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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157678
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/021 20120101AFI20221006BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20221006BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16H57/021
F16H48/40
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062036
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】小野 光司
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA12
3J027FA14
3J027FB01
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC07
3J063AA01
3J063AB02
3J063AB13
3J063AC01
3J063BA04
3J063BA09
3J063CA01
3J063CB14
3J063CD09
3J063CD42
3J063CD70
3J063XB06
(57)【要約】
【課題】モータの駆動回転に起因する振動を防止することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置1は、モータ3と減速機構4と差動機構5とを備える。減速機構4は、モータ3のロータ軸13に一体形成される第1ギヤ17と噛み合う複数のカウンターギヤ19と、カウンターギヤ19のうち少なくとも1つを減速機構4と差動機構5の並び方向においてスライド移動可能な駆動機構21とを備える。駆動機構21は、この軸方向に伸縮自在に駆動する駆動軸部30と、駆動軸部30の駆動をカウンターギヤ19に伝達する連結軸部32とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を駆動する駆動源と、該駆動源から出力される動力が入力される減速機構と、該減速機構と同軸上に並んで配置され、且つ、該減速機構にて減速された前記動力を車輪に配分して伝達する差動機構と、を備える動力伝達装置において、
前記減速機構は、
前記駆動源のロータ軸に一体形成される第1ギヤと、
該第1ギヤと同一の回転軸心を有し、且つ、前記差動機構の差動ケースに接続される第2ギヤと、
前記第1ギヤ、及び、前記第2ギヤと噛み合う複数のカウンターギヤと、
該カウンターギヤのうち少なくとも1つを前記減速機構と前記差動機構の並び方向においてスライド移動可能な駆動機構と、
を備える
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、該駆動機構の軸方向に伸縮自在に駆動する駆動軸部と、該駆動軸部に連結され、且つ、前記駆動軸部の駆動を前記カウンターギヤのうち少なくとも1つに伝達する連結軸部と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記カウンターギヤのうち少なくとも1つは、付勢部材にて前記差動機構側から前記減速機構側へと付勢され、
前記駆動機構は、前記カウンターギヤの軸方向に直交するように配置され前記駆動機構の軸方向に伸縮自在に駆動する駆動軸部を備え、
該駆動軸部は、前記カウンターギヤのうち少なくとも1つの一部に当接するとともに前記駆動軸部の伸長にて前記カウンターギヤを前記差動機構側にスライド移動させるように摺接可能に形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記駆動機構は、該駆動機構の駆動を制御する制御手段を備え、
該制御手段は、前記車両の速度が設定値の範囲内であり、且つ、前記駆動源のトルク推定値が設定値以下であり、且つ、該トルク推定値が設定値以下の状態が一定時間継続したとき、前記駆動機構の駆動の制御を実行する
ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源から出力される動力を減速させて車軸に伝達するための動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動車両(EV車両)の駆動源には電動機(モータ)が使用されているが、このような車両には、電動機から出力される動力を減速させて車軸に伝達するための動力伝達装置(その他、例えば、「動力装置」とも呼ばれている)が設けられている。このような動力伝達装置としては、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示された動力装置(以下、本明細書では、「従来技術」と言う)は、モータと、モータの駆動回転を減速するための減速機構と、減速機構からの出力を左右の車軸に分配して伝達するための差動機構と、を備えている(特許文献1では、それぞれ、「電動機」、「変速機」、「差動装置」と呼ばれている)。これら、モータ、減速機構、及び、差動機構は、同軸上に配置され、差動機構に連結された左右の車軸が、それぞれ、車輪に接続されている。
【0004】
減速機構は、モータと機械的に接続される第1ギヤと、第1ギヤと同一の回転軸心を有し、差動機構の差動ケースと機械的に接続される第2ギヤと、第1ギヤ及び第2ギヤと噛み合う3つのカウンターギヤ(特許文献1では、「ピニオンギヤ」と呼ばれている)と、を備えている。カウンターギヤは、第1ギヤを中心として周方向に等間隔で配置されている。減速機構は、モータのロータ軸の一端に一体に形成された第1ギヤからモータの駆動回転が入力されると、カウンターギヤ、及び、第2ギヤを介して減速された駆動回転が差動機構の差動ケースに出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-100717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、3つのカウンターギヤを備える構造(以下、本明細書では、適宜、「3カウンター構造」と言う)の減速機構を採用することにより、モータから伝達されたトルクの経路を分散均等化することにより、装置全体の小型化を図っている。
【0007】
ところで、従来技術では、上記の通り、3カウンター構造にてトルク経路の分散均等化を図ると、各カウンターギヤのトルク分担率が均等化される。このような3カウンター構造においては、低トルク時に、各カウンターギヤによる第1ギヤを保持する保持力が弱まり、第一ギヤと一体に形成されたロータ軸の振れ回り振動(以下、本明細書では、適宜、「ロータ振動」と言う)が生じるおそれがあった。したがって、従来技術における3カウンター構造では、モータの駆動回転に起因する振動が発生してしまうおそれがあるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、モータの駆動回転に起因する振動を防止することができる動力伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するためになされた本発明の動力伝達装置は、車両の車輪を駆動する駆動源と、該駆動源から出力される動力が入力される減速機構と、該減速機構と同軸上に並んで配置され、且つ、該減速機構にて減速された前記動力を車輪に配分して伝達する差動機構と、を備える動力伝達装置において、前記減速機構は、前記駆動源のロータ軸に一体形成される第1ギヤと、該第1ギヤと同一の回転軸心を有し、且つ、前記差動機構の差動ケースに接続される第2ギヤと、前記第1ギヤ、及び、前記第2ギヤと噛み合う複数のカウンターギヤと、該カウンターギヤのうち少なくとも1つを前記減速機構と前記差動機構の並び方向においてスライド移動可能な駆動機構と、を備えることを特徴とする。
【0010】
(2)また、本発明の動力伝達装置は、上記(1)に記載の発明において、前記駆動機構は、該駆動機構の軸方向に伸縮自在に駆動する駆動軸部と、該駆動軸部に連結され、且つ、前記駆動軸部の駆動を前記カウンターギヤのうち少なくとも1つに伝達する連結軸部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
(3)また、本発明の動力伝達装置は、上記(1)に記載の発明において、前記カウンターギヤのうち少なくとも1つは、付勢部材にて前記差動機構側から前記減速機構側へと付勢され、前記駆動機構は、前記カウンターギヤの軸方向に直交するように配置され前記駆動機構の軸方向に伸縮自在に駆動する駆動軸部を備え、該駆動軸部は、前記カウンターギヤのうち少なくとも1つの一部に当接するとともに前記駆動軸部の伸長にて前記カウンターギヤを前記差動機構側にスライド移動させるように摺接可能に形成されることを特徴とする。
【0012】
上記(1)~(3)のような特徴を有する本発明によれば、駆動機構にてヘリカルアングル(ねじれ角)を有する3つのカウンターギヤのうち少なくとも1つのカウンターギヤを減速機構と差動機構の並び方向においてスライド移動させることができる。このように、ヘリカルアングルを有するカウンターギヤを1つだけ他のカウンターギヤに対しスライド移動させることにより、ヘリカルアングルにて伝達ギヤである第1ギヤの相対的な噛合いのタイミングが変わり、3カウンター構造にてトルク経路の分散均等化を図ることで均等化されていた各カウンターギヤのトルク分担率が意図的に不均等化される。このように、各カウンターギヤのトルク分担率が不均等化されると、各カウンターギヤが噛み合う第1ギヤを介してモータのロータ軸にラジアル偏荷重が加わり、ロータ振動が生じ難くなる。
【0013】
(4)また、本発明の動力伝達装置は、上記(1)、(2)又は(3)に記載の発明において、前記駆動機構は、該駆動機構の駆動を制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記車両の速度が設定値の範囲内であり、且つ、前記駆動源のトルク推定値が設定値以下であり、且つ、該トルク推定値が設定値以下の状態が一定時間継続したとき、前記駆動機構の駆動の制御を実行することを特徴とする。
【0014】
上記(4)のような特徴を有する本発明によれば、ロータ振動発生条件時に制御手段にて、駆動機構の駆動の制御が実行される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロータ振動が生じ難くなることから、モータの駆動回転に起因する振動を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る動力伝達装置の実施形態1を示す図であり、動力伝達装置を車軸の軸方向に沿って部分的に切断した部分断面図である。
図2】カウンターギヤ、第1ギヤ、及び、第2ギヤを差動機構側から視た図である。
図3図1における減速機構付近(図1における矢印Aの指示する部分)を拡大した拡大部分断面図である。
図4】本発明に係るロータ振動を防止する制御手順を示すフローチャートである。
図5】本発明に係るロータ振動を防止する制御を説明する図であり、(a)は車両の速度と時間との関係を示すグラフ、(b)はモータのトルク推定値と時間との関係を示すグラフ、(c)はロータ振動防止制御の実行判断フラグのON/OFFを説明するタイミング図である。
図6】本発明に係る動力伝達装置の実施形態2を示す図であり、車軸の軸方向に沿って部分的に切断した動力伝達装置における減速機構付近を拡大した拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1乃至図5を参照しながら、本発明に係る動力伝達装置の実施形態1について、また、図6を参照しながら、本発明に係る動力伝達装置の実施形態2について、それぞれ、説明する。
【0018】
<実施形態1>
図1は本発明に係る動力伝達装置の実施形態1を示す図であり、動力伝達装置を車軸の軸方向に沿って部分的に切断した部分断面図、図2はカウンターギヤ、第1ギヤ、及び、第2ギヤを差動機構側から視た図、図3図1における減速機構付近(図1における矢印Aの指示する部分)を拡大した拡大部分断面図、図4は本発明に係るロータ振動を防止する制御手順を示すフローチャート、図5は本発明に係るロータ振動を防止する制御を説明する図であり、(a)は車両の速度と時間との関係を示すグラフ、(b)はモータのトルク推定値と時間との関係を示すグラフ、(c)はロータ振動防止制御の実行判断フラグのON/OFFを説明するタイミング図である。
【0019】
図1において、引用符号1は、本発明に係る動力伝達装置の実施形態1を示している。動力伝達装置1は、前輪又は後輪を駆動させる装置として、ハイブリッド車、電気自動車等の車両に搭載されるものである。図1に図示する動力伝達装置1は、ハウジング2と、モータ3と、減速機構4と、差動機構5と、を備えている。モータ3と、減速機構4と、差動機構5とは、ハウジング2内に収容され、且つ、同軸上に配置されている。以下、動力伝達装置1の各構成について説明する。
【0020】
まず、ハウジング2について説明する。
図1に図示するハウジング2は、モータ3を収容する第1ケース6と、減速機構4と差動機構5とを収容する第2ケース7と、第1ケース6と第2ケース7の境界部に設けられ、且つ、第1ケース6と第2ケース7それぞれの内部空間を仕切る隔壁8と、を備えている。ハウジング2の底部には、特に図示しないが、潤滑油が貯留されている。
【0021】
隔壁8のうち、後述する軸受25が設けられる箇所には、溝部34と、貫通孔35と、が設けられている(図3参照)。図3に図示する溝部34と貫通孔35とは、それぞれ、モータ3、減速機構4の並び方向(図3に図示する矢印Bの指示する方向)の幅が、後述するように、カウンターギヤ19を矢印Bの指示する方向においてスライド移動可能な幅にて形成されている。
【0022】
つぎに、モータ3について説明する。
図1に図示するモータ3は、特許請求の範囲に記載される「駆動源」に相当するものであり、電動機とも呼ばれている。モータ3は、第1ケース6の内周部に固定されるステータ9と、ステータ9の内周側に回転可能に配置されるロータ10と、ロータ10の内周部に結合され、且つ、一方の車軸11の外周を囲繞するロータ軸13と、を備えている。
【0023】
ロータ軸13は、一方の車軸11と同軸上に相対回転可能となるように第1ケース6の端部壁14と隔壁8に軸受15、16を介して支持されている。また、一方の車軸11とロータ軸13それぞれの一端側は、隔壁8を貫通して第2ケース7内に延出している。一方の車軸11の他端側は、第1ケース6の端部壁14を貫通してハウジング2の外側に延出している。
【0024】
つぎに、減速機構4について説明する。
図1に図示する減速機構4は、モータ3のロータ軸13の一端側に一体形成される第1ギヤ17と、第1ギヤ17と同一の回転軸心を有し、且つ、差動機構5の差動ケース36に接続される第2ギヤ18と、第1ギヤ17、及び、第2ギヤ18と噛み合うヘリカルアングル(ねじれ角)を有する複数のカウンターギヤ19と、複数のカウンターギヤ19を自転可能、且つ、公転不能に支持するカウンターホルダ20と、複数のカウンターギヤ19のうち少なくとも1つのカウンターギヤ19を減速機構4と差動機構5の並び方向においてスライド移動可能な駆動機構21と、を備えている。減速機構4では、第1ギヤ17からモータ3の駆動回転が入力されると、カウンターギヤ19、及び、第2ギヤ18を介して減速された駆動回転が差動機構5の差動ケース36に出力される。
【0025】
カウンターギヤ19は、所謂、ヘリカルギヤであり、本実施形態では、図2に図示するように、3つ設けられている。各カウンターギヤ19は、第1ギヤ17を中心として周方向に等間隔(120°間隔)で配置されている。図1及び図3に図示するカウンターギヤ19は、外歯車からなる大径ギヤ22と、外歯車からなる小径ギヤ23と、大径ギヤ22、及び、小径ギヤ23を一体回転可能に支持するカウンターシャフト24と、を備えている。
【0026】
図1に図示する大径ギヤ22は、カウンターシャフト24のモータ3側に結合され、且つ、第1ギヤ17と噛み合うように配置されている。図1に図示する小径ギヤ23は、カウンターシャフト24の差動機構5側に一体に形成され、且つ、第2ギヤ18と噛み合うように配置されている。図1に図示するカウンターシャフト24は、モータ3側の端部が隔壁8に軸受25を介して回転可能に支持され、且つ、差動機構5側の端部がカウンターホルダ20のカウンターギヤ支持部26に回転可能に支持されている。
【0027】
なお、軸受25は、カウンターシャフト24におけるモータ3側の端部と結合されており、後述するように、駆動機構21の駆動に伴い、差動機構5側へスライド移動可能に配置されている。軸受25の上面には、図3に図示するように、ストッパ33が設けられている。ストッパ33は、隔壁8の溝部34内に配置されるようになっている。
【0028】
第2ギヤ18は、内歯車からなり、且つ、カウンターギヤ19の小径ギヤ23と噛み合うギヤ部27と、ギヤ部27に連続し、且つ、カウンターホルダ20(カウンターギヤ支持部26)の外周側を跨いで差動機構5側に延出する接続部28と、を備えている。接続部28は、スプライン等の接続手段を介して差動機構5の差動ケース36と機械的に接続されている。
【0029】
図1及び図3に図示する駆動機構21は、所謂、アクチュエーター(例えば、電動リニアアクチュエーター、負圧アクチュエーター、油圧アクチュエーター等)であり、本実施形態では、第1ケース6(第2ケース7との境界部近傍)に一体に設けられる本体部29と、本体部29の軸方向に沿ってハウジング2内に延出する駆動軸部30と、連結部材31を介して駆動軸部30に連結される連結軸部32と、を備えている。駆動機構21は、図1及び図3に図示するように、この駆動機構21の軸方向が、カウンターギヤ19の軸方向に沿うように配置されている。
【0030】
本体部29は、特に図示しないが、駆動軸部31を駆動機構21(本体部29)の軸方向に伸縮自在に駆動する駆動手段と、駆動機構21の上記駆動を制御する制御手段と、を備えている。駆動軸部30は、上記駆動手段にて、駆動機構21の軸方向(図3に図示する矢印Bの指示する方向)に伸縮自在に駆動可能に設けられている。連結軸部32は、この連結軸部32の軸方向一端が連結部材31を介して駆動軸部30に連結され、且つ、連結軸部32の軸方向他端がカウンターギヤ19(カウンターシャフト24)と結合された軸受25に連結されている。連結軸部32は、図3に図示するように、隔壁3の一部に貫通形成された貫通孔35に貫通されて配置されている。
【0031】
つぎに、差動機構5について説明する。
図1に図示する差動機構5は、第2ギヤの駆動回転が入力される差動ケース36と、差動ケース36内に収容され、且つ、差動ピニオンシャフト37にて回転可能に支持される差動ピニオンギヤ38と、差動ピニオンギヤ38に対し両側方から噛み合うように差動ケース36内に回転可能に支持され、且つ、スプライン等の接続手段を介して車軸11、12と機械的に接続されている一対のサイドギヤ39と、を備えている。
【0032】
以上の本実施形態によれば、駆動機構21にてヘリカルアングルを有する3つのカウンターギヤ19のうちの1つを減速機構4と差動機構5の並び方向において、減速機構4側から差動機構5へとスライド移動させることができる。具体的には、駆動軸部30の、駆動機構21の軸方向に伸長する駆動を連結軸部32にて1つのカウンターギヤ19に伝達することにより、このカウンターギヤ19を上記スライド移動させる。このように、ヘリカルアングルを有するカウンターギヤ19を1つだけ他のカウンターギヤ19に対しスライド移動させることにより、ヘリカルアングルにて第1ギヤ17の相対的な噛合いのタイミングが変わり、3カウンター構造にてトルク経路の分散均等化を図ることで均等化されていた各カウンターギヤ19のトルク分担率が意図的に不均等化される。このように、各カウンターギヤ19のトルク分担率が不均等化されると、各カウンターギヤ19が噛み合う第1ギヤ17を介してモータ2のロータ軸13にラジアル偏荷重が加わり、ロータ振動が生じ難くなる。
【0033】
ここで、図4及び図5を参照しつつ、本発明に係るロータ振動を防止する制御手順について説明する。ここで、図5(a)における引用符号V1、V2が指示する速度は、それぞれ、「10km/h」を示す。また、図5(b)における引用符号N1、N2が指示するトルクの推定値は、それぞれ、「10Nm」を示す。また、図5(a)~(c)における引用符号T1が指示する一点鎖線から引用符号T2が指示する一点鎖線までの時間は、0.1秒であるものとする。なお、以下に挙げる各設定値は、一例であるものとする。
【0034】
図4のステップS101において、駆動機構21の制御手段は、車両の走行時、車両速度が120km/h以下であるか否かを判断する。その結果、車両速度が120km/h以下の場合(S101:YES)は、図4のステップS102へ進み、車両速度が120km/hを超えていた場合(S101:NO)は、S101の処理を繰り返す(S106)。
【0035】
図4のステップS102において、駆動機構21の制御手段は、車両速度が10km/h以上であるか否かを判断する。その結果、車両速度が10km/h以上の場合(S102:YES)は、図4のステップS103へ進み、車両速度が10km/h未満の場合(S102:NO)は、S101~S102の処理を繰り返す(S106)。
【0036】
図4のステップS103において、駆動機構21の制御手段は、モータ3のトルク推定値が10Nm以下であるか否かを判断する。その結果、モータ3のトルク推定値が10Nm以下の場合(S103:YES)は、図4のステップS104へ進み、モータ3のトルク推定値が10Nmを超えていた場合(S103:NO)は、S101~S103の処理を繰り返す(S106)。
【0037】
図4のステップS104において、駆動機構21の制御手段は、モータ3のトルク推定値が10Nm以下の状態が0.1秒継続したか否かを判断する。その結果、モータ3のトルク推定値が10Nm以下の状態が0.1秒継続した場合(S104:YES)は、図4のステップS105へ進み、ロータ振動防止制御が実行される。モータ3のトルク推定値が10Nm以下の状態が0.1秒継続しなかった場合(S104:NO)は、S101~S104の処理を繰り返す(S106)。
【0038】
以上の制御手順をまとめると、図5に図示するように、車両の速度が10km/h以上、120km/以下であり(図5(a)参照)、且つ、モータ2のトルク推定値が10Nm以下の状態が0.1秒継続した場合(図5(b)参照)、すなわち、ロータ振動発生条件時に、ロータ振動防止制御の実行判断フラグがONとなり(図5(c)参照)、制御手段にて、ロータ振動防止制御が実行される。上記所定の設定値を充足しない場合は、ロータ振動防止制御の実行判断フラグがOFFのままであり(図5(c)参照)、ロータ振動防止制御は実行されない。
【0039】
つぎに、本実施形態の効果について説明する。
以上、図1図5を参照しながら説明してきたように、本実施形態によれば、ロータ振動が生じ難くなることから、モータ3の駆動回転に起因する振動を防止することができるという効果を奏する。
【0040】
<実施形態2>
本発明に係る動力伝達装置は、実施形態1の他、下記の実施形態2を用いてもよいものとする。以下、図6を参照しながら、実施形態2について説明する。
図6は本発明に係る動力伝達装置の実施形態2を示す図であり、車軸の軸方向に沿って部分的に切断した動力伝達装置における減速機構付近を拡大した拡大部分断面図である。なお、実施形態1と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0041】
図6において、引用符号51は、本発明に係る動力伝達装置の実施形態2を示している。本実施形態における動力伝達装置51は、減速機構52を備えている点において実施形態1における動力伝達装置1(図1参照)と異なっている。減速機構52は、3つのカウンターギヤ19のうち少なくとも1つのカウンターギヤ19がスプリング53にて差動機構5側から減速機構52側へと付勢される点、及び、駆動機構54を備える点以外は、構成及び構造において実施形態1における動力伝達装置1と基本的に同一である。以下、カウンターギヤ19のスプリング53による付勢と、駆動機構54とについて説明する。
【0042】
まず、カウンターギヤ19のスプリング53による付勢について説明する。
図6に図示するスプリング53は、特許請求の範囲に記載される「付勢部材」に相当するものである。スプリング53は、隔壁55の溝部56内に収容され、3つのカウンターギヤ19のうち少なくとも1つのカウンターギヤ19がスプリング53にて差動機構5側から減速機構52側(図6に図示する矢印Cの指示する方向)へと付勢されるように配置されている。
【0043】
つぎに、駆動機構54について説明する。
図6に図示する駆動機構54は、実施形態1における減速機構21(図1及び図3参照)と同様、アクチュエーター(例えば、電動リニアアクチュエーター、負圧アクチュエーター、油圧アクチュエーター等)であり、本実施形態では、第1ケース6(第2ケース7との境界部近傍)に一体に設けられる本体部58と、本体部58の軸方向に沿ってハウジング2内に延出する駆動軸部59と、を備えている。駆動機構54は、図6に図示するように、この駆動機構54の軸方向が、カウンターギヤ19の軸方向に直交するように配置されている。
【0044】
本体部58は、特に図示しないが、実施形態1と同様、駆動軸部59を駆動機構54(本体部58)の軸方向に伸縮自在に駆動する駆動手段と、駆動機構54の上記駆動を制御する制御手段と、を備えている。駆動軸部59は、図6に図示するように、隔壁55の貫通孔57に貫通されて配置され、上記駆動手段にて、駆動機構54の軸方向(図6に図示する矢印Dの指示する方向)に伸縮自在に駆動可能に設けられている。
【0045】
図6に図示する駆動軸部59は、この駆動軸部59の先端に摺接面60が形成されている。摺接面60は、カウンターギヤ19のうち少なくとも1つのカウンターギヤ19の一部(カウンターギヤ19(カウンターシャフト24)と結合された軸受25の上縁)に当接するとともに、駆動軸部59の伸長にてカウンターギヤ19を差動機構5(図1参照)側(図6に図示する矢印Eの指示する方向)にスライド移動させるように摺接可能に形成されている。
【0046】
以上の本実施形態によれば、駆動機構54にてヘリカルアングルを有する3つのカウンターギヤ19のうちの1つを減速機構52と差動機構5の並び方向において、減速機構52側から差動機構5へとスライド移動させることができる。具体的には、駆動軸部59の、駆動機構54の軸方向に伸長する駆動にて、摺接面60を1つのカウンターギヤ19の一部(カウンターシャフト24と結合された軸受25の上縁)に摺接させることにより、このカウンターギヤ19を上記スライド移動させる。このように、ヘリカルアングルを有するカウンターギヤ19を1つだけ他のカウンターギヤ19に対しスライド移動させることにより、ヘリカルアングルにて第1ギヤ17の相対的な噛合いのタイミングが変わり、実施形態1と同様、3カウンター構造にてトルク経路の分散均等化を図ることで均等化されていた各カウンターギヤ19のトルク分担率が意図的に不均等化される。このように、各カウンターギヤ19のトルク分担率が不均等化されると、各カウンターギヤ19が噛み合う第1ギヤ17を介してモータ2のロータ軸13にラジアル偏荷重が加わり、ロータ振動が生じ難くなる。
【0047】
つぎに、本実施形態の効果について説明する。
以上、図6を参照しながら説明してきたように、本実施形態によれば、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0048】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1、51…動力伝達装置
2…ハウジング
3…モータ(駆動源)
4、52…減速機構
5…差動機構
6…第1ケース
7…第2ケース
8、55…隔壁
9…ステータ
10…ロータ
11、12…車軸
13…ロータ軸
14…端部壁
15、16、25…軸受
17…第1ギヤ
18…第2ギヤ
19…カウンターギヤ
20…カウンターホルダ
21、54…駆動機構
22…大径ギヤ
23…小径ギヤ
24…カウンターシャフト
26…カウンターギヤ支持部
27…ギヤ部
28…接続部
29、58…本体部
30、59…駆動軸部
31…連結部材
32…連結軸部
33…ストッパ
34、56…溝部
35、57…貫通孔
36…差動ケース
37…差動ピニオンシャフト
38…差動ピニオンギヤ
39…サイドギヤ
53…スプリング(付勢部材)
60…摺接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6