(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157683
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】巻上機、巻上機システム、および状態推定装置
(51)【国際特許分類】
B66D 1/46 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
B66D1/46 A
B66D1/46 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062041
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 道治
(72)【発明者】
【氏名】桃井 康行
(72)【発明者】
【氏名】家重 孝二
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】田上 達也
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 隆文
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 峻也
(57)【要約】
【課題】物理モデルの構築なしに、巻上機に係る状態を推定し得る巻上機を提供する。
【解決手段】モータを備え、モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機であって、モータの運転情報を取得する運転情報取得部と、運転情報取得部により取得された運転情報と、巻上機に係る状態を推定可能に学習されている状態推定式とに基づいて、巻上機に係る状態を推定する状態推定部と、を設けるようにした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを備え、前記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機であって、
前記モータの運転情報を取得する運転情報取得部と、
前記運転情報取得部により取得された運転情報と、前記巻上機に係る状態を推定可能に学習されている状態推定式とに基づいて、前記巻上機に係る状態を推定する状態推定部と、
を備える巻上機。
【請求項2】
前記巻上機は、吊荷を取付可能なロープを備え、
前記状態推定部は、前記巻上機に係る状態として、前記ロープに取り付けられている吊荷の質量、前記吊荷の加速度、前記ロープの張力、前記モータの回転負荷、前記ロープの緊張状態、前記モータの温度、および前記吊荷の荷振れ量のうちの少なくとも1つを推定する、
請求項1に記載の巻上機。
【請求項3】
前記状態推定部は、前記巻上機に係る状態として、所定の状態と、前記所定の状態と並列関係がある状態、および/または、前記所定の状態と直列関係が状態とを推定する、
請求項1に記載の巻上機。
【請求項4】
前記状態推定部により推定された結果を示す情報を出力する出力部を備える、
請求項1に記載の巻上機。
【請求項5】
前記運転情報には、前記モータへの入力値を示す情報と、前記モータからの出力値を示す情報との両方が含まれている、
請求項1に記載の巻上機。
【請求項6】
前記運転情報には、前記モータへ印加する電圧値、前記モータの制御部(インバータ)への指令周波数、前記モータに対して設けられているエンコーダのセンサ値から算出される前記モータの回転数、前記モータに入力する駆動電流値、前記モータのベクトル制御における励磁電流値、前記モータのベクトル制御におけるトルク電流値、前記モータへの入力トルク値、前記モータに入力する指令速度、および、前記モータに入力する指令速度に対する前記モータの回転数の滑り値うちの少なくとも1つの情報が含まれる、
請求項1に記載の巻上機。
【請求項7】
前記状態推定部が前記巻上機に係る状態の推定に用いる運転情報は、所定の期間の時系列情報である、
請求項1に記載の巻上機。
【請求項8】
モータを備え、前記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機と、前記巻上機を操作するための操作端末と、前記巻上機に係る状態の推定に用いられる状態推定式を学習する学習装置と、を備える巻上機システムであって、
前記学習装置は、
前記モータの運転情報と前記巻上機に係る状態を示す情報とが対応付けられた学習データを蓄積する学習データ蓄積部と、
前記学習データ蓄積部により蓄積されている学習データを用いて状態推定式を学習する学習部と、
前記学習部により学習された状態推定式を蓄積する学習結果蓄積部と、を備え、
前記巻上機は、
前記モータの運転情報を取得する運転情報取得部と、
前記運転情報取得部により取得された運転情報と、前記学習結果蓄積部により蓄積されている状態推定式とを用いて、前記巻上機に係る状態を推定する状態推定部と、を備え、
前記操作端末は、前記状態推定部により推定された結果を示す情報を表示する状態表示部を備える、
巻上機システム。
【請求項9】
前記操作端末は、前記状態推定部により所定の運転情報をもとに推定された前記巻上機に係る状態を示す情報が修正された場合、修正された情報と前記所定の運転情報と対応付けて再学習用の学習データとして前記学習装置に送信する学習データ設定部を備え、
前記学習データ蓄積部は、前記学習データ設定部から送信された再学習用の学習データを蓄積する、
請求項8に記載の巻上機システム。
【請求項10】
前記状態推定部は、前記運転情報取得部により取得された運転情報と、前記学習データ蓄積部により蓄積されている学習データと、前記学習結果蓄積部により蓄積されている状態推定式とを用いて、前記巻上機に係る状態として、前記モータの劣化度、および、前記モータの動力伝達系に接続している構成要素の劣化度のうちの少なくとも1つを推定する、
請求項9に記載の巻上機システム。
【請求項11】
前記巻上機は、複数設けられ、
前記学習データ蓄積部は、前記複数の巻上機の各々についての学習データを蓄積する、
請求項9に記載の巻上機システム。
【請求項12】
モータを備え、前記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機に係る状態を推定する状態推定装置であって、
前記モータの運転情報を取得する運転情報取得部と、
前記運転情報取得部により取得された運転情報と前記巻上機に係る状態を示す情報とが対応付けられた学習データを蓄積する学習データ蓄積部と、
前記学習データ蓄積部により蓄積されている学習データを用いて状態推定式を学習する学習部と、
前記学習部により学習された状態推定式を蓄積する学習結果蓄積部と、
前記運転情報取得部により取得された運転情報と、前記学習結果蓄積部に蓄積されている状態推定式とを用いて、前記巻上機に係る状態を推定する状態推定部と、
を備える状態推定装置。
【請求項13】
前記巻上機の出荷時または前記巻上機の点検時に行われる試験において、前記巻上機の所定の運転の条件に従って前記モータが制御されたときに、前記運転情報取得部により取得された前記モータの運転情報と、前記所定の運転の条件とを対応付けて学習データとして設定する学習データ設定部を備え、
前記学習データ蓄積部は、前記学習データ設定部により設定された学習データを蓄積する、
請求項12に記載の状態推定装置。
【請求項14】
前記所定の運転の条件には、前記巻上機の最大負荷となる条件、前記巻上機の定格負荷となる条件、および前記巻上機に吊荷を取り付けない無負荷となる条件のうち少なくとも1つが含まれる、
請求項13に記載の状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、巻上機の熟練作業者の高齢化、巻上機の設置台数の増加による人手不足等に伴い、経験の浅い作業者(非熟練作業者)が増加している。そのため、非熟練作業者でも安全かつ高効率な搬送を実現できる巻上機が求められている。巻上機の運用に際しては、吊荷の質量をはじめとする様々な運転状態を操作者に通知して運搬操作を支援するだけでなく、過負荷防止、寿命予測、劣化状態の診断、荷振れの抑制、吊荷が地面から離れる地切りの検出等の様々なニーズがある。
【0003】
特に地切りに関しては、吊荷の重心位置からずれた点を吊り上げることで、地切りの瞬間に吊荷が大きく振れたり、玉掛ワイヤーが切断したりする等の危険な状態が生じる可能性があるため、作業者の安全を確保するうえで無視できない。そのため、非熟練作業者でも安全に地切りを行うための技術が提案されている。この点、巻上機を構成するモータの電流値と回転数とを取得し、それぞれを比較した結果を用いて、地切り直前を検知することで安全を確保する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、モータからの出力情報を用いて地切りが検出できる。しかしながら、モータの電流値は、軸受、歯車等の動力伝達系の劣化、モータ温度の変化等、巻上機を構成する複数の要素の影響を受けるため、地切りの検出の精度を高めるには、条件分岐を加味して物理モデルの作成を精密に行う必要がある。また、地切りに加えて、吊荷の質量の推定、モータの温度推定等、巻上機に係る様々な状態の推定(「状態推定」と記す)を加える場合においても、各状態推定の対象の項目(「推定項目」と記す)の推定を行うための物理モデルの構築およびパラメータの設定が必要となる。したがって、物理モデルを用いる状態推定では、推定精度を高めることと、推定項目を増やすことの両者に共通して、モデル化すべき物理項目の因子が増えるために、パラメータの設定が容易でない。
【0006】
本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、物理モデルの構築なしに、巻上機に係る状態を推定し得る巻上機等を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、モータを備え、前記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機であって、前記モータの運転情報を取得する運転情報取得部と、前記運転情報取得部により取得された運転情報と、前記巻上機に係る状態を推定可能に学習されている状態推定式とに基づいて、前記巻上機に係る状態を推定する状態推定部と、を設けるようにした。
【0008】
上記構成では、物理モデルの構築なしに、モータの運転情報と状態推定式とを用いて、巻上機に係る状態を推定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、巻上機に係る状態を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態による巻上機システムに係る構成の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態による巻上機に係る構成の一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態による巻上機に係る構成の一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態による巻上機に係る構成の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態による巻上機システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図6】第1実施形態による状態推定式の一例を示す図である。
【
図7】第1実施形態によるフローチャートの一例を示す図である。
【
図8】第1実施形態によるフローチャートの一例を示す図である。
【
図9】第2実施形態による巻上機システムに係る構成の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態によるフローチャートの一例を示す図である。
【
図11】第2実施形態によるフローチャートの一例を示す図である。
【
図12】第2実施形態によるフローチャートの一例を示す図である。
【
図13】第3実施形態による巻上機システムに係る構成の一例を示す図である。
【
図14】第3実施形態によるフローチャートの一例を示す図である。
【
図15】第4実施形態による巻上機システムに係る構成の一例を示す図である。
【
図16】第5実施形態による巻上機システムに係る構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(I)第1実施形態
以下、本発明を実施するための形態(「実施形態」と記す)を詳述する。ただし、本発明は、実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態では、モータを備え、当該モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機を例に挙げて説明する。例えば、巻上機は、モータの運転情報を取得する運転情報取得部と、運転情報取得部により取得された運転情報から巻上機に係る状態を推定する状態推定部とを備える。巻上機に係る状態は、巻上機を構成するモータの状態、吊荷が取り付けられている吊り具の状態、吊荷の状態等である。例えば、状態推定部は、運転情報と巻上機に係る状態を示す情報とが対応付けられた学習データを用いて学習されている状態推定式に基づいて、少なくとも1つ以上の巻上機に係る状態を推定する。
【0013】
上記構成によれば、適切な学習に基づいた状態推定式を用いることで、物理モデルの構築がなくても、モータの運転情報から様々な巻上機に係る状態を予測できるようになる。また、上記構成によれば、複数の因子が影響し合う複雑な系における巻上機に係る状態を推定できる。また、上記構成によれば、共通する物理的背景があるなどの並列関係を有する推定項目の推定値、および/または、依存関係などの直列関係を有する推定項目の推定値を同時に算出することもできる。
【0014】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は、単数でも複数でも構わない。
【0015】
なお、以下の説明では、図面において同一要素については、同じ番号を付し、説明を適宜省略する。また、同種の要素を区別しないで説明する場合には、枝番を含む参照符号のうちの共通部分(枝番を除く部分)を使用し、同種の要素を区別して説明する場合は、枝番を含む参照符号を使用することがある。例えば、本明細書等において、巻上機を特に区別しないで説明する場合には、「巻上機101」と記載し、個々の巻上機を区別して説明する場合には、「巻上機101-1」、「巻上機101-2」のように記載することがある。
【0016】
また、本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」等の表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数または順序を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は、文脈毎に用いられ、1つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0017】
第1実施形態について、
図1~
図8を用いて説明する。
図1において、100は、全体として本実施形態による巻上機システムを示す。
【0018】
図1は、巻上機システム100に係る構成の一例を示す図である。巻上機システム100は、巻上機101を搭載したクレーン110と、操作端末120とを含んで構成されている。
【0019】
クレーン110は、建屋(図示せず)の両壁に沿って設けられたランウェイ111と、ランウェイ111の上を移動するガーダ112と、ガーダ112に沿って移動するトロリ113とを含んで構成される。ガーダ112およびトロリ113には、それぞれを駆動する搬送モータが接続されている。トロリ113には、巻上機101が設けられており、巻上機101から吊り下げられたロープが吊荷130に玉掛けされている。
【0020】
なお、ここで挙げた「ロープ」という用語は、吊荷130の吊り下げに用いる吊り具を総称する用語として用いている。すなわち、「ロープ」には、いわゆるロープだけでなく、チェーン、ベルト、ワイヤー、ケーブル、紐、縄等が含まれる。また、以下では、吊荷130の運搬に係る機械を「製品」と記すことがある。製品には、少なくとも巻上機101が含まれる。なお、製品は、クレーン110であってもよいが、製品によっては、ランウェイ111、ガーダ112、トロリ113等が含まれない。
【0021】
図2~
図4は、巻上機101に係る構成の一例を示す図である。巻上機101は、ロープを巻きとる巻上ドラム210、巻上ドラム210を回転させる動力源であるモータ220、モータ220から巻上ドラム210へ円滑に動力を伝えるための軸受230を含んで構成されている。本実施形態においては、モータ220は、三相の電動モータを想定しているが、本実施形態の効果は、モータ220の種類にはよらないため、直流モータ等の様々なモータ220が適用できる。また、モータ220からの動力は、歯車、ベルト等を介して伝達されてもよい。
【0022】
ガーダ112およびトロリ113の各々に設置されている搬送モータと、巻上機101に設置されているモータ220とは、操作端末120からの操作指令により回転動作する。これにより、巻上機101においては巻上げ動作および巻下げ動作が行われ、ガーダ112およびトロリ113については定められた方向への移動が行われるため、吊荷130を巻上げ、所定の位置に搬送し、巻下げる、という一連の搬送作業が行われる。なお、吊荷130は、クレーン110で運搬する対象であり、クレーン110の構成要素ではないことに注意されたい。
【0023】
ここで、巻上機101に係る状態であって、状態推定が行われる代表的な状態について説明する。巻上機システム100は、地切り時において、吊荷130の質量(「吊荷質量」と記す)、ロープが緊張または弛緩している確率(「緊張状態」と記す)、およびモータ220の温度(「モータ温度」と記す)を推定し、地切り直後において、吊荷130の荷振れ量(「荷振れ量」と記す)を推定する。
【0024】
なお、吊荷質量については、モータ220に加わる負荷と強く関係しているものであるため、巻上機システム100は、吊荷質量に加えてまたは代えて、運動方程式の第2法則の関係式で表現される状態(力、加速度等)を推定することも可能である。すなわち、巻上機システム100は、吊荷130の加速度、ロープに加わる張力、動力伝達系を含めたモータ220の回転負荷(負荷トルク)等も推定できる。
【0025】
本実施形態において、地切り時を想定している理由は、地切り時は、主に巻上機101のモータ220が駆動するために、状態推定の実施に際して、その他の因子の影響を受けにくいことが主である。ただし、状態推定は、地切り時に限らず、搬送中、巻下げ時にも継続して実行していても構わない。なお、地切りは、
図2に示される吊荷130が地面240に置かれた状態から、
図3に示される吊荷130が地面240から離れた状態までをさす。
【0026】
ここで、
図4を用いて、地切り時の吊荷130とトロリ113との位置関係にずれが生じた場合を説明する。地切り時は、トロリ113が吊荷130の重心410の直上に配置されるのが望ましいが、
図4に示すように、トロリ113が吊荷130の重心410からずれた位置に配置される場合もある。この場合、地切り後の荷振れ量が大きくなることがある。
【0027】
図5は、巻上機システム100における制御信号の演算処理系の構成(巻上機システム100の機能構成)の一例を示す図である。
【0028】
操作端末120は、状態表示部521と、操作入力部522とを備える。なお、操作端末120は、CPU等の演算装置523、半導体メモリ等の主記憶装置524、ハードディスク等の補助記憶装置525、通信装置526、ディスプレイおよびタッチパネルを組み合わせた入出力装置527等のハードウェアを備える。各ハードウェアの周知動作については適宜省略して説明を進める。なお、操作端末120は、ティーチングペンダントでもよいし、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン、デスクトップパソコンといった端末でもよい。操作端末120は、専用端末として提供されてもよいし、操作端末120の機能がアプリケーションとして提供され、操作者の各自の端末において利用されてもよい。
【0029】
操作端末120の機能(状態表示部521、操作入力部522等)は、例えば、演算装置523が補助記憶装置525に格納されたプログラムを主記憶装置524に読み出して実行すること(ソフトウェア)により実現されてもよいし、専用の回路等のハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わされて実現されてもよい。なお、操作端末120の1つの機能は、複数の機能に分けられていてもよいし、複数の機能は、1つの機能にまとめられていてもよい。また、操作端末120の機能の一部は、別の機能として設けられてもよいし、他の機能に含められていてもよい。また、操作端末120の機能の一部は、操作端末120と通信可能な他のコンピュータにより実現されてもよい。
【0030】
状態表示部521は、例えば、吊荷質量の推定値と、モータ温度の推定値と、荷振れ量の推定値とを数値として入出力装置527に表示する。加えて、状態表示部521は、例えば、緊張状態の推定値を「緊張」または「弛緩」のいずれかとして入出力装置527に表示する。ただし、必要に応じて、状態表示部521による表示が省略されていても構わない。
【0031】
操作入力部522は、ボタン、レバー、ハンドル、ジョイスティック、キーボード、マウス等の入出力装置527を操作者が操作して巻上機101に操作指令を入力するためのインターフェースである。操作入力部522は、ディスプレイおよびタッチパネルを組み合わせたインターフェース(ハードウェア)であってもよいし、スマートフォン等のデバイス上で実現されたインターフェース(ソフトウェア)であってもよい。操作入力部522は、入出力装置527の操作者による操作に応じて、移動量、目的地の座標、場所の名称等を入力してもよい。操作入力部522は、工場内に設置された巻上機101等を管理する運用管理システム、生産管理システム等の他のシステムとリンクして、他のシステムの情報をもとに操作指令を入力するようにしてもよい。さらには、操作入力部522は、事前にプログラムされた操作指令を自動で入力する自動運転機能を備えてもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、状態表示部521および操作入力部522は、操作端末120に実装されているが、巻上機101に実装されてもよい。例えば、状態表示部521は、巻上機101に搭載の基板に設けられてもよい。
【0033】
次に、巻上機101について説明する。巻上機101は、モータ220と、モータ制御部511と、運転情報取得部512と、状態推定部513と、を備える。また、巻上機101は、CPU等の演算装置514、半導体メモリ等の主記憶装置515、ハードディスク等の補助記憶装置516、および通信装置517等のハードウェアを備える。
【0034】
巻上機101の機能(モータ制御部511、運転情報取得部512、状態推定部513等)は、例えば、演算装置514が補助記憶装置516に格納されたプログラムを主記憶装置515に読み出して実行すること(ソフトウェア)により実現されてもよいし、専用の回路等のハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わされて実現されてもよい。なお、巻上機101の1つの機能は、複数の機能に分けられていてもよいし、複数の機能は、1つの機能にまとめられていてもよい。また、巻上機101の機能の一部は、別の機能として設けられてもよいし、他の機能に含められていてもよい。また、巻上機101の機能の一部は、巻上機101と通信可能な他のコンピュータにより実現されてもよい。
【0035】
なお、本実施形態では、無線通信によるデータ送信を想定しているが、有線ケーブルを用いた通信を行っても効果は変わらない。例えば、操作端末120で入力された操作指令は、通信装置526および通信装置517を介して、巻上機101に送信される。
【0036】
モータ制御部511は、操作端末120の操作入力部522で入力された操作指令を入力として、操作指令に従ってモータ220を動かすモータ制御指令を生成し、モータ220に出力する。また、モータ制御部511は、モータ220に出力したモータ制御指令の一部または全てを運転情報取得部512に送信する。ただし、モータ制御部511から運転情報取得部512へのモータ制御指令の送信は、モータ220を経由して行われてもよい。
【0037】
運転情報取得部512は、状態推定部513に送信する運転情報を取得する。運転情報は、状態推定部513における状態推定に利用するモータ220の運転に関する入出力情報であり、モータ制御指令の一部または全てを示す情報である。例えば、運転情報は、モータ220へ印加する電圧値、モータ220の制御部(インバータ)への指令周波数、モータ220に対して設けられているエンコーダのセンサ値から算出されるモータ回転数、モータ220に入力する駆動電流値、モータ220のベクトル制御における励磁電流値および/またはトルク電流値、モータ220への入力トルク値、モータ220に入力する指令速度、モータ220に入力する指令速度に対するモータ220の回転数の滑り値等の情報である。
【0038】
状態推定部513は、運転情報取得部512が取得した運転情報から、補助記憶装置516に記憶されている状態推定式を用いて状態推定する。
【0039】
本実施形態では、巻上機101の出荷前工程において、モータ220に対する所定の運転を示す運転情報と、当該所定の運転における巻上機101に係る状態を示す状態情報(吊荷質量、緊張状態、モータ温度、および荷振れ量を示す情報)とで構成されるデータを収集し、モータ特性の個体差等を考慮した、高精度な状態推定式の学習が行われる。以下、収集された運転情報と状態情報とのデータセットを「学習データ」と記す。また、本実施形態の巻上機101は、運用工程において、運転情報と学習済みの状態推定式とを用いて状態推定する。
【0040】
なお、学習データの状態情報は、状態推定式を学習するために設定された数値または分類であり、例えば、人手によって設定されてもよいし、自動で設定されてもよい。以下では、このように学習用に設定された数値および分類を「参照値」と記し、状態推定式を用いて推定された数値および分類を「推定値」と記して区別する。
【0041】
状態推定式は、運転情報を入力として、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、荷振れ量の推定値を出力(算出)する式である。したがって、1つのモータ220に対して巻上機101の状態(推定項目)を4つ推定する。言い換えれば、4つの推定項目のそれぞれが、入力とする運転情報を共有している。
【0042】
入力とする運転情報は、現在のサンプル(運転情報)でもよいが、本実施形態においては、過去から現在までの一定数のサンプルの時系列情報としている。過去の運転情報まで利用できれば、状態推定式の表現力が向上し、例えば、モータ220のヒステリシス等も考慮した状態推定式を獲得できるためである。ただし、CPUの演算性能、記憶装置の容量等の制約によって、データ容量が制限される場合には、少なくとも地切り後の運転情報が取得されていればよい。
【0043】
図6は、状態推定式の一例(ネットワーク600)を示す図である。
図6では、ネットワーク600におけるマルチタスク推定のネットワーク構成を示す。より具体的には、ネットワーク600は、入力層610のノード数がN、共有層620の数が「2」、各推定項目に分岐した固有層630の数が「1」である全結合型のニューラルネットワークである。入力層610に対して、運転情報を与え、各推定項目の値を算出する。この場合、各層の間における状態推定式は、(式1)となる。
【0044】
u=Wx+b ・・・ (式1)
【0045】
ここで、xは、各層の入力ベクトルであり、入力層610においては運転情報を連結させたベクトル(以下、「運転情報ベクトル」と記す)である。uは、各層の出力を示すベクトルである。なお、uベクトルは、吊荷質量、モータ温度、荷振れ量の出力層においてはスカラー値となり、緊張状態の出力層においては、「緊張」または「弛緩」のそれぞれの確率となる。また、例えば、吊荷質量を推定する場合には、推定値そのものでもよいし、製品の定格荷重に対する吊荷質量の推定値の割合でもよい。後者の場合、定格荷重1tの製品でu=0.5である場合、吊荷質量の推定値は、500kgとなる。Wは、運転情報ベクトルxのそれぞれの要素に対する重みを示す係数行列である。bは、バイアスを示すベクトルである。
【0046】
なお、状態推定部513は、後処理として、移動平均フィルタ等のローパスフィルタを用いることで、状態推定後の時系列ノイズを除去してもよい。また、巻上機101は、吊荷質量および/またはモータ温度の推定値を利用して過負荷防止制御、寿命予測等を行ったり、緊張状態の推定値を利用して地切りを検出したり、荷振れ量の推定値を利用して危険な振れの場合の緊急停止、荷振れ低減制御等を行ってもよい。
【0047】
次に、学習データについて説明する。学習データを収集する条件(「収集条件」と記す)には、トロリ113に対する吊荷130の位置ずれ、荷揚げの際の楊重のパターンを含んでもよい。なお、楊重のパターンとは、高速巻上げモード、低速巻上げモード等の巻上げモード、巻上速度等のことである。収集される学習データは、巻上機101の運用上想定される地切りのパターンをより満遍なく網羅されることが望ましく、その結果、より高精度に状態推定が可能になる。
【0048】
また、学習データの収集時における吊荷質量のパターンについては、0kgから過負荷となる重さ(巻上機101の定格荷重を超える重さ)までを徐々にかつ均等な幅とすることが望ましい。また、収集条件として、巻上機101で吊り上げる最大荷重、定格荷重、無負荷のうち少なくとも1つが含まれていることが望ましい。定格荷重は、製品の機種ごとの代表的な設計点であること、最大荷重は、製品の安全上確認すべき動作点であること、無負荷は、荷重ばらつき等のノイズの影響が最も少ないデータを取り得る動作点であることが理由である。
【0049】
次に、巻上機システム100の動作および運用について説明する。
【0050】
図7は、巻上機101の処理手順に係るフローチャートの一例を示す図である。
図7のフローチャートに基づく巻上機101の動作は、以下の通りである。なお、巻上機101の出荷前工程では、ステップS701~ステップS703の処理が行われ、巻上機101の運用工程では、ステップS711の処理が行われる。
【0051】
ステップS701:所定のコンピュータは、機種ごとに、吊荷質量、トロリ113に対する吊荷130の位置ずれ、楊重のパターンにバリエーションを持たせた条件(収集条件)下で、地切り試験を行った際の学習データ(「ラインナップ学習データ」と記す)を収集する。ラインナップ学習データは、運転情報(回転数、電流値等)と地切り条件(吊荷質量、位置ずれ等)とを含むデータである。所定のコンピュータは、後述の学習装置910、状態推定装置1310、クラウドサーバ1610等であってもよい。なお、地切り条件は、巻上機101の操作者により入力される条件、収集条件の一部または全てが自動で設定された条件等であり、地切り時の状態情報(参照値)を含む。
【0052】
ステップS702:所定のコンピュータは、ステップS701で収集したラインナップ学習データを用いて、機種ごとに標準の状態推定式を学習する。例えば、所定のコンピュータは、ネットワーク600について、誤差逆伝播法による係数行列Wおよびバイアスbの最適化学習を実行する。
【0053】
ステップS703:所定のコンピュータは、製品出荷テスト時の地切り試験を行った際の学習データ(「個体別学習データ」と記す)を収集し、新たに収集した個体別学習データを用いて製品ごとに状態推定式を再学習し、モータ特性の個体差を反映させる。その結果、巻上機101は、製品ごとに高精度に状態推定することができるようになる。なお、製品ごとのモータ特性の個体差が少ない場合には、ステップS703は必須ではない。
【0054】
なお、出荷前工程で学習された巻上機101についての学習済みの状態推定式は、状態推定部513により利用可能に設定(例えば、補助記憶装置516に記憶)される。
【0055】
ステップS711:巻上機101は、運転中に状態推定する。例えば、操作者が巻上機101を運転する際、巻上機101は、運転時の運転情報から状態推定する。本実施形態の運用では、出荷前工程で学習された学習済みの状態推定式が用いられて、運転中に吊荷質量等が推定される。
【0056】
図8は、運転中の状態推定(ステップS711)に係るフローチャートの一例を示す図である。
【0057】
ステップS801:操作者が巻上機101に吊荷130をセットする。
【0058】
ステップS802:操作者が操作入力部522を介して地切り操作を行い、モータ制御部511は、操作入力部522で入力された操作指令に従ってモータ制御指令を生成し、モータ220に出力する。
【0059】
ステップS803:運転情報取得部512は、運転情報を取得する。より具体的には、運転情報取得部512は、モータ制御部511および/またはモータ220から、運転情報を取得し、取得した運転情報を状態推定部513に送信する。運転情報には、モータ220への入力値(例えば、入力信号)を示す情報と、モータ220からの出力値(例えば、出力信号)を示す情報との少なくとも1つが含まれる。
【0060】
ステップS804:状態推定部513は、ステップS803において取得された運転情報と学習済みの状態推定式とに基づいて、状態推定(吊荷質量、緊張状態、モータ温度、および荷振れ量の推定値を算出)する。
【0061】
ステップS805:状態表示部521は、ステップS804において状態推定された結果を示す情報(推定値、推定値を示すグラフ、推定値から算出される値等)を、入出力装置527に表示する。
【0062】
上記のように、巻上機101は、ステップS804で状態推定式に基づいて状態推定し、状態表示部521を介して、推定した結果を操作者に通知する。
【0063】
なお、本実施形態は、ステップS703において製品出荷テスト時の地切り試験における学習データを記録し、製品ごとに再学習を行う例を示しているが、ステップS703は必須ではない。しかしながら、ステップS703を行うことで製品ごとの特性を反映して高精度に状態推定することができる。
【0064】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0065】
一般的に、巻上機101においてモータ220から出力される動力は、軸受230、ベルト、歯車チェーン、ブレーキ等の動力伝達系における様々な構成要素(構成部品)の損失の影響を受ける。そのため、物理モデルにより状態推定するためには、個々の巻上機101の負荷について、吊荷質量に起因する因子、動力伝達系の構成要素に起因する因子、モータ特性の個体差に起因する因子等の要素を切り分けて検討する必要がある。
【0066】
一方で、状態推定の精度を高める場合には、因子ごとに定式化した係数を個々の製品ごとにチューニングする必要があり、係数の設定に時間を要する。加えて、物理モデルが複雑化するために、状態推定の計算負荷も高くなるため、高精度の演算を高速に実行するために必要な制御基板のコストが高くなりやすい等、実現が容易でない。
【0067】
これに対して、本実施形態に記載したような、学習データに基づく状態推定式を用いた場合、(式1)において係数行列Wおよびバイアスbを適切な行列およびベクトルに設定することで、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、および荷振れ量を高精度で推定できる。また、学習によって、特徴量の抽出およびパラメータの調整が自動的に行われるため、検討に要する負担を抑制できる。加えて、複雑な物理モデルを用いないため、計算負荷も低くなり、制御基板のコスト増加も抑えることができる等のメリットが生じる。
【0068】
上記は、1つの状態(単独の状態)を推定する場合においても得ることができる効果であるが、さらに本実施形態に示したような4つの状態(複数の状態)を1つの運転情報から推定するケースでは、さらにその効果が高まる。
【0069】
例えば、本実施形態における状態推定では、ニューラルネットワークを用いており、4つの推定項目の演算の一部を共有層620において共有している。これは、4つの推定項目が、同じモータ220の運転情報から推定できる並列接続の関係を有する項目であったり、推定項目に直列接続の関係(例えば、依存関係)がある項目であったりするために可能となっている。
【0070】
より具体的に説明する。緊張状態の演算においては、所定の吊荷質量を超過した場合に「緊張」判定を出力する等の方法もあり得ることから、吊荷質量と緊張状態とは、同じ運転情報から推定できる関係にある。言い換えれば、吊荷質量と緊張状態とは、それぞれを推定するために必要な物理的背景が共通しているため、並列関係にある。
【0071】
また、モータ温度に関しては、巻線の温度変化に伴うモータ220の内部抵抗値の変化によって電流値が変化し、吊荷質量の出力値が変わり得る。よって、吊荷質量とモータ温度とについては、依存関係(直列関係)にあると捉えることができる。
【0072】
さらに、荷振れ量については、吊荷130が振動している場合、遠心力の時間変動が生じる等の影響で周期的にロープの張力が変化する。すなわち、吊荷質量の推定値(推定荷重)に時間変動が生じることに相当するため、時間変動の周期と推定荷重の変化量の大きさとから、振動の振幅が推定できる。よって、荷振れ量と吊荷質量とは、同じ運転情報から推定できる、並列関係にある。
【0073】
上記に示したように、同じ運転情報から推定できる並列関係を持った状態や、依存関係などの直列関係がある状態をまとめて1つの状態推定式から推定することにより、演算処理およびパラメータ設定を必要最低限に抑えつつ、巻上機101に係る多くの状態を同時に推定することが可能となる。したがって、1つのモータ220に対して多くの状態を推定するほど、学習を用いた状態推定の効果が高くなる。
【0074】
なお、本実施形態では、ニューラルネットワークを用いた状態推定を想定したが、教師あり学習の様々な手法をとり得る。例えば、本実施形態では、吊荷質量の推定、モータ温度の推定、荷振れ量の推定を回帰演算、緊張状態を分類演算で推定しているが、求める推定値の形式によって、単純な線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰等、様々な学習方法が利用できる。
【0075】
また、本実施形態においては、1つにまとまったニューラルネットワークを1つの状態推定式として扱い、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、および荷振れ量を推定しているが、例えば、吊荷質量と緊張状態とを1つ目の状態推定式から推定し、モータ温度と荷振れ量とを、運転情報が異なる2つ目の状態推定式から推定する等、分解してもよい。
【0076】
以上の仕組みにより、巻上機システム100は、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、荷振れ量といった状態を高精度で推定できる状態推定式を、容易なパラメータ設定で提供できる。特に、巻上機システム100では、運用工程での再学習を行わないので、出荷後の製品には学習装置が不要であり、操作端末120の構成も少なくて済むので、簡易なシステムとなり、安価な巻上機101を提供できる。
【0077】
(II)第2実施形態
第2実施形態について、
図9~
図12を用いて説明する。本実施形態における各要素の構成および基本的な動作については第1実施形態と同様であるため、本実施形態の特徴を中心に説明する。
【0078】
図9は、本実施形態による巻上機システム900に係る構成の一例を示す図である。本巻上機システム900は、巻上機101と、操作端末120と、学習装置910と、を含んで構成される。これらの間での情報のやり取りは、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0079】
巻上機101は、吊荷130を玉掛したロープ等を巻上げる巻上ドラム210を接続したモータ220と、モータ制御部511と、運転情報取得部512と、状態推定部513と、を備える。
【0080】
本実施形態は、運用工程において運転情報と状態情報とで構成される学習データを収集して学習が行われる点が第1実施形態と比べて異なるため、運転情報取得部512および状態推定部513に違いがある。
【0081】
以降、運用工程において巻上機システム900が状態推定するフローを状態推定フェーズ、巻上機システム900が学習により状態推定式を更新するフローを学習フェーズと記す。状態推定フェーズと学習フェーズとは、明確に切り分けられていてもよいし、状態推定フェーズと学習フェーズとが並行して行われていてもよい。
【0082】
運転情報取得部512は、状態推定フェーズにおいては、状態推定部513に運転情報を送信し、学習フェーズにおいては、学習データを設定させるために操作端末120に運転情報を送信する。
【0083】
状態推定部513は、状態推定フェーズにおいては、運転情報取得部512により取得された運転情報と、状態推定式とを用いて、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、および荷振れ量を推定する。更に、状態推定部513は、学習装置910に記憶されている最新の学習データもしくは運転情報取得部512により取得された運転情報と、最新でない学習データ(過去の時期の学習データ)とを使用して、モータ220、軸受230、歯車、ベルト、チェーン、ブレーキ等、巻上機101の構成要素の劣化状態を推定する。
【0084】
すなわち、第1実施形態における状態推定式は、運用工程における現時点(当該時期)の運転情報を利用していたが、本実施形態における状態推定式は、運用工程の当該時期の運用情報に加えて、当該時期から離れた過去の時期の運用情報(学習データ)を利用するという違いがある。
【0085】
また、状態推定部513は、学習フェーズにおいては、学習装置910に記憶された状態推定式を受信することで、状態推定部513が用いる状態推定式が巻上機101の運用環境に適した状態推定式に更新される。
【0086】
次に、操作端末120について説明する。操作端末120は、状態表示部521と、操作入力部522と、学習データ条件入力部921と、学習データ設定部922と、を備える。
【0087】
状態表示部521は、状態推定フェーズにおいては、状態推定部513で算出された推定値(巻上機101に係る状態)等を表示する。また、状態表示部521は、状態推定部513が誤った推定値を算出した場合、正しい状態の参照値を入力して当該参照値を含む学習データを用いて再学習を行うことを操作者に確認するための確認画面を表示してもよい。再学習については後述する。操作入力部522は、状態推定フェーズにおいて、操作者が巻上機101のモータ制御指令の値を入力するためのインターフェースである。
【0088】
学習データ条件入力部921は、学習フェーズにおいて、モータ220または吊荷130の状態、巻上機101の個体識別番号等の学習データ条件を入力するためのインターフェースである。ここで、学習データ条件は、運転情報取得部512で取得される運転情報に対応した巻上機101の運転条件(例えば、地切り条件)であり、少なくとも吊荷質量、緊張状態、モータ温度、荷振れ量のうちのいずれかの状態情報(参照値)が対応付けられている。また、学習データ条件は、製品の機種名、個体識別番号等の情報を含んでもよい。学習データ条件入力部921のインターフェースは、操作入力部522のインターフェースと共通で利用されてもよいし、別のインターフェースとして実装されてもよい。
【0089】
学習データ設定部922は、学習データ条件入力部921から入力された学習データ条件と、運転情報取得部512から送信された運転情報とを対応付けて1セットの学習データとして設定し、学習装置910に送信する。
【0090】
なお、本実施形態では、状態表示部521、操作入力部522、学習データ条件入力部921、および学習データ設定部922は、操作端末120に実装されるが、巻上機101に実装されてもよい。
【0091】
次に、学習装置910について説明する。学習装置910は、学習データ蓄積部911と、学習部912と、学習結果蓄積部913と、を備える。なお、学習装置910は、CPU等の演算装置914、半導体メモリ等の主記憶装置915、ハードディスク等の補助記憶装置916、通信装置917等のハードウェアを備える。各ハードウェアの周知動作については適宜省略して説明を進める。
【0092】
学習装置910の機能(学習データ蓄積部911、学習部912、学習結果蓄積部913等)は、例えば、演算装置914が補助記憶装置916に格納されたプログラムを主記憶装置915に読み出して実行すること(ソフトウェア)により実現されてもよいし、専用の回路等のハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わされて実現されてもよい。なお、学習装置910の1つの機能は、複数の機能に分けられていてもよいし、複数の機能は、1つの機能にまとめられていてもよい。また、学習装置910の機能の一部は、別の機能として設けられてもよいし、他の機能に含められていてもよい。また、学習装置910の機能の一部は、学習装置910と通信可能な他のコンピュータにより実現されてもよい。
【0093】
学習データ蓄積部911は、操作端末120の学習データ設定部922で設定された学習データを補助記憶装置916に蓄積する。蓄積される学習データは、3種類に分類される。
【0094】
1つ目は、ラインナップ学習データであり、機種ごとに収集条件にバリエーションを持たせて収集された学習データであり、出荷前工程の最初の工程において、機種ごとに標準の状態推定式の学習に用いられる。
【0095】
2つ目は、個体別学習データであり、製品出荷テスト時の品質保証のテスト試験(例えば、地切り試験)で収集された製品ごとの学習データであり、出荷前工程でのモータ特性の個体差を反映するための再学習に用いられる。
【0096】
3つ目は、運用環境下での学習データであり、製品出荷後に状態推定部513で算出された推定値を操作者が修正した学習データであり、運用工程での運用環境の特性を反映するための再学習に用いられる。
【0097】
学習部912は、学習データ蓄積部911から学習データを読み込み、状態推定式を学習する。出荷工程の最初の工程における機種ごとに標準の状態推定式の学習では、ラインナップ学習データが用いられる。また、出荷前工程でのモータ特性の個体差を反映する再学習では、ラインナップ学習データに個体別学習データを追加した学習データが用いられる。また、運用工程での再学習では、ラインナップ学習データまたは個体別学習データに運用環境下での学習データを追加した学習データが用いられる。
【0098】
学習結果蓄積部913は、学習部912により学習された状態推定式を補助記憶装置916に蓄積し、適宜、状態推定部513に状態推定式を送信する。なお、学習結果蓄積部913には、機種ごとに標準の状態推定式、更には、個体および運用環境ごとの状態推定式を蓄積しておいてもよい。
【0099】
そして、製品の機種名、個体識別番号、運用環境(例えば、とめ具、吊荷質量、吊荷130の体積、吊荷130の材質、吊荷130の数量、吊荷130の形状、吊荷130の特異性(柔軟性、液体性、温度、有害性、壊れやすさ等)、ロープの掛け方、ロープを掛ける本数、吊り角度)等の指定により、これらの状態推定式が適宜参照できてもよい。このように、運用環境ごとに状態推定式が設けられることで、巻上機101の操作者は、簡単に運用環境に合わせて状態推定式を使い分けることができる。
【0100】
次に、学習部912で行われる学習(例えば、学習計算)について詳細に説明する。学習計算とは、第1実施形態における(式1)で与えられる状態推定式において、運転情報ベクトルxが入力された際に出力される推定値uが、より誤差の少ない推定値を出力するように、係数行列Wおよびバイアスbを調整する処理のことをいう。
【0101】
学習計算の流れについて説明する。まず、学習部912は、学習データ蓄積部911に蓄積されている一部または全ての学習データ(「学習対象の学習データ」と記す)のうち、ランダムにいくつかの学習データを取り出す。そして、学習部912は、例えば、ランダムに決定された係数行列Wの初期値と、バイアスbとの初期値とを代入した(式1)に対して、取り出した運転情報ベクトルxを入力し、(式1)に従って推定値uを算出する。
【0102】
学習部912は、算出した推定値uを用いて、学習データに保存されている参照値u’との誤差eを計算し、各推定項目の誤差eを優先度に応じて重みづけして総和することで、重みづけ誤差esを算出する。算出された重みづけ誤差esは、取り出された学習データ数だけあるため、学習部912は、これらを総和して重みづけ総和誤差Eを算出する。
【0103】
そして、学習部912は、重みづけ総和誤差Eがより小さくなるように係数行列Wとバイアスbとを微小変化させる。ここでの係数行列Wおよびバイアスbの微小変化のさせ方としては、例えば、勾配降下法等が利用できる。
【0104】
学習部912は、学習対象の学習データのうち残りの学習データに対しても、順次ランダムに同程度の数の学習データを取り出して同様の処理を繰り返し、学習対象の学習データのすべてに対して処理が完了すると、学習処理の1サイクルを終了する。
【0105】
以上の手順が繰り返されることで、重みづけ総和誤差Eは、次第に小さくなっていき、学習部912は、学習終了条件を満たすまで、状態推定式を更新し続ける。学習終了条件は、状態推定式の学習を完了させる条件である。学習終了条件は、例えば、学習サイクルの繰り返し回数が所定の回数を超えた場合、重みづけ総和誤差Eが所定の値以下に達する場合、等である。こうして得られた状態推定式によって出力される推定値uが、当該時点で取得された運転情報ベクトルxに対する最適な推定値となる。
【0106】
また、学習部912が、学習済みの状態推定式の係数行列Waおよびバイアスbaを、係数行列Wとバイアスbの初期値として与えて学習計算を行うことを「再学習」という。学習部912は、学習データに新たに学習データを追加して学習計算することで、追加の学習データにもフィットした状態推定式に更新することができる。
【0107】
本実施形態では、学習部912は、ラインナップ学習データを用いて作成した状態推定式を初期値として、個体別学習データを用いて再学習を行うことで、製品のモータ特性の個体差を反映した状態推定式へと更新することができる。加えて、学習部912は、運用環境下での学習データを用いて再学習を行うことで、運用環境の特性を反映した状態推定式へと更新することができる。これによって、製品ごとの特性と、製品が利用される運用環境の特性とを反映したより的確な状態推定が可能となる。
【0108】
以上の手順によって算出された、学習済みの係数行列Wとバイアスbとを含む状態推定式は、学習結果蓄積部913により蓄積され、状態推定部513の更新時に送信されることで、巻上機101は、高精度な状態推定が可能となる。
【0109】
また、本実施形態では、第1実施形態に比べて、状態推定部513で、モータ220、軸受230等の動力伝達系の構成要素の劣化状態を推定する点が異なるため、劣化状態の推定に関する演算処理について説明する。
【0110】
本実施形態の状態推定部513では、運用時点の時系列の運転情報(時系列情報)に加えて、学習データ蓄積部911から任意の時期の学習データが読み出される。ここで、任意の時期は、操作者が操作入力部522から設定でき、例えば、運用開始初期(出荷時)、定期メンテナンスの直後(点検時)等が選択できる。
【0111】
状態推定部513では、現在の運転情報(時系列情報)から吊荷質量、緊張状態、モータ温度、荷振れ量が算出されるとともに、過去の時期の学習データから取得された過去の運転情報を用いた場合の吊荷質量が推定され、現在の運転情報から推定した吊荷質量との差分が計算される。状態推定式の内部にはあらかじめ、現在および過去の吊荷質量のずれと経年劣化との関係が式として記述されており、吊荷質量のずれから劣化度が算出され、状態推定部513から状態表示部521へと劣化度が送信される。ここでいう劣化度とは、メンテナンスの要否の判定、部品交換の要否の判定等の表示値でもよいし、巻上機101の構成要素の寿命等の数値でもよい。なお、状態推定部513は、劣化度を算出する場合、学習結果蓄積部913または学習データ蓄積部911に蓄積したデータベースを参照してもよい。
【0112】
以上の仕組みにより、操作者は、過去の運転情報を利用して巻上機101のメンテナンスのタイミング、巻上機101の構成要素の寿命等を知ることができるため、巻上機101の急な故障による製造ライン停止、繁忙期のメンテナンスの実施等を未然に防止できる。
【0113】
なお、本実施形態においては、過去および現在の吊荷質量の推定値のズレを評価対象としたが、緊張状態、モータ温度、荷振れ量等の他の推定項目の推定値を同時に利用することもできる。また、特定の出力値を用いずとも、例えば、ニューラルネットワークの入力層610に現在および過去の両方の運転情報(学習データ)を入力し、演算処理の過程でそれぞれの特徴量が抽出され、出力層で劣化度が出力される等の内部演算を用いる方法でもよい。
【0114】
また、学習結果蓄積部913により蓄積された状態推定式と、学習データ蓄積部911により蓄積された学習データのうち複数を用いてそれぞれ劣化度を推定し、2つの劣化度から安全性の高い方を選択する等の手法もある。したがって、第1実施形態と同様に、ニューラルネットワークに限らず複数の教師あり学習が利用でき、さらには複数の学習を組み合わせたアンサンブル学習等も利用できる。
【0115】
図10は、巻上機システム900の処理手順に係るフローチャートの一例を示す図である。フローチャートに基づく巻上機システム900の動作は、以下の通りである。なお、巻上機101の出荷前工程では、ステップS701~ステップS703の処理が行われ、巻上機101の運用工程では、ステップS1001~ステップS1005の処理が行われる。ステップS701~ステップS703は、第1実施形態と同じであるため、ステップS1001~ステップS1005について説明する。
【0116】
ステップS1001:操作者が巻上機101を運転する際、巻上機101は、運転中に状態推定する。より具体的には、巻上機101は、運転中の運転情報と状態推定式とを用いて、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、および荷振れ量を推定(推定値を算出)する。
【0117】
ステップS1002:ステップS1001で算出された推定値が誤っていると操作者が判断した場合、操作者は、推定値を修正する。ステップS1002では、操作端末120は、操作者に修正の必要があるかについて、状態表示部521を介して判断を仰ぐ。操作者が修正する必要があると判断した場合、操作端末120は、ステップS1003に処理を移す。操作者が修正する必要がないと判断した場合、操作端末120は、ステップS1004に処理を移す。
【0118】
ステップS1003:学習データ設定部922は、操作者が修正した情報(参照値)と、状態推定に用いられた運転情報とを対応付けて運用環境下での学習データ(「再学習用の学習データ」と記す)として設定する。そして、学習データ設定部922は、再学習用の学習データを学習データ蓄積部911に送信する。
【0119】
ステップS1004:学習装置910は、再学習を行うか否かを判定する。学習装置910は、操作者による指示を受け付けた場合、一定数以上の再学習用の学習データが蓄積された場合、一定の劣化度を超過した場合等に、再学習を行うと判定する。学習装置910は、再学習を行うと判定した場合(「YES」の場合)、ステップS1005に処理を移し、再学習を行わないと判定した場合(「NO」の場合)、処理を終了する。
【0120】
ステップS1005:学習部912は、ステップS1003で収集された再学習用の学習データを用いて再学習を行い、運用環境の特性を反映させた状態推定式を学習結果蓄積部913に送信する。状態推定式は、状態推定部513に送信され、次回の運転から新たな状態推定式を用いた状態推定が行われる。
【0121】
これにより、運用環境の特性を反映して、高精度に状態推定することができるようになる。なお、運用環境の特性によるモータ特性の変化が少ない場合には、ステップS1005は必須ではない。
【0122】
本実施形態は、ステップS702、ステップS703、ステップS1005において学習部912が学習データを用いて状態推定式を学習計算することで、学習データの傾向に従って状態推定式を更新できる。このため、製品のモータ特性の個体差、運用環境の特性、経年劣化までも状態推定式に反映させることができ、その結果、より的確な状態を推定することができる。また、異なる機種の巻上機101に対して、それぞれに対応した物理モデルを構築しなくても、巻上機システム900は、同じ処理を用いて学習データを収集することで状態推定できる。
【0123】
図11は、出荷前工程の地切り試験によって学習データを収集するステップS701およびステップS703の詳細手順に係るフローチャートの一例を示す図である。
【0124】
ステップS1101:製造者が事前に学習データの収集条件を決めておく。学習データの収集条件は、地切り試験における吊荷質量、トロリ113に対する吊荷130の位置ずれ、楊重のパターンの組み合わせの条件のことであり、巻上機101が運用されるうえで想定される条件を網羅するように満遍なく設定されていることが望ましい。そして、学習データの収集条件に従って、製造者が巻上機101に吊荷130をセットする。
【0125】
ステップS1102:製造者が操作入力部522から地切り操作を入力し、巻上機101は、地切り操作の際の運転情報(時系列情報)を記録する。時系列情報は、地切り開始時から吊荷130が安定するまでの情報であることが望ましい。
【0126】
ステップS1103:製造者が学習データ条件入力部921から学習データ条件(地切り条件)を入力する。なお、ステップS1103では、事前に決められている学習データの収集条件の一部または全てが学習データ条件に自動的にセットされ、製造者は、セットされた学習データ条件に不足している条件がある場合、当該条件を追加したり、セットされた学習データ条件に不要な条件がある場合、当該条件を削除したりしてもよい。
【0127】
ステップS1104:学習データ設定部922は、ステップS1102で記録された運転情報(時系列情報)と、ステップS1103で入力された学習データ条件とを対応付けて学習データとして設定する。
【0128】
ステップS1105:学習データ設定部922は、ステップS1104で設定した学習データを学習データ蓄積部911に送信する。学習データ蓄積部911は、受信した学習データを蓄積する。
【0129】
以上のように、本実施形態では、地切り試験を行うことによる学習データの収集作業を行い、収集した学習データを用いて状態推定式を学習計算することで、精度良く状態推定することが可能である。また、学習データの収集作業は、非属人的で、巻上機101のモータ220等の製品に対して高度な知識がなくても実施できる利点がある。
【0130】
図12は、状態推定式の学習計算に係る処理(ステップS702とステップS703とステップS1005)の詳細手順に係るフローチャートの一例を示す図である。
【0131】
ステップS1201:学習部912は、学習データ蓄積部911から学習データを読み込む。
【0132】
ステップS1202:学習部912は、ステップS1201読み込んだ学習データを用いて状態推定式を学習計算する。
【0133】
ステップS1203:学習結果蓄積部913は、ステップS1202において学習計算された状態推定式(学習結果)を蓄積する。
【0134】
ステップS1204:学習結果蓄積部913は、ステップS1202において学習計算された状態推定式を状態推定部513に送信する。
【0135】
以上の手順で、ステップS1003等で収集された学習データを反映するように状態推定式が学習計算される。
【0136】
以上より、本実施形態によって、追加センサが不要で、機種、製品、運用環境ごとの地切り時の運転情報と状態情報(参照値)とを用いた学習を行うことで、モータ特性の個体差、運用環境の特性、巻上機101の構成要素の劣化状態までを考慮した高精度な状態推定が可能となる。
【0137】
(III)第3実施形態
第3実施形態について、
図13および
図14を用いて説明する。本実施形態では、既に設置済みの巻上機101、または、購入済みの巻上機101に対して、状態推定装置1310を取り付ける場合について説明する。
【0138】
図13は、本実施形態における巻上機システム1300に係る構成の一例を示す図である。巻上機101は、吊荷130に玉掛したロープ等を巻上げるモータ220を備えている。なお、第1実施形態と同じ構成については、その説明を省略する。
【0139】
状態推定装置1310は、運転情報取得部512、状態推定部513、状態表示部521、学習データ蓄積部911、学習部912、学習結果蓄積部913、学習データ条件入力部921、および学習データ設定部922を含んで構成される。
【0140】
なお、状態推定装置1310は、CPU等の演算装置1311、半導体メモリ等の主記憶装置1312、ハードディスク等の補助記憶装置1313、通信装置1314、入出力装置1315等のハードウェアを備える。各ハードウェアの周知動作については適宜省略して説明を進める。
【0141】
状態推定装置1310の機能(運転情報取得部512、状態推定部513、状態表示部521、学習データ蓄積部911、学習部912、学習結果蓄積部913、学習データ条件入力部921、学習データ設定部922等)は、例えば、演算装置1311が補助記憶装置1313に格納されたプログラムを主記憶装置1312に読み出して実行すること(ソフトウェア)により実現されてもよいし、専用の回路等のハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わされて実現されてもよい。なお、状態推定装置1310の1つの機能は、複数の機能に分けられていてもよいし、複数の機能は、1つの機能にまとめられていてもよい。また、状態推定装置1310の機能の一部は、別の機能として設けられてもよいし、他の機能に含められていてもよい。また、状態推定装置1310の機能の一部は、状態推定装置1310と通信可能な他のコンピュータにより実現されてもよい。
【0142】
運転情報取得部512は、巻上機101のモータ220の運転情報を取得する。取得する運転情報は、モータ220への入力値を示す情報およびモータ220からの出力値を示す情報である。状態推定部513は、運転情報取得部512が取得した運転情報から、状態推定式を用いて、吊荷質量、緊張状態、モータ温度、荷振れ量といった状態の推定値を算出する。状態表示部521は、状態推定部513で算出された推定値等を表示する。学習データ条件入力部921は、学習データ条件を入力するためのインターフェースであり、タッチパネル、キーボード、マウス等の入出力装置1315に係る処理を行う。学習データ条件入力部921により入力された学習データ条件は、学習データ設定部922に送信される。
【0143】
学習データ設定部922は、学習データ条件入力部921により入力された学習データ条件と、運転情報取得部512により取得された運転情報とを対応付けて1セットの学習データとして設定し、設定した学習データを学習データ蓄積部911に送信する。学習データ蓄積部911は、学習データ設定部922で設定された学習データを蓄積する。学習部912は、学習データ蓄積部911から学習データを読み込み、状態推定式を学習計算する。
【0144】
学習結果蓄積部913は、学習部912により学習計算された状態推定式を蓄積する。そして、学習結果蓄積部913は、適宜、状態推定式が更新されたタイミング等で状態推定部513に状態推定式を送信する。
【0145】
次に、状態推定装置1310で行われる処理手順について説明する。
【0146】
図14は、巻上機システム1300の処理手順に係るフローチャートの一例を示す図である。
【0147】
ステップS1401:設置作業者は、状態推定装置1310を巻上機101に取り付ける。
【0148】
ステップS1402:設置作業者は、地切り試験を実施し、学習データ設定部922は、地切り前後における運転情報と、地切り条件(吊荷質量、緊張状態、モータ温度、荷振れ量の状態情報)とを対応付けて学習データとして設定し、学習データ蓄積部911は、学習データを蓄積する。
【0149】
ステップS1403:学習部912は、状態推定式を学習計算し、学習結果蓄積部913は、学習部912により学習計算された状態推定式を蓄積する。
【0150】
ステップS1404:状態推定部513は、状態推定式を更新し、運転中に状態推定する。
【0151】
なお、ステップS1402とステップS1403とステップS1404との各々は、ステップS701とステップS702とステップS711の各々と同様である。また、ステップS1404に続いて、ステップS1002~ステップS1005の処理が行われてもよい。
【0152】
本実施形態は、既存の巻上機101に状態推定装置1310を取り付けることで、製品の出荷時点では状態推定機能が搭載されていない巻上機101でも、後から状態推定が可能となる。
【0153】
(IV)第4実施形態
第4実施形態について、
図15を用いて説明する。
【0154】
図15は、本実施形態の巻上機システム1500に係る構成の一例を示す図である。本実施形態では、操作端末120の1つに対して巻上機101が複数(本例では、3つ)存在する。
【0155】
巻上機101-1(巻上機A)、巻上機101-2(巻上機B)、巻上機101-3(巻上機C)、操作端末120、学習装置910のそれぞれに内蔵されている入出力系の各要素、推定項目は、第2実施形態と同じである。ただし、学習装置910で推定した状態推定式を巻上機101に送信する経路が操作端末120を介している点が異なる。つまり、本実施形態でも、巻上機101のそれぞれにおいて、1つのモータ220の運転情報から、吊荷質量、モータ温度、緊張状態、荷振れ量、モータ220および動力伝達系の劣化状態を推定するため、モータ220の数と推定項目の数との関係は、第2実施形態と同じである。
【0156】
各巻上機101で収集した学習データは、単一の操作端末120を介して単一の学習装置910に集約されて蓄積される。そして、それらの学習データをもとに学習装置910において学習計算された状態推定式が学習結果蓄積部913に蓄積される。学習結果蓄積部913により蓄積されている状態推定式は、メンテナンス等のタイミングで、適宜、操作端末120を介して巻上機101に内蔵された状態推定部513に送信される。
【0157】
巻上機システム1500によれば、複数の巻上機101を同一の操作端末120および学習装置910で扱うことができるため、操作者への負担を減らすことができる。加えて、一般的に高価な学習装置910を1つ用意することで運用が可能となる。
【0158】
さらに、学習装置910を単一として、複数の巻上機101の運転情報(学習データ)を格納することにより、相互の巻上機101の運転情報(学習データ)を活用できる。例えば、巻上機Aの利用頻度が高く、巻上機Bと巻上機Cとの利用頻度が低い場合、巻上機Aの学習データが多く蓄積されるため、経年劣化に伴う状態推定式および学習データの変化が早く集まる。
【0159】
これにより、巻上機Bおよび巻上機Cの学習データが蓄積された際、同じ運用環境で利用している巻上機Aの経過と比較してどれくらの劣化度であるかを推定することができるため、劣化推定の精度を高めることができる。
【0160】
(V)第5実施形態
第5実施形態について、
図16を用いて説明する。
【0161】
図16は、本実施形態の巻上機システム1600に係る構成の一例を示す図である。巻上機システム1600では、第2実施形態~第4実施形態における学習装置がクラウドサーバ1610上に設けられている。本実施形態では、1台のクラウドサーバ1610に対して、異なる操作端末120が接続され、それぞれの操作端末120に対応する巻上機101が運用されているケースを想定している。
【0162】
クラウドサーバ1610は、製品の製造者が所有するサーバ装置でもよいし、製品の購入者が所有するサーバ装置でもよいし、クラウドサービスを提供する第3者が所有するサーバ装置でもよい。
【0163】
各巻上機101で取得した学習データは、学習データを取得した巻上機101の個体識別番号、機種等がラベリングされて、操作端末120を経由してクラウドサーバ1610上に蓄積される。
【0164】
一般的に学習を行うための計算機には性能の高さが求められるため、価格が高い傾向があるとともに、設置環境の整備、定期メンテナンス等が必要であるため、管理コストが生じる。
【0165】
これに対し、本実施形態のように専門的な部門、業者が管理するクラウドサーバ1610を利用することで、操作者が個々に学習装置910を設置、運用、保守する必要がなくなるため、運用にかかる負担を軽減できる。
【0166】
さらに、機種、運用環境が異なる様々な学習データが同一サーバ装置に蓄積されることで、第2実施形態および第4実施形態における経年劣化の推定、運用環境の変化への適応等に際して、同一サーバ装置内に蓄積された膨大な学習データが利用できる。よって、経年劣化の診断精度、運用環境への適応精度をより高めることが可能となる。
【0167】
以上の通り、第1実施形態~第5実施形態により、緊張状態の判定をはじめとした状態推定について、学習を用いた容易なパラメータ設定作業によって、複数の因子の影響を加味した高精度な状態推定式を提供できる。特に、状態推定に利用する運転情報が並列関係を有する推定項目、および/または、直列関係を有する推定項目について状態推定する場合に導入効果が高い。また、学習データを蓄積して状態推定式を更新する仕組みを導入することで、経年劣化まで考慮した状態推定式が提供でき、さらに、複数の巻上機の学習データを共有することで、経年劣化の推定精度および様々な運用環境への適応精度をより高めることができる。
【0168】
上述の第1実施形態~第5実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。加えて、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0169】
(VI)付記
上述の実施形態には、例えば、以下のような内容が含まれる。
【0170】
上述の実施形態においては、本発明を巻上機システムに適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々のシステム、装置、方法、プログラムに広く適用することができる。
【0171】
また、上述の実施形態において、プログラムの一部またはすべては、プログラムソースから、状態推定機能を実現するコンピュータのような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、ネットワークで接続されたプログラム配布サーバ装置またはコンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えば非一時的な記録媒体)であってもよい。また、上述の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0172】
また、上述の実施形態において、情報の出力は、ディスプレイへの表示に限るものではない。情報の出力は、スピーカによる音声出力であってもよいし、ファイルへの出力であってもよいし、印刷装置による紙媒体等への印刷であってもよいし、プロジェクタによるスクリーン等への投影であってもよいし、その他の態様であってもよい。
【0173】
また、上記の説明において、各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0174】
上述した実施形態は、例えば、以下の特徴的な構成を備える。
【0175】
(1)
モータ(例えば、モータ220)を備え、上記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機(例えば、巻上機101)は、上記モータの運転情報を取得する運転情報取得部(例えば、運転情報取得部512)と、上記運転情報取得部により取得された運転情報と、上記巻上機に係る状態を推定可能に学習されている状態推定式(例えば、ネットワーク600)とに基づいて、上記巻上機に係る状態を推定する状態推定部(例えば、状態推定部513)と、を備える。
【0176】
上記構成では、物理モデルの構築なしに、モータの運転情報と状態推定式とを用いて、巻上機に係る状態を推定することができる。また、巻上機に係る状態の推定において複雑な物理モデルが用いられないので、例えば、計算負荷が低くなり、制御基板のコスト増加を抑えることができる。
【0177】
なお、上記状態推定式は、ラインナップ学習データが用いられて学習されていてもよいし、ラインナップ学習データおよび個体別学習データが用いられて学習されていてもよい。
【0178】
(2)
上記巻上機は、吊荷を取付可能なロープを備え、上記状態推定部は、上記巻上機に係る状態として、上記ロープに取り付けられている吊荷の質量、上記吊荷の加速度、上記ロープの張力、上記モータの回転負荷、上記ロープの緊張状態、上記モータの温度、および上記吊荷の荷振れ量のうちの少なくとも1つを推定する。
【0179】
上記構成によれば、吊荷の質量、吊荷の加速度、ロープの張力、モータの回転負荷、ロープの緊張状態、モータの温度、および吊荷の荷振れ量のうちの少なくとも1つを推定することができる。
【0180】
(3)
上記状態推定部は、上記巻上機に係る状態として、所定の状態(例えば、吊荷質量)と、上記所定の状態と並列関係がある状態(例えば、緊張状態、荷振れ量)、および/または、上記所定の状態と直列関係がある状態(例えば、モータ温度)とを推定する。
【0181】
上記構成では、1つの運転情報から、所定の状態と、所定の状態と物理的な背景が共通するなどの並列関係がある状態、および/または、所定の状態と依存関係があるなどの直列関係にある状態、が推定されるので、例えば、状態ごとに状態推定式を設けたり、状態ごとに運転情報を用意したり、状態ことに推定値を計算したりする必要がなく、効率よく状態を推定することができる。
【0182】
(4)
上記巻上機は、上記状態推定部により推定された結果を示す情報(推定値、推定値を示すグラフ、推定値から算出される値等)を出力(例えば、操作端末120に送信)する出力部(例えば、状態推定部513)を備える。
【0183】
上記構成によれば、巻上機に係る状態を示す情報が出力される。例えば、巻上機は、操作者が安全確認をするために当該情報を表示したり、当該情報を他の推定(劣化度の推定、寿命予測等)に用いたり、当該情報を各種の制御(過負荷防止制御、緊急停止等)に用いたりすることができる。
【0184】
(5)
上記運転情報には、上記モータへの入力値を示す情報と、上記モータからの出力値を示す情報との両方が含まれている。
【0185】
上記構成では、モータへの入力値を示す情報と、モータからの出力値を示す情報との両方が用いられて巻上機に係る状態が推定されるので、例えば、入力値を示す情報または出力値を示す情報の何れか一方が用いられる場合よりも、推定の精度を高めることができる。
【0186】
(6)
上記運転情報には、上記モータへ印加する電圧値、上記モータの制御部(インバータ)への指令周波数、上記モータに対して設けられているエンコーダのセンサ値から算出される上記モータの回転数、上記モータに入力する駆動電流値、上記モータのベクトル制御における励磁電流値、上記モータのベクトル制御におけるトルク電流値、上記モータへの入力トルク値、上記モータに入力する指令速度、および、上記モータに入力する指令速度に対する上記モータの回転数の滑り値のうちの少なくとも1つの情報が含まれる。
【0187】
(7)
上記状態推定部が上記巻上機に係る状態の推定に用いる運転情報は、所定の期間の時系列情報である。
【0188】
上記構成によれば、一定の時点から他の一定の時点までの所定の期間(例えば、数秒間)の運転情報を利用できるので、例えば、一定の時点の運転情報を利用する場合よりも、推定の精度を高めることができる。
【0189】
(8)
巻上機システム(巻上機システム900)は、モータ(例えば、モータ220)を備え、上記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機(例えば、巻上機101)と、上記巻上機を操作するための操作端末(例えば、操作端末120)と、上記巻上機に係る状態の推定に用いられる状態推定式を学習する学習装置(例えば、学習装置910)と、を備える。上記学習装置は、上記モータの運転情報と上記巻上機に係る状態を示す情報(学習データ条件、参照値、状態情報等)とが対応付けられた学習データを蓄積する学習データ蓄積部(例えば、学習データ蓄積部911)と、上記学習データ蓄積部により蓄積されている学習データを用いて状態推定式を学習する学習部(例えば、学習部912)と、上記学習部により学習された状態推定式を蓄積する学習結果蓄積部(例えば、学習結果蓄積部913)と、を備える。上記巻上機は、上記モータの運転情報を取得する運転情報取得部(例えば、運転情報取得部512)と、上記運転情報取得部により取得された運転情報と、上記学習結果蓄積部により蓄積されている状態推定式とを用いて、上記巻上機に係る状態を推定する状態推定部(例えば、状態推定部513)と、を備える。上記操作端末は、上記状態推定部により推定された結果を示す情報(推定値、推定値を示すグラフ、推定値から算出される値等)を表示する状態表示部(例えば、状態表示部521)を備える。
【0190】
上記構成では、例えば、巻上機のモータの運転情報を用いて状態推定式を学習することで、巻上機の特性を反映した状態推定式を得ることができる。
【0191】
(9)
上記操作端末は、上記状態推定部により所定の運転情報をもとに推定された上記巻上機に係る状態を示す情報が修正された場合、修正された情報(例えば、参照値)と上記所定の運転情報と対応付けて再学習用の学習データとして上記学習装置に送信する学習データ設定部(例えば、学習データ設定部922)を備え、上記学習データ蓄積部は、上記学習データ設定部から送信された再学習用の学習データを蓄積する。
【0192】
上記構成では、例えば、再学習用の学習データを用いて状態推定式を再学習することで、運用環境の特性を反映した状態推定式を得ることができる。
【0193】
(10)
上記状態推定部は、上記運転情報取得部により取得された運転情報と、上記学習データ蓄積部により蓄積されている学習データと、上記学習結果蓄積部により蓄積されている状態推定式とを用いて、上記巻上機に係る状態として、上記モータの劣化度、および、上記モータの動力伝達系に接続している構成要素の劣化度のうちの少なくとも1つを推定する。
【0194】
上記構成では、モータの劣化度および/またはモータの動力伝達系に接続している構成要素の劣化度が推定されるので、例えば、操作者は、現在および未来の巻上機に係る状態を把握することができる。この場合、操作者は、巻上機のメンテナンスのタイミング、巻上機の寿命等を知ることができるため、巻上機の急な故障による製造ライン停止、繁忙期のメンテナンスの実施等を未然に防止できる。
【0195】
(11)
上記巻上機は、複数設けられ、上記学習データ蓄積部は、上記複数の巻上機の各々についての学習データを蓄積する(例えば、
図15参照)。
【0196】
上記構成では、複数の巻上機の運転情報を含む学習データが学習データ蓄積部により蓄積されるので、例えば、相互の巻上機の運転情報を各巻上機の劣化度の推定に活用できるようになる。上記構成によれば、例えば、同じ運用環境で利用しているモータおよびモータの動力伝達系に接続している構成要素と比較してどれくらの劣化度であるかを計算することができる。これにより、巻上機のモータおよびモータの動力伝達系に接続している構成要素の劣化度をより正確に推定することができる。
【0197】
(12)
モータ(例えば、モータ220)を備え、上記モータを制御して吊荷の巻上げおよび巻下げを行う巻上機に係る状態を推定する状態推定装置(例えば、状態推定装置1310)は、上記モータの運転情報を取得する運転情報取得部(例えば、運転情報取得部512)と、上記運転情報取得部により取得された運転情報と上記巻上機に係る状態を示す情報(学習データ条件、参照値、状態情報等)とが対応付けられた学習データを蓄積する学習データ蓄積部(例えば、学習データ蓄積部911)と、上記学習データ蓄積部により蓄積されている学習データを用いて状態推定式を学習する学習部(例えば、学習部912)と、上記学習部により学習された状態推定式を蓄積する学習結果蓄積部(例えば、学習結果蓄積部913)と、上記運転情報取得部により取得された運転情報と、上記学習結果蓄積部に蓄積されている状態推定式とを用いて、上記巻上機に係る状態を推定する状態推定部(例えば、状態推定部513)と、を備える。
【0198】
上記構成では、例えば、既存の巻上機に状態推定装置を取り付けることで、巻上機の出荷時点では、状態推定機能が搭載されていない巻上機であっても状態推定が可能となる。
【0199】
(13)
上記状態推定装置は、上記巻上機の出荷時または上記巻上機の点検時に行われる試験において、上記巻上機の所定の運転の条件(例えば、地切り条件)に従って上記モータが制御されたときに、上記運転情報取得部により取得された上記モータの運転情報と、上記所定の運転の条件とを対応付けて学習データとして設定する学習データ設定部(例えば、学習データ設定部922)を備え、上記学習データ蓄積部は、上記学習データ設定部により設定された学習データを蓄積する。
【0200】
上記構成では、例えば、巻上機の出荷時または巻上機の点検時に取得された巻上機のモータの運転情報を用いて状態推定式が学習されるので、巻上機の特性を反映した状態推定式、または、運用環境の特性を反映した状態推定式を得ることができる。
【0201】
(14)
上記所定の運転の条件には、上記巻上機の最大負荷となる条件、上記巻上機の定格負荷となる条件、および上記巻上機に吊荷を取り付けない無負荷となる条件のうち少なくとも1つが含まれる。
【0202】
最大荷重は、巻上機の安全上確認すべき動作点であり、定格荷重は、巻上機の機種ごとの代表的な設計点であり、無負荷は、荷重のばらつき等のノイズの影響が最も少ない動作点であるので、上記構成によれば、学習データを適切に収集することができる。
【0203】
また上述した構成については、本発明の要旨を超えない範囲において、適宜に、変更したり、組み替えたり、組み合わせたり、省略したりしてもよい。
【0204】
「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」という形式におけるリストに含まれる項目は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)または(A、B、およびC)を意味することができると理解されたい。同様に、「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」の形式においてリストされた項目は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)または(A、B、およびC)を意味することができる。
【符号の説明】
【0205】
100……巻上機システム、101……巻上機、120……端末装置。