(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157927
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】物品表面のクリーニング方法及びクリーニング液
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20221006BHJP
A47L 13/17 20060101ALI20221006BHJP
C11D 3/37 20060101ALI20221006BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B08B3/08
A47L13/17 A
C11D3/37
C11D3/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062457
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】519115462
【氏名又は名称】林 和宏
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】林 和宏
【テーマコード(参考)】
3B074
3B201
4H003
【Fターム(参考)】
3B074AA07
3B074AA08
3B074AB01
3B074AC03
3B074CC02
3B201AA46
3B201AA47
3B201AB52
3B201BA08
3B201BA23
3B201BA37
3B201BB95
4H003BA12
4H003BA22
4H003DA12
4H003DA14
4H003DB02
4H003ED28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象物の表面から粘稠性有機汚損物を小さな負荷により簡単に除去することができる物品表面のクリーニング方法を提供する。
【解決手段】エチルシリケートの部分縮合体を主剤成分として含有するクリーニング液302を対象物の粘稠性有機汚損物51による汚損表面に塗布し、繊維集合体又は多孔質樹脂により可撓性を有して構成される液吸収性摩擦部材10により、対象物50の汚損表面を摩擦する。該摩擦により、粘稠性有機汚損物51はクリーニング液302に混合されながら微細化し、粘稠性有機汚損物51の粒子を被覆する。この主剤成分が脱水縮合して硬化ガラス質殻に変換され、粘稠性有機汚損物51が硬化ガラス質殻に取り込まれた顆粒が生成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる主剤成分のクリーニング液中の含有量をA(質量%)、前記主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体の前記クリーニング液中の含有量をB(質量%)、前記主剤成分を溶解又は分散可能な有機溶媒の前記クリーニング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
15≦B+C(質量%)
に調製されるクリーニング液を用意する工程と、
粘稠性有機汚損物により表面が汚損された物品をクリーニングの対象物として、前記対象物の前記粘稠性有機汚損物による汚損表面に前記クリーニング液を塗布するとともに、繊維集合体又は多孔質樹脂により可撓性を有して構成される液吸収性摩擦部材により、前記対象物の前記汚損表面を摩擦する工程とを含み、
前記液吸収性摩擦部材による前記汚損表面の摩擦により、前記粘稠性有機汚損物を前記クリーニング液に混合しつつ微細化するとともに、前記粘稠性有機汚損物の粒子を被覆する前記主剤成分を脱水縮合させて硬化ガラス質殻に変換することにより、前記粘稠性有機汚損物を前記硬化ガラス質殻に取り込んだ顆粒を生成し、該顆粒の形で前記粘稠性有機汚損物を前記対象物の表面から除去することを特徴とする物品表面のクリーニング方法。
【請求項2】
前記クリーニング液を前記液吸収性摩擦部材に含浸させるとともに、該液吸収性摩擦部材の前記クリーニング液の含浸面を前記汚損表面に押し付け、その状態で前記液吸収性摩擦部材を前記汚損表面上にて往復動させることにより、前記クリーニング液の前記汚損表面への塗布と前記液吸収性摩擦部材による前記汚損表面への摩擦とを同時に行なう請求項1記載の物品表面のクリーニング方法。
【請求項3】
前記クリーニング液を前記汚損表面に噴霧により塗布し、次いで前記液吸収性摩擦部材を前記汚損表面に押し付けて往復動させる請求項1記載の物品表面のクリーニング方法。
【請求項4】
前記粘稠性有機汚損物が鉱油系汚損物又は石油系有機残渣である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の物品表面のクリーニング方法。
【請求項5】
前記粘稠性有機汚損物が油脂系汚損物である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の物品表面のクリーニング方法。
【請求項6】
粘稠性有機汚損物により表面が汚損された物品用のクリーニング液であって、
平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる主剤成分のクリーニング液中の含有量をA(質量%)、前記主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体の前記クリーニング液中の含有量をB(質量%)、前記主剤成分を溶解又は分散可能な有機溶媒の前記クリーニング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
15≦B+C(質量%)
に調製されることを特徴とするクリーニング液。
【請求項7】
前記有機溶媒として親水性の有機溶媒が使用される請求項6記載のクリーニング液。
【請求項8】
前記親水性の有機溶媒がアルコール類である請求項7記載のクリーニング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑油や油脂などの粘稠性有機汚損物により汚損された物品表面をクリーニングする方法と、それに使用するクリーニング液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械や重機の軸受け周りの表面は、長期にわたって使用していると潤滑油などの鉱油系有機物により汚損される。また、厨房や台所の換気扇フードの内面やレンジ周りは、食用油スラッジなど油脂(食用油)系の油汚れで汚損される。汚損の原因となる鉱油や食用油は、新品の状態では粘性は低いが、汚損物となって付着する際には酸化の影響により粘性が増し、粘稠性有機汚損物として対象物に頑固にこびりついた状態になる。
【0003】
こうした粘稠性有機汚損物の除去には通常、界面活性剤を含有した洗剤が使用される(例えば特許文献1、2)。洗剤を水とともに含浸させたスポンジ等で汚損面を摩擦することにより、界面活性剤を介して油汚れをミセル化しつつ汚損面から浮き上がらせ、除去する方法が一般的である。また、苛性ソーダや重曹を溶解した洗浄液で油脂汚れ等を化学分解して除去する方法が用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-503581号公報
【特許文献2】特開2016- 14102号公報
【特許文献3】特許4759774号公報
【特許文献4】特開2010-222014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、グリースや食用油スラッジなどの粘稠性有機汚損物を、通常の洗剤等によりクリーニング布を用いて除去しようとすると、粘稠性有機汚損物をミセル化させるのに非常に強いふき取り力が必要となり、作業時間も長くなりがちである。また、十分にミセル化していない粘稠性有機汚損物は、クリーニング布の繊維等に強くこびりつきやすいので、使用後のクリーニング布を洗濯等により再生するための、洗剤や洗浄水の使用量も大幅に増加する問題がある。
【0006】
本発明の課題は、対象物の表面から粘稠性有機汚損物を小さな負荷により簡単に除去することができる物品表面のクリーニング方法及びクリーニング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の物品表面のクリーニング方法は、平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる主剤成分のクリーニング液中の含有量をA(質量%)、主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体のクリーニング液中の含有量をB(質量%)、主剤成分を溶解又は分散可能な有機溶媒のクリーニング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
15≦B+C(質量%)
に調製されるクリーニング液を用意する工程と、粘稠性有機汚損物により表面が汚損された物品をクリーニングの対象物として、対象物の粘稠性有機汚損物による汚損表面にクリーニング液を塗布するとともに、繊維集合体又は多孔質樹脂により可撓性を有して構成される液吸収性摩擦部材により、対象物の汚損表面を摩擦する工程とを含み、液吸収性摩擦部材による汚損表面の摩擦により、粘稠性有機汚損物をクリーニング液に混合しつつ微細化するとともに、粘稠性有機汚損物の粒子を被覆する主剤成分を脱水縮合させて硬化ガラス質殻に変換することにより、粘稠性有機汚損物を硬化ガラス質殻に取り込んだ顆粒を生成し、該顆粒の形で粘稠性有機汚損物を対象物の表面から除去することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のクリーニング液は、粘稠性有機汚損物により表面が汚損された物品用のクリーニング液であって、平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる主剤成分のクリーニング液中の含有量をA(質量%)、主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体のクリーニング液中の含有量をB(質量%)、主剤成分を溶解又は分散可能な有機溶媒のクリーニング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
15≦B+C(質量%)
に調製されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明によると、エチルシリケートの部分縮合体を主剤成分として含有するクリーニング液を対象物の粘稠性有機汚損物による汚損表面に塗布し、繊維集合体又は多孔質樹脂により可撓性を有して構成される液吸収性摩擦部材により、対象物の汚損表面を摩擦する。該摩擦により、粘稠性有機汚損物はクリーニング液に混合されながら微細化し、粘稠性有機汚損物の粒子を被覆する。この主剤成分が脱水縮合して硬化ガラス質殻に変換され、粘稠性有機汚損物が硬化ガラス質殻に取り込まれた顆粒が生成される。この顆粒はさらさらとした砂状であり、低粘稠質で流動性に富むため、対象物の表面への付着力は弱い。その結果、液吸収性摩擦部材により軽く摩擦継続するだけで顆粒は対象物の表面から容易に離脱する。よって、対象物の表面から粘稠性有機汚損物を小さな負荷により簡単に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】クリーニング液の封入体をエアゾール封入体として構成した例を示す透視斜視図。
【
図2】水分遮断性密封容器をエアレスポンプ機構付きのボトルとして構成した例を示す断面図。
【
図3】水分遮断性密封容器をスパウト付き可撓性パウチ容器として構成した例を示す図。
【
図4】本発明の物品表面のクリーニング方法の一例にかかる工程説明図。
【
図6】粘稠性有機汚損物がクリーニング液との混合により微細化する様子を説明する模式図。
【
図7】微細化した粘稠性有機汚損物が顆粒化する過程を説明する模式図。
【
図8】顆粒化した粘稠性有機汚損物が物品表面から除去される様子を説明する模式図。
【
図9】粘稠性有機汚損物がクリーニング布の繊維に付着する様子を説明する模式図。
【
図10】粘稠性有機汚損物が顆粒化することにより繊維への付着が妨げられる様子を説明する模式図。
【
図11】未硬化主剤層が形成される様子を説明する模式図。
【
図12】未硬化主剤層の除去工程を説明する模式図。
【
図13】含浸保持体を包装容器により密封被覆した形態のクリーニング液の封入体の一実施形態を示す断面図。
【
図14】
図13の封入体の液含浸体を、主剤除去用有機溶剤を含浸させた液含浸体にて置き換えた構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
クリーニング液は以下のように構成されたものが使用される。まず、主剤成分は硬化ガラス質を形成するためのものであって、主として平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体からなる。具体的には、主剤成分中の上記部分縮合体の含有量は80質量%以上とされる。ここで、主剤成分の上記部分縮合体以外の残部は20質量%以下であり、例えば後述の硬化補助剤あるいは含有許容範囲内で添加されるパーヒドロポリシラザンなど、後述する硬化ガラス質の原料成分となりうる成分とされる。該部分縮合体の一般式は、SinOn-1(OC2H5)2(n+1)であり、n=1のとき、単量体であるSi(OC2H5)4(オルトケイ酸テトラエチルあるいはテトラエトキシシラン)となる。
【0012】
該部分縮合体は、オルトケイ酸テトラエチルの単量体に所定量の水を加え、酸性触媒の存在下に加水分解と縮合反応を進行させることにより得られる(例えば特許文献3を参照)。部分縮合体はn=2~10(特に、n=4~6)までの縮合体と単量体との混合物であり、平均分子量は添加する水の量を変えることにより調整が可能である。また、オルトケイ酸テトラエチルの単量体は揮発しやすい性質を有することから、加水分解により得られる部分縮合体を例えばアスピレータ吸引等により減圧雰囲気に暴露することで、単量体の含有量を減少方向に調整することが可能である。逆に、得られた部分縮合体に、液状のオルトケイ酸テトラエチル単量体を添加・混合すれば、単量体の含有量を増加方向に調整することもできる。なお、本明細書において「エチルシリケートの部分縮合体」は上記のごとく縮合体と単量体との混合物からなる概念であり、単量体の含有量の増減に伴い、混合物としての平均分子量は変化する。
【0013】
主剤成分中の部分縮合体の平均分子量が270未満になると揮発性の高い単量体の含有量が過剰となり、架橋縮重合工程におけるエチルシリケートの蒸発損失が大きくなる結果、材料の無駄と、硬化ガラス質の形成量不足により十分なクリーニング効果(後述)が得られなくなる。他方、主剤成分中の部分縮合体の平均分子量が2000を超えると、クリーニング液の粘度が過度に上昇し、クリーニング効果のムラを生じやすくなる。主剤成分中の部分縮合体の平均分子量は、望ましくは300以上1000以下、より望ましくは400以上1000以下、さらに望ましくは500以上850以下に調整されているのがよい。
【0014】
また、主剤成分中におけるパーヒドロポリシラザンの含有量は2質量%以下とするのがよい。パーヒドロポリシラザンの含有量が2質量%を超えると、該クリーニング液を長期間室温で保管継続した場合、パーヒドロポリシラザン成分の介在によりクリーニング液中のアルコキシシランの水分との反応による縮重合反応が進行しやすくなり、成分のゲル化により液が過度に粘稠化してクリーニング効果のムラを生じやすくなる場合がある。パーヒドロポリシラザンの含有量は、望ましくは1質量%以下であるのがよく、より望ましくは0.5質量%以下であるのがよく、さらに望ましくは、パーヒドロポリシラザンは含有されていないのがよい。
【0015】
クリーニング液は、上記のような主剤成分を5質量%以上含有させる必要がある。主剤成分が5質量%未満になると、硬化ガラス質の形成量不足により十分なクリーニング効果が得られなくなる。また、主剤成分中のテトラエトキシシラン単量体はクリーニング液への流動性付与の機能も担い、その含有量Bを十分に確保することで、主剤成分の含有量Aが100質量%となることを妨げない。また、テトラエトキシシラン単量体のクリーニング液中の含有量Bは90質量%以下とする。テトラエトキシシランの単量体は揮発性が比較的高く、そのクリーニング液中の含有量Bが90質量%を超えると、塗布中あるいは硬化中の単量体の蒸発損失量が大きくなり、硬化ガラス質の形成量不足により十分なクリーニング効果が得られなくなる。
【0016】
また、主剤成分は有機溶媒により希釈してクリーニング液とすることもできる。この場合、クリーニング液中のテトラエトキシシラン単量体の含有量Bと有機溶媒の含有量Cとの合計B+Cは15質量%以上とする。B+Cが15質量%未満になると、クリーニング液の流動性が損なわれ、液が粘稠化してクリーニング効果のムラを生じやすくなる。なお、テトラエトキシシラン単量体のクリーニング液中の含有量Bの下限値については、B+Cが15質量%以上であること、さらには主剤成分中のエチルシリケートの部分縮合体の平均分子量が2000以下であることを前提に、0質量%となることを妨げない。
【0017】
有機溶媒としては親水性の有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類を使用できる。この場合、アルコールに含有される水分が主剤成分の脱水縮合反応の促進に寄与する場合がある。また、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類を用いたり、上記アルコール類と併用したりしてもよい。なお、単量体含有量を増加させることでクリーニング液の流動性を適度に確保できる場合、クリーニング液中の有機溶媒の配合量は0質量%となることを妨げない。
【0018】
また、クリーニング液の主剤成分の含有量Aと疎水性有機溶媒の含有量Cとの合計A+Cは90質量%以上100質量%以下とされる。換言すれば、クリーニング液の全重量の10質量%未満の範囲内で、主剤成分及び疎水性有機溶媒以外の成分、例え抗菌剤や、クリーニング液の被処理物表面への塗り広がり性を改善するための周知の界面活性剤を、本発明の効果が妨げられない範囲内で含有させることが可能である。
【0019】
クリーニング液の主剤成分は、該主剤成分中におけるエチルシリケート単量体(オルトケイ酸テトラエチル単量体)の含有量が5質量%以上となっているのがよい。主剤成分中におけるエチルシリケート単量体の含有量が5質量%未満になると、クリーニング液の塗布工程において主剤成分のゲル化による粘度増加が早く進みやすくなり、クリーニング効果のムラを生じやすくなる場合がある。
【0020】
上記のようなクリーニング液は、該クリーニング液への外部からの水分の浸透を妨げた状態で密封する水分遮断性密封容器に封入した封入体として構成することが望ましい。
図1に示すように、該封入体は、クリーニング液302を不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)からなる加圧噴霧ガス303とともにボトル301に圧入したエアゾール封入体300として構成することができる。これにより、ボトル301内のクリーニング液302は残量が減じても水蒸気を含んだ大気に暴露されないので、使用開始後にあっても室温での長期保存性が著しく高められる。
【0021】
エアゾール封入体300は、クリーニング液302が金属製のボトル301内に加圧噴霧ガス303とともに封入されている。具体的には、ボトル301の頂部305の開口には、周知のバルブユニット306が気密に一体化されたマウンテンカップ308が組み付けられ、バルブユニット306の下端からはディップチューブ304が容器内にて下方に伸び、その下端側が内容物であるクリーニング液302中に浸漬されている。バルブユニット306に取り付けられたノズル307を押下するとバルブが開き、クリーニング液302を加圧する噴射ガスがバルブユニット306内にも流入しつつ、ディップチューブ304により吸い上げられたクリーニング液302がノズル307から加圧噴霧ガスとともに噴射される。
【0022】
一方、水分遮断性密封容器は、エアレスポンプ機構付きのボトルとして構成することもできる。エアレスポンプ機構付きのボトルの採用により、ボトル内のクリーニング液302は残量が減じても水蒸気を含んだ大気に暴露されないので、使用開始後にあっても室温での長期保存性が著しく高められる。
【0023】
図2は、そのようなエアレスポンプ機構付きのボトルの一例を示すものである。該構成は、特許文献4に
図1として開示されている周知のものである。ここでは、その動作についてのみ特許文献4の記載から援用し、構成については特許文献4と同一の符号を付与して詳細な説明は省略する。使用者が加圧吐出部140を押すと、加圧吐出部140が締め蓋120の案内筒部121の内周面125に沿って下方に滑動する。このとき、弾性復元キャップ150は、加圧吐出部140によって加圧されるので、外径が弧形状に曲がり、吐出準備室Bの液状物の圧力が高まる。一方、収容スペース111内で、貯留部Dの上方空間は、密閉状態であるので、クリーニング液302が加圧されると、この空間の空気圧力が高まり、貯留部Dのクリーニング液302の液面に圧力を加える。これにより、クリーニング液302が流出管166を通って排出量制限キャップ130の保持室Cに流入する。保持室Cに流入したクリーニング液302は、その圧力によって、排出量制限キャップ130の第1切開孔133から弾性復元キャップ150の吐出準備室Bに入る。そして、吐出準備室Bの圧力が高まると、第2切開孔159が開いて、加圧吐出部140の先端噴出口143から外部に吐出され、使用者の希望部位に供給される。
【0024】
使用者が加圧吐出部140から手を離すと、弾性復元キャップ150の弾性力により、加圧吐出部140が初期状態に復帰する。このとき、最終的には、第1切開孔133が開き、第2切開孔159が閉じて、吐出準備室Bに所定の液状物が蓄えられる。そして、容器(ボトル)110内のクリーニング液302(クリーニング液)が使用者に供給されると、クリーニング液302の流出量に応じて収容スペース111の貯留部Dの上方空間の圧力が空気圧よりも低下する。その結果、ピストン115が上方に移動し、空気連通穴114から容器110のシリンダ室Fに空気が流入する。したがって、使用者が加圧吐出部120を押す回数により、使用者が希望する量のクリーニング液302が使用可能になる。また、クリーニング液302の消費につれて、ピストン115が収容スペース111内を上方に移動する。
【0025】
また、
図3に示すように、クリーニング液302は、ナイロン等の水分遮断性樹脂シートからなる可撓性パウチ容器200に封入するようにしてもよい。
図3の可撓性パウチ容器200は、アルミラミネートフィルムで構成した容器本体201に液取出し部としてのスパウト202を設けた周知の構造のものであり、液取出し口が形成されたスパウト202の先端にはキャップ203が着脱可能に設けられる。
【0026】
本発明が適用されるクリーニングの対象物は、粘稠性有機汚損物が表面に堆積したものであれば、基本的にはどのようなものであってもよい。いくつか例示すれば、鉱油系汚損物(例えば、グリース等の潤滑油に由来するもの)あるいは石油系有機残渣(アスファルト原料であるコールタールや石油ピッチなど)で汚損した重機や機械の表面、油脂系汚損物(食用油のミストや吹きこぼれにより生成する汚損物)が付着した厨房機器(五徳などのレンジ周り金具や、換気扇フードなど)などを例示できる。
【0027】
対象物の表面にクリーニング液を塗布する工程は、例えば、次のような方法により実施できる。
(1)繊維集合体(布、不織布あるいはタオル生地等)又は多孔質樹脂により可撓性を有して構成される液吸収性摩擦部材にクリーニング液を含浸させて対象物の表面に塗布する。
(2)クリーニング液を対象物の表面に噴霧する。
(3)クリーニング液に対象物をディッピングする。
いずれの場合も汚損した表面にクリーニング液を塗布後は、上記の液吸収性摩擦部材により速やかに対象物の表面を摩擦するようにする。以下、本発明の方法の具体的な実施工程を、汚損物が除去されるメカニズムとともに説明する。
【0028】
図4に示すように、繊維集合体をなすクリーニング布10に、封入体100からクリーニング液302を噴霧ないし滴下により含浸させる。
図5に示すように、粘稠性有機汚損物51による対象物50の汚損面に対し、液吸収性摩擦部材をなすクリーニング布10の、クリーニング液302の含浸面を押し付け、その状態でクリーニング布10を左右に動かして汚損面を軽く摩擦する。
【0029】
クリーニング液302に含まれる主剤成分は有機物との親和性が良好であり、
図6に示すように、上記の摩擦により有機汚損物51と混合される。クリーニング布の摩擦継続に伴い、主剤成分をなすエチルシリケートの部分縮合体は、大気中の水蒸気、汚損面に吸着した水分、あるいは希釈溶媒中に含有される微量の水分と反応することで加水分解しつつ架橋縮重合し、次第に粘度を増す。その結果、有機汚損物51は、比較的低い摩擦操作により、粘度が増大したクリーニング液302に巻き込まれつつ微細化する。そして、微細化した粘稠性有機汚損物51の粒子を被覆した状態で主剤成分は最終的に硬化ガラス質殻302’に変換され、
図7に示すように、粘稠性有機汚損物51を硬化ガラス質殻302’内に取り込んだ顆粒60を生成する。
【0030】
図8に示すように、顆粒60はさらさらとした砂状であり、低粘稠質で流動性に富むため、対象物50の表面への付着力は弱い。その結果、クリーニング布10により軽く摩擦継続するだけで顆粒60は対象物50の表面から容易に離脱する。このように、本発明によると、対象物50の表面から粘稠性有機汚損物51を小さな負荷により簡単に除去することができる。また、上記の方式では、クリーニング液302の汚損表面への塗布とクリーニング布10(液吸収性摩擦部材)による汚損表面への摩擦とが同時になされることとなる。この方法によると、クリーニング布10(液吸収性摩擦部材)に含浸したクリーニング液302が汚損表面に向け徐々に染み出るため、付着している粘稠性有機汚損物51とクリーニング液302との混合を均一に実施できる利点がある。例えば
図1のエアゾール封入体300を用いることにより、クリーニング液を対象物の表面に噴霧塗布し、次いでクリーニング布(液吸収性摩擦部材)を汚損表面に押し付けて往復動させる工程を採用した場合も、これに準じた効果を達成することができる。
【0031】
例えば、グリースや食用油スラッジなどの粘稠性有機汚損物を、通常の洗剤等によりクリーニング布を用いて除去しようとすると、粘稠性有機汚損物をコロイド化させるのに非常に強いふき取り力が必要となり、作業時間も長くなりがちである。また、
図9に示すように、十分にコロイド化しない粘稠性有機汚損物51は、クリーニング布の繊維11に強くこびりつきやすいので、使用後のクリーニング布を洗濯等により再生するための、洗剤や洗浄水の使用量も大幅に増加する。しかしながら、本発明の方法によると、
図10に示すように、稠性有機汚損物51は硬化ガラス質殻302’によりカプセル化された顆粒60の状態で繊維11間に介在する。この顆粒60の繊維11への付着力は弱いので、軽負荷の洗濯によりクリーニング布を再生できる利点が生じる。
【0032】
さらに、
図8に示すように、クリーニング液302の主剤成分の一部は、粘稠性有機汚損物51が除去された対象物50の表面に硬化ガラス質の被覆層302”を形成する。この被覆層302”は、対象物50の表面に新たな粘稠性有機汚損物がこびりつくことを抑制する機能を発揮し、本発明の方法により汚損物を除去後の対象物50の表面を清浄に保つことにも貢献する。
【0033】
なお、
図11に示すように、粘稠性有機汚損物51が除去され、被覆層302”が形成された対象物50の表面に、クリーニング液302の主剤成分の一部が未硬化主剤層350の状態で残留することがある。この場合は、
図12に示すように、アルコール等の主剤除去用有機溶剤を含浸させたクリーニング布(繊維集合体:スポンジでもよい)10’によりふき取り除去することが好ましい。
【0034】
以下、クリーニング液の封入体の変形例について説明する。
図13に示すクリーニング液の封入体1は、可撓性を有する繊維集合体又は多孔質樹脂からなる含浸保持体3にクリーニング液が含浸されて液含浸体4が形成される。水分遮断性密封容器はアルミニウム層を含む可撓性シート2LFからなり、液含浸体4を密封被覆する包装容器2として形成されている。
【0035】
含浸保持体3をなす繊維集合体又は多孔質樹脂の材質は、例えば繊維の場合は、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維などを列挙でき、これらの1種又は2種以上からなる不織布として繊維集合体を構成できる。また多孔質樹脂の材質は例えばポリウレタンなどを例示できる。
【0036】
図13においては、包装容器をなす可撓性シート2LFは、ベース樹脂層2B上に蒸着により積層形成されるアルミニウム層としてのアルミニウム蒸着層2Mと、該アルミニウム蒸着層2Mに対しベース樹脂層2Bとは反対側に積層されるポリエチレン樹脂又はナイロン樹脂よりなるヒートセッティング層2Sとを備えたアルミラミネートシート2LFとされている。ベース樹脂層は例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂にて構成できる。そして、包装容器2はアルミラミネートシート2LFにより、液含浸体3の密閉空間を形成する本体部5と、ヒートセッティング層2Sの熱溶着により本体部5の縁を空間的に閉じ合わせ結合する接着部6とを有する。アルミニウム蒸着層2Mの厚さは例えば3μm以上15μm以下、ヒートセッティング層2Sの厚さは例えば15μm以上60μm以下、ベース樹脂層2Bの厚さは例えば8μm以上60μm以下である。
【0037】
このような封入体1は、包装容器2を開封しなければ含浸保持体3中のクリーニング液が空気との接触から遮断され未硬化の状態を保つ。そして、包装容器2を開封することにより含浸保持体3を取り出し、対象物表面の粘稠性有機汚損物の除去に直ちに供することができる。なお、
図12に示す如く、対象物50の表面の未硬化主剤層350の除去が必要な場合は、
図14に示す封入体501を合わせて用意しておくとよい。該封入体501は、
図13の封入体1における液含浸体4を、主剤除去用有機溶剤を含浸させた液含浸体504にて置き換えた構成を有するものである。
【実施例0038】
以下、本発明の効果を確認するために行った種々の実験結果について説明する。
まず、クリーニング液を以下のように準備した。出発原料として、試薬特級のオルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)及びイソプロパノール(いずれも東京化成工業社製)を用意した。次に、エチルシリケートの部分縮合体の一般式SinOn-1(OC2H5)2(n+1)におけるn値の狙い値が3,5及び9となるよう、縮合反応に必要十分な水添加量を算出した。そして、オルトケイ酸テトラエチルは試料番号ごとに1kg計量し、上記算出した量の水を1kgのオルトケイ酸テトラエチルに対して、特許文献3の実施例2に開示された方法にて添加し、主剤成分となる縮重合体を得た(番号10を除き、エチルシリケート単量体の溜去を行なわず)。得られた各縮重合体の平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。また、ガスクロマトグラフィー及び蒸留曲線測定により主剤成分中のオルトケイ酸テトラエチル単量体の含有比率を推定した。なお、本実験例で使用したクリーニング液は、主剤成分の全体がエチルシリケートの部分縮合体(単量体含む)からなる。
【0039】
次に、得られた主剤成分にイソプロパノールを種々の比率にて混合し、表1に示す種々の組成のクリーニング液を作成した(表中*を付与した番号のクリーニング液は本発明の範囲外となることを示す)。
【0040】
【0041】
次に、大きさ200mm×200mm、厚さ1mmの長方形状のステンレス鋼試験板表面をグラインダーにより、算術平均粗さ約50μmとなるように研磨した。該試験板の表面に粘稠性有機汚損物として、カーボンブラックにて着色したグリース3gを全面に塗布した。続いて、市販のポリエステル繊維不織布(製品名:サンフェロンGR(サンフェルト株式会社製)、厚さ1mm、ポリエステル100%)を100mm×100mmの正方形に切断し、各クリーニング液を5g秤量してスポイトで滴下し含浸させた。そして、試験板のグリースの塗布面に対し、不織布のクリーニング液を含浸した側の面を荷重500gにて押し当て、100mmのストロークにて1往復/秒の速度で往復動させることにより、塗布されたグリースの除去を試みた。20往復以内の摩擦にてグリースを除去できたものを良好(○)、20往復を超え40往復以内の摩擦にてグリースを除去できたものを可(△)、40往復を超える摩擦を行なってもグリースが残留したものを不可(×)として評価した。以上の結果を表1に示す。
【0042】
まず番号1~6のクリーニング液に使用した主剤成分は、平均分子量が760、単量体の比率が17質量%であった。そして、表1によると、主剤成分の配合量を5質量%以上100質量%以下、残部をイソプロパノールとした番号1~6のクリーニング液を用いた場合に、良好なクリーニング効果が得られていることがわかる。一方、主剤成分の配合量が5質量%未満となる番号7のクリーニング液(比較例)を用いた場合はグリースの残留が認められ、クリーニング効果は不十分であった。
【0043】
一方、番号9のクリーニング液は、番号2~6と比較して部分縮合反応が進んでいない分、主剤成分の平均分子量が460と低い一方、単量体比率は30質量%と高くなっている。これについても、イソプロパノールの配合量を減少させることで、良好なクリーニング効果が得られていることがわかる。一方、単量体比率が100質量%となる番号8のクリーニング液(比較例)はクリーニング効果が不十分である。
【0044】
次に、番号10のクリーニング液は主剤成分の平均分子量が1300とやや大きく、粘性も高くなっていた。このクリーニング液については、摩擦回数を増加させることで塗布したグリースを除去できた。一方、同じ主剤成分を用いてイソプロパノールの配合量を95質量%に増加させた番号11のクリーニング液(比較例)を用いた場合は、液の粘度が低減し、より少ない摩擦回数でグリースを除去できた。他方、主剤成分の平均分子量が本発明の上限値を超える番号12のクリーニング液(比較例)を用いると、イソプロパノールの配合量を95質量%に増加させても液の粘性が過度に上昇し、クリーニング効果は不十分となった。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、あくまで例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。