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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157836
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】蒸着マスクユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20221006BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062291
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲行
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG32
3K107GG33
3K107GG54
4K029CA01
4K029DA03
4K029DA10
4K029DA12
4K029HA01
4K029HA02
4K029HA03
4K029HA04
4K029JA01
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】位置補正が容易な蒸着マスクユニットの製造方法を提供する。
【解決手段】支持基板上に剥離層を形成し、露光データに基づいて、前記剥離層上にレジストパターンを形成し、前記剥離層上の前記レジストパターンが形成されていない領域に金属パターンを形成すること、を含み、前記露光データは、平行四辺形歪、長辺歪、及び短辺歪のうちの少なくとも一つを補正するためのパラメータに基づいて補正されている、蒸着マスクユニットの製造方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に剥離層を形成し、
露光データに基づいて、前記剥離層上にレジストパターンを形成し、
前記剥離層上の前記レジストパターンが形成されていない領域に金属パターンを形成すること、
を含み、
前記露光データは、平行四辺形歪、長辺歪、及び短辺歪のうちの少なくとも一つを補正するためのパラメータに基づいて補正されている、蒸着マスクユニットの製造方法。
【請求項2】
前記パラメータは、以前に製造された蒸着マスクユニットの平行四辺形歪の大きさ、長辺歪の大きさ、又は短辺歪大きさに基づいて変更される、請求項2に記載の蒸着マスクユニットの製造方法。
【請求項3】
前記以前に製造された蒸着マスクユニットは、直前に製造された蒸着マスクユニットである、請求項2に記載の蒸着マスクユニットの製造方法。
【請求項4】
前記露光データは、以前に製造された蒸着マスクユニットの平行四辺形歪、長辺歪、及び短辺歪のうちの少なくとも一つを相殺するように補正される、請求項2又は3に記載の蒸着マスクユニットの製造方法。
【請求項5】
支持基板上に剥離層を形成し、
露光データに基づいて、前記剥離層上にレジストパターンを形成し、
前記剥離層上の前記レジストパターンが形成されていない領域に金属パターンを形成すること、
を含み、
前記露光データは、以前に製造された蒸着マスクユニットと所望の蒸着マスクユニットとのずれの大きさに基づいた補正値に基づいて補正されている、蒸着マスクユニットの製造方法。
【請求項6】
前記補正値は、前記ずれの大きさと、所定の基準露光データとに基づいて決定される、請求項5に記載の蒸着マスクユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、蒸着マスクユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネル型表示装置として、液晶表示装置や有機電界発光表示装置が挙げられる。これらの表示装置は、絶縁体、半導体、導電体などの様々な材料を含む薄膜が基板上に積層された構造体であり、これらの薄膜が適宜パターニング、接続され、表示装置としての機能が実現される。
【0003】
薄膜を形成する方法は、大別すると気相法、液相法、固相法に分類される。気相法は物理的気相法と化学的気相法に分類され、物理的気相法の例として蒸着法が知られている。蒸着法のうち最も簡便な方法が真空蒸着法であり、高真空下において材料を加熱することで材料を昇華、あるいは蒸発(以下、昇華と蒸発を総じて気化と呼ぶ)させて材料の蒸気を生成し、この蒸気を目的とする領域(以下、蒸着領域)で固化、堆積することで材料の薄膜を得ることができる。この時、蒸着領域に選択的に薄膜を形成し、それ以外の領域(以下、非蒸着領域)には材料を堆積させないために、非蒸着領域を物理的に遮蔽するマスクが用いられる(特許文献1、2参照)。当該マスクは蒸着マスクなどと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-87840号公報
【特許文献2】特開2013-209710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸着マスクは、一般的に、SUSなどから構成される基板にレジストを塗布した後、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィによって基板上にレジストパターンを形成し、めっきによって基板上に金属膜を形成することにより作製される。めっきにより成膜される金属膜は、例えば、ニッケル(Ni)やニッケルを含む合金であるインバー(Fe/Ni合金)などからなる。このような金属膜の応力は、金属膜に含まれる添加剤や不純物量などにより変化するため、作製された金属膜ごとに応力差が生じることがある。この応力差によって、蒸着マスクごとの開口寸法位置にばらつきが生じ、表示装置の歩留まりが低下することがある。歩留まりの低下を防ぐためには、フォトマスクの変更や露光機での位置補正が日々必要となる。しかしながら、フォトマスクの作製には1~2週間のリードタイムが必要であり、さらに作製にはコストがかかる。そのため、蒸着マスクの日々の応力変動に合わせた、位置補正を適用することが困難である。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、位置補正が容易な蒸着マスクユニットの製造方法を提供することを課題の一つとする。例えば、本発明の実施形態の一つは、蒸着マスクユニットを効率よく、高い歩留りで、または低コストで製造するための方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の一つは、蒸着マスクユニットの製造方法である。この方法は、支持基板上に剥離層を形成し、露光データに基づいて、前記剥離層上にレジストパターンを形成し、前記剥離層上の前記レジストパターンが形成されていない領域に金属パターンを形成すること、を含み、前記露光データは、平行四辺形歪、長辺歪、及び短辺歪のうちの少なくとも一つを補正するためのパラメータに基づいて補正されている。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、蒸着マスクユニットの製造方法である。この方法は、支持基板上に剥離層を形成し、露光データに基づいて、前記剥離層上にレジストパターンを形成し、前記剥離層上の前記レジストパターンが形成されていない領域に金属パターンを形成すること、を含み、前記露光データは、以前に製造された蒸着マスクユニットと所望の蒸着マスクユニットとのずれの大きさに基づいた補正値に基づいて補正されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の実施形態の一つに係る方法で作製される蒸着マスクユニットが適用可能な蒸着装置の模式的上面図である。
図1B】本発明の実施形態の一つに係る方法で作製される蒸着マスクユニットが適用可能な蒸着装置の模式的側面図である。
図2】本発明の実施形態の一つに係る方法で作製される蒸着マスクユニットの模式的上面図である。
図3A】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3B】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3C】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3D】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3E】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3F】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3G】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3H】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3I】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3J】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3K】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図3L】本発明の実施形態の一つに係る、蒸着マスクユニットを作製する方法を示す模式的断面図である。
図4】マスクパターンをxy座標平面上に配置した場合を示す図である。
図5】マスクパターンをxy座標平面上に配置した場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲において、ある構造体の上に他の構造体を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接するように、直上に他の構造体を配置する場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体を配置する場合との両方を含むものとする。
【0013】
以下、「ある構造体が他の構造体から露出するという」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。
【0014】
以下、本発明の実施形態の一つに係る蒸着マスクユニット100の作製方法について説明する。
【0015】
(第1実施形態)
[蒸着装置]
本作製方法によって作製される蒸着マスクユニット100は、有機化合物、無機化合物、または有機化合物と無機化合物とを含む膜を蒸着法によって形成する際、目的とする蒸着領域に選択的に膜を形成するために用いることができる。図1A及び図1Bには、蒸着による膜形成の際に用いられる典型的な蒸着装置の模式的上面図と側面図を示す。蒸着装置は、種々の機能を有する複数のチャンバーで構成される。図1Aには、チャンバーの一つである蒸着チャンバー160を示す。蒸着チャンバー160は、隣接するチャンバーとロードロック扉162で仕切られ、内部が高真空の減圧状態、あるいは窒素やアルゴンなどの不活性ガスで満たされた状態が維持されるよう構成される。したがって、図示はしないが、減圧装置やガス吸排気機構などが蒸着チャンバー160に接続される。
【0016】
蒸着チャンバー160には、基板などの膜が形成される対象物が収納可能な空間が設けられる。図1A及び図1Bに示した例では、基板180の下に蒸着源164が配置され、蒸着源164には蒸着される材料が充填される。蒸着源164において材料が加熱されて気化し、材料の蒸気が蒸着マスクユニット100の開口部を介して基板180の表面へ到達すると冷却されて固化し、材料が堆積して基板180上(図1Bにおいては、基板180の下側の面上)に材料の膜を与える。図1Aでは、一例として、概ね長方形の形状を有し、基板180の一つの辺に沿って配置された蒸着源164(リニアソースとも呼ばれる)が備えられているが、蒸着源164は任意の形状持つことが可能であり、基板180の重心に重なるような、いわゆるポイントソースと呼ばれる蒸着源164でもよい。ポイントソースの場合には、基板180と蒸着源164の相対的な位置は固定され、基板180を回転するための機構を設けてもよい。
【0017】
リニアソース型の蒸着源164が用いられる場合、蒸着チャンバー160は基板180と蒸着源164が相対的に移動するよう構成される。図1Aでは、蒸着源164が固定され、その上を基板180が移動する例が示されている。図1Bに示すように、蒸着チャンバー160にはさらに、基板180と蒸着マスクユニット100を保持するためのホルダー170、ホルダー170を移動するための移動機構168、シャッター166などが備えられる。ホルダー170によって基板180と蒸着マスクユニット100の互いの位置関係が維持され、移動機構168によって基板180と蒸着マスクユニット100が蒸着源164の上を移動することができる。シャッター166は、材料の蒸気を遮蔽する、あるいは基板180への到達を許容するために蒸着源164の上に設けられ、図示しない制御装置によって開閉が制御される。図示しないが、蒸着チャンバー160には、材料の蒸着速度をモニターするためのセンサ、材料による汚染を防ぐための防着板、蒸着チャンバー160内の圧力をモニターするための圧力計などが備えられる。
【0018】
[蒸着マスクユニット]
蒸着マスクユニット100の上面模式図を図2に示す。蒸着マスクユニット100は少なくとも一つの蒸着マスクセット102を有し、複数の蒸着マスクセット102を有してもよい。以下の説明では、一つの蒸着マスクユニット100が複数の蒸着マスクセット102を有する例を用いて説明する。図2では、4枚の蒸着マスクセット102を含む蒸着マスクユニット100が示されている。
【0019】
各蒸着マスクセット102は、複数の蒸着マスク102aを備える。各蒸着マスク102aは、複数の開口部104と非開口部とを有する。各蒸着マスク102aにおいて、非開口部は複数の開口部104を取り囲む。蒸着マスクユニット100はさらに、蒸着マスクセット102を支持する支持フレーム110を備える。蒸着マスクセット102は、後述する少なくとも一つの接続部(接続部317、図3Jを参照)を介して支持フレーム110に固定される。接続部(317)の数は蒸着マスクセット102の数と同一とすることができる(図2参照)。各接続部(317)は、対応する蒸着マスクセット102に含まれる複数の蒸着マスク102aの周囲を囲み、支持フレーム110と蒸着マスクセット102に接する。
【0020】
蒸着時には、蒸着領域と蒸着マスク102aの開口部104とが重なり、非蒸着領域と蒸着マスク102aの非開口部とが重なるように蒸着マスクユニット100と基板180が配置される。材料の蒸気が蒸着マスク102aの開口部104を通過し、蒸着領域上に材料が堆積する。一つの蒸着マスクユニット100を用いて複数の表示装置を製造する場合には、マザーガラスと呼ばれる大型の基板180上に複数の表示装置の表示領域が形成される。
【0021】
支持フレーム110は、少なくとも一つの窓110aを有する。蒸着マスクユニット100が複数の蒸着マスクセット102を有する場合には、少なくとも一つの窓110aは複数の蒸着マスクセット102に対応する複数の窓110aを含む。各窓110aは、蒸着マスク102aの複数の開口部104を露出する。表示装置の表示領域には、複数の画素が設けられる。複数の開口部104はそれぞれ、画素が設けられる画素領域に対応している。
【0022】
複数の蒸着マスク102aを含む蒸着マスクセット102や接続部はニッケルや銅、チタン、クロムなどの0価の金属を含み、ニッケルを含むことが好ましい。蒸着マスクセット102と接続部の材料の組成は互いに同一でもよい。支持フレーム110は0価の金属を含み、金属としてはニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガンなどから選択される。例えば、支持フレーム110は、鉄とクロムを含む合金、鉄、ニッケル、マンガンの合金でもよく、合金には炭素が含まれていてもよい。
【0023】
上述したように、蒸着マスクは、ニッケル(Ni)やニッケルを含む合金であるインバー(Fe/Ni合金)などを含む金属膜から構成される。金属膜の応力は、金属膜に含まれる添加剤や不純物量などにより、作製された金属膜ごとに応力差が生じると、この応力差によって、蒸着マスクごとの開口寸法位置にばらつきが生じてしまう。そこで、金属膜を形成するためのマスクパターンレジスト(フォトマスク)を形成する際、応力差による蒸着マスクごとの開口寸法のズレを考慮して、マスクパターンレジストを形成する。具体的には、マスクパターンレジストを形成する際に、応力差による蒸着マスクごとの開口寸法のズレを考慮して、直接描画露光装置で用いる露光データを設定する。これにより、応力差による蒸着マスクごとの開口寸法のズレを補償することができる。
【0024】
[蒸着マスクユニットの作製方法]
以下、蒸着マスクユニット100の作製方法の一例を図3A図3Lを参照して説明する。本実施形態では、一例として、蒸着マスクユニット100が互いに対向する一対の長辺及び一対の短辺からなる矩形状を有する場合を説明する。また、本実施形態では、一例として、蒸着マスクユニット100をxy座標平面上に配置した場合、第1~第4象限に対応する領域にそれぞれ1つの蒸着マスクセット102が形成される場合を説明する。但し、蒸着マスクユニット100の形状、及び蒸着マスクセット102の配置と数は、これに限定されるわけではない。
【0025】
まず、支持基板301を準備する。支持基板301は、この上に設けられる剥離層303を指示する機能を有する基板である。支持基板301は、SUS基板であってもよいが、これに限定されるわけではない。
【0026】
図3Aに示すように、支持基板301上に剥離層303を形成する。剥離層303は、蒸着マスクユニット100から剥離することを促進するため、あるいは蒸着マスク102となるめっき層を成長させるための機能層である。剥離層303は、例えば、ニッケルから構成される金属薄膜であってもよい。また、剥離層303は、ニッケル以外の金属、例えば、モリブデン、タングステンなどから構成される金属薄膜であってもよい。剥離層303は、例えば20μm以上200μm以下、または40μm以上150μm以下の厚さとなるよう、無電解めっき法、電解めっき法(以下、無電解めっき法と電解めっき法を総じてめっき法と記す)、スパッタリング法、または化学気相堆積(CVD)法を利用して形成することができる。剥離層303は、複数の層からなる多層構造を有してもよい。ここでは、一例として、剥離層303は、ニッケル膜から構成されている場合を説明する。
【0027】
次に、剥離層303上にフォトレジストを塗布する。フォトレジストには、光硬化性樹脂が含まれる。、図3Bに示すように、剥離層303上に設けられたフォトレジストに直描露光して現像することにより、レジストパターン(マスクパターンレジスト)305を形成する。直描露光には、直描露光装置が用いられる。直描露光装置は、フォトマスクを用いることなく、任意のパターンデータ(以下、露光データともいう)をフォトレジストに直接転写する。レジストパターン305は、複数の開口部を形成する領域に選択的に島状に形成される。
【0028】
上述したように、金属膜の応力は、金属膜に含まれる添加剤や不純物量などにより変化するため、作製された金属膜ごとに応力差が生じる。この応力差によって、蒸着マスクごとの開口寸法位置にばらつきが生じ、表示装置の歩留まりが低下する。そこで、本実施形態では、レジストパターン305を直描露光によって形成する際、レジストパターン305の形成に用いられる露光データを、直前に作製した蒸着マスクユニット100の実測値に基づいて補正する。
【0029】
本実施形態では、少なくとも3つのパラメータに基づいて、直前に作製した蒸着マスクユニット100の歪の大きさを測定し、次の蒸着マスクユニット100のレジストパターン305を作製するための露光データを補正する。ここで、少なくとも3つのパラメータは、平行四辺形歪、長辺歪、及び短辺歪を含む。
【0030】
平行四辺形歪は、蒸着マスクユニット100がxy座標平面上に配置された場合に、蒸着マスクユニット100の対向する2組の辺のうち、x軸方向に平行な一対の辺のx軸方向へのずれを指す。長辺歪は、蒸着マスクユニット100がxy座標平面上に配置された場合に、蒸着マスクユニット100の対向する2組の辺のうち、一対の長辺のy軸方向へのずれを指す。短辺歪は、蒸着マスクユニット100がxy座標平面上に配置された場合に、蒸着マスクユニット100の対向する2組の辺のうち、一対の短辺のx軸方向へのずれを指す。平行四辺形歪、長辺歪、及び短辺歪については、後述する。
【0031】
尚、上述した長辺歪は一対の長辺のy軸方向へのずれとしたが、これは一対の長辺がx軸に対して平行であるようにxy座標平面上に配置された場合に適用される。一対の長辺がy軸に対して平行であるようにxy座標平面上に配置された場合、長辺歪は一対の長辺のx軸方向へのずれであってもよい。同様に、上述した短辺歪は一対の短辺のx軸方向へのずれとしたが、これは一対の短辺がy軸に対して平行であるようにxy座標平面上に配置された場合に適用される。一対の短辺がx軸に対して平行であるようにxy座標平面上に配置された場合、短辺歪は一対の短辺のy軸方向へのずれであってもよい。
【0032】
次に、図3Cに示すように、めっき法を利用し、レジストパターン305が形成されていない領域に金属膜を成長させ、第1金属層307aを形成する。第1金属層307aは、ニッケル(Ni)やニッケルを含む合金であるインバー(Fe/Ni合金)などからなる。第1金属層307aの形成は、一段階で行ってもよく、数段階に分けて行ってもよい。複数の段階で行う場合、異なる段階で異なる金属膜が形成されるよう、めっきを行ってもよい。例えば、第1金属層307aは、無光沢めっき膜及び光沢めっき膜からなる2層構造を有してもよい。第1金属層307aの厚さは、1μm~20μmの範囲であってもよい。好ましくは3μm~10μmの範囲であってもよい。また、無光沢めっき膜と光沢めっき膜の膜厚の比率としては特に限定しないが、無光沢めっき膜が全体のめっき膜の1/2を上回るように形成するとよい。例えば第1金属層307aの厚さが5μmの場合、無光沢めっき膜は約3.75μm、光沢めっき膜は約1.25μmであってもよい。
【0033】
次に、図3Dに示すように、レジストパターン305を除去して、第1金属層307aからなるマスクパターン307を形成する。マスクパターン307と同時に、マスクパターン307に隣接するダミーパターン308も形成される。図示はしないが、レジストパターン305の除去後、AOI(Automated Optical Inspection)装置を用いて、マスクパターン307の測長を行ってもよい。この測長により、マスクパターン307のより詳細な変形量を把握することができる。この測長は、レジストパターン305を除去する前に行ってもよい。また、ここでの測長は省略されてもよい。
【0034】
次に、図3Eに示すように、マスクパターン307上にレジストパターン309を形成する。レジストパターン309は、ドライフィルムレジストで形成される。レジストパターン309は、ダミーパターン308の一部を露出する。そして、図3Fに示すように、めっき法を利用し、ダミーパターン308上のレジストパターン309が形成されていない領域に金属膜を成長させ、第2金属層311aを形成する。次に、図3Gに示すように、レジストパターン309を除去して、第2金属層311aからなる接合層311を形成する。
【0035】
次に、図3Hに示すように、接合層311の上面が露出するように、マスクパターン307及びダミーパターン308上にレジストパターン313を形成する。レジストパターン313は、ドライフィルムレジストで形成される。次に、図3Iに示すように、ダミーパターン308上にレジストパターン313を介して、ニッケル、鉄などの金属、又はインバーなどの合金で構成された支持フレーム110を接合する。支持フレーム110は、別途、金属板をエッチングすることによって得られる。支持フレーム110は、真空圧着にてレジストパターン313を介してダミーパターン308上に接合される。尚、任意の構成として、支持フレームの上面には保護膜315を形成してもよい。保護膜315は、レジストパターン313と同様にドライフィルムレジストで構成されてもよい。
【0036】
次に、図3Jに示すように、めっき法を用いて接続部317を形成する。接続部317は、接合層311から主に成長する。接続部317によって蒸着マスク102aと支持フレーム110とが一体に接合される。
【0037】
次に、図3Kに示すように、レジストパターン313及びダミーパターン308を除去する。図示はしないが、レジストパターン313及びダミーパターン308を除去した後、AOI装置を用いて、マスクパターン307の測長を行ってもよい。この測長により、マスクパターン307のより詳細な変形量を把握することができる。尚、ここでの測長は省略されてもよい。
【0038】
さらに図3Lに示すように、剥離層303を剥離して、蒸着マスクユニット100と支持基板301とを剥離する。この後、AOI装置を用いて、蒸着マスクユニット100のマスクパターンの測長を行い、所望の設計値に基づくマスクパターンとのずれを算出する。
【0039】
[露光データの補正方法]
上述したように、マスクパターン307を形成するためのレジストパターン305を直描露光によって形成する際、レジストパターン305の形成に用いられる露光データを、直前に作製した蒸着マスクユニット100の実測値に基づいて補正する。作製された蒸着マスクユニット100をAOI装置を用いて、蒸着マスクユニット100に含まれる、蒸着マスク102aのマスクパターンの測長を行う。
【0040】
本実施形態では、少なくとも3つのパラメータ、つまり、第1~第3パラメータに基づいて、直前に作製した蒸着マスクユニット100歪の大きさを測定し、次の蒸着マスクユニット100のレジストパターン305を作製するための露光データを補正する。第1~第3パラメータを用いた補正方法について説明する。
【0041】
上述したように、本実施形態では、一例として、蒸着マスクユニット100をxy座標平面上に配置した場合、第1~第4象限に対応する領域にそれぞれ1つの蒸着マスクセット102が形成される場合を説明する。ここでは、一例として、第4象限に対応する領域に形成されるレジストパターンの露光データの補正について説明する。
【0042】
図4及び図5は、露光データに基づいて形成されたレジストパターンを用いて形成した蒸着マスクセット102のマスクパターンをxy座標平面上に位置した場合の一例を示す図である。図4及び図5において、実際に形成された蒸着マスクセット102のマスクパターンを実線で示し、所望の設計値に基づくマスクパターンを破線で示す。ここでは、所望の設計値に基づくマスクパターンは、一対の長辺及び一対の短辺を有し、4つの頂点P1~P4を有する矩形状のパターンである頂点P1のxy座標上における座標は(x1,y1)とし、頂点P2の座標は(x2,y2)とし、頂点P3の座標は(x3,y3)とし、頂点P4の座標は(x4,y4)とする。
【0043】
所望の設計値に基づいて直描露光されると、破線で示すように、マスクパターンは、その全体形状が一対の長辺及び一対の短辺を有する矩形状のパターンとして形成される。しかしながら、金属膜に含まれる添加剤や不純物量などにより金属膜の応力が変化するため、作製された金属膜ごとの応力差の違いにより、実際に形成されたマスクパターンは、図4及び図5における実線で示したマスクパターンのように設計値からのずれが生じる。
【0044】
図4を参照すると、実際に形成されたマスクパターンは、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較して、全体的に平行四辺形に歪んでいる。実際に形成されたマスクパターンにおいて、所望の設計値に基づくマスクパターンの4つの頂点P1、P2、P3、P4に対応する頂点を頂点PA(xa,ye)、頂点PB(xb,yb)頂点PC(xc,yc)、PD(xd,yd)とすると、実際に形成されたマスクパターンの4つの頂点PA、PB、PC、PDが、所望の設計値に基づくマスクパターンにおける対応する4つの頂点P1、P2、P3、P4に対して、x軸方向に略平行にずれている。詳細には、xy座標平面上において、実際のマスクパターンの頂点PDのx座標が、所望の設計値に基づくパターンの頂点P4のx座標よりも小さい、即ち、xd<x4である。尚、頂点PDのy座標は、頂点P4のy座標と略同一である。即ち、yd≒y4である。また、頂点PDの対角線上の実際のマスクパターンの頂点PBの座標は、所望の設計値に基づくマスクパターンの頂点P2のx座標よりも大きい、即ち、xb>x2である。尚、頂点PBのy座標は、頂点P2のy座標と略同一である。即ち、yb≒y2である。一方、実際のマスクパターンの頂点PA、及びその対角線上にある頂点PCは、所望の設計値に基づくパターンの頂点P1、及びその対角線上にある頂点P3と略一致している。このようなずれが生じると、図4に示すように、マスクパターンの全体形状は、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較して、全体的に平行四辺形に歪む。以下、マスクパターンに生じる平行四辺形状の歪みを、平行四辺形歪と呼ぶ。
【0045】
この平行四辺形歪を補正して、完成したマスクパターンの形状を所望の設計値に基づくマスクパターンに近づける。つまり、平行四辺形歪が相殺されるように、露光データを補正する。平行四辺形歪を補正するには、マスクパターンの平行四辺形歪の大きさ、つまりマスクパターンにおけるx軸方向に平行な一対の辺のx軸方向へのずれを算出し、その結果をレジストパターンを形成する際に用いる露光データに反映する。算出された平行四辺形歪の大きさは、主にマスクパターンの4つの頂点PA、PB、PC、PDの位置補正に用いられる補正値として利用することができる。図4では、頂点PB及び頂点PDが、設計値に基づくマスクパターンにおける対応する頂点P2、頂点P4からずれている。この場合、図4に示す実際に形成されたマスクパターンの平行四辺形歪の大きさは、式(1)に基づいて算出することができる。
平行四辺形歪の大きさ=(xa+xd)/2-(xb+xc)/2・・・式(1)
【0046】
上記式(1)によって算出された平行四辺形歪の大きさは、露光データに反映される。マスクパターンに生じる可能性のある平行四辺形歪を想定し、生じる可能性のある平行四辺形歪の大きさを予め露光データに反映することにより、平行四辺形歪を相殺する。例えば、上記式(1)によって得られた平行四辺形歪の大きさがαである場合、図4に示したマスクパターンの平行四辺形歪を相殺するために、頂点PDに対応する頂点P4のx座標を(x4+α)に設定し、頂点PBに対応す頂点P2のx座標を(x2-α)に設定しておく。このように、平行四辺形歪によるパターンずれを予め想定した上で、歪の大きさ(ずれ量)に基づいて露光データを設定して、マスクパターンに対応するレジストパターンを形成することにより、実際にマスクパターンに生じるずれを補償し、完成したマスクパターンの形状を所望の設計値に基づくマスクパターンに近づけることができる。
【0047】
図5を参照すると、実際に形成されたマスクパターンは、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較して、x軸方向に延びる長辺、及びy軸方向に延びる短辺が歪んでいる。図5では、長辺の中央部付近がy軸方向に弓型に歪み、短辺の中央部付近がx軸方向に弓型に歪んでいる。以下、長辺に生じる歪を長辺歪、短辺の生じる歪を短辺歪と呼ぶ。この長辺歪及び短辺歪を補正して、完成したマスクパターンの形状を所望の設計値に基づくマスクパターンに近づける。つまり、長辺歪及び短辺歪が相殺されるように、露光データを補正する。
【0048】
長辺歪及び短辺歪を補償するには、マスクパターンの長辺歪及び短辺歪の大きさ、つまりマスクパターンの長辺におけるy軸方向へのずれ、及びマスクパターンの短辺におけるx軸方向へのずれを算出し、その結果をレジストパターンを形成する際に用いる露光データに反映させる。
【0049】
本実施形態において、長辺歪の大きさは、実際に形成されたマスクパターンの長辺における任意の3つの点の座標に基づいて算出する。ここで、実際に形成されたマスクパターンの長辺における任意の3つの点は、特に限定されるわけではないが、歪が相対的に大きな領域における任意の点であってもよい。図5に示す実際に形成されたマスクパターンの例では、図面における上側の長辺(頂点PA、PDを結ぶ辺)の中央部付近を中心に弓型に歪が生じているため、当該長辺の中央部付近に任意の3つの点を設定してもよい。例えば、図5に示すように、頂点PA及び頂点PDをつなぐ辺(以下、第1長辺という)における任意の3点として、点PE、点PF、及び点PGを設定してもよい。この点PE、点PF、及び点PGのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのずれの大きさが最も大きな点のずれ量を第1長辺歪の大きさとする。
【0050】
点PEのxy座標平面上における座標は(xe、ye)とし、点PFのxy座標平面上における座標は(xf、yf)とし、点PGのxy座標平面上における座標は(xg、yg)とし、yg>ye且つvg>yfとする。図5において、実際に形成されたマスクパターンと、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較すると、点PE、点PF、及び点PGのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのy軸方向へのずれの大きさが最も大きな点は、点PGである。すなわち、点PGにおける所望の設計値に基づくマスクパターンからのy軸方向へのずれ量が、第1長辺歪の大きさである。この場合、第1長辺歪の大きさは、次の式(2)に基づいて算出することができる。
第1長辺歪の大きさ=(ya+yd)/2-yg・・・式(2)
【0051】
同様に、第1長辺と対向する辺である、頂点PBと頂点PCをつなぐ辺の(以下、第2長辺という)歪の大きさを算出することができる。図5に示す例では、第2長辺の中央部付近に任意の3つの点として、点PK、点PL、及び点PMを設定してもよい。この点PK、点PL、及び点PMのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのずれの大きさが最も大きな点のずれ量を第2長辺歪の大きさとする。点PKのxy座標平面上における座標は(xk、yk)とし、点PLのxy座標平面上における座標は(xl、yl)とし、点PMのxy座標平面上における座標は(xm、ym)とし、yk<yl、且つyk<ymとする。換言すれば、|yk|>|yl|、且つ|yk|>|ym|である。図5において、実際に形成されたマスクパターンと、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較すると、点PK、点PL、及び点PMのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのy軸方向へのずれの大きさが最も大きな点は、点PKである。すなわち、点PKにおける所望の設計値に基づくマスクパターンからのy軸方向へのずれ量が、第2長辺歪の大きさである。この場合、第2長辺歪の大きさは、次の式(3)に基づいて算出することができる。
第2長辺歪の大きさ=(yb+yc)/2-yk・・・式(3)
【0052】
以上の方法により算出された第1長辺歪の大きさ、及び第2長辺歪の大きさは、主に第1長辺及び第2長辺に平行なマスクパターンの座標位置の補正値として利用することができる。
【0053】
上述した長辺歪の大きさの算出方法と同様に、短辺歪の大きさを算出することができる。頂点PAと頂点PBをつなぐ辺の(以下、第1短辺という)歪の大きさを算出する場合を説明する。図5に示す実際に形成されたマスクパターンの例では、第1短辺の中央部付近を中心に弓型に歪が生じているため、第1短辺の中央部付近に任意の3つの点として、点PH、点PI、及び点PJを設定してもよい。この点PH、点PH、及び点PJのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのずれの大きさが最も大きな点のずれ量を第1短辺歪の大きさとする。点PHのxy座標平面上における座標は(xh、yh)とし、点PIのxy座標平面上における座標は(xi、yi)とし、点PJのxy座標平面上における座標は(xj、yj)とし、xi>xh、且つxi>xjとする。図5において、実際に形成されたマスクパターンと、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較すると、点PH、点PI、及び点PJのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのx軸方向へのずれの大きさが最も大きな点は、点PIである。すなわち、点PIにおける所望の設計値に基づくマスクパターンからのx軸方向へのずれ量が、第1短辺歪の大きさである。この場合、第1短辺歪の大きさは、次の式(4)に基づいて算出することができる。
第1短辺歪の大きさ=(xa+xb)/2-xi・・・式(4)
【0054】
同様に、第1短辺と対向する辺である、頂点PBと頂点PDをつなぐ辺の(以下、第2短辺という)歪の大きさを算出することができる。図5に示す例では、第2短辺の中央部付近に任意の3つの点として、点PN、点PO、及び点PPを設定してもよい。この点PN、点PO、及び点PPのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのずれの大きさが最も大きな点のずれ量を第2短辺歪の大きさとする。点PNのxy座標平面上における座標は(xn、yn)とし、点POのxy座標平面上における座標は(xo、yo)とし、点PPのxy座標平面上における座標は(xp、yp)とし、xo<xn、且つxo<xpとする。換言すれば、|xo|>|xp|、且つ|xo|>|xp|である。図5において、実際に形成されたマスクパターンと、所望の設計値に基づくマスクパターンと比較すると、点PN、点PO、及び点PPMのうち、所望の設計値に基づくマスクパターンからのx軸方向へのずれの大きさが最も大きな点は、点POである。すなわち、点POにおける所望の設計値に基づくマスクパターンからのx軸方向へのずれ量が、第2短辺歪の大きさである。この場合、第2短辺歪の大きさは、次の式(5)に基づいて算出することができる。
第2短辺歪の大きさ=(xc+xd)/2-xo・・・式(5)
【0055】
以上の方法により算出された第1短辺歪の大きさ、及び第2短辺歪の大きさは、主に第1短辺及び第2短辺に平行なマスクパターンの座標位置の補正値として利用することができる。
【0056】
算出された歪の大きさ(ずれ量)に基づいて露光データを修正する際には、レジストパターン全体の座標位置がずれ量に基づいて補正されるように、露光データを修正することが好ましい。例えば、図4に示すようなマスクパターンの4つの頂点PB及び頂点PDの位置を所望の設計値に基づくマスクパターンの頂点P2、P4に近づけるために、算出された平行四辺形歪の大きさに基づいて露光データを修正する場合、2つの頂点PB、PDの座標位置の修正だけではなく、頂点PBと頂点PAとをつなぐ辺(第1短辺)における任意の点のx座標も補正する。同様に、頂点PDと頂点PCをつなぐ辺(第2短辺)における任意の点のx座標も補正する。実際に形成されたマスクパターンにおいて、第1短辺又は第2短辺上の任意の点が頂点PB又は頂点PDからの距離が近いほど、所望の設計値に基づくマスクパターンに対するずれ量が大きくなることが考えられる。そこで、頂点PB、頂点PDからの距離に応じて、露光データに対する補正値を変えてもよい。例えば、第1短辺又は第2短辺上の任意の点が頂点PB又は頂点PDからの距離が小さい、つまり頂点PB又は頂点PDに近いほど、任意の点のx座標を補正するための補正値を大きくし、第1短辺又は第2短辺上の任意の点が頂点PB、頂点PDからの距離が大きい、つまり頂点PB、頂点PDから離れているほど補正値を小さくしてもよい。
【0057】
同様に第1長辺歪を補正するために、算出された第1長辺歪の大きさに基づいて露光データを修正する場合、算出された第1長辺歪の大きさに対応する任意の点PGの座標位置の補正だけではなく、第1長辺上の任意の点のy座標も補正することが好ましい。実際に形成されたマスクパターンにおいて、第1長辺上の任意の点と点PGとの距離が近いほど、所望の設計値に基づくマスクパターンに対するずれ量が大きくなることが考えられる。そこで、点PGからの距離に応じて、露光データに対する補正値を変えてもよい。例えば、任意の点と点PGとの距離が小さい、つまり点PGに近いほど任意の点のy座標を補正するための補正値を大きくし、任意の点と点PGとの距離が大きい、つまり点PGから離れているほど補正値を小さくしてもよい。第2長辺歪の補正、第1短辺歪の補正、及び第2短辺歪の補正についても同様である。
【0058】
以上、図4及び図5を参照して、露光データの補正について説明した。上述したように、図4及び図5では、一例として、第4象限に対応する領域に形成されるレジストパターンの露光データの補正について説明した。第1象限~第3象限に対応する領域に形成される蒸着マスクセット102を作製するために用いられるレジストパターンの露光データについても、上述した方法によって補正値を各象限ごとに算出し、算出された補正値に基づいて各象限に対応する露光データを補正する。本実施形態において、補正対象となる露光データは、直前に作製されたマスクパターンを形成する際に用いられた露光データである。
【0059】
上述したような方法で算出された、直前に作製されたマスクパターンの所望の設計値に基づくマスクパターンに対するずれ量に基づいて、次に作製するマスクパターンのためのレジストパターンを形成する際に用いられる露光データを修正する。所望の設計値に基づくマスクパターンに対する実際に形成されたマスクパターンとのずれ量を、レジストパターンを形成するために用いる露光データに反映することにより、次に作製するマスクパターンの所望の設計値に基づくマスクパターンに対するずれを抑制し、蒸着マスクを用いて作製する表示装置の歩留まりを向上させることができる。
【0060】
(第2実施形態)
以上に説明した第1実施形態では、直前に作製されたマスクパターンの所望の設計値に基づくマスクパターンに対するずれ量に基づいて、次に作製するマスクパターンのためのレジストパターンを形成する際に用いられる露光データを修正した第1実施形態では、補正対象となる露光データは、直前に作製されたマスクパターンを形成する際に用いられた露光データである。しかしながら、補正対象となる露光データはこれに限定されるわけではない。例えば、以前に作製された複数のマスクパターンの形状を測定し、所望の設計値に基づくマスクパターンに対して典型的な変形を生じているマスクパターンの作製に用いられたレジストパターンの露光データを基準露光データとして、この基準露光データを補正対象としてもよい。本実施形態では、基準露光データを補正対象とした場合の補正方法について説明する。
【0061】
本実施形態においては、基準露光データを取得する。上述したように、基準露光データを得るには、まず、以前に作製された複数のマスクパターンの形状の実測値に基づいて、所望の設計値に基づくマスクパターンに対して典型的な変形を生じているマスクパターンを選択する。この選択されたマスクパターンの作製に用いられたレジストパターンの露光データを基準露光データとして設定する。基準露光データは、典型的な変形を生じているマスクパターンをxy座標平面上に配置した場合の任意の複数の点に対応するレジストパターンのxy座標情報を含む。任意の複数の点の数は、限定されるわけではないが、ここでは360個とする。即ち、基準露光データは、360個の点に対応するxy座標情報を含む。典型的な変形を生じているマスクパターンが複数選択された場合、選択された複数のマスクパターンに対応する露光データの平均値を算出し、算出された露光データの平均値を基準露光データとして設定してもよい。また、以前に作製された複数のマスクパターンのうち、所定の複数のマスクパターンに対応する露光データの平均値を算出し、算出された露光データの平均値を基準露光データとして設定してもよい。ここで、所定の複数のマスクパターンは、直近の数日間に製造された複数のマスクパターンから選択されてもよい。
【0062】
次に、直前に作製されたマスクパターンの所望の設計値に基づくマスクパターンに対するずれ量を算出する。このずれ量は、前記任意の360個の点の各点における、所望の設計値に基づくマスクパターンに対する直前に作製されたマスクパターンのずれ量である。すなわち、360個の点について、所望の設計値に基づくマスクパターンに対する直前に作製されたマスクパターンのずれ量を算出する。
【0063】
次に、算出されたずれ量に基づいて、基準露光データに対する補正値を決定する。まず、基準露光データに、算出されたずれ量(所望の設計値に基づくマスクパターンに対する直前に作製されたマスクパターンのずれ量)をそれぞれ0.1倍~1.5倍した数値を掛ける。ここでは、任意の360個の点についてずれ量を算出しているため、360パターンのずれ量が算出される。この360パターンのずれ量の各々を、他外因に基づく変動分を考慮して0.1倍~1.5倍した数値を仮の補正値とし、360個の点に対応するxy座標情報を含む基準露光データに反映する。これにより得られた露光データのうち、所望の設計値との差が最小になる露光データを選択する。選択された露光データを算出する際に掛けられた仮の補正値を補正値として決定する。例えば、算出されたずれ量のうち所定のずれ量を1.1倍した数値を基準露光データに掛けて得られた露光データが、所望の設計値との差が最も小さい場合、補正値は該所定のずれ量を1.1倍した値となる。そして、決定された補正値を基準露光データに掛けて得られた露光データが補正後の露光データとなる。
【符号の説明】
【0064】
100:蒸着マスクユニット、102:蒸着マスクセット、102a:蒸着マスク、104:開口部、110:支持フレーム、110a:窓、160:蒸着チャンバー、162:ロードロック扉、164:蒸着源、166:シャッター、168:移動機構、170:ホルダー、180:基板、301:支持基板303:剥離層、305:レジストパターン、307:マスクパターン、308:ダミーパターン309:レジストパターン309、311:接合層317:接続部
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図3L
図4
図5