032】
本発明において、還元鉄の原料である塊成物を、その製造後、前記還元炉に直接装入することが好ましい。これにより、還元炉内でのHガスによる酸化鉄の還元反応により多くの顕熱を供給することができる。なお、「塊成物を、その製造後、還元炉に直接装入する」とは、製造された塊成物を、クーラーでの塊成物の冷却工程など、塊成物に対して意図的な処理を施す工程(ただし、塊成物の搬送工程を除く)を挟むことなく、還元炉に装入することを意味している。
【0033】
例えば、ペレット焼成用のロータリーキルンにより焼成されたペレットは、上記の顕熱回収用のクーラーへ輸送せず、シャフト炉上部に配設されたサージビン内に直接輸送することが好ましい。輸送に際しては、高温のペレットによるベルトコンベアの焼損を防止するため、コークス炉で使用されている消火車のような形態を用いてもよい。また、炉頂のサージビンにペレットを輸送する場合には、スキップカーなどを用いて、バッチ式に輸送してもよい。また、塊成物として焼結鉱を使用する際にも、上記ペレットと同様の輸送形態を採用すればよい。
【0034】
また、本発明による還元鉄の製造方法では、焼成後の塊成物からの排熱量を低減するために、塊成物の製造プロセスから還元鉄の製造プロセスまでの距離を極力短縮させることが好ましい。
【0035】
図2は、本発明による還元鉄の製造方法に用いることができる還元鉄の製造装置の一例を示している。図2に示した装置は、塊成物の原料を塊成化して塊成物を製造する塊成物製造部と、還元ガスにより塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得る還元部とを備える横型の還元鉄の製造装置である。上記還元部は、塊成物製造部により製造された塊成物を装入する塊成物装入口と、還元ガスを導入する還元ガス導入口と、還元反応に使用されなかった還元ガスおよび還元反応で生成されたガスを排出するガス排出口とを有する。
【0036】
図2に示した装置においては、還元部が塊成物製造部に直接接続されており、かつ隣接して配置(すなわち、並設)されている。これにより、塊成物の製造プロセスから塊成物に含まれる酸化鉄の還元プロセスに直ちに移行して、製造された塊成物を系外に排出することなく、連続的に還元処理することができる。なお、「還元部が塊成物製造部に直接接続されている」とは、塊成物製造部と還元部との間に、クーラーでの塊成物の冷却を行う構成など、塊成物に対して意図的な処理を施す構成(ただし、塊成物の搬送手段を除く)が配置されていないことを意味する。
【0037】
塊成物製造部では、鉄鉱石粉などの塊成鉱の原料がホッパーからベルトコンベア上に供給され、供給された原料からなる原料層の上部から点火炉等で原料層に点火するとともに、排風機で原料層の下部から空気の吸引を行うことによって、原料層上部の燃焼領域が徐々に下部に移動し、原料層全体が上部から下部に向かって焼成され、塊成物が得られる。
【0038】
また、還元部では、ベルトコンベアにより、塊成物製造部により製造された塊成物が塊成物装入口から還元部内に一定速度で装入される。同時に、還元部の上部に設けられた還元ガス導入口からHガスなどの還元ガスが炉内に導入され、還元ガスにより塊成物に含まれる酸化物が還元され、還元鉄が得られる。得られた還元鉄は、還元炉から排出されて回収される一方、排風機により、還元反応に使用されなかった還元ガスが還元反応により生成された水とともに炉の下部に設けられた排出口から排出される。排出された還元ガスは、脱水された後、還元部の上部に導かれて新品の還元ガスと混合され、再度還元部内に導入される。こうして、還元鉄を連続的に製造することができる。
【0039】
なお、図2に示した装置は横型の装置であるが、還元部を、図1に示した竪型炉であるシャフト炉で構成することもできる。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0041】
本発明による還元鉄の製造方法の有効性を確認するために、還元炉としてシャフト炉を用いた場合について、熱物質収支モデルによる成品(還元鉄)の還元率を計算した。
【0042】
(比較例1)
シャフト炉を用いた現行の方法に従って還元鉄を製造した。具体的には、還元ガスとして、CO濃度が38体積%、H濃度が62体積%の混合ガスを用いた。また、シャフト炉の上部から装入する塊成鉱の温度を25℃、シャフト炉の下部から導入した還元ガスの温度を950℃とし、還元ガスの送風量を2200Nm/tとした。その結果、成品である還元鉄の還元率は91.7%となった。還元鉄の製造条件、熱流比および成品還元率を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(比較例2)
比較例1と同様に、還元鉄を製造した。ただし、還元ガスとしてHガス(水素濃度が100体積%のガス)を用いた。その他の条件は、比較例1と全て同じである。その結果、成品の還元率は30.5%となった。還元鉄の製造条件および成品還元率を表1に示す。
【0045】
(発明例1)
比較例1と同様に、還元鉄を製造した。ただし、還元ガスとしてHガス(水素濃度が100体積%のガス)を用い、還元炉に装入した塊成鉱の温度を500℃とした。また、還元ガスの送風量は、後述するように、比較例1と熱流比が同じになる送風量とした。その他の条件は、比較例1と全て同じである。その結果、成品の還元率は90.1%となった。還元鉄の製造条件および成品還元率を表1に示す。
【0046】
(発明例2)
発明例1と同様に、還元鉄を製造した。ただし、還元炉に装入した塊成鉱の温度を800℃とした。また、還元ガスの送風量は、後述するように、比較例1と熱流比が同じになる送風量とした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。その結果、成品の還元率は90.7%となった。還元鉄の製造条件および成品還元率を表1に示す。
【0047】
<成品還元率の評価>
表1に示すように、現行の条件で還元鉄を製造した比較例1について、成品還元率が91.7%であるのに対して、比較例2については、還元ガスのH濃度を100質量%とし、大きく増加させたことによって、成品還元率が30.5%へと大きく低下した。これに対して、発明例1および発明例2においては、還元ガスの水素濃度を100質量%としても、比較例1とほぼ同等の還元率が得られており、本発明により還元鉄を効率的に製造できることが確認された。
【0048】
<シャフト炉の熱容量の評価>
高炉やシャフト炉等の竪型向流移動層において、原料の昇温が十分に行われプロセスとしての成立可否を判断する指標の1つに、熱流比を挙げることができる。熱流比は、装入される原料の流量と比熱との積(熱容量)を、炉内に吹き込まれるガスの流量と比熱との積で除した値であり、炉内の装入物およびガスの温度分布に大きく影響を及ぼすパラメーターである。
【0049】
図3は、発明例および比較例について、シャフト炉の熱容量を示している。まず、現行の方法に従って還元鉄を製造した比較例1のシャフト炉では、還元ガスの送風量2200Nm/t、H濃度38体積%、CO濃度62体積%の条件において、還元ガスおよび塊成物の熱容量から計算される熱流比は0.63となった。なお、単位Nm/tとは、還元鉄1トンを製造するのに必要な還元ガスの量を表す。また、還元ガスの熱容量は還元ガスの顕熱から算出し、塊成物の熱容量は顕熱および還元反応熱の値から算出した。
【0050】
これに対し、還元ガスのH濃度が100体積%である比較例2の場合、Hによる吸熱反応が増大し、熱容量から計算される熱流比は0.97となった。この場合、還元ガスの熱容量と原料である塊成物の熱容量が拮抗しているため、塊成物の昇温が遅れ、塊成物に含まれる酸化鉄の還元が停滞して成品還元率が低下する懸念がある。これに対し、発明例1および発明例2の場合、装入時の塊成物の温度を高温に保つことによって、還元ガスのH濃度が100体積%の場合においても、現行のシャフト炉の同等の熱流比0.63を保つことが可能となる。加えて、熱流比0.63の場合に炉内に吹き込む還元ガス量も、比較例1の2200Nm/tから1405Nm/t(発明例1)および1252Nm/t(発明例2)に低減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、事前に原料を予熱することなく、還元鉄を効率的に製造することができる還元鉄の製造方法を提供することができるため、製鉄業において有用である。
図1
図2
図3