(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157889
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】アルコール飲料、及び、アルコール飲料の苦味を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20221006BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062370
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】特許業務法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 智子
(72)【発明者】
【氏名】小島 悠輔
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
(57)【要約】
【課題】 本発明は、アルコールに起因する苦味が抑えられたアルコール飲料、及び、アルコール飲料の苦味抑制方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 サイクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}で表される環状四糖と、有機酸とを含有するアルコール飲料、及び、アルコール飲料に、前記環状四糖と、有機酸を含有させるアルコール飲料の苦味抑制方法を提供することより、上記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}で表される環状四糖と、有機酸とを含有する、アルコール飲料。
【請求項2】
アルコール濃度が2乃至15v/v%である、請求項1記載のアルコール飲料。
【請求項3】
原料として蒸留酒を含有する、請求項1又は2記載のアルコール飲料。
【請求項4】
前記アルコール飲料中に含まれる前記環状四糖の濃度が0.1w/v%以上である、請求項1乃至3のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項5】
前記アルコール飲料中に含まれる前記有機酸の濃度が0.002w/v%以上である、請求項1乃至4のいずれかに記載のアルコール飲料
【請求項6】
前記有機酸がクエン酸及び/又はリンゴ酸である、請求項1乃至5のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項7】
クエン酸換算の酸度が0.002w/v%以上である、請求項1乃至6いずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項8】
アルコール飲料に、サイクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}で表される環状四糖とともに有機酸を含有させることを特徴とする、アルコール飲料の苦味抑制方法。
【請求項9】
前記アルコール飲料のアルコール濃度が2乃至15v/v%である、請求項8記載のアルコール飲料の苦味抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}で表される環状四糖と、有機酸とを含有するアルコール飲料、及び、当該環状四糖とともに有機酸を含有させることを特徴とするアルコール飲料の苦味抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料は、原料及び製造方法などの違いで、ビール、発泡酒、ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウオッカ、ジン、ラム等、多種多様な形態で提供され、多くの人に好まれている、嗜好性の高い飲料である。特に、近年では焼酎、ウオッカ、ジン等を水や炭酸水で希釈し、甘味料、酸味料、果汁、香料などを加えたチューハイやカクテル、ワインに果物、甘味料、スパイスなどを加えたサングリアなど、アルコールを含有する原料に、甘味を有する物質、酸味を有する物質などを加え、さらに果汁や香料などで香りづけして製造される、飲みやすいアルコール飲料が提供され、男女を問わず幅広い年齢層の成人に消費されている。しかし、アルコール自体に苦味があることから、特に上述の甘味や酸味を有するアルコール飲料においては、甘味や酸味と相いれないアルコールに起因する苦味が目立ち、飲みやすさを低下させ、ひいては嗜好性を低下させてしまうことが問題になっている。
【0003】
これまで、オクタナールや、デカナール(特許文献1)や、2-メチル-3-フランチオール及びリモネン(特許文献2)を用いて、アルコールの苦味を低減させる方法が提示されている。しかしながら、オクタナール、デカナール、2-メチル-3-フランチオール、及び、リモネンなどの物質は、それ自体が味や香りに特徴を持つものである。そのため、味や香りの相性により適するアルコール飲料の香味が限られ、様々な香味を呈するアルコール飲料に広く適用することができるものではなかった。
【0004】
また、数多く存在する糖質のうち、アルコール感を抑える糖質として高度分岐環状デキストリン(特許文献3)や難消化性グルカン(特許文献4)が知られているが、これらはアルコールの刺激(味)・刺激臭を抑えるものであり、基本五味の一つである苦味を抑えるものではなかった。なお、コーヒー、オレンジジュース、乳飲料などの苦味のカドを取り、マイルドな喉ごしを与える糖質としてサイクロデキストリン(特許文献5)が報告されているが、アルコールの苦味抑制効果については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018―126115号公報
【特許文献2】特開2020-115900号公報
【特許文献3】特開2003-289824号公報
【特許文献4】特開2017-106号公報
【特許文献5】特開昭54-145268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルコールに起因する苦味が抑えられたアルコール飲料、及び、アルコール飲料の苦味抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意工夫を重ねた結果、驚くべきことに、サイクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}で表される構造を有する環状四糖(以下、単に「環状四糖」という。)と有機酸とを含有させることにより、アルコールに起因するアルコール飲料の苦味が顕著に抑えられることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、以下を提供することにより、上記課題を解決するものである。
(1)環状四糖と、有機酸とを含有する、アルコール飲料。
(2)アルコール濃度が2乃至15v/v%である、(1)記載のアルコール飲料。
(3)原料として蒸留酒を含有する、(1)又は(2)記載のアルコール飲料。
(4)前記アルコール飲料中に含まれる前記環状四糖の濃度が0.1w/v%以上である、(1)乃至(3)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(5)前記アルコール飲料中に含まれる前記有機酸の濃度が0.002w/v%以上である、(1)乃至(4)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(6)前記有機酸がクエン酸及び/又はリンゴ酸である、(1)乃至(5)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(7)クエン酸換算の酸度が0.002w/v%以上である、(1)乃至(6)いずれかに記載のアルコール飲料。
(8)アルコール飲料に、環状四糖とともに有機酸を含有させることを特徴とする、アルコール飲料の苦味抑制方法。
(9)前記アルコール飲料のアルコール濃度が2乃至15v/v%である、(8)記載のアルコール飲料の苦味抑制方法。
【0009】
上述したとおり、本発明者らが見出した知見によれば、環状四糖と共に酸味を有する有機酸をアルコール飲料に配合することにより、アルコール飲料におけるアルコールの苦味が顕著に抑制される。環状四糖は、他の甘味料との調和にも優れ、あと残りしない弱い甘味を有する物質であり、一方、有機酸は、チューハイなどに添加され使用されることもある上に、果汁やワインなどに元々含有されている酸味を有する物質であり、アルコール飲料との相性が極めてよい。すなわち、本発明者らが見出した環状四糖及び有機酸の組み合わせは、アルコール飲料本来の甘味及び酸味をほとんど損なうことなく、多くのアルコール飲料に広く適用することができるため、苦味が抑制された嗜好性の高い様々な種類のアルコール飲料を提供し得るという極めて優れた利点を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルコールの苦味が抑えられた、飲みやすいアルコール飲料が提供される。また、本発明に係るアルコール苦味抑制方法は、アルコール飲料に環状四糖とともに有機酸を含有させることにより、アルコール飲料におけるアルコールの苦味を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、環状四糖と、有機酸とを含有する、アルコール飲料に関する。また、前記アルコール飲料の苦味抑制方法に関する。以下、まず、本発明に係るアルコール飲料について、具体的に説明する。
【0012】
<アルコール飲料>
本明細書で言う「アルコール飲料」は、酒税法における酒類に該当する、アルコール分1度以上の飲料、即ち、エチルアルコールを1容量%(v/v%)以上含有する飲料を言う。本明細書においては、特に断りのない限り、アルコール飲料におけるアルコール濃度を表す%の表記は、容量%を表す。一方、特に断りのない限り、アルコール飲料に含まれるアルコール以外の物質の濃度については、重量/容量%、即ち、w/v%を用いて表す。
【0013】
アルコール飲料としては、例えば、清酒、ワイン、ビール、発泡酒、ジン、ウオッカ、テキーラ、ラム、スピリッツ、リキュール、ウイスキー、ブランデー、連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎、及び原料用アルコール等の酒類が挙げられる。また、これらのアルコール飲料を原料とし、水や炭酸水で希釈し、必要に応じて果汁やフレーバーなどを加えて飲みやすくしたカクテル、チューハイ、サングリア、ビアカクテルなども、アルコール飲料に含まれる。
【0014】
アルコール飲料は、アルコールに起因する苦味(以下、「アルコールの苦味」という。)を有する。アルコールの苦味とは、アルコール自身が有する基本五味の1つである苦味として、主に舌の奥の方で認識される呈味である。アルコールの苦味があることで、アルコール飲料の嗜好性が低下することがあるが、後述する実験例に示すように、アルコール飲料に、環状四糖と有機酸とを含有させることにより、環状四糖、有機酸のどちらか一方を含有させた場合と比較して、アルコール飲料におけるアルコールの苦味を効果的に抑制することができる。なお、苦味の抑制とは、苦味の強さが低下することを意味し、例えば、後述する実験例に記載の官能評価により確認することができる。
【0015】
本発明のアルコール飲料のアルコール度数、すなわちアルコール濃度は特に限定されるものではないが、アルコール濃度が2%未満のアルコール飲料は、元々アルコールの苦味を感じにくく、それを低減させる効果を感じることが難しい場合がある。そのため、本発明のアルコール飲料におけるアルコール濃度は、2%以上であることが好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。一方、アルコール濃度が高くなりすぎると、アルコールの苦味が強くなりすぎ、苦味抑制効果を十分に感じることが難しい場合があるため、本発明のアルコール飲料におけるアルコール濃度は、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、12%未満がさらに好ましく、9%以下がよりさらに好ましい。
【0016】
上述した通り、本発明のアルコール飲料にアルコール原料として用いられる酒類の種類に特段の制限は無いが、アルコール飲料の原料となる酒類のうち、蒸留酒は、蒸留を行っているため呈味成分が少なく、発酵由来の呈味成分を多く含む醸造酒に比べて相対的にアルコールの苦味が際立つ。そのため、アルコール原料として蒸留酒を含有するアルコール飲料において、環状四糖と有機酸とを併用する場合には、アルコールの苦味を抑える効果がより鮮明に発揮されるため好ましい。蒸留酒の中でも、その原料由来の香味が少なくアルコールの苦味を強く感じやすい、連続式蒸留焼酎、ウオッカ、原料用アルコールを、アルコール原料として含有するアルコール飲料において、環状四糖と有機酸とを併用する場合にアルコールの苦味を抑える効果が極めて鮮明に発揮されるため、特に好ましい。なお、本発明のアルコール飲料にアルコール原料として用いる酒類は、1種類であっても良く、また、2種類以上の酒類を用いることも随意である。
【0017】
<環状四糖>
本明細書で言う「環状四糖」は、グルコース4分子がα-1,6結合とα-1,3結合を介して交互に結合した環状のグルコ四糖、すなわち、サイクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}で表される糖質を意味する。
【0018】
環状四糖は、分子量648の、30℃の水100gに51.9g溶解する水溶性の高い糖質である。そのため、水を含有するアルコール飲料に容易に配合することができる。なお、環状四糖は、雑味を有さず僅かな甘味を持つ物質であり、甘味を有するアルコール飲料の他の香味を邪魔することがないため、アルコール飲料の処方設計上好適に用いることができる。また、環状四糖は白色の粉末であるが、水に溶解すると無色透明になるため、アルコール飲料の果汁や色素などの色を変化させないという点においても、処方設計上有利である。
【0019】
環状四糖の製造方法は特に限定されないが、例えば、国際公開第WO2002/010361号パンフレットに示される、澱粉部分分解物にα-イソマルトシルトシルグルコ糖質生成酵素とα-イソマルトシル転移酵素とを作用させ環状四糖を含む組成物を製造し、それをクロマト分離で精製する方法により環状四糖を得ることができる。クロマト分離で得られた環状四糖は、例えば晶析させ、乾燥し、結晶状粉末とすることができる。環状四糖の結晶としては、環状四糖5含水結晶、環状四糖無水結晶等が知られている。環状四糖結晶の製造方法は、同じく国際公開第WO2002/010361号パンフレットに記載されている。
【0020】
なお、環状四糖の製造に用いられる上述のα-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素及びα-イソマルトシル転移酵素は、環状四糖を生成するものである限り、その給源は問わないが、給源としては、例えば、国際公開第WO2001/090338号パンフレットなどに開示された、バチルス属やアルスロバクター属の微生物が挙げられ、とりわけ、バチルス・グロビスポルス(Bacillus globisporus)C9株(FERM BP-7143)、バチルス・グロビスポルス(Bacillus globisporus)C11株(FERM BP-7144)、バチルス・グロビスポルス(Bacillus globisporus)N75株(FERM BP-7591)、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globformis)A19株(FERM BP-7590)やこれらの変異株が好適である。当該両酵素は、それぞれが分離精製された精製酵素であっても、当該両酵素を含む粗精製酵素であってもよく、さらには、給源微生物などの抽出物や培養物などであってもよい。上記に例示した微生物株やそれらの変異株は、常法により培養すると、通常、当該両酵素を培地中にも産生するので、当該培養物から菌体を濾過して得られる濾液の濃縮液は、当該両酵素を含む環状四糖生成酵素剤として利用でき、かかる酵素剤は、その製造にかかるコストや労力が少ない点でとりわけ好適である。また、当該両酵素をコードする遺伝子を単離し、当該遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物により得られる酵素を用いてもよいことは言うまでもない。
【0021】
本発明のアルコール飲料に配合される環状四糖は、必ずしも高度に単離・精製された環状四糖(例えば、環状四糖5含水結晶)である必要はなく、環状四糖を含む糖組成物であってもよい。このような環状四糖を含有する組成物としては、例えば、『テトラリング(登録商標)』(製造者:株式会社林原)が挙げられる。当該組成物は、環状四糖を含有する水あめ状の形態にある組成物であり、環状四糖5含水結晶、環状四糖無水結晶等の精製を経て調製される環状四糖結晶に比べて、分離工程や精製工程が少なく、少ない製造工程で製造できることから安価に供給することができ、そのため、産業面で有利に利用することができるという利点がある。本明細書では、このような水あめ状の形態にある環状四糖含有組成物を「環状四糖水あめ」という。なお、環状四糖水あめの製造方法は、後述する実験例に示す通りであるが、これに限られない。環状四糖水あめには、環状四糖以外に、環状四糖にグルコースが1又は2分子以上結合した分岐環状四糖や、グルコース、マルトースなどの共存糖質が含まれていてもよい。
【0022】
本発明のアルコール飲料中に含まれる環状四糖の濃度の下限は特に限定されるものではないが、アルコール飲料中に、環状四糖を0.1%以上、好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上を有機酸とともに含有させることにより、アルコール飲料におけるアルコールの苦味を好適に抑制することができる。一方、本発明のアルコール飲料中に含まれる環状四糖の濃度の上限にも特に制限は無いが、環状四糖の濃度が5%を超えると環状四糖由来のボディ感が優位となり嗜好性を低下させる場合があるため、アルコール飲料中の環状四糖の濃度は5%以下とすることが望ましい。
【0023】
<有機酸>
本明細書で言う「有機酸」は、酸の性質をもつ有機化合物を意味する。本発明のアルコール飲料に用いられる有機酸の種類は特に限定されるものではないが、カルボキシル基を有する有機酸が好適に用いられ、具体的には、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、及び、リンゴ酸が好ましく、より好適にはクエン酸及びリンゴ酸を用いることができる。これらの有機酸は酸味を呈するため、例えば、各種飲料に酸味を与える酸味料として使用されている。本発明に係るアルコール飲料には、これらの有機酸のうち1種類を含有させてもよいし、2種類以上を含有させてもよい。また、これらの有機酸は有機酸塩として加えられたものであってもよい
。さらに、本発明のアルコール飲料に配合される有機酸は、必ずしも単離された物質である必要はなく、有機酸及び/又はその塩を含む果汁等を配合してもよい。本発明者らの見出した知見によれば、このような酸味を呈する有機酸を環状四糖とともにアルコール飲料に含有させることにより、アルコールの苦味が顕著に抑制される。
【0024】
なお、上述したとおり、本発明のアルコール飲料に用いられる有機酸の種類は特に限定されるものではないが、本発明のアルコール飲料が果汁若しくは果汁のフレーバーを含むアルコール飲料(例えば、チューハイやカクテルなど)として提供される場合には、これらのアルコール飲料に配合される果汁等に含まれている有機酸と同じ種類の有機酸を使用することが、果汁若しくはフレーバーの本来の香味、甘味を損なうことなく処方設計ができるため好ましい。このような観点から、多くの果汁に共通して含まれている有機酸であるクエン酸やリンゴ酸は、本発明のアルコール飲料に特に好適に用いることができる。
【0025】
ちなみに、アルコール飲料の嗜好性を高めるという観点からは、アルコール飲料のpHは2.8以上とすることが好ましい。アルコール飲料のpHが低くなりすぎると刺激が強くなりすぎ嗜好性が低下するためである。一方、酸味を感じさせ嗜好性の高いアルコール飲料とするため、また、微生物汚染を防止するため、アルコール飲料のpHを4.0未満とするように調整することが好ましい。アルコール飲料のpHの調整は、有機酸及び有機酸塩の配合量・種類等を調整することにより行うことができる。有機酸塩としては、例えば、アルコール飲料に使用した際に異味を生じにくいクエン酸三ナトリウムが好適に用いられるが、これに限定されない。
【0026】
本発明のアルコール飲料中に含まれる有機酸の濃度は、特に限定されるものではなく、アルコール飲料の嗜好性に応じて適宜の濃度とすることができるが、環状四糖と相乗的に働きアルコールの苦味を抑制するという観点から、具体的には0.002%以上であることが好ましく、0.005%以上であることがより好ましい。一方、前述した通り、アルコール飲料の嗜好性に応じて有機酸の濃度は適宜変更できるものの、有機酸の濃度が高すぎるとアルコール飲料の酸味が強くなりすぎ嗜好性が低下する傾向があるため、アルコール飲料中に含まれる有機酸の濃度は2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。なお、アルコール飲料中に含まれる有機酸の濃度は、有機酸及び/又はその塩を添加した量から算出できることは当然だが、その他の化学的手法によっても測定することができることは言うまでもない。例えば、アルコール飲料に対し高速液体クロマトグラフィーを用い、アルコール飲料中の有機酸を定量することでも求めることができる。
【0027】
一方、本明細書において、アルコール飲料の「酸度」とは、果実飲料の日本農林規格(平成25年12月24日農林水産省告示第3118号)に定められた酸度の測定方法に基づいて算出した「クエン酸換算の酸度」を意味する。「クエン酸換算の酸度」は、アルコール飲料に対し、水酸化ナトリウムを用い終点pH8.1で中和滴定を行い、中和に要した水酸化ナトリウムの量を求め、その量に基づいて水溶液中に含有されていた酸の量を、全ての酸がクエン酸であると仮定して、クエン酸量に換算して示した数値である。本明細書において、クエン酸換算の酸度は、常法に倣い、w/v%で示される。
【0028】
本発明のアルコール飲料のクエン酸換算の酸度は、特に限定されるものではないが、環状四糖と有機酸よるアルコールの苦味の抑制効果を十分に得るという観点から、具体的には0.002w/v%以上が好ましく、0.004w/v%以上がさらに好ましい。一方、アルコール飲料のクエン酸換算の酸度が大きすぎると、アルコール飲料の酸味が強くなりすぎ、嗜好性が損なわれる傾向があることから、クエン酸換算の酸度は1.5w/v%以下が好ましく、1.0w/v%以下がより好ましい。
【0029】
なお、本発明のアルコール飲料は、アルコール原料、環状四糖、有機酸以外の原料を含んでいてもよいことは言うまでもない。例えば、糖類、果汁、香料、甘味料、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、エキス類、pH調整剤、苦味料、品質安定剤などを配合することができる。さらに、本発明のアルコール飲料製造時に炭酸ガスを封入する、炭酸水を用いるなどの工程を加えることにより、アルコール飲料を炭酸ガス入りアルコール飲料とすることもできる。炭酸ガス圧は、飲料として提供される通常の範囲に調節すればよく、特に制限はない。
【0030】
本発明の苦味が抑制されたアルコール飲料は、例えば上述のアルコール原料としての酒類を水で希釈し、これに環状四糖及び有機酸を溶解もしくは混合させることで製造することができる。換言すれば、アルコール飲料に環状四糖とともに有機酸を含有させることにより、アルコール飲料のアルコールの苦味を抑制することができる。このように本発明は他の一側面において、アルコール飲料の苦味抑制方法を提供するものである。なお、当該アルコール飲料の苦味抑制方法において、環状四糖及び有機酸をアルコール飲料に添加するタイミングや添加する順番は問わない。また、各成分の好ましい配合量等については、アルコール飲料についての説明において既に述べたとおりである。
【0031】
以下、本発明を実験例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
【0032】
<実験1:環状四糖、及び、環状四糖水あめの調製>
まず、以下の実験において、アルコール飲料に配合される環状四糖及び環状四糖水あめを調製した。
【0033】
<実験1-1:環状四糖の調製>
国際公開第WO2002/010361号パンフレットの実験30に記載の方法で、環状四糖5含水結晶を得た。環状四糖5含水結晶中の環状四糖含有率は、分子量計算より88%である(環状四糖の分子量:648、水の分子量:18として計算した。)。
【0034】
<実験1-2:環状四糖水あめの調製>
環状四糖水あめを以下に示す手順にて調製した。
【0035】
<実験1-2-1:環状四糖水あめ調製に使用する環状四糖生成酵素の調製>
まず、環状四糖の調製に使用する環状四糖生成酵素を調製した。なお、本明細書において、「環状四糖生成酵素」とは、α-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素及びα-イソマルトシル転移酵素を含み、他の酵素を実質的に含まない酵素組成物を意味する。環状四糖生成酵素は、国際公開第WO2002/010361号パンフレットの実験3の方法に準じ、バチルス・グロビスポルスC9株(FERM BP-7143)を培養し、常法に従い、その培養物をSF膜により除菌して得た濾液をUF膜で濃縮することにより得た。得られた環状四糖生成酵素の酵素活性は、492単位/mLであった。
【0036】
なお、環状四糖生成酵素の酵素活性1単位は、可溶性デキストリンから1分間に総環状四糖を環状四糖換算で合計1μmol精製する酵素量と定義した。環状四糖生成酵素の酵素活性は、環状四糖生成酵素を適宜希釈した液500μLと、2%(w/v)の可溶性デキストリン(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社製)を含む50mM酢酸緩衝液(pH6.0)500μLを混合し、40℃で1時間保持して反応させた後、10分間煮沸して反応を停止し、その後、得られた反応液を総環状四糖含量分析に供して上記反応で生成した総環状四糖を以下に示す方法で定量することで求めた。
【0037】
ちなみに、本明細書において「総環状四糖」という場合、環状四糖に加えて、環状四糖に1又は2分子以上のグルコースがグルコシド結合を介して結合した分岐構造を有する糖質(以下、「分岐環状四糖」ということもある。)を含めて意味する。分岐環状四糖の具体例としては、環状四糖に1個のグルコースがα-1,4グルコシド結合を介して結合した糖質、環状四糖に1個のイソマルトースがα-1,3グルコシド結合を介して結合した糖質などが挙げられる。
【0038】
一方、本明細書において「総環状四糖含量」という場合、環状四糖、分岐環状四糖及び共存糖質を含有する糖組成物(例えば環状四糖水あめ)に、グルコアミラーゼとα-グルコシダーゼを作用させたときに得られる糖組成物の、全固形物あたりの無水物換算での環状四糖含量(質量%)を意味する。なお、環状四糖、分岐環状四糖及び共存糖質を含有する糖組成物に、グルコアミラーゼとα-グルコシダーゼを作用させることにより、糖組成物に含まれる分岐環状四糖の分岐構造や共存糖質はグルコースへと分解され、糖質として実質的に環状四糖とグルコースのみを含む混合物が得られる。したがって、得られた混合物の環状四糖含量は、元々の糖組成物に含まれる環状四糖構造の多寡を反映する。
【0039】
具体的には、総環状四糖含量は、次の方法で分析した。即ち、固形物濃度2質量%に調整した環状四糖と分岐環状四糖を含有する糖組成物溶液0.5mLと、400単位/mLのα-グルコシダーゼ(商品名『トランスグルコシダーゼL「アマノ」』、天野エンザイム株式会社製、13,000単位/mL)及び10単位/mLのグルコアミラーゼ(商品名『デナチーム GSA/R』、ナガセケムテックス株式会社製、3,800単位/g)を含む50mM酢酸緩衝液(pH5.0)0.5mLとを混合し、50℃で24時間保持して環状四糖以外のグルコース同士の結合を完全に消化し、10分間煮沸して消化反応を停止し、常法により脱塩、メンブランフィルターによる濾過に供した後、下記の条件でのHPLCに供して得られるクロマトグラムに基づき面積百分率法により総環状四糖含量を求めた。
【0040】
<HPLC条件>
カラム:『Shodex Sugar KS-801(Na型)』(昭和電工株式会社製)
サンプル濃度:固形物濃度として1質量%
サンプル注入量:20μL
溶離液:超純水
流速:0.5mL/分
温度:60℃
検出:示差屈折率
【0041】
<実験1-2-2:環状四糖水あめの調製及び分析>
次に、実験1-2-1で調製した環状四糖生成酵素を用いて、国際公開第WO2002/010361号パンフレットの実施例A-9に記載された方法に準じ、環状四糖水あめを調製した。即ち、原料(コーンスターチ液化液、DE5、固形物濃度30質量%)に対し、その固形物1gあたり2単位の実験1-2-1で調製した環状四糖生成酵素と、同固形物1gあたり1単位のCGTase(株式会社林原製、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来、1,634単位/g)を加え、pH6.0、50℃で48時間保持して、環状四糖生成反応を行った。また、環状四糖生成反応の開始後5時間を経過した時点で、原料の固形物1gあたり500単位のイソアミラーゼ(株式会社林原製、シュードモナス・アミロデラモサ由来、553,500単位/g)を添加した。その後、反応液を95℃で30分間保持して反応を停止し、常温にまで冷却した後、常法に従い、濾過、H型及びOH型イオン交換樹脂による脱塩に供し、さらに活性炭で脱色し、エバポレーターで濃縮して固形物濃度73質量%に調整し、環状四糖水あめを得た。
【0042】
得られた環状四糖水あめに含まれる環状四糖の全固形物あたりの無水物換算での含量(質量%)は、被験試料を以下の条件で市販の高速液体クロマトグラフィーシステム(商品名『Prominence』、株式会社島津製作所製)を用いた高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という。)に供して得られたクロマトグラムに基づき百分率法で計算することにより求めた。
【0043】
<HPLC条件>
カラム:『MCI GEL CK04SS』(三菱化学株式会社製)を2本直列で連結
サンプル濃度:固形物濃度として1質量%
サンプル注入量:20μL
溶離液:超純水
流速:0.4mL/分
温度:80℃
検出:示差屈折率
【0044】
得られた糖組成物の全固形物あたりの環状四糖含量は31.7質量%、分岐環状四糖含量は15.0質量%、グルコース、マルトース、イソマルトースの合計含量は9.7質量%、及び、環状四糖及び分岐環状四糖以外の3糖以上の糖質が43.6%であった。また、環状四糖水あめの固形分濃度は上述の通り73質量%であることから、環状四糖水あめ中の環状四糖含有率は23質量%であると計算された。
【0045】
<実験2:アルコール飲料におけるアルコールの苦味の官能評価>
次に、以下に記載する方法に従ってアルコール飲料を作成し、環状四糖と有機酸によりアルコール飲料の苦味が変化するかどうかを、官能検査により評価した。
【0046】
<使用原料>
アルコール飲料の調製には、以下に記載の原料を使用した。なお、これらの原料の溶解、希釈には、純水を用いた。
アルコール原料:市販の『ウヰルキンソン・ウオッカ50°』(製造者:ニッカウヰスキー株式会社)を用いた。アルコール濃度は50%である。
環状四糖5含水結晶:実験1-2において調製した、環状四糖5含水結晶を用いた。
環状四糖水あめ:実験1-1-2において調製した、環状四糖水あめを用いた
α-シクロデキストリン:市販のα-シクロデキストリン(製造者:セラケム株式会社)を用いた。
マルトテトラオースシラップ:市販のマルトテトラオースシラップ(商品名『テトラップ』、製造者:株式会社林原)を用いた。
クエン酸:食品添加物である、市販のクエン酸(結晶)(製造者:健栄製薬株式会社)を用いた。なお、使用したクエン酸(結晶)は一含水結晶であるため、当該クエン酸(結晶)中のクエン酸含有率は91%である(クエン酸の分子量:192、水の分子量:18として計算した。)。
リンゴ酸:食品添加物である、市販のDL-リンゴ酸(製造者:株式会社マルゴコーポレーション)を用いた。
クエン酸三ナトリウム:食品添加物である、市販のクエン酸三ナトリウム(製造者:富士フィルム和光純薬株式会社)を用いた。なお、使用したクエン酸三ナトリウムは二含水結晶であるため、当該クエン酸三ナトリウム中のクエン酸含有率は65%である(クエン酸の分子量:192、水の分子量:18、ナトリウムの原子量:23として計算した)。
以降の実験において、有機酸の配合量は、甘味やアルコールの味とのバランスを考慮し、適する有機酸の濃度に調整して使用した。また、有機酸を含む被験試料については、有機酸の塩であるクエン酸三ナトリウムを使用してpH調整を行い、それぞれpH3.1乃至3.2に調整した。
【0047】
<クエン酸換算の酸度測定方法>
以下の実験において調製したアルコール飲料の酸度は、果汁飲料の日本農林規格(平成25年12月24日農林水産省告示第3118号)に定められた酸度の測定方法に基づいて算出した。具体的にはアルコール飲料を100ml採取し、その採取したアルコール飲料に対し、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を用い、pH終点を8.1として中和滴定を行った。中和滴定に使用した水酸化ナトリウム量より、水溶液中に含まれている酸をすべてクエン酸であると仮定した場合の水溶液中の酸の濃度をクエン酸換算の酸度(単位w/v%)として求めた。なお、炭酸ガスを含有しているアルコール飲料は30秒間煮沸させ、完全に炭酸ガスを抜いたうえで中和滴定に供した。
【0048】
<官能評価>
官能評価は、以下の方法に則り実施した。
【0049】
<パネリスト選抜>
本出願人会社内の食品官能評価能力のあるパネリストに対し、『ウヰルキンソン・ウオッカ50°』をアルコール濃度4%と6%になるように純水に希釈した常温の液体を試飲させ、アルコール濃度6%のほうが苦味を明確に強く感じるとしたパネリストを、アルコールの苦味を正確に検知できるパネリストとして選抜した。ここで、アルコールの苦味とは、アルコール飲料を飲み込んだときに感じる基本五味の一つである苦味、特に舌の奥の方で感じる苦味と定義した。
【0050】
<官能検査方法>
官能評価は、選抜されたパネリストに対照試料又は被験試料を飲ませ、アルコールの苦味に関して、以下の評価基準に沿って評点をつけさせることで行った。官能評価に用いた試料の液温は室温とした。被験試料はアルコールであることから、酔いの影響を考慮し、1回の官能評価試験あたり最大8検体までとし、各官能評価試験は最低4時間以上間をあけて行った。パネリストがつけた評点を合計し、平均点を算出し、これを官能評価評点とした。本評価では、パネリストの評点の平均点が2.0点以下の試料を、アルコールの苦味が対照に比べ顕著に抑えられていると判定した。
【0051】
<官能評価評点及び評価基準>
5:対照試料に比べアルコールの苦味が、強い
4:対照試料に比べアルコールの苦味が、僅かに強い
3:アルコールの苦味が、対照試料と同程度
2:対照試料に比べアルコールの苦味が僅かに弱い
1:対照試料に比べアルコールの苦味が弱い
0:アルコールの苦味を感じない
【0052】
<実験2-1:環状四糖と有機酸によるアルコールの苦味抑制効果>
上述した原料を用い、表1に示した配合に基づいて、対照試料1及び被験試料1-1乃至1-4を調製した。被験試料1-1、1-3は、環状四糖5含水結晶を、被験試料1-4は環状四糖水あめを使用し、それぞれに含有される環状四糖濃度を1.8%となるようそろえた。また、各アルコール飲料中に含有される有機酸の濃度は、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの配合量とクエン酸含有率(クエン酸91%、クエン酸三ナトリウム:65%)に基づいて算出した。アルコールの苦味に関する官能評価は、上記官能評価方法に従って選抜されたパネリスト4名で行った。各パネリストは、官能評価の際、各被験試料に対する味覚コメントを任意で記載した。被験試料及び対照試料の処方と官能評価結果を表1に併せて示す。
【0053】
【0054】
表1に示すように、アルコールと水以外に、環状四糖のみを含有する被験試料1-1、環状四糖を含有せず有機酸としてクエン酸を含有する被験試料1-2では、官能評価評点が2.0点を超える数値であり、アルコールの苦味を抑える効果は無かった。これに対し、環状四糖、及び有機酸の両方を含む被験試料1-3においては、官能評価評点が1.0点と、アルコールと水以外に環状四糖のみを含有する被験試料1-1、及び、アルコールと水以外に有機酸のみを含有する被験試料1-2と比べてアルコールの苦味が顕著に抑えられていた。また、環状四糖5含水結晶に代えて、環状四糖水あめを用いた被験試料1-4も、官能評価評点が0.75点と、被験試料1-3と同程度にアルコールの苦味が抑えられていた。これらの結果より、環状四糖、及び、有機酸の双方を含有するするアルコール飲料においては、環状四糖と有機酸が相乗的に作用し、アルコールの苦味が抑えられていることが示された。また、表1の被験試料1-3及び1-4に記載の通り、環状四糖の配合量が同一となるような処方とした場合、ほぼ同等の評点となったことから、環状四糖がアルコールの苦味を抑える作用の主体であると推察された。そのため、上述の通り環状四糖水あめは製造コスト面で優れていることから、以下の実験では被験試料へ添加する環状四糖を含む原料として、環状四糖ではなく環状四糖水あめを用いた。
【0055】
<実験2-2:環状四糖と有機酸の併用によるアルコールの苦味抑制効果におけるアルコール濃度の影響>
実験2-1において、有機酸との併用によりアルコールの苦味を抑制することが確認された環状四糖水あめを用い、アルコール濃度を変化させた場合のアルコール飲料におけるアルコールの苦味の程度を評価することにより、環状四糖と有機酸の併用による苦味抑制効果に対するアルコール濃度の影響について検討した。
【0056】
表2に示した配合に基づいて、アルコール濃度を変化させた試料を調製し、対照試料2-1乃至2-4及び被験試料2-1乃至2-4を得た。これら対照試料及び被験試料について、実験2-1と同様の官能評価方法に従い、選抜されたパネリスト4名にて官能評価を実施した。なお、官能評価はアルコール濃度が同一の組ごとに行った。即ち、例えばアルコール濃度が4%の被験試料2-1についての官能評価は、同じくアルコール濃度が4%の対照試料2-1を対照試料として評価基準とすることで行った。被験試料及び対照試料の処方と官能評価結果を併せて表2に示す。
【0057】
【0058】
表2に示す通り、アルコール濃度が4乃至12%の場合においては、環状四糖と有機酸の双方を含有する被験試料2-1乃至2-4いずれについても官能評価評点が2.0点以下の数値であり、明確にアルコールの苦味が抑えられていると評価された。以上の結果より、環状四糖と有機酸の双方を含有させた場合には、アルコール飲料のアルコール濃度を4乃至12%の範囲内で変化させた場合であっても、アルコールの苦味が抑えられることが示された。このように、環状四糖と有機酸を併用した場合には、広い範囲のアルコール濃度において、アルコール濃度に依存することなくアルコール飲料の苦味が抑制されることが明らかとなった。なお、被験試料2-3においては、実験2-1の被験試料1-4と比べアルコール飲料の環状四糖濃度を1.8%から0.9%に減らしたにも関わらず、官能評価評点が0.75点と、顕著にアルコールの苦味が抑えられていた。
【0059】
<実験2-3:環状四糖と有機酸の併用によるアルコールの苦味抑制効果における環状四糖濃度の影響>
環状四糖濃度を変化させ、環状四糖と有機酸の併用によるアルコール飲料の苦味抑制効果における環状四糖濃度の影響ついて検討した。具体的には、表3に示した配合に基づいて、環状四糖水あめの処方量を変化させ、対照試料3及び被験試料3-1乃至3-3を調製し、得られた試料について官能評価を行った。官能評価は、実験2-1と同様の官能評価方法で、選抜されたパネリスト4名で行った。被験試料及び対照試料の処方と官能評価結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
表3に示す通り、アルコール濃度を6%に固定し、環状四糖の濃度を0.2%乃至0.9%で変化させた被験試料3-1乃至3-3において、いずれの被験試料についても官能評価評点が2.0点以下の数値であり、対照試料3と比較して、アルコールの苦味が顕著に抑えられていた。特に、環状四糖の濃度が0.2%と低い水準にある被験試料3-1においても、官能評価点は2.0点であり、アルコールの苦味が顕著に抑えられていた。このように環状四糖と有機酸の併用によれば、きわめて少量の環状四糖によってアルコールの苦味が顕著に抑制されるため、処方設計上、極めて有利に使用できると考えられる。
【0062】
<実験2-4:アルコールの苦味抑制効果における、有機酸の種類及び糖質の種類の影響>
環状四糖とともにクエン酸以外の有機酸を併用した場合の、アルコール飲料におけるアルコールの苦味の抑制効果を調べるため、有機酸として、クエン酸に代えてリンゴ酸を用いて検討を行った。また、特許文献5において飲料の苦味のカドをとり、喉ごしをマイルドにすることが知られている、環状構造を有するα-シクロデキストリン、及び、環状四糖水あめと同じくグルコ四糖を主構成成分とするマルトテトラオース水あめ(商品名『テトラップ』、株式会社林原製)のアルコールの苦味への影響を調べる試験を行った。表4に示す配合で調製を行い、対照試料4、及び被験試料4-1乃至4-4を得た。選抜されたパネリスト4名で、実験2-1と同様の方法で官能評価を行った。被験試料及び対照試料の処方と官能評価結果を表4に併せて示す。
【0063】
【0064】
表4に示す通り、環状四糖を含有せず有機酸として、主としてリンゴ酸を含有する被験試料4-1においては、官能評価評点が2.5点とアルコール飲料のアルコールの苦味は抑えられなかったが、環状四糖、及び、有機酸として主としてリンゴ酸を含有する被験試料4-2においては、官能評価評点が1.5点であり、アルコール飲料のアルコールの苦味が抑えられた。これら被験試料4-1及び4-2の結果より、クエン酸のみならず、クエン酸と同じくカルボキシル基を有する有機酸であるリンゴ酸を用いた場合でも、環状四糖と併用することで、アルコールの苦味を抑える効果が奏されることが示された。
【0065】
一方で、同じく表4に示す通り、環状四糖に代えてα-シクロデキストリンを用いた被験試料4-3及び環状四糖に代えてマルトテトラオース水あめを用いた被験試4-4は、それぞれ官能評価評点が3.5点、2.25点であり、アルコールの苦味を抑える効果が認められなかった。これらの結果より、環状四糖を含まないこれらの糖質は、たとえ有機酸を含んでいたとしても、アルコールの苦味を抑える明確な効果は無く、アルコールの苦味を抑える効果は環状四糖及び有機酸を併用したときにみられる特徴的な効果であることが明らかとなった。
【0066】
以下、実施例に基づき、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0067】
<ぶどうチューハイ>
実験1-2-2において調製した環状四糖水あめを20g、6倍濃縮透明赤ぶどう果汁を3g、果糖ブドウ糖液糖を40g、クエン酸を2g、リンゴ酸を1g、クエン酸三ナトリウムを1g、ぶどうフレーバー適量を少量の水に良く混合し、ウオッカ(ニッカウヰスキー社 ウヰルキンソン・ウオッカ50°)を120ml加えたのちに、炭酸水で合計1000mlになるよう希釈し、アルコール濃度6%のぶどうチューハイを得た。得られたぶどうチューハイは、アルコールの苦味を感じない、飲みやすいチューハイであった。