(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015782
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】測位システム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/04 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
G01S5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118863
(22)【出願日】2020-07-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス: https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/handle/10119/15991 https://ieeexplore.ieee.org/document/8763932 ウェブサイトの掲載日:2019年(令和元年)7月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 正
(72)【発明者】
【氏名】チェン メン
(72)【発明者】
【氏名】アジズ,モハンマド レザ カハール
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA06
5J062BB03
5J062CC14
5J062DD23
(57)【要約】
【課題】演算量を抑えつつ、高い精度でターゲット位置を測定することが可能な測位システムを提供する。
【解決手段】本例の測位システムは、三次元測位のターゲットである航空機40から発信された無線信号の到来方向(DOA)をそれぞれ推定する複数のRDF10-1~10-6と、複数のRDFのそれぞれで推定されたDOAと複数のRDFのそれぞれの位置とに基づいて、航空機40の位置を測位する測位部20とを備える。測位部20は、複数のノードを用いて形成されたファクターグラフ構造である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットから発信された無線信号の到来方向をそれぞれ推定する複数のセンサと、
前記複数のセンサのそれぞれで推定された到来方向と前記複数のセンサのそれぞれの位置とに基づいて、前記ターゲットの位置を測位する測位部とを備え、
前記測位部は、複数のノードを用いて形成されたファクターグラフ構造であることを特徴とする測位システム。
【請求項2】
請求項1に記載の測位システムにおいて、
前記測位部は、前記センサ毎に設けられた、該センサで推定された到来方向と該センサの位置とに基づいて前記ターゲットの位置を演算する、ファクターグラフ構造のサブファクターグラフノードと、各サブファクターグラフノードによる演算結果に基づいて前記ターゲットの位置を測位するターゲット位置ノードとを有することを特徴とする測位システム。
【請求項3】
請求項2に記載の測位システムにおいて、
各センサは、該センサから見た前記ターゲットのアジマス角及びエレベーション角を到来方向として推定し、
前記測位部の各サブファクターグラフノードは、該サブファクターグラフノードに対応するセンサで推定されたアジマス角及びエレベーション角の平均と分散をそれぞれ算出し、これら平均と分散を用いて得られる三角関数の近似平均と近似分散に基づいて該センサから見た前記ターゲットの相対位置を算出し、前記相対位置を絶対位置に変換したものを演算結果として前記ターゲット位置ノードに出力することを特徴とする測位システム。
【請求項4】
請求項3に記載の測位システムにおいて、
前記測位部の各サブファクターグラフノードは、前記ターゲット位置ノードによる測位結果を前記ターゲットの相対位置の演算にフィードバックすることを特徴とする測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットの位置を測定する測位システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の航空交通管制システムでは、安全かつ円滑な運航を行うため、地上の航空管制官と航空機のパイロットの間で交信を行い、パイロットは管制官の指示に従って航行する。管制官とパイロットの交信はアナログ音声AM無線方式を用いて行われており、管制官は言語のコミュニケーションにより指示を行う。
【0003】
管制官が担当する空域には複数の航空機が航行しており、それらの航空機は同一の周波数を用いることが定められている。しかしながら、現状の音声無線通信による航空管制システムでは、管制官は、コールサインの確認などの交信以外に、どのパイロットと交信しているかを知ることはできない。このシステム制約により、管制官の混乱やパイロットの認識誤り等によるインシデントが発生している状況である。
【0004】
この問題を緩和するため、欧州では、
図11に示すように、複数のRDF(Radio Direction Finder)110で、航空機140から送信された音声無線の到来方向(以下、DOA:Direction Of Arrival)φ
m (mはRDF番号)を推定する。
図11のRDFシステムでは、RDF110-1~110-6の6台を設置してある。それぞれのRDF110にて推定されたDOA φ
m は、測位部120に転送される。測位部120では、各到来方向線の交点に航空機140が存在すると推定する。測位部120による測位結果はレーダコンソール130に転送され、レーダコンソール130上にマーキングされる。航空機の位置自体は他のレーダシステムで把握しているため、このRDFシステムによるマーキングにより、管制官が現在交信している機体を特定することができるので、上記の問題を軽減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Meng Cheng,et al.,“A DOA-Based Factor Graph Technique for 3D Multi-Target Geolocation”,IEEE Access,vol7(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のRDFシステムの測位部120では、各RDF110からのDOA φm に基づいて航空機位置(x,y)を算出する。この測位方式としては、例えば、LSE(Least Square Estimation;最小二乗推定)法やGN(Gauss-Newton)法を適用可能である。
【0007】
LSEは、測位二乗誤差を最小にするような規範で演算を行うが、演算量がRDFの数の3乗に比例するため、RDFが多くなると演算量が指数的に増大してしまう。レーダコンソール130への表示は交信電波を受信してから数百ms以内に表示する必要があり、演算量の増大はレーダコンソール表示の遅延を招いてしまう。また、LSEの測位精度はGNと比較すると精度が低く、高精度な測位精度を要求される航空機測位システムには適用が難しい。
【0008】
一方、GNは、適切な初期値を与えて反復演算を行うことで、良好な測位精度を得ることができる。しかしながら、初期値の与え方が適切でない場合、誤った測位結果に収束してしまうことがある。また、GNにおいても、LSEと同様に演算量が多いという問題も挙げられる。
【0009】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、演算量を抑えつつ、高い精度でターゲット位置を測定することが可能な測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明では、測位システムを以下のように構成した。
すなわち、本発明に係る測位システムは、ターゲットから発信された無線信号の到来方向をそれぞれ推定する複数のセンサと、複数のセンサのそれぞれで推定された到来方向と複数のセンサのそれぞれの位置とに基づいて、ターゲットの位置を測位する測位部とを備え、測位部は、複数のノードを用いて形成されたファクターグラフ構造であることを特徴とする。
【0011】
ここで、測位部は、センサ毎に設けられた、該センサで推定された到来方向と該センサの位置とに基づいてターゲットの位置を演算する、ファクターグラフ構造のサブファクターグラフノードと、各サブファクターグラフノードによる演算結果に基づいてターゲットの位置を測位するターゲット位置ノードとを有する構成としてもよい。
【0012】
また、各センサは、該センサから見たターゲットのアジマス角及びエレベーション角を到来方向として推定し、測位部の各サブファクターグラフノードは、該サブファクターグラフノードに対応するセンサで推定されたアジマス角及びエレベーション角の平均と分散をそれぞれ算出し、これら平均と分散を用いて得られる三角関数の近似平均と近似分散に基づいて該センサから見たターゲットの相対位置を算出し、相対位置を絶対位置に変換したものを演算結果としてターゲット位置ノードに出力する構成としてもよい。
【0013】
また、測位部の各サブファクターグラフノードは、ターゲット位置ノードによる測位結果をターゲットの相対位置の演算にフィードバックする構成としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、演算量を抑えつつ、高い精度でターゲット位置を測定することが可能な測位システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る測位システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1の測位システムにおける測位部の構成例を示す図である。
【
図3】
図2の測位部におけるサブFGの構成例を示す図である。
【
図4】三角関数ノードFでのメッセージ更新を示す図である。
【
図5】F
A →Δxのメッセージ更新(2変数)を示す図である。
【
図6】F
B →Δxのメッセージ更新(3変数)を示す図である。
【
図7】2つの確率密度関数の積による平均と分散を示す図である。
【
図10】x→R
A,m のメッセージ更新を示す図である。
【
図11】従来例に係るRDFシステムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る測位システムについて、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る測位システムの構成例を示す図である。
図1の測位システムでは、本発明に係るセンサの一例である6つのRDF10-1~10-6を用いて、本発明に係るターゲットの一例である航空機40の三次元位置を測定する。
【0017】
本発明に係る測位システムを説明する前に、
図1に示すジオメトリに関して、その定義を説明する。航空機40の位置を(x,y,z)とし、m番目のRDF10の位置を(X
m ,Y
m ,Z
m )とし、航空機位置(x,y,z)とRDF位置(X
m ,Y
m ,Z
m )との相対距離を(Δx
m ,Δy
m ,Δz
m )とすると、これらの関係は(式1)となる。(Δx
m ,Δy
m ,Δz
m )は、RDFに対する航空機40の相対位置でもある。
【0018】
【0019】
RDF10-1~10-6は、それぞれ、航空機40からの交信電波を受信し、例えばMUSIC(Multiple Signal Classification)などの到来方向推定アルゴリズムを用いて、電波の到来方向(DOA)を推定する。このDOA推定では、アジマス角(方位角)φ
m とエレベーション角(仰角)θ
m を推定できるものとする。添え字のmは、RDF10のそれぞれを識別する番号を示しており、m=1~Mとする。
図1の例では、M=6である。
【0020】
上記の説明では、受信した無線信号からDOA推定する例を記載したが、無線信号以外を用いてDOA推定を行ってもよい。例えば、カメラで撮影した画像からアジマス角やエレベーション角を推定する手法を用いることもできる。本発明は、複数のセンサ(RDF10)で観測した角度(φm ,θm )からターゲット(航空機40)の位置を推定する手法を提供するものであって、角度の推定手法には依存しない。
【0021】
相対位置(Δx
m ,Δy
m ,Δz
m )とDOA(φ
m ,θ
m )の関係は、(式2)となる。
【数2】
【0022】
RDF10-1~10-6で得られたDOA推定結果(φ
m ,θ
m )は、測位部20に入力される。測位部20の構成例を
図2に示す。測位部20は、各々のRDF10に対応する複数のサブFG21-1~21-Mと、ターゲット位置ノードP 22を備える。測位部20は、ファクターグラフ(Factor Graph;以下「FG」)と呼ばれるグラフ構造になっており、更に、サブFG21~21-MもFGの構造を呈している。FGは、メッセージを伝搬する複数のノードを用いて形成される。
【0023】
サブFG21-1~21-Mの構成例を
図3に示す。FGでは、矢印の方向にメッセージを伝搬する。伝搬するメッセージは平均と分散を用いて表現され、その確率密度はガウス分布であると仮定している。FGの各ノードは、メッセージ(平均と分散)を更新しながら伝搬する。以下で説明するように、
図2及び
図3の下方向(以下「Forward」)と上方向(以下「Backward」)で反復しながらメッセージ伝搬を行うことで、少ない演算量で高い測位精度を実現することができる。
【0024】
サブFG21-1~21-Mには、各RDF10で観測した角度(φm ,θm )がメッセージとして入力される。各サブFG21-1~21-Mからのメッセージは、ターゲット位置ノードP 22に伝搬される(Forward)。ターゲット位置ノードP 22からのメッセージは、測位結果としてレーダコンソール30に出力されるだけでなく、逆に各サブFG21-1~21-Mにも伝搬される(Backward)。
【0025】
最初に、FG21-1~21-MのForward方向のメッセージ伝搬について説明する。RDF10-mで得られたDOA(φm ,θm )は、観測ノードD(1D,2D)に入力される。観測ノードD(1D,2D)は、アジマス角φm の平均μφm と分散σφm
2 、エレベーション角θm の平均μθm と分散σθm
2 を算出する。この平均と分散は、本例のように観測ノードD(1D,2D)で算出してもよいし、RDFで算出しておいてもよい。
【0026】
観測ノードD(1D,2D)で得られたアジマス角φm の平均・分散(μφm ,σφm
2 )及びエレベーション角θm の平均・分散(μθm ,σθm
2 )は、DOA変数ノードN(1N,2N)に入力される。DOA変数ノードN(1N,2N)は、次に説明する三角関数ノードF(1F,2F,3F)でのメッセージ更新に際し、アジマス角φm の平均・分散(μφm ,σφm
2 )及びエレベーション角θm の平均・分散(μθm ,σθm
2 )の値を三角関数ノードF(1F,2F,3F)に伝搬する役割を果たす。
【0027】
三角関数ノードF(1F,2F,3F)は、(式2)に従ってメッセージ更新し、後続のノードに伝搬する。ここで、FGでのメッセージ伝搬は、線形性が確保されている必要がある。しかしながら、(式2)では三角関数を用いており、線形ではない。そこで、三角関数ノードF(1F,2F,3F)でのメッセージ更新について説明を行う前に、テイラー展開を用いた三角関数の線形近似について説明する。
【0028】
一次のテイラー展開は下記(式3)となり、α=μ
αで線形近似することが可能である。
【数3】
【0029】
従って、テイラー展開を用いた平均μ
f(α) と分散σ
f(α)
2 の線形近似は(式4)となる。
【数4】
【0030】
この(式4)を用いて、(式2)の最初の式で用いられているtan(α)の具体例について示すと、テイラー展開を用いた線形近似は(式5)となる。
【数5】
【0031】
(表1)に、(式2)に記載されている三角関数を線形近似した平均μと分散σ
2 をまとめる。
【表1】
【0032】
上記に示した線形近似により、FGでのメッセージ更新を行える条件が整った。
図3に示す構成では、三角関数ノードF(1F,2F,3F)でのメッセージ更新は、(式2)に示す(φ
m ,θ
m )と(Δx
m ,Δy
m ,Δz
m )の変数の積で表され、
図4に示すように、2変数(a,c)の場合と、3変数(a,b,c)の場合とに分類できる。
図4において、(a)及び(b)はDOAノードNに相当し、(c)及び(Δ)は相対位置変数ノードΔに相当し、中心の[F]は三角関数ノードFに相当する。また、矢印の方向はメッセージを伝搬する方向を示している。
【0033】
図4に示す、2つ(a,c)、もしくは3つ(a,b,c)の独立した確率変数の積に関して、その結果の平均と分散を(表2)にまとめる。詳細については省略するが、平均と分散の定義式から(表2)を導き出すことができる。
【表2】
【0034】
これらの2変数、3変数の三角関数ノードF(1F,2F,3F)でのメッセージ更新について、以下に例を用いて説明する。まず、2変数の三角関数ノードF
A (1F)でのメッセージ更新の例として、F
A →Δxについて、
図5を用いて説明する。前述したように、FGのメッセージ伝搬では、平均と分散を伝搬することになる。ここで、F
A →Δxの伝搬は、(式2)に示すΔx
m =Δy
m ・tan(φ
m )の関係(1段目の関係式)である。ここで、
図4のaノードに相当する平均μ
tan(φ) と分散σ
tan(φ)
2 は、(表1)に従って、近似平均tan(μ
φ )と近似分散σ
φ
2sec
4(μ
φ )に変換することができる。cノードに相当する平均と分散は、μ
Δy→FA 、σ
Δy→FA
2 である。これらの値を(表2)の2変数に当てはめると、(式6)になる。
【0035】
【数6】
ここで、添え字の矢印はメッセージの伝搬方向を示し、例えば、F
A →Δxは、F
A ノードからΔxノードへのメッセージ伝搬を示している。
【0036】
同様に、3変数の三角関数ノードF(2F,3F)でのメッセージ更新の例として、F
B →Δxについて、
図6を用いて説明する。3変数の場合も、2変数の場合と同様に、平均と分散を伝搬することになる。ここで、F
B →Δxの伝搬は、(式2)に示すΔx
m =Δz
m ・sin(φ
m )・tan(θ
m )の関係(2段目の関係式)である。
図4のaノードに相当する平均μ
sin(φ) と分散σ
sin(φ)
2 は、(表1)に従って、近似平均sin(μ
φ )と近似分散σ
φ
2cos
2(μ
φ )に変換することができ、bノードに相当する平均μ
tan(φ) と分散σ
tan(φ)
2 は、近似平均tan(μ
φ )と近似分散σ
φ
2sec
4(μ
φ )に変換することができる。cノードに相当する平均と分散は、μ
ΔZ→FB 、σ
ΔZ→FB
2 である。これらの値を(表2)の3変数に当てはめると、(式7)になる。
【0037】
【0038】
以下に、F→Δの全ノードでのメッセージ更新式を示す。(式8)はFA →Δxのメッセージ更新式である。(式9)はFA →Δyのメッセージ更新式である。(式10)はFB →Δxのメッセージ更新式である。(式11)はFB →Δzのメッセージ更新式である。(式12)はFC →Δyのメッセージ更新式である。(式13)はFC →Δzのメッセージ更新式である。なお、(式8)、(式10)は、上述した(式6)、(式7)と同じであり、説明の便宜上再掲しているに過ぎない。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
以上の説明により、三角関数ノードF(1F,2F,3F)から相対位置変数ノードΔ(1d,2d,3d)のメッセージ更新(μF→Δ,σF→Δ
2 )が示された。
【0046】
次に、相対位置変数ノードΔ(1d,2d,3d)から相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)のメッセージ更新(μ
Δ→R,σ
Δ→R
2 )について説明する。相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)でのメッセージ更新は、
図7に対応する。
図7は、2つの確率密度関数の積による平均と分散を示している。相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)のメッセージ更新では、(表3)に従って更新を行う。
【0047】
【0048】
具体例として、Δx→R
A の更新について、
図8を用いて説明する。(表3)の更新式に従うと、(式14)が得られる。
【数14】
【0049】
以下に、相対位置変数ノードΔ(1d,2d,3d)から相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)の全ノードの更新式を示す。(式15)はΔx→RA のメッセージ更新式である。(式16)はΔy→RB のメッセージ更新式である。(式17)はΔz→RC のメッセージ更新式である。なお、(式15)は、上述した(式14)と同じであり、説明の便宜上再掲しているに過ぎない。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
各サブFG21-1~21-Mにおける相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)とターゲット位置ノードP 22との間のメッセージ伝搬では、相対位置(Δxm ,Δym ,Δzm )からターゲット(航空機40)の絶対位置(x,y,z)への変換と、他のサブFGからのメッセージを合成するForward方向のメッセージ伝搬と、絶対位置(x,y,z)から各サブFGにおける相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)へのBackward方向へのメッセージ伝搬を行う。
【0054】
相対位置(Δxm ,Δym ,Δzm )からターゲットの絶対位置(x,y,z)への変換に関して、(式1)より、平均μR→P は(式18)となり、分散は位置に依存しないため、そのまま保たれて(式19)となる。
【0055】
【0056】
【0057】
次に、各サブFG21-1~21-Mの相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)からのメッセージ(μ
R→P ,σ
R→P
2 )をターゲット位置ノードP 22で合成し、ターゲット位置ノードP 22でのメッセージ(μ
P ,σ
P
2 )を算出する。(式14)では2つの確率密度関数の積によるメッセージ伝搬であったが、ターゲット位置ノードP 22では、
図9に示すようにM変数のメッセージ伝搬となり、これを(式20)に示す。
【0058】
【0059】
(式20)により、各サブFG21-1~21-Mで算出されたメッセージを合成することで、測位精度を向上させることができる。(式20)に基づいて、各サブFG21-1~21-MのR
A,i から絶対位置xの更新式(R
A →x)を(式21)に示す。
【数21】
【0060】
同様に、各サブFG21-1~21-MのR
B,i から絶対位置yの更新式(R
B →y)を(式22)に示し、R
C,i から絶対位置zの更新式(R
C →z)を(式23)に示す。
【数22】
【0061】
【0062】
以上説明した処理が、FGのForward方向のメッセージ伝搬である。ターゲット位置ノードP 22により得られた(μX ,μY ,μZ )が推定したターゲットの位置となり、(σX
2 ,σY
2 ,σZ
2 )がそれらの分散となる。これらの値は、測位部20による測位結果はレーダコンソール30に転送され、レーダコンソール30上にマーキングされる。
【0063】
次に、FGのBackward方向のメッセージ伝搬について説明する。
ターゲット位置ノードP 22にて算出したターゲットの絶対位置(μP ,σP
2 )をBackward方向にメッセージ伝搬する。ターゲット位置ノードP 22からm番目のサブFG21-mの相対位置関数ノードRm へのメッセージ(μP→Rm ,σP→Rm
2 )に関し、例として、x→RA,m のメッセージ更新を(式24)に示す。
【0064】
【0065】
これは、ターゲット位置ノードP 22からm番目のサブFG21-mの相対位置関数ノードR
A,m ノードへのBackward更新である。(式24)では、平均、分散ともに自分自身(m番目)を除いた他のサブFGから算出される。
図10には、x→R
A,m のBackward更新を示してある。
【0066】
同様に、y→R
B,m のメッセージ更新を(式25)に示し、z→R
C,m のメッセージ更新を(式26)に示す。
【数25】
【0067】
【0068】
次に、相対位置関数ノードR(1R,2R,3R)から相対位置変数ノードΔ(1d,2d,3d)へのBackward更新(μR→Δ,σR→Δ
2 )について説明する。(式1)より、平均μR→Δは(式27)となり、分散σR→Δ
2 は位置に依存しないため、そのまま保たれて(式28)となる。
【0069】
【0070】
【0071】
以上説明した処理が、FGのBackward方向のメッセージ伝搬である。ここまでの処理により、一回の反復演算処理が完結する。
【0072】
FGの二回目以降の反復演算に関して説明する。一回目の反復演算において、三角関数ノードF(1F,2F,3F)での更新は、DOA変数ノードN(1N,2N)と相対位置変数ノードΔ(1d,2d,3d)からのメッセージとにより更新されることを前述した。DOA変数ノードN(1N,2N)のメッセージは反復演算により変化することはないが、相対位置変数ノードΔ(1d,2d,3d)のメッセージはBackward方向の処理により更新されている。従って、再度、三角関数ノードF(1F,2F,3F)の更新を行うことで、初回よりも高い精度でのメッセージ更新を実現することができる。このように、反復を繰り返すことにより測位精度が改善し、高い測位性能を実現することができる。
【0073】
以上のように、本例の測位システムは、三次元測位のターゲットである航空機40から発信された無線信号の到来方向(DOA)をそれぞれ推定する複数のRDF10-1~10-6(本発明に係るセンサ)と、複数のRDFのそれぞれで推定されたDOAと複数のRDFのそれぞれの位置とに基づいて、航空機40の位置を測位する測位部20(本発明に係る測位部)とを備え、測位部20は、複数のノードを用いて形成されたファクターグラフ構造となっている。
【0074】
より具体的には、測位部20は、RDF毎に設けられた、該RDFで推定されたDOAと該センサの位置とに基づいて航空機40の位置を演算する、ファクターグラフ構造のサブFG21-1~21-M(本発明に係るサブファクターグラフノード部)と、各サブFG21-1~21-Mによる演算結果に基づいてターゲットの位置を測位するターゲット位置ノードP 22(本発明に係るターゲット位置ノード)とを有している。
【0075】
ここで、RDF10-1~10-6は、自身から見た航空機40のアジマス角及びエレベーション角をDOAとして推定し、測位部40のサブFG21-1~21-Mは、自身に対応するRDFで推定されたアジマス角及びエレベーション角の平均と分散をそれぞれ算出し、これら平均と分散を用いて得られる三角関数の近似平均と近似分散に基づいて該RDFから見た航空機40の相対位置を算出し、この相対位置を絶対位置に変換したものを演算結果としてターゲット位置ノードP 22に出力する。また、測位部40のサブFG21-1~21-Mは、ターゲット位置ノードP 22による測位結果を航空機40の相対位置の演算にフィードバックする。
【0076】
このような構成により、航空機40の三次元位置を高い精度で測定することが可能となる。また、ファクターグラフは、RDFの数が増えてもノードの数が増加するだけであり、演算量はRDFの数に比例するだけであるため、LSEなどのRDF数の3乗に演算量が比例する方式と比べて、演算量の削減効果は高い。
【0077】
なお、上記の説明では、航空機1機をターゲットにして三次元位置の測位を行っているが、本発明はマルチターゲットの三次元測位に拡張することも可能である。この場合、各センサで観測される複数のDOAをどのFGに入力するかという問題が生じる。その解決策の一つとして、本願と同一の出願人による公開されていない特許出願(特願2020-089292、出願日:2020年5月22日)に記載の手法を用いることができる。したがって、マルチターゲット測位においても本発明を利用できることは明らかである。
【0078】
また、上記の説明では、無線信号に基づいて方向推定を行い、その結果に基づいてターゲット測位を行っているが、本発明は、方向推定を無線信号以外に基づいて実施しても構わない。例えば、複数の光学カメラでターゲットを撮影し、それぞれのカメラ映像に対するパターンマッチングや深層学習などの画像処理の手法を用いてターゲットの方向を推定し、推定した方向に対して本発明の測位手法を適用してその位置を推定することが可能である。また、例えば、車体に取り付けられた複数のカメラで車体周辺を撮影し、各カメラにおいて画像から周囲の車両や障害物の方向を推定し、推定した方向に対して本発明の測位手法を適用してその位置を推定することも可能である。更に、光学カメラ以外にも、鋭い指向性のアンテナを機械的あるいは電子的に回転させて、ターゲットの方向を推定するレーダを使用してもよい。このように、パターン認識を用いた方向推定によっても、上記の説明と同様の手法により解決することが可能となる。
【0079】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記のような構成に限定されるものではなく、上記以外の構成により実現してもよいことは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0080】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、ターゲットの位置を測定する測位システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
10-1~10-6,110-1~110-6:RDF、 20,120:測位部、 30,130:レーダコンソール、 40,140:航空機、 21-1~21-M:サブFG、 22:ターゲット位置ノードP、 1D,2D:観測ノードD、 1N,2N:DOA変数ノードN、 1F,2F,3F:三角関数ノードF、 1d,2d,3d:相対位置変数ノードΔ、 1R,2R,3R:相対位置関数ノードR