(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157826
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】空気調和システム、空気調和システムの異常推定方法、空気調和機及び空気調和機の異常推定方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/36 20180101AFI20221006BHJP
F24F 11/38 20180101ALI20221006BHJP
【FI】
F24F11/36
F24F11/38
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062277
(22)【出願日】2021-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慎司
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA52
3L260BA75
3L260JA12
3L260JA23
(57)【要約】
【課題】室内機又は室外機の何れかで異常が発生しているのかを推定できる空気調和機等を提供する。
【解決手段】空気調和機は、室外機に少なくとも1台以上の室内機が冷媒配管で接続されて構成される冷媒回路を有する空気調和機である。空気調和機は、空気調和機の制御に関わる状態量を検出する検出部と、検出部が検出した状態量の検出値を取得する取得部とを有する。更に、空気調和機は、冷媒回路の異常に関係する状態量を特徴量としたとき、当該特徴量の検出値を用いて、冷媒回路の異常発生を推定する異常推定部を有する。異常推定部は、室外機と1台の室内機を一組とし、この組毎に冷媒回路の異常発生を推定し、いずれかの組で異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機で異常が発生したと推定する。更に、異常推定部は、全ての組で異常が発生していると推定した場合は、室外機で異常が発生したと推定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外機に少なくとも1台以上の室内機が冷媒配管で接続されて構成される冷媒回路を有する空気調和機と、前記空気調和機と通信可能に接続するサーバとを有する空気調和システムであって、
前記空気調和機は、
前記空気調和機の制御に関わる状態量を検出する検出部と、
前記検出部が検出した前記状態量の検出値を取得する取得部と、
前記取得部にて取得された前記検出値を前記サーバに送信する第1の通信部と、を有し、
前記サーバは、
前記空気調和機から前記検出値を受信する第2の通信部と、
前記冷媒回路の異常に関係する前記状態量を特徴量としたとき、当該特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路の異常発生を推定する異常推定部と、を有し、
前記異常推定部は、
前記室外機と1台の前記室内機を一組とし、この組毎に前記冷媒回路の異常発生を推定し、いずれかの組で異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機で異常が発生したと推定すると共に、
全ての組で異常が発生していると推定した場合は、前記室外機で異常が発生したと推定することを特徴とする空気調和システム。
【請求項2】
前記冷媒回路には所定量の冷媒が充填され、
前記異常推定部は、
前記冷媒回路において残存する残存冷媒量の変化のみが発生している場合は正常と推定することを特徴とする請求項1に記載の空気調和システム。
【請求項3】
前記サーバは、前記冷媒回路の冷媒量に関係する前記状態量を第1の特徴量としたとき、前記第1の特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路に残存している残存冷媒量を推定する冷媒量推定部を有し、
前記異常推定部は、
前記第1の特徴量に含まれる少なくとも一つの状態量と、前記第1の特徴量に含まれない少なくとも一つの状態量とを含む状態量を第2の特徴量としたとき、前記第2の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の異常発生を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気調和システム。
【請求項4】
前記冷媒量推定部は、
前記第1の特徴量を用いて生成される冷媒量推定モデルを有し、
前記第1の特徴量の検出値を前記冷媒量推定モデルに適用して前記冷媒回路の前記残存冷媒量を推定し、
前記異常推定部は、
前記第2の特徴量を用いて生成される異常推定モデルを有し、
前記第2の特徴量の検出値を前記異常推定モデルに適用して前記冷媒回路の異常発生を推定することを特徴とする請求項3に記載の空気調和システム。
【請求項5】
前記異常推定モデルは、
当該異常推定モデルの生成に使用した前記第2の特徴量を正常標本値として、前記取得部が取得した前記第2の特徴量の検出値について前記正常標本値からの外れ度合いを示す外れ値を算出し、
前記異常推定部は、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値以上の場合は、前記冷媒回路に異常が発生していると推定すると共に、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値未満の場合は、前記冷媒回路が正常であると推定することを特徴とする請求項4に記載の空気調和システム。
【請求項6】
前記冷媒量推定部は、
前記異常推定部にて前記冷媒回路が正常と推定された場合にのみ、前記冷媒回路が正常と推定された場合の前記第2の特徴量の検出値と同時に取得した前記第1の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の残存冷媒量を推定する
ことを特徴とする請求項5に記載の空気調和システム。
【請求項7】
前記冷媒量推定部による残存冷媒量の推定を行う前に、前記異常推定部による前記冷媒回路の異常発生を推定することを特徴とする請求項6に記載の空気調和システム。
【請求項8】
前記第2の特徴量は、
前記冷媒回路の動作が正常であり、かつ、残存冷媒量のみ変化させたときの前記冷媒回路の動作をシミュレーションした結果によって得られる状態量であることを特徴とする請求項3~7の何れか一つに記載の空気調和システム。
【請求項9】
前記冷媒量推定モデルは、
線形解析を用いて生成され、
前記異常推定モデルは、
非線形解析を用いて生成されることを特徴とする請求項4に記載の空気調和システム。
【請求項10】
室外機に少なくとも1台以上の室内機が冷媒配管で接続されて構成される冷媒回路を有する空気調和機と、前記空気調和機と通信で接続するサーバとを有する空気調和システムが実行する異常推定方法であって、
前記空気調和機は、
前記空気調和機の制御に関わる状態量を検出部が検出するステップと、
検出した前記状態量の検出値を取得部が取得するステップと、
取得された前記検出値を第1の通信部が前記サーバに送信するステップと、
を実行し、
前記サーバは、
前記空気調和機から前記検出値を、第2の通信部が受信するステップと、
前記冷媒回路の異常に関係する前記状態量を特徴量としたとき、当該特徴量の検出値を用いて、前記室外機と1台の前記室内機を一組とし、この組毎に前記冷媒回路の異常発生を推定し、いずれかの組で異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機で異常が発生したと推定し、全ての組で異常が発生していると推定した場合は、前記室外機で異常が発生したと推定する異常推定ステップと、
を実行することを特徴とする空気調和システムの異常推定方法。
【請求項11】
前記冷媒回路には所定量の冷媒が充填され、
前記異常推定ステップは、前記冷媒回路において残存する残存冷媒量の変化のみが発生している場合は正常と推定する、
ことを特徴とする請求項10に記載の空気調和システムの異常推定方法。
【請求項12】
前記サーバは、前記冷媒回路の冷媒量に関係する前記状態量を第1の特徴量としたとき、前記第1の特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路に残存している残存冷媒量を推定する冷媒量推定ステップを実行し、
前記異常推定ステップでは、前記第1の特徴量に含まれる少なくとも一つの状態量と、前記第1の特徴量に含まれない少なくとも一つの状態量とを含む状態量を第2の特徴量としたとき、前記第2の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の異常発生を推定する、
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の空気調和システムの異常推定方法。
【請求項13】
前記第1の特徴量を用いて生成される冷媒量推定モデルを有し、
前記冷媒量推定ステップでは、前記第1の特徴量の検出値を前記冷媒量推定モデルに適用して前記冷媒回路の前記残存冷媒量を推定し、
前記第2の特徴量を用いて生成される異常推定モデルを有し、
前記異常推定ステップでは、前記第2の特徴量の検出値を前記異常推定モデルに適用して前記冷媒回路の異常発生を推定する、
ことを特徴とする請求項12に記載の空気調和システムの異常推定方法。
【請求項14】
前記異常推定モデルは、
当該異常推定モデルの生成に使用した前記第2の特徴量を正常標本値として、取得した前記第2の特徴量の検出値について前記正常標本値からの外れ度合いを示す外れ値を算出し、
前記異常推定ステップでは、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値以上の場合は、前記冷媒回路に異常が発生していると推定すると共に、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値未満の場合は、前記冷媒回路が正常であると推定する、
ことを特徴とする請求項13に記載の空気調和システムの異常推定方法。
【請求項15】
前記冷媒量推定ステップは、
前記異常推定ステップにて前記冷媒回路が正常と推定された場合にのみ、前記冷媒回路が正常と推定された場合の前記第2の特徴量の検出値と同時に取得した前記第1の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の残存冷媒量を推定する
ことを特徴とする請求項14に記載の空気調和システムの異常推定方法。
【請求項16】
前記冷媒量推定ステップを行う前に、前記異常推定ステップを行うことを特徴とする請求項15に記載の空気調和システムの異常推定方法。
【請求項17】
室外機に少なくとも1台以上の室内機が冷媒配管で接続されて構成される冷媒回路を有する空気調和機であって、
前記空気調和機の制御に関わる状態量を検出する検出部と、
前記検出部が検出した前記状態量の検出値を取得する取得部と、
前記冷媒回路の異常に関係する前記状態量を特徴量としたとき、当該特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路の異常発生を推定する異常推定部と、を有し、
前記異常推定部は、
前記室外機と1台の前記室内機を一組とし、この組毎に前記冷媒回路の異常発生を推定し、いずれかの組で異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機で異常が発生したと推定すると共に、
全ての組で異常が発生していると推定した場合は、前記室外機で異常が発生したと推定することを特徴とする空気調和機。
【請求項18】
前記冷媒回路には所定量の冷媒が充填され、
前記異常推定部は、
前記冷媒回路において残存する残存冷媒量の変化のみが発生している場合は正常と推定することを特徴とする請求項17に記載の空気調和機。
【請求項19】
前記サーバは、前記冷媒回路の冷媒量に関係する前記状態量を第1の特徴量としたとき、前記第1の特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路に残存している残存冷媒量を推定する冷媒量推定部を有し、
前記異常推定部は、
前記第1の特徴量に含まれる少なくとも一つの状態量と、前記第1の特徴量に含まれない少なくとも一つの状態量とを含む状態量を第2の特徴量としたとき、前記第2の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の異常発生を推定することを特徴とする請求項18又は19に記載の空気調和機。
【請求項20】
前記冷媒量推定部は、
前記第1の特徴量を用いて生成される冷媒量推定モデルを有し、
前記第1の特徴量の検出値を前記冷媒量推定モデルに適用して前記冷媒回路の前記残存冷媒量を推定し、
前記異常推定部は、
前記第2の特徴量を用いて生成される異常推定モデルを有し、
前記第2の特徴量の検出値を前記異常推定モデルに適用して前記冷媒回路の異常発生を推定することを特徴とする請求項19に記載の空気調和機。
【請求項21】
前記異常推定モデルは、
当該異常推定モデルの生成に使用した前記第2の特徴量を正常標本値として、前記取得部が取得した前記第2の特徴量の検出値について前記正常標本値からの外れ度合いを示す外れ値を算出し、
前記異常推定部は、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値以上の場合は、前記冷媒回路に異常が発生していると推定すると共に、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値未満の場合は、前記冷媒回路が正常であると推定することを特徴とする請求項20に記載の空気調和機。
【請求項22】
前記冷媒量推定部は、
前記異常推定部にて前記冷媒回路が正常と推定された場合にのみ、前記冷媒回路が正常と推定された場合の前記第2の特徴量の検出値と同時に取得した前記第1の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の残存冷媒量を推定する
ことを特徴とする請求項21に記載の空気調和機。
【請求項23】
前記冷媒量推定部による残存冷媒量の推定を行う前に、前記異常推定部による前記冷媒回路の異常発生を推定することを特徴とする請求項22に記載の空気調和機。
【請求項24】
前記第2の特徴量は、
前記冷媒回路の動作が正常であり、かつ、残存冷媒量のみ変化させたときの前記冷媒回路の動作をシミュレーションした結果によって得られる状態量であることを特徴とする請求項19~23の何れか一つに記載の空気調和機。
【請求項25】
前記冷媒量推定モデルは、
線形解析を用いて生成され、
前記異常推定モデルは、
非線形解析を用いて生成されることを特徴とする請求項20に記載の空気調和機。
【請求項26】
室外機に少なくとも1台以上の室内機が冷媒配管で接続されて構成される冷媒回路を有する空気調和機の異常推定方法であって、
前記空気調和機の制御に関わる状態量を検出するステップと、
検出した前記状態量の検出値を取得するステップと、
前記冷媒回路の異常に関係する前記状態量を特徴量としたとき、当該特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路の異常発生を推定するステップと、
前記室外機と1台の前記室内機を一組とし、この組毎に前記冷媒回路の異常発生を推定し、いずれかの組で異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機で異常が発生したと推定し、全ての組で異常が発生していると推定した場合は、前記室外機で異常が発生したと推定するステップと、
を含むことを特徴とする空気調和機の異常推定方法。
【請求項27】
前記冷媒回路には所定量の冷媒が充填され、
前記異常推定ステップは、前記冷媒回路において残存する残存冷媒量の変化のみが発生している場合は正常と推定する、
ことを特徴とする請求項26に記載の空気調和機の異常推定方法。
【請求項28】
前記サーバは、前記冷媒回路の冷媒量に関係する前記状態量を第1の特徴量としたとき、前記第1の特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路に残存している残存冷媒量を推定する冷媒量推定ステップを実行し、
前記異常推定ステップでは、前記第1の特徴量に含まれる少なくとも一つの状態量と、前記第1の特徴量に含まれない少なくとも一つの状態量とを含む状態量を第2の特徴量としたとき、前記第2の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の異常発生を推定する、
ことを特徴とする請求項26又は27に記載の空気調和機の異常推定方法。
【請求項29】
前記第1の特徴量を用いて生成される冷媒量推定モデルを有し、
前記冷媒量推定ステップでは、前記第1の特徴量の検出値を前記冷媒量推定モデルに適用して前記冷媒回路の前記残存冷媒量を推定し、
前記第2の特徴量を用いて生成される異常推定モデルを有し、
前記異常推定ステップでは、前記第2の特徴量の検出値を前記異常推定モデルに適用して前記冷媒回路の異常発生を推定する、
ことを特徴とする請求項28に記載の空気調和機の異常推定方法。
【請求項30】
前記異常推定モデルは、
当該異常推定モデルの生成に使用した前記第2の特徴量を正常標本値として、取得した前記第2の特徴量の検出値について前記正常標本値からの外れ度合いを示す外れ値を算出し、
前記異常推定ステップでは、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値以上の場合は、前記冷媒回路に異常が発生していると推定すると共に、
前記異常推定モデルが算出した前記外れ値の絶対値が所定の閾値未満の場合は、前記冷媒回路が正常であると推定する、
ことを特徴とする請求項29に記載の空気調和機の異常推定方法。
【請求項31】
前記冷媒量推定ステップは、
前記異常推定ステップにて前記冷媒回路が正常と推定された場合にのみ、前記冷媒回路が正常と推定された場合の前記第2の特徴量の検出値と同時に取得した前記第1の特徴量の検出値を用いて前記冷媒回路の残存冷媒量を推定する
ことを特徴とする請求項30に記載の空気調和機の異常推定方法。
【請求項32】
前記冷媒量推定ステップを行う前に、前記異常推定ステップを行うことを特徴とする請求項31に記載の空気調和機の異常推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和システム、空気調和システムの異常推定方法、空気調和機及び空気調和機の異常推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機では、冷媒回路に関わる異常又は、その兆候を検知する様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1では、各種センサで検出した値を用いて求めた能力値を正常データとみなして学習し、学習期間とは異なる期間に各種センサで検出した値を用いて求めた能力値と正常データとを比較して空気調和機の異常を検知する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、空気調和機の異常発生を推定するのみである。従って、例えば、室外機に複数の室内機が冷媒配管で接続された空気調和機の場合に、室外機あるいは室内機の何れで異常が発生しているのかを推定することはできない。
【0005】
本発明では、このような問題に鑑み、室内機もしくは室外機の何れで異常が発生しているのかを推定できる空気調和システム、空気調和システムの異常推定方法、空気調和機及び空気調和機の異常推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様の空気調和システムは、室外機に少なくとも1台以上の室内機が冷媒配管で接続されて構成される冷媒回路を有する空気調和機と、前記空気調和機と通信で接続するサーバとを有する。前記空気調和機は、前記空気調和機の制御に関わる状態量を検出する検出部と、前記検出部が検出した前記状態量の検出値を取得する取得部と、前記取得部にて取得された前記検出値を前記サーバに送信する第1の通信部と、を有する。前記サーバは、前記空気調和機から前記検出値を受信する第2の通信部と、前記冷媒回路の異常に関係する前記状態量を特徴量としたとき、当該特徴量の検出値を用いて、前記冷媒回路の異常発生を推定する異常推定部とを有する。前記異常推定部は、前記室外機と1台の前記室内機を一組とし、この組毎に前記冷媒回路の異常発生を推定し、いずれかの組で異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機で異常が発生したと推定すると共に、全ての組で異常が発生していると推定した場合は、前記室外機で異常が発生したと推定する。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面として、室外機もしくは室内機の何れかで異常が発生しているのかを推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施例の空気調和機の一例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、室外機及び室内機の一例を示す説明図である。
【
図3】
図3は、室外機の制御回路の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、室外機と各室内機と組み合わせを一組とした場合の組み分けの一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、空気調和機の冷媒変化の状態を示すモリエル線図である。
【
図6】
図6は、第1~第3の冷房用推定モデルに使用する第1の特徴量と冷房時異常推定モデルに使用する第2の特徴量との一例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、第1~第3の暖房用推定モデルに使用する第1の特徴量と暖房時異常推定モデルに使用する第2の特徴量との一例を示す説明図である。
【
図8A】
図8Aは、第1の冷房用推定モデルによる推定結果と第2の冷房用推定モデルによる推定結果との間をシグモイド曲線で補間しなかった場合の一例を示す説明図である。
【
図8B】
図8Bは、第1の冷房用推定モデルによる推定結果と第2の冷房用推定モデルによる推定結果との間のシグモイド曲線で補間した場合の一例を示す説明図である。
【
図9A】
図9Aは、第1の暖房用推定モデルによる推定結果と第2の暖房用推定モデルによる推定結果との間をシグモイド曲線で補間しなかった場合の一例を示す説明図である。
【
図9B】
図9Bは、第1の暖房用推定モデルによる推定結果と第2の暖房用推定モデルによる推定結果との間のシグモイド曲線で補間した場合の一例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、異常推定モデルの第2の特徴量の検出値の分布方法の一例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、外れ値による異常検知の例を示す説明図である。
【
図12】
図12は、判定部の判定結果の一例を示す説明図である。
【
図13】
図13は、推定処理に関わる制御回路の処理動作の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、重回帰分析処理に関わる制御回路の処理動作の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、実施例2の空気調和システムの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本願の開示する空気調和システム、空気調和システムの異常推定方法、空気調和機及び空気調和機の異常推定方法の実施例を詳細に説明する。尚、本実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜変形しても良い。
【実施例0010】
<空気調和機の構成>
図1は、本実施例の空気調和機1の一例を示す説明図である。
図1に示す空気調和機1は、1台の室外機2と、N台の室内機3とを有する(Nは2以上の自然数)。室外機2は、液管4及びガス管5で並列に各室内機3と接続する。そして、室外機2と室内機3とが液管4及びガス管5等の冷媒配管で接続することで、空気調和機1の冷媒回路6が形成されている。
【0011】
<室外機の構成>
図2は、室外機2およびN台の室内機3の一例を示す説明図である。室外機2は、圧縮機11と、四方弁12と、室外熱交換器13と、室外機膨張弁14と、第1の閉鎖弁15と、第2の閉鎖弁16と、アキュムレータ17と、室外機ファン18と、制御回路19とを有する。これら圧縮機11、四方弁12、室外熱交換器13、室外機膨張弁14、第1の閉鎖弁15、第2の閉鎖弁16及びアキュムレータ17を用いて、以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて冷媒回路6の一部を成す室外側冷媒回路を形成する。
【0012】
圧縮機11は、例えば、インバータにより回転数が制御される図示しないモータの駆動に応じて、運転容量を可変できる高圧容器型の能力可変型圧縮機である。圧縮機11は、その冷媒吐出側と四方弁12の第1のポート12Aとの間を吐出管21で接続している。また、圧縮機11は、その冷媒吸入側とアキュムレータ17の冷媒流出側との間を吸入管22で接続している。
【0013】
四方弁12は、冷媒回路6における冷媒の流れる方向を切替えるための弁であって、第1~第4のポート12A~12Dを備えている。第1のポート12Aは、圧縮機11の冷媒吐出側との間を吐出管21で接続している。第2のポート12Bは、室外熱交換器13の一方の冷媒出入口との間を室外冷媒管23で接続している。第3のポート12Cは、アキュムレータ17の冷媒流入側との間を室外冷媒管26で接続している。そして、第4のポート12Dは、第2の閉鎖弁16との間を室外ガス管24で接続している。
【0014】
室外熱交換器13は、冷媒と、室外機ファン18の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気とを熱交換させる。室外熱交換器13は、その一方の冷媒出入口と四方弁12の第2のポート12Bとの間を室外冷媒管26で接続している。室外熱交換器13は、その他方の冷媒出入口と第1の閉鎖弁15との間を室外液管25で接続している。室外熱交換器13は、空気調和機1が冷房運転を行う場合に凝縮器として機能し、空気調和機1が暖房運転を行う場合に蒸発器として機能する。
【0015】
室外機膨張弁14は、室外液管25に設けられており、図示しないパルスモータで駆動する電子膨張弁である。室外機膨張弁14は、パルスモータに与えられるパルス数に応じて開度が調整されることで、室外熱交換器13に流入する冷媒量、又は、室外熱交換器13から流出する冷媒量を調整するものである。室外機膨張弁14の開度は、空気調和機1が暖房運転を行っている場合、圧縮機11の冷媒吸入側の冷媒過熱度が目標吸入過熱度となるように調整される。また、室外機膨張弁14の開度は、空気調和機1が冷房運転を行っている場合、全開とされる。
【0016】
アキュムレータ17は、その冷媒流入側と四方弁12の第3のポート12Cとの間を室外冷媒管26で接続している。更に、アキュムレータ17は、その冷媒流出側と圧縮機11の冷媒流入側との間を吸入管22で接続している。アキュムレータ17は、室外冷媒管26からアキュムレータ17の内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒とに分離し、ガス冷媒のみを圧縮機11に吸入させる。
【0017】
室外機ファン18は、樹脂材で形成されており、室外熱交換器13の近傍に配置されている。室外機ファン18は、図示しないファンモータの回転に応じて、図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器13において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。
【0018】
また、室外機2には、複数のセンサが配置されている。吐出管21には、圧縮機11から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧センサ31と、圧縮機11から吐出された冷媒の温度、すなわち吐出温度を検出する吐出温度センサ32とが配置されている。室外冷媒管26のアキュムレータ17の冷媒流入口近傍には、圧縮機11に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力センサ33と、圧縮機11に吸入される冷媒の温度を検出する吸入温度センサ34とが配置されている。
【0019】
室外熱交換器13と室外機膨張弁14との間の室外液管25には、室外熱交換器13に流入する冷媒の温度、又は、室外熱交換器13から流出する冷媒の温度を検出するための冷媒温度センサ35が配置されている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ36が配置されている。
【0020】
制御回路19は、空気調和機1全体を制御する。
図3は、室外機2の制御回路19の一例を示すブロック図である。制御回路19は、取得部41と、通信部42と、記憶部43と、制御部44と、冷媒量推定部45と、異常推定部46とを有する。取得部41は、前述した各種センサである検出部のセンサ値を取得する。通信部42は、各室内機3の通信部と通信する通信インタフェースである。記憶部43は、例えば、フラッシュメモリであって、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値等の運転状態量、圧縮機11や室外機ファン18の駆動状態、各室内機3から送信される運転情報(例えば、運転・停止情報、冷房/暖房等の運転モード等を含む)、室外機2の定格能力及び各室内機3の要求能力、などを記憶する。更に、記憶部43は、後述する異常ログを格納する異常ログ格納部43Aを有する。
【0021】
制御部44は、通信部42を介して各種センサでの検出値を定期的(例えば、30秒毎)に取り込み、各室内機3から送信される運転状態量を含む信号が通信部42を介して入力される。制御部44は、これら入力された各種情報に基づいて、室外機膨張弁14の開度調整や圧縮機11の駆動制御を行う。
【0022】
冷媒量推定部45は、冷媒回路6の冷媒量に関係する運転状態量を第1の特徴量とした場合、第1の特徴量の検出値を用いて、冷媒回路6の冷媒不足率を推定する冷媒量推定モデル45Aを有する。本実施例では、冷媒回路6に残存する冷媒量として、例えば、相対的な冷媒量を用いている。具体的には、冷媒量推定モデル45Aは、冷媒回路6の冷媒不足率(冷媒が規定量充填されているときを100%としたとき、この規定量からの減少分を指す。以下、同様)を推定するモデルである。冷媒量推定モデル45Aは、第1の冷房用推定モデル45A1と、第2の冷房用推定モデル45A2と、第3の冷房用推定モデル45A3と、第1の暖房用推定モデル45A4と、第2の暖房用推定モデル45A5と、第3の暖房用推定モデル45A6とを有する。これら各冷媒量推定モデル45Aについては、後に詳細に説明する。
【0023】
図4は、室外機2と各室内機3との組み合わせを一組とした組み分けの一例を示す説明図である。尚、説明の便宜上、空気調和機1の室外機2を例えば1台、室外機2に接続する室内機3(3A、3B,3C,3D)を例えば4台とした場合で説明する。この例では、1台の室外機2と1台の室内機3とを一組とし、室外機2と室内機3Aとの組をP1、室外機2と室内機3Bとの組をP2、室外機2と室内機3Cとの組をP3、室外機2と室内機3Dとの組をP4とする。
【0024】
異常推定部46は、運転状態量の内、冷媒回路6の異常に関係する第2の特徴量の検出値を用いて、室外機2及び室内機3の組P1~P4毎の冷媒回路6の異常又は正常を推定する異常推定モデル46Aを有する。異常推定部46は、組P1~P4毎に冷媒回路6の異常を推定する。いずれかの組で冷媒回路6の異常が発生していると推定した場合は、当該組の室内機3が原因で異常が発生したと推定する。更に、異常推定部46は、全ての組P1~P4で異常が発生していると推定した場合は、室外機2が原因で異常が発生したと推定する。
【0025】
異常推定モデル46Aは、空気調和機1が冷房運転を行っているときに使用する冷房時異常推定モデル46Bと、空気調和機1が暖房運転を行っているときに使用する暖房時異常推定モデル46Cとを有する。また、異常推定部46は、組P1~P4毎の異常推定結果に基づき、冷媒回路6の異常の要因である室外機2又は室内機3を特定可能にする判定部46Dを有する。これら各異常推定モデル46Aについては、後に詳細に説明する。
【0026】
<室内機の構成>
図2に示すように、室内機3は、室内熱交換器51と、室内機膨張弁52と、液管接続部53と、ガス管接続部54と、室内機ファン55とを有する。これら室内熱交換器51、室内機膨張弁52、液管接続部53及びガス管接続部54は、後述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路6の一部を成す室内機冷媒回路を構成する。
【0027】
室内熱交換器51は、冷媒と、室内機ファン55の回転により図示しない吸込口から室内機3の内部に取り込まれた室内空気とを熱交換させる。室内熱交換器51は、その一方の冷媒出入口と液管接続部53との間を室内液管56で接続している。また、室内熱交換器51は、その他方の冷媒出入口とガス管接続部54との間を室内ガス管57で接続している。室内熱交換器51は、空気調和機1が暖房運転を行う場合、凝縮器として機能する。これに対して、室内熱交換器51は、空気調和機1が冷房運転を行う場合、蒸発器として機能する。
【0028】
室内機膨張弁52は、室内液管56に設けられており、電子膨張弁である。室内熱交換器51が蒸発器として機能する場合、すなわち、室内機3が冷房運転を行う場合、室内機膨張弁52の開度は、室内熱交換器51の冷媒出口(ガス管接続部54側)での冷媒過熱度が目標冷媒過熱度となるように調整される。また、室内熱交換器51が凝縮器として機能する場合、すなわち室内機3が暖房運転を行う場合、室内機膨張弁52の開度は、室内熱交換器51の冷媒出口(液管接続部53側)での冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となるように調整される。ここで、目標冷媒過熱度や目標冷媒過冷却度とは、室内機3で十分な冷房能力あるいは暖房能力を発揮するのに必要な冷媒過熱度および冷媒過冷却度である。
【0029】
室内機ファン55は、樹脂材で形成されており、室内熱交換器51の近傍に配置されている。室内機ファン55は、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機3の内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器51において冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ放出する。
【0030】
室内機3には各種のセンサが設けられている。室内液管56には、室内熱交換器51と室内機膨張弁52との間に、室内熱交換器51に流入する冷媒の温度(冷房運転時の室内機側熱交入口温度)、又は室内熱交換器51から流出する冷媒の温度(暖房運転時の室内機側熱交出口温度)を検出する液側冷媒温度センサ61が配置されている。室内ガス管57には、室内熱交換器51から流出する冷媒の温度(冷房運転時の室内機側熱交出口温度)、又は室内熱交換器51に流入する冷媒の温度(暖房運転時の室内機側熱交入口温度)を検出するガス側温度センサ62が配置されている。室内機3の図示しない吸込口付近には、室内機3の内部に流入する室内空気の温度、すなわち吸込温度を検出する吸込温度センサ63が配置されている。
【0031】
<冷媒回路の動作>
次に、本実施形態における空気調和機1の空調運転時の冷媒回路6における冷媒の流れや各部の動作について説明する。尚、
図1における矢印は暖房運転時の冷媒の流れを示している。
【0032】
空気調和機1が暖房運転を行う場合、四方弁12は、第1のポート12Aと第4のポート12Dとが連通し、第2のポート12Bと第3のポート12Cとが連通するように切替えている。これにより、冷媒回路6は、各室内熱交換器51が凝縮器として機能し、室外熱交換器13が蒸発器として機能する暖房サイクルとなる。尚、説明の便宜上、暖房運転時の冷媒の流れは、
図2に示す実線矢印で表記する。
【0033】
冷媒回路6が上記の状態で圧縮機11が駆動すると、圧縮機11から吐出された冷媒は、吐出管21を流れて四方弁12に流入し、四方弁12から室外ガス管24を流れて、第2の閉鎖弁16を介してガス管5へと流入する。ガス管5を流れる冷媒は、各ガス管接続部54を介して各室内機3に分流する。各室内機3に流入した冷媒は、各室内ガス管57を流れて各室内熱交換器51に流入する。各室内熱交換器51に流入した冷媒は、各室内機ファン55の回転により各室内機3の内部に取り込まれた室内空気との間で熱交換することで凝縮する。つまり、各室内熱交換器51が凝縮器として機能し、各室内熱交換器51で冷媒によって加熱された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることで、各室内機3が設置された室内の暖房が行われる。
【0034】
各室内熱交換器51から各室内液管56に流入した冷媒は、各室内熱交換器51の冷媒出口側での冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となるように開度が調整された各室内機膨張弁52を通過して減圧される。ここで、目標冷媒過冷却度は、各室内機3で要求される冷房能力に基づいて定められるものである。
【0035】
各室内機膨張弁52で減圧された冷媒は、各室内液管56から各液管接続部53を介して液管4に流出する。液管4で合流した冷媒は、第1の閉鎖弁15を介して室外機2に流入する。室外機2の第1の閉鎖弁15に流入した冷媒は、室外液管25を流れ、室外機膨張弁14を通過して減圧される。室外機膨張弁14で減圧された冷媒は、室外液管25を流れて室外熱交換器13に流入し、室外機ファン18の回転によって室外機2の図示しない吸込口から流入した外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器13から室外冷媒管26へと流出した冷媒は、四方弁12、室外冷媒管26、アキュムレータ17及び吸入管22の順に流入し、圧縮機11に吸入されて再び圧縮され、四方弁12の第1のポート12A及び第4のポート12D経由で室外ガス管24に流出する。
【0036】
また、空気調和機1が冷房運転を行う場合、四方弁12は、第1のポート12Aと第2のポート12Bとが連通し、第3のポート12Cと第4のポート12Dとが連通するように切替えている。これにより、冷媒回路6は、各室内熱交換器51が蒸発器として機能し、室外熱交換器13が凝縮器として機能する冷房サイクルとなる。尚、説明の便宜上、冷房運転時の冷媒の流れは、
図2に示す破線矢印で表記する。
【0037】
冷媒回路6の状態で圧縮機11が駆動すると、圧縮機11から吐出された冷媒は、吐出管21を流れて四方弁12に流入し、四方弁12から室外冷媒管26を流れて、室外熱交換器13に流入する。室外熱交換器13に流入した冷媒は、室外機ファン18の回転により室外機2の内部に取り込まれた室外空気との間で熱交換することで凝縮する。つまり、室外熱交換器13が凝縮器として機能し、室外熱交換器13で冷媒によって加熱された室内空気が図示しない吹出口から室外に吹き出す。
【0038】
室外熱交換器13から室外液管25へと流入した冷媒は、開度が全開とされている室外機膨張弁14を通過して減圧される。室外機膨張弁14で減圧された冷媒は、第1の閉鎖弁15を介して液管4を流れて各室内機3に分流する。各室内機3に流入した冷媒は、各液管接続部53を通じて室内液管56を流れて室内熱交換器51の冷媒出口で冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となる開度に調整された室内機膨張弁52を通過して減圧される。室内機膨張弁52で減圧された冷媒は、室内液管56を流れて室内熱交換器51に流入し、室内機ファン55の回転によって室内機3の図示しない吸入口から流入した室内空気と熱交換を行って蒸発する。つまり、各室内熱交換器51が蒸発器として機能し、各室内熱交換器51で冷媒によって冷却された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることで、各室内機3が設置された室内の冷房が行われる。
【0039】
室内熱交換器51からガス管接続部54を介してガス管5へ流れる冷媒は、室外機2の第2の閉鎖弁16を介して室外ガス管24に流れて四方弁12の第4のポート12Dに流入する。四方弁12の第4のポート12Dに流入した冷媒は、第3のポート12Cからアキュムレータ17の冷媒流入側に流入する。アキュムレータ17の冷媒流入側から流入した冷媒は、吸入管22を介して流入し、圧縮機11に吸入されて再び圧縮されることになる。
【0040】
制御回路19内の取得部41は、室外機2内の吐出圧センサ31、吐出温度センサ32、吸入圧力センサ33、吸込温度センサ63、冷媒温度センサ35及び外気温度センサ36のセンサ値を取得する。更に、取得部41は、各室内機3の液側冷媒温度センサ61、ガス側温度センサ62及び吸込温度センサ63のセンサ値を取得する。
【0041】
図5は、空気調和機1の冷凍サイクルを示すモリエル線図である。空気調和機1の冷房運転時は、室外熱交換器13が凝縮器として機能し、室内熱交換器51が蒸発器として機能する。また、空気調和機1の暖房運転時は、室外熱交換器13が蒸発器として機能し、室内熱交換器51が凝縮器として機能する。
【0042】
圧縮機11は、蒸発器から流入する低温低圧のガス冷媒を圧縮して高温高圧のガス冷媒(
図5の点Bの状態になった冷媒)を吐出する。尚、圧縮機11が吐出するガス冷媒の温度が吐出温度であり、吐出温度は、吐出温度センサ32で検出する。
【0043】
凝縮器は、圧縮機11からの高温高圧のガス冷媒を空気と熱交換して凝縮させる。この際、凝縮器では、潜熱変化によってガス冷媒が全て液冷媒となった後は顕熱変化によって液冷媒の温度が低下して過冷却状態となる(
図5の点Cの状態)。尚、ガス冷媒が潜熱変化で液冷媒へと変化している際の温度が高圧飽和温度であり、凝縮器の出口における過冷却状態となっている冷媒の温度が熱交出口温度である。高圧飽和温度は、吐出圧力センサ31で検出した圧力値(
図5に「HPS」と表記している圧力値P2)に相当する温度である。熱交出口温度は、室外液管25を流れる冷媒の温度であって、冷媒温度センサ35で検出する。
【0044】
膨張弁は、凝縮器から流出した低温高圧の冷媒を減圧して、ガスと液とが混合した気液二相冷媒(
図5の点Dの状態になった冷媒)となる。
【0045】
蒸発器は、流入した気液二相冷媒を空気と熱交換して蒸発させる。この際、蒸発器では、潜熱変化によって気液二相冷媒が全てガス冷媒となった後は顕熱変化によってガス冷媒の温度が上昇して過熱状態(
図5の点Aの状態)となり、圧縮機11に吸入される。尚、液冷媒が潜熱変化でガス冷媒へと変化している際の温度が低圧飽和温度である。低圧飽和温度は、吸入圧力センサ33で検出した圧力値(
図5に「LPS」と表記している圧力値P1)に相当する温度である。また、蒸発器で過熱されて圧縮機11に吸入される冷媒の温度が吸入温度である。吸入温度は、吸入温度センサ34で検出する。
【0046】
なお、凝縮器から流出する際に過冷却状態となっている冷媒の冷媒過冷却度は、高圧飽和温度から凝縮器として機能している熱交換器の冷媒出口における冷媒温度(上述した熱交出口温度)を減じて算出できる。また、蒸発器から流出する際に過熱状態となっている冷媒の吸入過熱度は、低圧飽和温度から吸入温度を減じて算出できる。
【0047】
<第1の特徴量>
図6は、第1~第3の冷房用推定モデル45A1、45A2、45A3に使用する第1の特徴量と、冷房時異常推定モデル46Bに使用する第2の特徴量との一例を示す説明図である。冷媒量推定モデル45Aに使用する運転状態量として第1の特徴量がある。第1~第3の冷房用推定モデル45A1、45A2、45A3に使用する第1の特徴量としては、例えば、圧縮機11の回転数、高圧飽和温度、吸入温度、低圧冷媒温度、冷媒過冷却度(室外熱交サブクール)及び外気温度がある。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。高圧飽和温度は、吐出圧力センサ31で検出した圧力値を温度変換した値である。吸入温度は、吸入温度センサ34で検出する。低圧冷媒温度は、蒸発器で過熱されて圧縮機11に吸入される冷媒の温度である。冷媒過冷却度は、例えば、(高圧飽和温度-室外熱交出口温度)で算出した値である。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。なお、室外熱交出口温度は、冷媒温度センサ35で検出する。例えば、回転数センサ、吐出圧力センサ31、吸入温度センサ34、外気温度センサ36や冷媒温度センサ35等の検出部で第1~第3の冷房用推定モデル45A1、45A2及び45A3に使用する第1の特徴量を含む運転状態量を定期的に検出する。尚、空気調和機1が稼働中の場合、制御部44は検出部に対して定期的(例えば、10分毎)に運転状態量を取得するよう指示する。指示を受けた検出部は、空気調和機1に設けられた各種センサから運転状態量を検出する。定期的に取得された運転状態量には取得時刻情報も付与されることになる。
【0048】
図7は、第1~第3の暖房用推定モデル45A4、45A5、45A6に使用する第1の特徴量と、暖房時異常推定モデル46Cに使用する第2の特徴量との一例を示す説明図である。第1~第3の暖房用推定モデル45A4、45A5、45A6に使用する第1の特徴量としては、例えば、室外機膨張弁14の開度、圧縮機11の回転数、吸入過熱度及び外気温度がある。室外機膨張弁14の開度は、制御部44が室外機膨張弁14の図示しないステッピングモータに与えるパルス数である。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。吸入過熱度は、例えば、(吸入温度-低圧飽和温度)で算出した値である。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。吸入温度は吸入温度センサ34で検出し、低圧飽和温度は吸入圧力センサ33で検出した圧力値を温度変換した値である。尚、例えば、回転数センサ、吸入温度センサ34や外気温度センサ36等の検出部で第1~第3の暖房用推定モデル45A4、45A5及び45A6に使用する第1の特徴量を含む運転状態量を定期的に検出する。
【0049】
<第2の特徴量>
異常推定モデル46Aに使用する運転状態量として、冷媒回路6の異常に関係する第2の特徴量がある。異常推定モデル46Aの生成に使用する第2の特徴量は、例えば、コンピュータ上に冷媒回路6を実現し数値解析を行って(以降、数値解析を行うことをシミュレーションするとも記載する)冷媒回路6の動作が正常、かつ、残存冷媒量のみ変化させたときに得られる値である。尚、異常推定モデル46Aの生成に使用する第2の特徴量は、シミュレーション値(単に「値」とする場合あり)と表現する。第2の特徴量は、第1の特徴量に含まれる少なくとも1つの運転状態量と、第1の特徴量に含まれない少なくとも1つの運転状態量とを含む。
【0050】
冷房時異常推定モデル46Bに使用する第2の特徴量としては、
図6に示すように、例えば、圧縮機11の回転数、高圧飽和温度、吸入温度、低圧冷媒温度、外気温度、高圧センサ(HPS)及び熱交出口温度がある。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。高圧飽和温度は、吐出圧力センサ31で検出した圧力値を温度変換した値である。吸入温度は、吸入温度センサ34で検出する。低圧冷媒温度は、蒸発器で過熱されて圧縮機11に吸入される冷媒の温度である。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。高圧センサは、吐出圧力センサ31で検出した圧力値である。熱交出口温度は、冷媒温度センサ35で検出する。尚、例えば、回転数センサ、吐出圧力センサ31、吸入温度センサ34、外気温度センサ36や冷媒温度センサ35等の検出部で冷房時異常推定モデル46Bに使用する第2の特徴量を含む運転状態量を定期的に検出する。
【0051】
また、暖房時異常推定モデル46Cに使用する第2の特徴量としては、
図7に示すように、例えば、室外機膨張弁14、圧縮機11の回転数、外気温度、吐出温度、吸入温度、低圧飽和温度及び低圧センサ(LPS)がある。室外機膨張弁14の開度は、図示しないセンサで検出する。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。吐出温度は、吐出温度センサ32で検出する。吸入温度は、吸入温度センサ34で検出する。低圧飽和温度は、吸入圧力センサ33で検出した圧力値を温度変換した値である。低圧センサは、吸入圧力センサ33で検出した圧力値である。尚、例えば、回転数センサ、吸入温度センサ34、外気温度センサ36や吸入圧力センサ33等の検出部で暖房時異常推定モデル46Cに使用する第2の特徴量を含む運転状態量を定期的に検出する。
【0052】
冷房時異常推定モデル46B及び暖房時異常推定モデル46Cで共通に使用する第2の特徴量としては、室外機2側の運転状態量である、圧縮機11の回転数と吸入温度とがある。
【0053】
また、冷房時異常推定モデル46B及び暖房時異常推定モデル46Cで共通に使用する第2の特徴量としては、室内機3側の運転状態量、例えば、室内機側熱交入口温度(冷房運転時:液側温度センサ61で検出/暖房運転時:ガス側温度センサ62で検出)、室内機側熱交出口温度(冷房運転時:ガス側温度センサ62で検出/暖房運転時:液側温度センサ61で検出)及び室内機膨張弁52の開度がある。尚、室内機3側の第2の特徴量は、例えば、室内機側熱交入口温度、室内機側熱交出口温度及び室内機膨張弁52の開度を例示したが、室内機3がダクト型、天カセ型等の種別が異なる場合でも共通に取得可能な特徴量である。
【0054】
<冷媒量推定モデルの構成>
冷媒量推定モデル45Aは、第1の特徴量の検出値を用いて生成される。冷媒量推定部45は、冷媒量推定モデル45Aを生成する際とは異なるタイミングで取得した第1の特徴量の検出値を冷媒量推定モデル45Aに適用して冷媒回路6の冷媒不足率を推定する。
【0055】
冷媒量推定モデル45Aは、複数の運転状態量の内、任意の運転状態量(第1の特徴量の検出値)を用いて回帰分析法の一種である重回帰分析法で生成されている。重回帰分析法では、複数のシミュレーション結果(数値計算により冷媒回路6を再現して、残存する冷媒量に対して運転状態量がどのような値となるかを計算した結果)から得られた回帰式のうち、P値(生成した推定モデルの精度に運転状態量が与える影響度合いを示す値(所定の重みパラメータ))が一番小さく、かつ、補正値R2(生成した冷媒量推定モデル45Aの精度を示す値)が0.9~1.0の間のできるだけ大きい値となる回帰式を選択して冷媒量推定モデル45Aとして生成する。ここで、P値および補正値R2は、重回帰分析法で冷媒量推定モデル45Aを生成する際に、当該冷媒量推定モデル45Aの精度に関わる値であり、P値が小さいほど、また、補正値R2が1.0に近い値であるほど、生成された冷媒量推定モデル45Aの精度が高くなる。その結果、冷房時の冷媒不足率が0~30%の場合では、例えば、冷媒過冷却度、外気温度、高圧飽和温度及び圧縮機11の回転数といった運転状態量を第1の特徴量とする。冷房時の冷媒不足率が40~70%の場合では、例えば、吸入温度、外気温度及び圧縮機11の回転数といった運転状態量を第1の特徴量とする。暖房時の冷媒不足率が0~20%の場合では、例えば、運転状態量として室外機膨張弁14の開度を特徴量とする。また、暖房時の冷媒不足率が30%~70%の場合では、例えば、吸入過熱度(吸入温度-低圧飽和温度)、外気温度、圧縮機11の回転数及び室外機膨張弁14といった運転状態量を第1の特徴量とする。
【0056】
冷媒量推定モデル45Aは、前述したように第1の冷房用推定モデル45A1と、第2の冷房用推定モデル45A2と、第3の冷房用推定モデル45A3と、第1の暖房用推定モデル45A4と、第2の暖房用推定モデル45A5と、第3の暖房用推定モデル45A6とを有する。本実施例では、これら各推定モデルは、後述するシミュレーション結果を用いて生成されて、予め空気調和機1の制御回路19内の冷媒量推定部45に記憶されている。
【0057】
第1の冷房用推定モデル45A1は、冷媒不足率が0%~30%(第1の範囲)の場合に有効な冷媒量推定モデル45Aであって、冷媒不足率を高精度に推定できる第1の回帰式である。第1の回帰式は、例えば、(α1×冷媒過冷却度)+(α2×外気温度)+(α3×高圧飽和温度)+(α4×圧縮機11の回転数)+α5である。係数α1~α5は、推定モデル生成の際に決定されるものとする。冷媒量推定部45は、第1の回帰式に、取得部41にて取得された現在の冷媒過冷却度、外気温度、高圧飽和温度及び圧縮機11の回転数を代入することで、現時点での冷媒回路6の冷媒不足率を算出する。尚、冷媒過冷却度、外気温度、高圧飽和温度及び圧縮機11の回転数を代入する理由は、第1の冷房用推定モデル45A1の生成時に使用した第1の特徴量を使用するためである。冷媒過冷却度は、例えば、(高圧飽和温度-熱交出口温度)で算出できる。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。高圧飽和温度は、吐出圧力センサ31で検出した圧力値を温度変換した値である。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。
【0058】
第2の冷房用推定モデル45A2は、冷媒不足率が40%~70%(第2の範囲)の場合に有効な冷媒量推定モデル45Aであって、冷媒不足率を高精度に推定できる第2の回帰式である。第2の回帰式は、例えば、(α11×吸入温度)+(α12×外気温度)+(α13×圧縮機11の回転数)+α14である。係数α11~α14は、推定モデル生成の際に決定されるものとする。冷媒量推定部45は、第2の回帰式に、取得部41にて取得された現在の吸入温度、外気温度及び圧縮機11の回転数を代入することで、現時点での冷媒回路6の冷媒不足率を算出する。尚、吸入温度、外気温度及び圧縮機11の回転数を代入する理由は、第2の冷房用推定モデル45A2の生成時に使用した特徴量を使用するためである。吸入温度は、吸入温度センサ34で検出する。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。
【0059】
ところで、前述したように、第1の回帰式で求めることができる冷媒不足率は0%~30%であり、第2の回帰式で求めることができる冷媒不足率は40%~70%である。この場合、冷媒不足率が30%~40%である場合は、第1の回帰式を用いると冷媒不足率は30%と算出され、第2の回帰式を用いると冷媒不足率は40%と算出される。つまり、冷媒不足率が30%~40%である場合に、冷媒不足率が30%以下での寄与度の高い冷媒過冷却度、冷媒不足率が40%以上での寄与度の高い吸入温度の何れも変化が小さく、有効な推定モデルを生成できない。従って、第1の回帰式あるいは第2の回帰式を用いると、
図8Aに示すようにどちらのモデルを使用するのかによって冷媒不足率が大きく異なる。
【0060】
第3の冷房用推定モデル45A3は、上記のような第1の回帰式あるいは第2の回帰式のいずれを使用しても冷媒不足率を推定できない範囲も含めて、冷媒不足率が0%~70%の範囲をカバーできる冷房時冷媒不足率算出式である。
図8Bに示すように、冷房時冷媒不足率算出式は、第1の回帰式の推定結果である冷媒不足率と第2の回帰式の推定結果である冷媒不足率との間を、シグモイド係数を使用したシグモイド曲線で連続的につなぐものである。具体的には、冷房時冷媒不足率算出式は、(シグモイド係数×第1の回帰式で求めた冷媒不足率)+((1-シグモイド係数)×第2の回帰式で求めた冷媒不足率)である。冷媒量推定部45は、第1の回帰式および第2の回帰式に取得部41にて取得された現在の運転状態量を代入してそれぞれ算出された冷媒不足率を冷房時冷媒不足率算出式に代入して、現時点での冷媒回路6の冷媒不足率を算出する。
【0061】
ここで、シグモイド係数の算出は、運転状態量のいずれかを用いる。本実施例では、サブクールが0となると第1の回帰式による結果がほぼ一定となってしまうことを考慮し、サブクールが5℃のときに、シグモイド係数が0.5となる計算式とした。
【0062】
p=1/(1+exp(-(sc-5)))
p:シグモイド係数
sc:サブクール値
【0063】
このようにシグモイド係数を決定して第3の冷房用推定モデル45A3に用いることで、冷媒不足率が0%~30%、つまり、冷媒不足率が第1の範囲であるときは、第3の冷房用推定モデル45A3による推定値において第1の冷房用推定モデル45A1の推定値が支配的となり、また、冷媒不足率が40%~70%、つまり、冷媒不足率が第2の範囲であるときは、第3の冷房用推定モデル45A3による推定値において第2の冷房用推定モデル45A2の推定値が支配的となる。
【0064】
なお、シグモイド係数の算出は上述した方法に限らず、実際の冷媒不足率が30%以上であるとき、つまり、実際の冷媒不足率が第1の範囲でないときは、第3の冷房用推定モデル45A3による推定値において第2の冷房用推定モデル45A2の推定値が支配的となるように、また、実際の冷媒不足率が40%以下であるとき、つまり、実際の冷媒不足率が第2の範囲でないときは、第3の冷房用推定モデル45A3による推定値において第1の冷房用推定モデル45A1の推定値が支配的となるように、シグモイド係数を決定すればよい。
【0065】
第1の暖房用推定モデル45A4は、冷媒不足率が0%~20%(第3の範囲)の場合に有効な冷媒量推定モデル45Aであって、冷媒不足率を高精度に推定できる第4の回帰式である。第4の回帰式は、例えば、(α31×室外機膨張弁14の開度)+α32である。冷媒量推定部45は、第4の回帰式に、取得部41にて取得された現在の室外機膨張弁14の開度を代入することで、冷媒不足率を算出する。尚、室外機膨張弁14の開度を代入する理由は、第1の暖房用推定モデル45A4の生成時に使用した特徴量を使用するためである。
【0066】
第2の暖房用推定モデル45A5は、冷媒不足率が30%~70%(第4の範囲)の場合に有効な冷媒量推定モデル45Aであって、冷媒不足率を高精度に推定できる第5の回帰式である。第5の回帰式は、例えば、(α41×吸入過熱度)+(α42×外気温度)+(α43×圧縮機11の回転数)+(α44×室外機膨張弁14の開度)+α45である。係数α41~α45は、推定モデル生成の際に決定されるものとする。冷媒量推定部45は、第5の回帰式に、取得部41にて取得された現在の吸入過熱度、外気温度、圧縮機11の回転数及びメイン側の膨張弁の開度を代入することで、現時点での冷媒回路6の冷媒不足率を算出する。尚、吸入過熱度、外気温度、圧縮機11の回転数及び室外機膨張弁14の開度を代入する理由は、第2の暖房用推定モデル45A5の生成時に使用した特徴量を使用するためである。吸入過熱度は、例えば、(吸入温度-低圧飽和温度)で算出できる。外気温度は、外気温度センサ36で検出する。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。室外機膨張弁14の開度は、図示しないセンサで検出する。
【0067】
また、前述したように、第4の回帰式で求めることができる冷媒不足率は0%~20%であり、第5の回帰式で求めることができる冷媒不足率は30%~70%である。この場合、冷媒不足率が20%~30%である場合は、第4の回帰式を用いると冷媒不足率は20%と算出され、第5の回帰式を用いると冷媒不足率は30%と算出される。つまり、冷媒不足率が20%~30%である場合に、冷媒不足率が20%以下での寄与度の高い室外機膨張弁14の開度、冷媒不足率が30%以上での寄与度の高い吸入過熱度の何れも変化が小さく、有効な推定モデルを生成できない。従って、第4の回帰式あるいは第5の回帰式を用いると、
図9Aに示すようにどちらのモデルを使用するのかによって冷媒不足率が大きく異なる。
【0068】
第3の暖房用推定モデル45A6は、上記のような第4の回帰式あるいは第5の回帰式のいずれを使用しても冷媒不足率を推定できない範囲も含めて、冷媒不足率が0%~70%の範囲をカバーできる暖房時冷媒不足率算出式である。
図9Bに示すように、暖房時冷媒不足率算出式は、第4の回帰式の推定結果である冷媒不足率と第5の回帰式の推定結果である冷媒不足率との間を、シグモイド係数を使用したシグモイド曲線で連続的に繋ぐものである。具体的には、暖房時冷媒不足率算出式は、(シグモイド係数×第5の回帰式で求めた冷媒不足率)+((1-シグモイド係数)×第4の回帰式で求めた冷媒不足率)である。冷媒量推定部45は、第4の回帰式および第5の回帰式に取得部41にて取得された現在の運転状態量を代入してそれぞれ算出された冷媒不足率を暖房時冷媒不足率算出式に代入して、現時点での冷媒回路6の冷媒不足率を算出する。
【0069】
ここで、シグモイド係数の算出は、冷房運転時と同様に運転状態量のいずれかを用いる。本実施例では、室外機膨張弁14の開度を全閉:0/全開:100としたときに室外機膨張弁14の開度が全開となると第4の回帰式による結果がほぼ一定となってしまうことを考慮し、室外機膨張弁14の開度が90のときに、シグモイド係数が0.5となる計算式とした。
【0070】
p=1/(1+exp(-(D/10-45)))
p:シグモイド係数
D: 室外機膨張弁14の開度
【0071】
このようにシグモイド係数を決定して第3の暖房用推定モデル45A6に用いることで、冷媒不足率が0%~20%、つまり、冷媒不足率が第3の範囲であるときは、第3の暖房用推定モデル45A6による推定値において第1の暖房用推定モデル45A4の推定値が支配的となり、また、冷媒不足率が30%~70%、つまり、冷媒不足率が第4の範囲であるときは、第3の暖房用推定モデル45A6による推定値において第2の暖房用推定モデル45A5の推定値が支配的となる。
【0072】
なお、シグモイド係数の算出は上述した方法に限らず、実際の冷媒不足率が20%以上であるとき、つまり、実際の冷媒不足率が第3の範囲でないときは、第3の暖房用推定モデル45A6による推定値において第2の暖房用推定モデル45A5の推定値が支配的となるように、また、実際の冷媒不足率が30%以下であるとき、つまり、実際の冷媒不足率が第4の範囲でないときは、第3の暖房用推定モデル45A6による推定値において第1の暖房用推定モデル45A4の推定値が支配的となるように、シグモイド係数を決定すればよい。
【0073】
以上に説明したように、冷房運転時は、第1の回帰式、第2の回帰式及び冷房時冷媒不足率算出式を使用して冷媒不足率を推定する。冷房時の冷媒過冷却度が第1の閾値(
図8A及び
図8BのTv1)より大きい値である場合は、第1の回帰式を選択する方が第2の回帰式を選択するより冷媒不足率を精度よく推定できる。また、冷房時の冷媒過冷却度が第1の閾値より小さい値である場合は、第2の回帰式を選択する方が第1の回帰式を選択するより冷媒不足率を精度よく推定できる。そして、冷房時の冷媒過冷却度が第1の閾値付近の値である場合は、いずれの回帰式を用いるかで冷媒不足率の推定値が大きく変わる。そこで、冷房時は、第1の回帰式と第2の回帰式とを含んだ冷房時冷媒不足率算出式を選択する。これにより、冷房時の冷媒不足率を精度よく推定できる。
【0074】
また、暖房運転時は、第4の回帰式、第5の回帰式及び暖房時冷媒不足率算出式を使用して冷媒不足率を推定する。暖房時の室外機膨張弁14の開度が第2の閾値未満(
図9A及び
図9BのTv2)の場合は、第4の回帰式を選択する方が第5の回帰式を選択するよりもりも冷媒不足率を精度よく推定できる。また、暖房時の室外機膨張弁14の開度が第2の閾値未満でない場合は、第5の回帰式を選択する方が第4の回帰式を選択するより冷媒不足率を精度よく推定できる。そして、暖房時の室外機膨張弁14の開度が第1の閾値付近の値である場合は、いずれの回帰式を用いるかで冷媒不足率の推定値が大きく変わる。そこで、暖房時は、第4の回帰式と第5の回帰式とを含んだ暖房時冷媒不足率算出式を選択する。これにより、暖房時の冷媒不足率を精度よく推定できる。
【0075】
<異常推定モデルの構成>
異常推定モデル46Aは、冷媒回路6の動作が正常、かつ、残存冷媒量のみ変化させたときの冷媒回路6の動作をシミュレーションした結果によって得られる第2の特徴量の値であるシミュレーション値を用いて生成される。異常推定部46は、稼働中の空気調和機1から取得した組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値を異常推定モデル46Aに適用して、組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値が異常又は正常であるかを推定する。つまり、異常推定部46は、組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値が異常の場合、組P1~P4毎の冷媒回路6の異常発生と推定する。異常推定部46は、組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値が正常の場合、組P1~P4毎の冷媒回路6が正常と推定する。
【0076】
異常推定モデル46Aの生成には、例えば、カーネル密度推定法を採用している。カーネル密度推定法では、有限の標本点から全体の分布を推定する方法である。異常推定モデル46Aは、有限の標本点から推定された全体の分布の密度関数に基づいて、密度関数の極大値(クラスタ(類似性を持つデータの集まり)の中心)からの外れ度合い(以下、外れ値ともいう)を算出する。そして、判別モデル46Aは、判別対象となるデータが入力されると、そのデータの外れ値を算出し、その外れ値が所定範囲内か否か(判別対象となるデータがクラスタに含まれるか否か)を判別する。
【0077】
図10は、異常推定モデル46Aの第2の特徴量の検出値の分布方法の一例を示す説明図である。異常推定モデル46Aは、
図10に示すように、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値(以下、「第2の特徴量のシミュレーション値」ともいう)の集合を1つのクラスタとして正常と分類する。定常状態の第2の特徴量の検出値は、正常な冷媒回路6の動作をシミュレーションした第2の特徴量の検出値である。シミュレーションの条件は、冷媒回路6が正常な状態における定常状態であるか、又は冷媒の充填量を減少させた状態(冷媒漏洩状態)である。正常な状態での第2の特徴量のシミュレーション値は、空気調和機1を構成する各要素(冷媒回路6、圧縮機、膨張弁など)が正常に動作する状態を想定してシミュレーションした場合に得られる第2の特徴量の値である。また、冷媒漏洩状態での第2の特徴量のシミュレーション値は、空気調和機を構成する各要素(冷媒回路6、圧縮機、膨張弁など)が正常に動作する状態を想定したうえで、冷媒回路6に残存する冷媒量のみ変化(減少)させた状態を想定してシミュレーションした場合に得られる第2の特徴量の値である。そして、異常推定モデル46Aに正常と分類されたクラスタから外れるような第2の特徴量の検出値が入力された場合に、この検出値を異常と分類する。尚、異常と分類される検出値は、
図10に示すように検出値をグラフ上にプロットしたとき、正常と分類されたクラスタから外れる検出値である。また、異常とは、冷媒回路6を構成する装置に故障が発生している可能性が高いことを示す状態である。
【0078】
異常推定モデル46Aは、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値と、稼働中の空気調和機1から取得した組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値との差異を数値化して外れ値を算出する。具体的には、異常推定モデル46Aは、異常推定モデル46Aの生成に使用した第2の特徴量の値を正常標本値(正常と分類されたクラスタ)とし、稼働中の空気調和機1の取得部41が取得した組毎の第2の特徴量の検出値について、正常標本値からの外れ度合いを示す外れ値を算出する。外れ値は、正常と分類されたクラスタの境界からどの程度外れているかの距離を数値化したもので、数値の絶対値が大きくなるに連れて外れ度合いが高くなる。外れ度合いが高くなるに連れて、第2の特徴量の検出値が異常である可能性が高くなる。
【0079】
図11は、外れ値による異常検知の例を示す説明図である。異常推定部46は、第2の特徴量の検出値の外れ値の絶対値が、例えば、「-150」の絶対値未満の場合は第2の特徴量の検出値が正常、第2の特徴量の検出値の外れ値の絶対値が、例えば、「-150」の絶対値以上の場合は第2の特徴量の検出値が異常と分類する。尚、外れ閾値Xは、空気調和機1の故障履歴を収集して実際に異常と判断された値を検証した結果に基づき、正常データを異常と誤判定しない程度の値に定める。異常推定部46は、算出した外れ値の絶対値が外れ閾値Xの絶対値以上の場合、第2の特徴量の検出値を異常と分類する。
【0080】
異常推定部46は、第2の特徴量の検出値が異常と分類された場合、当該第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を用いた冷媒量推定部45による冷媒不足率の推定動作を実行しない。更に、異常推定部46は、異常と分類された第2の特徴量の検出値を異常ログとして異常ログ格納部43Aに格納する。
【0081】
異常推定部46は、推定した外れ値の絶対値が外れ閾値Xの絶対値未満の場合、第2の特徴量の検出値を正常と分類する。この場合、異常推定部46は、当該第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を用いて冷媒量推定部45による冷媒不足率の推定動作を実行する。尚、異常推定部46は、冷媒漏洩状態のみに変化が生じた場合でも、第2の特徴量の検出値を正常と分類することになる。
【0082】
尚、説明の便宜上、外れ閾値Xは、例えば、「-150」に設定する場合を例示したが、故障履歴を収集して実際に異常と判断された値を検証した結果に基づき適宜調整しても良い。
【0083】
図12は、判定部46Dの判定結果の一例を示す説明図である。異常推定部46は、組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値を異常又は正常に分類する推定結果を出力する。判定部46Cは、組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値の推定結果を記憶する。判定部46Dは、組P1~P4の第2の特徴量の検出値の推定結果に異常があるか否かを判定する。判定部46Dは、各組P1~P4の第2の特徴量の検出値が異常であって、例えば、全組P1~P4の第2の特徴量の検出値が異常の場合、冷媒回路6の異常が全組P1~P4に共通する室外機2が原因の異常と判断する。判定部46Dは、各組P1~P4の第2の特徴量の検出値が異常であって、一部の組のみの第2の特徴量の検出値の異常がある場合、冷媒回路6の異常が当該異常の組の室内機3が原因の異常と判断する。
【0084】
判定部46Dは、
図12において、例えば、組P1、P2及びP4の第2の特徴量の検出値が正常、組P3の第2の特徴量の検出値が異常の場合、冷媒回路6の異常が組P3の室内機3Cが原因の異常と判断する。また、
図12に図示はしていないが、判定部46Dは、例えば、組P1及び組P2の第2の特徴量の検出値が正常、組3及び組4の第2の特徴量の検出値が異常と推定された場合、冷媒回路6の異常が組P3の室内機3C及び組P4の室内機3Dが原因による異常と判断する。
【0085】
<推定処理の動作>
図13は、推定処理に関わる制御回路19の処理動作の一例を示すフローチャートである。尚、制御回路19内の冷媒量推定部45は、事前に生成された第1の冷房用推定モデル45A1、第2の冷房用推定モデル45A2、第3の冷房用推定モデル45A3、第1の暖房用推定モデル45A4、第2の暖房用推定モデル45A5、第3の暖房用推定モデル45A6を保持しているものとする。更に、制御回路19内の異常推定部46は、事前に生成された冷房時異常推定モデル46B及び暖房時異常推定モデル46Cを保持しているものとする。推定処理は、検出部で順次検出した24時間分の10分毎の運転状態量を、例えば、1日1回の所定時間帯(例えば、夜間)に定期的に実行されるものである。尚、所定時間帯として夜間を例示したが、例えば、空気調和機1の運転頻度の少ない時間帯の夜間において、空気調和機1の運転停止後に1日分の運転状態量を取得するものである。また、所定時間帯としては、夜間ではなく、例えば、1カ月分の空気調和機1の稼働状態を見て、稼働していない所定時間を決定しても良い。
【0086】
図13において制御回路19内の制御部44は、取得部41を通じて運転状態量を運転データとして収集する(ステップS11)。制御部44は、収集した運転データから任意の運転状態量を抽出するデータフィルタリング処理を実行する(ステップS12)。制御部44は、データクレンジング処理を実行する(ステップS13)。更に、異常推定部46は、異常推定モデル46Aを使用してデータクレンジング処理実行後の第2の特徴量の検出値を正常又は異常に分類する、各組P1~P4の異常推定処理を実行する(ステップS14)。異常推定処理では、異常推定モデル46Aを使用して各組P1~P4の異常又は正常の分類結果を推定する。
【0087】
制御部44は、各組P1~P4の第2の特徴量の検出値に異常があるか否かを判定する(ステップS15)。推定部46は、各組P1~P4の第2の特徴量の検出値に異常がない場合(ステップS15:No)、正常と分類された組の第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を各冷媒量推定モデルに適用する残存冷媒量推定処理を実行する(ステップS16)。そして、冷媒量推定部46は、冷媒回路6の冷媒不足率を算出し(ステップS17)、
図13に示す処理動作を終了する。
【0088】
また、異常推定部46内の判定部46Dは、各組P1~P4の第2の特徴量の検出値に異常がある場合(ステップS15:Yes)、冷媒回路6の異常と判断し、全組P1~P4の第2の特徴量の検出値が異常であるか否かを判定する(ステップS18)。判定部46Dは、全組P1~P4の第2の特徴量の検出値の全てが異常である場合(ステップS18:Yes)、冷媒回路6の異常の原因が室外機2の異常によるものと判断する(ステップS19)。そして、異常推定部46は、異常出力処理を実行し(ステップS20)、
図13に示す処理動作を終了する。その結果、異常推定部46は、冷媒回路6の異常の原因が室外機2の異常によるものと特定できる。
【0089】
判定部46Dは、全組P1~P4の第2の特徴量の検出値の全てが異常でない場合(ステップS18:No)、一部の組のみの第2の特徴量の検出値が異常と判断する(ステップS21)。尚、判定部46Dは、一部の組のみの第2の特徴量の検出値が異常と判断した場合、異常が発生した組も特定できることは前述した通りである。更に、判定部46Dは、一部の組のみの第2の特徴量の検出値が異常と判断された場合、冷媒回路6の異常の原因が異常と判断された組の室内機3の異常によるものと判断し(ステップS22)、異常出力処理を実行すべく、ステップS20に戻る。その結果、異常推定部46は、複数の室内機3の内、冷媒回路6の異常の原因となる室内機3を特定できる。
【0090】
データフィルタリング処理は、複数の運転状態量の全てを使用するのではなく、所定フィルタ条件に基づき、複数の運転状態量の内、異常推定処理や冷媒不足率を算出するのに必要な一部の運転状態量(第1の特徴量の検出値及び第2の特徴量の検出値)のみを抽出する。生成された冷媒量推定モデル45Aや異常推定モデル46Aに、後述するデータフィルタリング処理を行った(異常値や突出値を除いた)第1の特徴量及び第2の特徴量の検出値を代入することで、より正確に第2の特徴量を用いた異常推定や、第1の特徴量を用いた冷媒不足率の推定が行える。
【0091】
所定のフィルタ条件は、第1のフィルタ条件と、第2のフィルタ条件と、第3のフィルタ条件とを有する。第1のフィルタ条件は、例えば、空気調和機1の全運転モード共通に抽出するデータのフィルタ条件である。第2のフィルタ条件は、冷房運転時に抽出するデータのフィルタ条件である。第3のフィルタ条件は、暖房運転時に抽出するデータのフィルタ条件である。
【0092】
第1のフィルタ条件は、例えば、圧縮機11の駆動状態、運転モードの識別、特殊運転の排除、取得した値における欠損値の排除、各回帰式の生成に際し与える影響の大きい運転状態量について変化量が小さい値の選択、等である。圧縮機11の駆動状態は、圧縮機が安定して運転していることで冷媒回路6に冷媒が循環していないと冷媒不足率を推定できないために判断する必要のある条件であり、圧縮機11の立ち上がり時等の過渡期に検出した運転状態量を除外するために設けられるフィルタ条件である。
【0093】
運転モードの識別とは、冷房運転時及び暖房運転時に取得した運転状態量のみを抽出するためのフィルタ条件である。従って、除湿運転時や送風運転時に取得した運転状態量は除外される。特殊運転の排除とは、例えば、油回収運転や除霜運転といった冷房運転時や暖房運転時と比べて冷媒回路6の状態が大きく異なる特殊運転時に取得した運転状態量を除外するフィルタ条件である。欠損値の排除とは、冷媒不足率の判定に使用する運転状態量に欠損値があった場合、当該運転状態量を用いて各回帰式を生成すれば精度が落ちる可能性があるため、欠損値を含む運転状態量を除外するフィルタ条件である。
【0094】
各回帰式や各冷媒不足率算出式に代入する運転状態量について変化量が小さい値の選択とは、空気調和機1の運転状態が安定している状態の運転状態量のみを抽出するフィルタ条件であり、各回帰式や各冷媒不足率算出式による推定精度を上げるために必要な条件である。尚、影響の大きい運転状態量とは、例えば、冷房運転時の冷媒不足率が0~30%の場合に使用する冷媒過冷却度、冷房運転時の冷媒不足率が40~70%の場合に使用する吸入温度や、暖房運転時の吸入過熱度等である。
【0095】
第2のフィルタ条件には、例えば、熱交出口温度の排除、サブクールの異常、吐出温度の異常等がある。
【0096】
熱交出口温度の排除は、外気温度センサ36と熱交出口温度センサ35とが近い場所に配置されていることにより、冷房運転時に熱交出口温度センサ35で検出した熱交出口温度が外気温度センサ36で検出した外気温度より低くなることがないことを考慮したフィルタ条件であり、外気温度より低い熱交出口温度を除外するフィルタ条件である。
【0097】
サブクール異常は、冷房負荷が極端に大きいあるいは小さいことに起因して異常に高いあるいは以上に低い冷媒過冷却度検出されたときにこれを除外するフィルタ条件である。吐出温度の異常は、冷房負荷が小さいことに起因して圧縮機11に吸入される冷媒量が減少する所謂ガス欠状態時に検出した吐出温度を除外するフィルタ条件である。
【0098】
第3のフィルタ条件は、例えば、吐出温度の異常等である。暖房運転時に暖房負荷の大きさに起因して吐出温度が高くなって吐出温度保護制御が実行されると、例えば、圧縮機11の回転数を低下させることで吐出温度が低下するため、このときに検出した吐出温度を除外するフィルタ条件である。
【0099】
データクレンジング処理は、取得した全ての第1の特徴量の検出値を冷媒不足率の推定に使用するのではなく、誤った推定を行うおそれがある第1の特徴量の検出値を除外するための処理である。また、データクレンジング処理は、取得した全ての第2の特徴量の検出値を異常推定処理に使用するのではなく、誤った異常推定を行うおそれがある第2の特徴量の検出値を除外するための処理でもある。具体的には、取得した運転状態量を平滑化してノイズ抑制やデータ数制限等がある。データの平滑化によるノイズ抑制とは、該当区間の平均値を算出し、各モデルにおいて例えば冷媒過冷却度、吸入温度、吸入過熱度の移動平均をとることで、ノイズを抑える処理である。データ数制限とは、例えば、データ数が少ないものは信頼性が低いため排除する処理である。例えば、1日分の入力データをフィルタリング処理して残ったデータ数がX個以上であれば冷媒不足率の推定や第2の特徴量の異常推定処理に使用、それより少なければ、その日のデータはすべて使用しない。つまり、データクレンジング処理では、冷媒量推定モデル45Aに異常値や突出値を除いた運転状態量を代入することで、より正確に冷媒不足率を推定でき、異常推定モデル46Aに異常値や突出値を除いた運転状態量を代入することで、より正確な異常推定が行えることになる。
【0100】
異常推定処理は、第2の特徴量のシミュレーション値から推定された全体の分布の密度関数に基づいて、密度関数の極大値(クラスタの中心)からの外れ度合い(外れ値)を算出し、その外れ値が所定範囲内か否か(判別対象となるデータがクラスタに含まれるか否か)を判別する処理である。この異常推定モデル46Aに稼働中の空気調和機1から取得した組P1~P4毎の第2の特徴量を適用して外れ値を算出する。異常推定処理では、異常推定モデル46Aの生成に使用した第2の特徴量の値を正常標本値とし、異なるタイミングで取得部14が取得した組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値における正常標本値からの外れ値を算出する。更に、異常推定処理では、算出した外れ値の絶対値が外れ閾値Xの絶対値以上の場合、当該組の第2の特徴量の検出値を異常と分類する。更に、異常推定処理では、算出した外れ値の絶対値が外れ閾値Xの絶対値未満の場合、当該組の第2の特徴量の検出値を正常と分類する。
【0101】
判定部46Dは、組P1~P4毎の分類結果に基づき、冷媒回路6の異常の要因となる室内機3又は室外機2を特定できる。判定部46Dは、全組P1~P4の第2の特徴量の検出値が異常の場合、冷媒回路6の異常の要因が室外機2の異常と特定する。更に、判定部46Dは、一部の組の第2の特徴量の検出値が異常の場合、冷媒回路6の異常の要因が異常と分類された組の室内機3の異常と特定する。
【0102】
図14は、残存冷媒量推定処理に関わる制御回路19の処理動作の一例を示すフローチャートである。残存冷媒量の推定は、例えば、データフィルタリング処理及びデータクレンジング処理後の現在の運転状態量(センサ値)の内、異常推定処理にて正常と分類された第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を冷媒量推定モデル45Aの各回帰式や各冷媒不足率算出式に代入することで、現時点の冷媒回路6の冷媒不足率を算出する処理である。
図14において制御回路19内の冷媒量推定部45は、取得した第1の特徴量が冷房運転中に取得したものであるか否かを判定する(ステップS31)。冷媒量推定部45は、取得した第1の特徴量が冷房運転中に取得したものである場合(ステップS31:Yes)、第1の冷房用推定モデル45A1~第3の冷房用推定モデル45A3のそれぞれに第1の特徴量を適用する(ステップS32)。
【0103】
冷媒量推定部45は、取得した第1の特徴量が冷房運転中に取得したものでない場合(ステップS31:No)、すなわち取得した第1の特徴量が暖房運転中に取得したものである場合、第1の暖房用推定モデル45A3~第3の暖房用推定モデル45A6のそれぞれに第1の特徴量を適用する(ステップS33)。そして、冷媒量推定部45は、第1の冷房用推定モデル45A1~第3の冷房用推定モデル45A3のそれぞれに第1の特徴量を適用した結果と、第1の暖房用推定モデル45A4~第3の暖房用推定モデル45A6のそれぞれに第1の特徴量を適用した結果を合わせて、現時点での冷媒不足率を算出し(ステップS34)、
図14に示す処理動作を終了する。
【0104】
異常出力処理は、異常推定処理にて異常と分類された第2の特徴量の検出値を異常ログとして異常ログ格納部43Aに格納してアラーム出力する。その結果、異常の第2の特徴量の検出値を格納できる。
【0105】
<実施例1の効果>
実施例1の空気調和機1では、異常推定モデル46Aの生成に使用した第2の特徴量の値を正常標本値とし、異なるタイミングで取得した組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値の正常標本値からの外れ値を算出する。更に、空気調和機1では、算出した外れ値の絶対値が外れ閾値Xの絶対値以上の場合に、当該組の第2の特徴量の検出値を異常と分類し、冷媒回路6の異常と推定する。更に、空気調和機1は、異常と分類された組の第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を冷媒量推定モデル45Aに使用しない。その結果、冷媒回路6の冷媒不足率を正確に推定できる。
【0106】
空気調和機1は、組P1~P4毎の分類結果に基づき、冷媒回路6の異常の要因となる室内機3又は室外機2を特定できる。空気調和機1は、全組P1~P4の第2の特徴量の検出値が異常の場合、冷媒回路6の異常の要因が室外機2の異常と特定する。更に、空気調和機1は、一部の組の第2の特徴量の検出値が異常の場合、冷媒回路6の異常の要因が異常と分類された組の室内機3の異常と特定する。その結果、残存冷媒量の変化以外の異常が発生していると推定される場合でも、室外機2もしくは室内機3の何れかで異常が発生しているのかを推定できる。
【0107】
例えば、重回帰分析の線形解析で生成された冷媒量推定モデル45Aで冷媒不足率を推定する際に冷媒漏洩と共に冷媒漏洩以外の故障が原因で第1の特徴量が変化した場合に、各特徴量の変化度合いによっては、本来は冷媒不足率が大きくなっている(=異常である)にも関わらず小さい冷媒不足率の値と推定する場合も考えられる。例えば、冷媒漏洩以外の故障が原因で圧縮機の回転数と吸入温度とが変化し、これら各値の変化量が相殺された結果、冷媒不足率が小さい値(=正常量である)と推定してしまう場合も考えられる。しかしながら、本実施例の空気調和機1では、カーネル密度推定法等の非線形解析で生成された異常推定モデル46Aで異常と分類された第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を冷媒量推定モデル45Aに使用しない。その結果、誤った冷媒不足率を推定することを防ぐことができる。
【0108】
また、本来は、線形解析で生成された推定モデル45Aを使用した場合、冷媒不足率が小さい値(=正常である)にも関わらず冷媒不足率が大きくなっている(=異常である)と推定する場合も考えられる。例えば、冷媒漏洩以外の故障が原因で圧縮機の回転数が変化した結果、冷媒不足率が大きくなっていると推定してしまう場合も考えられる。しかしながら、本実施例1の空気調和機1では、非線形解析で生成された異常推定モデル46Aで異常と分類された第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を冷媒量推定モデル45Aに使用しない。その結果、誤った冷媒不足率を推定することを防ぐことができる。
【0109】
空気調和機1の異常推定モデル46Aでは、算出した外れ値の絶対値が外れ閾値Xの絶対値未満の場合、当該組の第2の特徴量の検出値を正常と分類する。そして、空気調和機1では、正常と分類された組の第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を重回帰分析することで、冷媒回路6の冷媒不足率を算出する。その結果、冷媒回路6の冷媒不足率を正確に推定できる。
【0110】
空気調和機1に搭載される異常推定モデル46Aは、冷媒量推定モデル45Aで使用している第1の特徴量の検出値の一部及び冷凍サイクル動作に与える影響の大きい運転状態量を含む第2の特徴量の値を用いてカーネル密度推定法等の非線形解析で生成される。異常推定モデル46Aでは、組P1~P4毎の第2の特徴量の検出値を正常又は異常に分類する。そして、冷媒量推定モデル45Aでは、全ての運転状態量を使用するのではなく、正常と分類された第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値を用いて冷媒量推定モデル45Aを生成する。その結果、高精度な冷媒量推定モデル45Aを生成できる。
【0111】
本実施例では、冷媒量推定モデル45Aの各回帰式の生成は、シミュレーションで得た第1の特徴量の検出値を用いており、シミュレーションで得た第1の特徴量の検出値には異常な値や他と比べて突出して大きいあるいは小さい値は含まれていない。このような、シミュレーションで得た特徴量を用いて生成された冷媒量推定モデル45Aの各回帰式や各冷媒不足率算出式に、データフィルタリング処理及びデータクレンジング処理を行って異常値や突出値を除いた運転状態量の検出値を代入する。この際、異常推定モデル46Aを用いて正常と分類された第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値のみを代入することで、より正確に冷媒不足率を推定できる。
【0112】
異常推定モデル46Aの生成は、シミュレーションで得た特徴量を用いており、シミュレーションで得た特徴量には異常な値や他と比べて突出して大きいあるいは小さい値は含まれていない。このような、異常値や突出値を含まない特徴量を用いて生成された異常推定モデル46Aに、データフィルタリング処理及びデータクレンジング処理を行って異常値や突出値を除いた第2の特徴量の検出値を適用することで、正確に第2の特徴量の検出値の判別が行える。更に、制御回路19では、データフィルタリング処理及びデータクレンジング処理を行うことで、判別モデル46Aによる外れ値の算出の際に使用するデータ量を減らすことができるため、判別モデル46Aによる外れ値の算出にかかる時間を短縮化して制御回路19の負荷を軽減できる。
【0113】
尚、以上に説明した実施例1では、空気調和機1の設計段階で各運転状態量のシミュレーション結果を求め、学習機能を有するサーバなどの情報処理装置にシミュレーション結果を学習させて得られた冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aを制御回路19が保持している場合を例示した。これに代えて、空気調和機1との間を通信網110で接続するサーバ120が存在し、このサーバ120が冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aを生成し、冷媒量推定モデル45Aの推定結果及び異常推定モデル46Aの推定結果を空気調和機1に送信しても良く、この実施の形態につき、以下に説明する。
サーバ120は、生成部121と、通信部121Aと、冷媒量推定部122と、異常推定部123と、記憶部124とを有する。記憶部124は、異常ログ格納部124Aを有する。生成部121は、冷媒回路6に充填される冷媒の冷媒不足率の推定に関わる第1の特徴量の検出値又はシミュレーション値を用いて重回帰分析法で冷媒量推定モデル45Aを生成する。尚、冷媒量推定モデル45Aは、例えば、第1の実施例で説明した第1の冷房用推定モデル45A1、第2の冷房用推定モデル45A2、第3の冷房用推定モデル45A3、第1の暖房用推定モデル45A4、第2の暖房用推定モデル45A5及び第3の暖房用推定モデル45A6を有する。冷媒量推定部122は、生成部121で生成した冷媒量推定モデル45Aを格納する。更に、生成部121は、シミュレーションで得た全組P1~P4の定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の検出値を用いてカーネル密度推定法で異常推定モデル46Aを生成する。尚、異常推定モデル46Aは、例えば、実施例1で説明した冷房時異常推定モデル46B及び暖房時異常推定モデル46Cを有する。
異常推定部123は、生成部121で生成した異常推定モデル46Aを格納する。異常推定部123は、異常推定モデル46Aを用いて第2の特徴量の検出値を正常又は異常に分類する。異常推定部123は、第2の特徴量の検出値が異常と分類された場合、異常と分類された第2の特徴量の検出値を異常ログとして異常ログ格納部124Aに格納する。更に、異常推定部123内の判定部46Dは、異常推定部123の分類結果、すなわち、組P1~P4毎の分類結果に基づき、冷媒回路6の異常の要因となる室内機3又は室外機2を特定する。通信部121Aは、判定部46Dの冷媒回路6の異常の要因となる室内機3又は室外機2の特定結果を通信網110経由で空気調和機1に送信する。空気調和機1の制御回路19Aは、サーバ120から受信した冷媒回路6の異常の要因となる室内機3又は室外機2の特定結果に基づき、冷媒回路6の異常の要因を特定できる。
更に、冷媒量推定部122は、異常推定モデル46Aで分類した正常の第2の特徴量の検出値と同時に取得した第1の特徴量の検出値と、受信した冷媒量推定モデル45Aとを用いて空気調和機1の冷媒回路6における冷媒不足率を算出する。通信部121Aは、冷媒量推定部122にて算出された冷媒不足率を通信網110経由で空気調和機1に送信する。空気調和機1の制御回路19Aは、サーバ120から受信した冷媒不足率に基づき、冷媒回路6の冷媒不足率を特定できる。
生成部121は、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における全組P1~P4の冷房時の定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値を用いて冷房時異常推定モデル46Bを生成又は更新する。
生成部121は、冷媒回路6が正常な状態における冷房時の定常状態及び冷媒漏洩状態を実測できる空気調和機1の標準機(製造メーカの試験室などに設置されている)から定期的に冷房運転時の運転状態量を収集し、冷房時異常推定モデル46Bの正常又は異常の分類結果と実測した分類結果との比較結果と収集した運転状態量とを用いて、冷房時異常推定モデル46Bを生成あるいは更新する。その結果、より高精度な冷房時異常推定モデル46Bを生成できる。
生成部121は、冷媒回路6における冷媒不足率を実測できる空気調和機1の標準機(製造メーカの試験室などに設置されている)から定期的に冷房運転時の運転状態量を収集し、各冷媒量推定モデル45Aで推定した冷媒不足率と実測した冷媒不足率との比較結果と収集した運転状態量とを用いて、第1の冷房用推定モデル45A1、第2の冷房用推定モデル45A2及び第3の冷房用推定モデル45A3を生成あるいは更新する。なお、実施例1のように、各冷媒量推定モデル45Aの生成に使用する運転状態量をシミュレーションで得て、生成部121がシミュレーションで得た運転状態量を用いて各冷媒量推定モデル45Aを生成してもよい。
生成部121は、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における全組P1~P4の暖房時の定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値を用いて暖房時異常推定モデル46Cを生成又は更新する。
生成部121は、冷媒回路6が正常な状態における暖房時の定常状態及び冷媒漏洩状態を実測できる空気調和機1の標準機(製造メーカの試験室などに設置されている)から定期的に暖房運転時の運転状態量を収集し、暖房時異常推定モデル46Cの正常又は異常の分類結果と実測した分類結果との比較結果と収集した運転状態量とを用いて、暖房時異常推定モデル46Cを生成あるいは更新する。その結果、より高精度な暖房時異常推定モデル46Cを生成できる。
生成部121は、上述した空気調和機1の標準機から定期的に暖房運転時の運転状態量を収集し、各冷媒量推定モデル45Aで推定した冷媒不足率と実測した冷媒不足率との比較結果と収集した運転状態量とを用いて、第1の暖房用推定モデル45A4、第2の暖房用推定モデル45A5及び第3の暖房用推定モデル45A6を生成する。なお、実施例1のように、各冷媒量推定モデル45Aの生成に使用する運転状態量をシミュレーションで得て、生成部121がシミュレーションで得た運転状態量を用いて各冷媒量推定モデル45Aを生成してもよい。
生成部121による異常推定モデル46Aの生成は、シミュレーションで得た特徴量を用いており、シミュレーションで得た特徴量の値には異常な値や他と比べて突出して大きいあるいは小さい値は含まれていない。このような、異常値や突出値を含まない特徴量の値を用いて生成された異常推定モデル46Aに、データフィルタリング処理及びデータクレンジング処理を行って異常値や突出値を除いた第2の特徴量の検出値を適用することで、より正確な第2の特徴量の検出値の判別を実現できる。更に、生成部121において、第1の実施例で説明した第2の特徴量のデータフィルタリング処理及びデータクレンジング処理を行えば、判別モデル46Aによる外れ値の算出の際に使用するデータ量を減らすことができる。これにより、判別モデル46Aによる外れ値の算出にかかる時間を短縮化できてサーバ120の利用率を下げることができるので、サーバ120が使用する分だけコストがかかる従量制の場合に外れ値の算出にかかるコストを抑えることができる。
サーバ120は、空気調和機1から取得した第1の特徴量の値を用いて冷媒量推定モデル45Aを生成し、生成した冷媒量推定モデル45Aを冷媒量推定部122に格納する。サーバ120は、格納した冷媒量推定モデル45Aを用いて、冷媒不足率を推定し、その推定結果を通信網110経由で空気調和機1に送信する。その結果、空気調和機1は、冷媒回路6の冷媒不足率を認識できる。
尚、実施例1及び2の空気調和機1では、1台の室外機2に対して4台の室内機3を接続する場合を例示したが、4台の室内機3に限定されるものではなく、室内機3は複数台であれば良く、適宜変更可能である。
また、本実施例では、冷媒回路6に残存する冷媒量を表すものとして相対的な冷媒量を推定する場合を説明した。具体的には、冷媒回路6に冷媒を充填した際の充填量(初期値)に対する、冷媒回路6から外部に漏洩した冷媒量の割合である冷媒不足率を推定して提供する場合を説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、推定した冷媒不足率に初期値を乗じて、冷媒回路6から外部に漏洩した冷媒量を提供するようにしてもよい。また、冷媒回路6から外部に漏洩した絶対的な冷媒量あるいは冷媒回路6に残留する絶対的な冷媒量を推定する推定モデルを生成し、この推定モデルによる推定結果を提供するようにしてもよい。冷媒回路6から外部に漏洩した絶対的な冷媒量あるいは冷媒回路6に残留する絶対的な冷媒量を推定する推定モデルを生成する場合は、ここまでに説明した各運転状態量に加えて、室外熱交換器13および各室内熱交換器1の容積や液管4の容積を考慮すればよい。
本実施例では、複数のシミュレーション結果の内、全てのシミュレーション結果を使用するのではなく、一部のシミュレーション結果を使用する。例えば、冷房運転時の冷媒不足率が0~30%の場合に使用する第1の冷房用推定モデル45A1、冷媒不足率が40~70%の場合に使用する第2の冷房用推定モデル45A2、冷媒不足率30~40%の場合に使用する第3の冷房用推定モデル45A3のように個々に分けて生成する。従って、運転状態量をシミュレーションで用意するため、空気調和機1を動作して運転状態量を収集する場合に比較して簡単かつ必要な量の運転状態量を収集できる。
本実施例では、冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aは、サーバ120又は制御回路19で生成する場合を例示したが、利用者がシミュレーション結果から冷媒量冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aを算出しても良い。また、本実施例では、重回帰分析法を用いて各推定モデルを生成する場合を例示したが、一般の回帰分析法を行える機械学習手法のSVR(Support Vector Regression)、NN(Neural Network)などを用いて推定モデルを生成しても良い。その際、特徴量選択に当たっては重回帰分析法で用いたP値や補正値R2の代わりに、推定モデルの精度が向上するよう特徴量を選択する一般の手法(Forward Feature Selection法、Backward feature Eliminationなど)を使えばよい。
異常推定モデル46Aは、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における全組の定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値を用いて生成する場合を例示し、全組の第2の特徴量の値を正常標本値とし、組毎の第2の特徴量の検出値と正常標本値との距離を数値化して外れ値を算出する場合を例示した。しかしながら、異常推定モデル46Aは、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における組毎の定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値を用いて生成し、生成に使用した組毎の第2の特徴量の値を正常標本値とし、同一組の第2の特徴量の検出値と同一組の正常標本値との距離が数値化して外れ値を算出しても良く、適宜変更可能である。
また、異常推定モデル46Aは、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における定常状態及び冷媒漏洩状態での第2の特徴量の値を用いて生成する場合を例示したが、シミュレーションにより得られる冷媒回路6が正常な状態における冷媒漏洩状態の第2の特徴量の値を使用することなく、定常状態のみでの第2の特徴量の値のみを用いて生成しても良い。
また、本実施例では、カーネル密度推定法を用いて異常推定モデル46Aを生成する場合を例示したが、カーネル密度推定方法に限定されるものではなく、非線形解析方法であればよく、適宜変更可能である。
また、本実施例では、1台の室外機2に対して1台以上の室内機3を接続する空気調和システム1を例示したが、2台以上の室外機2に対して1台以上の室内機3を接続する空気調和システム1にも適用可能である。
実施例1では、空気調和機1の設計段階で各運転状態量のシミュレーション結果を求め、学習機能を有するサーバなどの情報処理装置にシミュレーション結果を学習させて得られた冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aを制御回路19が保持している場合を例示した。しかしながら、空気調和機1との間を通信網で接続するサーバを備え、このサーバが冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aを生成して空気調和機1に送信するようにしてもよい。そして、空気調和機1は、サーバから受信した冷媒量推定モデル45A及び異常推定モデル46Aを制御回路19に保持しても良い。
冷媒回路6は、少なくとも1台以上の室外機2に接続する少なくとも1台以上の室内機3が冷媒配管で接続されている。従って、冷媒量推定モデル45Aは、少なくとも1台以上の室外機2の内、1台の代表の室外機2と、少なくとも1台以上の室内機3の内、1台の代表の室内機3との第1の特徴量の検出値を用いて冷媒不足率を推定できるものである。尚、代表の室外機2は、稼働中の少なくとも1台以上の室外機2から任意の規則で選択し、代表の室内機3も、稼働中の少なくとも1台以上の室内機3から任意の規則で選択するものとする。任意の規則は、例えば、機器毎に付与される識別番号の若い順である。
また、図示した各部の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各部の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
更に、各装置で行われる各種処理機能は、CPU(Central Processing Unit)(又はMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良い。また、各種処理機能は、CPU(又はMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行するプログラム上、又はワイヤードロジックによるハードウェア上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良いことは言うまでもない。
また、以上に説明した各実施例では、冷媒不足率を、冷媒が規定量充填されているときを100%としたとき、この規定量からの減少分とした。これに代えて、冷媒回路6に冷媒を規定量充填した直後に、本実施例に記載した方法で冷媒不足率を推定し、この推定結果を100%としてもよい。例えば、冷媒回路6に冷媒を規定量充填した直後に推定した冷媒不足率が90%である場合、つまり、冷媒回路6に現在充填されている冷媒量が規定量充填より10%少ないと推定した場合は、この規定量充填より10%少ない冷媒量を100%としてもよい。このように100%とする冷媒量を推定結果に合わせることで、これ以降の冷媒不足率をより正確に推定できる。