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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157899
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】摩擦攪拌加工用ツール
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/596 20060101AFI20221006BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B35/596
B23K20/12 344
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062389
(22)【出願日】2021-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 右貴
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】和田 光平
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG22
4E167BG26
4E167DA10
4E167DA12
4E167DA13
4E167DA14
(57)【要約】
【課題】 高硬度でかつ高温下でも高い硬度を有し、優れた靭性及び抗折力を有し、かつ熱伝導率が低い窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールを提供する。
【解決手段】 窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールであって、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有し、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上である摩擦攪拌加工用ツール。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールであって、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有し、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上であることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項2】
前記窒化珪素系セラミックスは2質量%超8質量%以下の窒化アルミニウム粉末、0質量%以上10質量%未満の酸化タングステン粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化アルミニウム粉末、0質量%以上1質量%以下の酸化マグネシウム粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化イットリウム粉末、及び残部窒化珪素粉末の混合物を焼結してなることを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項3】
前記混合物が酸化タングステン粉末を含み、
前記窒化珪素系セラミックスが前記酸化タングステン粉末の焼結時の還元・炭化により生成したW、W2C及びWCを含有し、
前記窒化珪素系セラミックスに対して、W2Cの割合が0.44~3.85質量%であり、Wの割合が0.01~0.16質量%であり、WCの割合が0.08~0.37質量%であり、W、W2C及びWCの合計に対して、W2Cの割合が50質量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項4】
前記混合物における酸化イットリウム粉末及び酸化アルミニウム粉末の含有量の合計が3~20質量%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項5】
熱伝導率が22 Wm-1K-1以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板等の被接合材同士を接合するに際し、この被接合材の接合面を互いに突き合わせて形成される接合線の一端に、高速回転する棒状の攪拌ツールのプローブを強い力で挿入し、このツールを高速回転させながら接合線に沿って他端に移動させ、その時に発生する摩擦熱により接合面を可塑化して、ツールのショルダ部によって圧力を付加しながら被接合材の接合面同士を接合する摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)や、被接合材を重ね合わせてツールを回転させながら一方の被接合材を押圧し、その時に発生する摩擦熱により接合面を可塑化して、被接合材をスポット接合する摩擦スポット接合(FSJ:Friction Spot Joining)が広く知られている。
【0003】
摩擦攪拌接合は、ツールと被接合材との摩擦熱を利用して接合するので、最高到達温度が融点に達せず固相状態で接合するため、アーク溶接などの溶融溶接に比べて、接合部における強度低下が小さく、気孔や割れなどの接合欠陥がなく、接合面も平坦である等の利点があり、すでに鉄道車両、船舶、土木構造物、自動車などの分野で実用化されている。
【0004】
特許文献1は、径の大きいショルダ部とその先端にプローブを有し、アルミニウム合金プレートを互いに突き合わされて接合するための摩擦溶接ツールを開示しており、摩擦溶接ツールのプローブが工具鋼からなることを記載している。しかし、近年は高張力鋼板、銅合金、チタン合金の接合にも摩擦攪拌接合や摩擦スポット接合の適応が期待されるが、高融点材料である高張力鋼板や反応性に富むチタン合金、銅合金には工具鋼製の工具は不適であり、Co基合金や耐熱合金製の工具が用いられている。
【0005】
特許文献2は、Niを30~40原子%含み、精密鋳造により形成されたCo基合金からなる摩擦攪拌用ツールを開示している。しかし、Co基合金はセラミックスと比べて耐熱性に劣る。
【0006】
非特許文献1は、高融点材料向けFSWツールを開示しており、超硬合金の耐熱温度が900℃程度なのに対し、窒化珪素の耐熱温度は1280℃以上であり、高融点の材料に対して優れていることを示している。
【0007】
特許文献3は、窒化珪素又はサイアロンからなる第1相に、B,Al,Ti及びSiから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物及び炭窒化物あるいはこれらの固溶体である第2相を添加したセラミックスからなる摩擦撹拌接合に用いられる回転工具を開示している。しかし第2相を添加することにより、工具の強度が低下するという課題は解決していない。
【0008】
特許文献4は、炭素鋼等の鉄系母材を摩擦攪拌接合により接合する鉄系材料の接合方法であって、鉄系母材の接合部位の少なくとも一部を単独で摩擦攪拌接合が可能な温度以上となるように加熱した後に、接合部位を摩擦攪拌接合により接合する方法を開示している。しかし鉄系母材の接合部位を加熱する機構が必要となり、経済的な点で課題がある。
【0009】
特許文献5は、酸化アルミニウム,窒化アルミニウム,酸化イットリウム等を焼結助剤として0.7体積%以上15体積%以下添加することにより、熱伝導率が34 Wm-1K-1以下で熱衝撃破壊抵抗係数が8kW/m以上の窒化珪素又はサイアロンを有する摩擦攪拌接合用工具を開示されている。しかし焼結助剤を増やすことによって、セラミックスの硬さが低下し、工具として使用した場合の耐摩耗性が低下するという課題は解決していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【特許文献2】特許第5174775号公報
【特許文献3】特開2011-98842号公報
【特許文献4】特開2012-40584号公報
【特許文献5】特開2016-132004号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】平野聡著,『高融点材料向けFSWツールの開発動向』,溶接学会誌,(2011) 80,pp.281-283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、高硬度でかつ高温下でも高い硬度を有する窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の一実施態様による摩擦攪拌加工用ツールは、窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールであって、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有し、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上であることを特徴とする。
【0014】
前記窒化珪素系セラミックスは2質量%超8質量%以下の窒化アルミニウム粉末、0質量%以上10質量%未満の酸化タングステン粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化アルミニウム粉末、0質量%以上1質量%以下の酸化マグネシウム粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化イットリウム粉末、及び残部窒化珪素粉末の混合物を焼結してなるのが好ましい。
【0015】
前記混合物が酸化タングステン粉末を含み、前記窒化珪素系セラミックスが前記酸化タングステン粉末の焼結時の還元・炭化により生成したW、W2C及びWCを含有し、前記窒化珪素系セラミックスに対して、W2Cの割合が0.44~3.85質量%であり、Wの割合が0.01~0.16質量%であり、WCの割合が0.08~0.37質量%であり、W、W2C及びWCの合計に対して、W2Cの割合が50質量%以上であるのが好ましい。
【0016】
前記混合物における酸化イットリウム粉末及び酸化アルミニウム粉末の含有量の合計が3~20質量%であるのが好ましい。
【0017】
熱伝導率が22 Wm-1K-1以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有する窒化珪素系セラミックスであり、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上であるので、アルミニウム合金や炭素鋼等の一般的な材料のみならず、高融点材料である高張力鋼板や反応性に富むチタン合金、銅合金に対しても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の本発明の一実施態様による摩擦攪拌加工用ツールを示す図である。
図2】摩擦攪拌加工用ツールの使用方法を示す図である。
図3】試料2,3,7,15及び17の室温から900℃までの測定温度におけるビッカース硬さを示すグラフである。
図4】試料2,3,7及び15~18におけるAlN添加量と相対密度及び比重との関係を示すグラフである。
図5】試料2,3,7及び15~18におけるAlN添加量とα比率との関係を示すグラフである。
図6】試料2,3及び5~17におけるAlN添加量とビッカース硬さ及び破壊靭性値との関係を示すグラフである。
図7】試料2~12,15及び19~23におけるα比率と熱伝導率との関係を示すグラフである。
図8】試料7及び10~12におけるWO3添加量と熱伝導率との関係を示すグラフである。
図9】試料2,3,7及び15~17の断面を示すSEM写真である。
図10】試料4~9の断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1] 摩擦攪拌加工用ツール
(1) 構造
本発明の一実施態様による摩擦攪拌加工用ツールを図1に示す。図1に示す摩擦攪拌加工用ツール1は、径の大きいショルダ部11と、ショルダ部11に突出して設けられたプローブ12とを有する。プローブ12は摩擦攪拌加工用ツール1の回転軸上に位置している。通常、プローブ12にはねじが切られているが、ねじが切られていないものも使用できる。また、厚みが6mm程度以下の被接合材を使用する場合は、ショルダ部11の直径は12~15 mm程度で、プローブ12の直径は4~6mm程度のものが好適に使用される。
【0021】
摩擦攪拌加工用ツール1は一体の焼結体として形成しても良い。一体の焼結体とすることにより、剛性を向上できるとともに、作製の簡便化を図ることができる。またショルダ部11に対してプローブ12が着脱自在になるように、ショルダ部11及びプローブ12の焼結体を別々に形成しても良い。その場合の取り付け方法としては、ショルダ部11にプローブ12を螺合するネジ止め方式や、ショルダ部11の凹部にプローブ12を押し込んで固定するセルフグリップ方式等の取り付け方法が挙げられる。
【0022】
ショルダ部11の面は、被接合材を押圧するように、平面又は曲率半径の大きい凸面であるが好ましく、やや円錐状に凸面を形成したものも使用できる。
【0023】
プローブ12は、ショルダ部11の表面から突出し、先端に向けて先細りする形状を有するのが好ましい。プローブ12の最先端は応力が集中して破損するのを防ぐため平面又は回転半径の大きい凸面であるのが好ましい。プローブ12の根元半径に対するプローブ12の高さの比は1以下であるのが好ましく、例えば半球がショルダ面にその底部を一部埋没したような形状でも良い。かかる形状により、回転したプローブ12が被接合材に当たるときの衝撃に対して強く、折損しにくく、回転により被接合材を摩擦した後にツールを移動させるときに、被加工材が十分可塑化していない場合にも折損しにくくなる。さらに、接合において可塑化部分を攪拌する十分な深さを有することができ、摩擦攪拌加工によって表面から徐々にプローブが減耗したとしても、接合に対してのプローブ12の形状による影響が小さい。
【0024】
(2) 使用方法
本発明の摩擦攪拌加工用ツール1を用いた摩擦攪拌加工方法を図2に示す。まず、定盤10上の所望の位置に裏当て材20を配置する。裏当て材としては、セラミックス板、スチール箔、チタン箔などの金属箔等が好適に使用されるが、これらに限定されない。次に、裏当て材20の上面中央に、板状の被接合材31及び32の接合線33が位置するように、被接合材31及び32を配置する。被接合材31及び32としては、鉄又は鉄合金からなる板状のものが主に使用される。被接合材31及び32は、平板状のものに限らず、3次元的な曲面を有する板状のものでも良く、裏当て材20は被接合材31及び32の形状に対応したものを用いる。定盤10の上面に裏当て材20を載置するだけでも良いが、摩擦攪拌加工を容易にするために、予め定盤10の上面に裏当て材20を粘着剤や接着剤により貼り付けておいても良い。
【0025】
被接合材31及び32の接合線33の一端に、摩擦攪拌加工用ツール1のプローブ12を高速回転させながら強い力で押し当てて挿入し、ショルダ部11による圧力を付加して摩擦熱を発生させながら摩擦攪拌加工用ツール1を接合線33に沿って他端に移動させ、摩擦熱によりツール近傍を可塑化して固相状態で接合する。接合部の表面には摩擦攪拌加工用ツール1による加工痕34が形成される。なお、摩擦攪拌加工用ツールは被接合材の接合部の近傍の表面の略法線方向から挿入され、かつ略法線方向を保った状態で移動する。
【0026】
摩擦攪拌加工用ツール1の回転速度は一般に数百~数千回転/分、接合速度は一般に数十~数百mm/分であるが、条件によっては1~2m/分も可能である。
【0027】
摩擦攪拌加工用ツール1は、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸からなる公知の摩擦攪拌接合装置に取り付けられて使用できる。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸及び揺動軸(A)と旋回軸(C)のツール2軸とからなる公知の5軸枠型の摩擦攪拌接合装置に取り付けても良い。三つの関節軸と二つの回転軸を具備した公知のロボットアームの先端に搭載されたマシンヘッドに取り付けて使用されることもあるが、これ等に限定されない。
【0028】
上記の例においては、被接合材を接合する摩擦攪拌接合(FSW)について説明したが、本発明はこれに限らず、1枚の被加工材を用い、その表面に摩擦攪拌加工用ツールのプローブを強い力で挿入することにより、その時に発生する摩擦熱により被加工材を改質する摩擦攪拌改質(FSP)にも適用でき、被接合材を重ね合わせてツールを回転させながら一方の被接合材を押圧し、その時に発生する摩擦熱により接合面を可塑化して、被接合材をスポット接合する摩擦スポット接合(FSJ)にも適用できる。
【0029】
(3) 特性
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールであって、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有し、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上であることを特徴とする。
【0030】
窒化珪素(Si3N4)は、共有結合型によって強固に結合した安定した結晶であり、Si原子とN原子の結合力が強いことから、各原子が容易に拡散できないことに基づいてSi、N両原子の拡散速度が遅いため、容易に焼結しない。そのため、焼結助剤として、1質量%~5質量%のAl2O3、Y2O3、MgO、AlNなどを添加して相互に化学反応させてSi3N4の融点1900℃よりも低融点の物質を作り、焼結温度で液相を生成させ、いわゆる「液相存在下の焼結法」により焼結緻密化を促進することが広く行われている。
【0031】
窒化珪素の結晶構造は低温相のα型が三方晶系であり、高温相のβ型が六方晶系であり、1400℃~1600℃で相転移する。焼結時のα相からβ相への相転移の際に、β相の柱状粒子が析出・成長する。本発明において、窒化珪素には、珪素の位置にアルミニウムが置換固溶し、窒素の位置に酸素が置換固溶したサイアロンも含まれるものとし、α相窒化珪素又はβ相窒化珪素にはα-サイアロン又はβ-サイアロンもそれぞれ含まれるものとする。
【0032】
α相窒化珪素(α-サイアロンも含む。)は窒化珪素全体に対して15~90質量%含まれている。α相窒化珪素は硬度が高いため、焼結後の窒化珪素系セラミックスに窒化珪素全体に対して15~90質量%含まれていると、室温におけるビッカース硬さが1600 HV以上と高硬度を有するとともに、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上と高温特性にも優れている。また窒化珪素はチタンに対して接着強度(反応性)が弱いことが知られており(志智雄之著,他3名,『活性金属を用いた窒化珪素と金属との接合界面の解析』,日本セラミックス協会学術論文誌,(1989) 97,pp.1354-1357)、特に窒化珪素全体に対してα相窒化珪素が15~90質量%含まれていると、α相窒化珪素に固溶した金属元素により結晶の安定性が向上するため、反応性に富むチタン合金、銅合金等の被加工材に対しても好適に用いることができる。α相窒化珪素の含有量が15質量%未満であると窒化珪素系セラミックスの室温及び800℃におけるにおける硬さが不十分であるとともに、熱伝導率が高い。α相窒化珪素の含有量が90質量%超であると、硬度が高くなりすぎ、β相窒化珪素の含有量も小さいため、靭性や抗折力が劣る。すなわち、α相窒化珪素が15~90質量%含まれていることにより、低温で焼結緻密化し、より微細な組織が得られるので、高速回転の摩擦熱により被接合材のツール近傍を可塑化して固相状態で接合する摩擦攪拌加工用ツールに好適である。α相窒化珪素は窒化珪素全体に対して20~80質量%含まれているのが好ましく、30~80質量%含まれているのがより好ましい。また室温におけるビッカース硬さは1800 HV以上であるのが好ましく、800℃におけるビッカース硬さは1400 HV以上であるのが好ましい。
【0033】
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、熱伝導率が22 Wm-1K-1以下であるのが好ましい。熱伝導率を22 Wm-1K-1以下と低くすることにより、被接合材からツールに伝わる熱量が少なくなるため、熱がこもりやすく、被加工材が軟化しやすくなる。そのため、被加工材に十分な熱量を与えて接合性を向上できるので、FSWやFSJなどの摩擦攪拌加工用ツールとして適している。熱伝導率は20 Wm-1K-1以下であるのが好ましく、15 Wm-1K-1以下であるのがより好ましい。
【0034】
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、加工時における折損を防ぐために、6MPa・m1/2以上の破壊靭性値KICを有するのが好ましい。破壊靭性値KICはクラックを生じた後のクラックの進展しづらさを表す指標であり、破壊靭性値KICが大きいほどクラックが進展しづらい。破壊靭性値KICはビッカース圧痕法により算出される。硬度とのバランスを考慮すると、破壊靭性値KICは6~8MPa・m1/2であるのがより好ましい。また抗折力は900 MPa以上であるのが好ましい。
【0035】
(4) 組成
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、2質量%超8質量%以下の窒化アルミニウム粉末、0質量%以上10質量%未満の酸化タングステン粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化アルミニウム粉末、0質量%以上1質量%以下の酸化マグネシウム粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化イットリウム粉末、及び残部窒化珪素粉末の混合物を焼結してなるのが好ましい。
【0036】
(4-1) 窒化アルミニウム:2質量%超8質量%以下
窒化アルミニウム(AlN)は、焼結助剤として働くとともに、窒化珪素系セラミックスのα-サイアロンを増加させ、β相窒化珪素の生成・成長を抑える効果がある。窒化アルミニウムは、原料としたα相窒化珪素及び同粉末粒子の表面酸化物である酸化珪素と結合してα-サイアロンを形成することで、β相窒化珪素の生成・成長を抑えつつα-サイアロン化が焼結駆動力として作用する。その結果、窒化珪素系セラミックスは低温で焼結緻密化し、より微細な組織が得られる。
【0037】
窒化アルミニウム粉末が2質量%以下であると十分なα-サイアロンが形成されず、硬度が低く、かつ熱伝導率が高くなる。窒化アルミニウム粉末が8質量%を超えるとβ相窒化珪素の含有量が過小になるため、抗折力が低下してツールが破損しやすい。窒化アルミニウム粉末の添加量は4~6質量%であるのがより好ましい。
【0038】
(4-2) 酸化タングステン:0質量%以上10質量%未満
酸化タングステン(WO3)を添加すると、焼結中に還元・炭化されることにより、焼結後の窒化珪素系セラミックスにW、W2C及びWCが分散して形成される。これは、窒素雰囲気等の還元雰囲気で焼結を行うことにより、酸化タングステンが還元されてWとなり、焼結炉内の炭素と水分とが反応して生じたCOガス等がWを炭化するものと思われる。WO3は、還元雰囲気では、まず500~800℃でWに還元される。このときは吸熱反応であり、緻密化とは強く関係しない。次にWは、800℃からCと反応してW2Cとなり十分なCがあれば1400℃でWCが生成されるが、これらは発熱反応である。このことから、Wの炭化による新たな焼結駆動力が発生し、より強固な焼結がなされたと考える。
【0039】
酸化タングステン粉末が10質量%以上であると単体のWが多く生成し、焼結時に低温での吸熱反応が多くなり、高温での発熱反応が減少するため、焼結性が劣化する。酸化タングステン粉末の添加量は0質量%超8質量%以下であるのがより好ましく、0質量%超5質量%以下であるのがさらに好ましく、0質量%超3質量%未満であるのが特に好ましく、0質量%超1質量%以下であるのが最も好ましい。酸化タングステン粉末が0.5質量%未満であると十分なW、W2C及びWCが形成されない恐れがあるため、酸化タングステン粉末の添加量は0.5質量%以上であるのが好ましい。
【0040】
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、酸化タングステン粉末の焼結時の還元・炭化により生成したW、W2C及びWCを含有し、W2Cの割合が0.44~3.85質量%であり、Wの割合が0.01~0.16質量%であり、WCの割合が0.08~0.37質量%であり、W、W2C及びWCの合計に対して、W2Cの割合が50質量%以上であるのが好ましい。W、W2C及びWCのそれぞれの重量比率の関係は、X線回折及び炭素分析(高周波燃焼-赤外線吸収法)により求めることができる。
【0041】
W2CがW、W2C及びWCの合計に対して50質量%以上で、焼結体中のW2C量が0.44~3.85質量%であれば、焼結性が高められたと共に均一に焼結することができ、従来の摩擦攪拌加工用ツールより高温硬さに優れ、長寿命である。焼結後のW、W2C及びWCの合計に対して50質量%以上がW2Cであり、焼結体中のW2C量が0.44~3.85質量%、W量が0.01~0.16質量%、及びWC量が0.08~0.37質量%のSi3N4系セラミックスも同様の効果が期待できる。
【0042】
(4-3) 酸化アルミニウム:0質量%以上15質量%以下
酸化アルミニウム(Al2O3)は、焼結性を改善するための焼結助剤として働く。酸化アルミニウム粉末の添加量が15質量%超であると、酸素含有量が上昇し、粒界相中の成分にムラを生じて特性が不安定となる。酸化アルミニウム粉末の添加量は0~3質量%であるのがより好ましく、0~2質量%であるのがさらに好ましい。
【0043】
(4-4) 酸化マグネシウム:0質量%以上1質量%以下
酸化マグネシウム(MgO)は、焼結性を改善するための焼結助剤として働く。酸化マグネシウム粉末の添加量が1質量%超であると、焼結においてポアが発生しやすくなるとともに、高温硬さが低下する。
【0044】
(4-5) 酸化イットリウム:0質量%以上15質量%以下
酸化イットリウム(Y2O3)は、焼結性を改善するための焼結助剤として働くとともに、α相窒化珪素に一部侵入して固溶する。Y等の元素がα相窒化珪素に侵入することにより、α相窒化珪素が安定化する効果がある。酸化イットリウム粉末の添加量が15質量%超であると、粒界相が過大となって強度が低下する。酸化イットリウム粉末の添加量は1~10質量%であるのがより好ましく、2~5質量%であるのがさらに好ましい。Y2O3の一部又は全部をR2O3(RはSc,Ca,Sr,Ba又はランタン系列の元素)の少なくとも1種以上で置換してもよい。
【0045】
Y2O3及びAl2O3の含有量の合計は3~20質量%であるのが好ましい。Y2O3及びAl2O3の含有量の合計が3質量%未満であると焼結性が十分でなく、Y2O3及びAl2O3の含有量の合計が20質量%超であると耐摩耗性が低下する。
【0046】
[2] 摩擦攪拌加工用ツールの製造方法
本発明の摩擦攪拌加工用ツールの製造方法の一例として、(1) 所定量の原料粉末を混合して混合粉末を作製し、(2) 成形体を形成し、(3) 成形体を焼結炉に充填して焼結を行う方法が挙げられる。
【0047】
(1) 混合粉末の作製
所定量の原料粉末を混合して混合粉末を作製する。混合粉末は、溶媒中で湿式粉砕して混合するのが好ましい。必要によりパラフィン等の粉末用成形助剤を添加しても良い。原料粉末を混合した後、乾燥することにより混合粉末が得られる。
【0048】
(2) 成形体の作製
摩擦攪拌加工用ツールの成形体を形成する。成形方法は、冷間圧縮成形が好ましい。上述したように、摩擦攪拌加工用ツール全体の成形体を一体として形成しても良く、ショルダ部とプローブの成形体を別々に形成しても良い。
【0049】
(3) 焼結
成形体を焼結炉に充填し、焼結を行う。焼結は窒素雰囲気等の還元雰囲気下で行うのが好ましい。浸炭性のガス、すなわちCH4等の炭化水素又はCO等を焼結時に導入しても良い。
【0050】
焼結圧力は0.2MPa以上1MPa未満であるのが好ましい。焼結圧力が0.2 MPa未満では焼結体からの窒素の蒸発が多くなり緻密な焼結体にならない恐れがあり、1MPa以上では特別な仕様の炉となり不経済である。焼結圧力は0.5~0.9 MPaであるのがより好ましい。
【0051】
焼結温度は1600~1800℃であるのが好ましい。焼結温度が1600℃未満では焼結体の緻密化が不十分であり、結合相にプールが生じる恐れがある。焼結温度が1800℃以上では焼結体の熱伝導率が高くなり、さらに靭性や抗折力も低くなるため、摩擦攪拌加工用ツールとして適さない。MgOを添加し、かつY2O3及びAl2O3の含有量の合計が4質量%以上の場合は低温での焼結性が向上するため、焼結温度は1600~1700℃であるのがより好ましい。MgOを添加しない場合又はY2O3及びAl2O3の含有量の合計が4質量%未満である場合の焼結温度は1700~1800℃であるのがより好ましく、焼結温度は1750~1800℃であるのがさらに好ましい。
【0052】
焼結保持時間は3~6時間であるのが好ましい。焼結保持時間が3時間未満では十分に焼結せず、6時間越であると粗粒になり硬度や強度が低下する。
【0053】
原料粉末にWO3を含む場合、カーボンケース、カーボン断熱材、カーボンヒータ等炭素製の備品(以下、「カーボンケース等」と称する。)を使用するのが好ましい。それにより、カーボンケース等の炭素が焼結炉内の水分と反応してCOガス等になり、これらが焼結中に酸化タングステンが還元されて生じたWを炭化し、W2C及びWCが生成される。特に、得られた成形体をカーボンケース内にセットするのが好ましい。WO3を添加し、カーボンケース等を用いてWO3を還元・炭化することで、窒化珪素系セラミックス中に、微細(最大でも約1μmで、ほとんどは0.2μm以下)のW2C(及びWC、W)を分散させることができる。
【実施例0054】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0055】
原料として平均粒度0.7μmの窒化珪素粉末、平均粒度3.4μmの酸化イットリウム粉末、平均粒度1.2μmの窒化アルミニウム粉末、平均粒度2.5μmの酸化マグネシウム粉末、平均粒度43.2μmの酸化タングステン粉末を用意した。平均粒度はMicrotrack社製MT3300EXIIによるレーザー回折・散乱法による粒度分布測定値のD50値として求めた。窒化珪素粉末はSi3N4が98%で残りがSiO2であり、Si3N4の95%以上がα相Si3N4で残りがβ相Si3N4であり、形状は粒状であり、サイアロンを含まなかった。
【0056】
これらの粉末を表1の組成に示す割合で24時間の湿式粉砕混合した後、乾燥した。得られた混合粉末を圧力100 MPaで冷間圧縮成形した。得られた成形体を、真空焼結炉を用いて、0.6 MPaの窒素雰囲気下で表1に示す焼結温度で3時間保持して焼結し、図1に示すショルダ径15 mm、プローブの根元半径5mm、プローブの高さ1.9 mmの摩擦攪拌加工用ツール1の試料1~25を製造した。
【0057】
【表1】
【0058】
試料1~25のα比率、緻密度、室温及び800℃でのビッカース硬さ、熱伝導率、破壊靭性値及び抗折力それぞれ求めた。
【0059】
α比率は以下の方法により求めた。試料1~25のX線回折を行い、得られたX線回折図から、α相窒化珪素のICDD(International Centre for Diffraction Data)データをα-サイアロンのデータと等価とみなしてα-サイアロン({210}面のピーク、2θ=35.3°)及びβ-Si3N4({200}面のピーク、27.0°)の基準のピーク面積をICDDデータのI/Ic(試料にα-Al2O3(Corundum)を50質量%混入した時のα-Al2O3の{113}の強度Icと試料の最強線の強度Iとの比)で補正したものを設定して、それぞれの強度(面積)から、α-サイアロンのSP/(α-サイアロンのSP+β-Si3N4のSP)×100をα比率とした。得られた結果を表2に示す。
【0060】
各試料の緻密度はアルキメデス法により比重を求め、組成から計算される密度に対し、95%以上であれば○とし、95 %未満であれば×とした。得られた結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
試料1はAlN添加量が1質量%と少なく、十分なα-サイアロンが形成されず、焼結性が悪く十分に緻密化できていなかった。試料4は焼結温度が1500℃と低いため、焼結が不十分であり、十分に緻密化できていなかった。試料18はAlN添加量が14%と多量であるため、サイアロンが粗粒化し、十分に緻密化できていなかった。
【0063】
試料2,3,5~17,19~25について、室温及び800℃におけるビッカース硬さを試験荷重を9.8 NとしたJIS Z 2244:2009に規定されたビッカース硬さ試験により求めた。得られた結果を表3に示す。AlN添加量が1~10質量%の試料2,3,7,15及び17について、室温から900℃までの測定温度におけるビッカース硬さを試験荷重を9.8 Nとしたビッカース硬さ試験により求めた。得られた結果を図3に示す。
【0064】
【表3】

注1) 室温おけるビッカース硬さに対する800℃におけるビッカース硬さの比率
【0065】
図3に示すように、AlN添加量が増えるとビッカース硬さが増すが、AlN添加量が1質量%と少ない試料1は800℃での硬度が不十分であり、AlN添加量が10質量%と多い試料は室温での硬度が高すぎることが分かった。AlN添加量が2~8質量%の範囲では800℃での硬度の低下が少ないという良好な結果が得られた。また表3に示すように、MgOを添加していない試料19は室温おけるビッカース硬さに対する800℃におけるビッカース硬さの比率(高温硬さ度)が85.3%と高く、優れた高温硬さ特性を有することが分かった。MgOを2質量%添加した試料20は800℃におけるビッカース硬さが1050 HVと低かった。またAl2O3を20質量%添加した試料25は室温及び800℃におけるビッカース硬さがいずれも低かった。
【0066】
AlN添加量が1~14質量%の試料2,3,7及び15~18について、相対密度及び比重を求めた。得られた結果を図4に示す。図4に示すように、AlN添加量が2~10質量%のときの相対密度は100%に近く、十分に緻密化した焼結体が得られ、AlN添加量が14質量%のときに相対密度が急激に低下することが分かった。
【0067】
試料2,3,7及び15~18のα比率を図5に示す。図5に示すように、AlN添加量が増加するほどα比率が上昇し、AlN添加量が8質量%を超えるとα比率が90%を超えて過剰になることが分かった。
【0068】
試料2,3,5~17及び19~25について、破壊靭性値を求めた。各試料の破壊靭性値KICはビッカース圧痕法により測定した。得られた結果を表4に示す。また試料2,3及び5~17のビッカース硬さ及び破壊靭性値を図6に示す。なお図6のビッカース硬さは、試験荷重を294 Nとしたビッカース硬さ試験により求めた。
【0069】
【表4】
【0070】
表4に示すように、試料5は焼結温度が1550℃と低かったため、結合相のプールが生じ、α比率が高すぎる為に、靭性が4.6 MPa m1/2と低かった。一方、焼結温度が1800℃と高い試料9も靭性が5.9 MPa m1/2と低かった。MgOを添加していない試料19は焼結温度が1750℃と高いが、良好な靭性が得られた。また図6から予想されるように、AlN添加量が1質量%のときは硬度が低く、AlN添加量が10質量%以上だと硬度が高すぎる上に靭性が低下することが分かった。またAl2O3を20質量%添加した試料25は靭性が3.9 MPa m1/2と低かった。
【0071】
試料2~12,15及び19~25について、熱伝導率を求めた。各試料の熱伝導率はレーザーフラッシュ法により求めた。得られた結果を表5に示す。また試料2~12,15及び19~23のα比率と熱伝導率との関係を図7に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示すように、試料2及び3はAlN添加量が1又は2質量%と少ないため、十分なα-サイアロンが形成されず、熱伝導率が高かった。焼結温度が1800℃と高い試料9は、熱伝導率も29 Wm-1K-1と高かった。MgOを2質量%添加した試料20は、熱伝導率が25 Wm-1K-1と高かった。Al2O3を15又は20質量%添加した試料24及び25は熱伝導率が10又は9 Wm-1K-1と低かった。また図7に示すように、Al2O3が3質量%以下であれば、α比率が高くなるほど熱伝導率が低くなることが分かった。
【0074】
試料7及び10~12のWO3の添加量と熱伝導率との関係を図8に示す。図8に示すように、WO3の添加量が0~5質量%の範囲で増加すると熱伝導率が上昇することが分かった。
【0075】
試料2,3,5~10,15~17及び19~25について、抗折力を求めた。各試料の抗折力は3点曲げ法により求めた。得られた結果を表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
表6に示すように、試料5は焼結温度が1550℃と低かったため、結合相のプールが生じ、α比率が高すぎる為に、抗折力が低かった。試料9は焼結温度が1800℃と高く、抗折力が低かった。試料17はAlN添加量が10質量%と多いため、抗折力が低かった。MgOを2質量%添加した試料20は、抗折力が低かった。またAl2O3を20質量%添加した試料25は抗折力が低かった。
【0078】
AlN添加量が1~10質量%の試料2,3,7及び15~17の断面の鏡面SEM写真を図9に示す。図9に示すように、AlN添加量が1質量%の試料1では多数の気孔が観察され、緻密性が不十分であった。AlN添加量が2質量%の試料3ではβ-Si3N4の柱状粒子が多数存在し、AlN添加量が10質量%の試料17ではα-サイアロンが粗粒化しているのが分かる。
【0079】
焼結温度が1500℃~1800℃までの試料4~9の断面の鏡面SEM写真を図9に示す。焼結温度が1500℃の試料4及び焼結温度が1550℃の試料5では気孔や粒界相プールが多数発見された。焼結温度が1800℃の試料9ではβ-Si3N4の柱状粒子が多数存在し、α-サイアロンがほとんど存在していないことが分かった。また焼結温度が高くなるほどβ-Si3N4粒子が粒成長し、寸法が大きくなっていた。
【0080】
図2に示すように、定盤10上に裏当て材20を配置し、その上に冷間圧延鋼からなる板厚2mmの被接合材31及び32を配置し、各試料3,5~17及び19~25について荷重9.8 kN、接合速度100 mm/分、回転数1000 rpmの条件で摩擦攪拌接合を行った。試験後、プローブ12の先端の摩耗量を測定し、0.1 mm未満であれば○とし、0.1 mm以上であれば×とし、カケや折れにより使用不能となった場合は破損とした。以上の結果を考慮して、試料1~25の実用性を評価した。実用性に非常に優れている場合は◎とし、実用性に優れている場合は○とし、実用性に劣っている場合は×とした。得られた結果を表7に示す。
【0081】
【表7】
【0082】
表7に示すように、試料6~8,10~12,15,16,19及び21~24は耐久性に優れ、十分な実用性を備えていた。このことから、MgOを添加した場合はAlN添加量が4~8質量%の範囲でWO3添加量を0~5質量%とし、Al2O3を0~15質量%とし、焼結温度を1600℃~1700℃としたときに最適な摩擦攪拌加工用ツールが得られ、MgOを添加しない場合は焼結温度が1750℃で高温でも高硬度な窒化珪素系セラミックスが得られ、高寿命であり、摩擦攪拌加工用ツールとして優れた性能が得られることが分かった。また、Y2O3添加量を1~2%とした場合はAlN添加量を4質量%とし、Al2O3添加量を1~3質量%とし、焼結温度を1650℃~1800℃としたときに最適な摩擦攪拌加工用ツールが得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2021-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールであって、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有し、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上であり、
前記窒化珪素系セラミックスは2質量%超8質量%以下の窒化アルミニウム粉末、0質量%以上10質量%未満の酸化タングステン粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化アルミニウム粉末、0質量%以上1質量%以下の酸化マグネシウム粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化イットリウム粉末、及び残部窒化珪素粉末の混合物を焼結してなり、
前記混合物が酸化タングステン粉末を含み、
前記窒化珪素系セラミックスが前記酸化タングステン粉末の焼結時の還元・炭化により生成したW、W 2 C及びWCを含有し、
前記窒化珪素系セラミックスに対して、W 2 Cの割合が0.44~3.85質量%であり、Wの割合が0.01~0.16質量%であり、WCの割合が0.08~0.37質量%であり、W、W 2 C及びWCの合計に対して、W 2 Cの割合が50質量%以上であることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項2】
前記混合物における酸化イットリウム粉末及び酸化アルミニウム粉末の含有量の合計が3~20質量%であることを特徴とする請求項に記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項3】
熱伝導率が22 Wm-1K-1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
すなわち、本発明の一実施態様による摩擦攪拌加工用ツールは、窒化珪素系セラミックスからなる摩擦攪拌加工用ツールであって、α相窒化珪素を窒化珪素全体に対して15~90質量%含有し、ビッカース硬さが1600 HV以上であり、800℃におけるビッカース硬さが1100 HV以上であり、前記窒化珪素系セラミックスは2質量%超8質量%以下の窒化アルミニウム粉末、0質量%以上10質量%未満の酸化タングステン粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化アルミニウム粉末、0質量%以上1質量%以下の酸化マグネシウム粉末、0質量%以上15質量%以下の酸化イットリウム粉末、及び残部窒化珪素粉末の混合物を焼結してなり、前記混合物が酸化タングステン粉末を含み、前記窒化珪素系セラミックスが前記酸化タングステン粉末の焼結時の還元・炭化により生成したW、W 2 C及びWCを含有し、前記窒化珪素系セラミックスに対して、W 2 Cの割合が0.44~3.85質量%であり、Wの割合が0.01~0.16質量%であり、WCの割合が0.08~0.37質量%であり、W、W 2 C及びWCの合計に対して、W 2 Cの割合が50質量%以上であることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】削除
【補正の内容】