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特開2022-157641ダイカスト装置およびダイカスト製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157641
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ダイカスト装置およびダイカスト製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/32 20060101AFI20221006BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B22D17/32 J
B22D17/32 B
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061980
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 京士
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 誠二
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AP02
4F206AR07
4F206AR12
4F206JA07
4F206JD04
4F206JL02
4F206JP01
4F206JP11
4F206JP14
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】外観では、発見できない内部品質の検証をリアルタイムで可能にするダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供する。
【解決手段】ダイカスト装置10は、プランジャ17の位置を検出する位置センサ40と、スリーブ15内の射出圧力を検出するヘッド側圧力センサ41およびロッド側圧力センサ42と、プランジャ17の押出力を制御するコントローラ50と、を備え、コントローラ50は、プランジャ17が射出完了後に増圧工程で発生する射出圧力のピーク圧を検出するとともに、この射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出し、プランジャ17がピーク圧後に、射出の位置から移動した増圧距離に応じて鋳物製品の不良発生予測を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型を備え、前記固定金型と前記可動金型によって形成されるキャビティ中にスリーブ内を摺動するプランジャの押出力によって金属溶湯を射出させて鋳物製品を成形するダイカスト装置であって、
前記プランジャの位置を検出する位置検出手段と、
前記スリーブ内の射出圧力を検出する射出圧力検出手段と、
前記プランジャの押出力を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記プランジャが射出完了後に増圧工程で発生する前記射出圧力のピーク圧を検出するとともに、当該射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出し、
前記プランジャがピーク圧後に、前記射出の位置から移動した増圧距離に応じて前記鋳物製品の不良発生予測を行う
ことを特徴とするダイカスト装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記増圧距離が、前記金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以下である場合に、不良発生予測を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記増圧距離が、前記金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以下である場合に、鋳巣の発生を含む不良発生と判定する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記増圧距離が、前記金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以下である場合、または、前記増圧距離が、所定の異常判定値以上である場合、異常であると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記プランジャが射出完了後に増圧工程で発生する前記射出圧力のピーク圧を検出するとともに、当該射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出し、
前記プランジャがピーク圧後に、前記射出の位置から所定時間内に移動した増圧距離に応じて前記鋳物製品の不良発生予測を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト装置。
【請求項6】
固定金型と可動金型を備え、前記固定金型と前記可動金型によって形成されるキャビティ中にスリーブ内を摺動するプランジャの押出力によって金属溶湯を射出させて鋳物製品を成形するダイカスト装置のダイカスト製造方法であって、
前記ダイカスト装置は、
前記プランジャが射出完了後に増圧工程で発生する前記射出圧力のピーク圧を検出するステップと、
当該射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出するステップと、
前記プランジャがピーク圧後に、前記射出の位置から移動した増圧距離に応じて前記鋳物製品の不良発生予測を行うステップと、実行する
ことを特徴とするダイカスト製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト装置およびダイカスト製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト装置は、固定型と移動型とを型合わせした後に、内部に形成されたキャビティ内に溶湯を射出し、キャビティ形状に倣った製品に成形する。射出装置から押出された溶湯は、ゲートからキャビティに充填される。キャビティ内部には、ガス(空気)が充満しているので、予めキャビティにはガス抜き通路を開口させ、キャビティへの溶湯充填により内部ガスをガス抜き通路に押出し、ガス抜き通路から大気に開放させている。
【0003】
一般に、アルミニウム合金鋳造品では、鋳造時に、金型に充填された溶湯の凝固速度が最も遅い部分を中心として、凝固収縮に伴う内部空隙(鋳巣)が発生することが知られている。例えば、内燃機関のシリンダブロック等のように圧縮圧力が加えられる部材をアルミニウム合金鋳造品で構成する場合、上記の鋳巣が集中し互いに連なっているときに、圧漏れが生じ易くなる。したがって、製品としての歩留まりを向上させるためには、圧漏れにつながる規模の鋳巣が発生することを抑制する必要がある。
【0004】
特許文献1には、金型内に通じるスリーブ内を摺動可能なプランジャの位置を検出する位置センサと、プランジャがスリーブ内の成形材料に付与する射出圧力を検出する射出圧センサと、制御装置と、を有し、制御装置は、位置センサの検出値に基づいて、射出の進行に伴ってプランジャが所定のゲート到達時位置に到達したゲート到達時点を特定するゲート到達時点特定部と、射出圧センサの検出値に基づいて、ゲート到達時点を含む所定の監視期間内における、射出の進行に伴って射出圧力が所定の充填開始圧力を上回った充填開始時点を特定する充填開始時点特定部と、を有する射出装置が記載されている。特許文献1に記載の射出装置は、成形材料の充填開始を好適に特定できるとされている。
【0005】
特許文献2には、鋳造品の表面の外観特徴部位における凹部発生量を測定する凹部測定部と、凹部測定部により測定される前記凹部発生量と鋳造品の内部における鋳巣発生量との相関関係に基づき、鋳巣発生量を推定する推定部とを有する鋳巣傾向管理装置が記載されている。特許文献2に記載の鋳巣傾向管理装置は、短時間かつ高精度に鋳巣発生量を推定することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-150861号公報
【特許文献2】特開2016-68100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2の装置にあっては、鋳造条件の管理を行っているものの、管理条件と不良品のトレサビリティが確立されているとは、言えない状況である。
確実に不良品となる条件に付いては、ダイキャストマシンにて排出(廃棄)されているが、その条件をクリアした製品でも不良品が流出しているのが現状である。外観では、発見できない鋳巣の発生に対して、鋳造条件から検出できないことがハイプレッシャダイカスト製品の品質を確立できない要因の一つになっている。
射出条件に限らず金型の冷却条件・離型剤の塗布量・希釈率・射出潤滑の塗布量等々可能な限りのデータを保存して不良品のデータから不良品発生の要因になる因子の抽出を試みているものの、十分な成果が無い状況である。
【0008】
鋳巣の原因は、ダイキャスト装置が正常に加圧している場合にも製品にその圧力が伝達していないことによる加圧不良も一因である。
また、金型内の圧力を検出する方法は、実験等では、可能であるが、量産には耐久性が無く現状では、使えない状況である。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたもので、外観では、発見できない内部品質の検証をリアルタイムで可能にするダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、請求項1に記載のダイカスト装置は、固定金型と可動金型を備え、前記固定金型と前記可動金型によって形成されるキャビティ中にスリーブ内を摺動するプランジャの押出力によって金属溶湯を射出させて鋳物製品を成形するダイカスト装置であって、前記プランジャの位置を検出する位置検出手段と、前記スリーブ内の射出圧力を検出する射出圧力検出手段と、前記プランジャの押出力を制御する制御装置と、を備え、 前記制御装置は、前記プランジャが射出完了後に増圧工程で発生する前記射出圧力のピーク圧を検出するとともに、当該射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出し、 前記プランジャがピーク圧後に、前記射出の位置から移動した増圧距離に応じて前記鋳物製品の不良発生予測を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外観では、発見できない内部品質の検証をリアルタイムで可能にするダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るダイカスト装置の全体構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るダイカスト装置の射出工程と射出波形を説明する図である。
図3図2の射出工程と射出波形の各部の表記を用語の表にして示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るダイカスト装置の射出工程における速度曲線、圧力曲線、および射出の位置を説明する図である。
図5図4の射出工程における速度曲線、圧力曲線、射出の位置、およびピーク圧位置を示す拡大図である。
図6】本発明の実施形態に係るダイカスト装置のダイカスト圧力伝達不良判定処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係るダイカスト装置のダイカスト圧力伝達不良判定の実測例を示す図である。
図8】本発明の実施形態の変形例のダイカスト装置のダイカスト圧力伝達不良判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態に係るダイカスト装置およびダイカスト製造方法について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、ハイプレッシャダイカスト装置に適用した例である。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係るダイカスト装置の全体構成を示す図である。
図1に示すように、ダイカスト装置10は、固定金型11と可動金型12と、固定金型11と可動金型12との間に形成される鋳型となるキャビティ13と、を備える。
固定金型11には、溶湯供給部14が配設されており、溶湯供給部14は、筒状のスリーブ15と、スリーブ15の基端側の上部に開口する溶湯供給口16と、スリーブ15の内周面に沿って摺動する進退自在の押圧部材としてのプランジャ17と、を備える。プランジャ17は、スリーブ15内を前後方向に摺動可能なプランジャチップ17aと、先端がプランジャチップ17aに固定されたプランジャロッド17bとを有する。
【0014】
スリーブ15の先端部は、ランナー18に連通している。ランナー18は、可動金型12内部に延在し、ゲート19を介してキャビティ13に接続されている。ゲート19は、溶湯射出部であるスリーブ15から押出されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属溶湯(以下、溶湯20という)をキャビティ13に導入する。
スリーブ15内には、溶湯供給口16を介してラドル21から溶湯20が供給され、プランジャ17の押し出しにより溶湯20がゲート19を通じてキャビティ13に射出される。
【0015】
(射出駆動部30)
プランジャ17は、射出駆動部30により作動される。
射出駆動部30は、液圧式であり、プランジャ17を駆動する射出シリンダ32と、射出シリンダ32に対する作動液(例えば油)の供給等を行う射出制御用駆動部33とを有する。詳細には、射出駆動部30は、射出・充填工程を実行するための射出ピストン31、射出シリンダ32および射出制御用駆動部33と、増圧工程を遂行するための増圧ピストン34、径大の増圧シリンダ35および増圧制御用駆動部36と、ピストンロッド37と、プランジャロッド17bとピストンロッド37を機械的に結合する結合部38と、を備える。
射出制御用駆動部33は、射出シリンダ32に対する作動液の供給等を行う。増圧制御用駆動部36は、増圧シリンダ35に対する作動液の供給等を行う。
【0016】
射出制御用駆動部33および増圧制御用駆動部36は、具体的には、液圧装置である。この液圧装置は、例えば、作動液を貯留するタンクと、タンクの作動液を送出可能なポンプ(液圧源)と、蓄圧された作動液を放出可能なアキュームレータ(液圧源)と、これらおよび射出シリンダ32を互いに接続する複数の流路と、複数の流路における作動液の流れを制御する複数のバルブ(いずれも図示省略)とを有している。
【0017】
この液圧装置は、タンクが収容している作動液がポンプによって該当流路および該当バルブを介してアキュームレータに供給されることによって、アキュームレータが蓄圧される。また、例えば、アキュームレータから該当流路および該当バルブを介してヘッド側室32hへ作動液が供給されることによって、射出ピストン31が前進する。また、該当バルブが、圧力補償付流量制御弁(流量調整弁)であるとともにサーボバルブであり、このバルブによってロッド側室32rから排出される作動液の流量が制御されることによって、射出ピストン31(プランジャ17)の速度が制御される。
また、アキュームレータから該当流路および該当バルブを介して後側室32eへ作動液が供給されることによって、増圧ピストン34による増圧が行われる。
【0018】
射出ピストン31および増圧ピストン34の間には、油室が形成されており、各射出シリンダ32および増圧シリンダ35には、開口32a,35aを介して所定の圧油が射出制御用駆動部33、増圧制御用駆動部36から供給されるようになっている。
【0019】
ピストンロッド37は、射出シリンダ32内に配置されている。射出シリンダ32の内部は、ピストンロッド37が延び出る側のロッド側室32rと、その反対側のヘッド側室32hとに区画されている。ロッド側室32rおよびヘッド側室32hに選択的に作動液が供給されることにより、射出ピストン31は射出シリンダ32内を前後方向に摺動する。
【0020】
射出シリンダ32および増圧シリンダ35は、内部の断面形状が円形の筒状体であり、増圧シリンダ35は、射出シリンダ32よりも大径に形成されている。
【0021】
増圧ピストン34は、射出シリンダ32の後端部内(図示の例ではヘッド側室32h)を摺動可能な小径部34aと、増圧シリンダ35の内部を摺動可能な大径部34bとを有している。増圧シリンダ35の内部は、大径部34bにより、射出シリンダ32側の前側室35fと、その反対側の後側室35eとに区画されている。
【0022】
したがって、前側室35fの圧抜きを行うと、小径部34aのヘッド側室32hにおける作用面積と、大径部34bの後側室35eにおける作用面積との差に起因して、増圧ピストン34は、後側室35eの作動液から受ける圧力よりも高い圧力をヘッド側室32hの作動液に加えることが可能である。これにより、増圧シリンダ35は、増圧機能を発揮する。
【0023】
射出シリンダ32は、プランジャ17に対して同軸的に配置されている。そして、ピストンロッド37は、プランジャ17に結合部38を介して連結されている。射出シリンダ32および増圧シリンダ35は、図示しない型締装置などに対して固定的に設けられている。射出ピストン31の射出シリンダ32に対する移動により、プランジャ17(プランジャチップ17a)はスリーブ15内を前進または後退する。
【0024】
(プランジャ17の位置および速度検出)
プランジャロッド17bには、プランジャ17の位置を検出する位置センサ40(位置検出手段)が設置され、位置検出信号S-1をコントローラ50(制御装置)に出力する。位置センサ40は、射出シリンダ32に対するピストンロッド37の位置を検出し、プランジャ17の位置を間接的に検出する。例えば、位置センサ40は、ピストンロッド37に固定的に設けられ、ピストンロッド37の軸方向に延びる不図示のスケール部とともに磁気式または光学式のリニアエンコーダを構成するものであってもよいし、ピストンロッド37に固定された部材との距離を計測するレーザー測長器によって構成されてもよい。
位置センサ40およびコントローラ50は、検出されたプランジャ17の位置を微分することにより、プランジャ17の速度を取得(検出)することが可能である。
【0025】
(プランジャ17が溶湯20に付与する圧力算出)
射出シリンダ32には、ヘッド側室の圧力を検出するヘッド側圧力センサ41(射出圧力検出手段)と、ロッド側室の圧力を検出するロッド側圧力センサ42(射出圧力検出手段)とが設けられ、それぞれ、検出信号S-2,S-3をコントローラ50に出力する。
射出シリンダ32のヘッド側圧力センサ41およびロッド側圧力センサ42は、例えば、溶湯20をキャビティ13に射出するときにプランジャ17が溶湯20に加える圧力(射出圧力)等のプランジャ17が溶湯に加える圧力を間接的に検出することに利用される。コントローラ50は、ヘッド側圧力センサ41の検出値と、ロッド側圧力センサ42の検出値と、射出ピストン31のヘッド側室32hにおける受圧面積と、射出ピストン31のロッド側室32rにおける受圧面積と、プランジャ17の溶湯に対する接触面積とに基づいて、プランジャ17が溶湯20に付与する圧力を算出可能である。
【0026】
(コントローラ)
コントローラ50は、CPU51、メモリ52、入力回路53、および、出力回路54を備える。
CPU51は、ROMまたは電気的に書換可能な不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)に記憶された制御プログラムを読み出してRAMに展開し、射出制御を行うとともに、ダイカスト鍛造条件管理プログラム52aを実行して不良発生予測(図6参照)を行う。CPU51は、入力回路53を介して入力される入力信号に基づいて、各部を制御するための制御信号(制御指令)を、出力回路54を介して出力する。
メモリ52は、各種処理のプログラムを収めたROM、RAM、EEPROM等から構成される。メモリ52は、ハードディスクドライブ(HDD)等の外部記憶装置を含む。メモリ52には、ダイカスト鍛造条件管理プログラム52aを含む制御プログラムが記憶されている。
【0027】
コントローラ50は、プランジャ17が射出完了後に増圧工程で発生する射出圧力のピーク圧を検出するとともに、この射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出し、プランジャ17がピーク圧停止後に、射出の位置から再度移動した増圧距離に応じて鋳物製品の不良発生予測を行う。プランジャ17がピーク圧後に、射出の位置から再度移動した距離は、溶湯20の冷却時の凝固収縮に伴い、当該プランジャ17が追従して前進する増圧距離である。
【0028】
コントローラ50は、プランジャ17がピーク圧後に、射出の位置から再度移動した増圧距離が、金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以上である場合に、不良発生予測を行う。
コントローラ50は、上記増圧距離が、金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離未満である場合、鋳巣の発生を含む不良発生と判定する。
コントローラ50は、上記増圧距離が、金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離未満である場合、または、増圧距離が、所定の異常判定値以上である場合、異常であると判定する。
コントローラ50は、プランジャ17がピーク圧後に、射出の位置から所定時間内に再度移動した増圧距離に応じて鋳物製品の不良発生予測を行う。
【0029】
入力回路53には、キーボードやマウス等の入力装置55からの入力信号、位置センサ40からの位置信号S-1、ヘッド側圧力センサ41からの信号S-2、ロッド側圧力センサ42からの信号S-3が入力される。
出力回路54は、予測結果等を出力するための信号(例えば表示部56に表示するための表示信号)を出力する。また、出力回路54は、射出制御用駆動部33および増圧制御用駆動部36を構成する液圧装置(図示省略)に備えられている、ポンプ用電動機を駆動するためのドライバを有し、このドライバを介して電動機への制御信号、各バルブへの開閉駆動信号を出力する。
【0030】
(ダイカスト装置10のダイカスト鋳造動作の概要)
図2は、ダイカスト装置10の射出工程と射出波形を説明する図である。図2の横軸は、時間tを示し、右側ほど後の時刻である。図2の左側縦軸は、射出速度(プランジャ17の速度)を示し、上方ほど値が大きいことを示す。図2の右側縦軸は、および射出圧力(プランジャの位置)を示しており、上方ほど固定金型11および可動金型12に近いことを示している。
速度曲線は、射出速度の経時変化を示している。圧力曲線は、射出圧力の経時変化を示している。
【0031】
図3は、図2の射出工程と射出波形の各部の表記を用語の表にして示す図である。図2の符号a~pと、図3の符号a~pとはそれぞれ対応している。
低速射出時間aは、射出ピストン31が低速度で移動している時間である。
高速射出時間bは、射出ピストン31が高速度で移動している時間である。
低速射出加速時間cは、射出ピストン31が動き始めてから、設定した低速度射出速度に達するまでの時間である。
高速射出加速dは、低速度射出速度から設定した高速度射出速度に達するまでの時間である。
【0032】
充填昇圧時間eは、射出ピストン31が溶湯20をキャビティ13へ充填完了してから、射出ピストン31に加わる圧力がアキュームレータ設定圧力に達するまでの時間である。
増圧タイムラグfは、射出ピストン31が溶湯20をキャビティ13へ充填完了してから、射出ピストン31が動き始めのまでの時間である。
増圧時間gは、増圧ピストン34が動き始めて、充填出力から増圧出力に達するまでの時間である。
昇圧時間hは、射出ピストン31がキャビティ13内に溶湯20の充填を完了してから、増圧ピストン34が動作を完了するまでの時間である。
【0033】
低速射出圧力iは、射出ピストン31が低速度で前進している時の射出ピストン31内の圧力である。
高速射出圧力jは、高速射出中の射出ピストン31に加わる圧力である。
充填完了圧力kは、射出ピストン31が溶湯20をキャビティ13へ充填完了し、射出ピストン31が動き始める前の射出シリンダ32内の圧力である。
増圧圧力lは、射出ピストン31が動作を完了したときの、射出ピストン31内の圧力である。
増圧サージ圧力mは、増圧ピストン34が動き始めたときの、射出ピストン31に生ずるサージ圧力である。
【0034】
低速射出速度nは、射出工程における第一段階の噴出速度である。
高速射出速度oは、射出工程中の最高射出速度である。
高速平均射出速度pは、射出ピストンが高速度で動く速度の平均値である。
【0035】
ダイカスト装置10は、低速射出(時点t0~t1)、高速射出(時点t1~t2)、増圧(時点t3~t4)および保圧(時点t4以降)を順に行う。なお、低速射出から保圧までの一連の動作を1ショットと呼ぶ場合がある。
【0036】
<低速射出:t0~t1>
射出の初期段階において、比較的低速でプランジャ17を前進させる低速射出(図3のt0~t1参照)が行われることによって、溶湯20による空気の巻き込みが抑制される。
低速射出の開始直前において、ダイカスト装置10は、図1に示す状態となっている。すなわち、射出シリンダ32の射出ピストン31および増圧ピストン34は、後退限等の初期位置に位置している。このときのプランジャ17の位置Dは、後記図4において位置D0で示されている。
【0037】
コントローラ50は、所定の射出開始条件が満たされたか否か判定し、満たされたと判定すると、低速射出を開始する。具体的には、コントローラ50は、該当バルブを開いてアキュームレータからヘッド側室32hへ作動液を供給するとともに、該当バルブを開いてロッド側室32rからの作動液の排出を許容する。射出開始条件は、固定金型11および可動金型12の型締が終了し、ラドル21によるスリーブ15への溶湯20の供給が完了したことなどである。
【0038】
低速射出中のプランジャ17の速度は、例えば、位置センサ40により検出されるプランジャ17の速度に基づいてバルブの開度がフィードバック制御される。
プランジャ17の速度は、例えば、一定の低速射出速度とされる。低速射出速度の値は、入力装置55を介してオペレータによって適宜に設定される。なお、低速射出中の射出圧力は、射出速度が比較的低速であることから、比較的低圧に維持される。
【0039】
<高速射出:t1~t2>
続いて、比較的高速でプランジャ17を前進させる高速射出(図3のt1~t2参照)が行われることによって、溶湯20の凝固に遅れずに、速やかに溶湯20が固定金型11および可動金型12内に充填される。
コントローラ50は、所定の高速切換条件が満たされると、プランジャ17の速度を上記の低速射出速度よりも高速の高速射出速度に切り換え、高速射出を行う。具体的には、コントローラ50は、低速射出に引き続いてアキュームレータからヘッド側室32hへ作動液を供給しつつ、該当バルブの開度を大きくする。高速射出が行われている間の射出圧力は、低速射出が行われている間の射出圧力よりも高くなる。
【0040】
高速切換条件は、例えば、プランジャ17が所定の高速切換位置D1(図4参照)に到達したことである。コントローラ50は、位置センサ40の検出値または射出開始からの経過時間に基づいて高速切換条件が満たされたか否かを判定してよい。
【0041】
高速射出(時点t1~t2)において、低速射出から高速射出へ制御が切り換えられると、射出圧力は、一旦上昇し、次に下降し、再度上昇し、再度下降する。その後、溶湯20が固定金型11および可動金型12内に充填されることなどによって、射出圧力は急激に上昇していく。なお、射出速度も、高速射出への切換え後から高速射出の終了前までの間に、一旦速度が低下している。
【0042】
<減速射出:t2~t3>
溶湯20がキャビティ13にある程度充填されると、プランジャ17は、その充填された溶湯20から反力を受けて減速され、その一方で、射出圧力は、図2に示すように、急激に上昇していく。なお、プランジャ17が所定の減速位置に到達するなど所定の減速開始条件が満たされたときに該当バルブの開度を小さくするなど、適宜な減速制御がなされてもよい。減速制御によって、充填完了時の衝撃が緩和される。
【0043】
低速射出および高速射出を含む射出が行われる場合、一般には、高速切換位置は、溶湯20がゲート19に到達するときの位置になるように設定される。また、溶湯20が固定金型11および可動金型12内に充填されると、図2に示すように、射出速度は急激に低下し、射出圧力は急激に上昇していく。
【0044】
<増圧:t3~t4>
溶湯20がt1~t2参照)が行われることによって、溶湯20の凝固に遅れずに、速やかに溶湯20が固定金型11および可動金型12内に充填された後、溶湯20の圧力を上昇させる増圧(図3t3~t4参照)が行われる。
【0045】
コントローラ50は、所定の増圧開始条件が満たされたか否か判定し、満たされたと判定すると、増圧を開始する。具体的には、例えば、コントローラ50は、まず、第1の条件が満たされると該当第1バルブを開く。これにより、アキュームレータから後側室32eへ作動液が供給され、増圧ピストン34が前進を開始する。次に、コントローラ50は、第2の条件が満たされると、該当第2バルブの開度を増圧用のものにする。すなわち、コントローラ50は、速度制御を終了し、圧力制御を開始する。なお、ヘッド側室32hからの作動液の排出は、パイロット式の逆止弁であるバルブが自閉することによって禁止される。このような動作により、射出圧力は、上昇していき、所定の鋳造圧力(終圧)に到達する。
図2に示すように、増圧が行われている間、射出圧力は一定に維持される。
【0046】
<保圧:t4~>
増圧した圧力を維持する保圧(図3のt4~参照)が行われる。これにより、成形品のヒケが低減される。
コントローラ50は、増圧後、射出圧力が終圧となっている状態を維持する。この間に、溶湯は冷却されて凝固する。溶湯が凝固すると、コントローラ50は、アキュームレータから後側室32eへの液圧の供給を停止し、保圧を終了する。その後、型開きが行われ、鋳物製品が押し出される。
以上、ダイカスト装置10のダイカスト鋳造動作の概要について説明した。
【0047】
(原理説明)
従来より鋳造条件の管理を行っているが管理条件と不良品のトレサビリティが確立されているとは、言えない状況である。
外観では発見できない鋳巣の発生を鋳造条件から検出できないことがダイカスト製品の品質を確立できない要因の一つになっている。
射出条件に限らず金型の冷却条件・離型剤の塗布量・希釈率・射出潤滑の塗布量等々可能な限りのデータを保存して不良品のデータから不良品発生の要因になる因子の抽出を試みているが現在まで十分な成果が無い状況である。
鋳巣の原因は、ダイカスト装置が正常に加圧している場合にも製品にその圧力が伝達していないことによる加圧不良も一因である。
【0048】
金型内の圧力を検出する方法は、実験では可能だが量産には耐久性が無く、現状では、使えない状況である。
【0049】
図2および図3に示す、射出の16項目(図3の符号a~pの項目)では、ダイカスト製品への圧力伝達に付いては、検出できていない。アルミニウムの溶湯20に圧力がどれだけ伝わってきているかは、量産段階ではまったく管理されていなかった。本発明は、新たな検出用部材を追加することなく、アルミニウムの溶湯20に圧力がどれだけ伝わってきているかを判定する。ちなみに、溶湯20に圧力がどれだけかかっているかは、金型に圧力を検出する高価なセンサを設けるようにすれば、可能である。しかしながら、高温・高圧力の溶湯20を検出するセンサは、非常に高価であり、かつ、耐久性も低く、数十ショットで使用不能となるのが実情である。
【0050】
本発明者らは、射出データから新たな管理値を算出することによりダイカスト製品への圧力伝達を検出する手法を創案した。
【0051】
図2および図3に示したように、ダイカスト射出では、高速射出後に増圧工程がある。この高速射出によって、アルミニウムの溶湯20を充填後に増圧して鋳巣の圧し潰しをする。増圧の圧力伝達が十分であれば高速射出後に射出の位置が微速前進して圧力が製品部に伝達することになる。微速前進は、溶湯20が冷却していくときに凝固収縮するが、そのときに射出の位置(プランジャ17の位置)は、前進して追いかける。射出の位置が微速前進すること自体は、知られていたがその追いかけ量(追従量)に注目することはなかった。
【0052】
本発明者らは、アルミニウムの溶湯20は、凝固すると収縮するので体積が0.92に縮小(6/1000縮小)されることに着目した。
【0053】
すなわち、アルミニウムの溶湯20は、凝固収縮して体積が0.92に縮小し、収縮分射出が押湯して前進する。このため、収縮分以上が増圧圧力伝達効果となる。
【0054】
凝固収縮量の0.92縮小分については、増圧の微速前進することで、つり合わせる。しかしながら、増圧の微速前進が、凝固収縮量と同じであるならば、機械的に圧力をかけても溶湯20に圧力が伝達されていない、すなわち、凝固収縮量だけの前進距離の場合は圧力伝達されていない、と判定できる。これにより、良否判定ができる。
微速前進距離は、各機種に依る特性はあるものの、最低限の凝固収縮量(6/1000)以下の増圧前進距離の場合は、不良品と判定できる。本発明者らの実測例によれば、凝固収縮量の0.92縮小によって、2%程度は前進しなければならないことが判明している。
【0055】
次に、上述のように構成されたダイカスト装置10の作用効果について説明する。
図4は、上記基本原理に基づくダイカスト装置10の射出工程における速度曲線、圧力曲線、および射出の位置を説明する図である。図5は、図4の射出工程における速度曲線、圧力曲線、射出の位置、およびピーク圧位置を示す拡大図である。図4において、横軸および縦軸が示す物理量は図3と同様である。図4の横軸は、時間tを示し、右側ほど後の時刻である。図4の左側縦軸は、射出速度(プランジャ17の速度)を示し、上方ほど値が大きいことを示す。図4の右側縦軸は、射出圧力およびプランジャ17の位置Dを示しており、上方ほど固定金型11および可動金型12に近いことを示している。速度曲線は、射出速度の経時変化を示している。圧力曲線は、射出圧力の経時変化を示している。図4の太破線は、射出の位置、すなわちプランジャ17の位置Dの経時変化を示しており、プランジャ17が一番後退しているときは、射出の位置はD=0である。
【0056】
図4および図5に示すように、スリーブ15内の射出圧力がピークPのときのプランジャ17の位置(プランジャ17の停止位置)をD2、このときの時刻をt11とする。ここで、本ダイカスト圧力伝達不良判定のトリガは、射出圧力のピークPであるが、射出の位置は、プランジャ17の位置からデータをとって検出することになる。
【0057】
上記原理で説明したように、射出時には、プランジャ17のピーク圧後、所定時間内(例えば5秒)に移動が観察される。所定時間内の移動後位置をD3、この時の時刻をt12とする。
【0058】
プランジャ17が射出を完了後増圧工程になるとピーク圧が発生する。すなわち、図4および図5に示すように、スリーブ15内の射出圧力がピークPの時の時刻t11を起点として図4および図5の太線に示す5秒間で移動した距離D3とで囲まれた部分の体積(図4の符号q参照)を算出する。
【0059】
図6は、ダイカスト装置のダイカスト圧力伝達不良判定処理を示すフローチャートである。本フローは、図1のコントローラ50のCPU51による鋳造管理プログラムである。本フローは、1ショットごとに実行される。
本プログラムは、ダイカスト装置10の電源投入時から開始される。
ステップS1でコントローラ50は、プランジャ17の位置を検出する。
ステップS2でコントローラ50は、プランジャ17の速度を検出(算出)する。
ステップS3でコントローラ50は、射出シリンダ32内のヘッド側圧力センサ41(図1参照)にて射出圧力のピークPを検出する。
ステップS4でコントローラ50は、射出したか否かを判別する。射出していない場合は、STARTに戻る。
射出した場合は、ステップS5でコントローラ50は、射出の位置を検出する。射出の位置(図4および図5の太破線参照)は、位置センサ40(図1参照)により検出する。
【0060】
ステップS6でコントローラ50は、射出圧力が射出のピーク圧に達したか否かを判別する。射出圧がピーク圧に達しない場合(金型予熱鋳造)は、ステップS5に戻る。
射出圧がピーク圧に達した場合は、ステップS7でコントローラ50は、射出の位置を検出する。射出圧力がピークPに達するまでの射出圧力は、鋳造条件により、様々な圧力曲線をとる(図4の圧力曲線は一例である)。しかし、どのような圧力曲線をとったとしても射出圧力のピークPが存在する(射出では、重量のあるものを急速に止めるので慣性によりピークが発生する)ことから、この射出圧力のピークPを起点として用いることができる。
【0061】
ちなみに、従来のダイキャスト装置では、図4の時刻t11に達するまでの(プランジャ17の停止までの)、速度曲線と圧力曲線は、検討されていたが、本実施形態のように、図4の時刻t11から時刻t12までの(射出位置までの)、データを用いる例はなく、本発明者らが初めて開示するものである。
【0062】
ステップS8で所定時間(例えば、5秒)後のプランジャ17の位置(増圧距離)を検出する。
【0063】
ステップS9でプランジャ17がピーク圧後移動した距離に基づいて鋳巣の発生を予測する。具体的には、コントローラ50は、停止後再度移動した距離(mm)を、体積に換算して、体積変化が0.92(6/1000)以下であった場合、不良と判定する。ただし、微速前進距離は、各機種により特性の差異があるので、あらかじめ実測等により各機種の微速前進距離を求めてメモリ52に格納しておき、機種ごとに当該補正値を用いて補正するとより良い。
【0064】
凝固収縮量以下の増圧前進距離の不良品判定について、より詳細に説明する。
下記式(1)~(3)をパラメータとする。
増圧距離=射出のピーク圧Pより5秒間の射出の移動距離 …(1)
凝固収縮=鋳込み重量×(1-凝固収縮率) …(2)
収縮追従=凝固収縮/射出断面 …(3)
上記増圧距離は、射出位置(プランジャ17の位置)から検出される。上記凝固収縮および収縮追従は、あらかじめ実測により求められる。
【0065】
また、上記式(1)~(3)から、式(4)が得られる。式(4)の加圧距離を用いた実測例については図7により後記する。
増圧距離-凝固収縮=加圧距離 …(4)
【0066】
このように、アルミニウムの溶湯20は、凝固収縮するので、プランジャ17は、0.92収縮分射出が押湯して前進する。収縮分以上が増圧圧力伝達効果となる。換言すれば、プランジャ17が、設定された距離を超える距離の移動がない場合に、鋳巣の発生を含む不良発生と判定することができる。
【0067】
図6のフローに戻って、ステップS10でコントローラ50は、増圧距離が異常に多いか(増圧距離が所定の異常判定値以上であるか)否かを判別する。
増圧距離が異常に多くない場合は(S10:No)、<良品ゾーン>または<鋳巣ゾーン>(図7参照)のいずれかであり、<良品ゾーン>または<鋳巣ゾーン>を判定するために、ステップS11でコントローラ50は、増圧距離が凝固収縮距離以下か否かを判別する。
【0068】
増圧距離が凝固収縮距離より大きい場合は(S11:No)、<良品ゾーン>(図7参照)であり、ステップS12でコントローラ50は、正常判定結果を出力して本フローの処理を終了する。
増圧距離が凝固収縮距離以下の場合は(S11:Yes)、<鋳巣ゾーン>(図7参照)であり、ステップS13でコントローラ50は、鋳巣予測結果を出力して本フローの処理を終了する。
正常判定結果や鋳巣予測結果の出力は、例えば表示部56への表示出力や図示しないプリンタ等への出力、図示しない通信部を介しての外部出力、予測結果の外部記憶装置への保存である。
【0069】
上記ステップS10で増圧距離が異常に多い場合は(S10:Yes)、<バリゾーン>(図7参照)であり、ステップS14でコントローラ50は、バリ予測異常結果を出力して本フローの処理を終了する。
【0070】
図7は、ダイカスト装置のダイカスト圧力伝達不良判定の実測例を示す図である。縦軸は、式(4)に示す1ショットごとの加圧距離を示し、横軸は20ショットを1単位として表わしたショット数を示す。図7の例では、533ショットの鋳造例を示している。
図7に示す加圧距離をもとに、増圧距離が凝固収縮距離より大きい場合に相当する<良品ゾーン>と、増圧距離が凝固収縮距離以下の場合に相当する<鋳巣ゾーン>と、増圧距離が異常に多い場合に相当する<バリゾーン>とに判定領域が分けられる。
図7では、図7の符号rに示す加圧距離3.0が<良品ゾーン>における良品ラインである。各ショットにおいて、加圧距離は、概ね管理条件を満たした鋳造となっている(不良品ではない)(図6のフローのステップS12「正常判定結果」参照)。
【0071】
図7の符号sに示す加圧距離0.0が不良品判定領域(<鋳巣ゾーン>)である。この加圧距離0.0は、式(3)において、凝固収縮が0とした場合の例である。例えば、図7では、ショット数が20、58、96近傍(図7の符号t参照)の増圧圧力が不良品判定領域に入っており、増圧圧力伝達不良と判定される(図6のフローのステップS13「鋳巣予測結果」参照)。この場合、不良品として払い出し(除外)される。
ここで、各ショットにおいて、上記増圧圧力伝達不良が頻繁に発生する時は、射出部品の劣化等が疑われるので、射出部品を交換する等の対策を行う。図7に示す良品/不良品判定結果は、図6のフローのステップS12,S13,S14での出力に反映される。
【0072】
なお、図7に示すダイカスト鋳造の実測例において、加圧距離が大きい場合(例えば、ショット153近傍)(図7の符号u参照)は、金型から溶融アルミが漏れ出すバリ発生の可能性がある(図6のフローのステップS14「バリ予測異常結果」参照)。バリ発生は、金型からの圧抜けであり製品への圧力が伝達して居ない可能性がある。一般的に湯廻りは、良いが内部品質は、保証できない。すなわち、湯廻りが良い方向であるが製品への圧力伝達不良の可能性がある。また、バリ発生後の問題としてバリを金型に挟み型つぶれを誘発する、製品に挟んで欠陥が発生する、バリにより型内の空気排出を妨害する等があり、早急に金型の点検・整備をする判断材料ともなる。
【0073】
[変形例]
図8は、本実施形態の変形例のダイカスト装置のダイカスト圧力伝達不良判定処理を示すフローチャートである。図6と同一処理を行うステップには同一符号を付している。
図8において、ステップS11で増圧距離が凝固収縮距離より大きい場合(S11:No)、ステップS21でプランジャ17がピーク圧後移動した距離に基づいて鋳巣の発生を予測する。
ステップS22では、コントローラ50は、予測結果を出力して本フローの処理を終了する。
ステップS10で増圧距離が異常に多い場合(S10:Yes)、またはステップS11で増圧距離が凝固収縮距離以下の場合(S14:Yes)は、ステップS23でコントローラ50は、異常結果を出力して本フローの処理を終了する。
このように、プランジャ17がピーク圧後移動した距離に基づいて鋳巣の発生を予測するステップを含むものであれば、どのようなタイミングで実行するものでもよい。
【0074】
[効果]
以上説明したように、本実施形態のダイカスト装置10は、固定金型11と可動金型12を備え、固定金型11と可動金型12によって形成されるキャビティ13中にスリーブ15内を摺動するプランジャ17の押出力によって溶湯20を射出させて鋳物製品を成形するダイカスト装置であって、プランジャ17の位置を検出する位置センサ40と、スリーブ15内の射出圧力を検出するヘッド側圧力センサ41およびロッド側圧力センサ42と、プランジャ17の押出力を制御するコントローラ50と、を備え、コントローラ50は、プランジャ17がピーク圧後に増圧工程で発生する射出圧力のピーク圧を検出するとともに、この射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出し、プランジャ17が停止後に、射出の位置から移動した増圧距離に応じて鋳物製品の不良発生予測を行う。
【0075】
従来では、加工後に目視確認や圧漏れ検査により不良品が発生しているのが現状であった。本発明は、外観では、発見できない内部品質の検証が可能になる。すなわち、鋳物製品を加工後チェックすることなく、鋳巣の発生を予測することができる。また、バリの発生を検知して金型の点検・整備等の判断基準とすることができる。
【0076】
内部欠陥が鋳造工程で発見できることにより下記の特有の効果がある。
1.生産中に不良品を発見できるので、その場での設備等の対策が可能になり後工程での不良品発生を削減できる。
【0077】
2.不良になる数値の製品を排出することにより、加工不良を削減して、後工程への不良流出を防止することができる。
【0078】
3.内部品質の底上げが可能となり、鋳物製品が車両部品である場合、完成車納車後のオイル漏れ等の発生の未然防止に寄与する。
【0079】
4.本発明は、射出データから新たな管理値を算出することで、新たな部材を追加することなく、鋳巣の発生を予測することができる。このため、低コストで、汎用的に適用することができる。
【0080】
5.高価なセンサを設けることなく、アルミニウム溶湯に圧力がどれだけ伝わってきているかを判定することができるので、低コストで、汎用的に適用することができる。
【0081】
また、ダイカスト装置10において、コントローラ50は、増圧距離が、金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以下である場合に、不良発生予測を行う。
【0082】
このように、増圧距離が、凝固収縮距離以下の場合は、不良発生の可能性がある。不良発生の可能性がある場合に優先的に、不良発生予測を行うことで処理の高速化および処理リソースの有効活用を図ることができる。すなわち、低コストでの実時間処理が可能になり、1ショットごとに、リアルタイムで不良発生を予測することができる。
【0083】
また、ダイカスト装置10において、コントローラ50は、増圧距離が、金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以下である場合、鋳巣の発生を含む不良発生と判定する。
【0084】
このように、増圧距離が、凝固収縮距離以下の場合は異常であることが想定される。リアルタイムで鋳巣の発生等の不良品判定を行うことができる。
【0085】
また、ダイカスト装置10において、コントローラ50は、増圧距離が、金属溶湯の凝固収縮率をもとにあらかじめ設定された凝固収縮距離以下である場合、または、所定の異常判定値以上である場合、異常であると判定する。
【0086】
このようにすることで、鋳巣の発生等の不良品判定に加えて、バリ発生による、製品の欠陥を早期に予測することができる。
【0087】
また、ダイカスト装置10において、コントローラ50は、プランジャ17がピーク圧後に、前記射出の位置から所定時間内に移動した増圧距離に応じて鋳物製品の不良発生予測を行う。
【0088】
このようにすることで、所定時間内に移動した距離を用いることで、予測判定完了までの時間を短縮することができる。また、実時間で処理が完了するので、バックグランド処理として実行することができる。このため、製造ラインなどの製造工程において、時間短縮による作業性の向上を図ることができる。
【0089】
以上説明した実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
例えば、スクイズキャスト・ホットチャンバーダイカスト・ハイブリットフルキャスティング等射出機能を有する鋳造製法にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 ダイカスト装置
11 固定金型
12 可動金型
13 キャビティ
14 溶湯供給部
15 スリーブ
17 プランジャ
17a プランジャチップ
17b プランジャロッド
18 ランナー
19 ゲート
20 溶湯(金属溶湯)
30 射出駆動部
33 射出制御用駆動部
36 増圧制御用駆動部
40 位置センサ(位置検出手段)
41 ヘッド側圧力センサ(射出圧力検出手段)
42 ロッド側圧力センサ(射出圧力検出手段)
50 コントローラ(制御装置)
P ピーク圧位置
D3 増圧距離
S6 プランジャが射出完了後に増圧工程で発生する射出圧力のピーク圧を検出するステップ
S7 射出圧力がピーク圧に達した場合の射出の位置を検出するステップ
S9,S21 プランジャがピーク圧後に、射出の位置から移動した増圧距離に応じて鋳物製品の不良発生予測を行うステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8