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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157783
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】内燃機関の冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/34 20060101AFI20221006BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20221006BHJP
   F02F 1/06 20060101ALI20221006BHJP
   F01P 1/02 20060101ALI20221006BHJP
   F01M 5/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F02F1/34
F02F1/24 G
F02F1/06
F01P1/02 A
F01P1/02 F
F01M5/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062212
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(72)【発明者】
【氏名】ジラパット ポンプラパー
(72)【発明者】
【氏名】土屋 粒二
(72)【発明者】
【氏名】ウィパダー ニアムラクサー
【テーマコード(参考)】
3G024
3G313
【Fターム(参考)】
3G024AA07
3G024AA39
3G024CA20
3G024DA01
3G024DA09
3G024DA16
3G024DA21
3G024EA04
3G313AA01
3G313AA05
3G313AB04
3G313BC11
3G313BD01
3G313BD11
3G313CA24
(57)【要約】
【課題】簡単な構造によりオイルを冷却して内燃機関の冷却効率を向上させる内燃機関の冷却構造を供する。
【解決手段】クランクケース21とシリンダヘッド23との間を連通するオイル通路がシリンダブロック22に設けられた車両に搭載される内燃機関の冷却構造において、オイル通路の少なくとも1本は、シリンダブロック22の側壁22Fに外側に突条に膨出して形成された油通路筒壁22tの筒壁内に構成され、シリンダブロック22の側壁に板状に突出して形成されたリブ22rと油通路筒壁22tとの間に、走行風が通る通風路Wが形成されることを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフト(40)を収容するクランクケース(21)にシリンダブロック(22)とシリンダヘッド(23)が順に重ねられて機関本体(20)が構成され、前記クランクケース(21)と前記シリンダヘッド(23)との間を連通するオイル通路が前記シリンダブロック(22)に設けられた車両に搭載される内燃機関の冷却構造において、
前記オイル通路の少なくとも1本は、前記シリンダブロック(22)の側壁(22F)に外側に突条に膨出して形成された油通路筒壁(22t)の筒壁内に構成され、
前記シリンダブロック(22)の側壁(22F)に板状に突出して形成されたリブ(22r)と前記油通路筒壁 (22t)との間に、走行風が通る通風路(W)が形成されることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項2】
前記機関本体(20)は、前記シリンダブロック(22)のシリンダボア(22b)の中心軸線であるシリンダ軸線(Lc)が前傾して、前記クランクケース(21)から前記シリンダブロック(22)と前記シリンダヘッド(23)が前方斜め上に突出しており、
前記クランクシャフト(40)の回転動力を前記シリンダヘッド(23)に設けられる動弁機構に伝達して駆動するカムチェーン(72)を収容するカムチェーン室(22c)が、前記シリンダブロック(22)の左右いずれかの側壁の内側に形成され、
前記シリンダブロック(22)の前方斜め下を向いた前側側壁(22F)の前記カムチェーン室(22c)より車幅方向の内側に、前記油通路筒壁(22t)が形成され、
前記油通路筒壁(22t)の筒壁内を、前記オイル通路のうちの前記シリンダヘッド(23)側から前記クランクケース(21)側にオイルを戻す第1オイル戻り通路(P1)とし、
前記カムチェーン室(22c)を、第2オイル戻り通路(P2)とし、
前記シリンダブロック(22)の前記前側側壁(22F)のうち前記カムチェーン室(22c)の前方のチェーン室前側側壁部分(22FL)に、前記リブ(22r)が前記油通路筒壁(22t)と対向して形成されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項3】
前記チェーン室前側側壁部分(22FL)に形成される前記リブ(22r)は、前記カムチェーン室(22c)の車幅方向の中央より外側位置に形成されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項4】
前記シリンダヘッド(23)には、走行風を前記通風路(W)に導く導風路(G)が導風路枠壁(23g)により形成されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項5】
前記リブ(22r)は、前記導風路枠壁(23g)とシリンダ軸線(Lc)の軸線方向視で重なる位置関係にあることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の冷却方式には、空冷式と水冷式があるが、機関の各種摺動部を潤滑するオイルも機関内部を循環することにより冷却効果が期待できる。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された空冷式内燃機関の場合、機関本体に冷却フィンを設けて機関本体の周囲に走行風を流して冷却を行っているが、一方で、機関の摺動部を潤滑するオイルが、特にシリンダヘッドの動弁系を潤滑すべくシリンダヘッドおよびシリンダブロックを循環することにより内燃機関の冷却に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4209440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、オイルは機関内を循環するだけであり、内燃機関の出力が高くなると、エンジンオイル自体も摩擦により温度が上昇して内燃機関の冷却に寄与しなくなる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、簡単な構造によりオイルを冷却して内燃機関の冷却効率を向上させる内燃機関の冷却構造を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、
クランクシャフトを収容するクランクケースにシリンダブロックとシリンダヘッドが順に重ねられて機関本体が構成され、前記クランクケースと前記シリンダヘッドとの間を連通するオイル通路が前記シリンダブロックに設けられた車両に搭載される内燃機関の冷却構造において、
前記オイル通路の少なくとも1本は、前記シリンダブロックの側壁に外側に突条に膨出して形成された油通路筒壁の筒壁内に構成され、
前記シリンダブロックの側壁に板状に突出して形成されたリブと前記油通路筒壁との間に、走行風が通る通風路が形成されることを特徴とする内燃機関の冷却構造を供する。
【0008】
この構成によれば、クランクケースとシリンダヘッドとの間を連通するオイル通路の少なくとも1本は、シリンダブロックの側壁に外側に突条に膨出して形成された油通路筒壁の筒壁内に構成され、シリンダブロックの側壁に板状に突出して形成されたリブと前記油通路筒壁との間に、走行風が通る通風路が形成されるので、リブと油通路筒壁との間に走行風が通る通風路を形成する簡単な構造であり、通風路を整流されて流速を増した走行風が、油通路筒壁を介して内部のオイル通路を流れるオイルから熱を奪い、オイルを冷却して、内燃機関の冷却効率を向上させることができる。
【0009】
本発明の好適な実施形態では、
前記機関本体は、前記シリンダブロックのシリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線が前傾して、前記クランクケースから前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドが前方斜め上に突出しており、
前記クランクシャフトの回転動力を前記シリンダヘッドに設けられる動弁機構に伝達して駆動するカムチェーンを収容するカムチェーン室が、前記シリンダブロックの左右いずれかの側壁の内側に形成され、
前記シリンダブロックの前方斜め下を向いた前側側壁の前記カムチェーン室より車幅方向の内側に、前記油通路筒壁が形成され、
前記油通路筒壁の筒壁内を、前記オイル通路のうちの前記シリンダヘッド側から前記クランクケース側にオイルを戻す第1オイル戻り通路とし、
前記カムチェーン室を、第2オイル戻り通路とし、
前記シリンダブロックの前記前側側壁のうち前記カムチェーン室の前方のチェーン室前側側壁部分に、前記リブが前記油通路筒壁と対向して形成される。
【0010】
この構成によれば、前傾したシリンダブロックの前方斜め下を向いた前側側壁に形成された油通路筒壁の筒壁内をオイル通路のうちのシリンダヘッド側からクランクケース側にオイルを戻す第1オイル戻り通路とし、カムチェーン室を第2オイル戻り通路とし、カムチェーン室の前方のチェーン室前側側壁部分にリブが油通路筒壁と対向して形成されるので、リブと油通路筒壁との間の通風路を通る走行風は、油通路筒壁を介して筒壁内の第1オイル戻り通路を流れる戻りオイルから熱を奪うとともに、カムチェーン室の前方のチェーン室前側側壁部分およびリブを介してカムチェーン室の第2オイル戻り通路を流れる戻りオイルからも熱を奪うことができ、オイルによる機関本体の冷却効果を高めることができる。
【0011】
本発明の好適な実施形態では、
前記チェーン室前側側壁部分に形成される前記リブは、前記カムチェーン室の車幅方向の中央より外側位置に形成される。
【0012】
この構成によれば、チェーン室前側側壁部分に形成されるリブは、カムチェーン室の車幅方向の中央より外側位置に形成されるので、通風路に接するチェーン室前側側壁部分の面積が広くなり、第2オイル戻り通路の戻りオイルから熱をより奪うことができ、オイルの冷却効果をより一層高めることができる。
【0013】
本発明の好適な実施形態では、
前記シリンダヘッドには、走行風を前記通風路に導く導風路が導風路枠壁により形成さる。
【0014】
この構成によれば、シリンダヘッドには、走行風を通風路に導く導風路が導風路枠壁により形成さるので、導風路枠壁により走行風を積極的に通風路に流入させることができ、冷却効果を高めることができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態では、
前記リブは、前記導風路枠壁とシリンダ軸線の軸線方向視で重なる位置関係にある。
【0016】
この構成によれば、リブが、導風路枠壁とシリンダ軸線の軸線方向視で重なる位置関係にあるので、走行風は、導風路枠壁で整流されて導風路から通風路に導かれ、さらにリブにより整流されて、流れを乱されることなく流れて流速を増し、より冷却効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、クランクケースとシリンダヘッドとの間を連通するオイル通路の少なくとも1本は、シリンダブロックの側壁に外側に突条に膨出して形成された油通路筒壁の筒壁内に構成され、シリンダブロックの側壁に板状に突出して形成されたリブと前記油通路筒壁との間に、走行風が通る通風路が形成されるので、リブと油通路筒壁との間に走行風が通る通風路を形成する簡単な構造であり、通風路を整流されて流速を増した走行風が、油通路筒壁を介して内部のオイル通路を流れるオイルから熱を奪い、オイルを冷却して、内燃機関の冷却効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る内燃機関を搭載した自動二輪車の全体側面図である。
図2】同内燃機関の展開断面図である。
図3】同内燃機関の部分下面図である。
図4】同内燃機関の斜視図である。
図5】同内燃機関のシリンダ軸線の軸線方向視の図である。
図6】シリンダブロックのシリンダヘッド側合わせ面の側から視た図である。
図7】シリンダヘッドのシリンダブロック側合わせ面の側から視た図である。
図8】カムチェーンによる動力伝達機構を示す同内燃機関の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図8に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る冷却構造を備えた内燃機関Eが搭載された自動二輪車1の側面図である。
なお、本明細書の説明において、前後左右の向きは、本実施の形態に係る自動二輪車1の直進方向を前方とする通常の基準に従うものとし、図面において、FRは前方を,RRは後方を、LHは左方を,RHは右方を示すものとする。
【0020】
車体フレームは、図示されないが、車両前部のヘッドパイプ2から後方に延出するとともに、車両中央部で下方に垂設されている。
ヘッドパイプ2に軸支されたステアリングシャフト8の上端にバーハンドル9が取り付けられ、ステアリングシャフト8の下部はフロントフォーク10に連結されており、フロントフォーク10の先端に前輪11が軸支されている。
【0021】
車体フレームの車両中央の垂設された部分には、スイングアーム12がピボット軸13で前端を軸支されて上下に揺動自在に連結され、同スイングアーム12の後端に後輪14が軸支されている。
このスイングアーム12と上方の車体フレームとの間にリヤクッション15が介装されている。
【0022】
また、車体フレームの車両中央の垂設された部分に、クランクケース21が支持されて内燃機関Eが搭載されている。
内燃機関Eは、4ストロークサイクル単気筒の空冷式内燃機関であり、クランクシャフト40を左右車幅方向に指向させた横置き姿勢で、車体フレームに搭載される。
【0023】
該内燃機関Eは、クランクシャフト40を回転自在に軸支するクランクケース21にシリンダブロック22とシリンダヘッド23が順に重ねられて機関本体20が構成されている。
機関本体20は、シリンダブロック22のシリンダボア22bの中心軸線であるシリンダ軸線Lcが水平近くまで前傾して、クランクケース21からシリンダブロック22が前方斜め上に突出しており、シリンダブロック22の前方にシリンダヘッド23が重ねられて、シリンダブロック22とシリンダヘッド23が前傾している。
シリンダヘッド23の先端部の開口にはヘッドカバー24が被せられている。
【0024】
車体フレームには、機関本体20の上方に燃料タンク17が支持され、同燃料タンク17の後方には、乗車用シート18が支持されて配置されている。
前傾したシリンダヘッド23の後方斜め上に向いた側壁面からは吸気管30が上方に延出し、同吸気管30は気化器31を介してその後方に配置されたエアクリーナ(不図示)に接続される。
シリンダヘッド23の前方斜め下に向いた側壁面から下方へ延出する排気管35は、屈曲して内燃機関Eの下面に沿って後方に延び、車体右側に配置されたマフラ36に接続されている。
【0025】
図2は、内燃機関Eの展開断面図であり、同図2を参照して、内燃機関Eのクランクシャフト40は、左右割りのクランクケース21の一対の左クランクケース21L,右クランクケース21Rに主軸受41,41を介して軸支されて回転自在に支持される。
【0026】
シリンダブロック22のシリンダボア22b内に摺動自在に嵌合されたピストン42のピストンピン42pとクランクシャフト40のクランクピン40pとがコンロッド43により連結され、ピストン42の往復動が、コンロッド43を介してクランクシャフト40の回転動に変換される。
ピストン42の頂面がシリンダヘッド23の天井面との間に形成する燃焼室23nには、シリンダヘッド23の天井壁に嵌入された点火プラグ44が先端の電極を臨ませている。
【0027】
クランクシャフト40の左側主軸受41から左方に延びる左側軸部40Lには、主軸受41側から左方に向かって駆動スプロケット45、スタータドリブンギヤ46、ACジェネレータ48が順次設けられる。
ACジェネレータ48は、左側から左クランケースカバー25Lにより覆われる。
【0028】
シリンダヘッド23の内部の動弁室23vには、動弁系のカム軸70が左右方向に指向して回転自在に軸支されている。
カム軸70の吸気カム70iと排気カム70eに各々接して揺動する吸気ロッカアーム74iと排気ロッカアーム74eが図示しない吸気バルブと排気バルブを所定のタイミングで開閉駆動して内燃機関Eの吸排気を行う。
【0029】
カム軸70の左端にカムスプロケット71が一体に嵌着されている。
このカムスプロケット71とクランクシャフト40の左側軸部40Lに一体に結合された駆動スプロケット45との間には、カムチェーン72が巻き掛けられて、クランクシャフト40の半分の回転数でカム軸70が回転駆動される。
【0030】
シリンダブロック22には、左側側壁22Lの内側に、シリンダ軸線Lcの軸線方向に貫通する左右車幅方向に偏平な断面長方形状のカムチェーン室22cが形成されており、カムチェーン室22cは、シリンダヘッド23側がシリンダヘッド23のカムチェーン室23cと連通し、クランクケース21側がクランクケース21の内部と連通している。
【0031】
カムチェーン72は、このカムチェーン室22c,23c内を通って駆動スプロケット45とカムスプロケット71に掛け渡されている。
カムチェーン72をカムチェーン72の内周側でガイドするガイドローラ73が、シリンダブロック22のカムチェーン室22cに設けられている。
【0032】
一方、クランクシャフト40の右側の主軸受41から右方に延びる右側軸部40Rには、外筒部材54が回転自在に外嵌されており、同外筒部材54の右端部と外筒部材54を貫通した右側軸部40Rの右端部との間に遠心クラッチ60等が設けられる。
遠心クラッチ60は、クランクシャフト40の右側軸部40Rと一体に回転するドライブプレート61と、外筒部材54と一体の椀状のクラッチアウタ62との間に構成される。
【0033】
クランクシャフト40が所定の回転数を越えると、遠心クラッチ60が接続し、クランクシャフト40の回転が外筒部材54に伝達する。
外筒部材54にはプライマリドライブギヤ53が一体に形成されている。
【0034】
図2に示されるように、本内燃機関Eは、クランクシャフト40の後方にギヤ常時噛み合い式の多段変速機80を備え、多段変速機80のメインシャフト81とカウンタシャフト82が前後に並んで左右クランクケース21L,21Rに回転自在に軸支されて配設されている。
左右クランクケース21L,21R内において、メインシャフト81上のメインギヤ群81gとカウンタシャフト82上のカウンタギヤ群82gとが互いの対応するギヤどうしを噛合している。
【0035】
図2を参照して、多段変速機80のメインシャフト81は、右クランクケース21Rを右方に貫通して突出した部分に変速クラッチ85が設けられている。
メインシャフト81に回転自在に軸支されたプライマリドリブンギヤ84にダンパを介して変速クラッチ85のクラッチアウタ86が支持されており、このクラッチアウタ86を支持するプライマリドリブンギヤ84は、クランクシャフト40に軸支される前記プライマリドライブギヤ53と噛合している。
【0036】
変速クラッチ85は、メインシャフト81と一体に結合されたクラッチインナ87とクラッチアウタ86との間に、多数のクラッチ板が介装されて、運転者により操作されるレリーズ機構により摩擦接合または接合解除がなされる。
なお、遠心クラッチ60や変速クラッチ85等は、右側から右クランケースカバー25Rにより覆われる。
【0037】
多段変速機80のカウンタシャフト82は、出力軸であり、左クランクケース21Lを左方に貫通した左端に駆動スプロケット88が嵌着されている。
駆動スプロケット88に巻き掛けられた駆動チェーン89が、後輪14側の図示されない他方の被動スプロケットに巻き掛けられて、内燃機関Eの駆動力が駆動チェーン89を介して後輪14に伝達されて自動二輪車1は走行する。
【0038】
クランクケース21から前方斜め上に突出して前傾したシリンダブロック22は、図6(および図2図3)を参照して、後方斜め上を向いた後側側壁22Bの壁面、右側側壁22Rの壁面および前方下を向いた前側側壁22Fの壁面の一部に、複数の冷却フィン22fがシリンダ軸線Lcの軸線方向に指向して形成されている。
シリンダブロック22の左側側壁22Lの左壁面には冷却フィンは形成されておらず、図6に示されるように、左側側壁22Lの内側に左右車幅方向に偏平なカムチェーン室22cが形成されている。
【0039】
そして、シリンダブロック22の前方斜め下を向いた前側側壁22Fには、外側(前側)に突条に膨出して油通路筒壁22tが形成されている。
油通路筒壁22tは、前側側壁22Fのシリンダ軸線Lcより左側でカムチェーン室22cより右側に位置して、シリンダ軸線Lcの軸線方向に指向してシリンダブロック22を貫通している。
なお、前側側壁22Fの油通路筒壁22tの右側には冷却フィン22fが形成されている。
【0040】
図6に示されるように、シリンダブロック22の前方斜め下を向いた前側側壁22Fのうち左側のカムチェーン室22cの前側側壁(チェーン室前側側壁部分22Fと称する)の壁面に、板状に突出したリブ22rが油通路筒壁22tと対向して形成されている。
チェーン室前側側壁部分22Fに形成されるリブ22rは、カムチェーン室22cの車幅方向の中央Cより外側(左側)位置に突出している。
【0041】
油通路筒壁22tとリブ22rは、ともにシリンダ軸線Lcの軸線方向に指向して延びて、互いに平行で対向しており、油通路筒壁22tとリブ22rとの間に、走行風が通る通風路Wが形成される(図3図6参照)。
【0042】
シリンダヘッド23の前方に重ねられるシリンダヘッド23は、図5および図7を参照して、後方斜め上を向いた後側側壁23Bの壁面、右側側壁23Rの壁面および前方下を向いた前側側壁23Fの壁面の一部に、複数の冷却フィン23fがシリンダ軸線Lcの軸線方向に指向して形成されている。
【0043】
シリンダヘッド23の左側側壁23Lの左壁面には冷却フィンは形成されておらず、図7に示されるように、左側側壁23Lの内側に左右車幅方向に偏平なカムチェーン室23cがシリンダブロック22のカムチェーン室22cに対応して形成されている。
【0044】
そして、シリンダヘッド23の前方斜め下を向いた前側側壁23Fには、外側(前側)に突条に膨出して油通路筒壁23tが形成されている。
油通路筒壁23tは、前側側壁23Fのシリンダ軸線Lcより左側でカムチェーン室23cより右側に位置して、シリンダブロック22の油通路筒壁22tに対応している。
【0045】
シリンダブロック22のシリンダヘッド側合わせ面22aにシリンダヘッド23のシリンダブロック側合わせ面23aを合わせて、シリンダブロック22にシリンダヘッド23を重ねると、シリンダブロック22の油通路筒壁22tとシリンダヘッド23の油通路筒壁23tが連続して、その筒壁内に第1オイル戻り通路P1が構成されるとともに、シリンダブロック22のカムチェーン室22cとシリンダヘッド23のカムチェーン室23cが連続して、その内部に第2オイル戻り通路P2が構成される。
【0046】
前傾したシリンダヘッド23とシリンダブロック22の連続した油通路筒壁23t,22tにより構成される傾斜した第1オイル戻り通路P1は、シリンダヘッド23側が動弁室23vと連通し、クランクケース21側がクランクケース21の内部と連通しており、シリンダヘッド23の動弁室23vの動弁機構を潤滑したオイルを後方のクランクケース21内に戻すことができる。
【0047】
シリンダヘッド23とシリンダブロック22の連続したカムチェーン室23c,22cにより構成される傾斜した第2オイル戻り通路P2は、連続したカムチェーン室23c,22cの傾斜した底部により、回動するカムチェーン72を介してカムスプロケット71およびガイドローラ73を潤滑したオイルを後方のクランクケース21内に戻すことができる。
【0048】
また、シリンダヘッド23には、図4および図7に示されるように、前方斜め下を向いた前側側壁23Fの左側壁面に、シリンダブロック22の油通路筒壁22tとリブ22rとの間に形成される前記通風路Wに走行風を導く導風路Gを構成する導風路枠壁23gが、前方に向けて突設されている。
【0049】
導風路枠壁23gは、前壁部23gfの左右両側が同じ側に屈曲して左壁部23glと右壁部23grをなし、左壁部23glと右壁部23grが前側側壁23Fの左側壁面から前方斜め下に向けて延出して形成されている。
したがって、導風路枠壁23gは、コ字状に屈曲した左壁部23glと前壁部23gfと右壁部23grが、シリンダヘッド23の前側側壁23Fの左側壁面から突出しており、シリンダ軸線Lcの軸線方向に貫通する導風路Gを構成している。
【0050】
図4図5および図8を参照して、導風路Gの導出口Geは、底壁部23gbの前側(下側)に偏って形成された開口により形成されている。
なお、前壁部23gfの外面には冷却フィン23fが形成されている。
【0051】
内燃機関Eのシリンダ軸線Lcの軸線方向視を示す図5には、シリンダブロック22のシリンダヘッド側合わせ面22aとリブ22rを破線で示しており、同図5図3を参照して、シリンダヘッド23の導風路枠壁23gの左壁部23glは、シリンダ軸線Lcの軸線方向視で、シリンダブロック22のチェーン室前側側壁部分22Fに形成されるリブ22rと重なる位置関係にあり、シリンダヘッド23の導風路枠壁23g内の導風路Gの導出口Geは、シリンダブロック22の油通路筒壁22tとリブ22rとの間に形成される通風路Wに連続する。
【0052】
したがって、図3および図8に太線矢印で示すように、シリンダヘッド23の導風路Gを通る走行風は、導風路枠壁23gにより整流されて導出口Geから高速でシリンダブロック22の通風路Wに導かれ、走行風を積極的に通風路Wに流入させることができる。
通風路Wに流入された走行風は、リブ22rによりさらに整流効果を高めて、流れを乱されることなく流れて流速を増すことができる。
【0053】
以上、詳細に説明した本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態では、以下に記す効果を奏する。
図3および図6に示されるように、リブ22rと油通路筒壁22tとの間に走行風が通る通風路Wを形成する簡単な構造であり、通風路Wを整流されて流速を増した走行風が、油通路筒壁22tを介して内部の第1オイル戻り通路P1を流れるオイルから熱を奪い、オイルを冷却して、内燃機関の冷却効率を向上させることができる。
【0054】
図3および図6に示されるように、前傾したシリンダブロック22の前方斜め下を向いた前側側壁22Fに形成された油通路筒壁22tの筒壁内をシリンダヘッド側からクランクケース側にオイルを戻す第1オイル戻り通路P1とし、カムチェーン室22cを第2オイル戻り通路P2とし、カムチェーン室22cの前方のチェーン室前側側壁部分22Fにリブ22rが油通路筒壁22tと対向して形成されるので、リブ22rと油通路筒壁22tとの間の通風路Wを通る走行風は、油通路筒壁22tを介して筒壁内の第1オイル戻り通路P1を流れる戻りオイルから熱を奪うとともに、カムチェーン室22cの前方のチェーン室前側側壁部分22Fおよびリブ22rを介してカムチェーン室22cの第2オイル戻り通路P2を流れる戻りオイルからも熱を奪うことができ、オイルによる機関本体の冷却効果を高めることができる。
【0055】
図6に示されるように、チェーン室前側側壁部分22Fに形成されるリブ22rは、カムチェーン室22cの車幅方向の中央Cより外側位置に形成されるので、通風路Wに接するチェーン室前側側壁部分22Fの面積が広くなり、第2オイル戻り通路P2の戻りオイルからより一層熱を奪うことができ、オイルの冷却効果をより一層高めることができる。
【0056】
図3に示されるように、シリンダヘッド23には、走行風を通風路Wに導く導風路Gが導風路枠壁23gにより形成さるので、導風路枠壁23gにより走行風を積極的に通風路Wに流入させることができ、冷却効果を高めることができる。
【0057】
図3および図5に示されるように、リブ22rが、導風路枠壁23gの左壁部23glとシリンダ軸線Lcの軸線方向視で重なる位置関係にあるので、走行風は、導風路枠壁23gで整流されて導風路Gから通風路Wに導かれ、さらにリブ22rにより整流されて、流れを乱されることなく流れて流速を増し、より冷却効果を高めることができる。
【0058】
以上、本発明に係る一実施の形態に係る内燃機関の冷却構造について説明したが、本発明の態様は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むものである。
【0059】
本発明に係る内燃機関は、実施の形態の空冷式内燃機関に限らず、水冷式内燃機関にも適用可能である。
また、内燃機関によっては、オイルを冷却するオイルクーラーを備えるものがあるが、構造が複雑であり、配管も必要となり、コスト高となるのに対して、本発明の冷却構造は構造が簡単で、低コストである。
なお、オイルクーラーを備える内燃機関に、さらに本発明の冷却構造を加えて冷却効果を向上させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…自動二輪車、2…ヘッドパイプ、8…ステアリングシャフト、9…バーハンドル、10…フロントフォーク、11…前輪、12…スイングアーム、13…ピボット軸、14…後輪、15…リヤクッション、17…燃料タンク、18…乗車用シート、
E…内燃機関、20…機関本体、21…クランクケース、21L…左クランクケース、21R…右クランクケース、
22…シリンダブロック、22F…前側側壁、22F…チェーン室前側側壁部分、22B…後側側壁、22R…右側側壁、22L…左側側壁、22f…冷却フィン、22c…カムチェーン室、22t…油通路筒壁、22r…リブ、P1…第1オイル戻り通路、P2…第2オイル戻り通路、W…通風路、
23…シリンダヘッド、23F…前側側壁、23B…後側側壁、23R…右側側壁、23L…左側側壁、23c…カムチェーン室、23v…動弁室、23t…油通路筒壁、23g…導風路枠壁、G…導風路、Ge…導出口、
24…ヘッドカバー、25L…左クランケースカバー、25R…右クランケースカバー、
30…吸気管、31…気化器、35…排気管、36…マフラ、
40…クランクシャフト、41…主軸受、42…ピストン、43…コンロッド、44…点火プラグ、45…駆動スプロケット、46…スタータドリブンギヤ、47…、48…ACジェネレータ、54…外筒部材、60…遠心クラッチ、
70…カム軸、71…カムスプロケット、72…カムチェーン、73…ガイドローラ、74i…吸気ロッカアーム、74e…排気ロッカアーム、
80…多段変速機、81…メインシャフト、82…カウンタシャフト、84…プライマリドリブンギヤ、85…変速クラッチ、86…クラッチアウタ、87…クラッチインナ、88…駆動スプロケット、89…駆動チェーン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8