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特開2022-157821硫化水素検知材、硫化水素感応層及び金属酸化物半導体式ガスセンサ
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  • 特開-硫化水素検知材、硫化水素感応層及び金属酸化物半導体式ガスセンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157821
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】硫化水素検知材、硫化水素感応層及び金属酸化物半導体式ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062270
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】石倉 友和
(72)【発明者】
【氏名】政岡 雷太郎
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA04
2G046BA01
2G046BA08
2G046BA09
2G046FB02
2G046FC08
2G046FE02
2G046FE09
2G046FE11
2G046FE12
2G046FE31
2G046FE39
2G046FE44
(57)【要約】
【課題】低濃度の硫化水素でも検知することが可能となる硫化水素検知材、その硫化水素検知材を含む硫化水素感応層、硫化水素感応層を有する金属酸化物半導体式ガスセンサを提供する。
【解決手段】本発明の硫化水素検知材はCuFe型複合酸化物(W)を含む。前記CuFe型複合酸化物(W)が、主成分(W1)として、酸化鉄をFe換算で35.0~49.5モル%、酸化銅をCuO換算で50.5~65モル%含有し、粒子の平均粒径が3μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuFe型複合酸化物(W)を含む硫化水素検知材であって、
前記CuFe型複合酸化物(W)が、主成分(W1)として、
酸化鉄をFe換算で35.0~49.5モル%、酸化銅をCuO換算で50.5~65モル%含有し、
前記硫化水素検知材の粒子の平均粒径が3μm以下であることを特徴とする硫化水素検知材。
【請求項2】
前記CuFe型複合酸化物(W)は、更に、副成分(W2)として、
酸化チタン、酸化スズ、及び四酸化三コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含有し、
前記副成分(W2)の合計含有量がTiO、SnO、CoO換算で20質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の硫化水素検知材。
【請求項3】
前記硫化水素検知材が、パラジウム、金、銀、白金から選択される1種類以上の担持金属(M)を更に含み、
前記CuFe型複合酸化物(W)は前記担持金属(M)を担持し、
前記硫化水素検知材の100質量%において、前記担持金属(M)の合計含有率が0.1質量%以上25質量%以下である請求項1又は2に記載の硫化水素検知材。
【請求項4】
前記硫化水素検知材における1粒子当たりのFeの平均原子割合をX1、Cuの平均原子割合をX2とし、X1/X2=αとして、αのCV値が30.0%以下であることを特徴とする請求項1~3何れか1項に記載の硫化水素検知材。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の硫化水素検知材からなる硫化水素感応層。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に形成された電極と、
前記基板の前記電極を形成した面上に形成された、請求項5に記載の硫化水素感応層と
を有する金属酸化物半導体式ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素検知材、硫化水素感応層及び金属酸化物半導体式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
悪臭の原因となる物質とされる硫化水素を検知するセンサにおいて、定電位電解式センサを使用する方法、非分散赤外分析法、ガスクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー等を使用したものがある。しかしながら、定電位電解式センサを使用する場合は、電解液等の液体を用いるため、装置が複雑であり、液の補充等、保守管理を頻繁に行わなければならない。さらに非分散赤外分析法においては、必要とされる装置が高価であるとともに、大型である欠点がある。さらに、ガスクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーを使用する場合は、装置が大型になり、高価であり、硫化水素の濃度を連続的に測定することができない。
特許文献1では酸化スズ半導体に、ランタン、鉛の夫々の酸化物を添加物として添加した半導体式硫化水素ガスセンサを提供しているが、1ppm以下の低濃度では感度が不十分である。
一方、特許文献2において、各種燃焼機器の排ガス中の可燃性ガス特に一酸化炭素を検出するためのガスセンサの素子材料として、CuFeとInと貴金属元素を含む組成物多孔質皮膜ガスセンサ材料が記載されている。Inに対するCuFeの配合は重量比で、10~50質量%の感度が高いと開示されている。
特許文献3において、電気抵抗の変化により、LPガス(プロパン)などの還元性ガスの存在を検知するガスセンサの素子材料として、MgFeを主成分として、これにCrを0.1モル%~45モル%含有するガスセンサ材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2686384号公報
【特許文献2】特開平10-115597号公報
【特許文献3】特公昭58-048854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、被測定ガス中に0.5ppm以下の濃度で含まれる硫化水素についても検知が可能な金属酸化物半導体式ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下のものが提供される。
〔1〕 CuFe型複合酸化物(W)を含む硫化水素検知材であって、
前記CuFe型複合酸化物(W)が、主成分(W1)として、
酸化鉄をFe換算で35.0~49.5モル%、酸化銅をCuO換算で50.5~65モル%含有し、
前記硫化水素検知材の粒子の平均粒径が3μm以下であることを特徴とする硫化水素検知材。
〔2〕 前記CuFe型複合酸化物(W)は、更に、副成分(W2)として、
酸化チタン、酸化スズ、及び四酸化三コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含有し、
前記副成分(W2)の合計含有量がTiO、SnO、CoO換算で20質量%以下であることを特徴とする〔1〕に記載の硫化水素検知材。
〔3〕 前記硫化水素検知材が、パラジウム、金、銀、白金から選択される1種類以上の担持金属(M)を更に含み、
前記CuFe型複合酸化物(W)は前記担持金属(M)を担持し、
前記硫化水素検知材の100質量%において、前記担持金属(M)の合計含有率が0.1質量%以上25質量%以下である〔1〕又は〔2〕に記載の硫化水素検知材。
〔4〕 前記硫化水素検知材における1粒子当たりのFeの平均原子割合をX1、Cuの平均原子割合をX2とし、X1/X2=αとして、αのCV値が30.0%以下であることを特徴とする〔1〕~〔3〕の何れかに記載の硫化水素検知材。
〔5〕 〔1〕~〔4〕の何れかに記載の硫化水素検知材からなる硫化水素感応層。
〔6〕 基板と、
前記基板上に形成された電極と、
前記基板の前記電極を形成した面上に形成された、〔5〕に記載の硫化水素感応層と
を有する金属酸化物半導体式ガスセンサ。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ターゲットガスに対するガス吸着性に優れ、より高感度で検知することが可能となる硫化水素検知材及び金属酸化物半導体式ガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態における金属酸化物半導体式ガスセンサを示す模式図である。
図2】本発明の実施形態における金属酸化物半導体式ガスセンサ断面図(図1のA-A’線)を示す模式図である。
図3】実施例8、比較例2と3における硫化水素センサ感度[Ra/Rg]と硫化水素の濃度[ppm]依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。
【0009】
<硫化水素検知材>
【0010】
(第1実施形態)
本実施形態の硫化水素検知材は、CuFe型複合酸化物(W)を含む。本実施形態の硫化水素検知材は、CuFe型複合酸化物(W)であることが好ましい。前記CuFe型複合酸化物(W)が、主成分(W1)として、酸化鉄をFe換算で35.0~49.5モル%、酸化銅をCuO換算で50.5~65モル%含有する。
また、CuFe型複合酸化物(W)においては、主成分(W1)としての酸化鉄をFe換算で37.0~48.0モル%で好ましく、42.0~47.0モル%でより好ましい。酸化銅をCuO換算で52.0~63モル%で好ましく、53.0~58モル%でより好ましい。酸化銅をCuO換算で50.5モル%以上含有すると、p型半導体酸化物であるCuOが存在するため、n型半導体酸化物である化学量論組成のCuFeとの界面においてp-nヘテロ接合が形成され感度が向上する。一方で酸化銅をCuO換算で65モル%より多く含有すると、仮焼成(熱処理)時に一部異常粒成長がみられ、後の粉砕が困難なものになる。感度も低下する。前記CuFe型複合酸化物(W)の主成分(W1)は、酸化鉄由来の成分と酸化銅由来の成分との合計である。上記換算モル比率は、主成分(W1)100モル%におけるモル比率である。
【0011】
「平均粒径」
本実施形態の硫化水素検知材粒子の平均粒径が3.0μm以下である。2.0μm以下であることが好ましく、1.7μm以下であることがより好ましい。本実施形態の硫化水素検知材粒子の平均粒径が3.0μm以下であると、ガスが吸着する表面積が増加し、感度が向上するためである。また、本実施形態の硫化水素検知材粒子の合成可能性、又は、後述の硫化水素感応層を作製する際の作業性の観点から、本実施形態の硫化水素検知材粒子の平均粒径が10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。
平均粒径の評価方法は、実施例で詳細に説明する。
【0012】
「組成のCV値」
本実施形態の硫化水素検知材における1粒子当たりのFeの平均原子割合をX1、Cuの平均原子割合をX2とし、X1/X2=αとして、αのCV値(変動係数=標準偏差/平均値)が30.0%以下であることが好ましく、25.0%以下であることがより好ましい。
【0013】
X1/X2とは、1粒子においてFeの含有割合をCuの含有割合で割った値である。αの平均値は、各粒子におけるαを平均した値である。そして、αの平均値は、原子数基準で粉末全体のFe含有量をCu含有量で割った値と概ね一致する。そして、αのCV値は、各粒子におけるαのバラツキ、すなわち、粒子間の組成のバラツキを表すパラメータである。そして、αのCV値が小さいほどαのバラツキが小さく、粒子間の組成のバラツキが小さい。
【0014】
本実施形態に係るCuFe型複合酸化物(W)粉末は、αのCV値を30.0%以下とすることで、良好な検知感度を有する。
【0015】
X1およびX2の測定方法には特に制限はない。例えば、STEM-EDXなどを用いて1粒子内の5点以上、好ましくは10点以上について点分析を行い、各点におけるFeの原子割合およびCuの原子割合を測定し、平均することで算出できる。STEMの観察倍率には特に制限はない。例えば20000~40000倍程度としてもよい。STEMの観察倍率が高すぎても低すぎてもX1およびX2を適切に測定することが困難となる。また、点分析の測定試料表面における電子ビームのスポット径(以下、単にビーム径と呼ぶ)については、STEMの観察倍率に応じて適宜設定する。例えば、0.2~1.0nm程度としてもよい。また、ビーム径を上記の範囲とするために、例えば電界放射型の電子銃を有するSTEMを用いてもよい。
【0016】
αの平均値およびαのCV値の算出方法には特に制限はない。例えば、粉末に含まれる10個以上、好ましくは30個以上の粒子についてαを算出し、平均することでαの平均値を算出できる。さらに、αの標準偏差を算出し、αの標準偏差をαの平均値で割ることでαのCV値を算出できる。
【0017】
αのCV値の評価方法は実施例で詳細に説明する。
【0018】
本願明細書において、「CuFe型複合酸化物」とは、従来のCu、Fe、酸素元素のモル組成比Cu/Fe/O=1:2:4のCuFe複合酸化物(W)と類似な組成を持ち、CuFe複合酸化物と類似の結晶構造を有する複合酸化物を言う。
【0019】
例えば、本発明の一実施形態のCuFe型複合酸化物(W)は、従来のCuFe複合酸化物(W)と比べて、一定量の余剰のCuを含む。また、その他の実施形態のCuFe型複合酸化物(W)は、主成分のCu、Fe以外に他の金属成分も含む。
【0020】
本発明のCuFe型複合酸化物(W)と、従来のCuFe複合酸化物(W)との異なる組成比又は異なる金属種を含む場合、例えば、従来のCuFe複合酸化物(W)より余剰にCuを含み、異なる金属種Ti等を含む場合、これらのCu又は金属Ti等は、従来のCuFe複合酸化物(W)の結晶構造中に、既存の金属種を置換してもよく、あるいは、結晶構造中に、従来の結晶と別に存在する他の酸化物結晶相として存在してもよく、さらに、従来のCuFe複合酸化物(W)の一次粒子の間に、他の酸化物結晶もしくは酸化物アモルファスとして存在してもよい。または、それらの組み合わせでもよい。
【0021】
「本実施形態の硫化水素検知材の製造方法」
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料)を準備する。主成分の原料としては、特に制限されないが、以下のものを用いることが好ましい。
主成分の原料としては、酸化鉄(α-Fe)、酸化銅(CuO)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。
さらに、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
まず、準備した出発原料を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒子径が0.1~3μmの出発原料を用いることが好ましい。
次に、原料混合物の熱処理を行い、熱処理材料を得る。熱処理は、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした熱処理は、好ましくは600~1000℃の温度で、通常1~3時間程度行う。熱処理は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。
【0022】
次に、熱処理材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、熱処理材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。熱処理材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、熱処理材料の平均粒径が、好ましくは0.05~3μm程度となるまで行う。
熱処理温度、粉砕時間などを適宜に調製し、所定の平均粒径を有する硫化水素検知材を得ることができる。
【0023】
(第2実施形態)
本実施形態の硫化水素検知材は、CuFe型複合酸化物(W)を含む。本実施形態の硫化水素検知材は、CuFe型複合酸化物(W)であることが好ましい。本実施形態のCuFe型複合酸化物(W)は、第1実施形態の主成分(W1)を含む以外に、更に、副成分(W2)として、チタン、スズ、及びコバルト元素からなる群から選択される少なくとも1種を含有することができる。前記副成分(W2)の合計含有量は、CuFe型複合酸化物(W)100質量%において、TiO、SnO、CoO換算で20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
「平均粒径」
本実施形態の硫化水素検知材粒子の平均粒径は、第1実施形態と同様である。
【0025】
「組成のCV値」
本実施形態の硫化水素検知材の組成のCV値は、第1実施形態と同様である。
【0026】
「本実施形態の硫化水素検知材の製造方法」
本実施形態に係る硫化水素検知材の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を準備する。主成分の原料および副成分の原料としては、特に制限されないが、以下のものを用いることが好ましい。
主成分、副成分の原料としては、酸化鉄(α-Fe)、酸化銅(CuO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、四酸化三コバルト(Co)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。
さらに、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
まず、準備した出発原料を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒子径が0.1~3μmの出発原料を用いることが好ましい。
次に、原料混合物の仮焼きを行い、熱処理材料を得る。熱処理は、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした熱処理は、好ましくは600~1000℃の温度で、通常1~3時間程度行う。熱処理は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。
次に、熱処理材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、熱処理材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。熱処理材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、熱処理材料の平均粒径が、好ましくは0.05~3μm程度となるまで行う。
【0027】
(第3実施形態)
本実施形態の硫化水素検知材は、前述の第1実施形態又は第2実施形態と同様に、CuFe型複合酸化物(W)を含む以外に、パラジウム、金、銀、白金から選択される1種類以上の担持金属(M)を更に含む。前記CuFe型複合酸化物(W)は前記担持金属(M)を担持する。本実施形態の硫化水素検知材は、前記担持金属(M)を担持しているCuFe型複合酸化物(W)であることが好ましい。前記硫化水素検知材の100質量%において、前記担持金属(M)の合計含有率が0.1質量%以上25質量%以下である。前記担持金属(M)の合計含有率が1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、前記担持金属(M)の合計含有率が5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
「平均粒径」
本実施形態の硫化水素検知材粒子の平均粒径は、第1実施形態と同様である。
【0029】
「組成のCV値」
本実施形態の硫化水素検知材の組成のCV値は、第1実施形態と同様である。
【0030】
「本実施形態の硫化水素検知材の製造方法」
まず、第1実施形態と同様に、主成分のみを含むCuFe型複合酸化物の粉末、または、第2実施形態と同様に、主成分と副成分とを含むCuFe型複合酸化物の粉末を、本実施形態の硫化水素検知材の前駆体として、製造する。
次に、上記得られた本実施形態の硫化水素検知材の前駆体としてのCuFe型複合酸化物の粉末を分散媒であるエタノールに分散させ、該分散液をスターラーで攪拌しながら、パラジウム、金、銀、白金から選択される1種類以上の担持金属(M)の合計含有率が0.1質量%以上25質量%以下になるよう、各担持金属(M)を含む貴金属コロイドを添加した。次いで、加熱により分散媒を蒸発させて所定の担持金属(M)を担持したCuFe型複合酸化物の粉末を調製した。
【0031】
<硫化水素感応層>
本実施形態の硫化水素感応層は、本発明の硫化水素検知材、好ましく前述の第1実施形態~第3実施形態の硫化水素検知材の何れか1種を含む。また、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業製(BM-S))のバインダーを含んでもよい。さらに、その他の分散剤などの添加剤を含んでもよい。
【0032】
[硫化水素感応層の作製方法]
本実施形態の硫化水素検知材(W)と分散媒体と、必要に応じてバインダー成分またはその他の添加剤などとを混合し、粉砕機(ミキサーミル)などの分散装置を用いて分散して、硫化水素検知材のペーストを作製する。
本実施形態の硫化水素検知材(W)の粒径は、0.05~1.7μmの範囲で好ましい。
分散媒体としては、水、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなど、又はそれらの混合溶媒が挙げられる。
バインダー成分としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂など挙げられる。
その他の添加剤としては、分散剤、濡れ剤などが挙げられる。
分散方法としては、常温粉砕機(ミキサーミル)、などが挙げられる。
分散条件としては、20分~5時間の攪拌時間、などが挙げられる。
【0033】
このペーストを用いて、各種の硫化水素ガスセンサのガス吸着部に塗布し、乾燥し、また、脱バインダー処理を行うことによって、硫化水素感応層を作製することができる。硫化水素感応層の膜厚は、特に限定されないが、硫化水素ガスセンサの種類や、分析量などに応じて適宜で選択できる。後述の金属酸化物半導体式ガスセンサの場合、2μm~500μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。
分散方法と分散条件、塗布方法や塗布条件、乾燥方法や乾燥条件は、特に限定されなく、例えば、以下の方法と条件が挙げられる。
塗布方法としては、空圧方式ディスペンサ、チュービング方式ディスペンサ、容積計量式ディスペンサなどのディスペンサを用いた塗布方法などが挙げられる。
乾燥方法と条件としては、例えば、空気中において、50~150℃で加熱乾燥方法などが挙げられる。
脱バインダー条件としては、例えば、焼成炉を用いて空気中200~600℃で1~20時間焼成する方法などが挙げられる。
【0034】
<金属酸化物半導体式ガスセンサ>
本実施形態の金属酸化物半導体式ガスセンサには、図1と2で示すように、基板上に設けた櫛型電極間に硫化水素検知材からなる硫化水素感応層を配置し、電極間に電圧を印加して、硫化水素の吸着量を電極間の電気抵抗の変化として捉えることで検知する。基板上に設けた電極間に硫化水素検知材は、本発明の硫化水素感応層を構成する。
本実施形態の金属酸化物半導体式ガスセンサは、本発明の硫化水素検知材を用いるので、硫化水素の吸着後の電気抵抗の変化感度も高い。そのために、本発明の金属酸化物半導体式ガスセンサの場合、微小濃度の硫化水素も検知することができ、より簡単な方法で、高感度でガスを検知することができる。
【0035】
本発明の金属酸化物半導体式ガスセンサにおいて、硫化水素検知材を含む硫化水素感応層の抵抗値の変化を利用して、硫化水素の吸着を検知している。その一般的な原理は以下のように説明する。
金属酸化物半導体式ガスセンサの場合、空気に曝露されているときのセンサ抵抗値を基準としている。基準となる測定開始前の空気に曝露されているとき、センサの半導体(ガス感応層)表面には電子吸引性の酸素が吸着しており、半導体として例えばn型半導体を用いた場合、半導体表面近傍では空間電荷層が形成される。これにより、半導体表面間にポテンシャル障壁が形成され、半導体間の電子の移動が妨げられる。この状態の半導体表面に、硫化水素などの還元性ガスを流入させると吸着酸素が消費され、空間電荷層が薄くなる、つまり、抵抗値が減少することになる。他方、酸化性ガスを流入させると、さらに空間電荷層が厚くなるため、抵抗値が増加する。なお、半導体としてp型半導体を用いた場合、上記n型の場合と反対の反応が起こるため、酸化性ガスに対して抵抗値が減少し、還元性ガスに対して抵抗値が増加すると考えられる。
【0036】
本発明の硫化水素検知材は、酸化銅をCuO換算で50.5~65モル%含有するCuFe型複合酸化物(W)を含む。従来のCuFeと比べて銅の量が余剰である。そのような特定な組成の複合酸化物(W)は、還元性ガスの一種である硫化水素に対して、高い検知感度を示す。化学量論組成の従来のCuFeはn型半導体酸化物である一方で、純粋な酸化銅CuOはp型半導体酸化物である。
例えば、本発明の一実施形態であるCuFe型複合酸化物(W)は、化学量論組成の従来のCuFe結晶(主要結晶相)に、金属銅元素が純粋な酸化銅CuO結晶(余剰相)として存在する多相結晶構造で考える場合、硫化水素に対する感度向上の理由は以下のように推察できる。すなわち、主要結晶相と余剰相とのような酸化物半導体の界面において、p-nヘテロ接合が形成される可能性があり、その場合、その検出メカニズムが変わって硫化水素に対する感度向上が実現される。
上記硫化水素に対する感度向上に関する推察は、本発明の硫化水素検知材の組成と結晶構造に対するいかなる限定をされるものではない。前述のように、本発明のCuFe型複合酸化物(W)においては、余剰の金属銅元素は、化学量論組成の従来のCuFe結晶に、導入され、従来のCuFe結晶自身の半導体特性を変化する可能性もあり、あるいは、アモルファス状態酸化銅CuOが従来のCuFe結晶粒子の間に導入され、全体の複合酸化物(W)の特性を変化する可能性もある。当然、上記の種々の可能性を組合せて実現する可能性もある。
【実施例0037】
以下本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
「硫化水素検知材(W)の製造」
まず、主成分の原料として、酸化鉄(α-Fe)粉末、酸化銅(CuO)粉末を準備した。
次に、準備した主成分原料を表1に示す組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
次に、得られた原料混合物を、空気中において800℃で3時間熱処理して熱処理材料を得た後、ボールミルで16時間湿式粉砕して、本実施例の硫化水素検知材(w-1)の粉末を得た。
以下の評価方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表1に示す。
【0039】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
本実施例で得られた硫化水素検知材(w-1)粉末と、ポリビニルブチラール樹脂とBDG(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)からなるビヒクルとを質量比で1:3となるように秤量し、SPEX社常温粉砕機(ミキサーミル)で1Hr撹拌混合し、硫化水素検知材(w-1)の粉末を含有するペースト(p-1)を調製した。
【0040】
テスト基板は市販品Micrux Technologies社製(品名:ED-IDE3-Au、電極寸法:電極幅5μm、電極間隔5μm、厚み200nm)を購入した。空圧方式のディスペンサで上記ペーストを基板上へ塗布し、焼成炉を用いて空気中450℃で焼成し、電極に硫化水素ガス感応層(l-1)を形成して、本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-1)を作製した。硫化水素ガス感応層(l-1)厚みが10μm±10%であった。
得られた本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-1)を下記の評価方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表1に示す。
【0041】
「硫化水素ガスセンサ感度の評価」
まず、本実施例で作製した金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-1)を加熱用ヒータ付試料チャンバーに設置し試料ホルダーを300℃に加熱した。
次いで、窒素ガスと酸素ガスを4:1の流量比となるように混合して合成空気を作製し、試料ホルダーに500mL/minの流量で流し、センサ抵抗値を以下の方法で測定した。
センサ抵抗値は、ケースレーインスツルメンツ株式会社製2700型多チャンネルDMMを用いて2端子法で10秒間隔に測定した。センサ抵抗値が安定したことを確認してから200秒間測定し、その平均値を合成空気下のセンサ抵抗値(Ra)とた。
【0042】
Raの計測後、窒素ベースの硫化水素標準ガスボンベから一定流量の硫化水素ガスを窒素ガスへ導入し、合成空気中に硫化水素ガスを混合して硫化水素含有ガスを形成した。
そして、形成した硫化水素含有ガスを金属酸化物半導体式ガスセンサに供給して、0.5ppmの硫化水素ガス濃度の硫化水素含有ガスに対するセンサ抵抗値(Rg)の変化を調べた。
Rgは硫化水素含有ガスに対する曝露を開始してから15分後のセンサ抵抗値とした。
【0043】
「粒径測定方法」
粉末における個々の粒子の粒径は、走査型顕微鏡((株)日立製作所製、SU5000)を使用して観察した。具体的には、このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、粒子の境界を判別し、各粒子の面積を算出した。そして、算出された粒子の面積を円相当径に換算して粒子径を算出した。得られた粒子径の平均値を平均粒子径とした。
なお、粒子径の算出は、100個の結晶粒子について行った。
【0044】
(実施例2~9)
「硫化水素検知材(W)の製造」
表1に示す組成の主成分原料を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、各実施例の硫化水素検知材(w-2)~(w-9)の粉末を得た。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表1に示す。
【0045】
また、以下の評価方法で、実施例8の硫化水素検知材(w-8)の粉末のCV値を評価し、その結果を表1に示す。
【0046】
「組成のCV値評価」
<1個の粒子におけるα>
1個の粒子に対して10か所、STEM-EDXを用いて点分析した。STEMの観察倍率は32000倍、ビーム径は0.5nmとした。10か所のFeの原子濃度を平均することでX1を算出し、10か所のCuの原子濃度を平均することでX2を算出した。そして、1個の粒子のX1およびX2より1個の粒子におけるαを算出した。
【0047】
<αの平均値およびαのCV値>
粒子をランダムに30個以上、選択し、それぞれの粒子におけるαを算出した。そして、それぞれの粒子におけるαよりαの平均値およびαの標準偏差を算出した。さらに、αの標準偏差をαの平均値で割ることでαのCV値を算出した。
【0048】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
実施例2~9で得られた硫化水素検知材(w-2)~(w-9)の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-2)~(l-9)を形成して、各実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-2)~(s-9)を作製した。
得られた各実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-2)~(s-9)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1と2)
「硫化水素検知材(W)の製造」
表1に示す組成の主成分原料を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、各比較例の硫化水素検知材(cw-1)~(cw-2)の粉末を得た。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表1、図1に示す。
【0050】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
比較例1と2で得られた硫化水素検知材(cw-1)~(cw-2)、の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(cl-1)~(cl-2)を形成して、各比較例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(cs-1)~(cs-2)を作製した。
得られた各比較例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(cs-1)~(cs-2)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表1に示す。
【0051】
(実施例10、37及び38、比較例3)
「硫化水素検知材(W)の製造」
熱処理温度、粉砕時間を変更した以外は、実施例8と同様な方法で、実施例10、37及び38、比較例3の硫化水素検知材(w-10)、(w-37)、(w-38)、(cw-3)の粉末を得た。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表1、表2に示す。
【0052】
また、実施例8と同様な方法で、実施例37及び38の硫化水素検知材(w-37)、(w-38)の粉末のCV値を評価し、その結果を表2に示す。
【0053】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
実施例10、37及び38、比較例3で得られた硫化水素検知材(w-10)、(w-37)、(w-38)、(cw-3)の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-10)、(l-37)、(l-38)、(cl-3)を形成して、実施例10、37及び38、比較例3の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-10)、(s-37)、(s-38)、(cs-3)を作製した。
得られた実施例10、37及び38、比較例3の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-10)、(s-37)、(s-38)、(cs-3)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表1、表2に示す。
【0054】
(実施例11)
(硫化水素検知材(W)の製造)
まず、主成分の原料として、酸化鉄(α-Fe)粉末、酸化銅(CuO)粉末を準備した。
副成分の原料として、酸化チタン(TiO)粉末、酸化スズ(SnO)粉末、四酸化三コバルト(Co)粉末を準備した。
次に、準備した主成分および副成分の原料を表1に示す組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
次に、得られた原料混合物を、空気中において800℃で3時間仮焼して熱処理材料と得た後、ボールミルで16時間湿式粉砕して、本実施例の硫化水素検知材(w-11)の粉末を得た。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表1に示す。
【0055】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
本実施例で得られた硫化水素検知材(w-11)の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-11)を形成して、本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-11)を作製した。
得られた本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-11)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表1に示す。
【0056】
(実施例12~21)
「硫化水素検知材(W)の製造」
表1に示す組成の主成分原料及び副成分原料を用いた以外は、実施例11と同様な方法で、各実施例の硫化水素検知材(w-12)~(w-21)の粉末を得た。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表1に示す。
【0057】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
実施例12~21で得られた硫化水素検知材(w-12)~(w-21)の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-12)~(l-21)を形成して、各実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-12)~(s-21)を作製した。
得られた各実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-12)~(s-21)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表1に示す。
【0058】
(実施例22)
(硫化水素検知材(W)の製造)
まず、主成分の原料として、酸化鉄(α-Fe)粉末、酸化銅(CuO)粉末を準備した。
次に、準備した主成分原料を表2に示す組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
次に、得られた原料混合物を、空気中において800℃で3時間仮焼して熱処理材料と得た後、ボールミルで16時間湿式粉砕して、本実施例の硫化水素検知材の前駆体(CuFe型複合酸化物)の粉末を得た。
次に、上記得られた本実施例の硫化水素検知材の前駆体の粉末を分散媒であるエタノールに分散させ、該分散液をスターラーで攪拌しながら表2に示した比率になるよう、各貴金属を含む貴金属コロイドを添加した。次いで、加熱により分散媒を蒸発させて、貴金属触媒を担持したCuFe型複合酸化物である本実施例の硫化水素検知材(w-22)の粉末を得た。
以下の評価方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表2に示す。
【0059】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
本実施例で得られた硫化水素検知材(w-22)の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-22)を形成して、本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-22)を作製した。
得られた本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-22)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表2に示す。
【0060】
(実施例23~34、36)
「硫化水素検知材(W)の製造」
表2に示す組成の主成分原料及びを用い、表2に示した比率になるよう、各貴金属を含む貴金属コロイドを添加した以外は、実施例22と同様な方法で、各実施例の硫化水素検知材(w-23)~(w-34)、(w-36)の粉末を得た。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表2に示す。
【0061】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
実施例23~34、36で得られた硫化水素検知材(w-23)~(w-34)、(w-36)の粉末を用いた以外は、実施例1同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-23)~(l-34)、(l-36)を形成して、各実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-23)~(s-34)、(s-36)を作製した。
得られた各実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-23)~(s-34)、(s-36)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表2に示す。
【0062】
(実施例35)
「硫化水素検知材(W)の製造」
まず、主成分の原料として、酸化鉄(α-Fe)粉末、酸化銅(CuO)粉末を準備した。
副成分の原料として、酸化チタン(TiO)粉末、酸化スズ(SnO)粉末、四酸化三コバルト(Co)粉末を準備した。
次に、準備した主成分および副成分の原料を表2に示す組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
次に、得られた原料混合物を、空気中において800℃で3時間仮焼して熱処理材料と得た後、ボールミルで16時間湿式粉砕して、本実施例の硫化水素検知材の前駆体(CuFe型複合酸化物)の粉末を得た。
【0063】
上記得られた本実施例の硫化水素検知材の前駆体の粉末を用いた以外は、実施例22と同様な方法で、貴金属触媒を担持したCuFe型複合酸化物である本実施例の硫化水素検知材(w-35)の粉末を得た。
【0064】
「硫化水素感応層と金属酸化物半導体式ガスセンサの製造」
本実施例で得られた硫化水素検知材(w-35)の粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、電極に硫化水素ガス感応層(l-35)を形成して、本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-35)を作製した。
実施例1と同様な方法で粉末の平均粒径を評価し、その結果を表2に示す。
また、得られた本実施例の金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-35)を実施例1と同様な方法で硫化水素ガスセンサ感度を測定、その結果を表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(実施例39)
「硫化水素ガスセンサ感度の硫化水素ガス濃度依存性」
実施例8、比較例2と3で得られた金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-8)、(cs-2)、(cs-3)を用いて、硫化水素ガスセンサ感度の硫化水素ガス濃度依存性を調べた。
まず、実施例8で作製した金属酸化物半導体式ガスセンサ(s-8)を加熱用ヒータ付試料チャンバーに設置し試料ホルダーを300℃に加熱した。
次いで、窒素ガスと酸素ガスを4:1の流量比となるように混合して合成空気を作製し、試料ホルダーに500mL/minの流量で流し、センサ抵抗値を以下の方法で測定した。
センサ抵抗値は、ケースレーインスツルメンツ株式会社製2700型多チャンネルDMMを用いて2端子法で10秒間隔に測定した。センサ抵抗値が安定したことを確認してから200秒間測定し、その平均値を合成空気下のセンサ抵抗値(Ra)とた。
【0068】
Raの計測後、窒素ベースの硫化水素標準ガスボンベから一定流量の硫化水素ガスを窒素ガスへ導入し、合成空気中に硫化水素ガスを混合して硫化水素含有ガスを形成した。
そして、形成した硫化水素含有ガスを金属酸化物半導体式ガスセンサに供給して、それぞれ0.10ppm、0.50ppm、1.00ppm、2.50ppm、5.00ppmの硫化水素ガス濃度の硫化水素含有ガスに対するセンサ抵抗値(Rg)の変化を調べた。各濃度の硫化水素含有ガスの供給をした後、合成空気を入れ、15分後、次の濃度の硫化水素含有ガスを供給した。Rgは硫化水素含有ガスに対する曝露を開始してから15分後のセンサ抵抗値とした。その結果を図3に示す。
【0069】
同様に、比較例2で作製した金属酸化物半導体式ガスセンサ(cs-2)を用いて、上記と同様に、硫化水素ガスセンサ感度の硫化水素ガス濃度依存性を調べた。その結果を図3に示す。
【0070】
また、同様に、比較例3で作製した金属酸化物半導体式ガスセンサ(cs-3)を用いて、上記と同様に、硫化水素ガスセンサ感度の硫化水素ガス濃度依存性を調べた。その結果を図3に示す。
【符号の説明】
【0071】
1 :基板
2、3 :電極
4 :硫化水素ガス感応層
10 :金属酸化物半導体式ガスセンサ
図1
図2
図3