(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157779
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 35/08 20060101AFI20221006BHJP
H01L 35/24 20060101ALI20221006BHJP
H01L 35/16 20060101ALI20221006BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L35/08
H01L35/24
H01L35/16
H01L35/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062208
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】関 佑太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】升本 睦
(57)【要約】
【課題】はんだ材料層内の残留ボイドが抑制され、電極に対する熱電変換材料のチップの接合性が向上された熱電変換モジュールを提供する。
【解決手段】交互に離間するP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれが、はんだ材料を介し電極に接合される熱電変換モジュールであって、前記電極上の、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの領域の全周囲より外側に配置される、互いに離間する壁構造体をそれぞれ備え、前記壁構造体の内側の壁面のうち少なくとも一つの壁面と、前記壁面に対面し、かつ最近接する前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離が1μm以上である、熱電変換モジュール。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に離間するP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれが、はんだ材料を介し電極に接合される熱電変換モジュールであって、
前記電極上の、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの領域の全周囲より外側に配置される、互いに離間する壁構造体をそれぞれ備え、前記壁構造体の内側の壁面のうち少なくとも一つの壁面と、前記壁面に対面し、かつ最近接する前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離が1μm以上である、熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記壁構造体の形状が、それぞれ独立に、中空直方体状、及び中空円柱状から選ばれる、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記壁構造体の材料が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる、請求項1又は2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記壁構造体の、前記電極の厚さ方向の高さが、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの底面の、前記電極の厚さ方向の高さより、1~25μm高い、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記壁構造体の内側の壁面の形状が、前記P型熱電変換材料のチップの側面及びN型熱電変換材料のチップの側面のそれぞれの形状に沿っている、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接相互変換するようにした装置がある。
前記熱電変換モジュールとして、いわゆるπ型の熱電変換素子の使用が知られている。π型は、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にP型熱電素子を、他方の電極の上にN型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電素子の上面を対向する基板上の電極に接続することで構成されている。
このような中、前記熱電変換モジュールの製造にあっては、通常、基板上の電極に、P型熱電素子及びN型熱電素子をそれぞれ独立に接合材料を介し接合する。接合材料として、はんだ材料等を用いる場合、リフロー等の加熱による接合時に、溶融したはんだ上にP型熱電素子及びN型熱電素子が固定されずそれぞれ不安定な状態で存在する。その際、溶融はんだ同士が、表面張力等により流動するため、P型熱電素子及びN型熱電素子がそれぞれ位置ずれを起こし、本来電気的に接合してはならないP型熱電素子及びN型熱電素子の隣接する側面同士が近接又は接触し短絡が起こる可能性があった。
この問題を解決するための熱電変換モジュール(熱電変換装置)の構成として、例えば、特許文献1の
図2に示されるように、共通の電極上に隣接する1対のP型熱電変換素子及びN型熱電変換素子のそれぞれの側面間に、エポキシ樹脂等の樹脂を設けるような構成が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の熱電変換モジュール(熱電変換装置)の構成における前記樹脂は、両型の熱電変換素子を形成した後に設けられるものである。たとえ、両型の熱電変換素子を形成する前に設けられるとしても、リフロー等により両型の熱電変換素子をはんだ材料を介して電極に接合する際には、両型の熱電変換素子が前記樹脂と直接、接していることから、はんだ材料層内には多数のボイドが残留してしまい、電極との接合性が十分でなくなり、結果として、熱電性能が低下してしまうことがある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであり、はんだ材料層内の残留ボイドが抑制され、電極に対する熱電変換材料のチップの接合性が向上された熱電変換モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換モジュールを構成する、はんだ材料を介した熱電変換材料のチップと電極との接合において、電極上の、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの領域の全周囲より外側に配置される、互いに離間する壁構造体の内側の少なくとも一つの壁面と、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離を特定の値にすることにより、リフローによる接合時のはんだ材料層内の残留ボイドが抑制され、熱電変換材料のチップの電極への接合性が向上することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1]交互に離間するP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれが、はんだ材料を介し電極に接合される熱電変換モジュールであって、
前記電極上の、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの領域の全周囲より外側に配置される、互いに離間する壁構造体をそれぞれ備え、
前記壁構造体の内側の壁面のうち少なくとも一つの壁面と、前記壁面に対面し、かつ最近接する前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離が1μm以上である、熱電変換モジュール。
[2]前記壁構造体の形状が、それぞれ独立に、中空直方体状、及び中空円柱状から選ばれる、上記[1]に記載の熱電変換モジュール。
[3]前記壁構造体の材料が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる、上記[1]又は[2]に記載の熱電変換モジュール。
[4]前記壁構造体の、前記電極の厚さ方向の高さが、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの底面の、前記電極の厚さ方向の高さより、1~25μm高い、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[5]前記壁構造体の内側の壁面の形状が、前記P型熱電変換材料のチップの側面及びN型熱電変換材料のチップの側面のそれぞれの形状に沿っている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、はんだ材料層内の残留ボイドが抑制され、電極に対する熱電変換材料のチップの接合性が向上された熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面構成図である。
【
図2】
図2は本発明に用いた電極上に設けた壁構造体の形状及び配置の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は本発明に用いた壁構造体及びはんだ材料層を介した熱電変換材料のチップの電極への接合前後の態様の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱電変換モジュール]
本発明の熱電変換モジュールは、交互に離間するP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれが、はんだ材料を介し電極に接合される熱電変換モジュールであって、前記電極上の、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの領域の全周囲より外側に配置される、互いに離間する壁構造体をそれぞれ備え、前記壁構造体の内側の壁面のうち少なくとも一つの壁面と、前記壁面に対面し、かつ最近接する前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離が1μm以上であることを特徴とする。
本発明の熱電変換モジュールでは、熱電変換モジュールを構成する、はんだ材料を介した熱電変換材料のチップと電極との接合において、電極上の、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの接合領域の全周囲より外側に配置される、互いに離間する壁構造体をそれぞれ設け、壁構造体の内側の壁面のうち少なくとも一つの壁面と、この壁面に対面し、かつ最近接するP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離を1μm以上にすることにより、リフローによる熱電変換材料のチップと電極との接合時に、はんだ材料層内に発生するボイドが、壁構造体の内側の壁面と熱電変換材料のチップの側面との間隙から外部の空間に抜け易くなり、残留ボイドが大幅に抑制できる。これにより、熱電変換材料のチップと電極との接合界面が良好となり、熱電変換材料のチップの接合性を向上させることができる。
本明細書において、「P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップ」を、単に「熱電変換材料のチップ」ということがある。また、「P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップの底面」及び「P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップの上面」とは、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップがはんだ材料(層)と接する面を意味する。これら「底面」と「上面」とは当然のことながら、熱電変換材料のチップの対向する面を意味する。さらに、「底面」及び「上面」はP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップの「一方の面」及び「他方の面」ということがある。
【0010】
本発明の熱電変換モジュールは、π型熱電変換素子の構成を有する熱電変換モジュールを含む。
【0011】
図1は、本発明の熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面構成図であり、熱電変換モジュール1は、π型の熱電変換素子から構成され、互いに対向する基板2a及び基板2bを有し、基板2aに形成される電極3aとP型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの一方の面との間に、はんだ材料層5a’を含む。また、基板2bに形成される電極3bとP型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの他方の面との間に、はんだ材料層5b’を含む。さらに、電極3a及び電極3b上に、この順に、壁構造体7a及び壁構造体7bが備わり、P型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの側面とは特定の距離だけ離間した壁構造体7aの内側の壁面7ai、壁構造体7bの内側の壁面7biを備える。なお、7a’は壁構造体7aの奥行側部、7b’は壁構造体7bの奥行側部、8は壁構造体間スペースを示す。
【0012】
(壁構造体)
本発明の熱電変換モジュールには、前記電極上の、前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップと接合するそれぞれの領域の全周囲より外側に、互いに離間する壁構造体をそれぞれ備える。
電極上の、熱電変換材料のチップと接合する領域のそれぞれの全周囲より外側に、互いに離間する壁構造体を設けることにより、接合時の溶融はんだ流れによる熱電変換材料のチップの位置ずれが壁構造体の存在により抑制され易くなり、熱電変換材料のチップの底面が溶融はんだを介し電極に精度良く接合され易くなる。
【0013】
前記壁構造体の内側の壁面のうち少なくとも一つの壁面と、前記壁面に対面し、かつ最近接する前記P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面との距離(以下、「熱電変換材料のチップ側面と壁構造体内壁面間の距離」ということがある。)は1μm以上である。熱電変換材料のチップ側面と壁構造体内壁面間の距離が1μm未満であると、リフローによる熱電変換材料のチップと電極との接合時に、はんだ材料層内に発生するボイドが、壁構造体の内側の壁面と熱電変換材料のチップの側面との間隙から外部の空間に抜けにくくなり、残留ボイドが維持され易くなる。熱電変換材料のチップ側面と壁構造体内壁面間の距離は、好ましくは5μm以上、より好ましくは5~80μm、さらに好ましくは8~70μm、特に好ましくは10~65μmである。熱電変換材料のチップ側面と壁構造体内壁面間の距離がこの範囲にあると、リフローによる熱電変換材料のチップと電極との接合時に、はんだ材料層内に発生するボイドが、壁構造体の内側の壁面と熱電変換材料のチップの側面との間隙から外部の空間に抜け易くなり、効率的に残留ボイドを抑制でき、熱電変換材料のチップと電極との接合界面が良好となり、熱電変換材料のチップの接合性を向上させることができる。
なお、本発明における前記残留ボイドは、特に制限されないが、例えば、後述する実施例の〈はんだ材料層内の残留ボイド率の評価〉の項において定義される残留ボイド率により評価することができる。また、残留ボイド率は、本発明に用いた壁構造体等の障壁がない場合、従来の製造方法にあっては、5~10%程度である。
【0014】
図2は本発明に用いた電極上に設けた壁構造体の形状及び配置の一例を説明するための図であり、(a)は、電極上に壁構造体を設けた後の態様を示す平面図であり、電極3上のP型熱電変換材料のチップの接合領域6p及びN型熱電変換材料のチップの接合領域6nの全周囲より外側に特定の距離だけ離間した位置に壁構造体7の内側の壁面7iが配置され、それぞれの壁構造体7間には壁構造体間スペース8を有する。(b)は、(a)においてA-A’間で切断した時の断面図であり、電極3上に壁構造体7(壁構造体7’(奥行側部))を含む。
【0015】
前記壁構造体の形状は、特に制限されず、それぞれ独立に、中空直方体状に代表される中空多角形状、また、中空不定形状、中空円柱状、中空楕円形状等、熱電変換材料のチップの形状との関係から適宜、選ばれる。この中で、製造容易性、汎用性、高集積化の観点から、中空直方体状、中空円柱状が好ましい。
【0016】
壁構造体の材料は、特に制限されないが、はんだ材料と接する観点から、ソルダーレジストが好ましい。ソルダーレジストとしては、好ましくは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる。この中で、耐熱性の観点から、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。
壁構造体の形成方法は、特に制限されず、公知の方法で形成できる。例えば、後述する電極上に、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、壁構造体に加工する方法、または、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、インクジェット法等により直接壁構造体を形成する方法等が挙げられる。
【0017】
壁構造体の高さは、特に制限されないが、熱電変換材料のチップの厚さ、はんだ材料層の厚さ等により適宜調整される。通常、1~100μm、好ましくは15~50μmである。壁構造体の高さがこの範囲にあると、製造が容易で、安定性が高い。
【0018】
(熱電変換材料のチップの電極への接合)
熱電変換材料のチップの電極への接合について、図を用いて説明する。
【0019】
図3は本発明に用いた壁構造体及びはんだ材料層を介した熱電変換材料のチップの電極への接合前後の態様の一例を示す断面模式図であり、(a)は、熱電変換材料のチップの一方の面を電極に接合する態様を示す断面図であり、P型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの一方の面9aが電極3a上に設けた壁構造体7aの内側の壁面7aiに沿って、はんだ材料層(加熱冷却前)5aに載置される。なお、7a’は壁構造体(奥行側部)、8は壁構造体間スペースを示す。
(b)は、熱電変換材料のチップの一方の面を載置した後に、さらにはんだ材料層を加熱冷却した後の態様を示す断面図であり、加熱冷却後に固化した後のはんだ材料層5a’の態様となることにより、P型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの側面と、対応する壁構造体7aの内側の壁面7aiとの距離を維持したまま電極3aに接合されるとともに、はんだ材料層5a’内に発生するボイドが、壁構造体7aの内側の壁面7aiと熱電変換材料のチップの側面との間隙から効率良く外部の空間に抜け、残留ボイドが大幅に抑制される。
(c)は、熱電変換材料のチップの他方の面を電極に接合する態様を示す断面図であり、P型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの一方の面9bが電極3b上に設けた壁構造体7bの内側の壁面7biに沿って、はんだ材料層(加熱冷却前)5bに載置される。なお、7a’は壁構造体(奥行側部)を示す。
(d)は、熱電変換材料のチップの他方の面を載置した後に、さらにはんだ材料層を加熱冷却した後の態様を示す断面図であり、加熱冷却後に固化した後のはんだ材料層5b’の態様となることにより、P型熱電変換材料のチップ4p及びN型熱電変換材料のチップ4nのそれぞれの側面と、対応する壁構造体7bの内側の壁面7biとの距離を維持したまま電極3bに接合されるとともに、はんだ材料層5b’内に発生するボイドが、壁構造体7bの内側の壁面7biと熱電変換材料のチップの側面との間隙から効率良く外部の空間に抜け、残留ボイドが大幅に抑制される。7b’は壁構造体(奥行側部)を示す。
【0020】
壁構造体の、電極の厚さ方向の高さが、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップの底面の、電極の厚さ方向の高さより、0μm超高いことが好ましく、1μm以上高いことがより好ましく、1~25μm高いことがさらに好ましく、1~20μm高いことがさらにより好ましい。壁構造体の高さと熱電変換材料のチップの底面の高さとの差がこの範囲にあると、接合時の溶融はんだ流れによる熱電変換材料のチップの位置ずれが壁構造体の存在により抑制され易くなり、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップの底面が溶融はんだを介し電極に精度良く接合され易くなる。なお、「電極の厚さ方向の高さ」とは、電極表面上に垂線を下ろし、電極表面上との交点を0とした時の、電極表面からの壁構造体の上面までの距離、また、熱電変換材料のチップの底面までの距離を意味する。
また、壁構造体は熱電変換モジュールを構成する上下の電極基板の両方に備えていてもよいし、片方の電極基板のみに備えておいてもよい。上下の電極基板の両方に壁構造体を備える場合には、上下の電極基板のそれぞれ備える壁構造体が干渉しないような壁構造体の高さとする必要がある。
【0021】
前記壁構造体の内側の壁面の形状が、前記P型熱電変換材料のチップの側面及びN型熱電変換材料のチップの側面のそれぞれの形状に沿っていることが好ましい。壁構造体の内側の壁面の形状が、熱電変換材料のチップの側面の形状に沿っていると、熱電変換材料のチップの回転方向の位置ずれを抑制し易くなる。
【0022】
(電極)
本発明に用いる熱電変換モジュールの電極の金属材料としては、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金等が挙げられる。
金属材料に加えて、溶媒や樹脂成分を含むペースト材を用いて形成してもよい。ペースト材を用いる場合は、焼成等により溶媒や樹脂成分を除去することが好ましい。ペースト材としては、銀ペースト、アルミペーストが好ましい。焼成温度は、通常、100~280℃で0.5~2時間行う。
【0023】
電極の形成は、上記電極の金属材料を用いて行う。電極を形成する方法としては、基板上に、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、インクジェット法等により直接電極層のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等の真空成膜法、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、基板の材料に応じて適宜選択される。
前記電極の層の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。電極の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、電極として十分な強度が得られる。
【0024】
(基板)
電極を形成する基板としては、特に制限されず、ガラス基板、シリコン基板、セラミック基板、樹脂基板等の公知の基板を用いることができる。
屈曲性及び薄型の観点からは、プラスチックフィルム(樹脂基板)を用いることが好ましい。なかでも、屈曲性に優れ、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電変換モジュールの性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという観点から、プラスチックフィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという観点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0025】
プラスチックフィルムの厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、前記プラスチックフィルムは、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0026】
(はんだ材料層)
電極とP熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップとの接合に用いる接合材料として、はんだ材料を用いる。
はんだ材料は、特に限定されないが、比較的融点が低いはんだ材料としては、鉛フリー及び/又はカドミウムフリーの観点から、例えば、Sn-In系のIn52Sn48[溶融温度:固相線温度(約119℃)、液相線温度(約119℃)]、Sn-Bi系のBi58Sn42[溶融温度:固相線温度(約139℃)、液相線温度(約139℃)]、Sn-Zn-Bi系のSn89Zn8Bi3[溶融温度:固相線温度(約190℃)、液相線温度(約196℃)]、Sn-Zn系のSn91Zn9[溶融温度:固相線温度(約198℃)、液相線温度(約198℃)]等が挙げられる。
また、比較的融点が高いはんだ材料としては、鉛フリー及び/又はカドミウムフリーの観点から、例えば、Sn-Sb系のSn95Sb5[溶融温度:固相線温度(約238℃)、液相線温度(約241℃)]、Sn-Cu系のSn99.3Cu0.7[溶融温度:固相線温度(約227℃)、液相線温度(約228℃)]、Sn-Cu-Ag系のSn99Cu0.7Ag0.3[溶融温度:固相線温度(約217℃)、液相線温度(約226℃)]、Sn-Ag系のSn97Ag3[溶融温度:固相線温度(約221℃)、液相線温度(約222℃)]、Sn-Ag-Cu系のSn96.5Ag3Cu0.5[溶融温度:固相線温度(約217℃)、液相線温度(約219℃)]、Sn95.5Ag4Cu0.5[溶融温度:固相線温度(約217℃)、液相線温度(約219℃)]、Sn-Ag-Cu系のSn95.8Ag3.5Cu0.7[溶融温度:固相線温度(約217℃)、液相線温度(約217℃)]等が挙げられる。
熱電変換モジュールを構成する基板、電極等の耐熱性を考慮し、上記のはんだ材料を適宜使用することができる。
【0027】
はんだ材料を含むはんだ材料層の厚さ(加熱冷却後)は、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。はんだ材料層の厚さがこの範囲にあると、熱電変換材料のチップ及び電極との接合性が得やすくなる。
【0028】
はんだ材料を基板上に塗布する方法としては、ステンシル印刷、スクリーン印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。加熱温度は用いるはんだ材料、基板等により異なるが、通常、100~280℃で0.5~20分間行う。
【0029】
はんだ材料の市販品としては、以下のものが挙げられる。例えば、42Sn/58Bi合金[タムラ製作所社製、製品名:SAM10-401-27、溶融温度:固相線温度(約139℃)、液相線温度(約139℃)]、96.5Sn3.0Ag0.5Cu合金[ニホンハンダ社製、製品名:PF305-153TO、溶融温度:固相線温度(約217℃)、液相線温度(約219℃)]、Sn/57Bi合金[ニホンハンダ社製、製品名:PF141-LT7H0、溶融温度:固相線温度(約137℃)]等が使用できる。
【0030】
(はんだ受理層)
熱電変換材料のチップの電極に対する接合において、熱電変換材料のチップに、予めはんだ受理層を設けてもよい。
はんだ受理層は、熱電変換材料のチップと対向する電極側のはんだ材料層の接合性を向上させる機能を有し、熱電変換材料のチップの一方の面及び熱電変換材料のチップの他方の面(上下面)に直接積層することが好ましい。
【0031】
はんだ受理層は、金属材料を含む。金属材料は、金、銀、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、錫、ニッケル及びこれらのいずれかの金属材料を含む合金から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この中で、より好ましくは、金、銀、ニッケル又は、錫及び金、ニッケル及び金の2層構成であり、材料コスト、高熱伝導性、接合安定性の観点から、銀がさらに好ましい。
さらに、はんだ受理層には、金属材料に加えて、溶媒や樹脂成分を含むペースト材を用いて形成してもよい。ペースト材を用いる場合は、後述するように焼成等により溶媒や樹脂成分を除去することが好ましい。ペースト材としては、銀ペースト、アルミペーストが好ましい。
【0032】
はんだ受理層の厚さは、好ましくは10nm~50μmであり、より好ましくは50nm~16μm、さらに好ましくは200nm~4μm、特に好ましくは500nm~3μmである。はんだ受理層の厚さがこの範囲にあると、熱電変換材料のチップの面との密着性、及び電極側のはんだ材料層の面との密着性が優れ、信頼性の高い接合が得られる。また、導電性はもとより、熱伝導性が高く維持できるため、結果的に熱電変換モジュールとしての熱電性能が低下することはなく、維持される。
はんだ受理層は、前記金属材料をそのまま成膜し単層で用いてもよいし、2以上の金属材料を積層し多層で用いてもよい。また、金属材料を溶媒、樹脂等に含有させた組成物として成膜してもよい。但し、この場合、高い導電性、高い熱伝導性を維持する(熱電性能を維持する)観点から、はんだ受理層の最終形態として、溶媒等を含め樹脂成分は焼成等により除去しておくことが好ましい。
【0033】
はんだ受理層の形成は、前述した金属材料を用いて行う。
はんだ受理層を形成する方法としては、熱電変換材料のチップ上にパターンが形成されていないはんだ受理層を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、インクジェット法等により直接接合材料受理層のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていないはんだ受理層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等の真空成膜法、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、接合材料受理層の材料に応じて適宜選択される。
はんだ受理層には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、電解めっき法、無電解めっき法や真空成膜法で成膜したはんだ受理層を用いることが好ましい。
【0034】
(熱電変換材料のチップ)
熱電変換材料のチップは、特に制限されず、熱電半導体材料からなるものであっても、熱電半導体組成物からなる薄膜であってもよい。
屈曲性、薄型の観点から、熱電半導体材料(以下、「熱電半導体粒子」ということがある。)、樹脂、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなる薄膜からなることが好ましい。
【0035】
(熱電半導体材料)
熱電半導体材料、すなわち、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップを構成する熱電半導体材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS2等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
これらの中で、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料が好ましい。
【0036】
さらに、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることがより好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:Bi2Te3)であり、より好ましくは0<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
【0037】
熱電半導体材料または熱電半導体粒子の前記熱電半導体組成物中の含有量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体材料または熱電半導体粒子の含有量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0038】
熱電半導体粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
熱電変換材料のチップに用いる熱電半導体粒子は、前述した熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕したものが好ましい。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0039】
また、熱電半導体粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数又はペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体粒子に依存するが、通常、粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0040】
(樹脂)
樹脂は、熱電半導体材料(熱電半導体粒子)間を物理的に結合する作用を有し、熱電変換モジュールの屈曲性を高めることができるとともに、塗布等による薄膜の形成を容易にする。
樹脂としては、耐熱性樹脂またはバインダー樹脂が挙げられる。
【0041】
(耐熱性樹脂)
耐熱性樹脂は、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される。
前記耐熱性樹脂は、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。後述する
第1の基板、又は第2の基板として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0042】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、屈曲性を維持することができる。
【0043】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料のチップの屈曲性を維持することができる。
【0044】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の含有量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは、1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。前記耐熱性樹脂の含有量が、上記範囲内であると、熱電半導体材料のバインダーとして機能し、薄膜の形成がしやすくなり、しかも高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られ、熱電変換材料のチップの外表面には樹脂部が存在する。
【0045】
バインダー樹脂は、焼成(アニール)処理(後述する「アニール処理B」に対応、以下同様。)後の、熱電変換材料のチップの作製時に用いるガラス、アルミナ、シリコン等の基材からの剥離も容易にする。
【0046】
バインダー樹脂としては、焼成(アニール)温度以上で、90質量%以上が分解する樹脂を指し、95質量%以上が分解する樹脂であることがより好ましく、99質量%以上が分解する樹脂であることが特に好ましい。また、熱電半導体組成物からなる塗布膜(薄膜)を焼成(アニール)処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される樹脂がより好ましい。
バインダー樹脂として、焼成(アニール)温度以上で90質量%以上が分解する樹脂、即ち、前述した耐熱性樹脂よりも低温で分解する樹脂、を用いると、焼成によりバインダー樹脂が分解するため、焼成体中に含まれる絶縁性の成分となるバインダー樹脂の含有量が減少し、熱電半導体組成物における熱電半導体粒子の結晶成長が促進されるので、熱電変換材料層における空隙を少なくして、充填率を向上させることができる。
なお、焼成(アニール)温度以上で所定値(例えば、90質量%)以上が分解する樹脂であるか否かは、熱重量測定(TG)による焼成(アニール)温度における質量減少率(分解前の質量で分解後の質量を除した値)を測定することにより判断する。
【0047】
このようなバインダー樹脂として、熱可塑性樹脂や硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のポリビニル重合体;ポリウレタン;エチルセルロース等のセルロース誘導体;などが挙げられる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、光硬化性アクリル樹脂、光硬化性ウレタン樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、熱電変換材料層における熱電変換材料の電気抵抗率の観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネート、エチルセルロース等のセルロース誘導体がより好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0048】
バインダー樹脂は、焼成(アニール)処理工程における熱電半導体材料に対する焼成(アニール)処理の温度に応じて適宜選択される。バインダー樹脂が有する最終分解温度以上で焼成(アニール)処理することが、熱電変換材料層における熱電変換材料の電気抵抗率の観点から好ましい。
本明細書において、「最終分解温度」とは、熱重量測定(TG)による焼成(アニール)温度における質量減少率が100%(分解後の質量が分解前の質量の0%)となる温度をいう。
【0049】
バインダー樹脂の最終分解温度は、通常150~600℃、好ましくは200~560℃、より好ましくは220~460℃、特に好ましくは240~360℃である。最終分解温度がこの範囲にあるバインダー樹脂を用いれば、熱電半導体材料のバインダーとして機能し、印刷時に薄膜の形成がしやすくなる。
【0050】
バインダー樹脂の熱電半導体組成物中の含有量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは0.5~5質量%である。バインダー樹脂の含有量が、上記範囲内であると、熱電変換材料層における熱電変換材料の電気抵抗率を減少させることができる。
【0051】
熱電変換材料中におけるバインダー樹脂の含有量は、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%である。熱電変換材料中におけるバインダー樹脂の含有量が、上記範囲内であれば、熱電変換材料層における熱電変換材料の電気抵抗率を減少させることができる。
【0052】
(イオン液体)
熱電半導体組成物に含まれ得るイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50℃以上400℃未満のいずれかの温度領域において液体で存在し得る塩をいう。換言すれば、イオン液体は、融点が-50℃以上400℃未満の範囲にあるイオン性化合物である。イオン液体の融点は、好ましくは-25℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上150℃以下である。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体材料間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0053】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n
-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0054】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体材料及び樹脂との相溶性、熱電半導体材料間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0055】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体として、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0056】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0057】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0058】
イオン液体の熱電半導体組成物中の含有量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、更に好ましくは1.0~20質量%である。イオン液体の含有量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0059】
(無機イオン性化合物)
熱電半導体組成物に含まれ得る無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体材料間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0060】
無機イオン性化合物の熱電半導体組成物中の含有量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、更に好ましくは1.0~10質量%である。無機イオン性化合物の含有量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、更に好ましくは1.0~10質量%である。
【0061】
(熱電半導体組成物の調製方法)
熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、例えば、前記熱電半導体粒子、前記イオン液体、前記無機イオン性化合物(イオン液体と併用する場合)及び前記耐熱性樹脂、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0062】
前記熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップは、特に制限はないが、例えば、ガラス、アルミナ、シリコン等の基材上、又は後述する犠牲層を形成した側の基材上に、前記熱電半導体組成物を塗布し塗膜を得、乾燥することで形成することができる。このように、形成することで、簡便に低コストで多数の熱電変換材料のチップを得ることができる。
熱電半導体組成物を塗布し、熱電変換材料のチップを得る方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法、バーコート法、ドクターブレード法等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷法、スロットダイコート法等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、熱電変換材料のチップが形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0063】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜の厚さは、特に制限はないが、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは300nm~600μm、さらに好ましくは5~400μmである。
【0064】
熱電半導体組成物からなる薄膜としての熱電変換材料のチップは、さらにアニール処理(以下、「アニール処理B」ということがある。)を行うことが好ましい。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる樹脂及びイオン性化合物の耐熱温度等に依存するが、100~500℃で、数分~数十時間行われる。
【0065】
前記犠牲層として、ポリメタクリル酸メチルもしくはポリスチレン等の樹脂、又は、フッ素系離型剤もしくはシリコーン系離型剤等の離型剤、を用いることができる。犠牲層を用いると、ガラス等の基材上に形成された熱電変換材料のチップが、アニール処理B後に前記ガラス等から容易に剥離できる。
犠牲層の形成は、特に制限されず、フレキソ印刷法、スピンコート法等、公知の方法で行うことができる。
【0066】
本発明の熱電変換モジュールは、接合時の溶融はんだ流れによる電極に対する熱電変換材料のチップの位置ずれを抑制できることはもとより、はんだ材料層の残留ボイドを抑制できることから、熱電変換材料のチップと電極との接合性が向上し、熱電性能の低下の抑制、また、製造工程の歩留まりを向上させることができる。さらに、熱電変換モジュールの実装の高密度化につなげることが期待できる。
【実施例0067】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0068】
実施例及び比較例で作製した熱電変換モジュールを構成する熱電変換材料のチップと電極との接合に用いたはんだ材料層内の残留ボイド率の評価は、以下の方法で行った。
【0069】
〈はんだ材料層内の残留ボイド率の評価〉
実施例及び比較例で得られた熱電変換モジュールにおける、P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれと、電極との接合に用いたはんだ材料層の縦断面に存在する残留ボイドを、X線観察装置(アイビット社製、型名「FX-400tRT」)を用いてCT(Computed Tomography)像を撮影した。得られた透過像について、Image J(画像処理ソフト、ver.1.44P)を用い、二値化処理を行い、二値化処理における暗部をボイド部、明部をはんだ材料部と見なし、はんだ材料層の縦断面の面積における残留ボイドの面積の占める割合で定義される残留ボイド率を算出した。なお、残留ボイド率の評価は12チップの算術平均とした。
【0070】
(実施例1)
<熱電変換モジュールの作製>
(1)熱電半導体組成物の作製
(熱電半導体粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、大気雰囲気下で粉砕することで、平均粒径2.5μmの熱電半導体粒子T1を作製した。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるN型ビスマステルライドBi2Te3(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を上記と同様の方法で、平均粒径2.5μmの熱電半導体粒子T2を作製した。
粉砕して得られた熱電半導体粒子T1及びT2に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行った。
(熱電半導体組成物の塗工液の調製)
塗工液(P)
上記で得られたP型ビスマステルライドBi0.4Te3.0Sb1.6の粒子T1を83.3質量部、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド(荒川化学工業社製、製品名:コンポセランAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%)2.7質量部、及びイオン液体として1-ブチルピリジニウムブロミド14.0質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
塗工液(N)
上記で得られたN型ビスマステルライドBi2Te3の粒子T2を91.6質量部、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド(荒川化学工業社製、製品名:コンポセランAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%)3.6質量部、及びイオン液体として1-ブチルピリジニウムブロミド4.8質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(N)を調製した。
【0071】
(2)熱電変換材料のチップの作製
厚さ0.7mmのガラス基板(ソーダライムガラス)上に犠牲層として、ポリメチルメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)(シグマアルドリッチ社製、商品名:ポリメタクリル酸メチル)をトルエンに溶解した、固形分濃度10質量%のポリメチルメタクリル酸メチル樹脂溶液をスピンコート法により、乾燥後の厚さが10.0μmとなるように成膜した。
次いで、メタルマスクを介在して、犠牲層上に上記(1)で調製した塗工液(P)を、スクリーン印刷法により塗布し、温度120℃で、大気雰囲気下で7分間乾燥(厚さ:350μm)した。その後、大気雰囲気下250℃にて110MPaで10分間加圧することで、厚さが200μmのP型熱電半導体材料の粒子を含む熱電半導体組成物からなる薄膜を形成した。得られた薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、430℃で1時間保持し、前記薄膜をアニール処理し、熱電半導体材料の粒子を結晶成長させ、P型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6を含む、上下面がそれぞれ1.15mm×1.15mmで厚さが200μmの直方体状のP型熱電変換材料のチップを得た。
また、上記(1)で調製した塗工液(N)に変更し、加圧条件を大気雰囲気下250℃37MPaで10分間、また、水素とアルゴンの混合ガス雰囲気下360℃で1時間保持し、薄膜をアニール処理した以外は同様の方法で、N型ビスマステルライドBi2Te3を含む、上下面がそれぞれ1.15mm×1.15mmで厚さが200μm(加圧前の厚さ:390μm)の直方体状のN型熱電変換材料のチップを得た。
【0072】
(3)はんだ受理層の形成
アニール処理後のP型及びN型熱電変換材料のチップをガラス基板上から剥離し、無電解メッキ法によって、P型及びN型熱電変換材料のチップのすべての面にはんだ受理層として、ニッケル層(厚さ:3μm)及び金層(厚さ:40nm)をこの順に積層した。
次いで、P型及びN型熱電変換材料のチップがそれぞれ0.87mm×0.87mmの寸法となるように、P型及びN型熱電変換材料のチップの側面のはんだ受理層を機械研磨法、すなわち、サンドペーパー(番手2000)を用いて除去し、上下面のみにはんだ受理層を有するP型及びN型熱電変換材料のチップを得た。なお、側面に積層したはんだ受理層を完全に除去するために、P型及びN型熱電変換材料のチップの側面の壁構造体の一部も含め研磨した。
【0073】
(4)電極の形成
まず、両面に銅箔を貼付したポリイミドフィルム基板(宇部エクシモ社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板、厚さ:12.5μm、銅箔、厚さ:12μm)を準備し、該ポリイミドフィルム基板の銅箔の片面のみにエッチング法により、外形3.20mm×1.50mm[接合領域1(P型熱電変換材料のチップの接合領域に対応):0.87mm×0.87mm、接合領域2(N型熱電変換材料のチップの接合領域に対応):0.87mm×0.87mm、チップ間の接続方向の壁構造体間の距離:0.10mm]、全20組、2行×10列、の電極パターンを形成し、さらに、無電解めっきにより、ニッケル層(厚さ:3μm)及び金層(厚さ:40nm)をこの順に積層することで、電極を作製した(以下、「電極基板」ということがある。)。
【0074】
(5)壁構造体の形成
(4)で得られた電極基板上の接合領域1(P型熱電変換材料のチップの接合領域に対応)、及び接合領域2(N型熱電変換材料のチップの接合領域に対応)のそれぞれの全周囲の4辺のそれぞれから外側方向に15μm離間した位置に、開口0.90mm×0.90mm(開口の中心は各接合領域の中心に一致させた)、枠幅0.015mm、高さ(厚さ)25μmの壁構造体(中空直方体状)を作製した。壁構造体は、電極基板上にソルダ―レジスト(日本ポリテック社製、製品名:NPR-90/305B)を用い、バーコートした後に80℃で30分間乾燥し、積算光量600mJ/cm2でパターン露光した後に現像することを繰り返し、150℃で30分間硬化させることにより作製した。
【0075】
(6)熱電変換材料のチップの実装
次に、電極基板上の接合領域1及び接合領域2のそれぞれの接合領域を中心とし、開口0.50mm×0.50mm、板厚100μmのメタル版、及びはんだ材料(弘輝社製、製品名:S3X70-M500)を用い、ステンシル印刷によりはんだ材料層(固化前の厚さ:100μm)を形成し、(3)で得られたP型及びN型熱電変換材料のチップそれぞれの、はんだ受理層を有する一方の面を、はんだ材料層の上面に重なるように載置し、235℃、1分間、リフローによる加熱処理を行い室温に戻し、はんだ材料層を固化(はんだ材料層の厚さ、電極表面からのP型及びN型熱電変換材料のチップ底面の高さ:24μm)することにより、電極と接合し、P型及びN型熱電変換材料のチップをそれぞれ、電極基板の接合領域1、2に接合した。次いで、(5)で作製した別の同一仕様の壁構造体を備える対向の電極基板を用い、上記と同様に、前記P型及びN型熱電変換材料のチップそれぞれの、はんだ受理層を有する他方の面を、はんだ材料層の上面に重なるように載置し、P型及びN型熱電変換材料のチップをそれぞれ、電極基板の接合領域1、2に接合することにより、熱電変換モジュールを作製した。
【0076】
前述したはんだ材料層内の残留ボイド率の評価に従い、残留ボイド率を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
実施例1において、ソルダ―レジストからなる壁構造体の開口を1.00×1.00mmにし、開口0.55mm×0.55mm、板厚100μmのメタル版を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。得られた熱電変換モジュールについて、実施例1と同様の方法で、残留ボイド率を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
実施例1において、ソルダ―レジストからなる壁構造体の開口を0.87×0.87mmにし、開口0.45mm×0.45mm、板厚100μmのメタル版を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。得られた熱電変換モジュールについて、実施例1と同様の方法で、残留ボイド率を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
P型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれの側面と壁構造体の内側の壁面との距離が規定内である実施例1、2では、当該距離が規定外の0である比較例1と比べて、残留ボイド率が大幅に低くなっていることがわかる。