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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157820
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20221006BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20221006BHJP
   C08F 210/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/20
C08F210/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062268
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 彰太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA21X
4F071AA81X
4F071AA88X
4F071AF04
4F071AF30Y
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC08
4F071BC12
4F071BC14
4F071BC15
4J002BB17W
4J002BB17X
4J002GG00
4J100AA15Q
4J100AA15R
4J100AA17P
4J100CA05
4J100DA04
4J100DA09
4J100DA62
4J100FA19
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】撥水性に優れた、4-メチル-1-ペンテン系共重合体を含むフィルムを提供すること。
【解決手段】4-メチル-1-ペンテン(共)重合体を含むフィルムであって、前記フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状における凸部の高さが550~1000nmであり、前記凸部の間隔が200~1000nmであるフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体を含むフィルムであって、
前記フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸形状を有し、下記の方法で測定される、前記凹凸形状における凸部の高さが550~1000nmであり、前記凸部の間隔が200~1000nmであるフィルム。
凸部の高さおよび間隔の測定方法:前記フィルムの表面を原子間力顕微鏡で観察する。得られた表面形状像より、無作為に3つの測定箇所を選び、測定箇所において、10点の凸部が含まれるようにTD方向に直線を引き、各凸部の高さを測定し、その算術平均値を求める。各凸部の高さは、各測定箇所の最も深い位置からの高さとする。3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の高さとして採用する。さらに、得られた表面形状像より、上記の各測定箇所で上記直線上の隣接する凸部同士の距離を測定し、その算術平均値を求める。3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の間隔として採用する。
【請求項2】
前記4-メチル-1-ペンテン(共)重合体が下記要件(X-a)~(X-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)である請求項1に記載のフィルム。
要件(X-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が20.0~98.0モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U2)が80.0~2.0モル%(ただし、全構成単位の量を100モル%とする。)(ただし、全構成単位の量を100モル%とする。)である。
要件(X-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Xが1.0~4.0dL/gである。
【請求項3】
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)が、下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を90~5質量部、および下記要件(B-a)~(B-c)および(B-a1)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)10~95質量部(ただし共重合体(A)および共重合体(B)の合計量を100質量部とする。)を含有する請求項2に記載のフィルム。
要件(A-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U3)が20.0~98.0モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U4)が80.0~2.0モル%(ただし、前記U3および前記U4の合計を100モル%とする。)である。
要件(A-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Aが1.5~8.0dL/gである。
要件(A-c):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、1.0~7.0である。
要件(B-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U5)が80.0~99.9モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U6)が20.0~0.1モル%(ただし、前記U5および前記U6の合計を100モル%とする。)である。
要件(B-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Bが0.5~5.0dL/gである。
要件(B-c):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、1.0~7.0である。
要件(B-a1):前記構成単位の量U4(モル%)と、前記構成単位の量U6(モル%)との比(U4/U6)が、1.0を超えて50.0未満である。
【請求項4】
延伸フィルムである請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)の、厚さ10μmのフィルムとして測定した場合のヘイズが5%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
食品用の、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
医療用の、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに関し、より詳細には4-メチル-1-ペンテン(共)重合体を含むフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
透明性、防汚性、撥水性を兼ね備えたフィルムは様々な用途で幅広く使用されている。
例えば、食品、医療用途においては撥水性を有し内容物への付着が少なく、視認性が高い包装フィルムが求められている。食品用途では、水気の多い食品が包装フィルムに付着することで、食品の損傷や取り出しにくくなる問題が生じる。医療用途においては、薬剤が残留しにくく内容物を視認できることが求められる。また、ビニールハウスやディスプレイ用保護フィルム等、光透過性を必要とする用途では、透明性だけでなく、対象の保護のため撥水性、防汚性が求められている。
【0003】
ポリ4-メチル-1-ペンテンは、表面張力が低く透明性が高いため、これらの要求に応えられる樹脂である。
特許文献1には、4-メチル-1-ペンテンとC4-C7α-オレフィンとのランダム共重合体およびポリ4-メチル-1-ペンテンを含む医療器具用樹脂組成物が開示され、この組成物が撥水性等に優れること、この組成物から製造した角板の水との接触角を測定したことなどが記載されている。
【0004】
特許文献2には、少なくとも一方の最外層にポリメチルペンテンを含む層を有する積層体である離型フィルムが開示されている。
一方、特許文献3および4には、コモノマー量が比較的多い4-メチル-1-ペンテン共重合体成分およびコモノマー量が比較的少ない4-メチル-1-ペンテン共重合体成分を含む4-メチル-1-ペンテン共重合体、ならびにこのような4-メチル-1-ペンテン共重合体からなるフィルムなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-246950号公報
【特許文献2】特開2006-212954号公報
【特許文献3】国際公開第2019/198694号
【特許文献4】国際公開第2020/113638号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、4-メチル-1-ペンテン系共重合体を含む従来のフィルムは、撥水性の観点からさらなる改善の余地があった。
本発明は、撥水性に優れた、4-メチル-1-ペンテン系共重合体を含むフィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、たとえば以下の[1]~[7]に関する。
[1]
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体を含むフィルムであって、
前記フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸形状を有し、下記の方法で測定される、前記凹凸形状における凸部の高さが550~1000nmであり、前記凸部の間隔が200~1000nmであるフィルム。
凸部の高さおよび間隔の測定方法:前記フィルムの表面を原子間力顕微鏡で観察する。得られた表面形状像より、無作為に3つの測定箇所を選び、測定箇所において、10点の凸部が含まれるようにTD方向に直線を引き、各凸部の高さを測定し、その算術平均値を求める。各凸部の高さは、各測定箇所の最も深い位置からの高さとする。3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の高さとして採用する。さらに、得られた表面形状像より、上記の各測定箇所で上記直線上の隣接する凸部同士の距離を測定し、その算術平均値を求める。3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の間隔として採用する。
【0008】
[2]
前記4-メチル-1-ペンテン(共)重合体が下記要件(X-a)~(X-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)である前記[1]のフィルム。
要件(X-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が20.0~98.0モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U2)が80.0~2.0モル%(ただし、全構成単位の量を100モル%とする。)(ただし、全構成単位の量を100モル%とする。)である。
要件(X-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Xが1.0~4.0dL/gである。
【0009】
[3]
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)が、下記要件(A-a)~(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を90~5質量部、および下記要件(B-a)~(B-c)および(B-a1)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)10~95質量部(ただし共重合体(A)および共重合体(B)の合計量を100質量部とする。)を含有する前記[2]のフィルム。
要件(A-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U3)が20.0~98.0モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U4)が80.0~2.0モル%(ただし、前記U3および前記U4の合計を100モル%とする。)である。
要件(A-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Aが1.5~8.0dL/gである。
要件(A-c):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、1.0~7.0である。
要件(B-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U5)が80.0~99.9モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U6)が20.0~0.1モル%(ただし、前記U5および前記U6の合計を100モル%とする。)である。
要件(B-b):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Bが0.5~5.0dL/gである。
要件(B-c):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、1.0~7.0である。
要件(B-a1):前記構成単位の量U4(モル%)と、前記構成単位の量U6(モル%)との比(U4/U6)が、1.0を超えて50.0未満である。
[4]
延伸フィルムである前記[1]~[3]のいずれかのフィルム。
【0010】
[5]
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)の、厚さ10μmのフィルムとして測定した場合のヘイズが5%以下である、前記[1]~[4]のいずれかのフィルム。
【0011】
[6]
食品用の、前記[1]~[5]のいずれかの記載のフィルム。
【0012】
[7]
医療用の、前記[1]~[5]のいずれかのフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフィルムは、撥水性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において、「(共)重合体」は単独重合体および共重合体の両方を含む概念である。また、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[フィルム]
本発明に係るフィルムは、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体を含み、少なくとも一方の表面に所定の凹凸形状を有することを特徴としている。
【0016】
本発明に係るフィルムは、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、すなわち4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、および/または4-メチル-1-ペンテンと炭素数2~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く。)との共重合体を含んでいる。
【0017】
炭素数2~20のα-オレフィンの詳細は、後述する要件(A-a)の説明の中に記載のとおりである。また、前記共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲で、後述する要件(A-a)の説明の中で挙げる他の重合性化合物から導かれる構成単位をさらに有していてもよい。
【0018】
[4-メチル-1-ペンテン(共)重合体]
前記4-メチル-1-ペンテン(共)重合体としては、下記要件(X-a)および(X-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)が好ましい。
【0019】
《要件(X-a)》
要件(X-a)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が20.0~98.0モル%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U2)が80.0~2.0モル%である。ただし、共重合体(X)中の全構成単位の量を100モル%とする、というものである。
【0020】
前記U1は、好ましくは51.0~98.0モル%、より好ましくは80.0~98.0モル%、さらに好ましくは90.0~97.5モル%、特に好ましくは95.0~97.0モル%である。
【0021】
前記U2は、好ましくは49.0~2.0モル%、より好ましくは20.0~2.0モル%、さらに好ましくは10.0~2.5モル%、特に好ましくは5.0~3.0モル%である。
【0022】
要件(X-a)が満たされることにより、本発明に係るフィルムは延伸性を担保することができる。
なお、前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)における、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)および、前記4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U2)は以下の式(1)および式(2)により求めることができる。
【0023】
U1=(U3×W1+U5×W2)/(W1+W2)・・・式(1)
U2=(U4×W1+U6×W2)/(W1+W2)・・・式(2)
前記式(1)および式(2)中、
U3は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(モル%);
U4は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)における4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(モル%);
U5は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(モル%);
U6は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)における4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(モル%);
W1は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の含有量(質量部);
W2は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の含有量(質量部)
を表す。
【0024】
《要件(X-b)》
要件(X-b)は、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Xが1.0~4.0dL/gである、というものである。
【0025】
前記極限粘度[η]Xは、好ましくは2.0~4.0dL/gである。
要件(X-b)が満たされることにより、本発明に係るフィルムは、製膜安定性を損なわず延伸性を担保できる。
【0026】
なお、前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)における、前記135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Xは以下の式(3)により求めることができる。
[η]X=([η]A×W1+[η]B×W2)/(W1+W2)・・・式(3)
前記式(3)中、
[η]Aは、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)における135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]A
[η]Bは、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)における135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]B
W1は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の含有量(質量部);
W2は、後述の4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の含有量(質量部)
を表す。
【0027】
《他の要件》
4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)は、さらに以下の要件を満たしていてもよい。
【0028】
要件(X-c):
要件(X-c)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、3.6~30である、というものである。
【0029】
前記分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.6~20、より好ましくは3.6~10である。前記各平均分子量は、後述する実施例で採用された条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の値である。
要件(X-c)が満たされることにより、本発明に係るフィルムは低分子量成分のブリードアウトによる透明性の低下を抑制することができる。
【0030】
(4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)の好ましい態様)
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)は、表面の凹凸構造を形成しやすくするという観点から、好ましくは後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」とも記載する。)を90~5質量部、および後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)(以下、単に「共重合体(B)」とも記載する。)を10~95質量部(ただし、共重合体(A)および共重合体(B)の合計量を100質量部とする。)含有する。換言すると、前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)は、好ましくは後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)と後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)とを含む組成物である。
【0031】
前記共重合体(A)の量は、好ましくは80~20質量部、より好ましくは70~30質量部であり、前記共重合体(B)の量は、好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~70質量部である。
【0032】
<4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、下記要件(A-a)、(A-b)および(A-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体である。
【0033】
《要件(A-a)》
要件(A-a)は、共重合体(A)において、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U3)は20.0~98.0モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテン除く。)から選ばれる少なくとも1種から導かれる構成単位の量(U4)は80.0~2.0モル%である、というものである。
【0034】
U3は、好ましくは20.0~97.0モル%、より好ましくは25.0~97.0モル%、さらに好ましくは50~97.0モル%、特に好ましくは75~97.0モル%、最も好ましくは80~97.0モル%である。U4は、好ましくは80.0~3.0モル%、より好ましくは75.0~3.0モル%、さらに好ましくは50~3.0モル%、特に好ましくは25~3.0モル%、最も好ましくは20~3.0モル%である。ただし、前記U3および前記U4の合計を100モル%とする。
【0035】
炭素数2~20のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。本発明において、エチレンはα-オレフィンに包含されるものとする。これらの中でも、本発明のフィルムは延伸により表面の凹凸構造を形成しており、また延伸後も高透明性を維持できるという観点から、炭素数5~20のα-オレフィンが好ましく、炭素数6~20のα-オレフィンがより好ましく、炭素数10~20のα-オレフィンがさらに好ましい。具体的には、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが好ましく、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが特に好ましい。
【0036】
共重合体(A)は、炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位を1種のみ有してもよく、2種以上有していてもよい。
共重合体(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンおよび炭素数2~20のα-オレフィン以外の他の重合性化合物から導かれる構成単位をさらに有することができる。他の重合性化合物としては、例えば、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等の環状構造を有するビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;無水マレイン酸等の不飽和有機酸またはその誘導体;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等の共役ジエン;1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペンル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等の非共役ポリエンが挙げられる。
【0037】
共重合体(A)において、他の重合性化合物から導かれる構成単位の含有割合は、前記共重合体(A)を構成する全構成単位100モル%中、通常は10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下である。
【0038】
共重合体(A)が2種以上の共重合体を含む場合、共重合体(A)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U3)および炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U4)は、質量比を考慮したそれぞれの共重合体の平均値とすることができる。各々の共重合体が前記U3およびU4の数値範囲にある4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位量および炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位量を有することが好ましい。
【0039】
《要件(A-b)》
要件(A-b)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]Aは、1.5~8.0dL/gである、というものである。
【0040】
前記[η]Aは、好ましくは2.0~7.5dL/g、より好ましくは2.2~7.0dL/g、さらに好ましくは2.4~6.0dL/gであり、特に好ましくは2.6~5.0dL/gである。
【0041】
[η]Aが上記範囲にある共重合体(A)は、樹脂組成物の調製時や成形時において良好な流動性を示し、さらに4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)と組み合わせた場合に延伸性の向上に寄与すると考えられる。
【0042】
共重合体(A)が2種以上の共重合体を含む場合、極限粘度[η]Aは、質量比を考慮したそれぞれの共重合体の[η]の平均値とすることができる。各々の共重合体が前記[η]Aの数値範囲にある[η]を有することが好ましい。
【0043】
《要件(A-c)》
要件(A-c)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~7.0である、というものである。
【0044】
前記分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~6.5、より好ましくは1.2~6.0である。前記各平均分子量は、後述する実施例で採用された条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の値である。
【0045】
(4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の製造方法)
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は従来公知の方法、たとえば国際公開第2019/198694号、国際公開第2020/116368号、国際公開第2006/054613号記載の方法により製造できる。
【0046】
<4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)は、下記要件(B-a)、(B-b)、(B-c)および(B-a1)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体である。
【0047】
《要件(B-a)》
要件(B-a)は、共重合体(B)において、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U5)は80.0~99.9モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテン除く。)から選ばれる少なくとも1種から導かれる構成単位の量(U6)は20.0~0.1モル%である、というものである。
【0048】
U5は、好ましくは85.0~99.9モル%、より好ましくは90.0~99.9モル%である。U6は、好ましくは15.0~0.1モル%、より好ましくは10.0~0.1モル%である。ただし、前記U5および前記U6の合計を100モル%とする。
【0049】
炭素数2~20のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。これらの中でも、本発明のフィルムが延伸により表面の凹凸構造が形成され、また延伸後も高透明性を維持できるという観点から、炭素数5~20のα-オレフィンが好ましく、炭素数10~20のα-オレフィンがより好ましい。具体的には、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが好ましく、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが特に好ましい。
【0050】
共重合体(B)は、炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位を1種のみ有してもよく、2種以上有してもよい。
共重合体(B)は、本発明の目的を損なわない範囲で、要件(A-a)の説明の中で挙げた他の重合性化合物から導かれる構成単位をさらに有していてもよい。
【0051】
共重合体(B)において、他の重合性化合物から導かれる構成単位の含有割合は、前記(B)を構成する全構成単位100モル%中、通常は10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下である。
【0052】
共重合体(B)が2種以上の共重合体を含む場合、共重合体(B)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U5)および炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(U6)は、質量比を考慮したそれぞれの共重合体の平均値とすることができる。各々の共重合体が前記U5およびU6の数値範囲にある4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位量および炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位量を有することが好ましい。
【0053】
《要件(B-b)》
要件(B-b)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]Bは、0.5~5.0dL/gである。前記[η]Bは、好ましくは0.5~4.5dL/g、より好ましくは0.5~4.0dL/gである、というものである。
【0054】
[η]Bが上記範囲にある共重合体(B)は、樹脂組成物の調製時や成形時において良好な流動性を示し、さらに4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)と組み合わせた場合に延伸性の向上に寄与すると考えられる。
【0055】
共重合体(B)が2種以上の共重合体を含む場合、極限粘度[η]Bは、質量比を考慮したそれぞれの共重合体の[η]の平均値とするすることができる。各々の共重合体が前記[η]Bの数値範囲にある[η]を有することが好ましい。
【0056】
《要件(B-c)》
要件(B-c)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~7.0である、というものである。
【0057】
前記分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.0~7.0、より好ましくは3.0~6.5である。前記各平均分子量は、後述する実施例で採用された条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の値である。
要件(B-c)が満たされることにより、本発明に係るフィルムは低分子量成分のブリードアウトによる透明性の低下を抑制し、かつ十分な延伸倍率を確保することができる。
【0058】
《要件(B-a1)》
要件(B-a1)は、前記構成単位の量U4(モル%)(共重合体(A)における炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量)と、前記構成単位の量U6(モル%)(共重合体(B)における炭素数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の量)との比(U4/U6)が、1.0を超えて50.0未満である、というものである。
【0059】
前記比(U4/U6)は、好ましくは1.0~40.0、より好ましくは2.0~40.0である。
要件(B-a1)は、共重合体(B)の方が、共重合体(A)よりも、4-メチル-1-ペンテンに対するコモノマーである前記α-オレフィンから導かれる構成単位の含有割合が多いことを意味する。
【0060】
要件(B-a1)が満たされることにより、本発明に係るフィルムは延伸時表面に凹凸構造を形成できる。
4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)は、好ましくは下記要件(B-d)を満たす。
【0061】
《要件(B-d)》
要件(B-d)は、検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で共重合体(B)を測定した場合に、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークが少なくとも1つ存在する、というものである。
【0062】
前記溶出成分量のピークは、好ましくは100~135℃の範囲に存在する。なお、前記溶出成分量のピークの位置は、ピークトップの位置にて判断する。
共重合体(B)は、一実施態様において、0℃以上100℃未満の範囲に溶出成分量のピークが無いことが好ましい。
【0063】
要件(B-d)が満たされることにより、本発明に係るフィルムは低分子量成分のブリードアウトによる透明性の低下を抑制することができる。
共重合体(B)の0~145℃における全溶出成分量中の135℃以上の溶出成分の含有割合は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。この要件を満たす共重合体(B)は、均一延伸性の観点から好ましい。
【0064】
(4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の製造方法)
4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)は従来公知の方法、たとえば国際公開第2019/198694号、国際公開第2020/116368号、国際公開第2006/054613に記載の方法により製造できる。
【0065】
(共重合体(A)および共重合体(B)を含む4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)の製造方法)
共重合体(A)および共重合体(B)を含む4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)は、共重合体(A)および共重合体(B)と、必要に応じて後述する添加剤とを混合することにより得ることができる。共重合体(A)および共重合体(B)の混合物は、国際公開第2019/198694号、国際公開第2020/116368号等に記載された多段重合法により調製してもよい。
【0066】
各成分の混合方法としては、種々公知の方法、たとえば、プラストミル、ヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラー、ブレンダー、ニーダールーダー等の装置を用いて各成分を混合する方法;前記混合後、得られた混合物を一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の装置でさらに溶融混練した後、得られた溶融混練物を造粒または粉砕する方法を採用することができる。
【0067】
<添加剤>
本発明に係るフィルムは、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と共に、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよく、添加剤を含んでいなくてもよい。
【0068】
添加剤としては、例えば、二次抗酸化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、充填剤、塩酸吸収剤、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体以外の重合体が挙げられる。
【0069】
《表面の凹凸形状》
本発明に係るフィルムは、少なくとも一方の表面に凹凸形状を有し、下記の方法で測定される、前記凹凸形状における凸部の高さが550~1000nmであり、前記凸部の間隔が200~1000nmである。
【0070】
本発明に係るフィルムは、好ましくは両面に前記凹凸形状を有する。
前記凸部の高さは、好ましくは550~950nm、より好ましくは550~900nm、さらに好ましくは550~800μmである。また、前記凸部の間隔は200~1000nmである。
前記凸部の高さ、および前記凸部の間隔が上記範囲にあるため、本発明に係るフィルムは、高い撥水性を発揮し、さらに透明性を高めることが可能となる。
【0071】
(フィルム表面の凹凸形状の測定方法)
原子間力顕微鏡の走査型プローブ顕微鏡(たとえば、日立ハイテクサイエンス(株)製 AFM-5300E)を用い、かつSi製カンチレバーを用い、室温(23℃)で、フィルム表面の20μm×20μmの範囲で無作為に選んだ3箇所を観察する。
【0072】
得られた表面形状像より、無作為に3つの測定箇所を選び、測定箇所において、10点の凸部が含まれるようにTD方向に直線を引き、各凸部の高さを測定し、その算術平均値を求める。なお、凸部とは、各測定箇所内において最も深い位置(すなわち、最も低い位置)と最も高い位置との中間の高さよりも高い領域を言う。したがって、一つの凸部内に凹凸が存在することもあり得る。各凸部の高さは、各測定箇所の最も深い位置からの高さとする。また3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の高さとして採用する。
【0073】
また、得られた表面形状像より、上記の各測定箇所で上記直線上の隣接する凸部同士の距離(表面形状像上での凸部内の最も高い位置同士の距離)を測定し、その算術平均値を求める。3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の間隔として採用する。
【0074】
本発明のフィルムの厚さは、たとえば8~70μm、好ましくは8~50μmである。
本発明のフィルムは、高い透明性を有し、たとえば厚さ10μmのフィルムとして後述する実施例で採用された条件で測定されるヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0075】
[フィルムの製造方法]
本発明に係るフィルムの製造方法の例としては、
前記4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、および任意に前記添加剤を含む混合物を未延伸フィルムに成形する工程、および
前記未延伸フィルムを延伸して、フィルム表面に前記凹凸形状を形成する工程
を含む製造方法が挙げられ、好ましくは、
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)、および任意に前記添加剤を含む混合物を未延伸フィルムに成形する工程、および
前記未延伸フィルムを後述する条件で延伸して、フィルム表面に前記凹凸形状を形成する工程
を含む製造方法が挙げられる。
【0076】
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)としては、好ましくは、上述した共重合体(A)および共重合体(B)を含む4-メチル-1-ペンテン共重合体(X)が用いられる。
【0077】
前記4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、および任意に前記添加剤を含む混合物を未延伸フィルムに成形する方法としては、従来公知の方法を適用できる。
前記未延伸フィルムの延伸には、従来公知の方法を適用できるが、好ましくは以下の延伸条件が適用される。
【0078】
(延伸条件)
延伸倍率:
MDに2~4倍、かつTDに1~4倍
好ましくは、MDに2~3.5倍、かつTDに1~3.5倍
未延伸フィルムの厚さ:
100~300μm
予熱温度:
100~200℃
予熱時間:
1~2分間
延伸温度:
100~200℃
延伸速度:
50~150%/秒
アニール条件:
130~210℃、0.5~2分間
フィルムの延伸方法としては、たとえば一軸延伸、二軸逐次延伸、二軸同時延伸が挙げられ、これらの中でも前記凸部の高さの高い延伸フィルムが得られることから、一軸延伸および二軸逐次延伸が好ましい。
【0079】
[フィルムの用途]
本発明に係るフィルムは、高い撥水性し、かつ高い透明性も有することから、特に食品用フィルム、医療用フィルムとして好ましく用いることができる。
【0080】
フィルムは、例えば、
業務用ラップフィルム、家庭用ラップフィルム、加工魚包材、野菜包材、果物包材、発酵食品包材、菓子包装材、酸素吸収剤包材、レトルト食品用包材、鮮度保持フィルム、球根包材、種子包材、野菜・キノコ栽培用フィルムなどの食品用フィルム;
医薬包材、細胞検査フィルム、煮沸処理や高圧蒸気滅菌等の高温処理される用途の包材などの医療用フィルム;
として用いられる。
【0081】
上記フィルムをさらに加工した用途としては、例えば、
レトルト食品容器、耐熱真空成形容器、惣菜容器、惣菜用蓋材、ベーキングカートン、食器、調昧料容器、台所用品、レトルト容器、冷凍保存容器、レトルトパウチ、電子レンジ耐熱容器、冷凍食品容器、冷菓カップ、カップ、哺乳瓶、飲料ボトルなどの食品容器;
輸血セット、医療用ボトル、医療用容器、医療用チューブ、輸液チューブ、コネクタやパッキン、医療用中空瓶、医療バッグ、輸液バッグ、血液保存バック、輸液ボトル、薬品容器、洗剤容器、柔軟剤用容器、漂白剤用容器、バイアル、プラスチックシリンジ、プレフィルドシリンジ、細胞培養バック、細胞培養容器、医療用ガスケット、医療用キャップ、薬栓、ガスケット、などの医療用器具;
ビーカー、シャーレ、フラスコ、アニマルゲージ、保存容器などの理化学実験器具;
PCRプレート、PCRチューブ、PCRプレート用ホイルシール、バッファ容器、マーカ容器などの各種医療用検査キット
が挙げられる。
【実施例0082】
[測定ないし評価方法]
実施例等で用いられた原料および製造されたフィルムの測定ないし評価は、以下の方法で行った。
【0083】
〔共重合体〕
<極限粘度[η]の測定方法>
共重合体の極限粘度[η](極限粘度[η]X、[η]Aまたは[η]B)は、測定装置としてウベローデ粘度計を用い、デカリン溶媒中、135℃で測定した。
【0084】
具体的には、約20mgの粉末状の共重合体をデカリン25mlに溶解させた後、ウベローデ粘度計を用い、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリンを5ml加えて希釈した後、上記と同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作を更に2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度[η](単位:dl/g)とした(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0085】
<コモノマー含量の測定方法>
4-メチル-1-ペンテン系共重合体中のコモノマーに由来する構成単位の含量(コモノマー含量)は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。
測定装置:ブルカー・バイオスピン製AVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置
溶媒:o-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1 v/v)混合溶媒
試料濃度:55mg/0.6mL
測定温度;120℃
観測核:13C(125MHz)
シーケンス:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:5.0μ秒(45°パルス)
繰返し時間:5.5秒
積算回数:64回
ケミカルシフト基準:ベンゼン-d6(128ppm)
主鎖メチンシグナルの積分値を用い、下記式によってコモノマー由来の構成単位の含量を算出した。
コモノマー由来の構成単位の含量(%)=[P/(P+M)]×100
〔Pはコモノマー主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示し、Mは4-メチル-1-ペンテン主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示す。〕
【0086】
<Mw/Mn測定方法>
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、GPCにより測定した。GPC測定は、以下の条件で行った。また、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、市販の単分散標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、下記の換算法に基づいて求めた。
【0087】
(測定条件)
装置:ゲル浸透クロマトグラフ HLC-8321 GPC/HT型(東ソー社製)
有機溶媒:o-ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6-HT 2本、TSKgel GMH6-HTLカラム 2本(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:0.15mg/mL o-ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
分子量換算:PS換算/汎用較正法
【0088】
なお、汎用較正の計算には、Mark-Houwink粘度式の係数を用いた。PSのMark-Houwink係数はそれぞれ、文献(J.Polym.Sci.,Part A-2,8,1803(1970))に記載の値を用いた。
【0089】
〔フィルム〕
<ヘイズの測定方法>
測定用のフィルムとしては、実施例等に記載の方法で作製した、厚さ10μmの延伸フィルムを用いた。
【0090】
前記フィルムを10cm角に裁断して測定試料を作製し、JIS K7136に準拠し、D65光源を用い、室温(23℃)で、ヘーズメーター((株)村上色彩技術研究所製、HM―150)を用いてヘイズを測定した。
【0091】
<水接触角>
測定用のフィルムとしては、実施例等に記載の方法(厚さ200μmのフィルムを作製後、任意の倍率で延伸)で作製した延伸フィルムを用いた。基板ガラスを前記フィルムに変更したこと以外はJIS R3257に準拠して、接触角計(協和界面科学(株)製 CA-XE型)を用いて、23℃、50%RHの雰囲気下で、接触角を測定した。前記フィルムを10cm角に裁断し、同一試料内の5点の接触角の算術平均値を水接触角とした。
【0092】
<表面観察方法>
測定用のフィルムとしては、実施例等に記載の方法(厚さ200μmのフィルムを作製後、任意の倍率で延伸)で作製した延伸フィルムを用いた。
【0093】
前記フィルムを1cm角に裁断し、白金コートを施した後、SEM(走査型電子顕微鏡、日本電子(株)製 JSM-6380)で、表面の無作為に選んだ10箇所を3000倍の倍率で観察し、表面構造を以下のように表現した。
スジ状:10箇所とも、表面にMD方向に伸びるスジ状の凹凸が存在する
クレーター状:10箇所とも、表面にクレーター状の凹凸が存在する
構造無:10箇所とも、表面にスジ状またはクレーター状の凹凸が存在しない
【0094】
表面形状測定方法:
延伸フィルムの中心付近から5cm角の測定サンプルを切り取った。
原子間力顕微鏡(日立ハイテクサイエンス(株)製 AFM5300E)を用いて、SEMによる表面観察に用いられたフィルム表面の、20μm×20μmの範囲で無作為に選んだ3箇所の凹凸構造を観察した。Si製カンチレバー(オリンパス(株)製)を用い、室温(23℃)の条件で表面形状像を観察した。
【0095】
得られた表面形状像より、無作為に3つの測定箇所を選び、測定箇所において、10点の凸部が含まれるようにTD方向に直線を引き、各凸部の高さを測定し、その算術平均値を求めた。なお、凸部とは、各測定箇所内において最も深い位置と最も高い位置との中間の高さよりも高い領域を言う。したがって、一つの凸部内に凹凸が存在することもあり得る。各凸部の高さは、各測定箇所の最も深い位置からの高さとした。また3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の高さとして採用した。
【0096】
また、得られた表面形状像より、上記の各測定箇所で上記直線上の隣接する凸部同士の距離(表面形状像上での凸部内の最も高い位置同士の距離)を測定し、その算術平均値を求めた。3つの測定箇所での算術平均値をさらに算術平均した結果を、凸部の間隔として採用した。
【0097】
[合成例1]
〔予備重合触媒成分の調製〕
国際公開第2019/198694号の合成例1に従い、デカンスラリー(すなわち、予備重合触媒成分のデカンスラリー)100mLを得た。
【0098】
[重合例1]
〔共重合体(A-1)の製造〕
室温(25℃)、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL、トリエチルアルミニウム溶液(アルミニウム原子換算で0.8mmol/mL)を0.5mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入した。次いで、合成例1で調製した予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.0016mmol加え、40℃まで昇温した。40℃到達後、水素を35NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン(4MP-1)180mL、および43モル%の1-ヘキサデセンと57モル%の1-オクタデセンとの混合物33mLを、80分かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。この装入開始時点を重合開始とし、45℃で3時間保持した。次いで、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液(スラリー)を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を得た。
【0099】
[重合例2]
〔共重合体(A-2)の製造〕
4-メチル-1-ペンテンの装入量を70mL、前記混合物の装入量を14mL、水素の装入量を4.4NmLに変更した以外は重合例1と同様の手順により、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-2)を得た。
【0100】
[重合例3]
〔共重合体(B-1)の製造〕
4-メチル-1-ペンテンの装入量を170mL、前記混合物の装入量を30mL、水素の装入量を33NmLに変更した以外は重合例1と同様の手順により、4-メチル-1-ペンテン共重合体(B-1)を得た。
【0101】
[重合例4]
〔共重合体(B-2)の製造〕
4-メチル-1-ペンテンの装入量を115mL、前記混合物の装入量を2mL、水素の装入量を26NmLに変更した以外は重合例1と同様の手順により、4-メチル-1-ペンテン共重合体(B-2)を得た。
得られた重合体の物性を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
〔フィルムの製造〕
[実施例1]
<混練および製膜工程>
65質量部の共重合体(A-1)と35質量部の共重合体(B-1)とをドライブレンドし、得られたブレンド体100質量部に対し、二次抗酸化剤としてトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量部、耐熱安定剤としてn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量部配合した。得られた配合物を、リップ幅240mmのTダイを設置した20mmφの単軸押出機(単軸シート形成機、(株)田中鉄工所製)に投入し、ダイス温度270℃、ロール温度70℃の条件で製膜した。製膜の際は厚さの異なる複数の未延伸フィルムを製造し、具体的には、厚さ200μmの未延伸フィルム、および延伸後の厚さが10μmになるように厚さが調整された、ヘイズ測定用の未延伸フィルムを得た。
【0104】
<延伸工程>
得られた未延伸フィルムを、12cm角に裁断し、バッチ式二軸延伸機(ブルックナー社製、KARO IV)を用いて1軸延伸し、延伸フィルムを得た。延伸条件は、予熱温度を160℃、予熱時間を1分間、延伸温度を160℃、延伸速度を104%/秒、延伸倍率をMD方向に3倍とした。アニール条件は、200℃、1分間とした。
作製された延伸フィルムの物性を、上述の方法で評価した。
【0105】
[実施例2]
未延伸フィルムをMD方向に3倍に延伸した後、さらに、延伸温度を160℃、延伸速度を104%/秒、延伸倍率をTD方向に3倍として延伸した以外は実施例1と同様の方法により、厚さ10μmの延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0106】
[実施例3]
未延伸フィルムを、予熱温度を160℃、予熱時間を1分間、延伸温度を160℃、延伸速度をMD方向に104%/秒、延伸倍率をMD方向に3倍、延伸速度をTD方向に104%/秒、延伸倍率をTD方向に3倍として同時二軸延伸した以外は実施例1と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0107】
[実施例4]
共重合体(A-1)と共重合体(B-1)とドライブレンドを、61質量部の共重合体(A-2)と39質量部の共重合体(B-2)とのドライブレンドに変更した以外は実施例1と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0108】
[実施例5]
MD方向に3倍に延伸されたフィルムを、さらに、延伸温度を160℃、延伸速度を104%/秒、TD方向に3倍として延伸した以外は実施例4と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0109】
[比較例1]
延伸工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法により、フィルム(フィルム原反)を作製し、その物性を評価した。
【0110】
[比較例2]
TD方向の延伸倍率を5倍に変更した以外は実施例2と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0111】
[比較例3]
TD方向の延伸倍率を5倍に変更した以外は実施例5と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0112】
[比較例4]
MD方向の延伸倍率を5倍に変更した以外は実施例1と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
【0113】
[比較例5]
MD方向の延伸倍率を5倍に変更した以外は実施例4と同様の方法により、延伸フィルムを作製し、その物性を評価した。
各フィルムの物性の評価結果を表2に示す。
【0114】
【表2】