(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157632
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】塊成物製造用の原料粒子、塊成物製造用の原料粒子の製造方法、塊成物、塊成物の製造方法および還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/14 20060101AFI20221006BHJP
C21B 13/00 20060101ALI20221006BHJP
C22B 5/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C22B1/14
C21B13/00
C22B5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061965
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆英
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】照井 光輝
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001BA05
4K001CA01
4K001CA25
4K001CA29
4K001GA01
4K001HA09
4K001HA11
4K012DA02
4K012DA05
4K012DA08
(57)【要約】
【課題】従来よりも高い還元性を有する塊成物を製造することができる、塊成物製造用の原料粒子を提供する。
【解決手段】還元鉄製造の原料となる塊成物を製造するための原料粒子であって、中心部11と該中心部11の周囲を覆う外周部12とを備え、中心部11は金属鉄含有物質または揮発物質を有し、外周部12は、酸化鉄を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元鉄製造の原料となる塊成物を製造するための原料粒子であって、
中心部と、該中心部の周囲を覆う外周部とを備え、
前記中心部は金属鉄含有物質または揮発物質を有し、前記外周部は、酸化鉄を有することを特徴とする、塊成物製造用の原料粒子。
【請求項2】
前記酸化鉄は、少なくとも4質量%超えの結晶水および/または1.5質量%超えのアルミナを含む、請求項1に記載の塊成物製造用の原料粒子。
【請求項3】
前記中心部の粒径が2mm以上6mm以下である、請求項1または2に記載の塊成物製造用の原料粒子。
【請求項4】
前記外周部の厚みが2mm以上5mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の塊成物製造用の原料粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の原料粒子を製造する方法であって、
前記酸化鉄を有する原料を粉砕して原料粉とした後、分級して前記原料粉の粒径を調整する前処理工程と、
粒度が調整された前記原料粉と前記金属鉄含有物質または前記揮発物質とバインダーとを混合して造粒し、前記原料粒子を得ることを特徴とする、塊成物製造用の原料粒子の製造方法。
【請求項6】
前記造粒工程において、粒径が2mm以上6mm以下である前記金属鉄含有物質または前記揮発物質を用いる、請求項5に記載の塊成物製造用の原料粒子の製造方法。
【請求項7】
前記造粒工程において、前記外周部の厚みを2mm以上5mm以下に調整する、請求項5または6に記載の塊成物製造用の原料粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の原料粒子を焼成または焼結して塊成化された塊成物であって、
塊成化された前記原料粒子は、
焼成または焼結前の前記中心部が前記金属鉄含有物質を有する場合、前記中心部は前記金属鉄含有物質を有する第1部分と、該第1部分の周囲を覆う、前記金属鉄含有物質に含まれる金属鉄が酸化した第2部分とを有する3層構造を有し、
焼成または焼結前の前記中心部が前記揮発物質を有する場合、前記中心部が空隙である中空構造を有することを特徴とする塊成物。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の原料粒子、または請求項5~7のいずれか一項に記載の塊成物製造用の原料粒子の製造方法によって製造された原料粒子を、1200℃以上1350℃以下の酸化雰囲気下で焼成または焼結して塊成化し、塊成物を得ることを特徴とする、塊成物の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の塊成物または請求項9に記載の塊成物の製造方法によって製造された塊成物を還元炉に装入するとともに、還元ガスを前記還元炉に導入し、前記還元ガスにより前記塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得ることを特徴とする還元鉄の製造方法。
【請求項11】
前記還元ガスとして水素を主成分とするガスを使用する、請求項10に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塊成物製造用の原料粒子、塊成物製造用の原料粒子の製造方法、塊成物、塊成物の製造方法および還元鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業においては、長年、高炉法が銑鉄製造工程の主流を担ってきた。高炉法においては、高炉の炉頂から焼結鉱などの酸化鉄を含む原料およびコークスを高炉内に装入し、高炉下部の羽口から熱風を高炉内に吹き込む。これにより、吹き込まれた熱風が高炉内のコークスと反応して高温の還元ガス(主に一酸化炭素(CO)ガス)が発生し、原料を加熱しながら還元する。その後、原料は溶融してコークスによってさらに還元されながら高炉内を滴下し、最終的には溶銑(銑鉄)として炉床部に貯留する。貯留した溶銑は、出銑口から取り出され、次の製鋼プロセスに供される。このように、高炉法ではコークスなどの炭材を還元材として使用して、原料に含まれる酸化鉄を間接的に還元する。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化防止が叫ばれており、温室効果ガスの1つである二酸化炭素(CO2)の排出削減が強く要請されている。上述のように、高炉法では還元材として炭材を使用するため、大量のCO2が発生する。そこで、還元材比(溶銑1トンあたりの還元材使用量)を削減した様々な高炉操業方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、原料に含まれる酸化鉄を直接還元する方法として、還元鉄の原料である、鉄鉱石粉の焼成ペレットや焼結体などの塊成物をシャフト炉などの還元炉の炉頂部から装入するとともに、還元剤としてガス(COガス、H2ガス)を還元炉の炉下部から導入して還元鉄を製造する方法があり(例えば、特許文献2)、MIDREX(登録商標)(非特許文献1)などが知られている。この方法において、還元ガスとしてH2ガスのみを使用する場合、理論上はCO2を排出しない還元鉄の製造が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-45508号公報
【特許文献2】特公平2-46644号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】厚,上村,坂口:“MIDREX(R)プロセス”神戸製鋼技報/Vol.60 No.1(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2または非特許文献1に記載された方法において、CO2の排出量を抑制するためには、COガスによる還元反応量を減らして、H2ガスによる還元反応量を増加させればよく、そのためには、使用する還元ガスのH2濃度を高めればよい。
【0008】
しかしながら、COガスによる還元反応が発熱反応(+6710kcal/kmol(Fe2O3))であるのに対して、H2ガスによる還元反応は吸熱反応(-22800kcal/kmol(Fe2O3))である。したがって、還元ガスのH2濃度を高めると、吸熱反応が生じて炉内の温度が低下し、還元反応が停滞して還元性が低下する問題がある。
【0009】
上述のような還元性の低下問題を解決するために、高い還元性を有する塊成物ひいては、こうした塊成物を製造することができる原料粒子が希求されている。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも高い還元性を有する塊成物を製造することができる、塊成物製造用の原料粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
【0012】
[1]還元鉄製造の原料となる塊成物を製造するための原料粒子であって、
中心部と、該中心部の周囲を覆う外周部とを備え、
前記中心部は金属鉄含有物質または揮発物質を有し、前記外周部は、酸化鉄を有することを特徴とする、塊成物製造用の原料粒子。
【0013】
[2]前記酸化鉄は、少なくとも4質量%超えの結晶水および/または1.5質量%超えのアルミナを含む、前記[1]に記載の塊成物製造用の原料粒子。
【0014】
[3]前記中心部の粒径が2mm以上6mm以下である、前記[1]または[2]に記載の塊成物製造用の原料粒子。
【0015】
[4]前記外周部の厚みが2mm以上5mm以下である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の塊成物製造用の原料粒子。
【0016】
[5]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の原料粒子を製造する方法であって、前記酸化鉄を有する原料を粉砕して原料粉とした後、分級して前記原料粉の粒径を調整する前処理工程と、
粒度が調整された前記原料粉と前記金属鉄含有物質または前記揮発物質とバインダーとを混合して造粒し、前記原料粒子を得ることを特徴とする、塊成物製造用の原料粒子の製造方法。
【0017】
[6]前記造粒工程において、粒径が2mm以上6mm以下である前記金属鉄含有物質または前記揮発物質を用いる、前記[5]に記載の塊成物製造用の原料粒子の製造方法。
【0018】
[7]前記造粒工程において、前記外周部の厚みを2mm以上5mm以下に調整する、前記[5]または[6]に記載の塊成物製造用の原料粒子の製造方法。
【0019】
[8]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の原料粒子を焼成または焼結して塊成化された塊成物であって、
塊成化された前記原料粒子は、
焼成または焼結前の前記中心部が前記金属鉄含有物質を有する場合、前記中心部は前記金属鉄含有物質を有する第1部分と、該第1部分の周囲を覆う、前記金属鉄含有物質に含まれる金属鉄が酸化した第2部分とを有する3層構造を有し、
焼成または焼結前の前記中心部が前記揮発物質を有する場合、前記中心部は空隙である中空構造を有することを特徴とする塊成物。
【0020】
[9]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の原料粒子、または前記[5]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された原料粒子を、1200℃以上1350℃以下の酸化雰囲気下で焼成または焼結して塊成化し、塊成物を得ることを特徴とする、塊成物の製造方法。
【0021】
[10]前記[8]に記載の塊成物または前記[9]に記載の製造方法によって製造された塊成物を還元炉に装入するとともに、還元ガスを前記還元炉に導入し、前記還元ガスにより前記塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得ることを特徴とする還元鉄の製造方法。
【0022】
[11]前記還元ガスとして水素を主成分とするガスを使用する、前記[10]に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来よりも高い還元性を有する塊成物を製造することができる、塊成物製造用の原料粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来の塊成物を構成する粒子の一例を示す図である。
【
図2】本発明による塊成物製造用の原料粒子を示す図であり、(a)は中心部が金属鉄含有物質を有するもの、(b)は中心部が揮発物質を有するものである。
【
図3】本発明による塊成物を構成する粒子を示す図であり、(a)は3層構造を有するもの、(b)は中空構造を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(塊成物製造用の原料粒子)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による塊成物製造用の原料粒子は、還元鉄製造の原料となる塊成物を製造するための原料粒子であり、中心部と該中心部の周囲を覆う外周部とを備え、上記中心部は金属鉄含有物質または揮発物質を有し、上記外周部は、酸化鉄を有することを特徴とする。
【0026】
本発明者らは、従来よりも高い還元性を有する還元鉄製造の原料となる塊成物を製造することができる、塊成物製造用の原料粒子について鋭意検討した。
図1は、従来の塊成物を構成する粒子の一例を示している。
図1に示した粒子100は、中心部110と該中心部110の周囲を覆う外周部120とを備える。粒子100においては、中心部110は粗粒の酸化鉄で構成されており、外周部120は鉄鉱石の微粉(すなわち、酸化鉄)で構成されている。
【0027】
本発明者らは、塊成物の還元性を高める方途について鋭意検討した。その結果、塊成物を構成する粒子について、中心部を還元が不要またはあまり必要ではない物質で構成することに想到した。
【0028】
すなわち、上記粒子100は、粒子全体が酸化鉄で構成されているが、中心部110の酸化鉄を還元するためには、還元ガスが外周部120を通過して中心部110に到達し、反応によって生成されるガスが粒子100の表面から排出される必要がある。そのため、粒子100の中心部110の酸化鉄を還元するには、外周部120の酸化鉄を還元する場合に比べて多くの時間を要する。これは、粒子全体の還元性の低下に繋がる。
【0029】
そこで、本発明者らは、従来の粒子100において還元に多くの時間を要する中心部110を、金属鉄の含有率が高い金属鉄含有物質や空隙などの還元が不要か、あまり必要ではない物質で構成することにより、粒子全体として還元に要する時間を低減して還元性を高めることができるのではないかと考えた。
【0030】
そして、本発明者らは、上述のような塊成物は、中心部を上記金属鉄含有物質または高温で多くの割合が消失する揮発物質で構成し、外周部を鉄鉱石粉で構成した原料粒子を用いて製造することにより、塊成化工程(焼成工程または焼結工程)後に得られる塊成物を構成する粒子が、上述のような、中心部を還元不要あるいはあまり必要ではない状態にできることを見出し、本発明を完成させたのである。以下、本発明の各構成について説明する。
【0031】
本実施形態の塊成物製造用の原料粒子は、還元ガスを用いた還元鉄製造の原料となる塊成物を製造するための原料粒子であり、一般にグリーンペレットと呼ばれるものである。
図2は、本発明による塊成物製造用の原料粒子を示している。
図2(a)に示した原料粒子1は、金属鉄含有物質を有する中心部11と、酸化鉄を有する外周部12とを備える。また、
図2(b)に示した原料粒子2は、揮発物質を有する中心部21と、酸化鉄を有する外周部22とを備える。
【0032】
<中心部>
中心部11(21)は、原料粒子1(2)の核を構成する部分であり、本発明においては還元ガスによる還元不要物質あるいは還元があまり必要ではない物質で構成されている。具体的には、中心部11(21)は、金属鉄含有物質(揮発物質)で構成されている。
【0033】
-金属鉄含有物質-
本発明において、金属鉄含有物質は、金属鉄の含有率が高い物質であり、具体的には、金属鉄の濃度が70質量%以上の物質である。こうした金属鉄含有物質としては、還元鉄製造時に製造された還元不良品や還元ペレットの篩下品(ペレットチップ)、鋳鉄などの各種スクラップ屑などが挙げられ、金属鉄の濃度が70質量%以上の物質を用いることができる。金属鉄の濃度が90質量%以上の物質を用いることが好ましい。
【0034】
-揮発物質-
一方、揮発物質は、塊成化工程(焼成工程または焼結工程)において揮発する物質であり、具体的には、1000℃で質量減少率が90%以上の物質である。こうした揮発物質としては、古紙や有機物質など用いることができる。具体的には、ポリプロピレンや木質バイオマス系のペレット、古紙・製紙パルプ廃材から製造されたペレットなどを用いることができる。
【0035】
以下、還元鉄製造の原料となる塊成物全体の粒径をグリーンペレットとして使用される6~16mmとする場合の好適な粒構成について述べる。中心部11の粒径は、2mm以上6mm以下とすることが好ましい。中心部11の粒径が2mm以上であれば、原料粒子1が塊成化工程において焼成または焼結された場合にも、中心部11の全てが酸化されずに金属鉄含有物質を残して、塊成物の還元性を高めることができる。また、中心部11の粒径が6mm以下であれば、原料粒子1(2)の粒径を6~16mmとする場合、被覆層の厚みを十分確保し、還元鉄用の新原料をより多く配合することができる。
【0036】
<外周部>
外周部12(22)は、原料粒子1(2)において、核である中心部11(21)の周囲を覆う被覆層を構成する。本発明では、外周部12(22)は、酸化鉄で構成できる。
【0037】
外周部12(22)の鉄源は、粉状の酸化鉄である酸化鉄粉で構成することが好ましい。これにより、塊成物を還元する際に、還元ガスを酸化鉄粉間の隙間を流通させて、酸化鉄を効率的に還元させることができる。また、外周部12(22)の構成には、CaOやMgO等の副原料を含有させてもよい。
【0038】
外周部12(22)が酸化鉄粉で構成されている場合、その粒径は125μm以下であることが好ましい。酸化鉄粉の粒径が125μm以下であれば、原料粒子1(2)の強度を低下させることなく、搬送時に崩壊する粉体間の空隙率を低下させた緻密な原料粒子1(2)を造粒製造することができる。より好ましくは、酸化鉄粉の粒径は、63μm以下、さらに好ましくは45μm以下である。
【0039】
外周部12の厚みは、2mm以上5mm以下であることが好ましい。外周部12の厚みが2mm以上であれば、焼成過程における外周部12を構成する層の破れや崩壊を抑止することができる。また、外周部12の厚みが5mm以下であれば、原料粒子1(2)の粒径を6mm~16mmの範囲に制御することが可能となり、還元炉における反応時間を確保することができる。
【0040】
また、外周部12(22)における酸化鉄は、比較的低品質の原料で構成することができ、具体的には、少なくとも4質量%超えの結晶水および/または1.5質量%超えのアルミナを含むことができる。従来、還元炉を用いた還元鉄の製造プロセスにおいては、原料として酸化鉄の含有量が多い高品質のものが使用されてきた。しかしながら、近年、還元鉄の原料となる塊成物を製造するための鉄鉱石粉の品質が、高品質の鉄鉱石の枯渇によって低品位化している。低品位の鉄鉱石は結晶水や脈石(アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2))を多く含有しており、結晶水は塊成物の強度低下や焼成過程における爆裂の原因となり、また脈石は焼成過程において溶融して塊成物の強度を低下させる問題がある。
【0041】
このような強度低下を補うために、乾燥工程において鉄鉱石に含まれる結晶水を低減したり、焼成熱量を増加したりすることが有効であるが、得られた塊成物が緻密な組織となるため、今度は塊成物の還元性が低下する問題が生じる。還元性が低下すると、還元鉄製造プロセスにおいて塊成物の還元により多くの時間を要することになるため、還元鉄の製造効率が低下する。このように、塊成物の強度と還元性とはトレードオフの関係にある。
【0042】
塊成物の強度と還元性とを両立させる方法として、例えば、原料粒子のサイズを従来よりも小さくすることが考えられる。しかしこの場合、造粒工程において、焼成または焼結前の原料粒子を造粒する際に、造粒サイズを緻密に制御する必要があり、これは従来の造粒機を用いた操業では困難である。また、還元炉に装入した場合には細粒のペレットは通気性を阻害する可能性があるため、操業上好ましくない。
【0043】
この点、本発明による原料粒子1(2)は、中心部11(21)を金属鉄含有物質(揮発物質)で構成しており、還元が不要またはあまり必要ではない物質で構成されている。そのため、低品位の鉄鉱石、具体的には、外周部を構成する酸化鉄が、少なくとも4質量%超えの結晶水および/または1.5質量%超えのアルミナを含む場合にも、緻密な塊成物を製造することによる還元性の低下を補うことができ、強度と還元性とを兼ね備えた塊成物を製造することができる。こうした酸化鉄としては、例えば不純物の比較的多い豪州産の鉄鉱石やインド産の鉄鉱石などを用いることができる。
【0044】
原料粒子1(2)の粒径は、6mm以上16mm以下であることが好ましい。原料粒子1(2)の粒径が6mm以上であれば、原料粒子1(2)を塊成化して得られる塊成物に含まれる酸化鉄を還元する際に、炉内の通気性を確保しながら操業することができる。また、原料粒子1(2)の粒径が16mm以下であれば、原料粒子1(2)内部における還元の遅延を最小限に留めて、高還元率の塊成物を製造することができる。好ましくは、原料粒子1(2)の粒径は9mm以上16mm以下である。
【0045】
また、原料粒子1全体に占める中心部11の割合は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。中心部11の割合が5質量%以上であれば、還元性の高い塊成物を得ることができる。また、中心部11の割合が50質量%以下であれば、被覆層である外周部12の厚みを確保しつつ、還元鉄用の新原料をより多く配合することができる。より好ましくは、中心部11の割合は、10質量%以上20質量%以下である。
【0046】
(塊成物製造用の原料粒子の製造方法)
本発明による塊成物製造用の原料粒子の製造方法は、上述した本発明による原料粒子を製造する方法であって、酸化鉄を有する原料を粉砕して原料粉とした後、分級して上記原料粉の粒径を調整する前処理工程と、粒度が調整された原料粉と金属鉄含有物質または揮発物質とバインダーとを混合して造粒し、本発明による原料粒子を得ることを特徴とする。
【0047】
上述のように、本発明による塊成物製造用の原料粒子は、中心部を還元不要物質または還元があまり必要ではない物質で構成することによって、従来よりも高い還元性を有する塊成物を製造できることを特徴としている。上記本発明による原料粒子は、公知のグリーンペレットの製造方法を用いて製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0048】
まず、前処理工程では、後工程である造粒工程を行うために必要な前処理を行う。具体的には、高品質の鉄鉱石などの、4質量%以下の結晶水および/または1.5質量%以下のアルミナを含む酸化鉄を有する原料、あるいは低品質の鉄鉱石などの、4質量%超えの結晶水または1.5質量%超えのアルミナを含む酸化鉄を有する原料を粉砕し、得られた原料粉を分級してその粒径を調整する。鉄鉱石の原料の粉砕は、ボールミルなどを用いて行うことができる。また、分級については、回転ローターや篩いなどを用いて行うことができる。
【0049】
次に、造粒工程では、前処理工程において粒径が調整された原料粉と、金属鉄含有物質または揮発物質と、生石灰やベントナイトなどのバインダーとを混合して造粒する。これらはCaOやMgOの成分調整材でもある。これは、ディスクペレタイザーなどのペレタイザーやドラムミキサーなどを用いて行うことができる。こうして、塊成物製造用の原料粒子を製造することができる。
【0050】
上記造粒工程において、粒径が2mm以上6mm以下である金属鉄含有物質または揮発物質を用いることが好ましいのは既述の通りである。また、造粒工程において、外周部の厚みを2mm以上5mm以下に調整することが好ましいのも既述の通りである。
【0051】
(塊成物)
本発明による塊成物は、上述した本発明による塊成物製造用の原料粒子を焼成または焼結して塊成化された塊成物であって、塊成化された原料粒子は、焼成または焼結前の中心部が金属鉄含有物質を有する場合、中心部は金属鉄含有物質を有する第1部分と、該第1部分の周囲を覆う、金属鉄含有物質に含まれる金属鉄が酸化した第2部分とを有する3層構造を有し、焼成または焼結前の中心部が揮発物質を有する場合、中心部が空隙である中空構造を有することを特徴とする。
【0052】
上述のように、本発明による塊成物製造用の原料粒子は、その中心部が金属鉄含有物質または揮発物質を有するように構成されている。原料粒子1の中心部11が金属鉄含有物質を有する場合、原料粒子1が焼成または焼結されると、焼成工程または焼結工程の際の熱により、中心部11のうち、外周部12に隣接する部分の金属鉄が酸化され、内部は酸化されずに金属鉄含有物質のまま残る。その結果、
図3(a)に示すように、塊成物を構成する粒子3は、金属鉄含有物質を有する第1部分31aと、該第1部分31aの周囲を覆う、金属鉄が酸化した第2部分31bとを有し、外周部32が酸化鉄を有する3層構造となる。
【0053】
一方、原料粒子2の中心部21が揮発物質を有する場合、原料粒子2が焼成または焼結されると、焼成工程または焼結工程の際の熱により、中心部21の揮発物質が揮発する。その結果、
図3(b)に示すように、塊成物を構成する粒子4は、中心部41が空隙であり、外周部42が酸化鉄を有する中空構造となる。
【0054】
上記
図3(a)および3(b)に示した粒子3、4は、中心部31a、41が還元不要な状態にあるため、こうした粒子3、4で構成された本発明による塊成物は、従来よりも高い還元性を有するものとなる。
【0055】
また、粒子3については、原料粒子1の中心部11を構成する金属鉄含有物質の酸化により生成した層(第2部分)31bがシェルを形成するため、より強固な構造を有する。また粒子4については、粒子3の層(第2部分)31bのようなシェルは形成しないものの、原料粒子2の中心部21を構成する揮発物質の燃焼消失にともなう生成熱により、中空部分41の内壁組織に緻密な焼成層が形成され、最初から中空の構造体に比べて、内部からの熱量が積極的に与えられる効果により、高い強度を有する。
【0056】
(塊成物の製造方法)
本発明による塊成物の製造方法は、上述した本発明による原料粒子、または本発明による原料粒子の製造方法によって製造された原料粒子を、1200℃以上1350℃以下の酸化雰囲気下で焼成または焼結して塊成化し、塊成物を得ることを特徴とする。
【0057】
上述した本発明による塊成物製造用の原料粒子、または本発明による原料粒子の製造方法によって製造された原料粒子は、その中心部が金属鉄含有物質または揮発物質を有し、外周部は酸化鉄を有する。こうした原料鉄粉を1200℃以上1350℃以下の酸化雰囲気下で焼成または焼結して塊成化することにより、原料粒子の中心部が金属鉄含有物質を有する場合には、外周部に隣接する部分の金属鉄が酸化される一方、原料粒子の中心部が揮発物質を有する場合には、揮発する。その結果、塊成物を構成する粒子は、
図3(a)に示したような3層構造を有するものか、
図3(b)に示した中空構造を有するものとなり、従来よりも高い還元性を有する塊成物を得ることができる。
【0058】
上記原料粒子の焼成は、ロータリーキルンなどを用いて行うことができ、上述した本発明による塊成物製造用の原料粒子、または本発明による原料粒子の製造方法によって製造された原料粒子をロータリーキルンに装入して1200℃以上1350℃以下の大気中などの酸化雰囲気下に置くことによって、焼成ペレットを得ることができる。
【0059】
また、原料粒子の焼結は、焼結機を用いて行うことができ、上述した本発明による塊成物製造用の原料粒子、または本発明による原料粒子の製造方法によって製造された原料粒子と、従来の原料粒子を造粒した造粒粒子とを混合し、1200℃以上1350℃以下の酸化雰囲気下に置くことによって、焼結鉱を得ることができる。
【0060】
(還元鉄の製造方法)
本発明による還元鉄の製造方法は、上述した本発明による塊成物または本発明による塊成物の製造方法によって製造された塊成物を還元炉に装入するとともに、還元ガスを還元炉に導入し、塊成物に含まれる酸化鉄を還元して還元鉄を得ることを特徴とする。
【0061】
上述のように、本発明による塊成物または本発明による塊成物の製造方法によって製造された塊成物は、従来よりも高い還元性を有するものである。こうした塊成物をシャフト炉などの還元炉に装入するとともに、還元ガスを導入することにより、還元鉄の製造を効率的に行うことができる。
【0062】
本発明において、上記還元ガスとしては、コークス炉ガス、天然ガス(成分として炭化水素を含む)を改質したガス、COガスとH2ガスとの混合ガス、H2ガス(H2濃度が100%のガス)などを用いることができるが、還元ガスとしてH2を主成分とするガスを使用することが好ましい。ここで、「H2を主成分とするガス」とは、H2濃度が50体積%以上であるガスを意味している。これにより、CO2の排出削減を行うことができる。
【0063】
上記還元ガスのH2濃度は、65体積%以上が好ましい。これにより、CO2の排出削減効果をより高めることができる。還元ガスのH2濃度は、70体積%以上がより好ましく、80体積%以上がさらに好ましく、90体積%以上がさらにまた好ましく、100体積%、すなわち還元ガスとしてH2ガスを用いることが最も好ましい。還元ガスとしてH2ガスを用いることにより、CO2を排出することなく、還元鉄を製造することができる。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0065】
(従来例1)
表1に成分組成を示すブラジル産の鉄鉱石を用いて、焼成ペレットを作製した。具体的には、まず、上記鉄鉱石を粉砕し、得られた鉄鉱石粉を分級して、粒径が-63μmの鉄鉱石粉を得た。次いで、上記鉄鉱石粉とバインダーとしての生石灰とを混合し、ペレタイザーを用いて調湿しながら直径12mmのグリーンペレットを作製した。そして、作製したグリーンペレットを大気中1350℃の雰囲気で60分間焼成した。こうして、従来例1による塊成物としての焼成ペレットを製造した。得られた焼成ペレットについて、JIS-M8713に従って被還元性の値を求めたところ、60%であった。
【0066】
【0067】
(従来例2)
ブラジル産の鉄鉱石と表1に成分組成を示す豪州産の鉄鉱石とを50:50の割合で混合した粉原料を用いて、焼結鉱を作製した。具体的には、まず、有姿の鉄鉱石を副原料の石灰石、返鉱および粉コークスとともに造粒して造粒粒子を作製した。作製した造粒粒子の平均径は3-4mm程度であり、この粒子の内部には最大1mm程度の核粒子(鉄の濃度:57質量%)が含まれていた。このようにして得られた造粒粒子を小型焼結試験機に装入して焼結した。焼結には、充填層高さ600mm、直径300mmの鉄製容器を用い、吸引負圧6.9kPaで一定差圧の下で焼結した。得られた焼結鉱を2m高さから4回落下させ、得られた焼結鉱の中で粒径が19-22mmの焼結鉱粒子を選別した。こうして、従来例2による塊成物としての焼結鉱を製造した。得られた焼結鉱について、JIS-M8713に従って被還元性の値を求めたところ、65-70%であった。
【0068】
(発明例1)
従来例1と同様に、発明例1による塊成物としての焼成ペレットを製造した。ただし、塊成物製造用のグリーンペレット(原料粒子)を製造する際に、還元鉄製造プロセスにおいて得られたDRI粉(鉄の濃度:80.4質量%、粒径:3~5mm(5mmの篩下で、3mmの篩上)、金属化率(=還元鉄比率/全鉄含有率):80%)を添加し、上記DRI粉を中心部として備えるグリーンペレット(原料粒子)を作製した。その他の条件は、従来例1と全て同じである。得られた焼成ペレットの被還元性の値を求めたところ、80%であった。
【0069】
(発明例2)
従来例1と同様に、発明例2による塊成物としての焼成ペレットを製造した。ただし、塊成物製造用のグリーンペレット(原料粒子)を作製する際に、還元鉄製造プロセスにおいて得られたDRI粉(鉄の濃度:75.2質量%、粒径:3~5mm(5mmの篩下で、3mmの篩上)、金属化率(=還元鉄比率/全鉄含有率):65%)を添加し、上記DRI粉を中心部として備えるグリーンペレット(原料粒子)を作製した。その他の条件は、従来例1と全て同じである。得られた焼成ペレットの被還元性の値を求めたところ、78%であった。
【0070】
(発明例3)
従来例2と同様に、発明例3による塊成物としての焼結鉱を製造した。ただし、造粒粒子の作製は、豪州産の鉄鉱石のみを用いて行い、得られた造粒粒子と、発明例1と同じ方法で作製したグリーンペレットとを混合して混合造粒原料を作製し、得られた混合造粒原料を小型焼結試験機に装入して焼結した。その他の条件は、従来例2と全て同じである。得られた焼結鉱の被還元性の値を求めたところ、90%であった。
【0071】
(発明例4)
発明例3と同様に、発明例4による塊成物としての焼結鉱を製造した。ただし、グリーンペレットは、発明例2と同じ方法で作製したものを用いた。その他の条件は、発明例3と全て同じである。得られた焼結鉱の被還元性の値を求めたところ、84%であった。
【0072】
(発明例5)
発明例1と同様に、発明例4による塊成物としての焼結鉱を製造した。ただし、グリーンペレットを製造する際に、DRI粉に代えてポリプロピレン粒子(直径:3-5mm)を添加した。その他の条件は、発明例1と全て同じである。得られた焼成ペレットの被還元性の値を求めたところ、79%であった。
【0073】
<塊成物の還元性の評価>
上述のように、従来例1および2については、焼結鉱の被還元性は60-70%程度であったのに対して、発明例1~5の焼結鉱の被還元性は79%以上となり、従来例1および2よりも高い還元性を示した。また、発明例1と発明例2との比較、発明例3と発明例4との比較から、グリーンペレット(原料粒子)の中心部の金属化率が高い方が、被還元性の値も高くなることが分かる。
【0074】
<塊成物の強度の評価>
発明例1~5による塊成物は、従来例1および2による塊成物と同程度の強度を有しており、還元鉄の製造に問題なく使用することができた。このように、発明例1~5による塊成物は、強度と還元性とを兼ね備えたものである。