(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157781
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】変速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/32 20060101AFI20221006BHJP
F16H 63/18 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16H63/32
F16H63/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062210
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(72)【発明者】
【氏名】橘高 栄治
(72)【発明者】
【氏名】工藤 貴志
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AB04
3J067AC05
3J067BA17
3J067DA31
3J067EA04
3J067EA34
3J067EA35
3J067EA52
(57)【要約】
【課題】フォーク中心線上にフォーク作用部がない場合において、シフトフォークの二股に分かれた両側の係合爪部のフォーク押圧部が均等にシフタを押圧してシフタの倒れを抑制して円滑に変速できる変速装置を供する。
【解決手段】フォークシャフト30の軸中心線であるフォークシャフト中心線LfとシフタMsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lsとを垂直に通過するフォーク中心線Pfから外れた位置に、シフトフォーク15のシフトドラム40のリード溝41により押圧される係合突起部15cが配設される変速装置において、フォーク中心線Pfに関して係合突起部15cがある一方の側のフォーク押圧部Bの方が、他方の側のフォーク押圧部Cよりもフォークシャフト中心線Lfからの距離が大きいことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配置された駆動シャフト(10)と被動シャフト(20)にそれぞれ軸支される歯車群(Gm,Gc)の互いの噛み合い状態により選択された変速比で、前記駆動シャフト(10)から前記被動シャフト(20)に動力が伝達される変速装置であって、
前記駆動シャフト(10)と前記被動シャフト(20)の少なくとも一方に軸支され、軸支されたシャフトと一体に回転するとともに軸方向に移動可能なシフタ(Ms)と、
前記シフタ(Ms)と前記シフタ(Ms)に隣接する歯車(Mn)とを接続または離脱するドグクラッチ(12)と、
前記シフタ(Ms)を押圧して軸方向に移動させるシフトフォーク(15)と、
前記シフトフォーク(15)を軸方向に移動可能に軸支するフォークシャフト(30)と、
前記シフトフォーク(15)の係合突起部(15c)が係合するリード溝(41)を円筒外周面に有して回動することにより前記シフトフォーク(15)を軸方向に移動させるシフトドラム(40)と、
を備え、
前記シフトフォーク(15)は、アーム部(15a)の基端部分(15b)から前記係合突起部(15c)が突出され、前記アーム部(15a)の先端部分に二股に分かれて前記シフタ(Ms)の外周溝であるフォーク溝(v)に係合する係合爪部(15d,15e)が形成され、
前記シフトフォーク(15)の前記係合爪部(15d,15e)に前記シフタを押圧する複数のフォーク押圧部(B,C)を有し、
複数の前記フォーク押圧部(B,C)を互いに直線的に結ぶ直線的領域(SBC)を、前記シフタ(Ms)の円筒形状軸支部の軸中心線であるシフタ中心線(Ls)が通り、
前記フォークシャフト(30)の軸中心線であるフォークシャフト中心線(Lf)と前記シフタ中心線(Ls)とを垂直に通過するフォーク中心線 (Pf)から外れた位置に、前記シフトフォーク(15)の前記係合突起部(15c)が配設される変速装置において、
前記シフトフォーク(15)の複数の前記フォーク押圧部(B,C)は、前記フォーク中心線(Pf)の両側に配設され、
前記フォーク中心線 (Pf)に関して前記係合突起部(15c)がある一方の側の前記フォーク押圧部(B)の方が、前記係合突起部(15c)がない他方の側の前記フォーク押圧部(C)よりも前記フォークシャフト中心線(Lf)からの距離が大きいことを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記フォーク押圧部(B,C)は、前記フォーク中心線 (Pf)の両側にそれぞれ配設される第1フォーク押圧部(B)と第2フォーク押圧部(C)とからなり、
前記第1フォーク押圧部(B)と前記第2フォーク押圧部(C)の前記係合突起部(15c)からのそれぞれの距離は等しいことを特徴とする請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
前記第1フォーク押圧部(B)と前記第2フォーク押圧部(C)は、ともに平面により構成され、
前記第1フォーク押圧部(B)の平面と前記第2フォーク押圧部(C)の平面を結ぶ直線的領域(SBC)が、前記シフタ中心線(Ls) と交わることを特徴とする請求項2に記載の変速装置。
【請求項4】
前記第1フォーク押圧部(B)の平面の前記フォークシャフト中心線(Lf)に近い側の端辺(b)と前記第2フォーク押圧部(C)の平面の前記フォークシャフト中心線(Lf)に近い側の端辺(c)を結ぶ直線領域(Lbc)が、前記シフタ中心線(Ls) と交わることを特徴とする請求項3に記載の変速装置。
【請求項5】
前記第1フォーク押圧部(B)と前記第2フォーク押圧部(C)は、ともに膨出した凸曲面により構成され、
前記第1フォーク押圧部(B)の凸曲面の頂点(b)と前記第2フォーク押圧部の凸曲面の頂点(c)とを結ぶ直線領域(Lbc)が、前記シフタ中心線(Ls) と交わることを特徴とする請求項2に記載の変速装置。
【請求項6】
前記フォーク中心線 (Pf)は、前記シフトドラム(40)の軸中心線であるドラム中心線(Ld)も通過することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトドラムの回動により移動するシフトフォークがシフタを押圧することで、駆動シャフトと被動シャフトにそれぞれ軸支される歯車群の互いの噛み合い状態を変更して変速比を変える変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の変速装置は、車両などに搭載される駆動系に、一般に用いられている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
特許文献1に開示された変速装置は、自動二輪車に搭載された内燃機関の駆動力を後輪に伝達する途中に介装されたものである。
該変速装置は、メインシャフト(駆動シャフト)とカウンタシャフト(被動シャフト)にそれぞれ軸支される歯車群の互いの噛み合いにより構成される。
【0005】
メインシャフトとカウンタシャフトには、それぞれシャフトと一体に回転するとともに軸方向に移動可能なシフタギヤ(シフタ)が設けられている。
シフタギヤと同シフタギヤに隣接する歯車とに、同シフタギヤの移動により互いに接続または離脱するドグクラッチが形成されている。
【0006】
シフタを押圧して軸方向に移動させるシフトフォークは、そのアーム部の基端部分がフォークシャフトにより軸支され、その基端部分から係合突起部が突出され、アーム部の先端部分が二股に分かれて一対の係合爪部が形成され、係合爪部が前記シフタの外周溝であるフォーク溝に係合する。
【0007】
シフトフォークの係合突起部は、シフトドラムの外周面に形成されたリード溝に係合し、シフトドラムが回動することによりリード溝に案内されてシフトフォークが軸方向に移動し、一対の係合爪部がシフタを押圧して移動する。
シフトフォークの係合突起部にシフトドラムの回動でリード溝により押圧されるフォーク作用部を有し、シフトフォークの一対の係合爪部にシフタを押圧する複数のフォーク押圧部を有する。
【0008】
特許文献1におけるメインシャフトに軸支されたシフタギヤを押圧するシフトフォークは、フォークシャフトの軸中心線であるフォークシャフト中心線とシフタギヤの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線(メインシャフトの軸中心線と略一致)とを垂直に通過するフォーク中心線から外れた位置に、シフトフォークの係合突起部のフォーク作用部が配設されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フォーク中心線上にシフトフォークのフォーク作用部があれば、シフトドラムのリード溝によりフォーク作用部に作用した力が、シフトフォークの二股に分かれた一対の係合爪部に均等に伝わり、両側の係合爪部のフォーク押圧部が均等にシフタを押圧し、倒れを生じさせずシフタを移動して円滑に変速させることができる。
【0010】
しかるに、シフトドラムに対するシフタギヤとフォークシャフトの位置関係により、特許文献1にあるように、フォーク作用部をフォーク中心線から外れた位置に配設せざるを得ない場合がある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、フォークシャフト中心線とシフタ中心線とを垂直に通過するフォーク中心線から外れた位置に、シフトフォークのフォーク作用部が配設される場合において、シフトフォークの二股に分かれた両側の係合爪部のフォーク押圧部が均等にシフタを押圧してシフタの倒れを抑制して円滑に変速することができる変速装置を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、
互いに平行に配置された駆動シャフトと被動シャフトにそれぞれ軸支される歯車群の互いの噛み合い状態により選択された変速比で、前記駆動シャフトから前記被動シャフトに動力が伝達される変速装置であって、
前記駆動シャフトと前記被動シャフトの少なくとも一方に軸支され、軸支されたシャフトと一体に回転するとともに軸方向に移動可能なシフタと、
前記シフタと前記シフタに隣接する歯車とを接続または離脱するドグクラッチと、
前記シフタを押圧して軸方向に移動させるシフトフォークと、
前記シフトフォークを軸方向に移動可能に軸支するフォークシャフトと、
前記シフトフォークの係合突起部が係合するリード溝を円筒外周面に有して回動することにより前記シフトフォークを軸方向に移動させるシフトドラムと、
を備え、
前記シフトフォークは、アーム部の基端部分から前記係合突起部が突出され、前記アーム部の先端部分に二股に分かれて前記シフタの外周溝であるフォーク溝に係合する係合爪部が形成され、
前記シフトフォークの前記係合爪部に前記シフタを押圧する複数のフォーク押圧部を有し、
複数の前記フォーク押圧部を互いに直線的に結ぶ直線的領域を、前記シフタの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線が通り、
前記フォークシャフトの軸中心線であるフォークシャフト中心線と前記シフタ中心線とを垂直に通過するフォーク中心線から外れた位置に、前記シフトフォークの前記係合突起部が配設される変速装置において、
前記シフトフォークの複数の前記フォーク押圧部は、前記フォーク中心線の両側に配設され、
前記フォーク中心線に関して前記係合突起部がある一方の側の前記フォーク押圧部の方が、前記係合突起部がない他方の側の前記フォーク押圧部よりも前記フォークシャフト中心線からの距離が大きいことを特徴とする変速装置を提供する。
【0013】
この構成によれば、フォーク中心線に対して係合突起部がある一方の側のフォーク押圧部の方が、係合突起部がない他方の側のフォーク押圧部よりもフォークシャフト中心線からの距離が大きいので、シフトドラムのリード溝により作用を受ける係合突起部は、フォークシャフト中心線からの距離が大きい一方の側のフォーク押圧部と同じ側にあって同フォーク押圧部に近づき、フォークシャフト中心線からの距離が小さい他方の側のフォーク押圧部とは反対側にあって同フォーク押圧部から遠のくことから、一方の側のフォーク押圧部と他方の側のフォーク押圧部の係合突起部からのそれぞれの距離は互いに近づくため、係合突起部に作用した力がシフトフォークの二股に分かれた両側の係合爪部に略均等に伝わり、両側の係合爪部のフォーク押圧部が略均等にシフタを押圧してシフタの倒れを抑制して円滑に変速することができる。
【0014】
本発明の好適な実施形態では、
前記フォーク押圧部は、前記フォーク中心線の両側にそれぞれ配設される第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部とからなり、
前記第1フォーク押圧部と前記第2フォーク押圧部の前記係合突起部からのそれぞれの距離は等しい。
【0015】
この構成によれば、シフトフォークのフォーク中心線の両側にそれぞれ配設される第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部のフォーク作用部の係合突起部からのそれぞれの距離は等しいので、係合突起部に作用した力がシフトフォークの二股に分かれた両側の係合爪部に均等に伝わり、第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部は均等にシフタを押圧してシフタの倒れを防止して円滑に変速することができる。
【0016】
本発明の好適な実施形態では、
前記第1フォーク押圧部と前記第2フォーク押圧部は、ともに平面により構成され、
前記第1フォーク押圧部の平面と前記第2フォーク押圧部の平面を結ぶ直線的領域が、前記シフタ中心線と交わる。
【0017】
この実施形態の構成によれば、シフトフォークの係合爪部の第1フォーク押圧部の平面と第2フォーク押圧部の平面を結ぶ直線的領域が、シフタの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線と交わるので、シフタはこの直線的領域を基準にして駆動されることから、均一な力でシフタを押圧することができるため、シフタの倒れを抑制することができる。
【0018】
本発明の好適な実施形態では、
前記第1フォーク押圧部の平面の前記フォークシャフト中心線に近い側の端辺と前記第2フォーク押圧部の平面の前記フォークシャフト中心線に近い側の端辺を結ぶ直線領域が、前記シフタ中心線と交わる。
【0019】
シフトフォークは、フォーク作用部がシフトドラムにより押される方向と反対方向に先端の第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部がシフタから抵抗を受けるため、シフトフォークは基端部分が先端の第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部より先行する傾いた姿勢で移動する。
そのため、シフトフォークは、傾いた姿勢で第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部の各中央よりも外れたシフトフォークの基端側(フォークシャフト中心線に近い側)の端辺のみによりシフタを押圧することになる。
【0020】
この実施形態の構成によれば、シフトフォークの係合爪部の第1フォーク押圧部の平面のフォークシャフト中心線に近い側の端辺と第2フォーク押圧部の平面のフォークシャフト中心線に近い側の端辺を結ぶ直線領域が、シフタの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線と交わるので、シフタはこの直線領域を基準にして駆動されることから、均一な力でシフタを押圧することができるため、シフタの倒れを抑制することができる。
また、シフトフォークの第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部の各平面のフォークシャフト中心線に近い側の端辺に、シフタギヤの倒れによる余計な力が加わることがなく、過大な力が集中することがないので、摩耗が抑制される。
【0021】
本発明の好適な実施形態では、
前記第1フォーク押圧部と前記第2フォーク押圧部は、ともに膨出した凸曲面により構成され、
前記第1フォーク押圧部の凸曲面の頂点と前記第2フォーク押圧部の凸曲面の頂点とを結ぶ直線領域が、前記シフタ中心線と交わる。
【0022】
この構成によれば、シフトフォークの係合爪部の第1フォーク押圧部の凸曲面の頂点と第2フォーク押圧部の凸曲面の頂点とを結ぶ直線領域が、シフタ中心線と交わるので、シフタはこの直線領域を基準にして倒れることから、シフタに倒れが生じたとしても、シフタ中心線と交わる直線領域上にある第1フォーク押圧部と第2フォーク押圧部の各凸曲面の頂点が、均一な力でシフタを押圧することができるため。シフタの倒れを抑制できる。
【0023】
本発明の好適な実施形態では、
前記フォーク中心線は、前記シフトドラムの軸中心線であるドラム中心線も通過する。
【0024】
この構成は、フォークシャフト中心線とシフタ中心線を垂直に通過するフォーク中心線が、シフトドラムの軸中心線であるドラム中心線を通過する構成であり、この構成であれば、係合突起部がフォーク中心線から外れて構成される場合でも、シフトフォークの駆動力を適切にシフタへ伝達することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、フォーク中心線に関して係合突起部がある一方の側のフォーク押圧部の方が、係合突起部がない他方の側のフォーク押圧部よりもフォークシャフト中心線からの距離が大きいので、シフトドラムのリード溝により作用を受ける係合突起部は、フォークシャフト中心線からの距離が大きい一方の側のフォーク押圧部と同じ側にあって同フォーク押圧部に近づき、フォークシャフト中心線からの距離が小さい他方の側のフォーク押圧部とは反対側にあって同フォーク押圧部から遠のくことから、一方の側のフォーク押圧部と他方の側のフォーク押圧部の係合突起部からのそれぞれの距離は互いに近づくため、係合突起部に作用した力がシフトフォークの二股に分かれた両側の係合爪部に略均等に伝わり、両側の係合爪部のフォーク押圧部が略均等にシフタを押圧してシフタの倒れを抑制して円滑に変速することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る変速装置が組み込まれた内燃機関のクランクケース内の要部側面図である。
【
図2】本発明に係るシフトフォークに対するシフタおよびシフトドラムの位置関係を示す側面図である。
【
図4】本発明に係る上記シフトフォークの斜視図である。
【
図5】
図4のV矢視の同シフトフォークの係合突起部の図である。
【
図6】別の実施の形態に係る変速装置が組み込まれた内燃機関のクランクケース内の要部側面図である。
【
図7】同変速装置の本発明に係るシフトフォークに対するシフタおよびシフトドラムの位置関係を示す側面図である。
【
図8】本発明に係る同シフトフォークの部分斜視図である。
【
図9】
図8のIX矢視の同シフトフォークの係合突起部の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る一実施の形態について
図1ないし
図5に基づいて説明する。
本実施の形態の変速装置Tは、鞍乗型車両である自動二輪車に搭載された内燃機関の駆動力を後輪に伝達する途中に介装されたものである。
【0028】
図1は、本変速装置Tが組み込まれた内燃機関のクランクケース1内の要部側面図である。
なお、本明細書の説明において、前後左右の向きは、本実施の形態に係る自動二輪車1の直進方向を前方とする通常の基準に従うものとし、図面において、FRは前方を,RRは後方を、LHは左方を,RHは右方を示すものとする。
【0029】
クランクケース1の前部に、図示されない内燃機関のクランクシャフト等が配設され、その後部に変速装置Tが設けられている。
変速装置Tの駆動シャフトであるメインシャフト10と被動シャフトであるカウンタシャフト20が、互いに平行に左右方向に指向してクランクケース1の左右側壁に回転自在に架設されている。
【0030】
クランクシャフトの回転動力がクラッチ機構(不図示)を介して伝達されるメインシャフト10の下方で若干後方にカウンタシャフト20が配置されている。
メインシャフト10には駆動歯車群Gmが軸支され、カウンタシャフト20には被動歯車群Gcが軸支されており、駆動歯車群Gmと被動歯車群Gcとはそれぞれの歯車が互いに噛合う。
【0031】
メインシャフト10の後方にシフトドラム40がクランクケース1の左右側壁に回転自在に軸支されている。
シフトドラム40の外周面にはリード溝41が複数本形成されている。
シフトドラム40とカウンタシャフト20の間に1本のフォークシャフト30が左右方向に指向してクランクケース1の左右側壁に架設されている。
【0032】
メインシャフト10の軸中心線をメインシャフト中心線Lmとし、カウンタシャフト20の軸中心線をカウンタシャフト中心線Lcとし、フォークシャフト30の軸中心線をフォークシャフト中心線Lfとし、円筒形状のシフトドラム40の軸中心線をドラム中心線Ldとする。
【0033】
メインシャフト中心線Lmとカウンタシャフト中心線Lcとフォークシャフト中心線Lfとドラム中心線Ldは、いずれも左右方向に指向して互いに平行である。
そして、フォークシャフト中心線Lfは、カウンタシャフト中心線Lcとドラム中心線Ldを含む平面上にあって、ドラム中心線Ld寄りにある。
【0034】
メインシャフト10に軸支される駆動歯車群Gmのうちには、メインシャフト10にスプライン嵌合してメインシャフト10と一体に回転するとともに軸方向に移動可能なシフタギヤMsがあり、
図3を参照して、シフタギヤMsと同シフタギヤMsに隣接する駆動ギヤMnには、互いの対向する側面に形成されたドグ歯12a,12bの噛合いにより接続するドグクラッチ12が形成されている。
なお、駆動ギヤMnは、メインシャフト10の軸方向定位置で回転自在である。
【0035】
シフタギヤMsの軸方向の移動によりドグクラッチ12の接続・離脱がなされる。
シフタギヤMsは、フォークシャフト30に摺動自在に軸支されるシフトフォーク15により移動させられる。
【0036】
図2および
図3を参照して、シフトフォーク15は、中央の本体部であるアーム部15aの基端部分にフォークシャフト30が貫通して摺動自在に軸支される円筒ボス部15bが形成され、同円筒ボス部15bから係合突起部15cが突出し、アーム部15aの先端部分に二股に分かれて第1係合爪部15dと第2係合爪部15eが形成されている。
【0037】
シフトフォーク15の第1係合爪部15dと第2係合爪部15eは、円弧状に形成されており、シフタギヤMsの外周溝であるフォーク溝vに係合する。
シフトフォーク15の係合突起部15cは、シフトドラム40の外周面に形成されたリード溝41に係合する。
【0038】
シフトドラム40が回動することで、リード溝41に係合する係合突起部15cが案内されて、シフトフォーク15は、軸方向に移動する。
シフトフォーク15の軸方向の移動は、シフタギヤMsのフォーク溝vに係合した第1係合爪部15dと第2係合爪部15eがシフタギヤMsを押圧して移動する。
【0039】
シフトフォーク15の係合突起部15cに、シフトドラム40の回動でリード溝41により押圧されるフォーク作用部Aがある(
図2参照)。
フォーク作用部Aは、係合突起部15cの中心部である。
また、シフトフォーク15の第1係合爪部15dと第2係合爪部15eの各先端部に、それぞれシフタギヤMsを押圧する第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cがある(
図2参照)。
【0040】
シフトフォーク15の斜視図である
図4を参照して、シフタギヤMsを押圧する第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cは、第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cを直線的に結ぶ直線的領域(格子ハッチを施した領域)S
BCを、シフタギヤMsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lsが通る位置関係にある。
なお、シフタ中心線Lsは、シフタギヤMsに倒れが生じない限り、メインシャフト中心線Lmと略一致する。
【0041】
本実施の形態では、第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cは、矩形平面により構成されており、第1フォーク押圧部Bの平面のフォークシャフト中心線Lfに近い側の端辺bと第2フォーク押圧部Cの平面のフォークシャフト中心線Lfに近い側の端辺cとを結ぶ直線領域Lbcは。シフタ中心線Lsと交わる。
【0042】
また、
図4を参照して、シフトフォーク15の第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cにより押圧されるシフタギヤMsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lsとフォークシャフト30の軸中心線であるフォークシャフト中心線Lfとを含む平面をフォーク中心線Pfとすると、フォーク作用部Aは、フォーク中心線Pfから外れた位置にある。
すなわち、シフトフォーク15の円筒ボス部15bから突出する係合突起部15cのフォーク作用部Aは、フォーク中心線Pfで仕切られた両側の一方の側にある。
【0043】
図4を参照して、フォーク作用部Aを通り、フォークシャフト中心線Lfと垂直に交わる直線を作用部直線Paとすると、作用部直線Paは、フォーク中心線Pfに対して角度θをなしてフォークシャフト中心線Lfで交叉する。
【0044】
図2を参照して、本シフトフォーク15は、フォーク中心線Pfに関してフォーク作用部A(係合突起部15c)がある側の第1係合爪部15dの方が、フォーク中心線Pfに関してフォーク作用部A(係合突起部15c)がない側の第2係合爪部15eより長い。
すなわち、フォーク中心線Pfに関してフォーク作用部Aがある側の第1係合爪部15dの先端部の第1フォーク押圧部Bの方が、フォーク中心線Pfに関してフォーク作用部Aがない側の第2係合爪部15eの先端部の第2フォーク押圧部Cよりもフォークシャフト中心線Lfからの距離が大きい。
図2に示すように、フォークシャフト中心線Lfから第1フォーク押圧部Bまでの距離D
FBが、フォークシャフト中心線Lfから第2フォーク押圧部Cまでの距離D
FCより大きい。
【0045】
シフトフォーク15におけるシフトドラム40のリード溝41により作用を受けるフォーク作用部Aは、フォークシャフト中心線Lfからの距離が大きい一方の側の第1フォーク押圧部Bと同じ側にあって同第1フォーク押圧部Bに近づき、フォークシャフト中心線からの距離が小さい他方の側の第2フォーク押圧部Cとは反対側にあって同第2フォーク押圧部Cから遠のくことから、一方の側の第1フォーク押圧部Bと他方の側の第2フォーク押圧部Cのフォーク作用部Aからのそれぞれの距離は互いに近づくため、
フォーク作用部Aに作用した力がシフトフォーク15の二股に分かれた両側の第1係合爪部15dと第2係合爪部15eに略均等に伝わり、両側の第1係合爪部15dの第1フォーク押圧部Bと第2係合爪部15eの第2フォーク押圧部Cが、略均等にシフタギヤMsを押圧してシフタギヤMsの倒れを抑制して円滑に変速することができる。
なお、シフタギヤMsの倒れが抑制されることは、シフトフォーク15の傾きも抑制できる。
【0046】
フォーク中心線Pfに対するフォーク作用部Aが含まれる作用部直線Paのなす角度θが大きい程、フォークシャフト中心線Lfから第1フォーク押圧部Bまでの距離DFBが、フォークシャフト中心線Lfから第2フォーク押圧部Cまでの距離DFCよりさらに大きくなる。
【0047】
本実施の形態では、
図2を参照して、フォーク作用部Aから第1フォーク押圧部Bまでの距離D
ABとフォーク作用部Aから第2フォーク押圧部Cまでの距離D
ACを等しく設計しており、よって、第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cが、均等にシフタギヤMsを押圧してシフタギヤMsの倒れを防止して円滑に変速することができる。
【0048】
本実施の形態では、第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cの各矩形平面のフォークシャフト中心線Lfに近い側の端辺bと端辺cとを結ぶ直線領域Lbcが、シフタギヤMsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lsと交わるので、シフタギヤMsはこの直線領域Lbcを基準にして倒れることから、シフタギヤMsに倒れが生じたとしても、シフタ中心線Lsと交わる直線領域Lbc上にある第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cの各平面のフォークシャフト中心線に近い側の端辺b,cが、均一な力でシフタを押圧することができる。
【0049】
また、シフトフォーク15の第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cの各平面のフォークシャフト中心線Lfに近い側の端辺bと端辺cに、シフタギヤMsの倒れによる余計な力が加わることがなく、過大な力が集中することがないので、摩耗が抑制される。
【0050】
一方で、カウンタシャフト20に軸支された被動歯車群Gcのうちには、カウンタシャフト20にスプライン嵌合してカウンタシャフト20と一体に回転するとともに軸方向に移動可能なシフタギヤCsおよびこれに隣接する被動ギヤCnがある。
図1を参照して、シフタギヤCsを押圧して移動するシフトフォーク25は、アーム部25aの基端部分のフォークシャフト30が貫通する円筒ボス部25bから係合突起部25cがドラム中心線Ldに向けて突出して、シフトドラム40のリード溝41に係合している。
【0051】
すなわち、シフトフォーク25は、シフタギヤCsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lscとフォークシャフト中心線Lfとを垂直に通過するフォーク中心線Pfc上に、係合突起部25c(フォーク作用部)がある。
したがって、シフトフォーク25は、フォーク中心線Pfcに関して対称な形状をしており、アーム部25aの先端部分に二股に分かれた第1係合爪部25dと第2係合爪部25eもフォーク中心線Pfに関して対称に形成されている。
【0052】
シフトドラム40のリード溝41によりフォーク作用部に作用した力が、シフトフォーク25の二股に分かれた両側の第1係合爪部25dと第2係合爪部25eに均等に伝わり、シフトフォーク25が傾くことなく両側の第1係合爪部25dと第2係合爪部25eのフォーク押圧部が均等にシフタギヤCsを押圧することになり、倒れを生じさせずシフタギヤCsを移動して円滑に変速させることができる。
【0053】
次に、別の実施の形態に係る変速装置Tについて
図6ないし
図9に基づいて説明する。
本実施の形態の変速装置Tも、鞍乗型車両である自動二輪車に搭載された内燃機関の駆動力を後輪に伝達する途中に介装されたものである。
図6は、本変速装置Tが組み込まれた内燃機関のクランクケース1内の要部側面図である。
【0054】
メインシャフト60の斜め後下方にカウンタシャフト70が配置され、メインシャフト60の後方でカウンタシャフト70の斜め上後方にシフトドラム90が配置されている。
メインシャフト60に軸支された駆動歯車群GmのうちのシフタギヤMsを押圧して移動するシフトフォーク65を軸支するフォークシャフト80が、メインシャフト60とシフトドラム90の間にあり、カウンタシャフト70に軸支された被動歯車群GcのうちのシフタギヤCsを押圧して移動するシフトフォーク75を軸支するフォークシャフト85が、カウンタシャフト70とシフトドラム90の間にある。
【0055】
シフタギヤMsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lsとフォークシャフト80の軸中心線であるフォークシャフト中心線Lfとを垂直に通過するフォーク中心線Pfが、シフトドラム90の軸中心線であるドラム中心線Ldを通る。
同様に、シフタギヤCsのシフタ中心線Lscとフォークシャフト85のフォークシャフト中心線Lfcとを垂直に通過するフォーク中心線Pfcが、ドラム中心線Ldを通る。
【0056】
カウンタシャフト70に摺動自在に軸支されるシフタギヤCsを押圧して移動するシフトフォーク75は、シフトドラム90のリード溝91に係合する係合突起部75cがフォーク中心線Pfc上にあり、前記実施の形態のシフトフォーク25と同様の形状をしており、フォーク中心線Pfcに関して対称に形成され、先端部分の二股に分かれた第1係合爪部75dと第2係合爪部75eもフォーク中心線Pfcに関して対称に形成されている。
【0057】
他方、メインシャフト60に摺動自在に軸支されるシフタギヤMsを押圧して移動するシフトフォーク65は、
図7を参照して、アーム部65aの基端部分にフォークシャフト80が貫通して摺動自在に軸支される円筒ボス部65bが形成され、同円筒ボス部65bは側方に張り出した張出部65bbを有し、同張出部65bbから係合突起部65cがシフトドラム90のドラム中心線Ldに向けて突出している。
したがって、本シフトフォーク65は、シフトドラム90のリード溝91に係合する係合突起部65c(フォーク作用部A)が、フォーク中心線Pfから外れた位置にある。
【0058】
図7を参照して、シフトフォーク65は、アーム部65aの先端部分に二股に分かれて第1係合爪部65dと第2係合爪部65eが形成され、第1係合爪部65dと第2係合爪部65eの各先端部に、それぞれシフタギヤMsを押圧する第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cを有する。
第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cを直線的に結ぶ直線的領域(格子ハッチを施した領域)S
BCを、シフタギヤMsの円筒形状の軸中心線であるシフタ中心線Lsが通る位置関係にある。
【0059】
フォーク中心線Pfに関してフォーク作用部A(係合突起部65c)がある側の第1係合爪部65dの先端部の第1フォーク押圧部Bの方が、フォーク中心線Pfに関してフォーク作用部A(係合突起部65c)がない側の第2係合爪部65eの先端部の第2フォーク押圧部Cよりもフォークシャフト中心線Lfからの距離が大きい。
図7に示すように、フォークシャフト中心線Lfから第1フォーク押圧部Bまでの距離D
FBが、フォークシャフト中心線Lfから第2フォーク押圧部Cまでの距離D
FCより大きい。
【0060】
そして、フォーク作用部Aから第1フォーク押圧部Bまでの距離DABとフォーク作用部Aから第2フォーク押圧部Cまでの距離DACを等しく設計しており、第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cが、均等にシフタギヤMsを押圧してシフタギヤMsの倒れを防止して円滑に変速することができる。
【0061】
また、本シフトフォーク65の第1フォーク押圧部Bと第2フォーク押圧部Cは、凸曲面により構成されており(
図8,
図9参照)、
図7および
図8に示すように、第1フォーク押圧部Bの凸曲面の略中央の頂点bと第2フォーク押圧部Cの凸曲面の略中央の頂点cとを結ぶ直線領域Lbcは。シフタ中心線Lsと交わる。
【0062】
シフタギヤMsはこの直線領域Lbcを基準にして倒れることから、シフタギヤMsに倒れが生じたとしても、シフタ中心線Lsと交わる直線領域Lbc上にある第1フォーク押圧部Bの凸曲面の頂点bと第2フォーク押圧部Cの凸曲面の頂点cが、均一な力でシフタを押圧することができる。
【0063】
また、シフトフォーク65の第1フォーク押圧部Bの凸曲面の頂点bと第2フォーク押圧部Cの凸曲面の頂点cに、シフタギヤMsの倒れによる余計な力が加わることがなく、過大な力が集中することがないので、摩耗が抑制される。
【0064】
以上、本発明に係る2つの実施の形態に係る変速装置について説明したが、本発明の態様は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むものである。
【0065】
本発明に係る2つの実施形態では、シフトフォークにより押圧されて移動するシフタギヤは、歯車であったが、歯車でなく単にシャフトと一体に回転するとともに軸方向に移動可能なシフタであって、隣接する歯車とドグクラッチにより接続または離脱するものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
T…変速装置、Gm…駆動歯車群、Gc…被動歯車群、Ms…シフタギヤ、Mn…駆動ギヤ、Cs…シフタギヤ、Cn…被動ギヤ、
Lm…メインシャフト中心線、Lc…カウンタシャフト中心線、Lf…フォークシャフト中心線、Ld…ドラム中心線、Ls…シフタ中心線、Pf…フォーク中心線、
A…フォーク作用部。B…第1フォーク押圧部、C…第2フォーク押圧部、SBC…直線的領域、Lbc…直線領域、
1…クランクケース、
10…メインシャフト、12…ドグクラッチ、12a,12b…ドグ歯、15…シフトフォーク、15a…アーム部、15b…円筒ボス部、15c…係合突起部、15d…第1係合爪部、15e…第2係合爪部、
20…カウンタシャフト、25…シフトフォーク、25a…アーム部、25b…円筒ボス部、25c…係合突起部、25d…第1係合爪部、25e…第2係合爪部、
30…フォークシャフト、
40…シフトドラム、41…リード溝、
60…メインシャフト、65…シフトフォーク、65c…係合突起部、65d…第1係合爪部、65e…第2係合爪部、
70…カウンタシャフト、75…シフトフォーク、
80…フォークシャフト、85…フォークシャフト、
90…シフトドラム、91…リード溝。